説明

方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】実機トランスに組上げた場合に、優れた低騒音性を発現する電子ビーム照射による磁区細分化処理を行った方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板の歪導入側のフォルステライト被膜の膜厚Waと歪非導入側のフォルステライト被膜の膜厚Wbの比(Wa/Wb)が0.5以上で、かつ歪導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅が150〜300μm、歪非導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅が250〜500μmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器などの鉄心材料として好適な方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心として利用され、その磁化特性が優れていること、特に鉄損が低いことが求められている。
そのためには、鋼板中の二次再結晶粒を(110)[001]方位(いわゆる、ゴス方位)に高度に揃えることや製品鋼板中の不純物を低減することが重要である。さらに、結晶方位の制御や、不純物を低減することは、製造コストとの兼ね合い等で限界がある。そこで、鋼板の表面に対して物理的な手法で不均一性を導入し、磁区の幅を細分化して鉄損を低減する技術、すなわち磁区細分化技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、最終製品板にレーザーを照射し、鋼板表層に高転位密度領域を導入し、磁区幅を狭くすることで、鋼板の鉄損を低減する技術が提案されている。特許文献2には、電子ビームの照射により磁区幅を制御する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57-2252号公報
【特許文献2】特公平06-072266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した磁区細分化処理を施した種々の方向性電磁鋼板を実機トランスに組上げた場合に、実機トランスの騒音が大きくなるという問題が残っていた。
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、実機トランスに組上げた場合に、優れた低騒音性および低鉄損特性を得ることができる方向性電磁鋼板を、その有利な製造方法と共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、実機トランスに磁区細分化処理済みの方向性電磁鋼板を使用したときに発生する騒音増加の原因調査を行った。その結果、トランス騒音の増加は、磁区細分化するために熱歪を導入した場合に、歪導入部におけるフォルステライト被膜(MgSiOを主体とする被膜)の厚みが減少することが原因であることが分かった。そして、この点については、鋼板の歪導入側のフォルステライト被膜の膜厚Waと歪非導入側のフォルステライト被膜の膜厚Wbの比を、適正に調整してやれば、騒音劣化の防止が可能であることが判明した。
また、磁区細分化処理による鉄損低減効果が最大限得られる条件を調査した結果、歪導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅、および歪非導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅をそれぞれ適正範囲に調整する必要があることが判明した。ここで歪導入側とは電子ビームを照射した側を指し、歪非導入側は電子ビームの照射を施さなかった側を指す。
本発明は、上記した知見に基づき開発されたものである。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.表面にフォルステライト被膜をそなえ、電子ビームにより歪導入を施した、磁束密度B8が1.92T以上の方向性電磁鋼板であって、該鋼板の歪導入側のフォルステライト被膜の膜厚Waと歪非導入側のフォルステライト被膜の膜厚Wbの比(Wa/Wb)が0.5以上で、かつ歪導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅が150〜300μm、歪非導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅が250〜500μmである方向性電磁鋼板。
【0009】
2.方向性電磁鋼板用スラブを圧延して最終板厚に仕上げたのち、脱炭焼鈍を施し、ついで鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を行った後、張力コーティングを施し、該仕上げ焼鈍後または該張力コーティング後に、電子ビーム照射による磁区細分化処理を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
(1) 電子ビーム照射時の真空度を0.1〜5Paとする、
(2) 平坦化焼鈍時における鋼板への付与張力を5〜15MPaに制御する
方向性電磁鋼板の製造方法。
【0010】
3.方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延し、ついで必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して、最終板厚に仕上げる前記2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子ビームを用いた磁区細分化による鉄損低減効果が、実機トランスにおいても効果的に維持される方向性電磁鋼板を得ることができるため、実機トランスにおいて、低鉄損性を維持しつつ優れた低騒音性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フォルステライト被膜厚みの測定用断面を示す図である。
【図2】鋼板の磁区観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明において、歪み付与を施し、磁区細分化処理済みの方向性電磁鋼板を用いた実機トランスの騒音の増加を抑制するためのポイントは、以下の3つのポイントを全て満足することである。
【0014】
(歪導入側のフォルステライト被膜厚みの制御)
第1のポイントは、歪を導入した部分のフォルステライト被膜の厚みの制御であり、フォルステライト被膜の厚みの制御が重要な理由は次のとおりである。
鋼板表面のフォルステライト被膜は、鋼板に張力を付与している。このフォルステライト被膜の厚みが変動すると、鋼板の張力分布が不均一になる。張力分布の不均一が生じると、騒音の原因となる鋼板の磁歪振動波形の歪みが発生し、結果的に高調波成分が重畳して騒音の増加を招くこととなる。従って、この騒音増加を抑制するには、熱歪み導入時に発生するフォルステライト被膜の厚みの減少を抑えることが重要である。すなわち、歪導入側のフォルステライト被膜の膜厚Waと歪非導入側のフォルステライト被膜の膜厚Wbの比(Wa/Wb)を0.5以上とする必要がある。好ましくは、0.7以上である。
なお、通常、歪導入前の鋼板両面のフォルステライト被膜の厚みは同程度となる。従ってWa/Wbの最大値は約1である。
【0015】
図1は、フォルステライト被膜を有する鋼板断面の模式図である。フォルステライト被膜の厚みは、短周期的に見ると不均一で凹凸が大きいが、十分な測定距離をとることによってその平均値から厚みを決定することができる。具体的には、鋼板断面について、熱歪導入側と非導入側におけるフォルステライト被膜をSEM観察し、画像解析にてフォルステライト被膜の面積を求め、当該面積を測定距離で除することで、熱歪導入側と非導入側のフォルステライト被膜の平均厚みを求める。なお、この時の測定距離は、熱歪導入側と非導入側共、合計で少なくとも1mmとし、100mm程度とするのが好ましい。
【0016】
上記比(Wa/Wb)を満足させるためには、前述したように、熱歪み付与を施した部分のフォルステライト被膜の厚みの減少を抑えることが重要であり、その抑制手段を以下に述べる。
まず大事なことは、良好なフォルステライト被膜を形成することである。ここに、良好なフォルステライト被膜とは、被膜中に、割れなどに起因した空隙が少なくて、緻密度の高いフォルステライト被膜のことをいう。また、フォルステライト被膜に割れなどのダメージを与える因子で最も影響が大きいのは、平坦化焼鈍中の鋼板に付与される張力であり、この張力が強いとフォルステライト被膜がダメージを受けて、割れなどが生じてしまう。従って、鋼板温度が高く、張力感受性が高くなる焼鈍炉内では、張力を15MPa(1.5kgf/mm2)以下に制御する必要がある。
【0017】
一方、本発明では、上記した張力を5MPa(0.5kgf/mm2)以上とする必要がある。というのは、5MPa未満の場合、鋼板の形状矯正が不十分となるからである。また、電子ビーム照射時の真空度を制御することが必要である。一般的に、電子ビーム照射時には真空度が高い方が良いとされている。しかしながら、発明者らは、フォルステライト被膜の減少を抑えるために、電子ビーム照射中は適度に酸素を残存させることが有効であるとの知見を得た。この理由は明らかではないが、熱歪み導入時の残存酸素によって鋼板が酸化することが、フォルステライト被膜の膜厚維持に何らかの影響を与えているのではないかと考えている。ここに、フォルステライト被膜の膜厚の減少を抑えるためには、真空度を0.1〜5Paの範囲にする必要がある。真空度が0.1Paより高いとフォルステライト被膜の減少が抑制できない。一方、5Paより低いと鋼板への熱歪み付与が有効に行われない。より好ましくは0.5〜3Paの範囲である。
【0018】
(歪導入側の鋼板面および歪非導入側の鋼板面における磁区不連続部の制御)
第2のポイントは、歪導入側の鋼板面および歪非導入側の鋼板面における磁区不連続部の制御である。
前記のフォルステライト被膜の厚みの制御により、騒音増加はある程度抑制できるが、実機トランスはさらに低騒音かつ低鉄損であることが要求される。
すなわち、トランス鉄損を低くするためには、素材の鉄損低減も大切である。すなわち、素材における磁区細分化効果を十分得るためには、
(i)歪導入側の鋼板面および歪非導入側の鋼板面にも磁区不連続部が生じるまで歪みを導入すること、
(ii)歪み導入は、履歴損の劣化を招くので、磁区不連続部の幅はできる限り狭くすること
が重要である。
【0019】
上記の(i)および(ii)の各項を満たす具体的な条件は、歪導入側の鋼板面の磁区不連続部の平均幅を150〜300μmとし、歪非導入側の鋼板面の磁区不連続部の平均幅を250〜500μmとすることである。すなわち、本発明は、歪非導入側の鋼板面の磁区不連続部の平均幅を規定することで上記(i)を満たし、またそれぞれの平均幅の上限値を設定することで上記(ii)を満たしている。さらに、それぞれの平均幅の下限値を設定したのはこれよりも幅が狭いと磁区細分化効果が得られないためである。
なお、前記した第1のポイントである平坦化焼鈍時の最大張力および電子ビーム照射時の真空度を満足していない場合には、フォルステライト被膜の厚みを減少させずに、上記の熱影響幅を満足させるのは極めて困難である。
【0020】
ここに、本発明で重要なのは、磁区不連続部の平均幅であり、平均照射幅ではないことに注意をする必要がある。すなわち、熱が鋼板に導入された場合、熱は板厚方向や板幅方向などあらゆる方向に広がるので、このような熱影響が及ぶ磁区不連続部は、通常、照射幅よりも広くなる傾向にあるからである。また、同じ理由により、歪導入側の磁区不連続部よりも歪非導入側の磁区不連続部の方が幅が大きくなる。
【0021】
図2は、磁区観察結果であって、電子ビームを、左右方向に主磁区がある鋼板の磁区に対してほぼ直角に、紙面上で中央上下方向に照射した様子を示している。ここに、磁区不連続部とは、歪みにより局所的に磁区構造が乱れた箇所であり、一般的には圧延方向に平行な磁区構造が途切れたり、不連続になっている部分を示すものであるが、電子ビームの照射により熱影響を受けた領域にほぼ対応している。この磁区不連続部の幅は、磁性コロイドを用いたビッター法等で磁区構造を可視化して、電子ビーム照射により形成された不連続部が識別できるようにし、さらに所定の測定距離(少なくとも20mmとすることが好ましいが、100mm程度がより好ましい)について磁区不連続部の幅を測定して、その平均値を算出することで得ることができる。
【0022】
(素材結晶粒の磁化容易軸への集積度が高い)
第3のポイントは、素材結晶粒の磁化容易軸への集積度が高いことである。
変圧器騒音すなわち磁歪振動については、素材結晶粒の磁化容易軸への集積度が高いほど振動振幅が小さくなる。そのため、騒音抑制には、磁化容易軸への集積度の指標ともなる磁束密度B8が1.92T以上であることが必要である。ここに、磁束密度B8が1.92T未満の場合は、磁化過程における励磁磁界と平行になるための磁区の回転運動が大きな磁歪を発生させるので、変圧器の騒音を増大させることとなる。また、集積度が高い方が磁区細分化効果も高くなるので、鉄損低減の観点からも磁束密度B8は1.92T以上である必要がある。
【0023】
本発明における歪み導入処理としては、歪導入部の被膜損傷を軽減することが可能となる電子ビームを用いた方法に限定する。ここで、電子ビームの照射を施す場合、照射方向は圧延方向を横切る方向、好適には圧延方向に60°〜90°の方向とし、電子ビームの照射間隔は3〜15mm程度とする。また、電子ビームの照射条件は、10〜200kVの加速電圧、0.1〜100mAの電流、ビーム径(直径)は0.01〜0.5mmを用いて点状あるいは線状に施すことととする。なお、好ましいビーム径は0.01〜0.3mmである。
【0024】
次に、本発明に従う方向性電磁鋼板の製造条件に関して具体的に説明する。
本発明において、方向性電磁鋼板用スラブの成分組成は、二次再結晶が生じる成分組成であればよい。
また、インヒビターを利用する場合、例えばAlN系インヒビターを利用する場合であればAlおよびNを、またMnS・MnSe系インヒビターを利用する場合であればMnとSeおよび/またはSを適量含有させればよい。勿論、両インヒビターを併用してもよい。この場合におけるAl、N、SおよびSeの好適含有量はそれぞれ、Al:0.01〜0.065質量%、N:0.005〜0.012質量%、S:0.005〜0.03質量%、Se:0.005〜0.03質量%である。
【0025】
さらに、本発明は、Al、N、S、Seの含有量を制限した、インヒビターを使用しない方向性電磁鋼板にも適用することができる。
この場合には、Al、N、SおよびSe量はそれぞれ、Al:100質量ppm以下、N:50質量ppm以下、S:50質量ppm以下、Se:50質量ppm以下に抑制することが好ましい。
【0026】
本発明の方向性電磁鋼板用スラブの基本成分および任意添加成分について具体的に述べると次のとおりである。
C:0.08質量%以下
Cは、熱延板組織の改善のために添加をするが、0.08質量%を超えると製造工程中に磁気時効の起こらない50質量ppm以下までCを低減することが困難になるため、0.08質量%以下とすることが好ましい。なお、下限に関しては、Cを含まない素材でも二次再結晶が可能であるので特に設ける必要はない。
【0027】
Si:2.0〜8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0質量%に満たないと十分な鉄損低減効果が達成できず、一方、8.0質量%を超えると加工性が著しく低下し、また磁束密度も低下するため、Si量は2.0〜8.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0028】
Mn:0.005〜1.0質量%
Mnは、熱間加工性を良好にする上で必要な元素であるが、含有量が0.005質量%未満ではその添加効果に乏しく、一方1.0質量%を超えると製品板の磁束密度が低下するため、Mn量は0.005〜1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
上記の基本成分以外に、磁気特性改善成分として、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.03〜1.50質量%、Sn:0.01〜1.50質量%、Sb:0.005〜1.50質量%、Cu:0.03〜3.0質量%、P:0.03〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.10質量%およびCr:0.03〜1.50質量%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03質量%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.50質量%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する。そのため、Ni量は0.03〜1.50質量%の範囲とするのが好ましい。
【0030】
また、Sn、Sb、Cu、P、MoおよびCrはそれぞれ磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと、磁気特性の向上効果が小さく、一方、上記した各成分の上限量を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避不純物およびFeである。
【0031】
次いで、上記した成分組成を有するスラブは、常法に従い加熱して熱間圧延に供するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。
【0032】
さらに、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。この時、ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度として800〜1100℃の範囲が好適である。熱延板焼鈍温度が800℃未満であると、熱間圧延でのバンド組織が残留し、整粒した一次再結晶組織を実現することが困難になり、二次再結晶の発達が阻害される。一方、熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎるために、整粒した一次再結晶組織の実現が極めて困難となる。
【0033】
熱延板焼鈍後は、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、最終板厚に仕上げるのが好ましい。ついで、脱炭焼鈍(再結晶焼鈍を兼用する)を行い、焼鈍分離剤を塗布する。焼鈍分離剤を塗布した後に、二次再結晶およびフォルステライト被膜の形成を目的として最終仕上げ焼鈍を施す。なお、焼鈍分離剤は、フォルステライトを形成するためMgOを主成分とするものが好適である。ここでMgOが主成分であるとは、本発明の目的とするフォルステライト被膜の形成を阻害しない範囲で、MgO以外の公知の焼鈍分離剤成分や特性改善成分を含有してもよいことを意味する。
【0034】
最終仕上げ焼鈍後には、平坦化焼鈍を行って形状を矯正することが有効である。なお、本発明では、平坦化焼鈍前または後に、鋼板表面に絶縁コーティングを施す。ここに、この絶縁コーティングは、本発明では、鉄損低減のために、鋼板に張力を付与できるコーティング(以下、張力コーティングという)を意味する。なお、張力コーティングとしては、シリカを含有する無機系コーティングや物理蒸着法、化学蒸着法等によるセラミックコーティング等が挙げられる。
【0035】
本発明では、上述した最終仕上げ焼鈍後または張力コーティング後の方向性電磁鋼板に対して、上記いずれかの時点で鋼板表面に電子ビームを照射することにより、磁区細分化処理を施すものであり、電子ビームを照射する際の真空度を前述のとおり制御することで、電子ビーム照射による熱歪付与効果を十分に発揮させるとともに、被膜の損傷を極力低減することができる。
【0036】
本発明において、上述した工程や製造条件以外については、従来公知の電子ビームを用いた磁区細分化処理を施す方向性電磁鋼板の製造方法を、適用することができる。
【実施例1】
【0037】
C:0.08質量%、Si:3.1質量%、Mn:0.05質量%、Ni:0.01質量%、Al:230質量ppm、N:90質量ppm、Se:180質量ppm、S:20質量ppmおよびO:22質量ppmを含有し、残部Feおよび不可避不純物の成分組成になる鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1400℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.0mmの熱延板としたのち、1100℃で120秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により中間板厚:0.65mmとし、酸化度PH2O/PH2=0.32、温度:1000℃、時間:60秒の条件で中間焼鈍を実施した。その後、塩酸酸洗により表面のサブスケールを除去したのち、再度、冷間圧延を実施して、板厚:0.23mmの冷延板とした。
【0038】
ついで、酸化度PH2O/PH2=0.50、均熱温度:830℃で60秒保持する脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶・フォルステライト被膜形成および純化を目的とした最終仕上げ焼鈍を1200℃、30hの条件で実施した。そして、60%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁コートを塗布、800℃にて焼付けた。このコーティング塗布処理は、平坦化焼鈍も兼ねている。
その後、圧延方向と直角方向に照射幅:0.15mm、照射間隔:5.0mmにて電子ビームを照射する磁区細分化処理を片面に施し、製品として磁気特性を評価した。一次再結晶焼鈍温度を変更して磁束密度B8値で1.90〜1.95Tの材料を得た。また電子ビーム照射についても、ビーム電流値およびビーム走査速度を変更して種々の条件で照射を行った。次いで、各製品を斜角せん断し、500kVAの三相トランスを組み立て、50Hz、1.7Tで励磁した状態での鉄損および騒音を測定した。本トランスにおける鉄損および騒音の設計値は55dB,0.83W/kgである。
上記した鉄損および騒音の測定結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
同表に示したとおり、電子ビームによる磁区細分化処理を施し、本発明の範囲を満足する方向性電磁鋼板を用いた場合、実機トランスの騒音は低く、また鉄損特性の劣化も抑制され、いずれも設計値を満足する特性が得られている。
これに対し、磁束密度が本発明の範囲を外れたNo.11および12の比較例は、低騒音性および低鉄損性が共に得られていない。また、(Wa/Wb)が0.5に満たないNo.1〜3および10の比較例はいずれも低騒音性が得られていない。さらに、歪導入側または歪非導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅が本発明の範囲を外れたNo.6,8,9の比較例はいずれも鉄損性に劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にフォルステライト被膜をそなえ、電子ビームにより歪導入を施した、磁束密度B8が1.92T以上の方向性電磁鋼板であって、該鋼板の歪導入側のフォルステライト被膜の膜厚Waと歪非導入側のフォルステライト被膜の膜厚Wbの比(Wa/Wb)が0.5以上で、かつ歪導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅が150〜300μm、歪非導入側の鋼板面における磁区不連続部の平均幅が250〜500μmであることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
方向性電磁鋼板用スラブを圧延して最終板厚に仕上げたのち、脱炭焼鈍を施し、ついで鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を行った後、張力コーティングを施し、該仕上げ焼鈍後または該張力コーティング後に、電子ビーム照射による磁区細分化処理を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
(1) 電子ビーム照射時の真空度を0.1〜5Paとする、
(2) 平坦化焼鈍時における鋼板への付与張力を5〜15MPaに制御する
ことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
方向性電磁鋼板用スラブを、熱間圧延し、ついで必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して、最終板厚に仕上げることを特徴とする請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−52230(P2012−52230A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172254(P2011−172254)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】