説明

新規エポキシ化合物

【課題】(+)−3−カレン((+)−3−carene)を生物変換して得られる化合物、該化合物を有効成分として含有するアセチルコリンエステラーゼ(AchE)阻害剤及び害虫忌避剤を提供する。
【解決手段】一般式(II):


(式中、RはH又は保護基を示す。)で表わす化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(+)−3−カレン((+)−3−carene)を生物変換して得られる化合物、該化合物を有効成分として含有するアセチルコリンエステラーゼ(以下「AchE」とも表記する)阻害剤及び害虫忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物の精油の香りは、抗菌作用、心理作用及び生体リズムの調節作用を示すことが知られており、植物の香りによって心と体を癒すアロマテラピー(芳香療法)が注目されている。近年、ハッカ、ラベンダー又はグレープフルーツの精油といった植物の香気成分が、その芳香だけでなく種々の生理活性を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
例えば、特許文献1には、植物の精油成分である(+)−3−カレンが高いAchE阻害活性を有することが報告されている。
【0004】
(+)−3−カレン(I)は、下記式:
【0005】
【化1】

【0006】
で表される構造を有している。
【0007】
このような天然由来の成分が、アルツハイマー型認知症の治療と関連づけられるAchE阻害活性を有することが確認されたことは非常に興味深い。さらに、天然由来の成分(化合物)の構造を化学変換して、より強い生理活性を見いだすことができれば好都合である。
【特許文献1】特開2006-131589号公報
【非特許文献1】Miyazawa M.: Nat. Prod. Lett., 15, pp.205-210, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、(+)−3−カレン((+)−3−carene)を生物変換して得られる化合物、該化合物を有効成分として含有するアセチルコリンエステラーゼ(AchE)阻害剤及び害虫忌避剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、植物の精油成分に含まれる(+)−3−カレンが強いAChE阻害活性を示すことに着目し、これを修飾して新規化合物を得た。この化合物は、(+)−3−カレンより強いAchE阻害活性を有し、また非常に高い害虫忌避活性を併せ持つことを見いだした。さらに検討を加えて、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の化合物、及び該化合物を含むアセチルコリンエステラーゼ阻害及び害虫忌避剤を提供する。
【0011】
項1.一般式(II):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、RはH又は保護基を示す。)
で表される化合物。
【0014】
項2.一般式(II)において、RがHである項1に記載の化合物。
【0015】
項3.項1又は2に記載の化合物を有効成分として含むアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
【0016】
項4.項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する老人性認知症の予防又は治療薬。
【0017】
項5.項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアルツハイマー型認知症の予防又は治療薬。
【0018】
項6.項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する芳香剤。
【0019】
項7.項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアロマテラピー用エッセンシャルオイル。
【0020】
項8.項1又は2に記載の化合物を有効成分として含む害虫忌避剤。
【0021】
項9.害虫が蚊である項8に記載の害虫忌避剤。
【0022】
項10.一般式(II):
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、RはH又は保護基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、(+)−3−カレン((+)−3−carene)を生物変換し、必要に応じて水酸基を保護することを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一般式(II)で表される化合物は新規であり、高いAChE阻害活性を有しているため、老人性認知症、特に、アルツハイマー型認知症の治療薬又は予防薬として有用である。また、芳香剤、入浴剤、アロマテラピーエッセンシャルオイル等に含有させて、リラクゼーション効果、リフレッシュ効果等の心身の癒し効果を発揮することができる。
【0026】
また、本発明の一般式(II)で表される化合物は、高い害虫忌避活性を有している。特に、蚊等の吸血昆虫に対する忌避効果が極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一般式(II)で表される化合物は、次に示すように(+)−3−カレン(I)から生物変換(biotransformation)し、必要に応じ水酸基を保護することにより製造される。
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、RはH又は保護基を示す。)
Rで示される保護基としては、水酸基の保護基であれば特に限定はなく、例えば、アシル基(アセチル、プロパノイル、ベンゾイル等)、シリル基(トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等)、アルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)、アルケニル基(アリル、クロチル等)、アラルキル基(ベンジル、フェネチル等)、アルコキシアルキル基(メトシキメチル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル、ベンゼンスルホニル等)などが挙げられる。
【0030】
(+)−3−カレンの生物変換には、例えばヤガ科の昆虫として知られるハスモンヨトウ(Spodoptera litura(S. litura))の幼虫(larvae)が用いられる。
【0031】
具体的には、S. lituraの幼虫を飼育して、(+)−3−カレンを含む食餌を幼虫に与えて、その糞粒を採取し、抽出することにより、一般式(II)で表される化合物(特にR=Hの化合物)を得ることができる。必要に応じて、アルミナカラムクロマトグラフィーやシリカゲルクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の適当な分離精製手段を1種若しくは2種以上組み合わせて精製することができる。具体的には実施例1を参照。
【0032】
これは、(+)-(1S,3S,4R,6R,7S)-3,4-epoxycaran-9-olと命名される。絶対配置は上記で示した通りである。この化合物は、必要に応じ公知の方法を用いて水酸基を保護することができる。具体的な保護基としては、上記Rで示した通りである。各種保護基(R)の導入は、いずれも公知の方法を用いて行える。
【0033】
一般式(II)で表される化合物(特にR=H)は、AchE阻害剤作用を有しており、原料の(+)−3−カレンよりも高い活性を有している。一般式(II)で表される化合物はそのままAchE阻害剤として用いることが可能である。
【0034】
AchE阻害剤は、各種用途に用いることができる。例えば、AchE阻害剤を医薬品として用いる場合、哺乳動物(特に、ヒト)における老人性痴呆患症の予防薬又は治療薬、特にアルツハイマー型認知症の予防薬又は治療薬として用いられる。
【0035】
AchE阻害剤は、慣用されている方法により錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の剤に製剤化することができる。
【0036】
製剤化には通常用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分及び配合量を適宜選択して常法により製剤化される。
【0037】
医薬製剤を投与する場合、その形態は特に限定されず、通常用いられる方法であればよく、経口投与でも非経口投与でもよい。本発明にかかる医薬の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態・塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて、製剤学的な有効量を適宜選ぶことができる。
【0038】
また、AchE阻害剤は、強いAchE阻害活性を有することから、例えば、入浴剤、石鹸、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、香水、整髪料等の製品に加えて用いることができる。
【0039】
AchE阻害剤は、各製品全体に対し、通常0.01〜100重量%程度(好ましくは、0.1〜5重量%程度)含有していればよい。
【0040】
AchE阻害剤を含む上記の製品を用いた場合には、その香りによるリラクゼーション効果、リフレッシュ効果が発揮され、またストレスの多い現代社会において心身の癒し効果が発揮される。上記の製品を、高齢者、病人などが生活する環境で用いることにより、老人性認知症の予防・改善効果も発揮される。
【0041】
また、AchE阻害剤は、アロマテラピー用エッセンシャルオイルとして用いた場合、他の天然植物精油と混合して用いることもできる。また、該アロマテラピー用エッセンシャルオイルを所定の場所に撒布、拡散して、吸入し得る形態で使用することもできる。該オイルは、拡散器(ディフューザー)等を用いて撒布、拡散してもよい。撒布・拡散場所としては、例えば、家庭の部屋内、ホテルの部屋、会議室、病室の他、人の集まる催し物会場、休憩広場、各種リラクゼーション施設等に撒布することができる。特に、老人性認知症の患者が生活する病院、施設などで用いることが好ましい。
【0042】
また、AchE阻害剤は、例えば、清涼飲料、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)等の各種飲食品に配合することもできる。
【0043】
一般式(II)で表される化合物(特にR=H)は、害虫忌避作用(活性)を有している。該化合物が有効に忌避できる対象害虫としては、Anopheles albimanus 等のハマダラカ類(Anopheles spp.)、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類(Aedes spp.)、アカイエカ、コガカアカイエカ等のイエカ類(Culex spp.)などで代表される蚊、ブユ、サシバエ、サンドフライ、ヌカカ等の吸血昆虫、Amblyomma、Rhipicephalus、Dermacentor、Ixodes、Haemaphysalis、Boophilus 等のマダニ類などの種々の節足動物が挙げられる。さらに、ネコノミ(Ctenocephalides felis )、イヌノミ(Ctenocephalides canis)、ヒトノミ(Pulex irritans)、ナンキンムシ(Cinex lectularis)、ツツガムシ(Leptotrombidium spp)、イエダニ(Ornithonyssus bacoti)なども挙げられる。
【0044】
一般式(II)で表される化合物(特にR=H)はそのままでも害虫忌避剤として作用するが、該化合物を含む組成物とすることもできる。該化合物は、通常適当な担体に担持させて、ローション、エアゾール等の液剤、クリームなどの各種形態に調製して用いられる。液剤を調製する際に用いられる担体としては、例えば水、メタノール、エタノール、セチルアルコール等のアルコール類、石油ベンジン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。液剤には、さらに乳化剤、分散剤、展着剤、湿潤剤、懸濁化剤、保存剤、噴射剤等の製剤用補助剤、塗膜形成剤などを添加することもできる。
【0045】
乳化剤および分散剤としては、例えば石鹸類、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアルキルアリールスルホン酸塩が挙げられ、展着剤および湿潤剤としては、例えばグリセリン、ポリエチレングリコールが挙げられる。また、懸濁化剤としては、例えばカゼイン、ゼラチン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ベントナイトが挙げられ、保存剤としては例えばサリチル酸、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルが挙げられる。
【0046】
噴射剤としては、例えばジメチルエーテル、クロロフルオロカーボン、炭酸ガス、LPGが挙げられ、塗膜形成剤としてはニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルブチリルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル樹脂等のビニル系樹脂、ポリビニルアルコール、メチルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンメチルポリシクロポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、トリメチルシロキシケイ酸、オクタメチルシクロテトラシロキサンシリコーンポリエーテルポリマー等のシリコーン類が挙げられる。
【0047】
クリーム状の形態に調製する際に用いられる担体としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、ワセリン等の炭化水素類、ジメチルシロキサン、コロイド状シリカ等のケイ素化合物、ベントナイト等の粘土鉱物、エタノール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、ラウリン酸、ステアリン酸等のカルボン酸類、蜜蝋、ラノリン等のエステル類が挙げられ、さらに、液剤の製剤の際に用いられるのと同様の製剤用補助剤を添加することもできる。本発明組成物は、またマイクロカプセル化製剤とした後、ローション、エアゾール等に製剤化して用いることもできる。
【0048】
一般式(II)で表される化合物(特にR=H)を含む組成物には、さらに他の害虫忌避剤、酸化防止剤等を添加することもできる。他の害虫忌避剤としては、例えばN,N−ジエチル−m−トルアミド(Deet)、ジメチルフタレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、N−オクチルビシクロヘプタンジカルボキシミド、p−メンタン−3,8−ジオール、2,3,4,5−ビス(Δ2 −ブチレン)テトラヒドロフルフラール、ジ−n−プロピルイソシンコメロネート、ジ−n−ブチルサクシネート、ジエチルマンデル酸アミド、2−ヒドロキシエチルオクチルスルフィド、エンペントリンが挙げられ、酸化防止剤としては、例えばブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェノール、γ−オリザノールが挙げられる。
【0049】
本発明組成物は、そのまま直接皮膚等に処理することにより害虫忌避剤として用いられるが、予めシート状、フィルム状、網目状、帯状等の適当な基材に塗布、含浸、混練等の処理を行ったものを用いて、該基材で皮膚の露出部または衣服上を被覆する等の方法により害虫忌避を行うこともできる。該基材の材質としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ビニロン、ナイロン等の合成繊維や樹脂、絹、綿、羊毛等の動植物繊維、アルミニウム等の無機質繊維またはそれらの混合物が挙げられる。網目状の基材を用いる場合、網目は細かい程良いが、一般には16メッシュ以下程度であれば充分に有効である。
【0050】
本発明組成物中、有効成分である一般式(II)で表される化合物(特にR=H)の量は、製剤形態や適用方法等により異なるが、一般に製剤中または基材中0.1〜70重量%、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは2〜20重量%の割合で含まれる。また、その処理量は、通常皮膚表面積1cm2 当り一般式(II)で表される化合物(特にR=H)の量で0.01〜2mg、好ましくは0.05〜1mg相当量である。勿論、該処理量は、製剤形態や適用方法、対象とする害虫の種類や密度等により異なり、適宜上記の範囲にかかわることなく増加または減少させることもできる。
【0051】
次に、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0052】
実施例1
(1)S. litura幼虫の飼育
S. litura幼虫を、ナイロンメッシュスクリーンを有するプラスチック容器(200×300mm 幅, 100 mm 高さ, 1容器当たり幼虫100 個)で飼育した。飼育は、25℃、相対湿度70%及び一定の光照射(恒明)条件下で行った。市販の食餌(Insect LF; 日本農産工業株式会社)を初齢の幼虫に与えた。4齢から食餌をインゲン豆(kidney beans)100g、寒天12g及び水600mLからなる人工食餌に変えた。
(2)基質の投与
寒天を含まない人工食餌をブレンダーで混合した。(+)−3−カレン(1)(Fluka Co., Ltd)2100mgを、食餌1g当たり1mgとなるようにブレンダーに直接投入した。寒天を水に溶かして沸騰させ、これをブレンダーに加えた。食餌を混合し、ステンレススチールのトレイ(220×310mm幅、30mm高さ)に入れて冷却した。(+)−3−カレン(1)を含む食餌を、投与時まで冷蔵庫に貯蔵した。4齢から5齢の幼虫(平均重量0.5g)を新しい容器(容器当たり100個)に移し、決められた量の食餌を幼虫に与えた。800個の幼虫のグループのそれぞれに、(+)−3−カレン(1)を含む食餌を2日間与え、その後(+)−3−カレン(1)を含まない人口食餌を与えた。糞粒を毎5時間ごとに集め(計4日間)、ジエチルエーテル(300mL)中で貯蔵した。食餌と糞粒の分離のために、4齢から5齢の幼虫が排泄してすぐに新しい糞粒を抽出した。
(3)糞粒から代謝産物の単離及び構造決定
糞粒をジエチルエーテル(300ml×2)、次いで酢酸エチル(300ml×2)で抽出した。抽出溶液を減圧下で濃縮して、3200mgの抽出物を得た。これを酢酸エチルに溶解し、5% NaHCO3水溶液を加えた。シェイクした後、酢酸エチル相から中性のフラクション(2000mg)を得た。
【0053】
中性フラクションをGC/MSで分析したところ化合物(2)が検出され、これをさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、化合物(2)(875mg)を得た。
【0054】
化合物(2):(+)-(1S,3S,4R,6R,7S)-3,4-エポキシカラン-9-オール[(+)-(1S,3S,4R,6R,7S)-3,4-epoxycaran-9-ol]、黄色オイル、
[α]28.0D +4.76° (c 1.00, CHCl3);
IR (KBr) νmax 3425, 1063, 1017, 837 cm-1;
1H-NMR (CDCl3 , 500MHz) δ0.62 (1H, ddd, J=9.2, 9.2, 2.3, H-6), 0.70 (1H, ddd, J=9.2, 9.2, 2.3, H-1), 0.86 (3H, s, H-8), 1.28 (3H, s, H-10), 1.53 (1H, dd, J=16.1, 2.3, H-2a), 1.68 (1H, ddd, J=16.5, 2.3, 2.3, H-5a), 2.19 (1H, dd, J=16.1, 9.2, H-2b), 2.34 (1H, ddd, J=16.5, 9.2, 2.3, H-5b), 2.87 (1H, brs, H-4), 3.32 (2H, s, H-9);
13C-NMR (CDCl3 , 125MHz) δ 10.2 (C-8), 11.2 (C-6), 13.3 (C-1), 18.9 (C-5), 22.9 (C-10), 23.0 (C-2), 23.1 (C-7), 55.9 (C-3), 58.0 (C-4), 72.5 (C-9);
HR-EI-MS, m/z 168.1167 [M]+, calcd. for C10H16O2, 168.1151;
EIMS, m/z (rel intensity) 168 [M]+ (0.1), 150 (12), 135 (21), 121 (29), 107 (33), 93 (24), 91 (23), 79 (26), 43 (100);
化合物(2)の化学構造について、HR-EIMSより分子式C10H16O2が示唆された。IRスペクトルより、3425カイザーに水酸基由来のシグナルが観測され、プロトンNMRスペクトル測定より、9位のメチル及び、2位のオレフィンのプロトンが消失し、新たに2.87 ppmに1Hのブロードシングレット、3.32 ppmに2Hのシングレットのプロトンがそれぞれ観測された。また、カーボンNMRより、55.9 ppmに4級炭素、58.0 ppmに3級炭素、72.5 ppmに2級炭素が観測された。3.32 ppmのプロトンから、8位のメチル基、1位6位のカーボンへのHMBCが観測されたことから、9位への水酸化が示唆された。また10位のメチル基のプロトンより、55.9 ppm、 58.0 ppmのカーボンへのHMBCが観測され、2.87 ppmのプロトンより、5位の2級炭素および6位の3級炭素へのHMBCが観測された。NOE測定により、9位の水素から、1, 6位、および8位への水素へのNOEが観測され、8位のメチル水素より2位および5位の水素へのNOEが観測される事から、水酸化は9位のメチルに進行したと決定した。また、10位のメチル水素より、2位の水素へのNOEが、また4位の水素より5位の水素へのNOEが観測される事から、エポキシはアルファ位に位置していると決定した(図1を参照)。化合物(2)の絶対立体は化合物(1)の絶対配置の比較により決定した。なお旋光度が+の値を示したことから、化合物(2)は(+)-(1S,3S,4R,6R,7S)-3,4-エポキシカラン-9-オールであると決定した。
【0055】
実施例2(AChEの酵素評価)
(1)AChE阻害試験法は、G. L.Ellman, K. D. Courtney, V. Andres. Jr., R. M. Featherstone. Biochem. Pharmacol. 7, 88-95 (1961)の方法に従って行った。
【0056】
(+)−3−カレン(1)又は化合物(2)17μl(エタノール溶液)、0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.0)に溶解した0.01M 5,5’-ジチオビス(2-ニトロベンゾイックアシッド(DTNB)溶液33μL、0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解したAchE(0.04 units/mL)の167μL、及び0.1Mリン酸緩衝液(pH 8.0)800μLを試験管に入れて、25 ℃、5分間プレインキュベーションした。その後、75mMのアセチルチオコリン アイオダイド(ATC)13μLを試験管に加え、25 ℃、20分間インキュベーションした。
【0057】
なお、シグマ株式会社(Sigma Co. Ltd.)製のウシ赤血球のAchEを用いた。DTNB及びATCは、東京化成株式会社(Tokyo Chemical Industry Co. Ltd. (TCI))製を用いた。
【0058】
AchEによる基質の加水分解反応により生じる黄色に呈色するアニオン(TNB)の412nmにおける吸光度を測定した(図2を参照)。化合物を含まないものをコントロールの値とし、その値と比較することにより阻害活性の値を算出した。各サンプルについて少なくとも3回測定を行いその平均値を示した。
【0059】
AChE 活性 (%) = [(A−B) / (Cp−Cn)] ´ 100
Aはテストサンプルの吸光度を示す。((+)-3-carene (1) or (+)-(1S,3S,4R,6R,7S)-3,4-epoxycaran-9-ol (2) in DTNB, AChE and 0.1 M phosphate -buffer, ATC)
Bはブランクの吸光度を示す。(test sample, DTNB and 0.1M phosphate -buffer)
Cpはポジティブコントロールの吸光度を示す。(EtOH, DTNB, AChE and 0.1M phosphate -buffer, ATC)
Cnはネガティブコントロールの吸光度を示す。(EtOH, DTNB and 0.1M phosphate -buffer)
測定結果を表1及び図2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
上記の結果より、化合物(2)は、原料の(+)−3−カレンよりも更に強いAChE阻害作用を示すこと、さらにポジティブコントロールである(-)-pulegoneよりも活性が高いことが分かった。
【0062】
実施例3(蚊の忌避作用の評価)
1×1cmの開口部を設けた金網にてヘアレスマウスを固定し、開口部以外の部位をカバーにて覆った。開口部から露出しているヘアレスマウスの皮膚に、薬剤の最終濃度が5mg/cm2及び1mg/cm2となるように各試験試料を処理した。薬剤処理したヘアレスマウスをヒトスジシマカ15匹が入ったナイロンネットケージ(25×25×25cm)の中央部に設置した。経過時間ごとに吸血したヒトスジシマカの個体数を目視にてカウントし記録した。薬剤処理のヘアレスマウスと同時に、無処理のヘアレスマウスおよび溶剤であるエタノール処理のヘアレスマウスについても同様の手順で試験を行った。
【0063】
試験の観察はヘアレスマウス設置後10分、20分および30分とした。なお、試験は温度20〜22℃条件にて2回行った。
【0064】
下記の試験試料を用いた。
(1)化合物(2)(エタノール溶液)50mg/ml濃度を用いて、溶媒除去して最終濃度が5mg/cm2及び1mg/cm2となるように塗布する。
(2)N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(ディート;DEET)(エタノール溶液)50mg/ml濃度を用いて、溶媒除去して最終濃度が5mg/cm2及び1mg/cm2となるように塗布する。
【0065】
下記の供試虫および供試動物を用いた。
・ヒトスジシマカ(Aedes albopictus) 累代飼育の未吸血雌個体((株)大阪製薬)
・ヘアレスマウス(Hos:HR-1) 12週齢雌個体
経過時間ごとのヒトスジシマカの吸血数の試験結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
化合物(2)のヒトスジシマカに対する忌避効果を確認するため、ヘアレスマウスを用いて忌避試験を実施した。その結果、化合物(2)溶液はディートと同様にヒトスジシマカに対する忌避効果が確認され、試験を通してヒトスジシマカによる吸血は観察されなかった。
【0068】
化合物(2)の溶液がエタノールにて溶解されているため、忌避効果が溶剤にも由来するものなのかを確認するため、エタノールにて処理したヘアレスマウスで同様の試験を行った。
【0069】
その結果、エタノールにて処理したヘアレスマウスは、無処理のヘアレスマウスと同程度の吸血が確認され忌避作用が全く無いことから、今回確認された化合物(2)の忌避効果は、溶剤であるエタノールの相乗作用は無く、化合物(2)自体の効果であることが立証された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1で得られた化合物(2)について観測されたNOEを示す。
【図2】実施例2で得られたAChE活性に対する化合物(1)((+)-3-carene)と化合物(2)の阻害効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II):
【化1】

(式中、RはH又は保護基を示す。)
で表される化合物。
【請求項2】
一般式(II)において、RがHである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を有効成分として含むアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
【請求項4】
請求項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する老人性認知症の予防又は治療薬。
【請求項5】
請求項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアルツハイマー型認知症の予防又は治療薬。
【請求項6】
請求項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する芳香剤。
【請求項7】
請求項3に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアロマテラピー用エッセンシャルオイル。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の化合物を有効成分として含む害虫忌避剤。
【請求項9】
害虫が蚊である請求項8に記載の害虫忌避剤。
【請求項10】
一般式(II):
【化2】

(式中、RはH又は保護基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、(+)−3−カレン((+)−3−carene)を生物変換し、必要に応じて水酸基を保護することを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−108011(P2009−108011A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284722(P2007−284722)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(507155317)アットアロマ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】