説明

有機性廃液の嫌気性消化処理方法及び装置

【課題】高い有機物負荷においても、加温エネルギーや凝集剤使用量を増加させることなく、有機成分を減量化することができるとともに、メタンガス回収量を多くすることができる有機性廃液の嫌気性処理装置を提供する。
【解決手段】有機性汚泥(有機性廃液)は高温消化槽1に導入され、45〜95℃にて嫌気性消化処理される。この高温消化槽1の消化汚泥が中温消化槽2に導入され、25〜40℃にて嫌気性消化処理される。この中温消化槽2の消化汚泥の一部を引き抜き、固液分離装置3で濃縮する。固液分離装置3からの液分は系外に取り出される。濃縮された汚泥の一部は、返送配管4を介して中温消化槽2へ返送される。また、中温消化槽2からの消化汚泥の一部を配管5で引き抜いて、改質装置6で改質する。改質汚泥は、返送配管7を介して高温嫌気性消化槽1に返送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃液を嫌気性消化する方法及び装置に係り、特に、有機性廃液の消化効率を高めてメタンガスの回収量を多くすることができる有機性廃液の嫌気性消化処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性汚泥、し尿、食品工場廃水等のスラリー状の高濃度有機性汚泥を嫌気性微生物の存在下に消化処理して減量化する方法は、古くから行われている。
【0003】
特開平9−206785号公報には、有機性廃液を嫌気性消化槽において嫌気性消化処理した後、消化汚泥を固液分離して分離液を処理水として放流し、分離汚泥(濃縮汚泥)を嫌気性消化槽に返送し、また、消化汚泥の一部をオゾン処理することにより改質して嫌気性消化槽に返送する有機性廃液の嫌気性消化方法が記載されている。この方法では、消化汚泥を固液分離して分離汚泥を嫌気性消化槽に返送することにより、嫌気性微生物の滞留時間を確保すると共に、消化汚泥の他の一部をオゾン処理して易生物分解性に改質した後嫌気性消化槽に返送することにより、嫌気性微生物の基質として再び分解させて、消化率(汚泥の減量率)を高め、メタンガスの回収量を多くすることができる。
【特許文献1】特開平9−206785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特開平9−206785号公報の装置では、メタンガスの回収率を高めるために、嫌気性消化槽での汚泥の滞留時間を保って嫌気性消化処理の効率を低下させないようにしながら、改質処理する汚泥量を増加させる必要がある。そのためには、消化汚泥の一部を固液分離し、分離液を処理水として排出するとともに分離された高濃度汚泥(濃縮汚泥)を嫌気性消化槽に返送するように構成し、嫌気性消化槽の汚泥保持量及び汚泥濃度を高く保つ必要がある。従って、嫌気性消化槽の有機物負荷が高くなるほど改質処理する汚泥量を増加させる必要があり、槽内汚泥濃度を高くする必要がある。
【0005】
しかし、嫌気性消化槽の汚泥濃度が高くなると槽内液の粘性が急激に増加するため、嫌気性消化槽内が充分に撹拌混合されなくなり、嫌気性消化の効率が低下してしまう。そのため、同号公報の装置での嫌気性消化槽において、下水汚泥の嫌気性消化処理などで広く採用されている30〜38℃に加温して嫌気性消化する中温嫌気性消化を行うようにした場合には、槽内汚泥濃度を好ましくは5〜6%以下に維持するように、消化槽から消化汚泥を余剰汚泥として適宜引き抜く必要がある。このため、嫌気性消化槽の有機物負荷が高くなると、引き抜き汚泥量が多くなり、有機成分の減量及びメタンガスの回収に制約が加えられる。
【0006】
同号公報の装置において、嫌気性消化槽内を45〜60℃に加温して、中温消化よりも消化速度の高い高温嫌気性消化を行うようにした場合には、中温消化よりも槽内汚泥濃度を低くして高い有機物負荷にも対応することができる。しかしながら、この場合、改質汚泥に由来する一部のタンパク、糖などは、高温微生物の産生する酵素では分解されないため、槽内で生物分解されない溶解性有機成分が中温消化よりも著しく高濃度で放出されてしまう。そのため、固形有機成分は減量するもののメタンガス回収率は高められないという問題がある。また、高温消化では、これらの溶解性有機成分により消化汚泥の固液分離性が悪化して凝集剤の使用量が著しく増加するとともに、分離液が排出される後段の水処理への負荷が著しく増加するという問題があった。また、高温消化では、中温消化よりも加温に要するエネルギーが多くなるという問題もある。
【0007】
本発明は、これらの従来の問題点を解決し、高い有機物負荷においても、有機成分を十分に減量化することができるとともに、メタンガス回収量を多くすることができる有機性廃液の嫌気性処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、有機性廃液を嫌気性消化する嫌気性消化槽と、該嫌気性消化槽からの消化汚泥の一部を改質する改質手段と、該改質手段からの改質汚泥を前記嫌気性消化槽に返送する改質汚泥返送手段と、該嫌気性消化槽からの消化汚泥を濃縮する固液分離手段と、該固液分離手段からの濃縮汚泥を前記嫌気性消化槽へ返送する濃縮汚泥返送手段と、を有する有機性廃液の嫌気性消化処理装置において、該嫌気性消化槽は、処理温度45〜95℃の高温消化槽と、該高温消化槽の流出液が導入される処理温度25〜40℃の中温消化槽の少なくとも2槽を有しており、該中温消化槽からの消化汚泥の少なくとも一部が前記固液分離手段に導入されることを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明において、「汚泥の改質」とは、微生物によって資化されにくい汚泥中の物質や汚泥細胞を変性・破壊して、微生物によって資化されやすい形態にすることを指す。
【0010】
請求項2の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、請求項1において、前記固液分離手段からの濃縮汚泥の少なくとも一部を前記中温消化槽に返送することを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、請求項1又は2において、前記中温消化槽から引き抜いた消化汚泥を前記改質手段に導入して改質することを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記改質手段からの改質汚泥の少なくとも一部を前記高温消化槽に返送することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記有機性廃液の少なくとも一部を前記中温消化槽に導入することを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記有機性廃液の少なくとも一部を前記固液分離手段に導入することを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記固液分離手段で固液分離される消化汚泥に凝集剤を添加する手段を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
請求項8の有機性廃液の嫌気性消化処理装置は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記改質手段による改質処理がオゾン処理であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明(請求項9)の有機性廃液の嫌気性消化処理方法は、有機性廃液を嫌気性消化槽で嫌気性消化し、該嫌気性消化槽からの消化汚泥を改質手段で改質し、該改質手段からの改質汚泥を前記嫌気性消化槽に返送し、該嫌気性消化槽からの消化汚泥の一部を固液分離手段で濃縮し、該固液分離手段からの濃縮汚泥を前記嫌気性消化槽へ返送する有機性廃液の嫌気性消化処理方法において、該嫌気性消化槽は、処理温度45〜95℃の高温消化槽と、該高温消化槽の流出液が導入される処理温度25〜40℃の中温消化槽の少なくとも2槽を有しており、該中温消化槽からの消化汚泥の少なくとも一部を前記固液分離手段に導入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
嫌気性消化槽では、嫌気性微生物を含む汚泥の存在下に、有機性廃液がメタン発酵処理される。本発明では、この嫌気性消化槽を、処理温度45〜95℃の高温消化槽と、高温消化槽の流出液が導入される処理温度25〜40℃の中温消化槽の少なくとも2槽で構成している。廃液中の有機成分は、高温消化槽及び中温消化槽のそれぞれにおいて、55℃付近に最適温度がある高温嫌気性微生物、35℃付近に最適温度がある中温嫌気性微生物により液化→低分子化→有機酸生成→メタン生成のステップによりメタンガスに転換される。
【0019】
高温消化槽では、前記のとおり、中温消化よりも速やかに固形有機成分の分解が進むものの、コロイド状の溶解性有機成分として多くが残留する。これらコロイド状の有機成分は、中温微生物によって分解可能であるため、高温消化槽の流出液を中温消化槽に導入することにより、残留した溶解性有機成分もメタンガスに転換される。従って、本発明によると、高温消化槽において高い消化速度で固形有機成分を分解し、中温消化槽においてメタンガスへの転換を進めることができる。
【0020】
このようにして、本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理方法及び装置によれば、嫌気性消化処理の効率が高められ、従来より高い有機物負荷においても、加温エネルギーや凝集剤使用量を増加させずに、有機成分を大幅に減量化するとともにメタンガスを大量に回収することもできる。
【0021】
なお、本発明では有機性廃液の少なくとも一部を、高温消化槽、中温消化槽のいずれか、または両方に導入することができるが、中温消化槽に導入することが好ましい。
【0022】
また、本発明では有機性廃液の少なくとも一部を固液分離手段に導入してもよい。このようにした場合には、中温消化槽からの消化汚泥が有機性廃液によって希釈されることにより、凝集剤が効きやすくなる。また、固液分離手段での処理汚泥量を少なくすることができる。この固液分離手段による固液分離は、有機性廃液を処理系に導入する際に、消化槽の液位を一定に保つ(溢れないようにする)ために行われるものであり、導入する有機性廃液と同体積の分離水(固液分離処理水)を該固液分離手段から系外に排出する必要がある。一般に、有機性廃液のSS濃度は消化汚泥のSS濃度よりも低い。そのため、有機性廃液と消化汚泥の混合液を固液分離して分離水を有機性廃液導入量と同体積だけ取り出す場合の方が、消化汚泥のみを固液分離して分離水を有機性廃液導入量と同体積だけ取り出す場合に比べて、固液分離手段で処理する汚泥量は少なくて済む。これにより、固液分離手段として、より小型の装置を採用することが可能となる。また、処理する汚泥量が少なくて済むことから、省エネルギー化にも資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
図1〜12はそれぞれ本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理方法及び装置の実施の形態を示す系統図である。図1〜12において、同一機能を奏する部材には、同一符号を付してある。
【0025】
[図1の有機性廃液の嫌気性消化処理装置]
図1において、有機性汚泥(有機性廃液)は高温消化槽1に導入され、45〜95℃にて嫌気性消化処理される。この高温消化槽1の消化汚泥が中温消化槽2に導入され、25〜40℃にて嫌気性消化処理される。この中温消化槽2の消化汚泥の一部を引き抜き、固液分離装置3で濃縮する。固液分離装置3からの液分は系外に取り出される。濃縮された汚泥の一部は、返送配管4を介して中温消化槽2へ返送される。
【0026】
また、中温消化槽2からの消化汚泥の一部を配管5で引き抜いて、改質装置6で改質する。改質汚泥は、返送配管7を介して高温嫌気性消化槽1に返送する。なお、中温消化槽2から配管5へ引き抜いた汚泥の一部は、必要に応じ余剰消化汚泥として系外に引き抜かれる。この余剰消化汚泥の引き抜きは、消化槽1,2の汚泥(TS)濃度を3〜10%に維持するように行うのが好ましい。
【0027】
[図2〜4の有機性廃液の嫌気性消化処理装置]
図2では有機性廃液は中温消化槽2に供給され、高温消化槽1には改質装置6からの改質汚泥のみが導入されている。その他の構成は図1と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0028】
図3では、有機性廃液は高温消化槽1と中温消化槽2の双方に供給され、図4では有機性廃液は固液分離装置3に供給されている。その他の構成は図1と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0029】
[図5〜8の有機性廃液の嫌気性消化処理装置]
図5〜8では、固液分離装置3からの濃縮汚泥はいずれも高温消化槽1に返送されている。
【0030】
図5〜8はそれぞれ図1〜4に対応するものであり、図5では有機性廃液を高温消化槽1に導入し、図6では有機性廃液を中温消化槽2に導入し、図7では有機性廃液を高温消化槽1及び中温消化槽2に導入し、図8では有機性廃液を固液分離装置3に導入している。
【0031】
その他の構成は図1〜4と同一である。
【0032】
[図9〜12の有機性廃液の嫌気性消化処理装置]
図9〜12では、固液分離装置3からの濃縮汚泥は、配管4から分岐する配管4a,4bを介して高温消化槽1及び中温消化槽2の双方に返送されている。
【0033】
図9〜12はそれぞれ図1〜4に対応するものであり、図9では有機性廃液を高温消化槽1に導入し、図10では有機性廃液を中温消化槽2に導入し、図11では有機性廃液を高温消化槽1及び中温消化槽2に導入し、図12では有機性廃液を固液分離装置3に導入している。
【0034】
その他の構成は図1〜4と同一である。
【0035】
本発明において処理の対象となる有機性廃液は、嫌気性消化処理によって減量化される有機物を含有する廃液であり、固形物を含むスラリー状のものでも、固形物を含まない液状のものでも良い。また、難生物分解性の有機物、無機物、セルロース、紙、綿、ウール、布、し尿中の固形物などが含有されていても良い。このような有機性廃液としては下水、下水初沈汚泥、し尿、浄化槽汚泥、食品工場の排水や残渣、ビール廃酵母、その他の産業廃液、これらの廃液を処理した際に生じる余剰汚泥等の有機性汚泥が挙げられる。
【0036】
高温消化槽1及び中温消化槽2では、嫌気性微生物を含む汚泥の存在下に、このような有機性廃液をメタン発酵させて処理する。嫌気性微生物を含む汚泥は酸生成菌とメタン生成菌を含む。嫌気性消化工程において有機性物質は嫌気性微生物により液化→低分子化→有機酸生成→メタン生成のステップによりメタンガスに転換され、処理される。
【0037】
高温消化槽1では、55℃付近に最適温度がある高温メタン生成菌が主として保持され、中温消化槽2では35℃付近に最適温度を有する中温メタン生成菌が主として保持されている。中温メタン生成菌は増殖が遅いためSRTを長くする、即ち、嫌気性消化槽を大きくする必要があるが、比較的低温での処理が可能なため加温及び保温のための設備を簡易にすることができる。これに対し、高温メタン生成菌の場合は加温及び保温の設備が必要になるが、増殖が速いためSRTが短くて良く、嫌気性消化槽を小さくすることができる。
【0038】
高温消化槽1は、蒸気の吹き込み、温水の導入、熱交換器への汚泥の循環などにより槽内が前記温度になるように加温される。中温消化槽は、通常、高温消化槽の流出液と前記有機性廃液の導入により、槽内温度を前述の値に保つことができるが、加温、または冷却してもよい。
【0039】
嫌気性消化槽での汚泥滞留時間(SRT)は、高温消化槽1で5日以上、好ましくは10〜30日であり、中温消化槽2では10日以上、好ましくは15〜50日である。各嫌気性消化槽1,2内のSS濃度は20,000〜120,000mg/L(2〜12%)、好ましくは40,000〜80,000mg/L(4〜8%)である。
【0040】
なお、SRTを長くすればするほど汚泥の分解率は高くなるが、槽の容量が大きくなってしまう。消化槽内SS濃度を高くすればするほど同じ滞留時間でも改質処理される汚泥量が増え、分解率が高まるが、槽内の撹拌混合、汚泥の固液分離が難しくなる。
【0041】
消化汚泥を濃縮するための固液分離装置3としては、消化汚泥を固液分離して濃縮することができるものであれば良く、特に制限はないが、遠心分離装置、浮上分離装置、沈殿槽、膜分離装置、濾過装置などを用いることができる。
【0042】
中温消化槽2から固液分離装置3へ引き抜く消化汚泥の1日当りの引き抜き量は、中温消化槽2内の保有汚泥の1/30〜1/10程度が好ましい。
【0043】
本発明では、中温消化槽2からの消化汚泥に凝集剤、好ましくは高分子凝集剤を添加してから固液分離装置3に導入してもよい。このように凝集剤を添加して消化汚泥中のSS分を凝集させることにより、固液分離装置3での濃縮倍率を高め、清澄な分離液を得ることができる。また、固液分離装置3からの固形分の系外流出を抑えて汚泥有機成分の減量、メタンガスへの転換を促進することができる。
【0044】
なお、高温消化槽で残留する溶解性有機成分は固液分離に必要となる凝集剤添加量を増加させるが、中温消化槽においてこれらの溶解性有機成分がメタンガスに転換し除去される。そのため、凝集剤添加量をそれほど多くすることなく、中温消化槽2からの消化汚泥を良好に凝集処理することができる。
【0045】
この凝集処理の効果を高めるために、固液分離装置3の前段に混合槽を設け、この混合槽において、又はこの混合槽に流入する消化汚泥に対して、凝集剤を添加するようにしてもよい。
【0046】
凝集剤としては、有機系、無機系のいずれか、またはそれら両方を用いてもよいが、添加量が少なくてよいこと、消化槽内で分解されて蓄積しにくいことから有機系の高分子凝集剤、特にカチオン性、または両性高分子凝集剤が好ましい。
【0047】
固液分離装置3における消化汚泥の濃縮の程度は、用いる濃縮機の性能にもよるが、通常、TS(固形物)濃度3〜6%程度の消化汚泥を、8〜20%程度のペースト状ないし高粘性の液状に濃縮する程度であることが好ましい。
【0048】
固液分離装置3の濃縮分離液は処理水としてそのまま下水道等へ放流することができるが、好気性生物処理、その他の後処理を行った後放流しても良い。
【0049】
固液分離した際の濃縮汚泥は、第1〜8図のように高温消化槽1、中温消化槽2のいずれか、または第9〜12図のように両方に返送することができるが、第1〜4図のように中温消化槽2に返送するのが好ましい。中温消化槽2に返送することによって、中温消化槽2の汚泥滞留時間を長くし、増殖が遅い中温嫌気性微生物を槽内に維持することができる。
【0050】
濃縮汚泥を前記有機性廃液や後述する改質汚泥、嫌気性消化槽の消化汚泥、上水、工水、その他有機性廃液の生物処理水などと混合した後、嫌気性消化槽に返送してもよい。
【0051】
中温消化槽2から取り出した消化汚泥を、この装置(嫌気性消化処理装置)に供給される有機性廃液の一部、または第4,8,12図のようにこの装置に供給される有機性廃液の全部と混合して希釈した後、固液分離を行い、有機性廃液中の固形分を含んだ濃縮汚泥を嫌気性消化槽に返送してもよい。消化汚泥が有機性廃液によって希釈されることにより、凝集剤が効きやすくなるほか、固液分離装置3での処理汚泥量を少なくすることができる。
【0052】
消化槽1,2での無機成分や難生物分解性有機成分の蓄積を防ぐため、嫌気性消化槽の消化汚泥(例えば図示の通り中温消化槽2の消化汚泥)又は前記固液分離装置3の濃縮汚泥の一部を余剰消化汚泥として排出し、脱水、焼却、埋立等の処分を行ってもよい。この場合も、図示の通り、中温消化槽2の消化汚泥を排出するのが好ましい。これにより、脱水を行う際の凝集剤添加率を少なくするとともに、脱水分離液の水質を良好に保つことができる。
【0053】
改質装置6では、消化槽1又は2から引き抜いた嫌気性消化汚泥をオゾン処理、熱処理、ミルによる破砕、酸/アルカリ処理などによって改質する。このような改質処理を行うことにより、嫌気性消化汚泥中の菌体は死滅し、その他の難分解性有機成分とともに易生物分解性に改質される。これら易生物分解性成分が嫌気性消化槽で消化されることで、処理系からより多くの有機成分が減量され、メタンガスが回収されるようになる。
【0054】
改質装置としてオゾン処理装置を採用した場合、このオゾン処理装置では、中温消化槽2からの消化汚泥をオゾンと接触させることにより改質する。このオゾン処理装置におけるオゾンとの接触方法としては、オゾン処理槽に消化汚泥を導入してオゾンを吹き込む方法、機械攪拌による方法、充填層を利用する方法などが採用できる。オゾンとしてはオゾン化酸素、オゾン化空気などのオゾン含有ガスの他、オゾン含有水などが使用でき、オゾンの使用量は通常オゾン処理される消化汚泥のVSSあたり0.01〜0.08g−O/g−VSS、好ましくは0.02〜0.05g−O/g−VSSである。オゾン処理のpHは4〜10が好ましい。
【0055】
なお、オゾン使用量を多くすればするほど分解性は向上するが、徐々に頭打ちになるため(倍にすれば倍分解するものではない)、0.02〜0.05g−O/g−VSSが効率的である。改質処理する汚泥量を多くすればするほど生物分解を受ける餌が増えるが、同時に餌を分解する微生物量が減るため、トータルで見た汚泥の分解率はある範囲にピークがある。また、分解汚泥量あたりのオゾン消費量は、改質処理量が少ないほど少なくて済むことから、多少分解率が下がっても改質処理量を少なくした方が効率的な場合がある。
【0056】
本発明では、改質する消化汚泥は高温消化槽、中温消化槽のいずれから、または両方から引き抜いてよいが、各図の実施の形態の通り中温消化槽2から引き抜くのが好ましい。中温消化槽2では高温消化槽1で残留する溶解性有機成分が分解されて、生物分解性の有機成分がより少なくなっており、難分解性の有機成分、微生物菌体の改質を効率的に行うことができる。
【0057】
改質した後の汚泥も高温消化槽1、中温消化槽2のいずれか、または両方に返送してもよいが、各図の通り、高温消化槽1に返送するのが好ましい。高温消化槽1に返送することによって、改質した汚泥の分解を中温よりも消化速度の高い高温消化で速やかに行うことができる。
【0058】
また、改質のために中温消化槽2から引き抜く消化汚泥量は、改質による減量効果を十分確保するために、消化汚泥中に含まれる有機固形物(VSS)の量として、中温消化槽2に導入される有機固形物(VSS)量の1/3〜5倍、好ましくは1/2〜2倍に相当する量とするのが好ましい。
【0059】
また、一日当たりに改質処理する消化汚泥量は高温消化槽1及び中温消化槽2の全保有有機固形物(VSS)量の1/10以下、好ましくは1/100〜1/15、より好ましくは1/50〜1/30に相当する量とするのが好ましい。一日当たりの改質処理量をこのような量にすることにより、嫌気性消化処理に必要な微生物量を消化槽1,2で保持することができ、嫌気性消化処理の効率を高く保つことができる。
【0060】
なお、本発明において、改質処理は、何らオゾン処理装置に限定されず、汚泥細胞を変性、破壊して微生物によって資化されやすい形態に改質することができるものであれば良く、オゾン処理の他、例えば過酸化水素等の酸化力の強い酸化剤や、酸、アルカリなどによる化学的処理、超音波処理、ミルによる磨砕のような物理的処理、熱的処理等の各種の方法を単独で或いは2種以上を組み合わせて採用することができる。
【0061】
また、改質処理は、嫌気性消化槽から引き抜いた消化汚泥に対して行う他、この消化汚泥を濃縮して得られた濃縮汚泥の一部又は全部に対して行っても良い。
【0062】
なお、固液分離装置3は、大気と遮断した状態で運転するのが好ましく、例えば、濃縮機を密閉状態にして濃縮することにより汚泥と酸素との接触を制限すると、嫌気性菌を生かしたまま嫌気性消化槽に返送でき、嫌気性消化槽の生菌数保持、増加が容易となり、消化効率を向上させることができる。
【0063】
また、嫌気性消化槽で発生する消化ガス(メタンガス)を有効利用して、消化槽の加温や、改質手段等に必要な動力の一部又は全部を賄うことも好ましい。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0065】
[実施例1]
有機性廃液として、下水処理場より採取した混合生汚泥(平均TVS濃度30g/L)を、第1図の装置(高温消化槽1及び中温消化槽2の容積は各々1.5L。固液分離装置3は遠心分離機。)を用い、下記条件にて処理した。
【0066】
消化槽1,2の種汚泥として、それぞれ下水処理場の嫌気性消化槽から採取した高温消化汚泥、中温消化汚泥を用いた。
【0067】
約6ヶ月間運転したところ、槽内濃度はほぼ一定で推移するようになり、系が定常に達したと考えられた。その後の6ヶ月間におけるTVS成分の収支を第13図に示す。
【0068】
高温消化槽1の温度:55℃
中温消化槽2の温度:35℃
投入汚泥量:100mL/day(全量を高温消化槽1に投入)
改質装置6:オゾン処理装置
オゾン濃度:150mg/NL
オゾン処理汚泥量:60mL/day
オゾン反応率:0.03g−O/g−TVS
固液分離:中温消化槽2から引き抜いた汚泥に0.1%に溶解したカチオンポリマー
を、遠心分離後の上澄液のSS濃度が2,000mg/L以下となるよう
に表1に示す添加率にて添加し、3,000rpmで10分間遠心分離し
た後、汚泥の約半分の液量の上澄液を系外に排出した(2倍濃縮)。残り
(濃縮汚泥)は中温消化槽2に戻した。
消化汚泥の引き抜き:中温消化槽2のTVS濃度が4%超えないように中温消化槽2
から適宜引き抜いた。この引き抜き量に合わせて、消化槽内の
液量が一定であるように、固液分離時の上澄液の排出量を調整
した。
【0069】
[比較例1]
図5の装置(投入汚泥を高温消化槽1に投入、固液分離後の濃縮汚泥を高温消化槽1に返送)で、消化槽1,2をいずれも35℃に維持した。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0070】
[比較例2]
比較例1において、消化槽1,2をいずれも55℃に維持した。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0071】
各消化槽1,2の種汚泥として、下水処理場より採取した消化汚泥を用い、約6ヶ月運転した後の、系が定常に達したと見られる約6ヶ月間におけるTVS成分の収支を図13に示す。
【0072】
消化率(1−引抜汚泥量/投入汚泥量)×100%は、比較例1で80%、比較例2で92%である。比較例2では引抜汚泥量が比較例1の40%に減少したが、分離液から系外に排出されたTVS成分を考慮したガス化率では、比較例1で72%、比較例2で74%と差はわずかであった。これに対し、実施例1では、消化率が92%であったうえに、ガス化率も83%に向上した。図14のガス発生量の推移に示すように、本実施例では、消化ガス量が比較例1,2より約15%増加した。
【0073】
また、固液分離時の凝集剤添加率の平均値は、比較例1の1.0g/g−TVSに対し、比較例2では2.5g/g−TVSに増加させる必要があったが、実施例1では比較例1と同等の1.0g/g−TVSであった。
【0074】
[実施例2]
第2図の装置を用い、有機性廃液の全量を中温消化槽2に供給するようにした他は実施例1と同一条件にて同一の有機性廃液(混合生汚泥)を処理した。有機性廃液の中温消化槽2への供給量は、実施例1における高温消化槽1への供給量と同じ100mL/dayである。
【0075】
[実施例3]
第3図の装置を用い、有機性廃液の1/2量を高温消化槽1に供給し、1/2量を中温消化槽2に供給するようにした他は実施例1と同一条件にて同一の有機性廃液(混合生汚泥)を処理した。高温消化槽1及び中温消化槽2への有機性廃液の供給量は、それぞれ50mL/dayである。
【0076】
[実施例4]
第4図の装置を用い、有機性廃液の全量を固液分離装置3に供給するようにした他は実施例1と同一条件にて同一の有機性廃液(混合生汚泥)を処理した。有機性廃液の固液分離装置3への供給量は、実施例1における高温消化槽1への供給量と同じ100mL/dayである。
【0077】
実施例2〜4における投入汚泥と未消化汚泥(引抜及び分離液)の関係を第15図に示す。また、期間中の固液分離時の処理汚泥量、凝集剤添加率、凝集剤使用量の平均値を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
[考察]
実施例2〜4では、いずれも、実施例1と同様に、消化率(1−引抜汚泥量/投入汚泥量)が90〜93%に、分離液から系外に排出されたTVS成分を考慮したガス化率が82〜83%に向上し、消化ガス量が比較例1,2よりも約15%増加した。
【0080】
表1の通り、実施例3では、実施例1,2に比べ、低い凝集剤添加率で清澄な分離液を得ることができ、凝集剤使用量を15%減らすことができた。
【0081】
実施例4では、消化汚泥と有機性廃液(混合生汚泥)とを混合して固液分離装置3にて固液分離を行うようにしている。このため、固液分離装置3で固液分離処理する汚泥量が少なくなると共に、凝集剤の効きがよくなる。このため、凝集剤添加率を低くしても同等の凝集効果を得ることができるようになり、凝集剤使用量を実施例1,2より46%減らすことができた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図3】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図4】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図5】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図6】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図7】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図8】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図9】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図10】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図11】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図12】本発明の有機性廃液の嫌気性消化処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図13】実施例1及び比較例1,2の結果を示すグラフである。
【図14】実施例1及び比較例1,2の消化ガス量の経時変化を示すグラフである。
【図15】実施例2〜4の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
1 高温消化槽
2 中温消化槽
3 固液分離装置
6 オゾン処理装置などの改質装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃液を嫌気性消化する嫌気性消化槽と、
該嫌気性消化槽からの消化汚泥の一部を改質する改質手段と、
該改質手段からの改質汚泥を前記嫌気性消化槽に返送する改質汚泥返送手段と、
該嫌気性消化槽からの消化汚泥を濃縮する固液分離手段と、
該固液分離手段からの濃縮汚泥を前記嫌気性消化槽へ返送する濃縮汚泥返送手段と、
を有する有機性廃液の嫌気性消化処理装置において、
該嫌気性消化槽は、処理温度45〜95℃の高温消化槽と、該高温消化槽の流出液が導入される処理温度25〜40℃の中温消化槽の少なくとも2槽を有しており、
該中温消化槽からの消化汚泥の少なくとも一部が前記固液分離手段に導入されることを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記固液分離手段からの濃縮汚泥の少なくとも一部を前記中温消化槽に返送することを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記中温消化槽から引き抜いた消化汚泥を前記改質手段に導入して改質することを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記改質手段からの改質汚泥の少なくとも一部を前記高温消化槽に返送することを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記有機性廃液の少なくとも一部を前記中温消化槽に導入することを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記有機性廃液の少なくとも一部を前記固液分離手段に導入することを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記固液分離手段で固液分離される消化汚泥に凝集剤を添加する手段を備えたことを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記改質手段による改質処理がオゾン処理であることを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理装置。
【請求項9】
有機性廃液を嫌気性消化槽で嫌気性消化し、
該嫌気性消化槽からの消化汚泥の一部を改質手段で改質し、
該改質手段からの改質汚泥を前記嫌気性消化槽に返送し、
該嫌気性消化槽からの消化汚泥を固液分離手段で濃縮し、
該固液分離手段からの濃縮汚泥を前記嫌気性消化槽へ返送する有機性廃液の嫌気性消化処理方法において、
該嫌気性消化槽は、処理温度45〜95℃の高温消化槽と、該高温消化槽の流出液が導入される処理温度25〜40℃の中温消化槽の少なくとも2槽を有しており、
該中温消化槽からの消化汚泥の少なくとも一部を前記固液分離手段に導入することを特徴とする有機性廃液の嫌気性消化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−216207(P2007−216207A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178364(P2006−178364)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15〜17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発/有機物の分解促進による下水汚泥高効率嫌気性消化システムの開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】