説明

新規スピロ型抗腫瘍性抗生物質、その類縁体およびその取得方法

【課題】 微生物が産生する新規なスピロ型抗腫瘍性抗生物質、その類縁体およびその取得方法を提供すること。
【解決手段】 本発明によれば、下記の化学式(1)で表されるスピロレプトスフォールをはじめとする新規なスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体を、レプトスフェリア ドリオラムの培養物から分離精製することによって取得することができる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物が産生する新規なスピロ型抗腫瘍性抗生物質、その類縁体およびその取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているこの種のスピロ型抗腫瘍性抗生物質としては、例えば酵母の一種であるロドトルーラ グルチニス(Rhodotorula glutinis)T110の変異株No.54−1が産生する、下記の化学式で表されるオキサスピロールAがある(特許文献1)。しかしながら、微生物が産生するスピロ型抗腫瘍性抗生物質の報告はそれほど多くない。
【0003】
【化1】

【0004】
【特許文献1】特開昭62−135468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、微生物が産生する新規なスピロ型抗腫瘍性抗生物質、その類縁体およびその取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ヨモギの茎より分離した腐生子嚢菌(糸状菌)の一種であるレプトスフェリア ドリオラム(Leptosphaeria doliolum)が、スピロレプトスフォール(Spiroleptosphol)をはじめとする新規なスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体を産生することを見出した。
【0007】
上記の知見に基づいて完成された本発明は、請求項1記載の通り、下記の化学式(1)で表されるスピロレプトスフォールに関する。
【0008】
【化2】

【0009】
また、本発明は、請求項2記載の通り、下記の化学式(2)で表されるスピロレプトスフォールBに関する。
【0010】
【化3】

【0011】
また、本発明は、請求項3記載の通り、下記の化学式(3)で表されるスピロレプトスフォールCに関する。
【0012】
【化4】

【0013】
また、本発明は、請求項4記載の通り、下記の化学式(4)で表されるノルレプトスフォールCに関する。
【0014】
【化5】

【0015】
また、本発明は、請求項5記載の通り、下記の化学式(5)(5位の置換基同士によってアセタールを形成していてもよい)または化学式(6)のいずれかで表されるかまたはこれらの平衡混合物からなるレプトスフォール酸に関する。
【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
また、本発明は、請求項6記載の通り、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P−547として寄託されているレプトスフェリア ドリオラムのKTC 2283株の培養物から分離精製することによる請求項1乃至5で規定する少なくとも1つの化合物の取得方法に関する。
また、本発明は、請求項7記載の通り、請求項1乃至5で規定する少なくとも1つの化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スピロレプトスフォールをはじめとする新規なスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体を、レプトスフェリア ドリオラムの培養物から分離精製することによって取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のスピロ型抗腫瘍性抗生物質(スピロレプトスフォール,スピロレプトスフォールB,スピロレプトスフォールC)およびその類縁体(ノルレプトスフォールC,レプトスフォール酸)は、例えば、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P−547として寄託されているレプトスフェリア ドリオラムのKTC 2283株の培養物から分離精製することによって取得することができる。KTC 2283株の培養は、子嚢菌の一般的な培養方法に従って行えばよい。本発明のスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体の培養物からの分離精製は、一般的な微生物代謝産物の分離精製方法、例えば、アルコール(メタノールやエタノールなど)、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンなどの有機溶媒や水を用いた抽出操作、イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー、活性炭やアルミナやシリカゲルなどの吸着剤によるクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーを用いた分離操作の他、結晶化操作、減圧濃縮操作、凍結乾燥操作などの各種操作を単独または適宜組み合わせて行えばよい。なお、本発明のスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体は、自体公知の有機合成化学手法で合成されたものであってもよい。
【0021】
本発明のスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体やその薬学的に許容される塩は、例えば、その優れた抗腫瘍活性に基づいて抗腫瘍剤の有効成分として用いることができる。この場合、本発明のスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体やその薬学的に許容される塩は、高度に精製された形態で製剤化されてもよいし、例えば、KTC 2283株の培養物からの粗分離精製物の形態で製剤化されてもよい。製剤形態としては、例えば、液状剤、注射剤、錠剤、散剤などが挙げられる。製剤化の方法は特段限定されるものではなく、自体公知の方法で行うことができる。その投与量は、適用対象者の年齢や性別、症状の程度などに基づいて適宜設定すればよい。なお、本発明のスピロ型抗腫瘍性抗生物質およびその類縁体の薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0023】
実施例:
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P−547として寄託されている、ヨモギの茎より分離したレプトスフェリア ドリオラムのKTC 2283株を、ジャガイモ蔗糖液状培地(ジャガイモ200gを煎汁した溶液1Lに対して蔗糖20gを加えた培地)4Lにて温度25℃で2週間振とう培養を行い(110rpm)、その培養ろ液および菌体メタノール抽出物を水/酢酸エチルにより分配後、得られた酢酸エチル可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、上記の化学式(1)で表されるスピロレプトスフォールを油状物質として得た(収量:350mg)。
【0024】
(スピロレプトスフォールの物理化学的データ)
分子式:C1928、IR(film):3360,2960,1785,1680,1200,1100,1065cm−1、[α]25:−230°(c=1.1,CHCl)、EIMS(rel.,int.)m/z:336(5.2,M),318(21,[M−HO]),300(7.6,[M−2HO]),121(88),69(100)、FDMS(rel.,int.)m/z:359(43,[M+Na]),337(100,MH),336(43,M)、EIHRMS found m/z:336.1905、calcd for C1928;M:336.1936、H NMR(400MHz in CDCl)および13C NMR(100MHz in CDCl)は表1参照。
【0025】
また、培養ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精査することで、上記の化学式(2)で表されるスピロレプトスフォールB(油状物質、[α]21:−86°(c=2.1,CHCl))、上記の化学式(3)で表されるスピロレプトスフォールC(融点147℃の固体、[α]20:−154°(c=2.4,MeOH))、上記の化学式(4)で表されるノルレプトスフォールC(油状物質、[α]20:−135°(c=1.6,CHCl))、上記の化学式(5)(5位の置換基同士によってアセタールを形成していてもよい)および化学式(6)の平衡混合物からなるレプトスフォール酸(明確な融点を持たない固体)をそれぞれ得た。スピロレプトスフォールB、スピロレプトスフォールC、ノルレプトスフォールCのH NMR(400MHz in CDCl)および13C NMR(100MHz in CDCl)を表1に示す。なお、レプトスフォール酸は、H NMRスペクトルが用いた測定溶媒全てにおいてブロードであるばかりでなく、構造式以上の数のメチルシグナルを与え、さらにそれらの比は用いた測定溶媒によって変化するなどの理由から解析が困難であったが、重クロロホルム中に放置することにより徐々にスピロレプトスフォールを与え、また、アセチル化によりスピロレプトスフォールBのアセチル化体と同一のアセチル化体を与えた。以上の結果とTLCの挙動や分子式などを考慮し、レプトスフォール酸は上記の化学式(5)(5位の置換基同士によってアセタールを形成していてもよい)および化学式(6)の平衡混合物からなると結論付けた。
【0026】
【表1】

【0027】
【化8】

【0028】
薬理試験例(抗腫瘍活性):
スピロレプトスフォールのマウス白血病細胞であるP388細胞に対する細胞毒性活性をM. Hashimoto, et al., Tetrahedron Volume 59, Issue 17, 21 April 2003, Pages 3089-3097に記載の方法に従って測定したところ、そのEC50は20μg/mLであった。また、スピロレプトスフォールのヒト子宮頸癌細胞であるHeLa細胞に対する細胞毒性活性をT. Miura, et al., Carcinogenesis vol.29 no.3 pp.585-593, 2008に記載の方法に従って測定したところ、そのEC50は5μg/mLであった。
【0029】
製剤例(注射剤):
スピロレプトスフォール100mgを適量のエタノールに溶解し、注射用水で希釈して全量を10mLとした後、ろ過滅菌してから5mLバイアルに分注することで、注射剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、微生物が産生する新規なスピロ型抗腫瘍性抗生物質、その類縁体およびその取得方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)で表されるスピロレプトスフォール。
【化1】

【請求項2】
下記の化学式(2)で表されるスピロレプトスフォールB。
【化2】

【請求項3】
下記の化学式(3)で表されるスピロレプトスフォールC。
【化3】

【請求項4】
下記の化学式(4)で表されるノルレプトスフォールC。
【化4】

【請求項5】
下記の化学式(5)(5位の置換基同士によってアセタールを形成していてもよい)または化学式(6)のいずれかで表されるかまたはこれらの平衡混合物からなるレプトスフォール酸。
【化5】


【化6】

【請求項6】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P−547として寄託されているレプトスフェリア ドリオラムのKTC 2283株の培養物から分離精製することによる請求項1乃至5で規定する少なくとも1つの化合物の取得方法。
【請求項7】
請求項1乃至5で規定する少なくとも1つの化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗腫瘍剤。




【公開番号】特開2010−111629(P2010−111629A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286162(P2008−286162)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成20年5月24日 http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleListURL&_method=list&_ArticleListID=832152720&_sort=d&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=92f81b1c018bcd92f250c222fad66bd6を通じて発表 (2)平成20年9月1日 香月勗が発行する「第50回天然有機化合物討論会講演要旨集」に発表 (3)平成20年10月11日 日本農芸化学会東北支部が発行する「日本農芸化学会東北支部第143回大会プログラム・講演要旨集」に発表 (4)平成20年10月11日 日本農芸化学会東北支部が主催する「日本農芸化学会東北支部第143回大会」において文書をもって発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】