説明

新規抗菌タンパク質、その製造方法およびその用途

【課題】新規抗菌タンパク質、その製造方法およびその用途を提供する。
【解決手段】Lactobacillus gasseri JCM1131Tから得られる288個の特定のヌクレオチド配列からなるDNAからなる遺伝子、および特定のアミノ酸配列からなるタンパク質;該DNAを含む組換えプラスミド;該組換えプラスミドで形質転換された宿主細胞;該宿主細胞を培養してタンパク質を回収することを含む該タンパク質の製造方法;並びに該タンパク質を有効成分として含有する組成物、特には研究用試薬、食品添加物、防腐剤、工業用殺菌剤、農業用殺菌剤または医療用抗生物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な抗菌タンパク質、その製造方法およびその用途に関する。より具体的には、溶原ファージφgaYを保有する乳酸棹菌の1種であるLactobacillus gasseri JCM1131Tから得た遺伝子によりコードされる新規な抗菌タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸棹菌の1種であるLactobacillus gasseri JCM1131Tから新規溶菌酵素であるLysgaYの構造遺伝子を単離した例が報告されている。(例えば、特許文献1)。
LysgaYは、310個のアミノ酸からなるタンパク質であり、ムラミダーゼ族に属し、Lactobacillus属、Staphylococcus属等のグラム陽性菌に対し幅広い溶菌スペクトル
を示すことが示されている。
また、LysgaYのアミノ酸配列及び該タンパク質をコードするDNAの933のヌクレオチド配列も報告されている。
【0003】
LysgaYと他の溶菌酵素との相同性比較および三次元構造予測の結果より、LysgaYの活性ドメインであるN末端領域は、β/α−バレル構造を有することが示唆され、一方、C末端領域は細胞壁認識ドメイン(SH3b)を形成すると推測された。
LysgaYのC末端領域である細胞壁認識ドメイン(SH3b)と類似の細胞壁認識ドメイン(SH3b)をC末端領域に有する他の溶菌酵素、それらの細胞壁に対する結合能に関する文献が、幾つか報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3および非特許文献4)。
しかしながら、これらの類似ペプチド領域の抗菌活性に関する報告はなされていない。
【特許文献1】特開2006−121993号公報
【非特許文献1】Lu JZ, Fujiwara T, Komatsuzawa H, Sugai M, Sakon J. Cell wall-targeting domain of glycylglycine endopeptidase distinguishes among peptidoglycan cross-bridges. J. Biol. Chem., 2006, Jan 6;281(1):p.549-58.
【非特許文献2】Low LY, Yang C, Perego M, Osterman A, Liddington RC.Structure and lytic activity of a Bacillus anthracis prophage endolysin. J. Biol. Chem. 2005 Oct 21;280(42):p.35433-9.
【非特許文献3】Donovan, D.M., Foster-Frey, J., Dong, S., Rousseau, G.M., Moineau, S., Pritchard, D.G., The Cell Lysis Activity of the Streptococcus agalactiae Bacteriophage B30 Endolysin Relies on the Cysteine, Histidine-Dependent Amidohydrolase/Peptidase Domain. Appl. Environ. Microbiol. 2006. 72, p.5108-12.
【非特許文献4】Donovan, D.M., Dong, S., Garrett, W., Rousseau, G.M., Moineau, S., Pritchard, D.G., Peptidoglycan hydrolase fusions maintain their parental specificities. Appl. Environ. Microbiol. 2006. 72, p.2988-96.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、新規抗菌タンパク質、その製造方法およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、乳酸棹菌の1種であるLactobacillus gasseri JCM1131Tから単離された溶菌酵素であるLysgaYの構造遺伝子のC末端の細胞壁認識ドメイン(SH3b)がコードするタンパク質(以後、SH3bgaYと記す。)が、植物病原細菌に対して強く且つ広いスペクトルの抗菌活性を有することを見い
出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は以下の1ないし12の観点に関する;
1. 以下のa)ないしd)のいずれか1つのDNAからなる遺伝子;
a)以下の配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列からなるDNA、
b)以下の配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列を含むDNA。
c)前記a)記載のDNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなる一本鎖DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、抗菌活性を有するタンパク質をコードする領域を含むDNA、
d)前記a)記載のDNAと95%のヌクレオチド配列相同性を示し、抗菌活性を有するタンパク質をコードする領域を含むDNA。
atg tct gtt gca caa tca gca tca gaa aaa aca tgg act gat gta caa ggt atg act tgg cat gaa gaa cat ggt act ttc atc act ggt gga gcg att aat ctt cgc tgg ggc gct aat acg caa agc aca ctg att acc acc tta cca gca ggt tca gaa gtt aaa tac aat gct tgg gct aga gat agt gct ggg cgt gta tgg tta cag caa ccg aga gaa aat ggt aag aat ggc tat tta gtt ggt cgt gtc ggc agt gag ccg tgg gga act ttc aaa taa
2. 以下のa)ないしc)のいずれか1つのタンパク質をコードする遺伝子;
a)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
b)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
c)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、抗菌活性を有するタンパク質。
Met Ser Val Ala Gln Ser Ala Ser Glu Lys Thr Trp Thr Asp Val Gln Gly Met Thr Trp His Glu Glu His Gly Thr Phe Ile Thr Gly Gly Ala Ile Asn Leu Arg Trp Gly Ala Asn Thr Gln Ser Thr Leu Ile Thr Thr Leu Pro Ala Gly Ser Glu Val Lys Tyr Asn Ala Trp Ala Arg Asp Ser Ala Gly Arg Val Trp Leu Gln Gln Pro Arg Glu Asn Gly Lys Asn Gly Tyr Leu Val Gly Arg Val Gly Ser Glu Pro Trp Gly Thr Phe Lys
3. 以下のa)ないしd)のいずれか1つのタンパク質;
a)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
b)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
c)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、抗菌活性を有するタンパク質、
d)前記1.記載のDNAによりコードされ、抗菌活性を有するタンパク質。
Met Ser Val Ala Gln Ser Ala Ser Glu Lys Thr Trp Thr Asp Val Gln Gly Met Thr Trp His Glu Glu His Gly Thr Phe Ile Thr Gly Gly Ala Ile Asn Leu Arg Trp Gly Ala Asn Thr Gln Ser Thr Leu Ile Thr Thr Leu Pro Ala Gly Ser Glu Val Lys Tyr Asn Ala Trp Ala Arg Asp Ser Ala Gly Arg Val Trp Leu Gln Gln Pro Arg Glu Asn Gly Lys Asn Gly Tyr Leu Val Gly Arg Val Gly Ser Glu Pro Trp Gly Thr Phe Lys
4. 前記1.又は2.記載の遺伝子を含む組換えプラスミド。
5. 発現ベクターであることを特徴とする、前記4.記載の組換えプラスミド。
6. 前記4.または5.に記載の組換えプラスミドで形質転換された宿主細胞。
7. グラム陽性細菌であることを特徴とする、前記6.記載の宿主細胞。
8. 大腸菌、乳酸菌、枯草菌またはブドウ球菌であることを特徴とする、前記6.記載の宿主細胞。
9. 以下の工程1)および2)を含む、前記3.に記載のタンパク質の製造方法;
1)前記6.ないし8.のうちの何れか1つに記載の宿主細胞を、抗菌活性を有するタンパク質の産生が可能な条件下で培養する工程、
2)前記工程1)における培養により得た培養物から、抗菌活性を有するタンパク質を回収する工程。
10. 前記9.記載の製造方法により得られるタンパク質。
11. 前記3.記載のタンパク質を有効成分として含有する組成物。
12. 研究用試薬、食品添加物、防腐剤、工業用殺菌剤、農業用殺菌剤または医療用抗生物質であることを特徴とする、前記11.記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、強い抗菌活性及び広い抗菌スペクトルを有する新規なタンパク質が提供される。そして該タンパク質は生命工学分野および医療分野の用途への適用、特に研究用試薬、食品添加物、防腐剤、工業用殺菌剤、農業用殺菌剤、医療用抗生物質等の有効成分として好ましく使用することができる。
本発明の抗菌タンパク質(SH3bgaY)は、加水分解活性を全く有さず、逆に、Lactobacillus gasseri JCM1131Tの自己溶菌及びLysgaYの加水分解活性を阻害するものであった。
従って、SH3bgaYの抗菌活性は、LysgaYの加水分解活性とは全く異なることが明らかとなった。
尚、SH3bgaYの抗菌活性は、Lactobacillus gasseri JCM1131Tの対数増殖期における細胞分裂の最終段階である娘細胞の分離の阻害によるものと考えられるものであった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の遺伝子を含むDNA断片は、例えば、SH3bgaYをコードする遺伝子部分を含むDNAが組み込まれた組換えプラスミドを鋳型とし、SH3bgaYをコードする遺伝子が得られるよう設計されたプライマーを用いてPCRを行うことにより得ることができる。SH3bgaYをコードする遺伝子部分を含むDNAは、Lactobacillus gasseri JCM1131Tの菌体DNAを制限酵素Sau3AI等で切断することにより得ることができる。得られたDNAを用い、公知の方法、例えばサンブルック等の方法(Sambrook et al., Molecular Cloning. A Laboratory Manual,2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory,
Cold Spring Harbor, N.Y. (1989))等に従って、前記DNAが組み込まれた組換えプラスミドを作成することができる。PCRに使用するプライマーは、LysgaYをコードする遺伝子のC末端部分と他の溶菌酵素の細胞壁認識ドメイン(SH3b)をコードする遺伝子との相同性から予測して設計することができる。
【0009】
得られたDNA断片を含む組換えプラスミドを作成し、該組換えプラスミドを宿主細胞に導入して形質転換体を得た後、該形質転換体からタンパク質の誘導発現を行うことにより、約9kDaの分子量のSH3bgaYタンパク質を得ることができる。
得られたSH3bgaYタンパク質の植物病原細菌及び標準菌株に対する抗菌活性を評価したところ、使用した全ての菌株に対して強い抗菌活性を示した。
【0010】
従って本発明の遺伝子の1つの例は、95個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする領域に相当する以下の配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列からなるDNAである。以下の配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列を含むDNAからなる遺伝子も、抗菌活性を示す限り本発明に包含される。
【0011】
また、本発明の遺伝子の他の例は、下記する配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなる一本鎖DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、抗菌活性を有するタンパク質をコードする領域を含むDNAからなるもの、および下記する配列番号1のヌクレオチド番号1から28
8に表されるヌクレオチド配列と95%以上のヌクレオチド配列相同性を示し、抗菌活性を有するタンパク質をコードする領域を含むDNAからなるものが挙げられる。このようなDNAとしては、自然界で発見される変異型DNA、人為的に改変した変異型DNA、異種生物由来の相同DNA等が含まれる。
【0012】
本発明の遺伝子のさらなる例は、前記95個のアミノ酸に相当する以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。下記する配列番号2に表されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子も本発明に包含される。ここで、各アミノ酸に対応するコドンは任意に選択でき、また例えば利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して常法に従い決定できる。
【0013】
他方、本発明のタンパク質の例としては、以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列を含むタンパク質も本発明に包含される。
【0014】
また、以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、抗菌活性を有する限り本発明に包含される。ここで数個とは、10個を超えない数であり、好ましくは5個以下である。
【0015】
ここで、あるDNAが以下の配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなる一本鎖DNAとハイブリダイズするか否かは、例えば以下の手順により決定できる:先ず、目的とするDNAをランダムプライマー法、ニックトランスレーション法等に従いプローブを用いて標識する。次いで、ハイブリダイゼーションに用いるDNAを公知の方法、例えばニトロセルロース膜やナイロン膜等に吸着させ、加熱あるいは紫外線照射により固相化する。その膜をその後、例えば6×SSC、5%デンハート溶液および0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むプレハイブリダイゼーション溶液に浸漬し、55℃で4時間以上保温する。ここで先に作成した標識プローブを同様のプレハイブリダイゼーション溶液に最終比活性1×106cpm/mLとなるように添加し、60℃で一晩保温する。膜を57℃で5分間洗浄する操作を5回繰り返し、さらに57℃で20分間洗浄後、オートラジオグラフィーを行うことにより、ハイブリダイズしたか否かを判定することができる。
【0016】
ハイブリダイゼーションの条件は前記条件に限定されず、ストリンジェントな条件下であればよい。本発明において、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションとは、5×SSC(0.75M 塩化ナトリウム、0.075M クエン酸ナトリウム)またはこれと同等の塩濃度のハイブリダイゼーション溶液中、37〜42℃の温度条件下、約12時間行い、5×SSCまたはこれと同等の塩濃度の溶液等で必要に応じて予備洗浄を行った後、1×SSCまたはこれと同等の塩濃度の溶液中で洗浄を行うことからなるハイブリダイゼーションを指す。さらに0.1×SSCまたはこれと同等の塩濃度の溶液中で洗浄を行うこともできる。
【0017】
また、本発明のタンパク質が抗菌活性を有するか否かは、通常の方法により評価できる。より詳しくは、以下の実施例の何れかに詳述されるのと同じかまたはそれに準じた抗菌活性試験を、アミノ酸の欠失、置換および/または付加により生成した改変タンパク質に対して行うことにより、該改変タンパク質の抗菌活性の有無を決定できる。
【0018】
また本発明のDNAがベクターに挿入された組換えプラスミドも本発明に包含される。該ベクターとしては、一般に知られている様々なベクターを使用でき、原核細胞用ベクター、真核細胞用ベクター、哺乳動物由来の細胞用ベクター等があるが、これに限定されな
い。このような組換えプラスミドにより、原核生物または真核生物の宿主細胞を形質転換できる。さらに、適当なプロモーター配列および/または形質発現に関わる配列を有するベクターを用いるか、もしくはそのような配列を導入することにより、発現ベクターとすることができ好ましい。
【0019】
本発明の組換えプラスミドを各種細胞に導入することにより得られる宿主細胞も本発明に包含される。該宿主細胞として好ましいのは、グラム陽性細菌、特に大腸菌、乳酸菌、枯草菌、ブドウ球菌等である。
【0020】
本発明のタンパク質は、前記組換えプラスミドにより形質転換した前記宿主細胞を、抗菌活性を有するタンパク質の産生が可能な条件下で培養し、該培養により得た培養物から抗菌活性を有するタンパク質を回収することにより製造できる。宿主細胞の培養方法およびタンパク質の回収方法としては従来一般に知られている方法が使用可能であり、例えば以下の実施例の何れかに詳述されるのと同じかまたはそれに準じた方法により行うことができる。
【0021】
本発明はまた、本発明のタンパク質を有効成分として含有してなる組成物に関する。該組成物は、細菌を死滅させることが必要となる様々な用途に適用できる。該用途としては、具体的には、研究用試薬、食品添加物、防腐剤、工業用殺菌剤、農業用殺菌剤、医療用抗生物質等が挙げられる。
【0022】
以下、本発明を具体的な例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定することを意図しない。
【実施例1】
【0023】
SH3bgaY遺伝子の単離
SH3bgaY遺伝子を含む組換えプラスミドの作成は、特開2006−121993号公報にて記述した組み換えプラスミドp119gaY3を用いて、以下のサンブルック等の方法(Sambrook et al., Molecular Cloning. A Laboratory Manual,2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989))に従って調製した。
組み換えプラスミドp119gaY3(約0.01μg)を鋳型とし、GY1SH32
Rプライマ(5'-AAAGCTCATATGTCTGTTGCACAATCAGCATCAGAA-3')およびM13FWプライマ(5'-GTTTTCCCAGTCACGACGTTGTA-3')を用い、KOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社製)を用いて、PCR法により、SH3bgaY遺伝子を含むDNA断片(480bp)を得た。
上記DNA断片をNdeIで完全分解し、473bpのDNA断片を回収、精製した。プラスミドpET15b(5708bpの大腸菌ベクター、Ampr、pT7)をNde
I,BamHIで完全分解した後、得られた線状DNAのBamHIサイトをKlenow fragment(NEW ENGLAND BIOLAB社製)を用いて末端平滑化した。引き続き、該473bpDNA断片と線状プラスミドpET15bを、DNA結合酵素(NEW ENGLAND BIOLAB社製)を用いた16℃、6時間の反応により結合させ、組換えプラスミドpHSHgaY2(6170bp)を得た。
【実施例2】
【0024】
プラスミドpHSHgaY2(6170bp)の塩基配列の確認
組換えプラスミドpHSHgaY2(6170bp)の塩基配列は、Thermo Sequenase
Cy5.5 Dye Terminator Cycle Sequencing Kit (アマシャム社製)を用いてサイクルシー
ケンス反応を行い、Long Read Tower シーケンサ(ベリタス社製)により泳動、解析した。本法によりプラスミドpHSHgaY2の挿入断片(473bp)の全塩基配列を決定したところ、その配列は、鋳型にしたプラスミドp119gaY3並びに実施例1のプラ
イマの配列に一致し、目的のSH3bgaY遺伝子を含む配列であった。プラスミドp119gaY3並びにpHSHgaY2から発現されるタンパク質の領域を表した模式図を図1に示す。プラスミドpHSHgaY2から発現されるSH3bgaYタンパク質は、プラスミドp119gaY3から発現されるlysgaYタンパク質(特開2006−121993号公報)のC末端部分のみを有するものであることが判る。
【実施例3】
【0025】
SH3bgaYタンパク質の調製と確認
プラスミドpHSHgaY2を、大腸菌BL21DE3(hsdS、gal〔λcIts857、ind1、Sam7、nin5、lacUV5−T7 gene1〕)にエレクトロポーレーション法により導入した。詳細には、先ず大腸菌BL21DE3をLB(Luria-Bertain)培地を用い、37℃で培養した。一晩(12時間)経過後、培養菌2m
Lを新鮮なLB培地100mLに植え継ぎ、37℃で培養した。菌数が5×108/mL
に達したとき、上記と同様の遠心分離法で集菌した。菌体を滅菌水で3度洗浄し、100μLの蒸留水に懸濁した。該懸濁液に1μLの組換えプラスミドDNA(0.5μg/μL)とPEG6000(10%)を添加した。大腸菌体内への該組換えプラスミドの導入は、ジーンパルサー(登録商標、バイオラッド社製)を用い、電圧1.75kV/cm、静電容量25μF、抵抗600Ωの電気パルス条件を用いたエレクトロポレーション法で行った。電気パルス処理後、LB培地を4倍量加え、37℃で30分間保温し、形質転換体を得た。
得られた形質転換体を100mLのLB培地(アンピシリン30μg/mLを含む)で培養した。対数期中期(濁度0.3)において、培養液中に終濃度0.4mMになるようIPTGを加えて、さらに4時間培養した。その後集菌し、結合緩衝液(50mMTris−HCl、500mMNaCl、20mMイミダゾール、pH7.5)で1回洗浄後、同緩衝液5mLに懸濁した。この懸濁液を、超音波破砕装置(ソニックスアンドマテリアル社製)で、1回あたり30秒づつ、計6回処理した。処理液は、遠心分離法(冷却遠心機、日立製作所製:12000rpm、4℃、10分)により不溶成分を除去した。
この菌体破砕上清を、ニッケルキレートアフィニティーカラム(GEヘルスケア社製、カラム容量1mL)に供した。上記の結合緩衝液で洗浄後、溶出緩衝液(50mMTris−HCl、500mMNaCl、600mMイミダゾール)を、0−100%の範囲で直線濃度勾配をつけて流して溶出した。SH3bgaYタンパク質を含む分画を収集し、精製SH3bgaYとした。引き続き、該精製SH3bgaYを0.05M酢酸buffer( PH=5.0)にて透析処理し、4℃にて保存した。
SH3bgaYタンパク質の大腸菌での誘導発現、および精製経過を、SDS電気泳動(15%ゲル濃度)により分析した結果を図2に示す。レーン1は分子量マーカー、レーン2は誘導前の大腸菌、レーン3はIPTGにより発現誘導した大腸菌、レーン4は、タンパク質発現誘導した大腸菌の、菌体破砕上清、レーン5は精製SH3bgaYタンパク質を示す。この結果から、プラスミドpHSHgaY2により、約9kDaの分子量のSH3bgaYタンパク質が誘導され、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフにより、1段階のカラム操作でSH3bgaYタンパク質が精製できることがわかる。
【実施例4】
【0026】
SH3bgaYタンパク質の抗菌活性評価
SH3bgaYタンパク質の植物病原細菌及び標準菌株に対する抗菌活性を評価した。下記の供試菌株をCSM培地(YEAST NITROGEN BASE (DIFCO No.233520) 0.85 g、CSM (BIO 101 No.4500-022) 0.31 g、D-glucose 10g/ 0.1 Mリン酸buffer (pH 5.0) )10mLにて25℃3日間培養し、培養菌液を得た。本菌液をCSM培地で100倍希釈した後、9
6穴タイタープレート(ヌンク社製)に180μL/ウェルずつ分注し、さらに0.05M酢
酸buffer( PH=5.0) にて所定の濃度となる様希釈した試験サンプルを20μL/ウェルずつ分注した。本プレートを25℃にてインキュベートし、4日後の供試菌株の生育を目
視にて調査してサンプル無添加処理区と比較することにより生育阻害率を算出した。
Ecc:Erwinia carotovora subsp.carotovora (MAFF301052)
Bg:Burkholderia glumae (MAFF301169)
Rs:Ralstonia solanacearum (MAFF301485)
Xc:Xanthomonas campestris pv.citri (MAFF301078)
Bs:Bacillus subtilis (PCI-219)
Sa:Staphylococcus aureus (IFO-12732)
生育阻害率(%)を表1に示した。
【表1】

表1に示す試験結果から明らかなように、本発明のタンパク質であるSH3bgaYは6種全ての菌株に対して抗菌活性を示した。特に、Burkholderia glumae、Ralstonia solanacearumに対しては、陽性対照であるクロラムフェニコールよりも強い抗菌活性を示し
た。これらの結果より、SH3bgaYが広い抗菌スペクトルを有することを確認できた。
SH3bgaYは、LysgaYと全く異なり、加水分解活性を全く示さなかった。
そして、逆に、Lactobacillus gasseri JCM1131Tの自己溶菌及びLysgaYの加水分解活性を阻害した。
従って、SH3bgaYの抗菌活性は、LysgaYの加水分解活性とは全く異なるものであった。
尚、SH3bgaYは、Lactobacillus gasseri JCM1131Tの対数増殖期における細胞分裂の最終段階である娘細胞の分離を顕著に阻害した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、実施例2において作成したプラスミドから発現されるタンパク質の領域を表す。
【図2】図2は、実施例3において形質転換大腸菌が産生したタンパク質を精製した際の電気泳動結果の写真を表す。レーン1は分子量マーカー、レーン2は誘導前の大腸菌、レーン3はIPTGにより発現誘導した大腸菌、レーン4は、タンパク質発現誘導した大腸菌の、菌体破砕上清、レーン5は精製SH3bgaYタンパク質を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のa)ないしd)のいずれか1つのDNAからなる遺伝子;
a)以下の配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列からなるDNA、
b)以下の配列番号1のヌクレオチド番号1から288に表されるヌクレオチド配列を含むDNA。
c)前記a)記載のDNAのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなる一本鎖DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、抗菌活性を有するタンパク質をコードする領域を含むDNA、
d)前記a)記載のDNAと95%のヌクレオチド配列相同性を示し、抗菌活性を有するタンパク質をコードする領域を含むDNA。
atg tct gtt gca caa tca gca tca gaa aaa aca tgg act gat gta caa ggt atg act tgg cat gaa gaa cat ggt act ttc atc act ggt gga gcg att aat ctt cgc tgg ggc gct aat acg caa agc aca ctg att acc acc tta cca gca ggt tca gaa gtt aaa tac aat gct tgg gct aga gat agt gct ggg cgt gta tgg tta cag caa ccg aga gaa aat ggt aag aat ggc tat tta gtt ggt cgt gtc ggc agt gag ccg tgg gga act ttc aaa taa
【請求項2】
以下のa)ないしc)のいずれか1つのタンパク質をコードする遺伝子;
a)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
b)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
c)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、抗菌活性を有するタンパク質。
Met Ser Val Ala Gln Ser Ala Ser Glu Lys Thr Trp Thr Asp Val Gln Gly Met Thr Trp His Glu Glu His Gly Thr Phe Ile Thr Gly Gly Ala Ile Asn Leu Arg Trp Gly Ala Asn Thr Gln Ser Thr Leu Ile Thr Thr Leu Pro Ala Gly Ser Glu Val Lys Tyr Asn Ala Trp Ala Arg Asp Ser Ala Gly Arg Val Trp Leu Gln Gln Pro Arg Glu Asn Gly Lys Asn Gly Tyr Leu Val Gly Arg Val Gly Ser Glu Pro Trp Gly Thr Phe Lys
【請求項3】
以下のa)ないしd)のいずれか1つのタンパク質;
a)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
b)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
c)以下の配列番号2に表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、抗菌活性を有するタンパク質、
d)請求項1記載のDNAによりコードされ、抗菌活性を有するタンパク質。
Met Ser Val Ala Gln Ser Ala Ser Glu Lys Thr Trp Thr Asp Val Gln Gly Met Thr Trp His Glu Glu His Gly Thr Phe Ile Thr Gly Gly Ala Ile Asn Leu Arg Trp Gly Ala Asn Thr Gln Ser Thr Leu Ile Thr Thr Leu Pro Ala Gly Ser Glu Val Lys Tyr Asn Ala Trp Ala Arg Asp Ser Ala Gly Arg Val Trp Leu Gln Gln Pro Arg Glu Asn Gly Lys Asn Gly Tyr Leu Val Gly Arg Val Gly Ser Glu Pro Trp Gly Thr Phe Lys
【請求項4】
請求項1又は2記載の遺伝子を含む組換えプラスミド。
【請求項5】
発現ベクターであることを特徴とする、請求項4記載の組換えプラスミド。
【請求項6】
請求項4または5に記載の組換えプラスミドで形質転換された宿主細胞。
【請求項7】
グラム陽性細菌であることを特徴とする、請求項6記載の宿主細胞。
【請求項8】
大腸菌、乳酸菌、枯草菌またはブドウ球菌であることを特徴とする、請求項6記載の宿主細胞。
【請求項9】
以下の工程1)および2)を含む、請求項3に記載のタンパク質の製造方法;
1)請求項6ないし8のうちの何れか1項に記載の宿主細胞を、抗菌活性を有するタンパク質の産生が可能な条件下で培養する工程、
2)前記工程1)における培養により得た培養物から、抗菌活性を有するタンパク質を回収する工程。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法により得られるタンパク質。
【請求項11】
請求項3記載のタンパク質を有効成分として含有する組成物。
【請求項12】
研究用試薬、食品添加物、防腐剤、工業用殺菌剤、農業用殺菌剤または医療用抗生物質であることを特徴とする、請求項11記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−99635(P2008−99635A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286432(P2006−286432)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】