説明

有機EL用マスククリーニング装置、有機EL用ディスプレイの製造装置、有機EL用ディスプレイおよび有機EL用マスククリーニング方法

【課題】有機EL用マスクに付着した蒸着物を除去するクリーニングを行うときに、基板に対して完全に非接触状態で蒸着物を除去しつつ、高い洗浄度を得ることを目的とする。
【解決手段】有機EL用マスク1に付着した蒸着物質61を除去する有機EL用マスククリーニング装置であって、有機EL用マスク1を立てた状態で保持するマスク昇降ユニット42と、有機EL用マスク1の一部または全部の領域に対して水平方向からレーザ光を走査させるレーザ洗浄部11と、有機EL用マスク1の開口部3に裏面1R側から走査面1S側に向けた空気流AFを形成する送気ノズル53と、レーザ光の走査位置よりも下方に配置され、レーザ走査部11の洗浄により有機EL用マスク1から飛散した遊離物質62の吸引を行うための吸引スリット62Sを斜め上方に向けた吸引ノズル63と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を走査することによりレーザ洗浄を行う有機EL用マスククリーニング装置、有機EL用ディスプレイの製造装置、有機EL用ディスプレイおよび有機EL用マスククリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイは、バックライトを必要としない低消費電力・軽量薄型の画像表示装置として利用されている。その構造としては、透明性のガラス基板上に有機EL薄膜層を積層しており、有機EL薄膜層は発光層を陽極層と陰極層とに挟み込むような構造を採用している。発光層はガラス基板上に有機材料を蒸着させて薄膜として形成させるものが多く用いられており、ディスプレイを構成する各画素の領域を3分割してRGBの3色の有機材料を蒸着させている。従って、各画素の3つの領域に異なる色の有機材料(有機色素材料)を蒸着させるために多数の開口部を形成した有機EL用マスク(シャドーマスク)を用いて蒸着を行う。
【0003】
蒸着プロセスを行うときには、ガラス基板だけではなく有機EL用マスクにも有機材料が付着する。有機EL用マスクは1つの蒸着プロセスだけに使用されるのではなく繰り返し使用されることから、次の蒸着プロセスを行うときに有機EL用マスクに蒸着物質が付着していると、蒸着物質がガラス基板上に落下して汚損させる可能性がある。また、有機EL用マスクに多数形成した開口部のエッジ部分にも有機材料が蒸着して、開口部の面積を部分的にまたは全面的に閉塞させる。開口部の全部を塞いだ場合はもちろん、部分的に塞ぐことにより開口面積に変化が生じただけでも、当該有機EL用マスクを用いた場合の蒸着精度は著しく低下し、また使用に耐え得るものではなくなる。従って、有機EL用マスクを定期的に(好ましくは、1つの蒸着プロセスを完了した後に)クリーニングして、蒸着物質の除去を行っている。
【0004】
有機EL用マスクのクリーニングとしては、界面活性剤等を用いたウェットクリーニングが主に行われている。ウェットクリーニングは有機EL用マスクに対して液体を供給して行うクリーニングである。しかし、クリーニングされる有機EL用マスクはミクロンオーダー(数十ミクロン程度)の極薄の金属板であり、ウェットクリーニング時に液圧が作用することにより歪みや変形等の大きなダメージが有機EL用マスクに与えられる。また、界面活性剤等の薬液を用いてウェットクリーニングを行うと、薬液供給機構および使用済みの薬液(排液)を処理する排液処理機構を要するため機構が複雑化し、また排液による環境汚染の問題もある。
【0005】
一方、ウェットクリーニングの薬液を用いないクリーニングとして、有機EL用マスクに対してレーザ光を照射して行うクリーニング(レーザクリーニング)に関する技術が特許文献1に開示されている。金属素材の有機EL用マスクにレーザ光を照射することにより、有機EL用マスクと有機材料との間に剥離力を作用させている。特許文献1の技術は、この剥離力により有機EL用マスクから有機材料を除去してクリーニングを行うものである。
【0006】
この特許文献1の技術では、有機EL用マスクにレーザ光を照射して付着した有機材料を剥離させているが、クリーニングを行う槽内或いは大気の汚染を防止するために、剥離後の有機材料が有機EL用マスクから離間しないようにしている。このため、剥離後の有機材料を除去するために、粘着性のフィルムを用いている。このフィルムには、剥離した有機材料を転写するために粘着力を持たせており、フィルムを有機EL用マスクに貼り付けた状態でレーザ光を照射し、有機EL用マスクから剥離した蒸着物質をフィルムに転写させている。そして、有機材料が転写したフィルムを有機EL用マスクから剥離することにより、クリーニングプロセスを完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−169573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、有機EL用マスクは極薄の金属板であり、極めて微小な力が作用しただけでも、歪みや変形等を生じてダメージが与えられる。しかも、近年の有機ELディスプレイの大画面化に伴い、有機EL用マスクのサイズも大型になっており、大型且つ極薄の有機EL用マスクの取り扱いは極めてデリケートでなければならない。特許文献1の技術では、有機EL用マスクからのフィルムの剥離は粘着力に抗して引き剥がすようにして行なっているため、有機EL用マスクに過剰な剥離力が作用する。その結果、有機EL用マスクには歪みや反り等が発生し、甚大なダメージが与えられる。
【0009】
つまり、特許文献1では、レーザ光により有機EL用マスクから有機材料を剥離するものの、剥離した有機材料を除去するためにフィルムを有機EL用マスクに接触させており、結局は非接触でクリーニングが完了するものではない。また、フィルムとしてはレーザ光が透過する素材(ポリエチレンテレフタレート)を用いているが、透過性のフィルムを用いたとしてもレーザ光に減衰は生じる。このため、十分なエネルギーを有機EL用マスクに対して与えられず、高いクリーニング効果を発揮できなくなるおそれもある。そして、フィルムの貼り付けおよび剥離を行うための専用の機構を要するため、機構が複雑化し、また装置が大型化になるという問題もある。特に、有機EL用マスクが大型サイズになればフィルムのサイズも大型になり、機構の複雑化・装置の大型化といった問題はより顕著になる。
【0010】
このため、フィルムを用いることのない完全に非接触状態で有機EL用マスクのクリーニングを行うことが望ましい。有機EL用マスク表面に対してレーザ洗浄を行うと、蒸着物質には剥離力が作用するとともに、レーザ光のエネルギーにより蒸着物質は分解されて粉体やガス等の遊離物質として有機EL用マスクの表面から上方に飛散しようとする。前述のフィルムが有機EL用マスクに貼り付けられているのであれば、遊離物質はフィルムに転写するが、有機EL用マスクに対するダメージ回避の観点からフィルムを用いない場合には、飛散した遊離物質が重力により有機EL用マスクに落下して再付着する。このため、レーザ洗浄を行ったにもかかわらず、有機EL用マスクの洗浄度は低いものになり、さらに有機EL用マスクに多数形成してある開口部から有機EL用マスクの裏面に遊離物質が回り込んで付着するようになる。裏面に遊離物質が付着すると、新たな基板の蒸着を行うときに基板に転写して汚損させてしまい、結果として洗浄度の低下を招来する。
【0011】
また、特許文献1のように有機EL用マスクを水平状態に配置した状態で上部からレーザ洗浄を行う方式にあっては、極薄の有機EL用マスクに撓みが生じるおそれがある。前述したように、マスクサイズの大型化に伴ってマスク金属板も重量化の傾向にあることから、ミクロンサイズの有機EL用マスクを平面状態で維持することは極めて困難であり、水平状態に配置したときには大きな撓みが生じる。有機EL用マスクに撓みが生じると、有機EL用マスクの端部位置と中央位置とでは高さ位置に大きな差が生じてしまい、レーザ光源からの焦点位置に対してずれを生じるようになる。このため、撓みが生じている部位におけるレーザ光の強度が弱くなり、当該部位の洗浄度が大幅に低下する。
【0012】
そこで、本発明は、有機EL用マスクに付着した蒸着物を除去するクリーニングを行うときに、基板に対して完全に非接触状態で蒸着物を除去しつつ、高い洗浄度を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1の有機EL用マスククリーニング装置は、有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング装置であって、前記有機EL用マスクを立てた状態で保持するマスク保持手段と、前記有機EL用マスクの一部または全部の領域に対して水平方向からレーザ光を走査させるレーザ洗浄手段と、前記有機EL用マスクの開口部に裏面側から走査面側に向けた空気流を形成する空気流形成手段と、前記レーザ光の走査位置よりも下方に配置され、前記レーザ洗浄手段の洗浄により前記有機EL用マスクから飛散した遊離物質の吸引を行うための開口部を斜め上方に向けた吸引手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、立てた状態で保持している有機EL用マスクの裏面側から空気流を形成しているため、蒸着物質が分解されて飛散した遊離物質が有機EL用マスクの開口部に入り込まないようになる。そして、遊離物質は吸引手段により強制的に吸引されるようになる。これにより、有機EL用マスクに遊離物質が再付着することがなくなり、高い洗浄度が得られるようになる。しかも、有機EL用マスクは立てた状態で保持していることからマスクに撓みが生じることはなく、高い洗浄度でクリーニングを行うことができる。そして、レーザ光を走査して飛散した遊離物質を吸引させていることから完全に非接触で洗浄を行うことができ、有機EL用マスクにダメージを与えることもない。
【0015】
本発明の請求項2の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置において、前記吸引手段は前記レーザ光の走査部位に追従して動作することを特徴とする。
【0016】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、吸引手段はレーザ光の走査部位に追従して動作することから、レーザの走査部位の直近位置に吸引手段を配置することができるようになる。有機EL用マスクから飛散した遊離物質を直近位置に設けた吸引手段で強制的に吸引することにより、広範囲に分散する前に遊離物質を確実に回収することができるようになる。吸引手段の追従動作により、走査部位と吸引手段とは常に一定の間隔を維持するため、有機EL用マスクの部位によって洗浄度に差ができることもなく、高度且つ均一な洗浄度が得られるようになる。
【0017】
本発明の請求項3の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置において、前記吸引手段が吸引する風圧を前記空気流形成手段の空気流の風圧よりも大きくしたことを特徴とする。
【0018】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、大きい風圧で吸引ができることから、遊離物質を効率的に吸引することができるようになり、有機EL用マスクに蒸着物質が残存していたとしても吸引風の風圧をある程度大きくできるため引き剥がすようにして吸引できるようになる。吸引手段からの風圧を大きくしたとしても、吸引風は斜めから有機EL用マスクに対して作用するため、それほど大きく撓むことはない。
【0019】
本発明の請求項4の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置において、前記空気流形成手段はイオン風により前記空気流を形成していることを特徴とする。
【0020】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、空気流形成手段が形成する空気流をイオン風としている。飛散した遊離物質は静電気によりプラスまたはマイナスに帯電しており、裏面側から走査面側に向けた空気流を逆の特性を持つ微弱なイオン風とすることにより、有機EL用マスクの開口部から抜けたイオン風により遊離物質を効率的に吸引手段に導くことが可能になる。
【0021】
本発明の請求項5の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置において、前記レーザ走査手段は、前記有機EL用マスクの洗浄を行う領域の最上部から水平方向に1ラインの走査を行い、この1ラインの走査を順次下方に向けて行い、前記空気流形成手段と前記吸引手段とに前記1ライン分の長さを設けて、前記レーザ走査手段の1ライン分の走査ごとに順次下方に向けて下降させていくことを特徴とする。
【0022】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、水平方向の1ラインを順次下方に向けて走査していることで、上方の洗浄において飛散した遊離物質が有機EL用マスクに再付着したとしても、再付着する箇所は後にレーザ洗浄が行われる箇所であり、高い洗浄度が得られるようになる。
【0023】
本発明の請求項6の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置において、前記マスク保持手段は垂直方向から若干傾斜した状態で前記有機EL用マスクを保持していることを特徴とする。
【0024】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、垂直方向から若干傾斜させて有機EL用マスクを保持しているため、垂直方向に保持しているよりは有機EL用マスクに遊離物質が再付着しにくくなる。
【0025】
本発明の請求項7の有機EL用ディスプレイの製造装置は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えていることを特徴とする。また、本発明の請求項8の有機ELディスプレイは、請求項7記載の有機ELディスプレイの製造装置により製造されたことを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項9の有機EL用マスククリーニング方法は、有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング方法であって、前記有機EL用マスクを立てた状態で保持し、前記有機EL用マスクの一部または全部の領域に対して水平方向からレーザ光を走査するときに、前記有機EL用マスクの開口部に裏面側から走査面側に向けて空気流を形成し、前記レーザ光の走査位置よりも下方に配置した吸引手段に前記レーザ洗浄の洗浄により前記有機EL用マスクから飛散した遊離物質を吸引させていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、垂直方向に立てた状態で保持している有機EL用マスクに対して裏面側から空気流を形成しているため、レーザ洗浄を行っているときに遊離物質が裏面側に付着することはない。そして、飛散および落下する遊離物質を吸引手段により強制的に吸引させていることから、遊離物質が拡散することなく有機EL用マスクへの再付着を防止でき、高い洗浄度を得ることができるようになる。有機EL用マスクは立てた状態で保持していることから撓みが生じることもなく、全ての領域に対して均等な強度のレーザ光を照射でき、高度且つ均一な洗浄度で洗浄を行うことができるようになる。そして、有機EL用マスクに対してレーザ洗浄を行い、飛散した遊離物質を吸引することにより除去しているため、完全に非接触状態で蒸着物質の除去が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】有機EL用マスクの平面図および断面図である。
【図2】有機EL用マスククリーニング装置の外観図である。
【図3】昇降機構の正面図である。
【図4】有機EL用マスククリーニング装置の側面図である。
【図5】送気ノズルから空気流を形成し、吸引ノズルから遊離物質を吸引している状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の有機EL用マスククリーニング装置により洗浄される対象となる有機EL用マスク1を示しており、同図(a)と(b)とはそれぞれ平面図と断面図とを示している。有機ELディスプレイを構成するガラス基板に高精度に蒸着物質を蒸着させるために、有機EL用マスク1をミクロンオーダーの厚みとすることにより、所定領域に正確に蒸着物質(有機材料)を形成することができるようになる。一方で、近年の有機ELディスプレイの大画面化に伴い、ガラス基板も大型サイズ(例えば、1500×1800mm)になっており、有機EL用マスク1のサイズも大型になっている。従って、極薄且つ大型の有機EL用マスク1は単体で平面状を維持することができず、保形性を持たせるために、外周部分に補強枠としての額縁状のマスクフレーム2を取り付けて構成している。なお、保形性を持たせるものであれば、マスクフレーム2以外の手段によるものであってもよい。
【0030】
有機EL用マスク1は金属を素材とし、規則的に配列された多数の開口部3を形成した金属マスク板(シャドーマスク)である。有機EL用マスク1には種々の金属を用いることができるが、ここではコバルトとニッケルとの合金が適用されるものとする。有機EL用マスク1は、発光層の有機材料を蒸着する図示しない蒸着装置において、前記のガラス基板に密着させた状態で、蒸発源から蒸着物質を蒸着させるようにしている。発光層の蒸着物質としては種々のものがあるが、例えばアルミニウム錯体(トリスアルミニウム:Alq)等の有機金属錯体を適用できる。なお、有機金属錯体以外の有機化合物(金属が含まれているか否かは問わない)を蒸着物質として適用するものであってもよい。蒸発源から蒸発した蒸着物質は、有機EL用マスク1の開口部3が形成されている部分から前記のガラス基板に蒸着する。これにより、画素に対応する領域に発光層としての蒸着物質を形成することができるようになる。
【0031】
蒸着時にはガラス基板だけではなく有機EL用マスク1にも蒸着物質が付着する。そこで、以下の有機EL用マスククリーニング装置を用いて、有機EL用マスク1のレーザ洗浄を行う。レーザ洗浄はドライ洗浄の1つであり、レーザ光を照射することにより有機EL用マスク1から蒸着物質を除去して洗浄を行うことである。なお、図1(a)において、有機EL用マスク1を6つの領域(エリアA1〜A6)に分割しているが、この点は後述する。
【0032】
図2は有機EL用マスククリーニング装置の外観を示している。この有機EL用マスククリーニング装置はマスク供給部10とレーザ走査部11と昇降機構12とを備えて概略構成しており、所定の洗浄チャンバ内に設置されている。マスク供給部10はベース21とテーブル固定柱22と起立テーブル23とマスク保持部材24とを備えて概略構成している。マスク供給部10には蒸着工程(有機材料を前記のガラス基板に蒸着する工程)を経て蒸着物質が付着した有機EL用マスク1が搬送される。ベース21はマスク供給部10の基台であり、ベース21には4本のテーブル固定柱22が立設されており、各テーブル固定柱22の上面に起立テーブル23が当接している。テーブル固定柱22は起立テーブル23を水平状態の姿勢に維持させるものである。
【0033】
起立テーブル23は回転軸25を備えており、この回転軸25を中心に90度回転する。図2の状態では起立テーブル23は水平状態になっており、90度回転することにより立てた状態になる。起立テーブル23には接離可能にマスク保持部材24が取り付けられており、マスク保持部材24に有機EL用マスク1が搭載される。このマスク保持部材24はマスクフレーム2とほぼ同様の額縁状の形状をしており、有機EL用マスク1に相当する領域は開口した状態になっている。そして、マスク保持部材24は有機EL用マスク1の外周に取り付けたマスクフレーム2の部分を適宜の保持手段(クランプやチャック、真空吸着等)により保持している。
【0034】
レーザ走査部11はレーザ光学系31と光学系移動部32とを備えて概略構成している。レーザ光学系31はレーザ光源33とガルバノミラー34とを備えている。レーザ光源33は所定波長のレーザ光の発振を行うものであり、有機EL用マスク1の金属素材が反応するような波長のレーザ光を発振する。有機EL用マスク1がコバルトとニッケルとの合金である場合には、当該合金が反応する波長域である532nm近傍のレーザ光を発振するように設定する。なお、有機EL用マスク1が他の金属素材である場合には、当該素材が反応するレーザ光を発振するようにする。
【0035】
レーザ光源33から発振したレーザ光の入射位置にガルバノミラー34を配置している。ガルバノミラー34は入射したレーザ光の光路を変換する反射ミラーであり、入射するレーザ光に対して45度の角度を形成するように配置している。このため、ガルバノミラー34により反射したレーザ光の光路は90度変換して有機EL用マスク1に向かう。ガルバノミラー34は図示しない駆動装置により微小振動がされるようになっており、この振動によりレーザ光の反射角を高速に微小変化させる。ここでは、図2のY方向およびZ方向に反射角を変化させるように振動させるものとする。これにより、有機EL用マスク1のY方向およびZ方向の所定領域に対してレーザ光を走査させることができるようになる。レーザ光源33から発振したレーザ光は最終的に有機EL用マスク1の走査面(蒸着物質が付着している面)で焦点を結ぶようにしており、このためレーザ光源33から発振されるレーザ光を収束光とするか、或いは対物レンズ等の光学部品を用いて焦点を結ばせるようにしている。
【0036】
光学系移動部32はベース35とレール搭載テーブル36とY軸レール37とY軸移動テーブル38とを備えて概略構成している。ベース35は基台であり、このベース35にはレール搭載テーブル36が設置されている。レール搭載テーブル36の上面にはY軸レール37が設置されている。Y軸レール37は図2におけるY軸方向に延在させたレールであり、このY軸レール37を滑走するようにしてY軸移動テーブル38が設けられている。Y軸移動テーブル38にはレーザ光学系31が搭載されており、Y軸レール37に沿って移動することにより、レーザ光学系31全体をY軸方向の任意の場所に位置させることができるようになっている。このため、Y軸移動テーブル38に図示しない駆動機構(モータやボールネジ等)を取り付けており、後述するように所定のタイミングでレーザ光学系31を往復動作させるように駆動する。
【0037】
次に、昇降機構12について説明する。図2に示されるように、昇降機構12はマスク供給部10とレーザ走査部11との間に挟まれるようにして配置されている。図3は有機EL用マスク1を立てた状態で保持している昇降機構12の正面図を示している。図3に示すように、昇降機構12はY軸方向に離間した位置に2本の支柱41、41を立設しており、2つの昇降系統が昇降動作を行っている。このうち1つの昇降系統が有機EL用マスク1を昇降動作させるマスク昇降ユニット42である。
【0038】
マスク昇降ユニット42は、マスク保持部材24およびこれに保持される有機EL用マスク1を立てた状態で保持する手段であり、支柱41、41の内側を昇降動作する。つまり、有機EL用マスク1を立てた状態で保持するマスク保持手段は、マスク保持部材24とマスク昇降ユニット42とにより構成される。マスク昇降ユニット42がマスク保持部材24(或いは有機EL用マスク1)を保持するためには、例えばチャックやクランプ等の適宜の手段を用いることができる。ここでは、マスク昇降ユニットとしてクランプ部材を適用しており、このクランプ部材がマスク保持部材24を保持している。そして、このクランプ部材自身が昇降動作を行うものとする。この場合には、有機EL用マスク1を立てた状態で保持するマスク保持手段は、マスク保持部材24とマスク昇降ユニット42とにより構成される。勿論、有機EL用マスク1を立てた状態で保持することができれば、チャックや真空吸着等の任意の手段を用いて有機EL用マスク1或いはマスク保持部材24を保持させるようにしてもよい。そして、マスク保持部材24と起立テーブル23とは接離可能になっており、起立テーブル23からマスク保持部材24を切り離すことにより、有機EL用マスク1はマスク昇降ユニット42により昇降動作が可能になる。
【0039】
支柱41を昇降動作するもう1つの昇降系統がノズル昇降ユニット51である。ノズル昇降ユニット51は吸引ノズル52と送気ノズル53と連結部材54とを有して構成されている。吸引ノズル52は支柱41、41の間隔分の長さを有する細長のノズルであり、図2に示すように吸引スリット52Sを有している。吸引スリット52Sは有機EL用マスク1の幅以上の長さで構成されており、そのスリットを有機EL用マスク1に向けた斜め上方に開口させるようにしている。従って、吸引ノズル52は自身の斜め上方の外気を吸引するようになる。また、吸引ノズル52は常に吸引を行うようにしている。
【0040】
一方、送気ノズル53も送気スリット53Sを有しているが、吸引ノズル52よりも遥かに微弱な空気流を送り出す。送気ノズル53は送風を行うというよりは、むしろ有機EL用マスク1に向かう殆ど風圧の作用しない空気流を形成するためのものである。送気スリット53Sは吸引スリット52Sとは異なり、有機EL用マスク1に直交するようにして開口している(つまり、有機EL用マスク1の法線方向に開口している)。このため、送気スリット53Sからの空気流は有機EL用マスク1に向かって直交するように送り出される。また、送気スリット53Sの開口面積を吸引スリット52Sの開口面積よりも広くしている。これにより、微弱な空気流を広範囲にわたって形成できるようになる。なお、吸引ノズル52と同様に送気ノズル53も常に空気を送り出すようにしている。
【0041】
ここで、送気ノズル53から送り出される微弱な空気流を放電によって生じるイオンの泳動に励起させるイオン風としている。イオン風は空気中に電界を形成し、帯電粒子を直接加速することにより、帯電粒子と空間に存在する空気分子との間の相互作用によって生成される風になる。空気流をイオン風とすることで空気流自体にプラスまたはマイナスの極性を持たせることができるようになる。
【0042】
図2および図4に示すように、吸引ノズル52と送気ノズル53とは連結部材54により一体的に構成されており、Z方向の位置関係としては送気ノズル53のほぼ直下に吸引ノズル52が位置している。連結部材54はそれぞれの支柱41の外周に沿って図示しないモータやボールネジ等の駆動機構により上昇或いは下降動作を行う。そして、図3にも示すように、吸引ノズル52を送気ノズル53の高さよりも低い位置となるように連結部材54により両者を一体的に連結している。
【0043】
以上の構成における動作について説明する。まず、蒸着工程を経て蒸着物質が付着した有機EL用マスク1を搬入して、マスク保持部材24に有機EL用マスク1を保持するマスクフレーム2を保持させる。図4の実線がこの状態である。そして、回転軸25を中心に90度回転して起立テーブル23を立てた状態に直立させて、マスク昇降ユニット42に固定保持させる(立てた状態を破線で示す)。この状態で、マスク保持部材24をマスク昇降ユニット42に保持させることにより、有機EL用マスク1は立てた状態で保持されるようになる。そして、マスク保持部材24と起立テーブル23との接続を切り離して、起立テーブル23を90度回転して再び水平状態に戻すようにする。
【0044】
起立テーブル23を水平状態に戻す作業と並行して、或いはこの作業の終了後に、マスク昇降ユニット42を下降させる。このときの下降位置は有機EL用マスク1の最上端がレーザ光学系31よりも低い位置になるように下降させる。そして、マスク昇降ユニット42を所定時間ごとに所定距離を上昇させて有機EL用マスク1をレーザ光学系31の正面に位置させるようにしてレーザ光を有機EL用マスク1に走査させてレーザ洗浄を行う。
【0045】
ここで、レーザ洗浄について説明する。レーザ光源33から発振されるレーザ光は有機EL用マスク1の金属素材が反応をするような波長を有しており、有機EL用マスク1がコバルトとニッケルとの合金である場合には波長532nmの波長のレーザ光を発振するようにしている。このため、有機EL用マスク1の走査面でレーザ光が焦点を結ぶことにより、有機EL用マスク1の走査面は大きく熱膨張をするが、付着している蒸着物質は反応をしないために熱膨張をしない。これにより熱膨張の差により、付着している蒸着物質には分解エネルギーが作用する。この分解エネルギーが作用することにより、走査面に膜状となって付着している蒸着物質は微粒子状に分解されて遊離物質となる。この遊離物質は質量を殆ど有しない極めて微小な粉体やガスとなっており、蒸着物質が分解されることにより、有機EL用マスク1の走査面から飛散する。この点、レーザ光の強度を過剰に高く設定する必要はなく、付着している蒸着物質を分解して飛散させる程度のものであればよく、有機EL用マスク1に与えるダメージを抑制するために、勢い良く走査面から遊離物質を飛散させるような強度を与える必要はない。具体的には、遊離物質を走査面から離間させて吸引風が吸引するような強度であればよい。
【0046】
レーザ光は有機EL用マスク1の走査面において極めて微小なスポット径で焦点を結ぶ。そして、ガルバノミラー34がY方向およびZ方向に焦点位置を変化させていくことで走査が行われる。このとき、Y方向およびZ方向の所定領域を走査するため、領域内において入射角に大きな差を持つことにより光路長が変化する。光路長が大きく変化すると、光軸方向における焦点位置にずれが生じてしまい、所定の強度で有機EL用マスク1にレーザ光を入射させられなくなる。そこで、大型サイズの有機EL用マスク1を、図1に示すように6つの領域(エリアA1〜A6)に分割して走査を行うようにしている。小さな領域に分割させることにより、入射角にそれほど差を生じなくなり光路長はそれほど変化しなくなる。なお、有機EL用マスク1が小型の場合にはエリアを分割する必要はないし、非常に大型の場合にはさらに多くのエリアに分割するようにしてもよい。
【0047】
まず、最初にエリアA1の走査を行う。このために、ガルバノミラー34における反射位置(ガルバノミラー34におけるレーザ光が反射するポイント)とエリアA1の中心位置とがY方向およびZ方向において一致するように位置調整を行う。このために、マスク昇降ユニット42がZ方向の位置調整を行い、光学系移動部32がY方向の位置調整を行う。まず、マスク昇降ユニット42を下方位置から上昇させて、Z方向におけるエリアA1の中間位置とガルバノミラー34における反射位置とを一致させる。これにより、Z方向の位置調整は完了する。次に、光学系移動部32のY軸移動テーブル38をY軸レール37に沿って移動させて、Y方向におけるエリアA1の中間位置とガルバノミラー34における反射位置とを一致させるようにする。
【0048】
以上によりレーザ光の反射位置とエリアA1の中心位置とがY方向およびZ方向において一致する。これにより、ガルバノミラー34で反射したレーザ光がエリアA1の中心位置に入射したときに90度の角度で入射させることができるようになる。
【0049】
前記の位置調整を行った後に、まず最上端からエリアA1をY方向に1ライン分走査する。このために、ガルバノミラー34を微小振動させる。そして、1ライン分の走査終了後にZ方向下方に1ライン分ずらした状態で再び1ライン分の走査を行う。このときのY方向の走査方向は直前の1ライン分の走査とは逆方向になり、つまり往復動作するように走査を行っていく。以下、順次Y方向の走査を1ライン分ごとにZ方向下方にずらしながら走査を行っていき、エリアA1の最下端の1ライン分の走査終了後に、エリアA1のレーザ洗浄を完了する。
【0050】
そして、本発明では、吸引風および空気流を形成しながらレーザ光の走査を行っている。このために、レーザ光の走査に追従させながら吸引ノズル52および送気ノズル53を下降させるようにしている。ノズル昇降ユニット51は、マスク昇降ユニット42がマスク保持部材24を保持するまではZ方向における最上部位置で待機しており、レーザ洗浄が開始する前までには、エリアA1の最上端に送気ノズル53が位置するまで下降する。
【0051】
図5において、有機EL用マスク1に対してレーザ光Lが入射すると、走査面1Sが熱膨張して付着していた蒸着物質61が分解して、極めて微小な遊離物質62となって走査面1Sから離間する方向に飛散する。飛散した遊離物質62には重力が作用するため、走査面1Sから離間した位置で落下しようとする。ただし、遊離物質62にはもともと走査面1Sから離間する方向に飛散する力が作用しており、これに重力が加わることにより、遊離物質62は斜め下方に向かって落下しようとする。
【0052】
そして、走査面1Sのレーザ光の走査位置の直下には吸引ノズル52が位置している。吸引ノズル52は吸引スリット52Sを走査面1Sに対して斜め上方を向いており、吸引風AWにより強制的に遊離物質62が吸引される。しかも、遊離物質62の進行方向と吸引風AWの吸引方向とは一致しており、両者の作用により高い回収効率で遊離物質62が吸引ノズル52に吸引される。これにより、遊離物質62が広範囲に分散することがなく、有機EL用マスク1に再付着しなくなり、高い洗浄度が得られるようになる。
【0053】
有機EL用マスク1にレーザ光を走査させれば蒸着物質61は遊離物質62となって飛散するが、なお有機EL用マスク1に蒸着物質61が残存する可能性もある。ただし、レーザ光Lのエネルギーにより分解力は作用しており、付着強度は大幅に弱化している。このとき、レーザ光Lの走査部位の直下に吸引ノズル52を設けてあり、吸引ノズル52からは大きな風圧の吸引風AWが蒸着物質61に作用するため、付着強度が弱化していれば引き剥がすようにして走査面1Sから除去できるようになる。しかも、吸引風AWは走査面1Sに対して斜め方向から作用しており法線方向から作用する場合に比べてその風圧は非常に小さなものとなるため、有機EL用マスク1に風圧によるダメージが与えられることはない。
【0054】
次に、空気流AFについて説明する。送気ノズル53は有機EL用マスク1の裏面1R(走査面1Sの反対面)に向けて直交方向から空気流AFを送り出している。送気ノズル53は有機EL用マスク1におけるレーザ光の走査部位を含むような高さに設定しておき(つまり、Z方向におけるレーザ光の高さと送気ノズル53の高さとをほぼ同じに設定する)、有機EL用マスク1に向けて空気流AFを送り出している。送気スリット53Sは吸引スリット52Sよりも開口面積を広く形成しており、比較的広範囲にわたって空気流AFを送り出すようにしている。
【0055】
レーザ光の走査により遊離物質62は走査面1Sから離間する方向、つまり裏面1Rとは反対方向に向かって飛散して、吸引ノズル52により吸引されていく。ただし、無数に分散された遊離物質62はそれぞれが殆ど質量を持たない粉体やガス等であるため、ごく僅かな一部の遊離物質62が有機EL用マスク1に向かう可能性がある。このとき、有機EL用マスク1の開口部3から裏面1Rに回り込んで付着すると、次に同じ有機EL用マスク1を使用して蒸着を行うときに、裏面1Rに付着した遊離物質62が新たなガラス基板に転写して汚損する。
【0056】
そこで、送気ノズル53から空気流AFを形成しておき、開口部3に遊離物質62が入り込まないようにブロックしている。これにより、裏面1Rに遊離物質62が付着しなくなる。空気流AFは遊離物質62が開口部3に入り込まないようにブロックしているものであるが、遊離物質62は極めて微小な粉体やガス等であるため、僅かな空気の流れによっても大きな力が作用する。これにより、開口部3に向かう遊離物質62は吸引ノズル52に向かう方向に移動しようとする。つまり、空気流AFは裏面1Rに回りこまないようにブロックしているだけではなく、吸引風AWに向けて移動させるようにアシストも行っている。
【0057】
また、送気スリット53Sの開口面積を広く持たせていることは前述したとおりである。レーザ光Lの走査により飛散した無数の遊離物質62は広範囲に分散しようとするため、局所的に空気流AFを形成するのではなく広範囲に空気流AFを形成することが望ましい。そこで、送気スリット53Sを少なくとも吸引スリット52Sよりも広く形成し、最も望ましくは有機EL用マスク1の裏面1Rの全面に対して空気流AFを形成するようにする。全面に対して微弱な空気流AFを形成することにより、裏面1R側は陽圧状態になり、有機EL用マスク1の全面にわたってブロックすることができるようになる。
【0058】
そして、遊離物質62は分解および飛散したときに、摩擦によって静電気を発生しプラスまたはマイナスに帯電をする。いずれの極性に帯電するのかは遊離物質62の材質、つまり蒸着物質61に材質により決定される。そして、空気流AFに微弱なイオン風を用いており、空気流AF自体にプラスまたはマイナスの何れかの極性を持たせるようにしている。そこで、遊離物質62の材質により帯電する極性と逆の極性を持たせたイオン風として空気流AFを発生させる。前述したように、空気流AFは吸引風AWに向けて遊離物質62を移動させるようにアシストを行っているものであり、この空気流AFを遊離物質62とは逆の特性を持つイオン風としていることから、効率的に遊離物質62を吸引風AWに導くことができる。これにより、極めて高い回収効率で吸引ノズル52に遊離物質62を回収させることができるようになる。
【0059】
以上により、裏面1R側から空気流AFを送り出しながら、また吸引風AWにより遊離物質62の吸引を行いながら、エリアA1の最上端の1ライン分の走査を行う。そして、1ライン分の走査終了後にガルバノミラー34の反射方向をZ方向に1ライン分下げることにより次のY方向の1ライン分の走査を行う。このとき、ラインの変化に追従して、つまりレーザ光の走査に追従して、ノズル昇降ユニット51も1ライン分下降させる。これにより、Z方向におけるレーザ光Lの照射位置と吸引ノズル52および送気ノズル53との相対位置関係は一定になるため、常に一定の高い吸引効率で遊離物質62の吸引を行うことができるようになる。このために、レーザ光の走査位置はガルバノミラー34の反射角によって決定されるため、ガルバノミラー34の駆動装置とノズル昇降ユニット51の昇降機構とを接続して同期させることにより追従が可能になる。例えば、コンピュータ等の制御装置が両者を同期させて追従させる追従手段となる。
【0060】
以上によりエリアA1のレーザ洗浄が終了する。次に、エリアA2のレーザ洗浄を行う。この場合には、Y軸移動テーブル38をY方向に移動させて、エリアA2の中間位置とガルバノミラー34における反射位置とをY方向に一致させる。エリアA2はZ方向においてはエリアA1と同じであるため、マスク昇降ユニット42は昇降動作をさせない。ただし、ノズル昇降ユニット51はエリアA1の最下端に位置しているため、これを最上端に位置させるように上昇させる。そして、吸引ノズル52による吸引風AWおよび送気ノズル53による空気流AFを形成しながら、レーザ光LにエリアA2の1ラインを走査させ、走査終了後にノズル昇降ユニット51に追従させながら、次の1ラインの走査を行う。以上の動作を最下端まで行って、エリアA2のレーザ洗浄を終了する。
【0061】
次に、エリアA4のレーザ洗浄を行う。このときには、マスク昇降ユニット42を上昇させて、Z方向においてエリアA4の中間位置とガルバノミラー34における反射位置とを一致させる。そして、ノズル昇降ユニット51を上昇させてエリアA4の最上端に位置させて、順次下方に向かって1ラインずつレーザ洗浄を行っていく。エリアA4のレーザ洗浄終了後にエリアA3のレーザ洗浄を行い、その次にエリアA5およびエリアA6のレーザ洗浄を行って、有機EL用マスク1のレーザ洗浄を完了する。
【0062】
このように、Z方向において上方にあるエリアA1、A2から下方に向かってレーザ洗浄を行っていくことで、仮に遊離物質62が吸引ノズル52に吸引されず有機EL用マスク1の何れかの部位に再付着するとしても、遊離物質62は重力により落下するため、レーザ光の走査部位よりも下方において再付着する。このため、仮に再付着したとしても、当該部位は後に必ずレーザ洗浄がされることから、格別の問題はない。
【0063】
本発明では、垂直方向に立てた状態で保持している有機EL用マスク1の裏面1Rから空気流AFを形成しながらレーザ光Lを走査させているため、裏面1Rに遊離物質62が付着することはなくなる。飛散した無数の遊離物質62は吸引ノズル52に吸引させていることから、遊離物質62が分散しなくなり有機EL用マスク1に再付着せず、高い洗浄度が得られるようになる。有機EL用マスク1は立てた状態で保持していることからレーザ洗浄時に撓みを生じることがないことから焦点位置にずれを生じなくなり、高度且つ均一な洗浄度が得られるようになる。そして、レーザ光Lの走査により蒸着物質61を遊離物質62として飛散させて吸引ノズル52に回収させているため、完全に非接触のレーザ洗浄を行うことができ、有機EL用マスク1にダメージを与えることもない。
【0064】
以上において、マスク供給部10に対して水平状態の姿勢で有機EL用マスク1が搬送され、起立テーブル23により90度回転して立てた状態にしているが、立てた状態で有機EL用マスククリーニング装置に搬入して、そのままマスク昇降ユニット42に受け渡すようにしてもよい。これにより、水平状態から立てた状態に姿勢を変化させる作業がなくなり、また機構的にも簡略化するという効果がある。
【0065】
また、吸引ノズル52に集塵装置を接続するようにしてもよい。集塵装置にフィルタやサイクロン等を用いることにより吸引風AWにより吸引されたものの中から遊離物質62だけを回収できるようになる。回収した遊離物質62は蒸着物質61であり、これを蒸着装置に供給することにより、蒸着物質61の再利用を図ることができるようになる。
【0066】
また、吸引ノズル52と送気ノズル53とに有機EL用マスク1の幅以上の長さを持たせているが、エリアA1〜A6の各エリアの長さ分を持たせるようにしてもよい。レーザ洗浄を行うエリア分の長さを吸引ノズル52と送気ノズル53とに持たせることにより前述した効果を得ることはできる。この場合には、Y方向にレーザ洗浄を行うエリアを変えたときには、吸引ノズル52と送気ノズル53とをY方向に移動させるようにする。
【0067】
また、以上の例ではガルバノミラー34を用いてY方向およびZ方向の走査を行っているが、レーザ光源33を高速動作させることによりレーザ洗浄を行うようにしてもよい。つまり、ガルバノミラー34を設けずにレーザ光源33から直線状に有機EL用マスク1に向けてレーザを照射し、Y方向にレーザ光源33を移動させることによりY方向の走査を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 有機EL用マスク 2 マスクフレーム
3 開口部 10 マスク供給部
11 レーザ走査部 12 昇降機構
31 レーザ光学系 32 光学系移動部
33 レーザ光源 34 ガルバノミラー
42 マスク昇降ユニット 51 ノズル昇降ユニット
52 吸引ノズル 53 送気ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング装置であって、
前記有機EL用マスクを立てた状態で保持するマスク保持手段と、
前記有機EL用マスクの一部または全部の領域に対して水平方向からレーザ光を走査させるレーザ洗浄手段と、
前記有機EL用マスクの開口部に裏面側から走査面側に向けた空気流を形成する空気流形成手段と、
前記レーザ光の走査位置よりも下方に配置され、前記レーザ洗浄手段の洗浄により前記有機EL用マスクから飛散した遊離物質の吸引を行うための開口部を斜め上方に向けた吸引手段と、
を備えたことを特徴とする有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項2】
前記吸引手段は前記レーザ光の走査部位に追従して動作すること
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項3】
前記吸引手段が吸引する風圧を前記空気流形成手段の空気流の風圧よりも大きくしたこと
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項4】
前記空気流形成手段はイオン風により前記空気流を形成していること
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項5】
前記レーザ走査手段は、前記有機EL用マスクの洗浄を行う領域の最上部から水平方向に1ラインの走査を行い、この1ラインの走査を順次下方に向けて行い、
前記空気流形成手段と前記吸引手段とに前記1ライン分の長さを設けて、前記レーザ走査手段の1ライン分の走査ごとに順次下方に向けて下降させていくこと
を特徴とする請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項6】
前記マスク保持手段は垂直方向から若干傾斜した状態で前記有機EL用マスクを保持していること
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えていることを特徴とする有機ELディスプレイの製造装置。
【請求項8】
請求項7記載の有機ELディスプレイの製造装置により製造されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項9】
有機EL用マスクに付着した蒸着物質を除去する有機EL用マスククリーニング方法であって、
前記有機EL用マスクを立てた状態で保持し、
前記有機EL用マスクの一部または全部の領域に対して水平方向からレーザ光を走査するときに、前記有機EL用マスクの開口部に裏面側から走査面側に向けて空気流を形成し、
前記レーザ光の走査位置よりも下方に配置した吸引手段に前記レーザ洗浄の洗浄により前記有機EL用マスクから飛散した遊離物質を吸引させていること
を特徴とする有機EL用マスククリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−215981(P2010−215981A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65482(P2009−65482)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】