説明

有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法及び無害化処理装置

【課題】有機ハロゲン化合物を内蔵する変圧器等の機器の容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を、特別な無害化処理装置を使用することなく、また有害なダイオキシン類を副生することもなく、簡便かつ短期間で、機器解体前に無害化処理することができる、有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法及び無害化処理装置を提供する。
【解決手段】容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理において、前記容器に水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該混合液を触媒槽の中に配置された触媒充填装置を流通させ、触媒槽下部の液溜りに貯留させた後、容器に戻す循環を行うことで有機ハロゲン化合物を分解する際に、該触媒充填装置流通時に照射されたマイクロ波によって加熱された液を、前記液溜りにて冷却することを特徴とする方法、及び、それに用いる装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法及び無害化処理装置に関し、詳細には、有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油が充填又は保存された電気機器(変圧器、油絶縁ケーブルの油槽等)から、有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を抜き出した後、機器中に残留する有機ハロゲン化合物を、これらの機器を解体することなく無害化する、無害化処理方法及び無害化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種有機ハロゲン化合物のなかでも、ポリ塩化ビフェニール(以下PCBと略称する。)は人体を含む生体に極めて有害であることから、1973年に特定化学物質に指定され、その製造、輸入、使用が禁止されている。しかし、その後適切な廃棄方法が決まらないまま数万トンのPCBが未処理の状態で放置されている。PCBは、高温分解では強毒性のダイオキシン類である塩素化ジベンゾ−p−ダイオキシン(PCDD)とジベンゾフラン(PCDF)が副生するため、PCBを安全に分解することは技術的に難しく、永年にわたりPCBの安全で効率的な各種分解法が検討されてきた。
【0003】
変圧器、油絶縁ケーブルの油槽、コンデンサなどの電気機器の場合、有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を完全に抜き出すことは困難であり、抜き出し処理後も機器内には絶縁油が残ってしまうため、有機ハロゲン化合物が残留する。しかしながら、大型機器の場合には、無害化処理の実施施設まで移動させること自体が困難であり、また、複雑な内部構造を有する機器の場合には、絶縁紙や木片などの部材に有機ハロゲン化合物が染み込んでおり、機器を解体してから、これらの部材中の有機ハロゲン化合物を抽出除去するのでは、作業時の安全性や環境への流出防止などを十分に確保することが困難である。したがって、機器を移動したり解体したりすることなく現場で処理することが可能な、作業の安全性に優れ、経済的かつ簡便に機器を無害化する技術が求められていた。
【0004】
特許文献1には、機器内に充填されていたPCBを含有する絶縁油を抜き出した後、再生絶縁油で粗洗浄する工程と、仕上げ洗浄液で洗浄する工程と、洗浄液を金属ナトリウムで脱塩素化する工程を有する無害化方法が提案されている。しかし、この方法では、機器から抜き出した絶縁油、粗洗浄で使用した再生絶縁油ならびに仕上げ洗浄液の大量の廃液を処理する工程が必要になるという問題点がある。
【0005】
特許文献2には、有機ハロゲン化合物を含有する静止誘導機を水及び酸化剤と共に圧力容器中に設置し、加圧及び加熱により圧力容器中の水を超臨界状態にして、有機ハロゲン化合物を分解する無害化方法が提案されている。しかし、この方法は高温(430℃)及び高圧(25MPa)で反応させるため、装置が大掛かりになり設置場所が制限されると共に、経済性に劣る問題点がある。
【0006】
特許文献3には、PCBを含有する絶縁油を抜き出した後の機器内に、KOHを溶解させたイソプロピルアルコール溶液を充填し、該溶液にPCBを溶出させた混合液を、マイクロ波を照射しながら触媒を加熱する構造の触媒充填装置に流通させ、機器と触媒充填装置間を循環させることにより、機器及びその内部の付属部材に残留するPCBが卒業基準を満たすまで溶出分解する、PCB残留機器の無害化処理方法が記載されている。即ち、容器を解体することなく、機器から抜き取れなかった絶縁油中のPCBと、機器内部の部材中に残留するPCBを、容器を解体することなく一括して無害化処理している。
【0007】
しかしながら、特許文献3記載の方法では、触媒の活性を高めるためにマイクロ波を照射しているが、マイクロ波の照射量を増大させると液の温度が高くなりすぎて、ダイオキシン類等が副生し易くなるため、マイクロ波照射量を制限せざるを得ないという問題がある。
【0008】
そこで、容器と触媒充填装置を接続する配管の途中に冷却装置を設置することも検討された。しかし、気温が高い夏場などにおいては、冷却効果が不十分となる場合があり、触媒充填装置から容器に戻る液の温度が下がり切らないため、マイクロ波を照射する触媒充填装置入口の液温が高くなるため、ダイオキシン類の副生を抑制するために、やはりマイクロ波照射量を減らさざるをえなかった。
【0009】
上記以外にも、マイクロ波エネルギーを利用した有機ハロゲン化合物の処理方法が知られている(例えば、特許文献4〜6参照)。特許文献4では、ガス状のフロンにマイクロ波を照射して熱プラズマを生成し、熱プラズマ中でフロンを水蒸気と反応させて分解している。特許文献5では、ダイオキシン類が付着した筐体内部に水分とアルカリ物質を添加し、マイクロ波を照射して処理している。しかし、これらの方法は、気相状態で有機ハロゲン化合物を処理するものであり、液処理法ではないため、マイクロ波照射の際の液温調節が問題となることは無いが、耐圧装置が必要となり装置コストの面で課題がある。
【0010】
また、特許文献6には、炭素系担体に担持された白金族触媒と芳香族塩素化合物とを含む反応系に、水素などの還元性物質の存在下でマイクロ波を照射して芳香族塩素化合物の脱塩素化を行う方法が記載されている。しかし、この方法では、難分解性のPCBを分解することは困難であり、また、反応系に外部から水素ガスを供給する必要があり、実用的な手法としては好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−008842号公報
【特許文献2】特開2000−116814号公報
【特許文献3】特開2009−011848号公報
【特許文献4】特開2002−177735号公報
【特許文献5】特開2005−169291号公報
【特許文献6】特開2001−019646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、有機ハロゲン化合物を内蔵する変圧器(柱上、大型)等の機器の容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を、特別な無害化処理装置を使用することなく、また有害なダイオキシン類を副生することもなく、簡便かつ短期間で、機器解体前に無害化処理することができる、有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法及び無害化処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、有機ハロゲン化合物が残留する容器に、水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該混合液を触媒槽内の上部に配置した触媒充填装置を流通させた後、容器に戻すことで、該混合液を触媒充填装置と容器間を循環させ、その際、混合液が触媒充填装置を流通する際にマイクロ波を照射して有機ハロゲン化合物を分解する処理と、マイクロ波の照射を停止して容器内に残留する有機ハロゲン化合物を溶出させる処理を交互に繰り返すことで、残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理方法において、触媒充填装置を流通させた混合液を触媒槽下部の液溜めに貯留して冷却することにより、極めて短期間で有機ハロゲン化合物を無害化処理できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
(1)有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を内蔵する容器について、有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を抜き出した後に、該容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理において、
該容器に、水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該混合液の一部を取り出して、触媒槽内の上部に配置した触媒充填装置を流通させ、触媒槽下部の液溜りに貯留させた後に、該容器に戻して、該混合液を循環させると共に、該触媒充填装置を流通する混合液へのマイクロ波の照射と停止を一定の間隔で繰り返し、有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理方法であって、
触媒槽下部の液溜りに冷却コイルを設置し、マイクロ波照射中は、該冷却コイルにより、液溜りに貯留する混合液を冷却することを特徴とする有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法。
(2)マイクロ波照射中に、触媒充填装置を流通する混合液の温度が、予め設定された管理温度以上となった時は、マイクロ波の照射強度を制限すると共に、触媒槽下部の液溜りで冷却された混合液は、容器に戻すことなく、直接触媒充填装置に循環させ、
触媒充填装置を流通する混合液の温度が、予め設定された設定温度以下に低下した時点で、マイクロ波の照射強度を復活させると共に、触媒槽下部の液溜りで冷却された混合液が容器に戻される循環が再開されることを特徴とする、(1)に記載の無害化処理方法。
(3)前記の管理温度が、所定の反応温度プラス10℃であり、前記の設定温度が所定の反応温度マイナス10℃であることを特徴とする、(2)に記載の無害化処理方法。
(4)マイクロ波の照射強度は、管理温度及び設定温度に対応してPID制御により制御されていることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の無害化処理方法。
【0016】
(5)容器に、有機ハロゲン化合物が残留する部材を入れ、さらに水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該混合液の一部を取り出して、触媒槽内の上部に配置した触媒充填装置を流通させ、触媒槽下部の液溜りに貯留させた後に、該容器に戻して、該混合液を循環させると共に、該触媒充填装置を流通する混合液へのマイクロ波の照射と停止を一定の間隔で繰り返し、該部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理方法であって、
触媒槽下部の液溜りに冷却コイルを設置し、マイクロ波照射中は、該冷却コイルにより、液溜りに貯留する混合液を冷却することを特徴とする有機ハロゲン化合物残留部材の無害化処理方法。
(6)部材が、鉄心、銅コイル、碍子又は絶縁紙である、(5)に記載の無害化処理方法。
【0017】
(7)有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を内蔵する容器について、有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を抜き出した後に、水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理装置であって、
(a)触媒充填装置と、
(b)その上部に該触媒充填装置を収容し、その下部が液溜りとなっている触媒槽と、
(c)容器内の混合液を取り出し、該触媒充填装置に供給した後、再び容器に戻すための容器循環系統と、
(d)該触媒充填装置にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置と、
(e)マイクロ波照射中に触媒槽下部の液溜りに貯留した混合液を冷却するための冷却コイルと、
を少なくとも備えていることを特徴とする無害化処理装置。
(8)さらに、
(f)前記触媒充填装置を流通する混合液の温度を測定する温度センサと、
(g)マイクロ波の照射中に、触媒充填装置を流通する混合液の温度が予め設定された管理温度以上となった時は、混合液の温度が予め設定された設定温度以下となるまでマイクロ波の照射を制限するマイクロ波制御装置と、
(h)前記混合液を触媒槽下部の液溜りから取り出し、前記触媒充填装置に供給した後、再び触媒槽に戻すための触媒槽循環系統と、
(i)マイクロ波の照射強度を制限している間は、前記混合液を該触媒循環系統にて循環させる系統制御装置と、
を備えていることを特徴とする、(7)に記載の無害化処理装置。
(9)前記マイクロ波制御装置が、マイクロ波の照射強度を、触媒充填装置を流通する混合液の管理温度及び設定温度に対応してPID制御により制御することを特徴とする、(8)に記載の無害化処理装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法において、マイクロ波の照射は、一定時間の照射の後一定時間照射を停止するというサイクルを繰り返すことで実施される。そして、マイクロ波照射中は、循環させる液を触媒槽下部の液溜めで冷却するので、従来よりもマイクロ波照射量を増加させることが可能になり、容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を、極めて短期間で無害化処理することができる。また、触媒槽に設けた液溜めを利用して冷却するので、装置の省スペース化を図ることができると共に、ライン(配管)を外側から冷却した場合に生じる恐れがある問題点、例えば副生無機塩の析出によるライン(配管)の詰まり等が発生する恐れもない。
【0019】
本発明においてマイクロ波停止中は、混合液が触媒槽と容器間を循環することで、容器や内部部材中に残留する有機ハロゲン化合物の溶出が主として起こるが、触媒槽下部の液溜めでの混合液の冷却をマイクロ波の照射中に限定することで、不必要に混合液を冷却することがないため、有機ハロゲン化合物の溶出が阻害される恐れがない。
【0020】
一方、触媒充填装置を流通する混合液が高温となった場合には、マイクロ波の出力を制限することで、ダイオキシン類の副生を抑制することができると共に、混合液の異常加熱を防止し、安全性を高めることができる。また、マイクロ波の照射強度を制限している間は、十分に冷却された液溜りにある混合液を直接触媒槽に供給することで、触媒槽の冷却を促進することができる。
【0021】
さらに、マイクロ波の出力をマイクロ波制御装置のPID制御により制御することで、マイクロ波照射量の効果的な増加及び平準化を図ることができる。
【0022】
所定の処理基準値を満たさない部材がある場合は、該部材を容器に入れ、上記(1)又は(2)の方法と同様の無害化処理を施すことにより、有機ハロゲン化合物が残留する部材を無害化処理することができ、新たな処理装置を必要としないため、経済的である。
【0023】
本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理装置は、有機ハロゲン化合物を内蔵する容器から有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を抜き出した後に、該容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を、実質的に機器を解体することなく無害化処理することができる装置であり、液の冷却及び温度制御に特別な装置を必要としないため、簡便であり、設置場所もとらない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る無害化処理装置の使用例の概略を説明する図である。
【図2】本発明の請求項1及び請求項7に係る無害化処理方法及び無害化処理装置の一実施形態を示す正面透視図であり、容器から取り出された混合液が触媒充填装置を流通し、再び容器に戻る循環経路を合わせて示してある。
【図3】本発明の請求項2及び請求項8に係る無害化処理方法及び無害化処理装置の一実施形態を示す正面透視図であり、触媒槽下部の液溜りから取り出された混合液が触媒充填装置を流通し、再び触媒槽に戻る循環経路を合わせて示してある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法及び無害化処理装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
本発明の無害化処理方法は、有機ハロゲン化合物が残留する柱上変圧器等の容器の外部に、本発明の無害化処理装置を設置し、該装置を用いて実施するものである。
その実施形態は特に限定されない。例えば、図1に示したように、オイルパン27の上に柱上変圧器(容器)を載置し、その上方のオイルパン28の上に本発明の無害化処理装置を載置し、柱上変圧器(容器)と無害化処理装置をラインで連結した後、所定の処理をすることで、容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解し、無害化処理することができる。
【0027】
本発明の無害化処理方法では、有機ハロゲン化合物の分解自体は公知の方法を用いることができる。すなわち、柱上変圧器等の容器中に内蔵された有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を、ポンプ等を用いて通常の方法で抜き出した後、水素供与体とアルカリ化合物からなる溶液を充填して、該容器の内壁や該容器中に設置された部材中に残留する有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とする。次いで該混合液を、触媒槽中に備えられた触媒充填装置に流通させ、触媒に接触させながらマイクロ波を照射することにより、有機ハロゲン化合物を分解して無害化処理する。そして、本発明の無害化処理方法においては、マイクロ波照射中に、触媒充填装置を流通させた混合液を、触媒槽下部の液溜りにて冷却した後、循環させることで該混合液の温度を制御し、安全かつ効率的に有機ハロゲン化合物を分解できることに特徴を有している。
【0028】
本発明の方法が適用可能な容器としては、例えば、変圧器(柱上、大型)、油絶縁ケーブルの油槽等の容器が挙げられる。特に、機器内部に、入り組んだ構造の種々の付属部材が存在し、かつその素材である紙や木等に有機ハロゲン化合物が染み込んでいる可能性がある、柱上変圧器や大型変圧器の容器処理に適用するのが好ましい。ここで、大型変圧器とは、絶縁油容量が100L〜30万Lのものを言う。内部部材としては、鉄心、銅コイル、碍子、絶縁紙及び木枠が挙げられる。
【0029】
本発明の無害化処理対象である有機ハロゲン化合物としては、例えば、ポリ塩化ビフェニール(PCB)類やダイオキシン類等を挙げることができ、その種類は特に限定されるものではないが、好ましいのはPCB類である。PCB類には、ダイオキシン類を含有するPCB類も含まれる。PCB類の市販品としては、例えば、鐘淵化学(株)のKC−200(主成分:2塩化ビフェニール)、KC−300(主成分:3塩化ビフェニール)、KC−400(主成分:4塩化ビフェニール)、KC−500(主成分:5塩化ビフェニール)、KC−600(主成分:6塩化ビフェニール)や、三菱モンサイト(株)のアロクロール1254(54% Chlorine)等を挙げることができる。
【0030】
図2及び図3は、本発明の無害化処理方法及び無害化処理装置の一実施形態を示す概略図であり、容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物の無害化処理の一例を示したものである。
【0031】
本発明の無害化処理装置は、容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を、容器を解体せずに分解することができる無害化処理装置である。無害化処理を実施するに当たり、容器に、水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填することが必要である。
【0032】
該溶液を充填する場合は、その量を、容器の内部部材の浸漬には十分で、かつ容器から溢れ出ない量に調整する。図2及び図3において、29は柱上変圧器(容器)1に充填されている溶液2の液面を示しているが、溶液は柱上変圧器1の中に設置された柱上変圧器内部巻き線(コイル)3が浸る量、充填されている。
【0033】
容器1は、溶液の供給ラインを備えていても良い。例えば、水素供与体とアルカリ化合物を予め混合して水素供与体にアルカリ化合物を溶解させた溶液を保管する図示しない装置(プレタンク)を設置し、該装置から容器1へ溶液を供給する供給ライン(図示を省略する)を備えていても良い。
【0034】
本発明の無害化処理装置は、(a)触媒充填装置4、(b)その上部に触媒充填装置4を収容し、その下部が液溜りとなっている触媒槽7、(c)容器1内の混合液を取り出し、触媒充填装置4に供給した後、再び容器に戻すための容器循環系統(供給ライン15、ライン16、17及びポンプ9)、(d)触媒充填装置4にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置12、(e)マイクロ波照射中に触媒槽下部の液溜りに貯留した混合液を冷却するための冷却コイル18、を必須構成要素として構成される。以下、装置の構成を順に説明する。
【0035】
(a)触媒充填装置
触媒充填装置4には、有機ハロゲン化合物(特にPCB)を分解可能な触媒を充填する。 触媒充填装置4は、処理途中で分解速度が低下した場合に、簡単、迅速に取り替えることができ、使用後の触媒の後処理も容易である点より、交替可能な触媒カートリッジ5を備えていることが好ましい。
【0036】
触媒充填装置4は触媒槽7内の上部に設置する。そして、該触媒充填装置4を容器1の上方に設置することにより、処理装置全体として省スペース化、コンパクト化を図ることができる。また、触媒充填装置を容器の上方に設置することにより、該装置流通後の液を、自重で容器内に戻すことができるので、容器から触媒充填装置への液供給手段を設けるだけで良く、排出のためのポンプの設置は不要となる利点がある。さらに、省スペースが図られる結果、触媒充填装置内の触媒層の液流通断面積を、処理対象となる容器1の内容積に応じて、大きく設計することができ、空間速度(SV)を一定にした場合でも液流速が高められることから、分解所要時間の短縮に繋がる。
【0037】
触媒充填装置の形状及び大きさは、特に限定されるものではなく、種々の形態であって良い。例えば、円筒型、角筒型等である。ただし、触媒充填装置は、混合液の導入口及び流出口を備えている必要がある。
【0038】
図2及び図3に示す触媒充填装置4には、有機ハロゲン化合物を分解しうる後述する触媒が充填された触媒層6が形成されている。混合液2は、図中の矢印で示すように供給ライン15、ポンプ9を介して、触媒充填装置4の上部に設けられた導入口を通して、ライン16により触媒充填装置の上部に導入される。導入された混合液は、連続的に触媒層6を流通し、触媒層流通後の混合液2は、触媒充填装置4の底部から流下する。触媒充填装置内の混合液の液面は、常時、触媒層より高く保持される。触媒充填装置の底部から流下した混合液は、触媒充填装置を収容する触媒槽7の中へ流出した後、該触媒槽7の下部に溜められ、冷却コイル18により冷却され、容器1に戻ることで循環される。図2及び図3中の矢印は、触媒充填装置を流通した混合液の大略の流れ方向を示している。
【0039】
図2及び図3において、触媒層6の中には、マイクロ波を透過する耐熱性材料で形成された棒状の構造体8が、その一部が触媒層から突出するように分散して配置されている。この構造体の存在は必須ではないが、構造体を設置することにより、マイクロ波が触媒層の奥まで伝達されるようになる。構造体の形状は、特に限定されるものではなく、棒状、管状、ファイバー状、或いはこれらの組合せであって良い。また、構造体の内部は中空でも良い。大きさや配置形態、配置数も任意であるが、マイクロ波を万遍なく触媒に届かせるようにするためには、複数の構造体をできるだけ均等に配置し、各構造体のマイクロ波到達円が細密充填に近づくように配置することが好ましい。
【0040】
上記の構造体の材質は、特に限定されるものではなく、マイクロ波を透過する材質であれば、セラミック;テフロン(登録商標)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンサルフォン(PPSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリエステル(LCP)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル等の耐熱性樹脂;ガラス等の双極子を持たない材料或いは双極子モーメントが小さい材料;等を用いることができる。
【0041】
(b)触媒槽
触媒槽7は、触媒充填装置4を収容すると共に、触媒充填装置4を流通させた混合液を触媒槽の下部に貯留し、容器に戻すことができるよう構成されている。触媒槽の底面には、混合液を容器に戻すための液排出口30が設けられている。
【0042】
(c)循環系統
循環系統は、混合液を容器1、触媒充填装置4、触媒槽7に循環させるための配管及びポンプからなる。循環系統には、容器循環系統と触媒槽循環系統の2種類がある。
【0043】
容器循環系統では、図2に示すように、混合液は、最初に容器1からポンプ9を介して触媒槽7へ吸い上げられ、吸い上げられた液は触媒充填装置4内を流下し、触媒槽下部の液溜めにて貯留、冷却され、その後、排出口30を介して、容器1に戻されることになる。この際、抜き出し弁22及びポンプ出口弁23を開き、ポンプ入口弁24及びサンプリング弁26を閉じて、混合液を循環する。戻り弁25は、常時、触媒槽下部の液溜めに液が貯留されているように開閉を調整する。
通常時は容器循環系統が用いられる。容器1内の混合液を触媒充填装置4に循環させて有機ハロゲン化合物を分解することにより、容器1内の混合液中の有機ハロゲン化合物濃度を低下させ、容器1や内部部材からの溶出を促進させることができるためである。
【0044】
触媒槽循環系統では、図3に示すように、触媒槽下部の液溜めにて貯留、冷却された混合液は、触媒槽7とポンプ9を連結するライン21、16を通して触媒充填装置との間を循環する。この際、ポンプ入口弁24及び出口弁23を開き、抜き出し弁22、戻り弁25及びサンプリング弁26を閉じて、混合液を循環する。排出口30は閉じておく。
【0045】
後述するように、触媒充填装置内の混合液の温度が上昇し、マイクロ波の照射強度が制限されている間は、触媒槽循環系統を用いるのが好ましい。十分に冷却された液溜りにある混合液を直接触媒槽に供給することで、触媒槽の冷却を促進することができるためである。この系統の切り替えは、系統制御装置(図示しない)により行われる。系統制御装置では、抜き出し弁22、出口弁23、ポンプ入口弁24、戻り弁25及びサンプリング弁26の開閉を制御して、系統の切り替えを行う。
【0046】
ポンプ9は、容器1内の混合液を触媒充填装置に移送する手段、及び、触媒槽内の混合液を循環させる手段として用いられる。ポンプ9の取り付け位置は特に限定されるものではなく、容器1の外部の任意の場所に備えられていれば良いが、特に、触媒槽7に隣接して備えられていると、触媒槽の下部の液溜めに貯留した混合液を触媒充填装置に循環させる操作(図3参照)が容易になる。なお、ポンプ9には、混合液1を、該ポンプを介して供給及び循環するためのライン15、16及び21が備えられている。これにより、混合液を触媒充填装置に連続的に供給し、有機ハロゲン化合物を触媒と接触させることが可能となる。
【0047】
(d)マイクロ波装置
マイクロ波装置12は、マイクロ波の照射中に、触媒充填装置を流通する混合液の温度が管理温度以上となった時は、触媒充填装置を流通する混合液の温度が設定温度以下に低下するまでマイクロ波の照射強度を制限するマイクロ波制御装置を備えているのが良い。混合液の異常加熱を防止し、安全性を高めることができるためである。ここで、混合液の温度の管理温度や設定温度は、後述する反応温度を考慮して設定すれば良いが、管理温度は通常、反応温度のプラス10〜20℃、好ましくはプラス10℃に設定される。また、設定温度は通常、反応温度のマイナス5〜10℃、好ましくはマイナス10℃に設定される。
【0048】
さらに、マイクロ波照射量を平準化するために、触媒充填装置内の混合液の温度測定と温度制御のための温度コントローラ(PID制御機能付き)を備えているのが良い。温度センサ10により検出した温度と温度コントローラ11の管理温度および設定温度に基づき、マイクロ波装置12の照射強度をPID制御することによって、マイクロ波を連続照射しながら、混合液の液温をほぼ一定温度に保持することができる。
【0049】
本発明の無害化処理装置では、マイクロ波装置12の設置場所は、特に限定されるものではないが、触媒充填装置4の上方に備えられていると省スペース化が図れる。触媒層6を流通する混合液は、マイクロ波発振器から照射されるマイクロ波によって加熱された触媒と接触することにより、混合液中に含まれる有機ハロゲン化合物が速やかに分解する。
【0050】
触媒充填装置に照射するマイクロ波の周波数は1〜300GHzが望ましく、1GHz未満又は300GHzを超える周波数範囲では、触媒や水素供与体の加熱が不十分となる。マイクロ波発振器としては、マグネトロン等のマイクロ波発振器や、固体素子を用いたマイクロ波発振器等を適宜用いることができる。
【0051】
触媒充填装置に対するマイクロ波の照射は、前述したように一定の間隔で断続的に実施するのが良い。マイクロ波の照射を停止して、混合液中の有機ハロゲン化合物濃度を確認することで、容器1や内部部材からの溶出量を正確に把握でき、その残存量や無害化処理の進捗を精度よく管理できるためである。マイクロ波の照射時間や停止時間は任意に設定でき、運転の安全やコスト、人員の確保等を考慮して昼間のみマイクロ波照射を行うことも可能であり、例えば、昼間はマイクロ波を照射し、夜間はマイクロ波照射を停止すると言った断続的な照射を実施することもできる。
【0052】
(e)冷却コイル
冷却コイル18は、触媒槽7下部の液溜めに貯留された混合液を冷却できるよう、触媒槽7の内部の適宜な場所に備えられる。図示した冷却コイル18は、冷熱源から冷却媒体が供給される一般的な熱交換器などの冷却水循環装置13を用い、該装置13から、ライン19を介して冷却コイル入口に供給された冷水が、混合液と接触した後、冷却コイル出口からライン20を介して、該装置13に戻るように設計されている。
【0053】
冷却コイル18による冷却は、マイクロ波の照射中に行われる。触媒充填装置に流通する混合液の温度が低下することにより、マイクロ波の照射量を増大させることができるので、有機ハロゲン化合物の分解が促進される。また、混合液の冷却をマイクロ波の照射中に限定することで、不必要に混合液を冷却することもなく、マイクロ波の停止中の触媒による無害化処理や容器及び内部部材からの溶出を阻害する恐れもなくなるためである。なお、液溜めの温度が低くなり過ぎると、容器に戻される液が冷え過ぎてしまい、部材に浸透した有機ハロゲン化合物が液中に溶出しにくくなるなどの不都合が生じるので、使用に際しては、冷却水流量調整器14で冷却水の流量を調整するのが良い。
【0054】
冷却コイルの設置場所や設置形態は、特に限定されるものではないが、例えば図示したように、触媒充填装置を収容する触媒槽7の下部に貯留された混合液中に、触媒充填装置4の投影面を周回するように配置しておくと、冷却効率が良い。マイクロ波は触媒充填装置によって遮られ液溜め部分には届かないため、液溜めに貯留される混合液はマイクロ波による加熱されるおそれもない。
【0055】
上述したように、本発明の無害化処理装置は、通常時は、混合液を容器と触媒槽の間を循環させながら触媒と接触させ、一方、マイクロ波の照射強度が制限されている間は、混合液を触媒槽のみで循環させながら触媒と接触させるのが良い。いずれの場合も、触媒充填装置を流通する混合液にマイクロ波を照射して有機ハロゲン化合物の分解を促進し、マイクロ波照射時間を可能な限り長くできるように触媒槽下部の液溜りを冷却コイルで冷却できるように構成されている。
【0056】
マイクロ波照射によって加熱された混合液を冷却する手段としては、触媒槽7から容器1に戻すライン17の途中に冷却手段を設けることも考えられる。しかし、この手段では、冷却コイルを備えた液溜めを新設する必要が生じるため、省スペース化という観点から好ましくなく、また、触媒充填装置を流通する混合液の温度が上がりすぎ、速やかに冷却する必要が生じた場合などに対応できなくなる。あるいはまた、かかる手段を採用した場合、触媒槽と容器の両方を循環するには問題ないが、容器に戻される液が冷え過ぎてしまい、部材に浸透した有機ハロゲン化合物が液中に溶出しにくくなるなどの不都合が生じる恐れがある。
【0057】
さらに、別の冷却手段として、触媒槽7の入口直前(ライン16の途中)に冷却手段を設けることも考えられる。しかし、この手段では、やはり冷却コイルを備えた液溜めを新設する必要が生じるため、省スペース化という観点からは好ましくない。また、触媒充填装置を流通することで加熱された混合液が容器に直接戻るため、容器内の混合液の温度が上昇してくるという安全面での問題が生じる。従って、ライン途中で冷却する場合は、ラインを外側から直接冷却する方法(例えば、混合液をチラー管に導入する)が適しているが、冷却するのに必要な十分な長さのラインを確保し難く、また、冷却されたラインの内部で副生成物(KCl等)が析出して目詰まりが生じる危険性がある。
【0058】
かくして、冷却された混合液が、マイクロ波で加熱された触媒と接触することにより、混合液中の有機ハロゲン化合物は速やかに分解する。即ち、触媒充填装置を流通した混合液は、冷却された後に循環されるため、触媒充填装置の導入口の液温が低下することによって、マイクロ波照射量を増加することが可能になり、ダイオキシン類等の副生を抑制しながら有機ハロゲン化合物を分解する上において、混合液を冷却しないで循環させたときよりも、有機ハロゲン化合物の分解効率が格段に向上する。
【0059】
なお、混合液の循環は、混合液中の有機ハロゲン化合物が所定の濃度以下になるまで実施すればよく、適時、無害化処理装置に設けたサンプリング弁26から混合液をサンプリングして分析することにより、有機ハロゲン化合物濃度を測定することができる。
【0060】
次に、上記無害化処理装置を用いた、本発明に係る有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法の一実施形態について、図2を参照しつつ説明する。
【0061】
まず、図2に示す有機ハロゲン化合物が残留する容器1に、後述する水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液2を充填した後、必要に応じて攪拌する。充填量は、容器の内部部材が浸る程度の量とすることが好ましい。アルカリ化合物は、水素供与体に対して後記する量を添加すれば良い。溶液を充填した後、残留する有機ハロゲン化合物を溶出させるため、溶液を充填した状態で、液を循環させたり、攪拌したり、或いは、静置したりしても良い。
【0062】
その後、有機ハロゲン化合物が溶出した混合液2を、触媒が充填された触媒充填装置4に連続的に流通させて有機ハロゲン化合物を脱ハロゲン化処理するが、混合液が触媒充填装置を流通する際にマイクロ波を照射する。触媒充填装置を流通する際の混合液の温度は、触媒層の上層の液中に設置した温度センサ10により検出する。反応温度(すなわち、混合液の温度)は、ダイオキシン類などの副生物の生成を抑制するためにはできるだけ低い方が好ましいが、分解速度との兼ね合いから、常温以上200℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下であり、反応温度が200℃を超える場合は、脱ハロゲン化反応は十分進むが、副生物が生成し易くなり、また経済性にも劣るものとなる。特に、液溜りに貯留された混合液を冷却する本発明において、冷却効果を十分に発揮させることができる温度は、40℃〜80℃の範囲である。混合液を触媒充填装置に流通させる時間は特に限定されず、混合液中の有機ハロゲン化合物が所定の処理基準値以下になるまで実施する。また、液溜りでの冷却は、貯留される混合液の温度が反応温度より少なくとも5℃、望ましくは10℃以上、低くなるように実施することが好ましい。特に好ましくは、反応温度より10〜20℃低くなるまで冷却する。混合液を冷却し過ぎることは経済性に劣るばかりか、有機ハロゲン化合物の溶出を阻害することになる。
【0063】
以上の分解処理を行うことにより、短期間で混合液中の有機ハロゲン化合物濃度を0.5ppm以下に減少させることができる。分解終了後は、抜き出しポンプ又はドレン弁等を介して、容器内の混合液を容器から抜き出す。
【0064】
本発明の無害化処理方法において、「水素供与体」としては、例えば、複素環式化合物、アミン系化合物、アルコール系化合物、ケトン系化合物、及び脂環式化合物等の有機系水素供与体等が挙げられる。これらの化合物の中でも、安全性の観点より、アルコール系化合物、ケトン系化合物、脂環式化合物が好ましく、特に、安全性が高く、低コストで入手可能であり、しかも反応制御が容易で、PCB分解効率が高い点より、アルコール系化合物が好ましい。これらの水素供与体は、単独で又は二種以上を任意に組合せて使用することができる。
【0065】
ここで、前記のアルコール系化合物としては、脂肪族アルコール、芳香族アルコールのいずれであってもよく、直鎖又は分岐鎖を有する一価アルコールや多価アルコールを用いることができる。アルコール系化合物の炭素数は1〜12の範囲が好ましく、より好ましくは2〜9の範囲、さらに好ましくは3〜6の範囲である。前記アルコール系化合物の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール等の脂肪族アルコール、シクロプロピルアルコール、シクロブチルアルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、シクロオクチルアルコール等の脂環式アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、デカリンジオール等の多価アルコール等が挙げられる。これらの中でも、分解効率の点から2−プロパノール、シクロヘキサノールが好ましく、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)が特に好ましい。
【0066】
また、アルカリ化合物としては、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化反応を促進しうるものであれば制限なく使用することができるが、脱ハロゲン化効率を高める観点より、苛性ソーダ、苛性カリ、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、水酸化カルシウム等が好ましく用いられる。中でも、コストやハンドリング性の観点より、苛性ソーダ、苛性カリが特に好ましい。アルカリ化合物は、単独で又は二種以上を任意に組合せて使用することができる。
【0067】
本発明の無害化処理方法では、上記の水素供与体及びアルカリ化合物を予め混合、攪拌して、アルカリ化合物を水素供与体に溶解させておいたものを用いても良い。この場合、使用するアルカリ化合物の量は、水素供与体に対する割合として、0.1〜10%(w/v)とするのが好ましく、より好ましくは0.2〜5%(w/v)である。前記割合が0.1%未満では分解反応が進まず、10%を超えるとアルカリ化合物が溶解し難くなる。
【0068】
本発明の触媒充填装置に充填する触媒としては、PCBの脱ハロゲン化反応を促進しうるものであれば良く、その種類は特に限定されないが、触媒寿命が長くアルカリ化合物存在下でも安定である、無機系触媒が好ましい。無機系触媒としては、脱ハロゲン化効率を高める観点より、複合金属酸化物、炭素結晶化合物、金属担持炭素化合物、金属担持酸化物、金属担持複合金属酸化物及び金属酸化物等が好ましいが、中でも、アルカリ性雰囲気で安定性が高くマイクロ波吸収性の高い金属担持炭素化合物が好ましい。これらの触媒は、単独で又は二種以上を任意に組合せて使用することができる。また、使用後の触媒を再生した再生触媒を使用しても良い。
【0069】
前記の金属担持炭素化合物の金属担持量は、触媒全量に対して0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。担持金属としては、例えば、鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム等が挙げられるが、脱ハロゲン化効率を高める観点より、パラジウム、ルテニウム、白金が好ましい。金属担持炭素化合物の具体例としては、例えば、Pd/C(パラジウム担持炭素化合物)、Ru/C(ルテニウム担持炭素化合物)、Pt/C(白金担持炭素化合物)等が挙げられる。
【0070】
触媒の形状は特に限定されないが、粒状の場合は触媒層の上下をメッシュ等で固定する必要があり、その場合の粒子径は約75μm〜10mmが好ましい。10mmを超える場合は比表面積が不足し、75μm未満の場合はメッシュが詰まり差圧が高くなる。より好ましくは150μm〜5mmである。触媒粒子は、できるだけ粒子径のそろったものが良い。
【0071】
本発明の無害化処理方法によれば、容器内面に付着する有機ハロゲン化合物や、内部部材に残留する有機ハロゲン化合物も分解されるので、容器を解体処理することにより、各部材を再利用することもできる。
【0072】
一方、無害化処理後に解体された部材が、所定の卒業基準値を満たしていない場合は、該部材を、再度、容器に戻して、上記の方法で無害化処理を行えば良い。この際、容器として、柱上変圧器等の電気機器容器を用いても良いし、別途用意した洗浄容器を用いても良い。
【実施例】
【0073】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「質量%」は「%」と略記する。なお、以下の実験は図2に示す装置を用いた。
【0074】
(実施例1)
絶縁油(PCB濃度は0.9〜28.9mg/kg)を抜き出した10種類の柱上変圧器容器(A〜J)に、それぞれ、イソプロピルアルコールにKOHを溶解した溶液(KOH濃度0.5w/v%)を充填した。
柱上変圧器の上部に、容量20Lの触媒槽を設置し、触媒槽の上部に配置された触媒充填装置の中に、パラジウムを5%担持した活性炭触媒を充填した。なお、この触媒槽の下部には、内径6mmの鋼製チューブを、直径420mmの円形状に3段重ねた構造の冷却コイルを配置した。
【0075】
容器内の混合液を、触媒充填装置の触媒層を通過させながら、循環ポンプを用い、流量800ml/分で、容器と触媒充填装置との間を循環させながら、マイクロ波を以下の様に断続的に照射し、溶出した有機ハロゲン化合物を分解することで、容器及び内部部材の無害化処理を行った。マイクロ波を照射している間は、触媒充填装置の下部に設けた液溜りに貯留された混合液を、液温が40℃になるように、冷却コイルで冷却した。
【0076】
触媒充填装置を通過する混合液の温度を約60℃に保つために、温度・出力制御一体型のPID制御装置に備えられた温度センサで該混合液の温度を測定して、マイクロ波の照射強度をPID制御しながら、8時間に渡ってマイクロ波を照射した。その後マイクロ波の照射を停止し、常温にて混合液を循環させる操作のみを16時間行った。この操作を、2日間〜8日間に渡って繰り返し、PCBを分解して無害化処理を行った。その期間中、マイクロ波照射開始前及びマイクロ波照射中に、PCB濃度を測定した。
【0077】
PCB濃度が一定値以下に低下したことを確認した後、柱上変圧器の容器の蓋を開けて容器内のコイルを吊り上げ、液が垂れなくなるまで液切りをしたのち、柱上変圧器を解体し、平成4年厚生省告示第192号、改正平成10年8月第222号;別表第2の第三に準拠して、容器本体、コイル鉄心、銅コイル(銅線)、碍子、絶縁紙及び木に残留するPCB量を測定した。
【0078】
(比較例1)
実施例1で処理したのとは異なる柱上変圧器容器(PCB濃度19〜25mg/kg)を用いて、実施例1と同様にして、無害化処理を実施したが、この間、混合液の冷却操作及びマイクロ波の照射強度のPID制御を行わずに、最大出力1.5kWのマイクロ波をON/OFFしながら照射し、触媒充填装置を通過する混合液の温度を60℃に維持した。
【0079】
(実施例2)
実施例1において、卒業基準を満たせなかった柱上変圧器のコイル鉄心について、無害化処理を実施した。
【0080】
内部部材を取り除いた後の容器に、鉄心部材を入れ、実施例1で用いたイソプロピルアルコールとKOHの混合液を充填し、約50℃に加温して24時間攪拌した。実施例1と同様に、容器の上部に、触媒充填装置と冷却コイルを配置した触媒槽を設置し、触媒充填装置には、パラジウムを5%担持した活性炭触媒を充填した。
次いで、実施例1と同様にして、混合液を循環すると共に、マイクロ波を断続的に照射して、PCBを分解し、無害化処理を行った。
【0081】
4日間処理を行い、PCB濃度が一定値以下に低下したことを確認した後、容器からコイルを吊り上げ、液が垂れなくなるまで液切りをしたのち、実施例1と同様に残留PCB量を測定した。結果を、実施例1と合わせて表1に示す。また、比較例1の結果を表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
上記の結果より、実施例1では少なくとも4日間を要すれば、容器及び内部部材を無害化処理できることがわかる。一方、比較例1では4日間処理を行った後も一部の内部部材が卒業基準を満足できず、容器及び内部部材を全て無害化処理するのに20日間要することがわかる。つまり、マイクロ波照射中に、触媒充填装置に流通させた混合液を、触媒槽下部の液溜りにて冷却した後、容器に循環させることにより、従来の約5倍の処理速度で容器及び内部部材を無害化処理できることがわかる。
また、無害化処理できなかった部材については、当該部材を容器に入れ、同様の無害化処理を行うことにより、短期間で無害化処理できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、抜油後の容器を移動すること無く、常圧条件下で簡易に無害化処理できる方法を提供するものであり、本発明の無害化処理装置を変圧器貯蔵所等の現場に設置すれば、現場で容器及び内部部材の無害化処理を実施することができる。よって、本発明によれば、実用的な規模で、有機ハロゲン化合物が残留する多数の容器を無害化することができるので、本発明の実用的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0086】
1 容器
2 混合液
3 内部部材(コイル)
4 触媒充填装置
5 触媒カートリッジ
6 触媒層
7 触媒槽
8 構造体
9 ポンプ
10 温度センサ
11 温度コントローラ
12 マイクロ波装置
13 冷却水循環装置
14 冷却水流量調整器
15,16,17,21 ライン
18 冷却コイル
30 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を内蔵する容器について、有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を抜き出した後に、該容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理において、
該容器に、水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該混合液の一部を取り出して、触媒槽内の上部に配置した触媒充填装置を流通させ、触媒槽下部の液溜りに貯留させた後に、該容器に戻して、該混合液を循環させると共に、該触媒充填装置を流通する混合液へのマイクロ波の照射と停止を一定の間隔で繰り返し、有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理方法であって、
触媒槽下部の液溜りに冷却コイルを設置し、マイクロ波照射中は、該冷却コイルにより、液溜りに貯留する混合液を冷却することを特徴とする有機ハロゲン化合物残留機器の無害化処理方法。
【請求項2】
マイクロ波照射中に、触媒充填装置を流通する混合液の温度が、予め設定された管理温度以上となった時は、マイクロ波の照射強度を制限すると共に、触媒槽下部の液溜りで冷却された混合液は、容器に戻すことなく、直接触媒充填装置に循環させ、
触媒充填装置を流通する混合液の温度が、予め設定された設定温度以下に低下した時点で、マイクロ波の照射強度を復活させると共に、触媒槽下部の液溜りで冷却された混合液が容器に戻される循環が再開されることを特徴とする、請求項1に記載の無害化処理方法。
【請求項3】
前記の管理温度が、所定の反応温度プラス10℃であり、前記の設定温度が所定の反応温度マイナス10℃であることを特徴とする、請求項2に記載の無害化処理方法。
【請求項4】
マイクロ波の照射強度は、管理温度及び設定温度に対応してPID制御により制御されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の無害化処理方法。
【請求項5】
容器に、有機ハロゲン化合物が残留する部材を入れ、さらに水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該混合液の一部を取り出して、触媒槽内の上部に配置した触媒充填装置を流通させ、触媒槽下部の液溜りに貯留させた後に、該容器に戻して、該混合液を循環させると共に、該触媒充填装置を流通する混合液へのマイクロ波の照射と停止を一定の間隔で繰り返し、該部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理方法であって、
触媒槽下部の液溜りに冷却コイルを設置し、マイクロ波照射中は、該冷却コイルにより、液溜りに貯留する混合液を冷却することを特徴とする有機ハロゲン化合物残留部材の無害化処理方法。
【請求項6】
部材が、鉄心、銅コイル、碍子又は絶縁紙である、請求項5に記載の無害化処理方法。
【請求項7】
有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を内蔵する容器について、有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を含む油を抜き出した後に、水素供与体とアルカリ化合物とからなる溶液を充填して有機ハロゲン化合物を溶出させて混合液とした後、該容器及び内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する無害化処理装置であって、
(a)触媒充填装置と、
(b)その上部に該触媒充填装置を収容し、その下部が液溜りとなっている触媒槽と、
(c)容器内の混合液を取り出し、該触媒充填装置に供給した後、再び容器に戻すための容器循環系統と、
(d)該触媒充填装置にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置と、
(e)マイクロ波照射中に触媒槽下部の液溜りに貯留した混合液を冷却するための冷却コイルと、を少なくとも備えていることを特徴とする無害化処理装置。
【請求項8】
さらに、
(f)前記触媒充填装置を流通する混合液の温度を測定する温度センサと、
(g)マイクロ波の照射中に、触媒充填装置を流通する混合液の温度が予め設定された管理温度値以上となった時は、混合液の該温度が予め設定された設定温度以下となるまでマイクロ波の照射を制限するマイクロ波制御装置と、
(h)前記混合液を触媒槽下部の液溜りから取り出し、前記触媒充填装置に供給した後、再び触媒槽に戻すための触媒槽循環系統と、
(i)マイクロ波の照射強度を制限している間は、前記混合液を該触媒循環系統にて循環させる系統制御装置と、
を備えていることを特徴とする、請求項7に記載の無害化処理装置。
【請求項9】
前記マイクロ波制御装置が、マイクロ波の照射強度を、触媒充填装置を流通する混合液の管理温度及び設定温度に対応してPID制御により制御することを特徴とする、請求項8に記載の無害化処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−274170(P2010−274170A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127401(P2009−127401)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】