説明

有機カチオンのトリシアノメタニドの製造方法

本発明は、下式で表わされるトリシアノメタン塩に基づくイオン液体の製造方法に関するものである。
【化1】


式中、Qは窒素、リン、硫黄及び酸素からなる群から選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有する有機カチオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下式で表わされるイオン液体の製造方法に関するものである。
【化1】

【0002】
式中、Qは窒素、リン、硫黄及び酸素からなる群から選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有する有機カチオンである。
【背景技術】
【0003】
式Iのイオン液体は、トリシアノメタン塩又はトリシアノメタニドである。トリシアノメタン金属塩及びその製造方法は公知である(非特許文献1及び2を参照)。有機配位子を有するトリシアノメタン金属塩錯体もまた公知である(非特許文献3を参照)。Trofimenko等の方法による、金属トリシアノメタニド、例えばカリウムトリシアノメタニドの、ジブロモマロノニトリル、シアン化カリウム及び臭化カリウムからの合成においては、トリシアノメタニド1モル当たり1.5molのBrが形式的に反応する。
【0004】
種々のトリシアノメタン塩もまた公知であり、例えば、特許文献1及び2、非特許文献4乃至6を参照することができる。しかしながら、これらはもっぱら固体である。特許文献3には、殺菌剤及び除草剤として用いられる様々な液体アンモニウムトリシアノメタニドが開示されている。
【0005】
有機カチオンの塩は蒸気圧が低く、また低融点であることが多い。それらは室温で液体である場合にイオン液体と呼ばれる。最近において、イオン液体は、「環境に優しい化学」における環境面でフレンドリーな溶媒として知られるようになった。イオン液体の融点、ひいては溶媒としての温度範囲は、アニオン及びカチオンの変化により左右される。現在において、約−60℃から300℃超までの範囲において使用される様々なイオン液体が入手可能である。
【0006】
イオン液体の有機カチオンは、通常、一価の四級アンモニウム又はホスホニウム塩基、又は芳香族カチオンであって、通常さらにアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基により置換され得、また、例えばリン、硫黄又は酸素などのヘテロ原子を更に含み得る窒素含有塩基である。慣例の有機カチオンの例として、イミダゾリウム、オキサゾリウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピロリジニウム、ピリミジニウム、チアゾリウム及びトリアゾリウムカチオンが挙げられる。イミダゾリウム及びピロリジニウムカチオンは、最も頻繁に使用される。カチオンは、少なくとも一つのヘテロ原子に局在化された、あるいは環の中心において非局在化された、あるいは錯体表記における電荷と共に表わされる。全タイプの表記は互いに同等なものとして用いられる。
【0007】
イオン液体における典型的なアニオンは、アセテート、AlCl、AsF、BF、臭化物、CFSO、(CFPF、(CFPF、(CFPF、(CFPF、(CF、塩化物、CN、FeCl、NO、PF、ピルベート、オキサレート又はSCNである。特に頻繁に用いられるアニオンは、AlCl、AsF、BF及びPFである。
【0008】
イオン液体の製造における出発物質は、例えば、Merck KGaA、Darmstadt、又はIoLiTec、A.Bosmann、Dr T.Schubert G.b.R., Freiburgから入手することができる。
【特許文献1】EP-A 0850 921
【特許文献2】US 3981 899
【特許文献3】EP-A 0010396
【非特許文献1】Schmidtmann,H., Ber. 29, 1896, 1172
【非特許文献2】Trofimenko,S.等, J. Org. Chem. 27, 1962, 433-438
【非特許文献3】Batten,S.R.等, Chem. Commun. 1998, 439-440
【非特許文献4】Jager, L. 等, Z. Anorg. allg. Chem. 611, 1992, 62-72
【非特許文献5】Cioslowski, J.等, Chem. Phys. Lett. 170, 1990, 297-300
【非特許文献6】Elvidge, L.A.等., J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 8, 1983, 1741-1744
【非特許文献7】Makhon'kov,D.I.等, Zh. Org. Khim. 15, 1979, 2441-2445
【発明の開示】
【0009】
本発明は、使用後に環境に優しい態様で廃棄することのできるトリシアノメタニドの新規且つ安価な製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
上記課題は、請求項1により達成される。
【0011】
請求項に記載の発明は、下式:
【化2】

【0012】
(式中、Qは下式で表されるカチオンからなる基から選択される有機カチオンである:
a) [WR、式中、Wは窒素又はリン原子であり、
i) R乃至Rは、各々互いに独立に、C1−20アルキルであり、Rは、C1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、ここでR乃至Rは、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る、又は
ii) R及びRはWと共に5乃至7員環を形成し、R及びRは、各々互いに独立に、C1−20アルキルであり、ここでR及びRは、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る、又は
iii) R乃びR、及び、R乃びRは、各々、Wと共に5乃至7員環を形成する;
b) [NR、式中、Nは窒素原子であり、R及びRは、定型的に一つの単結合及び一つの二重結合を有するNと共に環を形成し、RはC1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、Rは1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る、又は
c) [SR10、式中、Sは硫黄原子であり、
i) R乃びRは、各々互いに独立に、C1−20アルキルであり、R10は、C1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、ここで、R乃至R10は、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る、又は
ii) R乃びRはSと共に5乃至7員環を形成し、R10は、C1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、R10は1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る;又は
d) [ZR1112、式中、Zは硫黄又は酸素原子であり、R11及びR12は、定型的にR11及びR12に対する一つの単結合及び一つの二重結合を有するZと共に環を形成し、
ここで、C1−20アルキル基、C1−20アルコキシ基、ハロゲンおよびシアノからなる群からの1又は2以上の置換基は、R乃至R12により形成される各環に拘束され得、C1−20アルキル基、C1−20アルコキシ基、C3−10シクロアルキル基、C6−10アリール基は、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含んでよく、
置換基R乃至R12により形成される各環は、窒素、硫黄及び酸素からなる群から1又は2以上のヘテロ原子を更に含んでもよく、また他の芳香族又は非芳香族5乃至7員環と縮合してもよい。)
で表わされるイオン液体の製造方法であって、マロノニトリルと式RCN(式中、Rは塩素、臭素、ヨウ素及びシアノからなる群から選択される。)で表わされるシアノ化合物を、塩基の存在下において、所望される場合には溶媒の存在下にて、混合すること、および、塩(Qn−(式中、n=1又は2であり、Qは上記に規定の通りであり、Xn−はハライド、擬ハライド、サルフェート、有機酸アニオンからなる群から選択されるアニオンである。)を添加し、マロノニトリル及びRCNからイン・シトゥーで形成されるトリシアノメタニドアニオンによりアニオンXn−を水相中で置換すること、を含む方法である。
【0013】
方法の好ましい改良形において、マロノニトリル、式RCNのシアノ化合物、塩基及び塩(Qn−は、塩基の存在下であって、所望される場合には溶媒の存在下において水相中で混合され、ワンポット反応においてトリシアノメタニドアニオンが形成され置換がなされる。
【0014】
マロノニトリル、式RCNのシアノ化合物、塩基、および式(Qn−の塩の特別な添加順序は、まったく必要ではない。実施例における添加順序はプロセス工学的観点から有用であることが見出されるが、実験室における他のいかなる添加順序においても同様に、本発明に係る化合物の形成がもたらされる。
【0015】
式RCNのシアノ化合物、塩基、および式(Qn−の塩(ここで、R、Q、Xn−およびnは上記に規定の通りである。)は、各々、他のものを混合しない形態、または溶液中(例えば、水中および/またはメタノール中)で使用することができる。さらに、好適な溶媒および/または可溶化剤は、アセトン、アセトニトリル、C1−4アルコール、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、DMSO、酢酸エチル、ヘキサン、メチレン、クロリド、プロピレン、プロピレンカーボネート、二硫化炭素、THF、トルエン、キシレンおよび適切なそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0016】
好ましい態様において、シアノ化合物RCNは、塩化シアン、臭化シアンおよびジシアンからなる群から選択され、特に塩化シアン、又はジシアンが好ましい。
【0017】
更に好ましい態様において、マロノニトリルと式RCNのシアノ化合物のモル比は、0.2:1〜2:1の範囲であり、より好ましくは0.9:1〜1.1:1であり、特に好ましくは0.95:1〜1.05:1である。
【0018】
本発明に係る方法において適切な塩基は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩、アンモニア、第1級、第2級及び第3級アミンからなる群から選択することができる。特に好ましい塩基は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである。
【0019】
好ましい方法において、反応中のpHは4以上に維持され、より好ましくは7以上に維持され、特に好ましくは7〜9の範囲に維持される。
【0020】
式(Qn−の塩におけるアニオンXn−としてのハライドは、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群から選択することが出来る。特に好ましくは塩化物である。
【0021】
塩(Qn−の擬ハライドアニオンXn−として、少なくとも二つの電気陰性原子からなり、ハロゲンと化学的に同じであるアニオンを使用することができる。好ましくは、擬ハライドアニオンは、CN、OCN、SCN及びNからなる群から選択され、特に好ましくはCNである。
【0022】
好適な有機酸アニオンは、例えば、一塩基および二塩基の、非芳香族および芳香族の酸であり、例えば、アセテート、オレアート、フマラート、マレアート、ピルベート、オキサレートおよびベンゾアートが挙げられる。特に好ましくはアセテートおよびピルベートである。
【0023】
好ましい方法において、形成される式I(式中、Qは上記に規定の通りである。)のトリシアノメタン塩は、未反応の出発化合物から分離され、抽出法により精製される。
【0024】
本発明の方法により、塩化物含有率のきわめて低いイオン液体の提供が可能となる。
【0025】
本発明の方法は、大容量の塩化物、及びナトリウムフリーのイオン液体を製造し得る点において有利である。
【0026】
本明細書及び特許請求の範囲において、表現「C1−nアルキル」は、1〜n個の炭素原子を有する非分岐鎖又は分岐鎖のアルキル基を意味する。従って、C1−20アルキルは、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、1,4−ジメチルペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、1,5−ジメチルヘキシル、ノニル、デシル、4−エチル−1,5−ジメチルヘキシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル又はエイコシル等の基を表す。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲において、表現「C3−nシクロアルキル」は、3〜n個の炭素原子を有するシクロアルキル基を意味する。従って、C3−10シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロへキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル又はシクロデシル等の基を表す。
【0028】
本明細書及び特許請求の範囲において、表現「C6−10アリール」は、6〜10個の炭素原子を有するアリール基を意味する。従って、C6−10アリールは、例えば、フェニル、ベンジル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、エチルメチルフェニル、ジエチルフェニル又はナフチル等の基を表す。
【0029】
本明細書及び特許請求の範囲において、表現「C1−20アルコキシ」は、1〜n個の炭素原子を有する非分岐鎖又は分岐鎖のアルコキシ基を意味する。従って、従って、C1−nアルコキシは、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、1,4−ジメチルペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、1,5−ジメチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、4−エチル−1,5−ジメチルへキシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、トリデシルオキシ、テトラデシルオキシ又はエコシルオキシ等の基を表す。
【0030】
本明細書及び特許請求の範囲において、表現「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。
【0031】
本明細書及び特許請求の範囲において、カチオンQには、少なくとも1つの芳香族又は非芳香族の5乃至7員環が含まれる。
【0032】
更に好ましい態様において、有機カチオンQにおける芳香族又は非芳香族環には、窒素、硫黄および酸素からなる群から選択される基からの1又は2のヘテロ原子が更に含まれる。カチオンQには、特に好ましくは1つの更なる窒素又は硫黄原子が含まれる。
【0033】
さらに、C1−20アルキル基、C1−20アルコキシ基、C3−10シクロアルキル基、C6−10アリール基、ハロゲンおよびシアノからなる群からの1又は2以上の置換基が、カチオンQの芳香族又は非芳香族環に結合することができる。ここで、C1−20アルキル基、C1−20アルコキシ基、C3−10シクロアルキル基、C6−10アリール基は、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る。
【0034】
本発明の方法において、カチオンQは、特に好ましくは、有機アンモニウム、ホスホニウム及びスルホニウムカチオン;ピロリジニウム、ピロリニウム、ピラゾリウム、ピラゾリウム、イミダゾリウム、トリアゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、モルホリニウム、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、1,3−ジオキソリウム、ピリリウム、チオピリリウム、アゾニアスピロ及びホスホニアスピロカチオンからなる群から選択される。
【0035】
更に好ましい態様において、カチオンQは、N,N−ジ(C1−20アルキル)−N,N−(ジメチル)アンモニウム、N−(C6−10アリール)−N,N,N−トリ(C1−20アルキル)アンモニウム、N,N−ジ(C6−10アリール)−N,N−(ジメチル)アンモニウム、テトラメチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、トリメチルスルホニウム、トリブチルスルホニウム、1−(C1−20アルキル)−3−メチルピリジニウム、1−(C1−20アルキル)−3−シアノピリジニウム、1−(C1−20アルキル)−1−メチルピロリジニウム、1−(C1−20アルキル)−1,3−ジメチルピペリジニウム、1−(C1−20アルキル)−1−メチルイミダゾリウム、1−(C1−20アルキル)−3−エチルピリジニウム、4,5−ジメチル−2−(ジフェニルメチル)−1,3−ジオキソリウム、2−(ジフェニルメチル)−4,5−ジフェニル−1,3−ジオキソリウム、6−アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン及び5−ホスホニアスピロ[4.4]ノナンカチオンからなる群から選択される。
【0036】
式I(式中、Qは上記に規定の通りである。)のイオン液体は、溶媒として、特に極性溶媒成分として用いることができ、所望により1又は2以上の他のイオン液体、すなわち水又は有機溶媒との混合系において用いられ得る。トリシアノメタニドは、電気化学又は電気合成において導電性溶媒として特に有利に用いることができ、電解質塩の添加を低減すること、あるいはまったく添加しないことが可能となる。
【0037】
トリシアノメタニドをベースとするイオン液体の極性は、通常のイオン液体の極性より低いが、通常の有機溶媒の極性より高く、新たな適用分野がここに開発される。
【0038】
トリシアノメタニドをベースとするイオン液体は、相対的に、他のイオン液体に比べ水への溶解度が低く、粘度が低い無極性のイオン液体である。
【0039】
トリシアノメタニドをベースとするイオン液体を使用すると、熱処理中に金属含有残渣が形成されない点において、他の多くのイオン液体に比べ有利である。本発明の方法により得られる化合物はまた、ハライド値が特に低い。
以下に本発明を実施例を用いて説明するが、これにより限定するものではない。
【実施例】
【0040】
例1:1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリド
メチルピロリジン(150g、1.76mol)を反応槽に置き、室温で塩化ブチル(163g、1.76mol)と混合する。次いで、得られる反応混合物を24時間還流し(反応温度:約77℃)、わずかに黄色がかった懸濁液が形成される。次いで反応混合物を室温まで冷却し、濾過する。残渣を少量のMTBEで洗浄し、続いて減圧下50℃において乾燥することにより、純粋な1−ブチル−1−メチル−ピロリジニウムクロリド(27g、0.09mol、転化率:8.6%)を得る。反応混合物の残存物質は、もっぱら未反応出発物質であるメチルピロリジンおよび塩化ブチルのみからなり、それらは完全に回収される。得られる1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリドの融点は199.5℃である。
【0041】
1H NMR (d6-DMSO): δ= 3.50 (m, 4H), 3.36 (m, 2H), 3.02 (s, 3H), 2.08 (s br, 4H), 1.68 (m, 2H), 1.33 (sext, J = 7.3 Hz, 2H), 0.94 ppm (t, J= 7.6 Hz, 3H);
13C NMR (d6-DMSO): δ = 64.0 (CH2), 63.4 (CH2), 48.1 (CH3), 25.6 (CH2), 21.8 (CH2), 20.0 (CH2), 14.2 ppm (CH3)。
【0042】
例2:1−ブチル−1−メチルピロリジニウムトリシアノメタニド
マロノニトリル(17.8g、264mmol)及び水(300ml)を反応槽に置き、塩化シアン(16.5g、0.268mmol)を0〜5℃において反応溶液に通し、その間、30%強度の水酸化ナトリウムを適宜添加することにより、反応溶液のpHを8.5に維持する。塩化シアンの導入の間、約1時間、溶液の反応温度を1−5℃に維持する。該反応混合物に、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリド(47.5g、0.267mmol)及び水(150ml)の混合物を加える。有機相を分離し、水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出する。混合有機相を水(4×75ml)で抽出する。有機相を活性炭(3g)と混合し、室温で30分間攪拌する。続いて有機相を濾過し、ロータリーエバポレーターを用い40〜60℃において蒸発させる(約500mbar〜約20mbar)。これにより、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムトリシアノメタニド(46.8g、201mmol、収率:76%)を得る。塩化物含有率は<0.1%である。粘度は20℃において33mPa・sである。
【0043】
1H NMR (d6-DMSO): δ= 3.44 (m, 4H), 3.28 (m, 2H), 2.98 (s, 3H), 2.08 (s br, 4H), 1.69 (m, 2H), 1.32 (sext, J= 7.3 Hz, 2H), 0.94 ppm (t, J= 7.6 Hz, 3H);
13C NMR (d6-DMSO): δ= 120.5 (Cq), 63.5 (CH2), 63.0 (CH2), 47.6 (CH3), 24.9 (CH2), 21.1 (CH2), 19.3 (CH2), 13.4 (CH3), 4.7 ppm (Cq)。
【0044】
例3:1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(43.1g、178mmol)の水(100ml)溶液を、例2に記載のように、マロノニトリル及び塩化シアンの混合物に加える。これにより、塩化物含有率<0.1%の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド(33.6g、147mmol、収率82%)を得る。粘度は20℃において30mPa・sである。
【0045】
1H NMR (d6-DMSO): δ= 9.05 (s, 1H), 7.67 (t, J= 1.8 Hz, 1H), 7.61 (t, J= 1.8 Hz, 1H), 4.07 (t, J= 7.2 Hz, 2H), 3.83 (s, 3H), 1.80 (t-sept, 1J= 12.4Hz, 2J= 1.8 Hz, 2H), 1.26 (t-sext, 1J= 7.5 Hz, 2J= 1.8 Hz, 2H), 0.89 ppm (t, J= 7.4 Hz, 3H);
13C NMR (d6-DMSO): δ= 136.5 (CH), 123.5 (CH), 122.2 (CH), 120.5 (Cq), 48.6 (CH2), 35.7 (CH3), 31.3 (CH2), 18.8 (CH2), 13.1 (CH3), 4.8 ppm (Cq)。
【0046】
例4:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(178.4g、1.22mol)の水(180ml)溶液を、例2に記載のように、マロノニトリル(84.6g、1.28mol)及び塩化シアン(79.9g、1.30mol)の混合物に加える。この方法において得られる反応混合物について、相分離を施すことなく、まず例2のように活性炭(3%)で処理し、続いてジクロロメタン(300ml)で抽出する。次いで、有機相を水(2×200ml)で洗浄する。ロータリーエバポレーターを用い40〜60℃において蒸発させることにより(約500mbar〜約20mbar)、塩化物含有率及びナトリウム含有率が各々10ppm未満である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド169.5g(収率69%)を得る。
【0047】
1H NMR (d6-DMSO): δ= 9.09 (s, 1H), 7.72 (t, J=1.7 Hz, 1H), 7.64 (t, J= 1.7 Hz, 1H), 4.21 (t, J=7.4 Hz, 2H), 3.86 (s, 3H), 1.45 ppm (t, J= 7.4 Hz, 3H);
13C NMR (d6-DMSO): δ= 136.4 (CH), 124.4 (CH), 122.8 (CH), 121.7 (Cq), 45.4 (CH2), 36.7 (CH3), 15.8 (CH3), 6.7 ppm (Cq)。
【0048】
例5:1−ブチル−3−メチルピリジニウムトリシアノメタニド
1−ブチル−3−メチルピリジニウムトリシアノメタニド(939.6g、5.06mol)の水(813ml)溶液を、例2に記載のように、マロノニトリル(351.0g、5.31mol)及び塩化シアン(333.1g、5.42mol)の混合物に加える。反応混合物が二相に分離し、水相を採ってジクロロメタン(1290ml)で抽出する。有機相を混合し、活性炭(3%)で処理した後、水(4×900ml)で洗浄する。
【0049】
ロータリーエバポレーターを用い40〜60℃において蒸発させ(約500mbar〜約20mbar)、これにより、塩化物含有率及びナトリウム含有率が各々10ppm未満である1−ブチル−3−メチルピリジニウムトリシアノメタニド1118g(収率92%)を得る。
【0050】
1H NMR (d6-DMSO): δ= 8.95 (s, 1H), 8.87 (d, J= 6.1 Hz, 1H), 8.40 (d, J=8.0 Hz, 1H), 8.01 (t, J= 7.1 Hz, 1H), 4.53 (t, J= 7.4 Hz, 2H), 2.49 (s, 3H), 1.90 (m, 2H), 1.29 (t-sext, J= 7.5 Hz, 2H), 0.90 ppm (t, J= 7.4 Hz, 3H);
13C NMR (d6-DMSO): δ= 145.5 (CH), 144.1 (CH), 141.8 (CH), 138.7 (C,q), 127.2 (CH), 120.4 (Cq), 60.4 (CH2), 32.4 (CH2), 18.7 (CH2), 17.7 (CH3), 13.10 (CH3), 4.6 ppm (Cq)。
【0051】
例6:1−オクチル−3−メチルピリジニウムトリシアノメタニド
1−オクチル−3−メチルピリジニウムクロリド(125.8g、520mmol)の水(300ml)溶液を、例2に記載のように、マロノニトリル(36.0g、534mmol)及び塩化シアン(31.4g、537mmol)の混合物に加える。反応混合物が二相に分離し、水相を採ってジクロロメタン(300ml)で抽出する。有機相を混合し、活性炭(3%)で処理した後、水(4×125ml)で洗浄する。ロータリーエバポレーターを用い40〜60℃において蒸発させ(約500mbar〜約20mbar)、これにより、塩化物含有率及びナトリウム含有率が各々100ppm未満である1−オクチル−3−メチルピリジニウムトリシアノメタニド137.8g(収率89%)を得る。
【0052】
1H NMR (d6-DMSO): δ= 8.96 (s, 1H), 8.88 (d, J= 6.3 Hz, 1H), 8.40 (d, J= 8.0 Hz, 1H), 8.01 (dd, 1J= 8.2 Hz, 2J= 6.2 Hz, 1H), 4.52 (t, J= 7.4 Hz, 2H), 2.49 (s, 3H), 1.90 (p, J= 7.1 Hz, 2H), 1.26 (m, 10H), 0.83 ppm (m, 3H);
13C NMR (d6-DMSO): δ=145.5 (CH), 144.0 (CH), 141.8 (CH), 138.7 (Cq), 127.2 (CH), 120.3 (Cq), 60.6 (CH2), 31.0 (CH2), 30.5 (CH2), 28.3 (CH2), 28.2 (CH2), 25.3 (CH2), 21.9 (CH2), 17.7 (CH3), 13.7 (CH3), 4.6 ppm (Cq)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式:
【化1】

(式中、Qは下式で表されるカチオンからなる基から選択される有機カチオンである:
a) (WR、式中、Wは窒素又はリン原子であり、
i) R乃至Rは、各々互いに独立に、C1−20アルキルであり、Rは、C1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、R乃至Rは、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得、又は
ii) R及びRはWと共に5乃至7員環を形成し、R及びRは、各々互いに独立に、C1−20アルキルであり、R及びRは、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得、又は
iii) R乃びR、および、R乃びRは、各々Wと共に5乃至7員環を形成する;
b) (NR、式中、Nは窒素原子であり、R及びRは、定型的にR及びRに対する一つの単結合及び一つの二重結合を有するNと共に環を形成し、RはC1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、Rは1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る;又は
c) (SR10、式中、Sは硫黄原子であり、
i) R乃びRは、各々互いに独立に、C1−20アルキルであり、R10は、C1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、R乃至R10は、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得、又は
ii) R乃びRはSと共に5乃至7員環を形成し、R10は、C1−20アルキル、C3−10シクロアルキル又はC6−10アリールであり、R10は1又は2以上のハロゲン原子を含有し得る;又は
d) (ZR1112、式中、Zは酸素又は硫黄原子であり、R11及びR12は、定型的にR11及びR12に対する一つの単結合及び一つの二重結合を有するZと共に環を形成する;
ここで、C1−20アルキル基、C1−20アルコキシ基、C3−10シクロアルキル基、C6−10アリール基、ハロゲンおよびシアノからなる群から選択される1又は2以上の置換基は、置換基R乃至R12により形成される各環に拘束され得、C1−20アルキル基、C1−20アルコキシ基、C3−10シクロアルキル基、C6−10アリール基は、各々互いに独立に、1又は2以上のハロゲン原子を含有し得、
置換基R乃至R12により形成される各環は、窒素、硫黄及び酸素からなる群から選択される1又は2以上のヘテロ原子を更に含んでもよく、また他の芳香族又は非芳香族5乃至7員環と縮合してもよい。)
で表わされるイオン液体の製造方法であって、マロノニトリルと式RCN(式中、Rは塩素、臭素、ヨウ素及びシアノからなる群から選択される。)で表わされるシアノ化合物を、塩基の存在下において、所望される場合には溶媒の存在下にて、混合すること、および、塩(Qn−(式中、n=1又は2であり、Qは上記に規定の通りであり、Xn−はハライド、擬ハライド、サルフェート、有機酸アニオンからなる群から選択されるアニオンである。)を添加し、マロノニトリル及びRCNからイン・シトゥーで形成されるトリシアノメタニドアニオンによりアニオンXn−を水相中で置換すること、を含む方法。
【請求項2】
マロノニトリル、シアノ化合物RCN、および塩(Qn−が塩基の存在下、所望される場合には更に溶媒の存在下において、水相中で混合され、トリシアノメタニドアニオンの形成およびトリシアノメタニドアニオンによる交換がワンポット反応において起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マロノニトリルとシアノ化合物RCNのモル比が、0.2:1〜2:1、特に好ましくは0.9:1〜1.1:1、更に好ましくは0.95:1〜1.05:1の範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩、アンモニア、第一、第二及び第三アミン、ピリジン及びイミダゾールからなる群から選択される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
反応中においてpHが4以上、好ましくは7以上、より好ましくは7〜9の範囲に維持される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アニオンXn−が、塩化物、臭化物及びシアン化物からなる群から選択される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−510753(P2008−510753A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528711(P2007−528711)
【出願日】平成17年8月20日(2005.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009026
【国際公開番号】WO2006/021390
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(398075600)ロンザ ア−ゲ− (58)
【Fターム(参考)】