説明

有機電界発光素子及び有機デバイスの製造方法

【課題】重合性化合物を重合して形成される層を有する有機電界発光素子であって、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下が少なく、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】基板と、基板上に設けられた陽極及び陰極と、陽極と陰極との間に配置された複数の有機層とを備えた有機電界発光素子であって、複数の有機層が、重合性化合物を重合して形成される第1の層と、第1の層に隣接して設けられる、重合反応開始剤を含有する第2の層とを少なくとも含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性化合物を重合して形成される層を有する有機電界発光素子と、重合性化合物を重合して形成される層を有する有機デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行なわれている。有機電界発光素子における有機薄膜(有機層)の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。
【0003】
真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極及び/又は陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。
一方、湿式成膜法は、真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能を有する複数の材料を混合して入れることが容易である、等の利点がある。
【0004】
しかしながら、湿式成膜法は積層化が困難であるため、真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。
特に、湿式成膜法での有機層の積層化は、有機溶剤と水系溶剤とを使用する等の手法により、二層の積層は可能であるが、三層以上の積層化は困難であった。
【0005】
このような有機層の積層化における課題を解決するために、例えば特許文献1では、エポキシ基を有するジアミン化合物を含有する溶液を成膜した後、重合させることにより、有機電界発光素子の有機層を形成する工程が開示されている。
また、例えば非特許文献1では、オキセタン基を有するジアミン化合物を含有する溶液を成膜した後、重合させることにより、有機電界発光素子の正孔輸送層を形成する工程が開示されている。
これらの方法によれば、湿式成膜法により耐溶剤性を備えた有機層を形成することができ、2層以上の有機層を積層することが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開平7−85973号公報
【非特許文献1】Advanced Materials 2006, 18, 948-954.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1及び非特許文献1に記載の技術のように、重合性化合物を重合させて有機層を形成する場合、重合性化合物と共に重合反応開始剤が使用されるが、この重合反応開始剤が通電時に分解されて発生した生成物等が、発光層への電荷注入や発光層内での電荷移動の妨げとなり、得られる素子の定電流通電時の駆動電圧が上昇したり、通電時の輝度安定性が低下したりして、駆動寿命が短くなるという課題があった。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、重合性化合物を重合して形成される層を有する有機電界発光素子であって、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下が少なく、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を提供することである。
また、本発明の別の目的は、重合性化合物を重合して形成される層を有する有機デバイスを製造する方法であって、主たる機能を発現する層の化学的安定性が向上した有機デバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、以下の知見を得た。即ち、重合性化合物を含有する組成物を成膜し、重合性化合物を重合して有機層を形成する際に、通常は重合性化合物とともに組成物中に含有される重合反応開始剤を、あえて重合性化合物を重合して形成される層とは異なる層に含有させたところ、意外にも重合性化合物の重合が進行して有機層が形成されるとともに、上記課題が解消された素子が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極と、該陽極と該陰極との間に配置された複数の有機層とを備えた有機電界発光素子であって、該複数の有機層が、重合性化合物を重合して形成される第1の層と、該第1の層に隣接して設けられる、重合反応開始剤を含有する第2の層とを少なくとも含んでなることを特徴とする、有機電界発光素子に存する(請求項1)。
【0011】
ここで、該複数の有機層が、更に発光層を含んでなり、該発光層、該第1の層、該第2の層が、この順に配置されることが好ましい(請求項2)。
【0012】
また、該第1の層が正孔輸送層であり、該第2の層が正孔注入層であることが好ましい(請求項3)。
【0013】
また、該第2の層における重合反応開始剤の含有率が、0.1重量%以上であることが好ましい(請求項4)。
【0014】
また、本発明の別の要旨は、重合性化合物を重合して形成される第1の層と、該第1の層に隣接して設けられ、重合反応開始剤を含有する第2の層とを少なくとも含む、複数の有機層を備えた有機デバイスを製造する方法において、重合反応開始剤を含有する組成物を成膜して、該第2の層を形成する工程と、該重合性化合物を含有する組成物を成膜して、該重合性化合物を含有する層を形成する工程と、該重合性化合物を重合させて、該第1の層を形成する工程とを備えることを特徴とする、有機デバイスの製造方法に存する(請求項5)。
【0015】
ここで、該有機デバイスが、基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極とを更に備えた、有機電界発光素子であって、該第1の層及び該第2の層を含む該複数の有機層を、該陽極と該陰極との間に形成することが好ましい(請求項6)。
【0016】
本発明のさらに別の要旨は、基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極と、該陽極と該陰極との間に配置された発光層と、重合性化合物を重合して形成される重合層と、該重合層に対して該発光層とは反対側で隣接するとともに重合反応開始剤を含有する隣接層とを備えた有機電界発光素子であって、XPS法により算出した該隣接層の該重合層側表面部に含まれる該重合反応開始剤以外の成分の分子数に対する、XPS法により算出した該隣接層の該重合層側表面部に含まれる該重合反応開始剤の分子数の割合(%)(QA)と、XPS法により算出した該重合層の発光層側表面に含まれる該重合反応開始剤以外の成分の分子数に対する、XPS法により算出した該重合層の発光層側表面部に含まれる該重合反応開始剤の分子数の割合(%)(QB)との比(QB/QA)が、0.5未満であることを特徴とする、有機電界発光素子に存する(請求項7)。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、重合性化合物を重合して形成される層を有する有機電界発光素子であって、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下が少なく、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を得ることができる。
また、本発明によれば、重合性化合物を重合して形成される層を有する有機デバイスを製造する方法であって、主たる機能を発現する層の化学的安定性が向上した有機デバイスを、容易に且つ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0019】
[I.基本構成]
本発明の有機電界発光素子は、基板と、前記基板上に設けられた陽極及び陰極と、前記の陽極と陰極との間に配置された複数の有機層とを備える。
そして、複数の有機層のうち2層が、重合性化合物を重合して形成される層(これを「第1の層」という。)、及び、重合反応開始剤を含有する層(これを「第2の層」という。)であって、これらが隣接して設けられることを特徴としている。
【0020】
〔I−1.重合性化合物〕
本発明において「重合性化合物」とは、重合性基を有する有機化合物である。ここで「重合性基」とは、近傍に位置する他の分子の同一又は異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。例えば、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により、あるいは、増感剤などの他分子からエネルギーを受け取ることにより、近傍に位置する他の分子の同一又は異なる基と反応して新規な化学結合を生成する基が挙げられる。
【0021】
重合性化合物は、その構造によって、繰り返し単位を有するものと有しないものとに分けられる。本発明に係る重合性化合物は前記重合性基を有する化合物であればよく、特に制限があるものではない。中でも、高純度化が容易な点で繰り返し単位を有さない重合性化合物が好ましく、また、成膜性に優れる点で繰り返し単位を有する重合性化合物が好ましい。したがって、重合性化合物は、重合性基を有するモノマー(単量体)、並びにこれらのモノマーが重合してなるオリゴマー及びポリマーのいずれであってもよい。なお、本明細書では便宜上、「オリゴマー」とは重合度が2から20程度の低重合体をいい、「ポリマー」とは重合度が20を超える高重合体をいうものとする。
【0022】
重合性基としては、制限されるものではないが、不飽和二重結合、環状エーテル、ベンゾシクロブタン等を含む基が好ましい。
中でも、重合性基としては、不溶化し易いという点から、下記重合性基群Tから選ばれる基が好ましい。
【0023】
・重合性基群T:
【化1】

【0024】
上記式中、R91〜R95は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表わす。
Ar91は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基を表わす。
【0025】
とりわけ、重合性基としては、電気化学的耐久性に優れるという点から、下記重合性基群T’から選ばれる基であることが好ましい。
【0026】
・重合性基群T’
【化2】

【0027】
重合性化合物は、高純度化が容易な点、及び、性能のぶれを小さくできる点で、繰り返し単位を有さない重合性化合物であることが好ましい。また、成膜性が優れる点で、繰り返し単位を有する重合性化合物であることが好ましい。
【0028】
重合性化合物の具体例としては、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体、2,4,6−トリフェニルピリジン誘導体、C60誘導体、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体誘導体等が挙げられる。
【0029】
中でも、電気化学的安定性及び電荷輸送性が高いという理由から、下記式で表わされる部分構造と重合性基とを有する化合物が特に好ましい。
【化3】

【0030】
特に好ましい重合性化合物のうち、繰り返し単位を有さないものの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
一方、特に好ましい重合性化合物のうち、繰り返し単位を有するものの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
なお、重合性化合物は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0035】
本発明に係る重合性化合物が繰り返し単位を有さない場合、重合性化合物の重量平均分子量は、通常300以上、好ましくは500以上、また、通常5000以下、好ましくは2500以下の範囲である。繰り返し単位を有さない重合性化合物の重量平均分子量が小さ過ぎると電荷輸送性が低下する場合があり、大き過ぎると溶解性が低下する場合がある。
一方、本発明に係る重合性化合物が繰り返し単位を有する場合、重合性化合物の重量平均分子量は、通常500以上、好ましくは2000以上、より好ましくは4000以上、また、通常2,000,000以下、好ましくは500,000以下、より好ましくは200,000以下の範囲である。繰り返し単位を有する重合性化合物の重量平均分子量がこの下限値を下回ると、重合性化合物の成膜性が低下する可能性があり、また、重合性化合物のガラス転移温度、融点および気化温度が低下するため耐熱性が著しく損なわれる可能性がある。また、重量平均分子量がこの上限値を超えると、不純物の高分子量化によって重合性化合物の精製が困難となる可能性がある。
【0036】
なお、この重量平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することによって、重量平均分子量及び数平均分子量が算出される。
【0037】
〔I−2.重合反応開始剤〕
本発明において「重合反応開始剤」とは、熱又は光等の活性エネルギー線の照射により分解し、重合性化合物の重合反応の開始を促進する活性種のことをいう。重合反応開始剤の例を挙げると、カチオン、ラジカル、アニオン等を生成する化合物、光等の活性エネルギー線の照射によって生成した励起エネルギーを効率よく重合性化合物へと伝達する化合物などが挙げられる。
【0038】
重合反応開始剤としては、例えば、有機過酸化物、フェニルアルキルケトン、有機オニウム塩等が挙げられる。これらの中では、有機オニウム塩が好ましい。
【0039】
具体的に、有機過酸化物の例としては、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化t−ジブチル等が挙げられる。
【0040】
フェニルアルキルケトンの具体例としては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製 イルガキュア651、イルガキュア184、ダロキュア1173等が挙げられる。
【0041】
有機オニウム塩の例としては、有機ヨードニウム塩、有機スルホニウム塩等が挙げられる。中でも、強い酸化力と高い溶解性とを両立する点から、下記式(I−1)〜(I−3)で表わされる有機オニウム塩が特に好ましい。
【0042】
【化8】

【化9】

【化10】

【0043】
上記式(I−1)〜(I−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A1〜A3と炭素原子で結合する有機基を表わす。R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の基を表わす。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していてもよい。
1〜A3は何れも周期表第3周期以降の元素であって、A1は長周期型周期表の第17族に属する元素を表わし、A2は長周期型周期表の第16族に属する元素を表わし、A3は長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。
1n1-〜Z3n3-は、各々独立に、対アニオンを表わす。
n1〜n3は、各々独立に、対アニオンのイオン価を表わす。)
【0044】
上記式(I−1)〜(I−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A1〜A3と炭素原子で結合する有機基を表わし、R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の置換基を表わす。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0045】
11、R21及びR31としては、A1〜A3との結合部分に炭素原子を有する有機基であれば、本発明の趣旨に反しない限り、その種類は特に制限されない。R11、R21及びR31の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。R11、R21及びR31の好ましい例としては、正電荷を非局在化させる点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。中でも、正電荷を非局在化させるとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0046】
芳香族炭化水素基としては、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0047】
芳香族複素環基としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0048】
アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であって、その炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0049】
アルケニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0050】
アルキニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
【0051】
12、R22、R23及びR32〜R34の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。R12、R22、R23及びR32〜R34の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。R12、R22、R23及びR32〜R34の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基、水酸基、チオール基、シリル基等が挙げられる。中でも、R11、R21及びR31と同様、電子受容性が大きい点から、A1〜A3との結合部分に炭素原子を有する有機基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。特に、電子受容性が大きいとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0052】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、R11、R21及びR31について先に説明したものと同様のものが挙げられる。
【0053】
アミノ基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基等が挙げられる。
【0054】
アルキルアミノ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミノ基が挙げられる。具体例としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基等が挙げられる。
【0055】
アリールアミノ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を1つ以上有するアリールアミノ基が挙げられる。具体例としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、トリルアミノ基、ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基等が挙げられる。
【0056】
アシルアミノ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基を1つ以上有するアシルアミノ基が挙げられる。具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0057】
アルコキシ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルコキシ基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0058】
アリールオキシ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシ基が挙げられる。具体例としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0059】
アシル基としては、炭素数が通常1以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基が挙げられる。具体例としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0060】
アルコキシカルボニル基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基が挙げられる。具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0061】
アリールオキシカルボニル基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するものが挙げられる。具体例としては、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0062】
アルキルカルボニルオキシ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルキルカルボニルオキシ基が挙げられる。具体例としては、アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基等が挙げられる。
【0063】
アルキルチオ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基が挙げられる。具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。
【0064】
アリールチオ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基が挙げられる。具体例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0065】
アルキルスルホニル基及びアリールスルホニル基の具体例としては、メシル基、トシル基等が挙げられる。
【0066】
スルホニルオキシ基の具体例としては、メシルオキシ基、トシルオキシ基等が挙げられる。
【0067】
シリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基など挙げられる。
【0068】
以上、R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34として例示した基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に他の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、上記R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34としてそれぞれ例示した基の他、ハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基等が挙げられる。中でも、耐熱性及び電子受容性の妨げにならない観点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。
【0069】
式(I−1)〜(I−3)中、A1〜A3は、何れも周期表第3周期以降(第3〜第6周期)の元素であって、A1は、長周期型周期表の第17族に属する元素を表わし、A2は、第16族に属する元素を表わし、A3は、第15族に属する元素を表わす。
【0070】
中でも、電子受容性及び入手容易性の観点から、周期表の第5周期以前(第3〜第5周期)の元素が好ましい。即ち、A1としてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子のうち何れかが好ましく、A2としてはテルル原子、セレン原子、硫黄原子のうち何れかが好ましく、A3としてはアンチモン原子、ヒ素原子、リン原子のうち何れかが好ましい。
【0071】
特に、電子受容性、化合物の安定性の面から、式(I−1)におけるA1が臭素原子又はヨウ素原子である化合物、又は、式(I−2)におけるA2がセレン原子又は硫黄原子である化合物が好ましく、中でも、式(I−1)におけるA1がヨウ素原子である化合物が特に好ましい。
【0072】
式(I−1)〜(I−3)中、Z1n1-〜Z3n3-は、各々独立に、対アニオンを表わす。対アニオンの種類は特に制限されず、単原子イオンであっても錯イオンであってもよい。但し、対アニオンのサイズが大きいほど負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、単原子イオンよりも錯イオンの方が好ましい。
【0073】
n1〜n3は、各々独立に、対アニオンZ1n1-〜Z3n3-のイオン価に相当する任意の正の整数である。n1〜n3の値は特に制限されないが、何れも1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
【0074】
1n1-〜Z3n3-の具体例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、イソシアン酸イオン、水硫化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン;酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン;メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;メトキシイオン、t−ブトキシイオン等のアルコキシイオンなどが挙げられる。
【0075】
特に、対アニオンZ1n1-〜Z3n3-としては、化合物の安定性、溶剤への溶解性の点で、下記式(I−4)〜(I−6)で表わされる錯イオンが好ましく、サイズが大きいという点で、負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、下記式(I−6)で表わされる錯イオンが更に好ましい。
【0076】
【化11】

【化12】

【化13】

【0077】
式(I−4)及び(I−6)中、E1及びE3は、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わす。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が好ましい。
【0078】
式(I−5)中、E2は、長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。中でもリン原子、ヒ素原子、アンチモン原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さ、毒性の点から、リン原子が好ましい。
【0079】
式(I−4)及び(I−5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表わし、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点からフッ素原子、塩素原子であることが好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
【0080】
式(I−6)中、Ar61〜Ar64は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基の例示としては、R11、R21及びR31について先に例示したものと同様の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環等に由来の1価の基が好ましい。
【0081】
Ar61〜Ar64として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
【0082】
Ar61〜Ar64が有してもよい置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0083】
中でも、Ar61〜Ar64のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar61〜Ar64の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが特に好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナフチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
【0084】
式(I−4)〜(I−6)で表わされる錯イオンの分子量は、通常100以上、好ましくは300以上、更に好ましくは400以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下の範囲である。該化合物の分子量が小さ過ぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下する場合があり、また、該化合物の分子量が大き過ぎると、該化合物自体が電荷輸送の妨げとなる場合がある。
【0085】
以下に式(I−4)〜(I−6)で表わされる錯イオンの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
【化14】

【0087】
なお、重合反応開始剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0088】
重合反応開始剤の分子量は、通常100以上、好ましくは200以上、また、通常10000以下、好ましくは3000以下の範囲である。重合反応開始剤の分子量が小さ過ぎると塗膜形成時の揮発性が高過ぎる場合があり、大き過ぎると溶剤への溶解性が低くなる場合がある。
【0089】
〔I−3.有機層〕
本発明において「有機層」とは、有機化合物を含有する層をいう。
本発明の有機電界発光素子において、有機層とは、陽極及び陰極の間に配置される各層をいう。
本発明の有機電界発光素子における有機層の例としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
【0090】
これらの有機層のうち、重合性化合物を重合して形成される層(第1の層。重合層に相当する)、及び、重合反応開始剤を含有する層(第2の層)に相当する層は、隣接して構成される二層であれば、制限されるものではなく、何れの層であってもよい。
これらの有機層のうち隣接する二層を第1の層及び第2の層として形成することにより、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下が少なく、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を得ることができる。
【0091】
第1の層には重合反応開始剤を含まないことが好ましい。前記の本発明の利点をより安定して得るようにするためである。なお、第1の層の形成に用いる組成物が重合反応開始剤を含んでいない場合、第1の層も重合反応開始剤を含んでいないものとする(後述する正孔輸送層用組成物成膜工程を参照。)
【0092】
但し、重合反応開始剤が発光層に与える影響を低減し、上述した定電流通電時の駆動電圧の上昇防止や通電時の輝度の低下防止、駆動寿命の延長等の効果を顕著に得る観点からは、第2の層は、発光層からできるだけ離れた位置に存在することが好ましい。
【0093】
具体的には、図2に模式的に示すように、第2の層3が第1の層4を挟んで発光層5と反対側に存在すること、即ち、発光層5、第1の層4、第2の層3がこの順に配置されることが好ましい。この場合、発光層5と第1の層4とは隣接していてもよいが、発光層5と第1の層4との間に、任意の一又は二以上の層(図示せず)が介在していてもよい。
特に、第1の層4が正孔輸送層であり、第2の層3が正孔注入層であることが好ましい。
【0094】
ところで、このように第2の層3が第1の層(重合層)4に対して発光層5とは反対側で隣接している層(以下、「隣接層」ということがある)となっている場合、後述のように定義される比QB/QAは、0.5未満であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。この上限値を超えると、第1の層4を形成する際に進行する重合反応、もしくは、第1の層の成膜時に行なうベークによって第2の層3から第1の層4に移動してくる重合反応開始剤が有機電界発光素子の特性に大きな影響を与え、その影響を無視できなくなる可能性があるからである。なお、前記の比QB/QAの下限は、理想的には0である。
【0095】
ここで、QAとは、XPS法により算出した第2の層3の第1の層側表面部3sに含まれる重合反応開始剤以外の成分の分子数に対する、XPS法により算出した第2の層3の第1の層側表面部3sに含まれる重合反応開始剤の分子数の割合(%)のことをいう。また、QBとは、XPS法により算出した第1の層4の発光層側表面4sに含まれる重合反応開始剤以外の成分の分子数に対する、XPS法により算出した第1の層4の発光層側表面部4sに含まれる重合反応開始剤の分子数の割合(%)のことをいう。したがって、前記の比QB/QAは、前記の割合QAに対する割合QBの比のことをいう。
【0096】
前記のQA及びQBは、以下の測定方法により測定できる。
[QA及びQBの測定方法]
・サンプルの用意
QAの測定に用いるサンプルとしては、測定の対象となる有機電界発光素子の隣接層を形成するための材料(通常は組成物。湿式成膜法で形成する場合は塗布液ともいう)を用意し、この材料を有機電界発光素子の製造方法と同様にして(例えば、25mm×37.5mmのITO基板上に30nmの厚さで)成膜し、得られた層をQA測定用サンプルとしてQAを測定する。
また、QBの測定に用いるサンプルとしては、測定の対象となる有機電界発光素子の重合層を形成するための材料(通常は組成物。湿式成膜法で形成する場合は塗布液ともいう)を用意し、この材料を有機電界発光素子の製造方法と同様にして前記のQA測定用サンプルの上に(例えば、20nmの厚さで)成膜し、得られた層をQB測定用サンプルとしてQBを測定する。
【0097】
・XPS法による測定
XPS法による測定に際しては、例えばULVAC−PHI社製の走査型X線光電子分光装置QUANTUM2000を用いることができる。X線源としてはモノクロメータを通したAlのKα線(エネルギー 1486.6eV)を用いることができる。QUANTUM2000では、X線の入射方向に対する検出器の方向が45°であるため、試料表面からの光電子の取り出し角度は45°となる。XPS測定試料ホルダーに取り付けるために、試料基板の中央部は10mm四方程度に裁断する。試料を試料ホルダーにセットする際、試料ホルダーへは、帯電を軽減するために、1〜2mmφの穴の開いたモリブデン製マスクで押さえるようにセットする。測定領域は上記の穴の中央部とし、300μm四方の領域について測定を行う。
【0098】
解析にはULVAC−PHI社製multipak ver8.0を用い、各元素の最も強いピークの面積を感度補正係数で除することで各元素の原子数に比例した量を求め、この値を用いてQA、およびQBを計算する。QA、およびQBは、(各層表面部の重合反応開始剤の分子数)/(各層表面部の重合反応開始剤以外の成分の分子数)を示す。QA、及びQBは、各層表面をXPS法によって測定した場合における、2種以上の原子に由来するピーク面積から下記に例示する手法により算出することができる。ここで、算出に用いる原子の種類としては、一つが少なくとも重合反応開始剤に含まれる原子を選択し、他の一つが少なくとも重合反応開始剤以外の成分(母材)に含まれる原子を選択することにより、通常の手法によりQA、QBを算出可能である。また、ここで重合反応開始剤以外の成分(母材)として繰り返し単位を有する化合物の場合は、繰り返し単位の分子量(繰り返し単位を複数含む場合は、それらの平均分子量)を母材の分子量として算出する。こうするほうが、各層表面部の重合反応開始剤以外の成分の重合性基の数当たりの、各層表面部の重合反応開始剤以外の成分の分子数に対応した数値を表すことができるからである。
【0099】
例えば、炭素とフッ素の最も強い光電子ピークの強度をそれぞれIC、IFとし、それぞれの感度係数をSC、SFとすれば、炭素とフッ素の原子数比Qは
Q = (IC/SC)/(IF/SF)
と計算される。計算された原子数の比と、層の中に含まれる重合反応開始剤および母材の分子構造とから、当該層の表面における重合反応開始剤と母材の分子数の比を求めることができる。
【0100】
・測定の具体例
以下、XPS法による重合反応開始剤の測定の例として、下記化合物CBP及び化合物F4TCNQからなる膜を挙げて説明する。前記の要領でXPS法により測定された炭素原子とフッ素原子とのピーク強度比が仮にC:F=12:1であれば、この膜の表面に存在する化合物CBP及び化合物F4TCNQの比は化合物F4TCNQ:化合物CBP=1:1ということになり、この場合の化合物F4TCNQの存在比を100%と定義する。仮にC:F=21:1であれば化合物F4TCNQ:化合物CBP=1:2ということになり、化合物F4TCNQの存在比は50%ということになる。
【化15】

【0101】
なお、第1の層は、重合性化合物由来の成分(重合性化合物を重合させてなる化合物をいい、例えば、重合性化合物を重合させてなる重合体をいう)の他に、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分の種類は制限されず、通常は第1の層の機能に応じて適宜選択される。なお、第1の層はその他の成分として、何れか一種を単独で含有してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
【0102】
第1の層が重合性化合物由来の成分以外にその他の成分を含有する場合、第1の層におけるその他の成分の含有率は、第1の層の機能によっても異なるが、一般的には、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲である。その他の成分の含有率が少な過ぎると、その他の成分の使用による効果が発現しない場合があり、多過ぎると、重合性化合物由来の成分の機能を阻害する場合がある。
【0103】
また、第2の層も、重合反応開始剤に加えて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分の種類は制限されず、通常は第2の層の機能に応じて適宜選択される。なお、第2の層はその他の成分として、何れか一種を単独で含有してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
【0104】
第2の層における重合反応開始剤の含有率は、第2の層の機能によっても異なるが、一般的には、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下の範囲である。重合反応開始剤の含有率が少な過ぎると、第1の層の形成時における重合反応が十分に進行しない場合があり、多過ぎると、第2の層の本来の機能を阻害する場合がある。
【0105】
なお、本発明の有機電界発光素子を構成する基板、陽極、陰極、及び各有機層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)の詳細については後述する。
【0106】
〔I−4.本発明の効果が得られる理由〕
本発明の有機電界発光素子が上述の効果を有する理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0107】
上述の従来技術文献のうち、特許文献1では、エポキシ樹脂の硬化剤として2級アミンを用いており、非特許文献1では、オキセタン基の重合反応開始剤として有機ヨードニウム塩を使用している。これらの文献に記載の方法により製造された有機電界発光素子は、有機層に硬化剤又は重合反応開始剤が残留しており、特に発光層及び/又は発光層に隣接する層に含有される硬化剤や重合反応開始剤、或いはこれらの硬化剤や重合反応開始剤が通電時に分解することによって発生した生成物が、発光層の主成分たる化合物と反応することにより、有機電界発光を消光し、結果として通電時の輝度安定性が低い、いわゆる駆動寿命の短い素子となるものと考えられる。
【0108】
これに対して、本発明の有機電界発光素子では、重合反応開始剤が、重合性化合物を重合して形成される層(第1の層)ではなく、これに隣接する層(第2の層)に含有されている。こうした構成により、重合性化合物を重合して形成される層に重合反応開始剤を含有させた場合と類似した効果が得られる。その結果、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下が少なく、駆動寿命に優れた有機電界発光素子が得られるものと推測される。
【0109】
また、本発明の有機電界発光素子の好ましい構成においては、重合反応開始剤が発光層に近い層(第1の層、正孔輸送層)ではなく、発光層から離れた層(第2の層、正孔注入層)に含有されている。その結果、発光層への重合反応開始剤の溶解若しくは物質移動により、有機電界発光素子の特性や寿命に悪影響を及ぼす活性種(例えばラジカル種)等の発生を抑えることができ、その結果、上述した定電流通電時の駆動電圧の上昇防止や通電時の輝度の低下防止、駆動寿命の延長等の効果がより顕著に得られるものと推測される。
【0110】
〔I−5.有機デバイス〕
なお、本発明の有機電界発光素子が有する上述の構成は、有機電界発光素子以外の有機デバイスにも適用することが可能である。
【0111】
本発明において「有機デバイス」とは、外部から供給されたエネルギーを、他のエネルギー及び/又は有効な仕事に変換する機能を持つ構造体であり、主たる機能を発現する部分が有機物により構成されているものをいう。
有機デバイスの例としては、有機電界発光素子、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機発光トランジスタ、有機磁性デバイス、有機ダイオード、有機アクチュエーター(モーター等)、有機センサー(圧力、温度、湿度センサー等)等が挙げられる。
【0112】
以下、本発明の有機電界発光素子が有する上述の構成を適用した有機デバイス、即ち、複数の有機層を備えるとともに、複数の有機層のうち2層が、重合性化合物を重合して形成される層(第1の層)、及び、重合反応開始剤を含有する層(第2の層)であって、これらが隣接して設けられた有機デバイスを、「本発明の有機デバイス」という。
なお、本発明の有機デバイスは通常、上述した本発明の有機電界発光素子と同様に、前記複数の有機層の他に、基板と、基板上に設けられた陽極及び陰極とを備え、前記の陽極と陰極との間に前記複数の有機層が配置された構成を有する。
【0113】
〔I−6.有機デバイスの製造方法〕
本発明の有機デバイスを製造する方法は特に制限されないが、少なくとも以下の工程(1)〜(3)を備えた方法(これを以下「本発明の製造方法」という。)により製造することが好ましい。
(1)重合反応開始剤を含有する組成物を成膜して、第2の層を形成する工程(以下適宜「正孔注入層用組成物成膜工程」という。)。
(2)重合性化合物を含有する組成物を成膜して、重合性化合物を含有する層を形成する工程(以下適宜「正孔輸送層用組成物成膜工程」という。)。
(3)重合性化合物を重合させて、第1の層を形成する工程(以下適宜「重合工程」という。)。
【0114】
本発明の製造方法における、上記工程(1)〜(3)の詳細(例えば、(1)正孔注入層用組成物成膜工程における、重合反応開始剤を含有する組成物の組成や成膜の手法、(2)正孔輸送層用組成物成膜工程における、重合性化合物を含有する組成物の組成や成膜の手法、(3)重合工程における、重合性化合物の重合の手法等)は制限されず、任意である。
【0115】
また、本発明の製造方法は、上記工程(1)〜(3)に加えて、一又は二以上のその他の工程を備えていてもよい。その他の工程の実施時期は任意である。
本発明の製造方法における、上記工程(1)〜(3)の詳細や、その他の工程の有無や詳細については、製造対象となる本発明の有機デバイスに応じて適宜選択すればよい。
【0116】
本発明の製造方法を有機デバイスの製造に用いることにより、主たる機能を発現する層(第1の層及び/又は第2の層)の化学的安定性が向上した有機デバイスを、容易に且つ効率的に製造することが可能となる。
【0117】
但し、本発明の製造方法は、有機デバイスの中でも特に、有機電界発光素子の製造に用いることが好ましく、具体的には、第1の層が正孔輸送層であり、第2の層が正孔注入層であることが特に好ましい。これにより、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下が少なく、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を得ることが可能となる。
【0118】
[II.実施形態]
以下、本発明の有機デバイス及び本発明の製造方法の詳細について、有機電界発光素子を例にとって具体的に説明する。
【0119】
〔II−1.有機電界発光素子の構成〕
図1は、本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子の層構成を模式的に示す断面図である。図1に示す有機電界発光素子100は、基板1の上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、有機発光層5、正孔阻止層6、電子注入層7及び陰極8を、この順に積層することにより構成される。
本実施形態の場合、正孔輸送層4が、重合性化合物を重合して形成される層(第1の層、重合層)に該当し、正孔注入層3が、重合反応開始剤を含有する層(第2の層、隣接層)に該当することになる。
【0120】
〔II−2.基板〕
基板1は、有機電界発光素子100の支持体となるものである。
基板1の材料は制限されないが、例としては、石英、ガラス、金属、プラスチック等が挙げられる。これらの材料は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
基板1の形状も制限されないが、例としては、板、シート、フィルム、箔等、或いはこれらの二種以上を組み合わせた形状等が挙げられる。
中でも、基板1としては、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。
【0121】
なお、基板1の材料として合成樹脂を使用する場合には、ガスバリア性に留意することが望ましい。基板1のガスバリア性が低過ぎると、基板1を通過した外気により、有機電界発光素子100が劣化する場合がある。よって、合成樹脂からなる基板1の少なくとも片面に、緻密なシリコーン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する、等の手法を講じることが好ましい。
【0122】
基板1の厚さは制限されないが、通常1μm以上、好ましくは50μm以上、また、通常50mm以下、好ましくは3mm以下の範囲が望ましい。基板1が薄過ぎると機械的強度が低くなる場合があり、厚過ぎると素子の重量が増加し過ぎる場合がある。
【0123】
なお、基板1は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0124】
〔II−3.陽極〕
基板1の上には、陽極2が形成される。
陽極2は、後述する有機発光層5側の層(正孔注入層3又は有機発光層5等)への正孔注入の役割を果たすものである。
【0125】
陽極2の材料は、導電性を有する材料であれば任意であるが、例としては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。
これらの陽極2の材料は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0126】
陽極2を形成する手法は制限されないが、通常はスパッタリング法、真空蒸着法等が用いられる。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の金属ハロゲン化物の微粒子、カーボンブラック等の炭素材料の微粒子、導電性金属酸化物の微粒子、導電性高分子の微粉末等の材料を用いる場合には、これらの材料を適当なバインダー樹脂溶液に分散させ、基板1上に塗布することにより、陽極2を形成することもできる。
【0127】
更に、導電性高分子を材料として用いる場合は、電解重合により基板1上に直接、薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布したりする等の手法により、陽極2を形成することもできる(Applied Physics Letters,1992年,Vol.60,pp.2711参照)。
【0128】
陽極2の厚みは、陽極2に求められる透明性により異なる。
陽極2に透明性が求められる場合は、陽極2による可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲が望ましい。陽極2が薄過ぎると電気抵抗が大きくなる場合があり、厚過ぎると透明性が低下する場合がある。
【0129】
一方、陽極2が不透明でよい場合、例えば、陽極2が基板1を兼ねる場合、陽極2の厚さは基板1と同様、通常1μm以上、好ましくは50μm以上、また、通常50mm以下、好ましくは30mm以下の範囲が望ましい。陽極2が薄過ぎると機械的強度が低くなる場合があり、厚過ぎると素子の重量が増加し過ぎる場合がある。
【0130】
なお、陽極2は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
更には、陽極2を上述の基板1と一体に形成し、陽極2が基板1を兼ねる構成としてもよい。
【0131】
なお、陽極2の形成後、陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極2表面に対して、紫外線(UV)処理、オゾン処理、プラズマ処理(例えば酸素プラズマ処理、アルゴンプラズマ処理等)等の処理を行なうことが好ましい。
【0132】
〔II−4.正孔注入層〕
陽極2の上には、正孔注入層3が形成される。
正孔注入層3は、陽極2から有機発光層5へ正孔を輸送する層である。本実施形態においては、正孔注入層3は、重合反応開始剤を含有する層(第2の層、隣接層)に該当する。
【0133】
正孔注入層3は、上述の重合反応開始剤を含有するとともに、通常は電子受容性化合物、正孔輸送剤等を含有する。
【0134】
正孔輸送剤(以下「正孔輸送性化合物」と言う場合がある。)は、従来、有機EL素子における正孔注入・輸送性の薄膜形成材料として利用されてきた各種の化合物の中から、適宜選択することが可能である。中でも、溶剤溶解性の高いものが好ましい。
【0135】
なお、正孔輸送性化合物は、4.5eV以上5.5eV以下のイオン化ポテンシャルを有する化合物であることが好ましい。なお、イオン化ポテンシャルは、物質のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、光電子分光法で直接測定されるか、電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正しても求められる。後者の方法の場合は、例えば、飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として用いたとき、下記式で表される("Molecular Semiconductors", Springer-Verlag, 1985年, pp.98)。
イオン化ポテンシャル = 酸化電位(vs.SCE)+4.3eV
【0136】
正孔輸送性化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0137】
正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも、非晶質性、溶剤への溶解度、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0138】
芳香族アミン化合物の中でも、正孔輸送性化合物としては、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。なお、ここでいう芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0139】
芳香族アミン化合物の種類は制限されず、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよいが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、100万以下の高分子化合物であることが好ましい。
【0140】
高分子の芳香族アミン化合物(以下「芳香族アミン高分子化合物」と言う場合がある。)の好ましい例としては、下記式(I)で表わされる繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物が挙げられる。
【0141】
【化16】

【0142】
(式(I)中、Ar1及びAr2は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は、置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Ar3〜Ar5は各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は、置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表わす。Xは、下記の連結基群X1の中から選ばれる連結基を表わす。)
【0143】
・連結基群X1:
【化17】

【0144】
(式中、Ar11〜Ar28は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。R1及びR2は各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
【0145】
前記式(I)において、Ar1〜Ar5及びAr11〜Ar28としては、任意の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環由来の、1価又は2価の基が適用可能である。即ち、Ar1、Ar2、Ar16、Ar21及びAr26は、それぞれ1価の基が適用可能であり、Ar3〜Ar5、Ar11〜Ar15、Ar17〜Ar20、Ar22〜Ar25、Ar27及びAr28は、それぞれ2価の基が適用可能である。これらは各々同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、任意の置換基を有していてもよい。
【0146】
前記の芳香族炭化水素環としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などが挙げられる。
【0147】
前記の芳香族複素環としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などが挙げられる。
【0148】
また、Ar3〜Ar5、Ar11〜Ar15、Ar17〜Ar20、Ar22〜Ar25、Ar27、Ar28としては、上に例示した1種類又は2種類以上の芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環由来の2価の基を2つ以上連結して用いることもできる。
【0149】
また、Ar1〜Ar5及びAr11〜Ar28の芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環由来の基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、下記の置換基群Wから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なお、置換基は、1個が単独で置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0150】
[置換基群W]
メチル基、エチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは8以下のアルキル基;ビニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルケニル基;エチニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上、通常20以下、好ましくは12以下のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上、通常30以下、好ましくは22以下のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常6以上、好ましくは7以上、通常25以下、好ましくは17以下のアリールアルキルアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアシル基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上、通常8以下、好ましくは4以下のハロアルキル基;メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシリル基;トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシロキシ基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下の芳香族炭化水素環基;チエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常28以下、好ましくは17以下の芳香族複素環基。
【0151】
上述した基の中でも、Ar1及びAr2としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の1価の基が好ましく、フェニル基、ナフチル基が更に好ましい。
【0152】
また、上述したものの中でも、Ar3〜Ar5としては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環由来の2価の基が好ましく、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基が更に好ましい。
【0153】
前記式(I)において、R1及びR2としては、水素原子又は任意の置換基が適用可能である。これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。置換基の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されないが、適用可能な置換基を例示するならば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。これらの具体例としては、先に置換基群Wにおいて例示した各基が挙げられる。
【0154】
正孔注入層の材料として用いられる芳香族三級アミン高分子化合物の重量平均分子量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1000以上、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、また、通常50万以下、好ましくは20万以下、より好ましくは10万以下である。
【0155】
正孔注入層3中の芳香族三級アミン高分子化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、正孔注入層3全体に対する重量比の値で、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、また、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。なお、2種以上のポリマーを併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにすることが好ましい。
【0156】
一方、低分子の芳香族三級アミン化合物(以下「芳香族三級アミン低分子化合物」と言う場合がある。)のうち、正孔輸送性化合物として好ましい具体例としては、下記式(III)で表わされるビナフチル系化合物が挙げられる。
【0157】
【化18】

【0158】
式(III)中、Ar51〜Ar58は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Ar51とAr52、Ar55とAr56は、各々結合して環を形成していてもよい。Ar51〜Ar58の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ、Ar1〜Ar5について先に例示したものと同様である。
【0159】
u及びvは、各々独立に、0以上、4以下の整数を表わす。但し、u+v≧1である。特に好ましいのは、u=1かつv=1である。
1及びQ2は各々独立に、直接結合又は2価の連結基を表わす。
【0160】
式(III)中のナフタレン環は、−(Q1NAr53Ar57(NAr51Ar52))及び−(Q2NAr54Ar58(NAr55Ar56))に加えて、任意の置換基を有していてもよい。また、これらの置換基−(Q1NAr53Ar57(NAr51Ar52)及び−(Q2NAr54Ar58(NAr55Ar56)は、ナフタレン環の何れの位置に置換していてもよいが、中でも、式(III)におけるナフタレン環の、各々4−位、4’−位に置換したビナフチル系化合物がより好ましい。
【0161】
また、式(III)で表わされる化合物におけるビナフチレン構造は、2,2’−位に置換基を有することが好ましい。2,2’−位に結合する置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0162】
なお、式(III)で表わされる化合物において、ビナフチレン構造は2,2’−位以外に任意の置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、2,2’−位における置換基として前掲した各基等が挙げられる。式(III)で表わされる化合物は、2−位及び2’−位に置換基を有することにより、2つのナフタレン環がねじれた配置になるため、溶解性が向上すると考えられる。
【0163】
式(III)で表わされるビナフチル系化合物の分子量は、通常500以上、好ましくは700以上、また、通常2000以下、好ましくは1200以下の範囲である。
【0164】
以下に、本発明において正孔輸送性化合物として適用可能な、式(III)で表わされるビナフチル系化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明で適用可能なビナフチル系化合物はこれらに限定されるものではない。
【0165】
【化19】

【0166】
その他、本発明における正孔輸送性化合物として適用可能な芳香族アミン化合物としては、有機EL素子における正孔注入・輸送性の層形成材料として利用されてきた、従来公知の化合物が挙げられる。例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の第3芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報);4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4923774号明細書);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4764625号明細書);α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報);ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報);トリアミン化合物(特開平5−239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報);N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報);ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4950950号明細書);シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報);ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0167】
また、本発明における正孔輸送性化合物として適用可能な芳香族アミン化合物のその他の具体例としては、ジアリールアミノ基を有する8−ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体が挙げられる。上記の金属錯体は、中心金属がアルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sm、Eu、Tbの何れかから選ばれ、配位子である8−ヒドロキシキノリンはジアリールアミノ基を置換基として1つ以上有するが、ジアリールアミノ基以外に任意の置換基を有することがある。
【0168】
また、本発明における正孔輸送性化合物として適用可能なフタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体の好ましい具体例としては、ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリン、29H,31H−フタロシアニン銅(II)、フタロシアニン亜鉛(II)、フタロシアニンチタン、フタロシアニンオキシドマグネシウム、フタロシアニン鉛、フタロシアニン銅(II)、4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン等が挙げられる。
【0169】
また、本発明における正孔輸送性化合物として適用可能なオリゴチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、α−セキシチオフェン等が挙げられる。
【0170】
なお、正孔輸送性化合物として適用可能な芳香族アミン化合物(上述した芳香族三級アミン高分子化合物及び式(III)で表わされるビナフチル系化合物を除く。)、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、及びオリゴチオフェン誘導体の分子量は、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下の範囲である。分子量が小さ過ぎると耐熱性が低くなる傾向がある一方で、正孔輸送性化合物の分子量が大き過ぎると合成及び精製が困難となる傾向がある。
【0171】
正孔注入層3は、上述の各種の正孔輸送性化合物(正孔輸送剤)のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
【0172】
正孔注入層3における正孔輸送剤の含有率は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常99.9重量%以下、好ましくは90重量%以下の範囲である。
【0173】
重合反応開始剤の詳細や具体例、好適な例等については上述した通りである。
重合反応開始剤は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0174】
正孔注入層3における重合反応開始剤の含有率は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下の範囲である。重合反応開始剤の含有率が少な過ぎると、隣接する層(通常は正孔輸送層4)の重合反応が十分に進行しない場合があり、多過ぎると、正孔輸送性化合物の正孔輸送能力を阻害する場合がある。
また、正孔輸送剤に対する重合反応開始剤の比率は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは60重量%以下の範囲が望ましい。
【0175】
電子受容性化合物の例としては、オニウム塩、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、及び、アリールアミンとルイス酸との塩等が挙げられる。これらの電子受容性化合物は、正孔注入性材料と混合して用いられ、正孔注入性材料を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0176】
オニウム塩の例としては、重合反応開始剤の例として上述した各種の有機オニウム塩が挙げられる。
【0177】
トリアリールホウ素化合物の例としては、下記一般式(IV)で表わされるホウ素化合物が挙げられる。下記一般式(IV)で表わされるホウ素化合物は、ルイス酸であることが好ましい。また、このホウ素化合物の電子親和力は、通常4eV以上、好ましくは5eV以上である。
【0178】
【化20】

【0179】
一般式(IV)において、Ar1〜Ar3は、各々独立に、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等の5又は6員環の単環、又はこれらが2〜3個縮合及び/又は直接結合してなる芳香族炭化水素環基;或いは置換基を有していてもよいチエニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基等の5員又は6員環の単環、又はこれらが2〜3個縮合及び/又は直接結合してなる芳香族複素環基を表わす。
【0180】
Ar1〜Ar3が有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0181】
特に、Ar1〜Ar3の少なくとも1つが、ハメット定数(σm及び/又はσp)が正の値を示す置換基であることが好ましく、Ar1〜Ar3が、何れもハメット定数(σm及び/又はσp)が正の値を示す置換基であることが特に好ましい。このような、電子吸引性の置換基を有することにより、これらの化合物の電子受容性が向上する。また、Ar1〜Ar3が何れも、ハロゲン原子で置換された芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であることが更に好ましい。
【0182】
一般式(IV)で表わされるホウ素化合物の好ましい具体例としては、下記の式6−1〜式6−17で表わされる化合物が挙げられる。但し、一般式(IV)で表わされるホウ素化合物は、下記の式6−1〜式6−17で表わされる化合物に限定されるものではない。
【0183】
【化21】

【0184】
【化22】

【0185】
中でも、以下に示す化合物が特に好ましい。
【0186】
【化23】

【0187】
上述の電子受容性化合物は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0188】
正孔輸送剤に対する電子受容性化合物の比率は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは60重量%以下の範囲が望ましい。
【0189】
なお、重合反応開始剤及び電子受容性化合物として、それぞれ別の異なる化合物を用いてもよいが、重合反応開始剤及び電子受容性化合物の機能を兼ね備えた化合物を用いてもよい。
重合反応開始剤及び電子受容性化合物の機能を兼ね備えた化合物を用いることにより、重合反応開始剤及び電子受容性化合物としてそれぞれ別の異なる化合物を用いる場合と比べて、正孔輸送剤に対する重合反応開始剤及び電子受容性化合物の比率をより多くすることが可能となる。
また、後述のように溶剤を用いて正孔注入層3を形成する場合でも、重合反応開始剤と電子受容性化合物の双方について個別に溶解性を検討する必要がなく、溶剤の選定が容易になる。
【0190】
重合反応開始剤及び電子受容性化合物の機能を兼ね備えた化合物の例としては、有機オニウム塩等が挙げられる。なお、これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、重合反応開始剤及び電子受容性化合物の機能を兼ね備えた一種又は二種以上の化合物と、一種又は二種以上の重合反応開始剤、及び/又は、一種又は二種以上の電子受容性化合物とを併用することも可能である。
【0191】
正孔注入層3は、正孔注入層3を構成する成分(重合反応開始剤、電子受容性化合物、正孔輸送剤等)を含有する組成物(以下適宜「正孔注入層用組成物」という場合がある。)を成膜することにより形成される。
即ち、正孔注入層3を形成する工程は、上述の(1)正孔注入層用組成物成膜工程に該当する。
【0192】
正孔注入層用組成物は、正孔注入層3の構成成分である、重合反応開始剤、電子受容性化合物及び正孔輸送剤を含有するとともに、通常は溶剤を含有する。
【0193】
溶剤としては、正孔注入層用組成物中の各成分を良好に溶解でき、且つ、これらの成分と好ましからぬ化学反応を生じないものであれば、その種類に制限はない。中でも、重合反応開始剤から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)を失活させる可能性のある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まない溶剤が好ましい。
【0194】
好ましい溶剤の例としては、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(Propyleneglycol-1-monomethylether acetate:以下適宜「PGMEA」と略する。)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテルなどが挙げられる。これらのエーテル系溶剤は何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0195】
エステル系溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステルなどが挙げられる。これらのエステル系溶剤は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
また、一種又は二種以上のエーテル系溶剤と、一種又は二種以上のエステル系溶剤とを、任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0196】
また、上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤以外に使用可能な溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また、これらの溶剤のうち一種又は二種以上を、上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤のうち一種又は二種以上と組み合わせて用いてもよい。特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤は、酸化剤とポリマーを溶解する能力が低いため、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤と混合して用いることが好ましい。
【0197】
正孔注入層用組成物における溶剤の含有率は、通常1重量%以上、好ましくは70重量%以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは99重量%以下の範囲が望ましい。
【0198】
正孔注入層用組成物における正孔輸送剤の含有率は、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲が望ましい。
【0199】
正孔注入層用組成物における重合反応開始剤の含有率は、通常0.00001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下の範囲が望ましい。
【0200】
正孔注入層用組成物における電子受容性化合物の含有率は、通常0.00001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、また、通常50重量%以下、通常5重量%以下、より好ましくは1重量%以下の範囲が望ましい。
【0201】
更に、正孔注入層用組成物は、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例としては、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。
【0202】
レベリング剤の例としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。レベリング剤は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0203】
正孔注入層用組成物中におけるレベリング剤の含有率は、通常0.0001重量%以上、好ましくは0.001重量%以上、また、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下の範囲である。レベリング剤の含有率が少な過ぎるとレベリング不良となる場合があり、多過ぎると膜の電気特性を阻害する場合がある。
【0204】
消泡剤の例としては、シリコーンオイル、脂肪酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。消泡剤は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0205】
正孔注入層用組成物中における消泡剤の含有率は、通常0.0001重量%以上、好ましくは0.001重量%以上、また、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下の範囲である。消泡剤の含有率が少な過ぎると消泡効果がなくなる場合があり、多過ぎると膜の電気特性を阻害する場合がある。
【0206】
上述の各成分を混合して正孔注入層用組成物を調製した後、これを上述の陽極2上に成膜する。
成膜の手法は制限されないが、通常は湿式成膜法が用いられる。湿式成膜法の種類は制限されないが、正孔注入層用組成物の成分や下地となる陽極2の性質等に応じて、スピンコート法、スプレー法等の塗布法や、インクジェット法、スクリーン法等の印刷法等を任意に選択して用いることが可能である。
【0207】
湿式成膜法により成膜を行なった場合、成膜後に乾燥処理等を行なう。
乾燥処理の手法は特に制限されないが、例としては自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。また、加熱乾燥と減圧乾燥とを組み合わせて実施してもよい。
【0208】
加熱乾燥を行なう場合、その手法の例としては、ホットプレート、オーブン、赤外線照射、電波照射等が挙げられる。
加熱乾燥を行なう場合、加熱温度としては、通常は室温以上、好ましくは50℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは260℃以下の範囲が望ましい。なお、加熱乾燥時の温度は一定でもよいが、変動してもよい。
【0209】
減圧乾燥を行なう場合、乾燥時の圧力としては、通常は常圧以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは1kPa以下の範囲が望ましい。
乾燥処理の時間は、通常1秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲が望ましい。
【0210】
正孔注入層3の厚さは制限されないが、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲が望ましい。正孔注入層3が薄過ぎると正孔注入性が不十分となる場合があり、厚過ぎると抵抗が高くなる場合がある。
【0211】
なお、正孔注入層3は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0212】
〔II−5.正孔輸送層〕
正孔注入層3の上には、正孔輸送層4が形成される。
正孔輸送層4は、陽極2、正孔注入層3の順に注入された正孔を有機発光層5に注入する機能を有すると共に、発光層5から電子が陽極2側に注入されることによる発光効率の低下を抑制する機能を有する。本実施形態において、正孔輸送層4は、重合性化合物を重合して形成される層(第1の層、重合層)に該当する。
【0213】
正孔輸送層4は、正孔輸送層4の原料となる重合性化合物を含有する組成物(以下適宜「正孔輸送層用組成物」という場合がある。)を成膜し、更に、この重合性化合物を重合させることにより形成される。
即ち、正孔輸送層4を形成する工程は、上述の(2)正孔輸送層用組成物成膜工程及び(3)重合工程に該当する。
【0214】
正孔輸送層用組成物は、正孔輸送層4の原料成分である、重合性化合物を含有するとともに、通常は溶剤を含有する。
【0215】
重合性化合物の詳細や具体例、好適な例等については上述した通りである。
重合性化合物は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0216】
溶剤としては、正孔輸送層用組成物中の各成分を良好に溶解でき、且つ、これらの成分と好ましからぬ化学反応を生じないものであれば、その種類に制限はない。例としては、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族化合物;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶剤;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等のエステル系溶剤等の有機溶剤等が挙げられる。中でもトルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等が好ましい。
これらの溶剤は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0217】
正孔輸送層用組成物中における溶剤の含有率は、通常1重量%以上、好ましくは20重量%以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは70重量%以下の範囲が望ましい。
正孔輸送層用組成物中における正孔輸送剤の含有率は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下の範囲が望ましい。
【0218】
更に、正孔輸送層用組成物は、その他の成分を含有していてもよい。
その他の成分の例としては、電子受容性化合物や正孔輸送層4の溶解性を低下させ、正孔輸送層4上へ他の層を塗布することを可能とする重合反応を促進するための添加物等が挙げられる。
重合反応を促進する添加物の例としては、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩などの重合反応開始剤や重合促進剤、縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物などの光増感剤等が挙げられる。
これらの添加物は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ただし、正孔輸送層を第1の層として有機電界発光素子を作製する場合、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下を防止し、優れた駆動寿命を得る点から、正孔輸送用組成物は重合反応開始剤を含まないことが好ましい。
【0219】
上述の各成分を混合して正孔輸送層用組成物を調製した後、これを上述の正孔注入層3上に成膜する。
成膜の手法は制限されないが、通常は湿式成膜法が用いられる。湿式成膜法の種類は制限されないが、正孔輸送層用組成物の成分や下地となる正孔注入層3の性質等に応じて、スピンコート法、スプレー法等の塗布法や、インクジェット法、スクリーン法等の印刷法等を任意に選択して用いることが可能である。
【0220】
正孔輸送層用組成物を正孔注入層3上に成膜した後、重合性化合物を重合させ、正孔輸送層4を形成する。重合性化合物を重合させることにより、重合性化合物が重合反応を起こし、反応後の膜(正孔輸送層4)の溶解性が低下する。これによって、正孔輸送層4の上に引き続き有機発光層5を形成した場合にも、形成された正孔輸送層4が有機発光層用組成物(後述)に溶解しないようになる。
【0221】
重合性化合物を重合させる手法としては、成膜された正孔輸送層用組成物(これを以下「正孔輸送層用組成物膜」という。)を加熱する手法、正孔輸送層用組成物膜に活性エネルギー線を照射する手法が挙げられる。
【0222】
加熱により重合を行なう場合、加熱の手法は制限されないが、例としてはホットプレート、オーブン、赤外線照射、マイクロ波照射等が挙げられる。これらの手法は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
加熱温度は、通常は室温以上、好ましくは50℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは260℃以下の範囲が望ましい。なお、加熱時における温度は一定であってもよいが、変動してもよい。
加熱時間は通常1秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲が望ましい。
【0223】
一方、活性エネルギー線の照射により重合を行なう場合、活性エネルギー線としては、紫外線、電子線(主として光励起により重合反応開始剤を分解し重合反応を誘起する)、赤外線、マイクロ波(主として加熱により重合反応開始剤を分解し、かつ重合反応速度を増加させる)等が挙げられる。これらの活性エネルギー線は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
活性エネルギー線を照射する手法としては、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法、マグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法等が挙げられる。
【0224】
活性エネルギー線の照射量は、正孔輸送層用組成物膜表面における積算エネルギー換算で、通常1mJ/cm2以上、好ましくは10mJ/cm2以上、また、通常100J/cm2以下、好ましくは30J/cm2以下の範囲が望ましい。
活性エネルギー線の照射時間としては、上述の照射量となるように適宜設定すればよいが、通常0.1秒以上、好ましくは1秒以上、また、通常10時間以下、好ましくは1時間以下の範囲が望ましい。
【0225】
上述の加熱及び活性エネルギー線の照射は、正孔注入層3が含有する重合反応開始剤及び正孔輸送層用組成物が含有する重合性化合物の種類に応じて、適宜選択すればよい。
なお、加熱又は活性エネルギー線の照射を単独で実施してもよく、加熱と活性エネルギー線の照射とを組み合わせて実施してもよい。
また、活性エネルギー線の照射を行なう場合には、一種の活性エネルギー線を単独で照射してもよく、二種以上の活性エネルギー線を同時に、或いは個別に照射してもよい。
【0226】
重合工程時の圧力は制限されないが、通常は常圧下或いは減圧下で行なわれる。
重合工程時の雰囲気も制限されないが、通常は大気中、或いは窒素等の不活性雰囲気中で行なわれる。中でも、得られる正孔輸送層4の内部に含有される水分及び/又は表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行なうことが好ましい。同様の目的で、加熱及び/又は活性エネルギー線の照射を組み合わせて複数工程により行なう場合には、少なくとも有機発光層5の形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行なうことが特に好ましい。
【0227】
重合工程の実施後、残留溶剤低減のため、更に乾燥処理を行なってもよい。
乾燥処理を行なう場合、その手法は制限されないが、例としては自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。また、加熱乾燥と減圧乾燥とを組み合わせて実施してもよい。
加熱乾燥を行なう場合、その手法の例としては、ホットプレート、オーブン、赤外線照射、電波照射等が挙げられる。
【0228】
加熱乾燥を行なう場合、加熱温度としては、通常は室温以上、好ましくは50℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは260℃以下の範囲が望ましい。なお、加熱乾燥時の温度は一定でもよいが、変動してもよい。
減圧乾燥を行なう場合、乾燥時の圧力としては、通常は常圧以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは1kPa以下の範囲が望ましい。
乾燥処理の時間は、通常1秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲が望ましい。
【0229】
正孔輸送層4の厚さは制限されないが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲が望ましい。正孔輸送層4が薄過ぎると素子の発光効率が低下する場合があり、厚過ぎると素子電圧が高くなる場合がある。
【0230】
なお、正孔輸送層4は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0231】
〔II−6.有機発光層〕
正孔輸送層4の上には、有機発光層5が形成される。
有機発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3及び正孔輸送層4を通じて注入された正孔と、陰極8から電子注入層7、正孔阻止層6を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0232】
有機発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する材料(正孔輸送性化合物)、或いは、電子輸送の性質を有する材料(電子輸送性化合物)とを含有する。更に、有機発光層5は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。これらの材料としては、後述のように湿式成膜法で有機発光層5を形成する観点から、何れも低分子系の材料を使用することが好ましい。
【0233】
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
【0234】
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも、好ましい。
【0235】
青色発光を与える蛍光色素としては、例えば、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。緑色蛍光色素としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。黄色蛍光色素としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。赤色蛍光色素としては、例えば、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0236】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
【0237】
燐光性有機金属錯体に含まれる、周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(VI)又は式(VII)で表わされる化合物が挙げられる。
【0238】
ML(q-j)L′j (VI)
(式(VI)中、Mは金属を表わし、qは上記金属の価数を表わす。また、L及びL′は二座配位子を表わす。jは0、1又は2の数を表わす。)
【0239】
【化24】

(式(VII)中、M7は金属を表わし、Tは炭素原子又は窒素原子を表わす。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表わす。但し、Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。)
【0240】
以下、まず、式(VI)で表わされる化合物について説明する。
式(VI)中、Mは任意の金属を表わし、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0241】
また、式(VI)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【化25】

上記Lの部分構造において、環A1は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。
【0242】
該芳香族炭化水素基としては、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0243】
該芳香族複素環基としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0244】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表わす。
【0245】
該含窒素芳香族複素環基としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基が挙げられる。具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0246】
環A1又は環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基;芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0247】
また、式(VI)中、二座配位子L′は、以下の部分構造を有する配位子を示す。但し、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表わす。
【0248】
【化26】

【0249】
中でも、L′としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0250】
【化27】

【0251】
式(VI)で表わされる化合物として、更に好ましくは、下記式(VIa)、(VIb)、(VIc)で表わされる化合物が挙げられる。
【0252】
【化28】

(式(VIa)中、M4は、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。)
【0253】
【化29】

(式(VIb)中、M5は、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。)
【0254】
【化30】

(式(VIc)中、M6は、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、jは、0、1又は2を表わし、環A1及び環A1′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2及び環A2′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。)
【0255】
上記式(VIa)〜(VIc)において、環A1及び環A1′の好ましい例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0256】
上記式(VIa)〜(VIc)において、環A2及び環A2′の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0257】
上記式(VIa)〜(VIc)で表わされる化合物が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0258】
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、又は、環A1′が有する置換基と環A2′が有する置換基とが結合することにより、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0259】
中でも、環A1、環A1′、環A2及び環A2′の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
【0260】
また、式(VIa)〜(VIc)におけるM4〜M6の好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられる。
【0261】
上記式(VI)及び(VIa)〜(VIc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない。
【0262】
【化31】

【0263】
【化32】

【0264】
【化33】

【0265】
上記式(VI)で表わされる有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL′として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
【0266】
また、国際特許公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0267】
次に、式(VII)で表わされる化合物について説明する。
式(VII)中、M7は金属を表わす。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0268】
また、式(VII)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。
【0269】
更に、Tが炭素原子の場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表わされる置換基を表わす。また、Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。
【0270】
また、R92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
更に、R92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
また、同一分子中に存在するR92同士、R93同士、R94同士及びR95同士は、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0271】
式(VII)で表わされる有機金属錯体の具体例(T−1、T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、Meはメチル基を表わし、Etはエチル基を表わす。
【0272】
【化34】

【0273】
発光材料として用いる化合物の分子量は、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。分子量が低過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を招いたりする場合がある。分子量が高過ぎると、有機化合物の精製が困難となったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする場合がある。
【0274】
なお、有機発光層5は、上に説明した各種の発光材料のうち、何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。
【0275】
低分子系の正孔輸送性化合物の例としては、前述の正孔輸送層の正孔輸送性化合物として例示した各種の化合物の他、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72-74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals, 1997年, Vol.91, pp.209)等が挙げられる。
【0276】
低分子系の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等がある。
【0277】
これら正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物は発光層においてホスト材料として使用されることが好ましいが、ホスト材料として具体的には以下のような化合物を使用することができる。
【0278】
【化35】

【0279】
有機発光層5の形成法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、上述したように、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点、更には、本発明の有機化合物による正孔輸送層4の不溶化の効果を享受できる点から、低分子系の材料を用いて湿式成膜法で有機発光層5を形成することが好ましい。湿式成膜法により有機発光層5を形成する場合、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて有機発光層用組成物(有機発光層5を構成する成分を含有する組成物。塗布溶液ともいう)を調製し、それを上述の形成後の正孔輸送層4の上に塗布・成膜し、乾燥して溶剤を除去することにより形成する。その形成方法としては、前記正孔輸送層の形成方法と同様である。
【0280】
有機発光層5の厚さは制限されないが、通常5nm以上、好ましくは20nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは100nm以下の範囲が望ましい。有機発光層5が薄過ぎると発光効率が低下したり、寿命が短くなる場合があり、厚過ぎると素子の電圧が高くなる場合がある。
【0281】
なお、有機発光層5は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0282】
〔II−7.正孔阻止層〕
有機発光層5の上には、正孔阻止層6が形成される。
正孔阻止層6は、有機発光層5の上に、有機発光層5の陰極8側の界面に接するように積層されるが、陽極2から移動してくる正孔が陰極8に到達するのを阻止する役割と、陰極8から注入された電子を効率よく有機発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0283】
正孔阻止層6を構成する材料(正孔阻止材料)に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0284】
このような条件を満たす正孔阻止材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)が挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止材料として好ましい。
【0285】
正孔阻止材料の具体例としては、以下に挙げる構造の化合物が挙げられる。
【0286】
【化36】

【0287】
これらの正孔阻止材料は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0288】
正孔阻止層6も、正孔注入層3や有機発光層5と同様、湿式成膜法を用いて形成することもできるが、通常は真空蒸着法により形成される。真空蒸着法の手順の詳細は、後述の電子注入層7の場合と同様である。
【0289】
正孔阻止層6の厚さは制限されないが、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下の範囲が望ましい。正孔阻止層6が薄過ぎると正孔阻止能力不足による発光効率の低下が生じる場合があり、厚過ぎると素子の電圧が高くなる場合がある。
【0290】
なお、正孔阻止層6は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0291】
〔II−8.電子注入層〕
正孔阻止層6の上には、電子注入層7が形成される。
電子注入層7は、陰極8から注入された電子を効率良く有機発光層5へ注入する役割を果たす。
【0292】
電子注入を効率よく行なうために、電子注入層7を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。
この場合、電子注入層7の厚さは、通常0.1nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常5nm以下、好ましくは2nm以下の範囲が望ましい。
【0293】
更に、後述するバソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。
この場合、電子注入層7の厚さは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲が望ましい。
【0294】
これらの電子注入層7の材料は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0295】
電子注入層7は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、正孔阻止層6上に積層することにより形成される。
【0296】
湿式成膜法の詳細は、上述の正孔注入層3及び有機発光層5の場合と同様である。
一方、真空蒸着法の場合には、真空容器内に設置されたるつぼ又は金属ボートに蒸着源を入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、るつぼ又は金属ボートを加熱して蒸発させ、るつぼ又は金属ボートと向き合って置かれた基板1上の正孔阻止層6上に電子注入層7を形成する。
【0297】
電子注入層7としてのアルカリ金属の蒸着は、クロム酸アルカリ金属と還元剤をニクロムに充填したアルカリ金属ディスペンサーを用いて行なう。このディスペンサーを真空容器内で加熱することにより、クロム酸アルカリ金属が還元されてアルカリ金属が蒸発される。
【0298】
有機電子輸送材料とアルカリ金属とを共蒸着する場合は、有機電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、各々のるつぼ及びディスペンサーを同時に加熱して蒸発させ、るつぼ及びディスペンサーと向き合って置かれた基板上に電子注入層7を形成する。
このとき、通常は電子注入層7の膜厚方向において均一に共蒸着されるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。
【0299】
なお、電子注入層7は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0300】
〔II−9.陰極〕
電子注入層7の上には、陰極8が形成される。
陰極8は、有機発光層5側の層(電子注入層7又は有機発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。
【0301】
陰極8の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましい。仕事関数の低い金属の例としては、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等、又はそれらの合金が挙げられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等が挙げられる。
これらの陰極8の材料は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0302】
陰極8の厚さは制限されないが、通常は陽極2と同様である。
なお、陰極8は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0303】
〔II−10.その他〕
以上、本発明の有機デバイス及び本発明の製造方法の詳細について、図1に示す有機電界発光素子100を例として説明したが、本発明の有機デバイス及び本発明の製造方法の詳細は、上記説明によって限定されるものではない。
【0304】
例えば、本発明の有機デバイスが有機電界発光素子である場合、その構成は、図1に示す有機電界発光素子100の構成に制限されるものではなく、有機電界発光素子100の構成に対して任意の変更を加えたものであってもよい。
変更の例としては、有機電界発光素子100が有する各層の積層順の変更や、一又は二以上の層の省略、一又は二以上の層の付加等が挙げられる。
【0305】
積層順の異なる構成の例としては、基板1に対し他の各層を有機電界発光素子100とは逆の順に積層した構成、即ち、基板1上に陰極8、電子注入層7、正孔阻止層6、有機発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3及び陽極2をこの順に積層した構成等が挙げられる。
【0306】
一部の層を省略した構成の例としては、正孔阻止層6を省略し、有機発光層5と電子注入層7とを隣接して設けた構成等が挙げられる。
【0307】
別の層を付加した構成の例としては、正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極2への付着力を改善させる目的で、陽極2と正孔注入層3との間に陽極バッファ層を設けた構成や、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、陰極8の上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層(例えばアルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等からなる層)を設けた構成等が挙げられる。
【0308】
また、本発明の有機デバイスは、有機電界発光素子に制限されず、その他の有機デバイスであってもよい。その他の有機デバイスの例としては、上述したように、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機発光トランジスタ、有機磁性デバイス、有機ダイオード、有機アクチュエーター(モーター等)、有機センサー(圧力、温度、湿度センサー等)等が挙げられる。何れの有機デバイスであっても、基板上の陽極と陰極との間に配置された複数の有機層のうち隣接する2層が、重合性化合物を重合して形成される層(第1の層)、及び、重合反応開始剤を含有する層(第2の層)として形成されていればよい。
【0309】
また、本発明の製造方法も、図1の有機電界発光素子100について詳述した方法に制限されない。少なくとも、上述の(1)正孔注入層用組成物成膜工程、(2)正孔輸送層用組成物成膜工程、(3)重合工程を備えてさえいれば、その他は製造対象となる本発明の有機デバイスの構成に応じて、適宜変更を加えて実施することが可能である。
【実施例】
【0310】
以下、本発明について、実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0311】
[実施例1]
17.5mm×35mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0312】
このガラス基板上に、重合反応開始剤を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、正孔輸送剤として、下記式P−1に示す構造の芳香族アミノ基を有する高分子化合物(重量平均分子量:29400、数平均分子量:12600。以下「化合物(P−1)」という。)と、電子受容性化合物兼重合反応開始剤として、下記式A−1に示す構造の化合物(以下「化合物(A−1)」という。)とを含有する塗布液(組成物)を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0313】
【化37】

【0314】
【化38】

【0315】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
塗布液溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×3時間
【0316】
上記のスピンコートにより、膜厚30nmの均一な薄膜(重合反応開始剤を含有する層)が形成された。
【0317】
続いて、上記薄膜(重合反応開始剤を含有する層)上に、重合性化合物を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、重合性化合物として、下記式H−1に示す構造の化合物(以下「化合物(H−1)」という。)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0318】
【化39】

【0319】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−1) 2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0320】
得られたスピンコート膜に対し、大気中、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した。その後、大気中200℃で1時間加熱することにより、2層の合計の厚さが60nmの均一な積層薄膜(重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜)を得た。
【0321】
この積層薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中、23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、60nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0322】
[実施例2]
重合反応開始剤を含有する層の形成時に、スピンコート膜に対し、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した後、大気
中180℃で1時間加熱したこと以外は、実施例1と同様の条件により、2層の合計の厚さが60nmの均一な積層薄膜(重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜)を得た。
【0323】
この積層薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、60nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0324】
[実施例3]
重合反応開始剤を含有する層の形成時に、スピンコート膜に対し、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した後、大気中150℃で1時間加熱したこと以外は、実施例1と同様の条件により、2層の合計の厚さが60nmの均一な積層薄膜(重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜)を得た。
【0325】
この積層薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、60nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0326】
[比較例1]
17.5mm×35mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0327】
このガラス基板上に、重合性化合物を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、重合性化合物として上記化合物(H−1)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0328】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−1) 2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0329】
得られたスピンコート膜を大気中、200℃で1時間加熱することにより、膜厚30nmの均一な薄膜(重合性化合物を含有する層)を得た。
【0330】
この薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、0nmであり、全ての膜が溶解したことが明らかになった。
【0331】
[参考例1]
17.5mm×35mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0332】
このガラス基板上に、重合性化合物及び重合反応開始剤を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、重合性化合物として上記化合物(H−1)と、重合反応開始剤としてチバ・スペシャリティ・ケミカル製イルガキュア651とを含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0333】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−1) 1.9重量%
イルガキュア651 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0334】
得られたスピンコート膜に対し、大気中、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した。その後、大気中180℃で1時間加熱することにより、膜厚30nmの均一な薄膜(重合性化合物及び重合反応開始剤を含有する層)を得た。
【0335】
この薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、30nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0336】
[参考例2]
重合性化合物及び重合反応開始剤を含有する層の形成時に、スピンコート膜に対し、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した後大気中150℃で1時間加熱したこと以外は、後述する比較例2と同様の条件により、膜厚30nmの均一な薄膜(重合性化合物及び重合反応開始剤を含有する層)を得た。
【0337】
この薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ30nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0338】
[結果]
以上の結果から、重合反応開始剤を含む層と重合性化合物を含む層が隣接するように層を形成した実施例1〜3では、重合反応開始剤と重合性化合物の両者を含む層を形成した参考例1,2と同等の、重合反応による膜の耐溶剤性向上効果が得られることが明らかとなった。
【0339】
[実施例4]
重合性化合物を含有する層の形成条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様の条件により、重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜を得た。
【0340】
即ち、重合性化合物として、下記式H−2に示す構造の化合物(以下「化合物(H−2)」という。)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0341】
【化40】

【0342】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−2) 2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0343】
得られたスピンコート膜に対し、大気中、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で2J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した。その後、大気中150℃で1時間加熱することにより、2層の合計の厚さが69nmの均一な積層薄膜(重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜)を得た。
【0344】
この積層薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ69nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0345】
[実施例5]
17.5mm×35mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0346】
このガラス基板上に、重合反応開始剤を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、正孔輸送剤として上記化合物(P−1)、重合反応開始剤として上記化合物(A−1)、及び、重合反応開始剤としてチバ・スペシャリティ・ケミカル製イルガキュア651を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0347】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
塗布液溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
イルガキュア651 0.2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×3時間
【0348】
上記のスピンコートにより、膜厚30nmの均一な薄膜(重合反応開始剤を含有する層)が形成された。
【0349】
次いで、上記薄膜(重合反応開始剤を含有する層)上に、重合性化合物を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、重合性化合物として、上記化合物(H−2)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0350】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−2) 2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0351】
得られたスピンコート膜に対し、大気中、高圧水銀ランプを用いて、UV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した。その後、大気中180℃で1時間加熱することにより、2層の合計の厚さが69nmの均一な積層薄膜(重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜)を得た。
【0352】
この積層薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、69nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0353】
[参考例3]
17.5mm×35mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0354】
このガラス基板上に、重合性化合物及び重合反応開始剤を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、重合性化合物として上記化合物(H−2)と、重合反応開始剤としてチバ・スペシャリティ・ケミカル製イルガキュア651とを含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0355】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−2) 1.9重量%
イルガキュア651 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0356】
得られたスピンコート膜に対し、大気中、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した。その後、大気中180℃で1時間加熱することにより、膜厚39nmの均一な薄膜(重合性化合物及び重合反応開始剤を含有する層)を得た。
【0357】
この薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、30nmであった。このようにして、生成した膜がキシレンに対し溶解せず、化学的安定性が向上していることが確認された。
【0358】
[結果]
以上の結果から、重合反応開始剤を含む層と重合性化合物を含む層とを隣接するように積層形成した実施例4及び実施例5では、重合反応開始剤と重合性化合物の両者を含む層を形成した参考例3と同等の、重合反応による膜の耐溶剤性向上効果が得られることが明らかとなった。
【0359】
[実施例6]
図3に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品;シート抵抗15Ω)を、通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして、陽極2を形成した。
【0360】
この陽極2をパターン形成したITO基板1を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0361】
この陽極2上に、正孔注入層3を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
正孔注入層3の材料として、上記化合物(P−1)及び上記化合物(A−1)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0362】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
塗布液溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×3時間
【0363】
上記のスピンコートにより、陽極2上に、膜厚30nmの均一な薄膜(正孔注入層3)が形成された。
【0364】
続いて、この正孔注入層3上に正孔輸送層4を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
正孔輸送層4の材料として、上記化合物(H−2)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0365】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−2) 1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0366】
得られたスピンコート膜を窒素グローブボックス中、200℃で1時間加熱することにより、膜厚18nmの均一な薄膜(正孔輸送層4)を得た。
【0367】
続いて、この正孔輸送層4上に発光層5を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
発光層5の材料として、下記式E−1及び式E−1に示す構造の化合物(それぞれ以下「化合物(E−1)」及び「化合物(E−2)」という。)と、下記式D−1に示す構造のイリジウム錯体(以下「化合物(D−1)」という。)とを含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0368】
【化41】

【0369】
【化42】

【0370】
【化43】

【0371】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(E−1) 1.0重量%
化合物(E−2) 1.0重量%
化合物(D−1) 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 130℃×60分(減圧下)
【0372】
上記のスピンコートにより、膜厚40nmの均一な薄膜(発光層5)が形成された。
【0373】
上述の発光層5までの各層を成膜した基板を、窒素グローブボックスに連結されたマルチチャンバー型真空蒸着装置の有機層蒸着チャンバー内に、大気に曝すことなく搬入し、装置内を真空度3.8×10-5Paまで排気した後、正孔阻止層6及び電子輸送層9を以下の手順で真空蒸着法により成膜した。
【0374】
即ち、上述の発光層5上に、下記式HB−1に示す構造のピリジン誘導体(以下「化合物(HB−1)」という)を、蒸着速度0.07〜0.1nm/秒で5nmの膜厚となるように積層し、正孔阻止層6を形成した。蒸着時の真空度は3.5×10-5Paであった。
【0375】
【化44】

【0376】
続いて、正孔阻止層6の上に、下記式ET−1に示す構造のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(以下「化合物(ET−1)」という)を、同様に蒸着することにより、電子輸送層9を形成した。蒸着時の真空度は3.1〜3.2×10-5Pa、蒸着速度は0.09〜0.11nm/秒、膜厚は30nmとした。
【0377】
【化45】

【0378】
上記の正孔阻止層6及び電子輸送層9を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0379】
ここで、電子輸送層9までの各層を形成した素子を、上述のマルチチャンバー型真空蒸着装置の有機層蒸着チャンバーから金属蒸着チャンバーへと真空中で搬送し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、装置内の真空度が4.0×10-5Pa以下になるまで排気した後、電子注入層7と陰極8からなる2層型陰極を、以下の手順で真空蒸着法により形成した。
【0380】
先ず、電子輸送層9上に、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.015〜0.014nm/秒、真空度4.9〜5.2×10-5Paで、0.5nmの膜厚となるように成膜し、電子注入層7を形成した。
【0381】
次に、電子注入層7上に、アルミニウムを、同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.1〜1.3nm/秒、真空度7.5〜9.1×10-5Paで、膜厚85nmとなるように成膜し、陰極8を完成させた。
以上の2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0382】
陰極8までの各層を形成して得られた素子を、窒素雰囲気中で、外周部に紫外線硬化性樹脂(スリーボンド社製FPD用シール剤3124)を幅約1mmで塗布し中心に吸湿剤(ダイニック社製有機EL用水分ゲッター剤HD−S050914W−40)を貼付したガラス板と、吸湿剤貼付面及び素子蒸着面がそれぞれ内側になるように貼り合わせた。その後、紫外線硬化性樹脂塗布部周辺にのみ紫外光を照射して樹脂を硬化させた。
【0383】
以上の手順により、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子(実施例6の素子)が得られた。
【0384】
この実施例6の素子に、電流密度250mA/cm2の直流を連続通電したところ、通電開始時に30080cd/m2、通電20秒後に24470cd/m2の緑色発光を示した。
【0385】
また、実施例6の素子の発光スペクトルを測定したところ、その極大波長は513nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。
【0386】
また、実施例6の素子の色度はCIE(x,y)=(0.31,0.62)であった。
【0387】
[比較例2]
正孔輸送層4を以下に示す方法で成膜した他は、実施例6と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0388】
実施例6と同様の方法で正孔注入層3を成膜したITO基板上に、重合性化合物として化合物(H−2)、及び、重合反応開始剤としてチバ・スペシャリティ・ケミカル製イルガキュア651を含有する塗布液を用い、以下の手順で湿式成膜法によりスピンコートを行なった。
【0389】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素グローブボックス中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(H−2) 0.95重量%
イルガキュア651 0.05重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0390】
得られたスピンコート膜に対し、窒素グローブボックス中、高圧水銀ランプを用いてUV光を積算光量で5J/cm2(365nm光のエネルギー値)照射した。その後、大気中、120℃で1時間加熱することにより、膜厚18nmの均一な薄膜(正孔注入層3)を得た。
【0391】
以上の手順により、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子(比較例2の素子)が得られた。
【0392】
この実施例6の素子に、電流密度250mA/cm2の直流を連続通電したところ、通電開始時に29720cd/m2、通電20秒後に21170cd/m2の緑色発光を示した。
【0393】
また、実施例6の素子の発光スペクトルを測定したところ、その極大波長は512nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。
【0394】
また、実施例6の素子の色度はCIE(x,y)=(0.30,0.63)であった。
【0395】
[結果]
下記表1に、実施例6及び比較例2の素子の発光特性をまとめた。
【表1】

【0396】
表1から明らかなように、重合反応開始剤を含有する正孔注入層と、重合性化合物を含有する正孔輸送層を積層した実施例6の素子は、重合反応開始剤と重合性化合物の両者を含有する正孔輸送層を有する比較例2の素子よりも、連続通電時の輝度低下が少なく、より安定な素子であることが分かる。
【0397】
[実施例7]
37.5mm×25mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0398】
このガラス基板上に、重合反応開始剤を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、正孔輸送材として前記化合物(P−1)と、電子受容性化合物兼重合反応開始剤として前記化合物(A−1)とを含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0399】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
塗布液溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×3時間
【0400】
上記のスピンコートにより、膜厚30nmの均一な薄膜(重合反応開始剤を含有する層)が形成された。
【0401】
続いて、上記薄膜(重合反応開始剤を含有する層)上に、重合性化合物を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、重合性化合物として、下記構造式H−3に示す化合物(重量平均分子量100000;以下「化合物(H−3)」という。)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0402】
【化46】

【0403】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−3) 1.0重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0404】
得られたスピンコート膜に対し、窒素中200℃で1時間加熱することにより、2層の合計の厚さが80nmの均一な積層薄膜(重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜)を得た。
【0405】
この積層薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中、23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、80nmであった。このようにして、形成した膜がキシレンに対し溶解しないことが確認された。
【0406】
[比較例3]
37.5mm×25mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0407】
このガラス基板上に、重合性化合物を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、重合性化合物として化合物(H−3)を含む含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0408】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−3) 1.0重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0409】
得られたスピンコート膜に対し、窒素中200℃で1時間加熱することにより、膜厚50nmの均一な薄膜(重合性化合物を含有する層のみが積層された膜)を得た。
【0410】
この薄膜が形成された基板をスピンコーターにセットし、キシレン0.2mLを膜状に滴下し、大気中23℃で10秒間静置した。その後、1500rpm×30秒のスピンコート動作を行ない、溶剤を乾燥させた。その後、膜厚を測定したところ、30nmであり、形成された重合性化合物の膜が完全に不溶化していないことが明らかになった。
【0411】
[実施例8]
図3に示す有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板の1上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして、陽極2を形成した。
【0412】
この陽極2をパターン形成したITO基板1を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0413】
この陽極2上に、正孔注入層3を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
まず、化合物(P−1)、化合物(A−1)、重合反応開始剤として下記構造式(A−2)に示す化合物(以下「化合物(A−2)」という)、および安息香酸エチルを含有する塗布液を調製した。この塗布液を用い、下記条件で陽極2上にスピンコートを行なった。
【0414】
【化47】

【0415】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
塗布液溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
化合物(A−2) 0.2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×1時間
【0416】
上記のスピンコートにより、陽極2上に、膜厚30nmの均一な薄膜(正孔注入層3)が形成された。
【0417】
続いて、この正孔注入層3上に正孔輸送層4を、以下の手順で湿式成膜方により形成した。
正孔輸送層4の材料として、以下の構造式(H−4)に示す有機化合物(重量平均分子量91700;以下「化合物(H−4)」という)を含有する塗布液を調製した。この塗布液を用い、以下の条件でスピンコートを行なった。
【0418】
【化48】

【0419】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−4) 0.4重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
【0420】
得られたスピンコート膜を窒素中、200℃で1時間加熱することにより、膜厚20nmの均一な薄膜(正孔輸送層4)を得た。
【0421】
続いて、この正孔輸送層4上に発光層5を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
発光層5の材料として前記の化合物(E−1)、化合物(E−2)及び化合物(D−1)を用いて塗布液を調製した。この塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0422】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 キシレン
塗布液濃度 化合物(E−1) 1.8重量%
化合物(E−2) 0.2重量%
化合物(D−1) 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 130℃×1時間
【0423】
上記のスピンコートにより、膜厚40nmの均一な薄膜(発光層5)が形成された。
【0424】
上述の発光層5までの各層を成膜した基板を真空蒸着装置内に移し、油回転ポンプにより装置の粗排気を行った後、装置内の真空度が2.4×10-4Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した後、前記の化合物(HB−1)を、蒸着速度0.7〜0.8Å/秒で5nmの膜厚となるように積層し、正孔阻止層6を形成した。蒸着時の真空度は2.4〜2.7×10-4Paであった。
【0425】
続いて、正孔阻止層6の上に、前記の化合物(ET−1)を、同様に蒸着することにより、電子輸送層9を形成した。蒸着時の真空度は0.4〜1.6×10-4Pa、蒸着速度は1.0〜1.5Å/秒、膜厚は30nmとした。
【0426】
ここで、電子輸送層9までの蒸着を行った素子を、一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置し、有機層と同様にして装置内の真空度が6.4×10-4Pa以下になるまで排気した。
【0427】
先ず、電子輸送層9上に、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.1〜0.4Å/秒、真空度3.2〜6.7×10-4Paで、0.5nmの膜厚となるように電子輸送層9の上に成膜し、電子注入層7を形成した。
【0428】
次に、電子注入層7上に、アルミニウムを、同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.7〜5.3Å/秒、真空度2.8〜11.1×10-4Paで、膜厚80nmとなるように成膜し、陰極8を形成した。
以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0429】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂(株式会社スリーボンド製30Y−437)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック株式会社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0430】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表2に示す。
【0431】
[比較例4]
正孔輸送層4を以下に示す方法で形成した他は、実施例8と同様にして図3に示す有機電界発光素子を作製した。
【0432】
重合性基を有する化合物(H−4)、および、重合反応開始剤として下記構造式(A−3)に示す化合物(以下「化合物(A−3)」という)を含有する塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、膜厚20nmの薄膜(正孔輸送層4)を形成した。
【化49】

【0433】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−4) 0.4重量%
化合物(A−3) 0.08重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 200℃×1時間
【0434】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表2に示す。
【0435】
【表2】

【0436】
表2から明らかなように、重合反応開始剤を含有する正孔注入層と、重合性化合物を含有する正孔輸送層を積層した実施例8の有機電界発光素子は、重合性化合物と重合反応開始剤の両者を含有する正孔輸送層を積層した比較例4の素子と比較して、効率が高く、駆動時における輝度低下が小さく、より安定な素子が得られていることが分かる。
【0437】
[実施例9]
正孔注入層3を以下に示す方法で形成した他は、実施例8と同様にして図3に示す有機電界発光素子を作製した。
【0438】
化合物(P−1)、化合物(A−1)、重合反応開始剤である化合物(A−3)、および安息香酸エチルを含有する塗布液を調製し、下記の条件で陽極2上にスピンコートにより成膜して、膜厚30nmの薄膜(正孔注入層3)を形成した。
【0439】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
化合物(A−3) 0.2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×1時間
【0440】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表3に示す。
【0441】
[比較例5]
正孔輸送層4を以下のように形成したほかは、実施例9と同様にして図3に示す有機電界発光素子を作製した。
【0442】
重合性基を有する化合物(H−4)、および重合反応開始剤である化合物(A−3)を含有する塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、膜厚20nmの薄膜(正孔輸送層4)を形成した。
【0443】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−4) 0.4重量%
化合物(A−3) 0.08重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 200℃×1時間
【0444】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表3に示す。
【0445】
【表3】

【0446】
表3から明らかなように、重合反応開始剤を含有する正孔注入層と、重合性化合物を含有する正孔輸送層を積層した実施例9の有機電界発光素子は、重合性化合物と重合反応開始剤の両者を含有する正孔輸送層を積層した比較例5の素子と比較して、効率が高く、駆動時における輝度低下が小さく、より安定な素子が得られていることが分かる。
【0447】
[実施例10]
正孔注入層3を以下に示す方法で形成したほかは、実施例8と同様にして図3に示す有機電界発光素子を作製した。
【0448】
下記構造式(P−2)に示す高分子化合物(重量平均分子量46000;以下「化合物(P−2)」という)、重合反応開始剤である化合物(A−3)、および安息香酸エチルを含有する塗布液を調製し、下記の条件で陽極2上にスピンコートにより成膜して、膜厚30nmの薄膜(正孔注入層3)を得た。
【0449】
【化50】

【0450】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(P−2) 0.7重量%
化合物(A−3) 0.15重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×1時間
【0451】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表4に示す。
【0452】
[比較例6]
正孔輸送層4を以下に示す方法で形成したほかは、実施例10と同様にして図3に示す有機電界発光素子を作製した。
【0453】
重合性基を有する化合物(H−4)、および重合反応開始剤として化合物(A−3)を含有する塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、膜厚20nmの薄膜(正孔輸送層4)を形成した。
【0454】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−4) 0.4重量%
化合物(A−3) 0.08重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 200℃×1時間
【0455】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表4に示す。
【0456】
【表4】

【0457】
表4から明らかなように、重合反応開始剤を含有する正孔注入層と、重合性化合物を含有する正孔輸送層を積層した実施例10の有機電界発光素子は、重合性化合物と重合反応開始剤の両者を含有する正孔輸送層を積層した比較例6の素子と比較して、効率が高く、駆動時における輝度低下が小さく、より安定な素子が得られていることが分かる。
【0458】
[実施例11]
正孔注入層3を以下に示す方法で形成したほかは、実施例8と同様にして図3に示す有機電界発光素子を作製した。
【0459】
化合物(P−1)、化合物(A−1)、重合反応開始剤として下記構造式(A−4)に示す化合物(以下、「化合物(A−4)」という)、および安息香酸エチルを含有する塗布液を調製した。この塗布液を下記の条件で陽極2上にスピンコートにより成膜して、膜厚30nmの薄膜(正孔注入層3)を得た。
【化51】

【0460】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
化合物(A−4) 0.2重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×1時間
【0461】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表5に示す。
【0462】
[比較例7]
正孔輸送層4を以下に示す方法で形成したほかは、実施例11と同様にして図3に示す有機電界発光素子を作製した。
【0463】
重合性基を有する化合物(H−2)、および重合開始剤として化合物(A−3)を含有する塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、膜厚20nmの薄膜(正孔輸送層4)を形成した。
【0464】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−2) 0.4重量%
化合物(A−3) 0.08重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 200℃×1時間
【0465】
以上のようにして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。得られた素子の特性を表5に示す。
【0466】
【表5】

【0467】
表5から明らかなように、重合反応開始剤を含有する正孔注入層と、重合性化合物を含有する正孔輸送層を積層した実施例11の有機電界発光素子は、重合性化合物と重合反応開始剤の両者を含有する正孔輸送層を積層した比較例7の素子と比較して、同一発光輝度を与える駆動電圧が低く、かつ駆動時における輝度低下が小さくより安定な素子が得られていることが分かる。
【0468】
[実施例12]
(QA測定用試料の作製)
37.5mm×25mm(厚さ0.7mm)サイズのITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0469】
このガラス基板上に、重合反応開始剤を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
即ち、化合物(P−1)と、電子受容性化合物兼重合反応開始剤として化合物(A−1)とを含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0470】
スピンコート条件:
塗布環境 大気中
塗布液溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 化合物(P−1) 2.0重量%
化合物(A−1) 0.8重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×3時間
【0471】
上記のスピンコートにより、膜厚30nmの均一な薄膜(重合反応開始剤を含有する層)が形成された。これをQA測定用試料とする。
【0472】
(XPS測定によるQAの算出)
上記のように作製したQA測定用試料について、ULVAC−PHI社製の走査型X線光電子分光装置QUANTUM2000を用いて以下のようにXPS測定を行った。
まず、25mm×37.5mmサイズの基板の中央部10mm四方程度を裁断して切り出し、1〜2mmφの穴の開いたモリブデン製マスクを用いてQA測定用試料を試料ホルダーにセットした。測定用のX線源としてはモノクロメータを通したAlのKα線(エネルギー 1486.6eV)を用い、加速電圧は16kV、出力は34Wとして、測定を行った。
【0473】
測定されたデータについて、ULVAC−PHI社製multipak ver8.0を用いて解析を行い、炭素とフッ素の最も強いピークの面積を感度補正係数で除することで、炭素とフッ素の原子数に比例した量を求めた。この計算された化合物(P−1)の分子量(繰り返し単位を有する化合物なので繰り返し単位の分子量を用いた)と化合物(A−1)の分子量から、QA測定用試料(重合開始剤を含有する層)の表面部における化合物(P−1)の分子数(繰り返し単位の数)に対する化合物(A−1)の割合QAが44.60%と算出された。
【0474】
(QB測定用試料の作製)
QA測定用試料の薄膜(重合反応開始剤を含有する層)上に、重合性化合物を含有する層を、以下の手順で湿式成膜法により形成した。
【0475】
即ち、重合性化合物として化合物(H−3)を含有する塗布液を用い、下記の条件でスピンコートを行なった。
【0476】
スピンコート条件:
塗布環境 窒素中
溶剤 トルエン
塗布液濃度 化合物(H−3) 0.4重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×1時間
【0477】
以上により、2層の合計の厚さが50nmの均一な積層薄膜(重合反応開始剤を含有する層と重合性化合物を含有する層とが積層された薄膜)を得た。これをQB測定用試料とする。
【0478】
(XPS測定によるQBの算出)
上記のように作製したQB測定用試料について、QAの測定と同様の要領でXPS測定を行った。ただし、化合物(H−3)は複数の繰り返し単位を有する化合物のために、化合物(H−3)の分子量としては繰り返し単位の平均分子量、すなわち各繰り返し単位をその数の割合に応じて重み付けした量を用いた。この結果、QB測定用試料(重合性化合物を含有する層)の表面部における化合物(H−3)の分子数(繰り返し単位の数)に対する化合物(A−1)の割合QBが13.26%と算出された。
以上より、QB/QAの値は0.30と算出された。
【産業上の利用可能性】
【0479】
本発明の蛍光体の用途は特に制限されず、通常の蛍光体が用いられる各種の分野に使用可能であるが、近紫外光を用いて励起した場合でも高い発光強度が維持されるという特性を生かして、近紫外LED等の励起光源との組み合わせにより、長寿命且つ省エネルギーの発光装置を実現する目的に適している。
また、本発明の発光装置は、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能であるが、中でも画像表示装置や照明装置の光源としてとりわけ好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0480】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子の層構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の好ましい態様を説明するため、有機電界発光素子の層構成を部分的に示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の実施例で製造した有機電界発光素子の層構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0481】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子注入層
8 陰極
9 電子輸送層
100 有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極と、該陽極と該陰極との間に配置された複数の有機層とを備えた有機電界発光素子であって、
該複数の有機層が、重合性化合物を重合して形成される第1の層と、該第1の層に隣接して設けられる、重合反応開始剤を含有する第2の層とを少なくとも含んでなる
ことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項2】
該複数の有機層が、更に、発光層を含んでなり、
該発光層、該第1の層、該第2の層が、この順に配置される
ことを特徴とする、請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
該第1の層が正孔輸送層であり、該第2の層が正孔注入層である
ことを特徴とする、請求項2記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
該第2の層における重合反応開始剤の含有率が0.1重量%以上である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
重合性化合物を重合して形成される第1の層と、該第1の層に隣接して設けられ、重合反応開始剤を含有する第2の層とを少なくとも含む、複数の有機層を備えた有機デバイスを製造する方法において、
重合反応開始剤を含有する組成物を成膜して、該第2の層を形成する工程と、
該重合性化合物を含有する組成物を成膜して、該重合性化合物を含有する層を形成する工程と、
該重合性化合物を重合させて、該第1の層を形成する工程とを備える
ことを特徴とする、有機デバイスの製造方法。
【請求項6】
該有機デバイスが、基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極とを更に備えた、有機電界発光素子であって、
該第1の層及び該第2の層を含む該複数の有機層を、該陽極と該陰極との間に形成することを特徴とする、請求項5記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項7】
基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極と、該陽極と該陰極との間に配置された発光層と、重合性化合物を重合して形成される重合層と、該重合層に対して該発光層とは反対側で隣接するとともに重合反応開始剤を含有する隣接層とを備えた有機電界発光素子であって、
XPS法により算出した該隣接層の該重合層側表面部に含まれる該重合反応開始剤以外の成分の分子数に対する、XPS法により算出した該隣接層の該重合層側表面部に含まれる該重合反応開始剤の分子数の割合(%)(QA)と、XPS法により算出した該重合層の発光層側表面に含まれる該重合反応開始剤以外の成分の分子数に対する、XPS法により算出した該重合層の発光層側表面部に含まれる該重合反応開始剤の分子数の割合(%)(QB)との比(QB/QA)が、
QB/QA < 0.5
であることを特徴とする、有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−227483(P2008−227483A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34930(P2008−34930)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】