説明

曲げ加工品及び燃焼器の製造方法

【課題】複数の被接合部材相互をろう付接合して得た接合部材に対して、曲げ加工を施す場合に、接合部品のろう付部の割れを抑える。
【解決手段】 二枚の被接合板をろう付接合して接合部品を作製し(S21)、この接合部品に対して一次曲げ加工(S23)及び二次曲げ加工(S24)を施して、曲げ加工品を製造する。一次曲げ加工(S23)後で、二次曲げ加工(S24)前には、接合部品に対して、ろう付部の拡散処理を行う熱処理(S24)を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の被接合部材をろう付し、これを曲げて曲げ加工品を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の被接合部材をろう付し、これを曲げて曲げ加工品を製造する技術としては、例えば、以下の特許文献1に開示されている技術がある。
【0003】
この特許文献1では、ガスタービン燃焼器の尾筒を製造する技術が開示されている。この技術では、まず、合金板に溝加工を施し、溝加工が施された合金板と溝加工が施されていない合金板とをろう付接合して、尾筒の上胴部を形成するための接合板を生成する。なお、接合板で、一方の合金板に施した溝と他方の合金板との間に形成される空間は、冷却空気通路である。次に、上胴部を形成する接合板と、下胴部を形成する合金板とのそれぞれに曲げ加工を施して、上胴部及び下胴部を形成する。次に、上胴部の端部と下胴部の端部と溶接して、尾筒を形成する。最後に、溶接で生じた残留応力を除去することを主目的として、尾筒に熱処理を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2548733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ガスタービンによる発電効率の向上を図るため、タービンのガス入口温度が上昇している。このため、タービンに高温の燃焼ガスを供給する燃焼器の耐熱性の向上が図られている。燃焼器の耐熱性を向上させる手法として、様々な手法があるが、その一つして、燃焼器の尾筒に形成する板材の冷却空気通路の数や幅を増やす手法がある。この手法を実行した場合、前述の上胴部を形成する接合板中のろう付部分は、この接合板で曲げ加工を施す部分にまで広がることがある。このため、この手法の実行にあたり、曲げ加工で、ろう付部の割れを抑える技術の開発が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、複数の被接合部材相互をろう付接合して得た接合部材に対して、曲げ加工を施す場合に、接合部品のろう付部の割れを抑えることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための発明に係る曲げ加工品の製造方法は、
複数の被接合部材相互をろう付接合して、接合部品を作製する接合工程と、前記接合部品を曲げて、曲げ加工品を作製する曲げ工程と、前記曲げ工程前と、該曲げ工程における曲げ加工中とのうち、少なくとも一方のタイミングで、前記接合部品を加熱して、該接合部品のろう付部の拡散処理を行う熱処理工程と、を実行して、前記曲げ加工品を製造することを特徴とする。
【0008】
当該曲げ加工品の製造方法では、ろう材の添加物の拡散により、ろう付部の強度を高めることができる。よって、当該曲げ加工品の製造方法によれば、接合部品に曲げ加工を施す場合に、この接合部品のろう付部の割れを抑えることができる。
【0009】
ここで、前記曲げ加工品の製造方法において、前記曲げ工程は、複数の曲げ工程を有し、前記熱処理工程は、前記複数の曲げ工程のうち、最後の曲げ工程前であって、前記接合部品の曲げ加工で、該接合部品のろう付部が割れる可能性のないことが確認されている曲げ工程後に、該接合部品を加熱する曲げ加工中熱処理工程を有し、前記曲げ加工中熱処理では、前記接合工程で用いるろう材の固相線温度以上で、且つ前記被接合部材の結晶粒が急激に粗大化する結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱してもよい。
【0010】
当該曲げ加工品の製造方法では、曲げ加工中熱処理で、ろう材の固相線温度以上で、且つ結晶粒粗大化温度未満に、接合部品を加熱するので、ろう付部中の添加物の拡散が進み、ろう付部の強度が向上する上に、この曲げ加工中熱処理の前に実施された曲げ加工によるろう付部の加工硬化が回復して、ろう付部の延性が向上する。このため、当該曲げ曲げ加工品の製造方法によれば、この曲げ加工中熱処理の後の曲げ加工では、接合部品を曲げ易く、しかも、曲げ加工によるろう付部の割れを防ぐことができる。
【0011】
また、前記曲げ加工品の製造方法において、前記熱処理工程は、前記曲げ工程前に行う曲げ加工前熱処理工程を有し、前記曲げ加工前熱処理工程では、前記接合工程で用いるろう材中の添加物が移動を開始する添加物拡散開始温度以上で、且つ前記被接合部材の結晶粒が急激に粗大化する結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱してもよい。
【0012】
当該曲げ加工品の製造方法では、曲げ加工前熱処理により、ろう材の添加物が拡散し、ろう付部の強度を高めることができるので、この曲げ加工前処理後の曲げ加工で、ろう付部の割れを抑えることができる。
【0013】
また、前記曲げ加工品の製造方法において、前記曲げ加工前熱処理工程では、前記ろう材の固相線温度以上で、且つ前記被接合部材の前記結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱してもよい。
【0014】
当該曲げ加工品の製造方法では、熱処理温度を高めることで、熱処理時間を短くすることができる。
【0015】
また、前記曲げ加工品の製造方法において、前記熱処理工程は、前記曲げ工程前に行う曲げ加工前熱処理工程を有し、前記曲げ加工前熱処理工程では、前記ろう材の前記固相線温度以上で、且つ前記被接合部材の前記結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱し、前記曲げ加工前熱処理工程とが同じ時間であってもよい。
【0016】
当該曲げ加工品の製造方法では、曲げ加工前熱処理工程での熱処理温度及び熱処理時間と、曲げ加工中熱処理工程での熱処理温度及び熱処理時間とが同じなるため、曲げ加工前熱処理を施す接合部品と、曲げ加工中熱処理を施す接合部品とを区別することなく、これらの接合部品に対して、まとめて熱処理を施すことができる。
【0017】
前記目的を達成するための発明に係る燃焼器の製造方法は、
以上の曲げ加工品の製造方法で、内部に燃焼ガスが滞在する燃焼器の筒の一部を成し、前記曲げ加工品としての第一筒部品を製造する第一筒部品製造工程と、前記筒の他の部分を成す第二筒部品を製造する第二筒部品製造工程と、前記第一部品の端部と前記第二筒部品の端部とを溶接して、前記筒を形成する溶接工程と、を実行することを特徴とする。
【0018】
当該燃焼器の製造方法では、第一筒部品の製造工程において、この製造工程中の熱処理で、第一筒部品を形成する接合部品のろう材の添加物が拡散し、ろう付部の強度を高めることができるので、この熱処理後の曲げ加工で、ろう付部の割れを抑えることができる。
【0019】
また、前記燃焼器の製造方法において、前記溶接工程後に、前記筒を加熱して、該溶接工程で該筒に生じた残留応力の除去処理を行う溶接後熱処理工程を実行してもよい。
【0020】
当該燃焼器の製造方法よれば、筒の残留応力を除去することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、ろう材の添加物の拡散により、ろう付部の強度を高めることができる。よって、本発明によれば、接合部品に曲げ加工を施す場合に、この接合部品のろう付部の割れを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る第一実施形態における燃焼器の製造手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る第一実施形態における燃焼器の製造手順を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明に係る第一実施形態における接合板の断面図である。
【図4】図2(b)におけるIV−IV線断面図である。
【図5】本発明に係る一実施形態におけるヒーティングシステムの構成を示す説明図である。
【図6】本発明に係る第一実施形態における母材やろう材の各種温度と熱処理温度との関係を示す説明図である。
【図7】本発明に係る第二施形態における燃焼器の製造手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る一実施形態における燃焼器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照し、燃焼器の製造方法、特に、この燃焼器の尾筒に製造に用いられる曲げ加工品(尾筒上胴部及び尾筒下胴部)の製造方法の各種実施形態について説明する。
【0024】
「第一実施形態」
本実施形態の燃焼器は、ガスタービン燃焼器である。このガスタービン燃焼器は、図8に示すように、高温・高圧の燃焼ガスをタービンに送る尾筒10と、この尾筒10内に燃料や燃焼用気体(空気)を供給する燃料供給器20と、を備えている。燃料供給器20は、パイロット燃料X及び空気を尾筒10内に供給して、この尾筒10内に拡散火炎を形成するコーン付きパイロットバーナ21と、メイン燃料Y及び空気を予混合して、予混合気体として尾筒10内に供給し、この尾筒10内に予混合火炎を形成する複数のノズル22と、を備えている。
【0025】
次に、図1に示すフローチャートに従って、本実施形態の燃焼器の製造手順について説明する。
【0026】
まず、燃焼器を構成する各部品を製造する(S10,40)。この部品の製造工程(S10,40)には、前述の尾筒10の製造工程(S10)も含まれている。各部品の製造が終了すると、各部品を組み立てる(S45)。以上で、燃焼器が完成する。
【0027】
ここで、尾筒10の概略構成について説明する。尾筒10は、図2に示すように、尾筒本体で筒状の尾筒胴部7と、この尾筒胴部7に取り付けられる尾筒上流側枠8等の各種部品と、を有して構成されている。尾筒胴部7は、筒の上部を形成する尾筒上胴部5と、筒の下部を形成する尾筒下胴部6と、を有している。尾筒上胴部(曲げ加工品)5は、図4に示すように、二枚の被接合板(被接合部材)1,2の接合により形成された接合板(接合部品)を曲げ加工等して製造される。また、尾筒下胴部(曲げ加工品)6も、尾筒上胴部5と同様、二枚の被接合板の接合により形成された接合板を曲げ加工等して製造される。
【0028】
再び、図1に示すフローチャートを用いて、尾筒10の製造工程(S10)について説明する。尾筒10の製造工程(S10)では、まず、この尾筒10を構成する各部品を製造する(S20,30)。この部品の製造工程(S20,30)には、前述の尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6の製造工程(S20)と、尾筒上流側枠8等の各種部品の製造工程(S30)とがある。
【0029】
尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6の製造工程(S20)では、まず、二枚の平板を目的の形状及びサイズに加工して、二枚の被接合板を形成する(S21)。図3に示すように、二枚の被接合板1,2のうち、一方の被接合板1には、表面に対して平行な方向に伸びる複数の溝1aが形成されている。この板材加工工程(S21)では、各被接合板1,2を成す平板を目的のサイズに加工する工程の他、一方の被接合板1を成す平板に溝1aを加工する工程が含まれている。なお、この溝1aは、冷却用流体が通る通路を成す。また、各被接合板1,2は、例えば、耐熱性の優れたNi基合金で形成されている。また、溝付き接合板1は、例えば、長さ1200mm、幅700mm、厚さ4.8mmの長方形の板で、溝無し接合板2は、例えば、長さ1200mm、幅700mm、厚さ1.2mmの長方形の板である。
【0030】
次に、二枚の被接合板1,2を積層し、両者間にろう材(インサート金属)を介在させて、両者をろう付接合(液相拡散接合)し、接合部品である接合板3(図3に示す)を製造する(S22)。
【0031】
このろう付接合工程(S22)では、ホットプレスと呼ばれる装置を用いる。このホットプレスは、真空加熱炉と、真空加熱炉内を加熱する加熱装置と、この真空加熱炉内の対象物に力を加える加圧装置と、真空加熱炉内を真空吸引する真空装置と、これらを制御する制御装置と、を備えている。加熱装置は、真空加熱炉の壁面に沿って配置されている複数のヒータと、このヒータを駆動するヒータ回路とを有している。加圧装置は、真空加熱炉内に一部が入り込んでいる上下一対のプレス軸と、各プレス軸を動作させる油圧装置とを有している。
【0032】
このろう付接合工程(S22)では、まず、真空加熱炉内の下プレス軸上に、グラファイトブロック等を介して、接合板3を構成する二枚の被接合板1,2を積層すると共に、両者間にろう材(インサート金属)を配置する。ここで用いるインサート金属は、例えば、母材である被接合板1,2を形成する合金と同種のNI基合金中に融点降下限度であるホウ素やシリコン等を添加したものである。次に、真空加熱炉を密閉した後、真空装置により、真空加熱炉30内を減圧すると共に、加熱装置により、真空加熱炉内を加熱する。そして、加圧装置の油圧回路を動作させて、上下のプレス軸間の被接合板1,2に対して、その積層方向に加圧し、二枚の被接合板1,2相互をろう付接合する。
【0033】
ろう付接合工程(S22)が終了すると、プレス機械を用いて、ろう付接合工程(S22)で作製された接合板3(図3に示す)に対して一次曲げ加工(S23)及び二次曲げ加工(S25)を施し、前述の尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6を作製する。ここで、一次曲げ加工は、粗曲げ加工で、二次曲げ加工は、仕上げ曲げ加工である。この一次曲げ加工工程(S23)は、この工程の曲げ加工で、接合板3のろう付部が割れる可能性のないことが確認されている工程である。
【0034】
本実施形態では、一次曲げ加工工程(S23)と二次曲げ加工工程(S25)との間に、一次曲げ加工された接合板に対して、熱処理を施す(S24)。
【0035】
この熱処理工程(S24)では、図5に示すヒーティングシステムが用いられる。このヒーティングシステムは、真空加熱炉31と、真空加熱炉31内を加熱する加熱装置32と、真空加熱炉31内を真空吸引する真空装置35と、真空加熱炉31内に不活性ガスを供給する不活性ガス発生装置36と、これらを制御する制御装置37と、を備えている。加熱装置32は、真空加熱炉31の壁面に沿って配置されている複数のヒータ33と、このヒータを駆動するヒータ回路34とを有している。真空装置35及び不活性ガス発生装置36は、それぞれ、真空加熱炉31の配管により接続されている。
【0036】
この熱処理工程(S24)では、まず、真空加熱炉31内に、一次曲げ加工された接合板3を配置する。次に、真空加熱炉31を密閉した後、真空装置35により、真空加熱炉31内の空気を排気する一方で、不活性ガス発生装置36により、真空加熱炉31内に窒素ガス等の不活性ガスを送り込む。そして、真空加熱炉31内がほぼ不活性ガスに置換されると、加熱装置32により、真空加熱炉31内を所定の設定温度まで上昇させて、一次曲げ加工された接合板3に熱処理を施す。なお、真空加熱炉31内に送り込む不活性ガスは、先に例示した窒素ガスの他、アルゴンガス、ヘリウムガス、さらにはこれらのガスのうちの2以上のガスによる混合ガス等であってもよい。
【0037】
ここで、設定温度について説明する。この熱処理工程(S24)での熱処理は、ろう材中のホウ素等の添加物の拡散を図って、接合板3中のろう付部の強度及び延性を向上させることを目的としていると共に、一次曲げ加工によるろう付部の加工硬化の回復を図って、ろう付部の延性を確保することを目的としている。
【0038】
ろう材中の添加物の拡散化には、接合板3を、ろう材中で添加物が移動を開始する温度、すなわち、拡散開始温度(約900℃)以上にすればよい。また、ろう付部の加工硬化の回復には、接合板3を、この接合板3の構成部材である被接合板1,2の溶体化し始める温度以上にすればよい。そこで、ここでは、設定温度を、添加物の拡散開始温度と、被接合板1,2の溶体化し始める温度とのうち、高い方の温度以上にして、添加物の拡散及びろう付部の加工硬化の回復を図っている。
【0039】
ところで、接合板3を拡散開始温度にしても、添加物の拡散は極めて緩慢にしか進行しないため、拡散目的の熱処理時間が長くなってしまう。また、接合板3を被接合板1,2の溶体化し始める温度にしても、被接合板1,2の溶体化が極めて緩慢にしか進行しないため、加工硬化の回復目的の熱処理時間が長くなってしまう。このため、設定温度を、添加物の拡散開始温度と、被接合板1,2の溶体化し始める温度とのうち、高い方の温度よりも高くして、拡散及び加工硬化の回復目的の熱処理時間を短くすることが好ましい。しかしながら、設定温度をあまりに高くすると、被接合板1,2を形成する合金の結晶粒が粗大化し、接合板3のクリープ強さ等が低下してしまう。
【0040】
そこで、本実施形態では、図6に示すように、熱処理の設定温度を、ろう材の固相線温度(971℃)以上で、且つ結晶粒が急激に粗大化し始める結晶粒粗大化温度(1170℃)未満にして、拡散及び加工硬化の回復目的の熱処理時間を短くすると共に、結晶粒の粗大化を防いでいる。なお、ろう材の固相線温度(971℃)は、添加物の拡散開始温度と、被接合板1,2の溶体化し始める温度とのうち、高い方の温度よりも、50℃以上高い。
【0041】
次に、設定温度での熱処理時間について説明する。設定温度をろう材の固相線温度(971℃)にした場合、拡散目的の熱処理時間として、1〜5時間程度必要である。また、加工硬化の回復目的の熱処理時間として、0.5〜1時間程度必要である。そこで、本実施形態では、各目的の熱処理時間のうちで、長い方の熱処理時間である1〜5時間を熱処理時間として採用している。
【0042】
すなわち、本実施形態では、設定温度を、ろう材の固相線温度(971℃)以上で、且つ結晶粒粗大化温度(1170℃)未満にし、真空加熱炉31内がこの設定温度になると、この設定温度を前述の熱処理時間(1〜5時間)維持している。
【0043】
本実施形態では、熱処理時間が経過すると、接合板3を急速冷却する。具体的には、真空装置35により、真空加熱炉31内の空気を排気する一方で、不活性ガス発生装置36により、真空加熱炉31内に窒素ガス等の常温の不活性ガスを送り込み、短時間で、接合板3の温度を200〜300℃未満にする。このように、接合板3を急速冷却するのは、650〜1050℃の間で、接合板3から炭化物(主として、M23型の炭化物、MはCr、Mo、W等のいずれか)が析出するので、この炭化物析出を制御するためである。また、接合板3の冷却を不活性ガス雰囲気で行うのは、接合板3の表面に、クロム等の酸化物のスケール層の生成を防ぐためである。
【0044】
熱処理工程(S24)が終了すると、前述したように、接合板3に二次曲げ加工(S25)を施す。二次曲げ加工が施される接合板3は、熱処理により、ろう付部中の添加物の拡散が進み、ろう付部の強度及び延性が向上している上に、一次曲げ加工(S23)によるろう付部の加工硬化が回復して、ろう付部の延性が向上している。このため、二次曲げ加工では、接合板3を曲げ易く、しかも、曲げ加工によるろう付部の割れを防ぐことができる。
【0045】
以上、ステップ21〜25の処理で、尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6の製造工程(S20)が終了する。
【0046】
尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6が完成すると、図2(a)(b)に示すように、尾筒上胴部5の端部と尾筒下胴部6の端部とを対向させて、両端部をレーザ等で溶接し、尾筒上胴部5と尾筒下胴部6を接合して、尾筒本体である尾筒胴部7を作製する(S16)。
【0047】
尾筒胴部7が作製されると、必要に応じて、この尾筒胴部7に対して熱処理を施す(S17)。この熱処理は、尾筒胴部7の作製時の溶接で生じた残留応力を除去することが主目的である。この熱処理でも、先の熱処理(S24)と同様に、真空加熱炉31内で行う。この熱処理での設定温度は、ろう材の固相線温度(971℃)以上で、且つ結晶粒粗大化温度(1170℃)未満であり、この設定温度を維持する熱処理時間は、0.5〜1時間程度である。
【0048】
尾筒胴部7が作製されると直ちに、又は、尾筒胴部7に対して熱処理(S17)を施した後に、この尾筒胴部7の表面に、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating : TBC)を施す(S18)。
【0049】
尾筒胴部7の表面にTBCが施されると、図2(c)(d)に示すように、この尾筒胴部7に、尾筒10を構成する他の部品を組み付けて、尾筒10を完成させる(S19)。
【0050】
以上で、尾筒10の製造工程(S10)が終了する。
【0051】
以上のように、本実施形態では、一次曲げ加工(S23)後の熱処理(S24)により、ろう付部中の添加物を拡散させ、ろう付部の強度を向上させることができると共に、一次曲げ加工によるろう付部の加工硬化を回復させ、ろう付部の延性を向上させることができる。このため、二次曲げ加工(S25)では、接合板3を曲げ易く、しかも、曲げ加工によるろう付部の割れを防ぐことができる。
【0052】
「第二実施形態」
次に、図7を用いて、燃焼器の製造方法の第二実施形態について説明する。
【0053】
本実施形態の燃焼器も、第一実施形態と同様、ガスタービン燃焼器である。また、本実施形態は、第一実施形態の尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6の製造工程(S20)、特に、この製造工程中の熱処理工程(S24)の実行タイミング等が異なることを除いて、第一実施形態の燃焼器の製造方法と同様である。そこで、以下では、尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6の製造工程(S20a)について説明する。
【0054】
本実施形態の尾筒上胴部5及び尾筒下胴部6の製造工程(S20a)でも、第一実施形態と同様、板材加工工程(S21)、ろう付接合工程(S22)を実行する。
【0055】
本実施形態では、ろう付接合工程(S22)で作製された接合板3(図3に示す)に対して一次曲げ加工(S23)を施す前に、この接合板3に対して熱処理を施す(S24a)。
【0056】
この曲げ加工前熱処理(S24a)は、第一実施形態の熱処理(S24)と異なり、専ら、接合板3のろう付部中の添加物の拡散を目的としている。このため、この曲げ加工前熱処理(S24a)では、接合板3を拡散開始温度(約900℃)以上にすればよい。但し、前述したように、接合板3を拡散開始温度にしても、添加物の拡散は極めて緩慢にしか進行せず、熱処理時間が長くなってしまうことから、本実施形態でも、この熱処理における設定温度をろう材の固相線温度(971℃)以上にしている。また、熱処理における設定温度をあまりに高くすると、被接合板1,2を形成する合金の結晶粒が粗大化するため、本実施形態でも、この熱処理における設定温度を結晶粒が急激に粗大化し始める結晶粒粗大化温度(1170℃)未満にしている。
【0057】
すなわち、本実施形態の曲げ加工前熱処理(S24a)も、第一実施形態の熱処理(S24)と同様、熱処理の設定温度を、ろう材の固相線温度(971℃)以上で、且つ結晶粒が急激に粗大化し始める結晶粒粗大化温度(1170℃)未満にしている。
【0058】
また、本実施形態の曲げ加工前熱処理(S24a)は、拡散目的であるため、第一実施形態で説明したように、設定温度での熱処理時間を1〜5にしている。
【0059】
本実施形態でも、第一実施形態と同様、熱処理時間が経過すると、接合板3を急速冷却する。
【0060】
曲げ加工前熱処理(S24a)が終了すると、接合板3に一次曲げ加工(S23)を施す。この一次曲げ加工が施される接合板3は、曲げ加工前熱処理により、ろう付部中の添加物の拡散が進み、ろう付部の強度が向上している。このため、本実施形態では、第一実施形態のように、熱処理工程を経ずに、一次曲げ加工工程(S23)を実行しても、この工程での曲げ加工で、接合板3のろう付部が割れる可能性のないことが確認されている必要性はない。すなわち、本実施形態では、熱処理工程を経ずに、一次曲げ加工工程(S23)を実行すると、この工程での曲げ加工で、接合板3のろう付部が割れる可能性が多少ある場合でも、この一次曲げ加工でのろう付部の割れを防ぐことができる。
【0061】
一次曲げ加工工程(S23)が終了すると、一次曲げ加工が施された接合板3に対して、再び熱処理を施す(S24b)。
【0062】
この曲げ加工中熱処理(24b)は、主として、一次曲げ加工によるろう付部の加工硬化の回復を目的としている。このため、この曲げ加工中熱処理(S24b)では、接合板3を、この接合板3の構成部材である被接合板1,2の溶体化し始める温度以上にすればよい。但し、前述したように、接合板3を溶体化開始温度にしても、被接合板1,2の溶体化が極めて緩慢にしか進行せず、熱処理時間が長くなってしまうことから、本実施形態でも、この熱処理における設定温度をろう材の固相線温度(971℃)以上にしている。また、熱処理における設定温度をあまりに高くすると、被接合板1,2を形成する合金の結晶粒が粗大化するため、本実施形態でも、この熱処理における設定温度を結晶粒が急激に粗大化し始める結晶粒粗大化温度(1170℃)未満にしている。
【0063】
すなわち、本実施形態の曲げ加工中熱処理(S24b)も、第一実施形態の熱処理(S24)や、本実施形態の曲げ加工前熱処理(S24b)と同様、熱処理の設定温度を、ろう材の固相線温度(971℃)以上で、且つ結晶粒が急激に粗大化し始める結晶粒粗大化温度(1170℃)未満にしている。
【0064】
また、本実施形態の曲げ加工中熱処理(S24b)は、ろう付部の加工硬化の回復が主目的であるため、第一実施形態で説明したように、設定温度での熱処理時間を0.5〜1にしている。但し、真空加熱炉31内に接合板3を入れて、この接合板3を熱処理する際に、曲げ加工前熱処理(S24a)を施す接合板3と、曲げ加工中熱処理(S24b)を施す接合板3とを区別することなく、これらの接合板を混在させて熱処理できるようにするため、曲げ加工中熱処理(S24b)での熱処理時間を、曲げ加工前熱処理(S24a)での熱処理時間(1〜5時間)に併せてもよい。また、この曲げ加工中熱処理(S24b)は、前述したように、ろう付部の加工硬化の回復が主目的であるが、この曲げ加工中熱処理(S24b)で、ろう材中の添加物の拡散がさらに促進されることは言うまでもない。
【0065】
設定温度での熱処理時間が経過すると、第一実施形態の熱処理(S24)や、本実施形態の曲げ加工前熱処理(S24b)と同様、接合板3を急速冷却する。
【0066】
曲げ加工中熱処理(S24b)が終了すると、接合板3に二次曲げ加工(S25)を施す。この二次曲げ加工が施される接合板3は、熱処理(S24a,24b)により、ろう付部中の添加物の拡散が進み、ろう付部の強度及び延性が向上している上に、一次曲げ加工(S23)によるろう付部の加工硬化が回復して、ろう付部の延性が向上している。このため、二次曲げ加工では、接合板3を曲げ易く、しかも、曲げ加工によるろう付部の割れを防ぐことができる。
【0067】
以上で、本実施形態における、尾筒上胴部5の製造工程(S20a)が終了する。
【0068】
以上、本実施形態では、第一実施形態と同様、曲げ加工によるろう付部の割れを防ぐことができる。さらに、本実施形態では、二回の熱処理工程(S24a,24b)を実行するため、第一実施形態と比べて、熱処理工程全体での時間が長くなるものの、熱処理工程を経ずに、一次曲げ加工工程(S23)を実行すると、この工程での曲げ加工で、接合板3のろう付部が割れる可能性が多少ある場合でも、この一次曲げ加工でのろう付部の割れを防ぐことができる。
【0069】
なお、以上の実施形態は、いずれもガスタービン燃焼器に関するものであるが、本発明は、これに限定されるものではなく、複数の被接合部材相互をろう付接合して、接合部品を作製し、接合部品を曲げて、曲げ加工品を製造する場合であれば適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1,2:被接合板(被接合部材)、3:接合板(接合部品)、5:尾筒上胴部(曲げ加工品)、6:尾筒下胴部、10:尾筒、31:真空加熱炉、32:加熱装置、35:真空装置、36:不活性ガス発生装置、ヒータ回路、50:加圧装置、51:プレス軸、55:油圧装置、60:真空装置、70:制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被接合部材相互をろう付接合して、接合部品を作製する接合工程と、
前記接合部品を曲げて、曲げ加工品を作製する曲げ工程と、
前記曲げ工程前と、該曲げ工程における曲げ加工中とのうち、少なくとも一方のタイミングで、前記接合部品を加熱して、該接合部品のろう付部の拡散処理を行う熱処理工程と、
を実行して、前記曲げ加工品を製造することを特徴とする曲げ加工品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の曲げ加工品の製造方法において、
前記曲げ工程は、複数の曲げ工程を有し、
前記熱処理工程は、前記複数の曲げ工程のうち、最後の曲げ工程前であって、前記接合部品の曲げ加工で、該接合部品のろう付部が割れる可能性のないことが確認されている曲げ工程後に、該接合部品を加熱する曲げ加工中熱処理工程を有し、
前記曲げ加工中熱処理では、前記接合工程で用いるろう材の固相線温度以上で、且つ前記被接合部材の結晶粒が急激に粗大化する結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱する、
ことを特徴とする曲げ加工品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の曲げ加工品の製造方法において、
前記熱処理工程は、前記曲げ工程前に行う曲げ加工前熱処理工程を有し、
前記曲げ加工前熱処理工程では、前記接合工程で用いるろう材中の添加物が移動を開始する添加物拡散開始温度以上で、且つ前記被接合部材の結晶粒が急激に粗大化する結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱する、
ことを特徴とする曲げ加工品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の曲げ加工品の製造方法において、
前記曲げ加工前熱処理工程では、前記ろう材の固相線温度以上で、且つ前記被接合部材の前記結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱する、
ことを特徴とする曲げ加工品の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の曲げ加工品の製造方法において、
前記熱処理工程は、前記曲げ工程前に行う曲げ加工前熱処理工程を有し、
前記曲げ加工前熱処理工程では、前記ろう材の前記固相線温度以上で、且つ前記被接合部材の前記結晶粒粗大化温度未満に、前記接合部品を加熱し、
前記曲げ加工前熱処理工程での熱処理時間と前記曲げ加工中熱処理での熱処理時間とが同じ時間である、
ことを特徴とする曲げ加工品の製造方法。
【請求項6】
内部に燃焼ガスが滞在する筒を有する燃焼器の製造方法において、
請求項1から5のいずれか一項に記載の曲げ加工品の製造方法で、前記筒の一部を成し、前記曲げ加工品としての第一筒部品を製造する第一筒部品製造工程と、
前記筒の他の部分を成す第二筒部品を製造する第二筒部品製造工程と、
前記第一部品の端部と前記第二筒部品の端部とを溶接して、前記筒を形成する溶接工程と、
を実行することを特徴とする燃焼器の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の燃焼器の製造方法において、
前記溶接工程後に、前記筒を加熱して、該溶接工程で該筒に生じた残留応力の除去処理を行う溶接後熱処理工程を実行する、
ことを特徴とする燃焼器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−30239(P2012−30239A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170439(P2010−170439)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】