説明

木造建築物の補強金具及び木造建築物の補強方法

【課題】軸組構造の新築及び既存の木造建築物を安価で補強するともに、地震等の水平力に対してある程度の変形を許容しながら補強する。
【解決手段】 木製の柱3,4と横架材5とを組み合わせて構築される木造建築物の隣り合う2つの柱間に補強金具6を取り付ける。補強金具は、隣り合う2つの柱の一方に鉛直方向に取り付けられる第1の鉛直部材11と、他方の柱4に取り付けられる第2の鉛直部材12と、両端部が第1の鉛直部材及び第2の鉛直部材に曲げモーメントの伝達が可能に結合された水平部材13とを有する。水平部材は、第1の鉛直部材及び第2の鉛直部材との結合部付近の曲げ剛性が、柱の傾斜時に塑性変形が生じるように調整されている。このような補強金具を上下に一つ又は複数を取り付け、2つの柱3,4と補強金具6とでラーメン構造を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、木造建築物に作用する水平方向の力に対して該木造建築物を補強する補強金具及び木造建築物の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に柱と梁・胴差等の横架材とによって構築される、いわゆる軸組構造の木造構造物では、地震等の水平力に対して筋交いや鋼製ブレースを設置して補強することが広く行われている。また、隣り合うように立設された2つの柱と胴差や土台等の横架材とで囲まれた矩形部分に耐力面材を取り付け、耐震壁として補強することも多く採用されている。
【0003】
一方、オイルダンパーや粘弾性ダンパーの利用、又は塑性変形する金属部材の利用により、いわゆる制震構造として地震エネルギーを吸収し、地震に対して安全な建築物とすることが広く知られている。そして、制震構造としては、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3等に提案されるものがある。
【0004】
上記のように地震等の水平力に対して抵抗可能な構造とすることは、新たに構築される木造建築物において採用される他、既存の木造建築物の地震に対する安全性を高めるためにも広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−301624号公報
【特許文献2】特開2006−152788号公報
【特許文献3】特開2005−42403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記筋交いや鋼製ブレースは、2つの柱とこの柱の上下に架設された横架材とで囲まれた矩形部分の対角線上に設置する必要がある。このため、既存の木造建築物を補強するときには、これらを設置する柱間の壁のみでなく天井も解体する必要が生じる。また、和室における長押がある場合も、これを取り外す必要がある。2つの柱とこの柱の上下に架設される横架材とに囲まれた矩形部分に耐力面材を取り付ける補強においても、耐力面材は柱と上下の横架材に固定しないと充分な耐力が期待できず、天井や長押を解体する必要がある。このため、補強のために多くの費用が必要となる。そして、開口が設けられる部分には設置することができない。
【0007】
また、柱間に貫(ぬき)と称される水平部材を設けて水平方向の力に抵抗する構造では、ある程度の変形を許容しながら柱の倒壊に対して抵抗するものとなっているが、上記のような筋交いや耐力面材を用いて補強すると、補強部分が水平力の作用時にも変形が小さくなるように拘束され、建築物の剛性に偏りが生じる。このため、建築物に設けられた筋交いや耐力面材と貫との双方がバランスよく分担して地震時の水平力に抵抗することが難しくなる。
【0008】
一方、制震構造とするには、オイルダンパーや粘弾性ダンパーの製作費が高く、新築の建築物及び既存の建築物の補強のいずれにおいても多くの費用が必要となる。
【0009】
本願に係る発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸組構造の新築及び既存の木造建築物を安価で補強することができるともに、地震等の水平力に対してある程度の変形を許容しながら補強することができる補強金具及び補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 木製の柱と横架材とを組み合わせて構築される木造建築物の補強金具であって、 隣り合う2つの柱の互いに対向する面のそれぞれに固着される第1の鉛直部材及び第2の鉛直部材と、 前記第1の鉛直部材と前記第2の鉛直部材とを水平方向に接合する水平部材とを有し、 前記柱が傾斜しようとするときに、前記鉛直部材と前記水平部材との結合部分に生じる曲げモーメントによって該柱の傾斜に抵抗するものである木造建築物の補強金具を提供する。
【0011】
この補強金具では、隣り合う2つの柱間に取り付けることにより、二つの柱とこの補強金具の水平部材とでラーメン構造が形成される。これにより、水平部材と柱の曲げ剛性によってこのラーメン構造の変形に抵抗することになり、木造建築物は地震等による水平力に対して有効に補強される。また、この補強金具は、簡単な構成からなり、安価に製作することができる。したがって、新築又は既存の木造建築物を少ない費用で補強することが可能となる。
一方、この補強金具が取り付けられたときに上下方向に占める領域は小さく、開口部や他の部材が設けられた位置を避けて補強することができる。したがって、既存の木造建築物に対しては、天井、床、長押、鴨居等の多くを解体するのではなく、部分的な解体にとどめて補強金具を取り付けることができる。
さらに、この補強金具では取り付けられた木造建築物に水平方向の力が作用したときに、構成する部材の曲げ剛性で柱等の変形に抵抗するものとなり、筋交いや耐力面材を用いた補強より大きな変形を許容した状態で水平力に抵抗することになる。これにより、古民家等で用いられている貫の機能を有効に利用した補強や、他の制震装置等と併用した補強が可能となる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の木造建築物の補強金具において、 前記水平部材は、前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材との結合部付近の曲げ剛性が、前記柱の傾斜時に塑性変形が生じるように調整されているものとする。
【0013】
この補強金具が取り付けられた壁に、この壁と平行な方向の水平力が作用すると、補強金具の水平部材には鉛直部材との結合部付近で最も大きな曲げモーメントが生じる。そして、建築物の倒壊に至るまでの柱が傾斜した状態で水平部材の鉛直部材との結合部付近に塑性変形が生じる。これにより、水平部材の鉛直部材との結合部付近がいわゆる塑性ヒンジとして機能し、地震動の水平力が作用すると曲げモーメントと曲げ変形との関係を示すグラフがループ状となって、このヒステリシスによって地震動のエネルギーを吸収する。すなわちこの補強金具が制震装置として機能し、木造建築物の振動を抑制して地震動に対する安全性が向上する。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の木造建築物の補強金具において、 前記水平部材は、前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材との結合部付近に、曲げ剛性が低減された剛性低減部を有し、 該剛性低減部で前記塑性変形が生じるものとする。
【0015】
この補強金具では、地震等の水平力が作用したときに上記剛性低減部に範囲を限定して塑性変形を生じさせることができる。また、この部分の曲げ剛性を容易に調整することができる。これにより、剛性低減部が塑性ヒンジとして有効に作用するように調整することが可能となる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1、請求項2又は請求項3に記載の木造建築物の補強金具において、 前記水平部材は、2つの部材を接続したものであり、 2つの部材の接続部は、軸線方向に長さを調整して接続することができるものとする。
【0017】
この補強金具では、隣り合う2つの柱の対向する側面間に、密接するように取り付けることが容易となる。そして、柱に正確に密接して取り付けられることにより、木造建築物の変形に対して有効に作用して補強効果が得られる。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の木造建築物の補強金具において、 前記水平部材を構成する2つの部材のそれぞれは、一つの木部材と曲げモーメントの伝達が可能となるように堅結され、該木部材を介して接続されるものとする。
【0019】
この補強金具では、取り付ける現場で木部材の長さを変更することができ、隣り合う2つの柱間の間隔が異なる場合にも容易に対応して、双方の柱と密接するように取り付けることができる。また、水平部材を構成する2つの部材が木部材と一体となり、柱とともにラーメン構造を形成する。
【0020】
請求項6に係る発明は、 木製の柱と横架材とを組み合わせて構築される木造建築物の補強方法であって、 鉛直方向に配置される第1の鉛直部材と、該第1の鉛直部材と平行に配置される第2の鉛直部材と、両端部が前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材に曲げモーメントの伝達が可能に結合された水平部材とを有する補強金具を、隣り合う2つの柱間に配置し、 2つの柱の互いに対向する面のそれぞれに前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材を固着して、2つの柱と前記水平部材とでラーメン構造を形成する木造建築物の補強方法を提供するものである。
【0021】
この補強方法では、2つの柱と補強金具の水平部材とで形成されたラーメン構造が、2つの柱間の壁と平行な水平力に対して抵抗する。これにより、木造建築物は地震等による水平力に対して有効に補強される。また、補強金具を安価に製作することができるとともに、既存の木造建築物に対しては、天井、床、長押、鴨居等の多くを解体するのではなく、部分的な解体にとどめて補強金具を取り付けることができる。
さらに、この補強金具を開口部や他の部材が設けられた位置を上下に避けて取り付けることができ、取り付ける位置の自由度が大きくなる。また、筋交いや耐力面材を用いた補強より大きな変形を許容した状態で水平力に抵抗することになり、古民家等で用いられている貫の機能を有効に利用した補強や、他の制震装置等と併用した補強も可能となる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の木造建築物の補強方法において、 前記補強金具の前記水平部材は、前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材との結合部付近の曲げ剛性が、前記柱の傾斜時に塑性変形が生じるように調整するものとする。
【0023】
この補強方法では、地震時に補強金具の水平部材にいわゆる塑性ヒンジが生じて補強金具を制震装置として機能させることができる。これにより、地震動のエネルギーを吸収し、木造建築物の振動を抑制して地震動に対する安全性を向上させることが可能となる。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項6又は請求項7に記載の木造建築物の補強方法において、 前記補強金具は、隣り合う2つの柱の下端から上端までの間に複数を設けるものとする。
【0025】
この補強方法では、複数の補強金具と隣り合う2つの柱とで多層のラーメン構造が形成され、大きな耐荷力を有する壁が形成される。
【0026】
請求項9に係る発明は、請求項6又は請求項7に記載の木造建築物の補強方法において、 前記補強金具は、2つの柱間に設けられた窓の下側の腰壁内及び/又は窓の上側の垂れ壁内に取り付けるものとする。
【0027】
この補強方法では、窓を有するために筋交いやブレースを取り付けることができない壁を利用して、地震等に対する補強を行うことができる。
【0028】
請求項10に係る発明は、請求項6又は請求項7に記載の木造建築物の補強方法において、 前記補強金具は、2つの柱間の長押の上側で天井の廻縁より下側に取り付けるものとする。
【0029】
この補強方法では、既存の木造建築物において、設けられている長押や天井の廻縁を解体することなく補強金具を取り付けることができ、解体する部分を少なくして補強を行うことが可能となる。また、長押の下側が開口となっていても補強金具を取り付けて補強することができる。
【0030】
請求項11に係る発明は、請求項6から請求項10までのいずれかに記載の木造建築物の補強方法において、 前記柱に上下方向の添木を取り付け、 前記補強金具は、前記添木を介して前記柱に固着するものとする。
【0031】
この補強方法では、壁を形成する面材を柱の居室側側面より壁の中心側へ後退させた位置に取り付け、いわゆる真壁とすることができる。そして、この真壁内に補強金具を取り付けることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本願発明に係る木造建築物の補強金具及び木造建築物の補強方法では、既存の木造建築物に対して解体する部分を少なくして補強することが可能となる。また、新築及び既存の木造建築物の双方において、少ない費用で地震等の水平力に対して補強することができる。さらに、筋交いや耐力面材による補強より木造建築物の変形を大きく許容した状態で補強することが可能となり、既存の木造建築物の特性や新築される木造建築物の制震機能を有効に利用した補強が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本願発明に係る木造建築物の補強方法が適用された構造躯体の一部を示す概略側面図及び概略断面図である。
【図2】本願発明の一実施形態である補強金具の取り付け状態を示す側面図、断面図及び平面図である。
【図3】図1に示す構造躯体及び補強金具で構成される多層ラーメン構造の曲げモーメント図である。
【図4】図2に示す補強金具の水平部材の接続部を示す側面図である。
【図5】本願発明の他の実施形態である補強金具を示す側面図、断面図及び平面図である。
【図6】本願発明の他の実施形態である補強金具を示す側面図、断面図及び平面図である。
【図7】本願発明の他の実施形態である補強金具を示す側面図、断面図及び平面図である。
【図8】本願発明に係る木造建築物の補強方法が適用された構造躯体の他の例であって、添木を介して補強金具を取り付けた例を示す概略側面図及び概略平断面図である。
【図9】図8に示す構造躯体における補強金具の取り付け状態を示す側面図、断面図及び平面図である。
【図10】本願発明の補強方法によって補強金具が取り付けられた状態の他の例を示す概略側面図及び概略断面図である。
【図11】本願発明の補強方法によって補強金具が取り付けられた状態の他の例を示す概略側面図及び概略断面図である。
【図12】本願発明の補強方法によって補強金具が取り付けられた状態の他の例を示す概略側面図及び概略平断面図である。
【図13】本願発明の補強方法によって補強金具が取り付けられた状態を他の例示す概略側面図及び概略平断面図である
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は本願発明に係る木造建築物の補強方法が適用された構造躯体の一部を示す概略側面図及び概略断面図であり、図2はこの補強方法で用いられている補強金具の側面図、断面図及び平面図である。
この木造建築物は、軸組構造として構築されたものであり、基礎1上に土台2を横方向に支持し、この上に複数の柱3,4を立設している。そして、この柱3,4の上に胴差、梁等の横架材5を架け渡すように支持している。これら柱3,4と横架材5と土台2とで囲まれた矩形の範囲を壁とする。このような構造の外壁を建築物の周囲に形成するとともに、居室間の仕切壁も同様の構造で形成する。木造建築物が平屋建ての場合はこの上に小屋組を設け、屋根を形成する。2階建て又は3階建ての場合には上記横架材の上にさらに柱を立設し、横架材を架け渡す。そして、最上階の上に屋根を形成する。
【0035】
補強金具6は、隣り合うように立設された2つの柱3,4間に、上下に複数を配列して取り付けられている。この補強金具6は、隣り合う2つの柱3,4の互いに対向する面のそれぞれに固着される第1の鉛直部材11及び第2の鉛直部材12と、第1の鉛直部材11と第2の鉛直部材12とを水平方向に接合する水平部材13とを備えるものである。第1の鉛直部材11及び第2の鉛直部材12は、断面がLの字型の鋼材からなり、柱3,4に当接される面にビスやラグスクリュー14を挿通することができる取り付け孔が設けられている。そして、上下方向のほぼ中央部に水平部材13がほぼ直角方向に溶接によって結合されている。
【0036】
水平部材13は、断面がコの字型の鋼材からなる2つの部材を中央部で接続したものであり、図2に示すように、2つの部材13a,13bの接続される端部に平板状となった接続部13cが形成されている。この接続部13cには複数のボルト孔が設けられており、これらのボルト孔と対応するように長孔が設けられた添接板15を双方の接続部13cに重ね合わせ、ボルト16を接続部13cのボルト孔及び添接板15の長孔に挿通することができる。したがって、ボルト16にナットを螺合して締め付けることにより、2つの部材13a,13bを接続することができるようになっている。
【0037】
上記水平部材13は、第1の鉛直部材11及び第2の鉛直部材12との結合部付近に、断面の曲げ剛性を低減した剛性低減部13dが形成されている。曲げ剛性の調整は、断面がコの字状となった鉛直部分つまりウェブ13eに相当する部分の上下縁より水平に張りだしたフランジ13fを切り欠くことによって行われている。これにより、柱3,4の傾斜が大きくなるとこの水平部材の剛性低減部13dに作用する応力度が塑性領域に入り、塑性ヒンジとして機能するように調整されている。
【0038】
このような補強金具6は、第1の鉛直部材11及び第2の鉛直部材12を、隣り合う2つの柱3,4の対向する面に当接し、ビス又はラグスクリュー14等を用いて柱3,4に固定されている。鉛直部材11,12を柱3,4の対向面に固定する工程は、水平部材13を2つに分割した状態又は水平部材13の軸線方向の長さを変えることが可能となるように2つの部材13a,13bを接続した状態で行う。そして、鉛直部材11,12を柱3,4に固定した後、水平部材を接続する。これにより、柱間の間隔が多少変動しても第1の鉛直部材11と第2の鉛直部材12とを2つの柱3,4に密接するように取り付け、水平部材13を介して連結することができる。
【0039】
このように補強金具6が取り付けられると、補強金具6の水平部材13と2つの柱3,4との間で曲げモーメントが伝達される構造となり、2つの柱3,4と補強金具6の水平部材13とによってラーメン構造が形成される。また、上下に複数の補強金具6が取り付けられることによって多層ラーメンとなる。そして、2つの柱間の壁と平行に水平力が作用すると、図3に示す曲げモーメント図のように、水平部材13及び柱3,4に曲げモーメントが作用して柱3,4の倒壊に抵抗するものとなる。
【0040】
水平部材13の曲げモーメントは、両端部つまり第1の鉛直部材11及び第2の鉛直部材12との結合部付近で最大となっており、この部分に設けられた剛性低減部13dで中間部分より大きな曲げ変形が生じる。そして、柱3,4の傾斜が大きくなるとこの剛性低減部13dで塑性変形が生じる。地震動のように水平力が繰り返し作用すると、上記剛性低減部13dにおける曲げモーメントと曲げ変形との関係を示す図がループ状となり、このヒステリシスによって地震動のエネルギーが吸収される。したがって、補強金具6は制震装置として機能し、この補強金具6を取り付けた柱間は振動エネルギーの吸収性に優れた耐力壁として機能するものとなる。
【0041】
また、この補強金具6は壁の厚さ方向に小さな寸法で形成することができ、2つの柱3,4間に形成される壁が、和室等で採用される壁面が柱面より壁の中心側に後退したいわゆる真壁であっても、補強金具6を壁体内に納まるように取り付けることができる。
【0042】
なお、水平部材13の中央部では、作用する曲げモーメントが小さく、水平部材13の接続部分には大きな曲げモーメントが作用しない。したがって、水平部材13の接続部で大きな変形は生じず、2つの柱3,4の変形に抵抗し得るものとなっている。
また、水平部材13のほぼ中央に設けられた接続部の構造は、図4に示すように、添接板15の長さを変更することにより、柱3,4の間隔が多少異なる場合においても対応して補強金具6を取り付けることができる。一方、柱3,4の間隔が木造建築物の各部でほぼ一定であるときには、図5に示すように、水平部材を構成する2つの部材のそれぞれが備える平板状の接続部13cを互いに重ね合わせ、これらの双方を貫通するボルト16とこれに螺合したナットとで締め付けて接続するものであっても良い。なお、このときには2つの部材13a,13bの少なくともいずれか一方の接続部13cに設けられたボルト孔を長孔としておくのが望ましい。
【0043】
補強金具は、図2及び図5に示すものの他、図6に示すものや図7に示すものを用いることもできる。
図6に示す補強金具7は、断面がコの字状となった鋼材を用いた水平部材23が2つの部材23a,23bを接続したものとなっており、それぞれは第1の鉛直部材21及び第2の鉛直部材22に溶接で結合されている。そして、水平部材を構成する2つの部材23a,23bの中央部側の端部は切断されたままのコの字状の端面となっている。これら2つの部材23a,23bは木部材24で接続されるものであり、水平部材23の2つのフランジ23cとウェブ23dとで形成される凹部に木部材24が嵌め入れられている。そして、ウェブ23dに設けられた小孔に挿通されるビス又はラグスリュー25等によって鋼からなる2つの部材23a,23bと木部材24とが一体に接続される。
【0044】
このような補強金具7を用いることにより、柱間の間隔が大きく変動する場合においても、現場で柱3,4間の間隔に対応して木部材24の寸法を調整することができ、同じ寸法の補強金具7を使用することが可能となる。
【0045】
一方、図7に示す補強金具8は、水平部材33が分割されておらず、第1の鉛直部材31との結合部から第2の鉛直部材32との結合部まで連続した鋼材が用いられている。柱3,4間の間隔が木造建築物の各部で同一の部分が多く、柱3,4を正確に立設可能である場合や、予め2つの柱3,4を補強金具8で接合してから土台の上に立て込むことが可能である場合等には、このような補強金具8を使用することも可能となる。
【0046】
なお、以上に説明した実施の形態では、水平部材13,23,33が第1の鉛直部材11,21,31及び第2の鉛直部材12,22,32と結合される端部付近に剛性低減部13d,23e,33aが設けられているが、このような断面が縮小された剛性低減部を設けることなく、水平部材が均等な断面を有するものであっても良い。このような水平部材でも、両端部で曲げモーメントが最大となることから、断面の選択によって端部付近で塑性変形を生じさせることも可能である。
また、水平部材の断面が地震時の水平力が作用したときに塑性変形が生じないものでも良い。この場合には塑性ヒンジによる振動エネルギーの吸収効果は期待できないが、柱と水平部材とのラーメン構造で水平力に抵抗し得るものである。
【0047】
図8は、補強金具6が添木41を介して柱3,4に取り付けられるとともに、2つの柱3,4間に間柱42が設けられる場合について、構造躯体の一部を示す概略側面図及び概略平断面図である。また、図9は取り付けられた状態の補強金具6を示す側面図、平面図及び断面図である。
この実施の形態では、2つの柱3,4の互いに対向する面に、この柱より壁厚方向の寸法が小さい添木41が柱3,4の上端から下端にかけて取り付けられている。そして、補強金具6はこの添木41を介して柱3,4に固定されるものとなっている。また、柱間のほぼ中央には、添木41と壁厚方向の寸法がほぼ同じとなった間柱42が土台2の上に支持され、上端が横架材5に接合されている。
【0048】
補強金具6の第1の鉛直部材11及び第2の鉛直部材12には、図2に示す実施形態と同様に断面がL型の鋼材が用いられ、水平部材13には断面がコの字状となった鋼材が用いられている。また、水平部材13は2つの部材を中央で接続したものであり、2つの部材13a,13bは添接板43によって接続されるものとなっている。この実施形態では水平部材のほぼ中央部に間柱42が立設されるため、水平部材を構成する2つの部材13a,13bは間柱42の両側の位置で切断されており、これらを接続する添接板43は曲げ加工が施されて、立設された間柱42との干渉を避ける形状となっている。つまり、添接板43の平面形状が矩形の溝状部分を有するように曲げ加工されており、間柱42は溝状となった凹部内を上下方向に通過するように配置されている。また、間柱の添接板43が横断する部分には切り欠きが設けられ、添接板43がこの切り欠き内に納められており、間柱42の居室内側の面と添木41の居室内側の面とにわたって、内装を施すための面材44を取り付けることができるようになっている。
このような構造とすることにより、面材44を用いていわゆる真壁を容易に形成するとともに、真壁内に本発明の補強金具6が納まるように補強を行うことができる。
【0049】
次に、このような補強を新築の木造建築物及び既存の木造建築物について行う方法について説明する。
新築の木造建築物では、柱3,4を土台2の上に立設し、横架材5を架け渡した後に補強金具6を柱間に取り付ける。そして、これらの補強金具6が壁内に納まるように壁を形成する。このとき、図10に示すように長押51や付鴨居52が設けられる壁では、これらが設けられる高さを避けて複数の補強金具6を取り付けることができる。また、天井廻縁53が設けられる位置を避けて、これより下側に取り付けることもできる。
一方、図11に示すように開口54が設けられる部分にも、開口の上側に設けられた垂れ壁55や開口より下方の腰壁56となる位置に補強金具6を取り付け、垂れ壁55又は腰壁56をこれらの補強金具6が壁内に納まるように形成することができる。
【0050】
既存の木造建築物の補強を行うときには、補強金具6を取り付けようとする部分の壁を解体し、柱3,4間に補強金具6を取り付けた後に、これらの補強金具6が壁内に納まるように壁体を修復する。このとき、図10に示すように長押51や付鴨居52が設けられている部分でも、長押51や付鴨居52を解体することなく、これらの上方及び下方の壁を解体して補強金具6を取り付けることができる。また、天井57及び床58を解体することなく天井廻縁53より下側の壁、又は床58より上側の壁を解体して、補強金具6を取り付けることがきる。
一方、図11に示すように開口54が設けられる部分では、開口54の上側に設けられた垂れ壁55や開口54より下方の腰壁56を解体し、開口54の枠組みを解体することなく垂れ壁55又は腰壁56内に補強金具6を取り付けることができる。
したがって、補強にあたって解体する部分を少ない範囲にとどめ、修復費用を低減して大きな補強効果を得ることが可能となる。
【0051】
上記のような補強金具による木造建築物の補強は、次に説明するように、2つの柱間の間隔が異なる部位において適用することが可能である。
一般に軸組構造の木造建築物は、910mm〜980mm(間中、一間の1/2)を単位としてこの1倍、1.5倍、2倍の中心間隔で柱が立設されることが多い。このように2つの柱の間隔が大きく変動する場合に、次のような構造として補強金具を取り付けることができる。
【0052】
図8に示すように、添木と間柱とを使用して壁体を形成する場合であって、柱の間隔が間中の1.5倍又は2倍であるときには、図12に示すような構造を採用することができる。
図12(a)に示す構造では、一方の柱61からほぼ間中の位置に補強用間柱63を立設する。この補強用間柱63は、壁厚方向の寸法が添木64及び間柱65とほぼ同じとなっており、壁面と平行な方向に幅が大きくなっている。この補強用間柱63は、一本の木材から形成されるものでもよいし、図12に示すように2本又は3本の間柱用の木材を平行に密接させて用いるものであっても良い。また、補強用間柱63と柱61との間には間柱65を立設する。
上記補強用間柱63とほぼ間中の間隔で立設された柱61との間には、図8に示す構造と同様に補強金具66を取り付ける。このとき柱61との間には添え木64を介挿して柱61と固着する。これにより、補強用間柱63と、柱61と、補強金具66の水平部材66aとでラーメン構造を形成する。
【0053】
補強用間柱63と他の柱62との間隔は、間中の約1/2となっており、この部分には図9に示す補強金具66の分割された水平部材の一方と一つの鉛直部材とが結合された分割補強金具67を用い、添木64を介して鉛直部材67bを柱62に取り付ける。水平部材67aの端部は、補強用間柱63に接続する。この端部は補強用間柱63に対して曲げモーメントの伝達が可能に接続するものではなく、Lの字状に加工された金具68等を用いて上下方向の位置が固定されるように接続するものでよい。
このように補強金具66及び分割補強金具67が取り付けられた補強用間柱63、間柱65及び添木64に当接するように面材を設け、壁を構成する。
【0054】
このような壁は、水平方向の力が作用したときに、補強用間柱63と、間中の間隔で立設された柱61と、補強金具66の水平部材66aとで構成されるラーメンによって抵抗する。また、補強用間柱63と、他方の柱62つまり近接して立設された柱62と、これらの間に取り付けられた分割補強金具67の水平部材67aとは、水平部材67aと補強用間柱63との間で曲げモーメントは伝達されないが、有ヒンジラーメンとして機能し、水平力に対して抵抗するものとなる。
【0055】
図12(b)は、柱71,72の中心間隔が間中の2倍つまり一間であるときの補強金具76の取り付け状態を示す概略側面図である。この構造では、2つの柱間のほぼ中央に補強用間柱73を立設する。この補強用間柱73は、図12(a)に示す構造で使用されているものと同じものであり、壁厚方向の寸法が添木74及び間柱75とほぼ同じで、壁面と平行な方向に幅が大きくなっている。この補強用間柱73と両側の柱71,72との間には、間柱75を立設するとともに、柱71,72との間には添木74を介挿して補強金具76を補強用間柱73と柱71,72とに固着する。これにより、補強用間柱73と、柱71,72と、補強金具76の水平部材76aとでラーメン構造を形成する。そして、壁面を構成する面材を取り付ける。
なお、このように補強用間柱63,73と添木64,74とを用いて補強金具66,76を取り付ける補強方法は、柱間に開口が設けられる場合においても、図11と同様に、開口の上側及び下側に補強金具76を取り付けるものとして採用することができる。
【0056】
2つの柱の間隔が大きく異なる場合の対応として、図13に示すように補強金具を取り付けることもできる。
図13に示す壁は、2つの柱81,82の中心間隔が間中のとき、間中の1.5倍のとき、及び間中の2倍のときの補強金具の取り付け状態を示す概略図である。
隣り合う2つの柱81,82の互いに対向する面にはそれぞれ添木83が取り付けられる。添木83は、壁厚方向の寸法が柱の寸法より小さくなっている。また、これらの添木83の間には、壁厚方向の寸法が添木83と同じ横桟84が、上下に所定の間隔で複数が水平方向に架け渡されている。
【0057】
補強金具85は上記横桟84の間に添木83を介して2つの柱81,82に固定される。この補強金具85の水平部材85は、2つの部材が中央で接続されたものであり、水平部材85の長さが2つの柱81,82の間隔に対応して定められている。そして、水平部材85を構成する2つの部材が添接板86によって接合されるものとなっている。
壁の面材は、添木83と横桟84に当接して取り付けられ、横桟84が適切な間隔で設けられていることにより、面材を強固に支持することができる。また、補強金具85を壁内に納めて真壁とすることができる。
なお、補強金具は、図13に示すものに代えて、図6に示すように鋼からなる水平部材を木部材によって接続するものであっても良い。このような補強金具を使用することにより、図13に示すように2つの柱81,82の間隔が異なっても、木部材以外の補強金具は同じ形状寸法のものを汎用的に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1:基礎、 2:土台、 3,4:柱、 5:横架材、 6,7,8:補強金具、
11:第1の鉛直部材、 12:第2の鉛直部材、 13:水平部材、 13a,13b:水平部材を構成する2つの部材、 13c:平板状の接続部、 13d:水平部材の剛性低減部、 13e:水平部材のウェブ、 13f:水平部材のフランジ、 14:ラグスクリュー、 15:添接板、 16:ボルト、
21:第1の鉛直部材、 22:第2の鉛直部材、 23:水平部材、 23a,23b:水平部材を構成する2つの部材、 23c:水平部材のフランジ、 23d:水平部材のウェブ、 23e:水平部材の剛性低減部、 24:木部材、 25:ラグスクリュー、
31:第1の鉛直部材、 32:第2の鉛直部材、 33:水平部材、 33a:水平部材の剛性低減部、
41:添木、 42:間柱、 43:添接板、 44:面材、
51:長押、 52:付鴨居、 53:天井廻縁、 54:開口、 55:垂れ壁、 56:腰壁、 57:天井、 58:床、
61,62:柱、 63:補強用間柱、 64:添木、 65:間柱、 66:補強用金具、 67:分割補強金具、 、
71,72:柱、 73:補強用間柱、 74:添木、 75:間柱、 76:補強用金具、 、
81,82:柱、 83:添木、 84:横桟、 85:補強金具、 86:添接板










【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製の柱と横架材とを組み合わせて構築される木造建築物の補強金具であって、
隣り合う2つの柱の互いに対向する面のそれぞれに固着される第1の鉛直部材及び第2の鉛直部材と、
前記第1の鉛直部材と前記第2の鉛直部材とを水平方向に接合する水平部材とを有し、
前記柱が傾斜しようとするときに、前記鉛直部材と前記水平部材との結合部分に生じる曲げモーメントによって該柱の傾斜に抵抗するものであることを特徴とする木造建築物の補強金具。
【請求項2】
前記水平部材は、前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材との結合部付近の曲げ剛性が、前記柱の傾斜時に塑性変形が生じるように調整されていることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の補強金具。
【請求項3】
前記水平部材は、前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材との結合部付近に、曲げ剛性が低減された剛性低減部を有し、
該剛性低減部で前記塑性変形が生じるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木造建築物の補強金具。
【請求項4】
前記水平部材は、2つの部材を接続したものであり、
2つの部材の接続部は、軸線方向に長さを調整して接続することができるものであることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の木造建築物の補強金具。
【請求項5】
前記水平部材を構成する2つの部材のそれぞれは、一つの木部材と曲げモーメントの伝達が可能となるように堅結され、該木部材を介して接続されるものであることを特徴とする請求項4に記載の木造建築物の補強金具。
【請求項6】
木製の柱と横架材とを組み合わせて構築される木造建築物の補強方法であって、
鉛直方向に配置される第1の鉛直部材と、該第1の鉛直部材と平行に配置される第2の鉛直部材と、両端部が前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材に曲げモーメントの伝達が可能に結合された水平部材とを有する補強金具を、隣り合う2つの柱間に配置し、
2つの柱の互いに対向する面のそれぞれに前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材を固着して、2つの柱と前記水平部材とでラーメン構造を形成することを特徴とする木造建築物の補強方法。
【請求項7】
前記補強金具の前記水平部材は、前記第1の鉛直部材及び前記第2の鉛直部材との結合部付近の曲げ剛性が、前記柱の傾斜時に塑性変形が生じるように調整することを特徴とする請求項6に記載の木造建築物の補強方法。
【請求項8】
前記補強金具は、隣り合う2つの柱の下端から上端までの間に複数を設けることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の木造建築物の補強方法。
【請求項9】
前記補強金具は、2つの柱間に設けられた窓の下側の腰壁内及び/又は窓の上側の垂れ壁内に取り付けることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の木造建築物の補強方法。
【請求項10】
前記補強金具は、2つの柱間の長押の上側で天井の廻縁より下側に取り付けることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の木造建築物の補強方法。
【請求項11】
前記柱に上下方向の添木を取り付け、
前記補強金具は、前記添木を介して前記柱に固着することを特徴とする請求項6から請求項10までのいずれかに記載の木造建築物の補強方法。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−137311(P2011−137311A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296888(P2009−296888)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【出願人】(597007282)住友林業ホームテック株式会社 (43)
【Fターム(参考)】