説明

新規ヒト転移性腫瘍関連分子、活性化遺伝子およびタンパク質を検出する方法ならびに遺伝子発現を妨害する方法

本願による開示は、tm9sf4によりコードされるヒトタンパク質の機能および発現を特徴づける。該タンパク質は、悪性腫瘍細胞において高度に発現しており、したがって、悪性度についての新規マーカーである。さらに、該タンパク質は、腫瘍細胞の食作用特性に関与する。本願による開示は、腫瘍の悪性度を診断および追跡する方法およびツールを提供する。さらに、腫瘍細胞の食作用特性を阻害する方法および癌を処置する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、癌研究の分野に関するものであり、とりわけ、新規腫瘍発生および転移関連タンパク質および遺伝子の同定に関する。本発明は、悪性度の新規マーカーに関する。本発明はさらに、遺伝子治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
2005年には、世界中で年間5800万人の死亡者のうち、760万人が癌により死亡した。癌による死亡者は増え続け、2015年には900万人、2030年には1140万人にのぼると予測されている(WHOデータ)。癌の処置は、外科手術、放射線治療、化学療法、ホルモン療法、またはこれらのうちのいくつかの組み合わせを含み得るが、現在における多くの癌患者の生存率は、極めて低いものである。世界保健機関によると、癌病状(cancer burden)の3分の1は、早期に発見され、十分に処置された場合、治癒し得る。病理学的研究は、多くの固形腫瘍の診断を確立するための手段を提供する。多くの症例は、現在の病理学的基準を用いて正確に分類され得るが、病理学者の間においてさえコンセンサスが得られていない重要な症例が存在する。診断の曖昧さは、患者に対するかなり不利な結果をもたらす。悪性腫瘍を良性と誤って分類することは、致命的であり得て、良性腫瘍を悪性と診断することは、かなりの罹患率(significant morbidity)を生じ得る。現在、これらの不明瞭性を決定的に解決する方法は存在しない。したがって、これらの不明瞭性を減少させ得る診断テストの必要性が明らかに存在する。
【0003】
食作用は、細胞が巨大な粒子(一般には、直径0.1 mm)、例えば、細菌もしくは細胞残屑を内在化する過程である。食作用の初期段階は、暫定的に下記の異なる過程に分類され得る: 粒子周囲への細胞膜の結合、ファゴソーム形成、およびファゴソームの内在化。ファゴソーム形成および内在化の過程において、アクチン細胞骨格がこれらの過程を誘導し、飲み込みを可能にすることが提案されている。
【0004】
食細胞は、1世紀前までに悪性腫瘍において同定されており、より最近、食作用挙動(また、共食い(cannibalistic)挙動と規定される)を有する細胞が異なる組織の腫瘍、例えば、肺の燕麦細胞癌、乳癌、膀胱癌、髄芽腫、胃腺癌、皮膚の黒色腫および扁平上皮癌において検出された。
【0005】
我々は、最近、食作用がアポトーシス細胞、プラスチックビーズ染色酵母、および生きたリンパ球を飲み込むことが可能な転移性黒色腫細胞の特性であり、それは、マクロファージ様活性に関与する効率的な食作用機構を示すものである一方、原発性病変部位に由来する黒色腫細胞は、共食いもしくは食作用活性を示さないことを観察した。さらに、共食い細胞(cannibal cell)は、転移性黒色腫の病変部位で100%検出され得る(Lugini et al., 2004; Lugini et al., 2006)。
【0006】
共食い細胞の主要な特徴の1つは、リソソーム様小胞の増加した酸性度ならびに腫瘍浸潤および転移に関与することが報告されているタンパク質分解性酵素であるカテプシンBの過剰発現である(Sloane et al., 1981)。マクロファージのような専門的な食細胞とは異なり、共食い腫瘍細胞は、ひだの様な構造または何らかの仮足運動を利用しない。代わりに、腫瘍細胞の外膜に接触する生きた物質または死んだ物質を即座に取り込み、任意の特定の受容体を含まないように考えられるある種のクイックサンド(quicksand)機構を介して消化する。
【0007】
これらの知見は、我々に、共食い細胞が、おそらく血液由来の栄養供給を特に必要とすることなく、他の細胞を摂食するということ、そして腫瘍細胞によるリンパ球の共食いが腫瘍の免疫回避の基本的な機構を示し得るという推測をもたらす。さらにこれらの知見は、我々に、癌細胞は、摂食のために他の細胞を利用するそれらの習性において、単細胞真核生物(その唯一の目的は、他の細胞および好ましくない環境との絶え間ない戦いの中で生存することである)として振る舞い得るという新規かつ革新的な解釈をもたらす。この理論はさらに、我々に、アメーバおよび転移性細胞は、不利な微小環境条件下で生存することを可能にする同じ制御エレメントを有する同じフレームワークを共有し得るという推測をもたらす。しかしながら、現在のところ、癌細胞の共食い挙動と特別に関連する遺伝子は見出されていない。
【0008】
細胞性粘菌キイロタマホコリカビは、以前、食作用を研究するためのモデル生物として使用されていた。タマホコリカビ細胞による食作用に関与する機構は、哺乳類食細胞により使用されている機構と極めて類似しており、アクチン細胞骨格およびGTP結合タンパク質のRhoファミリーのメンバーであるRacF1を含む。しかしながら、現在のところ、食作用に関与する特定のタンパク質は、哺乳類で同定されていない。
【0009】
最近、PHG1A遺伝子によりコードされるタンパク質がアメーバキイロタマホコリカビにおける細胞接着および食作用に関与することが見出された。このタンパク質は、TM9スーパーファミリーに属しており、TM9タンパク質をコードする遺伝子は、真核細胞ゲノム中に明確に同定され得る。当該ファミリーは、酵母から植物およびヒトにわたる生物において多くのメンバーを含む。いくつかの例を挙げるだけでも、出芽酵母、アメーバタマホコリカビ、およびショウジョウバエにおいてこのファミリーの3つのメンバーが存在し、ヒトおよびマウスにおいて4つのメンバーが存在する。それらのすべては、全体的に類似した構造を示し、当該構造は、かなり可変的な潜在的内腔ドメインならびにそれに続くより保存された膜ドメインおよび9個または10個の推定される膜貫通ドメインを有する。
【発明の概要】
【0010】
発明の要約
癌細胞は、単細胞真核生物としての摂食および挙動のために他の細胞を使用することから、アメーバと同じ制御エレメントを用いた同じフレームワークをおそらく共有しているであろうという我々の理論に基づき、我々は、PHG1A遺伝子をヒトゲノムで比較した。ヒトにおけるphg1の3つのホモログ(TM9SF4、U81006およびU94831)を完全に塩基配列決定し、我々は、キイロタマホコリカビのphg1と最も近いヒトホモログが、第20染色体q11.21に位置するtm9sf4 (別名: KIAA0255, dJ836N17.2)であることを見出した。この遺伝子が完全に塩基配列決定されたとしても、その機能またはこの発現産物は全く特徴づけられていなかった。
【0011】
したがって、我々は、tm9sf4によりコードされるタンパク質の機能および発現をより詳細に研究した。本願において、我々は、当該タンパク質の機能を示し、多くの応用を提供する。
【0012】
本願は、当該タンパク質が悪性細胞で高度に発現することを示す。患者に由来するいくつかの黒色腫細胞株に関する観察は、TM9SF4タンパク質が原発性病変部位に由来する細胞株では検出されないため、TM9SF4が悪性度のマーカーであることを示す。さらに、このタンパク質をコードする遺伝子の抑制は、転移性細胞の食作用挙動を強力に阻害するので、このタンパク質は、転移性黒色腫細胞の食作用挙動に関与する。これらの観察に基づいて、我々は、このタンパク質をTUCAP-1 (Tumor associated cannibal protein 1)と名付けた。したがって、このタンパク質をコードする遺伝子を本明細書では、tucap-1遺伝子と呼ぶ。
【0013】
本発明は、悪性細胞を検出し、黒色腫および他の腫瘍を診断するための迅速な試験の必要性に取り組む。したがって、本願は、TUCAP-1検出、解析および潜在的な治療効果のために有用な抗体、プライマー、オリゴペプチドおよびポリペプチドを提供する。
【0014】
本発明は、tucap-1遺伝子の全体もしくは一部に対応するか、またはそれらに相補的なポリヌクレオチド、ならびにtucap-1遺伝子、mRNAまたはTUCAP-1をコードするポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを提供する。TUCAP-1ポリヌクレオチドを含む組み換えDNA分子、そのような分子で形質転換するか、もしくはそのような分子を導入した細胞、およびtucap-1遺伝子産物の発現のための宿主-ベクター系を提供する。本願はさらに、TUCAP-1タンパク質およびそのポリペプチド断片を提供する。
【0015】
本発明はさらに、TUCAP-1タンパク質およびそのポリペプチド断片に結合する抗体を提供し、当該抗体は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、マウスおよび他の哺乳類抗体、キメラ抗体、ヒト化および完全ヒト抗体、ならびに検出可能なマーカーで標識された抗体、ならびに放射性ヌクレオチド、毒素または他の治療組成物と結合した抗体を含む。本発明はさらに、さまざまな生物学的サンプルにおいて、TUCAP-1ポリヌクレオチドおよびタンパク質の存在を検出するための方法、ならびにTUCAP-1を発現する細胞を同定するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】TM9SF4/TUCAP-1タンパク質の分子構造。(A) TUCAP-1タンパク質配列のハイドロパシー(Hydropathy)プロファイル。疎水性領域を正値により線の上側で示す。アミノ酸番号を横軸で示す。N末端領域における親水性ストレッチの後に9個の疎水性領域が続く。解析は、TopPred予測プログラムを用いて、Clarosおよびvon Heijnebに基づき行われた。(B) TopPred予測サーバーに基づくTUCAP-1二次構造の図示。
【図2】TM9SF4/TUCAP-1転写産物の検出およびTUCAP-1抗体の特徴づけ。(A) 転移性病変部位から最近インビトロで確立された5個の転移性黒色腫細胞株(MM1-5)および5個の原発性黒色腫細胞株(PM1-5)、ならびに2対象の異なるドナー由来の末梢血細胞(PBL1-2)に関するTUCAP-1 (上パネル)およびGAPDH (下パネル)のRT-PCR解析。Mは、サイズマーカーを示す。(B) マウスを免疫するために使用される6-ヒスチジンタグ化TUCAP-1ペプチドおよび非誘導細菌溶解物における6-ヒスチジンまたはTUCAP-1のウエスタンブロット。等量の精製タンパク質および細菌溶解物を還元化ゲルに載せ、6-His-抗体またはTUCAP-1マウス抗血清でブロットした。HRP共役二次抗体を用いてタンパク質を視覚化し、ECL系(Pierce)で曝露した。(C) GFP-TUCAP-1 (GFP-Tuc)を導入したMM1細胞のTriton可溶性(レーン1)およびTriton不可溶性(レーン2)画分、ならびにGFP-TUCAP-1 (GFP-Tuc)を導入していないMM1細胞のTriton可溶性およびTriton不可溶性画分(レーン3-4)におけるGFP-TUCAP-1およびGAPDHについてのウエスタンブロッティング。Mは、サイズマーカーを示す。HRP共役二次抗体を用いてタンパク質を視覚化し、ECL(Pierce)で曝露した。分子量マーカーとして、RainbowTM (Amersham UK)プレ染色スタンダードを用いた。
【図3】TUCAP-1のウエスタンブロット解析。GFP-Tuc導入MM2細胞、4個の転移性黒色腫細胞株(MM2-5)、およびCCD-1064SKヒト皮膚線維芽細胞(HSC)におけるTUCAP-1検出のためのウエスタンブロッティング。搭載量をアクチンの免疫検出により制御した。HRP共役二次抗体およびクロモゲンとしてのDAB系(DAKO, Denmark)を用いてタンパク質を視覚化した。分子量マーカーとして、RainbowTM (Amersham UK)プレ染色スタンダードを用いた。
【図4】TUCAP-1の免疫細胞化学および免疫組織化学解析。(A) MM2細胞; (B) 末梢血リンパ球; (C) インビトロ分化マクロファージのマウス免疫前血清免疫細胞化学解析。(D) M2細胞; (E) 末梢血細胞; (F) マクロファージのTUCAP-1免疫細胞化学解析。(G) 免疫前マウス血清; (H) TUCAP-1免疫血清; および(I) 抗GP100で染色した悪性黒色腫組織の免疫組織化学解析。(J) 免疫前マウス血清; (K) TUCAP-1免疫血清; および(L) 抗エズリン抗体で染色した健常な皮膚の免疫組織化学解析。倍率は10Xである。
【図4A】図4Aは、白黒にした同じものである。
【図5】TUCAP-1/ - Iの細胞内局在。(A) MM2全溶解物からのTUCAP-1免疫沈降の細胞内フラクションのウエスタンブロット解析。Mは、マーカー、TEは、全抽出物を示す。(B) TUCAP-1 (緑色)およびRab5 (赤色)の免疫蛍光(IF)二重染色解析。(C) TUCAP-1 (緑色)およびLamp-1 (赤色)のIF二重染色解析。(D) TUCAP-1 (緑色)およびMitotracker染色ミトコンドリア(赤色)のIF二重染色解析。黄色/橙色領域は、共局在を示す。核をHoechst 33258で染色した。倍率は100Xである。
【図5A】図5Aは、白黒にした同じものである。
【図6】TUCAP-1 - IIの細胞内局在。MM2細胞におけるTUCAP-1 (緑色)およびEEA1 (赤色)の免疫蛍光(IF)二重染色解析。黄色/橙色領域は、共局在を示す。核をHoechst 33258で染色した。倍率は100Xである。
【図6A】図6Aは、白黒にした同じものである。
【図7】共食い細胞におけるTUCAP-1検出。(A) 生きたリンパ球と共培養した転移性黒色腫MM1細胞におけるTUCAP-1の検出および局在。TUCAP-1 (緑色)のIVM解析。画像は、TUCAP-1が専ら黒色腫細胞において検出可能であることを強調する。(B) 生きたリンパ球と共培養した転移性黒色腫MM1細胞におけるTUCAP-1 (緑色)およびEEA-1 (赤色)の二重蛍光解析。黄色/橙色領域は、共局在を示す。核をHoechst 33258で染色する。
【図7A】図7Aは、白黒にした同じものである。
【図8】非導入MM2細胞、スクランブル(Scrambled) siRNAおよびTUCAP-1 siRNA (TM9SF4 siRNA)を導入した48時間後のMM2細胞のTUCAP -1発現のFACS解析。
【図9】TM9SF4/TUCAP-1の機能解析。(A) スクランブルsiRNA (SC-siRNA)またはTUCAP-1 siRNA (TM9SF4 siRNA)を導入したMM2細胞の食作用活性のFACS解析。灰色: 非染色コントロール細胞; 赤色: ネガティブコントロールスクランブルsiRNA導入細胞; 緑色: TM9SF4 siRNA導入細胞。(B) DHR123染色リンパ球と共に18時間インキュベートしたSC-siRNAまたはTM9SF4 siRNA導入MM2細胞の共食い活性のFACS解析。灰色: 非染色コントロール細胞; 赤色: SC-siRNA導入細胞; 緑色: TM9SF4 siRNA導入細胞。黒色腫細胞で消化されないDHR123染色リンパ球を除外するために、専ら、黒色腫細胞蛍光放射を評価した。(C) SC-siRNAまたはTM9SF4 siRNA導入MM2細胞のLysoTracker DND-26染色のFACS解析。灰色: 非染色コントロール細胞; 赤色: SC-siRNA導入細胞; 緑色: TM9SF4 siRNA導入細胞。
【図10】TUCAP-1過剰発現は、マトリゲルを介した細胞浸潤を促進する。GFPタグ化全長TUCAP-1 WM743黒色腫細胞(TWM)と比較した浸潤(invading)WM743黒色腫細胞の位相差顕微鏡写真。浸潤した細胞をホルムアルデヒドで固定化し、クリスタルバイオレットで染色した。画像は、明確に、浸潤した細胞の数がTWMについてかなり多いことを示す(非導入細胞について平均25細胞、TUCAP 1導入TWMについて平均132細胞)。
【図10A】図10Aは、白黒にした同じものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の説明
TUCAP-1/TM9SF4 (HUGO命名委員会(nomenclature official committee)による正式名称: 9回膜貫通型スーパーファミリータンパク質メンバー4)は、9回膜貫通型スーパーファミリー(TM9SF)に属し、それは、巨大な細胞外可変N末端ドメインおよび9〜10個の推定上の膜貫通ドメインの存在により特徴づけられる高度に保存されたタンパク質のファミリーである。しかしながら、TM9SF4の機能および局在は、ヒト細胞において現在まで記載されていない。本願において、我々は、当該タンパク質の発現を特定し、当該タンパク質の新規かつ有用な用途を提供する。本願は、当該タンパク質を新規癌タンパク質として同定し、当該タンパク質が悪性腫瘍細胞において発現するが、さまざまな健常細胞および組織において検出されないことを示す。本願はまた、当該タンパク質の構造を示し、他のタンパク質との類似性により、当該タンパク質が細胞内小胞のpH制御に関与し得ることを示す。本願を通して、我々は、適宜、TUCAP-1タンパク質および当該タンパク質をコードする遺伝子をtucap-1と呼ぶ。
【0018】
下記の表1は、TUCAP-1タンパク質の物理化学的パラメーターを示す。
【表1】

【0019】
TopPred予測サーバーを介したTUCAP-1のハイドロパシー解析は、多くの親水性アミノ末端部分がアミノ酸262まで伸長しており、当該タンパク質の残りの部分は、極端に疎水性であり、9個の潜在的な膜貫通ドメインを含むことを明らかにした(図1A)。この予測構造に基づいて、TUCAP-1は、図1Bで示される統合膜タンパク質であるとの高い信頼性を有する仮説を立て得る。TUCAP-1とPHG1の間にかなり高い相同性(45%(NCBI Blastタンパク質プログラムポジティブアライメントを考慮すると、63%まで上昇する))が存在するという我々の知見に基づいて、我々は、TUCAP-1がヒト転移性黒色腫細胞の共食い活性において関与し得るという新たな仮説を立てた。
【0020】
1つの好ましい態様によると、本発明は、好ましくは単離型の、tucap-1遺伝子、mRNA、および/またはコード配列の全体または一部に対応するか、もしくはそれに相補的なポリヌクレオチドであり、TUCAP-1タンパク質およびその断片をコードするポリヌクレオチド、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドならびに関連する分子、tucap-1遺伝子もしくはmRNA配列もしくはその部分に相補的なオリゴヌクレオチド、ならびにTUCAP-1遺伝子、mRNAもしくはTUCAP-1コードポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む。
【0021】
他の好ましい態様によると、本発明は、抗原であるTUCAP-1タンパク質の「特定の配列」を認識する(または、それに結合し得る)全抗体分子またはその断片である「抗体」である。抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり得る。この態様において、TUCAP-1タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドであり、特定の配列は、配列番号1のアミノ酸配列またはこれらの断片と比較して、1個またはそれ以上のアミノ酸の欠失、置換または付加を含むアミノ酸を有するポリペプチドである。本発明の抗体は、抗体突然変異体を包含する。「抗体突然変異体」は、抗体中の1個またはそれ以上のアミノ酸残基が原型から修飾されている突然変異体である。
【0022】
さらなる態様によると、本発明は、TUCAP-1阻害剤である。そのような阻害剤分子は、配列番号2の配列またはその部分と実質的に相補的なポリヌクレオチド配列、および配列番号2の断片と実質的に相補的なオリゴヌクレオチド配列であり得る。
【0023】
また他の態様によると、本発明は、ヒト患者における癌を処置するための方法であって、該患者に化学治療剤と結合したTUCAP-1結合剤を含む治療上有効量の組成物を投与する工程を含む方法である。TUCAP-1タンパク質に特異的に結合する抗体および断片は、癌を処置するために使用され得る。本発明は、癌における細胞毒性効果を有し得る他の部分と融合した抗体および抗体断片の使用を含む。
【0024】
また他の好ましい態様によると、本発明は、TUCAP-1タンパク質またはその断片に対するモノクローナル抗体を産生する細胞株である。
【0025】
また他の好ましい態様によると、本発明は、全長野生型もしくは突然変異型TUCAP-1配列、またはTUCAP-1の欠失突然変異体を含む組み換えDNAもしくはRNA分子(ファージ、プラスミド、ファージミド、コスミド、YAC、BAC、ならびに当分野で既知のさまざまなウイルスおよび非ウイルス発現ベクターを含むがこれらに限定されない)およびそのような組み換えDNAもしくはRNA分子で形質転換するか、またはそれらを導入した細胞である。これらの発現ベクターを用いて、TUCAP-1は、好ましくは、いくつかの悪性腫瘍細胞株で発現し得る。好ましい態様において、本発明は、TUCAP-1タンパク質またはその断片の産生のために有用な宿主-ベクター系を含む。そのような宿主-ベクター系は、i) TUCAP-1およびTUCAP-1突然変異の機能特性を調べるために; ii) TUCAP-1抑制ベクターおよびTUCAP-1突然変異体発現ベクターの利用に基づく遺伝子治療プロトコールを開発するためのモデルとして使用され得る。
【0026】
したがって、本発明は、多くの癌型の悪性度のマーカーとしてTUCAP-1を測定、試験および検出するための特定のツールを提供する。さらに、本発明は、臨床癌専門医に癌患者の管理および追跡における新規ツールを提供する。さらに、TUCAP-1の発現を妨害することができるか、またはTUCAP-1阻害剤として作用する他の分子のペプチドは、抗腫瘍性化合物として本発明の範囲内である。
【0027】
また他の好ましい態様によると、本発明は、診断および/または予後診断ツールとして、腫瘍患者の組織サンプルおよび体液からTUCAP-1を検出するためのキット、例えば、検出キットである。そのようなキットは、a) 抗TUCAP-1抗体; b) 精製TUCAP-1タンパク質からなるポジティブコントロール、および必要な緩衝液を含む。
【0028】
本発明は、実施例により明細書中に記載されているが、それは、本発明の範囲を限定することを意味しない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により規定される。
【実施例】
【0029】
実施例1.
Tucap-1転写産物およびTUCAP-1タンパク質は、原発性黒色腫細胞、末梢血単核細胞または健常な皮膚細胞においては検出されないが、ヒト悪性黒色腫細胞において検出される。
細胞培養
ヒト原発性および転移性黒色腫細胞株の各々は、Istituto Nazionale dei Tumori, Milan, Italyで外科的に切除された患者の原発性もしくは転移性腫瘍病変部位に由来するものであった。現在の研究で使用したすべての細胞をPM (原発性黒色腫)またはMM (転移性黒色腫)と名付けて、その後ろに、進行度に応じて数字(progressive number)を付けた。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、健常なドナーから、バフィーコートのFicoll-Hypaque (Pharmacia)濃度勾配により精製した。単球を、製造者の指示にしたがって、CD14標識化Miltenyiマイクロビーズを用いてPBMCから分離し、RPMI 1640+15% FCS中、37℃で2週間、分離させておいた。残りの末梢血リンパ球(PBL)を、CD14ビーズ仲介単球除去後に得た。すべての細胞を、5% CO2環境中、37℃で、100 IU/mL ペニシリン、100 Ag/mL ストレプトマイシン、10% FCSを補充したRPMI 1640に播種した(すべての試薬は、Cambrexから購入された)。
【0030】
PCR解析
Tucap-1転写産物の発現を、末梢血リンパ球(PBL)と比較して、Instituto Nazionale Tumori, Milanで外科的に切除された患者の黒色腫から得られたいくつかの原発性および転移性黒色腫細胞株について、rt-PCRにより評価した。細胞からの全RNAをRNAzol (Invitrogen)法により回収し、RNA鋳型をRT-PCR増幅のために使用した。TUCAP-1検出のためのプライマーは、下記のとおりであった:
tgtgtgaaacaagcgccttc (配列番号3)および
atgaggtggacgtagtagt (配列番号4)。
【0031】
これらのプライマーは、349塩基対の断片を増幅する。
【0032】
TUCAP-1 HisタグN末端ドメイン合成を目的として使用されたプライマーは、下記のとおりであった:
gaattcatgtgtgaaacaagcgcctt (配列番号5)および
gtcgacagaaaaccagtggatctg (配列番号6)。
【0033】
GAPDHを検出するためのプライマーは、下記のとおりであった:
ccatggagaaggctgggg (配列番号7)および
caaagttgtcatggatgacc (配列番号8)。
【0034】
TUCAP 1クローニングおよびヒト黒色腫細胞におけるTUCAP 1融合タンパク質の発現
PCR産物をpTopoベクター(Invitrogen)にクローン化し、次いで、適当な制限酵素(EcoRI、SalI)で切断することにより単一断片を獲得し、その後、pTrcHis2ベクター(Invitrogen)に連結した。製造者の指示にしたがって、Ni NTAアガロース樹脂(Qiagen)を用いて発現した組み換えタンパク質を精製し、マウスを免疫するためにこれを使用した。
【0035】
GFPタグ化全長TUCAP-1を目的として使用されたプライマーは、下記のとおりであった:
gaattcatgtgtgaaacaagcg (配列番号9)および
gtcgatgtctatcttcacagcata (配列番号10)。
【0036】
PCR産物をpTopoベクター(Invitrogen)にクローン化し、次いで、適当な対の制限酵素(EcoRI-SalI)で切断および連結することにより単一断片を獲得し、その後、EcoRIおよびSalI部位でpEGFPN1ベクター(Clontech)に連結して、GFP-TUCAP-1融合タンパク質を作製した。製造者の指示にしたがって、Lipofectamine 2000トランスフェクションキット(Invitrogen)を用いてGFP-TUCAP-1融合タンパク質をコードするプラスミドをMM1およびMM2細胞に導入し、GFP-TUCAP-1 (GFP-Tuc) MM1またはMM2細胞を得た。導入細胞の割合を、蛍光活性化細胞選別解析により評価した。
【0037】
ウエスタンブロッティングおよび免疫沈降
細菌溶解物、全黒色腫細胞溶解物およびCCD-1064SKの健常な皮膚線維芽細胞(SantaCruz)をSDSサンプル緩衝液に再懸濁し、煮沸で変性させ、SDS-PAGEで分離し、ウエスタンブロットで解析した。6xHisタグ化タンパク質、GFP、TUCAP-1およびGAPDHの各々を、抗6His mAb (Sigma)、抗GFP (クローン1E4 MBL)、抗TUCAP-1マウス血清および抗GAPDH (SantaCruz)で検出した。TUCAP-1タンパク質を、ウサギ抗TUCAP-1 pAb抗体を用いて、前もって除去された細胞溶解物から、プロテインA+G-Sepharoseビーズ(Pierce)の存在下、4℃で一晩、免疫沈降した。ウサギ免疫前血清をネガティブコントロールとして使用した。アクチンを抗アクチンmAb (Sigma)で検出した。
【0038】
tucap-1遺伝子産物を特徴づけるために、MM1細胞に由来するcDNAを細菌発現ベクターにクローン化し、6-ヒスチジンN末端タグ(6H-Nt- TUCAP 1)と融合したTUCAP-1の最初の265アミノ酸(配列番号11)を得た。精製した組み換えタンパク質のウエスタンブロット解析は、コントロール細菌全溶解物(ネガティブコントロール)には存在しない約30 kDaの翻訳産物を生じた。したがって、マウスにおいて抗TUCAP-1抗体を産生するための免疫原としてHisタグ化TUCAP-1組み換えペプチドを使用した。TUCAP-1抗血清の特異性は、抗6HisおよびTUCAP-1マウス抗血清でイムノブロットした精製した6H-Nt- TUCAP-1のウエスタンブロット解析により決定した(図2B)。TUCAP-1マウス抗血清をさらに、GFPタグ化全長TUCAP-1 (GFP- TUCAP-1)を導入したか、またはそれを導入していないMM1細胞のTriton可溶およびTriton不可溶画分について、ウエスタンブロットにより解析した。抗GFP抗体は、100 kDaの範囲の単一で特定の翻訳産物を明らかにしたが、抗TUCAP-1抗体は、両方の細胞株で検出可能な70 kDaのタンパク質に相当するGFPタグ化および内在性TUCAP-1を認識した(図2C)。興味深いことに、TUCAP-1は、Triton不可溶画分(GAPDHネガティブ、細胞骨格タンパク質に富んだ画分)でより多く示され、これは、TUCAP-1を膜貫通タンパク質として提案する暫定のモデルを支持する。PCRの結果をさらに支持するために、抗TUCAP-1抗体を、以前に共食い挙動について解析された4つの転移性黒色腫細胞(MM2-MM5)の細胞抽出物にブロットし、コントロールとしての健常な皮膚線維芽細胞(HSC)およびGFP- TUCAP-1導入MM2細胞と比較した。TUCAP-1は、専ら、黒色腫細胞で検出されたが、皮膚細胞では検出されなかった(図3)。
【0039】
実施例2.
免疫化学は、黒色腫細胞におけるTUCAP-1の占有を示す
免疫細胞化学および免疫組織化学
免疫細胞化学について、ガラスチャンバースライド(Falcon)上で培養した黒色腫細胞およびマクロファージ、ならびにガラススライド上でサイトスピンした(cytospun)PBLを、4℃で10分間、80% メタノールで固定し、TUCAP-1、TUCAP-1マウス血清または免疫前コントロール血清で染色した。Biomaxアレイスライド(Biomax)からの悪性黒色腫および対応する正常皮膚組織を、抗TUCAP-1マウス抗血清について免疫前血清で免疫染色した。黒色腫をまた抗gp100 (Immunotech)で染色し、正常な皮膚をまた抗エズリン(Sigma)で染色した。タンパク質を、単一染色でのペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ法(Dako)を用いて視覚化し、マイヤー・ヘマトキシリンで対比染色した。
【0040】
図4A-Cは、MM2細胞株(A)、末梢血リンパ球(B)、およびインビトロ分化マクロファージ(C)がマウス免疫前血清についてネガティブであったことを示す。PCRの結果と同様に、悪性黒色腫培養細胞は、TUCAP-1について明確にポジティブな染色を示したが(図4D)、PBL (図4E)およびマクロファージ(図4F)は、TUCAP1染色についてネガティブであった。健常な皮膚と比較した悪性黒色腫組織の免疫組織化学解析は、TUCAP-1が黒色腫組織でのみ検出され(図4H)、健常な皮膚では検出されない(図4K)ことを示した。黒色腫および正常な皮膚のためのポジティブコントロールマーカーとして、GP100 (図4I)およびエズリン(図4L)をそれぞれ使用した。免疫前マウス血清染色は、両方の組織で常にネガティブであった(図4G、4J)。これらの結果は、TUCAP-1が専ら黒色腫細胞で検出され、その結果、実施例1の結果を支持する明確な証拠を提供する。
【0041】
実施例3.
TUCAP-1の細胞内局在
さらなる実験をTUCAP 1の細胞内局在を解析するために行った。
【0042】
細胞コンパートメント分画
細胞を回収し、Qproteome細胞膜キットプロトコール(Quiagen)に基づいて加工し、精製した細胞膜および細胞質基質に相当する細胞内コンパートメントの非変性画分を得た。次いで、後者の画分をアセトンで沈殿させ、免疫沈降緩衝液B (0.1% SDS, 1% NP40, 0.5% コール酸ナトリウム)に再懸濁し、ウサギ抗TUCAP-1を用いた免疫沈降にかけた。インタクト細胞および細胞内小器官を含む細胞内コンパートメント由来の残ったペレットから、遠心分離により前者を除去し、Triton X-100抽出にかけ、可溶性および不可溶性画分を得て、それをウサギ抗TUCAP-1で免疫沈降させた。サンプルの電気泳動後、ニトロセルロース膜をマウス抗TUCAP-1でブロットした。
【0043】
免疫蛍光解析
MM2細胞を、60-mmペトリ皿に入れたカバーガラス上に播種した。細胞を2% パラホルムアルデヒドで固定し、透過処理した(Triton X-100 (0.1%)または24時間)。TUCAP 1およびRab5の二重染色のために、細胞をマウス抗TUCAP-1血清およびウサギ抗Rab5 (SantaCruz)で標識し、各々をAlexa Fluor 488共役抗マウスIgGおよび抗ウサギAlexa Fluor 594共役IgG (Molecular Probes)で曝露した。TUCAP 1およびLamp-1の検出のために、細胞をそれぞれウサギ抗TUCAP-1 pAbおよびマウス抗Lamp-1 Mab (BD Pharmingen)で標識し、Alexa Fluor 594共役抗ウサギIgGおよびAlexa Fluor 488共役抗マウスIgGで染色した。TUCAP-1およびミトコンドリアに関しては、TUCAP-1を抗TUCAP-1マウスpAbで標識して、Alexa Fluor 488共役抗マウスIgGで染色し、ミトコンドリアをMithotracker Red (Invitrogen)で標識した。洗浄後、すべてのサンプルにグリセロール:PBS (2:1)を載せ、Leica DM 2500蛍光顕微鏡で観察した。画像を画像解析のIAS 8.2システム(Delta Sistemi)を備えたSpot Insightデジタルカメラ(Delta Sistemi)で記録した。
【0044】
MM2の全細胞溶解物を、抗TUCAP-1抗体で免疫沈降し、さまざまな細胞内画分を分離し、ウエスタンブロットで解析した。結果は、TUCAP-1が主に細胞内小器官に富んだ画分で回収され、細胞質基質および細胞膜画分では検出されないことを明らかにした(図5A)。TUCAP-1の細胞内局在を同定するために、MM2細胞をTUCAP-1と初期エンドソームマーカーRab5、または後期エンドソームおよびリソソームの構成要素であるLamp-1、またはミトコンドリアマーカーMitotracker(商標)について二重染色した。蛍光顕微鏡解析は、TUCAP-1がRab5 (図5B)およびEEA-1 (図6および図7B)と共局在するが、Lamp-1 (図5C)、Mitotracker(商標)(図5D)またはHoechstで染色した核とは共局在しないことを示した。
【0045】
さらに、図7は、生きたリンパ球と共培養した同じ細胞における二重蛍光染色を示す。TUCAP-1は、専ら、黒色腫細胞の表面上で検出され、リンパ球では、全く染色されない(図7A)。再び、TUCAP-1は、一次エンドソームマーカーEEA-1 (図7B)と共局在し、これは、初期エンドソームにおけるこのタンパク質の発現を確認する。
【0046】
実施例4.
TUCAP-1の機能解析
Tucap-1の抑制は、食細胞挙動を阻害する
ヒト転移性黒色腫細胞におけるTUCAP-1タンパク質の役割を、Tucap-1の抑制を介してその発現を阻害することにより評価した。
【0047】
下記のStealthR RNAi二本鎖(Invitrogen)をtucap-1抑制のために用いて、製造者の指示にしたがいアニーリングさせた:
gagugacguccagauccacugguuu (配列番号13)、および
aaaccaguggaucuggacgucacuc (配列番号14)。ネガティブコントロールとして、Stealth RNAiネガティブコントロール培地GC二本鎖(Invitrogen)を使用した。製造者の指示にしたがい、黒色腫細胞にLipofectamine RNAiMAX試薬(Invitrogen)を用いて導入した。簡潔に述べると、導入の前日に、黒色腫細胞を6ウェルプレート(1X105/ウェル)に播種し、24時間後、ウェルあたり30pmolのsiRNAを細胞に導入した。導入の48時間後、細胞をFACS解析によりTUCAP-1発現について解析した。
【0048】
3つの異なる食細胞転移性細胞株にTucap-1に対する小分子干渉RNA (Tucap-1 siRNA)または関連のないsiRNAオリゴ(SC-siRNA)を導入した。図8は、非導入MM2細胞およびスクランブルsiRNAもしくはTUCAP-1 siRNAを導入したMM2細胞における導入後48時間でのTUCAP-1発現のFACS解析を示す。同様の結果がスクランブルおよびTUCAP-1抑制MM3細胞で得られた(データは、示していない)。これにより、TUCAP-1の有効なノックダウンを確認した。
【0049】
これらの細胞の食作用活性を評価するために、我々は、最初に、非導入、SC-siRNA導入、またはTucap-1抑制黒色腫細胞株の染色した酵母細胞または生きたリンパ球を摂取する能力を測定した。導入の48時間後、SC-siRNAもしくはTUCAP-1 siRNA導入MM2およびMM3黒色腫細胞を、37℃で、FITC染色出芽酵母FITC (1:60)または10 μMolジヒドロローダミン123 (DHR123) (Molecular Probes)で染色した生きたリンパ球(1:10)と共にインキュベートした。4時間後に、余剰のリンパ球または酵母細胞をPBSで洗浄し、トリプシン(1.5 g/L) EDTA (0.44g/L)を含むPBS溶液を加えることにより食作用/共食いを測定した。洗浄後、黒色腫細胞を集めて、488-nmアルゴンレーザーを備えたサイトメーターで解析した。少なくとも10,000ベネット(venets)を獲得し、CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を用いてMacintoshコンピューターにより解析した。緑色の蛍光を発した黒色腫細胞が、食作用/共食いであると考えられた。結果は、TUCAP-1のノックダウンが、黒色腫細胞の食作用および共食い活性を顕著に阻害することを示し(図9A、9B、表1)、TUCAP-1は、ヒト転移性黒色腫の共食い挙動において重要な役割を果たすことから、当該タンパク質は、悪性度のマーカーとして使用され得ることを証明する。
【0050】
表2. 食作用/共食いにおけるTUCAP-1の役割
FITC染色酵母およびDHR123で染色した生きたリンパ球に対するスクランブルsiRNA導入(SC-siRNA)およびTucap-1抑制(Tucap-1 siRNA) MM2およびMM3転移性黒色腫細胞の食作用/共食い活性。食作用活性を食細胞の%として示した。数字は、5つの異なる実験の平均±s.d.である。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例5.
TUCAP-1は、エンドソーム小胞の酸性化の制御において役割を果たす
スクランブルsiRNA導入およびTUCAP-1抑制MM2およびMM3細胞を、37℃で30分間、1 μM LysoTrackerプローブ(Molecular Probes)で染色し、即座にサイトメーターで解析した。異なる黒色腫細胞株間の比較を、蛍光強度ヒストグラムの平均値を用いてCellQuestソフトウェアにより行った。TUCAP-1がRab5保有エンドソームに局在する(実施例3を参照のこと)という結果に基づき、我々は、TUCAP-1タンパク質が悪性腫瘍細胞内のphago/エンドソーム区画のpH制御において役割を果たすという仮説を試験した。この仮説を証明するために、コントロールSC-RNAiおよびTUCAP-1-siRNA導入細胞を酸性プローブLysoTracker greenで染色し、フローサイトメトリーで解析した。Tucap-1遺伝子の抑制は、SC-RNA導入コントロール細胞(FIG 9C)と比較して、黒色腫細胞内の酸性度の低い小胞の出現を誘導した。これらの実験は、TUCAP-1が内部小胞、例えば、初期エンドソームの酸性化の制御において役割を果たすという仮説を支持する。
【0053】
実施例6.
転移過程の早期段階におけるTUCAP-1の関与
TUCAP-1過剰発現細胞を用いた進行中の実験は、このタンパク質が転移過程の初期段階における腫瘍細胞浸潤に関与することを示す。これらの細胞の細胞浸潤能力をMatrigel浸潤チャンバー(Becton-Dickenson, Bedford, MA, USA)を用いてアッセイする。簡潔に述べると、非導入WM743またはGFPタグ化全長TUCAP-1 WM743黒色腫細胞(TWM)を無血清培地に再懸濁し、上部チャンバーに載せ、一方、下部チャンバーには、化学誘因物質として10 % FCSを加えた培地を入れた。細胞を、湿潤雰囲気下、37℃でインキュベートし、48時間、走化性チャンバーを介して移動させた。インキュベーション後、上部表面に残った細胞をコットンキャリア(cotton carrier)を用いて完全に除去した。走化性チャンバーの底に移動した細胞をクリスタルバイオレットで染色した。浸潤細胞を、フィルターあたり4つの異なる視野で顕微鏡を用いて(40×)計測した。図10は、トランスウェル膜の下側の部分を示しており、それは、明確に、浸潤した細胞の数がTWMについてかなり多いことを示す(非導入細胞について平均25細胞、TUCAP 1導入TWMについて平均132細胞)。
【0054】
実施例7.
黒色腫細胞のシスプラチン耐性におけるTUCAP-1の関与
いくつかの文献は、イオントラフィッキングに関与するタンパク質の役割および薬剤耐性のメカニズムとして、薬剤封鎖、不活性化および排出におけるエンドリソソームコンパートメントの役割を示している。初期エンドソームにおけるTUCAP 1発現およびエンドソーム小胞のpH制御におけるTUCAP 1の関与(上記の実施例で示されたとおりである)により、我々は、癌細胞の薬剤耐性におけるこのタンパク質の役割について仮説を立てた。これを証明するために、TUCAP-1を高度に発現するMM2黒色腫細胞を、48時間、スクランブル(SC-siRNA)またはTucap-1 si-RNAで前処理し(上記の実施例で示されたとおりである)、導入後、細胞を2μM シスプラチンで処理した。48時間後、シスプラチン誘導細胞毒性を、初期(アネキシンV単一陽性)および後期(PI/アネキシンV二重陽性)アポトーシスのFACS解析により評価した。Tucap-1の抑制は、非導入コントロール細胞のような挙動を示すスクランブルsi-RNAで処理したWM743細胞と比較して、シスプラチンの細胞毒性効果を著しく増加させた。コントロール非導入細胞では、平均63 %の細胞が生存していたのに対して、TUCAP-1抑制細胞では、平均37 %の細胞が生存していた。
【0055】
この実験は、TUCAP-1がTUCAP-1過剰発現細胞の薬剤耐性に関与しており、tucap-1抑制が腫瘍細胞の食作用特性を阻害する有望な方法であることを証明する。
【0056】
上記実施例で示された結果に基づいて、本願はまた、黒色腫および記載された食作用挙動により特徴づけられるいくつかの他の腫瘍、すなわち、乳癌、肺癌、膀胱癌、髄芽腫および胃腺癌の検出のための高感度かつ特異的な方法を提供する。さらに、本願は、TUCAP-1が専ら悪性腫瘍で発現することを示すことにより、悪性腫瘍病変部位と良性腫瘍病変部位を区別する方法を提供する。癌検出のための方法は、推定される癌病変部位由来の生物学的サンプルの評価を含み、典型的には、インサイチュハイブリダイゼーション、rt-PC、または免疫酵素学的方法である。
【0057】
実施例8.
TUCAP-1に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体
上記の実施例に基づいて、TUCAP-1に特異的なポリクローナル抗体(pAb)およびモノクローナル抗体(mAb)は、例えば、腫瘍の悪性度を決定するための診断および癌の処置を含むさまざまな目的のために有用であり得る。
【0058】
ポリクローナル抗体を作製するために、MM1細胞からのcDNAを細菌発現ベクターにクローン化し、6-ヒスチジンN末端タグと融合したTUCAP-1アミノ酸18-282(配列番号11)を得た。精製した組み換えペプチドを、マウスにおいて抗TUCAP-1抗体を作製するために使用した。抗TUCAP-1抗体は、免疫原、ポジティブコントロールとしてのGFPタグ化全長タンパク質および内在性TUCAP-1タンパク質を認識した。
【0059】
ポリクローナル抗体はまた、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する精製ペプチド断片を用いて、ウサギ、ヤギおよびロバを免疫することにより作製された。作製された抗体は、配列番号1のアミノ酸221-235からなるペプチド断片に結合することにより、ヒトTUCAP-1タンパク質を認識することができる。ポリクローナル抗体はまた、ヤギおよびロバを免疫することにより得られた。
【0060】
モノクローナル抗体を作製するために、マウスを配列番号11または配列番号12のアミノ酸配列を有するペプチド断片またはその断片を用いて免疫した。あるいは、マウスを配列番号15のアミノ酸配列を有するペプチド断片を用いて免疫した。選択されたハイブリドーマクローンを、選択されたマウスの脾臓細胞を用いて作製した。簡潔に述べると、免疫化マウスの脾臓由来のB細胞を、ハイブリドーマ作製のために特別に選択された黒色腫腫瘍細胞株と融合させた。培地中で無限に増殖し得る生じた融合(ハイブリッド)細胞は、結果として、多量の望まれる抗体を産生した。ハイブリドーマの作製は、標準的なプロトコールにしたがって行われた。選択されたハイブリドーマをスクリーニングした後、ハイブリドーマをクローン化し、抗体産生のために大規模で増殖させる。さまざまな陽性ハイブリドーマを、例えば、下記の異なる使用のために選択する: a) 研究室での実験的使用(ウエスタンブロット、免疫沈降、FACS解析、免疫蛍光ならびにヒト組織および培養細胞の免疫組織化学および免疫細胞化学解析); b) 前臨床および臨床試験; c) 腫瘍診断および予後診断ツール、例えば、検出キット。作製されたモノクローナル抗体は、配列番号1のTUCAP-1タンパク質アミノ酸18-282または配列番号1のアミノ酸221-235もしくはアミノ酸303-352からなるペプチド断片の立体的もしくは直線エピトープに結合する。抗体はまた、マウス、ラット、ネコ、イヌおよびヒツジ起源のTUCAP-1タンパク質に結合する。
【0061】
上記の実施例は、本発明の特定の態様を詳細に開示している。しかしながら、これは、例示であり、例示目的のみで記載されている。実施例は、本発明を規定する添付の特許請求の範囲の範囲を限定することを意図するものではない。
【0062】
参照
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む、腫瘍悪性度のための新規マーカー。
【請求項2】
アミノ酸配列が配列番号11で示される配列番号1の18から282のアミノ酸からなる、請求項1に記載のマーカー。
【請求項3】
アミノ酸配列が配列番号12で示される、請求項1に記載のマーカー。
【請求項4】
悪性腫瘍細胞で専ら発現し、配列番号2で示されるポリヌクレオチド配列またはその部分を有する、新規癌遺伝子。
【請求項5】
マウス、ウサギ、ヤギまたはロバを、配列番号11、配列番号12および配列番号15からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドで免疫することにより作製される単離抗体であって、配列番号1のアミノ酸18-282、221-235および303-352からなる群から選択されるペプチド断片に結合することにより、ヒトTUCAP-1タンパク質を認識することができる、抗体。
【請求項6】
抗体がモノクローナル抗体であり、IgGアイソタイプIgG2AまたはIgGアイソタイプIgG1に属する、請求項5に記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
ヒトTUCAP-1タンパク質に対するモノクローナル抗体であって、腫瘍成長妨害活性または転移妨害活性を有し、マウスを配列番号11、配列番号12および配列番号15からなる群から選択されるペプチド断片で免疫することにより作製され、配列番号1のアミノ酸18-282、221-235または303-352の間に位置する立体もしくは直線エピトープに結合することにより、ヒトTUCAP-1タンパク質を認識する、抗体。
【請求項8】
配列番号11、配列番号12および配列番号15からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド断片で免疫した選択されたマウスの脾臓細胞を用いて、ヒトTUCAP-1の立体もしくは直線エピトープに結合することができるモノクローナル抗体、またはそのようなモノクローナル抗体の断片もしくはヒト化形態または該断片の一本鎖形態を産生することにより得られる選択されたハイブリドーマであって、該エピトープが配列番号1のアミノ酸18-282、221-235または303-352の間に位置する、ハイブリドーマ。
【請求項9】
請求項7に記載の抗体ならびに配列番号11、配列番号12および配列番号15からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド断片を含む力価(titred)ポジティブコントロールを含んでなる抗原-抗体反応のためのキットであって、該抗体が癌遺伝子産物を検出するために使用され、該癌遺伝子産物が腫瘍を患う患者の組織および体液からの配列番号1を含む、キット。
【請求項10】
腫瘍細胞において配列番号1の発現の存在または非存在を決定する工程を含む、悪性腫瘍を診断する方法。
【請求項11】
配列番号1の発現の存在または非存在がRT-PCR、免疫酵素学的方法またはインサイチュハイブリダイゼーションにより決定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
腫瘍細胞において配列番号1の発現の存在または非存在を決定する工程を含む、腫瘍の悪性度の進行を追跡する方法。
【請求項13】
配列番号1の発現を阻害する工程を含む、腫瘍細胞の食作用特性を阻害する方法。
【請求項14】
該発現がTucap-1遺伝子の発現を抑制することにより阻害される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
腫瘍細胞に配列番号2もしくはその部分と実質的に相補的な、またはTUCAP-1 mRNAもしくはTUCAP-1特異的制御因子と相補的な単離核酸配列を含む発現ベクターを導入する、請求項14に記載の方法。配列番号1の発現を阻害する工程を含む、腫瘍細胞の食作用特性を阻害する方法。
【請求項16】
患者に化学治療剤と結合したTUCAP結合剤を含む治療上有効量の組成物を投与する工程を含む、癌を処置する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4A】
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【図5】
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【図5A】
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【図6】
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【図6A】
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【図7】
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【図7A】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図10A】
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【公表番号】特表2011−511625(P2011−511625A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543378(P2010−543378)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国際出願番号】PCT/EE2009/000001
【国際公開番号】WO2009/092385
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(510203647)
【Fターム(参考)】