易滑性表面を有する改良された物品およびその製造方法
本発明は、滑剤を有する1つ以上の物品の表面における静止摩擦力および動摩擦力を軽減する方法に関する。当該方法は、少なくとも1つの表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程と、当該塗布表面にエネルギー源からエネルギー照射を行う照射工程とから成り、エネルギー照射がほぼ大気圧下におけるイオン化ガスプラズマ処理、ガンマ線照射処理または電子線照射処理である。滑剤を塗布する前に、少なくとも1つの表面にほぼ大気圧下におけるイオン化ガスプラズマ処理を行ってもよい。本発明は、更に、上記本発明の方法で得られる物品にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易滑性表面を有する改良された物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二つの物体表面が接触して滑動している場合、摩擦力は抗力であることが知られている。摩擦力は観察される滑動の仕方により種々の異なったタイプに分類される。静止摩擦力は、二つの接触している物体が静止状態から滑動し始めるのを抑えておくのに必要な力である。一方、動摩擦力は、二つの接触して滑動している物体の抗力である。二つの接触している物体に対し、これらの摩擦力を相対的に測定することにより、それぞれ静止摩擦係数および動摩擦係数として摩擦係数を求めることが出来る。換言すれば、摩擦係数は、2つの接触している表面が滑り出し始める瞬間に必要な力または一旦始まった滑りが維持されるのに必要な力に関係する。摩擦係数は、その表面の化学組成、物理的性状、表面粗度などの種々の要因により異なる。
【0003】
ゴムやエラストマーの様に、より柔らかく応力に追随しやすい物質の場合、そうでない物質と比較して摩擦係数値は高くなる(滑動するのに大きな摩擦抗力が生じる)。摩擦係数が低いほど摩擦抗力が小さくなり、より易滑面となる。例えば、鏡面状の鋼材表面の上のの摩擦係数は小さいが、木面の上の煉瓦の摩擦係数はより大きい。
【0004】
静止摩擦係数と動摩擦係数の違いは、「stick−slip」(静止−滑り)として知られている。stick−slip値は、前−後の滑動、静止−始動または非常にゆっくりとした滑動などの場合において重要である。このような場合において、2つの物体の片方に力が負荷され、接触している状態をとる。負荷されている力は、物体が動き始めるまで徐々に大きくなる。負荷されている力が静止摩擦力よりも大きくなり、物体が動き始める瞬間を「break−out」(ブレークアウト)と言う。動き始めてからは動摩擦力が支配する状態となる。静止摩擦力が動摩擦力よりも非常に大きい場合、滑動は突然急速に生じる。このような突然急速に生じる滑動はあまり好ましいものではない。さらに、ゆっくりとした滑動の場合、物体は最初の状態の様に再度静止することもあるかもしれないし、その後突然ブレークアウトするかもしれない。このような静止とブレークアウトがサイクル的に繰り返される現象を「sticking」(固着)と称される。
【0005】
2つの表面間の摩擦を小さくするために、両表面が滑り出す際に必要な力を減少させ、滑り出した後の滑り性を維持する様に滑剤が塗布される。しかしながら、長期間に渡り滑剤が塗布された2つの表面が接触していると、2つの表面間での押し潰される力により滑剤が接触表面から移動する。この現象により、さらに2つの表面間での押し潰される力が増大する。滑剤が接触表面から移動することにより、両表面が滑り出す際に必要な力が滑剤を塗布してない2つの表面間におけるそれに戻ってしまい(増加する)、両表面間の固着が生じる。この現象は、2つの表面がゆっくりと動く様な場合にも起こり得る。なぜならば、ゆっくりと動く場合は、滑剤が接触表面から移動するのに十分な時間があるからである。滑剤が移動して無くなった表面を物体表面が通過すると、滑剤リッチな表面と接触する様になる。滑剤リッチな表面は摩擦力が小さいので、物体表面は突然速く動くようになる。
【0006】
滑剤が接触表面から移動するのを防ぐために、種々の方法が提案されている。特に、塗布された滑剤にエネルギー源からのエネルギー照射処理を行うことにより、滑剤の接触表面からの移動を防ぐ方法が知られている。中でも、エネルギー源としてガスプラズマを使用する方法が多数知られている(例えば、特許文献1〜9参照)。しかしながら、これらの方法では、真空中でイオンガスプラズマを発生させ、塗布された滑剤の処理を行うため、規模の大きい生産が困難であるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4536179号明細書
【特許文献2】米国特許第4767414号明細書
【特許文献3】米国特許第4822632号明細書
【特許文献4】米国特許第4842889号明細書
【特許文献5】米国特許第4844986号明細書
【特許文献6】米国特許第4876113号明細書
【特許文献7】米国特許第4960609号明細書
【特許文献8】米国特許第5338312号明細書
【特許文献9】米国特許第5591481号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、ブレークアウト力(静止摩擦力)および動摩擦力を最小とし、滑剤の接触表面からの滲み出し移動を防ぐための方法で、真空でない条件で行える方法および当該方法で得られる物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題である方法および物品を提供するためになされたものである。本発明の第1の要旨は、滑剤を有する物品の表面を形成する方法であって、当該方法により上記滑剤を有する物品の表面における静止摩擦力および動摩擦力を軽減でき、当該方法は、1つ以上の表面を供する表面供給工程と、少なくとも1つの表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程と、当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行う照射工程とから成ることを特徴とする滑剤を有する物品の表面を形成する方法に存する。
【0010】
本発明の好ましい態様として、エネルギー源からのエネルギー照射が大気圧下でのイオン化ガスプラズマ照射である。他の好ましい態様として、エネルギー源として、コバルト60やセシウム137から放出されるガンマ線などの電離放射線を使用する。また、別の好ましい態様として、エネルギー源からのエネルギー照射が電子線照射である。
【0011】
本発明の他の好ましい態様として、滑剤を塗布して塗布表面を形成する前に、塗布されるべき表面に対しイオン化ガスプラズマ処理を行う。
【0012】
本発明の第2の要旨は、上記の少なくとも1つの方法で形成された表面を有し、2つ以上の表面において接触した際の表面の滑剤が移動することが減少し、互いに固着することが軽減された物品に存する。本発明の他の要旨として、物品表面の摩擦力を最小とする上記本発明の方法で製造された物品に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法および物品は、表面が接触して滑動する際の静止摩擦力および動摩擦力を軽減し、表面に存する滑剤の滲み出し移動を最小限とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の要旨および技術効果について以下の記載および図面によりさらに詳述する。まず、本発明において使用する用語および限定事項について以下に詳述する。
【0015】
大気圧:
本発明において、イオン化ガスプラズマを発生させる実施態様がある。ガスプラズマは種々の真空度において発生させることが出来るが、本発明においては基本的に大気圧下で発生させたプラズマを使用する。本発明における非真空または大気圧下の環境は意図的に作り出されるため、ガス流の性質上、大気圧とは離れた状態となることもある。例えば、シリンダー状物体内面に本発明を適用した場合、シリンダー内にガス流を流通させるため、シリンダーの外面より内面の方が圧力が高くなる場合がある。
【0016】
ブレークアウト(静止摩擦):
本発明において、本発明の易滑性物品表面と他の物品の表面とを接触させ、易滑性について検討する。両者の表面が接触していて且つ表面同士が滑らない状態から、両者の表面が滑るように片方の表面に応力を負荷する。応力は、表面が滑り出すのに対抗する摩擦力に打ち勝つように負荷する。負荷した応力が摩擦力に打ち勝って滑り出し始める瞬間をブレークアウトと定義する。
【0017】
チャター(Chatter):
2つの物体の接触表面の滑動が、stick−slip(静止−滑り)を繰り返す様な場合をチャターと称する。両表面間に滑剤が存在し、滑剤が両表面に押し潰される様な場合にチャターが発生し、摩擦係数の増大を引き起こす。そして、始動させるのにより大きな力を負荷する必要があり、突然大きな滑動が生じる。このようなstick−slip(静止−滑り)の繰り返しの際にチャターが生じる。
【0018】
摩擦係数:
摩擦係数は、2つの接触している表面が滑り出し始める瞬間に必要な力または一旦始まった滑りが維持されるのに必要な力に関係する。数学的には、対象物同士が押しあう法線または垂直の力で摩擦の抗力を除した比として定義される。
【0019】
電子線照射:
電子線照射は、電子銃を使用して電子線源から電子を発生させ、発生電子を加速し、焦点に集めて電子ビームとして形成される電離放射線である。電子ビームはパルスであっても連続であってもよい。
【0020】
摩擦:
摩擦は、2つの接触している表面が自由に滑り出せないようにするために必要な抗力である。
【0021】
機能化パーフルオロエーテル:
1つ以上の反応性官能基を有するパーフルオロエーテルである。
【0022】
ガンマ線照射:
ガンマ線は、不安定な原子の核崩壊において生じるα線粒子またはβ線粒子などのような電磁波の1種である。電磁波であるという点においてガンマ線は可視光線やX線と似ているが、エネルギーレベルが非常に高く、物質の奥まで浸透する。
【0023】
ガスプラズマ:
ガスに対して十分なエネルギーを供給すると、ガスの原子から電子が奪われ、イオンが生じる。プラズマは自由に移動できる電子とイオンから成り、電子と光子のスペクトルと同じである。
【0024】
イオン化(電離):
イオン化(電離)は化学結合を切断できる程の十分なエネルギーが存在することを意味する。
【0025】
滑剤溶液(塗布溶液):
滑剤は、表面に塗布する前に適当な溶媒で希釈してもよい。このような希釈した滑剤と溶媒の混合物を滑剤溶液とする。
【0026】
パーキング:
医療分野において使用される注射器は、使用または保存前に注射筒内に、しばしばピストンロッドが挿入された状態となっている。ピストンロッドが完全に挿入された状態とピストンロッドが抜かれた状態との状態間でかかる時間をパーキングタイムという。パーキングは上記のブレークアウト力を増加させる。
【0027】
パーフルオロポリエーテル:
パーフルオロポリエーテルは以下の一般式で示される化合物である。
【0028】
【化1】
【0029】
スティック−スリップ(静止−滑り):
静止摩擦係数と動摩擦係数との間の違いはスティック−スリップ(Stick−Slip、静止−滑り)として知られている。滑剤が存在する場合、高い静止(固着)力によって互いに接触している両表面間の滑剤が押しつけられる。表面が滑り出すために更なる大きな力が必要である。滑剤量が多い場所が上記の押し付けによって接触することにより、滑り出しは突然起こる。もし、両表面間で滑剤が再度押し付けられるような力を負荷すれば、両表面は静止(固着)し始める。再度動き始めるのに十分な力を負荷するまで、滑動は止る。このように、静止(固着)と滑りが交代することをスティック−スリップと定義する。
【0030】
スティックション:
上記のスティック−スリップ現象のすべてを総括してスティックションという。
【0031】
以下に示す本発明の実施態様は本発明の単なる例示と理解されるべきで、本発明は、以下の実施態様に対して種々の変更が可能であることは当業者にとって容易に理解できることである。従って、本発明は以下の実施態様に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。以下で規定される数値限定範囲は、その両端および中間をすべて含むものとする。
【0032】
本発明における接触する表面間の滑剤の移動を減少させる方法は、少なくとも1つの表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程と、当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行う照射工程とから成る。本発明の他の実施態様は、エネルギー照射がイオン化ガスプラズマであり、また、他の実施態様として、滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程前にも当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行うことである。塗布表面を形成する塗布工程前にほぼ大気圧下でエネルギー照射を行うことにより、表面を活性化(粗面化)でき、滑剤の滲み出し移動を容易に減少させることが出来る。本発明の方法により、表面からの滑剤の滲み出し移動を減少でき、ブレークアウト力(静止摩擦力)や滑動摩擦力(動摩擦力)を軽減することが出来る。また、本発明の方法は、目的とする接触表面の一表面に対して行われてもよい。
【0033】
目的物の表面への滑剤の塗布方法としては、公知の種々の方法採用することが出来、例えば、スプレー法、霧吹き法、スピン製膜法、ペイント法、浸析法、拭取り法、タンブリング法、超音波法などが挙げられる。本発明を実施するにおいて、滑剤の塗布方法は必須限定されない。
【0034】
滑剤としては、フッ素系化合物、ポリシロキサン系化合物などが使用できる。好ましい実施態様において、フッ素系化合物としてパーフルオロポリエーテル(PFPE)を使用する。市販品として入手できるPFPEとしては、Solvay Solexis社製滑剤「Fomblin M」、「Fomblin Y」及び「Fomblin Z」(夫々登録商標);E.I. du Pont de Nemours and Company社製「Krytox」(登録商標);ダイキン工業社製「Demnum」等が例示される。以下の表1にこれらの化学構造式を、表2に性状を夫々示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
本発明の他の実施態様において、滑剤として機能化PFPEを使用する。市販品として入手可能な機能化PFPEとしては、Solvay Solexis社製「Fomblin ZDOL」、「Fomblin TXS」、「Fomblin ZDIAC」、「Fluorolink А10」、「Fluorolink C」、「Fluorolink D」、「Fluorolink E」、「Fluorolink E10」、「Fluorolink F10」、「Fluorolink L」、「Fluorolink L10」、「Fluorolink S10」、「Fluorolink T」及び「Fluorolink T10」(全て登録商標)が例示され、表3にその性状を示す。
【0038】
【表3】
【0039】
本発明の他の実施態様において、滑剤として機能化PFPEエマルションを使用する。市販品として入手可能な機能化PFPEエマルションとしては、Solvay Solexis社製「Fomblin FE−20C」及び「Fomblin FE−20AG」(すべて登録商標)が例示される。
【0040】
本発明の他の実施態様において、滑剤としてクロロトリフルオロエチレンを使用する。市販品として入手可能なクロロトリフルオロエチレンとしては、表2に示すようなダイキン工業社製「Daifloil」が例示される。
【0041】
本発明の他の実施態様において、滑剤として使用するポリジメチルシロキサン化合物が、ジメチルポリシロキサン化学構造を有するシリコンオイルであり、以下の化学構造を有する。
【0042】
【化2】
【0043】
上記式中、ポリマー鎖中のシロキサン単位の繰返し数nは、シリコンオイルの分子量や粘度によって決定される。シロキサン単位の繰返し数nが増加すれば、ポリマー鎖は長くなり、分子量や粘度は増加する。使用可能な粘度範囲は、通常約5〜100,000センチストークスである。
【0044】
上記の滑剤は希釈せずそのまま塗布することも可能であるが、塗布表面上への過剰な滑剤塗布を防ぐためにも、塗布前に滑剤を希釈して塗布を行うことが好ましい。例えば、注射器の注射筒(外筒、バレル)内面に滑剤を塗布する場合、注射筒内に滑剤を満たし、そして過剰の滑剤を抜出すことにより塗布を行うことが好ましい。滑剤の粘度によっては、余剰の滑剤が注射筒内面に残ったり、注射筒内から滑剤を抜出すのに時間がかかったりする。塗布前に滑剤を希釈することにより、余剰の滑剤が表面に残存しないように調節できる。
【0045】
そのため、水分散体またはエマルションとして滑剤が塗布されることが好ましい。滑剤または複数の滑剤の混合物と相溶性が良い限り如何なる溶媒を希釈剤として使用することが出来る。例えば、滑剤としてパーフルオロポリエーテルを使用する場合、過フッ素系溶媒が使用できる。1種以上の滑剤と1種以上の溶媒との混合物は、滑剤−溶媒溶液として知られている。滑剤−溶媒溶液における滑剤の希釈割合または滑剤濃度は、塗布される表面の幾何学的形状、未希釈の滑剤の粘度、表面に塗布を行ってからエネルギー照射までの時間などの種々のファクターにより、広い範囲を取り得る。溶媒を使用して希釈した際の滑剤の濃度は、好ましくは約0.1重量%以上であり、例えば1、10、20、30、40及び50重量%である。また、溶媒を使用して希釈した際の滑剤の濃度は、好ましくは95重量%以下であり、例えば90、80、70及び60重量%である。エネルギー照射を行う前に、希釈溶媒を蒸発除去する。
【0046】
滑剤−溶媒溶液を使用した場合、滑剤−溶媒溶液を塗布した後でエネルギー照射を行う前に塗布表面を加熱することが、商品化からの観点から好ましい。これにより、希釈溶媒の蒸発除去を容易に行うことが出来る。本発明の方法により易滑性表面を有する改良された物品を大量生産する場合、表面に塗布を行ってからエネルギー照射までの時間を出来るだけ短縮することが必要である。それ故、加熱工程を設けることにより常温下よりもより速く希釈溶媒の蒸発除去を行うことが出来る。常温下でも蒸発除去できる希釈溶媒を使用する場合、加熱工程において約150℃まで加熱を行うことが出来る。塗布表面を有する物品の性状にも因るが、加熱工程は、通常、常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の範囲で行われる。加熱工程における加熱時間は、加熱方法、希釈溶媒の粘度および蒸気圧、塗布表面に塗布する滑剤−溶媒溶液の塗布厚み、塗布される表面の幾何学的形状などの種々のファクターに因る。加熱時間は、通常約0.5分以上で、例えば1、5、10及び20分であり、通常約60分以下で、例えば50、40及び30分である。
【0047】
塗布前の塗布液の希釈において、滑剤に添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、過酸化物やアゾニトリル等のフリーラジカル開始剤;フッ素系エラストマー粒子、シリカ粒子、テフロン(登録商標)粒子等の粘度調整剤;界面活性剤または濡れ剤;耐腐食剤;酸化防止剤;耐摩耗剤;緩衝剤;染料などが挙げられる。
【0048】
本発明の好ましい態様において、上記のエネルギー源はイオン化ガスプラズマである。上記のイオン化ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン及びクリプトン等の希ガスが挙げられる。さらに、上記のイオン化ガスとして、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素および水蒸気などの酸化ガス、窒素および水素などの非酸化ガスも挙げられる。これらのガスは2種以上混合して使用してもよい。
【0049】
イオン化ガスプラズマを発生させる際の条件(パラメータ)は特に限定されず、電極形状、電源の周波数、処理される表面の面積などを基に適宜選択すればよい。イオン化ガスプラズマ処理時間は、通常0.001秒〜10分、好ましくは0.01秒〜1分である。電源の周波数は、通常60ヘルツ〜2.6ギガヘルツ、好ましくは1キロヘルツ〜100キロヘルツ、更に好ましくは3キロヘルツ〜10キロヘルツである。電力は、通常、約10キロワット以下に設定される。
【0050】
本発明の他の実施態様において、滑剤を処理するのに必要なエネルギーを有する電離放射線に滑剤が塗布された表面を曝す。電離放射線源としては、ガンマ線照射、電子線照射などが挙げられる。代表的には、ガンマ線源としてコバルト60を使用した市販のガンマ線照射処理装置が使用されるが、セシウム137や他のガンマ線源を使用してもよい。市販の電子線照射装置は、電子銃を使用して電子線源から電子を発生させ、発生電子を加速し、焦点に集めて電子ビームとする。この電子ビームは処理表面に直接照射される。滑剤が塗布された表面に照射される電離放射線の量は、通常0.1〜20メガラッド、好ましくは0.5〜15メガラッド、更に好ましくは1〜10メガラッドである。
【実施例】
【0051】
実施例1:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤(両方ともSolvay Solexis社製)とを90:10の重量比で混合して滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない射出成形により成形されたポリプロピレン製の10cc注射筒内に、上記の調製した滑剤塗布液を満たし、排出した。注射筒を乾燥空気により風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒面に薄い滑剤層を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒内のアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5フィート3/分(cfm)であり、処理時間は10、20及び30秒と変化させた。
【0052】
次いで、注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着した。この注射器用ポンプはデジタル圧力ゲージを有し、注射器からの圧力について記録することが出来る。1cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図1及び2に示す。図1より明らかな様に、滑剤を塗布してプラズマ処理を行ったすべての注射筒内表面におけるブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。滑剤を塗布してプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約14〜18ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方滑剤を塗布してプラズマ処理を行った場合、すべてにおいてブレークアウトに必要な負荷力は約3〜4.5ポンドであり、チャターは認められなかった。図2は、さらに図1を拡大したもので、プラズマ処理時間による違いを示した。
【0053】
実施例2:
実施例1においてプラズマとしてアルゴン/ヘリウムの50/50の混合物を使用した以外は、実施例1と同様に「Fomblin M100(登録商標)」を滑剤として使用し、注射筒内表面に滑剤を塗布してプラズマ処理を行った。アルゴンガス及びヘリウムガスの流量は、夫々2.5cfmであり、処理時間は40秒とした。負荷力と挿入時間の関係を図1及び2に示す。
【0054】
実施例3:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M30(登録商標)」滑剤(両方ともSolvay Solexis社製)とを90:10の重量比で混合して滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない射出成形により成形されたポリプロピレン製の10cc注射筒内に、上記の調製した滑剤塗布液を満たし、排出した。注射筒を乾燥空気により風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒面に薄い滑剤層を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒内のアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5cfmであり、処理時間は10、20及び40秒と変化させた。
【0055】
次いで、注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着した。この注射器用ポンプはデジタル圧力ゲージを有し、注射器からの圧力について記録することが出来る。3cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図3に示す。図3より明らかな様に、滑剤を塗布してプラズマ処理を行ったすべての注射筒内表面におけるブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。滑剤を塗布してプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約17〜19ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方滑剤を塗布してプラズマ処理を行った場合、すべてにおいてブレークアウトに必要な負荷力は約3ポンドであり、チャターは認められなかった。
【0056】
実施例4:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin YR(登録商標)」滑剤(両方ともSolvay Solexis社製)とを90:10の重量比で混合して滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない射出成形により成形されたポリプロピレン製の10cc注射筒内に、上記の調製した滑剤塗布液を満たし、排出した。注射筒を乾燥空気により風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒内のアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5cfmであり、処理時間は30秒とした。
【0057】
次いで、注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着した。この注射器用ポンプはデジタル圧力ゲージを有し、注射器からの圧力について記録することが出来る。1cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図4に示す。図4より明らかな様に、滑剤を塗布してプラズマ処理を行った注射筒内表面におけるブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。滑剤を塗布してプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約6〜9ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方滑剤を塗布してプラズマ処理を行った場合、ブレークアウトに必要な負荷力は約4ポンドであり、チャターは認められなかった。
【0058】
実施例1において、プラズマ処理時間を3、5、10、20及び40秒とし、実施例1と同様の滑剤塗布、プラズマ処理およびピストンロッドの挿入を行った。ピストンロッドの挿入位置は同じにしたまま、調製した注射器を7日間室温で保管した。すなわち、7日間「パーキング」を行い、注射筒とピストンロッドとの間にかかる圧力により生じ得る滑剤の表面上の移動と同じ効果を塗布された滑剤に課したことになる。次いで、実施例1と同様に注射器用ポンプに装着し、ピストンロッドを押して測定を行った。注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図5に示す。ブレークアウトに必要な負荷力は約1.5〜3ポンドであり、チャターは認められなかった。得られた結果は、プラズマ処理から測定までの間に実質的に「パーキング」の無い前述の実施例で得られた結果と一貫していた。この結果より、プラズマ処理を行うことによって滑剤は固定され、「パーキング」時間が長くなった後においても、注射筒とピストンロッドとの間における滑剤の移動が防止されることは明白である。
【0059】
図6はsliding力(注射器のピストンロッドに負荷した力)およびブレークアウト力の関係をプラズマ処理時間の関数として示したプロット図である。この図より、ブレークアウト力はプラズマ処理時間に影響を受けることがわかる。プラズマ処理時間が10秒の際、ブレークアウト力は約1.5ポンドと最小になり、プラズマ処理時間がそれより長くなると約3ポンドまでブレークアウト力が増加する。注射器のピストンロッドに負荷した力も、プラズマ処理時間が長くなるにつれブレークアウト力が増加するという似たような傾向を若干示すが、それでも約1ポンド程度を維持している。
【0060】
実施例6:
滑剤としてシリコンオイルを予め塗布してある注射筒に対し、実施例1と同様の操作で、大気圧下でアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5cfmで、プラズマ処理時間は20及び40秒とした。注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着し、前述の実施例と同様の測定を行った。3cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図7に示す。図7より明らかな様に、シリコンオイルを塗布し大気圧下でプラズマ処理を行った注射筒を使用した場合は、静止−滑りチャターを本質的に有するシリコンオイルを塗布しただけの市販の注射筒を使用した場合に比べて、ブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。シリコンオイルを塗布しただけでプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約4.5ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方シリコンオイルを塗布してプラズマ処理を行った場合、ブレークアウトに必要な負荷力は約1.5〜2ポンドであり、チャターは認められなかった。
【0061】
実施例7:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤とを99:1及び98:2の重量比で混合した2種の滑剤塗布液を調製した。これらの滑剤塗布液を清浄な25ゲージ注射針にそれぞれ塗布し、風乾して溶媒を蒸発除去した。乾燥後、大気圧下で、注射針のアルゴンイオンプラズマ処理を15秒間行った。薬剤用密栓に注射針を貫通させる際に必要とされる力をデジタル圧力ゲージを使用して測定した。図8に、1)滑剤塗布もプラズマ処理も行わなかった場合、2)滑剤塗布は行ったがプラズマ処理は行わなかった場合、3)滑剤塗布もプラズマ処理も行った場合の夫々において調製した注射針における測定圧力(kg)を示す。プラズマ処理を行うことにより、貫通させる際に必要とされる力が激減した。滑剤塗布もプラズマ処理も行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は約0.7kgであった。滑剤塗布は行ったがプラズマ処理は行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は約0.5kgであり、チャターが認められた。滑剤塗布もプラズマ処理も行った場合の貫通させる際に必要とされる力は約0.2〜0.25kgであり、チャターは認められなかった。
【0062】
実施例8:
「Fomblin M100(登録商標)」滑剤と「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤とを60:40の重量比で混合した滑剤塗布液を調製した。「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」を使用して得られた滑剤塗布液を95:5の比で希釈した。この滑剤塗布液を清浄な21ゲージ注射針に塗布し、風乾して溶媒を蒸発除去し、注射針の表面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射針のヘリウムイオンプラズマ処理を5秒間行った。薬剤用密栓に注射針を貫通させる際に必要とされる力を計5回測定し、図9にその結果を示す。比較のため、シリコン塗布を行ったがプラズマ処理を行わなかった場合および滑剤塗布を行わなかった場合における薬剤用密栓に注射針を貫通させる際に必要とされる力も合わせて示す。プラズマ処理を行うことにより、貫通させる際に必要とされる力が激減した。滑剤塗布もプラズマ処理も行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は、第1回目の測定において約2.1ポンドであり、5回目以降は1.6ポンドに減少した。シリコン塗布は行ったがプラズマ処理は行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は、第1回目の測定において約0.7ポンドであり、第5回目以降は約1.1ポンドと増加した。「Fomblin M100(登録商標)」滑剤と「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤を使用した滑剤塗布を行い、プラズマ処理も行った場合の貫通させる際に必要とされる力は、第1回目の測定において約0.6ポンドであり、第5回目以降は約0.8ポンドと増加した。
【0063】
実施例9:
装填済み注射器として代表的に使用されるガラス注射器(容量10cc)を使用した。先ず、「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤と「Fomblin M30(登録商標)」滑剤と「Fomblin M60(登録商標)」滑剤とを25:25:50の重量比で配合した滑剤塗布液を調製した。なお、PFPE固体が2%含有されている濃度に調製した。この滑剤塗布液を注射筒の内側に塗布し、風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒のヘリウムイオンプラズマ処理を3秒間行った。次いで、注射筒にブチルゴムプランジャー及び23ゲージカニューレを装填し、3日間放置(パーキング)した。脱イオン水を注入するのに必要な力を測定した。図10に、その結果および、シリコンオイルが塗布され、プラズマ処理が行われていない市販の注射器の同様の測定結果を示す。プラズマ処理が行われている注射器において脱イオン水を注入するのに必要な力は、プラズマ処理が行われていない注射器のそれと比較して減少していた。シリコン塗布は行なわれていたがプラズマ処理は行わなかった場合のブレークアウト力は約1.6ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約1.2ポンドであった。滑剤塗布を行い、プラズマ処理も行った場合のブレークアウト力は約1.3ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約1ポンドであった。
【0064】
実施例10:
造影剤注入用の大型注射器(容量60cc)を使用した。注射筒はPET製で、ゴムプランジャーはブチルゴム製であった。造影剤としては、Amersham Health社製「Visipaque 320(登録商標)」を使用した。Visipaque 320(登録商標)は約70センチポイズの粘度を有する粘性液体であった。シリコンオイルが塗布された市販の注射器では、代表的な注入速度20〜30cc/秒の場合。100ポンドを超える力を必要とする。本実施例においては、先ず、「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤との重量比90:10の滑剤塗布液を調製した。注射筒内に滑剤塗布液を満たした後に抜き出した。風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒のアルゴン−ヘリウム(50:50)イオンプラズマ処理を20秒間行った。次いで、上記造影剤の注入に必要な力を測定した。図11に、注入速度35cc/秒までにおける注入に必要な力を示す。滑剤塗布およびプラズマ処理が行われている注射器における注入に必要な力は、シリコンオイルで塗布されプラズマ処理が行われていない注射器のそれと比較して明らかに減少していた。シリコンオイルで塗布されプラズマ処理が行われていない注射器では、上記の注入速度におけるブレークアウト力は約90〜170ポンドであった。滑剤塗布およびプラズマ処理が行われている注射器では、上記の注入速度におけるブレークアウト力は約10〜40ポンドであった。
【0065】
実施例11:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤との重量比90:10の滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない10ccポリプロピレン製注射筒に上記滑剤塗布液を満たし、排出した。風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。大気圧下で、注射筒の電離放射線処理を行った。線源としてはコバルト60を使用し、総照射量は3メガラッドであった。注射筒の電離放射線処理の注入に必要な力を上記と同様に測定した。図12に、注射筒に対して電離放射線処理を行った場合と行わなかった場合との注入速度1cc/分における注入に必要な力の測定結果を、図13に、注入速度10cc/分における同様の測定結果を、夫々示す。図12及び13から明らかなように、エネルギー源として電離放射線を使用して滑剤塗布表面処理を行った場合、ブレークアウト力は激減し、静止−滑りチャターは認められなくなった。注入速度が1cc/分の場合、滑剤塗布は行ったが電離放射線処理を行っていない場合のブレークアウト力は、約20〜22ポンドであり、チャターが繰り返し発生した。滑剤塗布も電離放射線処理を行った場合のブレークアウト力は、約2ポンドであり、チャターも消失した。注入速度が10cc/分の場合、滑剤塗布は行ったが電離放射線処理を行っていない場合のブレークアウト力は、約7〜10ポンドであり、チャターが繰り返し発生した。滑剤塗布も電離放射線処理を行った場合のブレークアウト力は、約3ポンドであり、チャターも消失した。
【0066】
実施例12:
装填済み注射器として代表的に使用されるガラス注射器(容量1cc)を使用した。先ず、「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤と「Fomblin M03(登録商標)」滑剤とを80:20の重量比で配合した滑剤塗布液を調製した。なお、PFPE固体が5%含有されている濃度に調製した。先ず注射筒を脱イオン水で洗浄した後に乾燥し、大気圧下でアルゴン/ヘリウム(50:50)イオンガスプラズマ処理を5秒間行った。イオンガスプラズマ処理後、滑剤塗布液を注射筒の内側に塗布し、加熱して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。次いで、大気圧下で、注射筒のヘリウムイオンガスプラズマ処理を5秒間行った。ブチルゴム栓と25ゲージ注射針とを装着し、注入速度1cc/分の脱イオン水の注入に必要な力を測定した。図14に、その結果と、市販のシリコンオイルで予め付滑処理し、プラズマ処理はされていないガラス注射器(容量1cc)において同様の測定を行った結果と対比して示す。プラズマ処理を行った注射器では、プラズマ処理を行っていない注射器と比較して必要とされる力が減少している。シリコンオイルで予め付滑処理し、プラズマ処理はされていないガラス注射器におけるブレークアウト力は約0.6ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約0.4ポンドであった。プラズマ処理および滑剤塗布を行った場合は、ブレークアウト力は約0.25ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約0.2ポンドであった。どちらの場合もチャターは生じなかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図2】図1の拡大図(縦軸のスケールを拡大)であり、プラズマ非処理は除いてある。
【図3】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図4】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、30秒の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図5】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った後、パーキングを1週間行った。
【図6】注射器のピストンロッドに負荷した力およびブレークアウト力の実験データの関係を、ほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理した処理時間の関数として示したプロット図である。
【図7】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図8】注射器の針部に負荷した力および注射針の挿入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の針部の内表面に種々の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。薬剤用密栓中に針部を挿入し、針部に負荷した力を測定した。
【図9】注射器の針部に負荷した力および注射針の挿入時間の実験データの関係を挿入回数と共に示したプロット図である。注射器の針部の内表面に種々の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。薬剤用密栓中に針部を挿入し、針部に負荷した力を測定した。
【図10】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒はガラス製であり、その内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図11】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。注入した薬剤は高粘性液体であった。
【図12】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でガンマ線照射処理を行った。
【図13】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でガンマ線照射処理を行った。
【図14】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒に所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った後に、その内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【技術分野】
【0001】
本発明は、易滑性表面を有する改良された物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二つの物体表面が接触して滑動している場合、摩擦力は抗力であることが知られている。摩擦力は観察される滑動の仕方により種々の異なったタイプに分類される。静止摩擦力は、二つの接触している物体が静止状態から滑動し始めるのを抑えておくのに必要な力である。一方、動摩擦力は、二つの接触して滑動している物体の抗力である。二つの接触している物体に対し、これらの摩擦力を相対的に測定することにより、それぞれ静止摩擦係数および動摩擦係数として摩擦係数を求めることが出来る。換言すれば、摩擦係数は、2つの接触している表面が滑り出し始める瞬間に必要な力または一旦始まった滑りが維持されるのに必要な力に関係する。摩擦係数は、その表面の化学組成、物理的性状、表面粗度などの種々の要因により異なる。
【0003】
ゴムやエラストマーの様に、より柔らかく応力に追随しやすい物質の場合、そうでない物質と比較して摩擦係数値は高くなる(滑動するのに大きな摩擦抗力が生じる)。摩擦係数が低いほど摩擦抗力が小さくなり、より易滑面となる。例えば、鏡面状の鋼材表面の上のの摩擦係数は小さいが、木面の上の煉瓦の摩擦係数はより大きい。
【0004】
静止摩擦係数と動摩擦係数の違いは、「stick−slip」(静止−滑り)として知られている。stick−slip値は、前−後の滑動、静止−始動または非常にゆっくりとした滑動などの場合において重要である。このような場合において、2つの物体の片方に力が負荷され、接触している状態をとる。負荷されている力は、物体が動き始めるまで徐々に大きくなる。負荷されている力が静止摩擦力よりも大きくなり、物体が動き始める瞬間を「break−out」(ブレークアウト)と言う。動き始めてからは動摩擦力が支配する状態となる。静止摩擦力が動摩擦力よりも非常に大きい場合、滑動は突然急速に生じる。このような突然急速に生じる滑動はあまり好ましいものではない。さらに、ゆっくりとした滑動の場合、物体は最初の状態の様に再度静止することもあるかもしれないし、その後突然ブレークアウトするかもしれない。このような静止とブレークアウトがサイクル的に繰り返される現象を「sticking」(固着)と称される。
【0005】
2つの表面間の摩擦を小さくするために、両表面が滑り出す際に必要な力を減少させ、滑り出した後の滑り性を維持する様に滑剤が塗布される。しかしながら、長期間に渡り滑剤が塗布された2つの表面が接触していると、2つの表面間での押し潰される力により滑剤が接触表面から移動する。この現象により、さらに2つの表面間での押し潰される力が増大する。滑剤が接触表面から移動することにより、両表面が滑り出す際に必要な力が滑剤を塗布してない2つの表面間におけるそれに戻ってしまい(増加する)、両表面間の固着が生じる。この現象は、2つの表面がゆっくりと動く様な場合にも起こり得る。なぜならば、ゆっくりと動く場合は、滑剤が接触表面から移動するのに十分な時間があるからである。滑剤が移動して無くなった表面を物体表面が通過すると、滑剤リッチな表面と接触する様になる。滑剤リッチな表面は摩擦力が小さいので、物体表面は突然速く動くようになる。
【0006】
滑剤が接触表面から移動するのを防ぐために、種々の方法が提案されている。特に、塗布された滑剤にエネルギー源からのエネルギー照射処理を行うことにより、滑剤の接触表面からの移動を防ぐ方法が知られている。中でも、エネルギー源としてガスプラズマを使用する方法が多数知られている(例えば、特許文献1〜9参照)。しかしながら、これらの方法では、真空中でイオンガスプラズマを発生させ、塗布された滑剤の処理を行うため、規模の大きい生産が困難であるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4536179号明細書
【特許文献2】米国特許第4767414号明細書
【特許文献3】米国特許第4822632号明細書
【特許文献4】米国特許第4842889号明細書
【特許文献5】米国特許第4844986号明細書
【特許文献6】米国特許第4876113号明細書
【特許文献7】米国特許第4960609号明細書
【特許文献8】米国特許第5338312号明細書
【特許文献9】米国特許第5591481号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、ブレークアウト力(静止摩擦力)および動摩擦力を最小とし、滑剤の接触表面からの滲み出し移動を防ぐための方法で、真空でない条件で行える方法および当該方法で得られる物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題である方法および物品を提供するためになされたものである。本発明の第1の要旨は、滑剤を有する物品の表面を形成する方法であって、当該方法により上記滑剤を有する物品の表面における静止摩擦力および動摩擦力を軽減でき、当該方法は、1つ以上の表面を供する表面供給工程と、少なくとも1つの表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程と、当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行う照射工程とから成ることを特徴とする滑剤を有する物品の表面を形成する方法に存する。
【0010】
本発明の好ましい態様として、エネルギー源からのエネルギー照射が大気圧下でのイオン化ガスプラズマ照射である。他の好ましい態様として、エネルギー源として、コバルト60やセシウム137から放出されるガンマ線などの電離放射線を使用する。また、別の好ましい態様として、エネルギー源からのエネルギー照射が電子線照射である。
【0011】
本発明の他の好ましい態様として、滑剤を塗布して塗布表面を形成する前に、塗布されるべき表面に対しイオン化ガスプラズマ処理を行う。
【0012】
本発明の第2の要旨は、上記の少なくとも1つの方法で形成された表面を有し、2つ以上の表面において接触した際の表面の滑剤が移動することが減少し、互いに固着することが軽減された物品に存する。本発明の他の要旨として、物品表面の摩擦力を最小とする上記本発明の方法で製造された物品に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法および物品は、表面が接触して滑動する際の静止摩擦力および動摩擦力を軽減し、表面に存する滑剤の滲み出し移動を最小限とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の要旨および技術効果について以下の記載および図面によりさらに詳述する。まず、本発明において使用する用語および限定事項について以下に詳述する。
【0015】
大気圧:
本発明において、イオン化ガスプラズマを発生させる実施態様がある。ガスプラズマは種々の真空度において発生させることが出来るが、本発明においては基本的に大気圧下で発生させたプラズマを使用する。本発明における非真空または大気圧下の環境は意図的に作り出されるため、ガス流の性質上、大気圧とは離れた状態となることもある。例えば、シリンダー状物体内面に本発明を適用した場合、シリンダー内にガス流を流通させるため、シリンダーの外面より内面の方が圧力が高くなる場合がある。
【0016】
ブレークアウト(静止摩擦):
本発明において、本発明の易滑性物品表面と他の物品の表面とを接触させ、易滑性について検討する。両者の表面が接触していて且つ表面同士が滑らない状態から、両者の表面が滑るように片方の表面に応力を負荷する。応力は、表面が滑り出すのに対抗する摩擦力に打ち勝つように負荷する。負荷した応力が摩擦力に打ち勝って滑り出し始める瞬間をブレークアウトと定義する。
【0017】
チャター(Chatter):
2つの物体の接触表面の滑動が、stick−slip(静止−滑り)を繰り返す様な場合をチャターと称する。両表面間に滑剤が存在し、滑剤が両表面に押し潰される様な場合にチャターが発生し、摩擦係数の増大を引き起こす。そして、始動させるのにより大きな力を負荷する必要があり、突然大きな滑動が生じる。このようなstick−slip(静止−滑り)の繰り返しの際にチャターが生じる。
【0018】
摩擦係数:
摩擦係数は、2つの接触している表面が滑り出し始める瞬間に必要な力または一旦始まった滑りが維持されるのに必要な力に関係する。数学的には、対象物同士が押しあう法線または垂直の力で摩擦の抗力を除した比として定義される。
【0019】
電子線照射:
電子線照射は、電子銃を使用して電子線源から電子を発生させ、発生電子を加速し、焦点に集めて電子ビームとして形成される電離放射線である。電子ビームはパルスであっても連続であってもよい。
【0020】
摩擦:
摩擦は、2つの接触している表面が自由に滑り出せないようにするために必要な抗力である。
【0021】
機能化パーフルオロエーテル:
1つ以上の反応性官能基を有するパーフルオロエーテルである。
【0022】
ガンマ線照射:
ガンマ線は、不安定な原子の核崩壊において生じるα線粒子またはβ線粒子などのような電磁波の1種である。電磁波であるという点においてガンマ線は可視光線やX線と似ているが、エネルギーレベルが非常に高く、物質の奥まで浸透する。
【0023】
ガスプラズマ:
ガスに対して十分なエネルギーを供給すると、ガスの原子から電子が奪われ、イオンが生じる。プラズマは自由に移動できる電子とイオンから成り、電子と光子のスペクトルと同じである。
【0024】
イオン化(電離):
イオン化(電離)は化学結合を切断できる程の十分なエネルギーが存在することを意味する。
【0025】
滑剤溶液(塗布溶液):
滑剤は、表面に塗布する前に適当な溶媒で希釈してもよい。このような希釈した滑剤と溶媒の混合物を滑剤溶液とする。
【0026】
パーキング:
医療分野において使用される注射器は、使用または保存前に注射筒内に、しばしばピストンロッドが挿入された状態となっている。ピストンロッドが完全に挿入された状態とピストンロッドが抜かれた状態との状態間でかかる時間をパーキングタイムという。パーキングは上記のブレークアウト力を増加させる。
【0027】
パーフルオロポリエーテル:
パーフルオロポリエーテルは以下の一般式で示される化合物である。
【0028】
【化1】
【0029】
スティック−スリップ(静止−滑り):
静止摩擦係数と動摩擦係数との間の違いはスティック−スリップ(Stick−Slip、静止−滑り)として知られている。滑剤が存在する場合、高い静止(固着)力によって互いに接触している両表面間の滑剤が押しつけられる。表面が滑り出すために更なる大きな力が必要である。滑剤量が多い場所が上記の押し付けによって接触することにより、滑り出しは突然起こる。もし、両表面間で滑剤が再度押し付けられるような力を負荷すれば、両表面は静止(固着)し始める。再度動き始めるのに十分な力を負荷するまで、滑動は止る。このように、静止(固着)と滑りが交代することをスティック−スリップと定義する。
【0030】
スティックション:
上記のスティック−スリップ現象のすべてを総括してスティックションという。
【0031】
以下に示す本発明の実施態様は本発明の単なる例示と理解されるべきで、本発明は、以下の実施態様に対して種々の変更が可能であることは当業者にとって容易に理解できることである。従って、本発明は以下の実施態様に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。以下で規定される数値限定範囲は、その両端および中間をすべて含むものとする。
【0032】
本発明における接触する表面間の滑剤の移動を減少させる方法は、少なくとも1つの表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程と、当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行う照射工程とから成る。本発明の他の実施態様は、エネルギー照射がイオン化ガスプラズマであり、また、他の実施態様として、滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程前にも当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行うことである。塗布表面を形成する塗布工程前にほぼ大気圧下でエネルギー照射を行うことにより、表面を活性化(粗面化)でき、滑剤の滲み出し移動を容易に減少させることが出来る。本発明の方法により、表面からの滑剤の滲み出し移動を減少でき、ブレークアウト力(静止摩擦力)や滑動摩擦力(動摩擦力)を軽減することが出来る。また、本発明の方法は、目的とする接触表面の一表面に対して行われてもよい。
【0033】
目的物の表面への滑剤の塗布方法としては、公知の種々の方法採用することが出来、例えば、スプレー法、霧吹き法、スピン製膜法、ペイント法、浸析法、拭取り法、タンブリング法、超音波法などが挙げられる。本発明を実施するにおいて、滑剤の塗布方法は必須限定されない。
【0034】
滑剤としては、フッ素系化合物、ポリシロキサン系化合物などが使用できる。好ましい実施態様において、フッ素系化合物としてパーフルオロポリエーテル(PFPE)を使用する。市販品として入手できるPFPEとしては、Solvay Solexis社製滑剤「Fomblin M」、「Fomblin Y」及び「Fomblin Z」(夫々登録商標);E.I. du Pont de Nemours and Company社製「Krytox」(登録商標);ダイキン工業社製「Demnum」等が例示される。以下の表1にこれらの化学構造式を、表2に性状を夫々示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
本発明の他の実施態様において、滑剤として機能化PFPEを使用する。市販品として入手可能な機能化PFPEとしては、Solvay Solexis社製「Fomblin ZDOL」、「Fomblin TXS」、「Fomblin ZDIAC」、「Fluorolink А10」、「Fluorolink C」、「Fluorolink D」、「Fluorolink E」、「Fluorolink E10」、「Fluorolink F10」、「Fluorolink L」、「Fluorolink L10」、「Fluorolink S10」、「Fluorolink T」及び「Fluorolink T10」(全て登録商標)が例示され、表3にその性状を示す。
【0038】
【表3】
【0039】
本発明の他の実施態様において、滑剤として機能化PFPEエマルションを使用する。市販品として入手可能な機能化PFPEエマルションとしては、Solvay Solexis社製「Fomblin FE−20C」及び「Fomblin FE−20AG」(すべて登録商標)が例示される。
【0040】
本発明の他の実施態様において、滑剤としてクロロトリフルオロエチレンを使用する。市販品として入手可能なクロロトリフルオロエチレンとしては、表2に示すようなダイキン工業社製「Daifloil」が例示される。
【0041】
本発明の他の実施態様において、滑剤として使用するポリジメチルシロキサン化合物が、ジメチルポリシロキサン化学構造を有するシリコンオイルであり、以下の化学構造を有する。
【0042】
【化2】
【0043】
上記式中、ポリマー鎖中のシロキサン単位の繰返し数nは、シリコンオイルの分子量や粘度によって決定される。シロキサン単位の繰返し数nが増加すれば、ポリマー鎖は長くなり、分子量や粘度は増加する。使用可能な粘度範囲は、通常約5〜100,000センチストークスである。
【0044】
上記の滑剤は希釈せずそのまま塗布することも可能であるが、塗布表面上への過剰な滑剤塗布を防ぐためにも、塗布前に滑剤を希釈して塗布を行うことが好ましい。例えば、注射器の注射筒(外筒、バレル)内面に滑剤を塗布する場合、注射筒内に滑剤を満たし、そして過剰の滑剤を抜出すことにより塗布を行うことが好ましい。滑剤の粘度によっては、余剰の滑剤が注射筒内面に残ったり、注射筒内から滑剤を抜出すのに時間がかかったりする。塗布前に滑剤を希釈することにより、余剰の滑剤が表面に残存しないように調節できる。
【0045】
そのため、水分散体またはエマルションとして滑剤が塗布されることが好ましい。滑剤または複数の滑剤の混合物と相溶性が良い限り如何なる溶媒を希釈剤として使用することが出来る。例えば、滑剤としてパーフルオロポリエーテルを使用する場合、過フッ素系溶媒が使用できる。1種以上の滑剤と1種以上の溶媒との混合物は、滑剤−溶媒溶液として知られている。滑剤−溶媒溶液における滑剤の希釈割合または滑剤濃度は、塗布される表面の幾何学的形状、未希釈の滑剤の粘度、表面に塗布を行ってからエネルギー照射までの時間などの種々のファクターにより、広い範囲を取り得る。溶媒を使用して希釈した際の滑剤の濃度は、好ましくは約0.1重量%以上であり、例えば1、10、20、30、40及び50重量%である。また、溶媒を使用して希釈した際の滑剤の濃度は、好ましくは95重量%以下であり、例えば90、80、70及び60重量%である。エネルギー照射を行う前に、希釈溶媒を蒸発除去する。
【0046】
滑剤−溶媒溶液を使用した場合、滑剤−溶媒溶液を塗布した後でエネルギー照射を行う前に塗布表面を加熱することが、商品化からの観点から好ましい。これにより、希釈溶媒の蒸発除去を容易に行うことが出来る。本発明の方法により易滑性表面を有する改良された物品を大量生産する場合、表面に塗布を行ってからエネルギー照射までの時間を出来るだけ短縮することが必要である。それ故、加熱工程を設けることにより常温下よりもより速く希釈溶媒の蒸発除去を行うことが出来る。常温下でも蒸発除去できる希釈溶媒を使用する場合、加熱工程において約150℃まで加熱を行うことが出来る。塗布表面を有する物品の性状にも因るが、加熱工程は、通常、常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の範囲で行われる。加熱工程における加熱時間は、加熱方法、希釈溶媒の粘度および蒸気圧、塗布表面に塗布する滑剤−溶媒溶液の塗布厚み、塗布される表面の幾何学的形状などの種々のファクターに因る。加熱時間は、通常約0.5分以上で、例えば1、5、10及び20分であり、通常約60分以下で、例えば50、40及び30分である。
【0047】
塗布前の塗布液の希釈において、滑剤に添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、過酸化物やアゾニトリル等のフリーラジカル開始剤;フッ素系エラストマー粒子、シリカ粒子、テフロン(登録商標)粒子等の粘度調整剤;界面活性剤または濡れ剤;耐腐食剤;酸化防止剤;耐摩耗剤;緩衝剤;染料などが挙げられる。
【0048】
本発明の好ましい態様において、上記のエネルギー源はイオン化ガスプラズマである。上記のイオン化ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン及びクリプトン等の希ガスが挙げられる。さらに、上記のイオン化ガスとして、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素および水蒸気などの酸化ガス、窒素および水素などの非酸化ガスも挙げられる。これらのガスは2種以上混合して使用してもよい。
【0049】
イオン化ガスプラズマを発生させる際の条件(パラメータ)は特に限定されず、電極形状、電源の周波数、処理される表面の面積などを基に適宜選択すればよい。イオン化ガスプラズマ処理時間は、通常0.001秒〜10分、好ましくは0.01秒〜1分である。電源の周波数は、通常60ヘルツ〜2.6ギガヘルツ、好ましくは1キロヘルツ〜100キロヘルツ、更に好ましくは3キロヘルツ〜10キロヘルツである。電力は、通常、約10キロワット以下に設定される。
【0050】
本発明の他の実施態様において、滑剤を処理するのに必要なエネルギーを有する電離放射線に滑剤が塗布された表面を曝す。電離放射線源としては、ガンマ線照射、電子線照射などが挙げられる。代表的には、ガンマ線源としてコバルト60を使用した市販のガンマ線照射処理装置が使用されるが、セシウム137や他のガンマ線源を使用してもよい。市販の電子線照射装置は、電子銃を使用して電子線源から電子を発生させ、発生電子を加速し、焦点に集めて電子ビームとする。この電子ビームは処理表面に直接照射される。滑剤が塗布された表面に照射される電離放射線の量は、通常0.1〜20メガラッド、好ましくは0.5〜15メガラッド、更に好ましくは1〜10メガラッドである。
【実施例】
【0051】
実施例1:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤(両方ともSolvay Solexis社製)とを90:10の重量比で混合して滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない射出成形により成形されたポリプロピレン製の10cc注射筒内に、上記の調製した滑剤塗布液を満たし、排出した。注射筒を乾燥空気により風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒面に薄い滑剤層を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒内のアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5フィート3/分(cfm)であり、処理時間は10、20及び30秒と変化させた。
【0052】
次いで、注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着した。この注射器用ポンプはデジタル圧力ゲージを有し、注射器からの圧力について記録することが出来る。1cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図1及び2に示す。図1より明らかな様に、滑剤を塗布してプラズマ処理を行ったすべての注射筒内表面におけるブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。滑剤を塗布してプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約14〜18ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方滑剤を塗布してプラズマ処理を行った場合、すべてにおいてブレークアウトに必要な負荷力は約3〜4.5ポンドであり、チャターは認められなかった。図2は、さらに図1を拡大したもので、プラズマ処理時間による違いを示した。
【0053】
実施例2:
実施例1においてプラズマとしてアルゴン/ヘリウムの50/50の混合物を使用した以外は、実施例1と同様に「Fomblin M100(登録商標)」を滑剤として使用し、注射筒内表面に滑剤を塗布してプラズマ処理を行った。アルゴンガス及びヘリウムガスの流量は、夫々2.5cfmであり、処理時間は40秒とした。負荷力と挿入時間の関係を図1及び2に示す。
【0054】
実施例3:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M30(登録商標)」滑剤(両方ともSolvay Solexis社製)とを90:10の重量比で混合して滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない射出成形により成形されたポリプロピレン製の10cc注射筒内に、上記の調製した滑剤塗布液を満たし、排出した。注射筒を乾燥空気により風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒面に薄い滑剤層を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒内のアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5cfmであり、処理時間は10、20及び40秒と変化させた。
【0055】
次いで、注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着した。この注射器用ポンプはデジタル圧力ゲージを有し、注射器からの圧力について記録することが出来る。3cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図3に示す。図3より明らかな様に、滑剤を塗布してプラズマ処理を行ったすべての注射筒内表面におけるブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。滑剤を塗布してプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約17〜19ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方滑剤を塗布してプラズマ処理を行った場合、すべてにおいてブレークアウトに必要な負荷力は約3ポンドであり、チャターは認められなかった。
【0056】
実施例4:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin YR(登録商標)」滑剤(両方ともSolvay Solexis社製)とを90:10の重量比で混合して滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない射出成形により成形されたポリプロピレン製の10cc注射筒内に、上記の調製した滑剤塗布液を満たし、排出した。注射筒を乾燥空気により風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒内のアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5cfmであり、処理時間は30秒とした。
【0057】
次いで、注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着した。この注射器用ポンプはデジタル圧力ゲージを有し、注射器からの圧力について記録することが出来る。1cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図4に示す。図4より明らかな様に、滑剤を塗布してプラズマ処理を行った注射筒内表面におけるブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。滑剤を塗布してプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約6〜9ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方滑剤を塗布してプラズマ処理を行った場合、ブレークアウトに必要な負荷力は約4ポンドであり、チャターは認められなかった。
【0058】
実施例1において、プラズマ処理時間を3、5、10、20及び40秒とし、実施例1と同様の滑剤塗布、プラズマ処理およびピストンロッドの挿入を行った。ピストンロッドの挿入位置は同じにしたまま、調製した注射器を7日間室温で保管した。すなわち、7日間「パーキング」を行い、注射筒とピストンロッドとの間にかかる圧力により生じ得る滑剤の表面上の移動と同じ効果を塗布された滑剤に課したことになる。次いで、実施例1と同様に注射器用ポンプに装着し、ピストンロッドを押して測定を行った。注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図5に示す。ブレークアウトに必要な負荷力は約1.5〜3ポンドであり、チャターは認められなかった。得られた結果は、プラズマ処理から測定までの間に実質的に「パーキング」の無い前述の実施例で得られた結果と一貫していた。この結果より、プラズマ処理を行うことによって滑剤は固定され、「パーキング」時間が長くなった後においても、注射筒とピストンロッドとの間における滑剤の移動が防止されることは明白である。
【0059】
図6はsliding力(注射器のピストンロッドに負荷した力)およびブレークアウト力の関係をプラズマ処理時間の関数として示したプロット図である。この図より、ブレークアウト力はプラズマ処理時間に影響を受けることがわかる。プラズマ処理時間が10秒の際、ブレークアウト力は約1.5ポンドと最小になり、プラズマ処理時間がそれより長くなると約3ポンドまでブレークアウト力が増加する。注射器のピストンロッドに負荷した力も、プラズマ処理時間が長くなるにつれブレークアウト力が増加するという似たような傾向を若干示すが、それでも約1ポンド程度を維持している。
【0060】
実施例6:
滑剤としてシリコンオイルを予め塗布してある注射筒に対し、実施例1と同様の操作で、大気圧下でアルゴンイオンプラズマ処理を行った。アルゴンガスの流量は5cfmで、プラズマ処理時間は20及び40秒とした。注射筒に滑剤が塗布されていないピストンロッドを挿入し、更に、モーターを備えた注射器用ポンプに装着し、前述の実施例と同様の測定を行った。3cc/分の速さでピストンロッドを押して注射筒内に挿入する際に必要な負荷力と挿入時間の関係を図7に示す。図7より明らかな様に、シリコンオイルを塗布し大気圧下でプラズマ処理を行った注射筒を使用した場合は、静止−滑りチャターを本質的に有するシリコンオイルを塗布しただけの市販の注射筒を使用した場合に比べて、ブレークアウト力および静止−滑りチャターは劇的に減少した。シリコンオイルを塗布しただけでプラズマ処理を行っていない場合は、ブレークアウトに約4.5ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。一方シリコンオイルを塗布してプラズマ処理を行った場合、ブレークアウトに必要な負荷力は約1.5〜2ポンドであり、チャターは認められなかった。
【0061】
実施例7:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤とを99:1及び98:2の重量比で混合した2種の滑剤塗布液を調製した。これらの滑剤塗布液を清浄な25ゲージ注射針にそれぞれ塗布し、風乾して溶媒を蒸発除去した。乾燥後、大気圧下で、注射針のアルゴンイオンプラズマ処理を15秒間行った。薬剤用密栓に注射針を貫通させる際に必要とされる力をデジタル圧力ゲージを使用して測定した。図8に、1)滑剤塗布もプラズマ処理も行わなかった場合、2)滑剤塗布は行ったがプラズマ処理は行わなかった場合、3)滑剤塗布もプラズマ処理も行った場合の夫々において調製した注射針における測定圧力(kg)を示す。プラズマ処理を行うことにより、貫通させる際に必要とされる力が激減した。滑剤塗布もプラズマ処理も行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は約0.7kgであった。滑剤塗布は行ったがプラズマ処理は行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は約0.5kgであり、チャターが認められた。滑剤塗布もプラズマ処理も行った場合の貫通させる際に必要とされる力は約0.2〜0.25kgであり、チャターは認められなかった。
【0062】
実施例8:
「Fomblin M100(登録商標)」滑剤と「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤とを60:40の重量比で混合した滑剤塗布液を調製した。「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」を使用して得られた滑剤塗布液を95:5の比で希釈した。この滑剤塗布液を清浄な21ゲージ注射針に塗布し、風乾して溶媒を蒸発除去し、注射針の表面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射針のヘリウムイオンプラズマ処理を5秒間行った。薬剤用密栓に注射針を貫通させる際に必要とされる力を計5回測定し、図9にその結果を示す。比較のため、シリコン塗布を行ったがプラズマ処理を行わなかった場合および滑剤塗布を行わなかった場合における薬剤用密栓に注射針を貫通させる際に必要とされる力も合わせて示す。プラズマ処理を行うことにより、貫通させる際に必要とされる力が激減した。滑剤塗布もプラズマ処理も行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は、第1回目の測定において約2.1ポンドであり、5回目以降は1.6ポンドに減少した。シリコン塗布は行ったがプラズマ処理は行わなかった場合の貫通させる際に必要とされる力は、第1回目の測定において約0.7ポンドであり、第5回目以降は約1.1ポンドと増加した。「Fomblin M100(登録商標)」滑剤と「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤を使用した滑剤塗布を行い、プラズマ処理も行った場合の貫通させる際に必要とされる力は、第1回目の測定において約0.6ポンドであり、第5回目以降は約0.8ポンドと増加した。
【0063】
実施例9:
装填済み注射器として代表的に使用されるガラス注射器(容量10cc)を使用した。先ず、「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤と「Fomblin M30(登録商標)」滑剤と「Fomblin M60(登録商標)」滑剤とを25:25:50の重量比で配合した滑剤塗布液を調製した。なお、PFPE固体が2%含有されている濃度に調製した。この滑剤塗布液を注射筒の内側に塗布し、風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒のヘリウムイオンプラズマ処理を3秒間行った。次いで、注射筒にブチルゴムプランジャー及び23ゲージカニューレを装填し、3日間放置(パーキング)した。脱イオン水を注入するのに必要な力を測定した。図10に、その結果および、シリコンオイルが塗布され、プラズマ処理が行われていない市販の注射器の同様の測定結果を示す。プラズマ処理が行われている注射器において脱イオン水を注入するのに必要な力は、プラズマ処理が行われていない注射器のそれと比較して減少していた。シリコン塗布は行なわれていたがプラズマ処理は行わなかった場合のブレークアウト力は約1.6ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約1.2ポンドであった。滑剤塗布を行い、プラズマ処理も行った場合のブレークアウト力は約1.3ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約1ポンドであった。
【0064】
実施例10:
造影剤注入用の大型注射器(容量60cc)を使用した。注射筒はPET製で、ゴムプランジャーはブチルゴム製であった。造影剤としては、Amersham Health社製「Visipaque 320(登録商標)」を使用した。Visipaque 320(登録商標)は約70センチポイズの粘度を有する粘性液体であった。シリコンオイルが塗布された市販の注射器では、代表的な注入速度20〜30cc/秒の場合。100ポンドを超える力を必要とする。本実施例においては、先ず、「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤との重量比90:10の滑剤塗布液を調製した。注射筒内に滑剤塗布液を満たした後に抜き出した。風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。乾燥後、大気圧下で、注射筒のアルゴン−ヘリウム(50:50)イオンプラズマ処理を20秒間行った。次いで、上記造影剤の注入に必要な力を測定した。図11に、注入速度35cc/秒までにおける注入に必要な力を示す。滑剤塗布およびプラズマ処理が行われている注射器における注入に必要な力は、シリコンオイルで塗布されプラズマ処理が行われていない注射器のそれと比較して明らかに減少していた。シリコンオイルで塗布されプラズマ処理が行われていない注射器では、上記の注入速度におけるブレークアウト力は約90〜170ポンドであった。滑剤塗布およびプラズマ処理が行われている注射器では、上記の注入速度におけるブレークアウト力は約10〜40ポンドであった。
【0065】
実施例11:
「Fomblin Perfluorosolve(商標)PFS−1」と「Fomblin M100(登録商標)」滑剤との重量比90:10の滑剤塗布液を調製した。滑剤が塗布されていない10ccポリプロピレン製注射筒に上記滑剤塗布液を満たし、排出した。風乾して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。大気圧下で、注射筒の電離放射線処理を行った。線源としてはコバルト60を使用し、総照射量は3メガラッドであった。注射筒の電離放射線処理の注入に必要な力を上記と同様に測定した。図12に、注射筒に対して電離放射線処理を行った場合と行わなかった場合との注入速度1cc/分における注入に必要な力の測定結果を、図13に、注入速度10cc/分における同様の測定結果を、夫々示す。図12及び13から明らかなように、エネルギー源として電離放射線を使用して滑剤塗布表面処理を行った場合、ブレークアウト力は激減し、静止−滑りチャターは認められなくなった。注入速度が1cc/分の場合、滑剤塗布は行ったが電離放射線処理を行っていない場合のブレークアウト力は、約20〜22ポンドであり、チャターが繰り返し発生した。滑剤塗布も電離放射線処理を行った場合のブレークアウト力は、約2ポンドであり、チャターも消失した。注入速度が10cc/分の場合、滑剤塗布は行ったが電離放射線処理を行っていない場合のブレークアウト力は、約7〜10ポンドであり、チャターが繰り返し発生した。滑剤塗布も電離放射線処理を行った場合のブレークアウト力は、約3ポンドであり、チャターも消失した。
【0066】
実施例12:
装填済み注射器として代表的に使用されるガラス注射器(容量1cc)を使用した。先ず、「Fomblin ZDOL(登録商標)」滑剤と「Fomblin M03(登録商標)」滑剤とを80:20の重量比で配合した滑剤塗布液を調製した。なお、PFPE固体が5%含有されている濃度に調製した。先ず注射筒を脱イオン水で洗浄した後に乾燥し、大気圧下でアルゴン/ヘリウム(50:50)イオンガスプラズマ処理を5秒間行った。イオンガスプラズマ処理後、滑剤塗布液を注射筒の内側に塗布し、加熱して溶媒を蒸発除去し、注射筒の内側面に薄い滑剤塗膜を形成した。次いで、大気圧下で、注射筒のヘリウムイオンガスプラズマ処理を5秒間行った。ブチルゴム栓と25ゲージ注射針とを装着し、注入速度1cc/分の脱イオン水の注入に必要な力を測定した。図14に、その結果と、市販のシリコンオイルで予め付滑処理し、プラズマ処理はされていないガラス注射器(容量1cc)において同様の測定を行った結果と対比して示す。プラズマ処理を行った注射器では、プラズマ処理を行っていない注射器と比較して必要とされる力が減少している。シリコンオイルで予め付滑処理し、プラズマ処理はされていないガラス注射器におけるブレークアウト力は約0.6ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約0.4ポンドであった。プラズマ処理および滑剤塗布を行った場合は、ブレークアウト力は約0.25ポンドであり、定常滑動に必要な力(動摩擦力)は約0.2ポンドであった。どちらの場合もチャターは生じなかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図2】図1の拡大図(縦軸のスケールを拡大)であり、プラズマ非処理は除いてある。
【図3】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図4】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、30秒の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図5】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入量の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った後、パーキングを1週間行った。
【図6】注射器のピストンロッドに負荷した力およびブレークアウト力の実験データの関係を、ほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理した処理時間の関数として示したプロット図である。
【図7】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、種々の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図8】注射器の針部に負荷した力および注射針の挿入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の針部の内表面に種々の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。薬剤用密栓中に針部を挿入し、針部に負荷した力を測定した。
【図9】注射器の針部に負荷した力および注射針の挿入時間の実験データの関係を挿入回数と共に示したプロット図である。注射器の針部の内表面に種々の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。薬剤用密栓中に針部を挿入し、針部に負荷した力を測定した。
【図10】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒はガラス製であり、その内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【図11】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。注入した薬剤は高粘性液体であった。
【図12】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でガンマ線照射処理を行った。
【図13】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒の内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でガンマ線照射処理を行った。
【図14】注射器のピストンロッドに負荷した力および注入時間の実験データの関係を示したプロット図である。注射器の注射筒に所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った後に、その内表面に所定の滑剤を塗布し、所定の処理時間でほぼ大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理を行った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑剤を有する物品の表面を形成する方法であって、当該方法により上記滑剤を有する物品の表面における静止摩擦力および動摩擦力を軽減でき、当該方法は、1つ以上の表面を供する表面供給工程と、少なくとも1つの表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程と、当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行う照射工程とから成ることを特徴とする滑剤を有する物品の表面を形成する方法。
【請求項2】
さらに、塗布工程の前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製する滑剤溶液調製工程を含み、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、塗布工程の後で且つ照射工程の前に、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去する加熱工程を含み、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
エネルギー照射がイオン化ガスプラズマ照射である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
エネルギー照射が電離放射線である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
滑剤を塗布する前に、上記表面にイオン化ガスプラズマ照射を行う工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
静止摩擦力および動摩擦力が軽減されている表面を有する物品であって、当該物品は1つ以上の表面と少なくとも1つの当該表面に塗布された滑剤とから成り、当該滑剤が塗布された表面は大気圧下でエネルギー源からのエネルギー照射処理されていることを特徴とする物品。
【請求項11】
さらに、滑剤の塗布前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製し、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項10に記載の物品。
【請求項12】
さらに、滑剤の塗布後で且つエネルギー照射前に、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去し、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項11に記載の物品。
【請求項13】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項10に記載の物品。
【請求項14】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項10に記載の物品。
【請求項15】
エネルギー照射がイオン化ガスプラズマ照射である請求項10に記載の物品。
【請求項16】
エネルギー照射が電離放射線である請求項10に記載の物品。
【請求項17】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項15に記載の物品。
【請求項18】
滑剤を塗布する前に、上記表面にイオン化ガスプラズマ照射を行う工程を更に含む請求項10に記載の物品。
【請求項19】
滑剤を有する物品の表面を形成する方法であって、当該方法により上記滑剤を有する物品の表面における静止摩擦力および動摩擦力を軽減でき、当該方法は、1つ以上の表面を供する表面供給工程と、少なくとも1つの表面にイオン化ガスプラズマをほぼ大気圧下で照射し、プラズマ処理表面を形成するプラズマ処理工程と、当該プラズマ処理表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程とから成ることを特徴とする滑剤を有する物品の表面を形成する方法。
【請求項20】
さらに、塗布工程の前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製する滑剤溶液調製工程を含み、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項19に記載の方法。
【請求項22】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項19に記載の方法。
【請求項23】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項19に記載の方法。
【請求項24】
さらに、塗布工程の後で、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去する加熱工程を含み、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項2に記載の方法。
【請求項25】
静止摩擦力および動摩擦力が軽減されている表面を有する物品であって、当該物品は1つ以上の表面を有し、少なくとも1つの当該表面は大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理されており、イオン化ガスプラズマ処理された表面は更に滑剤が塗布されて塗布面が形成されていることを特徴とする物品。
【請求項26】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項25に記載の物品。
【請求項27】
さらに、滑剤の塗布前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製する滑剤溶液を調製し、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項25に記載の物品。
【請求項28】
さらに、滑剤の塗布後に、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去し、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項27に記載の物品。
【請求項29】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項25に記載の物品。
【請求項30】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項25に記載の物品。
【請求項31】
上記ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項25に記載の物品。
【請求項1】
滑剤を有する物品の表面を形成する方法であって、当該方法により上記滑剤を有する物品の表面における静止摩擦力および動摩擦力を軽減でき、当該方法は、1つ以上の表面を供する表面供給工程と、少なくとも1つの表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程と、当該塗布表面にほぼ大気圧下でエネルギー源からエネルギー照射を行う照射工程とから成ることを特徴とする滑剤を有する物品の表面を形成する方法。
【請求項2】
さらに、塗布工程の前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製する滑剤溶液調製工程を含み、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、塗布工程の後で且つ照射工程の前に、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去する加熱工程を含み、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
エネルギー照射がイオン化ガスプラズマ照射である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
エネルギー照射が電離放射線である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
滑剤を塗布する前に、上記表面にイオン化ガスプラズマ照射を行う工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
静止摩擦力および動摩擦力が軽減されている表面を有する物品であって、当該物品は1つ以上の表面と少なくとも1つの当該表面に塗布された滑剤とから成り、当該滑剤が塗布された表面は大気圧下でエネルギー源からのエネルギー照射処理されていることを特徴とする物品。
【請求項11】
さらに、滑剤の塗布前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製し、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項10に記載の物品。
【請求項12】
さらに、滑剤の塗布後で且つエネルギー照射前に、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去し、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項11に記載の物品。
【請求項13】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項10に記載の物品。
【請求項14】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項10に記載の物品。
【請求項15】
エネルギー照射がイオン化ガスプラズマ照射である請求項10に記載の物品。
【請求項16】
エネルギー照射が電離放射線である請求項10に記載の物品。
【請求項17】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項15に記載の物品。
【請求項18】
滑剤を塗布する前に、上記表面にイオン化ガスプラズマ照射を行う工程を更に含む請求項10に記載の物品。
【請求項19】
滑剤を有する物品の表面を形成する方法であって、当該方法により上記滑剤を有する物品の表面における静止摩擦力および動摩擦力を軽減でき、当該方法は、1つ以上の表面を供する表面供給工程と、少なくとも1つの表面にイオン化ガスプラズマをほぼ大気圧下で照射し、プラズマ処理表面を形成するプラズマ処理工程と、当該プラズマ処理表面に滑剤を塗布して塗布表面を形成する塗布工程とから成ることを特徴とする滑剤を有する物品の表面を形成する方法。
【請求項20】
さらに、塗布工程の前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製する滑剤溶液調製工程を含み、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項19に記載の方法。
【請求項22】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項19に記載の方法。
【請求項23】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項19に記載の方法。
【請求項24】
さらに、塗布工程の後で、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去する加熱工程を含み、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項2に記載の方法。
【請求項25】
静止摩擦力および動摩擦力が軽減されている表面を有する物品であって、当該物品は1つ以上の表面を有し、少なくとも1つの当該表面は大気圧下でイオン化ガスプラズマ処理されており、イオン化ガスプラズマ処理された表面は更に滑剤が塗布されて塗布面が形成されていることを特徴とする物品。
【請求項26】
上記イオン化ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項25に記載の物品。
【請求項27】
さらに、滑剤の塗布前に、滑剤と溶媒を混合して滑剤−溶媒溶液を調製する滑剤溶液を調製し、滑剤−溶媒溶液中の滑剤の含有量が約0.1〜約95重量%、好ましくは約0.5〜約50重量%、更に好ましくは約0.5〜約10重量%である請求項25に記載の物品。
【請求項28】
さらに、滑剤の塗布後に、塗布表面を加熱して滑剤−溶媒溶液の溶媒を蒸発除去し、上記加熱が、ほぼ常温〜約150℃、好ましくは約80〜約130℃の温度で、約0.5〜約60分、好ましくは約0.5〜約40分、更に好ましくは約0.5〜約30分間行われる請求項27に記載の物品。
【請求項29】
滑剤が、フッ素化化合物、パーフルオロポリエーテル化合物、機能化パーフルオロポリエーテル化合物、ポリシロキサン系化合物またはこれら2種以上の混合物である請求項25に記載の物品。
【請求項30】
滑剤が、フリーラジカル開始剤、粘度調整剤、界面活性剤、濡れ剤、耐腐食剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、緩衝剤および染料から成る群から選択される1種以上を含有する請求項25に記載の物品。
【請求項31】
上記ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素から成る群より選択される1種以上である請求項25に記載の物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−527317(P2007−527317A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501762(P2007−501762)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/028233
【国際公開番号】WO2005/094214
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506294048)
【出願人】(506293937)
【出願人】(506294163)
【出願人】(506294392)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/028233
【国際公開番号】WO2005/094214
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506294048)
【出願人】(506293937)
【出願人】(506294163)
【出願人】(506294392)
【Fターム(参考)】
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