説明

有機EL用マスククリーニング方法、プログラム、有機EL用マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置および有機ELディスプレイ

【課題】パルスレーザを用いて有機EL用マスクを走査してレーザクリーニングを行う場合に、有機EL用マスクに過剰なエネルギーを作用させることなく高い洗浄度でクリーニングを行うことを目的とする。
【解決手段】レーザ光を走査して有機EL用マスク2に付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング方法であって、有機EL用マスク2に対してレーザ光を間欠的に照射して走査を行うときに、レーザ光を照射することにより除去される蒸着物質の円形の除去領域を部分的に重ねることでクリーニングエリアの全面に除去領域が及ぶようになし、且つ1つの除去領域の中心と他の除去領域とが重ならないように走査している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL用マスクにレーザ光を走査してクリーニングを行う有機EL用マスククリーニング方法、プログラム、有機EL用マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置および有機ELディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイは、バックライトを必要としない低消費電力・軽量薄型の画像表示装置として多く利用されている。その構造としては、透明性のガラス基板上に有機EL薄膜層を積層しており、有機EL薄膜層は発光層を陽極層と陰極層とにより挟み込む構造を採用している。発光層はガラス基板上に有機材料を蒸着させて薄膜として形成するものが多く用いられており、ディスプレイを構成する各画素の領域を3分割してRGBの3色の有機材料を蒸着させている。従って、各画素の3つの領域に異なる色の有機材料(有機色素材料)を蒸着させるために多数の開口部を形成した有機EL用マスク(シャドーマスク)を用いて蒸着を行う。この有機EL用マスクを画素ピッチ分ずつずらしながら、各色の蒸着物質を蒸着させていくことにより、発光層の蒸着プロセスが完了する。
【0003】
蒸着プロセスを行うときには、ガラス基板だけではなく有機EL用マスクにも有機材料が付着する。有機EL用マスクは1つの蒸着プロセスだけに使用されるのではなく繰り返し使用されることから、次の蒸着プロセスを行うときに有機EL用マスクに蒸着物質が付着していると、新たなガラス基板に蒸着物質が転写して汚損させる。また、有機EL用マスクに多数形成した開口部のエッジ部分にも有機材料が蒸着して、開口部の面積を部分的にまたは全面的に閉塞させる。開口部の全部を塞いだ場合はもちろん、部分的に塞ぐことにより開口面積に変化が生じただけでも、当該有機EL用マスクを用いた場合の蒸着精度は著しく低下し、また使用に耐え得るものではなくなる。従って、有機EL用マスクを定期的に(好ましくは、1つの蒸着プロセスを完了した後に)クリーニングして、蒸着物質の除去を行っている。
【0004】
有機EL用マスクのクリーニングとしては、界面活性剤等を用いたウェットクリーニングが主に行われている。ウェットクリーニングは有機EL用マスクに対して液体を供給して行うクリーニングである。しかし、クリーニングされる有機EL用マスクはミクロンオーダー(数十ミクロン程度)の極薄の金属板であり、ウェットクリーニング時に液圧が作用することにより歪みや変形等の大きなダメージが有機EL用マスクに与えられる。また、界面活性剤等の薬液を用いてウェットクリーニングを行うと、薬液供給機構および使用済みの薬液(排液)を処理する排液処理機構を要するため機構が複雑化し、また排液による環境汚染の問題もある。
【0005】
一方、ウェットクリーニングの薬液を用いないクリーニングとして、有機EL用マスクに対してレーザ光を照射して行うクリーニング(レーザクリーニング)に関する技術が特許文献1に開示されている。金属素材の有機EL用マスクにレーザ光を照射することにより、有機EL用マスクと有機材料との間に剥離力を作用させている。特許文献1の技術は、この剥離力により有機EL用マスクから有機材料を除去してクリーニングを行うものである。そして、有機EL用マスクには粘着性のフィルムを貼り付けており、剥離した有機材料を粘着フィルムに転写させることで、クリーニングプロセスを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−169573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザ光により有機EL用マスクのクリーニングを行うレーザクリーニングは、有機EL用マスクの表面に向けて1列に走査を行ってスキャンラインを形成し、このスキャンラインを徐々にシフトさせていくことにより行う。例えば、特許文献1で開示されているガルバノミラーを用いる場合には、レーザ光源から発振されるレーザ光をガルバノミラーに入射させ、ミラーを微小振動させることにより走査を行う。このとき、レーザ光源としてはパルスレーザが用いられることが多い。パルスレーザは、非常に時間幅の短いパルスに同期したタイミングでレーザ光を発振させており、発振状態と停止状態とを繰り返すようにしている。これにより、発振状態のときのレーザ光のエネルギーのピークを高めている。
【0008】
そして、有機EL用マスクに向けて照射したレーザ光により有機EL用マスクに付着している蒸着物質には熱衝撃或いは高温蒸気化が作用する。これにより、有機EL用マスクから蒸着物質が除去される。このとき、レーザ光の光路断面は円形をしており、有機EL用マスクに照射されるレーザ光のスポットも円形になることから、除去される蒸着物質の領域も円形になる。この円形の領域(除去領域)はレーザ光のスポット径と一致している場合もあれば、スポット径以上或いはスポット径以下になることもある。いずれにしても、レーザ光を走査して形成されるスキャンラインは、1列に多数の円形の除去領域を配列した形状になる。この1列に形成されたスキャンラインをスキャン方向に直交する方向に微小にシフトさせることにより、面のクリーニングを行う。
【0009】
従って、スキャン方向(レーザ光のスキャン方向)と直交方向(スキャン方向に直交する方向)とに多数の除去領域が配列されるようになる。ここで、パルスレーザを用いて多数の除去領域を形成することによりスキャンラインを形成して走査を行う場合には、洗浄度の問題と有機EL用マスクに与えるダメージとの2つの問題がある。1つ目の問題は、各除去領域の間に隙間が生じるために起こる問題である。除去領域の間に隙間が生じると、レーザクリーニングを行ったにもかかわらず、隙間部位の蒸着物質は依然として有機EL用マスクに残存したままになる。このために、洗浄度が低くなる。
【0010】
除去領域同士が離間するような場合には勿論隙間が生じることになるが、除去領域同士が接するように走査を行う場合にも隙間を生じる。これは、円形同士を接するように配置する場合には、必然的に隙間を生じるためである。この隙間部位にはレーザ光が照射されないため、蒸着物質が残存した状態になり、洗浄度を大幅に低下させる。
【0011】
一方、除去領域同士を重ねるようにして照射した場合には、有機EL用マスクに大きなダメージを与えるおそれがある。レーザ光はガウシアンの強度分布を有しており、中心が極端に高くなっている。従って、除去領域同士を重ねるにしても、1つの除去領域の中心と他の除去領域とが重なり合うと、レーザ光の強度が過剰に強くなる。このため、有機EL用マスクに対して歪みないしは反り等の変形といった影響を及ぼす過剰なエネルギーを作用させる可能性がある。前述したように、有機EL用マスクは繰り返し再利用されるが、マスク自体が変形すると、再利用をすることができなくなる。
【0012】
そこで、本発明は、パルスレーザを用いて有機EL用マスクを走査してレーザクリーニングを行う場合に、有機EL用マスクに過剰なエネルギーを作用させることなく高い洗浄度でクリーニングを行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1の有機EL用マスククリーニング方法は、レーザ光を走査して有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング方法であって、前記有機EL用マスクに対して前記レーザ光を間欠的に照射して走査を行うときに、前記レーザ光を照射することにより除去される前記蒸着物質の円形の除去領域を部分的に重ねることでクリーニングエリアの全面に前記除去領域が及ぶようになし、且つ1つの除去領域の中心と他の除去領域とが重ならないように走査したことを特徴とする。
【0014】
この有機EL用マスククリーニング方法によれば、クリーニングエリアの全面に除去領域が及ぶようにしているため、エリア内の全ての蒸着物質が除去される。これにより、高い洗浄度が得られるようになる。そして、除去領域の中心に他の除去領域が重ならないようにレーザ光を走査しているため、有機EL用マスクに過剰なエネルギーが作用することがなくなる。
【0015】
本発明の請求項2の有機EL用マスククリーニング方法は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング方法であって、複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向と直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、前記スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔および前記スキャンラインのシフト量をL、各除去領域の半径をRとしたときに、「R<L≦√2×R」となるように走査することを特徴とする。
【0016】
この有機EL用マスククリーニング方法によれば、前記の式を満たすように走査を行っている。「R<L」とすることにより、1つの除去領域の中心に他の除去領域が重なることがなく、「L≦√2×R」とすることにより、除去領域と除去領域との間に隙間が生じなくなり、エリアの全面に除去領域を及ぼすことができるようになる。
【0017】
本発明の請求項3の有機EL用マスククリーニング方法は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング方法であって、複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向に直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、各スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔と奇数列目のスキャンライン間の間隔と偶数列目のスキャンライン間の間隔とをL、各除去領域の半径をRとしたときに「L=2×R」となるように、且つ奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとをスキャン方向およびスキャン方向に直交する方向にそれぞれ半径Rの分だけずらして走査したことを特徴とする。
【0018】
この有機EL用マスククリーニング方法によれば、前記の式を満たすように走査を行っている。奇数列目のスキャンラインおよび偶数列目のスキャンラインを構成する各除去領域はそれぞれ2方向において接するようにして形成されるが、奇数列目と偶数列目とのスキャンラインをスキャン方向および直交方向に半径Rの分だけずらしているため、隙間が生じることがなくなる。また、1つの除去領域の中心に他の除去領域が重なることがなくなる。
【0019】
本発明の請求項4の有機EL用マスククリーニング方法は、請求項3記載の有機EL用マスククリーニング方法であって、奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとのうち一方のスキャンラインを全て走査した後に他方のスキャンラインを走査し、先に走査する方のスキャンラインよりも後に走査するスキャンラインのレーザ光の強度を低く設定したことを特徴とする。
【0020】
この有機EL用マスククリーニング方法によれば、奇数列目と偶数列目とのうち何れか一方の列のスキャンラインを全て走査した後に他方の列のスキャンラインを走査している。これにより、先に走査したスキャンラインにより一部に蒸着物質が残存するが、その付着強度は弱くなっているため、次の走査におけるレーザ光の強度を弱くしても、蒸着物質は除去できる。これにより、有機EL用マスクに対して過剰なエネルギーを作用することなく、高い洗浄度が得られるようになる。
【0021】
本発明の請求項5のプログラムは、コンピュータに請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング方法の手順を実行させるためのプログラムである。
【0022】
本発明の請求項6の有機EL用マスククリーニング装置は、レーザ光を走査して有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング装置であって、前記有機EL用マスクに前記レーザ光を間欠的に走査させるレーザ走査手段と、前記レーザ光を照射することにより除去される前記蒸着物質の円形の除去領域を部分的に重ねることでクリーニングエリアの全面に前記除去領域が及ぶようになし、且つ1つの除去領域の中心と他の除去領域とが重ならないように前記レーザ走査手段の制御を行うレーザ制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項7の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項6記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記レーザ制御手段は、複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向と直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、前記スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔および前記スキャンラインのシフト量をL、各除去領域の半径をRとしたときに、「R<L≦√2×R」となるように前記レーザ走査手段の制御を行うことを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項8の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項6記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記レーザ制御手段は、複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向に直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、各スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔と奇数列目のスキャンライン間の間隔と偶数列目のスキャンライン間の間隔とをL、各除去領域の半径をRとしたときに「L=2×R」となるように、且つ奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとをスキャン方向およびスキャン方向に直交する方向にそれぞれ半径Rの分だけずらすように前記レーザ走査手段の制御を行うことを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項9の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項8記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記レーザ制御手段は、奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとのうち一方のスキャンラインを全て走査した後に他方のスキャンラインを走査させ、先に走査する方のスキャンラインよりも後に走査するスキャンラインのレーザ光の強度を低く設定したことを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項10の有機ELディスプレイの製造装置は、請求項6乃至9何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えたことを特徴とする。また、本発明の請求項11の有機ELディスプレイは、請求項10記載の有機ELディスプレイの製造装置により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、有機EL用マスクにレーザ光を照射して蒸着物質を除去した円形の除去領域がクリーニングを行うエリアの全面に除去領域が及ぶように、且つ1つの除去領域の中心に他の除去領域が重ならないようにレーザ光の走査を行っていることから、有機EL用マスクに対して変形等を生じるような過剰なエネルギーを作用させることなく、高い洗浄度を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】有機EL用マスククリーニング装置の外観図である。
【図2】ガラス基板に当接させた有機EL用マスクの側面図および平面図である。
【図3】光源制御部のブロック図およびレーザ制御部をコンピュータにより実現する際のハードウェアブロック図である。
【図4】第1の走査モードにおける除去領域の関係を説明した図である。
【図5】第2の走査モードにおける除去領域の関係を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1において、本発明の有機EL用マスククリーニング装置(レーザ光により有機EL用マスクの表面をレーザクリーニングする装置)は、ベース1と有機EL用マスク2とマスク保持部材3とレーザ走査手段4とを備えて概略構成している。ベース1は有機EL用マスククリーニング装置の各要素を取り付けるための基台となっている。ここで、図1において、X方向とY方向とは水平面上の相互に直交する2方向になっており、Z方向は垂直方向である。そして、Z方向の矢印が示す方向が上方になり、反対側が下方になる。従って、重力は矢印反対方向に作用する。
【0030】
有機EL用マスク2は有機EL用マスククリーニング装置を用いて洗浄される被洗浄体である。図2に示すように、有機EL用マスク2は有機ELディスプレイを構成するガラス基板20に発光層としての有機材料(蒸着物質)を蒸着してパターン形成を行うために用いられる極薄の金属板である。ガラス基板20に高精度に蒸着物質を蒸着させるために、有機EL用マスク2の厚みはミクロンオーダーの極薄の金属板が用いられる。そして、有機ELディスプレイの大型化に伴い、有機EL用マスク2のサイズも大型になり、このため有機EL用マスク2は極薄且つ大型の金属板になる。
【0031】
有機EL用マスク2はマスク本体21を有しており、このマスク本体21に規則的に配列された多数の開口部22を形成したマスク金属板(シャドーマスク)である。有機EL用マスク2の素材としては種々の金属を用いることができるが、ここではコバルトとニッケルとの合金が適用されるものとする。有機EL用マスク2は、発光層の有機材料を蒸着する図示しない真空蒸着槽においてガラス基板20に密着させた状態で、蒸着源から有機材料を蒸着させるようにしている。
【0032】
発光層の蒸着物質としては種々のものを適用できるが、例えばアルミニウム錯体(トリスアルミニウム:Alq)等の有機金属錯体が適用される。なお、有機金属錯体以外の有機化合物(金属が含まれているものであっても、含まれていないものであってもよい)を蒸着物質として適用するものであってもよい。蒸着源から蒸発した蒸着物質は、有機EL用マスク2の開口部22からガラス基板20に蒸着する。これにより、ガラス基板20の画素に対応する領域に発光層としての蒸着物質が蒸着してパターンが形成される。有機EL用マスク2は大型且つ極薄の金属板であるため、図2に示すように、その周囲に保形性を持たせるための補強枠23を取り付けている。補強枠23は金属素材であってもよいし、金属以外の素材であってもよい。
【0033】
有機EL用マスク2を用いて1回の蒸着プロセスを行うと、ガラス基板20だけではなく有機EL用マスク2にも蒸着物質が付着する。蒸着プロセスは繰り返し行われることから、有機EL用マスク2に付着した蒸着物質のクリーニングが所定のタイミング(好ましくは、1回の蒸着プロセスごと)で行われる。有機EL用マスククリーニング装置が配置されている洗浄槽とガラス基板20に蒸着を行う真空蒸着槽とは別個独立に設けられているため、有機EL用マスククリーニング装置を行うときには有機EL用マスク2が真空蒸着槽から洗浄槽内に移行される。
【0034】
図1に示すように、有機EL用マスク2は垂直方向に立てた状態(有機EL用マスク2表面の法線方向が水平面方向)で保持されている。このため、マスク保持部材3には有機EL用マスク2と同程度或いはそれよりも大きなサイズを持たせており、このマスク保持部材3に図示しないマグネットを多数配列している(例えば、格子状に規則的に配列している)。これにより、有機EL用マスク2を立てた状態で保持することが可能になる。そして、マグネットを格子状に規則的に配列すれば、有機EL用マスク2を満遍なく均一に保持することが可能になり、有機EL用マスク2の平面性が高くなる。
【0035】
なお、ここでは、磁力により有機EL用マスク2を吸着保持するようにしているが、例えば真空吸着手段等の他の保持手段により保持させるものであってもよい。また、有機EL用マスク2は寝かせた状態(有機EL用マスク2表面の法線方向が垂直方向)で保持するものであってもよい。この場合には、マグネットや真空吸着等の手段は不要になる。
【0036】
図1に戻って、レーザ走査手段4について説明する。レーザ走査手段4はレーザ光源41とガルバノミラー42とガルバノ駆動部43とを備えて概略構成している。レーザ光源41はレーザ光を発振する光源になっている。
【0037】
レーザ光源41はZ方向下方に向けてレーザ光が発振されるように配置されており、レーザ光の入射位置にガルバノミラー42を配置している。ガルバノミラー42は有機EL用マスク2の表面にレーザ光を走査させる反射ミラーであり、ミラーを高速に微小振動させることにより、レーザ光の反射方向が変化する。これにより、レーザ光の走査が行われる。レーザ光の走査は有機EL用マスク2の所定エリア(クリーニングエリア)に対して行う。従って、レーザ光をX方向に走査して1本のスキャンラインを形成し、このスキャンラインをZ方向に微小シフトさせることによりエリア(面)の走査を行う。クリーニングエリアを有機EL用マスク2の全面に設定したときには全面の洗浄が行われるが、一部のエリアに設定してもよい。
【0038】
ガルバノミラー42にはガルバノ駆動部43が取り付けられており、このガルバノ駆動部43がガルバノミラー42を振動させている。以上のレーザ光源41とガルバノミラー42とガルバノ駆動部43とによりレーザ走査手段が構成される。このレーザ走査手段の制御を行うのが図3で示すレーザ制御部50である。
【0039】
レーザ制御部50はレーザ制御手段であり、光源制御部51とガルバノ制御部52と設定部53とを備えて概略構成している。光源制御部51はレーザ光源41の制御を行っている。レーザ光源41は非常に時間幅の短いパルス(例えば、ナノオーダー以下)に同期してレーザ光を発振するパルスレーザになっている。つまり、発振状態と停止状態とを繰り返す間欠的な照射になる。レーザ光源41をパルスレーザとすることで、レーザ光のエネルギーを集中させて高いピークを得ることができる。光源制御部51はレーザ光源41に対してパルス幅のデータを出力し、レーザ光源41はこのパルス幅に基づいてレーザ光を発振している。また、光源制御部51はレーザ光源41の発振強度を制御しており、任意の発振強度でレーザ光を発振可能にしている。
【0040】
ガルバノ制御部52はガルバノ駆動部43の制御を行っている。ガルバノ制御部52からガルバノ駆動部43にはガルバノミラー42の振動量のデータが出力されており、当該データに基づいてガルバノ駆動部43がガルバノミラー42を振動させる。これは、前記のパルス幅の時間の間にガルバノミラー42を振動させる振動量や、スキャンラインを変化させるときに振動させる振動量等を含むデータになる。ガルバノ制御部52がガルバノ駆動部43を制御することにより、レーザ光の走査が行われる。なお、ガルバノ駆動部43は光源制御部51からパルス幅のデータを入力している。
【0041】
設定部53は光源制御部51とガルバノ制御部52とに接続されており、光源制御部51には発振強度のデータを出力し、ガルバノ駆動部43には走査モードのデータを出力している。設定部53から出力される発振強度のデータに基づいて、光源制御部51はレーザ光源41の発振強度を調整する。また、後述するように、レーザ光の走査には2つの走査モードがあり、何れの走査モードを選択するかによって、ガルバノミラー42の振動制御が異なるようになる。このため、走査モードのデータが設定部53からガルバノ制御部52に出力される。なお、光源制御部51に対して発振強度を直接的に設定でき、ガルバノ駆動部43に対して走査モードを直接的に設定できるのであれば、設定部53を設けなくてもよい。
【0042】
図3(b)はレーザ制御部50の内容をコンピュータにより実現する際のハードウェアブロック図を示しており、CPU54とメモリ55と記憶部56と入力部57と出力部58とバス59とを備えて概略構成している。CPU54はレーザ制御部50の制御内容が記憶されているプログラムを実行しており、メモリ55はプログラムを一時的に記憶する。記憶部56はその他の必要なデータを記憶しており、入力部57は各種設定内容を手動で入力可能な手段となっており、例えば走査モードを選択できるようになっている。出力部58はレーザ光源41およびガルバノ駆動部43に接続されるインターフェイスであり、各種データをそれぞれに出力する。
【0043】
図1に戻って、搬送空気流形成手段6について説明する。搬送空気流形成手段6は送風部61と吸風部62とを備えて概略構成している。送風部61はY方向に延びる2本の支柱からなる送風支持部63に取り付けられており、吸風部62も同様にY方向に延びる2本の支柱からなる吸風支持部64に取り付けられている。また、送風支持部63と吸風支持部64とはそれぞれベース1に取り付けられている。吸風部62には回収部65が設けられており、吸引した遊離物質を回収部65が回収する。
【0044】
送風部61にはスリット長が長く、スリット幅が短い送風スリット61Sが形成されている。同様に、吸風部62にもスリット長が長く、スリット幅が短い吸風スリット62Sが形成されている。送風スリット61Sと吸風スリット62SとはY方向において同じ位置に対向するようにして形成され、且つ有機EL用マスク2の表面から離間した位置に形成されている。送風スリット61Sからは下方に向けてエアが送風され、吸風スリット62Sは上方のエアを吸引するため、送風部61と吸風部62との間に空気流が形成される。この空気流を搬送空気流とする。なお、送風部61および吸風部62に設けたスリットにより搬送空気流を形成しているが、スリット以外の機構を採用してもよい。
【0045】
マスク移動手段7について説明する。マスク移動手段7は有機EL用マスク2を移動させる移動手段であり、移動テーブル71により概略構成されている。移動テーブル71はマスク保持部材3を垂直方向に立てた状態で固定的に取り付けて移動させるためのテーブルである。移動テーブル71としては、例えばボールネジ手段やリニアモータ手段、ロボット手段等を適用できる。移動テーブル71が移動することにより、有機EL用マスク2は垂直方向に立てられた状態で移動を行う。移動テーブル71はX方向に移動する例を示しているが、Y方向、Z方向に移動可能であってもよい。
【0046】
次に、動作について説明する。本発明では、レーザ光の走査モードが2つあり、何れの走査モードで動作するかは予め設定部53に設定されている。この走査モードの詳細については後述する。
【0047】
最初に、図示しない真空蒸着槽において有機EL用マスク2を用いてガラス基板20に蒸着材料を蒸着させた後に、洗浄槽内に配置した有機EL用マスククリーニング装置に有機EL用マスク2を搬入する。搬入時にはマスク保持部材3に有機EL用マスク2が当接した状態で、しかも垂直方向に立てられた状態で保持されている。この状態で、移動テーブル71により、有機EL用マスク2を搬送空気流形成手段6の位置にまでX方向に移動させて、その位置で停止する。
【0048】
有機EL用マスク2を停止した状態でクリーニングを開始する。このクリーニングは有機EL用マスク2に向けてレーザ光を照射することにより行う。このクリーニングはレーザクリーニングになる。ここで、レーザクリーニングについて説明する。レーザクリーニングは、有機EL用マスク2に付着している蒸着物質を除去するために、レーザ光を有機EL用マスク2に照射するクリーニングになる。有機EL用マスク2は蒸着物質が付着している面(表面)がレーザ光の照射方向に向くように配置されており、ガルバノミラー42で反射したレーザ光が有機EL用マスク2に照射される。
【0049】
レーザ光が有機EL用マスク2に照射されると、レーザ光の持つエネルギーにより有機EL用マスク2に熱衝撃が与えられ、或いは瞬間的に高温蒸気化することにより、付着している蒸着物質は除去される。除去された蒸着物質は極めて微小な粉体やガス等の遊離物質となって有機EL用マスク2から離間する。遊離物質の質量は極めて少ないものの重力は作用する。よって、有機EL用マスク2から離間した遊離物質は重力により落下する。そして、有機EL用マスク2から離間した方向には送風部61と吸風部62とにより搬送空気流が形成されており、離間した遊離物質は搬送空気流により補足されて吸風部62へと搬送されていく。これにより、有機EL用マスク2から離間した遊離物質が有機EL用マスク2に再付着しなくなる。
【0050】
レーザ光を有機EL用マスク2に照射することにより、熱衝撃或いは高温蒸気化することにより、蒸着物質が部分的に除去される。レーザ光の光路断面は円形になっており、しかもレーザ光は有機EL用マスク2の法線方向から入射することから、蒸着物質が除去される領域も円形になる。この円形の領域(除去領域)はレーザ光が有機EL用マスク2に照射されたときに形成されるスポットのスポット径と一致する場合もあり、またスポット径以上になる場合も、スポット径以下になる場合もある。しかし、いずれにしても、レーザ光を照射することにより蒸着物質が除去された領域は円形になる。なお、除去領域は完全な円形でなくても、実質的に円形であればよい。例えば、長径と短径との間に殆ど差がない楕円形も除去領域に含まれるものとする。
【0051】
レーザ光源41から発振されるレーザ光はパルスレーザになっており、時間幅が非常に短いパルスに同期してレーザ光が発振される。そして、ガルバノミラー42を微小振動させて反射角を高速に変化させることによって、有機EL用マスク2には微小ピッチ間隔で多数の円形の除去領域が形成される。
【0052】
そして、レーザ光を1方向(X方向)に走査してスキャンラインを形成して、このスキャンラインをスキャン方向に直交する方向(Z方向)に微小シフトさせることにより、面に対しての走査を行う。つまり、1つのスキャンラインは微小ピッチ間隔で1列に並ぶ多数の円形の除去領域により形成され、この除去領域の集合によるスキャンラインをZ方向に微小シフトさせることで、面の走査が行われる。
【0053】
このときの除去領域の間隔の設定や走査の仕方が第1の走査モードと第2の走査モードとで異なる。第1の走査モードでは、図4に示すように、1つのスキャンラインにおける隣接する除去領域(図中でRAとして示している)同士が部分的に重なるように、且つ隣接するスキャンラインにおける除去領域同士も部分的に重なるように走査を行う。このとき、除去領域同士の重なっている領域が少ない場合には、除去領域間に隙間を生じるが、重複部分の面積をある程度広げることで、隙間が生じなくなる。これにより、走査を行うエリアの全面に及ぶようにレーザ光が照射されるようになる。
【0054】
そして、各除去領域の中心と隣接する除去領域とが重複しないように走査を行う。レーザ光の強度分布はガウシアンとなっており、円形の除去領域の全体において中心の強度が最も高い。従って、除去領域中心においては、強力なエネルギーが有機EL用マスク2に作用する。このため、1つの除去領域の中心に他の除去領域が重なると、もともと強力なエネルギーが作用するポイント(除去領域中心)に対してさらにエネルギーが作用することになる。これにより、有機EL用マスク2(のあるポイント)に対して過剰なエネルギーが作用する。従って、除去領域と除去領域とが重なる部位に中心を含めないようにすることで、過剰なエネルギーを有機EL用マスク2に作用させないようにしている。
【0055】
以上の条件を満たすような間隔で多数の除去領域が形成されるようにレーザ光を走査している。このとき、除去領域の半径を「R」、隣接する除去領域の中心間の間隔およびスキャンラインのシフト量を「L」としたときに、「R<L≦√2×R」となるように制御を行う。図4に示すように、X方向とZ方向とに多数の除去領域が配列されており、1つのスキャンラインにおける除去領域間の間隔Lを中心が含まれないようにするために、「R<L」とする。これと共に、Z方向においても中心が含まれないようにするために、シフト量を同じLとして、「R<L」とする。
【0056】
そして、クリーニングエリアの全面に除去領域が及ぶようにするために、「L≦√2×R」とする。円形の除去領域の間に隙間が生じるのは、X方向とZ方向とに1つ離間した除去領域(斜め方向に隣接した除去領域)の中心間の間隔(Mとする)が除去領域の直径よりも大きくなった場合であり、このために「M≦2×R」にする必要がある。このとき、X方向およびZ方向に隣接する除去領域の中心間の間隔はLであり、MとLとの関係は「M=√2×L」になる。従って、「M≦2×R」を満たすようにするために、LとRとの関係が「L≦√2×R」にする必要がある。この条件を満たすようにすることで、除去領域と除去領域との間に隙間が生じなくなる。
【0057】
従って、「R<L≦√2×R」となるように、レーザ光を走査していく。この条件を満たすように、レーザ制御部50のガルバノ制御部52がガルバノ制御部52を制御している。除去領域の半径Rは既知である。レーザ光のスポット径と一致している場合には、Rはレーザ光のスポット径になる。一致していない場合でも、レーザ光の強度や蒸着物質の材料や有機EL用マスク2の素材等から半径Rを得ることはできる。また、前記のLは、1パルスの間に変化させるレーザ光の照射位置の変化量になる。つまり、1つのパルスでレーザ光がある位置に照射され、次のパルスでレーザ光が次の位置に照射されて、多数の除去領域が有機EL用マスク2に形成されるため、1パルスの間に変化したレーザ光の照射位置の変化量が前記のLになる。
【0058】
このために、ガルバノ制御部52は光源制御部51から1パルス幅(1パルスの時間)のデータを入力しており、この1パルスの間にガルバノ駆動部43をどの程度振動させてレーザ光の照射位置を変化させるかの振動量を決定する。そして、決定した振動量に基づいて、ガルバノ駆動部43によりガルバノミラー42を振動させる。これにより、除去領域の中心間の距離Lをコントロールすることができる。前述したように、除去領域の半径Rは既知であるため、距離Lが「R<L≦√2×R」を満たすように、ガルバノミラー42を振動させるようにする。また、同様に、1つのスキャンラインから次のスキャンラインに移行するときにZ方向に微小シフトさせるシフト量も前記のLになり、つまり「R<L≦√2×R」を満たすようなシフト量に設定する。
【0059】
以上の式を満たすようにレーザ光の走査を行っていくことで、走査を行うエリアの全面にレーザ光の除去領域を及ぼすことができるようになり、且つ有機EL用マスク2に対して過剰なエネルギーが作用しなくなる。
【0060】
次に、第2の走査モードについて説明する。前述したように、スキャンラインをZ方向にシフトさせていくことでクリーニングエリアの洗浄を行うが、第2の走査モードでは、各スキャンラインを奇数列のスキャンラインと偶数列のスキャンラインとにグループ分けを行う。そして、最初に全ての奇数列目のスキャンラインを走査し、その後に全ての偶数列目のスキャンラインを走査するようにする。勿論、先に偶数列目を走査してから次に奇数列目を操作するものであってもよい。従って、第2の走査モードではクリーニングエリアに対して2回の走査を行う。図5では、奇数列目のスキャンラインの除去領域を実線で示しており、偶数列目のスキャンラインの除去領域を仮想線で示している。
【0061】
1回目の走査(奇数列目のスキャンラインの走査)は各除去領域がそれぞれ隣接する除去領域と接するようにレーザ光の走査を行う。つまり、前述した場合と同様に、除去領域の半径を「R」、隣接する除去領域の中心間の間隔を「L」としたときに、1回目の走査は「L=2×R」となるように行う。このために、ガルバノ制御部52は光源制御部51からパルス幅のデータを入力して、1パルスの間に「L=2×R」だけレーザ光の照射位置が変化するようにガルバノ駆動部43を制御する。そして、1つのスキャンラインを形成し、当該スキャンラインをZ方向に微小シフトさせる。このときのシフト量も「L=2×R」となるようにシフトさせる。
【0062】
1回目の走査によりクリーニングエリアの全面にレーザ光が走査される。ただし、1回目の走査においては、除去領域と除去領域との間にレーザ光が照射されていない部分が生じる。これは、除去領域は円形をしているため、除去領域同士を接するようにして配列させた場合には、必ず隙間を生じるためである。そこで、2回目の走査(偶数列目のスキャンラインの走査)を行う。
【0063】
2回目の走査は、1回目の走査を行った位置からX方向とZ方向とにそれぞれ半径Rの分だけずらした位置から行う。つまり、1回目の走査により形成された除去領域と2回目の走査により形成される除去領域との間は、相互に直交する2方向(X方向およびZ方向)においてそれぞれ半径Rの分だけずれることになる。従って、最初に形成するスキャンラインは1回目の走査において最初に形成したスキャンラインからX方向およびZ方向に半径Rだけずらした位置から開始して走査を行う。そして、スキャンラインをZ方向に徐々にシフトさせていくが、このシフト量もLであり、「L=2×R」になる。そして、クリーニングエリアの全面を走査する。
【0064】
図5に示すように、1回目の走査により生じた隙間は2回目の走査により完全にカバーがされている。つまり、1回目と2回目との走査によりクリーニングを行う対象となるエリアの全面に及ぶようにレーザ光が照射される。そして、1回目と2回目とではX方向およびZ方向に半径Rの分だけずらした位置から走査を行っているため(走査を開始する基準位置をずらしているため)、1つの除去領域の中心と他の除去領域とが重なることがない。従って、高い洗浄度でクリーニングを行うことができ、且つ有機EL用マスク2に過剰なダメージを与えることがなくなる。
【0065】
なお、奇数列目の全てのスキャンラインの走査を1回目の走査として、偶数列目の全てのスキャンラインの走査を2回目の走査として行っているが、奇数列目のスキャンラインの走査と偶数列目のスキャンラインの走査とを交互に行って1回の走査を行うものであってもよい。この場合には、1つのスキャンラインの走査を終了する毎にX方向とZ方向とに半径Rの分だけずらすようにする。また、後述するように強度に差を持たせる場合には、その都度強度を変更するようにする。
【0066】
第1の走査モードと第2の走査モードとは何れも走査の態様が異なるものの、基本的にはクリーニングエリアの全面にレーザ光の照射が及ぶようになし、且つ1つの除去領域の中心に他の除去領域が重ならないようにするものである。従って、第1の走査モードと第2の走査モードとでは格別の差異はない。ただし、第2の走査モードは第1の走査モードに比べて有機EL用マスク2に対して与えるダメージを低減できるというメリットがある。
【0067】
第2の走査モードは、2回にわたってクリーニングを行うエリアの全面を走査する。1回目の走査により生じる隙間は円形の4つの除去領域に囲まれる領域になり、当該領域は1回目の走査により形成される各除去領域により分断された独立した領域(4つの円のそれぞれ1/4周により形成される領域:以下、残存領域)になる。従って、X方向とZ方向とに残存領域がマトリクス状に配列された形になる。そして、2回目の走査では、残存領域を含むようにレーザ光を走査していく。
【0068】
各残存領域は周囲の蒸着物質が除去されており、しかも分断されていることから、1回目の走査により残存領域の蒸着物質の付着強度も大幅に弱化している。従って、1回目の走査のときにレーザ光に持たせた強度よりも低い強度を2回目の走査のときのレーザ光に持たせたとしても、残存領域の蒸着物質を十分除去することができる。そこで、光源制御部51はレーザ光源41の発振強度を1回目よりも2回目の方が低くなるように制御している。これにより、2回目の走査におけるレーザ光の強度を低くすることができるようになり、有機EL用マスク2に作用するエネルギーを少なくすることができる。ただし、残存領域の蒸着物質にもある程度の付着強度が残っていることから、除去できる程度の発振強度を2回目の走査のときのレーザ光に持たせるようにする。
【0069】
また、レーザ光源41の発振強度の切り替えにはある程度の時間を要するが、第2の走査モードでは走査回数を2回に分けているため、切り替え時間に余裕を持たせることができる。つまり、1回目の走査はクリーニングエリアの全面に行い、その後に2回目の走査を当該エリアの全面に行う。従って、1回目の走査と2回目の走査との切り替え時にある程度の時間的な余裕があるため、この時間にレーザ光源41の発振強度を切替えることができるようになる。
【符号の説明】
【0070】
2 有機EL用マスク 4 レーザ走査手段
41 レーザ光源 42 ガルバノミラー
43 ガルバノ駆動部 50 レーザ制御部
51 光源制御部 52 ガルバノ駆動部
52 ガルバノ制御部 53 設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を走査して有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング方法であって、
前記有機EL用マスクに対して前記レーザ光を間欠的に照射して走査を行うときに、前記レーザ光を照射することにより除去される前記蒸着物質の円形の除去領域を部分的に重ねることでクリーニングエリアの全面に前記除去領域が及ぶようになし、且つ1つの除去領域の中心と他の除去領域とが重ならないように走査したこと
を特徴とする有機EL用マスククリーニング方法。
【請求項2】
複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向と直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、
前記スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔および前記スキャンラインのシフト量をL、各除去領域の半径をRとしたときに、
「R<L≦√2×R」となるように走査すること
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング方法。
【請求項3】
複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向に直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、
各スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔と奇数列目のスキャンライン間の間隔と偶数列目のスキャンライン間の間隔とをL、各除去領域の半径をRとしたときに「L=2×R」となるように、且つ奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとをスキャン方向およびスキャン方向に直交する方向にそれぞれ半径Rの分だけずらして走査したこと
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング方法。
【請求項4】
奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとのうち一方のスキャンラインを全て走査した後に他方のスキャンラインを走査し、
先に走査する方のスキャンラインよりも後に走査するスキャンラインのレーザ光の強度を低く設定したこと
を特徴とする請求項3記載の有機EL用マスククリーニング方法。
【請求項5】
コンピュータに請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング方法の手順を実行させるためのプログラム。
【請求項6】
レーザ光を走査して有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング装置であって、
前記有機EL用マスクに前記レーザ光を間欠的に走査させるレーザ走査手段と、
前記レーザ光を照射することにより除去される前記蒸着物質の円形の除去領域を部分的に重ねることでクリーニングエリアの全面に前記除去領域が及ぶようになし、且つ1つの除去領域の中心と他の除去領域とが重ならないように前記レーザ走査手段の制御を行うレーザ制御手段と、
を備えたことを特徴とする有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項7】
前記レーザ制御手段は、
複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向と直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、前記スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔および前記スキャンラインのシフト量をL、各除去領域の半径をRとしたときに、「R<L≦√2×R」となるように前記レーザ走査手段の制御を行うこと
を特徴とする請求項6記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項8】
前記レーザ制御手段は、
複数の前記除去領域が1方向に配列されるように走査したスキャンラインをスキャン方向に直交する方向にシフトさせて走査を行うときに、各スキャンラインにおける隣接する2つの除去領域の中心間の間隔と奇数列目のスキャンライン間の間隔と偶数列目のスキャンライン間の間隔とをL、各除去領域の半径をRとしたときに「L=2×R」となるように、且つ奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとをスキャン方向およびスキャン方向に直交する方向にそれぞれ半径Rの分だけずらすように前記レーザ走査手段の制御を行うこと
を特徴とする請求項6記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項9】
前記レーザ制御手段は、奇数列目のスキャンラインと偶数列目のスキャンラインとのうち一方のスキャンラインを全て走査した後に他方のスキャンラインを走査させ、先に走査する方のスキャンラインよりも後に走査するスキャンラインのレーザ光の強度を低く設定したこと
を特徴とする請求項8記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項10】
請求項6乃至9何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えたことを特徴とする有機ELディスプレイの製造装置。
【請求項11】
請求項10記載の有機ELディスプレイの製造装置により製造されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−62650(P2011−62650A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216359(P2009−216359)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】