板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法
【課題】従来技術では得られなかったc面配向した板状HAp単結晶を工業的規模で製造するための技術の提供。
【解決手段】Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、ヒドロキシアパタイトの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させ、次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取し、次いで前記析出物に水熱処理を施して板状ヒドロキシアパタイト単結晶を得ることを特徴とする板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法。
【解決手段】Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、ヒドロキシアパタイトの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させ、次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取し、次いで前記析出物に水熱処理を施して板状ヒドロキシアパタイト単結晶を得ることを特徴とする板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、c面配向した板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアパタイト(以下、HApと略記する)は、一般に、結晶系が六方晶系に属し、c軸方向に成長した結晶面(以下、この結晶面をa面という)と、a軸およびb軸方向に成長した結晶面(以下、この結晶面をc面という)とをもつ。a面は正に帯電し、c面は負に帯電している。この電荷の異なる2つの結晶面をもつため、HApは、酸性基あるいは塩基性基を持つ化合物を吸着保持することができる。このような吸着特性を有するHApは、タンパク質などの生理活性物質の吸着材(例えば、クロマトグラフィ用充填材)に利用されている。
【0003】
近年、HApの結晶面を選択的に配向させて、その吸着特性に選択性を付与する試みがなされている。例えば、非特許文献1には、均一沈殿法により、a面配向した繊維状HApを合成し、そのa面配向した繊維状HApが塩基性タンパク質(リゾチーム)よりも酸性タンパク質(アルブミン、ポリ−L−グルタミン酸)をより多く吸着することが報告されている。
【0004】
また、c面配向した板状HApの研究も進められている。特許文献1には、リン酸カルシウム粒子を、アミノ酸水溶液中にて加熱して、HApに転化し、次いで該HApをa軸およびb軸方向に生長させることを特徴とする板状HApの製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、非特許文献2には、CaCO3、H3PO4、尿素およびウレアーゼを含む水溶液を50℃で24時間インキュベートし、溶液から均一な生成物を沈殿させ、次いでこの沈殿物に水熱処理を施してc面配向した板状HApを合成する方法が開示されている。
c面配向したHApは、前記a面配向した繊維状HApとは異なり、酸性タンパク質よりも塩基性タンパク質をより多く吸着する吸着材として期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本セラミックス協会第1回生体関連セラミックス討論会講演要旨集(1997)11頁
【非特許文献2】H. Yamamoto and M. Aizawa, Archives of Bioceramics Reseach, 6(2006), 212-215
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−15596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したa面配向した繊維状HApやc面配向した板状HApを吸着材として用い、酸性タンパク質や塩基性タンパク質などの生理活性物質の分析、あるいは精製・単離を行う上で、使用するHApは単結晶であることが望ましい。多結晶のHApの場合、表面の電荷が均一にならず、生理活性物質に対する特異的な吸着性能が不十分であったり、分離能が悪くなるなどの問題がある。
しかしながら、前記特許文献1に開示された従来技術で得られた板状HApは、X線回折等で結晶構造を調べた結果、多結晶のHApが主体であることが判明した。
また、前記非特許文献2に開示された従来技術で得られた板状HApについても、単結晶に近い構造を有しているものの、多結晶パターンが混在していることが判明した。
このように、従来技術においては、c面配向した板状HAp単結晶を効率的に得ることができなかった。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、従来技術では得られなかったc面配向した板状HAp単結晶を効率的に製造するための技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、HApの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させ、次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取し、次いで前記析出物に水熱処理を施して板状HAp単結晶を得ることを特徴とする板状HAp単結晶の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の板状HAp単結晶の製造方法において、前記酸性水溶液中のCa2+イオンの濃度を0.0025〜0.0100mol・dm−3の範囲とし、PO43−イオンの濃度を0.0015〜0.0060mol・dm−3の範囲とし、尿素の濃度を1.0〜2.0mol・dm−3の範囲とし、ウレアーゼの濃度を前記尿素1当量に対して0.2倍当量から3倍当量の範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、板状HAp単結晶を効率よく製造することができる。
本発明により得られる板状HAp単結晶は、c面配向した板状HAp単結晶であり、これを用いて塩基性タンパク質などの生理活性物質の分析、あるいは精製・単離を行う場合に、多結晶HApに比べて高い吸着性能及び分離性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例で行ったHAp合成の手順を示すフロー図である。
【図2】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図3】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における気液界面の析出物のSEM画像である。
【図4】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図5】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図6】尿素濃度変動の実験における気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図7】尿素濃度変動の実験における気液界面の析出物のSEM画像である。
【図8】尿素濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図9】尿素濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図10】ウレアーゼ添加量変動の実験おける気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図11】ウレアーゼ添加量変動の実験おける気液界面の析出物のSEM画像である。
【図12】ウレアーゼ添加量変動の実験おける水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図13】ウレアーゼ添加量変動の実験おける水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図14】溶液総濃度変動の実験における気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図15】溶液総濃度変動の実験における気液界面の析出物のSEM画像である。
【図16】溶液総濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図17】溶液総濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図18】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のTEM画像及び電子線回折画像である。
【図19】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)の格子像である。
【図20】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のEDX図である。
【図21】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のFT-IRスペクトルである。
【図22】気液界面析出物の経時変化を示す画像である。
【図23】気液界面析出物の経時変化のXRDパターンである。
【図24】気液界面析出物の経時変化のFT-IRスペクトルである。
【図25】気液界面析出物の経時変化のSEM画像である。
【図26】pH変動調査用装置の概略構成図である。
【図27】pHの経時変化図である。
【図28】気液界面析出物の加熱後のXRDパターンである。
【図29】気液界面析出物の加熱後のFT-IRスペクトルである。
【図30】気液界面析出物の加熱による相変化のSEM画像である。
【図31】気液界面析出物の加熱による表面変化のTEM画像である。
【図32】サンプルNo.2の下層生成物のXRDパターンである。
【図33】サンプルNo.2の下層生成物のSEM画像である。
【図34】サンプルNo.2の下層生成物(水熱処理後)のTEM写真および電子線回折画像である。
【図35】サンプルNo.2の下層生成物(水熱処理後)のFT-IRスペクトルである。
【図36】凝集体の上部のSEM画像である。
【図37】凝集体の下部のSEM画像である。
【図38】凝集体の側面のSEM画像である。
【図39】凝集体の上部のTEM画像である。
【図40】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ1を説明するための概略図である。
【図41】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ2を説明するための概略図である。
【図42】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ3を説明するための概略図である。
【図43】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ4を説明するための概略図である。
【図44】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ5を説明するための概略図である。
【図45】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ6を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の板状HAp単結晶の製造方法は、
・Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を調製する工程(1)と、
・次いで、該水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、HApの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させる工程(2)と、
・次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取する工程(3)と、
・次いで前記析出物に水熱処理を施して板状HAp単結晶を得る工程(4)とを備えている。
【0015】
前記工程(1)において、酸性水溶液の調製は、Ca化合物とP化合物とをHApの合成に好適なモル比(例えば、Ca/P=1.67)となるように秤量、採取し、尿素と共に精製水に加えて混合し、この水中に硝酸や塩酸などの無機酸、あるいは酢酸、クエン酸、乳酸などの有機酸を加え、pHを酸性側にしてCa化合物、P化合物及び尿素を溶解させ、その後、適当量のウレアーゼを加えて調製することが好ましい。
【0016】
前記酸性水溶液の調製に用いるCa化合物としては、酸性水溶液に溶解するものであればよく、特に制限されないが、HAp結晶の析出や単結晶の成長を妨害するような妨害成分を含まないCa化合物を用いることが好ましく、例えば、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが好ましい。
【0017】
前記酸性水溶液の調製に用いるP化合物としては、酸性水溶液に溶解するものであればよく、特に制限されないが、HAp結晶の析出や単結晶の成長を妨害するような妨害成分を含まないP化合物を用いることが好ましく、例えば、オルトリン酸、ポリリン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムなどが好ましい。
【0018】
前記酸性水溶液の調製に用いるCa化合物とP化合物との比率は、Ca10(PO4)6(OH)2で表されるヒドロキシアパタイトにおけるCaとPのモル比(Ca/P)と同じか又は近似した値になるように計算して秤量、採取することが望ましい。
また、前記酸性水溶液中のCa2+イオン濃度及びPO43−イオン濃度は特に限定されないが、綺麗な板状HAp単結晶を合成するには、Ca2+イオンが0.0025〜0.0100mol・dm−3の範囲、PO43−イオンが0.0015〜0.0060mol・dm−3の範囲とすることが好ましい。
【0019】
前記酸性水溶液の調製に用いる尿素は、ウレアーゼにより分解されて生じるアンモニウムイオンによって酸性水溶液のpHが上昇し、HApの析出に好適な中性〜弱アルカリ域に徐々に移行させるために好適な量が添加される。尿素の添加量は、酸性水溶液の酸性度などに応じて適宜設定されるが、通常は0.5〜2.0mol・dm−3の範囲、好ましくは1.0〜2.0mol・dm−3の範囲とすることが好ましい。
【0020】
前記酸性水溶液の調製に用いるウレアーゼは、酸性水溶液中の尿素に作用して加水分解し、アンモニウムイオンを生じて酸性水溶液のpHを上昇させ、HApの析出に好適な中性〜弱アルカリ域に徐々に移行させるために好適な量が添加される。ウレアーゼの添加量は、特に限定されないが、綺麗な板状HAp単結晶を合成するには、ウレアーゼを前記尿素1当量に対して0.2倍当量から3倍当量の範囲で添加することが好ましい。ここで、ウレアーゼ(酵素活性:140unit・mg−1)の1当量は、尿素の1当量を24時間以内にすべて加水分解するに要する量に相当し、0.2倍当量は0.547cm3に、3倍当量は8.202cm3にそれぞれ相当する。
【0021】
前記工程(1)において酸性水溶液を調製後、この酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、HApの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させる工程(2)を行う。この工程(2)を行うための容器や保持条件の詳細については、前述したHApの結晶生成・成長が可能であれば特に限定されない。ただし、保持温度は、20〜55℃の範囲、好ましくはウレアーゼの至適温度近辺に設定することが好ましい。また、反応時間は、24〜120時間の範囲とすることが好ましい。
【0022】
この工程(2)において、時間の経過とともに、容器の気液界面付近と、液の下層とにHApの結晶が析出し、成長していくが、本発明の製造方法において対象となる板状HAp単結晶は、容器の気液界面付近に浮上した状態で成長していく。
【0023】
次に、前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取する工程(3)を行う。この析出物の採取方法は特に限定されず、化学分野や製薬分野などで用いられる従来公知の採取法を適用して行うことができる。
容器から分離採取した析出物は、精製水等で十分に洗浄し、乾燥される。
【0024】
このように得られた析出物は、X線回折等で調べると、製造目的とするHApの結晶以外に、リン酸オクタカルシウム(OCP)などの他のリン酸カルシウム化合物が混在している。そこで、前記析出物に水熱処理を施してHApの単一相に転化して、目的とする板状HAp単結晶を得る工程(4)を行う。
【0025】
この水熱処理の条件は、リン酸オクタカルシウム(OCP)などの他のリン酸カルシウム化合物をHApの単一相に転化できればよく、特に限定されないが、通常は温度100〜200℃の範囲、処理時間1〜3時間程度の条件で行うことが好ましい。この水熱処理により、目的とする板状HAp単結晶が得られる。
【0026】
本発明の製造方法によって得られる板状HAp単結晶は、図13等に示すように、比較的大きく明瞭な板状をなしており、図12のXRDパターンからわかるようにHApの単一相から形成されている。この板状HAp単結晶は、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強く、c面配向したHAp単結晶であることが実証された。
【0027】
本発明の製造方法によって得られる板状HAp単結晶は、c面配向した板状HAp単結晶であり、これを用いて塩基性タンパク質などの生理活性物質の分析、あるいは精製・単離を行う場合に、多結晶HApに比べて高い吸着性能及び分離性能が得られる。
【実施例】
【0028】
1.実験
(1−1)混合溶液の調製方法
まず、炭酸カルシウムとオルトリン酸及び尿素からなる懸濁液(1000cm3)を調製し、2時間撹拌した。この混合懸濁液に、硝酸(1.0mol・dm−3)をpH3.00になるように添加した。更に1時間撹拌し、ウレアーゼを添加した。
出発材料の炭酸カルシウム、オルトリン酸(H3PO4)、尿素およびウレアーゼ(140unit・mg−1)の配合割合を表1に示す。なお、ウレアーゼの添加量は、0.1質量%水溶液の添加量で表す。
【0029】
【表1】
【0030】
(1−2)混合溶液からの合成
前記(1−1)で得られた混合溶液(1000cm3)を外径12.3cmのガラスシャーレ8個(各シャーレに125cm3)に入れ密封し、インキュベーターの中で50℃、96時間の反応を行った。反応後、吸引ろ過器で液面上に浮かぶ生成物だけを吸引ろ過・洗浄し、110℃、24時間乾燥し、合成粉体を得た。ここでの合成の概略を図1に示す。
【0031】
(1−3) 水熱処理
水熱処理では反応器にフッ素樹脂製内筒を有するオートクレーブ(耐圧硝子工業社製TVS−1型(容積50cm3))を用いた。前記(1−2)で得られた合成粉末0.1gを50cm3の純水中に加え、120℃、2.5時間加熱して水熱処理を行った。その後、処理物をろ過・洗浄して110℃、48時間で乾燥した。
【0032】
2.実験結果
(2−1)気液界面の析出物のキャラクタリゼーション
(2−1−1)Ca2+,PO43−濃度変動(表1中のNo.1−No.4)
尿素の濃度を1.0mol・dm−3、添加する0.1質量%ウレアーゼ水溶液の体積を当量である2.734cm3に固定し、CaCO3,H3PO4の濃度をパラメーターとして変動させ、50℃,96時間で加熱した。液面の析出物とシャーレ底部の生成物を分けて、それぞれろ過・乾燥を行った。
なお、以下の記載において、X線回折法(又は装置)はXRDと略記し、走査型電子顕微鏡法(又は装置)はSEMと略記し、透過型電子顕微鏡法(又は装置)はTEMと略記し、エネルギー分散型X線分析法(又は装置)はEDXと略記し、赤外吸光法(又は装置)はFT-IRと略記する。
【0033】
図2に界面の析出物のXRDパターンを示す。図中、OCPはリン酸オクタカルシウム、HApはヒドロキシアパタイトを表す。アパタイトの特徴パターンのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生成物はHApとOCPの混合相であることが確認できた。また、Ca2+,PO43−高濃度の場合(No.3,No.4)、OCPの特徴ピークが非常に強いので、主生成物はOCPであることが分かった。一方、Ca2+,PO43−低濃度の場合(No.1,No.2)、OCPの特徴ピークが弱くなり、代わりにHApの26°((002)面)および53°((004)面)の特徴ピークが発達したことにより、主生成物はc面が多く露出しているHApであることが推察できる。
【0034】
図3には、No.1〜No.4の界面の析出物のSEM画像を示す。Ca2+,PO43−高濃度の場合(No.3,No.4)、析出物は短冊状あるいは周囲が崩れた板状の形態を呈したが、Ca2+,PO43−低濃度の場合(No.1,No.2)、析出物形態は凝集しているものの綺麗な板状となった。
【0035】
この析出物に対して120℃、2.5時間で水熱処理を行った。
水熱処理後のXRDパターンを図4に示す。すべての粉体は水熱処理により、OCPが消滅され、HApの単一相に転化した。Ca2+,PO43−濃度が低いほどHApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなる傾向が見られる。また、Ca2+,PO43−高濃度の場合(No.3,No.4)、HApのa面に相当する32°((300)面)の特徴ピークも発達していることが検出された。
【0036】
図5には水熱処理後のNo.1〜No.4の界面の析出物のSEM画像を示す。Ca2+,PO43−濃度が低い場合(No.1,No.2)生成物の形態が処理前と比べて多少崩れるが、板状である(a軸配向)ことが確認できた。また、Ca2+,PO43−濃度が高い場合(No.3,No.4)、生成物は板状のものではなく、短冊状の形態(c軸配向)となった。SEMにより観察された生成物の特異的な配向性は、図3のXRDの結果と一致している。
【0037】
表2には、No.1〜No.4の各条件における収量および収率を示す。収量および析出物形態から考えると、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3(No.2)は、Ca,Pの最適濃度条件であると判断できる。
【0038】
【表2】
【0039】
(2−1−2)尿素濃度変動(表1中のNo.2,No.5−No.7)
前記(2−1−1)の実験結果より、No.2のCaCO3,H3PO4の濃度条件では効率よく高い配向性を持つ板状HApを合成したため、ここではCaCO3,H3PO4の濃度およびウレアーゼの添加量を、それぞれ0.0050mol・dm−3,0.0030mol・dm−3および2.734cm3に固定し、尿素の濃度をパラメーターとして変動させ、50℃、96時間で加熱した。なお、ウレアーゼはNo.2の実験条件が当量添加となり、No.5では、ウレアーゼが2倍過剰、No.6及びNo.7では、それぞれ2/3倍および0.5倍過剰となる。液面の析出物とシャーレ底部の生成物を分けて、濾過・乾燥を行った。
【0040】
図6に界面の析出物XRDパターンを示す。尿素濃度が低すぎる場合(No.5)は、気液界面では析出物が得られなかった。それは、尿素の濃度が不十分なので、溶液中のpHが上昇しにくいためであると考えられる。No.2,No.6,No.7の析出物に対してXRDによりキャラクタリゼーションを行ったところ、アパタイトの特徴ピークのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生成物はHApとOCPの混合相であることが確認できた。
【0041】
図7には界面の析出物のSEM画像を示す。すべての生成物(No.2,No.6,No.7の析出物)は凝集した板状の析出物形態を持っており、尿素の濃度が低いほど、析出物のサイズが大きくなることが確認された。
【0042】
界面の析出物(No.2,No.6,No.7の析出物)に対して120℃、2.5時間で水熱処理を行った。
水熱処理後のXRDパターンを図8に示す。すべての粉体は水熱処理により、OCPが消滅され、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなるHApの単一相に転化した。
【0043】
水熱処理後の各粉体のSEM画像を図9に示す。すべての粉体は板状の形態を維持したが、尿素濃度の上昇とともに、生成した析出物の板状形態が崩れて悪くなる傾向が見られた。
表3には各条件における収量および収率を示す。収量および析出物形態から考えると、1.0mol・dm−3(No.2)が尿素の最適値であると考えられる。
【0044】
【表3】
【0045】
(2−1−3)ウレアーゼ添加量の変動(表1中のNo.2,No.8−No.11)
前記(2−1−1)及び前記(2−1−2)の実験結果より、Ca2+,PO43−および尿素濃度をそれぞれ最適値に固定し、ウレアーゼの添加量をパラメーターとして変動させ、50℃、96時間で加熱した。液面の析出物とシャーレ底部の生成物に分けて、濾過・乾燥を行った。
図10に生成物のXRDパターンを示す。アパタイトに特徴的なピークのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生成物はHApとOCPの混合相であることが確認できた。また、アパタイトの26°((002)面)および53°((004)面)の特徴ピークが発達したことにより、生成したアパタイトはc面が多く露出していることが推察できる。
【0046】
図11には気液界面の析出物のSEM画像を示す。水熱処理前では、生成物は何れも板状の形態であり、ウレアーゼの添加量の減少と共に、析出物のサイズが大きくなる傾向が見られた。0.1質量%ウレアーゼの添加量が0.5468cm3のとき(No.8)、最も配向性が良くかつサイズが大きな析出物が得られた。
【0047】
図12には、水熱処理後の各析出物のXRDパターンを示す。水熱処理により、OCPが消滅され、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなるHApの単一相に転化した。
【0048】
図13には、水熱処理後の各析出物のSEM画像を示す。水熱処理後、すべてのサンプルの配向性はやや低くなったことが確認され、図12の水熱処理後のXRDパターンの変化と一致している。ウレアーゼ添加量は0.5468cm3のとき(No.8)、最も配向性が良くかつサイズが大きな析出物が得られた。
【0049】
表4には各条件における収量および収率を示す。収量及び析出物形態から考えると、Ca2+,PO43−および尿素濃度をそれぞれ最適値に設定した場合、反応系の尿素に対する当量添加である2.734cm3(No.2)がウレアーゼの最適添加量であると判断した。
【0050】
【表4】
【0051】
(2−1−4)溶液総濃度の変動(表1中のNo.2,No.12−No.14)
前記(2−1−1)、(2−1−2)及び(2−1−3)の実験結果より、Ca2+,PO43−、尿素濃度およびウレアーゼの添加量の最適比は、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3、尿素 1.0mol・dm−3、ウレアーゼ 2.734cm3となる。ここでは、各試薬の濃度および添加量の比をこのように固定し、溶液の総濃度を変動させて実験を行った。液面の析出物とシャーレ底部の生成物を分けて、濾過・乾燥を行った。
【0052】
図14に、生成物のXRDパターンを示す。アパタイトに特徴的なピークのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生産物はHApとOCPの混合相であり、総濃度の増大に伴い、4°付近のOCPの解析強度も強くなることが確認できた。また、アパタイトの26°((002)面)および53°((004)面)の特徴ピークが発達したことにより、生成したアパタイトのc面が多く露出していることが推察される。
【0053】
図15に、気液界面の析出物のSEM画像を示す。生成物の何れも板状の形態であり、溶液の総濃度の増大と共に、析出物のサイズが小さくなる傾向が見られた。
【0054】
図16に、前記各析出物の水熱処理後のXRDパターンを示す。水熱処理により、OCPが消滅され、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなるHApの単一相に転化した。
【0055】
図17に前記水熱処理後の各析出物のSEM画像を示す。溶液の総濃度の増大とともに、生成物の析出物サイズが小さくなり、析出物形態も崩れて悪くなる傾向が見られた。
【0056】
また、各濃度条件における生成物の収量および収率を表4に示す。析出物形態および収量から総合的に考えると、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3および尿素 1.0mol・dm−3に、さらに0.1質量%ウレアーゼ水溶液を2.734cm3添加する溶液の最適濃度であると判断した。
【0057】
【表5】
【0058】
(2−1−5)サンプルNo.2のキャラクタリゼーション
前記(2−1−1)〜(2−1−4)の実験結果より、サンプルNo.2の合成条件、すなわち、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3および尿素1.0mol・dm−3に、さらに0.1質量%ウレアーゼ水溶液を 2.734cm3添加した合成条件が最適であることが分かった。この濃度条件の生成物に対し、さらにTEM,EDX、FT-IRなどの装置を用いてキャラクタリゼーションを行った。
【0059】
TEM画像及び電子線回折の結果を図18に示す。TEM画像では、SEM画像と同様に板状の形態であることが確認された。電子線回折では明確なスポットが認められ、この析出物が単結晶であることが確認できた。
【0060】
図19は水熱処理後の析出物をさらに、強拡大した格子像である。結晶内部に線状または、編み目のような模様が見られ、白い部分と黒い部分とが混在していた。この格子像から、結晶の方位を推測した。10本分の空間の距離を測定したところ、3.424nmであった。JCPDSカード検索により、最も近い値の格子面間隔のミラー指数は(002)面であった。もし、この結晶が(002)面の方向を向いているとしたら、格子定数は0.6848nmとなるので、c軸の格子定数(0.6883nm)に近い値であり、測定した方向はc軸、その垂直方向はa軸と推測できる。
【0061】
図20は前記サンプルNo.2の析出物のEDX図である。EDXを用いてキャラクタリゼーションを行ったところ、Ca,P,O元素のほか、C元素のピークも発見されたため、この最終生成物は炭酸を含有していると判断した。
【0062】
図21に、サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のFT-IRスペクトルを示す。HApに特徴的なOH−基に基づく吸収が3570cm−1付近に、またPO43−基に基づく吸収が1300〜900,600および570cm−1付近に認められた。これらのHApに関係する吸収のほかに、CO32−イオンに基づく吸収が1600〜1400および880cm−1付近において認められた。これらの吸収スペクトルから、No.2の生成物は炭酸含有(Type AB)HApであることがわかる。この結果は図20のEDX結果と一致している。
【0063】
また、このNo.2の生成物のCa粉体のCa含有量を原子吸光法、P含有量をリンバナドモリブデン酸法により定量したところ、Ca含有量は36.8質量%、P含有量は17.7質量%であった。これらの値からCa/P比を求めると1.59となり、HApの
化学量論組成のCa/P比である1.67より低い値を示している。以上の結果を総合し、このNo.2の条件で合成したHApは、凝集した板状HAp単一相の単結晶であり、Ca/P=1.59の炭酸を含有するカルシウム欠損型ヒドロキシアパタイトである。
【0064】
(2−1−6)気液界面析出物の経時変化
図1に示すように、シャーレに各材料を入れて50℃のインキュベーターに静置しておくと、反応の進行に伴い、図22に示すように気液界面から白い膜状の物質が析出してくる。この析出物の構造・組成の経時変化について調べた。
【0065】
図23に、気液界面析出物の経時変化のXRDパターンを示す。この析出物はHApとOCPの混合相であるが、インキュベート時間の経過に伴い4°付近のOCPの回折強度が弱くなり、26°付近のHAp回折強度が強くなる傾向が見られた。これについては、反応の進行に伴い、尿素が加水分解することにより、気液界面付近のpH値が酸性からアルカリ性へシフトし、OCPがHApに転化したためであると考えられる。96時間及び120時間の析出物のXRDパターンがほぼ一致していることから、インキュベート時間96時間が反応の終点と考えられた。
【0066】
図24は、図23で用いたものと同じサンプルのFT-IRスペクトルである。このFT-IRスペクトルより、3570cm−1付近のOH−の吸収が徐々に強くなることが認められ、それは時間が経つと、OCPからHApへの転換が進行するので、析出物中のHApの割合が大きくなったためであると考えられる。
【0067】
図25は、図23で用いたものと同じサンプルのSEM画像である。このSEM画像より、24〜48時間の時間帯では、板状の析出物サイズが著しく成長したが、48〜120時間の時間帯では、析出物サイズおよび形態にはほぼ変化が見られなかった。
なお、本プロセスでは、反応がガラスシャーレ中において進行するため、溶液中のpHの経時変化を測定することが困難であるが、図26に示すように、フラスコを用いて溶液中のpH変化を模擬した。
【0068】
図27に、前記の通り測定した溶液中のpHの経時変化を示す。反応の進行に従って、pHはまず3.0付近から6.5付近まで上昇してから(第一段階)、一度pH6.2付近まで下がり(第二段階)、その後再び上昇する(第三段階)傾向が見られた。第一段階では、尿素の加水分解反応により溶液中のpHが上がり始め、第二段階では結晶核が生成するため、pHが下がり、第三段階ではpHが再び上がり、結晶が成長していくと考えられる。
【0069】
(2−1−7)気液界面析出物の加熱による相変化
サンプルNo.2の析出物を水熱処理してから、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃および1200℃まで加熱し、それぞれの結晶相、形態を調べた。
【0070】
図28に水熱処理後の析出物の加熱による相変化を調べたXRDパターンを示す。600℃まで加熱した析出物は、配向性を維持したHAp単一相のXRDパターンを示した。700℃では、HApのほかに、31°付近においてβ-リン酸三カルシウム(β-Ca3(PO4)2:β-TCP)のピークが認められた。800℃、900℃および1000℃の場合、β-TCPのピークは強められたが、HApのピークはまだ残留していた。1100℃および1200℃になると、HAp,β-TCPのほかに、高温型のα-TCPのピークも検出され、3つの相が共存していることが確認された。
【0071】
図29に、図28と同じサンプルについてのFT-IRスペクトルを示す。加熱により、1600〜1400および880cm−1付近のCO32−イオンに基づく吸収が徐々に弱められていくことが確認された。
【0072】
図30は、図28および図29と同じサンプルのSEM画像である。700℃まで加熱すると、析出物形態は多少崩れるが、一応板状を維持した。さらに加熱すると、析出物表面が融解していき、1200℃加熱において、板状の形態が完全に観測できなくなった。
【0073】
図31に、未加熱粉体と1200℃まで加熱した粉体のTEM画像を示す。加熱する前の滑らかな析出物表面に対し、1200℃の加熱により、析出物表面が凹凸になっている様子が確認された。
【0074】
前記の結果より、本プロセスから得られた板状HAp粉体は、通常の化学量論的なHApに比べると、熱力学的に安定性が低いことが確認された。それは、カルシウム欠損のためであると考えられる。
【0075】
(2−2)下層生成物のキャラクタリゼーション
表1に示したすべての濃度条件下で生成した、シャーレの下層の生成物は、配向性を持たない、OCPとHApの混合相であった。以下には、サンプルNo.2の下層生成物のキャラクタリゼーションの結果を示す。
【0076】
図32に、サンプルNo.2の下層生成物のXRDパターンを示す。図32より、この下層の合成粉体は、OCPとHApの混合相であり、XRDパターンでは、4°付近のOCPの回折強度および32°付近のHApの(300)面の回折強度が発達した。
【0077】
図33に、前記合成粉体のSEM画像を示す。このSEM観察により、生成した析出物の形態は棒状、球状および板状であることがわかる。
【0078】
水熱処理後、4°付近のOCPの回折が消え、32°付近のHApの(300)面の回折も弱められ、HApの単一相へ転化した。図33のSEM画像では、特異的な配向性を失っていた。
【0079】
図34に、水熱処理後の粉体のTEM画像を示す。このTEM観察により、規則的でない一次析出物の形態が観察され、電子線回折では、スポットが認められたが、乱雑に配列しているため、多結晶であることもわかる。
【0080】
図35に、水熱処理後の粉体のFT-IRスペクトルを示す。このFT-IRスペクトルでは、HApに特徴的なOH−基に基づく吸収が3570cm−1付近に、またPO43−基に基づく吸収が1300〜900,600および570cm−1付近に認められた。これらの吸収のほかにCO32−イオンに基づく吸収が1600〜1400および880cm−1付近において認められた。これらの吸収スペクトルから、下層から得られたHApは炭酸含有(Type AB)HApであることがわかる。
【0081】
また、このHAp粉体のCa含有量を原子吸光法により、P含有量をリンバナドモリブデン酸法により定量したところ、Ca含有量は35.4質量%、P含有量は18.2質量%であった。これらの値からCa/P比を求めると1.51になり、HApの化学量論組成でのCa/P比1.67より低い値を示している。
【0082】
3.考察
本実施例では、混合溶液の気液界面からOCPを含有する膜状のHApを析出・成長させ、次いで、該析出物に水熱処理を行って、単一相の板状HApを得た。アパタイトの理論密度は3.16g・cm−3であるため、通常では液面にHApが安定して存在することはあり得ない。以下、本プロセスの特異的なメカニズムについて検討した。
【0083】
図36は、シャーレ内の気液界面に生じた膜状析出物の上部(界面の上)から撮影したSEM画像である。互いに直交した板状析出物の上に、花の芯のような部分が見られる。それは、液面に沿って成長したHApの基盤に相当すると考えられる。
【0084】
図37は、シャーレ内の下層に生じた析出物のSEM画像である。下部の析出物では、直交した板状HApしか観察されず、図36の場合のようなHApの基盤が全く観察されなかった。
【0085】
図38は、シャーレ内の気液界面に生じた膜状析出物の側面から撮影したSEM画像である。図38では、この膜状析出物の上部及び下部が明瞭に観察できた。
【0086】
図39は、この析出物の凝集体の上部から撮影したTEM画像である。凝集体の内部の板状析出物同士が互いに直交した構造をなしていることが明らかになった。
【0087】
析出物の下部と上部の違いおよび気液界面という特別な環境から総合的に考える上で、気液界面合成プロセスのメカニズムを、次のように推測した。
【0088】
ステップ1:図40に示すように、気液界面付近の溶液の蒸発により、気液界面ではCa2+,PO43−およびOH−イオンの濃度が高くなる。
ステップ2:図41に示すように、HApの過飽和度を越えると、HApの結晶核が生成し、気液界面付近のCa2+,PO43−およびOH−イオンの濃度が低くなるため、溶液中のイオンが気液界面に移動して補充する。
ステップ3:図42に示すように、液面と溶液中のCa2+,PO43−およびOH−イオンの濃度差が生じ、結晶のc軸方向よりa,b軸方向にはCa2+,PO43−およびOH−イオンが大量に存在するため(pH値も高い)、析出したアパタイトはa,b軸に沿ってc面が優先的に成長していく。
ステップ4:図43に示すように、気液界面から析出したHApの(−)に帯電するc面が溶液中のHAp核の(+)に帯電するa面を静電的に吸引し、凝集体(各結晶の間に新しい結合が生成する可能性がある)となる。
ステップ5:図44に示すように、界面の底部に存在する微細なHAp結晶は、溶液中のCa2+,PO43−およびOH−イオンを取り込み、大きく成長する。ここでは、静電的な反発および立体空間の障害などの影響により、a軸方向はc軸方向より著しく成長していくと考えられる。
ステップ6:気液界面では、図45に示すような小さい凝集体が多数生成し、互いにさらに凝集が起き、船のように気液界面で安定して浮かぶことができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明により、板状HAp単結晶を工業的規模で製造することができる。この板状HAp単結晶は、(−)に帯電するc面が広く露出しているものなので、塩基性タンパク質などの生理活性物質の吸着材(例えば、クロマトグラフィ用充填材)に利用される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、c面配向した板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアパタイト(以下、HApと略記する)は、一般に、結晶系が六方晶系に属し、c軸方向に成長した結晶面(以下、この結晶面をa面という)と、a軸およびb軸方向に成長した結晶面(以下、この結晶面をc面という)とをもつ。a面は正に帯電し、c面は負に帯電している。この電荷の異なる2つの結晶面をもつため、HApは、酸性基あるいは塩基性基を持つ化合物を吸着保持することができる。このような吸着特性を有するHApは、タンパク質などの生理活性物質の吸着材(例えば、クロマトグラフィ用充填材)に利用されている。
【0003】
近年、HApの結晶面を選択的に配向させて、その吸着特性に選択性を付与する試みがなされている。例えば、非特許文献1には、均一沈殿法により、a面配向した繊維状HApを合成し、そのa面配向した繊維状HApが塩基性タンパク質(リゾチーム)よりも酸性タンパク質(アルブミン、ポリ−L−グルタミン酸)をより多く吸着することが報告されている。
【0004】
また、c面配向した板状HApの研究も進められている。特許文献1には、リン酸カルシウム粒子を、アミノ酸水溶液中にて加熱して、HApに転化し、次いで該HApをa軸およびb軸方向に生長させることを特徴とする板状HApの製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、非特許文献2には、CaCO3、H3PO4、尿素およびウレアーゼを含む水溶液を50℃で24時間インキュベートし、溶液から均一な生成物を沈殿させ、次いでこの沈殿物に水熱処理を施してc面配向した板状HApを合成する方法が開示されている。
c面配向したHApは、前記a面配向した繊維状HApとは異なり、酸性タンパク質よりも塩基性タンパク質をより多く吸着する吸着材として期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本セラミックス協会第1回生体関連セラミックス討論会講演要旨集(1997)11頁
【非特許文献2】H. Yamamoto and M. Aizawa, Archives of Bioceramics Reseach, 6(2006), 212-215
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−15596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したa面配向した繊維状HApやc面配向した板状HApを吸着材として用い、酸性タンパク質や塩基性タンパク質などの生理活性物質の分析、あるいは精製・単離を行う上で、使用するHApは単結晶であることが望ましい。多結晶のHApの場合、表面の電荷が均一にならず、生理活性物質に対する特異的な吸着性能が不十分であったり、分離能が悪くなるなどの問題がある。
しかしながら、前記特許文献1に開示された従来技術で得られた板状HApは、X線回折等で結晶構造を調べた結果、多結晶のHApが主体であることが判明した。
また、前記非特許文献2に開示された従来技術で得られた板状HApについても、単結晶に近い構造を有しているものの、多結晶パターンが混在していることが判明した。
このように、従来技術においては、c面配向した板状HAp単結晶を効率的に得ることができなかった。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、従来技術では得られなかったc面配向した板状HAp単結晶を効率的に製造するための技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、HApの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させ、次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取し、次いで前記析出物に水熱処理を施して板状HAp単結晶を得ることを特徴とする板状HAp単結晶の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の板状HAp単結晶の製造方法において、前記酸性水溶液中のCa2+イオンの濃度を0.0025〜0.0100mol・dm−3の範囲とし、PO43−イオンの濃度を0.0015〜0.0060mol・dm−3の範囲とし、尿素の濃度を1.0〜2.0mol・dm−3の範囲とし、ウレアーゼの濃度を前記尿素1当量に対して0.2倍当量から3倍当量の範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、板状HAp単結晶を効率よく製造することができる。
本発明により得られる板状HAp単結晶は、c面配向した板状HAp単結晶であり、これを用いて塩基性タンパク質などの生理活性物質の分析、あるいは精製・単離を行う場合に、多結晶HApに比べて高い吸着性能及び分離性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例で行ったHAp合成の手順を示すフロー図である。
【図2】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図3】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における気液界面の析出物のSEM画像である。
【図4】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図5】Ca2+,PO43−濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図6】尿素濃度変動の実験における気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図7】尿素濃度変動の実験における気液界面の析出物のSEM画像である。
【図8】尿素濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図9】尿素濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図10】ウレアーゼ添加量変動の実験おける気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図11】ウレアーゼ添加量変動の実験おける気液界面の析出物のSEM画像である。
【図12】ウレアーゼ添加量変動の実験おける水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図13】ウレアーゼ添加量変動の実験おける水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図14】溶液総濃度変動の実験における気液界面の析出物のXRDパターンである。
【図15】溶液総濃度変動の実験における気液界面の析出物のSEM画像である。
【図16】溶液総濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のXRDパターンである。
【図17】溶液総濃度変動の実験における水熱処理後の析出物のSEM画像である。
【図18】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のTEM画像及び電子線回折画像である。
【図19】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)の格子像である。
【図20】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のEDX図である。
【図21】サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のFT-IRスペクトルである。
【図22】気液界面析出物の経時変化を示す画像である。
【図23】気液界面析出物の経時変化のXRDパターンである。
【図24】気液界面析出物の経時変化のFT-IRスペクトルである。
【図25】気液界面析出物の経時変化のSEM画像である。
【図26】pH変動調査用装置の概略構成図である。
【図27】pHの経時変化図である。
【図28】気液界面析出物の加熱後のXRDパターンである。
【図29】気液界面析出物の加熱後のFT-IRスペクトルである。
【図30】気液界面析出物の加熱による相変化のSEM画像である。
【図31】気液界面析出物の加熱による表面変化のTEM画像である。
【図32】サンプルNo.2の下層生成物のXRDパターンである。
【図33】サンプルNo.2の下層生成物のSEM画像である。
【図34】サンプルNo.2の下層生成物(水熱処理後)のTEM写真および電子線回折画像である。
【図35】サンプルNo.2の下層生成物(水熱処理後)のFT-IRスペクトルである。
【図36】凝集体の上部のSEM画像である。
【図37】凝集体の下部のSEM画像である。
【図38】凝集体の側面のSEM画像である。
【図39】凝集体の上部のTEM画像である。
【図40】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ1を説明するための概略図である。
【図41】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ2を説明するための概略図である。
【図42】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ3を説明するための概略図である。
【図43】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ4を説明するための概略図である。
【図44】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ5を説明するための概略図である。
【図45】気液界面合成プロセスのメカニズムのうちステップ6を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の板状HAp単結晶の製造方法は、
・Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を調製する工程(1)と、
・次いで、該水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、HApの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させる工程(2)と、
・次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取する工程(3)と、
・次いで前記析出物に水熱処理を施して板状HAp単結晶を得る工程(4)とを備えている。
【0015】
前記工程(1)において、酸性水溶液の調製は、Ca化合物とP化合物とをHApの合成に好適なモル比(例えば、Ca/P=1.67)となるように秤量、採取し、尿素と共に精製水に加えて混合し、この水中に硝酸や塩酸などの無機酸、あるいは酢酸、クエン酸、乳酸などの有機酸を加え、pHを酸性側にしてCa化合物、P化合物及び尿素を溶解させ、その後、適当量のウレアーゼを加えて調製することが好ましい。
【0016】
前記酸性水溶液の調製に用いるCa化合物としては、酸性水溶液に溶解するものであればよく、特に制限されないが、HAp結晶の析出や単結晶の成長を妨害するような妨害成分を含まないCa化合物を用いることが好ましく、例えば、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが好ましい。
【0017】
前記酸性水溶液の調製に用いるP化合物としては、酸性水溶液に溶解するものであればよく、特に制限されないが、HAp結晶の析出や単結晶の成長を妨害するような妨害成分を含まないP化合物を用いることが好ましく、例えば、オルトリン酸、ポリリン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムなどが好ましい。
【0018】
前記酸性水溶液の調製に用いるCa化合物とP化合物との比率は、Ca10(PO4)6(OH)2で表されるヒドロキシアパタイトにおけるCaとPのモル比(Ca/P)と同じか又は近似した値になるように計算して秤量、採取することが望ましい。
また、前記酸性水溶液中のCa2+イオン濃度及びPO43−イオン濃度は特に限定されないが、綺麗な板状HAp単結晶を合成するには、Ca2+イオンが0.0025〜0.0100mol・dm−3の範囲、PO43−イオンが0.0015〜0.0060mol・dm−3の範囲とすることが好ましい。
【0019】
前記酸性水溶液の調製に用いる尿素は、ウレアーゼにより分解されて生じるアンモニウムイオンによって酸性水溶液のpHが上昇し、HApの析出に好適な中性〜弱アルカリ域に徐々に移行させるために好適な量が添加される。尿素の添加量は、酸性水溶液の酸性度などに応じて適宜設定されるが、通常は0.5〜2.0mol・dm−3の範囲、好ましくは1.0〜2.0mol・dm−3の範囲とすることが好ましい。
【0020】
前記酸性水溶液の調製に用いるウレアーゼは、酸性水溶液中の尿素に作用して加水分解し、アンモニウムイオンを生じて酸性水溶液のpHを上昇させ、HApの析出に好適な中性〜弱アルカリ域に徐々に移行させるために好適な量が添加される。ウレアーゼの添加量は、特に限定されないが、綺麗な板状HAp単結晶を合成するには、ウレアーゼを前記尿素1当量に対して0.2倍当量から3倍当量の範囲で添加することが好ましい。ここで、ウレアーゼ(酵素活性:140unit・mg−1)の1当量は、尿素の1当量を24時間以内にすべて加水分解するに要する量に相当し、0.2倍当量は0.547cm3に、3倍当量は8.202cm3にそれぞれ相当する。
【0021】
前記工程(1)において酸性水溶液を調製後、この酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、HApの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させる工程(2)を行う。この工程(2)を行うための容器や保持条件の詳細については、前述したHApの結晶生成・成長が可能であれば特に限定されない。ただし、保持温度は、20〜55℃の範囲、好ましくはウレアーゼの至適温度近辺に設定することが好ましい。また、反応時間は、24〜120時間の範囲とすることが好ましい。
【0022】
この工程(2)において、時間の経過とともに、容器の気液界面付近と、液の下層とにHApの結晶が析出し、成長していくが、本発明の製造方法において対象となる板状HAp単結晶は、容器の気液界面付近に浮上した状態で成長していく。
【0023】
次に、前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取する工程(3)を行う。この析出物の採取方法は特に限定されず、化学分野や製薬分野などで用いられる従来公知の採取法を適用して行うことができる。
容器から分離採取した析出物は、精製水等で十分に洗浄し、乾燥される。
【0024】
このように得られた析出物は、X線回折等で調べると、製造目的とするHApの結晶以外に、リン酸オクタカルシウム(OCP)などの他のリン酸カルシウム化合物が混在している。そこで、前記析出物に水熱処理を施してHApの単一相に転化して、目的とする板状HAp単結晶を得る工程(4)を行う。
【0025】
この水熱処理の条件は、リン酸オクタカルシウム(OCP)などの他のリン酸カルシウム化合物をHApの単一相に転化できればよく、特に限定されないが、通常は温度100〜200℃の範囲、処理時間1〜3時間程度の条件で行うことが好ましい。この水熱処理により、目的とする板状HAp単結晶が得られる。
【0026】
本発明の製造方法によって得られる板状HAp単結晶は、図13等に示すように、比較的大きく明瞭な板状をなしており、図12のXRDパターンからわかるようにHApの単一相から形成されている。この板状HAp単結晶は、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強く、c面配向したHAp単結晶であることが実証された。
【0027】
本発明の製造方法によって得られる板状HAp単結晶は、c面配向した板状HAp単結晶であり、これを用いて塩基性タンパク質などの生理活性物質の分析、あるいは精製・単離を行う場合に、多結晶HApに比べて高い吸着性能及び分離性能が得られる。
【実施例】
【0028】
1.実験
(1−1)混合溶液の調製方法
まず、炭酸カルシウムとオルトリン酸及び尿素からなる懸濁液(1000cm3)を調製し、2時間撹拌した。この混合懸濁液に、硝酸(1.0mol・dm−3)をpH3.00になるように添加した。更に1時間撹拌し、ウレアーゼを添加した。
出発材料の炭酸カルシウム、オルトリン酸(H3PO4)、尿素およびウレアーゼ(140unit・mg−1)の配合割合を表1に示す。なお、ウレアーゼの添加量は、0.1質量%水溶液の添加量で表す。
【0029】
【表1】
【0030】
(1−2)混合溶液からの合成
前記(1−1)で得られた混合溶液(1000cm3)を外径12.3cmのガラスシャーレ8個(各シャーレに125cm3)に入れ密封し、インキュベーターの中で50℃、96時間の反応を行った。反応後、吸引ろ過器で液面上に浮かぶ生成物だけを吸引ろ過・洗浄し、110℃、24時間乾燥し、合成粉体を得た。ここでの合成の概略を図1に示す。
【0031】
(1−3) 水熱処理
水熱処理では反応器にフッ素樹脂製内筒を有するオートクレーブ(耐圧硝子工業社製TVS−1型(容積50cm3))を用いた。前記(1−2)で得られた合成粉末0.1gを50cm3の純水中に加え、120℃、2.5時間加熱して水熱処理を行った。その後、処理物をろ過・洗浄して110℃、48時間で乾燥した。
【0032】
2.実験結果
(2−1)気液界面の析出物のキャラクタリゼーション
(2−1−1)Ca2+,PO43−濃度変動(表1中のNo.1−No.4)
尿素の濃度を1.0mol・dm−3、添加する0.1質量%ウレアーゼ水溶液の体積を当量である2.734cm3に固定し、CaCO3,H3PO4の濃度をパラメーターとして変動させ、50℃,96時間で加熱した。液面の析出物とシャーレ底部の生成物を分けて、それぞれろ過・乾燥を行った。
なお、以下の記載において、X線回折法(又は装置)はXRDと略記し、走査型電子顕微鏡法(又は装置)はSEMと略記し、透過型電子顕微鏡法(又は装置)はTEMと略記し、エネルギー分散型X線分析法(又は装置)はEDXと略記し、赤外吸光法(又は装置)はFT-IRと略記する。
【0033】
図2に界面の析出物のXRDパターンを示す。図中、OCPはリン酸オクタカルシウム、HApはヒドロキシアパタイトを表す。アパタイトの特徴パターンのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生成物はHApとOCPの混合相であることが確認できた。また、Ca2+,PO43−高濃度の場合(No.3,No.4)、OCPの特徴ピークが非常に強いので、主生成物はOCPであることが分かった。一方、Ca2+,PO43−低濃度の場合(No.1,No.2)、OCPの特徴ピークが弱くなり、代わりにHApの26°((002)面)および53°((004)面)の特徴ピークが発達したことにより、主生成物はc面が多く露出しているHApであることが推察できる。
【0034】
図3には、No.1〜No.4の界面の析出物のSEM画像を示す。Ca2+,PO43−高濃度の場合(No.3,No.4)、析出物は短冊状あるいは周囲が崩れた板状の形態を呈したが、Ca2+,PO43−低濃度の場合(No.1,No.2)、析出物形態は凝集しているものの綺麗な板状となった。
【0035】
この析出物に対して120℃、2.5時間で水熱処理を行った。
水熱処理後のXRDパターンを図4に示す。すべての粉体は水熱処理により、OCPが消滅され、HApの単一相に転化した。Ca2+,PO43−濃度が低いほどHApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなる傾向が見られる。また、Ca2+,PO43−高濃度の場合(No.3,No.4)、HApのa面に相当する32°((300)面)の特徴ピークも発達していることが検出された。
【0036】
図5には水熱処理後のNo.1〜No.4の界面の析出物のSEM画像を示す。Ca2+,PO43−濃度が低い場合(No.1,No.2)生成物の形態が処理前と比べて多少崩れるが、板状である(a軸配向)ことが確認できた。また、Ca2+,PO43−濃度が高い場合(No.3,No.4)、生成物は板状のものではなく、短冊状の形態(c軸配向)となった。SEMにより観察された生成物の特異的な配向性は、図3のXRDの結果と一致している。
【0037】
表2には、No.1〜No.4の各条件における収量および収率を示す。収量および析出物形態から考えると、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3(No.2)は、Ca,Pの最適濃度条件であると判断できる。
【0038】
【表2】
【0039】
(2−1−2)尿素濃度変動(表1中のNo.2,No.5−No.7)
前記(2−1−1)の実験結果より、No.2のCaCO3,H3PO4の濃度条件では効率よく高い配向性を持つ板状HApを合成したため、ここではCaCO3,H3PO4の濃度およびウレアーゼの添加量を、それぞれ0.0050mol・dm−3,0.0030mol・dm−3および2.734cm3に固定し、尿素の濃度をパラメーターとして変動させ、50℃、96時間で加熱した。なお、ウレアーゼはNo.2の実験条件が当量添加となり、No.5では、ウレアーゼが2倍過剰、No.6及びNo.7では、それぞれ2/3倍および0.5倍過剰となる。液面の析出物とシャーレ底部の生成物を分けて、濾過・乾燥を行った。
【0040】
図6に界面の析出物XRDパターンを示す。尿素濃度が低すぎる場合(No.5)は、気液界面では析出物が得られなかった。それは、尿素の濃度が不十分なので、溶液中のpHが上昇しにくいためであると考えられる。No.2,No.6,No.7の析出物に対してXRDによりキャラクタリゼーションを行ったところ、アパタイトの特徴ピークのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生成物はHApとOCPの混合相であることが確認できた。
【0041】
図7には界面の析出物のSEM画像を示す。すべての生成物(No.2,No.6,No.7の析出物)は凝集した板状の析出物形態を持っており、尿素の濃度が低いほど、析出物のサイズが大きくなることが確認された。
【0042】
界面の析出物(No.2,No.6,No.7の析出物)に対して120℃、2.5時間で水熱処理を行った。
水熱処理後のXRDパターンを図8に示す。すべての粉体は水熱処理により、OCPが消滅され、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなるHApの単一相に転化した。
【0043】
水熱処理後の各粉体のSEM画像を図9に示す。すべての粉体は板状の形態を維持したが、尿素濃度の上昇とともに、生成した析出物の板状形態が崩れて悪くなる傾向が見られた。
表3には各条件における収量および収率を示す。収量および析出物形態から考えると、1.0mol・dm−3(No.2)が尿素の最適値であると考えられる。
【0044】
【表3】
【0045】
(2−1−3)ウレアーゼ添加量の変動(表1中のNo.2,No.8−No.11)
前記(2−1−1)及び前記(2−1−2)の実験結果より、Ca2+,PO43−および尿素濃度をそれぞれ最適値に固定し、ウレアーゼの添加量をパラメーターとして変動させ、50℃、96時間で加熱した。液面の析出物とシャーレ底部の生成物に分けて、濾過・乾燥を行った。
図10に生成物のXRDパターンを示す。アパタイトに特徴的なピークのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生成物はHApとOCPの混合相であることが確認できた。また、アパタイトの26°((002)面)および53°((004)面)の特徴ピークが発達したことにより、生成したアパタイトはc面が多く露出していることが推察できる。
【0046】
図11には気液界面の析出物のSEM画像を示す。水熱処理前では、生成物は何れも板状の形態であり、ウレアーゼの添加量の減少と共に、析出物のサイズが大きくなる傾向が見られた。0.1質量%ウレアーゼの添加量が0.5468cm3のとき(No.8)、最も配向性が良くかつサイズが大きな析出物が得られた。
【0047】
図12には、水熱処理後の各析出物のXRDパターンを示す。水熱処理により、OCPが消滅され、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなるHApの単一相に転化した。
【0048】
図13には、水熱処理後の各析出物のSEM画像を示す。水熱処理後、すべてのサンプルの配向性はやや低くなったことが確認され、図12の水熱処理後のXRDパターンの変化と一致している。ウレアーゼ添加量は0.5468cm3のとき(No.8)、最も配向性が良くかつサイズが大きな析出物が得られた。
【0049】
表4には各条件における収量および収率を示す。収量及び析出物形態から考えると、Ca2+,PO43−および尿素濃度をそれぞれ最適値に設定した場合、反応系の尿素に対する当量添加である2.734cm3(No.2)がウレアーゼの最適添加量であると判断した。
【0050】
【表4】
【0051】
(2−1−4)溶液総濃度の変動(表1中のNo.2,No.12−No.14)
前記(2−1−1)、(2−1−2)及び(2−1−3)の実験結果より、Ca2+,PO43−、尿素濃度およびウレアーゼの添加量の最適比は、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3、尿素 1.0mol・dm−3、ウレアーゼ 2.734cm3となる。ここでは、各試薬の濃度および添加量の比をこのように固定し、溶液の総濃度を変動させて実験を行った。液面の析出物とシャーレ底部の生成物を分けて、濾過・乾燥を行った。
【0052】
図14に、生成物のXRDパターンを示す。アパタイトに特徴的なピークのほか、4°付近のOCPの特徴ピークも現れたため、すべての生産物はHApとOCPの混合相であり、総濃度の増大に伴い、4°付近のOCPの解析強度も強くなることが確認できた。また、アパタイトの26°((002)面)および53°((004)面)の特徴ピークが発達したことにより、生成したアパタイトのc面が多く露出していることが推察される。
【0053】
図15に、気液界面の析出物のSEM画像を示す。生成物の何れも板状の形態であり、溶液の総濃度の増大と共に、析出物のサイズが小さくなる傾向が見られた。
【0054】
図16に、前記各析出物の水熱処理後のXRDパターンを示す。水熱処理により、OCPが消滅され、HApのc面に相当する26°((002)面)の特徴ピークが強くなるHApの単一相に転化した。
【0055】
図17に前記水熱処理後の各析出物のSEM画像を示す。溶液の総濃度の増大とともに、生成物の析出物サイズが小さくなり、析出物形態も崩れて悪くなる傾向が見られた。
【0056】
また、各濃度条件における生成物の収量および収率を表4に示す。析出物形態および収量から総合的に考えると、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3および尿素 1.0mol・dm−3に、さらに0.1質量%ウレアーゼ水溶液を2.734cm3添加する溶液の最適濃度であると判断した。
【0057】
【表5】
【0058】
(2−1−5)サンプルNo.2のキャラクタリゼーション
前記(2−1−1)〜(2−1−4)の実験結果より、サンプルNo.2の合成条件、すなわち、CaCO3 0.0050mol・dm−3,H3PO4 0.0030mol・dm−3および尿素1.0mol・dm−3に、さらに0.1質量%ウレアーゼ水溶液を 2.734cm3添加した合成条件が最適であることが分かった。この濃度条件の生成物に対し、さらにTEM,EDX、FT-IRなどの装置を用いてキャラクタリゼーションを行った。
【0059】
TEM画像及び電子線回折の結果を図18に示す。TEM画像では、SEM画像と同様に板状の形態であることが確認された。電子線回折では明確なスポットが認められ、この析出物が単結晶であることが確認できた。
【0060】
図19は水熱処理後の析出物をさらに、強拡大した格子像である。結晶内部に線状または、編み目のような模様が見られ、白い部分と黒い部分とが混在していた。この格子像から、結晶の方位を推測した。10本分の空間の距離を測定したところ、3.424nmであった。JCPDSカード検索により、最も近い値の格子面間隔のミラー指数は(002)面であった。もし、この結晶が(002)面の方向を向いているとしたら、格子定数は0.6848nmとなるので、c軸の格子定数(0.6883nm)に近い値であり、測定した方向はc軸、その垂直方向はa軸と推測できる。
【0061】
図20は前記サンプルNo.2の析出物のEDX図である。EDXを用いてキャラクタリゼーションを行ったところ、Ca,P,O元素のほか、C元素のピークも発見されたため、この最終生成物は炭酸を含有していると判断した。
【0062】
図21に、サンプルNo.2の生成物(水熱処理後)のFT-IRスペクトルを示す。HApに特徴的なOH−基に基づく吸収が3570cm−1付近に、またPO43−基に基づく吸収が1300〜900,600および570cm−1付近に認められた。これらのHApに関係する吸収のほかに、CO32−イオンに基づく吸収が1600〜1400および880cm−1付近において認められた。これらの吸収スペクトルから、No.2の生成物は炭酸含有(Type AB)HApであることがわかる。この結果は図20のEDX結果と一致している。
【0063】
また、このNo.2の生成物のCa粉体のCa含有量を原子吸光法、P含有量をリンバナドモリブデン酸法により定量したところ、Ca含有量は36.8質量%、P含有量は17.7質量%であった。これらの値からCa/P比を求めると1.59となり、HApの
化学量論組成のCa/P比である1.67より低い値を示している。以上の結果を総合し、このNo.2の条件で合成したHApは、凝集した板状HAp単一相の単結晶であり、Ca/P=1.59の炭酸を含有するカルシウム欠損型ヒドロキシアパタイトである。
【0064】
(2−1−6)気液界面析出物の経時変化
図1に示すように、シャーレに各材料を入れて50℃のインキュベーターに静置しておくと、反応の進行に伴い、図22に示すように気液界面から白い膜状の物質が析出してくる。この析出物の構造・組成の経時変化について調べた。
【0065】
図23に、気液界面析出物の経時変化のXRDパターンを示す。この析出物はHApとOCPの混合相であるが、インキュベート時間の経過に伴い4°付近のOCPの回折強度が弱くなり、26°付近のHAp回折強度が強くなる傾向が見られた。これについては、反応の進行に伴い、尿素が加水分解することにより、気液界面付近のpH値が酸性からアルカリ性へシフトし、OCPがHApに転化したためであると考えられる。96時間及び120時間の析出物のXRDパターンがほぼ一致していることから、インキュベート時間96時間が反応の終点と考えられた。
【0066】
図24は、図23で用いたものと同じサンプルのFT-IRスペクトルである。このFT-IRスペクトルより、3570cm−1付近のOH−の吸収が徐々に強くなることが認められ、それは時間が経つと、OCPからHApへの転換が進行するので、析出物中のHApの割合が大きくなったためであると考えられる。
【0067】
図25は、図23で用いたものと同じサンプルのSEM画像である。このSEM画像より、24〜48時間の時間帯では、板状の析出物サイズが著しく成長したが、48〜120時間の時間帯では、析出物サイズおよび形態にはほぼ変化が見られなかった。
なお、本プロセスでは、反応がガラスシャーレ中において進行するため、溶液中のpHの経時変化を測定することが困難であるが、図26に示すように、フラスコを用いて溶液中のpH変化を模擬した。
【0068】
図27に、前記の通り測定した溶液中のpHの経時変化を示す。反応の進行に従って、pHはまず3.0付近から6.5付近まで上昇してから(第一段階)、一度pH6.2付近まで下がり(第二段階)、その後再び上昇する(第三段階)傾向が見られた。第一段階では、尿素の加水分解反応により溶液中のpHが上がり始め、第二段階では結晶核が生成するため、pHが下がり、第三段階ではpHが再び上がり、結晶が成長していくと考えられる。
【0069】
(2−1−7)気液界面析出物の加熱による相変化
サンプルNo.2の析出物を水熱処理してから、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃および1200℃まで加熱し、それぞれの結晶相、形態を調べた。
【0070】
図28に水熱処理後の析出物の加熱による相変化を調べたXRDパターンを示す。600℃まで加熱した析出物は、配向性を維持したHAp単一相のXRDパターンを示した。700℃では、HApのほかに、31°付近においてβ-リン酸三カルシウム(β-Ca3(PO4)2:β-TCP)のピークが認められた。800℃、900℃および1000℃の場合、β-TCPのピークは強められたが、HApのピークはまだ残留していた。1100℃および1200℃になると、HAp,β-TCPのほかに、高温型のα-TCPのピークも検出され、3つの相が共存していることが確認された。
【0071】
図29に、図28と同じサンプルについてのFT-IRスペクトルを示す。加熱により、1600〜1400および880cm−1付近のCO32−イオンに基づく吸収が徐々に弱められていくことが確認された。
【0072】
図30は、図28および図29と同じサンプルのSEM画像である。700℃まで加熱すると、析出物形態は多少崩れるが、一応板状を維持した。さらに加熱すると、析出物表面が融解していき、1200℃加熱において、板状の形態が完全に観測できなくなった。
【0073】
図31に、未加熱粉体と1200℃まで加熱した粉体のTEM画像を示す。加熱する前の滑らかな析出物表面に対し、1200℃の加熱により、析出物表面が凹凸になっている様子が確認された。
【0074】
前記の結果より、本プロセスから得られた板状HAp粉体は、通常の化学量論的なHApに比べると、熱力学的に安定性が低いことが確認された。それは、カルシウム欠損のためであると考えられる。
【0075】
(2−2)下層生成物のキャラクタリゼーション
表1に示したすべての濃度条件下で生成した、シャーレの下層の生成物は、配向性を持たない、OCPとHApの混合相であった。以下には、サンプルNo.2の下層生成物のキャラクタリゼーションの結果を示す。
【0076】
図32に、サンプルNo.2の下層生成物のXRDパターンを示す。図32より、この下層の合成粉体は、OCPとHApの混合相であり、XRDパターンでは、4°付近のOCPの回折強度および32°付近のHApの(300)面の回折強度が発達した。
【0077】
図33に、前記合成粉体のSEM画像を示す。このSEM観察により、生成した析出物の形態は棒状、球状および板状であることがわかる。
【0078】
水熱処理後、4°付近のOCPの回折が消え、32°付近のHApの(300)面の回折も弱められ、HApの単一相へ転化した。図33のSEM画像では、特異的な配向性を失っていた。
【0079】
図34に、水熱処理後の粉体のTEM画像を示す。このTEM観察により、規則的でない一次析出物の形態が観察され、電子線回折では、スポットが認められたが、乱雑に配列しているため、多結晶であることもわかる。
【0080】
図35に、水熱処理後の粉体のFT-IRスペクトルを示す。このFT-IRスペクトルでは、HApに特徴的なOH−基に基づく吸収が3570cm−1付近に、またPO43−基に基づく吸収が1300〜900,600および570cm−1付近に認められた。これらの吸収のほかにCO32−イオンに基づく吸収が1600〜1400および880cm−1付近において認められた。これらの吸収スペクトルから、下層から得られたHApは炭酸含有(Type AB)HApであることがわかる。
【0081】
また、このHAp粉体のCa含有量を原子吸光法により、P含有量をリンバナドモリブデン酸法により定量したところ、Ca含有量は35.4質量%、P含有量は18.2質量%であった。これらの値からCa/P比を求めると1.51になり、HApの化学量論組成でのCa/P比1.67より低い値を示している。
【0082】
3.考察
本実施例では、混合溶液の気液界面からOCPを含有する膜状のHApを析出・成長させ、次いで、該析出物に水熱処理を行って、単一相の板状HApを得た。アパタイトの理論密度は3.16g・cm−3であるため、通常では液面にHApが安定して存在することはあり得ない。以下、本プロセスの特異的なメカニズムについて検討した。
【0083】
図36は、シャーレ内の気液界面に生じた膜状析出物の上部(界面の上)から撮影したSEM画像である。互いに直交した板状析出物の上に、花の芯のような部分が見られる。それは、液面に沿って成長したHApの基盤に相当すると考えられる。
【0084】
図37は、シャーレ内の下層に生じた析出物のSEM画像である。下部の析出物では、直交した板状HApしか観察されず、図36の場合のようなHApの基盤が全く観察されなかった。
【0085】
図38は、シャーレ内の気液界面に生じた膜状析出物の側面から撮影したSEM画像である。図38では、この膜状析出物の上部及び下部が明瞭に観察できた。
【0086】
図39は、この析出物の凝集体の上部から撮影したTEM画像である。凝集体の内部の板状析出物同士が互いに直交した構造をなしていることが明らかになった。
【0087】
析出物の下部と上部の違いおよび気液界面という特別な環境から総合的に考える上で、気液界面合成プロセスのメカニズムを、次のように推測した。
【0088】
ステップ1:図40に示すように、気液界面付近の溶液の蒸発により、気液界面ではCa2+,PO43−およびOH−イオンの濃度が高くなる。
ステップ2:図41に示すように、HApの過飽和度を越えると、HApの結晶核が生成し、気液界面付近のCa2+,PO43−およびOH−イオンの濃度が低くなるため、溶液中のイオンが気液界面に移動して補充する。
ステップ3:図42に示すように、液面と溶液中のCa2+,PO43−およびOH−イオンの濃度差が生じ、結晶のc軸方向よりa,b軸方向にはCa2+,PO43−およびOH−イオンが大量に存在するため(pH値も高い)、析出したアパタイトはa,b軸に沿ってc面が優先的に成長していく。
ステップ4:図43に示すように、気液界面から析出したHApの(−)に帯電するc面が溶液中のHAp核の(+)に帯電するa面を静電的に吸引し、凝集体(各結晶の間に新しい結合が生成する可能性がある)となる。
ステップ5:図44に示すように、界面の底部に存在する微細なHAp結晶は、溶液中のCa2+,PO43−およびOH−イオンを取り込み、大きく成長する。ここでは、静電的な反発および立体空間の障害などの影響により、a軸方向はc軸方向より著しく成長していくと考えられる。
ステップ6:気液界面では、図45に示すような小さい凝集体が多数生成し、互いにさらに凝集が起き、船のように気液界面で安定して浮かぶことができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明により、板状HAp単結晶を工業的規模で製造することができる。この板状HAp単結晶は、(−)に帯電するc面が広く露出しているものなので、塩基性タンパク質などの生理活性物質の吸着材(例えば、クロマトグラフィ用充填材)に利用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、ヒドロキシアパタイトの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させ、次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取し、次いで前記析出物に水熱処理を施して板状ヒドロキシアパタイト単結晶を得ることを特徴とする板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記酸性水溶液中のCa2+イオンの濃度を0.0025〜0.0100mol・dm−3の範囲とし、PO43−イオンの濃度を0.0015〜0.0060mol・dm−3の範囲とし、尿素の濃度を1.0〜2.0mol・dm−3の範囲とし、ウレアーゼの濃度を前記尿素1当量に対して0.2倍当量から3倍当量の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法。
【請求項1】
Ca2+イオン、PO43−イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を容器に入れ、該酸性水溶液と外気とが気液接触した状態で保持し、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇にしたがって、ヒドロキシアパタイトの結晶核を生成させ、さらに該結晶核をa軸及びb軸方向に成長させ、次いで前記水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取し、次いで前記析出物に水熱処理を施して板状ヒドロキシアパタイト単結晶を得ることを特徴とする板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記酸性水溶液中のCa2+イオンの濃度を0.0025〜0.0100mol・dm−3の範囲とし、PO43−イオンの濃度を0.0015〜0.0060mol・dm−3の範囲とし、尿素の濃度を1.0〜2.0mol・dm−3の範囲とし、ウレアーゼの濃度を前記尿素1当量に対して0.2倍当量から3倍当量の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の板状ヒドロキシアパタイト単結晶の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【公開番号】特開2010−208896(P2010−208896A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57161(P2009−57161)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
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