説明

有機電界発光素子の透明電極の製造方法

【課題】スパッタ成膜時に、真空槽内の圧力や電極への投入電力を変化させる必要がなく、基板上の有機薄膜などへのダメージを最小限に抑えつつ効率的な成膜を可能とする。
【解決手段】ソフト成膜時、シャッター5をターゲット8に対向して配設し、かつ基板搬送機構4により基板3をシャッター5の脇部分に搬送させ、この状態でシャッター5の脇から僅かに漏れるターゲット粒子を基板3に衝突させることによりソフト成膜を行う。ソフト成膜後、基板搬送機構4により基板3をシャッター5の背後に搬送させ、かつシャッター5を移動させて高レート成膜を行う。この状態ではターゲット電極2に対向する放電空間が基板3の下方に広がり、高エネルギー状態のターゲット粒子や反跳イオンおよびγ電子が大量に基板3に衝突することになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子(有機EL素子)の透明電極の製造方法に係り、特に、スパッタリング法を用いる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に、透明電極,有機発光層,金属電極を順次積層して形成される有機EL素子には、大気中の湿分による劣化を防止するために封止の工程が行われる。封止は、缶封止あるいは膜封止により行われるが、素子の軽薄化およびフレキシビリティーが望まれる潮流により、膜封止の開発が主流である。
【0003】
ところで、膜封止の作製には、有機EL素子の性質上、ドライプロセスが好まれる。具体的には真空蒸着やスパッタリングなどの薄膜形成技術が利用されている。
【0004】
図5(a),(b)は従来のスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜の一例を示す説明図である。図中の白抜きの矢印は、工程が進むにつれて基板3が進む方向を示している。
【0005】
図5(a),(b)において、真空槽1内に、ターゲット電極2と、基板3を搬送する基板搬送機構4とを設け、真空槽1内を所定のガス圧力に調整した状態でターゲット電極2に電圧を印加することで、プラズマ6を発生させてターゲット電極2上のターゲット8をスパッタリングして基板3に封止膜を成膜している。
【0006】
放電開始の初期には放電が安定しなかったり、またターゲット8の表面に前回の製膜処理で大気開放したときの自然酸化膜が残ったりすることにより、基板3上の膜質がよくない。このためシャッター5を用いて、初期のターゲット粒子を基板3から遮蔽する構成にすることが多い。
【0007】
図5(a)は成膜前のターゲット電極2,基板3,シャッター5の概略配置を示したものであり、ターゲット電極2の上方(ターゲット電極2とシャッター5との間)にプラズマ6,ターゲット粒子飛散範囲7が広がっている。基板3は、成膜前には、シャッター5の遮蔽効果などによりターゲット粒子飛散範囲7外の位置に待機している。
【0008】
図5(b)は成膜中のターゲット電極2,基板3,シャッター5の概略配置を示したものであり、成膜中は、シャッター5が基板3に対してターゲット粒子飛散範囲7外の位置に退避しており、基板3がターゲット電極2に対向した位置に配置されて成膜される。
【0009】
成膜が終了すれば、放電を停止して基板搬送機構4を用い、基板3を搬送方向下流側の次工程へ搬送する。
【0010】
しかしながら、有機EL素子において、封止性の良好な無機質膜の成膜をスパッタリングにより行う場合、成膜面への高エネルギー粒子によるアタックのために、有機EL素子の劣化が生じることが問題となっており、この劣化を防止する対策が種々検討されている。
【0011】
例えば、特許文献1には、基板に成膜された有機薄膜表面に導電性薄膜を形成する際、真空槽内の初期圧力を1.33×10−2Pa以下とし、基板への入射電子やイオンの存在確率を減ずることにより、有機薄膜へのダメージを低減し、さらに、そのままでは成膜レートが低いため、ある程度低いレートで第一層を成膜し、その後、真空槽内にスパッタリングガスを多く流入させて(圧力を調整して)、ターゲット表面のプラズマ密度を上げることで、成膜レートを上げて第二層を成膜する技術が開示されている。これにより、第一層をソフトに成膜することができ、第二層を短時間に成膜できるとされている。
【0012】
また、投入電力を制御して封止膜の付け始めは電力を低く設定し、徐々に高くすることにより、スパッタエネルギーの小さな粒子によってソフトに成膜された初期膜により、その後のスパッタエネルギーの大きな粒子から素子を保護する方法も考えられる。
【0013】
また、特許文献2には、真空槽内にターゲット電極部と、搬送機構により搬送される基板との間隔が、基板搬送上流側から基板搬送下流側に向かって連続的あるいは段階的に小さくなるように設定したスパッタリング装置が提案されている。
【0014】
前記方法によればスパッタを行う際に、搬送される基板とターゲットとの距離が、基板を搬送方向下流側に搬送するにつれて徐々に小さくなることで、成膜時間の経過に伴い、基板上へのスパッタリング膜の成膜レートが低くソフトな成膜が可能な状態から、徐々に成膜レートが高く所望の膜厚に短時間で成膜することができる状態へと移行する。
【0015】
したがって、膜の付け始め、すなわち、例えば基板に予め成膜されている有機薄膜などの直上に付着する成膜材料を、有機薄膜などにダメージを与えないようにソフトに成膜した後、高レートで成膜を行うことができる(ソフトに有機薄膜などの直上に成膜された膜により、高レートで成膜される材料は有機薄膜などに直接衝突せず、有機薄膜などが保護される)。
【0016】
これにより、短時間で良好な成膜を行えるのは、勿論、従来のように真空槽内のガス圧力や電極への投入電力を変化させる必要がなく、真空度やプラズマあるいは電圧の安定化に要する時間が不要となる分、生産タクトタイムを短縮できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2005−340225号公報
【特許文献2】特開2008−63616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところが、特許文献1に開示されるように真空槽内の圧力を調整する場合、真空槽の容量にもよるが、圧力調整を行うことにより、所定真空度までの到達時間およびプラズマの安定化に要する時間がそれぞれ数十秒単位となり、このため、合計すると分単位で生産タクトタイムが増加してしまう。
【0019】
現状、有機EL素子の製造装置において、例えば、透明電極(ITO)が形成された基板を搬入してから、有機発光層,金属電極および封止膜を成膜して搬出するまでのタクトタイムとしては3〜5分必要とされる。このことから、分単位でのタクトタイムの増加は、実生産において大きな問題となり、新たな実施手段が要望されている。
【0020】
従来技術のように投入電力を徐々に変化させる場合でも、電圧の安定化に時間がかかり、スパッタ状態が不安定となり、封止膜の品質が低下してしまうため、現実には困難である。
【0021】
また、特許文献2に開示されるように、真空槽内の基板とターゲットとの距離によってダメージを調整する場合、ターゲットに対して基板の搬送が一方通行であるため、基板に付着する膜の配向に偏りが発生する。
【0022】
仮に、同じようなターゲットをもう一つ勝手違いに取り付けて通過成膜させたとしても、低ダメージ膜→高ダメージ膜→低ダメージ膜となり、希望の膜構造(EL層に近い側から低ダメージ膜→高ダメージ膜)にならない。たとえ使用に耐え得る膜であったとしても、余分な膜の層を形成することになり、材料などのランニングコスト,生産タクトにおいて不利である。
【0023】
さらに、ターゲットの傾斜(あるいは磁気回路)によって低ダメージと高ダメージの差を所望の範囲に収めることも困難と考えられる。
【0024】
本発明は、前記のような問題点を解決したものであり、成膜時に、真空槽内の圧力や電極への投入電力を変化させる必要がなく、基板上の有機薄膜などへのダメージを最小限に抑えつつ効率的な成膜を可能とする、極めて実用性に秀れたスパッタリング方法を用いた有機EL素子の透明電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、真空槽内に設けられたターゲットに対向してシャッターを配置し、前記シャッターの背後、かつ前記シャッターの側部に基板を搬送して、前記基板に対する成膜を行う第1のステップと、前記シャッターを前記ターゲットに対向する空間を遮断しない位置まで移動させ、前記基板に対する成膜を前記ターゲットと対向する位置で行う第2のステップとを含むことを特徴とする。
【0026】
このような構成により、ターゲット側面近傍のプラズマの比較的薄い放電空間に近い場所で成膜できるステップと、ターゲット対向近傍のプラズマの濃い放電空間に近い場所で成膜できるステップとを作り出すことにより、反跳イオンおよびγ電子のエネルギーに差を付けることができるため、有機EL素子の直上にソフトに成膜する場合と、ダメージよりも成膜速度を重視する場合とにおいて必要とされる膜の状況に合わせた成膜が実現できる。また、圧力や投入電力の変更、またはターゲット−基板間距離、さらには磁気回路などで高エネルギー粒子によるダメージを制御するのではなく、シャッターと基板の位置によってのみで制御するため、放電状態が安定して成膜が可能である。
【0027】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法において、第1ステップは、基板がシャッターの両脇の間を複数回往復するステップを含むことを特徴とする。
【0028】
このような構成により、成膜される膜に配光性が発生することを防ぐことができる。
【0029】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法において、第1のステップと第2のステップとの少なくともいずれか一方のステップにおいて、基板を往復させながら成膜を行うことを特徴とする。
【0030】
このような構成により、ターゲット側面近傍で成膜したことにより基板に対して一方向に傾斜して付いた膜を、逆に配向させて影響を相殺することができる。
【0031】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法において、基板搬送機構をターゲットと対向する位置に上下方向に複数列設置し、搬送される複数の基板において、ターゲット側の基板が、成膜を開始する基板に対してシャッターの機能を果たすことを特徴とする。
【0032】
このような構成により、ターゲットに対して後ろ側の基板の成膜をシャッターの両脇の位置で成膜を行うステップと、ターゲットに対して前側の基板の成膜をターゲットと対向する位置で成膜を行うステップとが同時に行えるため、生産タクトが短縮できると共に、ターゲットの利用効率を向上させることができる。
【0033】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法において、ターゲット側の基板がダミー基板であることを特徴とする。
【0034】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5いずれか1項に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法において、基板の移動方向が、当該有機電界発光素子のラインバンクに対して平行であることを特徴とする。
【0035】
このような構成により、基板に飛来したターゲット粒子がラインバンクによって遮蔽されることがなくなり、素子全面にわたって均一な成膜を行うことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、成膜時に真空槽内の圧力や電極への投入電力を変化させる必要なく、基板上の有機薄膜などへのダメージを最小限に抑えつつ効率的な成膜が可能となり、極めて実用性に秀れ、安定しかつ低コストな量産に適した製造方法が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1(a)】本発明の実施形態1を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図
【図1(b)】本発明の実施形態1を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図
【図1(c)】本発明の実施形態1を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図
【図1(d)】本発明の実施形態1を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図
【図2】本発明の実施形態1における配向性の影響の軽減に関する説明図
【図3(a)】本発明の実施形態2を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図
【図3(b)】本発明の実施形態2を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図
【図4】トップエミッション方式の有機電界発光素子の製造に本実施形態を実施する場合の説明図
【図5(a)】従来のスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜の説明図
【図5(b)】従来のスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜の説明図
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の形態を図面に参照して説明する。
【0039】
(実施形態1)
図1(a)〜(d)は本発明の実施形態1を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図である。以下の説明において、図5(a),(b)にて説明した部材に対応する部材には同一符号を付す。
【0040】
真空槽1内が、真空槽1に取り付けられた真空排気系(図示せず)により、所定のスパッタ圧力に調整された後、ターゲット電極2に接続された電源(図示せず)からパワーを印加することによって放電が開始される。
【0041】
前記放電によって、ターゲット粒子がターゲット電極2上のターゲット8から飛び出し、基板3に付着することによって成膜が開始されるが、同時に反跳イオンおよびγ電子も飛び出して基板3に衝突することになる。
【0042】
まず、シャッター5を、成膜する放電を開始したターゲット電極2に対向する位置で、かつプラズマが濃く、ターゲット−基板間の距離が近い領域を遮蔽する位置に配置し、放電中のターゲット粒子がシャッター5の両脇からわずかに漏れるように(基板に対して成膜できるように)しておく。
【0043】
図1(a)はソフト成膜する前のターゲット電極2,基板3,シャッター5の概略配置を示したものであり、ターゲット電極2上方(ターゲット電極2の表面に対向する方向、ターゲット電極2とシャッター5との間)にプラズマ6、ターゲット粒子飛散範囲7が広がっている。成膜前には、基板3はシャッター5の遮蔽効果などによりターゲット粒子飛散範囲7外の位置に待機している。
【0044】
図1(b)はソフト成膜中のターゲット電極2,基板3,シャッター5の概略配置を示したものであり、ターゲット電極2,シャッター5の配置自体は前記待機中の配置と変わらない。基板3は、ターゲット電極2と一定の距離を置き、ターゲット電極2の表面に対して平行に移動する。成膜はシャッター5の両脇から僅かに漏れるターゲット粒子を基板3に衝突させることにより行う(第1のステップ)。
【0045】
次に、前記の状態で成膜した場合、ダメージも少なくできるが、成膜レートが非常に遅いため、基板(有機EL素子)3がダメージを受けない膜厚まで成膜したら、高エネルギー粒子が多数飛来してきても、成膜レートを大きくすることにより生産タクトを稼ぐようにする。
【0046】
図1(c)はソフト成膜した直後のターゲット電極2,基板3,シャッター5の概略配置を示したものであり、ソフト成膜した後、基板搬送機構4によって基板3をシャッター5の後側(ターゲット電極2と対向する位置)に移動させ、ターゲット粒子を遮蔽する。
【0047】
図1(d)は高レート成膜中のターゲット電極2,基板3,シャッター5の概略配置を示したものであり、前記図1(c)の状態からシャッター5のみを退避させる。これにより、ターゲット電極2に対向する放電空間が基板3の下方に広がり、高エネルギー状態のターゲット粒子や反跳イオンおよびγ電子が大量に基板3に衝突することになる。よって、高エネルギーの粒子も多数飛来してくるが、成膜レートも高い成膜が行える(第2のステップ)。
【0048】
実施形態1において、シャッター5の両脇で成膜することになるが、左右いずれか一方のみで前記ソフト成膜を行うとターゲット電極2と基板3の角度が鋭角になってしまうため、成膜された膜の堆積に配向性ができてしまう。
【0049】
そこで、図2に示すように、前記配向性の影響を軽減するため、シャッター5に対して基板3を、図の矢印方向のようにシャッター5の右脇→左脇→右脇→…に往復させてソフト成膜を行い、配向性を打ち消しあうようにすることが望ましい。
【0050】
(実施形態2)
図3(a),(b)は本発明の実施形態2を説明するためのスパッタリングを行う縦型真空装置の移動成膜についての説明図である。
【0051】
実施形態1と異なる点は、基板搬送機構4を上下複数列配置(図では2列を示す。基板搬送機構4を平行に配置)して、それぞれ独立に基板3を搬送できるようになっている点である。また、各基板搬送機構4は、任意の位置にかつ任意のタイミングで基板3を移動できるようになっており、その代わりに実施形態1のシャッター5がない。
【0052】
なお、本例では、基板搬送機構4は繋がって搬送領域内を折り返し、基板3を順次搬送することができるようになっている。
【0053】
図3(a)は1枚目の基板に対するソフト成膜中のターゲット電極2,基板3,基板3’の概略配置を示したものであり、ターゲット電極2に遠い側の基板搬送機構4に基板3を載置し、該基板3にソフト成膜を開始する前に、ターゲット電極2に近い側の基板搬送機構4に1枚目の基板3’を載置し、該1枚目の基板3’をターゲット電極2と対向する位置に配置することによって、該1枚目の基板3’に実施形態1におけるシャッター5の機能をもたせる(以下、1枚目の基板3’をシャッター用基板3’と記す)。
【0054】
ターゲット電極2から遠い側の基板搬送機構4の基板3を、図1(a)と同様にシャッター用基板3’の脇に配置する。この2列の基板搬送機構4によって、両基板3,3’の配置が決定した後、ソフト成膜を開始する。
【0055】
図3(b)は基板に対する高レート成膜中のターゲット電極2,基板3,シャッター用基板3’の概略配置を示したものであり、基板3に対する所定膜厚の堆積が終了した後、基板3を搬送方向下流側(図の左側)に搬送する。
【0056】
一方、シャッター用基板3’は、基板3の高レート成膜が終わると同時に、基板3に対するシャッターとしての役目を終了し、成膜に全く関係ない搬送方向下流側(図の右側)へと搬送される。成膜された基板3は搬送領域を循環し、ターゲット電極2に近い側の基板搬送機構4に移り、ターゲット電極2に対向する位置へ配置される。
【0057】
その後、図示しないが、2枚目の基板の成膜の際には、初期に既述したようにソフト成膜をする必要があるので、ターゲット電極から遠い側の基板搬送機構に載せて1枚目の基板の脇に配置する。この場合、ターゲット電極に近い側の基板搬送機構に載っている1枚目の基板が2枚目の基板に対してシャッターの機能を果たし、低ダメージな成膜(2枚目)と高レートな成膜(1枚目)が同時に行える。以降は、この繰り返しにより成膜を繰り返す。
【0058】
なお、最初にソフト成膜を開始する際、その成膜の前に、ターゲット電極2に近い側の基板搬送機構4の基板をダミー基板と交換して、ターゲット電極2と対向する位置に配置することによって、このダミー基板に実施形態1におけるシャッター5の機能をもたせるようにしてもよい。
【0059】
図4はトップエミッション方式の有機電界発光素子の説明するための斜視図である。
【0060】
図4において、基板11上には、第1電極として反射電極12がパターン形成され、反射電極12間にはラインバンクである隔壁13が形成されている。
【0061】
反射電極12上には、正孔輸送層と有機発光層とがこの順で設けられ、さらに有機発光層上に電子注入性保護層と、第2電極としての透明電極が設けられている。そして、反射電極12,隔壁13,正孔輸送層,有機発光層,電子注入性保護層,透明電極が設けられた基板11は、バリア層,樹脂層,封止基材で封止されている。
【0062】
図1〜図3に示す実施形態のように、基板3を移動してスパッタする場合、隔壁13がスパッタ粒子を遮蔽する可能性があるので、基板11の搬送方向は隔壁6と平行な方向(矢印方向)にするのが望ましい。
【0063】
このように本実施形態では、従来のように真空槽1内のガス圧力や電極への投入電力を制御する必要なく(これらを一定に保った状態で)、ターゲット電極2と基板3との配置構成のみで、成膜初期において、低レートで有機薄膜にダメージを与えないようにソフトに成膜して、このソフト成膜した初期膜によって有機薄膜を覆った後、高レート成膜により、短時間で所望の膜厚まで成膜することが可能となる(有機薄膜へのダメージが大きい高レートで成膜しても初期膜により有機薄膜が保護される)。
【0064】
本実施形態は、上述のように構成したことにより、膜の付け始め、すなわち、基板3に予め成膜されている有機薄膜などの直上に付着する成膜材料を有機薄膜などにダメージを与えないようにソフト成膜した後、高レート成膜を行うことができ(ソフトに有機薄膜などの直上に成膜された膜により、高レート成膜される材料は有機薄膜などに直接衝突せず、有機薄膜などが保護される)、短時間で良好な成膜を行えるのは勿論、従来のように真空槽内のガス圧力や電極への投入電力を変化させる必要がなく、真空度やプラズマあるいは電圧の安定化に要する時間が不要となる分、生産タクトタイムを短縮することが可能になる。
【0065】
したがって、基板上に陽極,有機発光層,陰極を順次積層して形成される発光部上に、この発光部を封止する封止膜を上述のように成膜して有機EL素子を製造した場合、高品質の封止膜を発光部にダメージを与えることなく短時間で成膜することができ、有機EL素子の品質および生産性の向上を図ることができる。
【0066】
特に、透明な基板上に陽極,有機発光層,陰極,封止膜を順次積層して形成されるボトム・エミッション型有機EL素子を形成する際、スパッタリング方法を用いて、陰極あるいは封止膜(または双方)を成膜したり、基板上に絶縁層,金属陽極,有機発光層,金属補助陰極,透明電極、封止膜を順次積層して形成されるトップ・エミッション型有機EL素子を形成したりする際、本実施形態のスパッタリング方法を用いて、金属補助陰極、透明電極あるいは封止膜(または、これらのうち少なくとも2つの膜)を成膜することにより、基板上の有機薄膜のダメージを最小限にしつつ、効率良くスパッタ膜を成膜することができる。
【0067】
よって、本実施形態によれば、成膜時に、真空槽内の圧力や電極への投入電力を変化させる必要なく、基板上の有機薄膜などへのダメージを最小限に抑えつつ、効率的な成膜を可能とする極めて実用性に秀れたものとなる。
【0068】
なお、本発明は、本実施形態の構成に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は仕様などにより適宜変更し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、スパッタリング方法において、基板に透明導電膜を形成することにより有機電界発光素子の透明電極を製造する製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0070】
1 真空槽
2 ターゲット電極
3,3’ 基板
4 基板搬送機構
5 シャッター
6 プラズマ
7 ターゲット粒子飛散範囲
8 ターゲット
11 基板
12 反射電極
13 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内に設けられたターゲットに対向してシャッターを配置し、前記シャッターの背後、かつ前記シャッターの側部に基板を搬送して、前記基板に対する成膜を行う第1のステップと、
前記シャッターを前記ターゲットに対向する空間を遮断しない位置まで移動させ、前記基板に対する成膜を前記ターゲットと対向する位置で行う第2のステップとを含むことを特徴とする有機電界発光素子の透明電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1ステップは、前記基板が前記シャッターの両脇の間を複数回往復するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法。
【請求項3】
前記第1のステップと前記第2のステップとの少なくともいずれか一方のステップにおいて、前記基板を往復させながら成膜を行うことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法。
【請求項4】
前記基板搬送機構を前記ターゲットと対向する位置に上下方向に複数列設置し、搬送される複数の基板において、前記ターゲット側の基板が、成膜を開始する基板に対して前記シャッターの機能を果たすことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法。
【請求項5】
前記ターゲット側の基板がダミー基板であることを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法。
【請求項6】
前記基板の移動方向が、当該有機電界発光素子のラインバンクに対して平行であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の有機電界発光素子の透明電極の製造方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図1(d)】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【公開番号】特開2010−272229(P2010−272229A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120838(P2009−120838)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】