説明

有機薄膜形成装置

【課題】マスクが撓むことなく、パターニングした有機薄膜を形成する技術を提供する。
【解決手段】基板11上に蒸気放出装置14を配置し、蒸気放出装置14内の蒸気供給源21のノズル22から有機化合物蒸気を放出させ、ノズル22と対面する位置のアパーチャ孔24を通過した有機化合物蒸気をマスク板25に到達させ、マスク貫通孔26を通過させ、相対移動によって、基板11表面に直線状の複数の有機薄膜を形成する。マスク板25の相対移動方向の長さは、基板11の相対移動方向の長さよりも短いので、マスク板25が垂れ下がることはない。有機化合物蒸気がアパーチャ孔24を通過してマスク板25に到達するから、斜め成分が除去されてシャープなパターンの有機薄膜を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL素子等の有機薄膜を形成する際には、真空槽内に基板を配置し、真空蒸着法によって有機蒸着材料を基板上に堆積させている。
近年、基板が大型化し、基板の下方に蒸気放出装置が配置されたいわゆるデポアップの有機薄膜形成装置では、枠状の基板ホルダに保持された基板の成膜面が重力により下方に膨らむため、マスク板を通過して基板に形成される薄膜のパターンが歪むことが問題になっていた。
【0003】
そこで、重力による基板の変形の問題を解決するために、水平な基板台上に基板を載置し、基板の上方に配置された蒸気放出装置から基板に向けて蒸気を放出させて蒸着させるいわゆるデポダウンの技術が研究されている。
このような技術として、特許文献1では、基板台上に基板が載置され、基板の表面にマスク板が載置され、マスク板の上方に蒸気供給源が配置され、基板とマスク板とを一緒に、蒸気供給源に対して相対移動させて成膜する有機薄膜形成装置が開示されている。
【0004】
しかしながらこの装置では、基板の大型化に従って、マスク板を大型化しなければならず、マスク板の製作コストが高いことが問題であった。
この問題を解決するために、基板よりも小型のマスク板と蒸気供給源とを一緒に、基板に対して相対移動させて成膜する方法が考えられるが、基板とマスク板とが離間していると、従来の装置では、蒸気供給源のノズルから放出されてマスク板に斜めに入射する蒸気により、成膜パターンが不鮮明になるという問題が生じていた。
基板上に鮮明なパターンで成膜するためには、従来の装置では、基板とマスク板とを互いに概ね50μm以下に近づけて配置する必要があった。
【0005】
しかしながら、基板とマスク板を相対的に移動させる場合、基板とマスク板の間隔を接触させないで、かつ、50μm以下に保つことが困難であった。さらに、基板の大型化に従って、基板台の平面性を得ることが困難になり、基板台の歪みに起因して基板台上の基板に歪みが生じると、マスク板と蒸気供給源とを一緒に、基板に対して相対移動させる際に、基板とマスク板とが擦れて損傷するという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4156885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、基板の変形を防ぐため基板を重力方向に対して支える基板台に配置し、かつ基板より小さなマスク板を基板と相対的に移動させながら有機薄膜を形成する技術を提供することにある。また、本発明の目的の一つは、基板とマスク板の間隔を大きくしても成膜パターンが不鮮明にならない技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、基板が配置される基板台と、有機化合物蒸気を発生させる蒸気発生装置と、前記蒸気発生装置から前記有機化合物蒸気が供給され、前記基板台上の前記基板に向けて供給された前記有機化合物蒸気を放出する蒸気放出装置と、前記蒸気放出装置と前記基板台上の前記基板とを相対移動させる移動装置とを有する有機薄膜形成装置であって、前記蒸気放出装置は、前記蒸気発生装置から前記有機化合物蒸気が供給される蒸気供給源と、前記蒸気供給源に複数設けられ、供給された有機化合物蒸気を放出するノズルと、複数個のマスク貫通孔が形成され、前記基板台上の前記基板と平行に配置されたマスク板と、を有し、前記ノズルと前記マスク板の間の位置にアパーチャ板が配置され、前記アパーチャ板にアパーチャ孔が形成され、前記アパーチャ孔と前記マスク貫通孔とを通過した前記有機化合物蒸気が前記基板台上の前記基板に到達するように構成され、前記マスク板の相対移動方向の長さは、前記基板の相対移動方向の長さよりも短くされた有機薄膜形成装置である。
本発明は有機薄膜形成装置であって、前記基板は前記基板台に成膜面を上方に向けて配置される有機薄膜形成装置である。
本発明は有機薄膜形成装置であって、前記基板の成膜面と前記マスク板の基板側の面の間隔は50μmより大きく2mm以下である有機薄膜形成装置である。
本発明は有機薄膜形成装置であって、前記基板の成膜面と前記マスク板の基板側の面の間隔は100μm以上1.5mm以下である有機薄膜形成装置である。
本発明は有機薄膜形成装置であって、前記ノズルと前記マスク板の間の位置に、各前記ノズルとそれぞれ一対一で対面する位置に配置され、対面する前記ノズルが放出する前記有機化合物蒸気が通過するアパーチャ孔が設けられ、一個の前記アパーチャ孔を通過した前記有機化合物蒸気が前記マスク板に到達するように構成された有機薄膜形成装置である。
本発明は有機薄膜形成装置であって、前記アパーチャ孔の深さと幅の比は、対向する前記ノズル以外の前記ノズルから放出された前記有機化合物蒸気を通過させない値にされた有機薄膜形成装置である。
本発明は有機薄膜形成装置であって、前記ノズルは、前記蒸気放出装置と前記基板台上の前記基板との相対的な移動方向とは垂直な方向に伸びる複数の列上に配置された有機薄膜形成装置である。
本発明は有機薄膜形成装置であって、前記ノズルは、二列の千鳥状に配置された有機薄膜形成装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成膜対象の基板より面積の小さいマスク板によって、基板表面にパターニングした有機膜を形成できることから、薄くて微細加工がされたマスク板を撓みを抑制して使用することができる。
アパーチャ孔によって有機化合物蒸気のうち、大きく傾斜する斜め成分を除去しているので、マスク板と基板の間隔を50μmより大きく2mm以下、好ましくは100μm以上1.5mm以下としてもシャープなパターンの有機薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を説明するための平面図
【図2】(a)、(b):本発明による薄膜形成方法を説明するための図
【図3】マスク板開口の位置を説明するための図
【図4】蒸気放出装置の内部構造を説明するための図
【図5】有機化合物蒸気の斜め成分を除去する原理を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の有機薄膜形成装置10の平面図である。
この有機薄膜形成装置10は、真空槽と、真空槽内に設けられ、基板11が配置される基板台12と、有機化合物蒸気を発生させる蒸気発生装置13と、蒸気発生装置13で発生された有機化合物蒸気が供給される蒸気放出装置14とを有している。基板11は成膜面を上方に向けて、いわゆるフェースアップで配置される。
【0012】
真空槽には、真空排気装置が接続され、真空排気されるように構成されている。
後述するように、蒸気放出装置14は、供給された有機化合物蒸気を真空槽内の真空雰囲気中に放出し、基板台12上に蒸気放出装置14と対面して配置された基板11に有機化合物蒸気を到達させるように構成されている。蒸気放出装置14は、基板11方向に下向きに蒸気を放出し、基板11に、いわゆるデポダウンで有機化合物が成膜される。
【0013】
また、有機薄膜形成装置10は、蒸気放出装置14と基板台12上の基板11とを相対的に移動させる移動装置18を有している。ここでは、基板11及び基板台12は静止しており、蒸気放出装置14が移動装置18によって基板11の上方を直線的に往復移動する。なお、基板11及び基板台12を蒸気放出装置14に対して移動させてもよい。
【0014】
蒸気放出装置14の側面図を図4に示す。蒸気放出装置14は、箱状で内部中空の蒸気供給源21と、蒸気供給源21の底面に取り付けられた複数のノズル22と、ノズル22とは離間して、ノズル22の下方に配置されたアパーチャ板23と、アパーチャ板23の下方であって、基板台12上の基板11と対面できる位置に配置されたマスク板25とを有している。
【0015】
アパーチャ板23とマスク板25とは、基板台12上の基板11に対して平行になるように配置されており、基板11の上方を移動する際に、基板11との間の距離は変化しないようにされている。基板11上面(成膜面)とマスク板25下面(基板側の面)の間隔は、50μmより大きく2mm以下であることが好ましい。より好ましくは、100μm以上1.5mm以下である。基板11上面とマスク板25下面の間隔は、狭過ぎると相対移動させる時に擦る恐れがあり、広過ぎると成膜パターンが不鮮明になる。本発明では、後述するようにアパーチャ板23により蒸気の斜め成分を除去しているので、従来より基板11上面とマスク板25下面の間隔を広くすることができる。なお、斜め成分の除去のためマスク板25の厚みを厚くすることも考えられるが、マスク貫通孔26は微細なため短時間で閉塞する恐れがあり、マスク板25の厚みを厚くし過ぎることは好ましくない。
【0016】
マスク板25の表面(ここでは基板11側の表面)に対して垂直な方向をZ軸とし、基板11と蒸気放出装置14との相対移動方向をX軸、Z軸、X軸と垂直な方向をY軸とすると、各ノズル22は、相対移動方向とは垂直な方向(Y軸方向)に伸びる一列又は複数列上に並べられている。二列51、52に並べられる場合は、各ノズル22の位置を示す座標は、X座標の値はY軸と平行な二列51、52を示す二種類あり、交互に並べられて千鳥状に配置される場合は、隣接するノズル22のX座標は異なるようにされる。
千鳥状の配列にすると、ノズル22間のY軸上の距離を、短くすることができる。
【0017】
また、後述するように形成する有機薄膜同士の距離を等しくするために、各ノズル22のY軸上の位置は等間隔になっている。各ノズル22の高さは等しいから、各ノズル22のZ座標は同一である。
各ノズル22には、ノズル22の下端に開口を有し、蒸気供給源21の内部に接続された蒸気通路が形成されている。図4は、蒸気放出装置14の側面図であり、符号27は、ノズル22内の蒸気通路を示している。
【0018】
蒸気発生装置13は、内部に配置された有機化合物を加熱して有機化合物の蒸気を発生させ、蒸気供給源21に有機化合物蒸気を供給しており、供給された有機化合物蒸気は、蒸気通路27を通って、ノズル22先端の開口から真空雰囲気中に放出される。
有機化合物蒸気が放出される位置をノズル22の位置であるとすると、開口の位置がノズル22の位置になる。各ノズル22の開口は、マスク板25表面が位置する平面から等距離にある。
【0019】
アパーチャ板23には、各ノズル22の下方位置に、同じ深さの複数のアパーチャ孔24が形成されている。アパーチャ孔24は、その中心線がマスク板25および基板11に対して垂直方向(Z軸方向)に開けられている。例えば、アパーチャ孔24のノズル側の開口34とマスク板25側の開口35とは、同一形状であり、マスク板25の表面に垂直な直線が、二つの開口34、35のうち、一方を通ると他方も通るようになっており、ノズル22から放出された蒸気の内、マスク板25に垂直に入射する有機化合物蒸気が通過し易いようになっている。
【0020】
ここでは、異なるアパーチャ孔24においても、開口34、35の形状は等しくされ、同じ向きに向けられている。
アパーチャ孔24は、その開口34、35の中心が、マスク板25の表面に垂直で、ノズル22の蒸気通路27の開口を通る直線上に位置するように配置されている。即ち、アパーチャ孔24の中心線の延長上にノズル22の蒸気通路27の開口が位置する。
【0021】
蒸気発生装置13から蒸気供給源21に供給され、各ノズル22から放出された有機化合物蒸気のうち、アパーチャ孔24を通過した部分は、マスク板25に到達する。
他の部分は、アパーチャ板23の表面か、又はアパーチャ孔24の内周面に到達して付着する。
【0022】
マスク板25は、同じ大きさ、同じ形状で、同じ方向に向けられた複数のマスク貫通孔26を有しており、マスク貫通孔26は、一個のアパーチャ孔24を通過した有機化合物蒸気が到達できる範囲内に、複数個存するように配置されている(図1、2では、マスク貫通孔26は省略してある)。
【0023】
マスク板25と基板11の相対移動方向の長さは、マスク板25の方が、基板11の数十分の一〜数分の一の長さになっており、マスク板25の基板11と対面する部分は平面になるように形成し、マスク貫通孔26が形成された部分は薄く、四辺はそれよりも厚く形成されるか、四辺が他の部材に固定され、マスク板25の中央位置が撓んで垂れ下がることが無いようにされている。
【0024】
隣接するノズル22間のY軸上の距離は等しく、アパーチャ孔24の中心位置のY軸上の位置も、ノズル22間の距離と同じ距離の等間隔になっている。また、異なるアパーチャ孔24を通過した有機化合物蒸気が到達するマスク貫通孔26を含めて、マスク貫通孔26のY軸上の位置も等間隔にされている。
【0025】
図3はマスク板25の平面図であり、同図中の符号Aは、ノズル22の蒸気通路27の中心線を延長した時に、マスク板25と交差する位置を示している。図3にはアパーチャ孔24の記載は省略されている。
【0026】
複数のマスク貫通孔26は、ノズル22が位置するY軸方向の直線51、52と高さ(Z座標)が異なりX座標が同じ直線61、62上に位置するようにされている。一個のアパーチャ孔24を通過した有機化合物蒸気が到達できる範囲内に、複数のマスク貫通孔26が一本の直線61又は62に沿って、等間隔に複数個並べられている。
【0027】
アパーチャ孔24を通過した有機化合物蒸気のうち、マスク貫通孔26を通過した有機化合物蒸気は、基板11表面に到達し、薄膜を形成する。マスク板25のマスク貫通孔26以外の部分に到達した有機化合物蒸気は、マスク板25のマスク貫通孔26以外の部分に付着し、基板11には到達しない。
【0028】
上記では、アパーチャ板23が一枚の場合を記載したが、アパーチャ孔24の中心線が同軸上に一致するように、複数のアパーチャ板23を設けても良い。また、アパーチャ板23は、付着した有機化合物が再蒸発しないように冷却されても良い。
【0029】
次に、成膜手順について説明する。
先ず、真空槽に接続された真空排気装置を動作させ、真空槽内を真空雰囲気にすると共に、移動装置18によって蒸気放出装置14を移動させ、基板台12の外側位置に静止させ、その状態で、各ノズル22から有機化合物蒸気を放出させる。各ノズル22からの有機化合物蒸気の放出の開始は、例えば、蒸気発生装置13と蒸気供給源21を図示しないバルブで接続することにより行っても良い。マスク貫通孔26を通過した有機化合物蒸気は基板台12の外側に向けて放出される。
【0030】
次に、図1に示すように、基板11を基板台12上に水平に配置する。
ここでは基板11は四辺形であり、その二辺が相対移動方向と平行になるように配置する。
各ノズル22から有機化合物蒸気を放出させながら、マスク板25表面が位置する平面と、基板11の表面が位置する平面との距離を変えずに、基板台12上の基板11と蒸気放出装置14とを相対移動させると、マスク貫通孔26が基板11表面上の領域に入ったところで、有機薄膜形成が開始される。
【0031】
蒸気放出装置14が移動する場合は、蒸気供給源21及びノズル22と、アパーチャ板23と、マスク板25とは同一方向に同一移動速度で移動する。
異なるマスク貫通孔26を通過した有機化合物蒸気は、基板11上の異なる場所に到達するようになっており、基板11表面では、マスク貫通孔26と対面した位置にだけ有機化合物蒸気が到達する。
【0032】
各ノズル22からの有機化合物蒸気の放出は継続して行われ、蒸気放出装置14と基板台12上のマスク板25との相対移動速度は直線移動であるから、図2(a)に示すように、基板11表面のマスク貫通孔26が対面して通過した場所に、各マスク貫通孔26に対応する個数の直線状の有機薄膜32がそれぞれ形成される。それら直線状の有機薄膜32は互いに分離されている。
その状態で、各ノズル22を、基板台12上の基板11の一方の辺よりも外側の位置から、他方の辺の外側の位置まで、基板11表面を横断させる。
【0033】
同図(b)は、相対移動による横断が行われ、蒸気放出装置14が、基板台12上の基板11よりも外側まで移動した状態である。ここで蒸気放出装置14から有機化合物蒸気の放出を停止する。各ノズル22からの有機化合物蒸気の放出の停止は、例えば、蒸気発生装置13と蒸気供給源21を図示しないバルブで切断することにより行っても良い。
【0034】
この状態で、基板11を基板台12上から持ち上げ、基板11が成膜された真空槽に接続された他の真空処理装置内に搬送すると、この有機薄膜形成装置による有機薄膜の形成が終了する。
蒸気放出装置14が基板台12上の外側に位置する状態で、未処理の基板を搬入し、基板台12に配置して、有機薄膜の形成を再開することもできる。
【0035】
本発明の有機薄膜形成装置10では、ノズル22から放出された有機化合物蒸気は、放出したノズル22の真下に位置するアパーチャ孔24一つだけを貫通するように構成されており、ノズル22から放出された有機化合物蒸気は、他のアパーチャ孔24は通過できないようにされている。
【0036】
その構成を図5を用いて説明すると、先ず、図5には、互いに隣接する二個のノズル221、222と、マスク板25の表面に垂直で一個のノズル221の位置を通る直線上に配置された、アパーチャ孔241とが示されている。このアパーチャ孔241は一個のノズル221の真下に位置している。
ノズル221、222の蒸気通路271、272の開口の大きさは、アパーチャ孔241よりも非常に小さいので、その位置は、大きさは無視した点状の位置として扱うことができる。
【0037】
蒸気通路271、272の開口の位置は、ノズル221、222の位置であり、有機化合物蒸気が放出される放出位置である。図5中、符号P1、P2は、放出位置を示している。
図5の符号Laで示した点線は、ノズル221の放出位置P1と、そのノズル221に対面するアパーチャ孔241のマスク板25に対面する側の開口35の縁とを通る直線であり、その直線Laで囲まれた領域内を、対面するノズル221から放出された有機化合物蒸気が飛行する。
【0038】
アパーチャ板23のアパーチャ孔241以外の部分を遮蔽部材と呼ぶと、有機化合物蒸気は、真空雰囲気内を直線的に飛行するので、どのノズル221、222であっても、その放出位置P1、P2を通る直線が、遮蔽部材と交差せずにいずれかのアパーチャ孔241を通り抜けることができれば、そのノズル221、222から放出された有機化合物蒸気は、そのアパーチャ孔241を通過することができる。
【0039】
これは、マスク板25に対面する側の開口35の縁と、隣接するノズル222の放出位置P2とを通る直線L2が、アパーチャ板23の遮蔽部材と交差することなくアパーチャ孔241を通ることができるか否かで判断でき、交差する場合は、ノズル222から放出され、対面する位置に無いアパーチャ孔241内に入射した有機化合物蒸気は、そのアパーチャ孔241の内壁に衝突し、付着する。
【0040】
アパーチャ孔241の深さが深いほど(ノズル側の開口34とマスク板25側の開口35の間隔が広いほど)、真上に位置しないノズル222の有機化合物蒸気は通過しにくくなる。放出位置P1とそれに対面する通過用貫通孔241の中心とを結ぶ直線は、マスク板25表面に垂直であり、アパーチャ孔241の深さd(ここではアパーチャ板23の厚みと同じ)と幅wの比d/wの値が、放出位置P1、P2間の距離Wや、放出位置P1、P2とアパーチャ板23のマスク板側面との間の距離Hに対して、飛行直線L2がマスク板25と交差するように設定されており(d/w>H/(W+w/2))、斜めに飛行する有機化合物蒸気は基板11に到達しない。従って、マスク板25と基板台12上の基板11との間の距離を大きくしても、ぼやけたパターンの有機薄膜は形成されないようになっている。基板11上面(成膜面)とマスク板25下面(基板側の面)の間隔は、50μmより大きく2mm以下であることが好ましい。より好ましくは、100μm以上1.5mm以下である。50μmより大きく2mm以下の距離であれば、基板11とマスク板25を相対移動しても、基板11とマスク板25の接触を防止できる。
【0041】
このように、深さdと幅wの比(d:w=d/w)を調節することで、所定間隔、所定高さに配置されたノズル22に対して、対面する位置以外の位置に存するアパーチャ孔24には有機化合物蒸気が通過しないようにすることができる。
【0042】
なお、図4に示すように、本発明の基板台12内には基板冷却装置19が設けられており、基板11を冷却させて有機薄膜32を高効率に形成するようになっている。
また、アパーチャ板23とマスク板25も周辺に冷却装置が設けられて冷却され、基板11を昇温させないようになっている。
【0043】
アパーチャ板23とマスク板25には有機化合物蒸気が付着するので、マスク板25は、一枚もしくは複数の基板11に有機薄膜を形成する毎にレーザ光を照射して付着した有機化合物蒸気を蒸発させてもよい。また、アパーチャ板23は所定枚数の基板11の有機薄膜形成毎に、有機化合物が付着されていないアパーチャ板23に交換してもよい。もしくは、アパーチャ板23とマスク板25に加熱装置を設置し、成膜していない間に加熱し、付着した有機薄膜を再蒸発させてクリーニングしてもよい。
【0044】
なお、上記実施例では、基板11の有機薄膜を形成する面を鉛直上方に向けたが、それに限定されるものでは無く、例えば、基板11の薄膜形成面を鉛直下方に向け、ノズル22から有機化合物蒸気を上方に向けて放出するような有機化合物形成装置も本発明に含まれる。横方向や斜め方向に向けてもよい。
【0045】
また、上記実施例では、アパーチャ板23にアパーチャ孔24を形成し、アパーチャ板23を構成する部材によって、アパーチャ孔24の間を閉塞して有機化合物蒸気の通過を遮断したが、無底筒状の部材の中空部分をアパーチャ孔に用い、アパーチャ孔の間を他の部材で閉塞するようにしてもよい。
【0046】
本発明では、一個のアパーチャ孔24には、一個のノズル22から放出された有機化合物蒸気しか通過させず、マスク板25の表面に垂直な直線が、二つの開口34、35のうち、一方を通ると他方も通るようにするのであれば、ノズル側の開口34が形成された薄板と、マスク板側の開口35が形成された薄板とを平行に配置して、二個の開口34、35で、内周側面の無いアパーチャ孔を形成することもできる。複数のアパーチャ板23を設置して、最上部のアパーチャ板23の上面と再下部のアパーチャ板23の下面の間を距離をdとする場合、アパーチャ孔24の側面ではなく、主に複数のアパーチャ板23の上面で有機化合物蒸気が遮断されるように構成することができるので、アパーチャ孔24が閉塞することを遅らせることができる。
更にまた、筒状の部材を蒸着供給源に取り付けて蒸着供給源の一部になるようにしても良く、マスク板25表面に斜めに入射する有機化合物蒸気を遮蔽することもできればよい。
【0047】
上記実施例では、有機薄膜を形成していない基板11表面に有機薄膜を形成したが、既に直線状に形成された有機薄膜の間に、有機薄膜を形成してもよい。本発明で真空槽内に三台の蒸気放出装置を配置し、直線状の、赤色用有機薄膜、緑用有機薄膜、青色用有機薄膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0048】
10……有機薄膜形成装置
11……基板
12……基板台
13……蒸気発生装置
14……蒸気放出装置
21……蒸気供給源
22……ノズル
23……アパーチャ板
24……アパーチャ孔
25……マスク板
26……マスク貫通孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が配置される基板台と、
有機化合物蒸気を発生させる蒸気発生装置と、
前記蒸気発生装置から前記有機化合物蒸気が供給され、前記基板台上の前記基板に向けて供給された前記有機化合物蒸気を放出する蒸気放出装置と、
前記蒸気放出装置と前記基板台上の前記基板とを相対移動させる移動装置とを有する有機薄膜形成装置であって、
前記蒸気放出装置は、
前記蒸気発生装置から前記有機化合物蒸気が供給される蒸気供給源と、
前記蒸気供給源に複数設けられ、供給された有機化合物蒸気を放出するノズルと、
複数個のマスク貫通孔が形成され、前記基板台上の前記基板と平行に配置されたマスク板と、
を有し、
前記ノズルと前記マスク板の間の位置にアパーチャ板が配置され、前記アパーチャ板にアパーチャ孔が形成され、
前記アパーチャ孔と前記マスク貫通孔とを通過した前記有機化合物蒸気が前記基板台上の前記基板に到達するように構成され、
前記マスク板の相対移動方向の長さは、前記基板の相対移動方向の長さよりも短くされた有機薄膜形成装置。
【請求項2】
前記基板は前記基板台に成膜面を上方に向けて配置される請求項1記載の有機薄膜形成装置。
【請求項3】
前記基板の成膜面と前記マスク板の基板側の面の間隔は50μmより大きく2mm以下である請求項1または請求項2のいずれか1項記載の有機薄膜形成装置。
【請求項4】
前記基板の成膜面と前記マスク板の基板側の面の間隔は100μm以上1.5mm以下である請求項1または請求項2のいずれか1項記載の有機薄膜形成装置。
【請求項5】
前記ノズルと前記マスク板の間の位置に、各前記ノズルとそれぞれ一対一で対面する位置に配置され、対面する前記ノズルが放出する前記有機化合物蒸気が通過するアパーチャ孔が設けられ、
一個の前記アパーチャ孔を通過した前記有機化合物蒸気が前記マスク板に到達するように構成された請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の有機薄膜形成装置。
【請求項6】
前記アパーチャ孔の深さと幅の比は、対向する前記ノズル以外の前記ノズルから放出された前記有機化合物蒸気を通過させない値にされた請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の有機薄膜形成装置。
【請求項7】
前記ノズルは、前記蒸気放出装置と前記基板台上の前記基板との相対的な移動方向とは垂直な方向に伸びる複数の列上に配置された請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の有機薄膜形成装置。
【請求項8】
前記ノズルは、二列の千鳥状に配置された請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の有機薄膜形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72461(P2012−72461A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219033(P2010−219033)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】