説明

木粉含有成型物製造方法および木粉含有成型物

【課題】印刷フィルムの転写や、塗装を利用しなくても表面に多様なデザインを施した木粉含有製品を提供すること。
【解決手段】木粉を主成分として含む成型体の全表面の少なくとも一領域内において、一部分のみを、他の部分よりも、高い温度で加熱する加熱工程を少なくとも経ることにより、全表面の少なくとも一領域内において、一部分の色調と、他の部分の色調とが互いに異なる木粉含有成型物を製造する木粉含有成型物製造方法およびこれにより得られた木粉含有成型物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木粉含有成型物製造方法および木粉含有成型物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のダッシュボードパネルなどのような乗り物の内装材や、各種家電製品や家具の外装材としては、成型加工の容易さからプラスチック製品が用いられることが多い。このような用途に利用されるプラスチック製品は、人の目に触れる機会が多いため、何がしかのデザインが施されることが多い。プラスチック製品にデザインを施す場合、多様なデザインニーズに容易に対応できることから、プラスチック基材の表面に、所定のデザインが描かれた印刷フィルムを転写する技術や、プラスチック基材の表面に塗装する技術が利用されている。
【0003】
しかし、プラスチック製品は、再生不可能な石油資源を用いて製造される。このため、近年では、再生利用可能な森林資源を用いた木粉成型物を製造する技術が検討されている。木粉成型物の製造する場合、木粉を含む原料に対して加圧処理が行われ、また、必要に応じて加熱処理が行われる場合がある。また、この他にも、原料に樹脂が添加される場合もある(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−338097号公報(特許請求項の範囲、段落番号0003〜0004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラスチック製品の代替製品として、木粉成型製品を用いようとした場合、プラスチック製品と同様に、木粉成型製品にも何らかのデザインを施すニーズは非常に大きいと考えられる。このようなニーズに対応するためには、プラスチック製品でも利用されていたデザイン付与技術を転用することができる。すなわち、木粉を用いて成型された基材の表面に所定のデザインが描かれた印刷フィルムを転写する技術や、木粉を用いて成型された基材の表面に塗装する技術を利用することができる。しかし、このようなデザイン付与技術では、木目調などのように複雑さや深みのあるデザインを施そうとした場合に、加飾処理に時間を要したり、コストが高くなる場合がある。
【0006】
一方、古来より、林木を切断したり切削したりして所定の形状に加工された木製品に何がしかのデザインを付与する方法として、加熱した金属製の押印を押し当てて、木製品の表面を真っ黒に炭化させることで、焼印を形成する技術が知られている。しかし、このようなデザイン付与技術により実現できる表現力は、実質的に、黒色化した部分と黒色化していない部分とからなる2階調のみである。このため、このデザイン付与技術を木粉成型製品に応用しても、プラスチック製品に求められるような多様なデザインニーズに対応することができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、印刷フィルムの転写や、塗装を利用しなくても表面に多様なデザインを施した木粉含有製品を製造できる木粉含有成型物製造方法、および、木粉含有成型物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の木粉含有成型物製造方法は、木粉を主成分として含む成型体の全表面の少なくとも一領域内において、一部分のみを、他の部分よりも、高い温度で加熱する加熱工程を少なくとも経ることにより、全表面の少なくとも一領域内において、一部分の色調と、他の部分の色調とが互いに異なる木粉含有成型物を製造することを特徴とする。
【0009】
本発明の木粉含有成型物製造方法の一実施形態は、成型体が、木粉を主成分として含む原料を加圧成形する成形工程を経ることにより作製されることが好ましい。
【0010】
本発明の木粉含有成型物製造方法の他の実施形態は、原料が、樹脂をさらに含むことが好ましい。
【0011】
本発明の木粉含有成型物製造方法の他の実施形態は、加熱工程が、成形工程と略同時に実施されることが好ましい。
【0012】
本発明の木粉含有成型物製造方法の他の実施形態は、加熱工程が、成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、熱風を吹き付けることにより実施されることが好ましい。
【0013】
本発明の木粉含有成型物製造方法の他の実施形態は、成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、熱風を吹き付けた後、さらに冷風を吹き付けることが好ましい。
【0014】
本発明の木粉含有成型物製造方法の他の実施形態は、ガス吹き付け面に複数のガス吹き付け穴を有するガス吹き付け部材を成型体の表面に押し当てた状態で、少なくとも熱風を、ガス吹き付け穴を介して成型体の表面に吹き付けることが好ましい。
【0015】
本発明の木粉含有成型物製造方法の他の実施形態は、加熱工程が、成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、加熱された固体部材を押し当てることにより実施されることが好ましい。
【0016】
本発明の木粉含有成型物製造方法の他の実施形態は、固体部材の、少なくとも成型体の表面の一部分と接触する面が、金属部材から構成されることが好ましい。
【0017】
第一の本発明の木粉含有成型物は、本発明の木粉含有成型物製造方法を利用して製造されたことを特徴とする。
【0018】
第二の本発明の木粉含有成型物は、木粉を主成分として含み、表面の一部に加熱処理により形成された変質層を有することを特徴とする。
【0019】
第二の本発明の木粉含有成型物の一実施形態は、変質層の最大厚みが、50μm〜320μmの範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、印刷フィルムの転写や、塗装を利用しなくても表面に多様なデザインを施した木粉含有製品を製造できる木粉含有成型物製造方法、および、木粉含有成型物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の木粉含有成型物製造方法の一例を示す概略模式図である。
【図2】本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本実施形態の木粉含有成型物の断面構造の一例を示す模式断面図である。
【図7】サンプルCの表面のガス吹き付け穴を介して熱風が吹き付けられた部分とガス吹き付け面に押し当てられていた部分との境界線近傍の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<<木粉含有成型物製造方法>>
本実施形態の木粉含有成型物製造方法は、木粉を主成分として含む成型体の全表面の少なくとも一領域内において、一部分のみを、他の部分よりも、高い温度で加熱する加熱工程を少なくとも経ることにより、全表面の少なくとも一領域内において、一部分の色調と、他の部分の色調とが互いに異なる木粉含有成型物を製造することを特徴とする。
【0023】
本実施形態の木粉含有成型物製造方法では、加熱工程において、成型体の全表面の少なくとも一領域内において、一部分(高温加熱領域)のみを、他の部分(非高温加熱領域)よりも、高い温度で加熱処理する。このため、少なくとも高温加熱領域において、成型体の表面部分の変性および/または炭化が生じる。また、非高温加熱領域は、何らの変性や炭化も起こらないか、変性や炭化が生じたとしても、高温加熱領域よりも低い温度で加熱されるため、変性や炭化の進行度合いは高温加熱領域よりも小さい。
【0024】
このため、加熱工程を経て得られた木粉含有成型物では、加熱工程において高温加熱領域であった部分の色調と、非高温加熱領域であった部分の色調とが互いに異なることとなる。すなわち、本実施形態の木粉含有成型物製造方法では、印刷フィルムの転写や、塗装を利用しなくても表面にデザインを施した木粉含有成型物を製造することができる。
【0025】
なお、本実施形態の木粉含有成型物製造方法は、上述したように加熱処理する対象物の表面の一部を選択的かつ高温に加熱処理する点で、木製品に対して焼印処理するデザイン付与技術と類似している。しかしながら、本実施形態の木粉含有成型物製造方法は、加熱処理する対象物として木粉を主成分として含む成型体を用いているため、実質的に2段階のデジタル的階調表現しかできない木製品に対する焼印処理と比べると、多段階のアナログ的階調表現が可能である。
【0026】
この理由は、木粉含有成型物では、木製品と同様に表面の炭化による変色処理(黒色化処理)が可能であることに加えて、(i)木粉含有成型物表面の化学的変性、および/または、(ii)木粉含有成型物表面の構造的変性による変色処理も可能であるためと考えられる。すなわち、表面を変色処理させる態様として、木製品では、表面の炭化処理により1色(黒色)のみを表現する変色態様のみに実質的に限定されるのに対して、木粉含有成型物では、3つの変色態様、すなわち、炭化処理を利用した変色態様、木粉含有成型物表面の化学的変性に基づく変色態様、および、木粉含有成型物表面の構造的変性に基づく変色態様、を利用できるためである。
【0027】
ここで、(i)化学的変性に基づく変色は、以下に説明するメカニズムに基づいて生じるものと推定される。まず、本実施形態の木粉含有成型物製造方法の加熱工程において用いられる成型体は、木粉を用いて成形されたものである。そして、この木粉の表面は、木を構成する個々の細胞壁が破壊された面(細胞壁破壊面)が多数露出している。このため、木粉の表面には、木に含まれるニグリンやセルロースといった成分が染み出し易い。そして、これらの成分は、木の炭化が起こらないような比較的低い温度域で加熱された場合、架橋反応を起こして変性する。そしてこのような架橋反応が、成型体表面の変色をもたらすものと推定される。一方、木製品では、一枚岩の木の一部が表面に露出しているに過ぎないため、木製品表面の単位表面積当たりの細胞壁破壊面の露出量は、木粉含有成型物と比べると非常に少ない。このため、木製品では、表面を熱処理しても、上述したようなメカニズムに基づく変色制御は実現困難であると考えられる。
【0028】
また、(ii)構造的変性に基づく変色は、以下に説明するメカニズムに基づいて生じるものと推定される。まず、木粉含有成型物は、木粉と、必要に応じて木粉に混合される樹脂とを含む原料を圧縮成形したものである。このため、木の炭化により木粉の形態が破壊されない程度の比較的低温の温度域にて木粉含有成型物の表面が加熱処理された場合、内部側に対して表面側の熱膨張量が著しくなる。そして、木粉含有成型物の表面では、熱膨張に起因して生じた内部応力を解放するために、木粉含有成型物の表面近傍において隣接する個々の木粉の境界部分の破壊が生じる。このような破壊が生じる理由は、木粉と木粉との境界部分の結合力は、木粉内部の結合力と比べると非常に弱いためである。それゆえ、このような破壊が生じると、表面近傍の個々の木粉の配向が変化し、木粉含有成型物の表面の表面粗さが増大する。このため、表面で光が乱反射されやすくなり、結果として変色が生じるものと推定される。一方、木製品では、表面も内部も一枚岩の木によって構成される。このため、上述したような破壊は起こりえず、木製品表面の構造的変性に基づく変色も起こり得ないと考えられる。
【0029】
以上に説明したように本実施形態の木粉含有成型物製造方法では、成型体に対して加熱工程を実施する際に、その加熱条件を適宜選択することにより多段階のアナログ的階調表現が可能である。これに加えて、高温加熱領域および非高温加熱領域の面積、形状、数を適宜選択して組み合わせることで様々な模様が形成できるため、さらにバラエティに富んだデザインが実現できる。それゆえ、本実施形態の木粉含有成型物製造方法では、表面に多様なデザインを施した木粉含有成型物を製造できる。
【0030】
なお、本実施形態の木粉含有成型物製造方法では、上述したように成型体の全表面の少なくとも一領域内において、一部分の色調と、他の部分の色調とが互いに異なるものとする。ここで、「一領域」とは、成型体表面の全領域のうち、装飾加工が要求される領域を意味する。たとえば、成型体が板状であり、一方の面の一部分に装飾加工が要求される場合は、当該一方の面の一部分が「一領域」に該当し、一方の面の全面に装飾加工が要求される場合は、当該一方の面の全面が「一領域」に該当し、両面共に装飾加工が要求される場合は、当該両面が「一領域」に該当する。
【0031】
<原料>
本実施形態の木粉含有成型物製造方法では、加熱工程に用いられる成型体は、木粉を主成分として含む原料を金型内に充填して所定の形状に成形する成形工程を経ることにより作製される。ここで、原料は、木粉のみからなるものであってもよいが、木粉の他に、必要に応じて、樹脂や、着色剤、その他の添加剤が含まれていてもよい。
【0032】
木と比べて弾性に優れる樹脂を用いた場合、木粉含有成型物の脆性破壊や割れを抑制すると共に曲げ弾性を向上させることができため、機械的耐久性に優れた木粉含有成型物を得ることができる。また、樹脂は、木粉含有成型物を構成する個々の木粉粒子の隙間を埋めるように存在できるため、木粉含有成型物表面のザラツキを抑え、滑らかさをより向上させることができる。なお、樹脂を用いる場合、原料中に含まれる樹脂の含有割合は、機械的耐久性をより確実に向上させる観点から、0質量%を超えることが好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、樹脂の含有割合の上限値は、特に限定されるものではないが、再生可能な木材資源の利用による環境負荷の低減等の実用上の観点から、50質量%以下が好ましい。また、着色剤を用いた場合、木粉含有成型物の色調を所望の色に制御できる。なお、原料中に含まれる着色剤の含有割合は、得たい色やその濃度に応じて適宜選択できるが、実用上、0質量%を超え10質量%以下程度の範囲とすることが好ましい。
【0033】
なお、木粉は、杉、檜、松等の公知の木材を粉砕等して粉状としたものであれば如何様なものでも利用できるが、メッシュを用いて分級処理することで粗大な木粉を除外したり、粗大な木粉および微小な木粉の双方を除去して粒度分布の調整を行ったものを利用することが好ましい。このような分級処理としては、たとえば、目開き300μm程度のメッシュを用いて分級処理することができる。なお、木粉は、予め水蒸気により蒸煮処理し、その後、乾燥処理したものを用いることもできる。また、樹脂としては、PP樹脂(ポリプロピレン樹脂)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、フェノール樹脂など公知の樹脂が利用できる。また、着色剤としては、染料や顔料などの公知の色材を利用できるが、加熱工程における加熱処理に対しても耐熱性を有し熱分解しにくい観点から、顔料を用いることが好適である。
【0034】
原料の形態は特に限定されず、木粉そのものの状態や、木粉に樹脂や着色剤を単に混ぜただけの混合物の状態でもよいが、成形工程を実施する際の原料の取り扱いを容易とするために、サイズが数mm〜数cm程度のペレット状とすることが特に好ましい。
【0035】
<成形工程>
成形工程では、成形体を得るために、木粉を主成分として含む原料を加圧成形する。この加圧成形の方法としては特に限定されず公知の方法が利用できるが、たとえば、射出成型法や一軸加圧成形法などのように成形型を用いて加圧成形する方法や、冷間静水圧法(CIP)、温間静水圧法(WIP)などが利用できる。なお、成形型を用いて加圧成形する場合の圧力としては、原料を所定の形状に成形できるのであれば特に限定されないが、通常は1000kgf/cm〜2550kgf/cm程度の範囲とすることが好ましい。なお、射出成型する場合、成型時の成形型の温度は、100℃±15℃程度の範囲内に維持されることが好ましく、射出ノズルの温度は 170℃〜200℃程度の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
<加熱工程>
成形工程を経て得られた成形体に対しては加熱工程を実施する。なお、加熱工程は、成形工程と略同時に実施してもよい。たとえば、成形型を利用して成形体を作製する場合、成形型に加熱工程を実施する機能も付与すれば、加熱工程と、成形工程とを略同時に実施することができる。加熱工程と、成形工程とを略同時に実施する場合は、木粉含有成型物の生産効率をより向上させることができる。
【0037】
加熱工程では、成型体の全表面の少なくとも一領域内において、一部分のみを、他の部分よりも、高い温度で加熱する。このような加熱処理を行う方法としては特に限定されないが、(1)成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、熱風を吹き付ける方法(熱風吹きつけ法)、および/または、(2)成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、加熱された固体部材を押し当てる方法(加熱部材押し当て法)、を利用することが好ましい。これらの方法は、成型体表面の一部分の選択的な加熱が容易である上に、加熱温度の制御も容易であるため、木粉含有成型物の表面に形成される模様のパターンおよび色調の制御が容易である。以下、熱風吹きつけ法および加熱部材押し当て法についてより詳細に説明する。
【0038】
−熱風吹きつけ法−
熱風吹きつけ法では、加熱された固体部材と比べて熱容量の小さい熱風を成型体表面の一部分に吹き付けるため、後述する加熱部材押し当て法と比べて、成型体の熱風が吹き付けられた部分の色調を制御する際に、炭化や焦げに起因する黒っぽい色とならないように色調を制御することが容易である。なお、吹き付ける熱風の温度としては、成型体表面の色調を確実に変化させるために170℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましい。なお、熱風の温度の上限値は特に限定されないが、著しい炭化により、得られる木粉含有成型物の表面が木炭状に劣化し各種のパネル部材等として利用できなくなるのを防ぐために、260℃以下とすることが好ましい。また、木粉含有成型物の表面の色調を炭化に起因する黒色以外の色調に制御したい場合は、熱風の温度の上限値を炭化の起こりにくい温度、すなわち、300℃以下とすることが好ましい。また、熱風を吹き付ける時間は、熱風の温度にも依存するが、表面の色調の制御性と生産性とをバランス良く両立させる観点から、0.5秒〜10.0秒程度の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
また、熱風が吹きつけられる部分の炭化や焦げをより確実に防ぎたい場合には成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、熱風を吹き付けた後、さらに冷風を吹き付けてもよい。この場合、熱風と冷風とを交互に2回以上吹き付けてもよい。なお、当該冷風の温度は、熱風の温度よりも60℃以上低いことが必要であり、150℃以上低いことが好ましく、成型時の成形型の温度と同程度の温度(95〜105℃程度)であることが最も好ましい。
【0040】
熱風を吹き付ける態様としては特に限定されず、たとえば、円筒状のノズルから熱風を噴出させることができる。なお、ノズル先端の熱風吹きだし口と成型体表面との距離は0cmを超え2cm以下程度の範囲で適宜選択することが好ましい。距離を0cm近傍に近い値とすることで、成型体表面のノズルと対面する領域(対面領域)と、当該領域の外側の領域(非対面領域)との境界線の内外で、色調を明らかに異なるものとすることができる。また、距離を上記範囲内で大きくすることにより、対面領域から非対面領域へと、色調を徐々に変化させる装飾処理(いわゆるぼかし処理、グラデーション処理)が可能となる。
【0041】
なお、円筒状のノズルを用いる方法では、熱風の吹き付けにより形成される模様が水玉模様のみに限定され、デザインの多様化には対応困難である。円筒状以外のノズルを用いた場合でも、模様が若干異なるのみで、同様の問題が残る。また、グラデーション処理が実施できる点では、ノズルの先端は成型体表面からある程度離間させた位置に配置した方が望ましいが、この場合、熱効率が低下する。これに加えて、射出成型などにより一旦成型体を作製した後、別途、熱風を吹き付ける必要があるため、生産性も低下する。
【0042】
これらの点を考慮すれば、熱風の吹き付けは、ガス吹き付け面に複数のガス吹き付け穴を有するガス吹き付け部材を成型体の表面に押し当てた状態で、少なくとも熱風を、ガス吹き付け穴を介して成型体の表面に吹き付けることにより実施することが好ましい。このガス吹き付け部材を用いれば、i)ガス吹き付け面に設けられるガス吹き付け穴の形状・数・配置を適宜選択することにより、多様なデザインが実現できる。ii)また、ガス吹き付け穴を介して成型体表面に吹き付けられた熱風が、成型体表面に沿って逃げることができないため、熱効率も高い。iii)さらに、成形型としても機能できる強度が得られるようにガス吹き付け部材の構造・材料を選択すれば、成型工程と略同時に加熱工程も実施できるため、生産性を向上させることができる。なお、ガス吹き付け部材は、基本的には、成形体表面に押し当てた状態で用いられるが、グラデーション処理を施したい場合には、成型体表面から多少離間させた状態で用いることもできる。
【0043】
図1は、本実施形態の木粉含有成型物製造方法の一例を示す概略模式図であり、具体的には、円筒状のノズルを用いた熱風吹きつけ法の一例を示す図である。ノズルを用いた熱風吹きつけ法では、図1に示すように板状の成型体10の片面側に、ノズル20が配置される。また、ノズル20のノズル先端22側と反対側の端は、温風ヒーターなどの熱風供給源(図中、不図示)に接続されている。そして、加熱工程を実施する場合、このノズル先端22から噴出した熱風30Hが、成型体10の表面12に吹きつけられる。この際、ノズル先端22と、成型体10の表面12との間の距離Dは、グラデーションの度合いを調整するなどを目的として適宜調整することができる。また、図1に示す態様において、熱風30Hの温度とは、ノズル先端22近傍の温度を意味する。
【0044】
図2は、本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す概略断面図であり、具体的には、ガス吹き付け面に複数のガス吹き付け穴を有するガス吹き付け部材を用いた熱風吹きつけ法の一例を示す図である。なお、図2中、図1に示すものと同様の機能・構造を有するものについては同じ符号が付してある。図2に示すように板状の成型体10の表面12には、この表面12に当接するようにガス吹き付け部材40が配置されている。このガス吹き付け部材40は、i)箱状の筐体42と、ii)筐体42内の中空部44へと熱風30Hを供給できるように、筐体42の成型体10の表面12と当接する側(ガス吹き付け面42A側)と反対側(上面側)に接続された熱風供給管46Hと、iii)筐体42内の中空部44へと冷風30Cを供給できるように、筐体42の成型体10の表面12と当接した側と反対側に接続された冷風供給管46Cと、iv)筐体42内の中空部44へと供給された熱風30Hまたは冷風30Cを筐体42から排出するために、筐体42の側面側に接続された排気管46Eと、を有している。ここで、筐体42のガス吹き付け面42A側には複数のガス吹き付け穴48が設けられている。なお、図2に示す実施形態では、ガス吹き付け穴48の開口形状は、円形や、方形、その他の形状を適宜選択できる。また、ガス吹き付け穴48の開口部の配置パターンは、千鳥配列や正方配列などの規則的パターンでもよく、不規則的パターンでもよい。また、ガス吹き付け面42Aの平面形状は、方形や、円形、その他の形状を適宜選択できる。
【0045】
なお、熱風供給管46Hの筐体42に接続された側と反対側の端は、エアヒーターなどの熱風供給装置(図中、不図示)に接続されている。また、冷風供給管46Cの筐体42に接続された側と反対側の端は、たとえば、常温の外気中若しくは温湿度が一定値に空調された空間中に開放されるか、または、一定の温湿度に調整された冷風を供給するエアクーラーなどの冷風供給装置に接続される。また、排気管46Eの筐体42に接続された側と反対側の端は、外気中に開放されるか、あるいは、廃熱の再利用のために熱風供給源に接続される。また、熱風供給管46Hから中空部44へと供給される熱風30H、および、冷風供給管46Cから中空部44へと供給される冷風30Cは、通常、中空部44内の温度を均一にするために、中空部44内において乱流状態となるように供給される。なお、図2に示す態様において、熱風30Hの温度とは、熱風供給管46Hの中空部44側の開口部近傍の温度を意味し、冷風30Cの温度とは、冷風供給管46Cの中空部44側の開口部近傍の温度を意味する。
【0046】
また、熱風供給管46H、冷風供給管46C、排出管46Eの数および筐体42に対する接続位置、中空部44の形状、筐体42の肉厚など、ガス吹き付け部材40の各部の構成は、図2に示す例に限定されず、中空部44内の温度分布の均一性や、加熱効率、冷却効率などを考慮して適宜選択することができる。なお、冷風供給管46Cは省略してもよい。また、ガス吹き付け部材40を、成形体10の表面12に対して離間させた状態のみで使用する場合は、排出管46Eを省略してもよい。また、熱風30Hおよび/または冷風30Cとして用いることができるガスの種類は特に限定されず、窒素ガスなどの公知のガスを用いることができるが、通常は空気が用いられる。また、ガス吹き付け穴48の開口形状・パターンは特に限定されず、たとえば、木目模様状、ストライプ模様状、水玉模様状等とすることができる。
【0047】
図2に示す例において、加熱工程を実施する場合、まず、熱風供給管46Hから、熱風30Hが、中空部44に供給される。そして中空部44に充満した高温のガスは、ガス吹き付け穴48を介して、成形体10の表面12に吹き付けられると共に、排出管46Eから筐体42の外部へと排出される。この後、必要に応じて、冷風供給管46Cから、冷風30Cを、中空部44に供給してもよい。この場合、中空部44に充満した低温のガスは、ガス吹き付け穴48を介して、成形体10の表面12に吹き付けられると共に、排出管46Eから筐体42の外部へと排出される。なお、熱風30Hと冷風30Cとは交互に2回以上、中空部44へ供給してもよい。また、熱風30Hおよび/または冷風30Cは、断続的に中空部44へと供給してもよい。
【0048】
筐体42を構成する部材は、熱風30Hに対して耐熱性を有する部材から構成されるのであれば特に限定されない。しかしながら、筐体42が熱風30Hにより加熱され、加熱された筐体42の熱によって、成形体10の表面12のガス吹き付け穴48と対向しない領域(ガス非接触領域)も強く加熱されると、成形体10の表面12のガス吹き付け穴48と対向する領域(ガス接触領域)の色調と、ガス非接触領域の色調とに差が生じにくくなる。そして、この場合、成形体10の表面12に模様を形成することが困難となる。このような問題を回避するためには、筐体42のうち、少なくともガス吹き付け面42Aを構成する部材として、バルク状の金属よりも熱伝導率の低い部材を用いることが特に好ましい。このような部材としては、i)材料面では、セラミックス、耐熱ガラスおよびこれらの複合材料から選択される材料を用いることが好ましく、ならびに/または、ii)構造面では、多孔質部材や中空部材などのように部材内に空隙を有する部材を用いることが好ましい。また、ガス吹き付け面42Aの表面には、加熱工程を実施した際に、ガス吹き付け面42Aと、成型体10の表面12とが癒着するのを防ぐこと等を目的として、必要に応じてコーティング処理を施してもよい。
【0049】
図3は、本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す概略断面図であり、具体的には、図2に示すガス吹き付け部材40を用いて、射出成型(成形工程)と略同時に熱風吹きつけ処理(加熱工程)を実施する態様について示したものである。なお、図3中、図1、図2に示すものと同様の機能・構造を有するものについては同一の符号が付してある。図3に示す例では、ガス吹き付け部材40は、ガス吹き付け面42Aを除く周囲の部分が固定部材58により固定される。なお、固定部材58のガス吹き付け面42A側の面(固定部材表面58A)は、ガス吹き付け面42Aと面一を成す。射出成型に際しては、成形型50に設けられた凹部52の開口部をガス吹き付け面42Aで密閉すると共に、成形型50の凹部52の周囲の面(成形型表面50A)と、固定部材表面58Aとが密着するように、成形型50に対して固定部材58が配置される。この際、凹部52の側面52Bから横方向に伸びる原料供給孔54Aの側面52Bの反対側の端と、固定部材58を略鉛直方向に貫通する原料供給孔54Bのガス吹き付け面42A側の端とが接続される。
次に、凹部52の底面52Aおよび側面52Bと、ガス吹き付け面42Aとで囲まれた密閉空間60内に、原料が射出・充填される。なお、原料供給孔54Bの固定部材表面58A側の端と反対側の端は原料供給源(図中、不図示)に接続されている。また、底面52Aの平面形状・サイズは、ガス吹き付け面42Aと略同様のものとされる。
【0050】
そして、この密閉空間60内に充填された原料に対して、ガス吹き付け面42Aと底面52Aとが互いに接近する方向に力が加わるように、ガス吹き付け部材40および/または成形型50を、加圧手段(図中、不図示)により加圧した状態で、原料を射出成形して板状とする。この際、この加圧成形と略同時に、図2に示した場合と同様に、密閉空間60内で加圧成形された板状の部材、すなわち、図2における成型体10に相当する部材に対して熱風の吹き付け処理を行う。この場合、成形型表面50Aと、固定部材表面58Aとを、少し離間させて、こらら2つの面の間に微小な隙間を形成してもよい。これにより、加圧成形された板状の部材の表面に吹き付けられた熱風30Hを、この微小な隙間を介して外部に放出することもできる。なお、冷風30Cを吹き付ける場合も同様にこの微小な隙間を介して冷風30Cを外部に放出してもよい。成形工程および加熱工程を終えた後は、成形型50と固定部材58とを離間させ、凹部52内の木粉含有成型物を、凹部52の底面52A側から成形型50を略鉛直方向に貫通するように配置された突き上げピン56により突き上げて、成形型50の外部へと取りだす。なお、図3に例示したように、成形工程と略同時に加熱工程を実施する場合、ガス吹き付け部材40は、成形型としての機能も担うことになる。このため、この場合に用いられるガス吹き付け部材40は、加圧成形時の圧力にも耐えられるようにガス吹き付け部材40を構成する部材や、ガス吹き付け部材40の構造が適宜選択される。
【0051】
−加熱部材押し当て法−
加熱部材押し当て法では、成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、加熱された固体部材(以下、「加熱部材」と称す場合がある)を押し当てる。この加熱部材は、成型体の表面の一部分と接触する面(加熱面)が、金属部材から構成されることが好ましく、加熱部材全体が金属部材から構成されることがより好ましい。金属部材は、熱伝導性が高いため、成型体の表面を効率的に加熱処理できるためである。なお、加熱部材の形状は特に限定されないが、たとえば、金属製の棒状部材、金属製のパイプ状部材、あるいは、金属製の板状部材等とすることができる。また、加熱面の形状・サイズは、木粉含有成型物の表面に形成したい模様に応じて適宜選択できる。
【0052】
加熱部材を用いて加熱工程を実施する場合、加熱面の温度としては、成型体表面の色調を確実に変化させるために150℃以上とすることが好ましく、170℃以上とすることがより好ましい。なお、加熱面の温度の上限値は特に限定されないが、著しい炭化により、得られる木粉含有成型物の表面が木炭状に劣化し各種のパネル部材等として利用できなくなるのを防ぐために、300℃以下とすることが好ましい。また、木粉含有成型物の表面の色調を炭化に起因する黒色以外の色調に制御したい場合は、加熱面の温度の上限値を炭化の起こりにくい温度、すなわち、200℃以下とすることが好ましい。また、加熱面を成型体表面に接触させる時間は、加熱面の温度にも依存するが、表面の色調の制御性と生産性とをバランス良く両立させる観点から、0.5秒〜5.0秒程度の範囲内とすることが好ましい。
【0053】
なお、加熱部材を用いて加熱工程を実施する場合、加熱面を所定の温度まで加熱しておく必要がある。このためには、加熱部材の加熱面近傍以外の部分を、熱源に接触または近接させて加熱し、加熱部材中の熱伝導を利用して加熱面を所定の温度まで加熱する。熱源による加熱を効率的に行うためには、加熱部材の熱源と接触または近接させる部分から加熱面までは、熱伝導性に優れる金属部材から構成されることが望ましい。また、熱源としては公知の熱源であればいずれも利用でき、たとえば、ヒーター等の発熱体や、熱風、高熱のオイルなどが利用できる。
【0054】
図4は、本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す概略模式図であり、具体的には、加熱部材を用いた加熱部材押し当て法の他の例を示す図である。なお、図4中、図1〜図3に示すものと同様の機能・構造を有するものについては同じ符号が付してある。加熱部材押し当て法では、図4に示すように板状の成型体10の表面12に、金属からなる棒状の加熱部材70の加熱面72が押し当てられた状態で加熱工程が実施される。なお、加熱部材70は、加熱面72近傍以外の部分が、熱源(図中、不図示)により加熱される。また加熱面72には、加熱工程を実施した際に、成型体10の表面12が癒着するのを防ぐこと等を目的として、必要に応じてコーティング処理を施してもよい。
【0055】
図5は、本実施形態の木粉含有成型物製造方法の他の例を示す模式断面図であり、具体的には、加熱部材を加熱する熱源として熱風を用いる態様の一例について示した図である。なお、図5中、図1〜図4に示すものと同様の機能・構造を有するものについては同一の符号が付してある。図5に示す例では、加熱工程において、成型体10の表面12に、加熱部材70を備えた加熱装置80を押し当てる。ここで、加熱装置80は、i)箱状の筐体82と、ii)筐体82内の中空部84へと熱風30Hを供給できるように、筐体82の成型体10の表面12と当接する側(押し当て面82A側)と反対側(上面側)に接続された熱風供給管46Hと、iii)筐体82内の中空部84へと冷風30Cを供給できるように、筐体82の成型体10の表面12と当接した側と反対側に接続された冷風供給管46Cと、iv)筐体82内の中空部84へと供給された熱風30Hまたは冷風30Cを筐体82の外部へと排出するために、筐体82の側面側に接続された排気管46Eと、v)加熱面72が押し当て面82Aと面一を成し、かつ、筐体82内を貫通するように配置された加熱部材70と、を有している。
【0056】
なお、図5に示す例では、加熱部材70は、筐体82に対して、図中、一点鎖線Aで示される軸方向に相対移動可能に設けられていてもよい。また、加熱部材70の軸方向の長さは、加熱面72と反対側の端が、中空部84内に収まるように設定されてもよい。また、加熱装置80から、冷風供給管46Cを省いてもよい。
【0057】
図5に示す例において、加熱工程を実施する場合、まず、熱風供給管46Hから、熱風30Hが、中空部84に供給される。そして中空部84に充満した高温のガスは、中空部84内に露出している加熱部材70の中央部近傍の表面を加熱すると共に、排出管46Eから筐体82の外部へと排出される。この際、熱風30Hにより加熱された加熱部材70の中央部から、加熱面72側へと速やかに熱が伝導され、成型体10の表面12の加熱面72と接触する部分が選択的に加熱処理される。この後、必要に応じて、冷風供給管46Cから、冷風30Cを、中空部84に供給してもよい。この場合、中空部84に充満した低温のガスは、中空部84内に露出している加熱部材70の中央部近傍の表面を冷却すると共に、排出管46Eから筐体82の外部へと排出される。このように冷風30Cを中空部84に供給することにより、繰り返し成形工程と加熱工程とを交互に繰り返し実施する場合において、成形工程を実施する上で、加熱装置80の過剰な加熱を防いで、押し当て面82Aの温度を成型工程に適した温度に維持し続けることが容易となる。なお、熱風30Hと冷風30Cとは交互に2回以上、中空部84へ供給してもよい。また、熱風30Hおよび/または冷風30Cは、断続的に中空部84へと供給してもよい。
【0058】
筐体82を構成する部材は、熱風30Hに対して耐熱性を有する部材から構成されるのであれば特に限定されない。しかしながら、筐体82が熱風30Hにより加熱され、加熱された筐体82の熱によって、成形体10の表面12の加熱面72と対向しない領域(加熱面非接触領域)も強く加熱されると、成形体10の表面12の加熱面と接触する領域(加熱面接触領域)の色調と、加熱面非接触領域の色調とに差が生じにくくなる。そして、この場合、成形体10の表面12に模様を形成することが困難となる。このような問題を回避するためには、筐体82のうち、少なくとも押し当て面82Aを構成する部材として、図2に示す筐体42のうち、少なくともガス吹き付け面42Aを構成する部材と同様に、バルク状の金属よりも熱伝導率の低い部材を用いることが特に好ましい。また、押し当て面82Aの表面には、加熱工程を実施した際に、押し当て面82Aと、成型体10の表面12とが癒着するのを防ぐこと等を目的として、必要に応じてコーティング処理を施してもよい。
【0059】
なお、図3に示す例において、ガス吹き付け部材40の代わりに加熱装置80を用いてもよい。この場合、射出成型(成形工程)と略同時に加熱部材による加熱処理(加熱工程)を実施することができる。なお、成形工程と略同時に加熱工程を実施する場合、加熱装置80は、成形型としての機能も担うことになる。このため、この場合に用いられる加熱装置80は、加圧成形時の圧力にも耐えられるように加熱装置80を構成する部材や、その構造が適宜選択される。また、加熱装置80の押し当て面82Aに、ガス吹き付け穴48を設けてもよい。この場合、加熱工程において、加熱部材押し当て法と熱風吹きつけ法とを略同時に実施できる。
【0060】
<<木粉含有成型物>>
本実施形態の木粉含有成型物は、木粉を主成分として含み、表面の一部に加熱処理により形成された変質層を有することを特徴とする。このような木粉含有成型物は、その表面において、変質層が存在する領域(変質領域)と、変質層が存在しない領域(非変質領域)とで色調が異なる。このため、木粉含有成型物表面の所望の位置に、所望のパターンで変質層を設けることにより、印刷フィルムの転写や、塗装を利用しなくても表面に多様なデザインを施した木粉含有製品を得ることができる。この本実施形態の木粉含有成型物は、既述した本実施形態の木粉含有成型物製造方法により得ることができるが、勿論、これ以外の製造方法で製造されたものであってもよい。
【0061】
なお、変質層の変質度合は、加熱処理時における加熱温度、および/または、加熱時間を調整することにより制御できる。ここで、変質層の変質度合が大きいほど、変質領域と非変質領域との色調差が大きくなると共に、変質層の最大厚みも増加する。ここで、変質層の変質度合が小さすぎる場合は、変質領域と非変質領域との色調差が小さすぎるために、木粉含有成型物の表面に肉眼で視認できる程度の審美性のある模様が形成されなくなる可能性がある。一方、変質層の変質が極度に進行すると、変質領域は炭化に起因する黒色となる。しかしながら、このような黒色の色調は、従来の焼印処理でも可能である。また、変質領域の炭化が著しい場合は、変質領域に肉眼でも視認できるザラツキ感の著しい凸凹が生じ、審美性が著しく劣化する。以上の点を考慮すると、肉眼で視認できる程度の審美性のある模様を形成すると共に、変質領域にザラツキ感の著しい凸凹が形成されるのを防止し、かつ、焼印処理では容易に得られない色調を有する模様も形成できるという点で、変質層の最大厚みは、50μm〜320μmの範囲内とすることが好ましい。ここで、木粉含有成型物が木粉のみからなる場合、または、木粉含有成型物が樹脂を含み、かつ、樹脂の含有割合が0質量%近傍の場合、変質層の最大厚みは、80μm〜320μmの範囲内とすることがより好ましい。また、木粉含有成型物が樹脂を含み、かつ、樹脂の含有割合が30質量%前後の場合、変質層の最大厚みは、50μm〜180μmの範囲内とすることがより好ましい。
【0062】
本実施形態の木粉含有成型物製造方法により得られた木粉含有成型物、および、本実施形態の木粉含有成型物の用途としては、人間の目に視認される部材であれば如何様な用途でも利用できるが、特に審美性が強く要求される部材として利用することが好ましい。このような部材としては、たとえば、自動車、鉄道車両、航空機および船舶から選択される少なくともいずれか1種の移動手段の内装材、一戸建てやビルなどの建築物の内装材、AV機器や携帯機器などの各種家電製品の外装材、家具の外装材、玩具の外装材、ならびに、置物などが挙げられる。なお、表面に光沢感を付与したり、耐傷性を向上させたり、肌触りを良くするなどの目的で、木粉含有成型物の表面に樹脂等によりコーティング処理を施してもよい。
【0063】
図6は、本実施形態の木粉含有成型物の断面構造の一例を示す模式断面図であり、具体的には、図1に示す熱風吹きつけ処理により作製された木粉含有成型物の断面構造について示す図である。図6に示すように、木粉含有成型物100の表面110には、熱風30Hが吹きつけられて加熱されたことにより形成された変質領域110Aと、それ以外の領域である非変質領域110Bとからなり、木粉含有成型物100の変質領域110Aに対応する部分には最大厚みDを有する断面で見て半楕円状(全体形状で円形皿状)の変質層112Aが形成される。なお、変質層112以外の部分(非変質部112B)に対して、変質層112Aは、加熱処理により既述したような化学的変性および/または構造的変性が生じていると考えられる。このため、木粉含有成型物100の断面を、X線光電子分光法などの公知の化学組成分析方法や、光学顕微鏡や電子顕微鏡などの公知の表面性状分析方法などで観察した場合、変質層112Aと非変質部112Bとを容易に区別して認識することができる。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0065】
<<熱風吹き付け処理による表面の変色および変質層厚さの評価>>
(成型体Aの作製)
杉を粉砕して得られた木粉を、目開き300μmのメッシュで分級処理して粗大な木粉を除去した。続いて、この分級処理した木粉を蒸煮処理した粉末状原料A(木粉100質量%)を得た。
【0066】
次に、この粉体状原料Aを用いて、コンプレッション(圧縮)成型を行い、図1に示すような板状の成型体10(成型体A、厚み2.8mm)を得た。なお、コンプレッション(圧縮)成型は以下の条件で実施した。
・圧縮圧力:70000kgf
・金型内に配置した木粉の体積:金型内の体積の2〜3.5倍
・金型温度:200℃
・圧縮加工時間:90秒
【0067】
(成型体Bの作製)
杉を粉砕して得られた木粉を、目開き300μmのメッシュで分級処理して粗大な木粉を除去した。続いて、この分級処理した木粉70質量部と、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、ノバテックPP BC3F)30質量部とを、2軸押出し機を用いて、長さ3.5mm、直径4.0mm程度の円柱状のペレット状原料B(木粉70質量%、樹脂30質量%)を用いて、射出成型を行い、厚み2.5mmの成型体Bを得た。なお、射出成型は以下の条件で実施した。
・射出圧力:1500kgf/cm
・金型温度:100℃
・射出成型時間:50秒
【0068】
(熱風吹き付け処理)
成型体Aおよび成型体Bの表面12に対して、図1に示す方法により熱風吹き付け処理を実施した。ここで、熱風吹き付け処理は、以下に示す条件で実施した。これにより、成型体Aに対して熱風吹き付け処理を施していないサンプルA0、ならびに、成型体Aに対して熱風吹き付け処理を施したサンプルA1(熱風吹き付け時間:0.7秒)、サンプルA2(熱風吹き付け時間:1.2秒)、サンプルA3(熱風吹き付け時間:2.4秒)およびサンプルA4(熱風吹き付け時間:5.0秒)を得た。また、成型体Bに対して熱風吹き付け処理を施していないサンプルB0、ならびに、成型体Bに対して熱風吹き付け処理を施したサンプルB1(熱風吹き付け時間:0.7秒)、サンプルB2(熱風吹き付け時間:1.2秒)、サンプルB3(熱風吹き付け時間:2.4秒)およびサンプルB4(熱風吹き付け時間:5.0秒)を得た。なお、熱風吹き付け処理したサンプルA1〜サンプルA4およびサンプルB1〜サンプルB4の表面を目視観察したところ、熱風吹き付け処理により、円形の変色した領域(図6中の変質領域110A)が形成されているのが確認された。
−熱風吹き付け処理条件−
・温風ヒーターに取り付けられたノズル20(ノズル径6m)のノズル先端22と成型体10との距離D:18mm
・ノズル先端22の熱風30H吹き出し口の温度:420℃
・熱風吹き付け時間:0.7、1.2、2.4、5.0秒
【0069】
(評価)
サンプルA0およびサンプルB0については、目視観察により表面の色を評価した。また、サンプルA1〜サンプルA4およびサンプルB1〜サンプルB4については、熱風吹き付け処理された部分(変質領域110A)の色および焦げの有無を目視観察により評価すると共に、各々のサンプルの断面を光学顕微鏡により観察し、変質領域110Aの直径および変質領域110A下に形成された変質層112Aの最大厚みDを測定した。結果を表1および表2に示す。
【0070】
なお、表1および表2中、「変質領域110Aの色」の項目に示される色の濃度は、i)薄茶色、ii)茶色、iii)焦げ茶色、iv)やや薄目の濃茶色、v)濃茶色、vi)黒色の順に高くなるものである。参考までに述べると、原料として使用した木粉の色は、薄茶色またはやまぶき色であり、色濃度としては、上記のi)薄茶色と同程度である。また、変質領域110Aの色の評価は、色濃度の最も高い部分、すなわち、円形状に形成された変質領域110Aの中心部近傍について実施した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
<<熱風吹き付け処理による表面の変色および変質層厚さの評価>>
(サンプルの作製)
杉を粉砕した後 215℃の水蒸気で6分間蒸煮処理し、さらに80℃で5時間乾燥処理して得られた木粉を準備した。次に、この木粉を、目開き300μmのメッシュで分級処理して粗大な木粉を除去した。続いて、この分級処理した木粉70質量部と、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、ノバテックPP BC3F)24質量部と、添加剤(三洋化成社製、ユメックス1010)6質量部とを、2軸押出し機により混合し、得られた混合物を用いて、長さ3.5mm、直径4.0mm程度の円柱状のペレット状原料C(木粉70質量%、樹脂24質量%、その他6質量%)を得た。
【0074】
次に、主要部が図3に示すものと実質的に同様の構成を有する射出成型機を用いて、射出成型と略同時に熱風吹き付け処理を実施することで、厚みが2.5mmの板状のサンプルCを得た。なお、サンプルCを作製する際の主要な射出成型条件および熱風吹き付け条件は以下の通りである。
−射出成型条件−
・射出圧力:1200Kgf/cm
・射出成型直後から3秒目までの間の保持圧力::750Kgf/cm
・射出成型から3秒目〜6秒目の間の保持圧力::300Kgf/cm
・成形型50の温度:100℃
−熱風吹き付け条件−
・熱風30Hの温度:350℃(中空部44内における測定温度)
・熱風吹き付け時間:射出成型直後から0.8秒間
【0075】
得られたサンプルCについて、熱風吹き付け処理された面を電子顕微鏡により観察した。なお、図7は、サンプルCの表面のガス吹き付け穴48を介して熱風30Hが吹き付けられた部分とガス吹き付け面42Aに押し当てられていた部分との境界線近傍の電子顕微鏡写真であり、図中、右下に示されるスケールは300μmである。ここで、図7中、符号A1−A2で示される境界線の左半分側がガス吹き付け穴48を介して熱風30Hが吹き付けられた部分であり、境界線の右半分がガス吹き付け面42Aに押し当てられていた部分である。図7に示されるように、サンプルCの作製時に、ガス吹き付け穴48を介して熱風30Hが吹き付けられた部分は、ガス吹き付け面42Aに押し当てられていた部分と比べて、粗面化していることが確認された。なお、目視観察した場合、熱風30Hが吹き付けられた部分の色は 薄茶色であり、ガス吹き付け面42Aに押し当てられていた部分の色はやや薄めの濃茶色であり、双方の色調は明らかに異なっていることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
10 成型体
12 表面
20 ノズル
22 ノズル先端
30H 熱風
30C 冷風
40 ガス吹き付け部材
42 筐体
42A ガス吹き付け面
44 中空部
46H 熱風供給管
46C 冷風供給管
46E 排気管
48 ガス吹き付け穴
50 成形型
50A 成形型表面
52 凹部
52A 底面
52B 側面
54、54A、54B 原料供給孔
56 突き上げピン
58 固定部材
58A 固定部材表面
60 密閉空間
70 加熱部材(加熱された固体部材)
72 加熱面
80 加熱装置
82A 押し当て面
82 筐体
84 中空部
100 木粉含有成型物
110 表面
110A 変質領域
110B 非変質領域
112A 変質層
112B 非変質部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
木粉を主成分として含む成型体の全表面の少なくとも一領域内において、一部分のみを、他の部分よりも、高い温度で加熱する加熱工程を少なくとも経ることにより、
全表面の少なくとも一領域内において、一部分の色調と、他の部分の色調とが互いに異なる木粉含有成型物を製造することを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の木粉含有成型物製造方法において、
前記成型体が、木粉を主成分として含む原料を加圧成形する成形工程を経ることにより作製されることを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の木粉含有成型物製造方法において、
前記原料が、樹脂をさらに含むことを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の木粉含有成型物製造方法において、
前記加熱工程が、前記成形工程と略同時に実施されることを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の木粉含有成型物製造方法において、
前記加熱工程が、前記成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、熱風を吹き付けることにより実施されることを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の木粉含有成型物製造方法において、
前記成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、上記熱風を吹き付けた後、さらに冷風を吹き付けることを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の木粉含有成型物製造方法において、
ガス吹き付け面に複数のガス吹き付け穴を有するガス吹き付け部材を前記成型体の表面に押し当てた状態で、少なくとも上記熱風を、上記ガス吹き付け穴を介して前記成型体の表面に吹き付けることを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の木粉含有成型物製造方法において、
前記加熱工程が、前記成型体の表面の一部分のみに対して選択的に、加熱された固体部材を押し当てることにより実施されることを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の木粉含有成型物製造方法において、
前記固体部材の、少なくとも前記成型体の表面の一部分と接触する面が、金属部材から構成されることを特徴とする木粉含有成型物製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の木粉含有成型物製造方法を利用して製造されたことを特徴とする木粉含有成型物。
【請求項11】
木粉を主成分として含み、表面の一部に加熱処理により形成された変質層を有することを特徴とする木粉含有成型物。
【請求項12】
請求項11に記載の木粉含有成型物において、
変質層の最大厚みが、50μm〜320μmの範囲内であることを特徴とする木粉含有成型物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143541(P2011−143541A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3640(P2010−3640)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業(木粉樹脂による型内加飾成形技術の開発)に関する委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(510010414)九州大栄工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】