説明

板材の固定構造

【課題】突起部の精度を低下させることなく、突起部を曲げ部の近傍に形成することができるようにした板材の固定構造を提供する。
【解決手段】第1板材2に折曲片22を形成し、折曲片22における曲げ部23の近傍に円筒状の突起部25を設けるとともに、曲げ部23に突起部25の径以上の寸法を有する曲げ部穴24を設け、突起部25を第2板材3に設けた嵌合孔33に嵌合し、かつボルト7を嵌合孔33を介して突起部25の内周面に螺設した雌ねじ部25aに螺合することにより、第1板材2と第2板材3とを互いに固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の板材を互いに固定するための板材の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2枚の板材を互いに固定する固定構造において、第1板材に形成した挿通孔に、第2板材にバーリング加工等により成型した突起部を嵌合するとともに、突起部の内周面に形成したねじ孔に、挿通孔を介してボルトを螺合して締結することによって、第1板材と第2板材とを互いに固定するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平3−77803号公報(図1、2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような従来の板材の固定構造において、突起部を第1板材の曲げ部の近傍に形成する必要がある場合がある。しかし、この場合には、第1板材に曲げ加工を施す際、曲げ加工時の引っ張り力が突起部周辺に作用し、突起部の寸法に変化が生じることがある。この結果、突起部の精度が低下し、固定強度の低下を招くおそれがある。
【0004】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑み、突起部の精度を低下させることなく、突起部を曲げ部の近傍に形成することができるようにした板材の固定構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)第1板材と第2板材とを互いに固定するための板材の固定構造において、前記第1板材に折曲片を形成し、該折曲片における曲げ部の近傍に円筒状の突起部を設けるとともに、前記曲げ部に前記突起部の径以上の寸法を有する曲げ部穴を設け、前記突起部を前記第2板材に設けた嵌合孔に嵌合し、かつ締結手段を嵌合孔を介して前記突起部の内周面に螺設した雌ねじ部に螺合する。
【0006】
(2)上記(1)項において、第1、2板材が、ストライカと係合することにより、可動体を所定位置に保持可能な係合部材を有するロック装置の第1、2ベースプレートである。
【0007】
(3)上記(2)項において、第1、2ベースプレートは、ストライカが進入可能なストライカ進入溝を有し、折曲片を前記第1ベースプレートにおける前記ストライカ進入溝の開口側の近傍に設ける。
【0008】
(4)上記(2)または(3)項において、締結手段が、第1、2ベースプレート間に係合部材を枢支するための枢軸に対して直交する方向を向くボルトである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果が奏せられる。
(a)請求項1記載の発明によると、第1板材の曲げ部に曲げ部穴を設けるとともに、曲げ部穴の近傍に突起部を設けたことにより、第1板材を曲げ加工する際、突起部の変化を阻止することができる。これにより、突起部の精度を確保して、第1板材と第2板材とを互いに強固に固定することができる。
【0010】
(b)請求項2記載の発明によると、ロック装置の第1ベースプレートと第2ベースプレートとを互いに強固に固定することができる。
【0011】
(c)請求項3記載の発明によると、ロック装置の第1、2ベースプレートの変形、特にストライカ進入溝付近の変形を効果的に抑止することができる。
【0012】
(d)請求項4記載の発明によると、第1、2ベースプレートに対して、係合部材の枢軸の軸方向へ向くような荷重が作用した場合、その荷重を突起部と嵌合部との係合関係によって受け止めて、ボルトには剪断荷重が直接作用しないため、第1ベースプレートと第2ベースプレートとをより強固に互いに固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係わる一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明を適用したシートロック装置の斜視図、図2は、シートロック装置の後面図、図3は、シートロック装置の側面図、図4は、図2におけるIV−IV線に沿う横断面図、図5は、要部の分解斜視図である。なお、以下の説明では、図1における左斜め上方を「前方」とし、右斜め下方を「後方」とし、左斜め下方を「室内側」とし、右斜め上方を「室外側」とする。
【0014】
シートロック装置(1)は、車体のフロアに起倒可能に支持された可動体をなすシートバック(図示略)内にボルト(図示略)により固定される金属製の板材により形成される第1板材をなす第1ベースプレート(2)と、第1ベースプレート(2)の室外側を向く側面に対向し得るように固定される金属製の板材により形成される第2板材をなす第2ベースプレート(3)とにより外形が形成される。
【0015】
第1、2ベースプレート(2)(3)のほぼ中央部には、シートバックを起立させた際、車体側に固着されたストライカ(4)の第1、2係合軸(41)(42)が後方から進入可能な前後方向を向くストライカ進入溝(21)(31)がそれぞれ設けられている。
【0016】
第1ベースプレート(2)と第2ベースプレート(3)との間の収容空間には、ストライカ(4)の第1または第2係合軸(41)(42)に係合することにより、シートバックを起立位置に保持するための係合部材をなすフック部材(5)と、シートバックに設けられる操作ノブ(図示略)の操作に基いてロック解除作動(図3において反時計方向への作動)し、フック部材(5)と第1または第2係合軸(41)(42)との係合を解除させるオープンレバー(6)等が配置される。
【0017】
フック部材(5)は、左右方向を向く枢軸(8)により第1ベースプレート(2)と第2ベースプレート(3)間に上下方向へ揺動可能に枢支され、かつ枢軸(8)に巻装されたばね(9)により係合方向(図3において下方)へ付勢されている。
【0018】
フック部材(5)の下部には、ストライカ進入溝(21)(31)に進入したストライカ(4)の第1、2係合軸(41)(42)に選択的に係合可能な第1係合溝(51)が設けられ、また枢軸(8)寄り側には、第2係合軸(42)が第1係合溝(51)に係合した際、第1係合軸(41)が遊嵌可能な第2係合溝(52)が設けられている。
【0019】
なお、ストライカ(4)の第1係合軸(41)がフック部材(5)の第1係合溝(51)に係合した場合には、シートバックは第1起立位置に保持され、また、第2係合軸(42)が第1係合溝(51)に係合した場合には、シートバックは第1起立位置より後傾の第2起立位置に保持される。
【0020】
オープンレバー(6)は、第1ベースプレート(2)と第2ベースプレート(3)間に左右方向を向く枢軸(10)により枢支されるとともに、枢軸(10)に巻装されたばね(11)の付勢力により待機方向(図3において反時計方向)へ付勢されている。
【0021】
操作ノブの操作に基いて、オープンレバー(6)が待機位置からロック解除作動すると、フック部材(5)に設けられた突軸(53)に当接することにより、フック部材(5)は、図3に示す係合位置から上方へ揺動する。これにより、ストライカ(4)の第1係合軸(41)(または第2係合軸(42))が第1係合溝(51)から離脱可能となり、シートバックを起立姿勢から倒伏姿勢に移動させることができる。
【0022】
第1ベースプレート(2)及び第2ベースプレート(3)におけるストライカ進入溝(21)(31)の開口側(後側)の上方には、室外側へ折曲された第1折曲片(22)及び室内側へ折曲された第2折曲片(32)がそれぞれ設けられている。第1折曲片(22)と第2折曲片(32)とは、前後に重合した状態で、前方(枢軸(8)の軸線方向に対して直交する方向)を向く締結手段をなすボルト(7)により後述のように互いに固定される。
【0023】
第1折曲片(22)は、曲げ加工によって形成されるとともに、その曲げ部(23)には、上下方向へ所定の長さを有する曲げ部穴(24)が穿設され、また、第1折曲片(22)における曲げ部穴(23)の近傍には、バーリング加工により外面側(図4において下方)へ円筒状に突出する突起部(25)が形成される。突起部(25)の内周面には、ボルト(7)が螺合する雌ねじ部(25a)が螺設されている。曲げ部穴(24)は、その曲げ部(23)に沿う方向の寸法(L1)が少なくとも突起部(25)の外径(L2)以上になるように形成される。また、第2折曲片(32)には、突起部(25)が嵌合する嵌合孔(33)が穿設されている。
【0024】
突起部(25)は、次のような手順で成形される。先ず、第1ベースプレート(2)に、予め曲げ部穴(24)及びバーリング加工のための下穴を成形し、この下穴に基いてバーリング加工により突起部(25)を形成する。そして、雌ねじ部(25a)を形成した後、曲げ部穴(24)を含む部分を曲げ加工し、第1折曲片(22)を形成する。このように成形することにより、第1折曲片(22)を形成する際の曲げ加工の引張応力は、曲げ部穴(24)で吸収され、突起部(25)及びその周辺には伝達されない。したがって、突起部(25)が引っ張られて寸法が変化するようなことはない。この結果、突起部(25)の精度を確保することができるとともに、曲げ精度の向上も図ることができる。
【0025】
第1ベースプレート(2)と第2ベースプレート(3)とを互いに固定するには、第1折曲片(22)の突起部(25)を第2折曲片(32)の嵌合孔(33)に嵌合する。そして、ボルト(7)を後方から嵌合孔(33)を介して突起部(25)の雌ねじ部(25a)に螺合して締結する。これにより、図4に示すように、ボルト(7)の頭部(71)と第1折曲片(22)との間に、第2折曲片(32)が挟持される。
【0026】
これにより、第1、2ベースプレート(2)(3)のストライカ進入溝(21)(31)の開口側が互いに固定される。この結果、シートロック装置(1)に大荷重が作用した際、フック部材(5)の変形に伴う第1、2ベースプレート(2)(3)の変形、特にストライカ進入溝(21)(31)付近の変形を効果的に抑えることができ、シートロック装置(1)のロック強度を向上させることができる。
【0027】
また、第1、2ベースプレート(2)(3)に対して、枢軸(8)の軸線方向を向くような荷重が作用した場合には、突起部(25)と嵌合孔(33)との係合関係で受けることができ、ボルト(7)には剪断過重が直接作用することはない。この結果、突起部(25)を形成することなくボルト(7)のみで第1、2ベースプレート(2)(3)同士を互いに固定したもの比較して、格段に強度が向上する。
【0028】
さらに、突起部(25)の寸法精度及び第1折曲片(22)の曲げ精度が確保されるため、突起部(25)が嵌合孔(33)に確実に嵌合して、第1折曲片(22)と第2折曲片(32)とが互いに密接し合うことができる。これにより、第1折曲片(22)と第2折曲片(32)とを互いに強固に固定することができる。また、枢軸(8)の軸線方向を向くような荷重に伴って第2ベース部材(2)が変形した場合、その変形は、曲げ部穴(24)によって吸収されるため、第1折曲片(22)及び第2折曲片(32)には伝達され難い。これにより、第2ベース部材(2)のみが変形して、第1折曲片(22)と第2折曲片(32)との密接状態を維持することができ、第1折曲片(22)と第2折曲片(32)とを互いに強固に固定することができる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、上記実施形態に対して、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
(i)本発明に係わる板材の固定構造を、シートロック装置以外のロック装置またはロック装置以外に適用する。
(ii)可動体をシートバック以外のものとする。
(iii)突起部を第1折曲片の内面側に突出するように成形する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用したシートロック装置の斜視図である。
【図2】シートロック装置の後面図である。
【図3】シートロック装置の側面図である。
【図4】図2におけるIV−IV線に沿う横断面図である。
【図5】要部の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
(1)シートロック装置(ロック装置)
(2)第1ベースプレート(第1板材)
(3)第2ベースプレート(第2板材)
(4)ストライカ
(5)フック部材(係合部材)
(6)オープンレバー
(7)ボルト(締結手段)
(8)枢軸
(9)ばね
(10)枢軸
(11)ばね
(21)ストライカ進入溝
(22)第1折曲片
(23)曲げ部
(24)曲げ部穴
(25)突起部
(25a)雌ねじ部
(31)ストライカ進入溝
(32)第2折曲片
(33)嵌合孔
(41)第1係合軸
(42)第2係合軸
(51)第1係合溝
(52)第2係合溝
(53)突軸
(71)頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板材と第2板材とを互いに固定するための板材の固定構造において、
前記第1板材に折曲片を形成し、該折曲片における曲げ部の近傍に円筒状の突起部を設けるとともに、前記曲げ部に前記突起部の径以上の寸法を有する曲げ部穴を設け、前記突起部を前記第2板材に設けた嵌合孔に嵌合し、かつ締結手段を嵌合孔を介して前記突起部の内周面に螺設した雌ねじ部に螺合することを特徴とする板材の固定構造。
【請求項2】
第1、2板材が、ストライカと係合することにより、可動体を所定位置に保持可能な係合部材を有するロック装置の第1、2ベースプレートであることを特徴とする請求項1記載の板材の固定構造。
【請求項3】
第1、2ベースプレートは、ストライカが進入可能なストライカ進入溝を有し、折曲片を前記第1ベースプレートにおける前記ストライカ進入溝の開口側の近傍に設けたことを特徴とする請求項2記載の板材の固定構造。
【請求項4】
締結手段が、第1、2ベースプレート間に係合部材を枢支するための枢軸に対して直交する方向を向くボルトであることを特徴とする請求項2または3記載の板材の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−196721(P2007−196721A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14327(P2006−14327)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】