説明

有機電界発光素子及びその製造方法、画像表示媒体

【課題】十分な輝度を有し、発光効率が高く、素子寿命が長く、かつ製造が容易な有機電界発光素子及びその製造方法、画像表示媒体を提供することである。
【解決手段】少なくとも一方が透明又は半透明である陽極及び陰極よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層と、を含んで構成され、前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種含有することを特徴とする有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換して発光する有機電界発光素子及びその製造方法、画像表示媒体に関し、詳しくは表示素子、電子ペーパー、バックライト、照明光源、電子写真用露光装置、標識、看板等の分野に好適に使用できる有機電界発光素子及びその製造方法、画像表示媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子は、自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。現在は無機蛍光体を用いたものが主流であり広く使用されているが、駆動に200V以上、50〜1000Hzの交流電圧を必要とするためランニングコストが高く、また輝度が不十分であるなどの問題点を有している。一方、有機化合物を用いた電界発光素子研究は、最初アントラセン等の単結晶を用いて始まったが、膜厚が1mm程度と厚く、100V以上の駆動電圧が必要であった。そのため蒸着法による薄膜化が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
これら素子の発光は、電極の一方から電子が注入され、もう一方の電極から正孔が注入されることにより、素子中の発光材料が高いエネルギー準位に励起され、励起された発光体が基底状態に戻る際の余分なエネルギーを光として放出する現象である。しかしながら、駆動電圧が30Vと未だ高く、また、膜中における電子・正孔キャリアの密度が低く、キャリアの再結合によるフォトンの生成確率が低いため十分な輝度が得られず、実用化には至らなかった。
【0004】
ところが、1987年にTangらにより透明基板上に正孔輸送性有機低分子化合物と電子輸送能を持つ蛍光性有機低分子化合物を真空蒸着法により極めて薄い薄膜を順次積層した機能分離型の有機電界発光素子で、10V程度の低電圧で1000cd/m以上の高輝度が得られるものが報告され(例えば、特許文献1又は非特許文献2参照)、以来、有機電界発光素子の研究・開発が活発に行われている。
【0005】
これら積層構造の電界発光素子は、有機発光体と電荷輸送性の有機物(電荷輸送材料)を電極に積層した構造であり、それぞれの正孔と電子が電荷輸送材料中を移動して、再結合することにより発光する。有機発光体としては8−キノリノールアルミニウム錯体やクマリン化合物など蛍光を発する有機色素などが用いられる。また、電荷輸送材料としては、N,N−ジ(m−トリル)N,N’−ジフェニルベンジジンや1,1−ビス[N,N−ジ(p−トリル)アミノフェニル]シクロヘキサンといったジアミノ化合物や、4−(N,N−ジフェニル)アミノベンズアルデヒド−N,N−ジフェニルヒドラゾン化合物等が挙げられる。
【0006】
これら有機化合物を用いた有機電界発光素子は高い発光特性を有しているが、発光時の熱安定性や保存安定性に問題がある。電界発光素子の有機物で形成される層は、数十から数百ナノメーターと非常に薄く、単位厚さ当たりに加わる電圧は非常に高くなり、数mA/cmという高い電流密度で駆動されるため大量のジュール熱を発生する。このため、蒸着によってアモルファスガラス状態で成膜された正孔輸送性低分子化合物や蛍光性有機低分子化合物が温度上昇で次第に結晶化して最後には融解し、輝度の低下や絶縁破壊が生じるという現象が多く見られ、その結果素子の寿命が低下するという問題を有していた。この熱安定性の低さは材料のガラス転移温度の低さに由来すると考えられている。即ち、低分子量の化合物は融点が低く対称性が高いものが多いためである。
【0007】
そこで、熱安定性に関する問題の解決のために、ガラス転移温度を向上し、安定なアモルファスガラス状態が得られるα−ナフチル基を導入したN,N−ジ(1−ナフチル)N,N’−ジフェニルベンジジン(例えば、非特許文献3参照)、スターバーストアミン(例えば、非特許文献4参照)を用いた有機電界発光素子が報告されている。
【0008】
しかし、これら単独では正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルに起因するエネルギー障壁が存在するため、陽極からの正孔注入性或いは発光層への正孔注入性を満足するものではない。さらに、正孔輸送層と発光層の2層型素子構造においては、相互拡散現象を起こし、発光効率を低下させる。また、素子作製時においては、蒸着、ベーキング、アニーリング、配線、封止等の作製工程でかなりの熱がかかり、さらには、長時間の使用による経時変化等に耐えられるだけの熱安定を確保するためには、より一層の材料におけるガラス転移温度の向上が望まれている。
【0009】
一方、低分子化合物の代わりに高分子材料を用いる電界発光素子についても研究・開発が進められ、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の導電性高分子素子(例えば、特許文献2又は非特許文献5参照)、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入した高分子素子(例えば、非特許文献6参照)、正孔輸送性ポリビニルカルバゾール中に電子輸送材料と蛍光色素を混入した素子(例えば、非特許文献7参照)が提案されている。
【0010】
これらは、低分子化合物より比較的ガラス転移点が高いものの、ポリ(p−フェニレンビニレン)においては、可溶前駆体をスピンコート後、熱処理するため、主鎖共役系高分子中に欠陥が入りやすく発光特性を著しく低下させる。フォスファゼンは、イオン化ポテンシャルが高く電荷注入特性か低下する不具合が生じている。ポリビニルカルバゾールは、高いガラス転移点を有するが不純物によるトラップ等の問題や低分子化合物を高分子に混入させる場合は低分子が可塑剤として作用してしまい、未だ輝度、発光効率等が有機低分子化合物を用いた積層型電界発素子には及ばない。
【0011】
また、作製法においては、製造の簡略化、加工性、大面積化、コスト等の観点から塗布方式が望ましく、キャステイング法によっても素子が得られることが報告されている(例えば、非特許文献8及び9参照)。しかし、電荷輸送材料の溶剤や樹脂に対する溶解性、相溶性が悪いため、結晶化しやすく製造上あるいは特性上に欠陥があった。
【特許文献1】特開昭59−194393号公報
【特許文献2】特開平10−92576号公報
【非特許文献1】Thin Solid Films,94,171(1982)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,51,913(1987)
【非特許文献3】電子情報通信学会技術研究報告、OME95−54(1995)
【非特許文献4】第40回応用物理学関係連合講演会予稿集30a−SZK−14(1993)
【非特許文献5】Nature,357,477(1992)
【非特許文献6】第42回高分子討論会予稿集20J21(1993)
【非特許文献7】第38回応用物理学関係連合講演会予稿集31p−G−12(1991)
【非特許文献8】第50回応用物理学会学術講演予稿集,29p−ZP−5(1989)
【非特許文献9】第51回応用物理学会学術講演予稿集,28a−PB−7(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来の技術における諸問題を鑑み、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明の目的は、発光強度が大きく、及び発光効率が高く、素子寿命が長く、かつ製造が容易な有機電界発光素子及びその製造方法、画像表示媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため電荷輸送性ポリマーに関し鋭意検討した結果、特定の電荷輸送性ポリエステルが、有機電界発光素子として好適な電荷注入特性、電荷移動度、薄膜形成能、発光特性に加え、発光時の熱安定性、保存安定性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
<1>
少なくとも一方が透明又は半透明である陽極及び陰極よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層と、を含んで構成され、
前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【0014】
【化1】

【0015】
(一般式(I−1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の1価の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の1価の分枝鎖状炭化水素基、置換もしくは未置換の1価のフェニレン基、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の縮合芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環を表す。Tは炭素数1〜10の2価の直鎖状炭化水素基、又は炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表す。aは1〜4の整数、bは0〜3を表す。)
【0016】
<2>
前記有機化合物層が、少なくとも、発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層とを含み、前記発光層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも1層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0017】
<3>
前記有機化合物層が、少なくとも、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層とを含み、前記発光層、正孔輸送層及び正孔注入層から選択された少なくとも1層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0018】
<4>
前記有機化合物層が、少なくとも、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層とを含み、前記発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも1層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0019】
<5>
前記有機化合物層が、電荷輸送機能を持つ発光層のみから構成され、前記電荷輸送機能を持つ発光層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0020】
<6>
前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが、下記一般式(II−1)又は(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルであることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0021】
【化2】

【0022】
(一般式(II−1)及び(II−2)中、Aは前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種以上を表し、Yは2価のアルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、mは1〜5の整数を表し、Rは、−O−(Y−O)m−H、又は基−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−OR’で表される基(但し、Y、Z、mは上記と同じ意味を有し、R’は、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表し、pは5〜5000の整数を表す。)
【0023】
<7>
<1>に記載の有機電界発光素子をマトリクス及びセグメント状の少なくとも一方に配置したことを特徴とする画像表示媒体。
【0024】
<8>
<1>に記載の有機電界発光素子を製造する有機電界発光素子の製造方法であって、前記有機化合物層の構成成分を溶媒中に溶解させた塗布溶液をインクジェット法により塗布する塗布工程を少なくとも有することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、発光強度が大きく、及び発光効率が高く、素子寿命が長く、かつ製造が容易な有機電界発光素子及びその製造方法、画像表示媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
<有機電界発光素子及びその製造方法>
本発明の有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」という場合がある)は、少なくとも一方が透明又は半透明である陽極及び陰極よりなる一対の電極と、一対の電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層と、を含んで構成され、前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする。
【0027】
本発明における電荷輸送性ポリエステルは、有機電界発光素子として好適な電荷注入特性、電荷移動度、薄膜形成能、発光特性に加え、発光時の熱安定性、保存安定性を有する。従って、本発明の有機電界発光素子は、有機化合物層の少なくとも一層が前記電荷輸送性ポリエステルを含有してなることで、発光強度が大きく、及び発光効率が高く、素子寿命が長い。
【0028】
さらに、前記電荷輸送性ポリエステルを用いることで、大面積化すること可能であり、容易に製造することが可能となる。加えて、前記電荷輸送性ポリエステルは、溶剤や樹脂に対する溶解性及び相溶性にも優れているので、より高い製造容易性を実現することができる。
【0029】
また、前記電荷輸送性ポリエステルは後述する構造を適宜選択することで、正孔輸送能、電子輸送能のいずれの機能をも付与することができるため、目的に応じて正孔輸送層、発光層、電子輸送層等のいずれの層にも用いることができる。また、本発明における電荷輸送性ポリエステルは、電極として用いられるITOからの電荷注入性がよく電気伝導度が高いことから、本発明の有機電界発光素子は所望の特性を得ることができる。
【0030】
以下、本発明を詳細に説明するにあたり、まず本発明における前記電荷輸送性ポリエステルについて詳述する。
【0031】
(電荷輸送性ポリエステル)
前記ポリエステルは、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有するものである。
【0032】
【化3】

(一般式(I−1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の1価の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の1価の分枝鎖状炭化水素基、置換もしくは未置換の1価のフェニレン基、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の縮合芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環を表す。Tは炭素数1〜10の2価の直鎖状炭化水素基、又は炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表す。aは1〜4の整数、bは0〜3を表す。)
【0033】
一般式(I−1)中、R及びRを表す構造として選択される直鎖状炭化水素基を構成する炭素数は、1〜10であるが、好ましくは、2〜8であり、さらに好ましくは2〜4である。
【0034】
一般式(I−1)中、R及びRを表す構造として選択される分枝鎖状炭化水素基を構成する炭素数は、3〜10であるが、好ましくは、3〜7であり、さらに好ましくは3〜5である。
【0035】
一般式(I−1)中、R及びRを表す構造として選択される多核芳香族炭化水素及び縮合芳香族炭化水素を構成する芳香環の数は、2〜10であるが、縮合芳香族炭化水素においては1〜5のものが好ましい。
【0036】
尚、当該多核芳香族炭化水素、縮合芳香族炭化水素、芳香族複素環とは、本発明においては、具体的には以下に定義される多環式芳香族のことを意味する。
【0037】
即ち、「多核芳香族炭化水素」とは、炭素と水素から構成される芳香環が2個以上存在し、環同士が炭素−炭素結合によって結合している炭化水素を表す。具体的には、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。
【0038】
「縮合芳香族炭化水素」とは、炭素と水素から構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が1対の隣接して結合する炭素原子を共有している炭化水素化合物を表す。具体的には、ナフタレン、アントラセン、ピレン、フェナントレン、ペリレン、フルオレン等が挙げられる。
【0039】
「芳香族複素環」とは、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表す。芳香環に複素環が置換しているもの、複素環に芳香環が置換しているもの何れも含む。複素環は、その環骨格を構成する原子数(Nr)が、Nr=5及び/又は6が好ましく用いられる。また、環骨格を構成する炭素原子以外の原子(異種原子)の種類及び数は特に限定されないが、例えば、硫黄原子、窒素原子、酸素原子等が好ましく用いられ、前記環骨格中には2種類以上及び/又は2個以上の異種原子が含まれてもよい。特に5員環構造をもつ複素環として、チオフェン、ピロール及びフラン、又は、前記化合物の3位及び4位の炭素を窒素で置き換えた複素環が好ましく用いられ、6員環構造を持つ複素環として、ピリジンが好ましく用いられる。芳香環としては、フェニル基に加え、多核芳香族炭化水素、縮合芳香族炭化水素が挙げられる。
【0040】
なお、これらは全てが共役系で構成されたもの、あるいは一部が共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性や発光効率の点で、全てが共役系で構成されたものが好ましい。
【0041】
一般式(I−1)中、R及びRを表す構造として選択される各基に置換可能な置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。前記アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。前記アルコキシル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。前記アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる、前記アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。前記置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0042】
これらの中でも、イオン化ポテンシャルを高くするためには、R及びRはフェニル基、トルイル基が好ましい。また、イオン化ポテンシャルを低くするためには、R及びRはトリフェニルアミノ基などの置換アミノ基が好ましい。また、溶剤や樹脂に対する溶解性及び相溶性をより向上させるためには、R及びRはメチル基、ヘキシル基、オクチル基などのアルキル基が好ましく、さらに好ましくはヘキシル基である。
【0043】
一般式(I−1)中、aは1〜4の整数を示すが、溶剤、樹脂に対する溶解性及び相溶性の観点から、好ましくは、1〜2である。bは0〜3の整数を示すが、ガラス転移温度を向上させ、より高い熱安定性を実現させる点から、1〜3が好ましい。特に、電荷注入特性、電荷移動度、薄膜形成能、発光特、発光時の熱安定性、及び保存安定性の各特性の向上をバランス良く実現するためには、a=1、且つb=2であることが好ましい。
【0044】
一般式(I−1)中、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基又は炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、好ましくは炭素数が2〜6の2価の直鎖状炭化水素基及び炭素数3〜7の2価の分枝鎖状炭化水素基より選択される。これらの中でもより具体的には、以下に示す2価の炭化水素基が特に好ましい。
【0045】
【化4】

【0046】
ここで、前記一般式(I−1)で示される構造の具体例を、以下に示すが、これらに限られるものではない。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
【表10】

【0057】
【表11】

【0058】
【表12】

【0059】
【表13】

【0060】
【表14】

【0061】
【表15】

【0062】
【表16】

【0063】
【表17】

【0064】
【表18】

【0065】
【表19】

【0066】
【表20】

【0067】
一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し構造を有する電荷輸送性ポリエステルとしては、下記一般式(II−1)及び(II−2)で示されるものが好適に使用される。
【0068】
【化5】

【0069】
(一般式(II−1)及び(II−2)中、Aは前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種以上を表し、Yは2価のアルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、mは1〜5の整数を表し、Rは、−O−(Y−O)m−H、又は基−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−OR’で表される基(但し、Y、Z、mは上記と同じ意味を有し、R’は、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表し、pは5〜5000の整数を表す。〕
【0070】
一般式(II−1)及び(II−2)中、Aは、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、一般式(II−1)及び(II−2)で表される電荷輸送性ポリエステル中に存在する複数のAは、同一の構造であっても、異なった構造であってもよい。
【0071】
一般式(II−1)及び(II−2)中、Y及びZは、具体的には下記の式(1)〜(6)から選択された基が挙げられる。
【0072】
【化6】

【0073】
ここで、式中、Rは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換のアラルキル基、又はハロゲン原子を表す(各基を置換可能な置換基は上述した置換基と同様である)。c及びdはそれぞれ1〜10の整数を意味し、e及びgはそれぞれ0又は1を意味し,fは0〜6の整数を意味し、Vは以下の(7)〜(17)から選択された基が挙げられる。
【0074】
【化7】

【0075】
ここで、式中、h及びiはそれぞれ1〜10の整数を表す。Rは上記と同義である。
【0076】
以下、一般式(II−1)及び(II−2)で示される上記のポリエステルの具体例を示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
なお、下記表において、モノマーの列のAの欄の番号は、前記一般式(I−1)で示される構造の具体例の構造番号に対応している。また、Zの欄が「−」であるものは一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリエステルの具体例を示し、その他は一般式(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルの具体例を示す。また、下記表において化合物番号を付した電荷輸送性ポリエステルの各具体例に関し、例えば、15の番号を付した具体例については「例示化合物(15)」という。また、末端基Rについては、−O−(Y−O)m−H、又は基−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−OR’で表される基(但し、Y、Z、mは上記と同じ意味を有し、R’は、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表す。
【0077】
【表21】

【0078】
【表22】

【0079】
【表23】

【0080】
前記電荷輸送性ポリエステルの重量平均分子量Mwは、5,000〜300,000の範囲にあるものが好ましい。また、電荷輸送性ポリエステルのガラス転移点(Tg)は60℃以上であることが好ましい。
上記重量平均分子量Mwは以下の方法により測定することができる。すなわち重量平均分子量は、電荷輸送性ポリエステルの1.0質量%THF溶液を調製し、示差屈折率検出器(RI)を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、標準サンプルとしてスチレンポリマーを用いて測定した。
またガラス転移点は、示差走査型熱量計によりα−Alをリファレンスとし、サンプルをゴム状態になるまで昇温し、液体窒素に浸し急冷した後、再度昇温速度10℃/分の条件で昇温して測定することができる。
【0081】
以下、前記電荷輸送性ポリエステルの合成方法について説明する。
前記電荷輸送性ポリエステルの合成方法は、所望する構造に応じて公知の方法を組み合わせて利用することができ、特に限定されるものではないが、具体例として前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが、前記一般式(II−1)又は(II−2)で示されるようなポリエステルである場合について以下に詳細に説明する。
【0082】
前記電荷輸送性ポリエステルが、前記一般式(II−1)又は(II−2)で示されるような電荷輸送性ポリエステルである場合は、下記一般式(I−2)で示されるモノマーを、例えば、第4版実験化学講座第28巻(丸善,1992)等に記載された公知の方法で重合させることによって合成することができる。
【0083】
【化8】

【0084】
但し、一般式(I−2)において、Aは前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種以上を表し、A′は水酸基、ハロゲン原子、又は、基−O−Rを表し、Rはアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は、アラルキル基を表す。
【0085】
具体的には、一般式(I−2)で示されるモノマーは、例えば、以下のように合成することができる。
【0086】
まず、3,4位にハロゲン体を持つチオフェンとハロゲン化アルキル(パーフルオロアルキルハロゲン又はアルキルマグネシウムブロミド)と反応させる(参考文献:J.Org.Chem., 62,7128(1997)、J.Fluorine Chem.,27,291(1985)、Tetrahedron,38,3347(1982))。続いて、2,3位の位置をハロゲン化しモノハロゲンチオフェン及びジハロゲンチオフェンを得る(参考文献:Bull.Chem.Soc.Jpn.,64,2566(1991)、Chem.Mater.,6,401(1994))。これらを用いて、多量体のチオフェンを得(参考文献:J.Am.Chem.Soc.,117,233(1995) 、Chem.Mater.,6,401(1994))、前記手法と同様にジハロゲン体を得る。これらとアクリル酸エステルとパラジウム錯体等の触媒によって反応させAを得ることができる(参考文献:J.Am.Chem.Soc.,121,2123(1995)、第4版実験化学講座第25巻,396(丸善,1992))。
【0087】
また、ハロゲン化カルボアルコキシアルキルベンゼンとチオフェンジボロン酸と反応させても一般式(I−2)で示されるモノマーを得ることができる。また、前記ジハロゲン化したチオフェンとメチル3−[4,(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキシボロラン)−フェニル]プロピナートや3−(4−ジヒドロキシボロリルフェニル)プロピヨン酸(参考文献:J.Organometallic Chem.,657,129(2002)とを反応させることによっても一般式(I−2)で示されるモノマーを得ることができる。得られた化合物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー及び再結晶により精製してもよい。なお、一般式(I−2)で示されるモノマーの合成手法はこれに限定するものではない。
【0088】
これら一般式(I−2)で示されるモノマーを用いて前記電荷輸送性ポリエステルは、次のようにして合成することができる。
【0089】
A′が水酸基の場合には、モノマーにHO−(Y−O)−H(Y、mは一般式(II−1)及び(II−2)のY、mと同義、以下同様である。)で示される2価アルコール類をほぼ当量混合し、酸触媒を用いて重合する。酸触媒としては、硫酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等、通常のエステル化反応に用いるものが使用でき、モノマー1重量部に対して、1/10,000〜1/10重量部、好ましくは1/1,000〜1/50重量部の範囲で用いられる。重合中に生成する水を除去するために、水と共沸可能な溶剤を用いることが好ましく、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、モノマー1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できるが、重合中に生成する水を除去するために、溶剤の沸点で反応させることが好ましい。
【0090】
反応終了後、溶剤を用いなかった場合には溶解可能な溶剤に溶解させる。溶剤を用いた場合には、反応溶液をそのまま、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、ポリエステルを析出させ、ポリエステルを分離した後、水や有機溶剤で十分洗浄し、乾燥させる。更に、必要であれば適当な有機溶剤に溶解させ、貧溶剤中に滴下し、ポリエステルを析出させる再沈殿処理を繰り返してもよい。再沈殿処理の際には、メカニカルスターラー等で、効率よく撹拌しながら行うことが好ましい。再沈殿処理の際にポリエステルを溶解させる溶剤は、ポリエステル1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。また、貧溶剤はポリエステル1重量部に対して、1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲で用いられる。
【0091】
A′が−O−Rの場合には、モノマーに、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を過剰に加え、硫酸、リン酸等の無機酸、チタンアルコキシド、カルシウム及びコバルト等の酢酸塩或いは炭酸塩、亜鉛や鉛の酸化物を触媒に用いて加熱し、エステル交換により合成できる。2価アルコール類はモノマー1当量に対して、2〜100当量、好ましくは3〜50当量の範囲で用いられる。触媒はモノマー1重量部に対して、1/10,000〜1重量部、好ましくは1/1,000〜1/2重量部の範囲で用いられる。反応は、反応温度200〜300℃で行い、基−O−Rから基−O−(Y−O)−Hへのエステル交換終了後は、HO−(Y−O)−Hの脱離による重合を促進するため、減圧下で反応させることが好ましい。また、HO−(Y−O)−Hと共沸可能な1−クロロナフタレン等の高沸点溶剤を用いて、常圧下でHO−(Y−O)−Hを共沸で除きながら反応させることもできる。
【0092】
また、次のようにして電荷輸送性ポリエステルを合成することもできる。上記それぞれの場合において、2価アルコール類を過剰に加えて反応させることによって下記一般式(I−3)で示される化合物を生成した後、この化合物を前記一般式(I−2)で示したモノマーの代わりとして用いて上記(A′が−O−Rの場合)と同様の方法で、2価カルボン酸又は2価カルボン酸ハロゲン化物等と反応させればよく、それによってポリエステルを得ることができる。
【0093】
【化9】

【0094】
但し、一般式(I−3)中、Aは前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種以上を表し、Yは2価のアルコール残基を表し、mは1〜5の整数を表す。
【0095】
また、前記電荷輸送性ポリエステルの末端に任意の分子を導入することを行なってもよい。その場合、次のような方法が挙げられる。すなわち、一般式(I−2)で示されるモノマーのA’が水酸基の場合、末端導入化合物のモノカルボン酸を共重合させるか、ポリマーの重合反応後の化合物にモノカルボン酸を仕込んで反応させ導入することができる。
【0096】
また、A’がハロゲンの場合、末端導入化合物のモノ酸塩化物を共重合させるか、ポリマーの重合反応後、末端導入化合物のモノ酸塩化物を仕込んで反応させ導入することができる。A′が−O−Rの場合には、末端導入化合物のモノエステルを共重合させるか、ポリマーの重合反応後、末端導入化合物のモノエステルを仕込んで反応させ導入することができる。
【0097】
次に、本発明の有機電界発光素子の構成について詳述する。
本発明の有機電界発光素子は、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、それら電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層より構成され、該有機化合物層の少なくとも一層に上記に説明したような電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種含有してなるものであればその層構成は特に限定されない。
【0098】
本発明の有機電界発光素子においては、有機化合物層が1つの場合は、有機化合物層は電荷輸送能を持つ発光層を意味し、該発光層が前記電荷輸送性ポリエステルを含有してなる。一方、有機化合物層が複数の場合(即ち、各層が異なる機能を有する機能分離型の場合)は、少なくともいずれか一層が発光層からなり、この発光層は電荷輸送能を持つ発光層であってもよい。この場合、前記発光層あるいは前記電荷輸送能を持つ発光層と、その他の層からなる層構成の具体例としては、下記(1)〜(3)が挙げられる。
【0099】
(1)発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層と、から構成される層構成。
(2)正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層と、発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層と、から構成される層構成。
(3)正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層と、発光層と、から形成される層構成。
【0100】
これら層構成(1)〜(3)の発光層及び電荷輸送能を持つ発光層以外の層は、電荷輸送層や電荷注入層としての機能を有する。
【0101】
なお、層構成(1)〜(3)のいずれの層構成においても、いずれか一層に前記電荷輸送性ポリエステルが含まれていればよい。
【0102】
また、本発明の有機電界発光素子において、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層は、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性化合物(正孔輸送材料、電子輸送材料)を更に含んでもよい。このような電荷輸送性化合物の詳細については後述する。
【0103】
以下、図面を参照しつつ、より詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
図1〜図4は、本発明の有機電界発光素子の層構成を説明するための模式的断面図であって、図1、図2、図3の場合は、有機化合物層が複数の場合の一例であり、図4の場合は、有機化合物層が1つの場合の例を示す。なお、図1〜図4において、同様の機能を有するものは同じ符号を付して説明する。
【0104】
図1に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層5並びに背面電極7が順次積層されたもので、層構成(1)に相当するものである。但し、符号5で示される層が、電子輸送層及び電子注入層からなる場合には、発光層4の背面電極7側に、電子輸送層、電子注入層、背面電極7がこの順に積層される。
【0105】
図2に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層3、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層5並びに背面電極7が順次積層されたもので、層構成(2)に相当するものである。但し、符号3で示される層が、正孔輸送層及び正孔注入層からなる場合には、透明電極2の背面電極7側に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層4がこの順に積層される。また、符号5で示される層が、電子輸送層及び電子注入層からなる場合には、発光層4の背面電極7側に、電子輸送層、電子注入層、背面電極7がこの順に積層される。
【0106】
図3に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層3、発光層4並びに背面電極7が順次積層されたもので、層構成(3)に相当するものである。但し、符号3で示される層が、正孔輸送層及び、正孔注入層からなる場合には、透明電極2の背面電極7側に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層4がこの順に積層される。
【0107】
図4に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、電荷輸送能を持つ発光層6及び背面電極7が順次積層されたものである。
また、トップエミッション構造や陰極・陽極共に透明電極を用いて透過型にする場合、さらには図1〜図4の層構成を複数段積重ねた構造とすることも可能である。
【0108】
以下、各々を詳しく説明する。
図1から図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、透明絶縁体基板1は、発光を取り出すため透明なものが好ましく、ガラス、プラスチックフィルム等が用いられる。当該透明とは、可視領域の光の透過率が10%以上であることを意味し、更に透過率が75%以上であることが好ましい。透明電極2は、透明絶縁体基板と同様に発光を取り出すため透明であって、かつ正孔の注入を行うため仕事関数の大きなものが良く、仕事関数が4eV以上のものが好ましい。
具体例として、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛等の酸化膜、及び蒸着或いはスパッタされた金、白金、パラジウム等が用いられる。電極のシート抵抗は、低いほど望ましく、数百Ω/□以下が好ましく、さらには100Ω/□以下がより好ましい。また、透明絶縁体基板同様に、可視領域の光の透過率が10%以上で、更に透過率が75%以上であることが好ましい。
【0109】
また、有機電界発光素子の耐久性向上或いは発光効率の向上を目的として、本発明に用いられる電荷輸送性ポリエステルに対して正孔移動度を調節するための前記電荷輸送性ポリエステル以外の正孔輸送材料を0.1質量%ないし50質量%の範囲で混合分散して形成されてもよい。このような正孔輸送材料としては、テトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物が挙げられるが、電荷輸送性ポリエステルとの相溶性が良いことから、テトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体が好ましい。
【0110】
また、同様に、電子移動度を調整する場合は、電荷輸送性ポリエステルに対して電子輸送材料を0.1質量%から50質量%の範囲で混合分散して形成されてもよい。このような電子輸送材料として、オキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、シロール誘導体、キレート型有機金属錯体、多核又は縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、トリアゾール誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられる。
また、正孔移動度及び電子移動度の両方の調整が必要な場合は、前記電荷輸送性ポリエステルに正孔輸送材料及び電子輸送材料の両方を一緒に混在させてもよい。
【0111】
さらに、成膜性の向上、ピンホール防止等のため、適切な樹脂(ポリマー)、添加剤を加えても良い。具体的な樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリシラン樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂等を用いることができる。また、添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等を用いることができる。
【0112】
また、電荷注入性を向上させる場合は、正孔注入層及び/又は電子注入層を用いる場合があるが、正孔注入材料としては、フェニレンジアミン誘導体、フタロシアニン誘導体、インダンスレン誘導体、ポリアルキレンジオキシチオフェン誘導体等が用いられる。また、これらには、ルイス酸、スルホン酸等を混合してもよい。電子注入材料としては、Li、Ca、Sr等の金属やLiF、MgF2等の金属フッ化物、MgO、Al23、LiO等の金属酸化物が用いられる。
【0113】
また、前記電荷輸送性ポリエステルを発光機能以外で用いる場合は、発光性化合物を発光材料として用いる。発光材料としては、固体状態で高い発光量子効率を示す化合物を用いる。発光材料は、低分子化合物又は高分子化合物どちらでもよく、有機低分子である場合の好適な例としては、キレート型有機金属錯体、多核又は縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が、高分子の場合、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体等が用いられる。好適な具体例として、下記の発光材料(IV−1)から(IV−17)が用いられるが、これらに限られるものではない。なお、発光材料(IV−13)から(IV−17)中、Vは前記示した官能基、n及びjは1又は2以上の整数を示す。
【0114】
【化10】

【0115】
【化11】

【0116】
また、素子の耐久性の向上あるいは発光効率の向上を目指して、上記発光材料又は前記電荷輸送性ポリエステルの中にゲスト材料として発光材料とはことなる色素化合物をドーピングしてもよい。色素化合物のドーピングの割合としては0.001質量%〜40質量%程度、好ましくは0.001質量%〜10質量%程度である。このようなドーピングに用いられる色素化合物としては、発光材料及び電荷輸送性ポリエステルとの相容性が良く、かつ発光層の良好な薄膜形成を妨げない有機化合物が用いられ、好適にはクマリン誘導体、DCM誘導体、キナクリドン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン誘導体、Ir、Eu、Ptなどの金属錯体化合物等が用いられる。好適な具体例として、下記の色素化合物(V−1)〜(V−6)があげられるが、これらに限られるものではない。
【0117】
【化12】

【0118】
図1から図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、背面電極7には、真空蒸着可能で、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属、金属酸化物、金属フッ化物等が使用される。金属としてはマグネシウム、アルミニウム、金、銀、インジウム、リチウム、カルシウム及びこれらの合金が挙げられる。金属酸化物としては、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化スズインジウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛等が挙げられる。また、金属フッ化物としては、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウムが挙げられる。また、背面電極7上には、さらに水分や酸素による有機電界発光素子の劣化を防ぐために保護層を設けてもよい。
具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al等の金属、MgO、SiO2、TiO2等の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる、保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、コーテング法が適用できる。
【0119】
これら図1〜図4に示される有機電界発光素子は、まず透明電極2の上に各有機電界発光素子の層構成に応じた個々の層を順次形成することにより作製される。なお、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層3、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層5、或いは、電荷輸送能を持つ発光層6は、上記各材料を真空蒸着法、もしくは、適切な有機溶媒に溶解或いは分散し、得られた塗布液を用いて前記透明電極上にスピンコーティング法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法等により形成される。尚、このうち、所望の画素の位置に必要な量だけの層形成材料を塗布することができ、無駄になる材料がわずかであること、それに伴い地球環境にもやさしいこと、高精細なパターンニングが可能であること、大型パネル化が容易であること、印刷対象の自由度が大きいこと等の理由から、前記インクジェット法を用いることが好ましく、具体的には、有機電界発光素子の製造方法として、有機化合物層の構成成分を溶媒中に溶解させた塗布溶液をインクジェット法により塗布する塗布工程を有することが特に好ましい。
【0120】
インクジェット法を用いる場合、インクの代わりに、有機化合物層用塗布液を用いて、液滴吐出ヘッドのノズルから液滴状の有機化合物層用塗布液を吐出させることによって、基板上の所望の位置に所望の膜厚・形状の有機化合物層を形成することができる。
また、液滴吐出ヘッドとしても、基本的な構成や原理は、インクジェットプリンターに用いられている記録ヘッドと同様のものが利用できる。すなわち、有機化合物層用塗布液に圧力や熱等の外部刺激を付与することによって、有機化合物層用塗布液をノズルから液滴状に吐出する方法(いわゆる圧電素子を用いたピエゾインクジェット方式、熱沸騰現象を利用した熱インクジェット方式等)が利用できる。
【0121】
しかしながら、本発明の有機電界発光素子の製造に際しては、外部刺激は熱よりも圧力であることがより好ましい。外部刺激が熱である場合には、有機化合物層用塗布液のノズルからの吐出から、基板上へ着弾した有機化合物層用塗布液の溶媒の揮発による塗膜の形成(固化)というインクジェット印刷プロセスにおいて、有機化合物層用塗布液の粘度が熱によって大きく変化してしまうため、レベリング性やパターニング精度の制御が困難になる場合がある。これに加えて、耐熱性に劣る電荷輸送性ポリエーテルが利用できなくなり、材料選択肢が狭くなってしまう場合がある。
【0122】
また、インクジェット法を利用した本発明の有機電界発光素子の製造に用いられる装置としては、上述した液滴吐出ヘッドの他に、必要に応じて、例えば、有機電界発光素子を形成する対象である基板等の固定あるいは搬送手段や、液滴吐出ヘッドを基板平面方向に対して走査する液滴吐出ヘッド走査手段等を有していてもよい。
【0123】
なお、有機化合物層用塗布液は、その組成や物性は特に限定されるものではないが、有機化合物層用塗布液の粘度は、25℃において0.01〜1000cpsの範囲内であることが好ましく、1〜100cpsの範囲内であることが好ましい。
粘度が0.01cps未満である場合には、基板上に着弾した有機化合物層用塗布液が、基板平面方向に広がり易く、膜厚の制御が困難となったり、パターニング精度が劣化してしまう場合がある。また、粘度が1000cpsを超える場合には、有機化合物層用塗布液の粘性が高すぎるために吐出不良を起こしやすくなる場合がある。
【0124】
なお、有機化合物層用塗布液の粘度は、電荷輸送性ポリエステルや、必要に応じて添加されるその他の添加剤成分の含有量や、電荷輸送性ポリエステルの分子量等を制御することによって、所望の値に調整することができる。
【0125】
正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層3、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層5、並びに、電荷輸送能を持つ発光層6の膜厚は、各々10μm以下、特に0.001〜5μmの範囲であることが好ましい。上記各材料(前記非共役系高分子、発光材料等)の分散状態は分子分散状態でも微結晶などの微粒子状態でも構わない。塗布液を用いた成膜法の場合、分子分散状態とするために分散溶媒は上記各材料の分散性及び溶解性を考慮して選択する必要がある。微粒子状に分散するためには、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、アトライター、ホモジナイザー、超音波法等が利用できる。
また、図1及び図2に示す有機電界発光素子の場合には、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層5の上に背面電極7を真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することにより本発明の有機電界発光素子が得られる。また、図3に示す有機電界発光素子の場合には、発光層4の上に、図3に示す有機電界発光素子の場合には、電荷輸送能を持つ発光層6の上に背面電極7を真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することにより本発明の有機電界発光素子が得られる。
【0126】
本発明の有機電界発光素子は、一対の電極間に、例えば、4〜20Vで、電流密度1〜200mA/cmの直流電圧を印加することによって発光させることができる。
【0127】
<画像表示媒体>
本発明の画像表示媒体は、本発明の有機電界発光素子を、マトリクス状及びセグメント状の少なくとも一方に配置したことを特徴とする。本発明において有機電界発光素子をマトリクス状に配置する場合、電極のみをマトリクス状に配置する態様であってもよいし、電極及び有機化合物層の両方をマトリクス状に配置する態様であってもよい。また、本発明において有機電界発光素子をセグメント状に配置する場合、電極のみをセグメント状に配置する態様であってもよいし、電極及び有機化合物層の両方をセグメント状に配置する態様であってもよい。
マトリクス状又はセグメント状の有機化合物層は、前述したインクジェット法を用いることにより容易に形成可能である。
マトリクス状の有機電界発光素子及びセグメント状の有機電界発光素子の駆動装置及び駆動方法としては、従来公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0128】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0129】
(実施例1)
−合成例1−
2,7−ジヨードフルオレン(0.12mol)とヨードメタン(0.62mol)、相間移動触媒としてベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(0.0044mol)とをDMSO(250ml)中に溶解させる。これに、50%水酸化ナトリウム水溶液(100ml)を約1時間かけて滴下し、その後40℃で3時間撹拌して反応を完結させた。室温まで冷却後、トルエンに置換、水洗により中性とした後、50度で真空乾燥させ2,7−ジヨード−9,9−ジメチルフルオレン(70% Yield)を得た。
【0130】
窒素雰囲気下、n−ブチルリチウム/THF溶液を−78度まで冷却し、そこへ9,9−ジメチル−2,7−ジヨードフルオレン/THF溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、0度まで昇温して3時間撹拌した。その後、ホウ酸トリ―n―ブチル/THF溶液を加え、−78℃で3時間撹拌した。3時間後、よく冷やしたIN−HClを加え有機層を分液する。有機層に1M−NaOH溶液を加え、さらに水層に塩酸を加えることにより結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過によりろ取後、80度で真空乾燥させ9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジボロン酸を得た。
【0131】
窒素雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.6mmol)をTHF(30ml)に溶解させ、3−(4−ヨードフェニル)プロピオン酸メチルエステル(24mmol)、2M NaCO溶液(48mmol)を9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジボロン酸(12mmol)/THF(30ml)の順に加えた。その後、6時間還流し反応を完結させる。室温まで冷却後、トルエンに置換して、1N−HCl約30mlを加えトルエン層を水で中性になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、溶媒留去して粗生成物を得た。メタノール約100mlで洗浄後、無色結晶を得た。さらにヘキサン/酢酸エチルからショートカラムを通して原点成分を除き、最後に再結晶を行なうことでモノマー化合物(16)を得た。
【0132】
このモノマー化合物(16)1.3gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素雰囲気下エチレングリコール(10ml)オルトチタン酸テトラブチルモノマー(10mg)を加え、十分に脱気後200℃で5時間反応を行なう。その後4.8Paの減圧下、230℃で5時間加熱反応。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに加熱溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにて加圧ろ過し、ろ液を撹拌しているメタノール1000ml中に滴下し、ポリマーを再沈殿させた。得られたポリマーを吸引ろ過によりろ取、次いで十分にメタノール500mlで洗浄した後、乾燥させ、0.9gのポリマー〔例示化合物11〕を得た。
【0133】
この例示化合物の分子量をGPCゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したところ、Mwは1.3×10(スチレン換算)、Mn/Mwは1.3であった。
【0134】
−素子の作製−
透明絶縁基板上に形成されたITO(三容真空社製)を短冊状のフォトマスクを用いてフォトリソグラフィによりパターニングし、さらにエッチング処理することにより短冊状のITO電極(幅2mm)を形成した。次に、このITOガラス基板を中性洗剤、純水、アセトン(電子工業用、関東化学製)及びイソプロパノール(電子工業用、関東化学製)で超音波を各5分間加えて洗浄した後、スピンコーターで乾燥させた。前記基板に、正孔輸送層として、電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(11)〕を5重量%モノクロロベンゼン溶液に調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した後、ディップ法により厚さ0.050μmの薄膜を形成した。発光材料として前記例示化合物(IV−1)を蒸着して、厚さ0.055μmの発光層を形成した。続いて短冊状の穴が設けられている金属性マスクを用いて、最後にこのマスクを設置してMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0135】
(実施例2)
−合成例2−
合成例1と同様な方法で、9,9−ジイソプロピルフルオレン−2,7−ジボロン酸を得る。窒素雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.6mmol)をTHF(30ml)に溶解させ、3−(4−ヨードフェニル)プロピオン酸メチルエステル(24mmol)、2M NaCO溶液(48mmol)を9,9−ジイソプロピルフルオレン−2,7−ジボロン酸(12mmol)/THF(30ml)の順に加えた。その後、6時間還流し反応を完結させた。室温まで冷却後、トルエンに置換して、1N−HCl約30mlを加えトルエン層を水で中性になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、溶媒留去して粗生成物を得た。メタノール約100mlで洗浄後、無色結晶を得た。さらにヘキサン/酢酸エチルからショートカラムを通して原点成分を除き、最後に再結晶を行なうことでモノマー化合物(8)を得た。
【0136】
このモノマー化合物(8)1.3gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素雰囲気下エチレングリコール(10ml)オルトチタン酸テトラブチルモノマー(10mg)を加え、十分に脱気後200℃で5時間反応を行なう。その後4.8Paの減圧下、230℃で5時間加熱反応。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに加熱溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにて加圧ろ過し、ろ液を撹拌しているメタノール1000ml中に滴下し、ポリマーを再沈殿させた。得られたポリマーを吸引ろ過によりろ取、次いで十分にメタノール500mlで洗浄した後、乾燥させ、0.8gのポリマー〔例示化合物6〕を得た。
【0137】
この例示化合物の分子量をGPCゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したところ、Mwは1.0×10(スチレン換算)、Mn/Mwは1.4であった。
【0138】
−素子の作製−
実施例1同様にエッチング、洗浄したITOガラス基板に、電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(6)〕1重量部、ポリ(N−ビニルカルバゾール)4重量部、前記例示化合物(IV−1)を、10重量%ジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコーター法により膜厚約0.15μmの電荷輸送能を有する発光層を形成した。充分乾燥させた後、Mg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0139】
(実施例3)
−合成例3−
2,7−ジブロモフルオレノン(0.1mol)と4−tert−ブチル臭化フェニルマグネシウム(0.2mol)をエーテル100ml中で3時間還流後、室温に冷却、1N HCl 100mlで洗浄、ついで水で中性まで洗浄した。乾燥後2,7−ジブロモ−{9,9−(4’−ジ−tert−ブチルフェニル)}フルオレン(0.06mol)を得た(参考文献:Adv. Mater., 13, 1690(2001)。
次いで合成例1と同様な方法で2,7−{9,9−(4’,4’−ジ−tert−ブチルフェニル)}フルオレンジボロン酸(0.03mol)とした。
【0140】
窒素雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.6mmol)をTHF(50ml)に溶解させ、3−(4’−ヨードビフェニル−4−イル)プロピオン酸メチルエステル(24mmol)、2M NaCO溶液(48mmol)を2,7−{9,9−(4’,4’−ジ−tert−ブチルフェニル)}フルオレンジボロン酸(12mmol)/THF(50ml)の順に加えた。その後、7時間還流し反応を完結させた。室温まで冷却後、トルエンに置換して、1N−HCl約30mlを加えトルエン層を水で中性になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、溶媒留去して粗生成物を得た。メタノール約100mlで洗浄後、無色結晶を得た。さらにヘキサン/酢酸エチルからショートカラムを通して原点成分を除き、最後に再結晶を行なうことでモノマー化合物(43)を得た。
【0141】
このモノマー化合物(43)1.3gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素雰囲気下エチレングリコール(10ml)オルトチタン酸テトラブチルモノマー(10mg)を加え、十分に脱気後200℃で5時間反応を行なう。その後4.8Paの減圧下、230℃で5時間加熱反応。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに加熱溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにて加圧ろ過し、ろ液を撹拌しているメタノール1000ml中に滴下し、ポリマーを再沈殿させた。得られたポリマーを吸引ろ過によりろ取、次いで十分にメタノール500mlで洗浄した後、乾燥させ、0.9gのポリマー〔例示化合物16〕を得た。
【0142】
この例示化合物の分子量をGPCゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したところ、Mwは8.8×10(スチレン換算)、Mn/Mwは1.7であった。
【0143】
−素子の作製−
実施例1同様にエッチング、洗浄したITOガラス基板に、実施例1同様に正孔輸送層として、電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(16)〕を厚さ0.050μmを形成した。発光層として前記例示化合物(IV−1)と前記例示化合物(V−1)を厚さ0.065μm、電子輸送層として前記例示化合物(IV−9)を厚さ0.030μmで形成した。続いてMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0144】
(実施例4)
−合成例4−
合成例3と同様な方法で、2,7−ジブロモフルオレノン(0.1mol)と2−臭化ビフェニルマグネシウムをエーテル中で3時間撹拌後、室温まで冷却し、酢酸50mlをゆっくり加える。エーテルを減圧下留去して、そこへHCl約5mlを加える。その後1時間還流して沈殿物を吸引ろ過によりろ取する。水洗い、メタノールによる再結晶により2,7−ジブロモ−9,9’−スピロビフルオレン(Yield:60%)を得る。
【0145】
続いて、2,7−ジブロモ−9,9’−スピロビフルオレン(0.3mol)、アクリル酸メチル(0.33mol)、トリエチルアミン(0.6mol)、酢酸パラジウム(0.003mol)、トリ(o−トリル)ホスフィン(0.006mol)の混合溶液を窒素雰囲気下100℃で加熱した。反応終了後、トルエン中に注ぎ、純水で洗浄後、硫酸マグネシウムを加え乾燥した。溶媒を留去した後、トルエン、メタノール混合溶液にパラジウムカーボン(10%)を加え、水素下雰囲気で攪拌し接触水素還元を行なった。その後、セライトでろ過し、溶媒を留去した後、得られた粗製物をカラムクロマトグラフィー及び再結晶により精製し、モノマー化合物〔14〕(0.15mol)を得た。
【0146】
このモノマー化合物(14)1.3gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素雰囲気下エチレングリコール(10ml)オルトチタン酸テトラブチルモノマー(10mg)を加え、十分に脱気後200℃で5時間反応を行なう。その後4.8Paの減圧下、230℃で5時間加熱反応。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに加熱溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにて加圧ろ過し、ろ液を撹拌しているメタノール1000ml中に滴下し、ポリマーを再沈殿させた。得られたポリマーを吸引ろ過によりろ取、次いで十分にメタノール500mlで洗浄した後、乾燥させ、0.9gのポリマー〔例示化合物10〕を得た。
【0147】
この例示化合物の分子量をGPCゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したところ、Mwは7.4×10(スチレン換算)、Mn/Mwは1,8であった。
【0148】
−素子の作製−
実施例1同様にエッチング、洗浄したITOガラス基板に、実施例1同様に正孔輸送層として、電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(10)〕を厚さ0.050μmでインクジェット法により形成した。発光層として前記例示化合物(IV−17)と前記例示化合物(V−5)を厚さ0.065μmでスピンコーター法により形成した。充分乾燥させた後、Caを厚さ0.08μm、Alを厚さ0.15μmに蒸着して、2mm幅、合計0.23μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0149】
(実施例5)
−合成例5−
合成例1で合成した9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジボロン酸と2,7−ジヨード−9,9−ジメチルフルオレンを用い鈴木反応を実施。窒素雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.0mmol)をTHF(50ml)に溶解させ、2,7−ジヨード−9,9−ジメチルフルオレン(50mmol)、2M NaCO溶液(50mmol)を9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジボロン酸(25mmol)/THF(100ml)の順に加えた。その後、7時間還流し反応を完結させた。室温まで冷却後、トルエンに置換して、1N−HCl約30mlを加えトルエン層を水で中性になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、溶媒留去して粗生成物を得た。メタノール約100mlで洗浄後、無色結晶を得た。さらにヘキサン/酢酸エチルからショートカラムを通して原点成分を除き、最後に再結晶を行なうことでフルオレン3量体(20mmol)を得た。
【0150】
続いて、これを臭素(50mmol)、酢酸800ml中に溶解させ室温で5時間反応させた。析出した沈殿物を吸引ろ過によりろ取して、水洗い、メタノール500mlで洗浄した。乾燥後、フルオレン3量体ジブロモ体(18mmol)を得た。
これを合成例1と同様な方法でボロン酸とした。(10mmol)
【0151】
窒素雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.5mmol)をTHF(50ml)に溶解させ、3−(4−ヨードフェニル)プロピオン酸メチルエステル(20mmol)、2M NaCO溶液(20mmol)をフルオレン3量体ジボロン酸(10mmol)/THF(50ml)の順に加えた。その後、8時間還流し反応を完結させた。室温まで冷却後、トルエンに置換して、1N−HCl約30mlを加えトルエン層を水で中性になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、溶媒留去して粗生成物を得た。メタノール約100mlで洗浄後、無色結晶を得た。さらにヘキサン/酢酸エチルからショートカラムを通して原点成分を除き、最後に再結晶を行なうことでモノマー化合物(116)(6mmol)を得た。
【0152】
このモノマー化合物(116)1.0gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素雰囲気下エチレングリコール(10ml)オルトチタン酸テトラブチルモノマー(10mg)を加え、十分に脱気後200℃で5時間反応を行なう。その後4.8Paの減圧下、230℃で5時間加熱反応。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに加熱溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにて加圧ろ過し、ろ液を撹拌しているメタノール1000ml中に滴下し、ポリマーを再沈殿させた。得られたポリマーを吸引ろ過によりろ取、次いで十分にメタノール500mlで洗浄した後、乾燥させ、0.7gのポリマー〔例示化合物28〕を得た。
【0153】
この例示化合物の分子量をGPCゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したところ、Mwは6.5×10(スチレン換算)、Mn/Mwは1.6であった。
【0154】
−素子の作製−
実施例1同様にエッチング、洗浄したITOガラス基板に、実施例1に用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(28)〕1.5重量部%ジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、正孔輸送層として、2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、インクジェット法により膜厚約0.05μmの薄膜を形成した。発光材料として前記例示化合物(IV−14)をインクジェット法により厚さ0.050μmの発光層を形成した。充分乾燥させた後、Caを厚さ0.08μm、Alを厚さ0.15μmに蒸着して、2mm幅、合計0.23μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0155】
(比較例1)
上記実施例1で用いた例示化合物(2)の代わりに下記構造式(VI)で示される化合物を用いた他は実施例1と同様に素子を作製した。
【0156】
【化13】

【0157】
(比較例2)
電荷輸送性ポリマーとしてポリビニルカルバゾール(PVK)を2重量部、発光材料として前記例示化合物(V−1)を0.1重量部、電子輸送材料として前記化合物(IV−9)を1重量部混合し、10重量%ジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、ディップ法により塗布して膜厚0.15μmのホール輸送層を形成した。十分乾燥させた後、Mg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cmであった。
【0158】
(評価)
以上のように作製した有機EL素子を、乾燥窒素中で接着剤によりガラスで封止し、ITO電極側をプラス、Mg−Ag背面電極をマイナスとして測定を行なった。
発光特性は、直流駆動方式(DC駆動)で初期輝度を400cd/mとしたときの駆動電流密度により比較を行った。また、発光寿命の評価は、室温において、比較例1の素子の輝度(初期輝度L:400cd/m)が輝度L/初期輝度L=0.5となった時点の駆動時間を1.0とした場合の相対時間、及び、素子の輝度が輝度L/初期輝度L=0.5となった時点での電圧上昇分(=電圧/初期駆動電圧)により評価した。結果を表24に示す。
【0159】
また、以上のように作製した有機電界発光素子を、真空中(1.33×10−1Pa)でITO電極側をプラス、背面電極側をマイナスとして5Vの直流電圧を印加し、発光について測定を行い、このときの最高輝度、及び発光色を評価した。結果を表24に示す。
【0160】
【表24】

【0161】
表24から、本実施例では、電荷輸送性ポリエステルが電荷注入特性、電荷移動度、薄膜形成能、発光特性に加え、発光時の熱安定性、保存安定性を有し、これを用いた有機電界発光素子は、発光強度が大きく、及び発光効率が高く、素子寿命が長いことがわかる。また、ピンホール等の不良も少なく、大面積化も容易となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示した概略構成図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図4】本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0163】
1 透明絶縁体基板
2 透明電極
3 正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層
4 発光層
5 電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層
6 電荷輸送能を有する発光層
7 背面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明又は半透明である陽極及び陰極よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層と、を含んで構成され、
前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

(一般式(I−1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の1価の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜10の1価の分枝鎖状炭化水素基、置換もしくは未置換の1価のフェニレン基、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の縮合芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環を表す。Tは炭素数1〜10の2価の直鎖状炭化水素基、又は炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表す。aは1〜4の整数、bは0〜3を表す。)
【請求項2】
前記有機化合物層が、少なくとも、発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層とを含み、前記発光層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも1層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記有機化合物層が、少なくとも、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層とを含み、前記発光層、正孔輸送層及び正孔注入層から選択された少なくとも1層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層が、少なくとも、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも1層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも1層とを含み、前記発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも1層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層が、電荷輸送機能を持つ発光層のみから構成され、前記電荷輸送機能を持つ発光層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルが、下記一般式(II−1)又は(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】

(一般式(II−1)及び(II−2)中、Aは前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種以上を表し、Yは2価のアルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、mは1〜5の整数を表し、Rは、−O−(Y−O)m−H、又は基−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−OR’で表される基(但し、Y、Z、mは上記と同じ意味を有し、R’は、水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表し、pは5〜5000の整数を表す。)
【請求項7】
請求項1に記載の有機電界発光素子をマトリクス及びセグメント状の少なくとも一方に配置したことを特徴とする画像表示媒体。
【請求項8】
請求項1に記載の有機電界発光素子を製造する有機電界発光素子の製造方法であって、前記有機化合物層の構成成分を溶媒中に溶解させた塗布溶液をインクジェット法により塗布する塗布工程を少なくとも有することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−28201(P2008−28201A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199957(P2006−199957)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】