説明

材着樹脂成形用樹脂組成物および樹脂成形部品

【解決課題】 バンパ材やドアトリム材等の自動車内外装部品を射出成形したときに発生する「ウェルドライン」を防止し、かつ剛性および耐衝撃性を維持しつつ、特に暗色系顔料を材料自体に混合した場合において、従来品と比べて深みのある低明度の発色を呈し、無塗装化を可能とする樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ホモポリプロピレン63.6質量部〜75.4質量部と、スチレン成分を10質量%〜50質量%、エラストマー成分を50質量%〜90質量%含み、重量平均分子量が4万以上であるスチレン系エラストマー24質量部〜28質量部と、平均粒径が5μm〜7μmでアスペクト比が250〜7000の層状無機化合物0.5質量部〜8質量部と、酸化チタン0.1質量部〜0.4質量部とを含む材着樹脂成形用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材着樹脂成形用の樹脂材料およびその樹脂成形品に関する。特にバンパ、ドアトリム等の自動車内外装部品で使用されるポリプロピレンを射出成形するときに発生する「ウェルドライン」を防止し、無塗装化を図るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バンパ、ドアトリム等は、剛性、耐衝撃性が要求されるため、プロピレンとエチレン等をブロック的に共重合したタイプのブロックポリプロピレンにエラストマー成分やタルク等のフィラー(補強材)を添加した複合系のブロックポリプロピレンが使用されている。エラストマー成分は、主には耐衝撃性を向上させるために添加され、タルク等のフィラー(補強材)は、主には曲げ弾性率(剛性の指標)向上のために添加されている。これらは、各部品の要求性能に合わせて、最適な配合設計がなされている。
【0003】
通常、バンパ、ドアトリムは、これらのブロックポリプロピレンを射出成形することにより成形されるが、成形時に、樹脂の合流部で「ウェルドライン」と呼ばれる外観不具合が発生する。ウェルドラインの発生を抑制させるために、部品形状での対策により、ウェルドラインを目立たない場所に発生させたり、ウェルドラインが目立たないシボ形状を選定することなどがある。しかし、バンパ、ドアトリム等は、形状が複雑なため、部品形状による対策には限界があり、また、デザイン自由度も制限されるという問題があった。
【0004】
現状では、ウェルドラインを隠すために、「塗装」や「タッチアップと呼ばれる簡易塗装」で対策している。しかし、塗装工程によるコストアップや近年、人体への影響が懸念視されている揮発性有機化合物(VOC)が発生するという問題があるため、顔料や染料等の着色剤で、直接樹脂材料を着色した材着材料で成形する無塗装部品の採用も年々高くなっている。これらの背景を踏まえ、ウェルドラインの発生しない材料が求められている。
【0005】
光輝材の粒子径や添加量の選定とウェルド消去剤と呼ばれる酸化チタンを添加することによりウェルドラインの発生を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、酸化チタンは、非常に着色力が大きい白色無機顔料であることが知られており、添加することにより、明度(L*値)が大きく増加する。そのため、特許文献1においても、酸化チタンを添加する場合は、0.1質量部前後が適当と記されているように、添加量に限界がある。さらに、マイカ粉やアルミ粉等の光輝材を添加した、あらかじめ明度(L*値)の高い樹脂材料に限定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−239505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは実際に、現行のバンパ材やドアトリム材等で使用しているタルク添加系のポリプロピレンを黒色に着色して、特許文献1に開示された技術を適用した。しかしながらウェルドラインを消失させることはできなかった。それどころか、酸化チタンの影響により、色が大きく変化し、質感も大きく低下する結果となった。
【0008】
ウェルドラインが消失しなかった要因は、タルクを添加していることに起因すると考えられる。タルク添加系では、樹脂の合流部でのタルクの配向により、タルク未添加系と比べて、ウェルドラインが発生し易くなるためである。
【0009】
また、質感が低下した要因は、酸化チタンの性質に起因すると考えられる。バンパ材やドアトリム材等のタルク添加系ポリプロピレンが、乳白色の不透明樹脂で、着色しても白ボケ感があるのに対し、より白ボケ感を助長してしまう酸化チタンを添加することにより、チープ感が一層増してしまうためである。これらの特徴から、バンパ材やドアトリム材等のタルク添加系のポリプロピレンに対して、酸化チタンを添加することは好ましくなく、特に、自動車の内外装部品は、黒系の低明度の色が多く、色の変化や質感の低下が顕著になるので、特許文献1に開示された技術は、有効ではない。
以上の理由から、樹脂の合流部で発生するウェルドラインを隠すために、成形品に塗装せざるを得ないという問題がある。
【0010】
本発明は、バンパ材やドアトリム材等の自動車内外装部品を射出成形したときに発生する「ウェルドライン」を防止し、かつ剛性および耐衝撃性を維持しつつ、特に暗色系顔料を材料自体に混合した場合において、従来品と比べて深みのある低明度の発色を呈し、無塗装化を可能とする樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明に係る材着樹脂成形用樹脂組成物は、ホモポリプロピレン63.6質量部〜75.4質量部と、スチレン成分を10質量%〜50質量%、エラストマー成分を50質量%〜90質量%含み、重量平均分子量が4万以上であるスチレン系エラストマー24質量部〜28質量部と、平均粒径が5μm〜7μmでアスペクト比が250〜7000の層状無機化合物0.5質量部〜8質量部と、酸化チタン0.1質量部〜0.4質量部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の材着樹脂成形用樹脂組成物を用いることにより、剛性および耐衝撃性を維持しながら、樹脂自体の透明性を確保し、無塗装部品への適用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ウェルドライン評価金型により得られる成形品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を、詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する形態に制限されるものではない。
本発明にかかる材着樹脂成形用樹脂組成物(以下、単に「本発明にかかる組成物」という)は、ホモポリプロピレンを63.6質量部〜75.4質量部含む。これにより、ブロックポリプロピレンに比べて透明性が向上し、着色した際の白ボケ感を抑制することができる。
ホモポリプロピレンは、良好な成形性を得る観点から、ISO1133:1997に準拠して230℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレート[MFR]が、25g/10分以上であることが望ましく、高い剛性を得る観点から、ISO178:1993に準拠して測定した曲げ弾性率が2200MPa以上であることが望ましい。
【0015】
本発明にかかる組成物はさらに、スチレン系エラストマーを含む。これにより、上記ホモポリプロピレンが有する透明性や剛性の低下を抑制しつつ、耐衝撃性を向上することができる。
スチレン系エラストマーとしては、スチレン成分とエラストマー成分とを含み、スチレン成分を10質量%〜50質量%、好ましくは10質量%〜20質量%の割合で含有し、エラストマー成分を50質量%〜90質量%、好ましくは65質量%〜85質量%の割合で含有するものが好ましい。この際のエラストマー成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンなどの共役ジエン系炭化水素が挙げられ、より具体的にはスチレンとブタジエンとの共重合体(SBS)エラストマー、スチレンとエチレンとブタジエンとの共重合体(SEBS)エラストマー、スチレンとイソプレンとの共重合体(SIS)エラストマー等が挙げられる。
スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、高い耐衝撃性、荷重たわみ温度を確保する観点から4万以上であることが好ましく、良好な成形性を確保する観点から40万以下であることが好ましい。より好ましい下限は、5万であり、より好ましい上限は、15万である。
【0016】
本発明にかかる組成物はさらに、平均粒径が5μm〜7μmでアスペクト比が250〜7000(層の厚さ1nm〜20nm)の層状無機化合物を含む。アスペクト比の好ましい下限は、500である。かかる層状無機化合物は、天然物または合成物のいずれであってもよい。曲げ弾性率を向上させる単位質量あたりの効果が大きいことから特に膨潤性の含水ケイ酸塩が好ましい。かかる膨潤性の含水ケイ酸塩としては特に限定されないが、例えば、モンモリロナイト、変性ベントナイト、サポタイト、ノントロライト、ヘクトライト、ステイブンサイト等のスメクタイト群粘土鉱物;ハロイサイト等のカオリン型鉱物;フッ素化マイカ等のマイカ等が挙げられる。
層状無機化合物の添加量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.5質量%〜8質量%であり、望ましくは、0.5質量%〜2質量%である。
本明細書において、平均粒径は、レーザ散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所(株))のLA920によって測定し得られる値である。
上記アスペクト比は、平均粒径を層の厚さで割った値であり、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定し得られる値である。
【0017】
本発明にかかる組成物は、タルクを実質的に含まないものであることが好ましい。タルクは平均粒径が7μmを超える場合、樹脂合流部において配向し、ウェルドラインを発生しやすくする。本発明にかかる組成物は、平均粒径が5μm〜7μmの層状無機化合物を用いることにより、少量の添加量で剛性を確保でき、比重低減が可能となり、軽量化を図ることができる。
【0018】
本発明にかかる組成物は、さらに酸化チタンを0.1質量部〜0.4質量部含む。組成物全体質量に占める酸化チタンの割合が、0.1質量部未満であると、ウェルドラインの抑制が不十分となる場合があり、0.4質量部を超えると、特に低明度の材料に着色する場合に色の変化や質感の低下を招きやすい。酸化チタンを上記範囲内で含むことにより、質感を損なうことなく、ウェルドラインを抑制することができ、無塗装化が可能になる。
用いる酸化チタンの結晶構造としては、ルチル型、アナターゼ型、または、ブルッカイト型のいずれであってもよい。
酸化チタンの平均粒径は、凝集粒子が少なく分散性に優れる点で0.1μm〜1.0μmであることが好ましい。
【0019】
本発明にかかる組成物は、ホモポリプロピレン、スチレン系エラストマー、酸化チタンおよび平均粒径が5μm〜7μmでアスペクト比が250〜7000の層状無機化合物を上述の組成比で含むことにより、4種各々による効果を上回る相乗的な機能が発現し、相反の関係にあった剛性と耐衝撃性とを両立でき、かつ従来材では得られない材料の透明性を確保することができる。
本発明にかかる組成物は、まずスチレン系エラストマー、ナノフィラーおよび所望により無水マレイン酸変性ポリプロピレンを230℃〜260℃で混練し、マスターバッチを作製した後、マスターバッチとホモポリプロピレンとを170℃〜210℃で溶融混練することが好ましい。この2工程を経ることにより、ナノフィラーの分散が良くなり曲げ弾性率が向上する。
酸化チタンは、マスターバッチに入れることもホモポリプロピレンとともに入れることも可能であり、マスターバッチとホモポリプロピレンとを溶融混練したのち、着色をする際に入れてもよい。
【0020】
本発明にかかる組成物は、さらに変性ポリオレフィンを0質量部以上4質量部以下の量で含むものであってよい。これにより、特に層状無機化合物の添加量が多い場合に、主原料であるポリプロピレンと層状無機化合物との相溶性を向上させ、曲げ弾性率を向上させることができる。変性ポリオレフィンは、任意成分である。
変性ポリオレフィンは、分子中にカルボキシル基を有する変性ポリオレフィン樹脂であればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィンに不飽和カルボン酸類をグラフト重合して変性させた変性体;エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のオレフィンと不飽和カルボン酸類との共重合体等が挙げられる。不飽和カルボン酸類としては、アクリル酸等の不飽和一塩基酸;フマル酸、無水マレイン酸等の不飽和二塩基酸等が挙げられ、無水マレイン酸および/またはその誘導体が単独重合性に乏しく、グラフト化反応が進行しやすいため、特に好ましい。
上記変性ポリオレフィンは、その重量平均分子量が2万〜7万の範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは、MFRが0.5g/10分〜7g/10分の範囲である。すなわち、上記ポリオレフィン系樹脂のMFRがこのような範囲であると、高い透明性および曲げ弾性率を確保できるという効果がある。
【0021】
本発明にかかる組成物は、組成物100質量部に対して、カーボンブラックを1質量部加えて射出成形して得られる成形品の明度(L*値)が26.91以下であることが好ましい。
従来のバンパ材には、例えば、プロピレン・エチレンブロックポリプロピレン、タルク、エチレン・α−オレフィン系エラストマーを質量比で70:15:15混合し得られる3元組成物が用いられてきた。しかしながらこの3元組成物にカーボンブラック1質量部を添加して着色した場合、明度(L*値)が26.91程度であり、これにウェルドラインを消去するために酸化チタンを添加した場合明度が26.91より上昇し、視覚的に成形部材の白ボケ感が生じることが避けられなかった。
本発明にかかる組成物を用いた場合、ウェルドライン消去のために明度(L*値)が高くなる原因となる酸化チタンを0.1質量部以上添加しているにもかかわらず、明度(L*値)は26.91以下、より好ましくは、25.5以下、更に好ましくは、25.0以下、特に好ましくは24.9以下に抑制され、特に暗色系顔料を材料自体に混合した場合において、従来品と比べて深みのある低明度の発色を呈する成形部品を得ることができる。
【0022】
本発明にかかる組成物を適用可能な用途としては特に限定されないが、例えば、バンパ材、フェンダ材等の自動車外装部品;ドアトリム材、バックドア材、コンソールボックス材等の自動車内装部品等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本案の詳細について、実施例を用いて詳細に説明する。
(比較例1〜8)
まず、従来技術として、特許第3571403号の技術を現行のバンパ材に適用した結果を説明する。バンパ材は、プロピレン・エチレンブロックポリプロピレン70質量%に、剛性や耐熱性確保のために平均粒径:5〜6μm程度のタルクが15質量%、耐衝撃性確保のためにエチレン・α−オレフィン系エラストマーが15質量%添加されている。ポリプロピレンが高い結晶性を示すことに加え、タルクやエラストマーを添加することにより、バンパ材は、乳白色の不透明樹脂となっている。
【0024】
上記バンパ材100質量部にカーボンブラック(市販品)を1質量部添加し、黒色に着色した。黒色に着色した理由は、黒色が自動車内外装部品で採用が多いためである。黒色着色後に、酸化チタン(ルチル型、粒径0.1μm、市販品)を変量して添加し、ウェルドラインの発生有無と明度(L*値)の変化を評価した。ここで、ウェルドラインについては、目視で評価した。明度(L*値)については、コニカミノルタ(株)製分光測色計CM−508d(SCI測定)で、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0025】
なお、ウェルドラインの評価は、ウェルドライン評価金型で行った。図1に同金型で得られる成形品1の概略を示す。成形品1(70mm×50mm)は、15mm×20mmの開口寸法を有する穴部3が設けられており、注入部位7から注入された溶融樹脂組成物は、穴部3の周辺を流れて衝突しウェルドライン5の発生を評価できるようになっている。通常、材着バンパやドアトリムなどの自動車内外装部品の意匠面は、シボ加工が施されていることが多いが、シボ形状により、ウェルドラインの発生程度が異なるので、鏡面加工で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0026】
【表1】


*1 ○:ウェルドライン発生せず △:ウェルドラインやや発生 ×:ウェルドライン発生
【0027】
材着材料を自動車部品で使用する場合、着色剤による物性低下を考慮して、添加量は2 質量部未満とするのが一般的である。しかし、カーボンブラック1質量部に酸化チタンを0.8質量部添加してもウェルドラインは消失しなかったので、試験的に酸化チタンを3質量部まで添加した。その結果、酸化チタンの増加に伴い、明度(L*値)の増加により色がグレー色に変化し、さらに酸化チタンによる白ボケ感が強くなり、質感の低下を招くのみで、ウェルドラインを消失させることはできなかった。自動車の内外装部品で採用が多いタルク添加系のポリプロピレンに対しては、特許第3,571,403号の技術は有効ではなかった。
【0028】
バンパ材やドアトリム材等の自動車内外装用のポリプロピレンが不透明な乳白色となる理由は、もともとプロピレン・エチレンブロックポリプロピレンが不透明であるのに加え、タルク等の無機フィラーを添加することにあると考えられる。そのため、タルク添加系のポリプロピレンで発生するウェルドラインを消失させるために、酸化チタンを添加することは、色の変化や質感の低下を招くばかりで、好ましくなかった。そこで、バンパ材やドアトリム材の透明性を向上させることができれば、従来のタルク添加系のポリプロピレンよりも、より低明度で深みのある色に着色でき、酸化チタンを添加することによる明度(L*値)の変化と質感の低下を相殺できると考えた。ただし、ポリプロピレンの透明性を向上させるためには、タルク等の補強材の添加量を減らす必要があるが、物性を確保できなくなるという問題がある。そこで、透明性を低下させる要因となる粗大なタルクに代わり、より微細な層状の無機化合物を選定した。理由は、微細な層状無機化合物の特徴として、曲げ弾性率を向上させる効果がタルクと比べて大きく、少量の添加量で曲げ弾性率を確保できると考えたからである。また、ベースとなるポリプロピレンは、ポリプロピレンの中でも透明性に優れるホモポリプロピレンとした。ただし、ホモポリプロピレンがブロックポリプロピレンと比べて耐衝撃性が劣ることや、層状無機化合物の添加によりシャルピー衝撃強さが低下するので、エラストマーを添加する必要があるが、エラストマーの添加は、曲げ弾性率を低下させる要因となる。この相反する性質を考慮し、曲げ弾性率とシャルピー衝撃強さとをバランスよく両立させる配合を設計する必要があった。
【0029】
物性の目標値については、自動車内外装で使用することを考慮し、曲げ弾性率が1400MPa以上、シャルピー衝撃強さ(23℃)が20kJ/m以上とした。ここで、評価方法は以下の通りである。
1)曲げ弾性率は、ISO178:1993に準拠
・ シャルピー衝撃強さ(23℃)は、ISO 179:1993、タイプAノッチISO 179/1eAに準拠
・ MFR(参考)は、ISO 1133:1997に準拠(230℃、荷重2.16kgで測定の条件下における測定値)
【0030】
以下に、材料配合について、具体的に説明する。
(i)主原料:
成分A:ホモポリプロピレン(曲げ弾性率 2300MPa、シャルピー衝撃強さ(23℃) 2.0kJ/m
(ii)エラストマー
成分B:スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン(SEBS)(重量平均分子量60,000、スチレン成分含有量30質量%)
(iii)層状無機化合物:
成分C:フッ素化マイカ(コープケミカル(株)製 ソマシフMAE、市販品、アスペクト比=500〜7000)
成分D:ベントナイト((株)ホージュン製、エスベンNX、市販品)
成分E:モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、クニピアD、市販品)
(iv)変性ポリオレフィン(疎水性のポリプロピレンと親水性の無機補強材の親和性を高める)
成分F:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成(株)製 ユーメックス1001、市販品)
【0031】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、上記成分を溶融混練することにより、製造することができる。溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ニーダー等の混練機を用いて、混練・造粒できる。本配合系では、各成分、特に、層状の結晶構造をしている層状無機化合物の分散を良好にするため、二軸押出機(神戸製鋼(株)製、KTX−30)を用いて、溶融混練した。また、より層状無機化合物の分散を向上させるため、エラストマー/層状無機化合物/相溶化剤を混練温度250℃、回転数 200rpmでマスターバッチ化した後、混練温度190℃、回転数200rpmでポリプロピレンと溶融混練した。
なお透明性の指標として、全光線透過率を評価した。全光線透過率の測定に際しては、スガ試験機(株)製ヘーズコンピューター HZ−2を使用した。
【0032】
配合処方と評価結果を表2に示す。
【表2】

【0033】
(1)層状無機化合物(成分C,D,E)の最適化(比較例9〜11)
まず、層状無機化合物の最適化を図るために、ホモポリプロピレン(成分A)、エラストマー(成分B)、変性ポリオレフィン(成分F)の添加量をそれぞれ74質量%、20質量%、4質量%に固定し、フッ素化マイカ(成分C)、ベントナイト(成分D)、モンモリロナイト(成分E)の3種類の層状無機化合物をそれぞれ2質量%添加した材料を作製し、物性および全光線透過率を評価した(比較例9〜11)。本結果から、いずれの層状無機化合物においても物性に大きな差は見られなかった。いずれも従来のバンパ材(全光線透過率36.68%)と比べて、全光線透過率は大きく向上しているが、その中でも、フッ素化マイカ(成分C)が望ましいことが分かった。
(2)エラストマー(成分B)添加量の最適化(実施例1〜3、比較例12、比較例13)
次に、層状無機化合物添加による耐衝撃性の低下を補うために、エラストマー(成分B)の添加量の最適化を行った(実施例1〜3、比較例12、比較例13)。層状無機化合物(成分C)の添加量を2質量%、変性ポリオレフィン(成分F)の添加量を4質量%にそれぞれ固定し、エラストマー(成分B)の添加量を22質量%〜30質量%まで変量した。本結果から、シャルピー衝撃強さは、エラストマー(成分B)の添加量が、24質量%を超えたあたりから大きく向上することが分かった。ただし、添加量の増加とともに曲げ弾性率が低下し、30質量%以上では目標値を確保できないことが分かった。これにより、エラストマー(成分B)の添加量は、24質量%〜28質量%の範囲が望ましく、特に26質量%のとき、最も耐衝撃性と曲げ弾性率とのバランスがよいことが分かった。
(3)層状無機化合物(成分C)および変性ポリオレフィン(成分F)添加量の最適化(実施例4〜10、比較例14)
続いて、層状無機化合物(成分C)および変性ポリオレフィン(成分F)の添加量の最適化を行った。
まず、変性ポリオレフィン(成分F)を未添加かつエラストマー(成分B)を26質量%に固定し、層状無機化合物(成分C)の添加量を0.5〜2質量%に変量したときの物性および全光線透過率を評価した(実施例4〜6)。本結果から、層状無機化合物(成分C)の添加量が0.5〜2質量%の範囲内では、物性に大きな差は見られなかった。ただし、全光線透過率は、層状無機化合物(成分C)が少ない方がより良好な結果となった。
次に、層状無機化合物(成分C)を2質量%、エラストマー(成分B)を26質量%に固定し、変性ポリオレフィン(成分F)の添加量を0〜4質量%に変量したときの物性および全光線透過率を評価した(実施例6〜8)。本結果から、曲げ弾性率は、変性ポリオレフィン(成分F)の添加量が0〜2質量%のときは、差は見られず、4質量%添加したときにやや向上したのみであった。これは、層状無機化合物(成分C)の添加量が2質量%までは、変性ポリオレフィンを添加しなくても層状無機化合物(成分C)が分散していると推測された。
続いて、エラストマー(成分B)を26質量%に固定し、層状無機化合物(成分C)の添加量を2〜8質量%に変量したときの物性および全光線透過率を評価した(実施例8〜10、比較例14)。通常、層状無機化合物(成分C)の添加量が多くなるにつれて、曲げ弾性率は向上する。しかし、実施例9と10の結果から、層状無機化合物(成分C)の添加量が多くしても曲げ弾性率は誤差の範囲に収まっていた。これは、層状無機化合物(成分C)が充分に分散していないためと推測できる。ただし、比較例14と実施例10とを比較した結果から分かるように、層状無機化合物を分散させるために、変性ポリオレフィン(成分F)の添加量を2質量%以上にすると、シャルピー衝撃強さが大きく低下する。また、層状無機化合物(成分C)の添加量が多いほど、全光線透過率も低下する。
これらの結果から、層状無機化合物(成分C)および変性ポリオレフィン(成分F)の添加量は、それぞれ0.5〜8質量%、0〜4質量%で物性の目標値を満足させることができるが、層状無機化合物(成分C)の添加量は、特に0.5〜2質量%が望ましいことが分かった。
【0034】
着色時の明度は、全光線透過率が高いほど大きくなる。そのため、全光線透過率が低い実施例10の配合材で、現行バンパ材での評価と同様に、カーボンブラックを1質量部添加し、酸化チタンの添加量を変量して、ウェルドラインの発生を評価した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

*1 ○:ウェルドライン発生せず △:ウェルドラインやや発生 ×:ウェルドライン発生
【0036】
酸化チタン未添加のときは、ウェルドラインが発生したが、0.05質量部添加したときに、ウェルドラインの発生は抑制された。0.1質量部添加したときにウェルドラインは完全に無くなった。さらに、酸化チタンの添加量0.4質量部までは、現行のバンパ材と同等以下の明度(L*値)を確保でき、より深い黒色を発色させることができることを確認できた。
実施例1〜10の材料に、カーボンブラック(市販品)と酸化チタン(ルチル型、粒径0.1μm、市販品)をそれぞれ0.1質量部添加した材料でフロントバンパを成形し、成形外観を評価した(表2)。その結果、成形品は、現行のバンパ材を使用した場合と比べて、黒く、深みのある質感が得られ、また、ウェルドラインが発生しないことを確認した。
【0037】
以上により、曲げ弾性率や耐衝撃性を確保し、かつ現行のタルク添加系のポリプロピレン樹脂材料と同等の黒色を確保でき、ウェルドラインが発生しないバンパ、ドアトリム等の自動車内外装部品を成形することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 射出成形品
3 穴部
5 ウェルドライン
7 溶融樹脂組成物注入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモポリプロピレン63.6質量部〜75.4質量部と、
スチレン成分を10質量%〜50質量%、および、エラストマー成分を50質量%〜90質量%含み、重量平均分子量が4万以上であるスチレン系エラストマー24質量部〜28質量部と、
平均粒径が5μm〜7μmでアスペクト比が250〜7000の層状無機化合物0.5質量部〜8質量部と、
酸化チタン0.1質量部〜0.4質量部とを含む材着樹脂成形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記層状無機化合物が、モンモリロナイト、変性ベントナイト、サポタイト、ハイデライト、ノントライト、ヘクトライト、ステイブンサイト、ハロイサイト、および、フッ素化マイカからなる群より選択される1種または2種以上の層状無機化合物である請求項1に記載の材着樹脂成形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系エラストマーが、スチレンとブタジエンとの共重合体(SBS)エラストマー、スチレンとエチレンとブタジエンとの共重合体(SEBS)エラストマー、または、スチレンとイソプレンとの共重合体(SIS)エラストマーである請求項1または2に記載の材着樹脂成形用樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂組成物100質量部に対して、カーボンブラックを1質量部加えて射出成形して得られた成形品の明度(L*値)が26.91以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の材着樹脂成形用樹脂組成物。
【請求項5】
さらに変性ポリオレフィンを0質量部以上4質量部以下の量で含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の材着樹脂成形用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の材着樹脂成形用樹脂組成物を含む樹脂成形品。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の材着樹脂成形用樹脂組成物を含む自動車部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−111494(P2011−111494A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267491(P2009−267491)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】