説明

有機無機複合材料とその製造方法、および光学部品

【課題】無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、離型性が良好で、優れた透明性と高い屈折率を有する有機無機複合材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)−(SiR12−O−)n−のシロキサン単位[R1、R2はアルキル基、パーフルオロアルキル基またはアリール基、nは5以上の整数を表す。]、一般式(2)−(−CF2−)m−フルオロアルキレン単位[mは1以上の整数を表す。]、一般式(3)−(CH2q−CH3[qは上の整数を表す。]のいずれかで表される単位構造を少なくとも一種有する熱可塑性樹脂中に数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子が分散している有機無機複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折性、透明性、加工性(特に離型性)に優れる有機無機複合材料、ならびに、これを含んで構成されるレンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ等)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、低分散性(すなわち高いアッベ数)、耐熱性、透明性、易成形性、軽量性、耐薬品性・耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
【0004】
それに伴い、レンズを薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(特許文献1、特許文献2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(特許文献3参照)等が活発に研究されてきた。しかし、十分に屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。
【0005】
屈折率を有機物のみで上げることは難しいため、高屈折率を有する無機物を樹脂マトリックス中に分散させることによって高屈折率材料をつくる試みがなされている(特許文献4、5参照)。このような有機無機複合材料によって、高屈折率で透明な成形体を得るためには、粒子サイズが15nm以下の高屈折率無機微粒子を、高濃度で樹脂中に均一分散することが必要となる。しかしながら、上記無機微粒子を高濃度で複合した樹脂は、成形時に金型との密着性が高くなり、離型時に金型表面に樹脂が付着したり、過大な応力がかかったりするため、成形物に変形が生じたり、成形物内部に光学歪みが生じる等の問題があった。離型性改良のために、成形金型に離型剤を塗布する技術(特許文献6参照)等が提案されているが、これらの方法を用いても、操作が煩雑であるために、製造コストが大きくなるといった問題があり、改良が望まれていた。
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開昭61−291650号公報
【特許文献5】特開2003−73564号公報
【特許文献6】特開2005−270801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、高屈折性、透明性、および加工性を併せ持つ有機無機複合材料、およびそれを含んで構成されるレンズ等の光学部品は未だ見出されておらず、その開発が望まれていた。
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、離型性が良好で、優れた透明性と高い屈折率を有する有機無機複合材料、ならびに、これを用いたレンズ基材等の光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する単位構造を樹脂中にもたせることにより、無機微粒子が分散している有機無機複合材料の高屈折性と高透明性を損なうことなく、成形金型からの離型性を向上させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[11]に記載した事項に特定される。
[1] 下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を少なくとも一種有する熱可塑性樹脂中に数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合材料。
【0009】
【化1】

〔一般式(1)中、R1およびR2は各々独立にアルキル基、パーフルオロアルキル基またはアリール基を表し、nは5以上の整数を表す。〕
【0010】
【化2】

〔一般式(2)中、mは1以上の整数を表す。〕
【0011】
【化3】

〔一般式(3)中、qは4以上の整数を表す。〕
【0012】
[2] 前記熱可塑性樹脂を構成するポリマー中に、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造の少なくとも一種を化学結合を介して有することを特徴とする[1]に記載の有機無機複合材料。
[3] 前記熱可塑性樹脂が下記一般式(4)で表される単位構造を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の有機無機複合材料。
【0013】
【化4】

〔一般式(4)中、R3は水素原子またはメチル基を表し、R4はメチル基またはフェニル基を表し、R5は水素原子またはアルキル基を表し、Xはアルキレン基またはアリーレン基からなる二価の連結基を表し、nは5以上の整数を表す。〕
[4] 前記熱可塑性樹脂が、
【0014】
【化5】

[R11〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または置換または無置換のアルキル基を表わす。]、―SO3H、―OSO3H、―CO2H、―OH、および―Si(OR17x183-x[R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、または置換または無置換のアリール基を表し、xは1〜3の整数を表す。]からなる群より選択される官能基を有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[5] 前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[6] 前記無機微粒子が、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化錫およびチタニアからなる群より選ばれるいずれか一種であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[7] 波長589nmにおける屈折率が1.65以上、かつ、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が80%以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【0015】
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を含んで構成される光学部品。
[9] 光学部品がレンズ基材であることを特徴とする[8]に記載の光学部品。
【0016】
[10] 上記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を少なくとも一種有する熱可塑性樹脂中に数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を分散させる工程を含むことを特徴とする有機無機複合材料の製造方法。
[11] 前記無機微粒子を分散剤の存在下で前記熱可塑性樹脂中に分散することを特徴とする[10]に記載の有機無機複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた離型性と高屈折性と透明性とを併せ持つ有機無機複合材料、およびそれを含んで構成される、高精度と高透明性と高屈折性とを併せ持つ光学部品が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において、本発明の有機無機複合材料とその製造方法、およびそれを含んで構成される光学部品について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
[無機微粒子]
本発明の有機無機複合材料には、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を用いる。無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合材料の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズは1〜15nmにすることが必要であり、好ましくは2〜13nmであり、より好ましくは3〜10nmである。
【0020】
本発明で用いられる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子、セレン化物微粒子、テルル化物微粒子等が挙げられる。より具体的には、チタニア微粒子、酸化亜鉛微粒子、ジルコニア微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができ、好ましくは、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子、硫化亜鉛微粒子であり、より好ましくはチタニア微粒子、ジルコニア微粒子であるが、これらに限定されるものではない。本発明では、1種類の無機微粒子を用いてもよいし、複数種の無機微粒子を併用してもよい。
【0021】
本発明で用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法を採用してもよい。ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。
【0022】
例えばチタニア微粒子の合成原料としては、硫酸チタニルが例示される。チタニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も、原料として好適に使用可能である。合成法としては、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁あるいは(1998年)ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の公知の方法を用いることができる。特にゾル生成法により酸化物微粒子を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いるチタニア微粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合または解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。該ヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)やジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名はエレミノールJS−2)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子を非水溶化させて単離してもよい。例えば、色材,57巻6号,305〜308(1984)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0023】
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中で無機微粒子を作成する方法を採用することもできる。
この方法に用いられる溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
【0024】
本発明に用いられる無機微粒子の波長589nmにおける屈折率は、1.90〜3.00であることが好ましく、1.90〜2.70であることがより好ましく、2.00〜2.70であることがさらに好ましい。屈折率が1.90以上である無機微粒子を用いれば屈折率が1.65より大きい有機無機複合材料を作成しやすくなり、屈折率が3.00以下の無機微粒子を用いれば透過率が80%以上の有機無機複合材料を作成しやすい傾向がある。なお、本発明における屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社DR−M4)にて波長589nmの光について25℃で測定した値である。
【0025】
[熱可塑性樹脂]
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を少なくとも一種有することを特徴とする。一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造は、熱可塑性樹脂を構成するポリマー中に化学結合を介して結合されていてもよいし、熱可塑性樹脂中に含まれる化合物中に含まれていてもよい。熱可塑性樹脂と無機微粒子との相分離を抑制する観点から好ましいのは、熱可塑性樹脂を構成するポリマー中に化学結合を介して結合されている態様である。ここで、「化学結合」としては、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられる。
【0026】
熱可塑性樹脂中における一般式(1)〜(3)で表される単位構造の総含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜8質量%であることがより好ましく、0.1〜5質量%であることがさらに好ましい。総含有量が0.01質量%以上であれば離型性向上効果が得られやすく、10質量%以下であれば樹脂マトリックスとの相分離を生じにくいため樹脂全体の透過率や屈折率を高くしやすい傾向がある。以下において、一般式(1)〜(3)で表される単位構造について詳細に説明する。
【0027】
【化6】

【0028】
一般式(1)中、R1およびR2は各々独立にアルキル基またはパーフルオロアルキル基またはアリール基を表す。アルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜9がより好ましく、1〜8がさらに好ましい。アリール基の炭素数は、6〜18が好ましく、6〜16がより好ましく、6〜12がさらに好ましい。より好ましいR1およびR2はメチル基、エチル基、プロピル基、トリフルオロメチル基、フェニル基であり、さらに好ましくはメチル基、フェニル基である。nは繰り返し単位数を表し、5以上の整数である。好ましくは5〜1,000であり、より好ましくは10〜500であり、さらに好ましくは20〜300である。繰り返し単位数が5よりも小さければ、十分な離型性が得られない。繰り返し単位数が1,000以下であれば、樹脂マトリックスとの相分離を生じにくいため、透過率や熱可塑性樹脂全体の屈折率が低下しにくい傾向にある。一般式(1)中のR1とR2は同一であることが好ましい。
【0029】
【化7】

【0030】
一般式(2)中、mは繰り返し単位数を表し、1以上の整数である。好ましくは1〜50であり、より好ましくは1〜40であり、さらに好ましくは1〜30である。繰り返し単位数が50以下であれば、樹脂マトリックスとの相分離を生じにくいため、透過率や熱可塑性樹脂全体の屈折率が低下しにくい傾向にある。
【0031】
【化8】

【0032】
一般式(3)中、qは繰り返し単位数を表し、4以上の整数である。好ましくは4〜50であり、より好ましくは10〜40であり、さらに好ましくは15〜30である。繰り返し単位数が4よりも小さければ、十分な離型性が得られない。繰り返し単位数が50以下であれば、樹脂マトリックスとの相分離を生じにくいため、透過率や熱可塑性樹脂全体の屈折率が低下しにくい傾向にある。
【0033】
本発明では、熱可塑性樹脂を構成するポリマー中に、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を導入して用いてもよい。単位構造の導入部位は、ポリマーの末端でも、主鎖中でも、側鎖中でもよい。また、複数の部位に導入してもよい。
【0034】
ポリマー中に、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を導入する方法として、当該単位構造を有する開始剤、停止剤、連鎖移動剤、モノマーなどを用いて重合する方法や、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有する化合物をポリマー中の官能基と反応させる方法等が挙げられる。
【0035】
一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有するモノマーを用いて重合することにより、これらの単位構造を有するポリマーを製造する場合、使用するモノマーは重合性を有するものであれば特に制限なく選択することができる。そのようなモノマーの具体例を以下に挙げるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。なお、以下において、nおよびn’は5以上の整数を表し、mおよびm’は1以上の整数を表し、q、q1、q2、q3は4以上の整数を表す。
【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(4)で表される単位構造を有するものであることが特に好ましい。
【0040】
【化12】

〔一般式(4)中、R3は水素原子またはメチル基を表し、R4はメチル基またはフェニル基を表し、R5は水素原子またはアルキル基を表し、Xはアルキレン基またはアリーレン基からなる二価の連結基を表し、nは5以上の整数を表す。〕
【0041】
一般式(4)のR5が採りうるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基がより好ましい。Xが採りうるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基がより好ましい。Xが採りうるアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。nの好ましい範囲は、一般式(1)のnの好ましい範囲と同じである。
【0042】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、ポリマーとは別に、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有する化合物を含むものであってもよい。そのような化合物は、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有するポリマーと一緒に熱可塑性樹脂に含まれていてもよいし、一般式(1)〜(3)で表される単位構造を有しないポリマーと一緒に熱可塑性樹脂に含まれていてもよい。
【0043】
一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有する化合物として、これらの単位構造を有する公知の樹脂を挙げることができる。具体的には、天然ワックス(例えば、カルナバワックス、ライスワックス、綿ロウ、木ロウ等の植物系ワックス、ミツロウ、ラノリン等の動物系ワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス、およびパラフィン、マイクロクリスタリン、ペトロラタム等の石油ワックス)、合成ワックス(例えば、フィッシャ・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素ワックス、ステアリン酸アミド、塩素化炭化水素等の長鎖脂肪族アミド、エステル、ケトン、エーテル等の合成ワックス)、シリコーンオイル類(例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル)、および、フッ素テロマー類(例えば、デュポン社製のゾニルFSN、ゾニルFSO)が挙げられる。ただし、本発明で用いることができるものはこれらに限定されるものではない。
【0044】
一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有する化合物は、熱可塑性樹脂を構成するポリマー中に添加・混合することにより熱可塑性樹脂中に導入することができる。添加する方法としては、ポリマー溶液中に一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有する化合物を単独または溶液状態で滴下する方法や、ポリマーの溶融体を混練しているところへ一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有する化合物を滴下する方法などを挙げることができる。
【0045】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂中における、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有する化合物の添加量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましく、0.05〜3質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける屈折率が1.50より大きいことが好ましく、1.55より大きいことがより好ましく、1.60より大きいことがさらに好ましい。
【0047】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が80℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0049】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、数平均分子量が1,000〜500,000であることが好ましく、3,000〜300,000であることがより好ましく、5,000〜200,000であることがさらに好ましく、10,000〜100,000であることが特に好ましい。数平均分子量が1,000以上であれば実用的な力学強度を有する有機無機複合材料が得られやすく、500,000以下であれば成形加工を行いやすい傾向がある。また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂を構成するポリマーは、付加系ポリマー、縮合系ポリマーのいずれであってもよく、ポリマーの種類に制限はない。
【0050】
本発明では、硫黄を含有する熱可塑性樹脂を用いてもよい。例えば、ジチアン構造を有するポリマーの例としては、特開平11−202101号、特開2002−131502号、特開2005−29608号各公報などに記載のものが挙げられる。また、ウレタン構造を有する樹脂の例としては、特開2001−342252号、特開2001−106761号各公報などに記載のものが挙げられる。フェニレンスルフィド構造を有する樹脂の例としては、特開平7−316295号、特開平8−92367号、特開平8−104751号、特開平8−100065号各公報などに記載のものが挙げられる。
【0051】
これら以外の屈折率1.65以上の樹脂の例としては、特開平5−178929号、特開2002−201262号各公報などに記載のものが挙げられる。
【0052】
本発明で用いられる樹脂は、無機微粒子との相溶性向上のために、
【0053】
【化13】

[R11〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または置換または無置換のアルキル基を表わす。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、−OH、および―Si(OR17x183-x[R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、または置換または無置換のアリール基を表し、xは1〜3の整数を表す。]からなる群より選択される官能基を有していることが好ましい。さらに好ましくは、
【0054】
【化14】

−SO3H、−OSO3H、−CO2Hから選ばれる官能基を有していることであり、特に好ましくは、
【0055】
【化15】

−SO3H、−CO2Hから選ばれる官能基を有していることである。
【0056】
前記官能基は、熱可塑性樹脂を構成するポリマー中に化学結合を介して含まれていることが好ましい。官能基の導入部位はポリマーの末端でも、主鎖中でも、側鎖中でもよい。また、複数の部位に導入されていてもよい。
【0057】
これらの官能基は、樹脂中に0.1〜20質量%含まれていることが好ましく、より好ましくは、0.2〜15質量%であり、さらに好ましくは0.2〜10質量%である。樹脂中の含有量が0.1質量%以上であれば無機微粒子との相溶性向上効果を発現しやすく、20質量%以下であれば有機無機複合材料にしたときに熱可塑性を維持しやすい傾向がある。
【0058】
ポリマーの主鎖または側鎖に前記官能基を導入する方法は、特に制限されない。例えば、官能基を有するモノマーを共重合する方法や、ポリマーの主鎖または側鎖に反応により官能基を導入する方法が挙げられる。
【0059】
ポリマー末端に官能基を導入する方法としては、官能基をもつ開始剤、停止剤、連鎖移動剤などを用いて重合しポリマーを得る方法や、例えばビスフェノールAから得られるポリカーボネートのフェノール末端部を官能基を含有する反応剤で修飾する方法などを挙げることができる。例えば、新高分子実験学2、高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)110項〜112項に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた連載移動法ビニル系モノマーのラジカル重合、新高分子実験学2、高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)255項〜256項に記載の官能基含有開始剤および/または官能基含有停止剤を用いるリビングカチオン重合、Macromolecules,36巻,7020項〜7026項(2003年)に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた開環メタセシス重合などを挙げることができる。
【0060】
本発明の有機無機複合材料を製造する際には、上記の熱可塑性樹脂の1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上を混合して用いる場合は、混合後の樹脂混合物が上記の屈折率の条件を満たすことが好ましい。
【0061】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂を製造する際に好ましく用いられるモノマーの具体例を以下に挙げる。ただし、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されるものではない。これらのモノマーは、上記の一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を有するモノマーと共重合させることができる。
【0062】
【化16】

【0063】
【化17】

【0064】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂の好ましい具体例を、構成モノマーおよび開始剤の組合せとして以下の表に例示する。ただし、本発明に用いられる熱可塑性樹脂はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0065】
【表1】

注)重合開始剤の欄において、V-601は和光純薬工業株式会社製;ジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を表し、Aは下記式で表される化合物を表す。なお、Aを用いた際には、補助開始剤として臭化銅を用いた。
【0066】
【化18】

【0067】
[有機無機複合材料とその製造方法]
本発明の有機無機複合材料は、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を少なくとも一種有する熱可塑性樹脂中に数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子が分散していることを特徴とする。本発明の有機無機複合材料の作成方法は特に限定されるものではない。具体的には、熱可塑性樹脂と無機微粒子をそれぞれ独立に合成して両者を混合させる方法、予め合成した無機微粒子の存在下で熱可塑性樹脂を合成する方法、予め合成した熱可塑性樹脂の存在下で無機微粒子を合成する方法、熱可塑性樹脂と無機微粒子の両者を同時に合成する方法等を挙げることができ、これらのいずれの方法で作成してもよい。
【0068】
例えば、熱可塑性樹脂と無機微粒子をそれぞれ独立に合成して両者を混合させる方法を採用する場合は、無機微粒子を一気に樹脂溶液と混合してもよいし、徐々に樹脂溶液に滴下してもよい。また、攪拌混合に際しては、可塑剤を存在させておいてもよい。このような可塑剤は、予め樹脂溶液や無機微粒子分散液に添加しておいてもよいし、樹脂溶液と無機微粒子分散液の混合時に添加してもよい。
【0069】
本発明の有機無機複合材料における無機微粒子の含有量は、1〜90質量%であることが好ましく、5〜80質量%であることがより好ましく、10〜70質量%であることがさらに好ましい。無機微粒子含量が1質量%以上であれば屈折率向上効果が得られやすく、90質量%以下であれば有機無機複合材料の機械強度の低下を防ぎやすい傾向にある。
【0070】
本発明の有機無機複合材料は、波長589nmにおける屈折率が1.65以上であることが好ましく、1.68以上であることがより好ましく、1.70以上であることがさらに好ましい。波長589nmにおける屈折率が1.65以上であればより好ましい性質を有するレンズ等の光学部品を提供しやすい。
【0071】
本発明の有機無機複合材料は、波長589nmにおける光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。波長589nmにおける光線透過率が80%以上であればより好ましい性質を有するレンズ等の光学部品を提供し得やすい。なお本発明における光線透過率は、樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作成し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置UV−3100(島津製作所)で測定した値である。
【0072】
[分散剤]
無機微粒子を熱可塑性樹脂中に分散して本発明の有機無機複合材料を製造する際に、分散剤を用いて無機微粒子を熱可塑性樹脂中に分散してもよい。分散剤の分子量としては、通常100〜1000程度である。分子量が大きすぎると、有機無機複合材料の屈折率を上げることが難しくなる場合がある。
【0073】
熱可塑性樹脂を主体とする樹脂マトリックスへの相溶性を有する有機化合物(分散剤の一種)を無機微粒子に配位または修飾しておくと、樹脂マトリックスへの無機微粒子の分散性が向上し、本発明の有機無機複合材料の透明性や機械的強度が向上する場合がある。分散剤の効果は、微粒子同士の凝集が抑制される効果や、樹脂マトリックスへの相溶性が向上する効果等の組み合わせによるものと考えられる。
【0074】
本発明では、分散剤として下記一般式(5)で表される構造を有するものを用いることが好ましい。
一般式(5)
X−R
【0075】
一般式(5)中、Xは本発明で用いられる無機微粒子の表面と任意の化学結合を形成しうる官能基を表し、Rは本発明で用いられる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂マトリックスとの相溶性または反応性を有する炭素数1〜30の1価の基またはポリマーを表す。ここで「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられる。
【0076】
無機微粒子への分散剤の配位方法および共有結合による修飾方法とこれに使用する有機物の分子構造に制限はない。無機微粒子に配位結合で配位する前記Xの好ましい具体例としては、チオールやスルホン酸類等の硫黄含有有機化合物;ホスフィンやホスフィンオキシド、ホスホン酸、リン酸エステル等を有するリン含有有機配位子;アルキルアミンや芳香族アミン等を有する窒素含有配位子;カルボン酸類を有する配位子を挙げることができる。これら例示のうち、好ましく用いられるのはリン含有有機配位子であり、例えば、日本化薬製の「KAYAMER PM−21」、東京化成製の「リン酸ジベンジル」などが好適である。
【0077】
また、無機微粒子を共有結合で修飾する前記Xの好ましい具体例としては、シリカ、アルミナ、チタニア等の酸化物の表面処理に従来使用されているシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤やアルミニウム系カップリング剤等の活性官能基である金属アルコキシド基や、比較的マイルドな条件で金属酸化物表面と共有結合を形成することが知られているホスホン酸やホスホン酸エステルといったホスホン酸誘導体を挙げることができる。この中でもシランカップリング剤が好ましく、特開平5−221640号、特開平9−100111号、特開2002−187921号各公報などに記載の方法を用いることができる。
【0078】
一方、一般式(5)のRが前記樹脂マトリックスとの相溶性または反応性を有する基である場合、その化学構造は、該樹脂マトリックスの主体である樹脂の化学構造の一部または全部と同一または類似であることが好ましい。
これらの分散剤は、1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。
【0079】
[可塑剤]
本発明の有機無機複合材料を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、成形温度を下げるために、本発明の有機無機複合材料に可塑剤を含有させてもよい。本発明で使用する可塑剤としては、一般式(6)で表される構造を有するものが好ましい。
【0080】
【化19】

[一般式(6)中、B1およびB2はそれぞれ独立に炭素数6〜18のアルキル基またはアリールアルキル基、mは0または1、Xは
【0081】
【化20】

のうちのいずれかであり、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子または炭素数4以下のアルキル基を示す。)
【0082】
また、一般式(6)で表される化合物において、B1,B2は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基またはアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなるので添加効果が不十分である場合がある。
1,B2の基としては、具体的には、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、またはベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。一般式(6)で表される化合物の具体例としては次に示すものが挙げられ、中でもW−1(花王株式会社製の商品名〔KP−L155〕)が好ましい。ただし、本発明で用いることができる可塑剤はこれらの化合物に限定されない。
【0083】
【化21】

【0084】
[成形法]
本発明における有機無機複合材料の成形法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、キャスト成形等、一般の熱可塑性樹脂材料の成形法を採用することができる。有機無機複合材料の流動性が低いことから、本発明では圧縮成形により成形することが好ましい。
【0085】
[光学部品]
本発明の有機無機複合材料は、高屈折性、低分散性(高いアッベ数)、光線透過性、加工性を併せ持ち、光学特性に優れた有機無機複合材料である。また、本発明の有機無機複合材料の屈折率は例えば無機微粒子と樹脂との混合比を変えることにより任意に調節することが可能である。
本発明の光学部品は、上記の有機無機複合材料を含むものである。本発明の光学部品の種類は、特に制限されない。特に、有機無機複合材料の優れた光学特性を利用した光学部品、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に好適に利用される。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。
【0086】
かかる光学機能装置における上記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、パネル(板状成形体)、フィルム、光導波路(フィルム状やファイバー状等)、光ディスク等が例示される。これら例示の光学部品のうち、本発明の光学部品はレンズとして特に好ましく用いることができる。かかるパッシブ光学部品には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、無機粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0088】
[分析および評価方法]
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製H−9000UHR型透過型電子顕微鏡(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
(2)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作成し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置UV−3100(島津製作所製)で波長589nmの光について測定した。
(3)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製DR−M4)にて、波長589nmの光について行った。
(4)離型性評価
加熱成形後、ステンレスでできた金型から成形体を外す際に、自然に離型した場合を◎、若干の力を必要とするものの、容易に離型した場合を○、無理な力が必要となり、破損はないものの、内部歪みやレンズ面の変形のために光学的に影響を受けた場合を△、大きな力が必要となり、破損してしまった場合を×とした。
【0089】
[材料の調製]
(1)チタニア微粒子の合成
0.1モル/Lの硫酸チタニル水溶液を攪拌しながら、同容量の1.5モル/Lの炭酸ナトリウム水溶液を室温で10分かけて滴下した。こうして得た白色の超微粒子の懸濁液を、3500rpmで遠心分離し、上澄み液のデカンテーションによる除去および水洗の工程を繰り返すことにより精製した。こうして得た白色沈殿を0.3モル/Lの希塩酸中に攪拌分散しながら50℃で約1時間加熱して、透明感のある酸性ヒドロゾルを得た。この酸性ヒドロゾルを氷冷し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩の水溶液を加えたところ白色沈殿を生じたので、次いでトルエンで抽出し、乾燥後濃縮した。この濃縮残渣のXRDとTEMより、アナタース型チタニア微粒子(数平均粒子サイズは約5nm)の生成を確認した。
【0090】
(2)ジルコニア微粒子の合成
50g/Lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水で溶媒としてジルコニア換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理してジルコニア微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子サイズが5nmのジルコニア微粒子の生成を確認した。
【0091】
(3)ジルコニア微粒子トルエン分散液の調製
前記(2)で合成したジルコニア微粒子懸濁液と日本化薬製の「KAYAMER PM−21」を溶解させたトルエン溶液を混合し、50℃で8時間攪拌した後、トルエン溶液を抽出し、ジルコニア微粒子トルエン分散液を作製した。
他の分散剤を用いる場合にも、同様の方法により調製できる。
【0092】
(4)樹脂の合成
P−15の合成:
還流冷却器、ガス導入コックを付した300ml三口フラスコに、チッソ株式会社製サイラプレーンFM−0725(S-6、n=131)0.25gを添加し、2回窒素置換した後、スチレン(M−5)48.8g、2−カルボキシエチルアクリレート(M−12)1.0g、酢酸エチル21.4g、さらに開始剤として和光純薬工業株式会社製V−601 0.5gを添加し、さらに2回窒素置換した後、窒素気流下80℃で3時間加熱した。室温に戻した後、酢酸エチル30mlを添加後、10分間攪拌し、メタノール2Lに投入し、再沈殿した。沈殿を濾取した後、大量のメタノールで洗浄し、60℃で3時間真空乾燥することによりP−15を得た(収率42%、数平均分子量22,800、重量平均分子量38,900)。
他の例示したポリマーについても、同様の方法で調製できる。
【0093】
リビングラジカル重合開始剤Aの合成:
還流冷却器、ガス導入コックを付した200ml三口フラスコに、α,α’−ジブロモ−p−キシレン20g(75.8mmol)、m−キシレン70mlを仕込み、加熱還流しながら、窒素気流下、トリイソプロピルホスファイト16.8g(80.7mmol)をm−キシレン20mlに溶解した溶液を滴下した。滴下終了後3時間加熱還流し、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、開始剤Aを得た(収率53%)。
【0094】
【化22】

【0095】
P−19の合成:
還流冷却器、ガス導入コックを付した200ml三口フラスコに臭化銅0.41g、スチレン59.6g(M−5)、大阪有機化学工業株式会社製ビスコート8F(S-14、n=4)8.6g、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン0.5g、開始剤A1.0gを仕込み、5回窒素置換した後、窒素気流下80℃で5時間加熱した。室温に戻した後、アルミナ30gとトルエン50mlを添加し10分間攪拌し、セライト濾過した。濾液を大量のメタノールに投入し、沈殿させ、沈殿を濾取した後、大量のメタノールで洗浄し、60℃で3時間真空乾燥してポリマーを得た(収率38%)。
ガス導入コックを付した100ml三口フラスコに上記で得られたポリマー10g、トリメチルシリルブロマイド2.3g、塩化メチレン40mlを仕込み、窒素気流下、室温で24時間攪拌した。水10mlを添加し1時間攪拌した後、大量のメタノールに投入し、沈殿させ、沈殿を濾取した後、大量のメタノールで洗浄し、60℃で3時間真空乾燥することによりP−19を得た(収瑠量96%、数平均分子量35,100、重量平均分子量40,400)。
他の例示したポリマーについても、同様の方法で調製できる。
【0096】
【化23】

【0097】
(5)有機無機複合材料の調製
(3)で合成したジルコニア微粒子のトルエン分散液を樹脂P−15のトルエン溶液に5分かけて滴下し、これを1時間攪拌した後、溶媒を除去することにより、有機無機複合材料を粉体として得た。
他の有機無機複合材料についても、同様の方法で調製した。
【0098】
[加熱成形による光学部品の製造]
実施例1〜7と比較例1〜3の各レンズを上記の手順で製造した。使用した無機微粒子の種類と無機成分としての使用量は表2に示す通りとした。但し、比較例1では、例示化合物P−3においてモノマー成分S−4を用いずに他はすべて同様の比率で合成したQ−1を樹脂として使用し、比較例2では無機微粒子を添加せず熱可塑性樹脂のみを成形し、比較例3ではアルドリッチ社製のポリスチレンを用いた。
製造した各有機無機複合材料を220℃で加熱成形し、厚さ1mmのレンズ用成形体を作成した。このとき金型からの離型性を評価した。成形体を切削し、断面をTEMで観察して、無機微粒子が熱可塑性樹脂中に均一に分散しているか否かを確認した。さらに光線透過率測定と屈折率測定を行った。これらの結果は以下の表2に記載した。その後、レンズ用成形体をレンズの形状に成形して、光学部品であるレンズを得た。
【0099】
【表2】

【0100】
表2から明らかなように、本発明により屈折率が1.65より大きくて透明性が良好な光学部品が得られた(実施例1〜8)。比較例1では成形後の離型性が悪いために、レンズ表面に一部破損が生じ、比較例2では、無機微粒子の添加がないために、屈折率が十分に高い光学部品が得られず、比較例3では、無機微粒子を均一に分散することができず、微粒子が凝集しており、光線透過率が低いため、アッベ屈折率計での屈折率測定を行なえなかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の光学部品は、高屈折性、光線透過性、軽量性および、離型性を併せ持つ有機無機複合材料を含むものである。本発明によれば、屈折率を任意に調節した光学部品を比較的容易に提供することができる。このため、本発明は、高屈折レンズ等の広範な光学部品の提供に有用であり、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を少なくとも一種有する熱可塑性樹脂中に数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合材料。
【化1】

〔一般式(1)中、R1およびR2は各々独立にアルキル基、パーフルオロアルキル基またはアリール基を表し、nは5以上の整数を表す。〕および
【化2】

〔一般式(2)中、mは1以上の整数を表す。〕
【化3】

〔一般式(3)中、qは4以上の整数を表す。〕
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂を構成するポリマー中に、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造の少なくとも一種を化学結合を介して有することを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合材料。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が下記一般式(4)で表される単位構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合材料。
【化4】

〔一般式(4)中、R3は水素原子またはメチル基を表し、R4はメチル基またはフェニル基を表し、R5は水素原子またはアルキル基を表し、Xはアルキレン基またはアリーレン基からなる二価の連結基を表し、nは5以上の整数を表す。〕
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、
【化5】

[R11〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または置換または無置換のアルキル基を表わす。]、―SO3H、―OSO3H、―CO2H、―OH、および―Si(OR17x183-x[R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、または置換または無置換のアリール基を表し、xは1〜3の整数を表す。]からなる群より選択される官能基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項5】
前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項6】
前記無機微粒子が、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化錫およびチタニアからなる群より選ばれるいずれか一種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項7】
波長589nmにおける屈折率が1.65以上、かつ、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を含んで構成される光学部品。
【請求項9】
光学部品がレンズ基材であることを特徴とする請求項8に記載の光学部品。
【請求項10】
下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される単位構造を少なくとも一種有する熱可塑性樹脂中に数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を分散させる工程を含むことを特徴とする有機無機複合材料の製造方法。
【化6】

〔一般式(1)中、R1およびR2は各々独立にアルキル基、パーフルオロアルキル基またはアリール基を表し、nは5以上の整数を表す。〕
【化7】

〔一般式(2)中、mは1以上の整数を表す。〕
【化8】

〔一般式(3)中、qは4以上の整数を表す。〕
【請求項11】
前記無機微粒子を分散剤の存在下で前記熱可塑性樹脂中に分散することを特徴とする請求項10に記載の有機無機複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−201942(P2008−201942A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40956(P2007−40956)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】