有機薄膜素子およびタンデム型光電変換素子
【課題】 有機薄膜素子の電流・電圧特性の向上を図る。
【解決手段】
少なくとも1層の有機薄膜層を有する機能性素子を複数積層した有機薄膜素子であって、前記機能性素子同士を繋ぐ接続層として、電子輸送性有機材料に少なくとも1つのシアノ基を配位した導電性有機化合物を用いた有機薄膜素子を作製する。
【解決手段】
少なくとも1層の有機薄膜層を有する機能性素子を複数積層した有機薄膜素子であって、前記機能性素子同士を繋ぐ接続層として、電子輸送性有機材料に少なくとも1つのシアノ基を配位した導電性有機化合物を用いた有機薄膜素子を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜素子に関し、特に有機薄膜層を有する機能性素子部を複数積層した有機薄膜素子およびタンデム型光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜デバイスは太陽電池、LED、TFT、半導体センサなど多くの分野で開発されている。
【0003】
有機太陽電池を例にとると、有機太陽電池は製造工程におけるエネルギーコストが低く、大面積化に適した製造プロセスとして印刷技術を応用するなど、シリコンデバイスにない特徴を持っており、1970年代後半から研究されている。
【0004】
効率性能を向上させる手段の一つとして、素子を積層するタンデム構造が報告されている。タンデム型素子とは、複数のヘテロ接合の半導体を間に接続層を挟んで積み重ねて1つの素子を形成した構造体である。タンデム型素子は単層型素子(シングル素子;ヘテロ接合の半導体が1つだけの素子)に比べて、接続層のロスなどがない場合には開放端電圧が2倍(2層の場合)となる。
【0005】
S.R.Forrestらは、「Appl.Phys.Lett.80,1667(2002)」において、内部電極に金属クラスターを使用して、フロントセルとバックセルの膜厚を薄くして光吸収のバランスを取り、フロントセルとバックセルで発生する光電流をほぼ同じにすることで変換効率を単層型素子に比べて向上させることに成功した例を報告している。
【0006】
また、発光素子である有機LEDにおいても、タンデム型による高輝度、長寿命デバイスが報告されている。特開2003−272860号公報には、発光素子間を接続する層をCGL層と呼び、導電体のITO(インジウムスズオキサイド)や絶縁体のV2O5(五酸化バナジウム):αNPD、4F−TCNQ(テトラシアノキノジメタン):αNPDなどの組み合わせで電荷移動錯体を形成した層を使用したデバイスが提案されている。タンデム構造にすることで、シングル素子と同じ電流で、積層した素子分の輝度が得られるため、電流当たりの輝度効率(cd/A)が上昇する。また、シングル素子と同じ輝度で発光させる場合には、シングル素子より少ない電流ですむため、寿命が長くなるメリットがある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−272860号公報
【非特許文献1】A.Yakimov and S.R.Forrest,Appl.Phys.Lett.80,1667(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機太陽電池は上記のような研究が進み改良されてきたが、現在利用されているシリコン系(単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン)デバイスに比べ、エネルギー変換効率が低いという問題点があり、実用化には至っていない。効率改善のためのタンデム型有機太陽電池においても、接続層に導電性金属を使用するとその透過率が低いため、入射光側から離れた素子ほど光吸収が少なくなり発電量が低下する。Forrestらが報告した、接続層に金属クラスターを使う方法では、透過率の問題は改善されるが、膜厚の制御が他の構造の素子に比べて困難である。
【0009】
タンデム型有機LEDとしてITOや、V2O5:αNPD、4F−TCNQ:αNPDなどの電荷移動錯体を用いる場合、スパッタダメージ、透過率の低さ、V2O5や4F−TCNQが劇物指定物質であることなどから、新たな素子の開発が求められている。
【0010】
本発明の目的は、性能を向上させた有機薄膜素子およびそれを用いた有機半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、一対の電極と、前記一対の電極間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の機能性素子部と、前記複数の機能性素子部との間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層とを有する有機薄膜素子が提供される。
【0012】
本発明の他の観点によれば、透明電極と、対向電極と、前記透明電極および対向電極との間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の単位セルと、前記単位セルの相互間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層とを有するタンデム型光電変換素子が提供される。
【発明の効果】
【0013】
・接続層の透過率が改善される。
・薄膜の膜厚制御が行いやすくなる。
・スパッタダメージを回避できる。
・劇物指定物質の使用を回避できる。
・接続層に接する電子輸送層との親和性が向上し、接合の電子障壁が低くなる。
・結果として有機薄膜素子としての性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明者らは、タンデム型有機薄膜素子において、積層した各素子間を接続する接続層に少なくとも1つのシアノ基(CN)を配位した有機化合物を用いることを発案した。有機材料を使うことで、金属透過率の問題や薄膜の膜厚制御の問題、スパッタダメージの問題、劇物指定物質の使用問題などの改善を図るためである。
【0015】
発明者らは、接続層に有機化合物A(後述する)を用いた、太陽電池として利用可能なタンデム型光電変換素子のサンプルSAを作製し、その特性を調べた。
【0016】
図1に、サンプルSAの構造を表した概略断面図を示す。ITOからなる透明電極2および対向電極6、両電極間に形成された、2つの単位セル(機能性素子部)3、5、および単位セル間に形成された接続層4から構成される。以下、透明電極2側に形成された単位セルをフロントセル3、対向電極6側に形成された単位セルをバックセル5と呼称する。図示のサンプルSAは次のように作製した。
【0017】
基板1として、ITO電極2が付いたガラス板を用いた。ITO電極2はガラス板上にスパッタ成膜した後、フォトリソグラフィーでパターニングした。
【0018】
パターニングされた基板1を中性洗剤中で10分間超音波洗浄した。その後、純水中で10分間超音波洗浄を3回行って純粋のリンスを施した。続いて、脱水・脱脂のためアセトンを用いた超音波洗浄、イソプロピルアルコール(IPA)の超音波洗浄を10分間行った。
【0019】
IPAの蒸気槽に20分間基板を置いた後、有機槽と電極槽が接続された真空チャンバに基板1を導入し、容器内の圧力を1×10−5Pa程度まで真空排気した。その後、有機層パターンを形成するため、ステンレス(SUS430)製蒸着マスク越しに有機物を蒸着した。各材料の蒸着レートは水晶振動子とULVAC製CRTM−9000にてモニターし、1〜2Å/sを保った。
【0020】
次の要領で有機層を形成した。まず、フロントセル3を作製した。まず、銅フタロシアニン(CuPc)層を20nm蒸着してホール輸送層3aを形成した。次にCuPc:フラーレン(C60)を各々1Å/sの蒸着レートで共蒸着し膜厚10nmの活性層3bを得た。3番目にC60を30nm蒸着して電子輸送層3cを形成した。さらにその上にバソクプロインを10nm蒸着してホールブロック層3dを形成し、フロントセル3を作製した。
【0021】
続いて、化合物Aを用いた接続層4をフロントセル3上に10nm蒸着した。
【0022】
図2に、化合物Aの化学構造式を示す。図2に示すように、化合物Aは、アルミキノリノール錯体にCNを配位した、「aluminum tris(3、6・dicyano−8−quinolinolate)」=「トリス(3、6−ジシアノ−8−キノリノラト)アルミニウム」である。
【0023】
接続層の上に、フロントセルの3層3a、3b、3c、3dと同じ材料、膜厚の層5a、5b、5c、5dをこの順に積層してバックセル5を作製した。
【0024】
その後、真空を保持したまま電極槽に移動し、電極パターンの蒸着マスクを使用し、バックセルの上にアルミニウムを抵抗加熱で100nm蒸着させて陰極としての電極6を形成した。
【0025】
電極6形成まで終了した基板1を大気に触れることなく窒素ガス雰囲気のグローブボックス内へ導入し、凹部を有するステンレス板による封止を行った。ステンレス板は脱脂のためIPA、アセトンでそれぞれ10分の超音波洗浄を行った後、UVオゾン洗浄を30分間実施してからグローブボックス内へ導入した。
【0026】
ステンレス板の凹部に、ゲッター剤としてゴアテックス社製Desiccantを貼り付け、周囲に長瀬ケムテックス社製エポキシ樹脂でシール描きした。
【0027】
上記積層構造(電極2、フロントセル3、接続層4、バックセル5、電極6)を有する基板1とシール材付きステンレス板とを密着させ(積層構造を内側にしてステンレス板凹部内に収容)、シール部のみUVランプにて180秒間UV照射を行い、シール樹脂を硬化した。
【0028】
こうして、接続層4に化合物Aを用いたタンデム型光電変換素子のサンプルSAを作製した。
【0029】
このサンプルSAに、26.6mW/cm2のエネルギーを持つ可視光領域の高圧放電灯からの光をガラス基板側から照射し、電流−電圧特性を測定した。
【0030】
比較例として、上記構造のタンデム型光電変換素子の接続層を銀薄膜(0.5nm)に変えた素子サンプルSBを作製した。また、セルがフロントセルのみであり、そのフロントセル上にアルミニウムAlの陰極100nmを蒸着したシングル素子のサンプルSCも作製した。これらのサンプルに、26.6mW/cm2のエネルギーを持つ可視光領域の高圧放電灯からの光をガラス基板側から照射し、電流−電圧特性を測定した。得られた電流−電圧特性からエネルギー変換効率を算出した。
【0031】
図3Aに、サンプルSA、SB、SCから得られた電流−電圧特性を示し、図3Bに諸特性を示す。図3Bに示すように、化合物Aを用いたタンデム素子サンプルSAは、シングル素子サンプルSCの短絡電流と同等であり、開放電圧が約1.7倍であるため、フロントセルとバックセルが接続層を介して障壁が少なく接続できていることが分かる。接続層にAg薄膜を用いた場合は特性が他に比べて劣っている。銀薄膜の厚さを1nm、10nmと変えてみたが特性は改善されなかった。
【0032】
今回の比較サンプルSBのように、バソクプロインと銅フタロシアニンを用いた構成では銀薄膜が機能しないことが分かり、接続層4に銀を用いることが必ずしも全ての材料に対して適切ではないことが分かる。
【0033】
続いて発明者らは、上記サンプルと同様の工程で、接続層に後述する化合物Bを用いたサンプルSDを作成した。フロントセル3としてCuPc10nm、次にCuPcとC60の1:1の混合層を10nm、C60を10nm、バソクプロインを10nm蒸着した。接続層としてシアノ基を付与したヘキサアゾトリフェニレン誘導体である化合物Bを10nm蒸着した。
【0034】
図4に、化合物Bの化学構造式を示す。図示のように、化合物Bは、ヘキサアゾトリフェニレンにCNを配位した、ヘキサニトリルヘキサアゾトリフェニレンである。
【0035】
続いてバックセル5を形成した。バックセルにはCuPcを10nm、CuPcとC60の1:1の混合層を10nm、C60を30nm、バソクプロインを10nm蒸着した。陰極6にはAlを抵抗加熱で蒸着した。封止工程もサンプルSAと同様に実施し、タンデム型光電変換素子サンプルSDを作製した。
【0036】
比較例として、セルがサンプルSDと同様のフロントセルのみであり、そのフロントセル上にアルミニウムAlの陰極100nmを蒸着したシングル素子のサンプルSEを作成した。
【0037】
図5Aに、サンプルSD、SEから得られた電流−電圧特性を示し、図5Bに諸特性を示す。図5Bに示すように、化合物Aを用いたタンデム素子サンプルSDは、接続層に化合物Aを用いたサンプルSAと同様に、シングル素子サンプルSEの短絡電流と同等であり、開放電圧が約2.3倍(素子ごとのばらつきが大きいため、測定上理論値である2倍以上の場合もあるが、従来技術に比べ接続障壁が少ないという効果は主張できると考えられる)であるため、フロントセルとバックセルが接続層を介して障壁が少なく接続できていることが分かる。
【0038】
接続層に化合物Aもしくは化合物Bを用いたことで諸特性が改善した理由は次のように考えられる。接続層に使用できる有機物は、電子導電性の高い有機物に電子吸引基であるシアノ基(CN)を持つ構造である。電子伝導性の高い有機物は電子受容性があり、電子輸送性材料として知られている。この材料に電子吸引機能のあるシアノ基を置換することで、ホールを生成する機能を持たせることが可能である。そのため接続層の役割である電子とホールを生成し、それ自体は配線と同じ機能を持つことが可能となる。さらに接続層が電子輸送材料を基本骨格としているため、接続層に接するn型有機半導体または電子輸送層との親和性が高く、障壁の少ない接合が可能となると考えられる。
【0039】
上記の考察により、接続層に用いることで特性が向上する他の有機化合物として、当業者に電子輸送性を有する材料と認められている化合物(主に芳香族化合物)の誘導体であって、CNを少なくとも1つ配位した化合物を適用できると考えられる。
【0040】
図6A、図6Bに、アルミキノリノール錯体で化合物AとCNの配位を変えた化合物A2、A3の化学構造式を示す。上記の考察により、アルミキノリノール錯体において、化合物AとCNの配位を変えた化合物A2、A3でもタンデム素子の諸特性が向上するであろう。
【0041】
さらに、キノリノール金属錯体において、キノリン環の2〜7位にCNを少なくとも1つ配位した、化合物A、A2、A3以外の他の誘導体であってもほぼ同様の性質が得られ、接続層に使用できると考えられる。
【0042】
図7に、接続層に使用できると考えられるキノリノール金属錯体の誘導体(化合物A0とする。化合物A0には化合物A、A2、A3を含む)の化学構造式を示す。図中Mは金属で、Al以外にZn、Ga、Liを配位しても良い。図中R1〜R6には水素HもしくはCNが配位され、少なくとも1つはCNである。nは配位する金属に応じて変わり、Alの場合は3である。
【0043】
キノリノール金属錯体の誘導体と同様に、化合物Bが属するヘキサアゾトリフェニレン誘導体についても、少なくとも1つのCNを配位したヘキサアゾトリフェニレン誘導体であれば接続層に用いることができるであろう。
【0044】
図8に、接続層に使用できると考えられるヘキサアゾトリフェニレン誘導体(化合物B0とする。化合物B0には化合物Bを含む)の化学構造式を示す。図中R1〜R6にはH、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、CNのいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位されている。
【0045】
その他、当業者に電子輸送性を有する材料と認められているフェナントロリン、トリアジン、オキサジアゾールに少なくとも1つのCNを配位した誘導体についても、接続層に使用できると考えられる。
【0046】
図9に、接続層に使用できると考えられるフェナントロリン誘導体(化合物C0)の化学構造式を示す。図中R1〜R8には、H、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、シアノ基(CN)のいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位されている。
【0047】
例えば、R1とR8にCNが配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、9−dinitride」、R1、R3、R6およびR8にCNが配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、4、7、9−tetranitride」、R1、R2、R7およびR8にCNが配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、3、8、9−tetranitride」、R1とR8にCNが配位し、R3とR6にフェニル基が配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、9−dinitride−4、7−diphenyl」等の化合物が挙げられる(いずれの化合物も、他の配位位置には、Hが置換)。
【0048】
図10に、接続層に使用できると考えられるトリアジン誘導体(化合物D0)の化学構造式を示す。図中の3つのピリミジン環の4、5、6位の位置にCNを少なくとも1つ配位した構成であれば接続層に使用できると考えられる。図中R1〜R9には、H、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、CNのいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位されている。例えば、R2、R5およびR8にCNが配位した化合物(R1、R3、R4、R6、R7およびR9にはHが配位)や、R1、R3、R4、R6、R7およびR9にCNが配位した化合物(R2、R5およびR8にはHが配位)が考えられる。
【0049】
図11に、接続層に使用できると考えられるオキサジアゾール誘導体(化合物E0)の化学構造式を示す。図中R1からR8には、H、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、CNのいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位される。例えば、R2およびR4にCNが配位され、R1、R3、R5〜R8にHが配位した化合物などが挙げられる。
【0050】
上記においては、タンデム型有機太陽電池の構成を示したが、本件の実施形態は上記に限られるものではない。上記単位セル(機能性素子部)は3つ以上でも良く、単位セルの構成も所望の特性に応じて適宜設計されるものである。また、各単位セルの構成が異なるものであっても良い。例えば、上記タンデム型有機太陽電池において、可視光を吸収するフロントセルと赤外光を吸収するバックセルとの組み合わせなど、異なる吸収波長域を有する単位セルを積層することができる。
【0051】
さらに、機能性素子部を少なくとも発光層を含み、適宜、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、正孔注入層、正孔阻止層等を適宜含むように構成した場合には、タンデム型有機LEDが構成される。例えば、透明電極の形成された透明基板上に、青色発光素子部、接続層、黄色発光素子部、対向電極を形成することにより、タンデム型白色有機LEDを構成することができる。また、青色発光素子部は、α−NPDからなる正孔輸送層、4、4’−Bis(2、2−diphenyl−ethen−1−yl)diphenylからなる青色発光層、Tris(8−hydroxyquinolinate)Aluminum(以下、Alq8)からなる電子輸送層で構成することができ、黄色発光素子部は、α−NPDからなる正孔輸送層、5、6、11、12−tetraphenylnaphthaceneをドープしたAlq8からなる黄色発光層、Alq8からなる電子輸送層で構成することができる。
【0052】
従って、有機化合物を主体とする薄膜層からなる機能性素子部を、上記同様の接続層を介して複数積層することにより、本発明の有機薄膜素子を構成することができる。
【0053】
図12に、これらの化合物X(化合物A0、B0、C0、D0、E0。ここではこれらをまとめて化合物Xとする)を接続層に用いた基本的な有機薄膜素子Yの概略断面図を示す。図示のように、上部に電極8を有する基板7上に、有機化合物を主体とした機能性素子部(上記実施例におけるサンプル素子の単位セルに相当)OC1〜OCnが積層され、更にその上に電極9が形成されている。各機能性素子部の構造は、有機薄膜素子Yの所望の機能および特性に応じて構成される。接続層Jは、機能性素子部間に形成され、化合物Xのうち少なくとも1つが用いられる。
【0054】
図13に、有機薄膜素子Yの適用例を示す。図12に示した有機薄膜素子Yは、図13に示したように、外部回路であるブラックボックスBBに接続することで、有機半導体素子として多様な製品に適用することができる。例えば、ブラックボックスBBが負荷回路とすると、有機薄膜素子Yに光を供給すれば太陽電池として用いることができるし、ブラックボックスBBが電源回路であれば有機LEDとして用いることができる。これらの他にも、有機TFT、有機薄膜センサおよびそれらの応用製品に用いることができるであろう。
【0055】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、サンプルSAの構造を示した概略断面図である。
【図2】図2は、化合物Aの化学構造式である。
【図3】図3Aは、サンプルSA、SB、SCから得られた電流−電圧特性であり、図3Bはそれらの諸特性表である。
【図4】図4は、化合物Bの化学構造式である。
【図5】図5Aは、サンプルSD、SEから得られた電流−電圧特性であり、図5Bはそれらの諸特性である。
【図6】図6A、図6Bは、アルミキノリノール錯体の誘導体であり、化合物AとCNの配位を変えた化合物A2、A3の化学構造式である。
【図7】図7は、接続層に使用できると考えられるキノリノール金属錯体の誘導体の化学構造式である。
【図8】図8は、接続層に使用できると考えられるヘキサアゾトリフェニレン誘導体の化学構造式である。
【図9】図9は、接続層に使用できると考えられるフェナントロリン誘導体の化学構造式である。
【図10】図10は、接続層に使用できると考えられるトリアジン誘導体の化学構造式である。
【図11】図11は、接続層に使用できると考えられるオキサジアゾール誘導体の化学構造式である。
【図12】図12は、接続層に化合物Xのうち少なくとも1つを用いた有機薄膜素子の概略断面図である。
【図13】図13は、図12で示した有機薄膜素子を用いた有機半導体装置の適用例を示した概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1、7 基板
2、6 電極
3 フロントセル
3a、5a ホール輸送層
3b、5b 活性層
3c、5c 電子輸送層
3d、5d ホールブロック層
4 接続層
5 バックセル
8、9 電極
BB ブラックボックス
OC1、OC2、OCn 機能性素子部
Y 有機薄膜素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜素子に関し、特に有機薄膜層を有する機能性素子部を複数積層した有機薄膜素子およびタンデム型光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜デバイスは太陽電池、LED、TFT、半導体センサなど多くの分野で開発されている。
【0003】
有機太陽電池を例にとると、有機太陽電池は製造工程におけるエネルギーコストが低く、大面積化に適した製造プロセスとして印刷技術を応用するなど、シリコンデバイスにない特徴を持っており、1970年代後半から研究されている。
【0004】
効率性能を向上させる手段の一つとして、素子を積層するタンデム構造が報告されている。タンデム型素子とは、複数のヘテロ接合の半導体を間に接続層を挟んで積み重ねて1つの素子を形成した構造体である。タンデム型素子は単層型素子(シングル素子;ヘテロ接合の半導体が1つだけの素子)に比べて、接続層のロスなどがない場合には開放端電圧が2倍(2層の場合)となる。
【0005】
S.R.Forrestらは、「Appl.Phys.Lett.80,1667(2002)」において、内部電極に金属クラスターを使用して、フロントセルとバックセルの膜厚を薄くして光吸収のバランスを取り、フロントセルとバックセルで発生する光電流をほぼ同じにすることで変換効率を単層型素子に比べて向上させることに成功した例を報告している。
【0006】
また、発光素子である有機LEDにおいても、タンデム型による高輝度、長寿命デバイスが報告されている。特開2003−272860号公報には、発光素子間を接続する層をCGL層と呼び、導電体のITO(インジウムスズオキサイド)や絶縁体のV2O5(五酸化バナジウム):αNPD、4F−TCNQ(テトラシアノキノジメタン):αNPDなどの組み合わせで電荷移動錯体を形成した層を使用したデバイスが提案されている。タンデム構造にすることで、シングル素子と同じ電流で、積層した素子分の輝度が得られるため、電流当たりの輝度効率(cd/A)が上昇する。また、シングル素子と同じ輝度で発光させる場合には、シングル素子より少ない電流ですむため、寿命が長くなるメリットがある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−272860号公報
【非特許文献1】A.Yakimov and S.R.Forrest,Appl.Phys.Lett.80,1667(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機太陽電池は上記のような研究が進み改良されてきたが、現在利用されているシリコン系(単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン)デバイスに比べ、エネルギー変換効率が低いという問題点があり、実用化には至っていない。効率改善のためのタンデム型有機太陽電池においても、接続層に導電性金属を使用するとその透過率が低いため、入射光側から離れた素子ほど光吸収が少なくなり発電量が低下する。Forrestらが報告した、接続層に金属クラスターを使う方法では、透過率の問題は改善されるが、膜厚の制御が他の構造の素子に比べて困難である。
【0009】
タンデム型有機LEDとしてITOや、V2O5:αNPD、4F−TCNQ:αNPDなどの電荷移動錯体を用いる場合、スパッタダメージ、透過率の低さ、V2O5や4F−TCNQが劇物指定物質であることなどから、新たな素子の開発が求められている。
【0010】
本発明の目的は、性能を向上させた有機薄膜素子およびそれを用いた有機半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、一対の電極と、前記一対の電極間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の機能性素子部と、前記複数の機能性素子部との間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層とを有する有機薄膜素子が提供される。
【0012】
本発明の他の観点によれば、透明電極と、対向電極と、前記透明電極および対向電極との間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の単位セルと、前記単位セルの相互間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層とを有するタンデム型光電変換素子が提供される。
【発明の効果】
【0013】
・接続層の透過率が改善される。
・薄膜の膜厚制御が行いやすくなる。
・スパッタダメージを回避できる。
・劇物指定物質の使用を回避できる。
・接続層に接する電子輸送層との親和性が向上し、接合の電子障壁が低くなる。
・結果として有機薄膜素子としての性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明者らは、タンデム型有機薄膜素子において、積層した各素子間を接続する接続層に少なくとも1つのシアノ基(CN)を配位した有機化合物を用いることを発案した。有機材料を使うことで、金属透過率の問題や薄膜の膜厚制御の問題、スパッタダメージの問題、劇物指定物質の使用問題などの改善を図るためである。
【0015】
発明者らは、接続層に有機化合物A(後述する)を用いた、太陽電池として利用可能なタンデム型光電変換素子のサンプルSAを作製し、その特性を調べた。
【0016】
図1に、サンプルSAの構造を表した概略断面図を示す。ITOからなる透明電極2および対向電極6、両電極間に形成された、2つの単位セル(機能性素子部)3、5、および単位セル間に形成された接続層4から構成される。以下、透明電極2側に形成された単位セルをフロントセル3、対向電極6側に形成された単位セルをバックセル5と呼称する。図示のサンプルSAは次のように作製した。
【0017】
基板1として、ITO電極2が付いたガラス板を用いた。ITO電極2はガラス板上にスパッタ成膜した後、フォトリソグラフィーでパターニングした。
【0018】
パターニングされた基板1を中性洗剤中で10分間超音波洗浄した。その後、純水中で10分間超音波洗浄を3回行って純粋のリンスを施した。続いて、脱水・脱脂のためアセトンを用いた超音波洗浄、イソプロピルアルコール(IPA)の超音波洗浄を10分間行った。
【0019】
IPAの蒸気槽に20分間基板を置いた後、有機槽と電極槽が接続された真空チャンバに基板1を導入し、容器内の圧力を1×10−5Pa程度まで真空排気した。その後、有機層パターンを形成するため、ステンレス(SUS430)製蒸着マスク越しに有機物を蒸着した。各材料の蒸着レートは水晶振動子とULVAC製CRTM−9000にてモニターし、1〜2Å/sを保った。
【0020】
次の要領で有機層を形成した。まず、フロントセル3を作製した。まず、銅フタロシアニン(CuPc)層を20nm蒸着してホール輸送層3aを形成した。次にCuPc:フラーレン(C60)を各々1Å/sの蒸着レートで共蒸着し膜厚10nmの活性層3bを得た。3番目にC60を30nm蒸着して電子輸送層3cを形成した。さらにその上にバソクプロインを10nm蒸着してホールブロック層3dを形成し、フロントセル3を作製した。
【0021】
続いて、化合物Aを用いた接続層4をフロントセル3上に10nm蒸着した。
【0022】
図2に、化合物Aの化学構造式を示す。図2に示すように、化合物Aは、アルミキノリノール錯体にCNを配位した、「aluminum tris(3、6・dicyano−8−quinolinolate)」=「トリス(3、6−ジシアノ−8−キノリノラト)アルミニウム」である。
【0023】
接続層の上に、フロントセルの3層3a、3b、3c、3dと同じ材料、膜厚の層5a、5b、5c、5dをこの順に積層してバックセル5を作製した。
【0024】
その後、真空を保持したまま電極槽に移動し、電極パターンの蒸着マスクを使用し、バックセルの上にアルミニウムを抵抗加熱で100nm蒸着させて陰極としての電極6を形成した。
【0025】
電極6形成まで終了した基板1を大気に触れることなく窒素ガス雰囲気のグローブボックス内へ導入し、凹部を有するステンレス板による封止を行った。ステンレス板は脱脂のためIPA、アセトンでそれぞれ10分の超音波洗浄を行った後、UVオゾン洗浄を30分間実施してからグローブボックス内へ導入した。
【0026】
ステンレス板の凹部に、ゲッター剤としてゴアテックス社製Desiccantを貼り付け、周囲に長瀬ケムテックス社製エポキシ樹脂でシール描きした。
【0027】
上記積層構造(電極2、フロントセル3、接続層4、バックセル5、電極6)を有する基板1とシール材付きステンレス板とを密着させ(積層構造を内側にしてステンレス板凹部内に収容)、シール部のみUVランプにて180秒間UV照射を行い、シール樹脂を硬化した。
【0028】
こうして、接続層4に化合物Aを用いたタンデム型光電変換素子のサンプルSAを作製した。
【0029】
このサンプルSAに、26.6mW/cm2のエネルギーを持つ可視光領域の高圧放電灯からの光をガラス基板側から照射し、電流−電圧特性を測定した。
【0030】
比較例として、上記構造のタンデム型光電変換素子の接続層を銀薄膜(0.5nm)に変えた素子サンプルSBを作製した。また、セルがフロントセルのみであり、そのフロントセル上にアルミニウムAlの陰極100nmを蒸着したシングル素子のサンプルSCも作製した。これらのサンプルに、26.6mW/cm2のエネルギーを持つ可視光領域の高圧放電灯からの光をガラス基板側から照射し、電流−電圧特性を測定した。得られた電流−電圧特性からエネルギー変換効率を算出した。
【0031】
図3Aに、サンプルSA、SB、SCから得られた電流−電圧特性を示し、図3Bに諸特性を示す。図3Bに示すように、化合物Aを用いたタンデム素子サンプルSAは、シングル素子サンプルSCの短絡電流と同等であり、開放電圧が約1.7倍であるため、フロントセルとバックセルが接続層を介して障壁が少なく接続できていることが分かる。接続層にAg薄膜を用いた場合は特性が他に比べて劣っている。銀薄膜の厚さを1nm、10nmと変えてみたが特性は改善されなかった。
【0032】
今回の比較サンプルSBのように、バソクプロインと銅フタロシアニンを用いた構成では銀薄膜が機能しないことが分かり、接続層4に銀を用いることが必ずしも全ての材料に対して適切ではないことが分かる。
【0033】
続いて発明者らは、上記サンプルと同様の工程で、接続層に後述する化合物Bを用いたサンプルSDを作成した。フロントセル3としてCuPc10nm、次にCuPcとC60の1:1の混合層を10nm、C60を10nm、バソクプロインを10nm蒸着した。接続層としてシアノ基を付与したヘキサアゾトリフェニレン誘導体である化合物Bを10nm蒸着した。
【0034】
図4に、化合物Bの化学構造式を示す。図示のように、化合物Bは、ヘキサアゾトリフェニレンにCNを配位した、ヘキサニトリルヘキサアゾトリフェニレンである。
【0035】
続いてバックセル5を形成した。バックセルにはCuPcを10nm、CuPcとC60の1:1の混合層を10nm、C60を30nm、バソクプロインを10nm蒸着した。陰極6にはAlを抵抗加熱で蒸着した。封止工程もサンプルSAと同様に実施し、タンデム型光電変換素子サンプルSDを作製した。
【0036】
比較例として、セルがサンプルSDと同様のフロントセルのみであり、そのフロントセル上にアルミニウムAlの陰極100nmを蒸着したシングル素子のサンプルSEを作成した。
【0037】
図5Aに、サンプルSD、SEから得られた電流−電圧特性を示し、図5Bに諸特性を示す。図5Bに示すように、化合物Aを用いたタンデム素子サンプルSDは、接続層に化合物Aを用いたサンプルSAと同様に、シングル素子サンプルSEの短絡電流と同等であり、開放電圧が約2.3倍(素子ごとのばらつきが大きいため、測定上理論値である2倍以上の場合もあるが、従来技術に比べ接続障壁が少ないという効果は主張できると考えられる)であるため、フロントセルとバックセルが接続層を介して障壁が少なく接続できていることが分かる。
【0038】
接続層に化合物Aもしくは化合物Bを用いたことで諸特性が改善した理由は次のように考えられる。接続層に使用できる有機物は、電子導電性の高い有機物に電子吸引基であるシアノ基(CN)を持つ構造である。電子伝導性の高い有機物は電子受容性があり、電子輸送性材料として知られている。この材料に電子吸引機能のあるシアノ基を置換することで、ホールを生成する機能を持たせることが可能である。そのため接続層の役割である電子とホールを生成し、それ自体は配線と同じ機能を持つことが可能となる。さらに接続層が電子輸送材料を基本骨格としているため、接続層に接するn型有機半導体または電子輸送層との親和性が高く、障壁の少ない接合が可能となると考えられる。
【0039】
上記の考察により、接続層に用いることで特性が向上する他の有機化合物として、当業者に電子輸送性を有する材料と認められている化合物(主に芳香族化合物)の誘導体であって、CNを少なくとも1つ配位した化合物を適用できると考えられる。
【0040】
図6A、図6Bに、アルミキノリノール錯体で化合物AとCNの配位を変えた化合物A2、A3の化学構造式を示す。上記の考察により、アルミキノリノール錯体において、化合物AとCNの配位を変えた化合物A2、A3でもタンデム素子の諸特性が向上するであろう。
【0041】
さらに、キノリノール金属錯体において、キノリン環の2〜7位にCNを少なくとも1つ配位した、化合物A、A2、A3以外の他の誘導体であってもほぼ同様の性質が得られ、接続層に使用できると考えられる。
【0042】
図7に、接続層に使用できると考えられるキノリノール金属錯体の誘導体(化合物A0とする。化合物A0には化合物A、A2、A3を含む)の化学構造式を示す。図中Mは金属で、Al以外にZn、Ga、Liを配位しても良い。図中R1〜R6には水素HもしくはCNが配位され、少なくとも1つはCNである。nは配位する金属に応じて変わり、Alの場合は3である。
【0043】
キノリノール金属錯体の誘導体と同様に、化合物Bが属するヘキサアゾトリフェニレン誘導体についても、少なくとも1つのCNを配位したヘキサアゾトリフェニレン誘導体であれば接続層に用いることができるであろう。
【0044】
図8に、接続層に使用できると考えられるヘキサアゾトリフェニレン誘導体(化合物B0とする。化合物B0には化合物Bを含む)の化学構造式を示す。図中R1〜R6にはH、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、CNのいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位されている。
【0045】
その他、当業者に電子輸送性を有する材料と認められているフェナントロリン、トリアジン、オキサジアゾールに少なくとも1つのCNを配位した誘導体についても、接続層に使用できると考えられる。
【0046】
図9に、接続層に使用できると考えられるフェナントロリン誘導体(化合物C0)の化学構造式を示す。図中R1〜R8には、H、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、シアノ基(CN)のいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位されている。
【0047】
例えば、R1とR8にCNが配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、9−dinitride」、R1、R3、R6およびR8にCNが配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、4、7、9−tetranitride」、R1、R2、R7およびR8にCNが配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、3、8、9−tetranitride」、R1とR8にCNが配位し、R3とR6にフェニル基が配位した、「1、10−Phenanthoroline−2、9−dinitride−4、7−diphenyl」等の化合物が挙げられる(いずれの化合物も、他の配位位置には、Hが置換)。
【0048】
図10に、接続層に使用できると考えられるトリアジン誘導体(化合物D0)の化学構造式を示す。図中の3つのピリミジン環の4、5、6位の位置にCNを少なくとも1つ配位した構成であれば接続層に使用できると考えられる。図中R1〜R9には、H、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、CNのいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位されている。例えば、R2、R5およびR8にCNが配位した化合物(R1、R3、R4、R6、R7およびR9にはHが配位)や、R1、R3、R4、R6、R7およびR9にCNが配位した化合物(R2、R5およびR8にはHが配位)が考えられる。
【0049】
図11に、接続層に使用できると考えられるオキサジアゾール誘導体(化合物E0)の化学構造式を示す。図中R1からR8には、H、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、CNのいずれかが配位され、少なくとも1つはCNが配位される。例えば、R2およびR4にCNが配位され、R1、R3、R5〜R8にHが配位した化合物などが挙げられる。
【0050】
上記においては、タンデム型有機太陽電池の構成を示したが、本件の実施形態は上記に限られるものではない。上記単位セル(機能性素子部)は3つ以上でも良く、単位セルの構成も所望の特性に応じて適宜設計されるものである。また、各単位セルの構成が異なるものであっても良い。例えば、上記タンデム型有機太陽電池において、可視光を吸収するフロントセルと赤外光を吸収するバックセルとの組み合わせなど、異なる吸収波長域を有する単位セルを積層することができる。
【0051】
さらに、機能性素子部を少なくとも発光層を含み、適宜、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、正孔注入層、正孔阻止層等を適宜含むように構成した場合には、タンデム型有機LEDが構成される。例えば、透明電極の形成された透明基板上に、青色発光素子部、接続層、黄色発光素子部、対向電極を形成することにより、タンデム型白色有機LEDを構成することができる。また、青色発光素子部は、α−NPDからなる正孔輸送層、4、4’−Bis(2、2−diphenyl−ethen−1−yl)diphenylからなる青色発光層、Tris(8−hydroxyquinolinate)Aluminum(以下、Alq8)からなる電子輸送層で構成することができ、黄色発光素子部は、α−NPDからなる正孔輸送層、5、6、11、12−tetraphenylnaphthaceneをドープしたAlq8からなる黄色発光層、Alq8からなる電子輸送層で構成することができる。
【0052】
従って、有機化合物を主体とする薄膜層からなる機能性素子部を、上記同様の接続層を介して複数積層することにより、本発明の有機薄膜素子を構成することができる。
【0053】
図12に、これらの化合物X(化合物A0、B0、C0、D0、E0。ここではこれらをまとめて化合物Xとする)を接続層に用いた基本的な有機薄膜素子Yの概略断面図を示す。図示のように、上部に電極8を有する基板7上に、有機化合物を主体とした機能性素子部(上記実施例におけるサンプル素子の単位セルに相当)OC1〜OCnが積層され、更にその上に電極9が形成されている。各機能性素子部の構造は、有機薄膜素子Yの所望の機能および特性に応じて構成される。接続層Jは、機能性素子部間に形成され、化合物Xのうち少なくとも1つが用いられる。
【0054】
図13に、有機薄膜素子Yの適用例を示す。図12に示した有機薄膜素子Yは、図13に示したように、外部回路であるブラックボックスBBに接続することで、有機半導体素子として多様な製品に適用することができる。例えば、ブラックボックスBBが負荷回路とすると、有機薄膜素子Yに光を供給すれば太陽電池として用いることができるし、ブラックボックスBBが電源回路であれば有機LEDとして用いることができる。これらの他にも、有機TFT、有機薄膜センサおよびそれらの応用製品に用いることができるであろう。
【0055】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、サンプルSAの構造を示した概略断面図である。
【図2】図2は、化合物Aの化学構造式である。
【図3】図3Aは、サンプルSA、SB、SCから得られた電流−電圧特性であり、図3Bはそれらの諸特性表である。
【図4】図4は、化合物Bの化学構造式である。
【図5】図5Aは、サンプルSD、SEから得られた電流−電圧特性であり、図5Bはそれらの諸特性である。
【図6】図6A、図6Bは、アルミキノリノール錯体の誘導体であり、化合物AとCNの配位を変えた化合物A2、A3の化学構造式である。
【図7】図7は、接続層に使用できると考えられるキノリノール金属錯体の誘導体の化学構造式である。
【図8】図8は、接続層に使用できると考えられるヘキサアゾトリフェニレン誘導体の化学構造式である。
【図9】図9は、接続層に使用できると考えられるフェナントロリン誘導体の化学構造式である。
【図10】図10は、接続層に使用できると考えられるトリアジン誘導体の化学構造式である。
【図11】図11は、接続層に使用できると考えられるオキサジアゾール誘導体の化学構造式である。
【図12】図12は、接続層に化合物Xのうち少なくとも1つを用いた有機薄膜素子の概略断面図である。
【図13】図13は、図12で示した有機薄膜素子を用いた有機半導体装置の適用例を示した概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1、7 基板
2、6 電極
3 フロントセル
3a、5a ホール輸送層
3b、5b 活性層
3c、5c 電子輸送層
3d、5d ホールブロック層
4 接続層
5 バックセル
8、9 電極
BB ブラックボックス
OC1、OC2、OCn 機能性素子部
Y 有機薄膜素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、
前記一対の電極間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の機能性素子部と、
前記複数の機能性素子部との間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層と
を有する有機薄膜素子。
【請求項2】
前記電子輸送性有機化合物は、芳香族化合物または有機金属化合物である請求項1記載の有機薄膜素子。
【請求項3】
前記芳香族化合物として、ヘキサアザトリフェニレン、フェナントロリン、トリアジン、オキサジアゾールのうち少なくとも1つを用いた請求項2記載の有機薄膜素子。
【請求項4】
前記有機金属化合物として、アルミキノリノール錯体を用いた請求項2記載の有機薄膜素子。
【請求項5】
透明電極と、
対向電極と、
前記透明電極および対向電極との間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の単位セルと、
前記単位セルの相互間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層と
を有するタンデム型光電変換素子。
【請求項1】
一対の電極と、
前記一対の電極間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の機能性素子部と、
前記複数の機能性素子部との間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層と
を有する有機薄膜素子。
【請求項2】
前記電子輸送性有機化合物は、芳香族化合物または有機金属化合物である請求項1記載の有機薄膜素子。
【請求項3】
前記芳香族化合物として、ヘキサアザトリフェニレン、フェナントロリン、トリアジン、オキサジアゾールのうち少なくとも1つを用いた請求項2記載の有機薄膜素子。
【請求項4】
前記有機金属化合物として、アルミキノリノール錯体を用いた請求項2記載の有機薄膜素子。
【請求項5】
透明電極と、
対向電極と、
前記透明電極および対向電極との間に形成され、少なくとも1層の有機薄膜層を有する複数の単位セルと、
前記単位セルの相互間に形成され、少なくとも1つのシアノ基を配位した電子輸送性有機化合物を用いた接続層と
を有するタンデム型光電変換素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−117798(P2008−117798A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296846(P2006−296846)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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