説明

易カット性パウチ

【課題】一般的に用いられているシーラント樹脂を使用して、開封時に直線状の開口部を容易に形成することが出来る易カット性のパウチを提供すること。
【解決手段】シーラント層と延伸フィルムを少なくとも積層してなる積層体を表裏に用いて延伸フィルムを外側に配置して重ねた端部をヒートシールして形成されたパウチであって、該延伸フィルムの延伸方向のパウチ両端に開封開始部が設けられており、該シーラント層はC4−LLDPEで表される炭素数4のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレンとCOCで表される環状オレフィンコーポリマーを配合した層を少なくとも1層含んでなることを特徴とする易カット性パウチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末洗剤、液体洗剤、柔軟剤などのトイレタリー用品や、食用油、インスタントコーヒー、粉ミルク、お茶などの食品等を収納する詰め替え容器に関する。より詳しくは、開封時に直線状の開口部を容易に形成することが出来る易カット性のパウチに関する。
【背景技術】
【0002】
液体洗剤やシャンプーなどのトイレタリー用品や、食用油、調味料、インスタントコーヒーなどの食品は、それぞれ使いやすい形状の専用容器に収納されている。
専用容器は、構造もしっかりしており、従って高価であることから、内容物が無くなった段階で、繰り返し使用することができるように、内容物のみを詰め替える詰め替え容器入りの製品が別途販売されていることが多い。
【0003】
例えば液体洗剤の容器は、洗剤を使用する時にその都度適切な量を計量して取り出す必要があるため、計量カップに注ぎやすいように、注出口にノズルを備えた剛性のあるプラスチック容器が、繰り返し使用容器として用いられている。この容器に対して、内容物を補充するための詰め替え用の容器としては、軟包装フィルムからなる柔軟な容器に、注出口を形成した容器や、口栓を取付けた容器が一般的に使用されている。
【0004】
詰め替え用の容器も、もっぱら安価に製造することに重点を置くあまり、詰替え操作における利便性を十分に考慮したものでは、必ずしもなかった。たとえば、従来のパウチの場合、開封線を誘導するような特別な加工がなされていない開口部できれいに開封出来る距離は長くても3cm程度であり、それ以上の距離を開封すると開封線が曲がったりパウチの表裏で離れてきたりして内容物を排出し易い直線状の開口部とならないことが多かった。
したがって、通常のパウチにおいて長い距離をカットすることが必要な寸法の場合には、表裏の包装材に傷やレーザー加工を施してカットラインを誘導する等の補助加工が行なわれてきた。
その他に包装材とするフィルム自体に延伸等の手段により引裂きの方向性を持たせて一方向のみに開封しやすいパウチとする方法もいろいろ用いられてきた。
【0005】
この問題に対して特許文献1では、 開封に際して手切れ性に優れ、かつ防湿性に優れた包装材料を提供するために、無機物を減圧下で被着させた、厚みが8〜20μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム、と該フィルムの無機物被着面側に接着層を介して積層した、厚みが8〜20μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム、及び該フィルムの非無機物被着面側に直接又は接着層を介して積層した、フィルム厚みが15〜60μmのポリエチレンを主成分とするヒートシール性フィルムを含む積層フィルムを用いた易引裂性防湿包装材料で構成する詰め替え容器が提案されている。
【0006】
特許文献2では、 所望の位置から手指で容易に開封することができ、包装工程や流通段階での破袋を防止するとともに、衛生性にも優れ、しかも良好な外観を有する易開封性包装袋を提供するために、 プラスチックフィルムをヒートシールした密封包装袋において、ヒートシール部の端縁に長さが0.01mm以上0.5mm未満の切り込みを設けることにより易開封性包装袋を構成することが提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された詰め替え容器は、開封時の引裂き方向による引裂き抵抗の差を主に使用するポリエチレンテレフタレートフィルムの縦横方法の延伸差に
より実現しており、直線的な開封を可能にするためのシーラントフィルムの引裂きと切断の方向性に関しては考慮されていない。
シーラントフィルムに引裂き性を与えるための添加剤としては無機フィラー等がよく使われるが、この場合は被膜強度や接着強度が通常のシーラントフィルムよりも劣るためにとくに800g程度以上の重量の内容物の包装には不向きであった。
また、同様の目的でのシーラント層ポリエチレンへの添加樹脂としては、ノルボルネンとエチレンをメタロセン触媒にて共重合した環状オレフィンコポリマー(COC)も挙げられるが、シーラント層樹脂中に単に配合させただけではやはり通常のシーラントフィルムよりも強度的に劣るため問題解決には至らなかった。
【0008】
また、特許文献2で提案されている易開封性包装袋は、従来開封のきっかけとして用いられていたIノッチ、Vノッチ、Uノッチなどのノッチ(切欠き)から開封した際に、開封開始直後からパウチの表裏で開封線の位置が二股になり、そのまま最後まで二股になった状態で切り取られて行く事が起こりやすく直線状の開口部を形成できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−336940号公報
【特許文献2】特開2002−128097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明は一般的に用いられているシーラント樹脂を使用して、開封時に直線状の開口部を容易に形成することが出来る易カット性のパウチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
引裂き性と切断性に優れたシーラント層として、ラミネート層とシール層で、引裂き性と切断の方向性に優れた材料であるCOCを含む中間層を挟んだ多層構成とすることで、易カット性、シール性、ラミネート性の物性を損なわないシーラント層とした。さらに落下時の耐衝撃性を上げるために柔軟性を補強するC6またはC8のLLDPEを加えることで、カットの直線性、易開封性を保持したままで物性面を強化したシーラント層とした。
またパウチの開封及び切り取りのきっかけとなるノッチを一の字状の複数の傷からなる多数配列のノッチとすることによって開封作業及び切り取り作業を容易にすることが可能となった。
【0012】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、
シーラント層と延伸フィルムを少なくとも積層してなる積層体を表裏に用いて延伸フィルムを外側に配置して重ねた端部をヒートシールして形成されたパウチであって、該延伸フィルムの延伸方向のパウチ両端に開封開始部が設けられており、該シーラント層は炭素数4のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレン(C4−LLDPE)と環状オレフィンコーポリマー(COC)を配合した層を少なくとも1層含んでなることを特徴とする、易カット性パウチである。
【0013】
パウチを構成する積層体の延伸フィルムの延伸方向のパウチ両端に開封開始部が設けられていることによって延伸フィルムの延伸方向にカットして開封する場合の易カット性と直線カット性は保持されているが、この場合でもシーラント層が伸びてカットライン近傍にヒゲ状に残ることがあり、直線カット性を確保することができない場合があった。
シーラント層にCOCを用いることによってヒゲ状のカット断面のない直線カット性が実現できることは知られているが、COCのみではシール強度が低く特に重量物の包装に用いる場合には包装材としての強度が不足気味であった。
本発明のパウチにおいては、通常シーラントに用いるC4−LLDPEをCOCに混合して用いることで直線カット性と必要なシール強度を満たすことができるようになった。
【0014】
本発明の請求項2に係る発明は、
シーラント層が内側のラミネート層としてC4−LLDPE、中間層としてC4−LLDPE及びCOC、外側のシール層としてC4−LLDPEからなることを特徴とする、請求項1に記載の易カット性パウチである。
シーラント層として通常シーラントに用いるC4−LLDPEをCOCに混合して用いるにあたって、内側のラミネート層としてC4−LLDPE、中間層としてC4−LLDPE及びCOC、外側のシール層としてC4−LLDPEの多層構成とすることで必要なシール強度を満たすことと同時に直線状のカット性を両立させることができるようになった。
【0015】
本発明の請求項3に係る発明は、
中間層に含まれるCOCの配合量が10重量%から40重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の易カット性パウチである。
【0016】
中間層に含まれるCOCの配合量が10重量%未満であると開封時に袋が切れにくくなり、40重量%より多いと隣接する層との層間剥離が起こりやすくなるので、この間の範囲とすることで必要なシール強度と同時に直線状の直線カット性を両立させることがより確実に可能となった。
【0017】
本発明の請求項4に係る発明は、
シーラント層に含まれるラミネート層/中間層/シール層の層比がそれぞれ0.5〜2/1〜5/0.5〜2の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の易カット性パウチである。
【0018】
本来、シーラント層に含まれる中間層の厚みがシーラント層の厚み中の大きな部分を占めるほどカット性が向上して開封時に切れやすい袋とすることが出来るが、中間層の厚みが大きすぎるとシール強度は低下する。ラミネート層/中間層/シール層の層比をこの範囲にすることによって必要なシール強度と同時に直線状の直線カット性を両立させることがより確実に可能となった。
【0019】
本発明の請求項5に係る発明は、
シーラント層に含まれるラミネート層/中間層/シール層の各層にさらに炭素数6のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレン(C6−LLDPE)または炭素数8のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレン(C8−LLDPE)を配合し、配合比がラミネート層とシール層にあってはC4−LLDPE70%〜90%+C6−LLDPE10%〜30%、中間層にあってはC4−LLDPE30%〜50%+C6−LLDPE10%〜30%+COC10%〜20%
またはラミネート層とシール層にあってはC4−LLDPE70%〜90%+C8−LLDPE10%〜30%、中間層にあってはC4−LLDPE30%〜50%+C8−LLDPE10%〜30%+COC10%〜20%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の易カット性パウチである。
【0020】
α−オレフィンを側鎖に有するLLDPEはα−オレフィンの炭素数によって柔軟性が異なり炭素数4(C4)よりもC6、C8の方がLLDPEが柔軟になる。
C6とC8のα−オレフィンを側鎖に有するLLDPEをシーラント層の各層に配合することによって重量物の包装の場合にとくに問題になる特性である落下強度を向上させることが出来る。
【0021】
本発明の請求項6に係る発明は、
パウチ両端に設けられた開封開始部に複数本の一の字状の傷が設けられており、多数配列のノッチを形成していることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の易カット性パウチである。
【0022】
複数本の一の字状の傷による多数配列のノッチから開封することにより開封のきっかけとなる位置が多少ずれた場合でも、容易に開封を開始することが出来て易開封性を効果的なものとする。
延伸方向に直線状に引裂かれる延伸フィルムと直線状に引裂くことの出来るポリエチレンを用いた積層体を用いて開封部をたとえば10cmから50cm必要とする広幅のパウチを作成し、このパウチの両側端シール部の開封位置にシール部から内側へはみ出した多数配列のノッチが設けられていることによって、開封をスムースに行なうことが出来るばかりでなく、シールからはみ出した位置にもノッチ加工がしてあることから切り取りもスムースに行なうことが出来る。
【0023】
本発明の請求項7に係る発明は、
多数配列のノッチはパウチ両端のシール部から0.5mm以上はみ出した位置の幅10mm以上の領域に配列されてなることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の易カット性パウチである。
【0024】
多数配列のノッチをパウチ両端のシール部から0.5mm以上はみ出した位置の幅10mm以上の領域に配列することによって、開封の開始を容易に始めることが出来るのみならず、パウチの表裏できれいに揃ってカットされず二股に裂けてしまった場合の開封終わりも切り取り易くすることが出来る。
【0025】
本発明の請求項8に係る発明は、
多数配列のノッチを構成する一の字状の傷それぞれの長さは0.1mm〜5mmの範囲であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の易カット性パウチである。
【0026】
ノッチを構成する一の字状の傷それぞれの長さを上記の範囲とすることによって、開封時のカットの開始直後の直線性の保持が容易になる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の易カット性パウチによれば、
シーラントフィルムに引裂き性を与えるための添加剤としてシーラント層ポリエチレンへの無機フィラーやCOC等の樹脂の添加だけでは通常のシーラントフィルムよりも強度的に劣る問題と、開封時にパウチの表裏で開封線の位置が二股になり、そのまま最後まで二股になった状態で切り取られて行く事が起こりやすく直線状の開口部を形成できないという問題を解決して、一般的に用いられているシーラント樹脂を使用して、開封時に直線状の開口部を容易に形成することが出来る易カット性のパウチを提供することが可能となった。
【0028】
とくに本発明のスタンディングパウチ用途のシーラント層構成は、一般的に用いられているC4−LLDPEとCOCを用いて、ラミネート層、中間層、シール層に分けて多層にすることで、ラミネート強度、易カット性、シール強度の物性を損なわないシーラント
フィルムの提供を可能とした。
【0029】
さらにそのシーラント層を延伸ポリエステルフィルムのような易カットPETと組み合わせることによって易開封性と開封の直線性を要求されるパウチの提供を可能とした。
さらに、パウチの耐衝撃性を上げるためにC6またはC8のLLDPEをさらに組み込むことにより易開封性と開封の直線性を保持したままで重量物の包装も可能な衝撃に強いパウチの提供を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の易カット性パウチの例の平面略図。(A)スタンディングパウチ、(B)三方パウチ、(C)ガゼット袋。
【図2】本発明の易カット性パウチに用いる積層体の断面略図。(A)積層体、(B)シーラント層。
【図3】本発明の易カット性パウチの他の例の正面略図。(A)スタンディングパウチ、(B)多数配列のノッチ部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、図面を参照して本発明の易カット性パウチの実施形態の例を説明する。
図1は本発明の易カット性パウチの一例の平面略図を示したものである。図1(A)はスタンディングパウチの場合を示している。他の形式のパウチの例として図1(B)には三方パウチの平面略図を、図1(C)にはガゼット袋の外観略図を示した。
本発明は他にもさまざまな形式のパウチに適用できるが、ここでは主にスタンディングパウチの場合を例に説明する。
【0032】
また、図2は本発明の易カット性パウチに用いる積層体の断面略図を示したものである。図2(A)は上面がパウチ外側とした積層体の断面を、図2(B)は積層体を構成するシーラント層の断面を示した。
【0033】
本発明の易カット性パウチは、シーラント層(6)と延伸フィルム(5)を少なくとも積層してなる積層体(1)を表裏に用いて延伸フィルム(5)を外側に配置して重ねた端部をヒートシールして形成されたパウチである。
ヒートシールされた端部は底部シール部(4)および左右の側面シール部(2)からなり、底部シール部(4)は底部端面から高さ(f)の位置で折り返された底テープ(図示せず)を挟み込んだ形でシールされている。パウチ天面は内容物充填後にヒートシールされる予定でありこの段階では封止されていない。
【0034】
延伸フィルム(5)の延伸方向(この場合は左右方向)のパウチ両端に開封開始部としてノッチ(12)が設けられている。ノッチの形状はIノッチ、Vノッチ、Uノッチなどの切欠きでもよいが、図3に示したような多数配列のノッチ(13)の方がより望ましい。
この場合の多数配列ノッチのはみ出し長さ(a)はパウチ両端の側面シール部(2)から0.5mm以上はみ出した位置であり、多数配列ノッチ領域上下幅(b)は幅10mm以上であり、一つのノッチ長さ(c)は0.1mm〜5mmの範囲であることが易カット性を確保する上で望ましい。
多数配列ノッチを構成する個々の一の字状の傷の配列方向は、開封方向に平行な方向のみに限られず、たとえば千鳥足状に配列したものであってもよい。
【0035】
上記のようなパウチは周知の方法によって作成することが可能である。たとえば厚さ12μmの延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム/ウレタン系接着剤層/厚さ60μmの易カット性シーラント層からなる積層体を使用し、常法により袋の両側縁及び底テープを挟んだ底部をヒートシールすることにより、図1(A)に示す形状のスタンディングパウチを作成し、つぎに、このスタンディングパウチの側面ヒートシール部の近傍に、パウチの端縁から内方に向かって端縁に対して略垂直に、直線状の切り込みを設けることにより多数配置のノッチを形成することで作成することが出来る。
【0036】
本発明の易カット性パウチに用いる積層体(1)の延伸フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレ−ト樹脂(PEN)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)などのポリエステル樹脂、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアクリロニトリル樹脂(PAN)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(EVOH)などの延伸フィルムなどのいずれかが使用できる。また、延伸フィルムの厚さは、通常、加工性を考慮して10〜150μmの範囲内で適宜選択される。
フィルムの延伸は二軸あるいは一軸のどちらでもよいが、開封時に必要な方向での易カット性を得るためには開封方向での延伸の程度が直角方向での延伸の程度よりも大きいことが必要である。
【0037】
シーラント層(6)には、例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(L−LDPE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、エチレン−プロピレン共重合体(EP)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの樹脂、またはこれらの樹脂を成膜化したフィルムを使用することができる。通常はシール適性からLLDPEがよく用いられる。
【0038】
LLDPEとしては通常炭素数4のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレン(C4−LLDPE)が用いられる。α−オレフィンの炭素数によって柔軟性が異なり炭素数4(以下C4)よりも炭素数6(C6)、炭素数8(C8)の方がLLDPEが柔軟になることから、重量物の包装の場合にとくに問題になる特性である落下強度の向上のために、C6とC8のα−オレフィンを側鎖に有するLLDPEをシーラント層(6)の各層に配合することがある。
【0039】
本発明の易カット性パウチに用いる積層体(1)のシーラント層(6)は単層ではなく、図2(B)に断面を示したように容器外側から順にラミネート層(9)、中間層(10)、シール層(11)の少なくとも3層からなる。
中間層(10)がシーラント層(6)の易カット性を発現する上でおもな役割を果たし、中間層(10)のみでは不足することがある接着剤層(8)とのラミネート強度とヒートシール時のシーラント層同士のシール強度をラミネート層(9)とシール層(10)で補強するという構成である。
中間層(10)はC4−LLDPEに易カット性に優れた環状オレフィンコーポリマー(COC)を配合した中間層を含んでなる層でありシーラント層の開封時の直線状の直線カット性の保持に貢献するCOCを含むことによって開封時のヒゲ等の発生を防止する機能を有する。
【0040】
中間層に含まれるCOCの配合量は開封時に袋が切れにくくなることを防止し、隣接する層との層間剥離が起こりやすくなるも防止するためには10重量%から40重量%の範囲であることが望ましい。
シーラント層(6)の総厚は特に限定されないが、密封性、生産性、コスト等の観点よ
り通常30μm〜150μm程度、好ましくは60μm〜80μm程度、引裂き強度は1〜10gとすることが望ましい。
また、シーラント層(6)に含まれるラミネート層(9)/中間層(10)/シール層(11)の層比はそれぞれ0.5〜2/1〜5/0.5〜2の範囲であることが望ましい。総厚が60μm〜80μmの範囲でのシーラント層の代表的な構成としては、表1のような例を示すことが出来る。
【表1】

【0041】
シーラント層(6)の各層にシーラント被膜の柔軟性を高める目的でC4に加えてC6あるいはC8のLLDPEを添加する場合は易カット性と落下強度の兼ね合いから、配合比がラミネート層(9)とシール層(11)にあってはC4−LLDPE70%〜90%+C6−LLDPE10%〜30%、中間層(10)にあってはC4−LLDPE30%〜50%+C6−LLDPE10%〜30%+COC10%〜20%であること、またはラミネート層(9)とシール層(11)にあってはC4−LLDPE70%〜90%+C8−LLDPE10%〜30%、中間層(10)にあってはC4−LLDPE30%〜50%+C8−LLDPE10%〜30%+COC10%〜20%であることが望ましい。
【0042】
延伸フィルム(5)と、シーラント層(6)とを接着剤層(8)を介してラミネーションして積層体(1)を作成する方法としては、例えば、ドライラミネーション方法などの公知の方法を使用することができる。
前記ドライラミネーション方法に使用する接着剤は、一般的に、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他などのラミネート用接着剤を使用することができる。
【0043】
本発明の易カット性パウチはパウチを構成する延伸フィルム(5)の延伸方向のパウチ両端に開封開始部(ノッチ)が設けられている。ノッチの形状は通常側面シール部(2)から先端を内側に向けて設けられた鋭角の切欠き(12)(図1参照)であるが、パウチの易開封性をより確実にするために、図3に示すような多数配列のノッチ(13)を設けることが出来る。
この多数配列のノッチ(13)は開封方向であるパウチ両側面の開口部近辺の領域に設けられ、たとえば図3に示すような複数の一の字状の傷の集合体である。
【0044】
図3(A)は本発明の易カット性パウチのスタンディングパウチの場合の例の正面略図であり、図3(B)は多数配列のノッチ部分の拡大図である。多数配列のノッチ(13)はパウチ上部の両側の側面シール部(2)の近傍に設けられている。
この多数配列のノッチ(13)は側面シール部(2)だけでなくそこから内側にはみ出した領域にも設けられており、この場合の多数配列ノッチのはみ出し長さ(a)はパウチ両端の側面シール部(2)から0.5mm以上はみ出した位置であり、多数配列ノッチ領域上下幅(b)は幅10mm以上であり、一つのノッチ長さ(c)は0.1mm〜5mmの範囲である。
【0045】
多数配列のノッチを構成する複数の一の字状の傷は金属刃による加圧やレーザー加工等の周知の方法で設けることが出来る。
一つのノッチすなわち一の字状の傷の長さが5mmを超える場合には、このような多数配列ノッチを設けた箇所のヒートシールの耐久性確保と内容物の浸透防止の点から、ヒートシール部の幅を広くする必要があり、また多数配列ノッチの外観も悪くなるとともに、加工部のざらつきが大きいため、包装工程や流通段階で易開封加工部から破袋する可能性がある。一方、0.1mm未満の傷を設けることは、刃物による機械的な加工限界を超えるものとなり、加工精度の管理は困難である。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
図1(A)に示した形状で幅(d)250mm、高さ(e)160mm、底部折り返し高さ(f)50mmの寸法のパウチを作成した。
パウチを構成する表裏の積層体としては、易カット延伸PETフィルム(12μm)/印刷層/接着剤層/易カットシーラント層(60μm)からなる構成とした。
易カットシーラント層はラミネート層(C4−LLDPE)(20μm)/中間層(C4+COC25%)(20μm)/シール層(C4−LLDPE)(20μm)からなる構成とした。
【0047】
上記の積層体を用いてパウチを作成して以下の試験を行なった。
1.易カットシーラント層の延伸方向(MD)延伸方向に直角方向(TD)の引裂き強度2.パウチを開封して引裂いたときの表裏積層体の切断端面のズレ(表裏の引裂きズレ)3.パウチを開封して引裂いたときのMD方向とTD方向の引裂き強度
4.パウチに水900mlを封入して高さ1mから落下させた時の破袋回数(落下強度 n=6)
結果は表2、表3に示した。
【0048】
<実施例2>
易カットシーラント層の中間層の配合に重量比で25%のC6−LLDPEを加えたほかは実施例1と同様にしてパウチを作成し試験を行なった。
結果は表2、表3に示した。
【0049】
<実施例3>
易カットシーラント層の中間層の配合に重量比で25%のC8−LLDPEを加えたほかは実施例1と同様にしてパウチを作成し試験を行なった。
結果は表2、表3に示した。
【0050】
<比較例1>
易カット延伸PETフィルムをPETフィルムに代えて、易カットシーラント層をC4−LLDPEとしたほかは実施例1と同様にしてパウチを作成し試験を行なった。
結果は表2、表3に示した。
【0051】
<比較例2>
易カットシーラント層をC4−LLDPEとしたほかは実施例1と同様にしてパウチを作成し試験を行なった。
結果は表2、表3に示した。
【0052】
<比較例3>
易カット延伸PETフィルムをPETフィルムに代えたほかは実施例1と同様にしてパウチを作成し試験を行なった。
結果は表2、表3に示した。
【表2】

【表3】

【0053】
以上の結果より、一般にシーラントとして用いられているC4−LLDPE層よりも本発明の構成に用いられた易カットシーラントの方が直線カット性と引裂き強度において優れていることが分かる。
また、この易カットシーラントと易カット延伸PETフィルムをカットの方向を揃えて組み合わせることで包装体にして開封した場合、直線カット性と易カット性の効果が高め
られることが分かった。
また、落下強度の結果から実施例1のLLDPEがC4のみの場合よりもC6あるいはC8を加えた実施例2,3の場合の方が衝撃に対する強度は高いことが分かった。
【0054】
<実施例4>
図3(A)に示した形状で幅(d)250mm、高さ(e)160mm、底部折り返し高さ(f)50mmの寸法のパウチを作成した。
パウチを構成する表裏の積層体としては、易カット延伸PETフィルム(12μm)/印刷層/接着剤層/易カットシーラント層(60μm)からなる構成とした。
易カットシーラント層はラミネート層(C4−LLDPE)(20μm)/中間層(C4+COC25%)(20μm)/シール層(C4−LLDPE)(20μm)からなる構成とした。
【0055】
上記の積層体を用いてパウチを作成して長さ1mmの一の字状の傷が千鳥足に配列された多数配列のノッチを加工した。こうして得られたパウチに家庭用粉末洗剤を充填し開口部をヒートシールした。
多数配列のノッチの加工位置は、パウチの側面シール部から内側にはみ出した寸法をa(mm)、配列の領域上下幅をb(mm)とした場合に以下の6種類の形状で行い、このパウチを用いて引裂き性のモニター評価をおこなった。評価項目は開封時の切り取りの際引っ掛かった人数(各10名中)とし、結果は表4に示した。
形状1:a=0mm、b=15mm
形状2:a=0.3mm、b=15mm
形状3:a=0.5mm、b=15mm
形状4:a=3mm、b=3mm
形状5:a=3mm、b=8mm
形状6:a=3mm、b=10mm
【表4】

【0056】
この結果、本発明の易カット性パウチの易カット性を発現させるためには、多数配列のノッチの加工位置は、パウチの側面シール部から内側にはみ出した寸法を0.5mm以上、配列の領域上下幅を10mm以上とすればよいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の容器はトイレタリー製品、液体洗剤、柔軟剤、ハンドソープなど以外にも、詰め替えの必要な用途の容器として広く用いることが出来る。
【符号の説明】
【0058】
a…多数配列ノッチはみ出し長さ
b…多数配列ノッチ領域上下幅
c…一つのノッチ長さ
d…パウチ幅
e…パウチ高さ
f…底折り返し高さ
1…積層体
2…側面シール部
3…底部折り曲げ線
4…底部シール部
5…延伸フィルム
6…シーラント層
7…印刷インキ層
8…接着剤層
9…ラミネート層
10…中間層
11…シール層
12…ノッチ
13…多数配列のノッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーラント層と延伸フィルムを少なくとも積層してなる積層体を表裏に用いて延伸フィルムを外側に配置して重ねた端部をヒートシールして形成されたパウチであって、該延伸フィルムの延伸方向のパウチ両端に開封開始部が設けられており、該シーラント層はC4−LLDPEで表される炭素数4のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレンとCOCで表される環状オレフィンコーポリマーを配合した層を少なくとも1層含んでなることを特徴とする易カット性パウチ。
【請求項2】
シーラント層が内側のラミネート層としてC4−LLDPE、中間層としてC4−LLDPE及びCOC、外側のシール層としてC4−LLDPEからなることを特徴とする、請求項1に記載の易カット性パウチ。
【請求項3】
中間層に含まれるCOCの配合量が10重量%から40重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の易カット性パウチ。
【請求項4】
シーラント層に含まれるラミネート層/中間層/シール層の層比がそれぞれ0.5〜2/1〜5/0.5〜2の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の易カット性パウチ。
【請求項5】
シーラント層に含まれるラミネート層/中間層/シール層の各層にさらにC6−LLDPEで表される炭素数6のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレンまたはC8−LLDPEで表される炭素数8のα−オレフィンを側鎖に有するリニア低密度ポリエチレンを配合し、配合比がラミネート層とシール層にあってはC4−LLDPE70%〜90%+C6−LLDPE10%〜30%、中間層にあってはC4−LLDPE30%〜50%+C6−LLDPE10%〜30%+COC10%〜20%
またはラミネート層とシール層にあってはC4−LLDPE70%〜90%+C8−LLDPE10%〜30%、中間層にあってはC4−LLDPE30%〜50%+C8−LLDPE10%〜30%+COC10%〜20%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の易カット性パウチ。
【請求項6】
パウチ両端に設けられた開封開始部に複数本の一の字状の傷が設けられており、多数配列のノッチを形成していることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の易カット性パウチ。
【請求項7】
多数配列のノッチはパウチ両端のシール部から0.5mm以上はみ出した位置の幅10mm以上の領域に配列されてなることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の易カット性パウチ。
【請求項8】
多数配列のノッチを構成する一の字状の傷それぞれの長さは0.1mm〜5mmの範囲であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の易カット性パウチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−1440(P2013−1440A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136154(P2011−136154)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】