説明

有機顔料微粒子分散物の製造方法、これにより得られる有機顔料微粒子を用いたインクジェット記録用インク及び塗料

【課題】粒径が小さく粒径分布が狭い有機顔料微粒子を含有する、低粘度の分散物の製造方法、有機顔料微粒子を分散させる分散剤の量を低減することができ、さらには高濃度のアルカリに対して不安定な分散剤等であっても使用可能とし、適用しうる分散剤の種類を豊富化することができる有機顔料微粒子分散物の製造方法、これにより得られる有機顔料微粒子を用いたインクジェット記録用インク及び塗料の提供。
【解決手段】有機顔料をアルカリの存在下で有機溶媒に溶解した溶液、分散剤を含む溶液、および水性媒体の少なくとも3液を流路L1〜L4内に流通させ、前記少なくとも3液を流路内で同時に合流させ前記有機顔料の微粒子を生成させる有機顔料微粒子分散物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機顔料微粒子分散物の製造方法、これにより得られる有機顔料微粒子を用いたインクジェット記録用インク及び塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料は鮮明な色調と高い着色力とを示し多くの分野で広く使用されている。例えば、塗料、印刷インク、電子写真用トナー、インクジェットインク、カラーフィルタ等をその用途として挙げることができる。その中でも高性能が要求され実用上特に重要な用途として、カラーフィルタおよびインクジェットインクが挙げられる。
【0003】
カラーフィルタについては、液晶表示装置やCCDセンサー、デジタルカメラといった画像関連機器における高画素化を実現するため、近年その薄層化が強く求められている。そしてカラーフィルタを薄くするためには、そこに用いられる顔料の微細化が不可欠である。また、カラーフィルタの高コントラスト化においても、均一で微細な顔料微粒子の開発が求められる。すなわち微細で均一かつ安定な顔料微粒子の開発が画像関連機器の高性能化の鍵をにぎる。
【0004】
他方、インクジェット用インクについていうと、従来その色材に染料が用いられてきた。しかし染料は耐水性や耐光性が低く、それを改良するために顔料が用いられるようになってきている。そして、印字目的だけでなく、各種の精密部材の製造にインクジェット技術を利用することが試みられている。例えば、上記カラーフィルタの製造をはじめ、リソグラフィ等の従来技術に代替し、設計自由度を高め大幅に生産性を向上させる技術として期待されている。しかし、それに適し、十分に要求に応える顔料微粒子及びそのインクはまだない。
【0005】
そのような背景から、顔料を例えば直径数十ナノメートルにまで微細化しかつ粒径を制御して単分散に近づけることが求められている。このような粒子を一般的な粉砕法で得ることは一般に難しい。この方法で粒子をナノメートルサイズにまで粉砕するには多大な時間とエネルギーを要し、生産効率が低く、また用いうる物質も限定されてしまうからである。また粉砕法において強すぎるエネルギーをかけた場合には過分散と呼ばれる悪影響、例えば再凝集による増粘などの現象が起こることが知られている。
【0006】
これに対し粉砕によらない方法として、有機顔料の粗製物をアルカリを用いて有機溶媒に溶解して溶液とし、この溶液を分散剤や界面活性剤の存在下で水と、フラスコ等の槽中で、混合して微粒子分散物を得る手法が開発された(特許文献1、2、3参照)。この手法によれば粒子形成時に粒径を制御できるため、粉砕操作を経ることなく顔料微粒子の分散物を得ることができる。さらに、マイクロリアクターを用い、有機顔料を溶解させたアルカリ性もしく酸性の溶液と水性媒体との少なくとも一方に重合性化合物を含有させ、これら両者を混合して顔料微粒子を析出させた後、前記重合性化合物を重合する顔料分散液の製造方法が開発された。これにより、小粒径かつ単分散性の良好な分散液が得られることが報告されている(特許文献4)。
【0007】
しかし上記特許文献1〜4においては、いずれも分散剤等を有機顔料を溶解した有機溶媒溶液及び水性媒体のいずれかに溶解させる。そのため、分散剤を溶解させる溶媒を自由に選択することができない。すなわち、有機顔料の溶解性やその微粒子の析出性等を考慮して溶媒が選定されるため、分散剤の溶解性の点で必ずしも好ましい溶媒の種類とはならない。例えば、アルカリの存在下で有機顔料溶液を溶解させる場合には、アルカリに対して不安定な分散剤であるエステル基などを有する化合物を用いることは難しい。特にアルカリとして金属水酸化物や金属アルコキシドなどの強塩基を用いる条件では、分散剤が分解したり変性したりすることがある。一方、水性媒体に分散剤を溶解させる方法においては、通常使用可能な分散剤は水に溶解性を有するものに限られる。また、顔料と分散剤が共存しない状態から顔料微粒子を析出させ、水性媒体中の分散剤と混合接触させるものであり、原理的に分散性の付与の点で不利な手法といえる。その結果、通常、粒径が制御できずに粗大化する、あるいは分散剤が多量に必要になることがあった。
【0008】
また、良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶しかつ前記有機材料に対して貧溶媒となる溶媒と、高分子分散剤を含有させた溶液との少なくとも3種同時もしくは逐次に混合し、その混合液中に前記有機材料を粒子として生成させる有機粒子の製造方法がある(特許文献5参照)。しかし、ここでの液体混合は、槽中での撹拌混合であり、微粒子析出条件の精密な制御は難しい。
【0009】
ところで、アルカリ性溶液を含む流体と、顔料及び該顔料を溶解する酸を含む流体と、さらに前記2つの流体との間に、顔料が析出可能な流体を送液し、3層の層流を生じせしめることにより、前記顔料を再結晶化させることを特徴とするアシッドペースティング処理方法が開示されている(特許文献6参照)。しかし該発明は顔料を溶解した酸とアルカリを混合する際に生じる発熱を緩和する目的で中間層に水を挟む方法であり、分散剤の添加については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−255964号公報
【特許文献2】特開2003−113341号公報
【特許文献3】特開2004−43776号公報
【特許文献4】特開2007−39643号公報
【特許文献5】国際公開WO/2007/013599号パンフレット
【特許文献6】特開2005−206666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、粒径が小さく粒径分布が狭い有機顔料微粒子を含有する、低粘度の分散物の製造方法の提供を目的とする。また、有機顔料微粒子を分散させる分散剤の量を低減することができ、さらには高濃度のアルカリに対して不安定な分散剤等であっても使用可能とし、適用しうる分散剤の種類を豊富化することができる有機顔料微粒子分散物の製造方法、これにより得られる有機顔料微粒子を用いたインクジェット記録用インク及び塗料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記の目的は以下の手段により達成された。
(1)有機顔料をアルカリの存在下で有機溶媒に溶解した溶液、分散剤を含む溶液、および水性媒体の少なくとも3液を流路内に流通させ、前記少なくとも3液を流路内で同時に合流させ前記有機顔料の微粒子を生成させることを特徴とする有機顔料微粒子分散物の製造方法。
(2)前記分散剤を含む溶液が有機溶媒を主成分とする媒体に該分散剤を溶解した溶液であることを特徴とする(1)項に記載の製造方法。
(3)前記少なくとも3液の同時合流の後、前記分散剤を含む溶液が前記有機顔料溶液と水性媒体との間に介在流通されるよう、層流を形成させることを特徴とする(1)又は(2)項に記載の製造方法。
(4)分散物中の前記分散剤の質量が、前記有機顔料の質量に対して0.5倍以下となるようにすることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(5)前記少なくとも3液の同時合流を、等価直径が2mm以下の流路部位を有するマイクロリアクター装置内で行うことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
(6)前記少なくとも3液の同時合流部もしくはその後の流路の等価直径が2mm以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製造方法。
(7)前記分散剤として、エステル基を有する化合物を1種以上用いることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の製造方法。
(8)前記分散剤として界面活性剤を1種以上使用することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の製造方法。
(9)前記有機顔料微粒子の体積平均粒径(Mv)が10nm以上50nm以下である(1)〜(8)のいずれか1項に記載の製造方法
(10)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の製造方法で得られた水性分散物中の前記有機顔料微粒子と、前記分散剤と、インク媒体とを含有するインクジェット記録用インク。
(11)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の製造方法で得られた水性分散物中の前記有機顔料微粒子と、前記分散剤と、ビヒクルとを含有する塗料。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、少量の分散剤で粒径が小さく粒径分布が狭い有機顔料微粒子を含有する分散物を得ることができ、その分散液を低粘度に維持することができる。また本発明によれば、使用可能な分散剤の種類の範囲を広げ、例えば顔料溶液中で高濃度のアルカリと共存することにより変性や分解してしまうような不安定な分散剤の使用を可能にする。また、上記の優れた特性を有する有機顔料微粒子を用いたインクジェット記録用インク及び塗料は吐出性ないし塗装性がよく、鮮やかで輝きのある良好な色みを呈する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法に好適に使用される製造装置の一実施態様を示す装置構成図である。
【図2】図1に示した装置のマイクロリアクター内において流体が合流するときの状態を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
【0016】
本発明の有機顔料分散物の製造方法は、有機顔料をアルカリを用いて溶解した溶液(以下「顔料溶液」ともいう。)、分散剤を含む溶液(以下「分散剤溶液」ともいう。)、水性媒体の少なくとも3液をそれぞれ流路内に流通させ、流路内で前記少なくとも3液を同時に合流させる工程を含む。このようにすることで、有機顔料の微粒子を少なくとも3液の合流の直後に生成させることができ、粒子径が極めて小さく粒径分布の狭い有機顔料微粒子の分散物を効率的かつ純度良く得ることができる。本発明において複数の液の同時合流とは、各液が別々の空間にある状態から、該各液のすべてが隔壁の無い同一空間に導入されるまでの時間が0.5秒以内であると定義する。
【0017】
本発明の製造方法で得られる有機顔料微粒子の数平均粒径は100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、10nm以上50nm以下であることが特に好ましい。単分散性については、その指標である体積平均粒径(Mv)を個数平均粒径(Mn)で除した値(Mv/Mn)を用い、その値が1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.20以上1.40以下であることが特に好ましい。
【0018】
なお本発明方法において目的とする「分散物」とは、微粒子を媒体に分散させた組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。
【0019】
本発明の製造方法により得られる有機顔料微粒子分散物において、有機顔料微粒子の含有率は特に限定されないが、分散物中0.1質量%〜50質量%であることが好ましく、0.5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
【0020】
本発明の製造方法に用いられる有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、マゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料であることができる。詳しくは、例えば、ペリレン有機顔料、ペリノン有機顔料、キナクリドン有機顔料、キナクリドンキノン有機顔料、アントラキノン有機顔料、アントアントロン有機顔料、ベンズイミダゾロン有機顔料、ジスアゾ縮合有機顔料、ジスアゾ有機顔料、アゾ有機顔料、インダントロン有機顔料、フタロシアニン有機顔料、トリアリールカルボニウム有機顔料、ジオキサジン有機顔料、アミノアントラキノン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、チオインジゴ有機顔料、イソインドリン有機顔料、イソインドリノン有機顔料、ピラントロン有機顔料、またはイソビオラントロン有機顔料またはそれらの混合物などのマゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料である。
【0021】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド190(C.I.番号71140)、C.I.ピグメントレッド224(C.I.番号71127)、C.I.ピグメントバイオレット29(C.I.番号71129)等のペリレン有機顔料、C.I.ピグメントオレンジ43(C.I.番号71105)、もしくはC.I.ピグメントレッド194(C.I.番号71100)等のペリノン有機顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(C.I.番号73900)、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122(C.I.番号73915)、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202(C.I.番号73907)、C.I.ピグメントレッド207(C.I.番号73900、73906)、もしくはC.I.ピグメントレッド209(C.I.番号73905)等のキナクリドン有機顔料、C.I.ピグメントレッド206(C.I.番号73900/73920)、C.I.ピグメントオレンジ48(C.I.番号73900/73920)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49(C.I.番号73900/73920)等のキナクリドンキノン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー147(C.I.番号60645)等のアントラキノン有機顔料、C.I.ピグメントレッド168(C.I.番号59300)等のアントアントロン有機顔料、C.I.ピグメントブラウン25(C.I.番号12510)、C.I.ピグメントバイオレット32(C.I.番号12517)、C.I.ピグメントイエロー180(C.I.番号21290)、C.I.ピグメントイエロー181(C.I.番号11777)、C.I.ピグメントオレンジ62(C.I.番号11775)、もしくはC.I.ピグメントレッド185(C.I.番号12516)等のベンズイミダゾロン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー93(C.I.番号20710)、C.I.ピグメントイエロー94(C.I.番号20038)、C.I.ピグメントイエロー95(C.I.番号20034)、C.I.ピグメントイエロー128(C.I.番号20037)、C.I.ピグメントイエロー166(C.I.番号20035)、C.I.ピグメントオレンジ34(C.I.番号21115)、C.I.ピグメントオレンジ13(C.I.番号21110)、C.I.ピグメントオレンジ31(C.I.番号20050)、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166(C.I.番号20730)、C.I.ピグメントレッド220(C.I.番号20055)、C.I.ピグメントレッド221(C.I.番号20065)、C.I.ピグメントレッド242(C.I.番号20067)、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23(C.I.番号20060)等のジスアゾ縮合有機顔料、C.I.ピグメントイエロー13(C.I.番号21100)、C.I.ピグメントイエロー83(C.I.番号21108)、もしくはC.I.ピグメントイエロー188(C.I.番号21094)等のジスアゾ有機顔料、C.I.ピグメントレッド187(C.I.番号12486)、C.I.ピグメントレッド170(C.I.番号12475)、C.I.ピグメントイエロー74(C.I.番号11714)、C.I.ピグメントレッド48(C.I.番号15865)、C.I.ピグメントレッド53(C.I.番号15585)、C.I.ピグメントオレンジ64(C.I.番号12760)、もしくはC.I.ピグメントレッド247(C.I.番号15915)等のアゾ有機顔料、C.I.ピグメントブルー60(C.I.番号69800)等のインダントロン有機顔料、C.I.ピグメントグリーン7(C.I.番号74260)、C.I.ピグメントグリーン36(C.I.番号74265)、ピグメントグリーン37(C.I.番号74255)、ピグメントブルー16(C.I.番号74100)、C.I.ピグメントブルー75(C.I.番号74160:2)、もしくは15(C.I.番号74160)等のフタロシアニン有機顔料、C.I.ピグメントブルー56(C.I.番号42800)、もしくはC.I.ピグメントブルー61(C.I.番号42765:1)等のトリアリールカルボニウム有機顔料、C.I.ピグメントバイオレット23(C.I.番号51319)、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37(C.I.番号51345)等のジオキサジン有機顔料、C.I.ピグメントレッド177(C.I.番号65300)等のアミノアントラキノン有機顔料、C.I.ピグメントレッド254(C.I.番号56110)、C.I.ピグメントレッド255(C.I.番号561050)、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272(C.I.番号561150)、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール有機顔料、C.I.ピグメントレッド88(C.I.番号73312)等のチオインジゴ有機顔料、C.I.ピグメントイエロー139(C.I.番号56298)、C.I.ピグメントオレンジ66(C.I.番号48210)等のイソインドリン有機顔料、C.I.ピグメントイエロー109(C.I.番号56284)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61(C.I.番号11295)等のイソインドリノン有機顔料、C.I.ピグメントオレンジ40(C.I.番号59700)、もしくはC.I.ピグメントレッド216(C.I.番号59710)等のピラントロン有機顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31(60010)等のイソビオラントロン有機顔料である。
【0022】
好ましい顔料は、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合顔料、またはフタロシアニン有機顔料であり、特に好ましくはキナクリドン、ジスアゾ縮合顔料、またはフタロシアニン有機顔料である。
【0023】
本発明の有機顔料分散物の製造方法において、有機顔料溶液は均一に溶解した溶液を流路に投入することが好ましい。顔料粒子や固体のアルカリや塩を含む液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広い顔料微粒子になったりし、流路を閉塞する場合がある。本発明において、「均一に溶解」とは、可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない状態をさし、その溶液は1μm以下のミクロフィルターを通して得られる溶液、または1μmのフィルターを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液をいう。
【0024】
上記有機顔料溶解を調製する際に用いる有機顔料を溶解する有機溶媒(以下、この有機顔料の溶解に用いる有機溶媒を「良溶媒」ということがある。)は特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール化合物溶媒、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル化合物溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル化合物溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のアミド化合物溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ化合物溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸化合物溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸化合物溶媒が挙げられる。これらの溶媒を2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
なかでも良溶媒としては、アミド化合物溶媒または含イオウ化合物溶媒が好ましく、含イオウ化合物溶媒がより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)が特に好ましい。
【0026】
本発明の製造方法においては、有機顔料をアルカリの存在下で有機溶媒(良溶媒)に溶解する。このときに用いられるアルカリ(塩基)は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化バリウムなどの無機塩基が挙げられ、またはトリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシド(NaOCH3、KOC25)などの有機塩基が挙げられ、好ましくは無機塩基である。
【0027】
使用されるアルカリ(塩基)の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、無機塩基の場合、好ましくは顔料に対して1.0〜30モル当量であり、より好ましくは2.0〜25モル当量であり、特に好ましくは3.0〜20モル当量である。有機塩基の場合は好ましくは顔料に対して1.0〜100モル当量であり、より好ましくは1.0〜30モル当量であり、さらに好ましくは1.0〜10モル当量である。添加される塩基の顔料溶液に対する濃度も特に限定されないが、0.01モル/L〜10モル/Lであることが好ましく、0.1モル/L〜2モル/Lであることがより好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において顔料溶液における有機顔料の濃度は特に限定されないが、0.5〜20質量%であることが好ましく、1.0〜10質量%がより好ましい。
【0029】
本発明において水性媒体とは水単独または水と水に可溶な有機溶媒との混合溶媒をいう。
水性媒体に用いられる有機溶媒は、例えば顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみでは不十分な場合、層流の形成に必要な場合などに用いることが好ましい。水性媒体には水溶性の無機塩や酸、アルカリなどが含まれていてもよい。pHは10以下であることが好ましく、3〜9であることがより好ましく、6〜8であることが特に好ましい。
【0030】
顔料溶液及び水性媒体に分散剤を含有させてもよいが、上述のように顔料溶液には強塩基等が添加されているため分散剤を含有させないことが好ましい。あるいは、顔料溶液に該強アルカリ環境下でも変性等しにくい分散剤ないし界面活性剤を含有させ、分散剤溶液にそれ以外の分散剤を含有させ、適宜その特性や制約に応じた複数の分散剤ないし界面活性剤を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明の有機顔料分散物の製造方法においては、分散剤を1種以上溶解した分散剤溶液を用いる。この分散剤の種類はとくに限定されず、高分子分散剤、界面活性剤(アニオン性、カチオン性、ノニオン性に分類され、いずれも使用できる)もしくは顔料性分散剤を適宜用いることができ、これらを併用してもよい。このうち高分子分散剤またはアニオン性界面活性剤を1種以上使用することが好ましい。分散剤は(1)析出した顔料表面に素早く吸着して、微細な顔料粒子を形成し、かつ(2)これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0032】
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。
なかでも好ましく使用される高分子分散剤はアクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物である。
【0033】
アニオン性界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸塩、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。
このうちエステル構造を有するジアルキルスルホコハク酸塩(例えばジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムなど)が特に好ましい。これらアニオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
カチオン性界面活性剤には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
両イオン性界面活性剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
【0036】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
顔料性分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤と定義する。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
【0038】
本発明の製造方法においては、前記分散剤としてエステル基を有する化合物の1種以上を分散剤溶液に含有させることが好ましい。一方、これを顔料溶液に含有させないことが好ましい。
分散剤溶液において、分散剤を溶解する溶媒は、有機溶媒を主成分とする媒体であることが好ましく、水溶性有機溶媒を主成分とすることがより好ましい。この分散溶液用有機溶媒は特に限定されないが、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アルコール類(炭素数4以下が好ましく、例えばメタノール、エタノール)、アセトン、テトラヒドロフランが挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法において、分散剤溶液にはアルカリを含有させないことが好ましい。分散溶液における分散剤の濃度は特に限定されないが、本発明の製造方法で得られる分散物中の前記分散剤の質量が、前記有機顔料の質量に対して0.5倍以下となるようにすることが好ましく、0.1〜0.5倍となるようにすることが好ましい。具体的な分散剤溶液の分散剤濃度としては、例えば5〜50質量%とすることができる。
【0040】
本発明では顔料微粒子分散物を得た後に、分散液内で重合性化合物を重合して重合物を生成させてもよい。この手法により顔料微粒子を一様にポリマーで覆い分散安定性や長期保存安定性が向上する効果が期待できる。重合性化合物は水溶性、疎水性のいずれも用いることができる。重合性化合物は顔料溶液、分散剤溶液、水性媒体のいずれに含有させてもよく、顔料微粒子を生成させた後に添加してもよい。
【0041】
分散液中で重合物を得る手法としては、炭素二重結合(C=C)を有する化合物をラジカル重合させることが好ましい。具体的な重合性化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ベンジル)、ビニル芳香族単量体(例えば、スチレン、o−メチルスチレン)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等、およびその誘導体)、N−ビニルアミド類(例えばN−ビニルピロリドン)、(メタ)アクリル酸アミド類、アルキル置換(メタ)アクリルアミド類、メタクリルアミド類、N−置換マレイミド類、ビニルエーテル類(例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル)、無水マレイン酸、(メタ)アクリロニトリル、メチルビニルケトン等が使用できる。中でも高分子分散剤として有効なポリビニルピロリドンを生成するN−ビニルピロリドンが特に好ましく用いられる。また、架橋により粒子をより強固に覆うために多官能性の重合性化合物を用いることもでき、具体例としてはエチレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル類などが挙げられる。
【0042】
重合性化合物のうち、その分子に親疎水性の機能を分離して持たせたものは重合性界面活性剤、反応性界面活性剤、あるいは反応性乳化剤とよばれ、本願発明の有機顔料分散液の製造方法に好ましく用いることができる。例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、(メタ)アクリロイル基などのα,β−エチレン性不飽和基とスルホン酸基またはその塩などのイオン解離可能な基やアルキレンオキシ基などの親水性基を有しているものが挙げられる。これらは一般に乳化重合に用いられ、分子内にラジカル重合可能な不飽和結合を少なくとも1つ以上有するアニオン性、またはノニオン性の界面活性剤である。
【0043】
本発明の有機顔料分散物の製造方法において、重合性界面活性剤は、単独で用いても、異なるものを併用しても、または重合性界面活性剤以外の重合性化合物と共に用いてもよい。好ましい重合性界面活性剤としては、例えば、花王(株)社、三洋化成(株)社、第一工業製薬(株)社、旭電化工業(株)社、日本乳化剤(株)社、日本油脂(株)社等より市販されているものが挙げられ、「微粒子・粉体の最先端技術、第1章3反応乳化剤を用いる微粒子設計、pp23−31」、2000年(株)シーエムシーに記載されたものなどが挙げられる。
【0044】
重合性界面活性剤の具体例を以下に記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
【化1】

【0046】
【化2】

【0047】
本発明の有機顔料分散物の製造方法に用いられる重合性化合物の重合方法は、有機顔料分散液中で重合できる方法であれば特に限定されないが、重合開始剤を用いてラジカルを発生させて重合させる方法が好ましい。重合を開始するきっかけは種々あるが、熱、光、超音波、マイクロ波等を用いることが好ましい。重合開始剤としては、水溶性、または油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾ系化合物等を使用することができる。具体的には、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキシド、2,2’−アゾビスイソブチロにトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−N−(2−ヒドロキシエチル)アミジノプロパン]二塩酸塩等を挙げることができ、例えば、和光純薬工業(株)社のホームページ(www.wako−chem.co.jp)には、各種水溶性アゾ重合開始剤、油溶性アゾ重合開始剤、高分子アゾ重合開始剤が10時間半減期温度とその構造式と共に記載され入手可能である。重合開始剤の添加量は特に限定されないが、全モノマー成分に対して0.1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは2〜10質量%である。
【0048】
重合工程を行う時期は特に限定されず、顔料微粒子を得た後の流路内で済ませる、捕集した分散液内で行う、精製後や濃縮後に行うなど適宜選択することができるが、操作が簡便であり重合条件が一定にできるため分子量などが均一で安定した重合物が得られやすいため流路内で済ませる方法が好ましい。
【0049】
重合性化合物の含有量は、有機微粒子の均一分散性および経時安定性(保存安定性)をより一層向上させるために、有機顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、特に好ましくは10〜250質量部の範囲である。この量が少なすぎるとポリマー処理後の有機顔料微粒子の分散安定性の向上が見られない場合がある。重合性化合物の他に分散剤を含有させるときの含有量は、両者の総量を上記の範囲とすることが好ましい。
【0050】
本発明の有機顔料微粒子分散物の製造方法にはマイクロリアクターを用いることが好ましい。マイクロリアクターとはマイクロ反応場を形成しうる細い等価直径の流路を有するリアクターである。とくに合流部位の直後にあたる流路の等価直径が2mm以下(好ましくは80μm以上1mm以下)であるマイクロリアクターを使用することが好ましい。
【0051】
等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。
【0052】
管の中に水を流し、その中心軸状に細い管を挿入し着色した液を注入すると、水の流速が遅い間は、着色液は一本の線となって流れ、水は管壁に平行にまっすぐに流れる。しかし、流速を上げ、ある一定の流速に達すると急に水流の中に乱れが生じ、着色液は水流と混じって全体が着色した流れになる。前者の流れを層流(laminar flow)、後者を乱流(turbulent flow)という。
流れが層流になるか乱流になるかは流れの様子を示す無次元数であるレイノルズ数(Reynolds number)が、ある臨界値以下であるかによって決まる。レイノルズ数が小さいほど層流を形成しやすい。管内の流れのレイノルズ数Reは次式で表される。
Re=D<υx>ρ/μ
Dは管の等価直径、<υx>は断面平均速度、ρは流体の密度、μは流体の粘度を表す。この式からわかるように等価直径が小さいほどレイノルズ数は小さくなるので、μmサイズの等価直径の場合は安定な層流を形成しやすくなる。また、密度や粘度の液物性もレイノルズ数に影響し、密度が小さく、粘度が大きいほどレイノルズ数は小さくなるので層流を形成しやすいことがわかる。
臨界値を示すレイノルズ数を臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)と呼ぶ。臨界レイノルズ数は必ずしも一定とはいえないが、凡そ次の値が基準となる。
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000>Re>2300 過渡状態
【0053】
本発明に用いられるリアクターの種類、形状は特に限定されず少なくとも3液の同時合流を可能にするあらゆる装置が利用できる。以下、本発明の製造方法に用いることができる好ましい製造装置(マイクロリアクター)の実施態様について説明する。
【0054】
図1に示したリアクター5内には、流体1a(第1の流体)を通す第1の流路L1と、流体2a(第2の流体)を通す流路L2と、マイクロリアクター5で流路L1、L2それぞれの終端部に連結され、さらに流体3a(第3の流体)を通す流路L3とを備える。流体1a、2a、3aは適当な流速および流速比を選択することにより合流後を層流とすることができる。流路L1の上流側端部はチューブK1を通して流体1aが収容されたマイクロシリンジ1が、流路L2の上流側端部にはチューブK2を通して流体2aが収容されたマイクロシリンジ2が、流路L3の上流側端部にはチューブK3を通して流体3aが収容されたマイクロシリンジ3がそれぞれ連結されている。マイクロシリンジ1内の流体1a、マイクロシリンジ2内の流体2a、及びマイクロシリンジ3内の流体3aは、それぞれ送液ポンプP1、P2、及びP3によりマイクロリアクター5内の流路L1、L2、L3に押し出され、送液され、流路L4において合流する(図2参照)。
【0055】
マイクロリアクター5の流路L1、L2、L3、L4は、固体基板上に微細加工技術により作製することができる。基板に使用される材料としては、ガラス、セラミックス、シリコン等が挙げられる。また、耐酸性及び耐アルカリ性であれば、プラスチック樹脂を用いることもできる。
【0056】
流路L1、L2、L3、L4を形成するための微細加工方法としては、例えば、X線を
用いたLIGA技術を用いる方法、フォトリソグラフィ法によりレジスト部を構造体として使用する方法、レジスト開口部をエッチング処理する方法、マイクロ放電加工法、レーザー加工法、ダイヤモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法がある。これらの技術は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0057】
また、マイクロリアクター5を組み立てる際の接合技術としては、大きく固相接合と液相接合とに分けて挙げることができる。固相接合には、陽極接合、直接接合、拡散接合等がある。また、液相接合には、融接、接着剤等がある。
【0058】
本実施態様のマイクロリアクター5には、ヒーター7が設置されており、温度度制御装置(図示せず)により、その温度は調節されている。また、ヒーター7としては、金属抵抗やポリシリコン等が用いられ、ヒーター7を装置内に作りこんでもよい。また、温度制御のために、装置全体を温度制御された容器中にいれてもよい。
【0059】
本発明の製造方法においては、第1の流体1a及び第2の流体2aとして上記顔料溶液及び水性媒体を用いることが好ましい。そして第3の流体3aとしては上記分散剤溶液を用いることが好ましい。このようにすることで、後述するように前記分散剤溶液が、前記有機顔料溶液と水性媒体との間に位置するよう、3層からなる層流を形成させることができ好ましい。ただし、4本以上の流路を設け、4液以上の液体を同時合流させてもよい。
【0060】
顔料溶液と分散剤溶液と水性媒体との流速は特に限定されないが、顔料溶液と水性媒体の流速比は1:1〜1:20であることが好ましく、顔料溶液と分散剤溶液の流速比は1:1〜20:1であることが好ましい。
【0061】
図2は、マイクロリアクター5内において第1の流体1a、第2の流体2a、及び第3の流体3aが合流するときの状態の一実施態様を概念的に示す説明図である。図示の通り、第1の流体1a、第2の流体2a及び第3の流体3aを合流部Eにおいて合流させると、流路L1から供給された第1の流体1aを主に含む領域C、流路L2から供給された第2の流体2aを主に含む領域A、及びこれらの混合領域となりうる、流路L3から供給された第3の流体3aを主に含む領域Bからなる層流を生じさせることができる。このようにして、第1の流体1a中の成分(例えば顔料)が領域Bに拡散し、他方、第2の流体2a中の成分(例えば水性媒体)が領域Bに拡散してくるようにする。その結果、第3の流体3a中の成分(例えば分散剤)が効果的に作用する環境下で、第1の流体1a中の成分(例えば顔料)と第2の流体2a中の成分(例えば水性媒体)とを接触させ、主に領域B内において生成物(例えば顔料微粒子)を得ることができる。このようにして、本実施形態においては、容器4に生成物(例えば顔料微粒子)を含有する液体4a(例えば顔料微粒子分散物)を捕集することができる。
【0062】
本発明の製造方法においては、上述のように、分散剤溶液が前記有機顔料溶液と水性媒体との間に介在流通されるように送液し層流を形成させることが好ましい。これにより結晶が析出する場所に分散剤を効果的に配置することができるため粒子形成制御の効率を上げることができ、効果として分散剤の量が低減できる。また、より小さいサイズの粒子が得られ、単分散性が向上するなどの効果を得ることができる。
【0063】
本実施形態のマイクロリアクター5は、等価直径が2mm以下の流路部位を有するマイクロリアクターであることが好ましい。このとき、少なくとも3液の同時合流部Eもしくはその後の流路L4の等価直径が2mm以下であることが好ましく、0.05〜1mmであることがより好ましい。本実施形態のマイクロリアクター5において第1の流路L1の等価直径は特に限定されないが、0.05〜1mmであることが好ましい。第2の流路L2の等価直径は0.05〜1mmであることが好ましい。第3の流路L3の等価直径は0.05〜1mmであることが好ましい。
【0064】
さらに本発明の製造方法に用いることができるマイクロリアクターの具体例としては東京理化器械(株)社製の液クロ用配管パーツ「4方ジョイント」(商品名)、特開平2005−206666号公報に記載の「マイクロリアクター5」、Chem.Eng.Technol.2005,28,324に記載の「マイクロリアクターK−M−CC−4」(商品名)などを用いることができる。
【0065】
本発明の製造方法は、得られた分散液を加熱する工程を含んでいてもよい。特に高分子分散剤を用いて微粒子を形成した場合に加熱により粘度の低減や、分散安定性向上などの効果が期待できる。加熱工程は顔料微粒子を得た後の流路内で済ませる、捕集した分散液内で行う、精製後や濃縮後に行うなど適宜選択することができるが、操作が簡便であり加熱条件を一定にすることができるため流路内で済ませる方法が好ましい。
【0066】
有機顔料微粒子分散物を乾燥させることにより有機顔料微粒子のペースト又は固形物とすることができる。乾燥方法は通常の方法によればよく特に限定されないが、例えば、凍結乾燥、減圧留去(エバポレーター)、それらの組み合わせなどの方法で可能である。固形物化ないしは濃縮化したときの有機顔料の含有率は特に限定されないが、5質量%〜90質量%であることが好ましく、20質量%〜80質量%であることがより好ましい。
【0067】
本発明の有機顔料微粒子及びその分散物は性能の優れたインクジェットインクとすることができる。具体的には、上述のとおりビルドアップ法により有機顔料微粒子を析出させた分散物を遠心分離及び/または限外ろ過により精製し濃縮することが好ましい。これに、例えば、グリセリン類、グリコール類等の水溶性高沸点有機溶剤を添加することが好ましい。さらに、必要に応じて、pHや表面張力、粘度を調整する剤、あるいは防腐等のための添加剤を加えることで良好なインクジェット記録用インクとすることができる。
また、前述した、分離、濃縮、液物性の調整などを適宜に行って高性能カラーフィルタ用の分散物とすることができる。
【0068】
本発明の有機顔料微粒子分散物を用いて、濃縮、樹脂の添加、液物性の調整などの工程を経てその有機顔料微粒子とビヒクルとを含有する本発明の塗料とすることができる。熱または光で架橋反応を起こす樹脂を含む、熱硬化性塗料、あるいは光硬化性塗料として用いることが好ましい。
【0069】
本発明は、分散剤についてそのアルカリ分解性や溶解性に基づき使用しうる種類が限定されるという問題を解決することにより、適用する分散剤の選択肢を広げることができる。このことはインクや塗料などに実用する際の分散剤の種類を多くし、例えば分散安定性などの諸性能のみならず、コストや環境調和性などの観点も考慮にいれた分散剤選択を可能にするものである。
【0070】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
ピグメントイエロー128(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL YELLOW 8GNP(商品名))8g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)6.3gをジメチルスルホキシド120mLに室温で溶解し、これをI液(顔料溶液)とした。加えられた塩基の顔料溶液に対する濃度は0.27mol/Lと計算される。
ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(東京化成(株)社製)3.2gをジメチルスルホキシド20mLに溶解したものをII液(分散剤溶液)とした。蒸留水をIII液とした。
【0072】
合流部位には、内径0.5mmを有する4方ジョイント(東京理化器械(株)社製、型式:JYF−405(商品名))を用いた。該4方ジョイントの4つの口の3つに長さ1m、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ3本をコネクターを用いて接続し、その先にそれぞれI液、II液、III液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。もう1つの口には長さ1.5m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続し出口とした。相対位置関係は出口に対して正面の入口からII液が、出口と直行する入口からI液とIII液とが導入されるように接続し、II液がI液及びIII液の間を流れるよう配置した。I液を3.0mL/min、II液を0.5mL/min、III液を16mL/minの送液速度にて送り出した。チューブ出口先端よりピグメントイエロー128の分散液が得られたのでこれを捕集した。このときの分散液のpHは12.0であった。合流直後の流体のレイノルズ数は約640と計算される。
【0073】
この液を限外濾過装置(アドバンテック東洋社製、UHP−62K(商品名)、分画分子量5万)により蒸留水を加えてろ液を排除して体積を一定にしながら精製した後、顔料5.0質量%まで濃縮した。顔料5.0質量%分散液の粘度は4.7mPa.s、この液の顔料粒子の体積平均粒径Mvは26.3nmであり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.33であった。なお、顔料粒子の粒径(Mv)及び単分散性(Mv/Mn)は日機装(株)社製のナノトラックUPA−EX150(商品名)にて、蒸留水で顔料濃度0.2質量%に希釈して室温(25℃付近)で測定した。以下の実施例、比較例も同様である。
【0074】
(実施例2)
実施例1で用いたジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムの量を8.0gに変更し、それ以外は実施例1と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0075】
(実施例3)
特開平10−81843号公報、段落0025に記載の方法にならいメチルメタクリレート、エチルアクリレート、メタクリル酸を質量比1:2:1の比率でラジカル重合し、3元共重合体D−1(平均分子量25,000)を得た。実施例1で用いたジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムを高分子分散剤D−1 3.2gに変更した以外は実施例1と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0076】
(実施例4)
実施例3で用いた高分子分散剤D−1の量を8.0gに変更し、それ以外は実施例3と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0077】
(実施例5)
実施例1で用いたジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムをポリビニルピロリドンK30(商品名、東京化成工業(株)社製)3.2gに変更し、それ以外は実施例1と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0078】
(実施例6)
実施例1で用いたII液の成分組成について、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムを3.2gから2.0gに減量し、実施例3で用いた高分子分散剤D−1を1.2g加え、それ以外は実施例1と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0079】
(実施例7)
実施例1において4方ジョイントに3種の液を導入する相対位置関係だけを変更した。すなわち出口に対して正面の入口からIII液が、出口と直行する入口からI液とII液が導入されるように接続し、III液がI液及びII液の間を流れるよう配置した。それ以外は実施例1と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0080】
(実施例8)
実施例3において4方ジョイントに3種の液を導入する相対位置関係だけを変更した。すなわち出口に対して正面の入口からIII液が、出口と直行する入口からI液とII液が導入されるように接続し、III液がI液及びII液の間を流れるよう配置した。それ以外は実施例3と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0081】
(実施例9)
実施例3において、後段のリアクターの出口より得られた顔料微粒子分散物をそのまま流路内で加熱する工程を施した。すなわちコネクターの出口には長さ1.5m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続し、その先にコネクターを用いて長さ2m、等価直径1.6mmを有するステンレスチューブを接続し、さらにその先に長さ10m、等価直径2mmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。ステンレスチューブと等価直径2mmのテフロン(登録商標)チューブの連結部に液温を測定するための温度センサーを接続した。ステンレスチューブおよびその先に接続した等価直径2mmのテフロン(登録商標)チューブのうちの6m長を温度を80℃に保ったオイルバスに浸けた状態で、実施例3と同様の速度で3種の液を送り出した。ステンレスチューブの先に設置したセンサーが示す液温は78〜80℃とほぼ一定しており、ステンレスチューブ内で熱交換が完了していることを示す。テフロン(登録商標)チューブ出口よりピグメントイエロー128の分散液が得られたのでこれを捕集した。液の加熱時間は約400秒と計算される。
【0082】
(比較例1)
実施例1で用いたI液とII液をあらかじめ混合したものを顔料溶液とし、この液と水性媒体を混合することによりPY−128の微粒子分散液を得た。すなわち、ピグメントイエロー128を8g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液6.3g、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム3.2gをジメチルスルホキシド140mLに溶解したもの溶液を調製し、これをIA液とした。加えられた塩基の顔料溶液に対する濃度は0.23mol/Lと計算される。
実施例1で用いた4方ジョイントの代わりに、内径0.5mmを有するY字3方ジョイント(東京理化器械(株)社製、型式:JYF−305(商品名))を用い、3つの入口の2つに長さ1m、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブをコネクターを用いて接続し、それぞれIA液と蒸留水(III液)を入れたシリンジを繋ぎポンプにセットした。もう1つの口には長さ1.5m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続し出口とした。IA液を3.5mL/min、III液を16mL/minの送液速度にて送り出した。得られた分散液を実施例1と同様に処理して顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。このとき分散液のpHは12.5であった。なお、本実験でIA液の調製開始から送液開始までには2時間を費やし、35分流しつづけた。
【0083】
(比較例2)
比較例1で用いたジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムを同量の高分子分散剤D−1に変更した以外は比較例1と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。なお、本実験でIA液の調製開始から送液開始までには2時間を費やし、35分流しつづけた。
【0084】
(比較例3)
比較例2で用いた高分子分散剤D−1の量を8.0gに変更し、それ以外は比較例2と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
上記表1に示した結果から分かるとおり、比較例の顔料分散物に対し実施例で得た本発明の分散物は、低粘度が維持され、しかもそこに含まれる顔料微粒子の粒子径が小さく、粒子径がそろったものであった(比較例1と実施例1及び7とを対比参照。比較例2と実施例3及び8とを対比参照。)。このとき分散剤溶液(II液)が介在流通されるようにすることで、さらに粒子径が小さいものが得られることが分かる(実施例1と7とを対比参照。実施例3と8とを対比参照。)。また、本発明においては、分散剤の量を削減しても良好な顔料微粒子の分散性が得られることが分かる(実施例6参照)。さらにまた、本発明によれば、さらに分散物の調製時に加熱処理を行うことで粘度を低減できることが分かる(実施例3と実施例9とを対比参照。)。なお、実施例4の分散物は高分子分散剤を増量したため高粘度となったが、そのような条件下でも顔料微粒子の微細化に優れることが分かる(実施例4、比較例3対比参照)。
【0087】
(実施例10)
実施例1で用いたI液の成分組成について、顔料を2,9−ジメチルキナクリドン(クラリアント製、HOSTAPERM PINK E(商品名))8gとし、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)18.1g、ジメチルスルホキシド120mLとした。その他は実施例1と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表2に示した。得られた分散液のpHは12.6であった。
【0088】
(実施例11)
実施例10でII液に入れたジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムを、同量の高分子分散剤D−1に変更し、それ以外は実施例10と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表2に示した。
【0089】
(実施例12)
実施例10において4方ジョイントに3種の液を導入する相対位置関係だけを変更した。すなわち出口に対して正面の入口からIII液が、出口と直行する入口からI液とII液が導入されるように接続し、それ以外は実施例10と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表2に示した。
【0090】
(実施例13)
実施例11において4方ジョイントに3種の液を導入する相対位置関係だけを変更した。すなわち出口に対して正面の入口からIII液が、出口と直行する入口からI液とII液が導入されるように接続し、III液がI液及びII液の間を流れるよう配置した。それ以外は実施例11と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表2に示した。
【0091】
(比較例4)
実施例10で用いたI液とII液をあらかじめ混合したものを顔料溶液とし、この液と水性媒体を混合することにより2,9−ジメチルキナクリドンの微粒子分散液を得た。すなわち2,9−ジメチルキナクリドンを8g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液18.1g、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム3.2gをジメチルスルホキシド140mLに室温で溶解したもの溶液を調製しこれをIB液とした。加えられた塩基の顔料溶液に対する濃度は0.67mol/Lと計算される。
このIB液と蒸留水(III液)を、それぞれIB液3.5mL/min、III液16mL/minの送液速度にて送り出した。得られた分散液を実施例10と同様に処理して顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表2に示した。得られた分散液のpHは12.7であった。なお、本実験でIB液の調製開始から送液開始までには2時間を費やし、35分流しつづけた。
【0092】
(比較例5)
比較例4で用いたジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムを同量の高分子分散剤D−1に変更した以外は比較例4と同様にして顔料5.0質量%分散液を調製し、粘度および粒子径を測定した結果を表2に示した。なお、本実験でIB液の調製開始から送液開始までには2時間を費やし、35分流しつづけた。
【0093】
【表2】

【0094】
上記表2に示した結果から分かるとおり、異なる顔料種(PY−122)であっても、本発明によれば、分散物の低粘度を維持して、粒子径が極めて小さくしかも均一な顔料微粒子が得られるという優れた作用効果を示すことが分かる(実施例10及び12と比較例4とを対比参照。実施例11及び13と比較例5とを対比参照。)。このとき分散剤溶液(II液)が介在流通されるようにすることで、さらに粒子径が小さく均一なものが得られることが分かる(実施例10と12とを対比参照。実施例11と13とを対比参照。)。
【0095】
(実施例14)インクジェット用インクの調製
加熱処理工程と限外ろ過による精製、濃縮を経た、実施例9に記載の5%濃度の分散液を用い、下記組成になるようインクジェット用インクを調製した。
有機顔料(3.5質量%)
オルフィンE1010(商品名)(2.0質量%)
グリセリン(10質量%)
水(84.5質量%)
セイコーエプソン社製PM−D600(商品名)のインクとして打滴試験を行ったところ目詰まり無く良好な印字を与えた。
【0096】
(実施例15)塗料の調製
加熱処理工程と限外ろ過による精製、濃縮を経た、実施例9に記載の5%濃度の分散液それぞれを用い、下記比率にて樹脂と混合して塗料を調製した。
有機顔料(5%):ジュリマーET−410(商品名、日本純薬株式会社製、30%)=2:1
これをスポイトによりガラス板に滴下、40℃で2時間加熱乾燥したところ、透明で鮮やかな塗布膜を与えた。
【符号の説明】
【0097】
1、2、3 マイクロシリンジ
1a 第1の流体
2a 第2の流体
3a 第3の流体
4 容器
5 マイクロリアクター
L1,L2,L3、L4 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料をアルカリの存在下で有機溶媒に溶解した溶液、分散剤を含む溶液、および水性媒体の少なくとも3液を流路内に流通させ、前記少なくとも3液を流路内で同時に合流させ前記有機顔料の微粒子を生成させることを特徴とする有機顔料微粒子分散物の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤を含む溶液が有機溶媒を主成分とする媒体に該分散剤を溶解した溶液であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも3液の同時合流の後、前記分散剤を含む溶液が前記有機顔料溶液と水性媒体との間に介在流通されるよう、層流を形成させることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
分散物中の前記分散剤の質量が、前記有機顔料の質量に対して0.5倍以下となるようにすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも3液の同時合流を、等価直径が2mm以下の流路部位を有するマイクロリアクター装置内で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも3液の同時合流部もしくはその後の流路の等価直径が2mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記分散剤として、エステル基を有する化合物を1種以上用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記分散剤として界面活性剤を1種以上使用することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記有機顔料微粒子の体積平均粒径(Mv)が10nm以上50nm以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法で得られた水性分散物中の前記有機顔料微粒子と、前記分散剤と、インク媒体とを含有するインクジェット記録用インク。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法で得られた水性分散物中の前記有機顔料微粒子と、前記分散剤と、ビヒクルとを含有する塗料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−256652(P2009−256652A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72664(P2009−72664)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】