説明

板状吸音材及びそれを用いた防音パネル

【課題】
人間の耳において感度が高い周波数領域で、広い範囲の音を吸収し、あるいは特定の音源からの音を効率良く吸収できる吸音材を提供し、併せてその吸音材を用いた防音パネルを提供する。
【解決手段】
独立気泡ビーズを用いて成形した空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体からなり、該樹脂発泡成形体の厚さと吸音周波数との相関を利用し、該樹脂発泡成形体の厚さを吸音対象の周波数に応じて部分的に変化させて板状吸音材2を作製した。また、板状吸音材の少なくとも一面を遮音シート3で覆って防音パネル1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状吸音材及びそれを用いた防音パネルに係わり、更に詳しくは音の伝播を防止するために用いる板状吸音材及びそれを用いた防音パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から建築や建設工事現場等で発生する騒音の周辺環境へ伝播するのを防止するために防音パネルが用いられている。この防音パネルは、遮音シートと吸音性を有する発泡合成樹脂板等を組み合わせて作製されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多数の連通孔を有し、空隙率が20〜50%の熱可塑性樹脂発泡体の表面を多孔シートで覆った板状吸音材が開示されて、更にこの板状吸音材を囲い板の音源側に貼着した仕切り材も開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、合成樹脂からなる独立気泡の発泡成形品に多数の孔を形成した板状吸音材が開示され、特許文献3には、同じく合成樹脂からなる独立気泡の発泡成形品に有低又は貫通した所定幅の薄幅溝を形成した板状吸音材が開示されている。何れも発泡倍率が数十倍、空隙率が1〜20%程度の通常の発泡成形品を用い、合成樹脂の融点以上に加熱した針状部材あるいは板状部材を押し当てて、孔あるいは溝を形成したものである。
【0005】
通常、人間の耳の可聴周波数は、20〜20000Hzとされるが、通常の会話では200〜8000Hzの周波数領域が使用され、その中で1000〜3500Hzの範囲内で感度が最も高くなっている。そこで、板状吸音材も1000〜3500Hzの周波数領域に吸音特性のピークを持つように設定するのである。しかし、発泡成形品自体の吸音特性は、比較的狭い周波数領域にピークを持つパターンを有し、吸収できない音の周波数が多く残る。そこで、発泡成形品に、深さや径あるいは幅が異なる複数種類の孔あるいは溝を設けて、吸収する音の周波数帯域を広げる工夫を施したのであるが、発泡成形品に設ける孔や溝の開孔率が小さいため、孔や溝の形状を工夫しても吸音特性を劇的に変えることは不可能である。
【0006】
尚、特許文献4には、柱状ビーズを点接着させ、成形体に20〜50%の空隙率を持たせたポリプロピレン系樹脂発泡成形体が開示され、板状吸音材として使用できる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3147955号公報
【特許文献2】特開2005−119257号公報
【特許文献3】特開2005−212112号公報
【特許文献4】WO2006/016478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
板状吸音材として備えるべき特性は、人間の耳において感度が高い1000〜3500Hzの周波数領域で、広い範囲で吸音率が高いことと、形状保持性が良いことである。本発明者らは、特許文献4記載のポリプロピレン系樹脂発泡成形体の吸音特性を調べている際に、樹脂発泡成形体の板厚によって吸音特性が劇的に変化することを発見した。
【0009】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、人間の耳において感度が高い周波数領域で、広い範囲の音を吸収し、あるいは特定の音源からの音を効率良く吸収できる板状吸音材を提供し、併せてその板状吸音材を用いた防音パネルを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述の課題解決のために、独立気泡ビーズを用いて成形した空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体からなり、該樹脂発泡成形体の厚さと吸音周波数との相関を利用し、該樹脂発泡成形体の厚さを吸音対象の周波数に応じて部分的に変化させたことを特徴とする板状吸音材を構成した。
【0011】
ここで、前記樹脂発泡成形体の密度は、15〜150g/Lであることが好ましく、また前記樹脂発泡成形体の厚さは、20〜200mmの範囲に設定することが好ましい。
【0012】
そして、本発明の板状吸音材は、板状の前記樹脂発泡成形体の片面又は両面に凹凸構造を形成し、音の伝播方向に対する厚さを、面内位置において部分的に変化させて構成することが好ましい。この場合、前記樹脂発泡成形体の凹凸構造を、該樹脂発泡成形体の成形時に形成する、あるいは前記樹脂発泡成形体の凹凸構造を、該樹脂発泡成形体の成形後に後加工によって形成することが可能である。
【0013】
また、本発明は、前述の特性の板状吸音材を用い、該板状吸音材の少なくとも一面を遮音シートで覆うことにより、好適に防音パネルを構成できる。ここで、防音パネルは、前記板状吸音材の片面に凹凸構造を形成し、該凹凸構造を形成した面を遮音シートで覆った構造とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本発明の板状吸音材は、独立気泡ビーズを用いて発泡成形した空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体を用い、吸音対象の周波数に応じて樹脂発泡成形体の厚さを部分的に変化させたので、特定領域、あるいは広範囲の音を効率良く吸収することができる。
【0015】
そして、前記樹脂発泡成形体として、独立気泡で空隙率15%以上50%以下、密度が15〜150g/Lの材料を用いることにより、特定の板厚に対して特定の周波数に共鳴的吸収ピークを持つ吸音特性が得られる。ここで、前記樹脂発泡成形体は、厚さを薄くすれば、高音領域の音を吸収し、厚さを厚くすれば、低音領域の音を吸収する傾向があるので、前記樹脂発泡成形体の厚さを部分的に変化させることにより、広い周波数領域の中で特定の周波数の音を効率良く吸収できる部分を形成することができ、それにより広い周波数領域の音を効率良く吸収できたり、あるいは特定の音源の特定周波数の音にターゲットを絞って効果的に吸収することができるのである。
【0016】
そして、前述の吸音特性の板状吸音材を用い、該板状吸音材の少なくとも一面を遮音シートで覆って防音パネルを構成すれば、板状吸音材で音を吸収し、遮音シートで音の透過を防ぐので、建築や建設工事現場等で発生する騒音の周辺環境へ伝播するのを防止することができる。また、防音パネルは、記板状吸音材の片面に凹凸構造を形成し、該凹凸構造を形成した面を遮音シートで覆った構造とすることにより、表面に凹凸がないので、凹部に誇りや塵が溜まらず、また凸部の損傷を防止することができるので実用的である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る防音パネルの断面図である。
【図2】本実施形態で使用する板状吸音材を示し、(a)は単純な板状吸音材、(b)は片面に波型の凹凸構造を形成した板状吸音材、(c)は片面に断面四角形の凹凸構造を形成した板状吸音材、(d)は片面に断面台形状の凹凸構造を形成した板状吸音材をそれぞれ示している。
【図3】本発明で使用した板状吸音材の板厚を10mm、20mm、30mm、40mmとした場合の周波数に対する吸音率を示すグラフである。
【図4】厚さが20mmと40mmと不連続に変化するステップ状の凹凸構造を形成した板状吸音材の試験片(実施例1)を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】厚さが20mmから40mmの間で連続的に変化する波型の凹凸構造を形成した板状吸音材の試験片(実施例2)を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図6】比較例1として通常のEPP30倍発泡体(厚さ40mm)の周波数に対する吸音率を示すグラフである。
【図7】比較例2として本実施形態で用いた板状吸音材を厚さ40mmの単純板状とした場合の周波数に対する吸音率を示すグラフである。
【図8】比較例3として本実施形態で用いた板状吸音材を厚さ20mmの単純板状とした場合の周波数に対する吸音率を示すグラフである。
【図9】実施例1の板状吸音材の周波数に対する吸音率を示すグラフである。
【図10】実施例2の板状吸音材の周波数に対する吸音率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明に係る防音パネルを示し、図2は板状吸音材を示している。
【0019】
本発明の防音パネル1は、独立気泡ビーズを用いて成形した空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体からなり、該樹脂発泡成形体の厚さと吸音周波数との相関を利用し、該樹脂発泡成形体の厚さを吸音対象の周波数に応じて部分的に変化させた板状吸音材2を用い、該板状吸音材2の少なくとも一面を遮音シート3で覆って構成した。ここで、前記防音パネル1は、板状吸音材2の片面に凹凸構造4を形成し、該凹凸構造4を形成した面を遮音シート3で覆った構造とすることが好ましい。
【0020】
そして、本発明の板状吸音材2は、板状の前記樹脂発泡成形体の片面又は両面に凹凸構造4を形成し、音の伝播方向に対する厚さを、面内位置において部分的に変化させて構成している。
【0021】
図2は、板状吸音材2の凹凸構造4の例を示している。図2(a)は、参考のために記載した凹凸構造を有さない単純な板状吸音材2を示し、本発明では単独でこの形状の板状吸音材2を用いることはないが、この形状の板状吸音材2を部分的に複数枚重ねて接着し、厚さを部分的に変化させることは可能である。図2(b)は、片面に波型の凹凸構造4を形成した板状吸音材2を示している。波型の凹凸構造4の場合、波の底部5が最も板厚が薄く、波の頂部6が最も板厚が厚くなり、その中間は連続的に厚さが変化していることが特徴である。図2(c)は、片面に断面四角形の凹凸構造4を形成した板状吸音材2を示している。この凹凸構造4の場合、同じパターンで凹部7と凸部8が繰り返すと、厚さは二段階に変化するたけであるが、凹部7の深さを変えれば、多段階に厚さを変化させることができる。図2(d)は、片面に断面台形状の凹凸構造4を形成した板状吸音材2を示している。この凹凸構造4も前記同様に、凹部9と凸部10を繰り返して形成したものであるが、同じパターンで繰り返しても、凹部9と凸部10の間の斜面11の部分は板厚が連続的に変化していることが特徴である。
【0022】
前述の凹凸構造4は、板状吸音材2の両面に形成することも可能である。また、前述の凹凸構造4は、板状吸音材2の広い面に沿って一方向にパターンを繰り返すことも、二方向にパターンを繰り返して二次元的な構造にすることも可能である。また、板状吸音材2の表面において、部分的に厚さの異なる凹凸構造4を形成する場合、厚さの範囲毎に面積の広狭を設定し、特定の周波数の音を特に効果的に吸収するようにすることも可能である。例えば、厚さ40mmの領域の面積を50%、厚さ30mmの領域の面積を20%、厚さ20mmの領域の面積を30%というように設定することも好ましい。
【0023】
本発明において、樹脂発泡成形体の厚さと吸音周波数との相関を利用し、該樹脂発泡成形体の厚さを吸音対象の周波数に応じて部分的に変化させるという場合の「厚さ」とは、音の伝播方向に沿った厚さを示している。つまり、前記板状吸音材2の面に垂直に音が入射する場合は、板厚そのものが厚さであり、板状吸音材2の面に斜めに音が入射する場合には、その入射方向に横切る長さである。
【0024】
ここで、前記板状吸音材2として用いる樹脂発泡成形体の密度は、15〜150g/Lであることが好ましい。樹脂発泡成形体の密度と空隙率は密接な関連があり、独立パラメータではないが、本発明では、独立気泡ビーズを用いて成形した空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体で、密度を15〜150g/Lとした場合、樹脂発泡成形体の厚さを20〜200mmの範囲に設定すれば、人間の耳に感度の高い1000〜3500Hzの周波数の音を吸収することができる。
【0025】
樹脂発泡成形体の密度は、樹脂発泡成形体の重量を、見かけ体積Xで除した値である。ここで、樹脂発泡成形体の空隙率(%)は、樹脂発泡成形体の見かけ体積をX(cm3)、樹脂発泡成形体の真の体積をY(cm3)としたとき、次式によって算出される。
樹脂発泡成形体の空隙率(%)={(X−Y)/X}×100
樹脂発泡成形体の見かけ体積Xは、樹脂発泡成形体の外寸から算出することができる。また、樹脂発泡成形体の真の体積Yは、樹脂発泡成形体をアルコール中に沈めた時の増量した体積である。
【0026】
また、前記板状吸音材2として用いる樹脂発泡成形体の凹凸構造4は、該樹脂発泡成形体の成形時に形成する、あるいは該樹脂発泡成形体の成形後に後加工によって形成する、の何れの方法で形成しても良い。但し、凹凸構造4の形成方法によって、表面の微細構造は相違する。つまり、発泡成形時に凹凸構造4を形成する場合は、凹凸構造4の表面にビーズの表面層が存在する。また、発泡成形後に切削によって凹凸構造4を形成する場合は、凹部の表面に独立気泡が露出し、電熱線による熱溶断によって凹凸構造4を形成する場合は、凹部の表面に溶融部が形成される。このように、凹凸構造4の形成方法によって、表面の微細構造は相違し、音波の表面での反射、侵入の程度が異なるので、使用目的に最適な製法を選択すべきである。
【0027】
前記遮音シート3は、アスファルトシート、塩化ビニルシートや合成ゴムなどによって成形される制振シートなどの面密度が大きな可撓性のシート材であり、金属粉や無機材を配合して更に密度を高めて遮音効果を高めたものもある。
【0028】
本実施形態では、樹脂発泡成形体としてポリプロピレン系樹脂発泡成形体を用いることが好ましい。このポリプロピレン系樹脂は、プロピレンモノマー単位が50重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上からなる重合体であり、チーグラー型塩化チタン系触媒またはメタロセン触媒で重合された、立体規則性の高いものが好ましい。具体例としては、例えば、プロピレン単独共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、無水マレイン酸―プロピレンランダム共重合体、無水マレイン酸―プロピレンブロック共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体等が挙げられ、それぞれ単独あるいは混合して用いられる。特に、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体が好適に使用し得る。また、これらのポリプロピレン系樹脂は無架橋のものが好ましいが、架橋したものも使用できる。
【0029】
前記ポリプロピレン系樹脂は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定したメルトインデックス(以下、MI)が0.1g/10分以上9g/10分以下であることが好ましく、更に好ましくは2g/10分以上8g/10分以下である。MIが0.1g/10分未満では、独立気泡ビーズを製造する際の発泡力が低く、高発泡倍率の独立気泡ビーズを得るのが難しくなる。また、発泡成形体としたときの独立気泡ビーズ同士の融着強度を確保することが難しくなる。MIが9g/10分を超えると、発泡成形体としたときの空隙率を安定した値で制御することが難しくなる場合がある。
【0030】
また、上記ポリプロピレン系樹脂は、機械的強度、耐熱性に優れた発泡成形体を得るために、融点は、好ましくは130℃以上168℃以下、更に好ましくは135℃以上160℃以下、特に好ましくは140℃以上155℃以下である。融点が当該範囲内である場合、成形性と機械的強度、耐熱性のバランスが取り易い傾向が強い。ここで、前記融点とは、示差走査熱量計によってポリプロピレン系樹脂1〜10mgを40℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後40℃まで10℃/分の速度で冷却し、再度220℃まで10℃/分の速度で昇温した時に得られるDSC曲線における吸熱ピークのピーク温度をいう。
【0031】
そして、樹脂発泡成形体を製造するための独立気泡ビーズは、上記ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂として、セル径が150μm以下であることが好ましく、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、低温側ピークの融解熱量α(J/g)、高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)が0.35以上0.75以下であることが好ましい。これらの要件を満たすことにより、簡便で経済的に、倍率バラツキが小さく、空隙率15%以上50%以下であるポリプロピロピレン系樹脂からなる樹脂発泡成形体を安定的に製造することが可能となる傾向がある。
【0032】
ここで、独立気泡ビーズの示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線とは、独立気泡ビーズ1〜10mgを示差走査熱量計によって10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線のことである。また、得られたDSC曲線の極大点を通る直線とDSC曲線との低温側の接点とDSC曲線で囲まれた面積から低温側ピークの融解熱量α(J/g)を算出し、DSC曲線の極大点を通る直線とDSC曲線との高温側の接点とDSC曲線で囲まれた面積から高温側ピークの融解熱量β(J/g)が算出される。
【0033】
次に、ポリプロピレン系樹脂を用いて独立気泡ビーズを製造する方法について述べる。前記ポリプロピレン系樹脂は、既知の方法を用いて、例えば、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー(商標)、ロール等を用いて溶融して、1粒の重量が0.2〜10mg、好ましくは0.5〜6mgの樹脂粒子に加工される。一般的には、押出機を用いて溶融し、ストランドカット法もしくはアンダーウォーターカット法にて製造する。例えば、ストランドカット法を用いる場合、円形ダイスからストランド状に押出されたポリプロピレン系樹脂を水、空気等で冷却、固化させたものを切断して、所望の形状の樹脂粒子を得る。
【0034】
更に、樹脂粒子製造の際、必要により種々の添加剤を、ポリプロピレン系樹脂の特性を損なわない範囲内で添加することができる。
例えば、変性ポリオレフィン樹脂および/または変性スチレン樹脂を添加することが好ましい。酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンがより好適に使用される。
酸化ポリエチレンワックスを使用する場合、ASTM D3236に準拠して150℃で測定される粘度が5mPa・s以上800mPa・s以下であることが好ましく、10mPa・s以上500mPa・s以下であることがより好ましい。
【0035】
また、ASTM D1386に準拠して測定される酸価が5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましく、10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることが、より高い親和性を得る上で好ましい。数平均分子量は、分岐構造等により異なるが、多くの場合、500以上5000以下の範囲である。
【0036】
本発明における独立気泡ビーズの製造には、従来から知られている方法を利用できる。例えば、密閉容器内に、上記樹脂粒子、発泡剤、分散剤および分散助剤を含む水系分散媒を仕込み、攪拌しながら昇温して一定温度(以下、発泡温度という場合がある)として樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、必要に応じて発泡剤を追加添加して、密閉容器内を一定圧力(以下、発泡圧力という場合がある)に保持した後、密閉容器下部から内容物を密閉容器内圧より低圧雰囲気下に放出する方法により独立気泡ビーズが製造される。
【0037】
前記発泡剤としては、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン等の脂肪族炭化水素およびそれらの混合物;空気、窒素、二酸化炭素等の無機ガス;水などが挙げられる。より高発泡倍率の独立気泡ビーズを得るためにはイソブタン、ノルマルブタンおよびそれらの混合物を発泡剤として用いるのが好ましい。低発泡倍率で、発泡倍率バラツキの小さい独立気泡ビーズを得るためには水を発泡剤として用いるのが好ましい。
水を発泡剤として用いる場合には、前記樹脂粒子を製造する際にナトリウムアイオノマー、カリウムアイオノマー、メラミン、イソシアヌル酸等の吸水剤を添加しておくことが好ましい。
【0038】
この様にして密閉容器内に調整されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物は、攪拌下、所定の発泡温度まで昇温され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持されるとともに、密閉容器内の圧力は上昇し、発泡剤が樹脂粒子に含浸される。この後、所定の発泡圧力になるまで発泡剤が追加供給され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持される。かくして、発泡温度、発泡圧力で保持されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物を、密閉容器下部に設けられたバルブを開放して低圧雰囲気下(通常は大気圧下)に放出することにより独立気泡ビーズを製造することができる。
樹脂粒子の水系分散物を低圧雰囲気に放出する際、流量調整、倍率バラツキ低減などの目的で2〜10mmφの開口オリフィスを通して放出することもできる。また、発泡倍率を高くする目的で、上記低圧雰囲気を飽和水蒸気で満たす場合もある。
【0039】
以上のようにして得られた独立気泡ビーズの形状は、特に限定はなく、一般的な球形状や、例えばWO2006/16478号公報に開示されているような柱形状、例えば特開平7−137063号公報に開示されているような円筒形状を始めとした異形状等が挙げられるが、樹脂発泡成形体の空隙率を15%以上50%以下としやすいため、柱形状或いは異形状であることが好ましい。
【0040】
柱形状である場合、独立気泡ビーズの最長部の長さをL、L方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径DminとしたときのDmaxとDminの平均値Dの比(L/D)が1.5以上3以下の柱状形状であることが好ましい。
L方向に垂直な断面形状は、円、楕円等の凹部のない閉じた曲線であり、DmaxおよびDminはL方向に沿って略一定の値をとる。柱形状の独立気泡ビーズの具体例としては、円柱形状、楕円柱形状が挙げられる。
L/Dを1.5以上3以下とすると、成形のため金型に充填した際に、独立気泡ビーズ同士の適度な接触面積を保って、高い空隙率を形成しやすい傾向になる。L/Dが1.5未満となると、金型に充填した際に十分な空隙率を有する樹脂発泡成形体を得ることが困難な場合がある。L/Dが3を超えると、金型に充填する際の充填口での目詰まりが発生し易く、充填不良の原因、或いは、樹脂発泡成形体の局所間での空隙率にバラツキが生じ易い傾向がある。
【0041】
異形状である場合、特開平7−137063号公報に記載されているような、独立気泡ビーズを、三次元座標上のxy、yz、zxの各平面のそれぞれが上記独立気泡ビーズに少なくとも一点で接し、且つ上記各平面が独立気泡ビーズを切断しないように三次元座標上に配置した時、上記独立気泡ビーズ表面におけるx、y、zの各座標の絶対値の最大値のいずれかがとり得る最小の座標値絶対値をaとし、座標値絶対値aを示した座標軸と直交する方向の2つの座標値絶対値の最大値のいずれかとり得る最小の値をbとし、残りの座標値絶対値をcとしたときにa≦b≦cであり、1≦b/a<2であり、1≦c/a<2を満足するような形状であることが好ましい。
【0042】
上記のようにして得たポリプロピレン系樹脂からなる独立気泡ビーズは、従来から知られている成形方法により、空隙率が15%以上50%以下のポリプロピレン系樹脂発泡成形体にすることができる。例えば、イ)独立気泡ビーズを無機ガスで加圧処理して独立気泡ビーズ内に無機ガスを含浸させ所定の独立気泡ビーズ内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、ロ)独立気泡ビーズをガス圧力で圧縮して金型に充填し、独立気泡ビーズの回復力を利用して、水蒸気で加熱融着させる方法、ハ)特に前処理することなく独立気泡ビーズを金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、などの方法が利用し得る。
【0043】
上記の成形方法の中でも、独立気泡ビーズを無機ガスで加圧処理して独立気泡ビーズ内に無機ガスを含浸させ所定の独立気泡ビーズ内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法がより好ましく、該独立気泡ビーズ内圧を0.2kgf/cm2・G以上0.7kgf/cm2・G以下とするのが更に好ましい。独立気泡ビーズ内圧を0.2kgf/cm2・G以上0.7kgf/cm2・G以下とすることにより、空隙率のコントロールがより容易となり、空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体をより安定に製造することができる。
【0044】
上記無機ガスとしては、空気、窒素、酸素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどが使用できる。これらは単独で用いても、2種以上混合使用してもよい。これらの中でも、汎用性の高い空気、窒素が好ましい。
上記成形方法以外にも、独立気泡ビーズに接着剤を塗布し、当該独立気泡ビーズを、所望形状の成形型に流し込み、固化させることにより、空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体としてもよい。
【0045】
樹脂発泡成形体の空隙率は吸音特性と強く関係しており、空隙率は15%以上50%以下、更に好ましくは20%以上45%以下である。空隙率が15%未満となると、ピーク周波数における吸音率が低下し、十分な吸音特性が得られない。空隙率が50%を超えると、独立気泡ビーズ間の接触面積が低下して発泡成形体の割れが生じ易くなるばかりか、機械強度が低下して実用上の使用に耐えない。
【0046】
前述の円柱形状のポリプロピレン系樹脂独立気泡ビーズは、dB(ドックボーン:株式会社カネカ製)として市販されている。この独立気泡ビーズを用いて作製した33倍発泡の樹脂発泡成形体の吸音特性を図3に示している。図3は、前記樹脂発泡成形体の厚さを10mm、20mm、30mm、40mmとした場合の周波数に対する吸音率のグラフであり、厚さによって共鳴的吸収ピークを持つことが分かる。樹脂発泡成形体の厚さが増加すると、吸音ピークはより低い周波数に移動する。ここで、厚さ10mmの樹脂発泡成形体の場合は、4500Hz近辺の周波数で吸音ピークを持つので、本発明の防音目的にはそぐわない。吸収ピークは、厚さ20mmでは約2400Hz、30mmでは約1600Hz、400mmでは約1250Hzである。何れの厚さの吸音特性も高音領域へ長いテールを有している。また、前記樹脂発泡成形体の厚さが20mmよりも薄いと形状保持性が悪くなり、機械的強度も低下し過ぎるので、防音パネルとして使用するには適さない場合がある。そこで、本発明では、板状吸音材2の厚さの下限を20mmとした。また、板状吸音材2の厚さが200mmを超えると、防音パネルとして厚くなり過ぎ、取り扱いが難しくなる傾向がある。
【実施例】
【0047】
(実施例1,2)
次に、dB(ドックボーン、株式会社カネカの独立気泡ビーズの商品名)の独立気泡ビーズを用いて金型内で33倍発泡させ、図4及び図5に示した形状の試験片(空隙率25%)を作製し、吸音特性を調べた。図4に示した試験片(実施例1)は、直径40mmで、その片面に直径部分を境に厚さを40mmと20mmにステップ状(段型)に変化させた凹凸構造を形成したものである。図5に示した試験片(実施例2)は、直径40mmで、その片面に底部の厚さが20mm、頂部の厚さが40mmの波型の凹凸構造を形成したものである。
【0048】
(比較例1〜3)
比較例1として、通常のEPP30倍発泡体(厚さ40mm)を作製した。また、dB(ドックボーン)の独立気泡ビーズを用いて金型内で33倍発泡させた厚さ40mm(比較例2)と20mm(比較例3)の樹脂発泡成形体を作製した。
【0049】
図6は比較例1の樹脂発泡成形体の吸音特性を示し、図7は比較例2の吸音特性を示し、図8は比較例3の吸音特性を示している。各吸音特性のグラフの横軸は、音波の周波数、縦軸は吸音率を示し、吸音率は最大値を1に規格化している。図6より、通常のEPP30倍発泡体には、吸音効果は殆どないことが分かった。また、図7及び図8より、樹脂発泡成形体の厚さに応じて、特定の周波数領域の音を吸収するが、それ以外の周波数の音に対して吸収は少なく、多くの音を透過させてしまうことが分かる。
【0050】
それに対して、実施例1(dB33 20mm+40mm段型)の場合、図7と図8の吸音特性を合成したような吸音特性を有し、広い周波数領域(1000〜3500Hz)で音を効果的吸収することが分かる。同様に、実施例2(dB33 20mm〜40mm波型)の場合、吸音特性として広い周波数領域(1000〜3500Hz)に大きく横に広がった山が形成され、広い周波数領域で音を効果的に吸収することが分かる。
【符号の説明】
【0051】
1 防音パネル
2 板状吸音材
3 遮音シート
4 凹凸構造
5 底部
6 頂部
7 凹部
8 凸部
9 凹部
10 凸部
11 斜面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立気泡ビーズを用いて成形した空隙率15%以上50%以下の樹脂発泡成形体からなり、該樹脂発泡成形体の厚さと吸音周波数との相関を利用し、該樹脂発泡成形体の厚さを吸音対象の周波数に応じて部分的に変化させたことを特徴とする板状吸音材。
【請求項2】
前記樹脂発泡成形体の密度は、15〜150g/Lである請求項1記載の板状吸音材。
【請求項3】
前記樹脂発泡成形体の厚さは、20〜200mmの範囲に設定した請求項1又は2記載の板状吸音材。
【請求項4】
板状の前記樹脂発泡成形体の片面又は両面に凹凸構造を形成し、音の伝播方向に対する厚さを、面内位置において部分的に変化させた請求項1〜3何れかに記載の板状吸音材。
【請求項5】
前記樹脂発泡成形体の凹凸構造を、該樹脂発泡成形体の成形時に形成する請求項4記載の板状吸音材。
【請求項6】
前記樹脂発泡成形体の凹凸構造を、該樹脂発泡成形体の成形後に後加工によって形成する請求項4記載の板状吸音材。
【請求項7】
請求項1〜6何れかに記載の板状吸音材の少なくとも一面を遮音シートで覆った防音パネル。
【請求項8】
前記板状吸音材の片面に凹凸構造を形成し、該凹凸構造を形成した面を遮音シートで覆った請求項7記載の防音パネル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−126217(P2011−126217A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288736(P2009−288736)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】