説明

暖房装置および便座便座装置

【課題】誘導コイルにより発熱される発熱体の表面温度を略均一にできる暖房装置および暖房便座装置を提供すること。
【解決手段】暖房便座装置1は、便座3内に、一方の誘導コイルの内側の領域、即ち、電流が相対方向に流れる境目部分に、他方の誘導コイルの一部が位置するように誘導コイル25,26を重ねて配設し、誘導コイル25,26への通電を交互に行うので、一方の誘導コイルの内側の領域を他方の誘導コイルにより補完して暖めることができる。よって、発熱体27の表面全体を略均一に暖めることができるので、便座3の表面温度も略均一にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房装置および暖房便座装置に関し、特に、誘導コイルにより発熱される発熱体の表面温度を略均一にできる暖房装置および暖房便座装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、図7を参照して、誘導コイル101を利用して発熱体102を発熱させる原理について簡単に説明する。図7(a)は、誘導コイル101と発熱体102との位置関係を模式的に示した模式図であり、図7(b)は、図7(a)のVIIb−VIIb線における誘導コイル101及び発熱体102の断面を模式的に示した模式図であり、図7(c)は、図7(a)のVIIc−VIIc線における誘導コイル101及び発熱体102の断面を模式的に示した模式図である。なお、図7(b)及び図7(c)において、誘導コイル101内のバツ印は、紙面垂直方向視の手前側から奥側への電流の流れを示しており、誘導コイル101内の丸印は、紙面垂直方向視の奥側から手前側への電流の流れを示している。
【0003】
図7(a)に示すように、誘導コイル101は、一本の誘導コイルを矩形状に配設したものであり、その上部に発熱体102が配設されている。なお、図7(a)の矢印は、電流の流れを示している。
【0004】
図7(b)に示すように、誘導コイル101が通電されると、一方側(左側)に配設される誘導コイル101aには紙面垂直方向視奥側から手前側に電流が流れ、他方側(右側)に配設される誘導コイル101bには紙面垂直方向視手前側から奥側に電流が流れ、それぞれの誘導コイル101a,101bの外周には、矢印103で示す磁界が発生する。
【0005】
図7(c)に示すように、誘導コイル101が通電されて磁界が発生すると、電磁誘導作用によって発熱体102に、誘導コイル101a,101bとは反対方向に渦電流がそれぞれ流れ、その渦電流損により発熱体102が発熱される。
【0006】
このように、電磁誘導作用を利用した暖房装置は、特開平5−47462号公報(以下「文献1」と称す)及び実開平5−36794号公報(以下「文献2」と称す)に開示されている。
【0007】
文献1には、円形に隙間無く敷き詰められた第1の誘導コイルと、その第1の誘導コイルの外周部に敷き詰められた第2の誘導コイルとの2つの誘導コイルを有し、第1及び第2の誘導コイルへの通電を交互に行い発熱体を発熱させる暖房装置(調理器具)が開示されている。また、第1及び第2の誘導コイルへの通電は、第1の誘導コイルへの通電時間が長く、第2の誘導コイルへの通電時間が短くなるように設定されている。
【0008】
文献2には、第1の誘導コイルの外周部の一部と、第2の誘導コイルの外周部の一部とを重ね合わせて配設し、第1及び第2の誘導コイルの上部に配設される発熱体を発熱させる暖房装置(調理器具)が開示されている。また、第1及び第2の誘導コイルには、重ね合わせた外周部に同一方向の電流が流れるように通電が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−47462号公報
【特許文献2】実開平5−36794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献1の暖房装置では、第1及び第2の誘導コイルに対して異なる通電時間で交互に通電が行われ、且つ、第1及び第2の誘導コイルが配設される領域が区分けされているので、発熱体の内側部分が高温になる一方外側部分が低温になり、発熱体の表面温度を略均一にできないという問題点があった。また、上記文献2の暖房装置も、第1及び第2誘導コイルの外周部の重なった部分で発生する磁界が多くなるので、その重なった特定部分のみが高温になり、発熱体の表面温度を均一にできないという問題点があった。
【0011】
さらに、図8を参照して、発熱体102の大きさに対応して誘導コイル101を敷き詰めた場合の問題点について説明する。図8(a)は、誘導コイル101に電流を流した場合の発熱体102の理想の状態を示した模式図であり、図8(b)は、誘導コイル101に電流を流した場合の発熱体102の実際の状態を示した模式図である。
【0012】
図8(a)に示すように、発熱体102の大きさに対応して誘導コイル101a,101bを敷き詰めた場合には、発熱体102全体に渦電流が流れることが期待されるが、実際には、図8(b)に示すように、誘導コイル101aと誘導コイル101bとの境目部分103に対応する発熱体102部分に、電流方向が反対になる渦電流が流れるので、電流の打ち消しが生じてしまい発熱が抑えられてしまう(所謂、中抜け現象)。即ち、誘導コイル101a,101bを発熱体102の大きさに対応して敷き詰めただけでは、発熱体102の表面全体を均一に発熱させることは困難であった。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、誘導コイルにより発熱される発熱体の表面温度を略均一にできる暖房装置および暖房便座装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために請求項1記載の暖房装置は、薄膜状の発熱体と、その発熱体の下面側に配設され通電されることにより前記発熱体を発熱させる複数の誘導コイルと、その複数の誘導コイルへの通電を制御する制御手段とを備えており、前記複数の誘導コイルは、前記誘導コイルによりほぼ連続した外縁が形成されると共にその誘導コイルのうち電流が反対方向に流れる誘導コイルが並設される境目部分を有したコイルパターンにそれぞれ形成されており、1の誘導コイルの対向配設される境目部分に他の誘導コイルの一部が位置するように重ねて配設され、前記制御手段は、前記1及び他の誘導コイルに対して異なるタイミングで交互に通電を行うものである。
【0015】
請求項2記載の暖房装置は、請求項1記載の暖房装置において、前記1及び他の誘導コイルは、前記境目部分では重なることなく並設され、その境目部分以外で重なる前記1及び他の誘導コイルの交点が4箇所以下になるように配設される。
【0016】
請求項3記載の暖房便座装置は、便座の表面側に配設される薄膜状の発熱体と、その発熱体の下面側に配設され通電されることにより前記発熱体を発熱させる複数の誘導コイルと、その誘導コイルへの通電を制御する制御手段とを備えており、前記複数の誘導コイルは、前記誘導コイルにより馬蹄形状のほぼ連続した外縁が形成されると共にその誘導コイルのうち電流が反対方向に流れる誘導コイルが並設される境目部分を有したコイルパターンにそれぞれ形成されており、1の誘導コイルの前記対向配設される境目部分に他の誘導コイルの一部が位置するように重ねて配設され、前記制御手段は、前記1及び他の誘導コイルに対して異なるタイミングで交互に通電を行うものである。
【0017】
請求項4記載の暖房便座装置は、請求項3記載の暖房便座装置において、前記1又は他の誘導コイルは、前記便座の前奥方向における前側または奥側に前記馬蹄形状の切れ目が位置するように配設される。
【0018】
請求項5記載の暖房便座装置は、請求項3又は4に記載の暖房便座装置において、前記1及び他の誘導コイルは、前記馬蹄形状の切れ目が互いに重ならない位置に配設される。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の暖房装置によれば、1の誘導コイルのうち電流が反対方向に流れる誘導コイルが並設される境目部分に、他の誘導コイルの一部が位置するように重ねて配設され、1及び他の誘導コイルには、制御手段により異なるタイミングで交互に通電がなされるので、一方の誘導コイルが通電されると他方の誘導コイルの境目部分に対応する発熱体部分を発熱できる。よって、誘導コイルに対応する発熱体部分とその誘導コイルの境目部分に対応する発熱体部分とが交互に発熱されるので、発熱体の表面温度を略均一にできるという効果がある。
【0020】
また、1の誘導コイルの境目部分の誘導コイルが隙間なく並設されている場合にも、中抜け現象で発熱が抑制される発熱体部分を他方の誘導コイルで発熱できるので、発熱体の表面温度を略均一にできるという効果がある。
【0021】
請求項2記載の暖房装置によれば、請求項1記載の暖房装置の奏する効果に加え、1及び他の誘導コイルは、境目部分では重なることなく並設されているので、中抜け現象で発熱が抑制されることを抑制しつつ発熱体の表面温度を略均一にでき、効率良く発熱を行うことができるという効果がある。
【0022】
また、複数の誘導コイルは、1の誘導コイルの境目部分に他の誘導コイルの一部が位置し境目部分以外で重なるように配設されるので、誘導コイルが交わる交点は2N(Nは自然数)箇所存在し、その交点では、交差して重なる誘導コイルのうち発熱体から離反する誘導コイルは発熱体との距離が長くなるし、通電されていない誘導コイルに磁界が吸収されるので、発熱体の発熱が弱くなる。よって、交点の数が極端に多いと発熱が弱くなる部分が多くなり発熱体の表面温度が不均一になるし、一方、交点の数が2箇所であると各誘導コイルの配設パターンが限定されるので、誘導コイルの配設位置の自由度が低下する。請求項2記載の暖房装置によれば、1の誘導コイルと他の誘導コイルとの交点が4箇所以下なので、発熱体の表面温度を略均一にしつつ、各誘導コイルの配設パターンを多様化でき配設位置の自由度を向上できるという効果がある。
【0023】
請求項3記載の暖房便座装置によれば、1の誘導コイルのうち電流が反対方向に流れる誘導コイルが並設される境目部分に他の誘導コイルの一部が位置するように重ねて配設され、1及び他の誘導コイルには、制御手段により異なるタイミングで交互に通電がなされるので、一方の誘導コイルが通電されると他方の誘導コイルの境目部分に対応する発熱体部分を発熱できる。よって、誘導コイルに対応する発熱体部分とその誘導コイルの境目部分に対応する発熱体部分とが交互に発熱されるので、便座形状に応じて誘導コイルを馬蹄形状に形成しても、便座の表面温度を略均一にできるという効果がある。
【0024】
また、1の誘導コイルの境目部分の誘導コイルが隙間なく並設されている場合にも、中抜け現象で発熱が抑制される発熱体部分を他方の誘導コイルで発熱できるので、発熱体の表面温度を略均一にできるという効果がある。
【0025】
請求項4記載の暖房便座装置によれば、請求項3記載の暖房便座装置の奏する効果に加え、1又は他の誘導コイルは、便座の前奥方向における前側または奥側に馬蹄形状の切れ目が位置するので、使用者が便座に着座した場合に使用者の足(特に、太股の裏側)が当接し難い部分や使用者の尻が当接し難い部分に切れ目が位置する。よって、切れ目に対応する発熱体部分の表面温度が若干低くても、使用者に対しては便座表面の温度を略均一であると認識させることができるという効果がある。
【0026】
請求項5記載の暖房便座装置によれば、請求項3又は4に記載の暖房便座装置の奏する効果に加え、1及び他の誘導コイルは、馬蹄形状の切れ目が互いに重ならない位置に配設されているので、一方の誘導コイルの切れ目での発熱を他方の誘導コイルの発熱により補完することができ、便座表面の温度を略均一にできるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の暖房便座装置の概略を示した図である。
【図2】(a)は、第1及び第2誘導コイルへの通電方法を示したタイミングチャートであり、(b)〜(d)は、各誘導コイル及び発熱体の電流の流れを示した模式図である。
【図3】便座内に配設される誘導コイルを概略的に示した概略図である。
【図4】第2実施形態の暖房便座装置の概略を示した図である。
【図5】誘導コイルが2つで構成される場合の配設位置の組み合わせを模式的に示した図である。
【図6】誘導コイルが3以上で構成される場合の配設位置の組み合わせを模式的に示した図である。
【図7】(a)は、誘導コイルと発熱体との位置関係を模式的に示した模式図であり、(b)は、図7(a)のVIIb−VIIb線における誘導コイル及び発熱体の断面を模式的に示した模式図であり、(c)は、図7(a)のVIIc−VIIc線における誘導コイル及び発熱体の断面を模式的に示した模式図である。
【図8】(a)は、誘導コイルに電流を流した場合の発熱体の理想の状態を示した模式図であり、(b)は、誘導コイルに電流を流した場合の発熱体の実際の状態を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態の暖房便座装置1の概略を示した図である。なお、図1では、本発明に関連する部分を示しており、便座蓋などを不図示としている。また、図1において、矢印X方向は、暖房便座装置1の左右方向を示しており、矢印Y方向は、暖房便座装置1の前奥方向を示している。
【0029】
本実施形態の暖房便座装置1は、馬蹄形状に形成される誘導コイル25,26が一方の誘導コイルの境目部分(内側の領域)に他方の誘導コイルの一部が位置するように重ねて配設すると共に、誘導コイル25,26への通電を異なるタイミングで交互に行い、発熱体27を暖めて便座3の表面温度を略均一にするものである。
【0030】
図1に示すように、暖房便座装置1は、本体2と便座3とを有しており、その本体2と便座3とは、一対の枢支部10,10によって、便座3が本体2に対して開閉動作可能に支持されている。
【0031】
本体2は、略箱状に形成されており、その内部には、外部電源Wから電力が供給される本体側制御部C1が設けられている。本体側制御部C1には、本体2の側面(矢印X方向左側の側面)に設けられた操作パネル(図示せず)用のスイッチ基板11と、一方の枢支部10(矢印X方向左側の枢支部)に設けられ便座3を開閉動作させる駆動モータ12と、外部電源Wから供給された電力を便座3側に送電する送電部13とが接続されている。
【0032】
本体側制御部C1は、操作パネルの操作に応じて送電部13への電力の供給および停止を行う送電制御や、人体検知センサ(図示せず)等の検知結果に応じて駆動モータ12を駆動する駆動制御などを行う。
【0033】
便座3は、中央に略楕円形の開口21が形成されており、暖房便座装置1の奥側(矢印Y方向上側)の左右両端(矢印X方向の両端)に、便座3側の枢支部10,10を構成する取付腕部22,22が設けられている。取付腕部22,22には、取付軸23,23が挿通されており、その取付軸23,23を介して便座3が本体2に対して開閉動作可能に取り付けられている。
【0034】
便座3の内部には、便座3の制御を行う便座側制御部C2が設けられており、その便座側制御部C2には、本体2側の送電部13から供給される電力を受電する受電部24と、その受電部24により受電した電力が供給される第1誘導コイル25(斜線で示した線)及び第2誘導コイル26(点で示した線)とが接続されている。なお、図1では、便宜上、誘導コイル25,26が1本の線で図示されているが、実際には複数本(例えば、120芯)で構成されている。
【0035】
さらに、便座3の内部には、第1及び第2誘導コイル25,26の上面側でかつ便座3の表面側にシート状の発熱体27が配設されている。この発熱体27は、第1及び第2誘導コイル25,26が通電された場合の電磁誘導作用により発熱し、便座3の表面を暖めるものである。
【0036】
便座側制御部C2は、整流回路、高周発生回路や制御回路(全て図示せず)等を有しており、受電部24により受電した電力から高周波電流を生成可能に構成されている。便座側制御部C2は、主に、生成された高周波電流を第1及び第2誘導コイル25,26に交互に通電する制御や、温度センサ(図示せず)の検出結果に基づいて第1及び第2誘導コイル25,26への通電の開始および停止を行う温度調整制御などを行う。
【0037】
第1及び第2誘導コイル25,26が通電されると、便座3の開口21側と便座3の外縁側とでは反対方向の電流が流れ、例えば、便座3の開口21側では矢印D1で示す電流が流れ、便座3の外縁側では矢印D2で示す電流が流れる。なお、第1及び第2誘導コイル25,26には交流が通電されるので、所定間隔毎に矢印D1,D2の向きは変化するが、互いに反対方向へ流れる関係は変わらない。
【0038】
ここで、本体2から便座3への電力伝送について簡単に説明する。送電部13は、一次コイルL1を外周に巻き付けた略コ字状の一次側コアK1で構成され、受電部24は、二次コイルL2を外周に巻き付けた略コ字状の二次側コアK2で構成され、相互誘導作用により送電部13から受電部24に無配線方式により電力伝送が行われる。また、送電部13及び受電部24は、一対の枢支部10,10の間に設けられ、便座3が閉じられた状態であっても、便座3が開かれた状態であっても、距離の変化が余りなく、常に一定の電力伝送を行うことができる。
【0039】
次に、第1及び第2誘導コイル25,26の形状および配設位置について説明する。第1誘導コイル25は、便座3の外形に沿った馬蹄形状に形成されている。具体的には、誘導コイル25によりほぼ連続した外縁が形成され、その誘導コイル25により囲まれた内側の領域25a(誘導コイル25が並設され電流が反対方向に流れる境目部分)と、馬蹄形状の両端が対向する切れ目25bとを有している。なお、第1誘導コイル25の切れ目25bは、便座3内の本体2側(矢印Y方向上側)で且つ左右方向において左側(矢印X方向左側)に位置している。
【0040】
第2誘導コイル26は、第1誘導コイル25より若干大きな外形となる馬蹄形状に形成され、具体的には、誘導コイル26によりほぼ連続した外縁が形成され、その誘導コイル26により囲まれた内側の領域26a(境目部分)と、馬蹄形状の両端が対向する切れ目26bとを有している。なお、第2誘導コイル26の切れ目26bは、便座3内の本体2側で且つ左右方向において右側(矢印X方向右側)に位置している。
【0041】
また、第1及び第2誘導コイル25,26の配設位置は、第1誘導コイル25の外側に第2誘導コイル26が位置しており、一方の誘導コイルの内側の領域、即ち誘導コイルが並設され電流が反対方向に流れる境目部分に、他方の誘導コイルの一部が位置して重なるように配設されている。
【0042】
また、第1及び第2誘導コイル25,26は、第1誘導誘導コイル25の切れ目25bと第2誘導コイル26の切れ目26bとが重ならないように配設されている。よって、一方の誘導コイルの発熱が弱くなる切れ目部分を、他方の誘導コイルが補完することになるので、発熱体27の発熱が弱い部分を補完でき、便座3表面の温度を略均一にできる。
【0043】
また、誘導コイル25,26の切れ目25b,26bは、便座3内の本体2側に位置しているので、誘導コイル25,26による発熱体27の発熱が弱い部分を、便座3に着座した使用者の足(特に太股)が触れない部分にできる。よって、使用者に対しては、便座3の表面温度を略均一と認識させることができる。
【0044】
また、第1及び第2誘導コイル25,26は、電流が反対方向に流れる誘導コイルが隙間無く並設されずに、それぞれ内側の領域25a,26aを有しており、発熱体27に生じる渦電流が打ち消し合う(即ち、中抜け現象が生じる)部分を有さないので、発熱体27の発熱を効率良く行うことができる。
【0045】
次に、図2を参照して、第1及び第2誘導コイル25,26に通電がなされた場合の各誘導コイル25,26及び発熱体27の状態について説明する。図2(a)は、第1及び第2誘導コイル25,26への通電方法を示したタイミングチャートであり、図2(b)〜図2(d)は、各誘導コイル25,26及び発熱体27の電流の流れを示した模式図である。なお、図2(b)〜図2(d)では、便宜上、各誘導コイル25,26を3本線で示す。
【0046】
図2(a)に示すように、人体検知センサ(図示せず)により人体を検知した場合や、操作パネルにより便座3の暖め開始の操作がなされた場合には、便座3の暖房が開始される(t1)。時刻t1では、便座側制御部C2により第1誘導コイル25への通電が開始される。第1誘導コイル25への通電が開始されると、図2(b)に示すように、発熱体27は、第1誘導コイル25に対応する部分に渦電流が発生して発熱される。この際、第2誘導コイル26の境目部分である内側の領域26aに対応する発熱体27部分が発熱されていることが解る。
【0047】
第1誘導コイル25への通電が開始された後に所定時間(本実施形態では30ms)が経過すると、第1誘導コイル25への通電が停止されると共に第2誘導コイル26への通電が開始される(t2)。第2誘導コイル26への通電が開始されると、図2(c)に示すように、発熱体27は、第2誘導コイル26に対応する部分に渦電流が発生し、第1誘導コイル25の境目部分である内側の領域25aに対応する部分を含んで発熱される。
【0048】
その後、所定時間(本実施形態では30ms)が経過すると、第2誘導コイル26への通電が停止されると共に、第1誘導コイル25への通電が開始され(t3)、以後、第1及び第2誘導コイル25,26への通電が交互に繰り返される。
【0049】
つまり、図2(d)に示すように、第1及び第2誘導コイル25,26への通電が交互に行われることで、各誘導コイル25,26に対応する発熱体27部分と、各誘導コイル25,26の内側の領域25a,26a(境目部分)に対応する発熱体27部分とを発熱できるので、発熱体27の全体として表面温度を略均一にできる。
【0050】
次に、図3を参照して、誘導コイル25,26,31への通電により発生する磁界の人体への影響について説明する。図3は、便座3内に配設される誘導コイル25,26,31を概略的に示した概略図であり、図3(a)は、円形状に誘導コイル31が便座3内に敷き詰められた状態であり、図3(b)は、馬蹄形状の誘導コイル25,26が便座3内に配置された状態である。
【0051】
図3(a)に示すように、1本の誘導コイル31が便座3内に重なることなく円形状に敷き詰められている場合には、誘導コイル31への通電により発生する磁界B1は、誘導コイル31に流れる電流方向が同一であり発生する磁束が一体的になるので、開口21から上方に放射線状に延び、便座3の外側から下方を通り、開口21に戻る経路となる。つまり、誘導コイル31のコイル径が大きくなり、便座3の開口21を上下方向に通る大きな磁界B1になるので、便座3に着座した使用者に対して低周波磁界による悪影響を与え易いという問題が生じる。
【0052】
一方、図3(b)に示すように、馬蹄形状の誘導コイル25,26を便座3内に配置した場合には、コイル径が小さくなるので、誘導コイル25,26に通電しても発生する磁界B2は、各誘導コイル25,26の外周を回るものとなり、使用者に対して低周波磁界による影響を抑制できる。
【0053】
つまり、便座3の表面全体を暖めるだけであれば、円形状に誘導コイル31を敷き詰めれば良いが、本実施形態では、使用者の人体への影響も考慮して馬蹄形状の誘導コイル25,26を配設している。また、単に、馬蹄形状の誘導コイル25,26を便座3内に配設しただけでは、上述した通り、中抜け現象が起こり便座3内の表面温度を均一にできない。そこで、本実施形態では、馬蹄形状の誘導コイル25,26をずらしつつ重ねて配設すると共に交互に通電を行い、便座3内の表面温度の均一化を図ると共に効率化を図っている。
【0054】
以上説明したように、暖房便座装置1は、便座3内に、一方の誘導コイルの内側の領域(境目部分)に他方の誘導コイルの一部が位置するように誘導コイル25,26を重ねて配設し、誘導コイル25,26への通電を交互に行うので、一方の誘導コイルの内側の領域を他方の誘導コイルにより補完して暖めることができる。よって、発熱体27の表面全体を略均一に暖めることができるので、便座3の表面温度も略均一になる。
【0055】
次に、図4を参照して、第2実施形態の暖房便座装置1について説明する。図4は、第2実施形態の暖房便座装置1の概略を示した図である。また、第2実施形態の暖房便座装置1は、第1実施形態の暖房便座装置1の誘導コイル25,26に対して、誘導コイル32,33の形状および配設位置を変更したものである。よって、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0056】
図4に示すように、第2実施形態の便座3内部には、内側の領域32a,33a及び切れ目32b,33bをそれぞれ有する馬蹄形状の第1及び第2誘導コイル32,33が重ねて配置されている。そして、第1及び第2誘導コイル32,33は、一方の誘導コイルの内側の領域(誘導コイルが並設され電流が反対方向に流れる境目部分)に他方の誘導コイルの一部が位置すると共に、各誘導コイル32,33の切れ目32b,33bが重ならず且つ本体2から離反する便座3内部の先端部(矢印Y方向下側の端部)に位置するように配設されている。
【0057】
よって、第2実施形態の暖房便座装置1の各誘導コイル32,33の配設位置であっても、一方の誘導コイルの内側の領域(境目部分)を他方の誘導コイルにより暖めて、便座3の表面全体を略均一にできるし、各誘導コイル32,33の切れ目32a,33aが便座3に着座した使用者が触れない部分に位置するので、使用者に対して便座3の表面温度を略均一と認識させることができるし、各誘導コイル32,33の切れ目32a,33aが重ならないので、便座3の表面全体の温度差が生じることも抑制できる。
【0058】
次に、図5及び図6を参照して、誘導コイル41〜44,51〜55の配設位置の変形例について説明する。図5は、誘導コイル41〜44が2つで構成される場合の配設位置の組み合わせを模式的に示した図であり、図6は、誘導コイル51〜55が3以上で構成される場合の配設位置の組み合わせを模式的に示した図である。なお、図5及び図6に示す変形例は、便座3内に配設するものとしても良いし、他の暖房装置(例えば、床暖房装置や調理器など)の内部に配設するものとしても良い。
【0059】
図5(a)に示す変形例1は、第1及び第2誘導コイル41,42が同一形状で且つ凹状に形成されており、第1及び第2誘導コイル41,42を、一方の誘導コイルの内側の領域(境目部分)のほぼ真ん中に他方の誘導コイルの一部が位置するように斜め方向にずらして配設されている。なお、変形例1では、第1及び第2誘導コイル41,42が交差する交点k1〜k4は4つとなっている。
【0060】
この変形例1では、上記実施形態と同様に、一方の誘導コイルの内側の領域(境目部分)に他方の誘導コイルの一部が位置して配設されているので、誘導コイル41,42が配設された部分に対応する発熱体を略均一に暖めることができる。また、誘導コイル41,42は、同一形状のものが使用されているので、部品点数を削減してコスト低減を図ることもできる。
【0061】
図5(b)〜図5(e)に示す変形例2〜5は、第1及び第2誘導コイル43,44が異形状で且つ凹状に形成されており、第1誘導コイル43の内側で且つ、凹状の底部を基準として上方向に第2誘導コイル44をずらして配設したものである。なお、変形例2〜5では、図示するように、第1及び第2誘導コイル43,44が交差する交点k1,k2は2つとなっている。
【0062】
この変形例2〜5も、一方の誘導コイルの内側の領域(境目部分)に他方の誘導コイルの一部が位置して配設されているので、誘導コイル41,42が配設された部分に対応する発熱体を略均一に暖めることができる。
【0063】
更に、変形例2〜5は、第1及び第2誘導コイル43,44の交点k1,k2が2つとなっている。第1及び第2誘導コイル43,44の交点k1,k2は、誘導コイル43,44が重なるので、上側の誘導コイルと下側の誘導コイルとの発熱体までの距離が異なるので、下側の誘導コイルによる発熱が弱まるし、通電されていない方の誘導コイルにより磁界が吸収されて発熱が弱まる可能性がある。しかし、変形例2〜5では、第1及び第2誘導コイル43,44の交点が最も少なくなる2つとしているので、発熱体27の発熱が弱くなる部分を極力少なくでき、発熱体27の表面温度を略均一にできる。
【0064】
図6(a)に示す変形例6は、同一形状の誘導コイル51a〜51cを一方向に等間隔にずらして配設したものであり、図6(b)に示す変形例7は、同一形状の誘導コイル52a,52a間を誘導コイル53により連結するように配設したものであり、図6(c)に示す変形例8は、同一形状の誘導コイル54a〜54dが矩形状の4隅に対応する位置に配設され、隣り合う誘導コイル54a〜54d同士を誘導コイル55a〜55dにより連結するように配設したものである。
【0065】
この変形例6〜8も、上記実施形態と同様に、1の誘導コイルの内側の領域内に他の誘導コイルの一部が位置して重なって配設されているので、誘導コイル51〜55が配設された部分に対応する発熱体を略均一に暖めることができる。
【0066】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0067】
例えば、上記実施形態では、馬蹄形状の誘導コイル25,26,32,33を便座3内部に配設する暖房便座装置1としたが、床暖房装置や調理装置などに適用しても良い。床暖房装置や調理装置に適用したとしても、表面全体を略均一に暖めることができる。
【0068】
また、上記実施形態では、誘導コイル25,26の切れ目25b,26bが便座3内部の本体2側に位置し、誘導コイル32,33の切れ目32b,33bが便座3内部の本体2から離反する先端側に位置するものとしたが、いずれか一方の切れ目が本体2側に位置すると共に他方の切れ目が本体2から離反する先端側に位置するように構成しても良い。この構成であっても、便座3に着座した使用者が触れない部分に切れ目が位置するので、使用者に対して便座3の表面温度を略均一と認識させることができる。
【0069】
また、誘導コイル25,26,32,33の切れ目25b,26b,32b,33bが便座3の本体2側または本体2から離反する先端側に位置する場合には、切れ目25b,26b,32b,33bが重なるように配設しても良い。この構成では、例え、切れ目25b,26b,32b,33bが重なり発熱体27の発熱が弱くなる部分が重なっても、便座3に着座した使用者が触れない部分なので、使用者に対しては便座3の表面温度が略均一であると認識させることができる。
【0070】
また、誘導コイル25,26,32,33の切れ目25b,26b,32b,33bを便座3の本体2側の両端(即ち、取付腕部22の近傍)のいずれか一方に位置するように配設しても良いし、誘導コイル25,32の切れ目25b,32b及び誘導コイル26,33の切れ目26b,33bを便座3の本体2側の両端にそれぞれ位置するように配設しても良い。この構成であれば、便座3に着座した使用者の足だけでなく尻部分も当接しない位置に、誘導コイル25,26,32,33の切れ目25b,26b,32b,33bが配設されるので、使用者に対して便座3の表面温度が略均一であると認識させることができる。
【0071】
また、上記実施形態では、各誘導コイル25,26,32,33が内側の領域25a,26a,32a,33aを有し、その内側の領域25a,26a,32a,33aに他方の誘導コイルが重ならずに並設するように構成したが、誘導コイルが内側の領域を有さずに境目(部分)しか無い場合には、その境目部分に他方の誘導コイルが重なるように配設しても良い。この構成であっても、一方の誘導コイルの中抜け現象が生じる部分を他方の誘導コイルで補完できるので、発熱体の表面温度を略均一にできる。
【符号の説明】
【0072】
1 暖房便座装置(便房装置)
2 本体
3 便座
25,32 第1誘導コイル
25a,32a 領域(境目部分)
25b,32b 切れ目
26,33 第2誘導コイル
26a,33a 領域(境目部分)
26b,33b 切れ目
27 発熱体
41〜44 誘導コイル
51〜55 誘導コイル
103 境目部分
C2 便座側制御部(制御手段)
k1〜k4 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜状の発熱体と、その発熱体の下面側に配設され通電されることにより前記発熱体を発熱させる複数の誘導コイルと、その複数の誘導コイルへの通電を制御する制御手段とを備えた暖房装置において、
前記複数の誘導コイルは、前記誘導コイルによりほぼ連続した外縁が形成されると共にその誘導コイルのうち電流が反対方向に流れる誘導コイルが並設される境目部分を有したコイルパターンにそれぞれ形成されており、1の誘導コイルの前記境目部分に他の誘導コイルの一部が位置するように重ねて配設され、
前記制御手段は、前記1及び他の誘導コイルに対して異なるタイミングで交互に通電を行うものであることを特徴とする暖房装置。
【請求項2】
前記1及び他の誘導コイルは、前記境目部分では重なることなく並設され、その境目部分以外で重なる前記1及び他の誘導コイルの交点が4箇所以下になるように配設されることを特徴とする請求項1記載の暖房装置。
【請求項3】
便座の表面側に配設される薄膜状の発熱体と、その発熱体の下面側に配設され通電されることにより前記発熱体を発熱させる複数の誘導コイルと、その誘導コイルへの通電を制御する制御手段とを備えた暖房便座装置において、
前記複数の誘導コイルは、前記誘導コイルにより馬蹄形状のほぼ連続した外縁が形成されると共にその誘導コイルのうち電流が反対方向に流れる誘導コイルが並設される境目部分を有したコイルパターンにそれぞれ形成されており、1の誘導コイルの前記境目部分に他の誘導コイルの一部が位置するように重ねて配設され、
前記制御手段は、前記1及び他の誘導コイルに対して異なるタイミングで交互に通電を行うものであることを特徴とする暖房便座装置。
【請求項4】
前記1又は他の誘導コイルは、前記便座の前奥方向における前側または奥側に前記馬蹄形状の切れ目が位置するように配設されることを特徴とする請求項3記載の暖房便座装置。
【請求項5】
前記1及び他の誘導コイルは、前記馬蹄形状の切れ目が互いに重ならない位置に配設されることを特徴とする請求項3又は4に記載の暖房便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−192182(P2010−192182A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33488(P2009−33488)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】