説明

有機EL表示装置の製造方法、電子機器

【課題】フォトリソグラフィーによるパターニング手法を利用しつつ、メタルマスク等を用いて真空一貫で形成した有機EL素子と同等の素子特性を有する有機EL素子を備える有機EL表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第一電極と第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている有機化合物層と、からなる有機EL素子を有し、前記有機化合物層がパターニングされている有機EL表示装置の製造方法において、第一電極上に有機化合物層を形成する有機化合物層の形成工程と、前記有機化合物層上に剥離層を形成する剥離層の形成工程と、前記剥離層及び前記有機化合物層をパターニングする加工工程と、前記剥離層の表層を除去する剥離層の表層加工工程と、を有し、前記剥離層が、電荷輸送性かつ極性溶媒に可溶な有機化合物からなる蒸着膜であることを特徴とする、有機EL表示装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置の製造方法及びこの製造方法を利用して製造された有機EL表示装置を備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に知られている有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を搭載した表示装置とは、有機EL素子を単数あるいは複数有する画素を所定のパターンで配列してなる装置である。またこの画素により、表示装置内の表示領域は二次元的に高精細に分割されている。ここでこの画素に含まれる有機EL素子は、例えば、赤、緑又は青のいずれかの光を出力する電子素子である。有機EL素子を搭載した表示装置は、所望の色を出力する有機EL素子を所望の発光強度で駆動させることでフルカラーの画像を得ている。
【0003】
ところで、表示装置の構成要素である有機EL素子において、素子に含まれる有機化合物層は、蒸着等により有機材料からなる薄膜を成膜することにより形成される薄膜層である。ここで蒸着により表示装置内の有機EL素子に含まれる有機化合物層を素子ごとに形成する際には、高精細なパターニング技術が必要とされる。そしてパターニングを行う際には、パターニングの精細度に応じた精細度の高いメタルマスクが必要となる。しかし、メタルマスクは、繰り返し蒸着に用いると、付着する蒸着膜によってマスクの開口部が狭くなったり、応力でマスクの開口部が歪んだりする。従って、一定回数の成膜を行った後で使用したマスクを洗浄する必要があり、これが生産コストの観点から不利な要因となっていた。また、マスクの加工精度の制約もあってピクセルサイズは百μm程度が限界であり、高精細化の観点からしても不利であった。さらに基板サイズに関しても、高精細メタルマスクを大型化するとマスクの開口部の位置精度を確保するためにマスクのフレームの剛性を高める必要がある。しかしマスクの剛性を高めるとその分だけマスク自体の重量の増加を引き起こす。このため、加工性、ハンドリングの両面から第4世代以降の大判サイズの表示装置を製作する場合では、高精細化された有機EL素子及びこの有機EL素子を搭載した表示装置の最適な作製プロセスについては現在のところ具体化できていないという状況にある。
【0004】
このような状況の中、メタルマスクを使用しない方法で高精細化された有機EL素子を有する表示装置を作製する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1にて提案されている方法では、発光層上にフォトレジストが直接成膜されている。この方法を採用する場合、使用されるフォトレジストには、一般に光開始剤や架橋剤等が多く含まれている。ここで光開始剤や架橋剤等は、少なくとも現像液に対する不溶性を変化させるための材料である。また特許文献2にて提案されている方法では、有機化合物層上に水溶性材料からなる中間層が設けられており、この中間層上でフォトリソグラフィーを行うことにより有機化合物層がパターニングされている。ここで発光層上に形成され得る中間層を構成する水溶性高分子は一般に絶縁性である。さらに特許文献3には、水溶性高分子を剥離層として用いてこの剥離層ごとフォトレジストを剥離する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3839276号公報
【特許文献2】特許第4507759号公報
【特許文献3】特許第4544811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで上述したレジスト、中間層、剥離層等は一般に絶縁性であるため、これらの層を有機EL素子の発光層等の表面に残したままにすると、当該表面に残存したものが有機EL素子の素子特性を著しく悪化させる原因の一つである電気抵抗となる。従って、上述したレジスト、中間層、剥離層等を、発光層等の表面に残らないように除去する必要がある。ところが、高分子材料からなるレジスト、中間層、剥離層等を完全に除去するのは困難であり、除去しきれない残渣が多少なりとも装置内に残存することがある。さらに上述したレジスト、中間層、剥離層等に含まれている微量不純物や、上述したレジスト、中間層、剥離層等を塗布成膜を利用して形成する際に使用される溶媒が、有機化合物層を構成する発光層等へ拡散することで、有機化合物層が結晶化する等の現象が起こる。これにより、素子特性の悪化が懸念される。従って、従来は、フォトリソプロセスを利用したパターニングにより作製された有機EL素子の素子特性は、メタルマスク等を用いて真空一貫でパターン形成された有機EL素子と比較してその素子特性が劣るという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、フォトリソグラフィーによるパターニング手法を利用しつつ、メタルマスク等を用いて真空一貫で形成した有機EL素子と同等の素子特性を有する有機EL素子を備える有機EL表示装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、第一電極と第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている有機化合物層と、からなる有機EL素子を有し、前記有機化合物層がパターニングされている有機EL表示装置の製造方法において、
第一電極上に有機化合物層を形成する有機化合物層の形成工程と、
前記有機化合物層上に剥離層を形成する剥離層の形成工程と、
前記剥離層及び前記有機化合物層をパターニングする加工工程と、
前記剥離層の表層を除去する剥離層の表層加工工程と、を有し、
前記剥離層が、電荷輸送性を有し、かつ極性溶媒に可溶な有機化合物からなる蒸着膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フォトリソグラフィーによるパターニング手法を利用しつつ、メタルマスク等を用いて真空一貫で形成した有機EL素子と同等の素子特性を有する有機EL素子を備える有機EL表示装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法で製造される有機EL表示装置の例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第一の実施形態を示す断面模式図である。
【図3】化合物1と化合物A2とにおけるエッチング時間に対する膜厚変化を示すグラフである。
【図4】縮合多環炭化水素化合物(化合物1)と複素環式化合物(化合物A2)とのIPA/水混合溶剤(極性溶媒)に対する溶解度を示したグラフである。
【図5】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第二の実施形態を示す断面模式図である。
【図6】本発明の有機EL表示装置の製造方法における第三の実施形態を示す断面模式図である。
【図7】デジタルカメラシステムの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、第一電極と第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている有機化合物層と、からなる有機EL素子を有し、前記有機化合物層が所望の形状にパターニングされている有機EL表示装置の製造方法である。
【0013】
本発明の製造方法は、下記に示す工程(A)乃至(D)を有している。
(A)第一電極上に有機化合物層を形成する有機化合物層の形成工程
(B)有機化合物層上に剥離層を形成する剥離層の形成工程
(C)剥離層及び有機化合物層をパターニングする加工工程
(D)剥離層の表層を除去する剥離層の表層加工工程
【0014】
また本発明においては、剥離層は、電荷輸送性を有し、かつ極性溶媒に可溶な有機化合物からなる蒸着膜である。一般的に、有機EL素子の有機化合物層は、極性溶媒に対する溶解度が小さい化合物にて形成される。従って、工程(D)において、有機化合物層をほとんど溶かすことなく、選択的に剥離層を選択的に溶かすことが可能となる。さらに、工程(D)の後に有機化合物層の表面に残る剥離層が、電荷輸送性の有機化合物からなる層であるため、その上に第二電極等の有機EL素子を構成する層を形成しても、電荷の流れを妨げることがない。尚、本発明においては、上記工程(D)(剥離層の表層加工工程)の後に、アルカリ金属を含む層を形成する工程と、をさらに有するのが好ましい。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。尚、以下の説明において、特に図示又は記載がない部分に関しては、当該技術分野の周知技術又は公知技術を適用することができる。また以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明の実施形態の一つにすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また本発明の趣旨を逸脱しない限り、以下に説明する実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0016】
[有機EL表示装置]
図1は、本発明の製造方法で製造される有機EL表示装置の例を示す断面模式図である。図1の有機EL表示装置1は、支持基板10上に、三種類の副画素、即ち、第一副画素20aと、第二副画素20bと、第三副画素20cと、が設けられている。ここで第一副画素20aと、第二副画素20bと、第三副画素20cと、により、画素が構成されている。尚、図1の有機EL表示装置1には、第一副画素20aと、第二副画素20bと、第三副画素20cと、からなる1組の画素が示されているが、実際の有機EL表示装置では、支持基板10上に複数の画素がマトリックス状に配置されている。
【0017】
また、図1の有機EL表示装置1において、各副画素(20a、20b、20c)は、それぞれ第一電極21と、有機化合物層22と、電荷輸送層23と、電荷注入・輸送層24と、第二電極25と、を有する。
【0018】
第一電極21(21a、21b、21c)は、支持基板10上に設けられる電極層(下部電極)であり、副画素ごとに個別に設けられている。また第一電極21a、21b、21cは、トランジスタ等のスイッチング素子(不図示)と電気接続されている。
【0019】
有機化合物層22(22a、22b、22c)は、所定の有機化合物からなる単層あるいは複数層からなる積層体である。尚、有機化合物層22a、22b、22cには、少なくとも、赤色、緑色、青色等のいずれか一色の光を出力させるための発光層(不図示)を有している。
【0020】
電荷輸送層23(23a、23b、23c)は、第二電極25から注入される正孔又は電子を有機化合物層22に注入・輸送するために設けられる。また図1の有機EL表示装置1において、電荷輸送層23a、23b、23cは、副画素ごとに個別に設けられている。
【0021】
電荷注入・輸送層24は、電荷輸送層23と共に、第二電極25から注入される正孔又は電子を有機化合物層22に注入・輸送するために設けられる。尚、図1の有機EL表示装置1では、電荷注入・輸送層24は、各副画素(20a、20b、20c)に共通する層として設けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。つまり、電荷注入・輸送層24は、副画素ごとに個別に設けてもよい。
【0022】
図1の有機EL表示装置1では、第二電極25(上部電極)は、電荷注入・輸送層24と同様に各副画素(20a、20b、20c)に共通する層として設けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。つまり、第二電極25は、副画素ごとに個別に設けてもよい。
【0023】
[有機EL表示装置の製造方法]
次に、本発明に係る図1の有機EL表示装置の製造方法を具体例として、互いに異なる色を表示する3種類の副画素を備える、有機EL表示装置の製造方法について説明する。
【0024】
上述したように、本発明の有機EL表示装置の製造方法は、少なくとも下記に示す工程(A)乃至(D)を有している。
(A)第一電極上に有機化合物層を形成する有機化合物層の形成工程
(B)有機化合物層上に剥離層を形成する剥離層の形成工程
(C)剥離層及び有機化合物層をパターニングする加工工程
(D)剥離層の表層を除去する剥離層の表層加工工程
【0025】
図2は、図1の有機EL表示装置の製造プロセスの一例を示す断面概略図である。また図2は、本発明の有機EL表示装置の製造方法における第一の実施形態を示す断面模式図でもある。図1の有機EL表示装置を製造する際には、例えば、以下の工程により有機EL表示装置を製造する。
(1)第一電極の形成工程(図2(a))
(2)有機化合物層の形成工程(図2(b))
(3)剥離層の形成工程(図2(c))
(4)感光性樹脂層の形成工程(図2(d))
(5)感光性樹脂層の加工工程(図2(e))
(6)剥離層の加工工程(図2(f))
(7)有機化合物層の加工工程(図2(g))
(8)感光性樹脂層の除去工程(図2(l))
(9)剥離層の表層加工工程(電荷輸送層の形成工程)(図2(m))
(10)電荷注入・輸送層の形成工程(図2(n))
(11)第二電極の形成工程(図2(o))
【0026】
ただし、上記(1)乃至(11)の工程はあくまでも具体例であり、本発明は、この態様に限定されるものではない。尚、図1の有機EL表示装置1は、発光色が異なる3種類の副画素20a、20b、20cをそれぞれ作製する必要があるため、(1)の工程を行った後は、(8)の工程を行う前に、(2)乃至(7)の工程を合計で3回行う必要がある。例えば、ます第一副画素20aに含まれる有機化合物層22aを(2)乃至(7)の工程で形成する(図2(g))。そして、第二副画素20bに含まれる有機化合物層22bを(2)乃至(7)の工程で形成した後(図2(h)〜図2(i))、第三副画素20cに含まれる有機化合物層22cを(2)乃至(7)の工程で形成する(図2(j)〜図2(k))。
【0027】
次に、上記(1)乃至(11)の工程についてそれぞれ具体的に説明する。
【0028】
(第一電極の形成工程)
まず支持基板10上に第一電極21a、21b、21cを形成する。支持基板10は、ガラス基板等の公知の基板を選択することができる。第一電極21a、21b、21cは、公知の電極材料からなる電極層であり、光の取り出し方向に対応してその構成材料を適宜選択する。トップエミッション型の有機EL表示装置を作製する場合は、第一電極21a、21b、21cを反射電極とし、後述する第二電極25を光透過性電極とする。一方、ボトムエミッション型の有機EL表示装置を作製する場合は、第一電極21a、21b、21cを光透過性電極とし、第二電極25を反射電極とする。
【0029】
反射電極として第一電極21a、21b、21cを形成する場合、第一電極21a、21b、21cの構成材料として、好ましくは、Cr、Al、Ag、Au、Pt等の金属材料である。これら金属材料の中でも反射率が高い材料は、光取り出し効率をより向上させることができるのでより好ましい。反射電極は、例えば、スパッタリング等の公知の方法で上記金属材料の薄膜を成膜し、フォトリソグラフィー等を用いて所望の形状に加工することで、副画素ごとに別個に形成される。尚、これらの金属材料からなる薄膜上には、当該薄膜の保護あるいは仕事関数の調節等の理由により、酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛等の光透過性を有する酸化物半導体からなる層をさらに設けてもよい。また、第一電極21a、21b、21cを形成する際には、メタルマスクを使用した蒸着を利用してもよい。メタルマスクを使用した蒸着を行った場合でも、第一電極21a、21b、21cは、副画素ごとに別個に形成される。
【0030】
光透過性電極として第一電極21a、21b、21cを形成する場合、第一電極21a、21b、21cの構成材料としては、酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛等の光透過性を有する酸化物半導体が挙げられる。
【0031】
(有機化合物層の形成工程)
有機化合物層22(22a、22b、22c)は、有機EL表示装置の構成部材であって、少なくとも発光層を含む単層又は複数の層からなる積層体である。有機化合物層22に含まれる発光層以外の層としては、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層が挙げられる。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。ここで発光層に接する層は、電荷輸送層(正孔輸送層、電子輸送層)であってもよいし、電荷ブロック層(電子ブロック層、正孔ブロック層)であってもよい。
【0032】
また第一電極21に対する有機化合物層22の具体的構成については、第一電極21が有機化合物層22へ向けて注入するキャリアの種類に応じて適宜設定すればよい。即ち、第一電極21から正孔が注入される場合では、第一電極21側に正孔を注入・輸送する層(正孔注入層、正孔輸送層)が設けられる一方で、第二電極25側に電子を注入・輸送する層(電子注入層、電子輸送層)が設けられる。反対に、第一電極21から電子が注入される場合では、第一電極21側に電子を注入・輸送する層(電子注入層、電子輸送層)が設けられる一方で、第二電極25側に正孔を注入・輸送する層(正孔注入層、正孔輸送層)が設けられる。
【0033】
尚、有機化合物層22は、発光効率の観点からアモルファス膜であることが好ましい。また光学干渉効果を得られるように、発光波長によって、各有機層の膜厚を適切に設計することが好ましい。
【0034】
正孔注入層あるいは正孔輸送層又はその両方を設ける場合、正孔注入層、正孔輸送層の構成材料である正孔注入・輸送性材料は、特に限定されるものではないが少なくとも発光層の構成材料よりも仕事関数が小さく正孔輸送性が高い材料を用いることが好ましい。また正孔注入層、正孔輸送層は、正孔を輸送する機能に加えて、発光層から流れ込む電子をブロックする機能を付加させてもよい。また正孔注入層や正孔輸送層とは別に、発光層から流れ込む電子をブロックする機能を有する層(電子ブロック層)を正孔輸送層(あるいは正孔注入層)と発光層との間に挿入してもよい。
【0035】
発光層に含まれる各色(赤色/緑色/青色)の有機発光材料として、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、縮合多環炭化水素化合物、複素環式芳香族化合物、複素環式縮合多環化合物、有機金属錯体化合物等及びこれらの単独オリゴ体あるいは複合オリゴ体を使用することができる。ただし本発明においては、上記材料に限定されるものではない。
【0036】
尚、図1の有機EL表示装置を製造する際に、下部電極21a、21b、21cにそれぞれ設けられる3種類の有機化合物層22a、22b、22cに含まれる発光層の発光色は、それぞれ青色、赤色、緑色と異なっている。また発光色の組み合わせは特に限定されない。
【0037】
正孔ブロック層の構成材料としては、発光層から陰極方向へ正孔が漏れるのを防止するためのエネルギー障壁を有し、かつ電子輸送性を有する材料であれば特に限定されるものではない。
【0038】
本発明では、有機化合物層のパターニング後に行う剥離層の除去工程において、剥離層を選択的にエッチングする必要がある。そこで、有機化合物層の形成工程にて形成される有機化合物層22の全体は、剥離層よりも極性溶媒に対して溶解度が低い材料からなる層の集まり(積層体)とするのが好ましい。ここで有機化合物層22とは、少なくとも発光層を有し、さらに正孔ブロック層、電子ブロック層、電荷輸送層(正孔輸送層、電子輸送層)又は電荷注入層(電子注入層、正孔注入層)から選択される層を含んでいてもよい。ここで、極性溶媒に対して溶解度が低い材料とは、具体的には、m−ターフェニル基を有さない縮合多環炭化水素化合物である。
【0039】
ここで縮合多環炭化水素化合物とは、炭化水素のみで構成された環状不飽和有機化合物である。より具体的には、少なくともベンゼン環等の芳香環の1辺が縮合されてなる縮合環を含む化合物である。縮合多環炭化水素化合物として、具体的には、ナフタレン、フルオレン、フルオランテン、クリセン、アントラセン、テトラセン、フェナントレン、ピレン、トリフェニレン等が挙げられる。
【0040】
ただし、上記の縮合多環炭化水素化合物は、そのままでは熱安定性が低いため、有機化合物層の構成材料としては利用しにくいものとなる。従って、これらの縮合多環炭化水素化合物に置換基が付加された化合物が有機化合物層の構成材料として使用される。
【0041】
ここで有機化合物層の、特に、その最上層の構成材料である化合物として、好ましくは、上記の縮合多環炭化水素化合物が単結合により複数結合されてなる有機化合物である。この有機化合物には、主骨格である縮合多環炭化水素化合物にメチル基、エチル基等のアルキル基が適宜置換されている化合物も含まれる。このような有機化合物は、主骨格中あるいは置換基中にヘテロ原子(N、O等)を有する化合物・骨格を含んでいないため、極性溶媒に対する溶解度が特に低い。
【0042】
上記芳香族炭化水素化合物からなる層は電荷輸送性を有する。ここで電荷輸送性とは、電流を流すことができる特性をいう。電荷輸送性を有する層として、具体的には、電子輸送層や正孔輸送層が挙げられるが、他にも電子注入層、正孔注入層、電子ブロック層、正孔ブロック層等も当然に電荷輸送性を有する層に含まれる。
【0043】
尚、上記芳香族炭化水素化合物からなる層の成膜方法としては、真空蒸着法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法等の既存の方法を用いることが可能である。有機EL表示装置の発光特性を考慮すると、成膜方法は真空蒸着法がより好ましい。
【0044】
(剥離層の形成工程)
有機化合物層22上に設けられる剥離層30は、単一の層であってもよいし、複数の層からなる積層体であってもよい。本発明では、剥離層30が単一の層からなる場合、この層は極性溶媒に可溶な材料からなる蒸着膜である。また剥離層30が複数の層からなる積層体である場合、当該積層体を構成する層のうち少なくとも最下層は、真空蒸着法によって成膜される低分子材料からなる層である。より具体的には、剥離層30の最下層は、極性溶媒に可溶な材料からなる蒸着膜である。これにより、極性溶媒を使用することで剥離層30を選択的に除去することが可能になる。また、本発明において剥離層30は、アモルファス膜であることが好ましい。
【0045】
ここで剥離層30(又は少なくともその最下層)を、極性溶媒に可溶な材料を真空蒸着法によって形成する蒸着膜とする理由について説明する。
【0046】
真空蒸着法は昇華性の高い化合物(具体的には、10-4Pa乃至10-5Paの圧力下で、400℃以下の温度で昇華する化合物)に対して適用される薄膜形成方法である。このため、真空蒸着法にて成膜される材料は、自ずと昇華性を有する低分子化合物に限定される。また蒸着膜に含まれる化合物の分子量は、高分子材料と比較して小さいため、蒸着膜を構成する分子同士の相互作用(分子間力)が弱く、また、有機化合物層22への吸着力も弱い。さらにアモルファス状態で形成された蒸着膜中の分子の状態、例えば、分子同士の配向はランダムである。このため、固体状態や結晶状態と比べると分子間距離は大きくなっており、分子がばらけて溶媒分子が入りやすい状態、即ち、溶けやすい状態になっている。よって、このような真空蒸着法によって形成された(有機化合物の)蒸着膜は、極性溶媒を含む溶剤に接触させることによって、表面からほぼ均一にエッチングされるため、数nm〜数10nmの所望の膜厚を残すことが可能となる。
【0047】
一方、剥離層が高分子材料の場合、所望の膜厚(例えば、数nm乃至数10nm)を残して部分的に除去することは困難である。例えば、導電性の水溶性高分子を剥離層の構成材料として用いた場合、塗布後のベーク乾燥によって有機化合物層と剥離層との間の界面領域には溶解度の低い変質層が形成される。このため、剥離層を均一にエッチングするのは難しい。また、発光層等にも用いられるπ共役高分子等は、塗布成膜する際に、塗布液に含まれる溶媒が下層の有機化合物層に含まれる材料を溶解することがあるため、剥離層の構成材料とすることはできない。
【0048】
後述する剥離層の表層加工工程において、剥離層の一部を除去するために使用される極性溶媒を用いることが好ましい。また剥離層の一部を除去するために使用される極性溶媒は、水と混和する有機溶媒と、水と、を混合した混合溶媒であることがより好ましい。水と混和する有機溶媒は複数種類使用してもよい。
【0049】
ここで極性溶媒としては、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エステル類、ピリジン類、エーテル類等が挙げられる。ただし、後述の剥離層の表層加工工程を行った後でこの表層加工工程で使用した溶剤を揮発させて除去する必要がある。このため、使用する有機溶媒の沸点は、少なくとも、有機化合物層22に含まれる有機化合物の分解温度やガラス転位温度よりも低いことが好ましい。アルコール類を具体例とすると、炭素数が少ないアルコール類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等は沸点が低いので、好ましい。
【0050】
極性溶媒に対する種々の化合物からなる膜のエッチングレートの違い、即ち、溶解性の違いが生じる要因としては、以下のように考えることができる。
【0051】
極性溶媒として列挙された化合物には分子中にヘテロ原子が必ず含まれており、このヘテロ原子が対象となる化合物分子の極性部位として機能する。そしてこの極性部位が剥離層の構成材料に含まれる極性部位と相互作用を起こすことで、剥離層の構成材料が極性溶媒に溶解される。またこの極性部位同士の相互作用は、種々の化合物の極性溶媒に対する溶解度に影響を与えている。以上を考慮すると、剥離層30の構成材料として用いられる化合物の構造を考慮しながら極性溶媒を適宜選択することで、極性溶媒からなる溶剤に対しする有機化合物層の溶解性よりも剥離層の最下層の溶解性を高めることが可能である。
【0052】
従って、極性溶媒の沸点に加えて、剥離層30の構成材料となる化合物に含まれる極性部位と溶媒分子の極性部位との相互作用を考慮して剥離層30の構成材料を適宜選択すれば、剥離層30を選択的に溶解させることが可能になる。
【0053】
ところで、上記極性溶媒に溶解する化合物として、具体的には、複素環式化合物や、電子供与性又は電子吸引性の置換基を有する有機化合物がある。
【0054】
(1)電荷輸送性を有する複素環式化合物
本発明では、剥離層30の構成材料として、複素環式化合物を使用してもよい。本発明においては、電荷輸送性に優れた複素環式化合物が好適に使用される。例えば、ピリジン、ビピリジン、トリアジン、フェナントロリン、キノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール等の複素環化合物を基本骨格として含んでいる化合物群である。尚、キノリンを基本骨格として含んでいる場合は、キノリナート錯体であってもよい。この複素環式化合物の化合物群に含まれる化合物としては、例えば、下記に示される化合物A1乃至A7がある。
【0055】
【化1】

【0056】
(2)m−ターフェニル基と縮合環基とを有する化合物群
本発明では、剥離層30の構成材料として、m−ターフェニル基と縮合環基とを有する化合物を使用してもよい。m−ターフェニル基を有することにより、極性溶媒との溶解性が向上する。ただし、剥離層は、極性溶媒との溶解性に加えて、ガラス転移温度等の熱的安定性の向上も考慮する必要があるので、これらを考慮して構成材料となる化合物を選択する必要がある。このためm−ターフェニル基に縮合多環炭化水素化合物が組み合わさった化合物を剥離層30の構成材料とするのが好ましい。このm−ターフェニル基と縮合環基とを有する化合物としては、例えば、下記に示される化合物B1乃至B5がある。
【0057】
【化2】

【0058】
(3)電子吸引性基を有する電荷輸送性化合物群
本発明では、剥離層30の構成材料として、電子吸引性基を有する電荷輸送性化合物を使用してもよい。ここで電子吸引性基として、例えば、ケトン基、シアノ基が挙げられる。この電子吸引性基を有する化合物としては、例えば、下記に示される化合物C1乃至C4がある。
【0059】
【化3】

【0060】
上述した3種類の化合物群は、1種類を単独で使用してもよいが、極性溶媒に対する溶解性向上の観点から2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0061】
複素環式化合物では、炭素以外のヘテロ元素(N、O、S等)に電荷が極在化する。例えば、環内に窒素原子を有するピリジンは、当該窒素原子上にマイナスの電荷が局在化することで分子全体として極性を生じている。ここで水酸基(−OH)等のプラスの電荷が局在化する水素原子を含む(水と混和する)有機溶媒が介在しているとする。そうすると、複素環式化合物が有するマイナスの電荷が局在化する部位(N原子)と、極性溶媒分子に含まれるプラスの電荷が局在化する水素原子との間で水素結合が形成される。このように水素結合が形成されると、当該複素環式化合物は極性溶媒中に溶解する又は溶解し易くなる。
【0062】
同様に、少なくともヘテロ原子(N,O、S等)を含むことで極性が生じている化合物は、縮合多環炭化水素化合物と比べて、極性溶媒に対する溶解性が向上する。
【0063】
例えば、芳香族環に電子吸引性基又は電子供与性基が導入された化合物では、π電子の偏りが生じ分極が生じる。ここで電子吸引基の置換基を導入した場合では、この置換基上にマイナスの電荷が局在化することで極性が生じ、電子供与基の置換基を導入した場合では、この置換基上にプラスの電荷が局在化することで極性が生じる。この極性の発生によって極性溶媒の溶媒分子との相互作用が可能になるのでこの有機溶媒に対する溶解性が向上する。
【0064】
一方、縮合環を持たない芳香族炭化水素化合物、具体的には、単結合によりベンゼン環同士が連結されている化合物は、分子自体の大きさが縮合多環炭化水素化合物と比較して小さい。このため、縮合多環炭化水素化合物に比べて極性溶媒に対する溶解性が向上する。特にm−ターフェニル構造を有する分子は、たがいに配向しにくい構造なため、結晶化しにくい構造である。このため、極性溶媒に対する溶解度はより大きくなる。
【0065】
上記の考察のもと、本発明に用いる剥離層に適した電荷輸送性を有しかつ溶解性の良好な材料として次のような化合物群のいずれかに属する化合物を用いることが好ましいが、上記考察に従うものであれば下記の例には限定されない。
【0066】
ここで有機化合物層の構成材料と剥離層の構成材料との極性溶媒に対する溶解度の差について説明する。具体例として、有機化合物層の構成材料として使用されるm−ターフェニル構造を有さない縮合多環炭化水素を有する化合物である下記化合物1と、剥離層の構成材料として使用される下記化合物A2とのエッチングレートについて説明する。
【0067】
【化4】

【0068】
本発明では、エッチングレートが大きいということは溶解速度が速いことを意味する。そして、エッチングレートが大きいということは、対象材料を有する層の溶剤(極性溶媒)への溶解度が高いことを意味する。
【0069】
図3は、化合物1と化合物A2とにおけるエッチング時間に対する膜厚変化を示すグラフである。ここで図3は、極性溶媒からなる溶剤として、イソプロピルアルコール(IPA)が60重量%となるように、IPAと水とを混合して調製した混合溶媒(以下、IPA/水混合溶剤と呼ぶことがある。)を用いた場合の各層のエッチングの結果を示している。
【0070】
図3より、m−ターフェニル構造を有さない縮合多環炭化水素化合物である化合物1からなる層(A層)は、エッチング時間を長くしても膜厚がほとんど減少しない。一方、複素環式化合物である化合物A2からなる層(B層)は、時間を追うごとに膜厚が減少している。エッチング条件を同じにした上で各層のエッチングレートを算出すると、A層では0.008nm/secであるのに対して、B層では0.87nm/secであり、その比は約100倍である。
【0071】
ここで有機化合物層(A層に相当)と、剥離層(B層に相当)と、における極性溶媒によるエッチングレートの比(n)は、下記式のように示すことができる。
【0072】
【数1】

【0073】
尚、上記式に記載されている有機化合物層には、正孔ブロック層、発光層、電子ブロック層、正孔輸送層等が含まれている。本発明において、nは、少なくとも1より大きいことが必要である。nは、好ましくは、10よりも大きい(n>10)。ここで上述の化合物1を有機化合物層の最上層に、化合物A2を剥離層(の最下層)にそれぞれ用いた場合、nは、約100になる。このように、極性溶媒への溶解性を考慮して、有機化合物層の最上層の構成材料と剥離層の(最下層の)構成材料とをそれぞれ選択すると、両層のエッチングレート比を大きくすることができる。これにより、極性溶媒を用いて剥離層の選択的な除去が可能となる。従って、有機化合物層22は、極性溶媒への溶出やこの溶媒の浸透等によるダメージから保護される。また、膜の端部が露出した場合、有機化合物層22の端部が極性溶媒からなる溶剤により溶出するのを防ぐためにも、有機化合物層22に含まれる全ての層に対して、少なくとも数1の式においてn>10となるような関係であることが好ましい。
【0074】
上述したIPA/水混合溶剤においては、各層の構成材料となる化合物の溶解度は、混合溶剤に含まれるIPAの重量比によって変化する。図4は、化合物1(縮合多環炭化水素化合物)と化合物A2(複素環式化合物)とのIPA/水混合溶剤(極性溶媒)に対する溶解度を示したグラフである。ここで図4のグラフにおいて、横軸は、IPA/水混合溶剤中のIPAの重量パーセント濃度である。縦軸は、溶媒1グラム中に溶解する縮合多環炭化水素化合物又は複素環式化合物の量である。図4より、化合物1(縮合多環炭化水素化合物)は、IPAが80重量%のIPA/水混合溶剤1gに対する溶解量が5μgである一方で、化合物A2(複素環式化合物)は、溶解量が73μgである。
【0075】
また図4のグラフは、下記(i)及び(ii)を証明するグラフでもある。
(i)IPA/水混合溶剤中のIPAの濃度が濃すぎると、剥離層の構成材料と有機化合物層の構成材料とが、共にIPA/水混合溶剤に対する溶解速度が速すぎてエッチングレート比(n)が1に近い状況になること
(ii)(i)の場合において、水を添加してIPAの濃度を薄くすることで各々の溶解速度を低下させつつエッチングレート比(n)を大きくすることが可能であること
【0076】
係る場合では、溶媒中に水を含ませるのが好ましい。具体的には、有機化合物層に対して剥離層のエッチングレートがより大きくなるように水の含有量を適宜調節することが好ましい。より好ましくは、有機化合物層中の最上層に位置する層と剥離層のエッチングレート比(n)が10を超えるように水の含有量を適宜調節することである。これによってより選択的に剥離層の除去が可能になり、有機EL表示装置の特性低下を防ぐことができる。
【0077】
(剥離層の加工工程)
本発明において、剥離層30を所望の形状にパターニング(加工)する手段として、フォトリソグラフィー法を利用することができる。ここでフォトリソグラフィー法を利用した剥離層の加工プロセス(剥離層の第一の加工工程)について説明する。
【0078】
(i)感光性樹脂層の形成・加工工程
フォトリソグラフィー法を利用する場合では、まず剥離層30上に感光性樹脂層40を設ける必要がある。感光性樹脂層40の構成材料である感光性樹脂は、公知の材料を使用することができる。また感光性樹脂層40の成膜方法としては、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法等、既存の方法を用いることができる。状況によっては蒸着法を利用することができる。
【0079】
感光性樹脂層40を形成した後、感光性樹脂層40の加工を行う。ここで感光性樹脂層40の加工工程は、感光性樹脂層への露光(露光工程)と感光性樹脂層の現像(現像工程)と、に分かれる。
【0080】
ここで露光工程は、既存の光照射装置を用いることができる。尚、露光装置はマスクパターンの精細度に合わせたものを用いればよい。またこの露光工程を行う際には、露光する領域に開口を有するフォトマスク50を使用する。尚、フォトマスクとしては、一般的に使用されるCr薄膜からなる遮光領域を有するフォトマスクを使用することができる。一方、この露光工程において感光性樹脂層40に照射する光として、紫外光や可視光を利用することができる。
【0081】
ところで、露光工程を行う際には、感光性樹脂層40の構成材料である感光性樹脂の性質を考慮して感光性樹脂層40の露光領域を決めるのが望ましい。具体的には、ポジ型の感光性樹脂を使用する場合は、次の現像工程で感光性樹脂層40を除去したい領域を露光領域とする。一方、ネガ型の感光性樹脂を使用する場合は、次の現像工程を行ったときに感光性樹脂層40を残したい領域を露光領域とする。ここで図2(e)は、ポジ型の感光性樹脂を使用する場合を示している。図2(e)において、感光性樹脂層40のうち紫外光51に照射されている領域42は、次の現像工程で除去される。一方、フォトマスク50によって紫外光が遮られている領域41は、後の剥離層の加工工程や有機化合物層の加工工程において、所定の領域(第一副画素20a)に設けられている有機化合物層22aを保護する役割を果たす。
【0082】
現像工程を行う際には、感光性樹脂層40の構成材料である感光性樹脂に適した現像液を用いればよい。
【0083】
(ii)剥離層の加工工程
次に、剥離層30のうち感光性樹脂40に被覆されていない領域を選択的に除去することで剥離層30の加工を行う。剥離層30の選択的な除去方法は特に限定されるものではないが、具体的には、ウェットエッチング、ドライエッチング等の既存の薄膜加工方法を用いることができる。ただし、溶媒によるサイドエッチングの影響が他よりも小さいドライエッチングが好ましい。
【0084】
以上の説明では、剥離層30の加工手段として、フォトレジストを用いたフォトリソプロセスを利用しているが、剥離層30の加工方法はこれに限定されるものではない。例えば、インクジェット方式、印刷、レーザー加工等を利用して、剥離層を所望の形状にパターニングしても構わない。この場合は、フォトレジストを形成せずに、所望の形状にパターニングされた剥離層を形成することができる。このため、剥離層30を、次の工程(有機化合物層の加工工程)において、有機化合物層を加工する際のエッチングマスクとして利用するとよい。尚、剥離層30をエッチングマスクとして利用する際には、剥離層30の膜厚は、少なくとも有機化合物層よりも厚くするのが好ましい。また、本発明の製造方法では高精細メタルマスクを使わないので、ピクセルサイズを10μm程度と高精細にすることが可能となる。従って、第5世代以降といった支持基板サイズの大きい有機EL表示装置の製造を実現することができる。
【0085】
(有機化合物層の加工工程)
次に、有機化合物層22のうち剥離層30に被覆されていない領域にある有機化合物層22を選択的に除去する。有機化合物層22の加工方法は特に限定されるものではなく、ウェットエッチング、ドライエッチング等の既存の方法を用いることができる。ただし、溶媒によるサイドエッチングの懸念がないドライエッチングが好ましい。尚、感光性樹脂層の形成・加工工程の後、剥離層30の加工工程と有機化合物層22の加工工程とを、一括して行ってもよい。
【0086】
以上のプロセスにより、有機化合物層を所定の副画素にのみ選択的に設けられるように形成することができる。また以上に説明した有機化合物層の形成工程から有機化合物層の加工工程までを副画素の種類の数だけ繰り返し行うことにより、各副画素において、その副画素にのみ所望の有機化合物層を選択的に形成することができる。
【0087】
(剥離層の表面加工工程)
次に、剥離層30の表層を除去して薄膜化(剥離層30を薄く加工)する。この表層加工工程は、具体的には、上述した有機化合物層の加工工程の後、水を混合した極性溶媒に剥離層30まで形成されている支持基板10を浸漬する工程である。ここで剥離層30まで形成されている支持基板10を、水を混合した極性溶媒に浸漬すると、剥離層30は、支持基板10の反対側より順に溶解される。ここで、本工程で使用する溶剤に一定時間浸漬したときに溶出した剥離層30の構成材料の量(溶出量)から予め求めたエッチングレートを用いて、このエッチングレートの条件下で剥離層30まで形成されている支持基板10を一定時間浸漬する。こうすることで、剥離層30を所望の膜厚に加工することができる。この表層加工工程によって加工された剥離層30は、電荷輸送層23(23a、23b、23c)としてそれぞれ機能する(図2(m))。このため、後の工程で、電荷輸送層を成膜する工程を簡略化あるいは省略することができる。また表層加工工程後の剥離層(電荷輸送層23(23a、23b、23c))の膜厚は、素子設計に応じて適宜変更することができる。
【0088】
この剥離層の表層加工工程において、極性溶媒に対するエッチングレートは、有機化合物層よりも剥離層の方が速くなるように、水とIPAとの混合比を調整しておく。このため、有機化合物の加工工程後に各副画素単位で生じる有機化合物層22(22a、22b、22c)の端部は当該溶剤によって溶解されにくくなっている。よってこの剥離層の表層加工工程を行った後で、極性溶媒中から上記支持基板10を引き上げると、有機化合物層22(22a、22b、22c)の形状を維持しつつ、剥離層30のみを加工することができる。さらに必要に応じて電子輸送層等の電荷輸送層を別途形成すればよい。
【0089】
剥離層30の表層加工工程を行った後は、有機化合物層22が設けられている支持基板10を加熱して支持基板10上あるいは有機化合物層22上に残存する溶剤を除去することが好ましい。より好ましくは、真空条件下80℃程度で支持基板10を加熱する。このように、支持基板10を加熱して溶媒を除去することにより、当該溶媒の影響を受けない状態で次の工程において電荷注入層又は電荷輸送層を形成することができる。尚、次の工程を行う前に、事前に支持基板10を真空加熱してもよい。この真空加熱によっても大気中の水、酸素や異物の付着等の影響を低減させることができる。
【0090】
(電荷注入・輸送層の形成工程)
上記のように、剥離層30の再加工(剥離層30の表層加工工程)を行った後は、電荷輸送層23上に、電荷注入・輸送層24を形成する。尚、この電荷注入・輸送層24は、各副画素に共通する層として形成するのが好ましい。
【0091】
電荷注入・輸送層24として電子注入層を形成する場合、電子注入層の構成材料である電子注入材料は仕事関数の高いものがよい。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属化合物(酸化物、炭酸塩、ハロゲン化塩)、アルカリ金属化合物(酸化物、炭酸塩、ハロゲン化塩)、電子輸送材料にアルカリ金属あるいはアルカリ金属化合物をドープしたもの等が挙げられる。ここで、アルカリ金属として、具体的には、セシウム、カリウム、リチウム等を挙げることができる。またアルカリ土類金属として、具体的には、カルシウム、バリウム等が挙げられる。
【0092】
一方、電荷注入・輸送層24として正孔注入層を形成する場合、正孔注入層の構成材料である正孔注入材料は、仕事関数が小さい有機化合物、仕事関数の非常に深い電子吸引性の材料等が好適に挙げることができる。仕事関数の小さい有機化合物としては、アリールアミン化合物、フタロシアニン等を挙げることができる。また仕事関数が深い電子吸引性の材料としては、F4−TCNQ、アザトリフェニレン化合物(PPDN、ヘキサシアノ−ヘキサアザトリフェニレン等)、酸化モリブデン、酸化タングステン等を挙げることができる。
【0093】
(第二電極の形成工程)
トップエミッション方の有機EL表示装置を作製する場合、上部電極に相当する第二電極25は、透明導電材料からなる透明電極とする。光透過性を有する透明導電材料は、光の透過率の高い材料が好ましい。例えば、ITO、IZO、ZnO等の透明導電材料や、ポリアセチレン等の有機導電材料が挙げられる。尚、Ag、Al等の金属材料を10nm〜30nm程度に形成した半透過膜を第二電極25としてもよい。ここで酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛、ZnO等の透明導電材料で光透過性の電極を形成する場合、低消費電力化を目的として、電極として用いるのに必要な低抵抗特性と、光の取り出し効率を高めるのに必要な高透過率特性と、の両方を満足する組成が好ましい。光透過性の電極になる薄膜は、スパッタリング等の公知の方法で成膜することができる。上述した低抵抗特性と高透過率特性とを兼ね備える透明導電膜を作製する場合は、成膜装置の容量、ターゲット、装置内の圧力、成膜時の出力電圧を適宜調整する必要がある。尚、第二電極25は、TFT(不図示)等のスイッチング素子に電気接続されている。
【0094】
[有機EL表示装置の駆動について]
本発明の製造方法で製造された有機EL表示装置は、各副画素(20a、20b、20c)が有する第一電極21と第二電極25との間に電圧を印加することによって駆動することができる。ここで電圧を印加する場合は、例えば、TFTを介して各電極と電気接続される電源手段(不図示)を使用する。
【0095】
[第二の実施形態]
図5は、本発明の有機EL表示装置の製造方法における第二の実施形態を示す断面模式図である。ここで第二の実施形態は、第一の実施形態と比較して、剥離層30の形成工程の後、この剥離層30上に保護層60が形成されている点で相違する(図5(a))。以下、第一の実施形態との相違点を中心に第二の実施形態について説明する。
【0096】
(保護層の形成工程)
本発明の製造方法においては、剥離層30の形成工程の後、図5(a)に示されるように、この剥離層30上に保護層60を形成してもよい。ここで剥離層30上に形成する保護層60は、水や有機溶媒に対して不溶の膜であり、防湿性、ガスバリア性を有する膜であることが好ましい。ここで保護層60は、フォトリソグラフィー時に照射される光を吸収する特性を有することがより好ましい。本発明の製造方法において形成される保護層60としては、窒化珪素(SiN)を主材料とする無機化合物の薄膜層であることが好ましい。
【0097】
ところで、剥離層30上に保護層60を形成することにより、次の工程で感光性樹脂40を形成する際に使用される溶媒が剥離層30を浸透して有機化合物層22に接することがなくなる。よって、感光性樹脂層40の溶媒を選択するにあたって、有機化合物層22を溶解しない等の制約がなくなり、より安価な材料を選択することもできる。
【0098】
(保護層の加工工程)
感光性樹脂層40と剥離層30との間に保護層60が設けられている場合は、剥離層30の加工を行う前に、保護層60の加工を行う必要がある。ここで保護層60の加工とは、具体的には、保護層60のうち感光性樹脂層41(露光工程において露光されなかった感光性樹脂)に被覆されていない領域を選択的に除去することである(図5(b))。保護層60の選択的な除去方法は特に限定されるものではないが、公知の技術、例えば、ウェットエッチング、ドライエッチングを利用することができる。例えば、保護層60の構成材料がSiNの場合では、CF4を反応ガスとしたドライエッチングが利用可能である。
【0099】
(保護層の除去工程等)
以上に説明した保護層60の加工工程を行った後、第一の実施形態と同様に、剥離層30および有機化合物層22aの加工を行う(図5(c))。尚、有機化合物層22aの加工を行う際に、感光性樹脂層41の除去も併せて行ってもよい。
【0100】
この後、有機化合物層(22b、22c)の形成から有機化合物層の加工までの工程を各副画素において行い(図5(d))、保護層60及び剥離層30を除去する(図5(e))。本実施形態のように、剥離層30と感光性樹脂層40との間に保護層60を設けた場合は、感光性樹脂層40を除去した後に、上述した保護層の加工工程の際に利用した方法(ドライエッチング、ウェットエッチング等)で保護層60を除去する。本実施形態では、保護層60を除去した後、支持基板10を極性溶媒に浸漬することで、有機化合物層22(22a、22b、22c)の形状を維持しつつ、剥離層30のみを加工する。剥離層30を表面からある程度の膜厚だけ部分的に除去した後、第一の実施形態と同様に、さらに必要に応じて電子輸送層等の電荷輸送層、電荷注入・輸送層、第二電極等を別途形成する。
【0101】
[第三の実施形態]
図6は、本発明の有機EL表示装置の製造方法における第三の実施形態を示す断面模式図である。ここで第三の実施形態は、第二の実施形態と比較して、保護層60が複数の層(第一保護層61、第二保護層62)で形成されている点で相違する(図6(a))。以下、第二の実施形態との相違点を中心に第三の実施形態について説明する。
【0102】
(保護層の形成工程)
図5(a)や図6(a)に示されるように、保護層60は、単一の層であってもよいし複数の層であってもよい。保護層が二つの層からなる積層体である場合、先に形成される第一保護層61は水溶性材料で形成することが好ましい。そして第一保護層61の次に形成される第二保護層62は、窒化珪素等の水や有機溶媒に対して不溶の材料を主材料とする無機化合物の膜であることが好ましい。
【0103】
第一保護層61の構成材料である水溶性材料としては、公知の材料の水溶性高分子、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、等が挙げられる。また第一保護層を形成する際には、公知のスピンコート法、ディップコート法、インクジェット法等の、既存の方法を用いることができる。ここで有機化合物層22は水に溶解しない材料からなる層であるため、第一保護層61を形成する際に有機化合物層22が溶媒でエッチングされることがない。また、保護層60の膜厚を厚く形成することにより、感光性樹脂層40の溶媒で有機化合物層22が溶解したり、有機化合物層22の膜厚が減少したり、発光材料が溶出したりする等の影響をより軽減することができる。
【0104】
(保護層の加工工程)
また保護層60が複数の層で構成される場合は、各保護層についてそれぞれ加工を行う必要がある。例えば、保護層60が、水溶性高分子からなる第一保護層61と、SiNからなる第二保護層62と、がこの順で積層してなる積層体である場合、以下に示す方法で各保護層の加工を行う。まず上層である第二保護層について、CF4を反応ガスとしたドライエッチングを行い(図6(b))、次いで、下層である第一保護層について、CF4を反応ガスとしたドライエッチングを行う(図6(c))。
【0105】
(保護層の除去工程等)
以上に説明した保護層60の加工工程を行った後、第二の実施形態と同様に有機化合物層22aの加工を行う(図6(d))。尚、有機化合物層22aの加工を行う際に、図6(d)に示されるように、感光性樹脂層41の除去も併せて行ってもよい。
【0106】
この後、有機化合物層(22b、22c)の形成から有機化合物層の加工までの工程を各副画素において行い(図6(e))、保護層60及び剥離層を除去する(図3(f))。本実施形態のように、剥離層30と感光性樹脂層40との間に保護層60を設けた場合は、感光性樹脂層40を除去した後に、上述した保護層の加工工程の際に利用した方法(ドライエッチング、ウェットエッチング等)で保護層60を除去する。
【0107】
[電子機器]
以上、説明したように、本発明の製造方法にて形成された有機EL表示装置は、電流効率、駆動寿命、精細度に優れるため、様々な電子機器の表示部として用いることができる。電子機器としては、デジタルカメラ、携帯情報端末等の携帯機器や、パーソナルコンピュータ、テレビ、各種プリンタ等が挙げられる。
【0108】
電子機器の一例として、デジタルカメラについて説明する。図7は、デジタルカメラシステムの一例を示すブロック図である。図7のデジタルカメラシステム7は、撮像部71、映像信号処理回路72、表示装置73、メモリ74、CPU75及び操作部76を備えている。図7のデジタルカメラシステム7を構成する表示装置73は、本発明の製造方法を利用して製造された有機EL表示装置が用いられる。ここで撮像部71を用いて撮像した映像やメモリ74に記録された映像情報は、CPU75から送信される制御信号に応じて映像信号処理回路72にて信号処理して映像信号に変換された後、表示装置73に送信され、映像として表示される。図7のデジタルカメラシステム7に取り付けられるコントローラー(不図示)は、撮像部71、メモリ74、映像信号処理回路72等を制御するCPU75に接続されており、操作部76から出力されCPUへ入力される信号によって状況に適した撮影(撮像)、記録、再生、表示を行う。
【実施例】
【0109】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。たとえば、発光色からみた副画素の形成順序は青、緑、赤の順に限定されない。たとえば、有機化合物層の構成や膜厚も本実施例に記載の内容に限定されない。たとえば、第一電極から電子が注入される場合はそれに合わせた有機化合物層の積層順序をとればよい。また、以下に説明する実施例を組み合わせる事も、本発明に含まれるものとする。本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用するものとする。
【0110】
[実施例1]
図1に示される有機EL表示装置を、図2に示されるプロセスに従って作製した。
【0111】
(1)第一電極の形成工程
まずスパッタリング法により、支持基板10上に、アルミニウム合金(AlNd)を成膜しAlNd膜(反射電極)を形成した。このときAlNd膜の膜厚を100nmとした。次に、スパッタリング法により、AlNd膜上にITOを成膜しITO膜を成膜した。このときITO膜の膜厚を10nmとした。尚、上記AlNd膜とITO膜とからなる積層体は、第一電極21として機能する。次に、フォトリソプロセスによる第一電極21のパターニングを行うことにより、第一副画素、第二副画素及び第三副画素をそれぞれ構成する第一電極21a、21b、21cをそれぞれ作製した(図2(a))。
【0112】
(2)青色有機化合物層の形成工程
パターニングされた第一電極(21a、21b、21c)が形成されている支持基板10上に、青色有機化合物層22aを、真空蒸着法を用いた連続成膜により形成した。まず正孔輸送層を膜厚120nmで形成した後、青発光材料を含む発光層を膜厚30nmで形成した。次に、下記式[1]に示される縮合多環炭化水素化合物を成膜しバッファ層を形成した。このときバッファ層の膜厚を10nmとした。以上により、有機化合物層22a(青色有機化合物層)を形成した(図2(b))。
【0113】
【化5】

【0114】
(3)剥離層の形成工程
次に、真空蒸着法により、下記式[2]に示されるフェナントロリン誘導体を成膜し剥離層30を形成した。このとき剥離層30の膜厚を500nmとした(図2(c))。
【0115】
【化6】

【0116】
(4)感光性樹脂層の形成・加工工程
次に、スピンコート法により、ポジ型のフォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ製、製品名「AZ1500」)を成膜し感光性樹脂層40を形成した(図2(d))。このとき感光性樹脂層の膜厚は1000nmであった。次に、露光装置(キヤノン製、マスクアライナーMPA600)を使用し、第一副画素20aの領域に設けられる感光性樹脂層41を残すように、フォトマスク50を用いて感光性樹脂層41を遮蔽した状態で紫外光51による露光を行った(図2(e)))。このとき露光時間は40sであった。露光後、現像液(AZエレクトロニックマテリアルズ製、製品名「312MIF」を水で希釈し濃度を50%としたもの)を用いて1分間現像した。この現像処理により紫外光51に露光された感光性樹脂層42を除去した。
【0117】
(5)剥離層の第一の加工工程及び青色有機化合物層の加工工程
次に、酸素を反応ガスとし流量20sccm、圧力8Pa、出力150W、反応時間2分の条件下で、感光性樹脂層41で被覆されていない剥離層30を除去、パターニングした。こうすることで、第一副画素20aの領域にパターニングされた剥離層30を形成した(図2(f))。さらに同条件のドライエッチングにより、第一副画素20aの領域以外の領域に設けられている青色有機化合物層22aを選択的に除去した。このようにして第一副画素20aの領域に有機化合物層22a(青色有機化合物層)を形成した(図2(g))。
【0118】
(6)赤色有機化合物層の形成・加工工程
次に、赤色有機化合物層22bを、真空蒸着法を用いた連続成膜により形成した。まず正孔輸送層を膜厚200nmで形成した後、赤発光材料を含む発光層を膜厚30nmで形成した。次に、式[1]の縮合多環炭化水素化合物を成膜しバッファ層を形成した。このときバッファ層の膜厚を10nmとした。以上により、有機化合物層22b(赤色有機化合物層)を形成した。次に、真空蒸着法により、式[2]のフェナントロリン誘導体を成膜し剥離層30を形成した。このとき剥離層30の膜厚を500nmとした。次に、スピンコート法により、工程(4)で使用したポジ型のフォトレジストを成膜し感光性樹脂層40を形成した(図2(h))。このとき感光性樹脂層の膜厚は1000nmであった。次に、(4)と同様の方法で感光性樹脂層40の加工を行った後、(5)と同様の方法で剥離層30及び有機化合物層22bの加工を行うことにより、第二副画素20bの領域に有機化合物層22b(赤色有機化合物層)を形成した(図2(i))
【0119】
(7)緑色有機化合物層の形成・加工工程
次に、緑色有機化合物層22cを、真空蒸着法を用いた連続成膜により形成した。まず正孔輸送層を膜厚160nmで形成した後、緑発光材料を含む発光層を膜厚30nmで形成した。次に、式[1]の縮合多環炭化水素化合物を成膜し正孔ブロック層を形成した。このとき正孔ブロック層の膜厚を10nmとした。以上により、有機化合物層22c(緑色有機化合物層)を形成した。次に、真空蒸着法により、式[2]のフェナントロリン誘導体を成膜し剥離層30を形成した。このとき剥離層30の膜厚を500nmとした。次に、スピンコート法により、工程(4)で使用したポジ型のフォトレジストを成膜し感光性樹脂層40を形成した(図2(j))。このとき感光性樹脂層の膜厚は1000nmであった。次に、(4)と同様の方法で感光性樹脂層40の加工を行った後、(5)と同様の方法で剥離層30及び有機化合物層22bの加工を行うことにより、第三副画素20cの領域に有機化合物層22cを(緑色有機化合物層)形成した(図2(k))。
【0120】
(8)感光性樹脂層の除去工程
次に、酸素を反応ガスとし流量20sccm、圧力8Pa、出力150Wの条件下で、ドライエッチングを行い、感光性樹脂層41を除去した(図2(l))。
【0121】
(9)剥離層の表層加工工程
次に、IPA濃度が60重量%となるように、水とIPAとを混合した混合溶媒を用いて、剥離層30の一部を除去して、剥離層30を薄膜化する表層加工工程を行った。尚、本実施例において剥離層30を構成する化合物(式[2]のフェナントロリン誘導体)のエッチングレートは0.9nm/secなので、上記混合溶媒に530秒浸漬して、剥離層30の一部を除去して薄膜化した。(図2(m))。この表層加工工程により、剥離層30の膜厚は20nmとなった。またこの表層加工工程で薄膜した剥離層は、それぞれ電荷輸送層(電子輸送層)23a、23b、23cとして機能する。次に、80℃で真空加熱して電荷輸送層上に残存する溶剤を除去した。
【0122】
(10)第二電極の作製工程等
次に、式[2]の化合物(化合物A2)と炭酸セシウム(Cs2CO3)とを共蒸着して電子注入層(電荷注入・輸送層24)を形成した。このとき電子注入層の膜厚を20nmとした(図2(n))。
【0123】
次に、スパッタリングにより、半透明導電材料であるAgを成膜し第二電極を形成した(図2(o))。このとき第二電極の膜厚を16nmとした。
【0124】
次に、窒素雰囲気下において封止ガラス(不図示)を基板に接着することにより素子劣化を防ぐ構造とした。以上のようにして有機EL表示装置を作製した。
【0125】
このようにして製造した有機EL表示装置1を評価した結果、赤、緑、青の三色で電流効率および駆動耐久寿命は、真空で一貫成膜して作製した有機EL表示装置に対して同程度であった。従って、本発明の製造方法によって製造された有機EL表示装置は、発光特性に優れている。一方、高精細化に関しては、高精細メタルマスク蒸着でのピクセルサイズが100μm程度であったのに対し、12μmのピクセルサイズを得ることができた。
[実施例2]
実施例1において、剥離層30の構成材料として下記化合物B1(エッチングレート:1.3nm/sec)を使用した。また剥離層30の除去の際に、IPA/水混合溶媒による浸漬時間を370秒に設定した。これらを除いては、実施例1と同様にして有機EL表示装置を製造した。
【0126】
【化7】

【0127】
得られた有機EL表示装置について実施例1と同様の方法で評価したところ、実施例1と同様に電流効率、駆動寿命、精細度において良好な結果を示した。
【0128】
[実施例3]
実施例1において、剥離層30の構成材料として下記化合物C1(エッチングレート:1.5nm/sec)を使用した。また剥離層30の除去の際に、IPA/水混合溶媒による浸漬時間を320秒に設定した。これらを除いては、実施例1と同様にして有機EL表示装置を製造した。
【0129】
【化8】

【0130】
得られた有機EL表示装置について実施例1と同様の方法で評価したところ、実施例1と同様に電流効率、駆動寿命、精細度において良好な結果を示した。
【0131】
[実施例4]
実施例1において、有機化合物層(22a、22b、22c)を加工する際に実施される剥離層30の形成工程と感光性樹脂層40の形成工程との間に保護層60の形成工程を追加した。また感光性樹脂層40の加工工程と剥離層30の加工工程との間に保護層60の加工工程を追加した。さらに、感光性樹脂層41の除去工程と剥離層30の除去工程との間に保護層60の除去工程を追加した。これらを除いては、実施例1と同様にして有機EL表示装置を製造した。以下、図5を参照しながら、保護層の形成工程、保護層の加工工程及び保護層の除去工程を中心に本実施例における製造プロセスについて説明する。
【0132】
(1)保護層の形成工程等
まず実施例1と同様の方法により、支持基板10上に剥離層30までを形成した。次に、CVD法により、剥離層30上に、窒化珪素(SiN)を成膜して保護層60を形成した。このとき保護層60の膜厚を1000nmとした。次に、保護層60上に、実施例1と同様の方法で感光性樹脂層40を形成した(図5(a))。
【0133】
(2)保護層の加工工程
次に、感光性樹脂層40のパターニングを行った後、保護層60を、CF4を反応ガスとし、流量30sccm、出力150w、圧力10Pa、処理時間7分の条件下で、感光性樹脂層41で被覆されていない保護層60を除去した(図5(b))。即ち、本工程により、各副画素の領域に対応して保護層60が設けられるように保護層60が加工された。
【0134】
(3)有機化合物層の加工工程等
この後、実施例1と同様の方法により剥離層30及び有機化合物層22aの加工工程を行った(図5(c))。次に、第二副画素20bと、第三副画素20cと、において、それぞれ上記(1)乃至(2)の工程を行うことにより、第二副画素22bと、第三副画素22cと、にそれぞれ設けられる有機化合物層22b、22cの形成・加工を行った(図5(d))。
【0135】
(4)保護層の除去工程
次に、実施例1と同様の方法により、感光性樹脂層41を除去した後、CF4を反応ガスとし、流量30sccm、出力150w、圧力10Pa、処理時間7分の条件下で保護層60を除去した。次に、実施例1と同様の方法により、剥離層30の一部を除去して薄膜化することで電荷輸送層23a、23b、23cをそれぞれ形成した(図5(e)))。次に、実施例1と同様の方法により電荷注入・輸送層24と、第二電極25とをこの順で形成することにより、有機EL表示装置を得た。
【0136】
得られた有機EL表示装置について実施例1と同様の方法で評価したところ、実施例1と同様に電流効率、駆動寿命、精細度において良好な結果を示した。
【0137】
[実施例5]
本実施例では、実施例4において、保護層の形成工程、保護層60の加工工程及び保護層60の除去工程を、以下に説明する方法に変更したことを除いては、実施例4と同様にして有機EL表示装置を製造した。以下、図6を参照しながら、保護層の形成工程、保護層の加工工程及び保護層の除去工程を中心に説明する。
【0138】
(1)保護層の形成工程
まず実施例4と同様の方法により、支持基板10上に剥離層30までを形成した。次に、水溶性高分子材料のポリビニルピロリドン(PVP、分子量36万)と水と、をPVPの重量濃度が5重量%になるように混合してPVP水溶液を調製した。次に、調製したPVP水溶液を剥離層30上に塗布し、スピンコート法により成膜することで、第一保護層61を形成した。このとき第一保護層61の膜厚は500nmであった。次に、CVD法により、第一保護層61上に、窒化珪素(SiN)を成膜して第二保護層62を形成した。このとき第二保護層62の膜厚を1000nmとした。次に、第一保護層61と、第二保護層62と、がこの順に積層してなる保護層60上に、実施例4と同様の方法で感光性樹脂層40を形成した(図6(a))。
【0139】
(2)保護層の加工工程等
感光性樹脂層50のパターニングを行った後、実施例4の(2)と同様の条件下で第二保護層62の加工(第二保護層62の選択的除去)を行った(図6(b))。次に、酸素を反応ガスとし流量20sccm、圧力8Pa、出力150W、5分の条件下で、感光性樹脂層40で被覆されていない第一保護層61を除去した。即ち、本工程により、各副画素の領域に対応して第一保護層61と第二保護層62とからなる保護層60が設けられるように保護層60が加工された(図6(c)乃至図6(e))。
【0140】
(3)保護層の除去工程等
感光性樹脂層41を除去した後、実施例4の(3)と同様の条件下で第二保護層62の除去を行った。次に、酸素を反応ガスとし流量20sccm、圧力8Pa、出力150W、5分の条件下で第一保護層61を除去した。次に、実施例4と同様の方法により、剥離層30の一部を除去して薄膜化することで電荷輸送層23を形成した(図6(f)))後、実施例4と同様の方法により電荷注入・輸送層24と、第二電極25とをこの順で形成することにより、有機EL表示装置を得た。
【0141】
得られた有機EL表示装置について実施例1と同様の方法で評価したところ、実施例1と同様に電流効率、駆動寿命、精細度において良好な結果を示した。
【符号の説明】
【0142】
1:有機EL表示装置、10:支持基板、20a:第一副画素、20b:第二副画素、20c:第三副画素、21(21a、21b、21c):第一電極、22(22a、22b、22c):有機化合物層、23(23a、23b、23c):電荷輸送層、24:電荷注入・輸送層、25:第二電極、30:剥離層、40(41、42):感光性樹脂層、50:フォトマスク、51:紫外線、60:保護層、61:第一保護層、62:第二保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極と第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている有機化合物層と、からなる有機EL素子を有し、前記有機化合物層がパターニングされている有機EL表示装置の製造方法において、
第一電極上に有機化合物層を形成する有機化合物層の形成工程と、
前記有機化合物層上に剥離層を形成する剥離層の形成工程と、
前記剥離層及び前記有機化合物層をパターニングする加工工程と、
前記剥離層の表層を除去する剥離層の表層加工工程と、を有し、
前記剥離層が、電荷輸送性かつ極性溶媒に可溶な有機化合物からなる蒸着膜であることを特徴とする、有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記極性溶媒が、水と、前記水と混和する極性溶媒と、を混合してなる混合溶媒であることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記剥離層の表層加工工程において加工された膜を電荷輸送層として使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記剥離層が、複素環式化合物からなる層であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記剥離層が、電子吸引性基を有する電荷輸送性化合物からなる層であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記剥離層が、m−ターフェニル基と、縮合環基と、を有する化合物からなる層であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項7】
下記式が成り立つことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【数1】

【請求項8】
前記剥離層の表層加工工程の後に、アルカリ金属を含む層を形成する工程をさらに有することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項9】
映像を撮像する撮像部と、
前記撮像部にて撮像された映像を記録するメモリと、
前記撮像部にて撮像された映像及び前記メモリに記録された映像情報をそれぞれ映像信号に変換する映像信号処理回路と、
前記撮像部、前記メモリ及び前記映像信号処理回路を制御するCPUと、
前記CPUへ入力する信号を出力する操作部と、
前記CPUから送信される制御信号に応じて、前記映像信号処理回路から送信される前記映像信号を、映像として表示する表示装置と、を備える電子機器であって、
前記表示装置が、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法により製造された有機EL表示装置であることを特徴とする、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−238578(P2012−238578A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68007(P2012−68007)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】