説明

有機ELパネル

【課題】 パッシブ駆動の有機ELパネルにおいて、配線設計の自由度を制限することなく電極配線の配線抵抗値のバラツキを抑制し、有機EL素子の輝度ムラを改善することが可能な有機ELパネルを提供する。
【解決手段】支持基板1上に複数形成される第一電極ライン2aと、第一電極ライン2a上に形成される有機発光層2dと、第一電極ライン2aと交差するように複数形成される第二電極ライン2eとを有する発光表示部2を形成してなる有機ELパネルである。各第二電極ライン2eあるいは各第一電極ライン2aと接続されるように支持基板1上に引き回し形成される複数の電極配線4を有し、各電極配線4は、1本の配線からなる部分4a,4c及び/あるいは複数の配線が並列に接続される部分4bを有し、それぞれの配線抵抗値の差が5Ω以下となるように同一方向に形成される部分において前記配線の並列数を異ならせてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持基板上に複数形成される第一電極ラインと、第一電極ライン上に形成される有機発光層と、第一電極ラインと交差するように複数形成される第二電極ラインとを有する発光表示部を形成してなる有機ELパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELパネルとしては、例えば、少なくとも有機発光層を有する有機層をITO(Indium Tin Oxide)等からなる陽極(第一電極)と、アルミニウム(Al)等からなる陰極(第二電極)とで狭持してなる有機EL素子を発光画素として透光性の支持基板上にマトリクス状に形成して発光表示部を構成するものが知られている(例えば特許文献1参照)。かかる有機EL素子は、陽極から正孔を注入し、また、陰極から電子を注入して正孔及び電子が有機発光層にて再結合することによって光を発するものである。また、有機EL素子は、陰極側から陽極側へは電流が流れにくい、いわゆるダイオード特性を有するものである。
【0003】
上記のような有機ELパネルは、例えば陽極をデータラインとし陰極をコモンラインとするパッシブ駆動(線順次駆動)によって有機EL素子の発光を制御するパッシブマトリクス型の有機ELパネルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−315981号公報
【特許文献2】特開2004−246330号公報
【特許文献3】特開2007−72033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、パッシブマトリクス型の有機ELパネルにおいては、両電極に駆動電流を印加する各電極配線毎の配線抵抗値のバラツキが小さいことが望ましい。電極配線毎の配線抵抗のバラツキが大きいと各有機EL素子に印加される電圧に差が生じ輝度ムラが起こる。しかしながら支持基板上の外側に引き回しされる電極配線ほど配線距離が長くなるため、より内側に引き回しされる電極配線との配線抵抗値の差は大きくなってしまう。そこで、従来では、特許文献2に開示されるように配線の幅を徐々に広くすることで配線抵抗を下げ、配線抵抗をほぼ等しくする方法や、特許文献3に開示されるように内側に引き回される配線を空き領域に冗長な配線長を有するように引き回すことで配線抵抗値を同一とする方法などが知られている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示される単に配線の幅を広くする方法では、幅の広い配線の位置が発光表示部を封止する封止部材の接着位置と重なると紫外線硬化性接着剤にて封止部材を接着する際に紫外線が接着剤に照射されるのを妨げる場合があり、これを避けようとすると配線設計の自由度が制限されるという問題点があった。また、特許文献3に開示される方法では内側に形成される配線についても配線長を延ばすためのスペースが必要となり、これも配線設計の自由度が制限されるという問題点があった。
【0007】
そこで本発明は、前述の問題点に鑑み、パッシブマトリクス型の有機ELパネルにおいて、配線設計の自由度を制限することなく電極配線の配線抵抗値のバラツキを抑制し、有機EL素子の輝度ムラを改善することが可能な有機ELパネルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、支持基板上に複数形成される第一電極ラインと、前記第一電極ライン上に形成される有機発光層と、前記第一電極ラインと交差するように複数形成される第二電極ラインとを有する発光表示部を形成してなる有機ELパネルであって、前記各第二電極ラインあるいは前記各第一電極ラインと接続されるように前記支持基板上に引き回し形成される複数の電極配線を有し、前記各電極配線は、1本の配線からなる部分及び/あるいは複数の配線が並列に接続される部分を有し、それぞれの配線抵抗値の差が5Ω以内となるように同一方向に形成される部分において前記配線の並列数を異ならせてなることを特徴とする。
【0009】
また、前記電極配線は、部分毎に前記配線の並列数が異なることを特徴とする。
【0010】
本発明は、前記電極配線を、1本の前記配線からなる構成、1本の前記配線からなる部分と複数の前記配線が並列に接続される部分との組み合わせからなる構成または複数の前記配線が並列に接続される部分からなる構成のいずれかとし、それぞれの配線長に応じて、同一方向に形成される部分において前記配線の並列数をそれぞれ異ならせることによって、実質的な配線幅を調整して配線抵抗値の差が5Ω以下となるようにし、前記各電極配線の配線長が異なる場合であっても、前記各電極配線の配線抵抗値のバラツキを抑制し、有機EL素子の輝度ムラを改善することが可能となるものである。また、前記配線の並列数を増やす場合でも前記各配線間には隙間が形成されるため、紫外線が接着剤に照射されることを妨げない。また、配線長を余分に延長させるものではないため配線長を延ばすためのスペースも不要である。
【0011】
また、前記電極配線を、部分毎に前記配線の並列数が異なる構成とすることで、前記各電極配線の配線抵抗値をより微細に調整することができ、前記各電極配線の配線抵抗値のバラツキを抑制するのに好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配線設計の自由度を制限することなく電極配線の配線抵抗値のバラツキを抑制し、有機EL素子の輝度ムラを改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である有機ELパネルを示す図。
【図2】同上有機ELパネルの要部拡大図。
【図3】同上有機ELパネルを示す有機EL素子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態である有機ELパネルを添付図面に基づき説明する。図1は有機ELパネルの全体図であり、図2は有機ELパネルの要部拡大図である。
【0015】
支持基板1は、長方形形状の透明ガラス材からなる電気絶縁性の基板である。支持基板1上には、発光表示部2と、発光表示部2の後述する陽極ラインと接続される陽極配線3と、発光表示部2の後述する陰極ラインと接続される陰極配線4と、が形成されている。なお、支持基板1上には発光表示部2を気密的に覆う封止部材が配設されるが、図1及び図2においては封止部材を省略している。
【0016】
発光表示部2は、図2及び図3に示すように、複数形成される陽極ライン(第一電極ライン)2aと、絶縁層2bと、隔壁2cと、有機層2dと、複数形成される陰極ライン(第二電極ライン)2eと、から主に構成され、各陽極ライン2aと各陰極ライン2eとが交差して有機層2dを挟持する個所からなる複数の発光画素(有機EL素子)を備えるいわゆるパッシブマトリクス型の発光表示部である。また、発光表示部2は、図3に示すように、封止部材2fによって気密的に覆われている。
【0017】
陽極ライン2aは、ITO等の透光性の導電材料からなる。陽極ライン2aは、蒸着法やスパッタリング法等の手段によって支持基板1上に前記導電材料を層状に形成した後、フォトリソグラフィー法等によって互いに略平行となるように複数形成される。また、各陽極ライン2aは各陽極配線3と接続され、各陽極配線3を介して駆動電流を供給するドライバーICと電気的に接続される。
【0018】
絶縁膜2bは、例えばポリイミド系の電気絶縁性材料から構成され、陽極ライン2aと陰極ライン2eとの間に位置するように陽極ライン2a上に形成され、両電極ライン2a,2eの短絡を防止するものである。絶縁膜2bには、各発光画素を画定するとともに輪郭を明確にする開口部2b1が形成されている。また、絶縁膜2bは、陰極ライン2eと陰極配線4の間にも延設されており、陰極ライン2eと陰極配線4とを接続させるコンタクトホール2b2を有する。
【0019】
隔壁2cは、例えばフェノール系の電気絶縁性材料からなり、絶縁膜2b上に形成される。隔壁2cは、その断面が絶縁膜2bに対して逆テーパー形状となるようにフォトリソグラフィー法等の手段によって形成されるものである。また、隔壁2cは、陽極ライン2aと直交する方向に等間隔にて複数形成される。隔壁2cは、その上方から蒸着法やスパッタリング法等によって有機層2d及び陰極ライン2eを形成する際に、これらをライン状に分断する構造を得るものである。
【0020】
有機層2dは、陽極ライン2a上に形成されるものであり、少なくとも有機発光層を有するものである。なお、本実施形態においては、有機層2dは正孔注入層,正孔輸送層,有機発光層及び電子輸送層を蒸着法やスパッタリング法等の手段によって順次積層形成してなるものである。
【0021】
陰極ライン2eは、アルミニウム(Al)やマグネシウム銀(Mg:Ag)等の陽極ライン2aよりも導電率が高い金属性導電材料をスパッタリング法や蒸着法等の手段により陽極ライン2aと交差するように複数形成してなるものである。また、各陰極ライン2eは、絶縁膜2bに設けられるコンタクトホール2b2を介して各陰極配線4と接続され、この陰極配線4を介して前記ドライバーICと電気的に接続される。
【0022】
封止部材2fは、例えばガラス材料からなる凹状部材であり、紫外線硬化性の接着剤2gを介して支持基板1上に配設される。
【0023】
陽極配線3は、例えば陽極ライン2aと同材料であるITO、クロム(Cr)あるいはアルミニウム(Al)等の導電材料またはこれら導電材料の積層体からなり、支持基板1上に一端が支持基板1の下方側で各陽極ライン2aと接続され、他端が支持基板1の下辺側に列状に配置されるように複数引き回し形成される。各陽極配線3は他端が例えばFPC等の接続部材を介して前記ドライバーICと接続される。
【0024】
陰極配線4は、例えば陽極ライン2aと同材料であるITO、クロム(Cr)あるいはアルミニウム(Al)等の導電材料またはこれら導電材料の積層体からなり、支持基板1上に一端が支持基板1の左右両側方で交互に陰極ライン2eと接続され、他端が支持基板1の下辺側に列状に配置されるように複数引き回し形成される。各陰極配線4は他端が前記接続部材を介して前記ドライバーICと接続される。また、陰極配線4は、コンタクトホール2b2を介して陰極ライン2eと接続可能とするべく少なくとも陰極ライン2eとの接続個所となる端部が絶縁膜2bを介して陰極ライン2eの下方に位置するように形成される。陰極配線4は、支持基板1の側方から下方に引き回し形成されるため、陽極配線3と比較して、内側に引き回しされる陰極配線4と外側に引き回しされる陰極配線4とで配線長が大きく異なる。そこで、本実施形態においては各陰極配線4の配線抵抗値の差を5Ω以下とするために、図2に示すように、内側に引き回しされる陰極配線4を1本の配線からなるものとし、外側に引き回しされる陰極配線4を、1本の配線からなる部分(以下、単一配線部4a,4cという)と2本の配線が並列に接続される部分(以下、並列配線部4bという)とからなるものとしている。なお、各陰極配線4の配線抵抗値は同一であることが最も望ましいが、配線抵抗値の最大値と最小値の差が5Ω以下であれば有機EL素子の輝度ムラを十分に抑制することができる。本実施形態においては各陰極配線4の部分のうち外側の陰極配線4と内側の陰極配線4とで最も配線長に差が生じる支持基板1の側辺に沿って引き回しされる部分において、外側の陰極配線4に並列配線部4bを設けることで、実質的に配線幅を大きくし配線抵抗値を低減させている。並列配線部4bは接着剤2gの配設個所と重なっているが、並列配線部4bにおいては各配線間に隙間が設けられるため、実質的な配線幅が大きい構成であってもこの隙間から紫外線を接着剤2gに照射でき、陰極配線4の配線設計の自由度を制限することなく陰極配線4の配線抵抗値のバラツキを抑制することができる。外側の陰極配線4は、陰極配線4の1本の中で、単一配線部4a,4cと並列配線部4bとで部分毎に前記配線の並列数が異なる。かかる構成とすることで、各陰極配線4の配線抵抗値をより微細に調整することができ、各陰極配線4の配線抵抗値のバラツキを抑制するのに好適である。なお、並列配線部4bにおける配線の並列数は3本以上であってもよい。また、陰極配線4の1本の中で、配線の並列数が一定であってもよい。また、各陰極配線4毎に単一配線部4a,4c及び並列配線部4bの組み合わせ方が異なるものであってもよい。
【0025】
以上の各部によって有機ELパネルが構成されている。
【0026】
かかる有機ELパネルは、それぞれ配線長の異なる各陰極配線4の配線抵抗値の差が5Ω以下となるように、それぞれの配線長に応じて、同一方向に形成される部分において配線の並列数を異ならせることによって、実質的な配線幅を調整し、各陰極配線4の配線抵抗値のバラツキを抑制し、有機EL素子の輝度ムラを改善することが可能となるものである。また、配線の並列数を増やす場合でも各配線間には隙間が形成されるため、紫外線が接着剤2gに照射されることを妨げない。また、配線長を余分に延長させるものではないため配線長を延ばすためのスペースも不要である。したがって、本発明は陰極配線4の配線設計の自由度を制限することがない。
【0027】
なお、本実施形態は、発光表示部の両電極ライン2a,2eに接続される電極配線のうち、陰極配線4に本発明を適用したものであったが、配線の引き回しによっては陽極配線3に本発明を適用し、陽極配線3の同一方向に形成される部分において配線の並列数を異ならせるものであってもよい。
【0028】
なお、本実施形態は、ドライバーICをFPCや回路基板等に別途配置する有機ELパネルであったが、本発明はドライバーICを直接支持基板1上に配置するいわゆるCOG型の有機ELパネルにも同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、パッシブマトリクス型の有機ELパネルに好適である。
【符号の説明】
【0030】
1 支持基板
2 発光表示部
2a 陽極ライン(第一電極ライン)
2b 絶縁膜
2c 隔壁
2d 有機層
2e 陰極ライン(第二電極ライン)
2f 封止部材
2g 接着剤
3 陽極配線
4 陰極配線
4a、4c 単一配線部
4b 並列配線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に複数形成される第一電極ラインと、前記第一電極ライン上に形成される有機発光層と、前記第一電極ラインと交差するように複数形成される第二電極ラインとを有する発光表示部を形成してなる有機ELパネルであって、
前記各第二電極ラインあるいは前記各第一電極ラインと接続されるように前記支持基板上に引き回し形成される複数の電極配線を有し、
前記各電極配線は、1本の配線からなる部分及び/あるいは複数の配線が並列に接続される部分を有し、それぞれの配線抵抗値の差が5Ω以下となるように同一方向に形成される部分において前記配線の並列数を異ならせてなることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】
前記電極配線は、部分毎に前記配線の並列数が異なることを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−100593(P2011−100593A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253689(P2009−253689)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】