説明

有機エレクトロルミネッセント素子、露光装置および画像形成装置

【課題】湿式プロセスを用いて発光層を形成した場合においても、発光面内の発光強度分布が均一な有機エレクトロルミネッセント素子、各有機エレクトロルミネッセント素子の発光強度分布が均一な露光装置、およびこの露光装置を用いた高画質な画像形成装置を提供する。
【解決手段】ガラス基板2と、ガラス基板2上に形成された第1の電極3と、少なくとも第1の電極3の一部を覆うように形成された絶縁層4と、発光層8と、この発光層8と接して第1の電極3と対向して配置された第2の電極9とを備え、第1の電極3と発光層8の間および絶縁層4と発光層8の間に所定の厚みの中間層5が配置され、この中間層5を乾式プロセスを用いて形成された無機物層6と湿式プロセスを用いて形成された有機物層7によって構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種光源などに用いられる電気的発光素子である有機エレクトロルミネッセント素子、この有機エレクトロルミネッセント素子を光源として用いる露光装置およびこの露光装置を搭載した画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセント素子は固体蛍光性物質の電界発光現象を利用した発光デバイスであり、小型のディスプレイとして既に一部で実用化されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセント素子は発光層に用いられる材料の違いからいくつかのグループに分類することができる。代表的なものの一つは発光層に低分子量の有機化合物を用いる低分子有機エレクトロルミネッセント素子で、主に真空蒸着法を用いて作製される。そして今一つは発光層に高分子化合物を用いる高分子有機エレクトロルミネッセント素子である。
【0004】
高分子有機エレクトロルミネッセント素子は各機能層を構成する材料を溶解した溶液を用いることでスピンコート法やインクジェット法、スリットコート法、ディップコート法、印刷法等による製膜工程(以降このように液体材料を薄膜状に塗布する手段を用い、高分子エレクトロルミネッセント素子の作製プロセスの特徴である簡便性をもった製膜工程を「湿式プロセス」と呼称する。これに対し真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などに代表される製膜工程を「乾式プロセス」と呼称する。)を採用することが可能であり、その簡便なプロセスから低コスト化や大面積化が期待できる技術として注目されている。
【0005】
図9は従来の高分子有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図である。
【0006】
以降図9を用いて従来の有機エレクトロルミネッセント素子の構造およびその作成手順について説明する。
【0007】
なお以降の説明において高分子有機エレクトロルミネッセント素子を単に「有機エレクトロルミネッセント素子」と呼称する。また特に区別する必要がある場合は高分子、低分子の別を示すこととする。
【0008】
典型的な有機エレクトロルミネッセント素子11は陽極13および陰極19の間に電荷注入層(後述するPEDOT層10)、発光層18等の複数の機能層を積層することで作製される。
【0009】
まず陽極13としてITO(インジウム錫酸化物)を製膜した後にエッチングによって所定の形状にパターニングし、所望の発光形状が得られるように絶縁層14を配置するなどしたガラス基板12上に、電荷注入層としてのPEDOT:PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸の混合物:以下PEDOTと記載する。)薄膜からなるPEDOT層10を湿式プロセスであるスピンコート法などによって製膜する。PEDOT層10は電荷注入層として事実上の標準となっている材料であり、陽極13側に配置されることでホール注入層として機能する。
【0010】
PEDOT層10の上に発光層18として例えばポリフェニレンビニレン(以下PPVと表す)およびその誘導体、またはポリフルオレンおよびそれらの誘導体が湿式プロセスであるスピンコート法などによって製膜される。そしてこれら発光層18上に真空蒸着法によって陰極19としての金属電極が製膜され素子が完成する。
【0011】
さて従来の有機エレクトロルミネッセント素子に関して、特に低分子有機エレクトロルミネッセント素子の信頼性向上のための工夫として、たとえば特許文献1に開示されたようなシリコンを主な材料とする中間層を導入する技術が提案されている。しかしながら、これらの物質からなる中間層は、第一イオン化ポテンシャルが大きいために電極との間に著しい電位ギャップを生じる。その結果これら中間層は電気抵抗が著しく高くなってしまい、低電圧で電荷を注入するためにはその厚みを極力小さくする必要があった。またこれらの中間層は、基板の表面粗さの改善や電極面からの不純物の機能層内への拡散を阻止するなどの作用はあるものの、本質的には電荷のバリア層として作用するため、素子の発光効率を向上できるものではなかった。
【特許文献1】特開2002−280186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
さて上述したPPVおよびポリフルオレンは高分子有機エレクトロルミネッセント素子11に用いられる発光層18用の材料として代表的なものであり、通常はトルエンやキシレンなどの有機溶媒に溶解させて塗布される。このように有機エレクトロルミネッセント素子11は機能層の多くを湿式プロセスという簡易な方法で作製することができるが、材料溶液をガラス基板12に塗布する際に、ガラス基板12そのもの、およびガラス基板12上に配置された陽極13および絶縁層14相互の濡れ性の違いによって均一な製膜が行われないという課題があった。この課題は例えば真空蒸着法等の乾式プロセスによってガラス基板12の表面状態にかかわらず均一な製膜が行われる低分子エレクトロルミネッセント素子と異なり、高分子有機エレクトロルミネッセント素子に代表される湿式プロセスを用いて作製される有機エレクトロルミネッセント素子に特有の課題である。
【0013】
このような課題について以下に一例をあげて詳細に説明する。
【0014】
一般的に陽極13を構成するITOの表面は親水性であるのに対し、絶縁層14を構成する多くの絶縁材料はアクリルやポリイミドなどの有機材料からなりその表面は親油性であることが多い。これら表面の特性が異なる部位が混在している面上に前述したPEDOT層10を塗布により形成すると、塗布面の濡れ性の違いによって、特に陽極13を構成するITOと絶縁層14の境界部分において膜厚の不均一が強く生じる。
【0015】
塗布によりPEDOT層10を形成した際に発生した膜厚の不均一は、その後PEDOT層10の上方に重ねて塗布されるその他の機能層によっても改善されることは無く、その結果、有機エレクトロルミネッセント素子11の発光面は例えば周辺部に向かって膜厚が薄くなるとか、その逆であるとか、さらに複雑な場合には発光面内で水面の波のような形状となることがある。特に後者は湿式プロセスの一つであるインクジェット法を用いて絶縁層14に囲まれた陽極13上に高分子有機エレクトロルミネッセント材料の溶液を滴下したときに生じることが多い。
【0016】
膜厚の不均一は有機エレクトロルミネッセント素子11の駆動時に発光面の膜厚方向にかかる電界の不均一となって現れ、輝度ムラや劣化の促進による短寿命化、また局部的な絶縁破壊による不点灯などの問題を引き起こす。
【0017】
これらの課題は有機エレクトロルミネッセント素子11を発光デバイス等に応用する場合にもそのまま課題となる。短寿命化や不点灯はもとより、発光面内の輝度ムラは特に有機エレクトロルミネッセント素子11を光源として用いる露光装置の場合にその影響が大きい。露光装置に用いられる光源に発光面内輝度ムラがあると、詳細は後述するが、露光を行った際に感光体の表面電位の分布も不均一となり、結果トナーの付着状態も不均一化し鮮明で正しい印刷出力を得ることができなくなる。
【0018】
本発明は湿式プロセスを用いて有機エレクトロルミネッセント素子を製造した場合においても、発光面内の発光強度分布が均一な有機エレクトロルミネッセント素子、各有機エレクトロルミネッセント素子の光強度が均一な露光装置、およびこの露光装置を用いた高画質な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は上記課題に鑑みてなされたもので、基板と、この基板上に形成された第1の電極と、少なくとも第1の電極の一部を覆うように形成された絶縁層と、この絶縁層および第1の電極の上に形成された発光層と、この発光層と接して第1の電極と対向して配置された第2の電極とを備え、第1の電極と発光層の間および絶縁層と発光層の間に所定の厚みの中間層が配置され、この中間層を乾式プロセスを用いて形成された無機物層と湿式プロセスを用いて形成された有機物層によって構成したものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、中間層によって基板上に混在する濡れ性の異なる部分が一様に覆われ、濡れ性を均一化することができ、その上面に湿式プロセスによって塗布される発光層材料の膜厚が均一化し、発光ムラのない安定動作可能な素子を得ることができる。また湿式プロセスという簡便な工程を用いることができることから、有機エレクトロルミネッセント素子を低コストで製造することが可能となる。この有機エレクトロルミネッセント素子を露光装置に応用することによって高精細な露光装置を低コストで提供でき、またこの露光装置を搭載した画像形成装置を低コストで提供できるとともに画像形成装置の画質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は、基板と、この基板上に形成された第1の電極と、少なくとも第1の電極の一部を覆うように形成された絶縁層と、この絶縁層および第1の電極の上に形成された発光層と、この発光層と接して第1の電極と対向して配置された第2の電極とを備え、第1の電極と発光層の間および絶縁層と発光層の間に所定の厚みの中間層が配置され、中間層を乾式プロセスを用いて形成された無機物層と湿式プロセスを用いて形成された有機物層によって構成したものである。この中間層によって基板上に混在する濡れ性の異なる部分が一様に覆われ、濡れ性を均一化することができ、その上面に湿式プロセスによって塗布される発光層材料の膜厚が均一化する。これによって個々の有機エレクトロルミネッセント素子において発光面の周辺部まで均一な発光強度を持たせることができるため、発光ムラのない安定動作可能な有機エレクトロルミネッセント素子を得ることができる。中間層における無機物層を乾式プロセスによって形成する際に、無機物層は第1の電極と絶縁層という互いに濡れ性の異なる面に形成されるが、乾式プロセスの性格上基板面の濡れ性に関係なく、無機物層を均一な厚さで製膜することが可能となる。また中間層における有機物層の形成に際して湿式プロセスという簡便な工程を用いることができることから、有機エレクトロルミネッセント素子を低コストで製造することが可能となる。
【0022】
また本発明は、中間層を構成する無機物層を第1の電極および絶縁層と接するように構成したものである。これによって第1の電極と絶縁層という互いに濡れ性の異なる面に均一な濡れ性を付与することが可能となる。
【0023】
また本発明は、中間層における無機物層を酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸化物のいずれかで構成したものである。これらの物質は真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などの乾式プロセスを用いて製膜するのに好適であり、濡れ性の異なる部分が混在する基板上にも均一な膜を形成することが可能となるので、均一な発光特性を持ったエレクトロルミネッセント素子を実現することが可能となる。
【0024】
また本発明は、中間層における無機物層をモリブデン、タングステン、バナジウムのいずれかの酸化物で構成したものである。酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化バナジウム等は十分に安定であり、かつ導電率が高く、効率的なキャリア注入を行なうことができ、しかも光透過率が高い。即ち本発明の中間層は単に濡れ性を改善するのみにとどまらず、有機エレクトロルミネッセント素子の電荷注入特性を改善することにも寄与する。これによって有機エレクトロルミネッセント素子の発光効率を高め、素子の寿命を改善することが可能となる。
【0025】
また本発明は、中間層を構成する有機物層を発光層と接するように構成したものである。有機物層は無機物層を被覆するように形成されるが、有機物層の形成に先立って無機物層によって基板面の濡れ性が均一化されているため、有機物層を極めて均一に形成することができる。この有機物層はこれに次いで形成される発光層の材料と濡れ性が極めて近いため、有機エレクトロルミネッセント素子の発光層を均一に形成することが可能となる。
【0026】
また本発明は、中間層を構成する有機物層の膜厚をL1とし、発光層の膜厚をL2とするとき、L1を(L2/20)<L1<(L2/3)の関係を満たすように構成したものである。これによって絶縁性が高い無機物を中間層として導入しても駆動のための電圧が上昇することがなく、かつ素子の絶縁破壊を防止することができる。また、無機物が着色していても膜厚が薄いために発光層から放出される光が吸収によって失われることがない。更に中間層に次いで行われる発光層の形成に好適な濡れ性が均一化された表面状態をなすことができ、均一な発光層膜厚を得ることが可能となる。
【0027】
また本発明は、発光層を高分子系材料を用い湿式プロセスによって形成したものである。発光層を構成する高分子系材料を溶媒に溶解した溶液と、中間層を構成する有機物層の濡れ性は極めて近いため、湿式プロセスによって有機エレクトロルミネッセント素子の発光層を均一に形成することが可能となる。
【0028】
本発明の露光装置は、上述した有機エレクトロルミネッセント素子を列状に配置し、個々の有機エレクトロルミネッセント素子を独立して点灯/消灯制御可能に構成したものである。本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は発光面の周辺部まで均一な発光強度を持っているため、この有機エレクトロルミネッセント素子を用いた露光装置によって安定した潜像を形成することが可能となる。また本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は簡易な湿式プロセスにて製造できるため、露光装置を低コストで提供することが可能となる。
【0029】
本発明の画像形成装置は、上述した露光装置と、この露光装置によって静電潜像が形成される感光体と、この感光体上に形成された静電潜像を顕画化する現像手段とを有するものである。本発明の露光装置により感光体に照射される光の強度分布も均一となり、露光による感光体の表面電位分布の均一化、トナーの付着状態均一化を実現されるため、本発明の画像形成装置によって高精細かつ忠実な印刷出力を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の具体的な内容について実施例を用いて説明する。
【0031】
(実施例1)
図1は本発明の実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子の構成図である。
【0032】
図1において1は有機エレクトロルミネッセント素子である。2は有機エレクトロルミネッセント素子1を支持する透光性を有する例えばガラス基板である。実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子1を製造する工程の詳細については後述するが、実施例1ではガラス基板2上に第1の電極として透光性の例えばITO等によって構成された陽極3が形成され、その少なくとも一部が絶縁層4で覆われている。その上方全面に中間層5を構成する無機物層6が乾式プロセスを用いて形成され、次いで中間層5を構成する有機物層7が湿式プロセスで形成される。さらに発光層8としての高分子系材料層が湿式プロセスによって形成され、最後に対極としての第2の電極である陰極9が真空蒸着法で形成される。
【0033】
有機エレクトロルミネッセント素子1の陽極3をプラス極として、また陰極9をマイナス極として直流電圧または直流電流を印加すると、発光層8には陽極3から中間層5を介してホールが注入されるとともに陰極9から電子が注入される。発光層8ではこのようにして注入されたホールと電子とが再結合し、これに伴って生成される励起子が励起状態から基底状態へ移行する際に発光現象が起るというわけである。
【0034】
以降図1を用いて実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1の製造工程の詳細を説明する。
【0035】
まずガラス基板2上への陽極3の形成から絶縁層4の形成までの工程について説明する。
【0036】
ガラス基板2上にスパッタリング法により150〜200nm程度の厚さでITO薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法とエッチング法を用いるなどして所定の形状の電極パターンを作製し陽極3を形成する。続いて感光性ポリイミドからなる1μm程度の絶縁材料をスピンコート法で全面に塗布し、やはりフォトリソグラフィー法で所定の形状にパターニングして絶縁層4を形成する。絶縁層4のパターニングは陽極3とガラス基板2の境界部分を覆うように行われ発光面の形状を規制する。
【0037】
発光面を絶縁層4で規制する理由は用途によってさまざまであるが、例えば露光装置を想定した場合は、発光面の位置と形状を正確に決めるために行われる。もちろん、有機エレクトロルミネッセント素子1は前述した原理によって対向する陽極3と陰極9の重なった部位が発光するため、陽極3と陰極9の形状によって発光面を規制することも可能であるが、露光装置では個々の発光面が大変小さなものとなるため、これを陽極3と陰極9といった電極のみで規制するには個々の電極線が細くなりすぎ、結果的に抵抗値が増大するという問題が生じる。よって抵抗値が大きくならないようある程度の幅の電極を作製した上で、その一部を絶縁層4によって規制して発光面を規制するという方法が一般的に用いられている。
【0038】
このようにして陽極3、絶縁層4が作製されたガラス基板2の上に、中間層5を形成する。中間層5は以下に詳細に説明するように無機物層6と有機物層7から構成されている。
【0039】
以下に中間層5を形成する工程について説明する。
【0040】
中間層5を構成する無機物層6は例えば真空蒸着法といった乾式プロセスで形成され、図示するように陽極3および絶縁層4の両方と接するように構成されている。無機物層6は陽極3と絶縁層4という互いに濡れ性の異なる面に形成されるが、乾式プロセスの特性上基板面の濡れ性に関係なく均一な厚さで製膜することができる。
【0041】
実施例1では、無機物層6として10nmの厚みを持つ酸化モリブデンから構成される層を乾式プロセスである真空蒸着法によって形成した。この無機物層6による膜の形成はガラス基板2の全面に対して行ってもよいし、あるいは真空蒸着時にマスクを使用してガラス基板2の一部に対して製膜してもよい。いずれにしても本発明の効果を得るためには少なくとも陽極3と絶縁層4の境界部分は酸化モリブデン層で覆われている必要がある。
【0042】
無機物層6を形成した後に有機物層7を塗布により形成するが、有機物層7は例えばスピンコート法といった湿式プロセスで形成され、図示するように有機物層7は発光層8と接するように構成されている。有機物層7を形成するにあたり、その塗布面全面あるいは少なくとも陽極3と絶縁層4の境界部分は上述の無機物層6である酸化モリブデン層で覆われているため、有機物層7を均一性高く製膜することが可能である。即ち有機物層7を形成する際に既に無機物層6によって塗布面は均一な無機物膜で覆われているため、湿式プロセスによっても均一性が高い有機物層7を製膜することが可能である。
【0043】
さて有機物層7は、これが塗布される面が無機物層6で覆われているものの濡れ性は異なるために若干ながら膜厚の不均一を生じる可能性がある。しかしながら有機物層7は後に説明するように非常に薄く製膜されるため、膜厚に多少の不均一が生じても事実上発光の均一性に影響を与えることはない。
【0044】
実施例1では有機物層7の材料としてポリ[9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−コ−1,4−ベンゾ−{2,1‘−3}−チアジアゾール](Poly[9,9−dioctylfluorenyl−2,7−diyl]−co−1,4−benzo−{2,1’−3}−thiadiazole)])を用いている。これを10nmの厚みを持つ薄膜として湿式プロセスであるスピンコート法によって形成する。
【0045】
この材料は後述する発光層8の材料であるMEH−PPVとの組み合わせにおいて電子ブロック層としても機能し、陰極9から注入される電子が陽極3にすり抜けるのを防止するため、有機エレクトロルミネッセント素子1の発光効率を向上させる効果がある。
【0046】
有機物層7は10nmという薄膜に形成するためにスピンコート法に用いる溶液の濃度を下げ粘度を低くすることが望ましい。実施例1では10nmといった薄い有機物層7を形成するために溶液の濃度は0.5%としている。しかしこの濃度は代表的な値であって、この値にとらわれるものではない。有機物層7の膜厚は溶液の濃度のほか、有機物の分子量、溶媒の種類、スピンコート時の回転数、スピンコート雰囲気等の影響を受ける。多少溶液の濃度が高い、あるいは溶解している有機物の分子量が大きい等により溶液の粘度が高いといった場合であれば、スピンコート時の回転数を高くすることによりある程度の薄膜を形成することが可能である。
【0047】
上述の0.5%という溶液濃度は、有機物層7を構成する材料の分子量として20万付近と、一般的なスピンコート条件である1000から5000rpmの回転数を想定した際の代表的な値である。この材料の平均分子量は10万から50万程度の値であり、好ましくは20万付近である。このような有機物を0.1から2.0%程度の範囲の溶液とし、スピンコート法を適用する際のスピンコータの回転数などの条件を調整することによって10nmの膜厚を容易に得ることができる。
【0048】
以上説明したように、乾式プロセスで形成された無機物層6と湿式プロセスで形成された有機物層7からなる二層膜を中間層5として形成することで、湿式プロセスを用いて発光層8を塗布するにあたって発光層8の膜厚の分布が均一なエレクトロルミネッセント素子1を製造することができる。
【0049】
次に発光層8を形成する工程について説明する。
【0050】
発光層8は中間層5(中間層5を構成する有機物層7)の上面に湿式プロセスで塗布されるが、発光層8が形成される面が既に有機物層7という均一な濡れ性の膜で覆われていることはもとより、発光層8の材料を溶解した溶液の濡れ性と有機物層7によって形成された膜の濡れ性はきわめて近いために、発光層8を非常に均一性が高く製膜することができる。
【0051】
湿式プロセスであるスピンコート法により高分子材料からなる発光層8を塗布形成するにあたり、実施例1では高分子系有機エレクトロルミネッセント材料としてトルエンに溶解したMEH−PPVを用い、膜厚は120nmとしている。MEH−PPVは高分子系有機エレクトロルミネッセント材料としてきわめて一般的であり、たとえば日本シーベルヘグナー社にて購入可能である。
【0052】
なお実施例1では発光層8をMEH−PPVからなる単層膜としたが、これはいくつかの材料からなる積層膜であってもよい。たとえばMEH−PPV層内に注入された電荷を閉じ込め再結合効率を向上させるために、電子ブロック機能やホールブロック機能をもった材料からなる層を追加するのは素子の特性向上につながり望ましいものである。
【0053】
また材料そのものもMEH−PPVに限定されるものではない。現在様々な特性と発光色を持った高分子系有機エレクトロルミネッセント材料が提案されており、これらの中から適宜選択して発光層8を構成することができる。
【0054】
そして最後に陰極9を形成するが、実施例1においてはバリウムと銀の積層電極を用いている。バリウムは陰極9からの電子注入を助け、有機エレクトロルミネッセント素子の駆動電圧を低下させるのに効果がある。同様の目的でカルシウムや、フッ化リチウムなどの化合物を用いてもよい。
【0055】
さて、上述したように有機物層7は、これが塗布される基板面が無機物層6で覆われているものの濡れ性は異なるために、若干ながら膜厚の不均一を生じる可能性がある。しかしながら、有機物層7は前述したように10nmとたいへん薄く製膜され、具体的には有機物層7の膜厚をL1とし、発光層8の膜厚をL2とするとき、L1を(L2/20)<L1<(L2/3)の関係を満たすように構成しているため、多少の不均一があっても膜厚分布に起因する発光面内の電界強度分布はきわめて小さなものに留まり、事実上発光の均一性に影響を与えることはない。
【0056】
発光層8の膜厚に対する有機物層7の膜厚の比率には最適な範囲が存在する。以下に(表1)を用いて発光層8の膜厚と有機物層7の膜厚の関係について説明する。
【0057】
【表1】

【0058】
(表1)に示すように、発光層8の膜厚に対する有機物層7の膜厚の比率が1/30以下の場合、有機物層7の厚さとして10nmを想定すると、発光層8の厚さは300nmにもなる。これでは有機エレクトロルミネッセント素子1の全厚が厚くなりすぎ、点灯のために必要な印加電圧が高くなるため有機エレクトロルミネッセント素子1の電力効率が著しく低下する。印加電圧の上昇を避けるために発光層8の膜厚を100nm程度に留めると、今度は有機物層7の厚みが3nm程度となり、もはや湿式プロセスを用いて均一な製膜を得ることは困難である。
【0059】
一方、発光層8に対する有機物層7の膜厚の比率が1/3以上の場合は、有機物層7の膜厚を10nmと想定すると、発光層8は高々30nmの膜厚となり、有機エレクトロルミネッセント素子1の全厚が薄くなる結果絶縁破壊が生じやすくなる。また逆に発光層8の膜厚を100nm程度に確保すると有機物層7の厚みが30nm以上と厚くなりすぎ、無機物層7上への均一な製膜が困難となる。
【0060】
このようなことから、発光層8に対する有機物層7の膜厚比率は1/20−1/3程度の範囲から選択されるべきであり、好ましくは1/10付近である。
【0061】
さて、このようにして作製された有機エレクトロルミネッセント素子1の発光面から放射される発光強度分布を、従来技術であるPEDOTを用いた素子の場合と比較して説明する。
【0062】
図2(a)はPEDOTとPPV系材料を用いた従来技術に基づく有機エレクトロルミネッセント素子(中間層5を欠く有機エレクトロルミネッセント素子、以下PEDOT素子と呼称する)、同(b)は本発明の実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子(中間層5を有する有機エレクトロルミネッセント素子、以下中間層素子と呼称する)、の発光強度分布を示す説明図である。図中ともに“A”で示された範囲が発光面でありその両側は絶縁層で規制された非発光面である。
【0063】
図2(b)から明らかなように、中間層素子は発光面の周辺部分で急激に発光強度が増大し、また発光面内の大部分にわたって均一な発光強度を維持しているのに対して、図2(a)に示すPEDOT素子では発光面周辺部の光量が少なく、また強度分布は山形をしており均一な発光強度を持っている範囲はほとんど無い。
【0064】
このように発光強度分布に差が生じる原因は、発光面内の膜厚分布の不均一である。
【0065】
図3(a)は従来技術に基づくPEDOT素子の層構成の断面図、同(b)は本発明に基づく中間層素子の層構成の断面図である。図3(a)および同(b)においてP1は絶縁層上の位置を、P2は発光面周辺部分の位置を、P3は発光面の中央部付近の位置を示している。
【0066】
以降図3(a)、同(b)を用いて発光面内の膜厚が不均一となるメカニズムについて説明する。
【0067】
まず図3(a)に示す従来技術に基づくPEDOT素子においては、PEDOT層10形成の際、ガラス基板12の表面には親油性の絶縁層14と親水性のITOから構成された陽極13が混在しており、スピンコート法によって塗布されたPEDOT層10は親水性の陽極13との濡れはよいが、親油性の絶縁層14との濡れはよくないために、絶縁層14上から陽極13側へ移動しようとする。しかしながらそれらの現象が生じるのはPEDOT層10がスピンコート法により塗布されてから溶媒が乾燥するまでのきわめて短い時間に限られるため、結果的に不均一な膜厚が固定される。すなわちP2に示すところの発光面周辺部ではP1に示す親油性の絶縁層4上から移動してきたPEDOTによって素子中央部P3よりも膜厚が厚くなってしまい、発光面の中央部に向かって次第に薄くなるという“すり鉢状”の膜厚分布を持つようになる。
【0068】
PEDOT層10の形成によって塗布面はPEDOT層10という均一な濡れ性の膜に覆われることになるため、その後に塗布される発光層18を構成するPPV系材料の膜厚は均一となる。また、それに続く陰極19の形成は真空蒸着法によるので、原理的に均一な膜厚となる。しかしながらPEDOT層10の塗布によって素子周辺部P2で生じた膜厚の不均一はその後の工程で解消されることは無いために、有機エレクトロルミネッセント素子11としての総膜厚は発光面内で不均一な分布を持つことになる。これは即ち通電時の発光面内に電界強度の不均一が生じることを意味する。
【0069】
これに対して図3(b)に示す本発明に基づく中間層素子では、発光層8の塗布に先立ち親油性の絶縁層4と親水性の陽極3が混在しているガラス基板2上に中間層5が形成される。中間層5の形成によって少なくとも絶縁層4と陽極3の境界部分、および陽極3の表面は均一な濡れ性を持った膜で覆われることになる。しかも前述したように無機物層6と有機物層7によって構成された中間層5は膜厚の均一性が高い。よって中間層5に次いで湿式プロセスで形成される発光層8は均一な濡れ性を持った面に対する塗布であるために、その膜厚は均一となる。
【0070】
このように中間層5を形成することにより有機エレクトロルミネッセント素子1の発光層8の膜厚を均一化することができ、発光面の周辺部まで均一な発光強度を持った優れた有機エレクトロルミネッセント素子を得ることが可能となる。
【0071】
さて実施例1では中間層5を構成する無機物層6として酸化モリブデンを用いたが、これは酸化モリブデンが十分に安定であり、かつ導電率が高く、効率的なキャリア注入を行なうことができ、しかも光透過率が高いからである。材料特性上の観点から同様の効果を得ることができる材料として、タングステンやバナジウムの酸化物を用いることが可能である。
【0072】
また、さらに中間層5を構成する無機物層6を酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸化物のいずれかで構成しても、上述してきた酸化モリブデン層と同様の効果を得ることができる。
【0073】
酸化物としては、クロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、トリウム(Tr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)あるいは、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までのいわゆる希土類元素などの酸化物を挙げることができる。
【0074】
また窒化物としては、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化珪素(SiN)、窒化マグネシウム(MgN)、窒化モリブデン(MoN)、窒化カルシウム(CaN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化バナジウム(BaN)、窒化亜鉛(ZnN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化鉄(FeN)、窒化銅(CuN)、窒化バリウム(BaN)、窒化ランタン(LaN)、窒化クロム(CrN)、窒化イットリウム(YN)、窒化リチウム(LiN)、窒化チタン(TiN)、およびこれらの複合窒化物等を挙げることができる。
【0075】
また、前述した酸窒化物としては、バリウムサイアロン(BaSiAlON)、カルシウムサイアロン(CaSiAlON)、セリウムサイアロン(CeSiAlON)、リチウムサイアロン(LiSiAlON)、マグネシウムサイアロン(MgSiAlON)、スカンジウムサイアロン(ScSiAlON)、イットリウムサイアロン(YSiAlON)、エルビウムサイアロン(ErSiAlON)、ネオジムサイアロン(NdSiAlON)などのIA、IIA、IIIB族の元素を含むサイアロン、または多元サイアロン等の酸窒化物を挙げることができ、また窒化珪素酸ランタン(LaSiON)、窒化珪素酸ランタンユーロピウム(LaEuSi)、酸窒化珪素(SiON)等も適用可能である。
【0076】
さらに、前述した複合酸化物としては、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)の他、チタン酸カルシウム(CaTiO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、ビスマス酸化鉄(BiFeO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、バナジウム酸ナトリウム(NaVO)、バナジウム酸鉄(FeVO)、チタン酸バナジウム(TiVO)、クロム酸バナジウム(CrVO)、バナジウム酸ニッケル(NiVO)、バナジウム酸マグネシウム(MgVO)、バナジウム酸カルシウム(CAVO)、バナジウム酸ランタン(LaVO)、モリブデン酸バナジウム(VMoO)、モリブデン酸バナジウム(VMoO)、バナジウム酸リチウム(LiV)、珪酸マグネシウム(MgSiO)、珪酸マグネシウム(MgSiO)、チタン酸ジルコニウム(ZrTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、マグネシウム酸鉛(PbMgO)、ニオブ酸鉛(PbNbO)、ホウ酸バリウム(BaB)、クロム酸ランタン(LaCrO)、チタン酸リチウム(LiTi)、銅酸ランタン(LaCuO)、チタン酸亜鉛(ZnTiO)、タングステン酸カルシウム(CaWO)等を挙げることができる。
【0077】
なお、上記化合物はあくまで適用可能なものの一部であり、また上記化合物においては価数の異なる化合物も存在し易く、例示したもの以外にも価数の異なる化合物の形をとるものも含まれる。
【0078】
前述した化合物には絶縁性の高いものも含まれているが、一般的には絶縁体とされている物質であっても、その膜厚を1nmから5nm程度と薄くすることにより通電が可能となり本発明に示すところの中間層5を構成する無機物層6として適用可能となる。また前述した化合物のうち着色があるものについても、形成する膜の厚さを数nmとすることで事実上の問題を回避することができ、本発明の効果を奏することができる。
【0079】
なお前述した有機エレクトロルミネッセント素子1の発光層8とは、単に発光機能のみを有した層に限定されるものではなく、電荷輸送機能など、他の機能を有しているもの、あるいはそれらを含む複数材料からなる積層膜であってもよい。
【0080】
また実施例1では真空蒸着法を用いて無機物層6としての酸化モリブデン層の製膜を行なったが、もちろんこれはスパッタリング法を始めとする前述した他の乾式プロセスを用いてもよい。たとえば、酸化モリブデン、酸化バナジウムは昇華性を持っており一般的な真空蒸着法による製膜が可能であるが、酸化タングステンについてはスパッタリング法による製膜が必要である。また前述した他の酸化物等についても真空蒸着法を適用できないものが多く、それらについてはむしろスパッタリング法を用いる方が望ましい。
【0081】
有機物層7についても同様に、実施例1で用いられた材料に限定されるものではない。発光層8の材料との濡れ性を始めとする適合性を考慮して適宜最適な選択がなされるべきものである。
【0082】
さて、このような均一な発光強度分布を持った有機エレクトロルミネッセント素子を露光装置に応用した例について以下に詳細に説明する。
【0083】
図4は本発明の実施例1における露光装置の構成図である。以降露光装置の構造について図4を用いて詳細に説明する。
【0084】
図4において、33は図示しない画像形成装置に搭載された露光装置であり、感光体28の表面に静電潜像を形成する部材である。なお感光体28上への静電潜像の形成過程および画像形成装置の構成および動作については後に詳細に説明する。
【0085】
2は既に説明したガラス基板であり、ガラス基板2の面Aには露光光源として有機エレクトロルミネッセント素子1が図面と垂直な方向(主走査方向)に600dpi(dot/inch)の解像度で形成されている。
【0086】
71はプラスティックまたはガラスで構成される棒レンズ(図示せず)を列状に配置したレンズアレイであり、ガラス基板2の面Aに形成された有機エレクトロルミネッセント素子1の出射光を正立等倍の像として、潜像が形成される感光体28の表面に結像させる。レンズアレイ71の一方の焦点はガラス基板2の面Aであり、もう一方の焦点は感光体28の表面となるようにガラス基板2、レンズアレイ71、感光体28の位置関係が調整されている。即ち面Aからレンズアレイ71の近い方の面までの距離L1と、レンズアレイ71の他方の面と感光体28の表面までの距離L2とするとき、L1=L2となるように設定される。
【0087】
72は例えばガラスエポキシ基板上に電子部品によって回路を構成した中継基板である。73aはコネクタA、73bはコネクタBであり、中継基板72には少なくともコネクタA 73aおよびコネクタB 73bが実装されている。中継基板72は例えばフレキシブルフラットケーブルなどのケーブル76によって露光装置33に外部から供給される画像データや光量補正データ、及びその他の制御信号をコネクタB 73bを介して一旦中継し、これらの信号をガラス基板2に渡す。
【0088】
ガラス基板2の表面にコネクタを直接実装することは接合強度や、露光装置33が置かれる多様な環境における信頼性を考慮すると困難であるため、実施例1では中継基板72のコネクタA 73aとガラス基板2との接続手段としてFPC(フレキシブルプリント回路)を採用し(図示せず、詳細は後述する)、ガラス基板2とFPCの接合は例えばACF(異方性導電フィルム)を用いて、予めガラス基板2上に形成された例えばITO電極に直接接続する構成としている。
【0089】
一方コネクタB 73bは露光装置33を外部と接続するためのコネクタである。一般的にACF等による接続は接合強度が問題となる場合が多いが、このように中継基板72上にユーザが露光装置33を接続するためのコネクタB 73bを設けることで、ユーザが直接アクセスするインタフェースに十分な強度を確保することができる。
【0090】
74aは筐体Aであり金属板を例えば折り曲げ加工により成型したものである。筐体A 74aの感光体28に対向する側にはL字状部位75が形成されており、L字状部位75に沿ってガラス基板2およびレンズアレイ71が配設されている。筐体A 74aの感光体28側の端面とレンズアレイ71の端面を同一面に合わせ、更に筐体A 74aによってガラス基板2の一端部を支持する構造とすることで、L字状部位75の成型精度を確保すれば、ガラス基板2とレンズアレイ71の成す位置関係を精度よく合わせ込むことが可能となる。このように筐体A 74aは寸法精度を要求されるため、金属にて構成することが望ましい。また筐体A 74aを金属製とすることで、ガラス基板2上に形成される制御回路およびガラス基板2上に表面実装されるICチップ等の電子部品へのノイズの影響を抑制することが可能である。
【0091】
74bは樹脂を成型して得られる筐体Bである。筐体B 74bのコネクタB 73bの近傍には切欠き部(図示せず)が設けられており、ユーザはこの切欠き部からコネクタB 73bにアクセスが可能となっている。コネクタB 73bに接続されたケーブル76を介して露光装置33の外部から露光装置33に画像データ、光量補正データ、クロック信号やライン同期信号等の制御信号、制御回路の駆動電源、発光素子である有機エレクトロルミネッセント素子の駆動電源などが供給される。
【0092】
図5(a)は本発明の実施例1の露光装置33に係るガラス基板2の上面図であり、図5(b)は同要部拡大図である。以降図5に図4を併用して実施例1におけるガラス基板2の構成について詳細に説明する。
【0093】
図5において、ガラス基板2は厚みが約0.7mmの、少なくとも長辺と短辺を有する長方形形状の基板であり、その長辺方向(主走査方向)には複数の有機エレクトロルミネッセント素子1が列状に形成されている。実施例1ではガラス基板2の長辺方向には少なくともA4サイズ(210mm)の露光に必要な有機エレクトロルミネッセント素子1が配置され、ガラス基板2の長辺方向は後述する駆動制御部78の配置スペースを含め250mmとしている。また実施例1では簡単のためにガラス基板2を長方形として説明するが、ガラス基板2を筐体A 74aに取り付ける際の位置決め用などのために、ガラス基板2の一部に切り欠きを設けるような変形を伴っていてもよい。
【0094】
78はガラス基板2の外部から供給される制御信号(有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動するための信号)を受け取り、この制御信号に基づいて有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動を制御する駆動制御部であり、後述するように制御信号をガラス基板2の外部から受け取るインタフェース手段とインタフェース手段を介して受け取った制御信号に基づき有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動を制御するICチップ(ソースドライバ)を含んでいる。
【0095】
80は中継基板72のコネクタA 73aとガラス基板2とを接続するインタフェース手段としてのFPC(フレキシブルプリント回路)であり、コネクタ等を介さずガラス基板2に設けられた図示しない回路パターンに直接接続されている。既に説明したように、露光装置33に外部から供給された画像データ、光量補正データ、クロック信号やライン同期信号等の制御信号、制御回路の駆動電源、有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動電源は、図4に示す中継基板72を一旦経由した後にFPC80を介してガラス基板2に供給される。
【0096】
実施例1では露光装置33の光源としての有機エレクトロルミネッセント素子1は、主走査方向に600dpiの解像度で5120個が列状に形成されており、個々の有機エレクトロルミネッセント素子1はそれぞれ独立に後述のTFT回路によって点灯/消灯を制御される。
【0097】
81は有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動を制御するICチップとして供給されるソースドライバであり、ガラス基板2上にフリップチップ実装されている。ガラス面へ表面実装を行うことを考慮しソースドライバ81はベアチップ品を採用している。ソースドライバ81には露光装置33の外部からFPC80を介して、電源、クロック信号、ライン同期信号等の制御関連信号および光量補正データ(例えば8ビットの多値データ)が供給される。ソースドライバ81は有機エレクトロルミネッセント素子1に対する駆動パラメータ設定手段であり、より具体的にはFPC80を介して受け渡された光量補正データに基づき個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の駆動電流値を設定するためのものである。
【0098】
ガラス基板2においてFPC80の接合部とソースドライバ81は、例えば表面にメタルを形成したITOの回路パターン(図示せず)を介して接続されており、駆動パラメータ設定手段たるソースドライバ81にはFPC80を介して光量補正データ、クロック信号、ライン同期信号等の制御信号が入力される。このようにインタフェース手段としてのFPC80および駆動パラメータ設定手段としてのソースドライバ81は駆動制御部78を構成している。
【0099】
82はガラス基板2上に形成されたTFT(Thin Film Transistor)回路である。TFT回路82はシフトレジスタ、データラッチ部など、有機エレクトロルミネッセント素子1の点灯/消灯のタイミングを制御するゲートコントローラ、および個々の有機エレクトロルミネッセント素子1に駆動電流を供給する駆動回路(以降ピクセル回路と呼称する)とを含んでいる。ピクセル回路は各有機エレクトロルミネッセント素子1に対して1つずつ設けられ、有機エレクトロルミネッセント素子1が形成する発光素子列と並列に配置されている。駆動パラメータ設定手段であるソースドライバ81によって、個々の有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動するための駆動電流値がピクセル回路に設定される。
【0100】
TFT回路82には露光装置33の外部からFPC80を介して、電源、クロック信号、ライン同期信号等の制御信号および画像データ(1ビットの2値データ)が供給され、TFT回路82はこれらの電源および信号に基づいて個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の点灯/消灯タイミングを制御する。
【0101】
84は封止ガラスである。有機エレクトロルミネッセント素子1は水分の影響を受けると発光領域が経時的に収縮(シュリンキング)したり、発光領域内の微小な非発光部位(ダークスポット)が拡大する等して発光特性が極端に劣化するため、水分を遮断するための封止が必要である。実施例1ではガラス基板2に接着剤を介して封止ガラス84を貼り付けるベタ封止法を採用しているが、封止領域における水分を吸着するため、封止ガラス84とガラス基板2の間に図示しない乾燥剤を配置してもよい。封止領域は一般に有機エレクトロルミネッセント素子1が構成する発光素子列から副走査方向に数mmから数cm必要とされており、実施例1では封止しろとして2000μmを確保している。
【0102】
77はアモルファスシリコンなどで構成される複数の光量センサをガラス基板2に沿って主走査方向に配置した光量センサユニットである。光量センサユニット77によって個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の発光光量が計測される。光量センサユニット77の出力は図示しない配線によって一旦TFT回路82に取り込まれ図示しない信号処理手段によって増幅、アナログ−ディジタル変換などの信号処理を経た後、FPC80、中継基板72(図4参照)、ケーブル76(図4参照)を介して露光装置33の外部に出力される。
【0103】
この信号は画像形成装置の有するコントローラ(図示せず)にて受信、信号処理されて光量補正データ(例えば8ビット)が生成されるが、光量センサユニット77によって計測されるのは個々の有機エレクトロルミネッセント素子1のトータルの発光光量であって、発光領域の発光輝度分布ではない。従って光量補正データに基づく補正によって有機エレクトロルミネッセント素子1のトータルの発光光量は回復させることができるが、例えば経時劣化によって変化した発光領域における発光強度分布を回復させることは困難である。
【0104】
実施例1においては既に述べたように有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布は均一となっているため、有機エレクトロルミネッセント素子1の劣化は均一に発生し、劣化が生じた場合でも発光領域における発光輝度の分布は変化しない。
【0105】
このため実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1を用いた露光装置33は、上述したように光量センサユニット77によって個々の有機エレクトロルミネッセント素子1の発光光量を計測し、計測した発光光量に基づいて例えば有機エレクトロルミネッセント素子1を駆動する駆動電流を再設定するだけで、有機エレクトロルミネッセント素子1のトータルの発光光量と発光領域における発光輝度分布の双方を確実に回復させることができるという極めて顕著な効果を奏する。
【0106】
さて実施例1では駆動制御部78を構成するインタフェース手段たるFPC80、および駆動パラメータ設定手段たるソースドライバ81を、有機エレクトロルミネッセント素子1が形成する発光素子列の延長線上(EL_dir)の位置に設けるようにした。
【0107】
このような配置とすると、ガラス基板2の長辺方向(主走査方向)の任意位置において、駆動制御部78は発光素子列とオーバーラップしない位置に配置されることとなる。同時にこの構成では、ガラス基板2の長辺方向(主走査方向)の任意位置において、駆動制御部78は発光素子列と並列に形成されたTFT回路82(ピクセル回路を含む)ともオーバーラップしない位置に配置されることとなる。このような配置によってガラス基板2のサイズを小さくすることが可能となる。
【0108】
図6は本発明の実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1を応用した露光装置33によって感光体28を露光している状況を示す説明図である。
【0109】
図6において20は有機エレクトロルミネッセント素子1から照射された光の伝播経路である。有機エレクトロルミネッセント素子1はガラス基板2の面A(図4参照)に形成されており、ガラス基板2の下面が光取り出し面である。
【0110】
以降図6を用いて実施例1の露光装置33による潜像形成過程を詳細に説明する。
【0111】
なお図6では説明を簡単にするために、説明に必要な部分のみを抜粋して記載しており、ガラス基板2、レンズアレイ71等は図4に示す筐体A 74aに適切に支持されており、感光体28との位置関係も適切に保たれているものとして説明を行なう。
【0112】
また実施例1では感光体28上に正立等倍像を結像する光学系として、既に説明したレンズアレイ71を使用しているが、この光導系は有機エレクトロルミネッセント素子1からの出射光を適切に感光体28上に結像できるものであればどのようなものでもよく、たとえばマイクロレンズアレイや平面型の光学系を用いてもよく、また例えば100μm以下のガラス基板2に有機エレクトロルミネッセント素子1を形成し、いわゆるレンズレスの接触露光系を構成してもよい。
【0113】
図6に図示されている有機エレクトロルミネッセント素子1は、ガラス基板2上に600dpiの解像度で5120個配置された有機エレクトロルミネッセント素子1のうちの一つである。実際の露光にあたってはこれら多数配置されている有機エレクトロルミネッセント素子1が既に図5を用いて説明したように連携して制御され二次元の印刷像を作成するものである。
【0114】
感光体28上に潜像を形成し、これを現像して顕画化されたトナー像を用紙上に転写し、次いで熱定着を行なういわゆる電子写真プロセスの全体については後に説明するものとし、ここでは有機エレクトロルミネッセント素子1からの光が感光体上28上に結像し、潜像と呼ばれる静電的な分布が形成された後、トナーが付着されるまでの過程についての説明を行なう。
【0115】
まず感光体28の表面をスコロトロンチャージャ、ローラ帯電器等の図示しない帯電手段を用いて帯電させる。次いで有機エレクトロルミネッセント素子1からの放射光をレンズアレイ71を用いて伝播させた後に感光体28の表面に結像させる。この際レンズアレイ71は正立等倍レンズであるので、有機エレクトロルミネッセント素子1からの放射光は伝播経路20を通って発光面形状、及び発光強度分布を保ったままで感光体28上に像を結ぶ。つまり図2を用いて説明したところの発光強度分布がそのまま感光体28上に反映されることになる。
【0116】
感光体28上で光を受けた領域はそこだけ電位を開放し、目視できない静電的な像、即ち潜像を形成する。これは感光体28が光導電性を持った材料で構成されているためである。光が照射されることによりその部分のみ導電性が上昇し、結果として光を受けた部分の電荷は感光体28の裏面に形成された導電部分を通過してアースへと開放されることになる。このとき感光体28上の表面電荷開放の度合いは、一定時間のもとでは照射される光の強度に依存し、強い光が当たったところほど表面電位はアースの電位に近づく。よって潜像は照射される光の強度分布、即ち有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布を反映した形となる。
【0117】
潜像の形成後、やはり図示しない現像手段によって感光体28の表面にトナーの付着がなされる。トナーはあらかじめ帯電されており、図示しない現像手段に所定のバイアス電位を印加することで感光体28の表面電位と静電的相互作用を行い、その表面電位に基づくクーロン力に応じて感光体28の潜像が形成された部分に付着する。このときもトナーの感光体28上への付着の度合いは潜像の状態に依存、即ち有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布に依存する。
【0118】
このように露光装置33の光源である有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布は最終的に感光体28上へのトナーの付着状態を左右し、これはそのまま印刷結果に反映されるのである。
【0119】
さて、このような動作を行なう露光装置33において、有機エレクトロルミネッセント素子1の発光強度分布が図2(a)及び同(b)に示すごときものであった場合の差異について、以下に図6に図2を併用して説明する。
【0120】
図2(b)の発光強度分布の場合(即ち本発明の有機エレクトロルミネッセント素子の場合)、発光強度分布が強くかつ平坦であるので、感光体28上の潜像は十分に広い範囲で電位が低下する。しかしながら図2(a)の発光強度分布の場合(即ち従来技術に基づく有機エレクトロルミネッセント素子の場合)は潜像の中央部分は十分に電位の低下が見られるが、中央部から離れると急激に照射光が弱くなるために感光体28における電位の低下が不十分になる。
【0121】
これらの潜像に対して図示しない現像手段によりトナー付着を行なうと、図2(b)のごとき発光強度分布を有する有機エレクトロルミネッセント素子1から得られた潜像では十分な量のトナーが付着するのに対して、図2(a)のごとき発光強度分布を有する有機エレクトロルミネッセント素子1から得られた潜像の場合には、感光体28上のトナー付着量が少なくなる。
【0122】
これを印刷結果で見た場合は、図2(b)の発光強度分布の場合ではいわゆるベタ黒が高濃度に再現されるのに対して、図2(a)の発光強度分布の場合では感光体28に付着するトナー量が不足するために黒くなりきれない。つまり、図2(a)からの印刷結果ではコントラスト比が小さな出力しか得ることができないということである。
【0123】
さて本発明の実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子1は、前述したように中間層を配置することで、湿式プロセスによって中間層上に作成される発光層の膜厚の均一化を実現している。つまり発光面周辺部分での膜厚が発光面中央部と同じであるために図2(b)の発光強度パターンを示す。これは即ち、本発明によるところの露光装置33を用いれば十分にコントラスト比のある鮮明な印刷出力を得ることができるということである。
【0124】
このように、湿式プロセスを用いて発光層を製膜する有機エレクトロルミネッセント素子1において、絶縁層と発光層の間に濡れ性を改善するための中間層を配置することで、後に続く湿式プロセスによる発光層の膜厚を均一にすることができ、結果として発光強度分布が発光面内において均一であるようなすぐれた有機エレクトロルミネッセント素子1を得ることができる。また、このような優れた発光強度分布特性を持つ有機エレクトロルミネッセント素子1を露光装置33に用いることで、潜像形成時の感光体28上の電位分布が改善され、コントラスト比の高い鮮明で正しい印刷出力をなす露光装置33を実現することができる。
【0125】
更に既に説明したように中間層を構成する有機物層、発光層は簡便な湿式プロセスによって形成されることから、製造設備のコストを下げることができ、また製膜に要する時間も短くてよいことから、露光装置33を安価に提供できる。
【0126】
図7は本発明の実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1を応用した露光装置33を搭載した画像形成装置の構成図である。
【0127】
図7において、画像形成装置21は装置内にイエロー現像ステーション22Y、マゼンタ現像ステーション22M、シアン現像ステーション22C、ブラック現像ステーション22Kの4色分の現像ステーションを縦方向に階段状に配列し、その上方には記録紙23が収容される給紙トレイ24を配設すると共に、各現像ステーション22Y〜22Kに対応した箇所には給紙トレイ24から供給された記録紙23の搬送路となる記録紙搬送路25を上方から下方の縦方向に配置したものである。
【0128】
現像ステーション22Y〜22Kは、記録紙搬送路25の上流側から順に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのトナー像を形成するものであり、イエロー現像ステーション22Yは感光体28Y、マゼンタ現像ステーション22Mには感光体28M、シアン現像ステーション22Cには感光体28C、ブラック現像ステーション22Kには感光体28Kが含まれ、更に各現像ステーション22Y〜22Kには図示しない現像スリーブ、帯電器等、一連の電子写真方式における現像プロセスを実現する部材が含まれている。
【0129】
更に各現像ステーション22Y〜22Kの下部には感光体28Y〜28Kの表面を露光して静電潜像を形成するための露光装置33Y、33M、33C、33Kが配置されている。
【0130】
さて現像ステーション22Y〜22Kは充填された現像剤の色が異なっているが、構成は現像色に関わらず同一であるため、以降の説明を簡単にするため特に必要がある場合を除いて現像ステーション22、感光体28、露光装置33のごとく特定の色を明示せずに説明する。
【0131】
図8は本発明の実施例1の画像形成装置21における現像ステーション22の周辺を示す構成図である。図8において現像ステーション22の内部にはキャリアとトナーを混合物である現像剤26が充填されている。27a、27bは現像剤26を攪拌する攪拌パドルであり、攪拌パドル27aと27bの回転によって現像剤26中のトナーはキャリアとの摩擦によって所定の電位に帯電されると共に、現像ステーション22の内部を巡回することでトナーとキャリアが十分に攪拌混合される。感光体28は図示しない駆動源によって方向D3に回転する。29は帯電器であり感光体28の表面を所定の電位に帯電する。30は現像スリーブ、31は薄層化ブレードである。現像スリーブ30は内部に複数の磁極が形成されたマグロール32を有している。薄層化ブレード31によって現像スリーブ30の表面に供給される現像剤26の層厚が規制されると共に、現像スリーブ30は図示しない駆動源によって方向D4に回転し、この回転およびマグロール32の磁極の作用によって現像剤26は現像スリーブ30の表面に供給され、後述する露光装置によって感光体28に形成された静電潜像を現像するとともに、感光体28に転写されなかった現像剤26は現像ステーション22の内部に回収される。
【0132】
33は既に説明した露光装置である。実施例1の露光装置33を応用した画像形成装置21は、既に述べたように実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子1は個々の有機エレクトロルミネッセント素子1における発光強度分布が極めて均一であるから、実施例1の露光装置33は所望の形状の静電潜像を長期にわたって得られるため、これを搭載した画像形成装置21は常に高画質の画像を形成することができる。
【0133】
さて実施例1における露光装置33は有機エレクトロルミネッセント素子を600dpi(dot/inch)の解像度で直線状に配置したもので、帯電器29によって所定の電位に帯電した感光体28に対し、画像データに応じて選択的に有機エレクトロルミネッセント素子をON/OFFすることで、最大A4サイズの静電潜像を形成する。この静電潜像部分に現像スリーブ30の表面に供給された現像剤26のうちトナーのみが付着し、静電潜像が顕画化される。この顕画化の過程は図6を用いて既に詳細に説明したので、ここでは省略する。
【0134】
感光体28に対し記録紙搬送路25と対向する位置には転写ローラ36が設けられており、図示しない駆動源により方向D5に回転する。転写ローラ36には所定の転写バイアスが印加されており、感光体28上に形成されたトナー像を、記録紙搬送路25を搬送されてきた記録紙に転写する。
【0135】
以降図7に戻って説明を続ける。
【0136】
これまで説明してきたように、実施例1における画像形成装置21は複数の現像ステーション22Y〜22Kを縦方向に階段状に配列したタンデム型のカラー画像形成装置であり、カラーインクジェットプリンタと同等クラスのサイズを目指すものである。現像ステーション22Y〜22Kは複数のユニットが配置されるため、画像形成装置21の小型化を図るためには現像ステーション22Y〜22Kそのものの小型化と共に、現像ステーション22Y〜22Kの周辺に配置される作像プロセスに関与する部材を小さくし、現像ステーション22Y〜22Kの配置ピッチを極力小さくする必要がある。
【0137】
オフィス等においてデスクトップに画像形成装置21を設置した際のユーザの使い勝手、特に給紙時や排紙時の記録紙23へのアクセス性を考慮すると、画像形成装置21の底面から給紙口65までの高さは250mm以下にすることが望ましい。これを実現するためには画像形成装置21の全体の構成の中で現像ステーション22Y〜22K全体の高さを100mm程度に抑える必要がある。
【0138】
しかしながら既存の例えばLEDヘッドは厚みが15mm程度あり、これを現像ステーション22Y〜22K間に配置すると目標を達成することが困難である。本発明者等の検討結果によれば露光装置33の厚みを7mm以下とすると、現像ステーション22Y〜22K間の隙間に露光装置33Y〜33Kを配置しても現像ステーション全体の高さを100mm以下に抑えることが可能である。
【0139】
37はトナーボトルであり、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのトナーが格納されている。トナーボトル37から各現像ステーション22Y〜22Kには、図示しないトナー搬送用のパイプが配設され、各現像ステーション22Y〜22Kにトナーを供給している。
【0140】
38は給紙ローラであり、図示しない電磁クラッチを制御することで方向D1に回転し、給紙トレイ24に装填された記録紙23を記録紙搬送路25に送り出す。
【0141】
給紙ローラ38と最上流のイエロー現像ステーション22Yの転写部位との間に位置する記録紙搬送路25には、入口側のニップ搬送手段としてレジストローラ39、ピンチローラ40対が設けられている。レジストローラ39、ピンチローラ40対は、給紙ローラ38により搬送された記録紙23を一時的に停止させ、所定のタイミングでイエロー現像ステーション22Yの方向に搬送する。この一時停止によって記録紙23の先端がレジストローラ39、ピンチローラ40対の軸方向と平行に規制され、記録紙23の斜行を防止する。
【0142】
41は記録紙通過検出センサである。記録紙通過検出センサ41は反射型センサ(フォトリフレクタ)によって構成され、反射光の有無で記録紙23の先端および後端を検出する。
【0143】
さてレジストローラ39の回転を開始すると(図示しない電磁クラッチによって動力伝達を制御し、回転ON/OFFを行う)記録紙23は記録紙搬送路25に沿ってイエロー現像ステーション22Yの方向に搬送されるが、レジストローラ39の回転開始のタイミングを起点として、各現像ステーション22Y〜22Kの近傍に配置された露光装置33Y〜33Kによる静電潜像の書き込みタイミングが独立して制御される。
【0144】
最下流のブラック現像ステーション22Kの更に下流側に位置する記録紙搬送路25には出口側のニップ搬送手段として定着器43が設けられている。定着器43は加熱ローラ44と加圧ローラ45から構成されている。加熱ローラ44は表面から近い順に、発熱ベルト、ゴムローラ、芯材(共に図示せず)から構成されている多層構造のローラである。このうち発熱ベルトは更に3層構造を有するベルトであり、表面に近い方から離型層、シリコンゴム層、基材層(共に図示せず)から構成される。離型層は厚み約20〜30μmのフッ素樹脂からなり、加熱ローラ44に離型性を付与する。シリコンゴム層は約170μmのシリコンゴムで構成され、加圧ローラ45に適度な弾性を与える。基材層は鉄・ニッケル・クロム等の合金である磁性材料によって構成されている。
【0145】
26は励磁コイルが内包された背面コアである。背面コア46の内部には表面が絶縁された銅製の線材(図示せず)を所定本数束ねた励磁コイルを加熱ローラ44の回転軸方向に延伸し、かつ加熱ローラ44の両端部において、加熱ローラ44の周方向に沿って周回して形成されている。励磁コイルに半共振型インバータである励磁回路(図示せず)から約30kHzの交流電流を印加すると、背面コア46と加熱ローラ44の基材層によって構成される磁路に磁束が生じる。この磁束によって加熱ローラ44の発熱ベルトの基材層に渦電流が形成され基材層が発熱する。基材層で生じた熱はシリコンゴム層を経て離型層まで伝達され、加熱ローラ44の表面が発熱する。
【0146】
47は加熱ローラ44の温度を検出するための温度センサである。温度センサ47は金属酸化物を主原料とし、高温で焼結して得られるセラミック半導体であり、温度に応じて負荷抵抗が変化することを応用して接触した対象物の温度を計測することができる。温度センサ47の出力は図示しない制御装置に入力され、制御装置は温度センサ47の出力に基づいて背面コア46内部の励磁コイルに出力する電力を制御し、加熱ローラ44の表面温度が約170゜Cとなるように制御する。
【0147】
この温度制御がなされた加熱ローラ44と加圧ローラ45によって形成されるニップ部に、トナー像が形成された記録紙23が通紙されると、記録紙23上のトナー像は加熱ローラ44と加圧ローラ45によって加熱および加圧され、トナー像が記録紙23上に定着される。
【0148】
48は記録紙後端検出センサであり、記録紙23の排出状況を監視するものである。52はトナー像検出センサである。トナー像検出センサ52は発光スペクトルの異なる複数の発光素子(共に可視光)と単一の受光素子を用いた反射型センサユニットであり、記録紙23の地肌と画像形成部分とで、画像色に応じて吸収スペクトルが異なることを利用して画像濃度を検出するものである。またトナー像検出センサ52は画像濃度のみならず、画像形成位置も検出できるため、実施例1における画像形成装置21ではトナー像検出センサ52を画像形成装置21の幅方向に2ヶ所設け、記録紙23上に形成した画像位置ずれ量検出パターンの検出位置に基づき、画像形成タイミングを制御している。
【0149】
53は記録紙搬送ドラムである。記録紙搬送ドラム53は表面を200μm程度の厚さのゴムで被覆した金属製ローラであり、定着後の記録紙23は記録紙搬送ドラム53に沿って方向D2に搬送される。このとき記録紙23は記録紙搬送ドラム53によって冷却されると共に、画像形成面と逆方向に曲げられて搬送される。これによって記録紙全面に高濃度の画像を形成した場合などに発生するカールを大幅に軽減することができる。その後、記録紙23は蹴り出しローラ55によって方向D6に搬送され、排紙トレイ59に排出される。
【0150】
54はフェイスダウン排紙部である。フェイスダウン排紙部54は支持部材56を中心に回動可能に構成され、フェイスダウン排紙部54を開放状態にすると、記録紙23は方向D7に排紙される。このフェイスダウン排紙部54は閉状態では記録紙搬送ドラム53と共に記録紙23の搬送をガイドするように、背面に搬送経路に沿ったリブ57が形成されている。
【0151】
58は駆動源であり、実施例1ではステッピングモータを採用している。駆動源58によって、給紙ローラ38、レジストローラ39、ピンチローラ40、感光体(28Y〜28K)、および転写ローラ(36Y〜36K)を含む各現像ステーション22Y〜22Kの周辺部、定着器43、記録紙搬送ドラム53、蹴り出しローラ55の駆動を行っている。
【0152】
61はコントローラであり、外部のネットワークを介して図示しないコンピュータ等からの画像データを受信し、プリント可能な画像データを展開、生成する。
【0153】
62はエンジン制御部である。エンジン制御部62は画像形成装置21のハードウェアやメカニズムを制御し、コントローラ61から転送された画像データに基づいて記録紙23にカラー画像を形成すると共に、画像形成装置21の制御全般を行っている。
【0154】
63は電源部である。電源部63は、露光装置33Y〜33K、駆動源58、コントローラ61、エンジン制御部62へ所定電圧の電力供給を行うと共に、定着器43の加熱ローラ44への電力供給を行っている。また感光体28の表面の帯電、現像スリーブ(図8における図番30を参照)に印加する現像バイアス、転写ローラ36に印加する転写バイアス等のいわゆる高圧電源系もこの電源部に含まれている。
【0155】
また電源部63には電源監視部64が含まれ、少なくともエンジン制御部62に供給される電源電圧をモニタできるようになっている。このモニタ信号はエンジン制御部62おいて検出され、電源スイッチのオフや停電等の際に発生する電源電圧の低下を検出している。
【0156】
以上の説明においては本発明をカラー画像形成装置に適用した場合について説明したが、たとえばブラックなど単色の画像形成装置に適用することもできる。また、カラー画像形成装置に適用した場合、現像色はイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセント素子は、発光面内の発光強度分布が均一であるので、露光装置を始めとして、フラットパネルディスプレイや表示素子、その他光源などを含む広範な応用において有用である。また本発明にかかる有機エレクトロルミネッセント素子を応用した露光装置は発光面内の発光強度分布が均一であることから、画像データに対して忠実な露光が可能でありプリンタや複写機といった電子写真装置、あるいは印画紙を画像データに基づいて直接的に露光するフォトプリンタへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明の実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子の構成図
【図2】(a)は従来技術に基づく有機エレクトロルミネッセント素子の発光強度分布を示す説明図、(b)は本発明の実施例1における有機エレクトロルミネッセント素子の発光強度分布を示す説明図
【図3】(a)は従来技術に基づくPEDOT素子の層構成の断面図、(b)は本発明に基づく中間層素子の層構成の断面図
【図4】本発明の実施例1における露光装置の構成図
【図5】(a)は本発明の実施例1の露光装置に係るガラス基板の上面図、(b)は同要部拡大図
【図6】本発明の実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子を応用した露光装置によって感光体を露光している状況を示す説明図
【図7】本発明の実施例1の有機エレクトロルミネッセント素子を応用した露光装置33を搭載した画像形成装置の構成図
【図8】本発明の実施例1の画像形成装置における現像ステーションの周辺を示す構成図
【図9】従来の高分子有機エレクトロルミネッセント素子の構造を示す断面図
【符号の説明】
【0159】
1 有機エレクトロルミネッセント素子
2 ガラス基板
3 陽極
4 絶縁層
5 中間層
6 無機物層
7 有機物層
8 発光層
9 陰極
10 PEDOT層
11 有機エレクトロルミネッセント素子
12 ガラス基板
13 陽極
14 絶縁層
18 発光層
19 陰極
21 画像形成装置
22,22Y,22M,22C,22K 現像ステーション
28,28Y,28M,28C,28K 感光体
33,33Y,33M,33C,33K 露光装置
71 レンズアレイ
78 駆動制御部
81 ソースドライバ
82 TFT回路
84 封止ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板上に形成された第1の電極と、少なくとも第1の電極の一部を覆うように形成された絶縁層と、この絶縁層および前記第1の電極の上に形成された発光層と、この発光層と接して第1の電極と対向して配置された第2の電極とを備え、前記第1の電極と発光層の間および前記絶縁層と発光層の間に中間層が配置され、前記中間層を乾式プロセスを用いて形成された無機物層と湿式プロセスを用いて形成された有機物層によって構成したことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
前記無機物層を前記第1の電極および前記絶縁層と接するように構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
前記無機物層を酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸化物のいずれかで構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
前記無機物層をモリブデン、タングステン、バナジウムのいずれかの酸化物で構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
前記有機物層を前記発光層と接するように構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項6】
前記有機物層の膜厚をL1とし、前記発光層の膜厚をL2とするとき、L1を(L2/20)<L1<(L2/3)の関係を満たすように構成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項7】
前記発光層を高分子系材料を用い湿式プロセスによって形成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項8】
請求項1〜請求項7いずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子を列状に配置し、個々の有機エレクトロルミネッセント素子を独立して点灯/消灯制御可能に構成した露光装置。
【請求項9】
少なくとも請求項8記載の露光装置と、前記露光装置によって静電潜像が形成される感光体と、前記感光体上に形成された静電潜像を顕画化する現像手段とを有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−80910(P2007−80910A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263405(P2005−263405)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】