説明

易水分解性ビタミンC・E誘導体ドライエマルション

【課題】長期間分解、変性等を生じることなく安定に保存可能であり、水に溶解するのみで簡便にエマルションを調製することができる、2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸を含有するドライエマルションを提供すること。
【解決手段】2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸及び/又はその1−プロパノール付加体、オリブ油、及びデキストリンを含む水中油型エマルションを凍結乾燥し、ドライエマルションとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易水分解性のビタミンC・E誘導体ドライエマルション、すなわち、ビタミンC・E誘導体(CME)を含有するドライエマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸(以下、本明細書中で「CME」と称する場合がある)は、ビタミンCとビタミンEとがマレイン酸を介してエステル結合した構造を有するハイブリッド型ビタミンC・E誘導体である(式(I))。
【0003】
【化1】

【0004】
CMEはビタミンC及びその他のビタミンC誘導体と比較して、皮膚移行性・角質透過性が高いこと、水溶性抗酸化物質であるビタミンCと、脂溶性抗酸化物質であるビタミンEとを同時に細胞内外に到達させ得ることなどから、皮膚表面等に対する優れた抗老化効果が期待され、化粧品の配合剤としての利用が期待される。CMEは難水溶性であるばかりでなく、水性溶液中で加水分解等の分解・変性を生じやすく、極めて不安定であるため、通常、オリブ油を基剤とした単一成分の製剤として用いられる。このような製剤においてオリブ油中でのCMEの安定性を向上させる技術としては、過酸化物価0〜1.0のオリブ油を使用することが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、化粧品等として使用する場合は、べたつきが少なく使用感に優れること、他の汎用の水性抗老化・肌表面状態改善成分との同時配合が要望されていることなどから、CMEを水系製剤に安定に配合することが求められている。
【0006】
CMEを安定化させる方法としては、CMEを1−プロパノール付加体として結晶化することが提案されており(特許文献2)、オリブ油を基剤とする製剤の材料として使用されている。しかしながら、長期保存に耐えるCMEを含む水系製剤は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−250413号公報
【特許文献2】特開2003−55374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、CMEを含有する水系製剤の製造に使用でき、長期間分解・変性等を生じることなく安定に保存可能であり、水に溶解するのみで簡便にエマルションを調製することができる、CME含有ドライエマルションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、CME、オリブ油、及びデキストリンを含有する水中油型エマルションを凍結乾燥して得られるドライエマルションにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸及び/又はその1−プロパノール付加体、オリブ油、及びデキストリンを含む、CME含有ドライエマルション。
[2]下記工程(i)〜(iv)を含む製造方法により製造される、上記[1]のCME含有ドライエマルション。
(i)オリブ油に2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸・1−プロパノール付加体を溶解し、CME含有オリブ油を調製する工程、
(ii)上記CME含有オリブ油と水とを界面活性剤の存在下に混合して乳化し、CME水中油型エマルションを調製する工程、
(iii)上記CME水中油型エマルションとデキストリンとを混合し、上記化合物及びデキストリンを含有する、デキストリン含有CME水中油型エマルションを調製する工程、
(iv)上記デキストリン含有CME水中油型エマルションを凍結乾燥する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明のCME含有ドライエマルションは、室温(約25℃)での長期保存が可能であり、さらに、本発明のCME含有ドライエマルションを水と混合するだけで、CMEを含有する水系乳化製剤を速やか且つ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のCME含有ドライエマルションは、CME及び/又はその1−プロパノール付加体、オリブ油、及びデキストリンを含む。本明細書において、以下、「CME」は、下記の式(II)で表される2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸・1−プロパノール付加体及び、該1−プロパノール付加体から1−プロパノールが脱離した、式(I)で表される2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸を包含する語として用いる。ただし、「CME・1−プロパノール付加体」中の「CME」は、式(I)で表される2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸のみを示す語である。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
上記の2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸は、たとえば国際公開01/04114号パンフレットに記載された方法により、又はこれに準じて製造することができ、CME・1−プロパノール付加体は、たとえば、特開2003−55374号公報に記載の方法により、又はこれに準じて製造することができる。
【0016】
本発明で使用するオリブ油は、Olea europeaea Linne (Oleaceae)の果実を圧搾して得た脂肪油である。日本薬局方および化粧品原料基準に記載のオリブ油は、酸価(油脂試料1g中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表される)が1.0以下であり、わずかに特異臭のある微黄色〜黄色の液である。オリブ油の過酸化物価とは、油脂中に含まれる過酸化物の量を示す指標であり、油脂にヨウ化カリウムを加えた場合に遊離されるヨウ素を油脂1kgに対するミリ当量数で表したものである。過酸化物価は酢酸−イソオクタン法によって測定される(基準油脂分析試験法)。
【0017】
本発明において用いるデキストリンは、重量平均分子量が3,000〜4,000のデキストリンを好適に使用することができる。かかるデキストリンの市販品の例としては、「デキストリン;製品コード10914−85(ナカライテスク)」が挙げられる。
【0018】
本発明のドライエマルションは、たとえば、CME・1−プロパノール付加体を、オリブ油に溶解してCME含有オリブ油を調製し、該CME含有オリブ油と水とを、界面活性剤の存在下、混合して乳化し、CME水中油型エマルションを調製し、次いで該CME水中油型エマルションとデキストリンとを混合して、デキストリン含有CME水中油型エマルションを調製し、該デキストリン含有CME水中油型エマルションから水を除去することにより製造することができる。このようにして得られたドライエマルション中では、CME及びオリブ油が、デキストリンのマトリックスの中に分子状態で分散しており、デキストリンが水分を捕捉して、CMEの加水分解を防いでいるものと考えられる。
【0019】
上記CME含有オリブ油の調製は、遮光材(たとえば、アルミホイル、イミドフィルム等)で遮光した状態のオリブ油を加熱撹拌し、CME・1−プロパノール付加体を少量ずつ添加して行なうことが好ましい。上記CME含有オリブ油中のCME含有量の下限値は、0.005重量%、好ましくは0.008重量%である。上記CME含有オリブ油中のCMEの濃度の上限値としては、10重量%、好ましくは1重量%、さらに好ましくは0.1重量%、特に好ましくは0.02重量%から選択することができる。CMEの濃度が上記範囲より低いと、CMEの十分な作用効果の発現が期待できず、上記範囲より高いと、ゲル化する場合があり好ましくない。上記加熱温度としては、CMEの熱安定性等を考慮して、約80〜90℃、特に85±2℃が好ましい。撹拌の方法、条件は特に制限されないが、たとえば、マグネティックスターラーを用いて行なうことができ、CMEの粒子が視認できなくなるまで撹拌を行なえばよい。
【0020】
CME含有オリブ油と水との配合重量比は、たとえば1:99〜25:75、好ましくは4:96〜10:90、特に好ましくは4:96〜6:94の範囲から選択することができる。CME含有オリブ油と水との割合が上記範囲を逸脱すると、乳化粒子が不安定になる場合があり、好ましくない。
【0021】
上記CME水中油型エマルションは、CME含有オリブ油と水とに界面活性剤を添加し、撹拌(乳化処理)することにより調製することができる。上記界面活性剤は、通常医薬品、化粧品等に使用される陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤から適宜選択することができる。本発明においては、非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。上記界面活性剤のHLB値の好ましい範囲は、8〜18である。本発明においては、たとえば、ショ糖脂肪酸エステルを好適に使用することができる。具体的には、「ショ糖脂肪酸エステルf−160(第一工業株式会社製)」を例示することができる。界面活性剤の添加量は、通常使用する範囲から適宜選択することができ、特に制限されないが、ショ糖脂肪酸エステルを使用する場合であれば、たとえば、0.5〜2重量%の範囲から選択することができる。界面活性剤の添加量が2重量%より多いと、固化・凝集する場合があり好ましくない。また、添加量が0.5重量%より少ないと、十分な乳化作用が得られなくなる場合があり好ましくない。
【0022】
上記CME水中油型エマルション中のCME含有オリブ油粒子の平均粒子径は、0.05〜100μmが適切であり、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜1μmである。平均粒子径が0.05μmより小さいエマルションの調製は通常の乳化技術では困難であり、100μmより大きいと油滴の析出の恐れがあるため好ましくない。なお、前記平均粒子径は、微粒子評価装置(ZETA SIZER ナノシリーズ、ナノ−ZS Malvern Instruments Ltd.)を用いて測定した値である。
【0023】
乳化処理は、公知慣用の処理方法により行なうことができ、特に制限されない。たとえば、回転型乳化装置を使用して、約20,000〜40,000rpmで20〜30分間処理して粗乳化物とした後に、高圧ホモジナイザーにより、45〜50MPaで10回程度処理することにより行うことができる。
【0024】
上述のようにして得られたCME水中油型エマルションと、デキストリンとを混合することにより、デキストリン含有CME水中油型エマルションを調製する。デキストリンの配合量は、CME水中油型エマルションに対して、3〜20重量%が適切であり、好ましくは5〜15重量%、より好ましくは8〜12重量%である。デキストリンの配合量が3重量%より少ないと、安定なドライエマルションを調製できない場合があり好ましくない。また、配合量が20重量%より多いと、デキストリンがCME水中油型エマルションの連続相に溶解されない場合があり、好ましくない。CME水中油型エマルションとデキストリンとを混合する方法は特に制限されないが、デキストリンに対して、CME水中油型エマルションを撹拌下滴下し、滴下終了後さらに15〜30分程度撹拌することにより行なうことが好ましい。上記撹拌は公知慣用の方法により行なうことができ、特に制限されないが、たとえば、マグネティックスターラーを使用して行なうことができる。
【0025】
上記デキストリン含有CME水中油型エマルションからの水の除去は、凍結乾燥により行なうことが好ましい。熱乾燥等により乾燥することは、CMEの熱分解を招く恐れがあるため好ましくない。凍結乾燥は、デキストリン含有CME水中油型エマルションを、ガラス管等の適当な容器に入れ、該容器を寒剤(冷媒)に浸漬することなどにより急冷凍結した後、凍結乾燥機等を使用して行なうことができる。上記寒剤の温度は、たとえば、−120〜−50℃、好ましくは−100〜−70℃、特に好ましくは−90〜−80℃であり、とりわけ−85±2℃が好ましい。寒剤の温度が−50℃より高いと凍結乾燥が困難で粉体が得られない場合があり好ましくない。−120℃より低いと、急冷操作に多大なエネルギーを要するため現実的でない上に、結晶状態の変化などの不具合が生じるため好ましくない。
【0026】
上述のように水の除去を行なうことにより、本発明のCME含有ドライエマルションが得られる。本発明のCME含有ドライエマルションの水分含量は、2重量%未満である。本発明のCME含有ドライエマルションは、室温(約25℃)で長期間(たとえば、3ヶ月間)の保存後も安定であり、該ドライエマルションと水とを混合した場合には、速やか且つ簡便に水中油型エマルションを調製することができるため、たとえば、水系のCME含有皮膚外用剤等を簡易に製造することができる。
【0027】
本発明のCME含有ドライエマルションは、CMEを含む皮膚外用剤、特に水系の皮膚外用剤の材料としてとして好適に使用することができる。CMEを含む皮膚外用剤には、美肌剤、抗シワ剤、美白剤、皮膚のしみ、そばかす、日焼けの予防・治療薬などの、化粧品、医薬部外品および医薬品が包含される。
【0028】
本発明の皮膚外用剤に含有されるCME含有ドライエマルションの濃度は、用途等により適宜選択することができ、特に限定されないが、たとえば、0.05〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%の範囲から選択することができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(検討1)
[CME含有エマルション調製に関する検討]
1.油相成分の選択
CME・1−プロパノール付加体を油相中に分配させ水分子から保護しつつ水に分散させるべく、CME含有水中油型エマルションの調製を試みた。エマルションの油相成分として、医薬品及び化粧品に汎用されている油成分から、表1に示す4種を使用してCME含有水中油型エマルションを調製し、CMEの濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定して、CME濃度の経時変化を測定した。結果を表1に示す。なお、各CME含有水中油型エマルションは、各油成分を約85℃に加熱撹拌し、CME・1−プロパノール付加体粉末を、0.1重量%(1.46mM)の最終濃度となるように添加してCME含有油を調製し、各CME含有油20gにイオン交換水376gを添加し、界面活性剤としてショ糖脂肪酸エステルf−160(第一工業株式会社製)4gを添加して、撹拌することにより調製した。
【0031】
【表1】

【0032】
オリブ油、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ミリスチン酸イソプロピルを用いた各エマルションでは、4週間後まで外観に顕著な変化は認められず、CME含有量の大きな低下も認められなかった。一方、流動パラフィンを使用したエマルションでは、4週間後には粘度が増加してゲル状の様相を呈し、CME含有量の大きな低下も認められた。
【0033】
2.界面活性剤の添加量の検討
[CME含有オリブ油の調製]
オリブ油(関東化学製;商品名「オリブ油」)を、アルミホイルで遮光した状態でマグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、ホットプレートで加熱した。オリブ油の温度を約85℃に保ち、CME・1−プロパノール付加体粉末を少量ずつ添加した。CME・1−プロパノール付加体粉末が目視で確認できなくなるまで加熱撹拌を続け、CME・1−プロパノール付加体を0.01重量%含有するCME含有オリブ油を得た。
【0034】
[エマルションの調製]
CME含有オリブ油、ショ糖脂肪酸エステルf−160(第一工業株式会社製)、及びイオン交換水を表2に示す処方で配合し、水中油型エマルションとした。エマルションの調製は、イオン交換水及びショ糖脂肪酸エステルf−160を、アルミホイルで遮光したビーカーに入れ、Polytron(PT−RM1600E、KINEMATICAAG)を用いて30,000rpmで撹拌しながらCME含有オリブ油を少量ずつ添加することにより行なった。撹拌は、CME含有オリブ油添加終了後20分経過時まで行なった。このようにして得られた粗エマルションについて、高圧ホモジナイザー(みづほ工業株式会社製;マイクロフルダイザーM−110EH)を用いて50MPaで10回処理を行い、精エマルションとした。
エマルション1〜4を25℃で24時間保存したところ、エマルション3及び4では凝集してゲル状物となった。エマルション1及び2中のCME濃度をHPLCにより測定し、エマルション調製時に対する残存率を算出した。結果を表2に示す。表2の結果より、ショ糖脂肪酸エステルf−160の至適濃度は1.0重量%であると判断された。
【0035】
【表2】

【実施例1】
【0036】
[CME−デキストリンドライエマルションの調製]
(1)376gのイオン交換水及び4gのショ糖脂肪酸エステルf−160を、アルミホイルで遮光したビーカーに入れ、Polytron(PT−RM1600E、KINEMATICAAG)を用いて30,000rpmで撹拌しながら4gのCME含有オリブ油を少量ずつ添加した。CME含有オリブ油は、上述の「2.界面活性剤の添加量の検討」で調製したものと同じCME含有オリブ油を使用した。撹拌は、CME含有オリブ油添加終了後20分経過時まで行なった。このようにして得られた粗エマルションを、高圧ホモジナイザー(みづほ工業株式会社製;マイクロフルイダイザーM−110EH)を用いて50MPaで10回処理し、精エマルションを得た。
(2)デキストリン(ナカライテスク製;「デキストリン」)40gに、上記精エマルションを添加し、マグネティックスターラーを用いて約20分間撹拌し、CME及びデキストリン含有エマルションを得た。
(3)CME及びデキストリン含有エマルション4gを、容量50mLのサンプルチューブに測り取り、サンプルチューブを−85℃のエタノールに浸漬した。次いで、−85℃の冷凍庫に3時間保存した後、凍結乾燥機(ヤマト科学株式会社製)を用いて12時間処理し、水を昇華させて本発明のCME含有ドライエマルションを得た。
【比較例1】
【0037】
上記実施例1において、デキストリンに替えてヒドロキシプロピル化−α−シクロデキストリン(HP−α−CyD)(日本食品化工:「ヒドロキシプロピル化−α−シクロデキストリン」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−(HP−α−CyD)ドライエマルションを得た。
【比較例2】
【0038】
上記実施例1において、デキストリンに替えてヒドロキシプロピル化−β−シクロデキストリン(HP−β−CyD)(日本食品化工:「ヒドロキシプロピル化−β−シクロデキストリン」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−(HP−β−CyD)ドライエマルションを得た。
【比較例3】
【0039】
上記実施例1において、デキストリンに替えてヒドロキシプロピル化−γ−シクロデキストリン(HP−γ−CyD)(日本食品化工:「ヒドロキシプロピル化−γ−シクロデキストリン」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−(HP−γ−CyD)ドライエマルションを得た。
【比較例4】
【0040】
上記実施例1において、デキストリンに替えてメチル−β−シクロデキストリン(日本食品化工:「メチル−β−シクロデキストリン」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−(メチル−β−シクロデキストリン)ドライエマルションを得た。
【比較例5】
【0041】
上記実施例1において、デキストリンに替えてラフィノース(和光純薬:「ラフィノース」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−ラフィノースドライエマルションを得た。
【比較例6】
【0042】
上記実施例1において、デキストリンに替えてトレハロース(日本食品化工:「トレハロース」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−トレハロースドライエマルションを得た。
【比較例7】
【0043】
上記実施例1において、デキストリンに替えてグルコース(和光純薬:「グルコース」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−グルコースドライエマルションを得た。
【比較例8】
【0044】
上記実施例1において、デキストリンに替えてデキストラン40(名糖産業:「デキストラン40」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−デキストラン40ドライエマルションを得た。
【比較例9】
【0045】
上記実施例1において、デキストリンに替えてデキストラン70(名糖産業:「デキストラン70」)を使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−デキストラン70ドライエマルションを得た。
【比較例10】
【0046】
上記実施例1において、デキストリンに替えてラフィノース(和光純薬:「ラフィノース」)40g及び、ポリビニルアルコール(シグマ製;「ポリビニールアルコール」)8gを使用した。その他は実施例1と同様の操作を行い、CME−ラフィノース・ポリビニルアルコールドライエマルションを得た。
【0047】
(試験例1)
上記実施例及び比較例で調製したドライエマルションにおけるCMEの保存安定性試験を、下記方法により行なった。
【0048】
[ドライエマルションの保存]
実施例及び比較例で得られたドライエマルションは、遮光ビンに入れ、パラフィルム(PARAFILM(登録商標))を使用して密栓し、シリカゲル入り気密容器に入れ、恒温振盪機(東京理科機械;「MMS−1」)中、25℃で保存した。
【0049】
[CME濃度の測定]
実施例及び比較例で得られたドライエマルションを、イオン交換水に添加し、振動発生装置(SCIENTIFIC INDSTRIES社製;VOLTEX−GENIE2)で30秒間撹拌して、エマルションとし、試料とした。なおこの際、エマルション中の各成分の含有量が凍結乾燥前と同じになるようにした。各試料につき、100μLを5mLのメスフラスコにとり、ジメチルスルホキシド(DMSO)でメスアップした。この溶液2mLに、後述の内部標準20μLを添加して、濃度測定用サンプルとした。
[内部標準の調製]
ビタミンAアセテート1500、油性(和光純薬)を酢酸エチルに溶解し、最終濃度16.2nMとした。
[CMEの測定]
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、各濃度測定用サンプル中のCME含有量を測定した。測定条件を以下に示す。
検出器:紫外可視分光光度計JASCO UV−2075 Plus(日本分光)
測定波長:254nm(CME)
注入量:20μL
カラム:COSMOSIL 4.6φ×150mm(ナカライテスク)
カラムヒーター:Sugai U−620 TYPE30V(スガイケミー株式会社)
カラム温度:40℃
移動相:リン酸二水素ナトリウム・二水和物(0.52g)、塩化ナトリウム(0.3g)をイオン交換水(50mL)に溶かし、メタノール(50mL)及びアセトニトリル(450mL)を加え、リン酸を用いてpH4.0に調製した。
ポンプ:JASCO PU−980(日本分光)
オートサンプラー:JASCO AS−2055 Plus(日本分光)
インテグレータ:JASCO BORWIN(日本分光)
データ処理システム:HSS−200(日本分光)
定量限界:0.5μM
【0050】
実施例及び比較例で得られたドライエマルションの25℃における保存安定性(CMEの経時残存率)を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3より明らかなように、本発明の実施例1で得られたドライエマルションにおいては、25℃で3ヶ月間保存した後においてもCMEはほぼ100%残存しており、非常に安定であることが示された。これに対して、比較例1〜比較例10で得られたドライエマルションにおいては、十分な長期保存安定性は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上の通り、本発明によれば、易水分解性で保存安定性に優れ、水系の皮膚外用剤に容易に利用できるCME含有ドライエマルションを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸及び/又はその1−プロパノール付加体、オリブ油、及びデキストリンを含む、CME含有ドライエマルション。
【請求項2】
下記工程(i)〜(iv)を含む製造方法により製造される、請求項1に記載のCME含有ドライエマルション。
(i)オリブ油に2−[3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルエチルトリデシル)−2H−1−ベンゾピラン−6−イル−2−ブテン二酸]−L−アスコルビン酸・1−プロパノール付加体を溶解し、CME含有オリブ油を調製する工程、
(ii)上記CME含有オリブ油と水とを界面活性剤の存在下に混合して乳化し、CME水中油型エマルションを調製する工程、
(iii)上記CME水中油型エマルションとデキストリンとを混合し、上記化合物及びデキストリンを含有するデキストリン含有CME水中油型エマルションを調製する工程、
(iv)上記デキストリン含有CME水中油型エマルションを凍結乾燥する工程。

【公開番号】特開2010−265229(P2010−265229A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119208(P2009−119208)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月15日 社団法人日本薬学会 九州支部発行の「平成20年度 第25回日本薬学会九州支部大会講演要旨集」に発表、平成20年12月6日 社団法人日本薬学会 九州支部主催の「第25回日本薬学会九州支部大会」において文書をもって発表、平成21年2月2日 http://nenkai.pharm.or.jp/129/pc/ipdfview.asp?i=3326を通じて発表、平成21年3月3日 国立大学法人 熊本大学主催の「平成20年度修士学位最終試験」において文書をもって発表、平成21年3月28日 社団法人日本薬学会主催の「日本薬学会第129年会」において文書をもって発表
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】