説明

有機ケイ素化合物、縮合物、組成物、高分子電解質膜及び固体高分子形燃料電池

【課題】安定して製造でき、且つ十分なイオン交換能を有する縮合物、該縮合物の製造原料として好適な有機ケイ素化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される有機ケイ素化合物(Arは単環又は縮環構造の芳香族基であり;R1はスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、スルフィノ基、スルホニルイミド基、アルコキシスルホニル基、硫酸基、またはホスホノ基、アルコキシヒドロキシホスホキシ基、リン酸基、等の燐化合物であり;Rはヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり;Yは置換基を有していてもよいヒドロカルビル基であり;Zはハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基である。)。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、該有機ケイ素化合物を使用して得られる縮合物、該縮合物を含む組成物及び高分子電解質膜、並びに該高分子電解質膜を有する固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な機能性官能基を有する有機ケイ素化合物が知られており、例えば、機能性官能基としてアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基等を有するものは、材料表面を修飾するシランカップリング剤として利用され、さらに、有機ケイ素化合物を加水分解及び重縮合させて得られた縮合物は、フィラー材として利用されている。そして、イオン交換性基を有する有機ケイ素化合物を縮合して得られた縮合物は、イオン交換能を有し、電解質、固体酸触媒等として利用され(特許文献1及び2参照)、極めて重要なものである。
【0003】
一方、イオン交換性基を有する有機ケイ素化合物は、イオン交換性基が縮合反応の起点となり易いため、合成の過程で縮合してしまい、所望の構造のものを合成することが困難であり、これを縮合して得られる縮合物としても、目的のものが得られないという問題点があった。そこで、有機ケイ素化合物を縮合して所望の構造を有する縮合物とした後、この縮合物にあらためてイオン交換性基を導入することで、目的とするイオン交換能を有する縮合物を得る手法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−346316号公報
【特許文献2】米国特許第5475162号明細書
【特許文献3】特開2007−109415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献3に記載の方法で得られた縮合物は、イオン交換性基の導入率が低く、イオン交換能が不十分であるという問題点があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、安定して製造でき、且つ十分なイオン交換能を有する縮合物、該縮合物の製造原料として好適な有機ケイ素化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
本発明は、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される有機ケイ素化合物を提供する。
【0007】
【化1】

(式中、Arはそれぞれ独立に単環又は縮環構造の芳香族基であり、lは0以上の整数であり、Arが複数の場合、これら複数のArはそれぞれ同じでも異なってもよく;R1はそれぞれ独立にスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、スルフィノ基、スルホニルイミド基、アルコキシスルホニル基、硫酸基、ホスホノ基、アルコキシヒドロキシホスホキシ基、リン酸基、アルコキシヒドロキシホスホキシオキシ基、ホスフィノ基、アルコキシヒドロキシホスフィノ基又はトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基であり、aはそれぞれ独立に1以上の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、bはそれぞれ独立に0以上の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Yはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいヒドロカルビル基であり;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、mはそれぞれ独立に2以上の整数であり、nはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、Yが複数の場合、これら複数のYはそれぞれ同じでも異なってもよく、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよく、nが0より大きい場合、Y同士又はYとArが環を形成してもよい。)
【0008】
本発明の有機ケイ素化合物は、前記Arの炭素数が6〜24であることが好ましい。
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(2−1)又は(2−2)で表されることが好ましい。
【0009】
【化2】

(式中、cは0〜2の整数であり;Rはそれぞれ独立にスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、スルフィノ基、スルホニルイミド基、アルコキシスルホニル基、硫酸基、ホスホノ基、アルコキシヒドロキシホスホキシ基、リン酸基、アルコキシヒドロキシホスホキシオキシ基、ホスフィノ基、アルコキシヒドロキシホスフィノ基又はトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基であり、dはそれぞれ独立に1〜4の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、eはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよい。)
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物は、前記R1が、スルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、アルコキシスルホニル基、トリアルキルアンモニオオキシスルホニル基又はホスホノ基であることが好ましい。
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(3)で表されることが好ましい。
【0011】
【化3】

(式中、Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、fはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立に水素原子、金属原子、ヒドロカルビル基又はトリアルキルアンモニオ基であり、複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよい。)
【0012】
また、本発明は、一つ以上の前記Zがハロゲン原子又はアルコキシ基である上記本発明の有機ケイ素化合物を、塩基性水溶液中で加水分解縮合させて得られる縮合物を提供する。
また、本発明は、一つ以上の前記Zがハロゲン原子又はアルコキシ基である上記本発明の有機ケイ素化合物と、シラン化合物とを加水分解共縮合させて得られる縮合物であって、使用原料の総量に占める前記有機ケイ素化合物の量が、20質量%以上100質量%未満である縮合物を提供する。
また、本発明は、一つ以上の前記Zが水酸基である上記本発明の有機ケイ素化合物を縮合させて得られる縮合物を提供する。
また、本発明は、一つ以上の前記Zが水酸基である上記本発明の有機ケイ素化合物と、シラン化合物とを共縮合させて得られる縮合物であって、使用原料の総量に占める前記有機ケイ素化合物の量が、20質量%以上100質量%未満である縮合物を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記本発明の縮合物を含む組成物を提供する。
また、本発明は、上記本発明の縮合物を含む高分子電解質膜を提供する。
また、本発明は、陽極、陰極、触媒層、ガス拡散層、ガスケット、セパレータ、及び上記本発明の高分子電解質膜を有する固体高分子形燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、安定して製造でき、且つ十分なイオン交換能を有する縮合物、該縮合物の製造原料として好適な有機ケイ素化合物が提供される。
本発明の縮合物は、本発明の有機ケイ素化合物の縮合反応における反応温度、原料化合物(有機ケイ素化合物、シラン化合物)の濃度、塩基触媒や酸触媒の濃度等を調節することで、形状、粒子径を調節できる。また、本発明の縮合物は、高分子電解質に均一に混合して膜形成できる。また、本発明の縮合物は、保水材、固体酸触媒材料、塩基捕捉材料として利用できる。また、本発明の縮合物は、電解質としての性質を示すので、高分子電解質組成物、触媒組成物、膜電極接合体に含有させて使用でき、これを添加することにより、プロトン伝導膜のミクロ相分離構造を制御でき、プロトン伝導膜の保湿性を向上させるので、電気デバイス、特に高分子形燃料電池へ利用できる。また、本発明の縮合物は、イオン交換性基を有するため、プロトン伝導膜に添加することで、高プロトン伝導度を保持したまま、保水性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例2における、縮合物(S1)と原料であるSSBNaの熱分解測定結果を示す図である。
【図2】実施例2における、縮合物(S1)の29Si−NMRによる分析結果を示す図である。
【図3】実施例2における、縮合物(S1)のSEM像の撮像データである。
【図4】実施例2における、縮合物(S1)のTEM像の撮像データである。
【図5】実施例3における、縮合物(S2)のSEM像の撮像データである。
【図6】実施例4における、プロトン伝導膜(A)のTEM像の撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<有機ケイ素化合物>
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される。
【0017】
【化4】

(式中、Arはそれぞれ独立に単環又は縮環構造の芳香族基であり、lは0以上の整数であり、Arが複数の場合、これら複数のArはそれぞれ同じでも異なってもよく;R1はそれぞれ独立にスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、スルフィノ基、スルホニルイミド基、アルコキシスルホニル基、硫酸基、ホスホノ基、アルコキシヒドロキシホスホキシ基、リン酸基、アルコキシヒドロキシホスホキシオキシ基、ホスフィノ基、アルコキシヒドロキシホスフィノ基又はトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基であり、aはそれぞれ独立に1以上の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、bはそれぞれ独立に0以上の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Yはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいヒドロカルビル基であり;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、mはそれぞれ独立に2以上の整数であり、nはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、Yが複数の場合、これら複数のYはそれぞれ同じでも異なってもよく、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよく、nが0より大きい場合、Y同士又はYとArが環を形成してもよい。)
【0018】
一般式(1−2)中、lは0以上の整数であり、0〜8であることが好ましく、0〜2であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
【0019】
式中、R1はそれぞれ独立にスルホ基(−SOH)、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基(−SOM、Mは金属原子を表す)、スルフィノ基(−SO(OH))、スルホニルイミド基(−SO−NH−SO−)、アルコキシスルホニル基(−SO−OR10)、硫酸基(−OSO(OH))、ホスホノ基(−PO(OH))、アルコキシヒドロキシホスホキシ基(−PO(OR10)(OH))、リン酸基(−OPO(OH))、アルコキシヒドロキシホスホキシオキシ基(−OPO(OR10)(OH))、ホスフィノ基(−P(OH))、アルコキシヒドロキシホスフィノ基(−P(OR10)(OH))又はトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基(−SO−O−HNR10)である(式中、R10は、それぞれ独立にアルキル基である。)。
10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、炭素数が1〜15であることが好ましい。
前記金属原子(M)としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属が例示でき、アルカリ金属が好ましい。
1は、上記の中でもスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、アルコキシスルホニル基、トリアルキルアンモニオオキシスルホニル基又はホスホノ基であることが好ましい。
【0020】
式中、aはそれぞれ独立に1以上の整数であり、1〜10であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
そして、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよい。すなわち、すべてのRが同じでもよいし、一部のRが同じでも(異なっても)よく、すべてのRが異なってもよい。これは、後述する「R」、「Y」、「Z」についても同様である。なお、ここで、「Rが複数の場合」とは、例えば、有機ケイ素化合物が前記一般式(1−2)で表されるものであるか、又は前記一般式(1−1)で表され、且つaが2以上である場合を指す。
【0021】
式中、Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基である。そして、R1のイオン交換能を向上させるため、Rは、メチルカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基等の電子吸引性基であることが好ましく、メチルカルボニル基、ニトロ基、フッ素原子、シアノ基であることがより好ましい。
【0022】
式中、bはそれぞれ独立に0以上の整数であり、0〜9であることが好ましく、0〜4であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
そして、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよい。ここで、「Rが複数の場合」とは、例えば、前記一般式(1−1)において、bが2以上である場合や、前記一般式(1−2)において、符号「l」が付されていない二つのbが共に1以上である場合が例示できるが、これらに限定されない。
【0023】
式中、Arはそれぞれ独立に単環又は縮環構造の芳香族基である。該芳香族基は、芳香族炭化水素基及び芳香族へテロ環式基のいずれでもよいが、芳香族炭化水素基であることが好ましい。
前記芳香族へテロ環式基を構成するヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子であることが好ましい。
Arが縮環構造である場合、縮環している環の数は特に限定されないが、2〜6であることが好ましい。
【0024】
Arは、前記一般式(1−1)においては、(a+b+m)価以上の芳香族基であり、前記一般式(1−2)においては、相互に単結合で結合しており、符号「l」が付されたものは(a+b+m+2)価以上の芳香族基であり、符号「l」が付されていないものは(a+b+m+1)価以上の芳香族基である。
Arの炭素数は、6〜24であることが好ましい。
そして、Arが複数の場合、これら複数のArはそれぞれ同じでも異なってもよい。ここで、「Arが複数の場合」とは、有機ケイ素化合物が前記一般式(1−2)で表されるものである場合を指す。
【0025】
前記一般式(1−1)における好ましいArとしては、下記式(I)〜(X)で表される芳香族環から、水素原子を(a+b+m)個除いた単環又は縮環構造の芳香族基が例示できる。
また、前記一般式(1−2)における好ましいArとしては、下記式(I)〜(X)で表される芳香族環から、水素原子を(a+b+m+1)個又は(a+b+m+2)個除いた単環又は縮環構造の芳香族基が例示できる。
【0026】
【化5】

【0027】
前記式(I)〜(X)で表される芳香族環のなかでも、前記式(I)、(II)、(V)、(VI)で表される芳香族環が好ましく、前記式(I)、(V)で表される芳香族環がより好ましく、前記式(I)で表される芳香族環が特に好ましい。
【0028】
式中、Yはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいヒドロカルビル基であり、炭素数が1〜20であることが好ましい。
前記ヒドロカルビル基が置換基を有するとは、前記ヒドロカルビル基を構成する一つ以上の水素原子が置換基で置換されていることを指す。
前記置換基としては、炭素数が1〜10のアルキル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基が例示できる。
置換基としての前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環構造及び多環構造のいずれでもよい。
置換基としての前記アルコキシ基としては、炭素数が1〜10の前記アルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
置換基としての前記アルキルカルボニルオキシ基としては、炭素数が1〜10の前記アルキル基が、カルボニルオキシ基の炭素原子に結合した一価の基が例示できる。
置換基としての前記アルキルオキシカルボニル基としては、炭素数が1〜10の前記アルコキシ基の酸素原子が、カルボニルオキシ基の炭素原子に結合した一価の基が例示できる。
【0029】
好ましい前記ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、ベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オレイル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基、ターフェニル基、3,5−ジフェニルフェニル基、4−(1,2,2−トリフェニルビニル)フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基、2−アントリル基、9−フェナントリル基が例示できる。
これらの中でも、前記ヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ベンジル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。
【0030】
式中、Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基である。
Zにおける前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示でき、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
Zにおける前記アルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が酸素原子に結合した一価の基であり、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。そして、前記アルコキシ基は、炭素数が1〜12であることが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が例示でき、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、エトキシ基がより好ましい。
Zは、アルコキシ基、水酸基であることが好ましく、メトキシ基、エトキシ基であることがより好ましく、エトキシ基であることが特に好ましい。
また、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0031】
式中、mはそれぞれ独立に2以上の整数であり、2〜11であることが好ましく、2〜5であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。
【0032】
式中、nはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、0又は1であることが好ましく、0であることが特に好ましい。
【0033】
Yが複数の場合、これら複数のYはそれぞれ同じでも異なってもよい。ここで、「Yが複数の場合」とは、例えば、前記一般式(1−1)において、nが1以上であるか、又は前記一般式(1−2)において、符号「l」が付されていない一つ以上のnが1以上である場合を指す。
【0034】
また、nが0より大きい場合、Y同士又はYとArが環を形成してもよい。この時の環は、単環構造及び多環構造のいずれでもよい。ここで、「Y同士が環を形成する」とは、同じケイ素原子又は異なるケイ素原子に結合している二つ以上のYが相互に結合して、これらYが結合しているケイ素原子と共に環構造を形成することを指す。そして、二つ以上のYが異なるケイ素原子に結合している場合、これらケイ素原子は互いに隣り合っていてもよいし、隣り合っていなくてもよい。一方、「YとArが環を形成する」とは、一つ以上のYと一つ以上のArとが相互に結合して、前記Yが結合しているケイ素原子と共に環構造を形成することを指す。そして、二つ以上のArが環を形成する場合、これらArは互いに隣り合っていてもよいし、隣り合っていなくてもよい。
【0035】
前記一般式(1−1)又は(1−2)で表される有機ケイ素化合物は、下記一般式(2−1)又は(2−2)で表されるものが好ましい。
【0036】
【化6】

(式中、cは0〜2の整数であり;Rはそれぞれ独立にスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、スルフィノ基、スルホニルイミド基、アルコキシスルホニル基、硫酸基、ホスホノ基、アルコキシヒドロキシホスホキシ基、リン酸基、アルコキシヒドロキシホスホキシオキシ基、ホスフィノ基、アルコキシヒドロキシホスフィノ基又はトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基であり、dはそれぞれ独立に1〜4の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、eはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよい。)
【0037】
式中、R、R、Zは、一般式(1−1)又は(1−2)におけるR、R、Zと同じである。
【0038】
一般式(1−2)中、cは0〜2の整数であり、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0039】
式中、dはそれぞれ独立に1〜4の整数であり、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
式中、eはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
ただし、d+eは、一般式(2−1)においては5以下であり、一般式(2−2)の符号「c」が付されているものでは3以下、符号「c」が付されていないものでは4以下である。
【0040】
が複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよい。ここで、「Rが複数の場合」とは、例えば、有機ケイ素化合物が前記一般式(2−2)で表されるものであるか、又は前記一般式(2−1)で表され、且つdが2以上である場合を指す。
また、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよい。ここで、「Rが複数の場合」とは、例えば、前記一般式(2−1)において、eが2以上である場合や、前記一般式(2−2)において、符号「c」が付されていない二つのeが共に1以上である場合が例示できるが、これらに限定されない。
そして、複数のZ(一般式(2−1)における3個のZ、一般式(2−2)における「3c+6」個のZ)はそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0041】
一般式(2−2)において、前記Arに相当するベンゼン環同士の結合位置は、特に限定されないが、例えば、符号「c」が付されたベンゼン環の場合、ベンゼン環同士の間の単結合が、互いにパラ位の位置関係(1位と4位)にある炭素原子において形成されていることが好ましい。
【0042】
さらに、前記一般式(2−1)又は(2−2)で表される有機ケイ素化合物は、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
【0043】
【化7】

(式中、Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、fはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立に水素原子、金属原子、ヒドロカルビル基又はトリアルキルアンモニオ基であり、複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよい。)
【0044】
式中、R、Zは、一般式(1−1)又は(1−2)におけるR、Zと同じである。
式中、fはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、0〜2であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
【0045】
式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、金属原子、ヒドロカルビル基又はトリアルキルアンモニオ基である。
における前記金属原子は、Rの水素原子が金属原子で置換されたスルホ基における金属原子(M)と同じである。
における前記ヒドロカルビル基としては、Rのアルコキシスルホニル基(−SO−OR10)における「R10(アルキル基)」と同様のものが好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が例示できる。
における前記トリアルキルアンモニオ基としては、Rのトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基(−SO−O−HNR10)における「−HNR10」と同様のものが好ましく、トリメチルアンモニオ基、トリエチルアンモニオ基、トリブチルアンモニオ基等がより好ましい。
4は、イオン交換能が高い点で、水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子であることが好ましい。
また、複数(二つ)のRはそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0046】
式「−Si−(Z)」で表される基の、ベンゼン環の炭素原子への結合位置は特に限定されないが、ベンゼン環同士の間の単結合が形成されている炭素原子に対してパラ位(4位、4’位)であることが好ましい。
また、式「−SO−OR」で表される基の、ベンゼン環の炭素原子への結合位置は特に限定されないが、ベンゼン環同士の間の単結合が形成されている炭素原子に対してオルト位(2位、2’位)であることが好ましい。
【0047】
従来のイオン交換能が高い有機ケイ素化合物は、例えば、脂肪族炭化水素基にイオン交換性基が結合した構造であるため、化学的、熱的に必ずしも安定ではないが、本発明の有機ケイ素化合物は、芳香族基(Ar)にイオン交換性基が結合した構造であるため、化学的、熱的に十分安定なものである。そして、本発明の有機ケイ素化合物は、後述する縮合物の製造原料として好適であり、かかる縮合物も、化学的、熱的に十分安定なものである。
【0048】
前記一般式(1−1)で表される有機ケイ素化合物は、例えば、R、R、一般式「Si−(Y)(Z)3−n」で表される基を、それぞれ公知の方法で、Arに相当する芳香族化合物に導入することで製造できる。例えば、一般式「Si−(Y)(Z)3−n」で表される基は、Arに相当する芳香族化合物において、芳香族環を構成する炭素原子に結合したm個の水素原子をヨウ素原子等のハロゲン原子で置換したハロゲン化芳香族化合物と、一般式「H−Si−(Y)(Z)3−n」で表されるシラン化合物とを、触媒存在下で加熱することで導入できる。各基の導入後は、必要に応じて濃縮、抽出、pH調整、ろ過等の後処理を行い、結晶化、濃縮、カラムクロマトグラフィー等の手法で目的物を取り出せばよい。また、必要に応じてこれらの取り出し操作を繰り返すことで、目的物を精製してもよい。
前記一般式(1−2)で表される有機ケイ素化合物は、例えば、前記Arに相当する芳香族化合物に代わり、「Ar−(Ar)−Ar(式中、lは前記と同様である)」に相当する芳香族化合物に対して、上記と同様の操作を行うことで製造できる。
【0049】
<縮合物>
本発明の縮合物の一実施形態(以下、縮合物(I)と略記する)は、一つ以上の前記Zがハロゲン原子又はアルコキシ基である上記本発明の有機ケイ素化合物(以下、有機ケイ素化合物(I)と略記する)を、塩基性水溶液中で加水分解縮合させて得られるものである。
以下、前記縮合物(I)とその製造方法について説明する。
【0050】
有機ケイ素化合物(I)の加水分解縮合は、塩基性水溶液中で行うが、例えば、塩基触媒存在下、水溶液中で行う方法が例示できる。
【0051】
加水分解縮合で使用する反応溶媒は、水のみでもよいし、水とその他の溶媒との混合溶媒でもよく、反応系は均一系及び不均一系のいずれでもよい。
前記その他の溶媒は特に限定されないが、好ましいものとして、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;ヘキサン、トルエン等の炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類が例示できる。
前記その他の溶媒は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0052】
前記塩基触媒の好ましいものとしては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が例示でき、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。
【0053】
加水分解縮合時の反応温度は、特に限定されず、室温で反応させてもよいし、冷却しながら又は加熱しながら反応させてもよい。そして、反応温度を変化させることにより、縮合物(I)の形状、粒子径を調節できる。
冷却しながら反応させる場合、反応温度は、水溶液が凍結しない温度であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましい。加熱しながら反応させる場合、反応温度は、300℃未満であることが好ましく、200℃未満であることがより好ましく、150℃未満であることがさらに好ましく、120℃未満であることが特に好ましい。反応温度は、反応溶媒の種類、有機ケイ素化合物(I)の種類等を考慮し、有機ケイ素化合物(I)や生成した縮合物(I)が分解等により構造が損なわれない範囲内で最適化すればよい。ここで、「分解等により構造が損なわれない」とは、結合が切断されることを意味する。
【0054】
加水分解縮合は、必要に応じて減圧下又は加圧下で行ってもよい。
【0055】
加水分解縮合においては、有機ケイ素化合物(I)の濃度を調節することによっても、縮合物(I)の形状、粒子径を調節できる。
【0056】
また、加水分解縮合においては、塩基触媒の濃度を調節することによっても、縮合物(I)の形状、粒子径を調節できる。通常は、濃度を低くすると微粒子状の縮合物(I)が得られ、濃度を高くすると、粒径が大きい粒子状の縮合物(I)が得られる。
【0057】
また、本発明の縮合物の一実施形態(以下、縮合物(II)と略記する)は、有機ケイ素化合物(I)と、シラン化合物(以下、シラン化合物(I)と略記する)とを加水分解共縮合させて得られる縮合物であって、使用原料の総量に占める有機ケイ素化合物(I)の量が、20質量%以上100質量%未満であるものが好ましい。
【0058】
シラン化合物(I)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;テトラフェノキシシラン等のテトラアリーロキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルケニルトリアルコキシシラン類;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニル等のアリールトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン類;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアリールジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等のトリアルキルモノアルコキシシラン類;トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等のトリアリールモノアルコキシシラン類;γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルコキシシラン類;γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルアルキルジアルコキシシラン類;3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のシクロアルキルアルキルトリアルコキシシラン類;γ−グリシドキシプロピルトリメトシキシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトシキシラン等のグリコキシアルキルトリアルコキシシラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲノアルキルトリアルコキシシラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトアルキルトリアルコキシシラン類;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノアルキルトリアルコキシシラン類;パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン等のパーフルオルアルキルトリアルコキシシラン類;トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、ジメチルシランジオール、ジエチルシランジオール、ジフェニルシランジオール、フェニルシラントリオール等のシラノール類が例示できる。
【0059】
また、シラン化合物(I)として、先に例示したシラン化合物(I)の部分加水分解縮合物も使用できる。このような部分加水分解縮合物としては、テトラアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物、アルキルアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物等が例示できる。
【0060】
テトラアルコキシシラン類又はアルキルアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物としては、市販品を使用してもよい。テトラアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物としては、エチルシリケート40、メチルシリケート51(以上、コルコート社製)、エチルシリケート40、エチルシリケート45(以上、多摩化学工業社製)が例示できる。また、アルキルアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物としては、KC89、KR500、KR213(以上、信越化学工業社製)、DC3037、SR2402(以上、東レ・ダウコーニング社製)が例示できる。
【0061】
加水分解共縮合時には、一種以上の有機ケイ素化合物(I)と、一種以上のシラン化合物(I)とを使用すればよく、これら有機ケイ素化合物(I)とシラン化合物(I)の組み合わせ及び使用比率は、目的に応じて任意に設定できる。そして、イオン交換能が高い縮合物(II)を得るために、使用原料の総量(使用原料全体の仕込み量)に占める有機ケイ素化合物(I)の量(仕込み比)を、20質量%以上100質量%未満とすることが好ましく、50質量%以上100質量%未満とすることがより好ましく、70質量%以上100質量%未満とすることが特に好ましい。
【0062】
加水分解共縮合は、水存在下の条件で行うことが好ましく、例えば、反応溶媒として水のみを使用する方法、水とその他の溶媒との混合溶媒を使用する方法が例示でき、反応系は均一系及び不均一系のいずれでもよい。
【0063】
加水分解共縮合で使用する反応溶媒が、水とその他の溶媒との混合溶媒である場合、前記その他の溶媒は、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;ヘキサン、トルエン等の炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類が例示できる。
前記その他の反応溶媒は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0064】
加水分解共縮合は、塩基触媒又は酸触媒を使用しなくても進行するが、反応が速やかに進行する点から、塩基触媒又は酸触媒の存在下で行うことが好ましく、塩基触媒の存在下で行うことがより好ましい。ここで、塩基触媒は、有機ケイ素化合物(I)の加水分解縮合の場合と同様である。
【0065】
加水分解共縮合時の温度は、有機ケイ素化合物(I)の加水分解縮合の場合と同様の理由により、同様に設定すればよい。そして、反応温度を変化させることにより、縮合物(II)の形状、粒子径を調節できる。
【0066】
加水分解共縮合は、必要に応じて減圧下又は加圧下で行ってもよい。
【0067】
加水分解共縮合においては、有機ケイ素化合物(I)やシラン化合物(I)の濃度を調節することによっても、縮合物(II)の形状、粒子径を調節できる。
【0068】
また、加水分解縮合においては、塩基触媒や酸触媒の濃度を調節することによっても、縮合物(II)の形状、粒子径を調節できる。
【0069】
加水分解縮合及び加水分解共縮合の工程における一般的な手法は、例えば、以下の通りである。
まず、有機ケイ素化合物(I)を、反応溶媒(好ましくは水、又は水とその他の溶媒との混合溶媒)中に分散させる。この時、必要に応じて、塩基触媒又は酸触媒、添加剤を添加してもよい。加水分解共縮合の場合には、ここでさらにシラン化合物(I)を添加する。
次いで、得られた混合物を攪拌し、加水分解縮合又は加水分解共縮合の反応を行う。反応後、目的物を含む反応液に、アルコール等の溶媒を添加して洗浄し、この後、反応溶媒を乾燥除去することで、目的物である縮合物又は共縮合物を得る。反応溶媒の乾燥除去は減圧下で行ってもよい。
【0070】
前記添加剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、含フッ素界面活性剤等の界面活性剤;レベリング剤;増粘剤;金属アルコキシド類の加水分解物等の硬化助剤;各種カップリング剤等の接着助剤;染顔料、体質顔料等の着色剤;コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等のコロイダル微粒子;酸化チタン、酸化錫等の金属酸化物ゾル;紫外線吸収剤;酸化防止剤;防かび剤;過酸化物;ジアゾ化合物等の各種添加剤が例示できる。
【0071】
また、本発明の縮合物の一実施形態(以下、縮合物(III)と略記する)は、一つ以上の前記Zが水酸基である上記本発明の有機ケイ素化合物(以下、有機ケイ素化合物(II)と略記する)を縮合させて得られるものである。
【0072】
有機ケイ素化合物(II)は、縮合物(III)を得る際に、加水分解が不要である。したがって、反応は、無溶媒で行うこともできるし、反応溶媒を使用して行うこともできる。通常は、反応溶媒を使用して行うことが好ましく、反応系は均一系及び不均一系のいずれでもよい。
前記反応溶媒は、特に限定されず、有機ケイ素化合物(I)使用時と同様でよい。
【0073】
縮合時の温度は、有機ケイ素化合物(I)の加水分解縮合の場合と同様の理由により、同様に設定すればよい。そして、反応が速やかに進行する点から、加熱して反応を行うことが好ましい。
【0074】
縮合は、必要に応じて減圧下又は加圧下で行ってもよい。
【0075】
また、本発明の縮合物の一実施形態(以下、縮合物(IV)と略記する)は、有機ケイ素化合物(II)と、シラン化合物(以下、シラン化合物(II)と略記する)とを共縮合させて得られる縮合物であって、使用原料の総量に占める有機ケイ素化合物(II)の量が、20質量%以上100質量%未満であるものが好ましい。
【0076】
シラン化合物(II)としては、水酸基を有するシラノール類が好ましく、シラン化合物(I)としての前記シラノール類が例示できる。
【0077】
共縮合時には、一種以上の有機ケイ素化合物(II)と、一種以上のシラン化合物(II)とを使用すればよく、これら有機ケイ素化合物(II)とシラン化合物(II)の組み合わせ及び使用比率は、目的に応じて任意に設定できる。そして、イオン交換能が高い縮合物(IV)を得るために、使用原料の総量(使用原料全体の仕込み量)に占める有機ケイ素化合物(II)の量(仕込み比)を、20質量%以上100質量%未満とすることが好ましく、50質量%以上100質量%未満とすることがより好ましく、70質量%以上100質量%未満とすることが特に好ましい。
【0078】
有機ケイ素化合物(II)は、縮合物(IV)を得る際に、加水分解が不要である。したがって、反応は、無溶媒で行うこともできるし、反応溶媒を使用して行うこともできる。通常は、反応溶媒を使用して行うことが好ましく、反応系は均一系及び不均一系のいずれでもよい。
前記反応溶媒は、特に限定されず、有機ケイ素化合物(I)使用時と同様でよい。
【0079】
縮合時の温度は、有機ケイ素化合物(I)の加水分解縮合の場合と同様の理由により、同様に設定すればよい。そして、反応が速やかに進行する点から、加熱して反応を行うことが好ましい。
【0080】
縮合は、必要に応じて減圧下又は加圧下で行ってもよい。
【0081】
縮合及び共縮合の工程における一般的な手法は、例えば、以下の通りである。
まず、有機ケイ素化合物(II)を無溶媒又は溶媒存在下で、必要に応じて、塩基触媒又は酸触媒、添加剤と共に攪拌する。共縮合の場合には、この時さらにシラン化合物(II)を添加して攪拌する。このようにすることで、縮合又は共縮合の反応を行う。反応後、目的物を含む反応液に、アルコール等の溶媒を添加して洗浄し、この後、反応溶媒を乾燥除去することで、目的物である縮合物又は共縮合物を得る。反応溶媒の乾燥除去は減圧下で行ってもよい。
【0082】
前記塩基触媒、酸触媒、添加剤は、加水分解縮合及び加水分解共縮合の工程におけるものと同様である。
【0083】
本発明の縮合物は、上記のように安定して製造でき、しかも十分なイオン交換能を有する。したがって、後述する種々の用途へ適用するのに好適である。
【0084】
<組成物>
本発明の組成物は、上記本発明の縮合物を含むものである。
本発明の組成物に含まれる前記縮合物以外のその他の成分は、目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましいものとして、アルミナ、カーボンブラック、高分子化合物等が例示できる。これらの中でもその他の成分としては、幅広い用途へ適用できることから、高分子化合物が好ましい。また、前記縮合物の調製に使用した前記有機ケイ素化合物が組成物に含まれていてもよい。
【0085】
前記高分子化合物の好ましいものとしては、ナフィオン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾール、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリピリジン及びその単独重合体にスルホン酸基が導入されたものが例示でき、これらの中でも、イオン交換性基を有するものが好ましく、スルホ基を有するものがより好ましい。
【0086】
前記組成物における前記高分子化合物の含有量は、前記縮合物及び前記有機ケイ素化合物の総量100質量部に対して、50〜3000質量部であることが好ましく、100〜2000質量部であることがより好ましい。
【0087】
前記組成物において、前記縮合物、前記その他の成分(前記有機ケイ素化合物とこれ以外のその他の成分)は、それぞれ一種だけでもよいし、二種以上でもよい。
【0088】
前記組成物は、前記縮合物とその他の成分とを配合することで製造できる。この時、すべての成分を添加してから混合することで配合してもよいし、すべて又は一部の成分を順次添加しながら混合することで配合してもよい。混合時の時間及び温度は、目的に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。混合方法としては、攪拌子や攪拌翼を回転させる方法、分散機を使用する方法、超音波を伝搬させる方法等、常法を適用すればよい。
【0089】
本発明の有機ケイ素化合物、縮合物及び組成物は、いずれも成形材料として使用でき、常法により加工して、各種成形品とすることができる。
【0090】
上記のようなイオン交換性基を有する成分を含む前記組成物は、イオン交換能を有する固体を形成でき、多岐の用途に利用できる。なかでも、特に固体高分子形燃料電池用材料への応用に好適である。以下、このような固体高分子形燃料電池用材料について説明する。
【0091】
<高分子電解質膜、固体高分子形燃料電池>
本発明の高分子電解質膜は、上記本発明の縮合物を含むものである。
また、本発明の固体高分子形燃料電池は、陽極、陰極、触媒層、ガス拡散層、ガスケット、セパレータ、及び上記本発明の高分子電解質膜を有する。
本発明の縮合物は、いずれも燃料電池用の部材やこれを構成する材料として好適であり、燃料電池等の電気化学デバイスの高分子電解質への添加剤としても好適である。例えば、本発明の固体高分子形燃料電池においては、陽極、陰極、触媒層、ガス拡散層、ガスケット、セパレータは、従来もので構成できる。
【0092】
本発明の縮合物は、既存のプロトン伝導膜へ添加することで、高分子電解質膜として使用でき、この時の膜への添加方法は特に限定されない。例えば、前記縮合物とプロトン伝導膜の前駆体とを適当な溶媒中で混合し、得られた溶液を支持基材上に流延塗布して、溶媒を除去することにより、プロトン伝導膜を成膜できる。
【0093】
前記支持基材としては、ガラス板や、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)等のプラスチックからなるフィルムが例示できる。
【0094】
成膜に使用する溶媒は、成膜後に除去できるものであれば特に限定されず、好ましいものとしては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが例示できる。
前記溶媒は一種のみを使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0095】
高分子電解質膜の厚みは、10〜300μmであることが好ましい。下限値以上とすることで、膜強度がより向上し、上限値以下とすることで膜抵抗がより小さくなり、電気化学デバイスの特性がより向上する。膜の厚みは、前記縮合物とプロトン伝導膜の前駆体とを含む溶液の濃度、及び支持基材上への前記溶液の塗布厚により制御できる。
【0096】
添加する前記縮合物の粒子径は、目的とする膜の厚みより小さく、300μm以下であることが好ましく、膜中での分散性の観点からナノメートルサイズ(1μm未満)であることがより好ましい。
【0097】
前記縮合物を添加した高分子電解質膜の強度、柔軟性、耐久性のさらなる向上のために、前記縮合物を含む高分子電解質をさらに多孔質基材に含浸させ、複合化してもよい。複合化方法は公知の方法でよい。
【0098】
前記多孔質基材は、前記目的を満たすものであれば、形状や材質によらず使用でき、好ましいものとしては、多孔質膜、織布、不織布、フィブリル等が例示できる。
【0099】
また、本発明の縮合物は、以下に示す部材や材料として有用である。なお、これら部材や材料は、本発明の縮合物を使用すること以外は、従来のものと同様の方法で製造できる。
本発明の縮合物は、親水性が高いSi−O−Si結合及びイオン交換性基を有することから、保水材として利用できる。
本発明の縮合物は、イオン交換性基をプロトン型に変換すれば酸性となるので、固体酸触媒材料として利用できる。
本発明の縮合物は、塩基捕捉材料として利用できる。
本発明の縮合物は電解質としての性質を示すので、高分子電解質組成物、触媒組成物、膜電極接合体に含有させて使用できる。
本発明の縮合物は、これを添加することにより、プロトン伝導膜のミクロ相分離構造を制御でき、プロトン伝導膜の保湿性を向上させるので、電気デバイス、特に高分子形燃料電池へ利用できる。
本発明の縮合物は、イオン交換性基を有するため、プロトン伝導膜に添加することで、高プロトン伝導度を保持したまま、保水性を向上させることができる。
【実施例】
【0100】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0101】
[合成例1]
<4,4’−ジヨードビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム(SIBNa)の合成>
窒素気流下のフラスコに、2,2’−ベンジジンジスルホン酸水溶液(70質量%水溶液、100g、2,2’−ベンジジンジスルホン酸として0.087mol、東京化成工業社製)、蒸留水(140g)を加えて攪拌し、この溶液に30分間窒素ガスを通した。このフラスコを氷浴で冷却し、ここに亜硝酸ナトリウム水溶液(36質量%、89.6g)を1時間かけて滴下した。氷浴中で0.5時間攪拌後、このフラスコに濃硫酸(159.5g、1.626mol)を1時間かけて滴下した後、更に氷浴中で0.5時間攪拌した。別途窒素置換したフラスコでヨウ化ナトリウム(152.3g、1.016mol)及び蒸留水(400.9g)を混合したものを氷浴で冷却しておき、ここに上記の2,2’−ベンジジンジスルホン酸の反応混合物を2時間かけて滴下した。滴下後、このフラスコを室温下で1時間攪拌した。このフラスコを氷浴で冷却し、水酸化ナトリウム水溶液(50質量%)を1時間かけて滴下し、反応混合物のpHが0.1〜0.9の範囲内になるように調整した。ここにトルエン(100g)、2−プロパノール(400g)を加えて攪拌し、分液抽出して油層を一旦分取した。残った水層にトルエン(100g)、2−プロパノール(400g)を加え、再抽出を行い、油層を分取し、前記油層と合一させた。この油層に炭酸ナトリウムを加え、pHが10になるように調整した後、濾過し、沈殿を少量の2−プロパノールで洗浄した。得られたろ液に濃塩酸を加え、pHが7.5になるように調整した後、溶媒を減圧除去し、真空乾燥することで固形物を得た。これを蒸留水/2−プロパノールで2回再結晶し、減圧乾燥することでSIBNa含有物を得た(141g)。得られたSIBNa含有物には塩化ナトリウム等の不純物も含まれていたが、そのまま次の反応に使用した。
【0102】
得られたSIBNa含有物のH−NMRによる分析結果を以下に示す。
H−NMR(400MHz、DMSO−d):δ 7.04(d、J=8.08Hz、2H)、7.55(m、2H)、8.14(d、J=1.84Hz、2H)
【0103】
[実施例1]
<有機ケイ素化合物(4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム(SSBNa))の製造>
500mLフラスコに前記SIBNa含有物(6.10g、0.001mol)を量りとり、アルゴン置換した。ここに乾燥ジメチルホルムアミド(60mL)、乾燥トルエン(60mL)を量りとり、減圧留去によりトルエンを除去し、共沸して脱水させた。このフラスコに、ロジウム(アセチルアセトナト)(2,5−シクロオクタジエン)(186mg、0.60mmol)、トリエチルアミン(6.07g、60mmol)、トリエトキシシラン(9.86g、60mmol)を加え溶解させた。この混合物を100℃で3時間加熱した。この後、反応溶媒を減圧除去した。得られた残渣を乾燥クロロホルムで抽出し、減圧留去により褐色固形物を得た。300mLフラスコに、得られた褐色固形物、炭酸ナトリウム(5.0g)、乾燥DMSO(20mL)を加え5分間攪拌した後、ジエチルエーテル100mLを加え、炭酸ナトリウムをろ別した。ろ液を減圧留去にかけ、得られた残渣をジエチルエーテル洗浄することで、有機ケイ素化合物である褐色固体のSSBNa(2.2g)を得た。
【0104】
得られたSSBNaのH−NMRによる分析結果を以下に示す。
H−NMR(300MHz、DMSO−d):δ 1.22(t、J=7.19Hz、18H)、3.84(q、J=6.90Hz、12H)、7.25(d、J=9.90Hz、2H)、7.38(d、J=7.50Hz、2H)、8.13(s、2H)
【0105】
[実施例2]
<縮合物(S1)の製造>
実施例1で合成したSSBNaを用い、加水分解反応、及び縮合反応(加水分解縮合)を行うことにより、縮合物(S1)を得た。より具体的には、以下の通りである。
反応容器に蒸留水1.63mLと前記SSBNa約0.1gを加え、攪拌した。SSBNaが溶解後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を0.06mL加え、室温で24時間、攪拌速度200rpmで攪拌した。それぞれのモル比はSi:HO:NaOH=1:600:0.4とした。24時間後、上記の溶液にエタノールを30mL加え、超音波を照射し、その後、遠心分離することにより、黄白色の沈殿物が得られた。この操作を4回繰り返し、真空乾燥機で乾燥することにより、縮合物(S1)を得た。
【0106】
得られた縮合物(S1)について、熱分解測定、29Si−NMRによる分析、SEM像の撮像、TEM像の撮像を行い、解析した。
縮合物(S1)と原料であるSSBNaの熱分解測定結果を図1に、縮合物(S1)の29Si−NMRによる分析結果を図2に、縮合物(S1)のSEM像の撮像データを図3に、縮合物(S1)のTEM像の撮像データを図4にそれぞれ示す。なお、それぞれの解析で使用した装置及び条件は、以下の通りである。
【0107】
<熱分解測定>
(装置)
EXSTAR6000 TG/DTA6200(SII社製)
(条件)
昇温速度:5℃/分
測定温度:40〜1000℃
試料容器:アルミナパン
熱処理雰囲気:窒素ガスフロー(200mL/分)
29Si−NMRによる分析>
(装置)
分光器:AVANCE300(Bruker社製)
プローブ:4mm径 CP/MASプローブ(Bruker社製)
(条件)
観測核:29Si(59.6MHz)
MAS速度:10kHz
基準物質:ヘキサメチルシクロトリシロキサン(−9.66ppm)
積算回数:8192回(CPMAS法)、4096回(DDMAS法)
繰り返し時間:10秒(CPMAS法)、180秒(DDMAS法)
設定温度:23℃
なお、29Si−NMRによる解析は、「K.J.Shea,D.A.Loy,and O.Webster,J.Am.Chem.Soc,1992,114,6700」を参考にして行った。
<SEM像の撮像>
(装置)
JSM−500(日本電子社製)
E101 ION SPUTTER(HITACHI社製)
<TEM像の撮像>
(装置)
JEM−2200FS(日本電子社製)
(条件)
加速電圧:200kV
【0108】
図1〜4より、加水分解縮合が進行して、ケイ素原子が分子中に組み込まれた所望の構造を有する縮合物(S1)が安定して得られたこと、得られた縮合物(S1)の粒子径が約100nmであることが確認できた。
【0109】
[実施例3]
<縮合物(S2)の製造>
実施例1で合成したSSBNaを用い、加水分解反応、及び縮合反応(加水分解縮合)を行うことにより、縮合物(S2)を得た。より具体的には、以下の通りである。
反応容器に蒸留水1.63mLと前記SSBNa約0.1gを加え、攪拌した。SSBNaが溶解後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を0.38mL加え、室温で24時間、攪拌速度200rpmで攪拌した。24時間後、上記の溶液にエタノールを30mL加え、超音波を照射し、その後、遠心分離することにより、黄白色の沈殿物が得られた。この操作を4回繰り返し、真空乾燥機で乾燥することにより、縮合物(S2)を得た。
【0110】
実施例2の場合と同様に、縮合物(S2)のSEM像を撮像した。この時の撮像データを図5に示す。
図5から明らかなように、縮合物(S2)の粒子径は200nm以上であり、実施例2の場合よりも、水酸化ナトリウムの添加量を増やしたことで、縮合物の粒子径が大きくなっていた。このように、水酸化ナトリウムの使用量を調節することで、所望の構造を有する縮合物が安定して得られるだけでなく、縮合物の粒子径を制御できることが確認できた。
【0111】
[実施例4]
<プロトン伝導膜(A)の製造>
高分子電解質(E1)が95質量%、縮合物(S1)が5質量%となるように混合して、プロトン伝導膜(A)を製造した。ここで、「高分子電解質(E1)」とは、特開2009−275219号公報の実施例3に記載の方法により得られたものである。具体的には、以下の通りである。
高分子電解質(E1)を0.690g秤量した。また、DMSOを6.50g秤量し、縮合物に加えて超音波を10分間照射し、縮合物を分散させた。この混合液に高分子電解質(E1)を加えて、550rpmで一日以上攪拌した。
よく攪拌した前記混合液を、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム(東洋紡績社製、E5000グレード)上に流延塗布した。80℃で4時間乾燥後、得られた膜を2mol/Lの塩酸溶液中に2時間浸漬し、塩酸溶液を交換して更に2時間浸漬した。その後、イオン交換水を流しながら一夜流洗した。そして、水分を十分拭き取り、80℃で乾燥させ、PETフィルムから作製した膜を剥がし取り、縮合物を添加したプロトン伝導膜(A)を得た。得られたプロトン伝導膜(A)は透明であった。
【0112】
[比較例1]
<プロトン伝導膜(B)の製造>
高分子電解質(E1)のみを使用したこと以外は実施例4と同様に、プロトン伝導膜を製造し、プロトン伝導膜(B)とした。
【0113】
プロトン伝導膜(A)及び(B)について、イオン交換容量の測定、内部構造の観察、保湿性の評価を行い、解析した。それぞれの解析の方法、使用した装置及び条件は、以下の通りである。
【0114】
<イオン交換容量の測定>
プロトン伝導膜の乾燥質量を、加熱温度が105℃に設定されたハロゲン水分率計を用いて測定した。次いで、この乾燥させたプロトン伝導膜を、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、更に150mLのイオン交換水を加え、1時間放置した。その後、プロトン伝導膜が浸漬された溶液に、0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定を行い、中和点を求めた。そして、プロトン伝導膜の乾燥質量と中和に要した塩酸の量から、プロトン伝導膜のイオン交換容量(単位:mmol/g)を算出した。
【0115】
その結果、表1に示すように、プロトン伝導膜(A)のイオン交換容量は2.8mmol/gであり、プロトン伝導膜(B)のイオン交換容量は2.7mmol/gであった。
縮合物のイオン交換容量の理論値は4.8mmol/gであり、プロトン伝導膜(A)のイオン交換容量の理論値は2.8mmol/gである。そして、プロトン伝導膜(A)のイオン交換容量が2.8mmol/gであったことから、縮合物は前記一般式(1)の単位構造を100モル%含んでいることが確認できた。
【0116】
<TEM像の撮像>
下記装置及び条件により、プロトン伝導膜(A)のTEM像を撮像した。この時の撮像データを図6に示す。
縮合物が存在しない部位では、プロトン伝導膜の親水性領域と疎水性領域に相分離していた。一方、スルホ基を有する縮合物が存在している近傍では、親水性領域と疎水性領域がいずれも細長く連続するようになり、それにより、より筋状に長い相分離構造を形成していることが確認できた。
このように、本発明の縮合物を添加することにより、親水性領域と疎水性領域が、いずれもより筋状に長く成長した相分離構造を形成していることから、親水性領域をより連続的に配列できることが確認できた。
(装置)
H−9000(HITACHI社製)
(条件)
加速電圧:300kV
【0117】
このような、より筋状に長く成長した相分離構造により、イオン交換性基がより連続して存在し、プロトン伝導がより効率的に進行し、水分子を細長い親水性領域に閉じ込め易く、保湿性が向上することから、湿度が低い状態でもプロトン伝導が効率的に進行すると推測される。ただし、このような推測により、本発明は何ら限定されるものではない。
【0118】
<保湿性の評価>
保湿性の向上を確認する目的で、23℃の大気中にて放置したプロトン伝導膜を用いて、下記装置及び条件により、熱分解測定を行った。
プロトン伝導膜(A)とプロトン伝導膜(B)の200℃までのTG曲線より、縮合物を添加したプロトン伝導膜(A)は、プロトン伝導膜(B)に比べて100℃付近に急激な質量減少が見られ、表1に示すように、200℃までに約16質量%減少した。一方、プロトン伝導膜(B)は、200℃までに約8質量%減少した。よって、縮合物を添加することにより、プロトン伝導膜の吸湿挙動は、同程度のイオン交換容量でも大きく異なり、縮合物を含んだプロトン伝導膜(A)の方が、保湿性が良いことを確認できた。
(装置)
EXSTAR6000 TG/DTA6200(SII社製)
(条件)
昇温速度:5℃/分
測定温度:40〜1000℃
試料容器:アルミナパン
熱処理雰囲気:窒素ガスフロー(200mL/分)
試料の状態:試料は室温で大気中に放置
【0119】
【表1】

【0120】
以上のように、実施例1〜3から、二つ以上のケイ素原子と一つ以上のイオン交換性基が結合した芳香族基を有する本発明の有機ケイ素化合物から縮合物を製造する時に、塩基性触媒の添加量を調節することで、縮合物の粒子径を制御できることが確認できた。
また、実施例4から、高分子電解質と縮合物を均一に混合して膜形成できることが確認できた。また、縮合物を添加したプロトン伝道膜は、電解質としての性質を示し、縮合物の添加により、TEM像からはプロトン伝導膜のミクロ相分離構造を制御できること、保湿性の評価結果からはプロトン伝導膜の保湿性が高くなることが、それぞれ確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、高分子電解質膜、保水材、固体酸触媒材料、塩基捕捉材料、高分子電解質組成物、触媒組成物、膜電極接合体、高分子形燃料電池の分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される有機ケイ素化合物。
【化1】

(式中、Arはそれぞれ独立に単環又は縮環構造の芳香族基であり、lは0以上の整数であり、Arが複数の場合、これら複数のArはそれぞれ同じでも異なってもよく;R1はそれぞれ独立にスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、スルフィノ基、スルホニルイミド基、アルコキシスルホニル基、硫酸基、ホスホノ基、アルコキシヒドロキシホスホキシ基、リン酸基、アルコキシヒドロキシホスホキシオキシ基、ホスフィノ基、アルコキシヒドロキシホスフィノ基又はトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基であり、aはそれぞれ独立に1以上の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、bはそれぞれ独立に0以上の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Yはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいヒドロカルビル基であり;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、mはそれぞれ独立に2以上の整数であり、nはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、Yが複数の場合、これら複数のYはそれぞれ同じでも異なってもよく、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよく、nが0より大きい場合、Y同士又はYとArが環を形成してもよい。)
【請求項2】
前記Arの炭素数が6〜24である請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(2−1)又は(2−2)で表される請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【化2】

(式中、cは0〜2の整数であり;Rはそれぞれ独立にスルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、スルフィノ基、スルホニルイミド基、アルコキシスルホニル基、硫酸基、ホスホノ基、アルコキシヒドロキシホスホキシ基、リン酸基、アルコキシヒドロキシホスホキシオキシ基、ホスフィノ基、アルコキシヒドロキシホスフィノ基又はトリアルキルアンモニオオキシスルホニル基であり、dはそれぞれ独立に1〜4の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、eはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよい。)
【請求項4】
前記R1が、スルホ基、水素原子が金属原子で置換されたスルホ基、アルコキシスルホニル基、トリアルキルアンモニオオキシスルホニル基又はホスホノ基である請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項5】
下記一般式(3)で表される請求項3又は4に記載の有機ケイ素化合物。
【化3】

(式中、Rはそれぞれ独立にヒドロカルビル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、fはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、Rが複数の場合、これら複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Rはそれぞれ独立に水素原子、金属原子、ヒドロカルビル基又はトリアルキルアンモニオ基であり、複数のRはそれぞれ同じでも異なってもよく;Zはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基であり、複数のZはそれぞれ同じでも異なってもよい。)
【請求項6】
一つ以上の前記Zがハロゲン原子又はアルコキシ基である請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機ケイ素化合物を、塩基性水溶液中で加水分解縮合させて得られる縮合物。
【請求項7】
一つ以上の前記Zがハロゲン原子又はアルコキシ基である請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機ケイ素化合物と、シラン化合物とを加水分解共縮合させて得られる縮合物であって、
使用原料の総量に占める前記有機ケイ素化合物の量が、20質量%以上100質量%未満である縮合物。
【請求項8】
一つ以上の前記Zが水酸基である請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機ケイ素化合物を縮合させて得られる縮合物。
【請求項9】
一つ以上の前記Zが水酸基である請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機ケイ素化合物と、シラン化合物とを共縮合させて得られる縮合物であって、
使用原料の総量に占める前記有機ケイ素化合物の量が、20質量%以上100質量%未満である縮合物。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の縮合物を含む組成物。
【請求項11】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の縮合物を含む高分子電解質膜。
【請求項12】
陽極、陰極、触媒層、ガス拡散層、ガスケット、セパレータ、及び請求項11に記載の高分子電解質膜を有する固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−36254(P2012−36254A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175531(P2010−175531)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】