説明

有機EL表示装置

【課題】低電圧駆動できる有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】色を発光する有機EL素子は発光層にホスト材料とゲスト材料である燐光発光材料を有し、前記緑色を発光する有機EL素子は発光層にホスト材料とゲスト材料である遅延蛍光材料を有し、前記赤色を発光する有機EL素子の正孔輸送層と前記緑色を発光する有機EL素子の正孔輸送層とが同じ材料で構成されており、前記赤色を発光する有機EL素子の正孔輸送層と、前記緑色を発光する有機EL素子の正孔輸送層は、繋がって配置されている有機EL表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に関するものであり、さらに詳しくは、遅延蛍光材料を有する有機EL素子を画素として有する有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子を用いた有機EL表示装置の研究が盛んである。
【0003】
有機EL素子に用いる発光材料には蛍光材料や燐光発光材料が挙げられる。
【0004】
この他に発光効率を高めるために遅延蛍光材料を有機EL素子に用いることが特許文献1に示されている。特許文献1において遅延蛍光材料は520nmから750nmの範囲で強い遅延蛍光スペクトル及び燐光スペクトルが観察されたことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−241374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
赤色有機EL素子は燐光発光材料を用いることで高効率の発光が可能であるものの、緑色有機EL素子や青色有機EL素子については高効率の発光を実現するために改善の余地がある。
【0007】
蛍光発光材料よりも燐光発光材料の方が理論上高効率の発光を期待できるが、その燐光発光材料であっても緑や青の発光に関してはまだまだ改善の余地がある。
【0008】
特許文献1に記載の遅延蛍光材料は、520nmから750nmの範囲で強い遅延蛍光スペクトル及び燐光スペクトルが観察されたことが示されているものの、実際に図に示される発光波長は最大発光波長が550nmを超えるピークと600nmを超えるピークとから構成されている。すなわちこの遅延蛍光材料は色純度的にいって緑や青の原色を発光する発光材料ではない。
【0009】
本発明は発光効率に改善の余地がある緑色の有機EL素子を工夫することにより、消費電力に優れた赤緑青の三色を発光する有機EL表示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
よって本発明は、赤色を発光する有機EL素子と緑色を発光する有機EL素子と青色を発光する有機EL素子をそれぞれ画素として有する有機EL表示装置において、前記赤色を発光する有機EL素子は発光層に燐光発光材料を有し、前記緑色を発光する有機EL素子は発光層に遅延蛍光材料を有し、前記赤色を発光する有機EL素子の正孔輸送層と前記緑色を発光する有機EL素子の正孔輸送層とが同じ材料で構成されていることを特徴とする有機EL表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、緑色を発光する有機EL素子に遅延蛍光材料を用いることで消費電力が低い有機EL表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】燐光の発光過程を示す模式図
【図2】遅延蛍光の発光過程を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る有機EL表示装置は、赤色を発光する有機EL素子と緑色を発光する有機EL素子と青色を発光する有機EL素子をそれぞれ画素として有する有機EL表示装置において、
前記赤色を発光する有機EL素子は発光層にホスト材料とゲスト材料である燐光発光材料を有し、前記緑色を発光する有機EL素子は発光層にホスト材料とゲスト材料である遅延蛍光材料を有し、前記赤色を発光する有機EL素子の正孔輸送層と前記緑色を発光する有機EL素子の正孔輸送層とが同じ材料で構成されていることを特徴とする有機EL表示装置である。
【0014】
赤色を発光する有機EL素子は燐光発光材料を発光させる。これは燐光発光材料が高効率で発光するからである。赤色発光のエネルギーは他の色のエネルギーに比べて小さいから励起エネルギーを燐光発光材料へ互いのT1励起状態を介して供給するホスト材料のS1励起状態は高くなくてすむ。このことはホスト材料のバンドギャップを広げなくて済むということやホスト材料のHOMOを深く(真空順位から遠く)しなくて済むことを意味する。
【0015】
1励起状態とは最低励起三重項状態のことである。ホスト材料とは発光層を構成する材料でゲスト材料よりも重量比で高い材料のことを意味する。ゲスト材料は発光層を構成する材料である。
【0016】
一方で緑色を発光する有機EL素子において燐光発光材料を用いると赤色のエネルギーよりも高いエネルギーが必要なのでその結果ホスト材料のS1励起状態を高くする必要がある。
【0017】
赤色を発光する有機EL素子と緑色を発光する有機EL素子とにおいて、発光する色が異なることはもちろんであるが、ホスト材料のバンドギャップやあるいはHOMOについては両者でできるだけ差が無い方が表示装置の駆動電圧の低減という観点で好ましい。
【0018】
そこで本発明では緑色を発光する有機EL素子についてはゲスト材料として遅延蛍光材料を用いる。
【0019】
遅延蛍光材料ではない蛍光発光材料は燐光発光材料と比べて効率が理論的に低い。しかしながら蛍光発光材料はS1励起状態すなわち最低励起一重項状態で発光するのでホスト材料のS1励起状態を燐光発光材料を用いる場合に用いるホスト材料のS1励起状態と比べて低くすることが出来る。すなわち蛍光発光材料には低電圧駆動が可能となる余地がある。
【0020】
本発明では蛍光発光材料でありながら高効率で発光できる材料として遅延蛍光材料に注目した。
【0021】
すなわち赤については高効率で発光できる燐光発光材料を採用し、その結果赤について低電圧駆動が達成できる以上、他の色、具体的には緑色を発光する有機EL素子についても低電圧駆動を達成しなければならない。そこで本発明では赤色を発光する有機EL素子には燐光発光材料を用い、緑色を発光する有機EL素子には遅延蛍光材料を用いた。
【0022】
このようにすることで両色の有機EL素子のホスト材料のバンドギャップあるいはHOMOに差が出来ず、それぞれの有機EL素子が有する正孔輸送層を同じ材料とすることが出来る。
【0023】
正孔輸送層とは発光層と隣接する層のことで、陽極に近い側に設けられる層のことである。
【0024】
有機EL素子とは一対の電極とその間に配置される有機化合物層とを少なくとも有する素子のことである。
【0025】
本発明に係る有機EL素子が有する有機化合物層は発光層と正孔輸送層とを少なくとも有する。有機化合物層は他にも正孔注入層や電子ブロッキング層やホールブロッキング層や電子輸送層や電子注入層を適宜有してもよい。
【0026】
一対の電極とは陽極と陰極である。本発明に係る有機EL表示装置は有機EL素子を複数有するが、それぞれの有機EL素子は一方の電極が共通した、すなわち導通してもよい。すなわち例えば陰極は複数の有機EL素子において共通して、陽極がそれぞれの有機EL素子ごとに独立に設けられている構成でもよい。
【0027】
本発明における遅延蛍光材料とは、銅錯体、白金錯体、パラジウム錯体などが挙げられる。遅延蛍光材料の例である化1、化2を以下に示す。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
本発明における遅延蛍光とは、熱励起型遅延蛍光である。これは最低励起三重項状態の励起子が熱エネルギーを吸収することで、最低励起一重項状態へ熱励起し、最低励起一重項状態から発光する。
【0031】
遅延蛍光材料を有機EL素子に用いると、キャリア再結合で生成する25%の一重項状態の励起子に加えて、三重項状態の励起子も一重項状態へ項間交差するため、原理的には100%の発光収率が期待できる。
【0032】
ここで、図1と図2を用いて、遅延蛍光と燐光の発光メカニズムを比較する。
【0033】
はじめに図中の符号を説明する。101はS1エネルギー、102は最低励起一重項状態、103は項間交差、104は最低励起三重項状態、105は発光、106はT1エネルギー、107は基底状態、201はS1エネルギー、202は最低励起一重項状態、203は項間交差、204は最低励起三重項状態、205は発光、206はT1エネルギーである。
【0034】
図1は燐光の発光を模式的に示した図である。キャリア再結合で生成する最低励起一重項状態102の一重項励起子と、最低励起三重項状態104の三重項励起子のうち、一重項励起子は項間交差103して三重項励起子となり、三重項励起子から基底状態107に遷移することで発光105する。
【0035】
図2は遅延蛍光の発光を模式的に示した図である。キャリア再結合で生成する最低励起一重項状態202の一重項励起子と、最低励起三重項状態204の三重項励起子のうち、三重項励起子は項間交差203して一重項励起子となり、一重項励起子から基底状態207に遷移することで発光205する。
【0036】
図1と図2を用いて燐光と遅延蛍光の比較を行う。図の縦方向の長さをエネルギーの大きさとして、燐光、遅延蛍光ともに同じ波長の光を発していると仮定する。一重項励起子と基底状態とのエネルギー差(S1エネルギー101・201)、三重項励起子と基底状態とのエネルギー差(T1エネルギー106・206)に着目すると、燐光よりも遅延蛍光の方が、S1エネルギー及びT1エネルギーとも小さいことがわかる(101<201、106<206)。すなわち、同じ発光波長であれば、燐光よりも遅延蛍光の方が励起状態と基底状態のエネルギー差(エネルギーギャップ)は小さい。
【0037】
有機EL素子において、発光材料すなわちゲスト材料のエネルギーギャップが小さいと、ホスト材料のエネルギーギャップが小さくて済む。そのため陽極やあるいは陰極に用いる電極の仕事関数や正孔輸送層のHOMO、電子輸送層のLUMOとのエネルギー差が小さくなり、ホールの注入障壁、電子の注入障壁が小さくなる。その結果、有機EL素子の駆動電圧は低くなる。従って、同じ発光波長においては、燐光発光材料よりも遅延蛍光材料の方が、S1エネルギー及びT1エネルギーが小さいことから、ホールの注入障壁、電子の注入障壁が小さくなるため、有機EL素子の駆動電圧は低くなる。
【0038】
遅延蛍光材料は以下のような性質の全てを満たす。
(1)室温(298K)の発光寿命が、マイクロ秒レベルである
(2)室温(298K)の発光波長が、低温(77K)の発光波長よりも短い
(3)室温(298K)の発光寿命が、低温(77K)の発光寿命より大幅に短い
(4)温度の上昇により、発光強度が向上する
【0039】
遅延蛍光ではない蛍光発光や燐光発光の場合、室温の発光波長と低温の発光波長とを比較すると、同じ波長若しくは低温の発光波長が短波長化する。これに対して遅延蛍光発光は、低温の発光波長が長波長化する。これは、室温では一重項からの発光が観測されるが、低温では一重項よりも低い三重項のエネルギーレベルから発光する為である。ここでいう発光波長とは、最大発光波長、もしくは、発光開始波長を示す。
【0040】
また、遅延蛍光ではない蛍光発光は、一重項からの発光なのでナノ秒レベルの発光寿命である。三重項が発光に関与する燐光発光は、発光寿命がマイクロ秒レベルである。遅延蛍光発光の場合は、三重項が発光に関与するので、発光寿命はマイクロ秒レベルになる。本発明に用いられる遅延蛍光材料の発光寿命は、固体状態または溶液状態で、0.1マイクロ秒以上、1ミリ秒未満である。
【0041】
発光寿命に関しては、遅延蛍光と燐光の発光寿命はいずれもマイクロ秒レベルであるが、遅延蛍光の場合は、室温の発光寿命に対し、低温の発光寿命が大幅に長くなる。例えば、低温で無輻射失活が抑制されると考えた場合、室温での量子収率が0.1の燐光発光材料の場合、低温の発光寿命は、室温の発光寿命の最大でも10倍である。遅延蛍光材料の場合は、低温と室温で異なる励起状態から発光するため、発光寿命が温度に強く依存する。室温では一重項から発光するが、低温では三重項から発光するため、低温の発光寿命は、室温の発光寿命の10倍以上になり、材料によっては2桁以上長くなることも観察される。本発明に用いられる遅延蛍光材料の発光寿命は、固体状態または溶液状態で、低温の発光寿命が室温の発光寿命の10倍以上、より具体的には50倍以上、さらには100倍以上である。
【0042】
燐光は、温度の上昇と共に無輻射失活速度が大きくなるので、発光強度は低下するのに対して、遅延蛍光の場合は、温度の上昇と共に発光強度が向上する。これは、外部の温度エネルギーによって、三重項から一重項の項間交差確率が高まり、三重項の励起子が一重項に項間交差して発光し易くなる為である。
【0043】
本発明に係る有機EL表示装置は、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各画素が面内に配置される。各画素が有機EL素子を有する。各画素は画素列ごとにデータ信号線によって接続されていたり、画素行ごと走査信号線によって接続されている。
【0044】
それぞれの画素は有機EL素子と接続し、有機EL素子の輝度を制御するTFTと接続されている。
【0045】
光の取り出し方向は、有機EL素子を面内に有する基体を介して光を取り出すボトムエミッション方式でも、基体介さないで光を取り出すトップエミッション方式のいずれでも良い。
【0046】
本発明に係る有機EL表示装置は、例えば、テレビやPC用の表示装置、あるいは画像を表示する部分を有する機器であれば如何なる実施形態も問わない。例えば、本発明の表示装置が搭載される携帯型表示装置であってもよい。あるいはデジタルカメラ等の電子撮像装置や携帯電話の表示部に本発明の表示装置を使用することができる。
【0047】
本実施形態において発光層のホスト材料として例えば下記CBP(化3)を挙げることが出来る。
【0048】
正孔輸送層は、例えば電子供与性の下記PF01(化4)を挙げることが出来る。電子輸送層には、例えば電子受容性の下記Bphen(化5)を挙げることが出来る。
【0049】
本発明のR画素の正孔輸送層とG画素の正孔輸送層は、同じ材料を用いるがR画素とG画素との画素間において連続して形成される共通層とすることが好ましい。
【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
青色を発光する有機EL素子は発光層にゲストとして蛍光材料を用いることが表示装置の駆動電圧を下げるという意味で燐光発光材料を用いる場合よりも好ましい。
【実施例】
【0054】
(緑色有機EL素子1)
下記構成の緑色有機EL素子1を作製した。
【0055】
各層の材料と厚みと層順を示す。
【0056】
ITO/PF01(40nm)/CBP(ホスト材料)+ゲスト材料(20nm)/Bphen(50nm)/KF(1nm)/Al(100nm)
【0057】
厚さ1.1mmの無アルカリガラス基板(基体)にITO膜(120nm)をスパッタ法にて形成し、陽極側透明電極として用いた。この上に、化4に示したPF01を、ホール輸送層として真空度3.0×10-5Paの条件下で真空蒸着法にて40nm成膜した。次に発光層として、化3に示したCBPをホスト材料、遅延蛍光材料化1をゲスト材料とした。ホスト材料に対するゲスト材料の比率を濃度5vol%として、真空度3.0×10-5Paの条件下で共蒸着法にて発光層を20nm成膜した。
【0058】
次に電子輸送層としてBphen(バソフェナントロリン)化5を真空度3.0×10-5Paの条件下で真空蒸着法にて50nm成膜した。次に電子注入層としてフッ化カリウム(KF)を真空度2.0×10-4Paの条件下で真空蒸着法にて1nm成膜した。最後に陰極材料としてAlを真空度2.0×10-4Paの条件下で真空蒸着法にて100nm成膜して、有機EL素子を得た。
【0059】
有機EL素子は、以下の方法で評価を行った。駆動電源としては、直流定電流電源(エーディーシー社製、商品名:R6243)を用いた。輝度は輝度計(トプコン社製、商品名:BM−7FAST)を用いた。CIE色度の測定には、瞬間マルチ測光システム(大塚電子社製、MCPD−7000)を用いた。本例で作製した有機EL素子の評価としては、100cd/m2輝度時における、CIE色度、駆動電圧、発光効率の値から、評価を行った。
【0060】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、緑色に発光し、CIE色度は(0.33 0.65)であった。その際の駆動電圧は4.5Vであり、発光効率は24cd/Aであった。
【0061】
(緑色有機EL素子2)
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、下記に示した遅延蛍光材料化6を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0062】
【化6】

【0063】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、緑色に発光し、CIE色度は(0.32 0.64)であった。その際の駆動電圧は4.7Vであり、発光効率は22cd/Aであった。
【0064】
(緑色有機EL素子3)
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、下記に示した遅延蛍光材料化7を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0065】
【化7】

【0066】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、緑色に発光し、CIE色度は(0.32 0.65)であった。その際の駆動電圧は4.8Vであり、発光効率は21cd/Aであった。
【0067】
(緑色有機EL素子4)
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、遅延蛍光材料化2を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0068】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、緑色に発光し、CIE色度は(0.33 0.63)であった。その際の駆動電圧は5Vであり、発光効率は22cd/Aであった。
【0069】
(緑色有機EL素子5)
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、下記に示した遅延蛍光材料化8を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0070】
【化8】

【0071】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、緑色に発光し、CIE色度は(0.34 0.64)であった。その際の駆動電圧は5.2Vであり、発光効率は18cd/Aであった。
【0072】
(緑色有機EL素子6)
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、下記に示した遅延蛍光材料化9を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0073】
【化9】

【0074】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、緑色に発光し、CIE色度は(0.33 0.65)であった。その際の駆動電圧は5.5Vであり、発光効率は19cd/Aであった。
【0075】
(赤色有機EL素子1)
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、下記に示した燐光発光材料Ir(piq)3化10を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0076】
【化10】

【0077】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、赤色に発光し、CIE色度は(0.66 0.33)であった。その際の駆動電圧は4.5Vであり、発光効率は12cd/Aであった。
【0078】
(緑色有機EL素子7(比較用素子))
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、下記に示した燐光発光材料Ir(ppy)3化11を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0079】
【化11】

【0080】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、緑色に発光し、CIE色度は(0.35 0.65)であった。その際の駆動電圧は8Vであり、発光効率は20cd/Aであった。
【0081】
(青色有機EL素子1)
本例では、緑色有機EL素子1における発光層成膜の際に、ゲスト材料として、下記に示した蛍光材料化12を用いた以外は、緑色有機EL素子1と同様にして有機EL素子を作製・評価を行った。
【0082】
【化12】

【0083】
本例で作製した有機EL素子を100cd/m2の輝度で発光させると、青色に発光し、CIE色度は(0.15 0.13)であった。その際の駆動電圧は5Vであり、発光効率は2.5cd/Aであった。
【0084】
(有機EL表示装置1)
RGB3色からなる有機EL表示装置を以下に示す方法で作製した。表示装置はRGB画素がそれぞれマトリクス状に配列された構成でパネルサイズは対角で3インチ、画素数は縦240、横320のQVGA、RGB画素の開口率は30%である。
【0085】
まず、支持体としてのガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜を形成した。この上に透明導電膜としてのITOをスパッタリング法にて120nm形成してパターニングした。さらにアクリル樹脂により素子分離膜を形成し陽極側透明電極基板を作成した。これをイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、次いで、煮沸洗浄後乾燥した。その後、UV/オゾン洗浄してから有機化合物および陰極材料を真空蒸着により成膜した。有機化合物および陰極材料の真空蒸着による有機EL素子の成膜としては、R画素は赤色有機EL素子1と同じ構成、G画素は緑色有機EL素子1と同じ構成、B画素は青色有機EL素子1と同じ構成として成膜した。成膜の際は、発光パターンに対応したマスクを用いて同一基板上に対する蒸着の塗り分けを施し、RGB画素が面内でマトリクス状に配列された有機EL素子とした。さらに保護膜として、窒化酸化シリコンを700nm成膜し、有機EL表示装置を得た。この有機EL表示装置で、白色WNTSC(0.310、0.316)を200cd/m2で表示する際の消費電力を求めたところ、400mWであった。
【0086】
(有機EL表示装置2)
有機EL表示装置1における有機EL素子の成膜として、G画素は緑色有機EL素子4と同じ構成として成膜した以外は、有機EL表示装置1と同様にして有機EL表示装置を作製した。この有機EL表示装置で、白色WNTSC(0.310、0.316)を200cd/m2で表示する際の消費電力を求めたところ、410mWであった。
【0087】
(有機EL表示装置3)
RGB3色からなる有機EL表示装置を以下に示す方法で作製した。
【0088】
本例では下部電極の構成が先の有機EL表示装置1の構成と異なる。またホール輸送層が各色共通にすなわち同一の材料が画素間を跨いで繋がって設けているところが先の有機EL表示装置1の構成と異なる。また各色発光層の膜厚が先の有機EL表示装置1の構成と異なる。また電子輸送層が各色共通にすなわち同一の材料が画素間を跨いで繋がって設けているところが先の有機EL表示装置1の構成と異なる。また上部電極である陰極が各色共通にすなわち同一の材料が画素間を跨いで繋がって設けているところが先の有機EL表示装置1の構成と異なる。それ以外は先の有機EL表示装置1の構成と同じである。
【0089】
化4に示したPF01を、ホール輸送層として真空度3.0×10-5Paの条件下で真空蒸着法にて24nm成膜した。
【0090】
次に発光層として、RGB画素それぞれに対応する発光層の塗り分けを行った。
【0091】
R画素としては、化3に示したCBPをホスト材料、化10に示した燐光発光材料Ir(piq)3をゲスト材料とした。ホスト材料に対するゲスト材料の比率を濃度5vol%として、真空度3.0×10-5Paの条件下で共蒸着法にて発光層を100nm成膜した。
【0092】
G画素としては、化3に示したCBPをホスト材料、化1に示した遅延蛍光材料をゲスト材料とした。ホスト材料に対するゲスト材料の比率を濃度5vol%として、真空度3.0×10-5Paの条件下で共蒸着法にて発光層を65nm成膜した。
【0093】
B画素としては、化3に示したCBPをホスト材料、化12に示した蛍光材料をゲスト材料とした。ホスト材料に対するゲスト材料の比率を濃度5vol%として、真空度3.0×10-5Paの条件下で共蒸着法にて発光層を40nm成膜した。
【0094】
次に電子輸送層としてBphen(バソフェナントロリン)化5を真空度3.0×10-5Paの条件下で真空蒸着法にて10nm成膜した。
【0095】
さらに電子輸送層として、BphenとCs2CO3を共蒸着(重量比9:1)として、真空度2.0×10-4Paの条件下で14nmの膜厚に成膜した。
【0096】
陰極として銀(Ag)を真空度2.0×10-4Paの条件下で真空蒸着法にて15nm成膜した。
【0097】
本例は、反射界面が下部電極における反射電極と透明導電膜の界面であり、発光界面が発光層の中心であり、正孔輸送層と発光層の屈折率が1.5である。R画素の発光波長が620nm、G画素の発光波長が520nm、B画素の発光波長が445nmであることから、RGB各画素が干渉により強めあい、色度と効率が向上するように膜厚が設定されている。
【0098】
この有機EL表示装置で、白色WNTSC(0.310、0.316)を200cd/m2で表示する際の消費電力を求めたところ、400mWであった。
【0099】
(有機EL表示装置4(比較例))
有機EL表示装置1における有機EL素子の成膜として、G画素は緑色有機EL素子7と同じ構成として成膜した以外は、有機EL表示装置1と同様にして有機EL表示装置を作製した。この有機EL表示装置で、白色WNTSC(0.310、0.316)を200cd/m2で表示する際の消費電力を求めたところ、800mWであった。
【符号の説明】
【0100】
101:S1エネルギー、102:最低励起一重項状態、104:最低励起三重項状態、106:T1エネルギー、201:S1エネルギー、202:最低励起一重項状態、204:最低励起三重項状態、206:T1エネルギー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色を発光する有機EL素子と緑色を発光する有機EL素子と青色を発光する有機EL素子をそれぞれ画素として有する有機EL表示装置において、
前記赤色を発光する有機EL素子は発光層にホスト材料とゲスト材料である燐光発光材料を有し、前記緑色を発光する有機EL素子は発光層にホスト材料とゲスト材料である遅延蛍光材料を有し、前記赤色を発光する有機EL素子の正孔輸送層と前記緑色を発光する有機EL素子の正孔輸送層とが同じ材料で構成されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記赤色を発光する有機EL素子の正孔輸送層と、前記緑色を発光する有機EL素子の正孔輸送層は、繋がって配置されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記遅延蛍光材料は以下の構造式で示される化合物のいずれか一方であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【化1】

【化2】

【請求項4】
前記燐光発光材料は以下の構造式で示される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−114425(P2010−114425A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219064(P2009−219064)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】