説明

有機層の形成方法及びガスバリア性プラスチックフィルム

【課題】安価な設備で無色透明な有機層を形成する方法を提供するとともに、従来よりも高いガスバリア性能を持ちかつ曲げてもそのバリア性能が劣化しない透明フィルムを提供する。
【解決手段】熱重量分析による5%重量減少温度の差が30℃以内である光重合性モノマーと光重合開始剤を含む混合物を基材上に蒸着させ、UV架橋させる有機層の形成方法、及び、高分子材料からなる基材の少なくとも片面に、前記方法で形成された有機層と無機層とが交互に少なくとも一層以上積層されたガスバリア性プラスチックフィルム。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学部材、エレクトロニクス部材、一般包装部材、薬品包装部材などの幅広い用途に応用が可能な透明でガスバリア性の高いプラスチックフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、プラスチック基板やフィルムの表面に酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物の薄膜を形成したガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。また、包装用途以外にも液晶表示素子、太陽電池、エレクトロルミネッセンス(EL)基板等で使用されている。特に液晶表示素子やEL素子などへの応用が進んでいる透明基材には、近年、軽量化、大型化という要求に加え、長期信頼性や形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わり、重くて割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって透明プラスチック等のフィルム基材が採用され始めている。また、プラスチックフィルムは上記要求に応えるだけでなく、ロールトゥロール方式が可能であることからガラスよりも生産性が良くコストダウンの点でも有利である。
【0003】しかしながら、透明プラスチック等のフィルム基材はガラスに対しガスバリア性が劣るという問題がある。ガスバリア性が劣る基材を用いると、水蒸気や空気が浸透し、例えば液晶セル内の液晶を劣化させ、表示欠陥となって表示品位を劣化させてしまう。この様な問題を解決するためにフィルム基板上に金属酸化物薄膜を形成してガスバリア性フィルム基材とすることが知られている。包装材や液晶表示素子に使用されるガスバリア性フィルムとしてはプラスチックフィルム上に酸化珪素を蒸着したもの(特公昭53-12953号公報)や酸化アルミニウムを蒸着したもの(特開昭58-217344号公報)が知られており、いずれも1g/m2/day程度の水蒸気バリア性を有する。近年では、液晶ディスプレイの大型化、高精細ディスプレイ等の開発によりフィルム基板へのガスバリア性能について水蒸気バリアで0.1g/m2/day程度まで要求が上がってきている。これに応えるためにより高いバリア性能が期待できる手段としてスパッタリング法やCVD法による成膜検討が行われている。
【0004】ところが、ごく近年においてさらなるバリア性を要求される有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイなどの開発が進み、これに使用可能な透明性を維持しつつもさらなる高バリア性、特に水蒸気バリアで0.1g/m2/day未満の性能をもつ基材が要求されるようになってきた。これらの要求に対し、有機層/無機層の交互多層積層構造を有するバリア膜を真空蒸着法により作製する技術がWO 00/26973に提案されている。ドライプロセスである有機層の真空蒸着は、■溶媒を使用しないため高純度の有機物薄膜が得られる、■薄膜が容易に得られ膜厚制御性が良い、■異物などのコンタミが入りにくいなどの特徴を有している。また、有機層を真空下で形成できれば有機層/無機層を交互に積層する際に必要な常圧−真空を繰り返す工程を省くことができ、生産性も向上する。しかしながら、フレキシブル表示デバイスとしては曲面表示の要望もあり、有機層/無機層の交互多層積層構造を有するバリア膜の曲げに対するバリア性能は、従来技術では不十分であった。また、真空蒸着での有機層の形成方法としては、プラズマ重合法や蒸着重合法などがあり、蒸着重合には、電子線で架橋する方法やUVで架橋する方法などがある。しかしながら、プラズマ重合では着色する傾向がある。一方、蒸着重合では、無色透明な有機層を形成することが可能であるが、電子線架橋では一般的に装置が大がかりになる。UV架橋では安価な設備で無色透明な有機層を形成することができるが、光重合性モノマーと光開始剤を均一に蒸着することが困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、安価な設備で無色透明な有機層を形成する方法を提供するとともに、従来よりも高いガスバリア性能を持ちかつ曲げてもそのバリア性能が劣化しない透明フィルムを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、熱重量分析による5%重量減少温度の差が30℃以内である光重合性モノマーと光重合開始剤を含む混合物を基材上に蒸着させ、UV架橋させる有機層の形成方法が安価な設備で無色透明な有機層を形成する方法であり、この形成方法により形成された有機層と無機層とが交互に少なくとも一層以上積層されたガスバリア性プラスチックフィルムが、従来よりも高いガスバリア性能を持ちかつ曲げてもそのバリア性能が劣化しない透明フィルムであるとの知見を得て本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、(1)熱重量分析による5%重量減少温度の差が30℃以内である光重合性モノマーと光重合開始剤を含む混合物を基材上に蒸着させ、UV架橋させる有機層の形成方法。
(2)前記光重合性モノマーが、熱重量分析による5%重量減少温度が155℃〜300℃であることを特徴とする(1)の有機層の形成方法。
(3)前記光重合性モノマーが、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する1種以上のモノマーであることを特徴とする(1)〜(2)の有機層の形成方法。
(4)前記光重合性モノマーが、2官能以上のアクリロイル基を有する1種類以上のモノマーであることを特徴とする(1)〜(2)の有機層の形成方法。
(5)前記光重合性モノマーが、脂環式ジアクリレートまたは環状エーテル構造を有するジアクリレートであることを特徴とする(1)〜(2)の有機層の形成方法。
(6)脂環式ジアクリレートがジシクロペンタジエニルジアクリレートであることを特徴とする(5)の有機層の形成方法。
(7)環状エーテル構造を有するジアクリレートがネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートであることを特徴とする(5)の有機層の形成方法。
(8)前記光重合開始剤がラジカル重合開始剤であることを特徴とする(1)〜(7)の有機層の形成方法。
(9)高分子材料からなる基材の少なくとも片面に、(1)〜(8)の方法で形成された有機層と無機層とが交互に少なくとも一層以上積層されたガスバリア性プラスチックフィルム。
(10)前記有機層の厚みが10nm〜5000nmである(9)のガスバリア性プラスチックフィルム。
(11)前記無機層が珪素酸化物または珪素窒化物または珪素窒化酸化物を主成分とする(9)又は(10)のガスバリア性プラスチックフィルム。
(12)前記高分子材料からなる基材がノルボルネン系樹脂またはポリエーテルスルホンを主成分とする(9)〜(11)のガスバリア性プラスチックフィルム。
である。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明における熱重量分析による5%重量減少温度とは、セイコー電子工業(株)製示差熱熱重量同時測定装置TG−DTA320を用いて、窒素ガス流量300mL/minの下、1分間に10℃の割合で温度を室温から上昇させた時に試料の重量が全体の5%減少した時点の温度を示している。本発明においては、光重合性モノマーと光重合開始剤の熱重量分析による5%重量減少温度の差が30℃以下である必要がある。好ましくは20℃以下であり、さらに好ましくは15℃以下である。光重合性モノマーと光重合開始剤の熱重量分析による5%重量減少温度の差が30℃を超えると、揮発性に差があるため光重合性モノマーと光重合開始剤を均一に蒸着させることが困難となる。すなわち、光重合開始剤の熱重量分析による5%重量減少温度が光重合性モノマーよりも30℃以上高いと蒸着物中の光重合開始剤の割合が少なくなり、UVでの硬化が不十分になるおそれがある。一方、光重合性モノマーの熱重量分析による5%重量減少温度が光重合開始剤よりも30℃以上高いと蒸着物中の光重合開始剤の割合は、初期は多く次第に少なくなるなど不均一となり、硬化が不均一な有機層となるおそれがある。
【0008】本発明の光重合性モノマーは、特に限定されるものではなく、UVなどの光によって重合できるモノマーであればよい。具体的にはアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーやエポキシ基を有するモノマーなどがあげられ、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーが好ましく、2官能以上のアクリロイル基を有するモノマーが特に好ましい。2官能以上のアクリロイル基を有するモノマーとしては、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、ジシクロペンタジエニルジアクリレート、ノルボルナンジメチロールジアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、イソシアヌル酸アクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、トリメチロールプロパンアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレートなどが挙げられる。これらの中で熱重量分析による5%重量減少温度が155℃〜300℃であるものがより好ましく、例えば、ジシクロペンタジエニルジアクリレートやノルボルナンジメチロールジアクリレートなどの脂環式ジアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートなどの環状エーテル構造を有するジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。透明性や耐熱性の面から脂環式ジアクリレートの中でも下記式(1)に示されるジシクロペンタジエニルジアクリレートが特に好ましく、環状エーテル構造を有するジアクリレートの中でも下記式(2)に示されるネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートが特に好ましい。光重合性モノマーは単独で用いても、2種類以上を混合しても良く、また1官能の光重合性モノマーを併用して用いてもかまわない。
【化3】


【化4】


【0009】本発明で用いられる光重合開始剤は特に限定されるものではなく、熱重量分析における5%重量減少温度差が光重合性モノマーと30℃以下であれば良い。光重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤やカチオン性重合開始剤等を用いることができるが、ラジカル重合開始剤がより好ましい。例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0010】本発明において、光重合開始剤の含有量は光重合性モノマー100重量部に対し0.1〜10重量部が好ましい。より好ましくは0.5〜7重量部であり、最も好ましくは0.8〜5重量部である。光重合開始剤の含有量が0.1重量部より少なくなると硬化が不十分となるおそれがある。一方、光重合開始剤の含有量が10重量部を超えると硬化は起こるものの脆い有機層となるおそれがある。
【0011】本発明によれば、高分子材料からなる基材上に熱重量分析による5%重量減少温度差が30℃以下の光重合性モノマーと光重合開始剤からなる混合物を蒸着により成膜し、直ちにUV等を照射することによって高分子の有機層を形成させ、次に有機層の表面に無機層を真空製膜法により形成させる工程を繰り返すことで大気下にフィルム表面を曝すことなく有機と無機の交互積層バリア膜を形成させることができる。この方法により無機層だけでは無くしきれない層構造の欠陥部分を有機層で埋める事が可能であるため、ガスバリア性を高めた透明フィルムを得ることができる。
【0012】本発明の有機層の厚みは、10nm〜5000nmが好ましい。有機層の厚みが10nmより小さい場合は、有機層の厚みの均一性を得ることが困難となるため、無機層の構造欠陥を効率よく有機層で埋めることができない場合がある。また、5000nmを越える厚みの場合は、曲げ等の外力により有機層がクラックを発生し易くなるためバリア性が低下するおそれがある。
【0013】本発明の無機層に関して特に制限はないが、例えばSi、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce等の1種以上を含む酸化物もしくは窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。無機層は厚すぎると曲げ応力によるクラックの恐れがあり、薄すぎると膜が島状に分布するため、いずれもガスバリア性が悪くなる。上記のことより、それぞれの無機層の厚みは5nm〜500nmの範囲が好ましいが、特に限定はしない。また、それぞれの無機層は同じ組成でも別の組成でも良く制限はない。ガスバリア性と高透明性を両立させるには無機層として珪素酸化物、珪素窒化物や珪素酸化窒化物を使うのが好ましい。また、無機層の形成方法としては抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法が適用でき、目的の無機酸化物、無機窒化物、無機窒化酸化物が得られる方法であれば制限はない。
【0014】本発明の高分子材料からなる基材として特に制限はないが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン等を使用することができる。特に、ガラス転移温度が200℃以上のノルボルネン系樹脂やポリエーテルスルホンは光学特性が良好で耐熱性が高く、有機層無機層形成プロセスにおいて高温処理による変形や劣化が無いので好ましい。
【0015】
【実施例】以下本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は、何ら下記実施例に限定されるものではない。
(実施例1)光重合開始剤(イルカ゛キュアー907:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、5%重量減少温度:207.7℃)を3wt%(3.1重量部)含有する2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレート(アロニックスM-203:東亞合成(株)製、5%重量減少温度: 196.5℃)を蒸着源に入れ、基材としてポリエーテルスルホンを真空槽内にセットした。真空槽内を10-4Pa台まで真空引きした後に、有機蒸着源の抵抗加熱を開始し、不純物の蒸発が完了したところで蒸着シャッターを開き2000nmの有機層を蒸着した。その後、500mJ/cm2の積算光量のUVを照射し、有機層を形成した。有機層は、外観評価にて硬化状態を観察した。
【0016】(実施例2)実施例1で使用した2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレートの代わりに、2官能のネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート(KAYARAD R-604:日本化薬(株)製、5%重量減少温度:174.3℃)を、光重合開始剤をイルガキュア−907の代わりにイルガキュア−651(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、5%重量減少温度:167.8℃)を用いた他は実施例1と同様に、蒸着膜作製及び評価を行った。
【0017】(実施例3)実施例1で使用した2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレートの代わりに、2官能のカプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(KAYARAD HX-220:日本化薬(株)製、5%重量減少温度:198.8℃)を用いた他は実施例1と同様に、蒸着膜作製及び評価を行った。
【0018】(実施例4)実施例1で使用した2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレートの代わりに、2官能のノルボルナンジメチロールジアクリレート(東亞合成(株)製、5%重量減少温度: 161.4℃)を、光重合開始剤をイルガキュア−907の代わりにイルガキュア−651(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を用いた他は実施例1と同様に、蒸着膜作製及び評価を行った。
【0019】(実施例5)抵抗加熱端子及び電子銃を備えた真空蒸着機内に高圧水銀UVランプを取り付け成膜装置とした。無機層として珪素窒化酸化物を用い、有機層として2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレートに光重合開始剤(イルガキュア−907:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を1wt%(1.0重量部)添加した未硬化樹脂を用いた。樹脂基板として0.1mm厚のポリエーテルスルホンを真空槽内にセットし10-4Pa台まで真空引きした後に、電子線蒸着法により30nmの珪素窒化酸化物膜を形成した。その後、真空槽内の真空度が10-4Pa台で安定した状態で、有機蒸着源の抵抗加熱を開始し、不純物の蒸発が完了したところで蒸着シャッターを開き500nmの有機層を蒸着した。蒸着シャッターを戻した後にUVランプのシャッターを開き、500mJ/cm2の積算光量でモノマーを硬化した。その後さらに電子線蒸着法による30nmの珪素窒化酸化物膜形成を繰り返し、樹脂基板/無機層/有機層/無機層のガスバリア性プラスチックフィルムを成膜した。水蒸気透過度をJIS K 7129 B法にて測定した。
【0020】(実施例6)実施例5で樹脂基板として使用したポリエーテルスルホンの代わりにノルボルネン樹脂(Promerus社製、Appear)を用いた他は実施例5と同様に樹脂基板/無機層/有機層/無機層のガスバリア性プラスチックフィルムを成膜した。水蒸気透過度の測定についても実施例5と同様に行った。
【0021】(実施例7)実施例5で使用したジシクロペンタジエニルジアクリレートの代わりに、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート(KAYARAD R−604:日本化薬(株)製)を、光重合開始剤をイルガキュア−907の代わりにイルガキュア−651(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を用いた他は実施例5と同様に樹脂基板/無機層/有機層/無機層のガスバリア性プラスチックフィルムを成膜した。水蒸気透過度の測定についても実施例5と同様に行った。
【0022】(実施例8)実施例5で使用したジシクロペンタジエニルジアクリレートの代わりに、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート(KAYARAD R−604:日本化薬(株)製)を、光重合開始剤をイルガキュア−907の代わりにイルガキュア−651(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を、樹脂基板としてポリエーテルスルホンの代わりにノルボルネン樹脂(Promerus社製、Appear)を用いた他は実施例5と同様に樹脂基板/無機層/有機層/無機層のガスバリア性プラスチックフィルムを成膜した。水蒸気透過度の測定についても実施例5と同様に行った。
【0023】(比較例1)実施例1で使用した2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレート(アロニックスM-203:東亞合成(株)製)に、ダロキュア−1173(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、5%重量減少温度:102.4℃)を用いた他は実施例1と同様に、蒸着膜作製及び評価を行った。
【0024】(比較例2)実施例2で使用した2官能のネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート(KAYARAD R-604:日本化薬(株)製)に、イルガキュア−819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、5%重量減少温度:257.9℃)を用いた他は実施例1と同様に、蒸着膜作製及び評価を行った。
【0025】(比較例3)実施例1で使用した2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレートの代わりに、2官能のヘキサンジオールジアクリレート(東亞合成(株)製、5%重量減少温度:142.6℃)を用いた他は実施例1と同様に、蒸着膜作製及び評価を行った。
【0026】(比較例4)実施例1で使用した2官能のジシクロペンタジエニルジアクリレートの代わりに、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート(ロニックスM-400:東亞合成(株)製、5%重量減少温度:382.3℃)を用いた他は実施例1と同様に、蒸着膜作製及び評価を行った。
【0027】(比較例5)抵抗加熱端子及び電子銃を備えた真空蒸着機内に高圧水銀UVランプを取り付け成膜装置とした。無機層として珪素窒化酸化物を用いた。樹脂基板として0.1mm厚のポリエーテルスルホンを真空槽内にセットし10-4Pa台まで真空引きした後に、電子線蒸着法により30nmの珪素窒化酸化物膜を形成し、樹脂基板/無機層のガスバリア性プラスチックフィルムを成膜した。水蒸気透過度の測定については実施例5と同様に行った。
【0028】(比較例6)比較例5で樹脂基板として使用したポリエーテルスルホンの代わりにノルボルネン樹脂(Promerus社製、Appear)を用いた他は比較例5と同様に樹脂基板/無機層のガスバリア性プラスチックフィルムを成膜した。水蒸気透過度の測定については実施例5と同様に行った。
【0029】(評価方法)
a) 5%重量減少温度セイコー電子工業(株)製示差熱熱重量同時測定装置TG−DTA320で測定し、窒素ガス流量300mL/minの下、1分間に10℃の割合で温度を室温から上昇させた時に試料の重量が全体の5%減少した時点の温度を5%重量減少温度とした。
【0030】b)外観評価 実施例1〜4及び比較例1〜4にて作製した蒸着膜(有機層)の硬化状態を目視にて観察した。2000nmの膜厚で蒸着でき、かつ正常に硬化しているもののみ○とした。
【0031】c)水蒸気透過度 実施例5〜8及び比較例5〜6にて作製したガスバリア性プラスチックフィルムの水蒸気透過度を、Modern Controls社製PERMATRAN-W 3/31を用いて、JIS K 7129 B法にて測定した。
【0032】(結果)外観および水蒸気透過度の評価結果を表1及び表2に示す。熱重量分析による5%重量減少温度差については、光重合性モノマーの熱重量分析による5%重量減少温度から光重合開始剤の熱重量分析による5%重量減少温度を引いた値を示している。本発明の実施例では、何れも有機層が蒸着可能でかつ硬化し、水蒸気透過度も良好であった。これに対し、光重合性モノマーの熱重量分析による5%重量減少温度が光重合開始剤の5%重量減少温度よりも94.1℃高い比較例1では、硬化はするものの非常に脆く、使用することはできなかった。一方、光重合性モノマーの熱重量分析による5%重量減少温度が光重合開始剤の5%重量減少温度よりも83.6℃低い比較例2では、硬化が不十分であった。また、光重合性モノマーの熱重量分析による5%重量減少温度が142.6℃である比較例3では、揮発した有機物が基材にほとんど付着せず、光重合性モノマーの熱重量分析による5%重量減少温度が382.3℃である比較例4では、逆にほとんど揮発せず蒸着源で硬化してしまった。また、樹脂基板に直接無機層を積層させた比較例5及び6では、本発明の請求項9に対応する実施例5〜8に比し、水蒸気透過度が高く、ガスバリア性が悪かった。
【0033】
【表1】


【0034】
【表2】


【0035】
【発明の効果】本発明は、無色透明で均一に架橋した有機層を形成できる。また、本発明の方法で形成した有機層を用いることにより、従来よりも高いガスバリア性能を持ちかつ曲げてもそのバリア性能が劣化しない透明フィルムを提供することができる。本発明のフィルムをたとえば表示素子用基板として適用すれば、軽くて割れないディスプレイが実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱重量分析による5%重量減少温度の差が30℃以内である光重合性モノマーと光重合開始剤を含む混合物を基材上に蒸着させ、UV架橋させる有機層の形成方法。
【請求項2】 前記光重合性モノマーが、熱重量分析による5%重量減少温度が155℃〜300℃であることを特徴とする請求項1記載の有機層の形成方法。
【請求項3】 前記光重合性モノマーが、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する1種以上のモノマーであることを特徴とする請求項1又は2記載の有機層の形成方法
【請求項4】 前記光重合性モノマーが、2官能以上のアクリロイル基を有する1種類以上のモノマーであることを特徴とする請求項1又は2記載の有機層の形成方法。
【請求項5】 前記光重合性モノマーが、脂環式ジアクリレートまたは環状エーテル構造を有するジアクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の有機層の形成方法。
【請求項6】 脂環式ジアクリレートが下記式(1)に示されるジシクロペンタジエニルジアクリレートであることを特徴とする請求項5記載の有機層の形成方法。
【化1】


【請求項7】 環状エーテル構造を有するジアクリレートが下記式(2)に示されるネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートであることを特徴とする請求項5記載の有機層の形成方法。
【化2】


【請求項8】 前記光重合開始剤がラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項1〜7何れか一項記載の有機層の形成方法。
【請求項9】高分子材料からなる基材の少なくとも片面に、請求項1〜8何れか一項記載の方法で形成された有機層と無機層とが交互に少なくとも一層以上積層されたガスバリア性プラスチックフィルム。
【請求項10】前記有機層の厚みが10nm〜5000nmである請求項9記載のガスバリア性プラスチックフィルム。
【請求項11】 前記無機層が珪素酸化物または珪素窒化物または珪素窒化酸化物を主成分とする請求項9又は10記載のガスバリア性プラスチックフィルム。
【請求項12】 前記高分子材料からなる基材がノルボルネン系樹脂またはポリエーテルスルホンを主成分とする請求項9〜11何れか一項記載のガスバリア性プラスチックフィルム。

【公開番号】特開2003−335880(P2003−335880A)
【公開日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−371281(P2002−371281)
【出願日】平成14年12月24日(2002.12.24)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】