説明

有機エレクトロルミネッセント素子およびその製造方法

【課題】有機EL素子の製造において、塗布法による多層化に関する問題点を解決すること。
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、一対の電極の間に形成された一層以上の有機化合物層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、少なくとも一層の有機化合物層が以下の二つの工程により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法;第一工程:2個以上のチオール基を有する有機化合物Aを含む組成物を塗布する工程、第二工程:第一工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物A同士を反応させて不溶化させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子(以下「有機EL素子」とも記す。)の製造方法、該製造方法で得られる有機EL素子、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス現象を利用したデバイスが重要度を増している。このようなデバイスとして、発光材料を層状に形成し、この発光層に陽極と陰極とからなる一対の電極を設けて電圧を印加することで発光を行わせるエレクトロルミネッセント素子が注目を集めている。このようなエレクトロルミネッセント素子は、陽極と陰極の間に電圧を印加することで、陽極と陰極からそれぞれ正孔と電子を注入し、注入された電子と正孔とが、発光層で結合することにより生じるエネルギーを利用して発光を行う。即ち、エレクトロルミネッセント素子は、この結合によるエネルギーで発光層の発光材料が励起され、励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生する現象を利用したデバイスである。
【0003】
このエレクトロルミネッセント素子を表示装置として使用した場合、発光材料が自己発光であるため、発光材料としての応答速度が速く、視野角が広いという特徴を有する。更にエレクトロルミネッセント素子の構造上、表示装置の薄型化が容易になるという利点もある。また発光材料として例えば有機物質を利用した有機エレクトロルミネッセント素子は、白色での発光も可能であり、面発光であることから、このエレクトロルミネッセント素子を照明装置に組み込んで利用する用途も提案されている。
【0004】
上記のように、有機EL素子は、通常、基板上に、陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた少なくとも発光層を含む有機層を有するものである。
【0005】
該有機層としては、一般的には発光層以外にも、正孔注入層(陽極バッファ層)、正孔輸送層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層などが設けられる。通常、これらの層を陽極と陰極との間に積層することにより有機EL素子が構成されている。近年特に、発光効率や輝度、そして耐久性向上等のために各有機層を積層して解決にあたる手法が検討されている。
【0006】
有機層の形成方法は大きく分けると蒸着(以下「蒸着法」とも言う。)によるものと塗布(以下「塗布法」とも言う。)によるものを挙げることが出来る。
【0007】
蒸着法には大型の設備が必要となり、その条件も厳密な制御が必要とされるなど、簡便な製造方法とは言えない。
【0008】
これに対して塗布法では比較的簡単な設備で有機層の形成が可能で、素子の大型化にも適用しやすいことから近年開発がすすんでいる。
【0009】
しかし、塗布法による有機層の形成には様々な問題点がある。中でも、形成した有機層の上に更に塗布で別の層を形成しようとした場合に、下層の有機層が上層塗布の際に用いる溶媒などに溶解し上層との境界面が乱れることや、場合によっては下層そのものが溶出してしまい多層構造を形成出来ないことが一番の問題点である。
【0010】
この課題解決のために、重合などの反応性を有する官能基を持つ化合物を塗布した層を形成した後に、これを反応させて溶媒等に対して溶けないようにする(以下「不溶化」とも言う。)方法が提案されている。
【0011】
特許文献1は、チオール材料とエン材料の混合組成物を塗布し、次いでこれを重合して溶媒に対して不溶化することで塗布法における有機層の多層化ができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2005−533873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしこの重合反応を行うには紫外線を長時間照射するといった過酷な条件が必要であり、それは材料の劣化要因となり好ましくない。
【0014】
以上のように、塗布法による有機EL素子製造の際の多層化については、いまだ充分な解決手法が見いだされていない。
【0015】
本発明は、有機EL素子の製造において、塗布法による多層化に関する問題点を解決することを目的とする。それにより極めて高効率の光出力を有し長寿命な有機EL素子の製造方法、並びに素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、たとえば以下の[1]〜[11]に関する。
【0018】
[1]
一対の電極の間に形成された一層以上の有機化合物層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、少なくとも一層の有機化合物層が以下の二つの工程により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法;
第一工程:2個以上のチオール基を有する有機化合物Aを含む組成物を塗布する工程、
第二工程:第一工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物Aが有するチオール基同士を反応させて不溶化させる工程。
【0019】
[2]
上記有機化合物Aが、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物または発光性化合物であることを特徴とする[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0020】
[3]
上記有機化合物Aが、以下の一般式(1)で表わされる正孔輸送性化合物であることを特徴とする[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0021】
【化1】

【0022】
〔式(1)中、R2、R3、R8およびR13のうち少なくとも1つが、下記式(A1)で
表わされる置換基(A1)であり、
【0023】
【化2】

【0024】
(式(A1)中、複数個あるRaaは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0025】
【化3】

【0026】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、n
は0、1または2を表す。)
骨格構造中のR1〜R15のうち置換基(A1)で置換されていないR1〜R15および置換基(A1)中のRa1〜Ra10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、
アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0027】
【化4】

【0028】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(1)中に合計で2つ以上含まれる。〕
[4]
上記有機化合物Aが、以下の一般式(1)で表わされる正孔輸送性化合物であることを特徴とする[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0029】
【化5】

【0030】
〔式(1)中、R2、R3、R8およびR13のうち少なくとも1つが、下記式(B1)で
表わされる置換基(B1)であり、
【0031】
【化6】

【0032】
(式(B1)中、複数個あるRbbは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0033】
【化7】

【0034】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、p
は0、1または2を表す。)
骨格構造中のR1〜R15のうち置換基(B1)で置換されていないR1〜R15および置換基(B1)中のRb1〜Rb8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基
【0035】
【化8】

【0036】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(1)中に合計で2つ以上含まれる。〕
[5]
上記有機化合物Aが、以下の一般式(2)で表わされる正孔輸送性化合物であることを特徴とする[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0037】
【化9】

【0038】
〔式(2)中、R29が、下記式(C1)で表わされる置換基(C1)であるか、または、下記式(D1)で表わされる置換基(D1)であり、
【0039】
【化10】

【0040】
(式(C1)中、複数個あるRccは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0041】
【化11】

【0042】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、q
は0、1または2を表す。)
【0043】
【化12】

【0044】
(式(D1)中、複数個あるRddは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0045】
【化13】

【0046】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、r
は0、1または2を表す。)
(2−i)R29が、置換基(C1)である場合は、
骨格構造中のR21〜R28および置換基(C1)中のRc1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0047】
【化14】

【0048】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(2)中に合計で2つ以上含まれ、
(2−ii)R29が、置換基(D1)である場合は、
骨格構造中のR21〜R28および置換基(D1)中のRd1〜Rd8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0049】
【化15】

【0050】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(2)中に合計で2つ以上含まれる。〕
[6]
上記第一工程および第二工程により形成された有機化合物層上に、以下の二つの工程に
より1層または複数層の有機化合物層をさらに形成することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0051】
第三工程:有機化合物Aとは異なる、2個以上のチオール基を有する有機化合物を含む組成物を塗布する工程、
第四工程:第三工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物Aとは異なる有機化合物が有するチオール基同士を反応させて不溶化させる工程。
【0052】
[7]
上記組成物が、さらに酸化剤を含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0053】
[8]
第二工程における加熱温度が30℃〜200℃であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一つ記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0054】
[9]
[1]〜[8]のいずれか一つに記載の製造方法で得られる有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0055】
[10]
[9]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。
【0056】
[11]
[9]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面発光光源。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、有機EL素子の製造において、塗布法による多層化に関する問題点を解決することができる。それにより極めて高効率の光出力を有し長寿命な有機EL素子の製造方法、並びに素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明における有機EL素子の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明における有機EL素子の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明における有機EL素子の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、実施例における有機化合物層の厚さの測定方法を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0059】
11、21、31 ・・・ 基板
12、22、32 ・・・ 陽極
13、23 ・・・ 正孔輸送層
14、24、34 ・・・ 発光層
25 ・・・ 電子輸送層
16、26、36 ・・・ 陰極
【発明を実施するための形態】
【0060】
<有機EL素子の製造方法>
本発明の有機EL素子の製造方法は、一対の電極の間(具体的には陽極と陰極との間)に形成された一層以上の有機化合物層を含む有機EL素子の製造方法であって、少なくと
も一層の有機化合物層が以下の二つの工程により形成されることを特徴とする;
第一工程:2個以上のチオール基を有する有機化合物Aを含む組成物を塗布する工程、
第二工程:第一工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物A同士を反応させて不溶化させる工程。
【0061】
〔第一工程〕
第一工程では、2個以上のチオール基を有する有機化合物Aを含む組成物を塗布する。
【0062】
組成物に含まれる有機化合物Aは、1分子内に2個以上のチオール基を有し、通常2〜6個のチオール基を有する。また、有機化合物Aは、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物または発光性化合物であることが好ましい。なお、本明細書中においては、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物、発光性化合物の全てあるいは一種類以上からなる化合物および層を、それぞれ「有機EL化合物」、「有機EL化合物層」ともいう。具体的には、有機EL化合物層には、正孔輸送性化合物を用いて形成される正孔輸送層、電子輸送性化合物を用いて形成される電子輸送層、発光性化合物を用いて形成される発光層などがある。
【0063】
有機化合物Aが正孔輸送性化合物である場合には、例えば、トリアリールアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラアリール(ビフェニルジアミン)誘導体、N,N,N’,N’−テトラアリール(テルフェニルジアミン)誘導体、スチルベン系アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体等の正孔輸送性化合物に2個以上のチオール基を導入したものが挙げられる。
【0064】
有機化合物Aが電子輸送性化合物である場合には、例えば、フェニレンビニレン誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ポリフェニレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、ピラゾン誘導体、アゾメチン誘導体、フルオレノン誘導体、フルオニリデン誘導体、ペリレン誘導体、ホウ素誘導体等の電子輸送性化合物に2個以上のチオール基を導入したものが挙げられる。
【0065】
有機化合物Aが発光性化合物である場合には、例えば、フェニレンビニレン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、キナクリドン誘導体、スチルベン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、オキサゾリン誘導体、ポルフィリン誘導体、ピラジン誘導体、有機金属錯体類、ペリレン誘導体等の発光性化合物に2個以上のチオール基を導入したものが挙げられる。
【0066】
上記正孔輸送性化合物は単独で用いても二種以上を混合して用いてもよく、上記電子輸送性化合物および発光性化合物についても同様である。
【0067】
また、上記正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物および発光性化合物のうち二種以上を混合して用いてもよい。たとえば上記正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物および発光性化合物を全て用いてもよい。
【0068】
なお、2個以上のチオール基を有する有機化合物として、正孔輸送性、電子輸送性および発光性のうち二種以上の機能を有する化合物を用いてもよい。
【0069】
また、有機化合物Aとしては、下記式(1)または(2)で表わされる骨格構造を有する正孔輸送性化合物がより好ましく用いられる。
【0070】
下記式(1)で表わされる骨格構造を有する正孔輸送性化合物(1)は、
【0071】
【化16】

【0072】
式(1)中、R2、R3、R8およびR13のうち少なくとも1つが、下記式(A1)で表
わされる置換基(A1)であるか、または、下記式(B1)で表わされる置換基(B1)である(ただし、正孔輸送性化合物(1)は、置換基(A1)および置換基(B1)を両方有することはない。)。
【0073】
【化17】

【0074】
(式(A1)中、複数個あるRaaは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0075】
【化18】

【0076】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、n
は0、1または2を表す。)
【0077】
【化19】

【0078】
(式(B1)中、複数個あるRbbは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0079】
【化20】

【0080】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、p
は0、1または2を表す。)
(1−i)まず、R2、R3、R8およびR13のうち少なくとも1つが、置換基(A1)
である場合(正孔輸送性化合物(1−i))について説明する。
【0081】
置換基(A1)中のRaaにおけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、アミル基、ヘキシル基等が挙げられ、正孔輸送性化合物(1)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0082】
aaにおけるチオール含有基(E)について、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0083】
骨格構造中のR1〜R15のうち置換基(A1)で置換されていないR1〜R15および置換基(A1)中のRa1〜Ra10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、
アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0084】
【化21】

【0085】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)である。
【0086】
上記R1〜R15およびRa1〜Ra10におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0087】
上記R1〜R15およびRa1〜Ra10におけるアルキル基としては、上述したRaaにおけるアルキル基の具体例が挙げられ、正孔輸送性化合物(1)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0088】
上記R1〜R15およびRa1〜Ra10におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、およびターシャルブトキシ基等が挙げられメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0089】
上記R1〜R15およびRa1〜Ra10におけるチオール含有基(E)について、アルキレン基としては、上述したRaaにおけるチオール含有基(E)でのアルキレン基の具体例が挙げられる。
【0090】
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(1−i)中に合計で2つまたは3つ以上含まれる。これにより、有機化合物層の多層化において後述するような好ましい効果が発揮される。
【0091】
(1−ii)次に、R2、R3、R8およびR13のうち少なくとも1つが、置換基(B1
)である場合(正孔輸送性化合物(1−ii))について説明する。
【0092】
置換基(B1)中のRbbにおけるアルキル基としては、上述したRaaにおけるアルキル基の具体例が挙げられ、正孔輸送性化合物(1)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0093】
bbにおけるチオール含有基(E)について、アルキレン基としては、上述したRaaにおけるチオール含有基(E)でのアルキレン基の具体例が挙げられる。
【0094】
骨格構造中のR1〜R15のうち置換基(B1)で置換されていないR1〜R15および置換基(B1)中のRb1〜Rb8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0095】
【化22】

【0096】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)である。
【0097】
上記R1〜R15およびRb1〜Rb8におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原
子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0098】
上記R1〜R15およびRb1〜Rb8におけるアルキル基としては、上述したRaaにおける
アルキル基の具体例が挙げられ、正孔輸送性化合物(1)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0099】
上記R1〜R15およびRb1〜Rb8におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキ
シ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、およびターシャルブトキシ基等が挙げられメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0100】
上記R1〜R15およびRb1〜Rb8におけるチオール含有基(E)について、アルキレン
基としては、上述したRaaにおけるチオール含有基(E)でのアルキレン基の具体例が挙げられる。
【0101】
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(1−ii)中に合計で2つまたは3つ以上含まれる。これにより、有機化合物層の多層化において後述するような好ましい効果が発揮される。
【0102】
下記式(2)で表わされる骨格構造を有する正孔輸送性化合物(2)は、
【0103】
【化23】

【0104】
式(2)中、R29が、下記式(C1)で表わされる置換基(C1)であるか、または、下記式(D1)で表わされる置換基(D1)である。
【0105】
【化24】

【0106】
(式(C1)中、複数個あるRccは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0107】
【化25】

【0108】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、q
は0、1または2を表す。)
【0109】
【化26】

【0110】
(式(D1)中、複数個あるRddは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0111】
【化27】

【0112】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、r
は0、1または2を表す。)
(2−i)まず、R29が、置換基(C1)である場合(正孔輸送性化合物(2−i))について説明する。
【0113】
置換基(C1)中のRccにおけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、アミル基、ヘキシル基等が挙げられ、正孔輸送性化合物(2)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0114】
ccにおけるチオール含有基(E)について、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0115】
骨格構造中のR21〜R28および置換基(C1)中のRc1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0116】
【化28】

【0117】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)である。
【0118】
上記R21〜R28およびRc1におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0119】
上記R21〜R28およびRc1におけるアルキル基としては、上述したRccにおけるアルキル基の具体例が挙げられ、正孔輸送性化合物(2)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。
【0120】
上記R21〜R28およびRc1におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、およびターシャルブトキシ基等が挙げられメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0121】
上記R21〜R28およびRc1におけるチオール含有基(E)について、アルキレン基としては、上述したRccにおけるチオール含有基(E)でのアルキレン基の具体例が挙げられる。
【0122】
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(2−i)中に合計で2つまたは3つ以上含まれる。これにより、有機化合物層の多層化において後述するような好ましい効果が発揮される。
【0123】
(2−ii)次に、R29が、置換基(D1)である場合(正孔輸送性化合物(2−ii))について説明する。
【0124】
置換基(D1)中のRddにおけるアルキル基としては、上述したRccにおけるアルキル基の具体例が挙げられ、正孔輸送性化合物(2)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0125】
ddにおけるチオール含有基(E)について、アルキレン基としては、上述したRccにおけるチオール含有基(E)でのアルキレン基の具体例が挙げられる。
【0126】
骨格構造中のR21〜R28および置換基(D1)中のRd1〜Rd8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【0127】
【化29】

【0128】
(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)である。
【0129】
上記R21〜R28およびRd1〜Rd8におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0130】
上記R21〜R28およびRd1〜Rd8におけるアルキル基としては、上述したRccにおけるアルキル基の具体例が挙げられ、正孔輸送性化合物(2)の合成容易性の観点からは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0131】
上記R21〜R28およびRd1〜Rd8におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、およびターシャルブトキシ基等が挙げられメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0132】
上記R21〜R28およびRd1〜Rd8におけるチオール含有基(E)について、アルキレン基としては、上述したRccにおけるチオール含有基(E)でのアルキレン基の具体例が挙げられる。
【0133】
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(2−ii)中に合計で2つまたは3つ以上含まれる。これにより、有機化合物層の多層化において後述するような好ましい効果が発揮される。
【0134】
式(1)で表わされる正孔輸送性化合物(1)として、具体的には下記式(A1−1)〜(A1−2)および(B1−1)で表わされる正孔輸送性化合物が挙げられる。
【0135】
【化30】

【0136】
正孔輸送性化合物(A1−1)は、正孔輸送性化合物(1)において、R8が置換基(
A1)で置換され、nが1の場合である。このとき、骨格構造の中心のNと、置換基(A1)中のNとの間に介在する二価の基は、上記チオール含有基(E)で置換されていないことが好ましい。言い換えると、R6〜R7、R9〜R10および4つのRaaは、水素原子ま
たは上記アルキル基であることが好ましい。そして、R1〜R5、R11〜R15、Ra1〜Ra5およびRa6〜Ra10のうち2つ以上が上記チオール含有基(E)であることが好ましく、
上記チオール含有基(E)ではない基が水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。さらに、R1〜R5およびR11〜R15のうち1つ以上が上記チオール含有基(E)で
あり、かつRa1〜Ra5およびRa6〜Ra10のうち1つ以上が上記チオール含有基(E)で
あり、上記チオール含有基(E)ではない基が水素原子または上記アルキル基であることがより好ましい。
【0137】
【化31】

【0138】
正孔輸送性化合物(A1−2)は、正孔輸送性化合物(1)において、R3、R8およびR13が置換基(A1)で置換され、nが0の場合である。このとき、骨格構造の中心のNと、置換基(A1)中のNとの間に介在する二価の基は、上記チオール含有基(E)で置換されていないことが好ましい。言い換えると、R1〜R2、R4〜R5、R6〜R7、R9
10、R11〜R12およびR14〜R15は、水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。そして、Ra1〜Ra10(3個ずつあるRa1〜Ra10の合計30個の基)のうち2つ以上が上記チオール含有基(E)であることが好ましく、上記チオール含有基(E)ではない基が水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。
【0139】
【化32】

【0140】
正孔輸送性化合物(B1−1)は、正孔輸送性化合物(1)において、R3、R8およびR13が置換基(B1)で置換され、pが0の場合である。このとき、骨格構造の中心のNと、置換基(A1)中のNとの間に介在する二価の基は、上記チオール含有基(E)で置換されていないことが好ましい。いいかえると、R1〜R2、R4〜R5、R6〜R7、R9
10、R11〜R12およびR14〜R15は、水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。そして、Rb1〜Rb8(3個ずつあるRb1〜Rb8の合計24個の基)のうち2つ以上が上記チオール含有基(E)であることが好ましく、上記チオール含有基(E)ではない基が水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。
【0141】
式(2)で表わされる正孔輸送性化合物(2)として、具体的には下記式(C1−1)および(D1−1)で表わされる正孔輸送性化合物が挙げられる。
【0142】
【化33】

【0143】
正孔輸送性化合物(C1−1)は、正孔輸送性化合物(2)において、R29が置換基(
C1)で置換され、qが0の場合である。このとき、Rc1は、上記アルキル基であることが好ましい。そして、R21〜R24およびR25〜R28のうち2つ以上が上記チオール含有基(E)であることが好ましく、上記チオール含有基(E)ではない基が水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。さらに、R21〜R24のうち1つ以上が上記チオール含有基(E)であり、かつR25〜R28のうち1つ以上が上記チオール含有基(E)であり、上記チオール含有基(E)ではない基が水素原子または上記アルキル基であることがより好ましい。
【0144】
【化34】

【0145】
正孔輸送性化合物(D1−1)は、正孔輸送性化合物(2)において、R29が置換基(D1)で置換され、rが2の場合である。このとき、骨格構造のNと、置換基(D1)中のNとの間に介在する二価の基は、上記チオール含有基(E)で置換されていないことが好ましい。いいかえると、Rddは、水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。そして、R21〜R24、R25〜R28、Rd1〜Rd4およびRd5〜Rd8のうち2つ以上が上記チオール含有基(E)であることが好ましく、上記チオール含有基(E)ではない基が水素原子または上記アルキル基であることが好ましい。
【0146】
組成物には、有機化合物Aとともに溶媒が用いられる。溶媒としては、種々の有機溶媒を用いることができ、たとえばトルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒や、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル溶媒、メタノール、エタノールのようなアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジメトキシエタン、THFなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は混合して用いても
良い。特にトルエン、メタノールが好適に用いられる。溶媒は、通常有機化合物A100質量部に対して100〜100000質量部の量で用いられる。
【0147】
その他、組成物は、後述する反応の速度を大きくするため、酸化剤を含んでいてもよい。酸化剤としては、臭素、ヨウ素、酸素、過酸化水素などが挙げられ、特にヨウ素が好適に用いられる。酸化剤は、通常有機化合物A100質量部に対して0.01〜10質量部の量で用いられる。
【0148】
さらに、組成物は、2個以上のチオール基を有しない有機化合物Bを含んでいてもよい。有機化合物Bとしては、下記のような2個以上のチオール基を有しない有機EL化合物が挙げられる。
【0149】
【化35】

【0150】
【化36】

【0151】
【化37】

【0152】
【化38】

【0153】
【化39】

【0154】
【化40】

【0155】
有機化合物Bは、後述するような有機化合物層の多層化に悪い影響を与えない範囲で用いられ、通常有機化合物A100質量部に対して1〜200質量部の量で用いられる。
【0156】
組成物は、溶媒に有機化合物Aおよび必要に応じて上記成分を溶解し、あるいは分散させて得られる。
【0157】
組成物の塗布方法は特に限定がないが、該組成物による有機化合物層を形成したい層の上に、主にスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法により形成することができる。ここで、該組成物による有機化合物層を形成したい層とは、たとえば陽極や、すでに陽極上に形成されている有機化合物層である。
【0158】
また、組成物は、第二工程後に好適な膜厚が得られる量を塗布することが好ましい。
【0159】
〔第二工程〕
第二工程では、第一工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物A同士を反応
させて不溶化させる。このようにして、本発明において有機化合物層が形成される。
【0160】
不溶化とは、具体的には、第一工程および第二工程によって形成された有機化合物層上に、新たな有機化合物層を形成するための材料溶液であって有機溶剤を溶媒とする材料溶液を塗布しても、該第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層が溶解しないことをいう。
【0161】
不溶化について、たとえば第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層に下記の処理を施した際の当該層の厚さの減少率((1−処理後の厚さ/処理前の厚さ)×100(%))として評価すると、この減少率はたとえば30%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。なお、本明細書において「不溶化されている」とは、減少率が上記範囲にあることをいう。
【0162】
(処理):厚さ20nmである第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層を表面に備えた基板(25mm角、板厚1.1mm、青板ガラス)を、スピンコーターにセットし、当該層上に0.10mlのトルエンを滴下した後、3000rpmで30秒間の条件で回転させる。この回転はトルエンの滴下後5秒以内に開始する。その後、当該層を窒素雰囲気下に140℃で1時間放置する。
【0163】
また、本発明の製造方法において「有機化合物A同士を反応させて不溶化させる」とは、言い換えると(あるいは上記説明に加えて)、有機化合物Aが有するチオール基同士(具体的には異なる有機化合物Aの分子に含まれるチオール基同士)を反応させ、−S−S−結合を生成させることにより、有機化合物Aをつなげて高分子量化することをいう。
【0164】
この−S−S−結合の生成は、実施例に記載の方法により確認できる。
【0165】
第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層(本明細書において、このような有機化合物層を高分子量化された有機化合物層ともいう。)とその上に一層以上の有機化合物層とを有する有機EL素子は、効率および寿命などの点で優れる。
【0166】
この原因は以下のように考えられる。高分子量化された有機化合物層は、有機化合物Aが−S−S−結合により高分子量化しているため、その上に塗布法によってさらに有機化合物層を積層させる場合も、高分子量化された有機化合物層は溶解しない。また、高分子量化された有機化合物層とその上の有機化合物層との界面の乱れが抑えられていると考えられる。これにより、効率および寿命などの点で優れると考えられる。
【0167】
また、有機化合物層として、第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層一層のみを有する有機EL素子も、効率および寿命などの点で優れる。
【0168】
この原因は以下のように考えられる。従来の通常の塗布法で形成された有機化合物層は、溶媒の蒸発で形成される空洞が十分に埋まらず、緻密な膜を形成できない場合もある。一方、本発明での高分子量化された有機化合物層は、有機化合物Aが−S−S−結合により高分子量化する際に、溶媒の蒸発で形成される空洞が十分に埋まり、緻密な膜が形成されていると考えられる。これにより、効率および寿命などの点で優れると考えられる。
【0169】
なお、特開2000−223278号公報にはメルカプト基を有する化合物の溶液に電極を浸漬した後、余分な溶液を洗い流して減圧乾燥することで、電極表面に該化合物の単〜数分子層からなる超薄膜が形成されることが記載されている。この方法により、上にさらに他の層を塗布成膜(積層)できる有機層を、穏やかな条件で形成することを試みている。しかし、この方法では化合物のメルカプト基と電極を構成する原子が結合することで
化合物を不溶化しているため、電極表面の単分子層のみが不溶化していると考えられる。つまり上述した高分子量化された有機化合物層ではない。この文献にはメルカプト基を有する化合物の層を単分子層の膜厚よりも大きい数十〜数百nm積層し、正孔輸送層を担わせることができると記載されているが([0044])、この膜は高分子量化された有機化合物層ではないので、さらに塗布により積層する場合には、その溶媒に溶解してしまう可能性が高く、このような化合物を用いても塗布により積層膜を形成することは困難であると考えられる。
【0170】
第二工程における加熱温度および加熱時間は、有機化合物Aが十分に高分子量化するよう適宜選択される。たとえば、加熱温度は30℃〜200℃であることが好ましい。30℃以上であると、反応速度の点から好ましく、200℃以下であると、化合物の耐熱性の点から好ましい。また、40℃〜150℃であることがより好ましく、50℃〜100℃であることがさらに好ましい。また、加熱時間は0.5〜12時間であることが好ましい。
【0171】
第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層は、通常10μm未満、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.0001〜0.5μmであることが望ましい。
【0172】
一対の電極の間、すなわち陽極と陰極の間に二層以上の有機化合物層が形成された有機EL素子を製造する場合は、陽極に積層する有機化合物層(第一層)を上述した第一工程および第二工程によって形成することが好ましい。これにより、効率および寿命などの点で優れる有機EL素子が得られる。
【0173】
また、第一工程および第二工程により形成された有機化合物層上に、以下の二つの工程により1層または複数層の有機化合物層をさらに形成することも好ましい。
【0174】
第三工程:有機化合物Aとは異なる、2個以上のチオール基を有する有機化合物を含む組成物を塗布する工程、
第四工程:第三工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物Aとは異なる有機化合物が有するチオール基同士を反応させて不溶化させる工程。
【0175】
ここで、「有機化合物Aとは異なる有機化合物」とは、第一工程および第二工程で用いた有機化合物A(具体的には有機化合物a1)とは異なるが、上述した有機化合物Aから選ばれる有機化合物(具体的には有機化合物a2)である。その他、第三工程および第四工程の具体的な説明については、それぞれ上述した第一工程および第二工程と同様である。
【0176】
いいかえると、第一工程および第二工程を2回以上繰り返すことも好ましい。すなわち、陽極と陰極の間に二層以上の有機化合物層が形成された有機EL素子を製造する場合において、隣り合う二層の有機化合物層が、両方とも上述した第一工程および第二工程によって形成されることが好ましい。なお、ここで、1回目の第一工程および第二工程で用いられる有機化合物および2回目の第一工程および第二工程で用いられる有機化合物は、それぞれ上述した有機化合物Aから選ばれる有機化合物であり、かつお互いに異なる有機化合物である。これにより、効率および寿命などの点で優れる有機EL素子が得られる。これにより、効率および寿命などの点で優れる有機EL素子が得られる。
【0177】
たとえば、陽極と陰極の間に三層以上の有機化合物層が形成された有機EL素子を製造する場合は、陽極に積層する有機化合物層(第一層)を上述した第一工程および第二工程によって形成し、その上に積層する有機化合物層(第二層)を上述した第三工程および第四工程によって形成することがより好ましい。
【0178】
また、第一工程〜第四工程によって、第一層と第二層とを形成する場合、第一層を形成するために用いる有機化合物Aは3個以上のチオール基を有することも好ましい。
【0179】
また、陽極と陰極の間に二層以上の有機化合物層が形成された有機EL素子を製造する場合は、有機化合物層を上述した第一工程〜第四工程によって形成することも好ましい。
【0180】
なお、第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層の上に、通常の塗布法によって有機化合物層を設けてもよい。通常の塗布法によって有機化合物層を設けるとは、たとえば、有機EL化合物(チオール基を2個以上有さない有機EL化合物)と有機溶剤とを含む溶液を塗布し、有機化合物層を形成することをいう。
【0181】
以下に、本発明のより具体的な実施形態について説明する。
【0182】
〔実施形態1〕
実施形態1の製造方法は、図1に示すように基板/陽極/正孔輸送層/発光層/陰極をこの順で積層した有機EL素子の製造方法である。ここでは、正孔輸送層が、上記第一工程および第二工程によって形成され、発光層が、通常の塗布法または蒸着法によって形成される。
【0183】
基板には、有機EL素子に要求される機械的強度を満たす材料が用いられる。たとえば、可視光に対して透明な基板が用いられ、具体的には、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス;アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂などの透明プラスチック;シリコンなどからなる基板を使用できる。
【0184】
基板の厚さは、要求される機械的強度にもよるが、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは0.25〜2mmである。
【0185】
まず、上記基板の上に、たとえば真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法により、陽極を設ける。
【0186】
陽極としては、−5〜80℃の温度範囲で面抵抗が好ましくは1000オーム□以下、より好ましくは100オーム□以下である物質を用いることができる。
【0187】
有機EL素子の陽極側から光を取り出す場合(ボトムエミッション)には、陽極は可視光に対して透明(380〜680nmの光に対する平均透過率が50%以上)であることが必要であるから、陽極の材料としては、酸化インジウム錫(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)などが挙げられ、有機EL素子の陽極として入手が容易であることを考慮すると、これらの中でもITOが好ましい。
【0188】
また、有機EL素子の陰極側から光を取り出す場合(トップエミッション)には、陽極の光透過度は制限されず、陽極の材料としては、ITO、IZO、ステンレス、あるいは銅、銀、金、白金、タングステン、チタン、タンタルもしくはニオブの単体、またはこれらの合金を使用できる。
【0189】
陽極の厚さは、ボトムエミッションの場合には、高い光透過率を実現するために、好ましくは2〜300nmであり、トップエミッションの場合には、好ましくは2nm〜2mmである。
【0190】
次いで、上記陽極の上に、上述した第一工程および第二工程により正孔輸送層を形成する。ここで、上述した正孔輸送性化合物(1)または(2)が好適に用いられる。
【0191】
次いで、上記正孔輸送層の上に、発光層を設ける。発光層は、発光性化合物と有機溶剤とを含む溶液を用いて、主にスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法により形成することができる。
【0192】
ここで用いる発光性化合物は、通常有機化合物Aではない、すなわちチオール基を2個以上含む化合物ではない。具体的には、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている発光性低分子化合物及び発光性高分子化合物であって、チオール基を2個以上含まない化合物などを例示することができる。この中でも、素子作製プロセスが簡素化されるという点で発光性高分子化合物が好ましく、発光効率が高い点で燐光発光性化合物が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子化合物が好ましい。
【0193】
また、発光性高分子化合物は、共役発光性高分子化合物と非共役発光性高分子化合物とに分類することもできるが、中でも非共役発光性高分子化合物が好ましい。
【0194】
上記の理由から、本発明で用いられる発光材料としては、燐光発光性非共役高分子化合物(前記燐光発光性高分子であり、かつ前記非共役発光性高分子化合物でもある発光材料)が特に好ましい。
【0195】
発光層は、好ましくは、燐光を発光する燐光発光性単位とキャリアを輸送するキャリア輸送性単位とを一つの分子内に備えた、燐光発光性高分子を少なくとも含む。前記燐光発光性高分子は、重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物とを共重合することによって得られる。燐光発光性化合物はイリジウム、白金および金の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、中でもイリジウム錯体が好ましい。
【0196】
燐光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325号公報、特開2003−119179号公報、特開2003−113246号公報、特開2003−206320号公報、特開2003−147021号公報、特開2003−171391号公報、特開2004−346312号公報、特開2005−97589号公報に開示されている。
【0197】
発光層は、好ましくは前記燐光発光性化合物を含む層であるが、発光層のキャリア輸送性を補う目的で、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物であって、チオール基を2個以上含まない化合物が含まれていてもよい。いいかえると、この発光層は、後述する実施例1のように、電子輸送兼発光層であってもよい。これらの目的で用いられる正孔輸送性化合物としては、例えば、TPD(N,N'−ジメチル−N,N'−(3−メチルフェニル)−1,1'−ビフェニル−4,4'ジアミン)、α−NPD(4,4'−ビス[N−(1−ナ
フチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、m−MTDATA(4、4',4''−ト
リス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)などの低分子トリフェニルアミン誘導体や、ポリビニルカルバゾール、前記トリフェニルアミン誘導体に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレン(これらはチオール基を2個以上含まない)などが挙げられ、また、電子輸送性化合物としては、例えば、Alq3(トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(III))などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリ
アゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体な
どの低分子材料や、上記の低分子電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどの既知の電子輸送性化合物(これらはチオール基を2個以上含まない)が使用できる。
【0198】
最後に、発光層の上に、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などにより、陰極を形成する。
【0199】
本発明の有機EL光素子の陰極材料としては、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが使用され、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属の合金などの既知の陰極材料を例示することができるが、化学的安定性を考慮すると仕事関数は−2.9eV以下であることが好ましい。
【0200】
陰極の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。
【0201】
以上により、基板/陽極/正孔輸送層/発光層/陰極をこの順で積層した有機EL素子が得られる。実施形態1の製造方法では、正孔輸送層を第一工程および第二工程によって高分子量化された有機化合物層とするため、最終的に効率、寿命などの点で優れた有機EL素子が得られる。
【0202】
なお、実施形態1は、基板/陽極/第一正孔輸送層/第二正孔輸送層/発光層/陰極をこの順で積層した有機EL素子の製造方法であってもよい。ここでは、第一正孔輸送層および第二正孔輸送層が、上記第一工程および第二工程によって形成され、発光層が通常の塗布法によって形成される。第一正孔輸送層および第二正孔輸送層は、イオン化ポテンシャルの異なる二層となるように上述した正孔輸送性化合物(1)および(2)から適宜選択することが好ましい。
【0203】
〔実施形態2〕
実施形態2の製造方法は、図2に示すように基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極をこの順で積層した有機EL素子の製造方法である。ここでは、正孔輸送層が、上記第一工程および第二工程によって形成され、発光層は通常の塗布法によって形成され、電子輸送層は蒸着法で形成される。
【0204】
実施形態2では、基板、陽極、正孔輸送層および発光層の積層については、実施形態1の製造方法と同様である。
【0205】
次いで、実施形態2では、形成された発光層の上に、蒸着法で電子輸送層を設ける。
【0206】
最後に、電子輸送層の上に、実施形態1の製造方法と同様に陰極を形成する。
【0207】
以上により、基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極をこの順で積層した有機EL素子が得られる。実施形態2の製造方法では、正孔輸送層を第一工程および第二工程によって高分子量化された有機化合物層とするため、最終的に効率、寿命などの点で優れた有機EL素子が得られる。
【0208】
また、実施形態2の形態において、正孔輸送層および発光層が、上記第一工程および第二工程によって形成され、電子輸送層は通常塗布法で形成されてもよい。この場合、電子輸送層は、電子輸送性化合物と有機溶剤とを含む溶液を用いて、主にスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法により
形成することができる。
【0209】
ここで用いる電子輸送性化合物は、通常有機化合物Aではない、すなわちチオール基を2個以上含む化合物ではない。具体的には、上述した実施形態1の発光層に含ませてもよい電子輸送性化合物が挙げられる。
【0210】
なお、実施形態2は、基板/陽極/第一正孔輸送層/第二正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極をこの順で積層した有機EL素子の製造方法であってもよい。ここでは、第一正孔輸送層および第二正孔輸送層が、上記第一工程および第二工程によって形成され、発光層が通常の塗布法によって形成され、電子輸送層が蒸着法で形成されるか、または、第一正孔輸送層、第二正孔輸送層および発光層が、上記第一工程および第二工程によって形成され、電子輸送層が通常の塗布法または蒸着法によって形成される。第一正孔輸送層および第二正孔輸送層は、イオン化ポテンシャルの異なる二層となるように上述した正孔輸送性化合物(1)および(2)から適宜選択することが好ましい。
【0211】
なお、実施形態2で得られる有機EL素子は、キャリヤ輸送と発光の機能を分離したものであり、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の化合物が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層に各キャリヤあるいは励起子を有効に閉じこめて発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0212】
〔実施形態3〕
実施形態3の製造方法は、図3に示すように基板/陽極/発光層/陰極をこの順で積層した有機EL素子の製造方法である。ここでは、発光層が、上記第一工程および第二工程によって形成される。
【0213】
実施形態3では、基板および陽極の積層については、実施形態1の製造方法と同様である。
【0214】
次いで、実施形態3では、上記陽極の上に、上述した第一工程および第二工程により発光層を形成する。ここで、上述した2個以上のチオール基を有する発光性化合物が好適に用いられる。
【0215】
最後に、発光層の上に、実施形態1の製造方法と同様に陰極を形成する。
【0216】
以上により、基板/陽極/発光層/陰極をこの順で積層した有機EL素子が得られる。実施形態3の製造方法では、発光層を第一工程および第二工程によって高分子量化された有機化合物層とするため、最終的に効率、寿命などの点で優れた有機EL素子が得られる。
【0217】
なお、上記発光性化合物はそれ自体で正孔輸送能、エレクトロン輸送能及び発光性の性能を単一で有している場合であってもよく、それぞれの特性を有する化合物を混合して使ってもよい。
【0218】
上記実施形態1〜3において、陰極作製後、該有機EL素子を保護する保護層を装着していてもよい。該有機EL素子を長期安定的に用いるためには、素子を外部から保護するために、保護層および/または保護カバーを装着することが好ましい。該保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物などを用いることができる。また、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などを用いることができ、該カバーを熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法が好適に用いられる。スペーサーを用いて空間を維持すれば、素子が
キズつくのを防ぐことが容易である。該空間に窒素やアルゴンのような不活性なガスを封入すれば、陰極の酸化を防止することができ、さらに酸化バリウム等の乾燥剤を該空間内に設置することにより製造工程で吸着した水分が素子にタメージを与えるのを抑制することが容易となる。これらのうち、いずれか1つ以上の方策をとることが好ましい。
【0219】
実施形態1〜3は、ごく基本的な素子構成であり、本発明の製造方法によって得られる有機EL素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子注入効率の良い電子注入層を陰極、電子輸送層界面に挿入する、など多様な層構成をとることができる。
【0220】
<有機EL素子およびその用途>
本発明の有機EL素子は、上述した製造方法によって得られる。本発明の有機EL素子は、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、上記有機EL素子は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
【0221】
本発明の有機EL素子は、具体的には、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、標識、看板、ビデオカメラのビューファインダー等における表示装置、バックライト、電子写真、照明、レジスト露光、読み取り装置、インテリア照明、光通信システム等における光照射装置に好適に用いられる。
【0222】
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0223】
[評価方法]
(1)初期輝度、電流効率、100時間後の輝度の測定方法
有機EL素子に定電圧電源(Keithley製、SM2400)を用いて段階的に電圧を印加し、有機EL素子の輝度を輝度計(トプコン製、BM-9)で定量した。電流密度に対する輝度の比から発光効率を決定した。
【0224】
また、有機EL素子に、同装置を用いて定電流を印加し続け、一定時間おきに輝度を測定することで、発光寿命測定を行った。
【0225】
(2)不溶化
(積層体A、Bの作製)
下記実施例の有機EL素子とは別に、不溶化の評価(減少率の算出)のために、青板ガラス(25mm角、板厚1.1mm)上に、後述する実施例に記載する第一工程および第二工程の手順によって、高分子量化された有機化合物層(厚さ20nm)を設けた積層体を2枚作製し、それぞれ積層体A、積層体Bとした。
【0226】
(有機化合物層の厚さの測定)
積層体Aの有機化合物層の一部を針で切削して基板を露出させ(以下、こうして露出された基板表面を「基板露出部」ともいう。)、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、積層体Aの有機化合物層側表面を、図4に示すように基板露出部を横断するように観測することにより、有機化合物層(以下「溶解試験処理前の有機化合物層」ともいう。)の厚さを測定した。
【0227】
(溶解試験処理)
積層体Bの高分子量化された有機化合物層に下記の溶解試験処理を施した。
【0228】
積層体Bの有機化合物層上に0.10mlのトルエンを滴下した後、3000rpmで30秒間の条件で回転させた。この回転はトルエンの滴下後5秒以内に開始した。次いで、試料を窒素雰囲気下に140℃で1時間放置した。
【0229】
その後、積層体Bの有機化合物層(以下「溶解試験処理後の有機化合物層」ともいう。)の厚さを、積層体Aの場合と同様の方法で測定し、下式で定義される、有機化合物層の厚さの「減少率(%)」を算出した。
【0230】
減少率=(1−溶解試験処理後の有機化合物層の厚さ/溶解試験処理前の有機化合物層の厚さ)×100
なお、実施例3については、第一正孔輸送層を設けた積層体A、積層体Bを用いた場合と第一正孔輸送層を設けた積層体A、積層体Bを用いた場合について、それぞれ上記評価を行った。
【0231】
(3)高分子量化
高分子量化は、チオール基の消失により確認した。
【0232】
(積層体Cの作製)
化合物Bおよび化合物Bに対して0.1wt%のヨウ素をトルエンに溶解し2.0wt%(化合物Bおよびヨウ素の合計の濃度)の塗布液を調製した。この塗布液を用いて、青板ガラス(25mm角、板厚1.1mm)上に、スピンコート法(2000rpm)により成膜し、60℃にて10分間、120℃にて1時間熱処理を行い50nmの積層体Cを作製した。
【0233】
(積層体Dの作製)
化合物Bをトルエンに溶解し2.0wt%の塗布液を調製した。この塗布液を用いて、青板ガラス(25mm角、板厚1.1mm)上に、スピンコート法(2000rpm)により成膜し、室温、減圧下にて乾燥させ50nmの積層体Dを作製した。
【0234】
(チオール基の消失)
IRの測定により、積層体DにみられたSH基に由来する2564cm-1のピークが、積層体Cではまったく見られなかったことから、チオール基同士が反応し、−S−S−結合を生成させることにより、高分子量化したと考えられる。
【0235】
実施例1〜3の第一工程および第二工程を経て得られた有機化合物層においても、SH基に由来する2564cm-1のピークはまったく見られないと考えられる。したがって、チオール基同士が反応し、−S−S−結合を生成し、高分子量化していると考えられる。
【0236】
[実施例1]
ガラス基板上に酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、IPAで煮沸洗浄、乾燥をした。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0237】
(第一工程および第二工程)化合物Aをトルエンに溶解させ、2.0wt%の塗布液を
調製した。この塗布液を用いて、透明支持基板上にスピンコート法(2000rpm)により成膜し、140℃にて2時間熱処理を行い50nmの膜厚の有機化合物層を作製し、正孔輸送層を形成した。
【0238】
次に、化合物P、化合物Xを重量比10:90とした混合物をトルエンに溶解させ、2.0w
t%の塗布液を調製した。なお、化合物Xは特開2005−200638記載の方法で合
成した。この塗布液を用いて、先に作製した膜上にスピンコート法(2000rpm)により成膜し、窒素雰囲気下、140℃にて1時間熱処理を行い50nmの膜を作製し、電子輸送兼発光層を形成した。
【0239】
さらに、アルミニウムとリチウム(リチウム濃度1原子%)からなる蒸着材料を用いて、先ほどの有機層の上に、真空蒸着法により厚さ150nmの金属層膜を形成し、図1に示す構造の素子を作製した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は1.0〜1.2nm/secの条件で成膜した。この様にして得られた素子に、ITO電極を正極、アルミニウム−リチウム電極を負極にして、真空中で直流電圧を印加して100時間連続発光させた結果を表1に示す。
【0240】
【化41】

【0241】
【化42】

【0242】
【化43】

【0243】
[比較例1]
実施例1の化合物AをN,N'−ジフェニル−N,N'−ジ(3−メチルフェニル)−4,4'−ジアミノ−1,1'−ビフェニルに変えて正孔輸送層を形成した他は実施例1の素子と全く同様にして比較例1の素子を作製した。この様にして得られた素子に、ITO電極を正極、アルミニウム−リチウム電極を負極にして、真空中で直流電圧を印加して100時間連続発光させた結果を表1に示す。
【0244】
【表1】

【0245】
[実施例2]
ガラス基板上に酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、IPAで煮沸洗浄、乾燥をした。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0246】
(第一工程および第二工程)化合物Bおよび化合物Bに対して0.1wt%のヨウ素をトルエンに溶解し2.0wt%(化合物Bおよびヨウ素の合計の濃度)の塗布液を調製した。この塗布液を用いて、透明支持基板上にスピンコート法(2000rpm)により成膜し、60℃にて10分間、120℃にて1時間熱処理を行い50nmの有機化合物層(正孔輸送層)を作製した。
【0247】
次に、化合物P、化合物Xを重量比10:90とした混合物をトルエンに溶解させ、2.0w
t%の塗布液を調製した。この塗布液を用いて、先に作製した膜上にスピンコート法(2000rpm)により成膜し、窒素雰囲気下、140℃にて1時間熱処理を行い50nmの膜を作製し、電子輸送兼発光層を形成した。
【0248】
さらに、アルミニウムとリチウム(リチウム濃度1原子%)からなる蒸着材料を用いて、先ほどの有機層の上に、真空蒸着法により厚さ150nmの金属層膜を形成し、図1に示す構造の素子を作製した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は1.0〜1.2nm/secの条件で成膜した。
【0249】
この様にして作製した素子に、ITO電極を陽極にアルミニウム−リチウム電極を陰極に直流の電圧を印加したところ、32.9cd/Aの緑色発光が観測された。その他の結
果も合わせて表1に示す。
【0250】
【化44】

【0251】
[実施例3]
ガラス基板上に酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、IPAで煮沸洗浄、乾燥をした。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0252】
(1回目の第一工程および第二工程)化合物Bおよび化合物Bに対して0.1wt%のヨウ素をトルエンに溶解し2.0wt%(化合物Bおよびヨウ素の合計の濃度)の塗布液を調製した。この塗布液を用いて、透明支持基板上にスピンコート法(2000rpm)により成膜し、60℃にて10分間、120℃にて1時間熱処理を行い50nmの有機化合物層(第一正孔輸送層)を作製した。
【0253】
(2回目の第一工程および第二工程)次に、化合物Cをトルエンに溶解させ、1.0w
t%の塗布液を調製した。この塗布液を用いて、先に作製した膜上にスピンコート法(2000rpm)により成膜し、140℃にて2時間熱処理を行い20nmの膜厚の有機化合物層(第二正孔輸送層)を作製した。
【0254】
次に、化合物P、化合物Xを重量比10:90とした混合物をトルエンに溶解させ、2.0w
t%の塗布液を調製した。この塗布液を用いて、先に作製した膜上にスピンコート法(2000rpm)により成膜し、窒素雰囲気下、140℃にて1時間熱処理を行い50nmの膜を作製し、電子輸送兼発光層を形成した。
【0255】
さらに、アルミニウムとリチウム(リチウム濃度1原子%)からなる蒸着材料を用いて、先ほどの有機層の上に、真空蒸着法により厚さ150nmの金属層膜を形成し、図1に
示す構造において、正孔輸送層を第一正孔輸送層および第二輸送層に変えた構造の素子を作製した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は1.0〜1.2nm/secの条件で成膜した。
【0256】
この様にして作製した素子に、ITO電極を陽極にアルミニウム−リチウム電極を陰極に直流の電圧を印加したところ、42.3cd/Aの緑色発光が観測された。その他の結
果も合わせて表1に示す。
【0257】
【化45】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極の間に形成された一層以上の有機化合物層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、少なくとも一層の有機化合物層が以下の二つの工程により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法;
第一工程:2個以上のチオール基を有する有機化合物Aを含む組成物を塗布する工程、
第二工程:第一工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物Aが有するチオール基同士を反応させて不溶化させる工程。
【請求項2】
前記有機化合物Aが、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物または発光性化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物Aが、以下の一般式(1)で表わされる正孔輸送性化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【化1】

〔式(1)中、R2、R3、R8およびR13のうち少なくとも1つが、下記式(A1)で
表わされる置換基(A1)であり、
【化2】

(式(A1)中、複数個あるRaaは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【化3】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、n
は0、1または2を表す。)
骨格構造(1)中のR1〜R15のうち置換基(A1)で置換されていないR1〜R15および置換基(A1)中のRa1〜Ra10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シア
ノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【化4】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(1)中に合計で2つ以上含まれる。〕
【請求項4】
前記有機化合物Aが、以下の一般式(1)で表わされる正孔輸送性化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【化5】

〔式(1)中、R2、R3、R8およびR13のうち少なくとも1つが、下記式(B1)で
表わされる置換基(B1)であり、
【化6】

(式(B1)中、複数個あるRbbは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【化7】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、p
は0、1または2を表す。)
骨格構造(1)中のR1〜R15のうち置換基(B1)で置換されていないR1〜R15および置換基(B1)中のRb1〜Rb8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基
【化8】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(1)中に合計で2つ以上含まれる。〕
【請求項5】
前記有機化合物Aが、以下の一般式(2)で表わされる正孔輸送性化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【化9】

〔式(2)中、R29が、下記式(C1)で表わされる置換基(C1)であるか、または、下記式(D1)で表わされる置換基(D1)であり、
【化10】

(式(C1)中、複数個あるRccは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【化11】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、q
は0、1または2を表す。)
【化12】

(式(D1)中、複数個あるRddは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【化13】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)を表し、r
は0、1または2を表す。)
(2−i)R29が、置換基(C1)である場合は、
骨格構造(2)中のR21〜R28および置換基(C1)中のRc1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【化14】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(2)中に合計で2つ以上含まれ、
(2−ii)R29が、置換基(D1)である場合は、
骨格構造(2)中のR21〜R28および置換基(D1)中のRd1〜Rd8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または下記式(E)で表わされるチオール含有基(E)
【化15】

(式(E)中、Reは単結合または炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)であり、
チオール含有基(E)は、正孔輸送性化合物(2)中に合計で2つ以上含まれる。〕
【請求項6】
前記第一工程および第二工程により形成された有機化合物層上に、以下の二つの工程により1層または複数層の有機化合物層をさらに形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
第三工程:有機化合物Aとは異なる、2個以上のチオール基を有する有機化合物を含む組成物を塗布する工程、
第四工程:第三工程によって塗布された組成物を加熱し、有機化合物Aとは異なる有機化合物が有するチオール基同士を反応させて不溶化させる工程。
【請求項7】
前記組成物が、さらに酸化剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
第二工程における加熱温度が30℃〜200℃であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法で得られる有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。
【請求項11】
請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面発光光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−89261(P2012−89261A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232740(P2010−232740)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】