説明

有機無機複合体分散液及びその製造方法

【課題】 粘土鉱物と高分子重合体が三次元網目を形成し、複合構造や粒径の制御が容易であり、且つ優れた皮膜形成能や基材との接着性を有する有機無機複合体粒子が水中で安定に分散した有機無機複合体の水分散液を提供する。また、広い範囲の粘土鉱物含有率において、その水分散液を簡便に短時間で製造できる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)を含むモノマーの重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とが複合化した有機無機複合体粒子(X)が、水媒体(C)中に分散していることを特徴とする有機無機複合体分散液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)の重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合体粒子(X)が、水媒体(C)中に分散していることを特徴とする有機無機複合体分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリウレタンなどの有機高分子を粘土と複合させることによりナノコンポジットと呼ばれる高分子複合体が調製されている。得られた高分子複合体はアスペクト比の大きい粘土層を微細に分散させていることから、弾性率、熱変形温度、ガス透過性、および燃焼速度などが効果的に改良されることが報告されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
高分子複合体中に含まれる粘土鉱物量としては、性能強化の観点からは高い粘土鉱物含有量が望まれるが、より低い粘土鉱物量で効果的な性能強化が達成されることも重要である。これまでの研究では通常0.2〜5質量%が用いられ、0.1質量%以下の低無機含有高分子複合体や10質量%を超える高無機含有高分子複合体は用いられていない。これは無機含有率が低くなると性能向上の効果が無視されるほど小さくなり、一方、無機含有率が高くなると製造時の粘度増加が大きく、得られる複合体中での、粘土鉱物のナノスケールでの微細且つ均一な分散が達成できなかったり、或いは複合体が脆くなり力学物性(強度や伸び)が大きく低下したりするためである。
【0004】
このような問題に対し、優れた力学物性を示すナノコンポジット材料として、広い範囲の粘土鉱物含有率において粘土鉱物が有機高分子中に均一に分散した有機無機複合ヒドロゲルが開示されており、該有機無機複合ヒドロゲルは水媒体中で水膨潤性粘土鉱物と重合開始剤の存在下にアクリルアミドやメタクリルアミドの誘導体、(メタ)アクリル酸エステルなどを重合させることにより、力学物性の良い高分子複合体を製造できることが開示されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また、乾燥状態で優れた力学物性を示すナノコンポジット材料として、水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)から得られる重合体と水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなることを特徴とする高分子複合体が開示されており、該複合体は、水膨潤性粘土鉱物(B)と水溶性(メタ)アクリル酸エステル(a)と重合開始剤、更に必要に応じて触媒または/および有機架橋剤(C)を、水または水と有機溶媒との混合溶媒中に溶解または均一に分散させた後、(a)を重合させ、次いで乾燥させて溶媒を除去することにより、高分子複合体を製造できることが開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
更に、酸素の影響を受けにくく、短時間で有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法が開示されており、即ち、非水溶性の重合開始剤(d)を水媒体(c)中に分散させた反応溶液中で、水膨潤性粘土鉱物(b)の共存下において、水溶性のアクリル系モノマー(a)をエネルギー線の照射により反応させることにより、力学物性の優れた有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法である(例えば特許文献4参照)。
【0007】
上記に示す有機無機複合ヒドロゲル及び高分子複合体は、全てバルク体であり、製造過程においても、反応系全体がゲル化する工程を経て製造されている。
【0008】
一方、自動車、建築などの工業分野においては、皮膜形成能に優れ、且つ基材との接着性にも優れた皮膜を形成することができる有機無機複合体の分散液(塗料)、または、外部温度の変化による有機無機複合体分散液の透明度変化を利用した透過光の調節機能、などの機能性を付与できる有機無機複合体の分散液が求められている。しかしながら、上記の特許文献等においては、このような特性を満足する有機無機複合体の粒子が、水媒体中に分散している有機無機複合体分散液およびその製造方法に関する技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−53762
【特許文献2】特開2004−143212
【特許文献3】特開2005−232402
【特許文献4】特開2006−169314
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ピナバイアおよびベアル編(T.J.Pinnavaia and G. W.Beall Eds.)「ポリマークレイナノコンポジット」(Polymer-Clay Nano Composites ),ワイリー社(wiley)、2000年出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、有機無機複合体粒子が水中で安定に分散し、乾燥による皮膜形成能に優れ、且つ基材との間に優れた接着性を有し、更に、無機物と高分子重合体とが複合化して形成される有機無機複合体粒子の構造や、該粒子の粒径の制御が容易であり、広い範囲の粘土鉱物含有率において、その水分散液を簡便に短時間で製造できる有機無機複合体分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特許文献1−4は、製造過程において反応系全体がゲル化する工程を経て有機無機複合ヒドロゲルや高分子複合体を製造する技術に関するものである。本発明者らは、これらの技術を基に、無機物の濃度や無機物と有機高分子の質量比を調整しながら、粒子状の有機無機複合体を水中で製造する方法を種々検討した。その結果、図1に示すように反応系全体がゲル化する領域のほかに、反応系のモノマー及び無機物の濃度が特定の範囲(図1中の式(2)及び式(3)で示す境界よりも下側の領域)になると反応系が全くゲル化せず、有機無機複合粒子の水分散液を製造できる領域が存在することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)を含むモノマーの重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合体粒子(X)が、水媒体(C)中に分散していることを特徴とする有機無機複合体分散液を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記の有機無機複合体分散液を乾燥して得られる前記有機無機複合体粒子(X)の乾燥皮膜を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、支持体と、該支持体上に積層された上記の乾燥皮膜とを有する積層体を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記の乾燥皮膜を表面に有する防曇材料を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記の乾燥皮膜を表面に有する細胞培養基材を提供するものである。
【0018】
また、品発明は、上記の乾燥皮膜を表面に有するタンパク質吸着防止材。
【0019】
また、本発明は、上記の有機無機複合体分散液を用いた調光機能を有する光学素子を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)、前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を前記水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより前記有機無機複合体(X)を形成する工程を含み、
前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(1)又は式(2)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法を提供するものである。
式(1) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(2) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(P)との質量比((B)/(P))である。)
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、製造工程が少なく、高価な設備投資が不要で、簡便に短時間で有機無機複合体分散液を製造できる。また、本発明の製造方法で製造された有機無機複合体は、無機物をナノメーターレベルで微細且つ均一に、しかも広い濃度範囲で含有することができ、良好な安定性と皮膜形成能を有し、得られた皮膜は、高い透明性と、良好な弾性率と柔軟性、屈曲性を有する。大気中で安定して用いられる特徴を有する。本発明の有機無機複合体分散液は環境温度の変化に伴う調光機能に優れ、また分散液から得られた皮膜は、防曇性に優れるため、住宅や自動車などに利用可能な調光機能を有する光学素子、防曇性材料、更に、透明性、伸縮性に優れるため各種工業材料、医療用具などの表面改質剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一般式(2)と(3)を満足する有機無機複合体分散液の形成可能な領域を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で用いる(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)は、その重合体(P)が無機材料(B)と相互作用し、有機無機複合体粒子を形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドのようなN−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンのようなN,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。これらのモノマー(a)は、二種以上を混合して用いることができる。
【0024】
モノマー(a)の使用により、得られる有機無機複合体分散液が基材、特に疎水性基材に対する濡れ性がよく、より薄く、平滑性が高く、品質のよい塗膜が得られ、防曇性を有する皮膜が得られ、また、LCST(下限臨界溶解温度)を有する重合体(P)となるモノマー(a)(例えば、N−イソプロピルアクリルアミド)を用いれば、環境温度に伴い、分散液の透明度が変化するといった省エネ型の調光機能を有する分散液が得られる。
【0025】
また、前記モノマー(a)の他に、有機無機複合体の親水性と疎水性のバランスや官能基を付与するために、必要に応じてその他の共重合モノマーを併用することができる。例えば、スルホン基やカルボキシル基のようなアニオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基のようなカチオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、糖残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、また、水酸基を有する(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、更にポリエチレングリコールのような親水性鎖とノニルフェニル基のような疎水基を合わせ持つ両親媒性(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコールジアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどを併用することができる。
【0026】
本発明に用いる無機材料(B)は、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料である。水膨潤性粘土鉱物としては、層状に剥離可能な膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。具体的にはナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
【0027】
本発明に用いるシリカ(SiO)としては、コロイダルシリカが挙げられ、好ましくは水溶液中で均一に分散可能で、粒径が10nm〜500nmのコロイダルシリカ、特に好ましくは粒径が10〜50nmのコロイダルシリカが用いられる。
【0028】
無機材料(B)の使用により、分散液の安定性や皮膜の形成能がよく、優れた防曇性を有する乾燥皮膜が得られる。
【0029】
本発明の有機無機複合体分散液を乾燥することにより、透明で良好な柔軟性と力学物性を有する乾燥皮膜を得ることができる。この皮膜は支持体(基材)に貼り付いた状態(塗膜)であってもよいし、支持体のない独立のフィルム状であってもよい。皮膜の厚みは用途に応じて任意に調整でき、フィルムとしての皮膜の厚みは、0.01mm〜2mmであることが扱いやすく好ましい。この範囲であれば皮膜の強度が十分であり、取り扱い易く、また、表面平滑性の高い皮膜の製造が容易となる。また、支持体に貼り付いた状態の皮膜の厚みは、0.0001mm(0.1μm)以上であれば好適に取り扱うことができ、好ましい。
【0030】
本発明の有機無機複合体分散液を支持体(例えばポリスチレン製容器)に塗布した後、乾燥し、必要に応じて洗浄を行った後、支持体に貼り付いた状態で乾燥させることにより、細胞の接着性や増殖性が良好な細胞培養基材として使用することができる。また、重合体(P)を選ぶことにより、細胞が培養表面へ接着せず、浮遊状態で培養できる(細胞低接着性)培養基材として、更に、タンパク吸着を抑制できる基材として使用することもできる。
【0031】
複合体粒子(X)の粒径は、30nm〜5μmであることが好ましい。この範囲であると、分散液の安定性がよく、より強靭で且つ平滑性の高い皮膜が形成でき、膜厚の制御も容易である。
【0032】
複合体粒子(X)において、重合体(P)と無機材料(B)との質量比((B)/(P))が、0.01〜10であることが好ましく、0.03〜5がより好ましく、0.05〜3が特に好ましい。質量比((B)/(P))がこの範囲であると、得られる分散液の安定性がよく、平滑で基材と強い接着性を有する皮膜が得られ易い。
【0033】
本発明に用いられる重合開始剤(D)としては、公知のラジカル重合開始剤を適時選択して用いることができる。好ましくは水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが好ましく用いられる。具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)の他、Fe2+と過酸化水素との混合物などが例示される。
【0034】
触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどは好ましく用いられる。但し、触媒は必ずしも用いなくてもよい。重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて例えば0℃〜100℃が用いられる。重合時間も数十秒〜数十時間の間で行うことが出来る。
【0035】
一方、光重合開始剤は、酸素阻害の影響を受けにくく、重合速度が速いため、好適に用いられる。具体的には、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−メチルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ヒドロキシケトン類、メチルベンゾイルホルメートなどのフェニルグリオキシレート類、メタロセン類などが挙げられる。
【0036】
前記光重合開始剤は非水溶性のものである。ここで言う非水溶性とは、重合開始剤の水に対する溶解量が0.5質量%以下であることを意味する。非水溶性の重合開始剤を使用することにより、開始剤がより無機材料(B)の近傍に存在しやすく、無機材料(B)近傍からの開始反応点が多くなり、得られる有機無機複合体の粒径分布が狭く、分散液の安定性が高く、好ましい。
【0037】
前記光重合開始剤を水媒体(C)と相溶する溶媒(F)に溶解させた溶液を前記水媒体(C)中に添加することが好ましい。この方法によって光重合開始剤がより均一に分散でき、より粒径の揃った複合体粒子が得られる。
【0038】
本発明の溶媒(F)としては、非水溶性の光重合開始剤を溶解できる水溶性の溶剤、または前記一般式(1)で表されるモノマー(a)やその他の水溶性のアクリル系モノマー(a’)を用いることができる。水溶性溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの溶剤を混合して用いても良い。
【0039】
また、溶媒(F)として用いることのできる前記一般式(1)で表されるモノマー(a)または水溶性のアクリル系モノマー(a’)としては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレートのようなポリプロピレングリコールジアクリレート類、ポリエチレングリコールジアクリレート類、ペンタプロピレングリコールアクリレートのようなポリプロピレングリコールアクリレート類、ポリエチレングリコールアクリレート類、メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレートのようなメキシポリエチレングリコールアクリレート類、ノニルフェノキシポリエチレングリコ−ルアクリレート類、ジメチルアクリルアミドのようなN置換アクリルアミド類、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、などが挙げられる。これらのアクリル系モノマーは、二種以上を混合して用いることができる。
【0040】
ここで言う水溶性を有する溶剤とは、水100gに対し50g以上溶解できる溶剤であることが好ましい。この範囲であれば、非水溶性の光重合開始剤(D)の水媒体(C)への分散性が良好であり、得られる有機無機複合体粒子の粒径が揃い易く、分散液の安定性が良好である。
【0041】
非水溶性光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液中における光重合開始剤(D)と溶媒(F)の質量比(D)/(F)は、0.001〜0.1であることが好ましく、0.01〜0.05が更に好ましい。0.001以上であると、エネルギー線の照射によるラジカルの発生量が十分に得られるため好適に重合反応を進行させることができ、0.1以下であれば、開始剤による発色や、臭気を実質的に生じることがなく、またコストの低減が可能である。
【0042】
以上のアクリル系モノマー(a’)および水溶性を有する溶剤のいずれの場合においても、光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液の添加量が、モノマー(a)、無機材料(B)、水媒体(C)、重合開始剤(D)及び溶媒(F)の総質量に対し、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.2質量%〜2質量%であることが更に好ましい。該分散量が0.1質量%以上であると、重合が十分に開始され、5質量%未満であると、複合体粒子(X)中の重合開始剤の増加による臭気の発生、更には一旦分散された光重合開始剤が再び凝集する等の問題を低減でき、均一な有機無機複合体分散液を得ることができるため好ましい。
【0043】
本発明の製造方法に用いる水媒体(C)は、モノマー(a)や無機材料(B)などを含むことができ、物性のよい有機無機複合体分散液が得られれば良く、特に限定されない。例えば水、または水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、防腐剤や抗菌剤、着色料、香料、酵素、たんぱく質、糖類、アミノ酸類、細胞、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、レベリング剤などを含むことができる。
【0044】
次いで、本発明の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の有機無機複合体分散液は、下記の方法で製造することができる。
【0046】
即ち、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)、前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)及び重合開始剤(D)を前記水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより前記有機無機複合体(X)を形成する工程を含み、
前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(1)又は式(2)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法である。
式(1) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(2) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(P)との質量比((B)/(P))である。)
【0047】
無機材料(B)の水媒体に対する濃度(質量%)は式(2)又は式(3)で表される範囲であることが本発明の有機無機複合体分散液製造の最大の特徴である。無機材料(B)の水媒体に対する濃度(質量%)が上記範囲以上になると、重合により反応系全体のゲル化が起きたり、分散液が不均一になったりするため、良好な有機無機複合体分散液の製造ができない。
【0048】
前記光重合開始剤を用いた場合の重合方法としては、エネルギー線照射が挙げられ、例えば、電子線、γ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができる。中でも装置や取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜200秒程度である。通常の加熱によるラジカル重合においては、酸素が重合の阻害因子として働くが、本発明では、必ずしも酸素を遮断した雰囲気で溶液の調製およびエネルギー線照射による重合を行う必要がなく、空気雰囲気でこれらを行うことが可能である。但し、紫外線照射を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、更に重合速度を速めることが可能で、望ましい場合がある。
【0049】
本発明のモノマー(a)、無機材料(B)及び非水溶性の重合開始剤(D)、及び水媒体(C)を含む分散液(E)のエネルギー線照射による重合方法は任意である。例えば、容器中で分散液(E)を攪拌及び/または超音波振動を与えながら、エネルギー線を照射して重合させる非連続の製造方法や、分散液(E)を透明な管(マイクロ流路を含む)の中を流れながらエネルギー線を照射して重合させる連続の製造方法が挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法で製造される有機無機複合体分散液は、そのまま塗料として使用してもよいし、水洗などによる精製工程を経てから使用してもよい。また塗布性や乾燥皮膜の表面平滑性、調光性能、防曇性などの機能性を付与する目的に、該有機無機複合体分散液に更にレベリング剤や界面活性剤、高分子化合物、着色剤などを添加して使用してもよい。
【0051】
LCSTを有する重合体Pを使用することにより、本発明の有機無機複合体分散液をそのまま調光機能を有する光学素子として使用することができる。例えば、自然の太陽光が当たることにより、分散液の温度がLCST以上に上昇し、分散液が白濁し、自然光線を遮断し、また、太陽光が当たらなくなると、周囲温度がLCST以下に下がると、分散液が透明に変わり、自然光線が透過できるようになる。
【0052】
また、本発明の有機無機複合体分散液を支持体上に塗布して乾燥皮膜とすることにより積層体を製造することができる。支持体上に塗布する際には、必要に応じて、特定形状のパターン状に塗布することもできる。有機無機複合体分散液を支持体にパターン状に塗布する方法としては、模様のある版に分散液をつけてから支持体に転写する印刷方法、または支持体に塗布しない部分を予め遮蔽して塗布後遮蔽部分を取り除くパターン状塗布や、インクジェットプリンター方式による分散液の塗布方法などが挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0054】
本発明者らは、無機物の濃度や無機物と有機高分子の質量比を調整しながら、粒子状の有機無機複合体を水中で製造する方法を種々検討した。その結果、図1に示すように反応系全体がゲル化する領域のほかに、反応系のモノマー及び無機物の濃度が特定の範囲(図1中の式(1)及び式(2)で示す境界よりも下側の領域)になると反応系が全くゲル化せず、有機無機複合粒子の水分散液を製造できる領域が存在することを見出した。
【0055】
図1中の各プロットは、実施例1、2、3、4、5、8、比較例1〜9である。比較例はゲル化する領域に位置し、実施例はゲル化しない領域に位置する。これからも判るように式(1)、式(2)を境にゲル化する領域と粒子化する領域とが分かれている。
【0056】
(実施例1)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)0.6g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.02g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E1)を調製した。
【0057】
[有機無機複合複合体Xの分散液の作製]
上記反応液(E1)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ほぼ透明な有機無機複合体Xの分散液(1)を作製した。
この反応系のRa=0.03、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.42
上記分散液(1)を入れた容器を水槽に入れ、水槽の温度を室温から1℃/3分の昇温速度で昇温しながら、分散液の白濁開始温度(LCST)を測定したところ、該分散液(4)のLCSTは約32℃であった。
上記有機無機複合体分散液(1)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は60nmであった。
【0058】
(実施例2)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてアクリロイルモルホリン(株式会社興人製)0.5g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.15g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(E2)を調製した。
【0059】
[有機無機複合複合体Xの分散液の作製]
上記反応液(E2)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ほぼ透明な有機無機複合体の分散液(2)を作製した。
この反応系のRa=0.30、無機材料(B)の濃度(質量%)=1.48(%)<0.87Ra+2.17=2.43
本実施例の重合体PがLCSTを有しないため、分散液(2)もLCSTを示さなかった。上記有機無機複合体分散液(2)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は50nmであった。
【0060】
(実施例3)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.18g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.32g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(E3)を調製した。
【0061】
[有機無機複合複合体Xの分散液の作製]
上記反応液(E3)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ほぼ透明な有機無機複合体Xの分散液(3)を作製した。
【0062】
この反応系のRa=1.8、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=3.10(%)<0.87Ra+2.17=3.74
本実施例の重合体PがLCSTを有しないため、分散液(3)もLCSTを示さなかった。上記有機無機複合体分散液(3)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は50nmであった。
【0063】
(実施例4)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)0.28g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.02g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E4)を調製した。
【0064】
[有機無機複合複合体Xの分散液の作製]
上記反応液(E4)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ほぼ透明な有機無機複合体Xの分散液(4)を作製した。
上記有機無機複合体分散液(4)をガラス製のスクリュー管に入れ密閉した状態で室温(約23℃)3ヶ月静置して、沈殿や粒径分布の変化はなかった。
この反応系のRa=0.07、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.92
上記有機無機複合体分散液(4)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は40nmであった。上記分散液(4)を入れた容器を水槽に入れ、水槽の温度を室温から1℃/3分の昇温速度で昇温しながら、分散液の白濁開始温度(LCST)を測定したところ、該分散液(4)のLCSTは約32℃であった。
【0065】
(実施例5)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN−メチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.21g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.04g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(E5)を調製した。
【0066】
[有機無機複合複合体Xの分散液の作製]
上記反応液(E5)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ほぼ透明な有機無機複合体Xの分散液(5)を作製した。
【0067】
この反応系のRa=0.19、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=0.4(%)<0.87Ra+2.17=2.34
上記有機無機複合体分散液(5)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は40nmであった。本実施例の重合体PがLCSTを有しないため、分散液(5)もLCSTを示さなかった。
【0068】
(実施例6)
この実施例はLCSTを有する分散液を光学素子に応用した例を示すものである。
長さ100×100mm、厚さ2mmの板状並みガラス、及びスペーサとして長さ100mm、幅5mm、厚さ2mmの並みガラスを用いてペアガラス状の疑似窓を作製し、上記実施例4の分散液(4)を板ガラス間に流し込み、密封して、調光機能を有する光学素子を作製した。
この光学素子を用い、可視光の透過率を測定したところ、透過率は約96%であった。一方、この光学素子を40℃の温水に入れ、数秒後ガラス全体が白濁になり、可視光の透過率を測定したところ、透過率はほぼ0%であった。
【0069】
更に、この光学素子を窓際に置いて、日光を当てたところ、ガラス全体が徐々に白濁することが観察された。
以上の実施例より、この光学素子に日光を当てることにより、内部の分散液の温度が徐々に上昇し、LCST(32℃)を達すると、ガラス全体が白濁し、日光を遮断する機能を有することが理解できる。
【0070】
(実施例7)
この実施例はLCSTを有しない分散液からなる乾燥皮膜を防曇材料としての応用例を示すものである。
実施例5の分散液(5)をガラス板に厚み約200μmになるように塗布し、80℃、60分乾燥させて、防曇性塗膜7を調製した。乾燥後の有機無機複合体の乾燥皮膜の厚みは約5μmであった。この防曇性塗膜7を目視で観察したところ、塗布前と同等な透明度を有し、乾燥皮膜が高い透明度を有することが分かる。
【0071】
この塗膜にカッターナイフを用いて、1×1mm四方の碁盤目の切り傷を入れた後、碁盤目を入れた所にセロハンテープを強く圧着させ、テープの端を45°の角度で急速に引き剥がし、碁盤目の状態を観察したところ、塗膜は全く剥離せず、基材との接着性が良好であることが確認された。
また、この防曇性塗膜7を50℃の水から発生した水蒸気に約1分間暴露したところ(塗膜と水面間の距離が約5cm)、塗膜は全く曇らなかった。
この実施例より、親水性重合体を含有する有機無機複合体の塗膜が、基材との接着性が良好で、防曇性を有していることがわかる。
【0072】
(実施例8)
[モノマー(a)、無機材料(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.223g、その他のモノマーとしてポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製)0.165g、無機材料(B)としてスノーテックス20(20重量%のコロイダルシリカ水溶液、日産化学工業株式会社製)0.1g(固形分0.02g)、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(E8)を調製した。
【0073】
[有機無機複合複合体Xの分散液の作製]
上記反応液(E8)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、ほぼ透明な有機無機複合体Xの分散液(8)を作製した。この反応系のRa=0.05、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.67
上記有機無機複合体分散液(8)について、粒度分布測定装置(Microtrac UPA150型、日機装株式会社製)を用いて粒度分布を測定したところ、平均粒径は50nmであった。
【0074】
上記分散液(8)を、35mmポリスチレン製シャーレ(コード3000−035、AGCテクノグラス株式会社製)に厚み50μmになるように流延し、80℃、20分乾燥した後、滅菌水でシャーレを洗浄し、滅菌袋中でシャーレを乾燥して、細胞培養基材(8)を得た。この培養基材8を目視で観察したところ、塗布前と同等な透明度を有し、乾燥皮膜が高い透明度を有することが分かる。
【0075】
[マウスマクロファージ細胞(J744.1)の浮遊培養]
上記得られた細胞培養基材8に、10%牛血清を添加したDMEM培地(バイオウエスト社製)を適量入れ、マウスマクロファージ細胞(J744.1)を播種して(播種濃度は2×10個/35mmシャーレ)、5%二酸化炭素中、37℃で3日間培養を行った。次いで、シャーレ中の培地及び浮遊している細胞を吸い取り、PBSバッファーで3回リンスした後、顕微鏡でシャーレ表面に細胞接着の有無を確認したところ、細胞は全くPBSバッファーで洗い流され、シャーレ表面には接着した細胞は観察されなかった。
一方、35mmポリスチレン製シャーレ(コード3000−035、AGCテクノグラス株式会社製)を用いて、同様な培養試験を行ったところ、マウスマクロファージ細胞がほぼ全てシャーレに接着していた。
以上の実施例より、この培養基材8は、細胞がシャーレ表面に接着せず、浮遊状態で培養されていることが理解できる。
【0076】
(比較例1)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)1.8g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.018g、水溶性の重合開始剤(D)としてペルオキソ二硫酸カリウムの2質量%水溶液を50μl、触媒としてN , N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン8μl、水媒体(C)として予め窒素でバブリングし酸素を除去した水10gを均一に混合して反応液(S1)を調製した。
上記反応液(S1)を室温で15時間攪拌したところ、反応液全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れ、長時間攪拌してもゲルの溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.01、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=0.18>12.4Ra+0.05=0.17
【0077】
(比較例2)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)1.7g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.05g、水溶性の重合開始剤(D)としてペルオキソ二硫酸カリウムの2質量%水溶液を50μl、触媒としてN , N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン8μl、水媒体(C)として予め窒素でバブリングし酸素を除去した水10gを均一に混合して反応液(S12)を調製した。
【0078】
上記反応液(S2)を室温で15時間攪拌したところ、反応液全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れ、長時間攪拌してもゲルの溶解や分散せずゲルのままであった。
【0079】
この反応系のRa=0.03、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=0.50>12.4Ra+0.05=0.42
【0080】
(比較例3)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてN−メチルアクリルアミド(株式会社興人製)1.3g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.08g以外は、上記参考例2と同様にして反応液(S3)を調製した。
【0081】
上記反応液(S3)を室温で15時間攪拌したところ、反応液全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れて長時間攪拌しても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.06、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=0.79=12.4Ra+0.05=0.79
【0082】
(比較例4)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてアクリロイルモルホリン(株式会社興人製)1.28g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.16g以外は、上記参考例2と同様にして反応液(S4)を調製した。
【0083】
上記反応液(S4)を室温で15時間攪拌したところ、ほぼ全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.125、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=1.60=12.4Ra+0.05=1.60
【0084】
(比較例5)
[光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液(G)の調整]
溶媒(F)として、エタノール9.8g、非水溶性の光重合開始剤(D)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(G1)を調製した。
【0085】
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)1.28g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.24g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S5)を調製した。
【0086】
上記反応液(S5)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.19、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=2.34%=0.87Ra+2.17=2.34
【0087】
(比較例6)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.22g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.40g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S6)を調製した。
【0088】
上記反応液(S6)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=1.82、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=3.85%>0.87Ra+2.17=3.75
【0089】
(比較例7)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)3.2g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.16g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S7)を調製した。
【0090】
上記反応液(S7)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.05、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=1.57>12.4Ra+0.05=0.67
【0091】
(比較例8)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む分散液(S)の調製]
モノマー(a)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(株式会社興人製)0.64g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.64g、非水溶性の重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10gを均一に混合して反応液(S8)を調製した。
【0092】
上記反応液(S8)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液全体がゲル化した。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=1.0、粘土鉱物(B)の濃度(質量%)=6.02>0.87Ra+2.17=3.04
【0093】
(比較例9)
[モノマー(a)、無機材料(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)1.13g、無機材料(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.4g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)25μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E19’)を調製した。
【0094】
[有機無機複合複合体Xの分散液の作製]
上記反応液(E9’)をマグネチックスターラーで攪拌しながら、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射したところ、反応液全体が完全にゲル化してしまった。このゲルを大量の水に入れても溶解や分散せずゲルのままであった。
この反応系のRa=0.35、無機材料(B)の濃度(質量%)=3.85(%)>0.87Ra+2.17=2.47
【0095】
上記実施例及び比較例から、本発明の有機無機複合体分散液は、粒径制御が容易で、分散液の安定性がよく、プラスチックやガラスなど基材との接着性が良好である。また、この複合体分散液を乾燥させて得た乾燥皮膜は、高い透明性を持ち、優れた防曇性を有している。更に、製造方法によれば酸素を除去することなく極短時間で、広い範囲の粘土鉱物含有率において、粘土鉱物と有機高分子が異なる構造で複合することができ、優れた分散安定性や皮膜形成能を示す有機無機複合体分散液を製造できることが明らかであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)を含むモノマーの重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合体粒子(X)が、水媒体(C)中に分散していることを特徴とする有機無機複合体分散液。
【請求項2】
前記重合体(P)と前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)との質量比((B)/(P))が、0.01〜10の範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合体分散液。
【請求項3】
前記(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)が、N−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体及びN,N’−メチレンビスアクリルアミドの中から選ばれる1種以上の(メタ)アクリルアミド系モノマーである請求項1又は2に記載の有機無機複合体分散液。
【請求項4】
前記水膨潤性粘土鉱物が、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト及び水膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも一種の、前記水媒体(C)中で1〜10層に層状剥離する粘土鉱物であり、前記シリカが水分散性のあるコロイダルシリカである請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合体分散液。
【請求項5】
請求項1〜4記載の有機無機複合体分散液を乾燥して得られる前記有機無機複合体粒子(X)の乾燥皮膜。
【請求項6】
支持体と、該支持体上に積層された請求項5記載の乾燥皮膜とを有する積層体。
【請求項7】
請求項5記載の乾燥皮膜を表面に有する防曇材料。
【請求項8】
請求項5記載の乾燥皮膜を表面に有する細胞培養基材。
【請求項9】
請求項5記載の乾燥皮膜を表面に有するタンパク質吸着防止材。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合体分散液を用いた調光機能を有する光学素子。
【請求項11】
(メタ)アクリルアミド系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)、並びに重合開始剤(D)を水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた後、前記モノマー(a)を重合させることにより有機無機複合体(X)を形成する工程を含み、
前記水媒体(C)中の前記水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)の濃度(質量%)が下記式(1)又は式(2)で表される範囲であることを特徴とする有機無機複合体分散液の製造方法。
式(1) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(2) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(P)との質量比((B)/(P))である。)

【図1】
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【公開番号】特開2011−144236(P2011−144236A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4865(P2010−4865)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】