説明

新規水酸化酵素、該酵素をコードするDNAおよびその利用

【課題】 新規な基質特異性を有する水酸化酵素を提供すること。特に、化学合成法あるいは既知の水酸化酵素を用いる生化学的方法では製造が困難である水酸化された化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 放線菌から水酸化酵素の遺伝子をコードするDNAを単離し、該DNAを含む組換えベクターで形質転換された微生物の形質転換体を得る。この形質転換体は新規な基質特異性を有する水酸化酵素を生産する。さらに、この形質転換体の培養物から水酸化された化合物を採取することにより、水酸化された化合物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規水酸化酵素、該酵素をコードするDNAおよびその利用に関する。本発明はまた、この水酸化酵素をコードする遺伝子を含有する形質転換体から、新規な水酸化された化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用する水酸化反応については、広範な研究が行われており、芳香族化合物の位置特異的水酸化反応についても多数の報告がある(例えば、非特許文献1)。しかし、水酸化酵素の種類によって反応特異性が異なるため、所望の位置に水酸基が導入された芳香族化合物を製造することは困難な場合が多い。例えば、トリプトファンの直接水酸化に関して、トリプトファンの5位を水酸化する酵素については知られている(非特許文献2)が、これまでのところ、その他の位置、例えば、4位、6位、または7位を直接水酸化する酵素は知られていない。
【0003】
微生物を活用する物質変換プロセスは、基質特異性や反応特異性(例えば、位置特異性や立体構造特異性)があること、温和な条件(常温常圧)で反応可能であること、有害な副産物が生成しにくいことなどの特徴を有している。そのため、これまでに知られている水酸化酵素とは異なる基質特異性を有する新規な水酸化酵素があれば、種々の立体選択的な水酸化反応が可能となり、医薬品の製造などへの有用性が高い。
【0004】
例えば、ストレプトバーティシリウム属に属する微生物の培養物中から得られた化合物は、トリプトファンの縮合体からなる骨格を有し、この骨格に2つの水酸基が存在している化合物であり、抗腫瘍作用を有することが知られている(特許文献1)。一方、インドロカルバゾール系抗生物質であるスタウロスポリンは、上記化合物と同様にトリプトファンの縮合体を骨格として有するが、この骨格には水酸基はない(非特許文献3)。そこで、スタウロスポリンの芳香環の任意の位置に水酸基が導入されれば、抗菌作用だけでなく、抗腫瘍作用も有するようになると期待される。
【特許文献1】特許第3010675号公報
【非特許文献1】ディー.ティー.ギブソン(D.T.Gibsons)ら,「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.Bacteriol.)」,1995年,177巻,2615−2621頁
【非特許文献2】ジェイ.ピー.チッパー(J.P.Tipper)ら,「アーカイブス・オブ・バイオケミストリー・バイオフィジオロジー(Arch.Biochem.Biophys.)」,1994年,15巻,445−453頁
【非特許文献3】尾仲宏康(Hiroyasu Onaka)ら,「ザ・ジャーナル・オブ・アンチバイオティクス(J.Antibiotics)」,2002年,55巻,1063−1071頁
【非特許文献4】尾仲宏康(Hiroyasu Onaka)ら,「ザ・ジャーナル・オブ・アンチバイオティクス(J.Antibiotics)」,2003年,56巻,950−956頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な基質特異性を有する水酸化酵素を提供することを目的とする。より詳細には、微生物を用いて、水酸化された化合物、特に、化学合成法あるいは既知の水酸化酵素を用いる生化学的方法では製造が困難である水酸化された化合物を製造する方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、新規な水酸化酵素の遺伝子を取得し、これを適切なベクターを用いて微生物に導入し、菌体内にこの遺伝子を保持する形質転換体を得ることができれば、微生物の触媒能力を従来の方法に比して飛躍的に増大させることが可能となると考えた。これについて鋭意検討した結果、放線菌から新規水酸化酵素をコードするDNA断片を単離することに成功し、このDNA断片を含む組換えベクターを用いて微生物を形質転換し、得られた形質転換体を培養することにより、新規な水酸化された化合物が生産されることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、配列表の配列番号2の1位から521位までのアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含む、水酸化酵素を提供する。
【0008】
本発明はまた、配列表の配列番号2の1位から521位までのアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含む水酸化酵素をコードする、DNAを提供する。
【0009】
あるいは、本発明は、配列表の配列番号1の1位から1563位までの塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを提供し、該DNAによってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、水酸化反応を触媒する活性を有する。
【0010】
本発明はさらに、上記のいずれかのDNAを含む組換えベクターを提供する。
【0011】
本発明はまた、上記の組換えベクターを含有する形質転換体を提供する。
【0012】
1つの実施態様では、上記形質転換体は、以下の式:
【0013】
【化1】

【0014】
で表される化合物(I)の生産能を有する微生物である。
【0015】
本発明はさらに、上記の形質転換体を培養する工程、および得られた培養物から水酸化酵素を採取する工程を含む、水酸化酵素の製造方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、以下の式:
【0017】
【化2】

【0018】
で表される化合物(II)を提供する。
【0019】
本発明はさらに、上記の形質転換体を培養する工程、および得られた培養物から以下の式:
【0020】
【化3】

【0021】
で表される化合物(II)を回収する工程を含む、化合物(II)の製造方法を提供する。
【0022】
1つの実施態様では、上記形質転換体は放線菌に属する微生物である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水酸化酵素は、インドロカルバゾール系抗生物質のインドール環において、これまで水酸基が導入されていない部位に水酸基を導入できる。したがって、本発明の水酸化酵素を用いることにより、種々の新規なインドロカルバゾール系抗生物質を製造することができる。さらに、インドール環を有する種々の化合物についても、従来は水酸基が導入されにくかった部位に水酸基を導入できる可能性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(1)水酸化酵素
本発明の水酸化酵素は、521個のアミノ酸からなるポリペプチドを含み、このポリペプチドは配列表の配列番号2の1位から521位までのアミノ酸配列からなる。あるいは、本発明の水酸化酵素は、このアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有し、かつ水酸化酵素活性を有するポリペプチドも包含する。
【0025】
本発明の水酸化酵素は、芳香族化合物の芳香環を水酸化する活性を有している。この活性は、例えば、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)pTYMCsta7株(非特許文献4を参照のこと)を用いて確認され得る。pTYMCsta7株は、スタウロスポリン生合成遺伝子クラスターの一部が導入された株であり、スタウロスポリンのアグリコンである以下の式:
【0026】
【化4】

【0027】
で表される化合物(I)を生産する。以下で詳述するように、この微生物に本発明の水酸化酵素をコードするDNAを含有するベクターを導入することによって得られる形質転換株は、上記化合物(I)のインドール環の6位が置換された以下の式:
【0028】
【化5】

【0029】
で表される化合物(II)を生産する。一方、非形質転換株は、化合物(II)を生産せず、化合物(I)のみを生産する。したがって、本発明の水酸化酵素が、インドール環の6位に相当する位置に水酸基を導入し得る新規な水酸化酵素であることが確認できる。
【0030】
(2)水酸化酵素をコードするDNA
本発明の水酸化酵素をコードするDNAは、1つの実施態様において、配列番号2の1位から521位までのアミノ酸配列をコードしている。具体的な例としては、配列番号1の1位から1563位までの塩基配列である。また、本発明の水酸化酵素をコードするDNAは、配列番号2のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有し、かつ水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列も包含する。
【0031】
本発明の水酸化酵素をコードするDNA(遺伝子)は、例えば、放線菌からクローニングすることにより得られ得る。この水酸化酵素の遺伝子は、ストレプトバーティシリウム属に属する放線菌、例えば、ストレプトバーティシリウム・エスピー(Streptoverticillium sp.)BA13793株から得ることができる。ストレプトバーティシリウム・エスピーBA13793株は、インドロカルバゾール系の化合物であって、インドール環の7位に水酸基を有する新規な抗生物質を生産し得る株である。一般に、インドロカルバゾール系抗生物質は、トリプトファンの縮合によって生産されると考えられるため、この株はトリプトファンを構成するインドール環の7位に相当する位置に水酸基を導入し得る水酸化酵素を有すると考えられる。
【0032】
ところで、インドロカルバゾール系抗生物質であるスタウロスポリンの生合成経路については、既に報告がある(非特許文献3)。スタウロスポリン生産株を始めとするインドロカルバゾール系抗生物質生産株は、インドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターを有し、このクラスター内には、トリプトファン縮合酵素遺伝子、L−アミノ酸オキシダーゼ遺伝子などが含まれている。さらに非特許文献3には、レベッカマイシン生産株のトリプトファン縮合酵素とビオラセイン生産株のトリプトファン縮合酵素とは、およそ37%のアミノ酸相同性があることが記載され、保存領域と考えられる領域の配列が特定されている。そこで、このトリプトファン縮合酵素の保存領域配列の一部をプローブとして用いてストレプトバーティシリウム・エスピーBA13793株の水酸化酵素の遺伝子を取得する場合を例に挙げて、水酸化酵素の遺伝子の取得方法を説明する。
【0033】
まず、水酸化酵素の遺伝子の検索に際して、トリプトファンの芳香族環の水酸化に関与する水酸化酵素遺伝子が、インドロカルバゾール生合成遺伝子クラスター内あるいはその近傍に存在すると仮定した。検索方法は以下のとおりである。
【0034】
ストレプトバーティシリウム・エスピーBA13793株から染色体DNAを取り出し、適切な制限酵素(例えば、Sau3AI)で部分加水分解し、適切な長さのDNA断片(例えば、20kb以上のDNA断片)を得る。このDNA断片を、適切なベクター、例えば、pTOYAMAcos(非特許文献4)、コスミドpWE−15(Stratagene社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、pBR322(タカラバイオ社製)、pBluescriptII(東洋紡社製)などに組込み、大腸菌(E.coli)などの適切な宿主において、染色体DNAライブラリーを調製する。
【0035】
他方、レベッカマイシンの生合成に関与するトリプトファン縮合酵素遺伝子(rebD)の保存領域の部分配列に基づいて、1対のプライマー:rebBN1(配列番号3)およびrebBC1(配列番号4)を設計する。次いで、このプライマー対を用い、ストレプトバーティシリウム・エスピーBA13793株から得られた染色体DNAを鋳型として用いてPCRを行い、トリプトファン縮合酵素遺伝子の部分配列(配列番号5)を取得する。具体的には、rebBN1(配列番号3)およびrebBC1(配列番号4)は、それぞれ、EcoRI切断配列およびHindIII切断配列を含んでいる。PCRによって増幅したDNA断片を制限酵素EcoRI−HindIIIにより完全分解し、これをpBluescriptIISK(−)(東洋紡製)のEcoRI−HindIII切断部位に挿入し、大腸菌に形質転換してアンピシリン耐性のコロニーを選択することにより、トリプトファン縮合酵素遺伝子の部分配列(配列番号5)が回収される。
【0036】
次いで、得られた部分配列(配列番号5)をプローブとして、上記調製した染色体DNAライブラリーを用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、このプローブとハイブリダイズするクローンを選択する。選択されたクローンの配列を決定し、挿入されたDNAの両端にインドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターの配列の一部を有するクローンを除外する。これは、両端にインドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターの配列の一部があれば、インドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターの一部しか得られなかったこととなり、インドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターの全部あるいはその近傍部分が取得されていない可能性があるからである。したがって、両端にインドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターの配列の一部を有しないクローンを選択し、このクローンを必要に応じて断片化し、配列を同定して、既知のインドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターと照合することによって、未知の遺伝子を取得する。この未知の遺伝子を上記のようにストレプトマイセス・リビダンスpTYMCsta7株に導入し、化合物(I)の水酸化物(例えば、上記化合物(II))が得られることを確認することによって、水酸化酵素をコードする遺伝子が取得される。あるいは、両端にインドロカルバゾール生合成遺伝子クラスターの配列の一部を有しないクローンを選択し、このクローンから回収した遺伝子をストレプトマイセス・リビダンスpTYMCsta7株に導入する。次いで、水酸化酵素が含まれることを確認した後、このクローンを必要に応じて断片化し、配列を同定することにより、水酸化酵素をコードする遺伝子が取得される。
【0037】
上記の微生物が入手できないときは、本明細書に開示した配列番号2のアミノ酸配列または配列番号1の塩基配列に基づいて、水酸化酵素遺伝子を合成することもできる。また、配列番号1の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプローブとするハイブリダイゼーションによって、または配列番号1の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチド(例えば、TON1(配列番号6)およびTOC1(配列番号7))をプライマー対とするPCRを行うことによって、放線菌染色体DNAライブラリーから単離することもできる。この場合、TON1(配列番号6)およびTOC1(配列番号7)の各プライマーは、それぞれ、制限酵素NdeIおよびHindIIIの切断配列を有しているので、PCR産物をNdeI−HindIIIで切断することにより、所望のDNAを容易に回収できる。
【0038】
本発明の水酸化酵素遺伝子は、もう1つの実施態様において、配列番号1の1位から1563位までの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAとして取得され得る。ここで、ストリンジェントな条件とは、配列番号1の1位から1563位までの塩基配列と、BLAST法により算出した相同性が80%以上、あるいは90%以上であるDNAとが特異的にハイブリダイズする条件である。ストリンジェントな条件として、より具体的には、42℃において、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS溶液中でハイブリダイゼーションを行い、次いで、42℃において、2×SSC、0.1%SDSで洗浄を行う条件が挙げられる。
【0039】
上記のように、本発明の水酸化酵素をコードするDNAはまた、配列番号2の1位から521位までのアミノ酸配列をコードするDNAのみならず、このアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有し、かつ水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAも含む。アミノ酸残基の付加、欠失または置換には、アミノ酸の挿入、逆位なども含む。アミノ酸配列の付加、欠失または置換は、当業者が通常用いる手段、例えば、部位特異的突然変異;UV照射;NTGなどの突然変異誘発剤による処理などを用いて行われ得る。変異処理後のDNAによってコードされるポリペプチドの活性は、このDNAを導入した微生物の水酸化活性を測定することによって、確認される。例えば、対応する遺伝子を欠損するかまたは対応する酵素活性が低い微生物に、変異処理を行った水酸化酵素遺伝子を導入した場合に、活性が回復すること;変異処理を行ったDNAを上記ストレプトマイセス・リビダンスpTYMCsta7株に導入し、化合物(I)の水酸化物(例えば、上記化合物(II))が得られること;あるいは、水酸化反応(例えば、トリス緩衝液中に、FAD、NAD(P)H、DTTなどを加え、そこに水酸化させるべき基質を添加して行われる反応)に伴って消費されるNAD(P)Hの吸光度変化が生じること;によって確認することができる。
【0040】
(3)水酸化酵素の遺伝子を有する組換えベクター
本発明の水酸化酵素の遺伝子は、当業者に周知の手法を用いて適切な発現ベクターに組込まれて、組換えベクターとして調製される。遺伝子は、通常、発現ベクターのプロモーターの下流に導入される。使用する発現ベクターは、所望の宿主微生物内で複製増殖あるいは染色体への組込みが可能であれば、特に制限されない。さらに、エンハンサーなどの、転写活性を高める配列を有するように構成してもよい。また、微生物の体外に分泌されるように、分泌シグナルを水酸化酵素遺伝子のN末端側に付けてもよい。
【0041】
発現ベクターは、用いる宿主、例えば、細菌、放線菌、酵母、糸状菌、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞などに応じて、当業者が適宜選択することができる。あるいは既知の発現ベクターを当業者が通常行う改変を加えて調製し、使用し得る。
【0042】
発現ベクターの例としては、pBR322、pUC18、pHSG298、pUC118、pSTV28、pTWV228、あるいはpHY300PLK(いずれもタカラバイオ社製)、pKK223−3、pPL−ラムダインデューシブルエクスプレッションベクター(いずれも、ファルマシア社製)、pET(ノバジェン社製)、pBluescriptII(東洋紡製)、pWH1520(モビテック社製)、pIJ702(ストレプトマイセス・リビダンス3131株(ATCC35287株)に由来する)などが挙げられる。
【0043】
枯草菌のベクターとしては、例えば、pUB110、大腸菌−放線菌型細菌のシャトルベクターとしては、例えば、pTOYAMAcos、pTYM18、pTYM19(非特許文献4)など、あるいはこれらの誘導体などが挙げられる。
【0044】
また、ファージベクターとしてはλFixIIベクター(Stratagene社製)などが挙げられる。
【0045】
本発明の水酸化酵素の発現に用いられるプロモーターは、宿主微生物に由来するか、宿主微生物で作動するものであれば、特に制限はなく、当業者が通常使用するプロモーターが使用される。
【0046】
(4)形質転換体
上記調製された組換えベクターを適切な宿主微生物に導入することにより形質転換体が得られる。この形質転換体で水酸化酵素が発現する。
【0047】
宿主微生物としては、特に限定されるものではなく、細菌、放線菌、酵母、糸状菌、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞などが挙げられる。
【0048】
上記宿主微生物への遺伝子の導入法としては、通常、当業者が用いる方法が適用される。例えば、コンピテントセル法(J. Molecular Biology, 53, p159 (1970))、パルス波通電法(J. Indust. Microbiol., 5, p159 (1990))、ファージを用いた形質導入法(Genetics, 64, p189 (1970))、接合伝達法(Ann. Rev. Microbiol., 29, p80 (1975))、細胞融合法(J. Bacteriol., 137, p1346 (1979))、プロトプラスト形質導入法(Practical Streptomyces Genetics, p156, 2004年, D.A. Hopwood編者, The John Innes Foundation)などが挙げられる。
【0049】
さらに、プロモーターに連結した水酸化酵素遺伝子を含むDNA断片を宿主微生物の染色体中に直接導入する相同組換え技術(Biosci. Biotechnol. Biochem., 57, p2036 (1993))、あるいはトランスポゾンや挿入配列などを用いて導入する技術(Molecular Microbiol., 11, p739 (1994))によって、遺伝子を導入することができる。
【0050】
このように、本発明の水酸化酵素を有する形質転換体は、上記方法から、宿主微生物に適した方法を適宜選択し、水酸化酵素を発現可能に導入することによって得られ得る。
【0051】
(5)水酸化酵素の調製
本発明の水酸化酵素は、上記のようにして得られる形質転換体を用いて、当業者が通常行う方法で調整される。形質転換体が水酸化酵素を分泌する場合、宿主微生物に適した培地を用いて培養し、培養液を集める。形質転換体が菌体内に水酸化酵素を蓄積する場合、培養菌体を集めて、機械的な摩砕、超音波処理、圧搾などの手段で破砕し、水酸化酵素を含有する破砕液を得る。この培養液あるいは破砕液に対して、例えば、濾過、硫安塩析、カラムクロマトグラフィーなどの処理を行って、粗精製または精製して、単離された水酸化酵素を製造することができる。
【0052】
粗精製または精製された(単離された)水酸化酵素は、適切な担体に固定化することができる。したがって、本発明の水酸化酵素には固定化酵素も含まれる。固定化の方法に特に制限はなく、当業者が通常用いる方法が用いられる。さらに、水酸化酵素には、固定化された形質転換体が水酸化酵素活性を発揮する限り、固定化形質転換体も含まれる。固定化形質転換体は、例えば、アクリルアミドモノマー、アルギン酸、またはカラギーナンなどの適当な担体に形質転換体を固定化させることにより得られる。
【0053】
形質転換体の培養には、通常、宿主微生物に適した培地および培養条件が適用される。培養は、通常、通気撹拌、振とうなどの好気条件下で行う。培養温度は、宿主微生物の生育し得る温度であれば特に制限はない。培地のpHも、宿主微生物が生育し得るpHであれば特に制限はない。
【0054】
(6)水酸化された化合物の製造方法
水酸化された化合物の製造方法には、水酸化すべき化合物(前駆体)を生産する能力を有する微生物に水酸化酵素を導入した形質転換体を用いる。例えば、ストレプトマイセス・リビダンスpTYMCsta7株にクローニングされているスタウロスポリン生合成遺伝子クラスターの一部の遺伝子と、本発明の水酸化酵素の遺伝子とを同時に宿主微生物にクローニングする。この2つの遺伝子をクローニングされた微生物は、スタウロスポリンのアグリコンである以下の式:
【0055】
【化6】

【0056】
で表される化合物(I)を生産し、さらにこの化合物(I)が水酸化された、以下の式:
【0057】
【化7】

【0058】
で表される化合物(II)を生産する。得られた化合物(II)は、適切な溶媒を用いて、当業者が通常使用する抽出方法(溶媒抽出など)、精製方法(HPLC、カラムクロマトグラフィーなど)から適切に選択された方法によって精製される。
【0059】
この方法に用いられる微生物に特に制限はなく、上記と同様に、細菌、放線菌、酵母、糸状菌、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞などが挙げられる。
【0060】
このように本発明の水酸化酵素または形質転換体を用いて製造される水酸化された化合物の前駆体である上記の水酸化すべき化合物は、どのような化合物であってもよい。例えば、トリプトファンを骨格として有する化合物、あるいはトリプトファンの縮合体を骨格として有する化合物(例えば、スタウロスポリンのアグリコン部分)が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0062】
(実施例1)水酸化酵素遺伝子の取得
(1−1)ストレプトバーティシリウム・エスピー(Streptoverticillium sp.)BA13793株の染色体DNAの調製
ストレプトバーティシリウム・エスピーBA13793株を、0.5%のグリシンを加えたトリプティック・ソイ・ブロス培地(ベクトン・ディッキンソン社製)50mL中で30℃にて160rpmで2日間培養した後、遠心分離(3000rpm、10分、4℃)により菌体を回収した。TS緩衝液(10.3%スクロース、50mMトリス緩衝液(pH8.0)、および25mM EDTA・2Na)30mLで菌体を洗浄し、再び遠心分離(3000rpm、10分、4℃)を行って菌体を回収した。次いで、0.5%のリゾチームと0.002%のN−アセチルムラミダーゼとを含有するTS緩衝液10mLを菌体に加え、37℃で60分間静置した。プロトプラスト状になった菌体溶液に、10%SDS水溶液2.4mLおよび2mg/mLのプロテイナーゼKを含有するTS緩衝液0.4mLを加え、ゆっくり撹拌した後、37℃で60分間静置して、さらに50℃、30分間静置した。次いで、5M塩化ナトリウム水溶液2mLと65℃に加温した10%セチルトリメチルアンモニウムブロマイドの0.7M塩化ナトリウム水溶液1.6mLとを加え、ゆっくり撹拌した後、65℃で20分間静置した。次いで、クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(24/1(v/v))20mLを加え、ピペットで撹拌した。遠心分離(12000rpm、10分、4℃)した後、上層を回収し、上層の0.6倍容量のイソプロピルアルコールを加え、生じた沈殿を回収した。沈殿を70%エタノールで洗浄し、真空乾燥した。真空乾燥後、沈殿を、RNase(0.5mg)を加えたTE緩衝液(10mMトリス緩衝液(pH8.0)および1mM EDTA・2Na)(10mL)に溶解し、BA13793株の染色体DNA溶液を調製し、4℃で保存した。
【0063】
(1−2)染色体DNAの部分分解
上記(1−1)で得られた染色体DNA溶液40.4μLに、10×H緩衝液(タカラバイオ社製)4.6μLと0.25ユニットの制限酵素Sau3AIとを加え、37℃で40分間静置した。0.5M EDTA水溶液50μLを加え、0.5%低融点アガロースゲルで電気泳動して、23kb以上の大きさのDNA断片を含むアガロースゲル画分を切り出した。切り出したゲルブロックを蒸留水50mLに入れ、ゆっくりと15分間振とうし、再度同じ操作を繰り返した。ゲルブロックの重量に対し、最終濃度が1×となるように10×β−アガラーゼの緩衝液を加え、融解するまで68℃で静置した。ゲルが融解した後、40℃で10分間静置して、β−アガラーゼをゲル0.5gあたり3ユニット加え、40℃で60分間静置した。次いで、5M塩化ナトリウム水溶液を終濃度0.5Mとなるように加え、氷上で15分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分、4℃)した。得られた上清に、上清の3倍容量のエタノールを加えた。−80℃で10分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分、4℃)し、生じた沈殿に70%エタノールを加え、再度遠心分離(15000rpm、15分、4℃)した。沈殿を真空乾燥した後、蒸留水8μLに溶解した。このDNA溶液に10×アルカリフォスファターゼ緩衝液1μLとアルカリフォスファターゼ1μLとを加え、37℃で60分間静置した。次いで、蒸留水90μLおよびフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(25/24/1(v/v/v))100μLを加え、撹拌した後、遠心分離(15000rpm、10分、25℃)した。上層を回収し、上層の3倍容量のエタノールを加えた。−80℃で10分間静置した後、遠心分離(15000rpm、15分、4℃)し、生じた沈殿に70%エタノールを加え、再度遠心分離(15000rpm、15分、4℃)した。沈殿を真空乾燥した後、蒸留水5μLに溶解し、染色体DNAの部分分解断片を含む水溶液を得た。
【0064】
(1−3)BA13793株染色体DNAのコスミドライブラリーの作製
放線菌−大腸菌シャトルコスミドベクターpTOYAMAcos(富山県立大学工学部より供与された)10μgを制限酵素BamHIで切断し、アガロースゲルで電気泳動し、8.3kbのDNA断片を含むアガロースゲル画分を切り出した。切り出したゲルブロックから、ジンクリーンキット(Qバイオジーン社製)を用いてDNA断片を精製し、蒸留水2.5μLに溶解した。このDNA断片含有溶液に、上記(1−2)で調製したBA13793株の染色体DNAの部分分解断片水溶液5μLを加え、ライゲーションキット(タカラバイオ社製)7.5μLを加え、16℃で17時間静置した。次いで、このライゲーション溶液中のプラスミドを、ギガパックIIIパッケージングエクストラクトキット(Stratagene社製)を用いて、大腸菌に導入した。カルベニシリン(50μg/L)含有LB寒天培地で、30℃で2日間、プラスミドを導入した大腸菌を培養し、生育した形質転換体(大腸菌)から1920コロニーを釣菌して別のカルベニシリン(50μg/L)含有LB寒天培地で30℃にて1日間培養した。
【0065】
(1−4)プローブの作製
オリゴDNAプライマーrebBN1(配列番号3)およびrebBC1(配列番号4)を化学合成した。rebBN1(配列番号3)は、レベッカマイシンの生合成に関与するトリプトファン縮合酵素遺伝子(rebD)のN末端近傍の配列の一部に基づき、rebBC1(配列番号4)は、C末端近傍の配列の一部に基づいて合成した。この2つの配列をプライマーとして、上記(1−1)で調製した染色体DNAを鋳型として、PCRを行った。PCRは、98℃で20秒、60℃で30秒、次いで72℃で1分の処理を1サイクルとし、合計30サイクル行った。PCR溶液をアガロースゲルで電気泳動して、増幅した420bpのDNA断片を含むアガロースゲル画分を切り出した。切り出したゲルブロックから、ジンクリーンキットでDNA断片を精製した。この精製したDNA断片を制限酵素EcoRIおよびHindIIIで切断した。切断したDNA断片溶液に蒸留水を加えて100μLとし、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(25/24/1(v/v/v) )100μLを加えて撹拌した後、遠心分離(15000rpm、10分、25℃)した。上層を回収し、上層の3倍容量のエタノールを加えた。−80℃で10分間静置した後、遠心分離(15000rpm、30分、4℃)し、生じた沈殿に70%エタノールを加えて、再度遠心分離(15000rpm、10分、4℃)した。得られた沈殿を真空乾燥し、PCR産物のDNA断片を得た。
【0066】
一方、pBluescriptIISK(−)3μgも制限酵素EcoRIおよびHindIIIで切断した。切断したDNA断片を含む溶液に蒸留水を加えて100μLとし、上記と同様に処理して真空乾燥し、切断したプラスミドを得た。
【0067】
上記真空乾燥したPCR産物および切断したプラスミドを、それぞれ蒸留水3.5μLに溶解した。この2つの溶液を混合し、さらにライゲーションキット7μLを加え、16℃で17時間静置した。DNAを回収し、ヒートショック法で大腸菌に導入し、アンピシリンを50μg/L含有するLB寒天培地中で30℃にて2日間培養した。生育した形質転換体(大腸菌)を、アンピシリンを50μg/L含有するLB培地5mL中で30℃にて24時間培養し、菌体を遠心分離(15000rpm、1分、25℃)により回収した。回収した菌体からQIAprepMiniキット(キアゲン社製)を用いて、プラスミドを精製した。このプラスミドを、制限酵素EcoRI−HindIIIにより完全分解して、PCR産物を回収した。このPCR産物の遺伝子配列を決定したところ、配列番号5に示す配列を有していた。この配列を水酸化酵素スクリーニングのためのプローブとして用いた。
【0068】
(1−5)コロニーハイブリダイゼーションによるターゲットクローンの特定
上記(1−3)で得た1920コロニーをニトロセルロースメンブレン(アドバンテック社製)上に移し、アンピシリンを50μg/L含有するLB培地5mL中で30℃にて24時間培養した。メンブレン上で生育した形質転換体(大腸菌)を、上記(1−4)で作製したプローブを用いるコロニーハイブリダイゼーションに供した。コロニーハイブリダイゼーションは、DNAランダム標識・検出キット(CDP−Star化学発光)(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いた。オートラジオグラフィーは、ハイパーフィルムTM(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて行い、現像して目視で確認した。その結果、3株についてハイブリダイズしたことが確認され、それぞれ1−2−1株、1−3−26株、および1−4−88株と命名した。そこで、この3株からそれぞれプラスミドを抽出し、それらを鋳型として、オリゴDNAプライマーrebBN1(配列番号3)およびrebBC1(配列番号4)を用いて、上記(1−4)と同じ条件でPCRを行った。その結果、上記(1−4)と同様に、420bpのDNA断片が増幅したことを確認した。
【0069】
(1−6)水酸化酵素遺伝子の取得
1−2−1株、1−3−26株、および1−4−88株を、それぞれアンピシリンを50μg/L含有するLB培地100mL中で30℃にて24時間培養し、菌体を遠心分離(3000rpm、30分、4℃)して回収した。回収した菌体からHiSpeed PlasmidMidiキット(キアゲン社製)を用いて、プラスミドを精製し、クローニングされたDNA断片の両端の配列を確認した。その結果、1−2−1株および1−3−26株由来のプラスミドから得られたDNA断片の両端には、それぞれ既知のインドロカルバゾール系化合物の生合成遺伝子クラスターに含まれる、L−アミノ酸オキダーゼ遺伝子およびトリプトファンの縮合酵素遺伝子と相同性の高いDNA配列が確認された。これらは、それぞれBA13793株のインドロカルバゾール系抗生物質の生合成遺伝子クラスターの一部と考えられた。したがって、これらのプラスミドについては、水酸化酵素をコードする遺伝子を含む可能性が低いと判断した。
【0070】
他方、1−4−88株由来のプラスミドにクローニングされたDNA断片の両端には、L−アミノ酸オキダーゼ遺伝子およびトリプトファンの縮合酵素遺伝子と相同性の高いDNA配列は確認されなかった。このDNA断片の内部にはトリプトファンの縮合酵素遺伝子と相同性の高いDNA配列があることがハイブリダイゼーションで確認されているので、1−4−88株に由来するDNA断片には、大きなインドロカルバゾール系抗生物質の生合成遺伝子クラスターが含まれていると考えられた。ターゲットとなる水酸化酵素遺伝子は、このクラスター内に含まれている可能性が高いため、この1−4−88株由来のDNA断片のサブクローニングを行い、DNA配列を解析した。
【0071】
まず、1−4−88株由来のプラスミド5μgをBamHIで切断してアガロースゲル電気泳動にかけたところ、図1に示すようないくつかの断片が検出された。各BamHI切断断片を含むアガロースゲル画分を切り出し、各ゲルブロックから、ジンクリーンキットで各DNA断片を精製した。一方、pBluescriptIISK(−)3μgも制限酵素BamHIで分解した。1−4−88株由来のプラスミドからの各BamHI切断断片とBamHIで分解したpBluescriptIISK(−)断片とをライゲーションキットによってライゲーションし、ヒートショック法で大腸菌に導入した。アンピシリンを50μg/L含むLB寒天培地で30℃にて2日間培養し、生育した形質転換体(大腸菌)を、さらにアンピシリンを50μg/L含むLB培地(5mL)で30℃にて24時間培養した。菌体を遠心分離(15000rpm、1分、25℃)で回収し、QIAprepMiniキットを用いて、プラスミドを精製し、配列を確認した。その結果、図1に示すアガロースゲル電気泳動写真でB断片として示されるDNA断片中に、インドロカルバゾール系抗生物質の生合成遺伝子クラスターを構成するシトクロムP450遺伝子と相同性の高い配列があること、およびその下流に配列番号1に示す構造遺伝子配列があることを確認した。
【0072】
(実施例2)水酸化酵素の水酸化活性の確認
上記実施例1で得られた配列番号1のDNAが水酸化酵素をコードすることを確認する実験を行った。まず、この遺伝子配列をPCRで増幅した。配列番号1の5’末端のプライマーとしてのTON1(配列番号6)、および3’末端のプライマーとしてTOC1(配列番号7)を化学合成した。PCRは、98℃で20秒、60℃で30秒、ついで72℃で1分の処理を1サイクルとし、合計30サイクル行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動にかけ、約1600bpのDNA断片を含むアガロースゲル画分を切り出した。切り出したゲルブロックから、DNA断片をジンクリーンキットで精製し、制限酵素NdeIおよびHindIIIで分解した。分解したDNA断片溶液に蒸留水を加えて100μLとし、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(25/24/1(v/v/v))100μLを加え、撹拌した後、遠心分離(15000rpm、10分、25℃)した。上層を回収し、上層の3倍容量のエタノールを加えた。−80℃で10分間静置した後、遠心分離(15000rpm、30分、4℃)し、生じた沈殿に70%エタノールを加え、再度遠心分離(15000rpm、10分、4℃)し、得られた沈殿を真空乾燥して、PCR産物のDNA断片を得た。
【0073】
一方、ベクターとして、図2に示すpTYM1epベクター(富山県立大学工学部より供与された)を用いた。このベクターは、大腸菌プラスミドベクターpK18mob(非特許文献4)をベースに放線菌ファージTG1由来integration遺伝子およびエリスロマイシン耐性遺伝子のプロモーター(アームEプロモーター)を組み込んだものである。このpTYM1epベクター3μgを、制限酵素NdeIおよびHindIIIで切断し、切断したDNA断片溶液に蒸留水を加えて100μLとし、上記と同様に処理して真空乾燥し、切断したベクターを得た。
【0074】
真空乾燥したPCR産物のDNA断片および切断したベクターを、それぞれ蒸留水3.5μLに溶解した後、混合した。この混合液に、さらにライゲーションキット7μLを加え、16℃で17時間静置した。DNAを回収し、ヒートショック法で接合性大腸菌S17−1株に挿入し、カナマイシンを50μg/L含有するLB寒天培地で30℃にて2日間培養し、形質転換株(接合性大腸菌)を得た。
【0075】
次に、この形質転換された接合性大腸菌を用いる接合法により、形質転換体中のプラスミドを、ストレプトマイセス・リビダンスpTYMCsta7株(非特許文献3)に導入した。このpTYMCsta7株は、スタウロスポリン生合成遺伝子の一部が組み込まれており、スタウロスポリンのアグリコン(上記化合物(I))を生産し得る。まず、形質転換された接合性大腸菌を、カナマイシンを50μg/mL含有するLB培地5mL中で、吸光度660nmが0.6になるまで30℃にて培養した。この培養液2mLを、滅菌済みのエッペンドルフチューブに移し、遠心分離(3000rpm、5分、4℃)した。上清をデカンテーションした後、LB培地1mLを加えて激しく撹拌し、菌体を洗浄した。この操作を3回繰り返し、最後にLB培地0.5mLを加えて菌体を懸濁した。別に用意した滅菌済みのエッペンドルフチューブにpTYMCsta7株の胞子懸濁液1μLと形質転換された接合性大腸菌の懸濁液0.1mLとを入れ、よく混合し、放線菌培地「ダイゴ」No.4(日本製薬社製)で培養した。30℃で18時間培養した後、チオストレプトン(167μg/mL)およびナリジキシン酸Na(67μg/mL)を含有するニュートリエント・ブロス(ベクトン・ディッキンソン社製)寒天培地(寒天0.5%)3mLを重層し、さらに3日間培養を継続した。生育したコロニーをStreptomyces lividans pTYMCsta7+TO株と命名した。
【0076】
得られたpTYMCsta7+TO株を、魚粉培地(グルコース0.1%、デキストリン2.0%、大豆ポリペプトン1.0%、カツオ肉エキス0.5%、酵母エキス0.1%、塩化ナトリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.05%、塩化カルシウム0.05%、硫酸第一鉄0.0002%、塩化第二銅0.00004%、塩化マンガン0.00004%、塩化コバルト0.00004%、塩化亜鉛0.00008%、ホウ酸ナトリウム0.00008%、モリブデン酸アンモニウム0.00024%、および3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸0.5%)1.4Lに植菌し、30℃で7日間、160rpmで振とう培養した。遠心分離(8000rpm、30分、4℃)を行って菌体を回収した。蒸留水で菌体を洗浄し、再び遠心分離(8000rpm、30分、4℃)で菌体を回収した後、メタノール200mLで2日間抽出した。このメタノール溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、酢酸エチルに分配し、上層を分取した。上層を乾燥し、エバポレーターで減圧濃縮し、シリカゲル60(ナカライテスク社製)のカラムに供した。溶出液は、ヘキサン100%から開始し、酢酸エチル濃度を10%ずつ上昇させながら、最終的には酢酸エチルが100%となるように段階的にグラジエントをかけた。100%酢酸エチル溶出画分を減圧濃縮し、水酸化された化合物2mgを得た。このようにして精製された化合物の分子量をマススペクトル法により測定し、分子量が326であり、化合物(II)と同じであることを確認した(図3)。さらにH−および13C−NMR(いずれもDMSO−d中)によりその構造を決定した。図4は、化合物(II)のH−NMRスペクトル(400MHz)を示し、そして図5は、化合物(II)の13C−NMRスペクトル(100MHz)を示す。その結果、以下の構造:
【0077】
【化8】

【0078】
を有する化合物(II)であることを確認した。なお、比較として、形質転換していないpTYMCsta7株を同様に培養したところ、水酸基が導入されていない化合物(I)が得られた(化合物(I)の同定データは示さず)。以上のことから、配列番号1の遺伝子が、水酸化酵素をコードしていることが明らかとなった。さらに、この水酸化酵素をコードする遺伝子を導入することにより、新規な水酸化された化合物が生産され得ることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の水酸化酵素は、インドロカルバゾール系抗生物質のインドール環の、従来水酸基が導入されたことがない部位に水酸基を導入できる。したがって、種々の新規なインドロカルバゾール系抗生物質の製造に有用である。また、インドール環を有する種々の化合物の、従来水酸基が導入されにくかった部位に水酸基を導入し得る可能性が高い。そのため、種々の新規な化合物、特に医薬品などの製造に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】1−4−88株由来のプラスミドのBamHI切断物のアガロースゲル電気泳動の写真である。
【図2】放線菌の形質転換に用いたプラスミドpTYM1epの構造を示す模式図である。
【図3】本発明の方法により製造された化合物(II)のマススペクトル図である。
【図4】本発明の方法により製造された化合物(II)のH−NMRスペクトル図である。
【図5】本発明の方法により製造された化合物(II)の13C−NMRスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号2の1位から521位までのアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含む、水酸化酵素。
【請求項2】
配列表の配列番号2の1位から521位までのアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含む水酸化酵素をコードする、DNA。
【請求項3】
配列表の配列番号1の1位から1563位までの塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、該DNAによってコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドが、水酸化反応を触媒する活性を有する、DNA。
【請求項4】
請求項2または3に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
【請求項6】
前記形質転換体が、以下の式:
【化1】

で表される化合物(I)の生産能を有する微生物である、請求項5に記載の形質転換体。
【請求項7】
請求項5または6に記載の形質転換体を培養する工程、および得られた培養物から水酸化酵素を採取する工程を含む、水酸化酵素の製造方法。
【請求項8】
以下の式:
【化2】

で表される化合物(II)。
【請求項9】
請求項6に記載の形質転換体を培養する工程、および得られた培養物から以下の式:
【化3】

で表される化合物(II)を回収する工程を含む、化合物(II)の製造方法。
【請求項10】
前記形質転換体が放線菌に属する微生物である、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−141294(P2006−141294A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336306(P2004−336306)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】