説明

有機半導体材料

【課題】 含有水分の極めて少ない有機半導体材料を提供し、有機トランジスタの移動度及び電流オン・オフ比等の電気物性を向上させることを可能にする。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される化合物を含み水分濃度が30ppm以下であることを特徴とする有機半導体材料
【化1】


(ここで、置換基R〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基を示し、記号m〜pは0又は1の整数であり、環Aは下記一般式(A−1)、(A−2)、又は(A−3)である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体等の電子材料への展開が可能な有機半導体材料に関する。さらに本発明は、水等の不純物の少ない有機半導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されるようになった。この有機半導体デバイスは有機半導体活性相、基板、絶縁相、電極等数種類の材料から構成されるが、中でも電荷のキャリアー移動を担う有機半導体活性相は該デバイスの中心的な役割を有している。この有機半導体活性相を構成する有機材料のキャリアー移動能により有機半導体デバイス性能が左右される。
【0003】
有機半導体活性相を作製する方法としては一般的に、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法及び有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法が知られている。塗布法においては、塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。そのため、塗布法は印刷によりデバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることができることから、経済的に好ましいプロセスである。しかし、塗布法は蒸着法に比べて水分が有機半導体活性相中に残存し易い問題がある。即ち、蒸着法では水分は、有機半導体材料が気化する前に低沸分として除かれ、有機半導体の薄膜中に水分は存在しない。一方、塗布法では有機半導体材料の気化を伴わないので、有機半導体材料及び溶媒中からの水分が有機半導体薄膜中に混入することは避けられない。溶媒を乾燥除去する際に同時に揮発する分はあるが、水は水分子同士が水素結合することから薄膜中に取り込まれた水を完全に除去することは困難である。これまで乾燥工程における環境中の水分濃度を規定することに対しては注意が払われていたが(例えば、特許文献1参照)、有機半導体材料中の水分濃度を低減させる工夫は皆無に等しかった。この残存した水分は有機トランジスタの移動度及び電流オン・オフ比等の電気物性、寿命に悪影響を与え、結果としてデバイスとしての信頼性を損なう原因となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−86495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は上記の背景技術が有する問題点に鑑み、塗布法による有機トランジスタの有機半導体活性相形成が可能な、有機半導体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討の結果、含有水分の極めて少ない有機半導体材料が上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示される化合物を含み水分濃度が30ppm以下であることを特徴とする有機半導体材料に関するものである。
【0008】
【化1】

(ここで、置換基R〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基を示し、記号m〜pは0又は1の整数であり、環Aは下記一般式(A−1)、(A−2)、又は(A−3)である。)
【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基を示す。)
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
一般式(1)で示される化合物の置換基について述べる。
【0013】
置換基R〜Rにおける炭素数1〜30のアルキル基は、特に限定はなく、例えばメチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基等の鎖状アルキル基;シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の環状アルキル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロテトラデシル基、パーフルオロオクタデシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロオクチル基等のパーフルオロアルキル基;ペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基、2−エチルパーフルオロヘキシル基等の一部の水素がフッ素に置換されたハロゲン化アルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数8〜20のアルキル基であり、より好ましくはデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロテトラデシル基であり、特に好ましくはオクチル基、ドデシル基、パーフルオロドデシル基である。
【0014】
さらに置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基から選ばれることが好ましい。
【0015】
一般式(1)における記号m〜pは0又は1の整数であり、その中でもm〜pが全て1又はm〜pが全て0であることが好ましい。
【0016】
一般式(1)における環Aは一般式(A−1)、(A−2)、又は(A−3)で示され、一般式(A−1)であることが好ましい。一般式(A−3)中の置換基R及びRは好ましくはトリイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基である。
【0017】
これらの中でも本発明で用いられる一般式(1)で示される化合物は、以下の化合物が好ましく、
【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

特に好ましくは
【0020】
【化7】

である。
【0021】
一般式(1)で示される化合物の製造方法を以下に説明する。
【0022】
一般式(1)で示される化合物の内、環Aが一般式(A−1)であるものについては、例えば特開2009−196975号公報又は「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティー」(米国)、2007年、129巻、15732−15733頁に記載されている方法に従って製造することができる。
【0023】
一般式(1)で示される化合物の内、環Aが一般式(A−2)であるものについては、例えば「ジャーナル オブ マテリアルズ ケミストリィー」(英国)、2008年、18巻、3442−3447頁に記載されている方法に従って製造することができる。
【0024】
さらに一般式(1)で示される化合物の内、環Aが一般式(A−3)であるものについては、例えば「アドバンスト マテリアルズ」、2003年、15巻、2009−2011頁に記載されている方法に従って製造することができる。
【0025】
本発明の有機半導体材料は、前記一般式(1)で示される化合物を溶媒に溶解した溶液であり、該溶剤としては、例えばo−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン、ビフェニル、エチルベンゼン、オクチルベンゼン等の芳香族の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤;等が挙げられる。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。中でも、好ましくはクロロホルム、クロロベンゼン、トルエン、キシレン等である。
【0026】
本発明の有機半導体材料は、水分濃度が30ppm以下であり、好ましくは20以下であり、30ppm以下とすることにより有機半導体材料を有機薄膜とした際に優れた移動度を有する有機薄膜となる。
【0027】
又、一般式(1)で示される化合物を含む有機半導体材料中にポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリメチルメタクリレート等のポリマーをバインダーとして存在させることもできる。該ポリマーの使用量は一般式(1)で示される化合物に対して、1〜1000重量%であることが好ましい。
【0028】
なお、好適な塗布性を得るために、本発明の一般式(1)で示される化合物を含む有機半導体材料の粘度は、0.005〜20ポアズの範囲にあることが好ましい。
【0029】
(有機半導体材料の製造方法)
本発明の水分濃度が30ppm以下である有機半導体材料の製造方法としては、好ましくは一般式(1)で示される化合物を脱水剤と混合させる方法が好ましい。
【0030】
製造方法で用いられる脱水剤は脱水作用をもつものであれば特に限定はなく、例えば、ゼオライト、アルミナ、シリカ、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等を挙げることができ、好ましくはゼオライト、アルミナ、シリカであり、特に好ましくはゼオライトである。ここでゼオライトとは、天然及び合成ゼオライトを意味し、モレキュラーシーブスと言われているものであってもよい。
【0031】
用いるゼオライトは水を吸着する能力があるものであれば特に限定はなく、具体的には、例えばA型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、T型ゼオライト、モルデナイト、フェリエライト、ZSM−5、シリカライト等を好適なものとして挙げることができる。該ゼオライトのシリカ/アルミナ比は0.5〜1000が好ましく、特に好ましくは1〜100である。一般式(1)で示される化合物と脱水剤を混合させる場合、溶液状態で行うことが好ましく、該溶液の調製に用いる溶剤は、特に限定はなく、例えばo−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤;THF、ジオキサン等のエーテル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン、ビフェニル、エチルベンゼン、オクチルベンゼン等の芳香族の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤;等が挙げられる。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。中でも、好ましくはクロロホルム、クロロベンゼン、トルエン、キシレン等である。
【0032】
上記に挙げた脱水剤、溶剤、及び一般式(1)で示される化合物を混合することにより、本発明の一般式(1)で示される化合物を含む有機半導体材料を製造する。混合する際の温度は0〜80℃が好ましく、特に好ましくは10〜50℃である。混合時間は混合方法により異なりその中でも、1分〜2日が好ましい。混合方法は特に限定はなく、例えば容器中に一般式(1)で示される化合物及び溶媒を添加し溶解後、脱水剤を添加し、静置する、又は脱水剤を充填したカラムに一般式(1)で示される化合物と溶媒からなる溶液を通過させる等の方法を採用することができる。混合する際の一般式(1)で示される化合物の濃度は、溶剤及び温度により変えることができ、溶剤に対し0.01〜10.0重量%であることが好ましい。脱水剤の使用量は混合方法及び混合時間により異なり、一般式(1)で示される化合物に対し、1〜10,000重量%が好ましく、特に好ましくは20〜5,000重量%である。溶液の調製は空気中でも実施することができるが、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で調製する。脱水操作が終了した後は、さらに濾過することで該脱水剤を除去し、溶液部分のみを取り出すことができる。
【0033】
脱水剤は予め焼成処理した後、使用することが好ましい。焼成温度は200〜1000℃が好ましく、特に好ましくは300〜800℃、加熱時間は1〜24時間が好ましく、特に好ましくは3〜20時間である。
【0034】
本発明の有機半導体材料の製造方法により、該材料の水分濃度を30ppm以下、好ましくは20ppm以下に低減することができる。
【0035】
(有機薄膜)
次に本発明の有機半導体材料を用いた有機薄膜について述べる。係る有機薄膜は上記の有機半導体材料を基板へ塗布することにより製造することができる。
【0036】
基板への塗布による有機薄膜の製造は、前記有機半導体材料を基板上に塗布した後、加熱、気流及び自然乾燥等の方法により溶剤を気化させることで実施することができる。該溶液中の一般式(1)で示される化合物の濃度は、特に限定はなく、例えば0.01〜10.0重量%であることが好ましい。塗布温度は特に限定はなく、例えば20〜150℃の間で好適に実施することができる。塗布の具体的方法は特に限定はなく、公知の方法、例えばスピンコート、キャストコート及びディップコート等を用いることができる。さらにスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷等の印刷技術を用いても作製することが可能である。使用する基板の材料は特に限定はなく、結晶性、非結晶性の種々の材料を用いることができる。基板の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマル酸)、ポリ(ジエチルフマル酸)、ポリ(ジイソプロピルマレイン酸)等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属基板を好適に用いることができる。またこれらの基板の表面は、例えばオクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、β−フェネチルトリクロロシラン等のシラン類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものであっても使用することができる。さらに、基板は絶縁性あるいは誘電性を有する材料であっても良い。塗布した後の溶剤の乾燥は、常圧若しくは減圧で除去することができる。又、加熱、窒素気流により乾燥してもよい。さらに、溶剤の気化速度を調節することで本発明の一般式(1)で示される化合物の結晶成長を制御することができる。基板への塗布により得られる有機薄膜の膜厚は特に限定はなく、好ましくは1nm〜100μm、特に好ましくは10nm〜20μmである。
【発明の効果】
【0037】
本発明の含有水分の極めて少ない有機半導体材料を用いることにより、有機トランジスタの移動度及び電流オン・オフ比等の電気物性を向上させることが可能となった。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
生成物の同定にはH−NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H−NMRスペクトルの測定は日本電子製JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いた。マススペクトル(MS)は日本電子製JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)で測定した。
【0040】
反応の進行の確認等は薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析を用いた。
【0041】
ガスクロマトグラフィー分析
装置 島津GC14B
カラム J&Wサイエンティフィック社製、DB−1,30m
ガスクロマトグラフィー−マススペクトル分析
装置 パーキンエルマーオートシステムXL(MS部;ターボマスゴールド)
カラム J&Wサイエンティフィック社製、DB−1,30m
反応用の試薬及び溶媒は、断りのない限り市販品を用いた。なお、グリニャール試薬あるいはブチルリチウム等の有機金属試薬を用いた場合は、市販の脱水溶媒をそのまま用いた。
【0042】
合成例1 (テトラ(ペンタデシル)アントラチエノアントラチオフェンの合成)(一般式(1)、環A=(A−1)の化合物の合成)
テトラ(ペンタデシル)アントラチエノアントラチオフェンは特開2009−196975号公報に従い、以下の様に合成した。
【0043】
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に1,2−ビス{6,7−ジ(ペンタデシル)−3−メチルチオ−2−アントリル}エチレン36.3mg(0.0276mmol)、ヨウ素225mg(0.886mmol)、及びクロロホルム2.5mlを添加した。得られた混合物を加熱還流下で20時間反応を行った。室温に冷却後、飽和亜硫酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、全体を濾過した。フィルター上に残った固体を水、クロロホルムで洗浄し、さらにトルエンから再結晶精製し、テトラ(ペンタデシル)アントラチエノアントラチオフェンの赤色固体6.0mgを得た(収率17%)。
H NMR(CDCl,50℃):δ=8.47(s,4H),8.41(s,2H),8.37(s,2H),7.76(s,4H),2.81(t,J=7.8Hz,8H),1.82−1.66(m,8H),1.58−1.10(m,96H),0.88(t,J=6.6Hz,12H)。
【0044】
得られた生成物の構造式を下記に示す。
【0045】
【化8】

合成例2 (2,7−ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェンの合成)(一般式(1)、環A=(A−1)の化合物の合成)
2,7−ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェンは「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティー」(米国)、2007年、129巻、15732−15733頁の方法に従い、以下の様に合成した。
【0046】
窒素雰囲気下、300mlシュレンク反応容器に2,7−ジドデカノイルベンゾチエノベンジチオフェン1.21g(2.00mmol)、水酸化カリウム617mg(11mmol)、ヒドラジン・水和物6.1ml、及びジエチレングリコール90mlを添加した。得られた混合物を100℃で1時間加熱し、さらに210℃で5時間反応を行った。得られた反応混合物を室温に冷却後、得られた沈殿物を濾過し、水とメタノールで洗浄した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶離液;ヘキサン)、さらにヘキサンから再結晶精製し、2,7−ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェンの白色固体381mgを得た(収率33%)。
【0047】
得られた生成物の構造式を下記に示す。
【0048】
【化9】

合成例3 (6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンの合成)(一般式(1)、環A=(A−3)の化合物の合成)
6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンは「アドバンスト マテリアルズ」、2003年、15巻、2009−2011頁の方法に従い、以下の様に合成した。
【0049】
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にトリイソプロピルシリルアセチレン(シグマ−アルドリッチ製)2.2ml(1.79g、9.80mmol)及びTHF50mlを添加した。この溶液を氷冷し、n−ブチルリチウム(関東化学製、1.61M)のヘキサン溶液5.5ml(8.8mmol)を滴下した。20分間室温で撹拌後、6,13−ペンタセンキノン(シグマ−アルドリッチ製)500mg(1.62mmol)を投入した。混合物を室温で18時間撹拌後、水0.5ml及び塩化スズ(II)600mg(3.16mmol)を添加した。さらに30分間撹拌後、反応混合物をヘキサン中へ投入し、4M塩酸水溶液及び水で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン→ヘキサン:ジクロロメタン=9:1)、さらにヘキサンから再結晶精製し、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンの濃青色固体517mgを得た(収率50%)。
【0050】
得られた生成物の構造式を下記に示す。
【0051】
【化10】

実施例1 (有機半導体材料及び有機薄膜の作製)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク容器に市販の脱水トルエン5.4gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへ合成例1で合成したテトラ(ペンタデシル)アントラチエノアントラチオフェンの赤色固体6.0mg及び脱水剤として450℃で10時間焼成済みのゼオライト0.3gを添加し、70℃に加熱し化合物を溶解させた後一晩静置し、テトラ(ペンタデシル)アントラチエノアントラチオフェンを含む有機半導体材料を作製した(橙色溶液)。カールフィッシャー法により水分測定を行い、該溶液の水分濃度は2.5ppmであった。
【0052】
窒素雰囲気下、直径2インチのシリコン基板(セミテック製、抵抗値;0.001〜0.004Ω、表面に200nmのシリコン酸化膜付き)を70℃に加熱し、この基板上に上記の溶液の70℃に加熱溶解後の上澄みを0.2μmのフィルターを通した後、シリンジを用いて塗布し常圧下で乾燥し、膜厚65nmの有機薄膜を作製した。
【0053】
該有機薄膜にチャネル長15μm、チャネル幅500μmのニッケル製マスクを置き、金を真空蒸着することで電極を形成し、トップコンタクト型のトランジスタを作製した。その伝達特性から正孔の移動度は0.34cm/V・s、電流オン・オフ比は2.7×10であった。
【0054】
実施例2 (有機半導体材料及び有機薄膜の作製)
実施例1でゼオライト0.1g用いた以外は同じ操作を繰り返した。その場合の有機半導体材料の水分濃度は20ppmで、正孔移動度は0.22cm/V・s、電流オン・オフ比は8.5×10であった。
【0055】
比較例1 (有機半導体材料の合成及び有機薄膜の作製)
実施例1でゼオライトを用いなかった以外は同じ操作を繰り返した。その場合の有機半導体材料の水分濃度は68ppmで、正孔移動度は0.04cm/V・s、電流オン・オフ比は1.5×10であった。
【0056】
比較例2 (有機半導体材料の合成及び有機薄膜の作製)
実施例1で水素化カルシウムから蒸留脱水精製したトルエンを用い、ゼオライトを用いなかった以外は同じ操作を繰り返した。その場合の有機半導体材料の水分濃度は38ppmで、正孔移動度は0.09cm/V・s、電流オン・オフ比は6.5×10であった。
【0057】
実施例3 (有機半導体材料及び有機薄膜の作製)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク容器に市販の脱水トルエン5.6gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへ合成例2で合成した2,7−ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェンの白色固体24.0mg及び脱水剤として450℃で10時間焼成済みのゼオライト0.5gを添加し、室温で化合物を溶解させた後一晩静置し、2,7−ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェンを含む有機半導体材料を作製製造した(無色溶液)。カールフィッシャー法により水分測定を行い、該溶液の水分濃度は2.2ppmであった。
【0058】
窒素雰囲気下、直径2インチのシリコン基板(セミテック製、抵抗値;0.001〜0.004Ω、表面に200nmのシリコン酸化膜付き)を70℃に加熱し、この基板上に上記の溶液の上澄みを0.2μmのフィルターを通した後、シリンジを用いて塗布し常圧下で乾燥し、膜厚87nmの有機薄膜を作製した。
【0059】
該有機薄膜にチャネル長15μm、チャネル幅500μmのニッケル製マスクを置き、金を真空蒸着することで電極を形成し、トップコンタクト型のトランジスタを作製した。その伝達特性から正孔の移動度は0.56cm/V・s、電流オン・オフ比は3.8×10であった。
【0060】
比較例3 (有機半導体材料の合成及び有機薄膜の作製)
実施例3でゼオライトを用いなかった以外は同じ操作を繰り返した。その場合の有機半導体材料の水分濃度は61ppmで、正孔移動度は0.12cm/V・s、電流オン・オフ比は7.6×10であった。
【0061】
実施例4 (有機半導体材料の合成及び有機薄膜の作製)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク容器に市販の脱水トルエン5.9gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへ合成例3で合成した6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンの濃青色固体27.0mg及び脱水剤として450℃で10時間焼成済みのゼオライト0.5gを添加し、室温で化合物を溶解させた後一晩静置し、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンを含む有機半導体材料を作製した(赤紫色溶液)。カールフィッシャー法により水分測定を行い、該溶液の水分濃度は2.8ppmであった。
【0062】
窒素雰囲気下、直径2インチのシリコン基板(セミテック製、抵抗値;0.001〜0.004Ω、表面に200nmのシリコン酸化膜付き)を70℃に加熱し、この基板上に上記の溶液の上澄みを0.2μmのフィルターを通した後、シリンジを用いて塗布し常圧下で乾燥し、膜厚81nmの有機薄膜を作製した。
【0063】
該有機薄膜にチャネル長15μm、チャネル幅500μmのニッケル製マスクを置き、金を真空蒸着することで電極を形成し、トップコンタクト型のトランジスタを作製した。その伝達特性から正孔の移動度は0.28cm/V・s、電流オン・オフ比は7.9×10であった。
【0064】
比較例4 (有機半導体材料の合成及び有機薄膜の作製)
実施例4でゼオライトを用いなかった以外は同じ操作を繰り返した。その場合の有機半導体材料の水分濃度は59ppmで、正孔移動度は0.04cm/V・s、電流オン・オフ比は1.7×10であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物を含み水分濃度が30ppm以下であることを特徴とする有機半導体材料
【化1】

(ここで、置換基R〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基を示し、記号m〜pは0又は1の整数であり、環Aは下記一般式(A−1)、(A−2)、又は(A−3)である。)
【化2】

【化3】

【化4】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基を示す。)
【請求項2】
一般式(1)で示される化合物と脱水剤とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料の製造方法。
【請求項3】
脱水剤がゼオライト、アルミナ、シリカであることを特徴とする請求項2に記載の有機半導体材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の有機半導体材料を用いることを特徴とする有機薄膜。

【公開番号】特開2011−134757(P2011−134757A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290443(P2009−290443)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】