説明

架橋タンパク質結晶の調製方法

酵素のようなタンパク質は、タンパク質の結晶を多官能性架橋剤で架橋することによって固定化される。架橋されたタンパク質結晶は、保存のために凍結乾燥することができる。好ましいタンパク質は、アミログルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、植物オキシダーゼ等の酵素である。架橋された酵素結晶は、好ましくは、酵素の架橋されていない可溶性形態が同じ条件下でその初期活性の少なくとも92%を失わせる濃度のプロテアーゼの存在下に3時間インキュベートした後に少なくとも90%を保持する。架橋される酵素結晶は、断面が100ミクロン以下の微小結晶であってもよい。架橋された酵素結晶は、強靭であり、厳しい条件に耐えることができ、分析物を検出するための分析、診断キット又はバイオセンサにおいて、新規なポリマーを製造するために架橋されたペルオキシダーゼ結晶を用いるような生成物を製造する際に、工業規模の化学プロセスに用いられるものを含む生物変換において及び環境的治療において有機媒体又は水性媒体における選択的化学反応を行うのに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋タンパク質結晶の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の主な効用は、架橋タンパク質結晶、特に、化学反応における触媒として、特に有機溶媒における触媒として使用し得る酵素を製造することである。酵素結晶が得られる本発明の方法においては、タンパク質小結晶(サイズが約100マイクロメートル(ミクロン)の結晶)は水溶液、又は有機溶媒を含有する水溶液から成長し、その酵素触媒は構造的にも機能的にも安定である。好ましい態様においては、その後、結晶は二価性試薬、例えば、グルタルアルデヒドで架橋される。この架橋により、結晶を構成する個々の酵素触媒分子間の結晶格子接触の安定化が得られる。この加えられた安定化の結果として、架橋固定化酵素結晶は、高温で、両極端のpHで、水性媒体、有機媒体、又はこれらの混合物を含む無水に近い媒体において機能することができる。即ち、本発明のCLECは、対応する結晶化していない、架橋されていない、未変性酵素又は従来の固定化された酵素触媒の機能的な完全な状態と適合しない環境において機能することができる。さらに、この方法によって製造されるCLECは凍結乾燥を受けることができ、プロテアーゼ分解に抵抗性である凍結乾燥CLECが得られ、長期間非冷蔵温度(室温)でこの凍結乾燥された形で保存することができ、アモルファス懸濁液を形成せずに、変性のリスクが最小限で水性溶媒、有機溶媒、又は混合水性溶媒・有機溶媒の選択で簡単に再構成することができる。
特殊な化学薬品や薬剤の工業規模の合成における触媒としてのタンパク質、例えば、酵素の使用は、多くの注目を受けてきた[Dordick J.S,"Designing enzymes for use in organic solvents"Biotechnol.progress(1992),8,259-267]。酵素は、立体選択的、位置選択的及び化学選択的な方法で化学反応を達成する有用なツールとして認識されている。温和な条件、処理の容易さ及び最小限の廃棄物産生によって機能する酵素の能力は、さらにそれらの使用と関連した利点である。また、酵素は製品収率を上げるために基質や生成物を可溶化するとともに反応速度論や平衡を操作する有機溶媒における触媒として用いられる。酵素が現在の非酵素技術より印象的な合成可能性を与えるが、それらの商用利用は、不利な点、例えば、不十分な安定性、性能における変動、分離や精製の難しさ、取り扱いの難しさ、高コスト、長い反応時間によって制限されてきた。
【0003】
さらにまた、有機溶媒は、酵素としばしば適合せず、酵素分解又は不活性化が生じる[A.M.Klibanov,"Asymmetric transformations Catalyzed by Enzymes in Organic Solvents", Acc. Chem. Res.,23, pp. 114-20 (1990]。酵素が生存可能な工業触媒として機能するためには、製造プロセスの実際的な環境において過剰に関与せずに機能することができなければならない。このような環境としては、極性有機溶媒、非極性有機溶媒、水性溶媒・有機溶媒混合物が含まれる。酵素の低活性や有機溶媒に対するそれらの回避は、通常の有機合成におけるこれらのタンパク質の広範囲にわたる使用に対して障害のままであった。このような合成が酵素によって触媒される場合さえ、質量で基質より多くの酵素を使っている方法を見ることは、珍しくない[Y. -F. Wang et al., J. Am. Chem. Soc., 110, pp. 7200-05 (1988)。
これらの不利な点を克服するように設計された2つの方法−酵素精製及び酵素固定化−はこれらの不利な点の一部を対処した。しかしながら、酵素活性の損失又は有機溶媒における安定性の問題は解決されなかった。固定化は、実際は、より高コストを招くとともに支持材料の添加によって酵素の活性を希釈することによって、これらの問題を悪化させた。酵素精製もコストの追加を招き、ほとんどの場合、有機溶媒における酵素活性を増大しない。有機溶媒における酵素活性は、水分、触媒粒子のサイズや形態、酵素微小環境に親密に関連があることが最近の研究から証明された[A.M. Klibanov, "Enzymatic Catalysis in Anhydrous Organic Solvents", Trends in Biochem. Sci., 14, pp. 141-44 (1989)]。これらのパラメータは、酵素と炭水化物、有機緩衝液又は塩との凍結乾燥された複合体を調製することによって調整された[K. Dabulis and A. M. Klibanov, , "Dramatic Enhancement of Enzymatic Activity in Organic Solvents by Lyoprotectants", Biotechnol. Bioeng., 41, pp, 566-71 (1993)]。しかしながら、有機溶媒における触媒のための酵素を調製する凍結乾燥の広範囲にわたる使用にもかかわらず、ある場合には、酵素の有意な可逆的変性を引き起こすことがある。
【0004】
有機溶媒を含む生物変換における低酵素活性の問題に対する他の方法には界面活性剤の使用が含まれた。界面活性剤は、酵素、脱水された混合物、有機溶媒において活性が高められたと言われる触媒として用いられた得られた酵素標品の水溶液と混合された。また、酵素を被覆するために界面活性剤又は脂質を用いて、有機溶媒においてそれらを可溶化し、従って、化学反応速度が増加した[N. Kamiya et al., "Preparation of surfactant coated lipases utilizing the molecular imprinting technique" J.Fer.& Bioeng.(1996) 85(2)237-239]。この手順後、酵素は有機溶媒に可溶性になる。有機物質に可溶な酵素複合体は、V. M. Paradkar and J. S. Dordick, J. Am. Chem. Soc.,116, pp. 5009-10 (1994) (proteases) and Y. Okahata et al., J. Org. Chem., 60, pp. 2240-50(1995)(リパーゼ)にも記載されている。
架橋酵素結晶(CLEC)技術の出現により上記の不利な点を解決するユニークな方法が得られた[N. L. St. Clair and M. A. Navia, J. Am. Chem.Soc., 114, pp. 7314-16 (1992)]。架橋酵素結晶は、酵素(可溶性又は固定化)機能と通常は適合しない環境においてそれらの活性を保持する。このような環境には、長時間高温にさらされることや極端なpHが含まれる。さらに、有機溶媒や水性溶媒・有機溶媒混合物においては、架橋酵素結晶は、それらの可溶性又は従来の固定化された対応物のそれをはるかに超えた安定性と活性双方を示す。それほど多くの生物触媒プロセスが最適状態に及ばない条件で酵素の安定性と活性に左右されるので、架橋酵素結晶は工業、臨床及び研究の設定に有利に用いられる。従って架橋酵素結晶は、有機合成反応のための魅力的で広く適用できる触媒として、生物触媒作用の領域では重要な前進を示す[R. A. Persichetti et a1., "Closs-Linked Enzyme Crystals (CLECs) of Thermolysosin the Synthesis of Peptides", J. Am. Chem. Soc., 117, pp.2732-37 (1995); J. J. Lalonde et a1., Chem tech(1997)38-45 Khalaf,N, J.Am.Chem.Society (1996)118,5494-5495, Y.F.Wang, J.Org.Chem,(1997), 62(11) 3488-3495 -ズブチリシン; J.Am.Chem.Soc.(1995) 117(26) 6845-6852.-リパーゼ]。一般のタンパク質触媒技術の進歩にもかかわらず、有機溶媒において高活性を有する触媒がなお求められている。
【0005】
サーモリシン、エラスターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、リゾチーム、アスパラギナーゼ、ウレアーゼ、ニトリラーゼ、ヒダントイナーゼ、プロテアーゼについてはVertex Pharmaceuticals IncのCLEC.TM及びAlthus Biologicals, Inc.ケンブリッジ、マサチューセッツのCLECのような2、3の強力な商業化された架橋タンパク質を参照することができる[米国特許第5,849,296号,Dec l998,Crosslinked protein crystals, Navia et.al ;カナダ特許第2156177号、米国特許第6,042,824号, March 2000、米国特許第5,932,212号, August 1999]。デンプン加水分解の重要な酵素であるアミラーゼ-アミログルコシダーゼのような糖タンパク質である酵素で行われた研究は多くなく、ペルオキシダーゼ酵素は新規なポリマー合成や環境的改善のために用いられる非常に用途が広い触媒ヘムタンパク質である。糖タンパク質は、通常は結晶化させるのが非常に難しい。アミログルコシダーゼ酵素は、主にグルコースへのでんぷん質の大規模な変換において用いられる。この酵素による非還元端からのデンプンの解重合は、緩慢なプロセスであり、濃度によっては8-20時間をかかる。グルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼ)は、低温安定性を有し、60℃を超える温度で変性する。この糖化段階の前の液化段階は、90-110℃で行われ、より高速に(15-60分間)行われ、より高速プロセスを有するために、より高温度でも解重合する段階を有することが不可欠である。遺伝子操作と固定化によって熱安定性を改善する試みは、70℃を超える熱安定性をほとんど改善しなかった。AMGの架橋結晶は80-90℃で用いることができるが、加水分解時間がかなり短くなる。
主に微生物から得られるペルオキシダーゼ酵素(リグニンペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ)、植物から得られるペルオキシダーゼ酵素(ホースラディッシュペルオキシダーゼ、サッカラムペルオキシダーゼ、イポメアペルオキシダーゼ)は、水性有機相の重合反応の間に変性する。これらの酵素の架橋結晶は強靭であり、厳しい条件に耐えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、上で詳述された欠点を取り除く、架橋タンパク質結晶の調製方法を提供することである。
本発明の他の目的は、タンパク質、特に酵素固定化する方法であって、酵素の結晶を形成し、一般的には、また、得られた結晶を二価性試薬の使用によって架橋することによる前記方法である。
本発明のさらに他の目的は、界面活性剤と有機溶媒の存在下に架橋タンパク質結晶を乾燥すると架橋タンパク質結晶製剤が得られることである。
本発明のさらに他の目的は、界面活性剤と有機溶媒の存在下に架橋タンパク質結晶を凍結乾燥すると、室温で保存される固定化酵素の貯蔵、取り扱い及び特性の操作を改善する手段として使用しうる架橋タンパク質結晶製剤が得られることである。
本発明のさらに他の目的は、CLEC又は一組のCLECが触媒作用した反応、また、未変性酵素と相対して、分解に対する高抵抗性(例えば、高プロテアーゼ抵抗性)及びより高い温度安定性によって所望の生成物を製造することである。
本発明のさらに他の目的は、有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物を含む化学反応における触媒として、活性と生産性が高い架橋タンパク質結晶製剤に提供することである。この活性と生産性レベルは、可溶性タンパク質又は慣用的に固定化されたタンパク質より高い。
本発明のさらに他の目的は、架橋タンパク質結晶製剤を製造する方法及び工業規模の生物触媒作用において用いられるものを含む、有機溶媒における化学反応を最適化するためにそれらを用いる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、酵素のようなタンパク質、好ましくは糖タンパク質から構成される架橋タンパク質結晶の調製方法であって、まず適切な塩で結晶化し、次にタンパク質の結晶を多官能性架橋剤で架橋することによって固定化される、前記方法を提供し、架橋タンパク質結晶は、貯蔵に適切な界面活性剤で凍結乾燥され、好ましいタンパク質は、アミログルコシダーゼのような加水分解酵素、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、イポメアやサッカラムのようなリーフペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼのような微生物酵素、Mnペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、クロロペルオキシダーゼ等の酸化重合酵素であり、架橋酵素結晶は、より高い温度安定性を有し、同じ条件でその初期活性の少なくとも92%を失う酵素の可溶性非架橋形態を引き起こす濃度のプロテアーゼの存在下に3時間インキュベートした後に少なくとも90%の活性を保持し、架橋される酵素結晶は、断面が10-100ミクロンの微小結晶であってもよく、架橋酵素結晶は、生物変換のための水性又は有機媒体において、分析物を検出するための分析、診断キット又はバイオセンサにおいて、液体の成分を変えるための体外デバイスにおいて、架橋ペルオキシダーゼ結晶を用いて新規な化学薬品や中間体を製造するような生成物を製造する際に、物質から混合物を分離する際に、及び治療法において使用しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書に記載された本発明がよりさらに完全に理解することができるように、以下の詳細な説明が示される。説明において、以下の用語が使われる。
有機溶媒--非水性由来のあらゆる溶媒。
水性溶媒・有機溶媒混合物-- n%有機溶媒、ここで、nは1〜99である、とm%水性溶媒、ここで、mは100-nである、を含む混合物。有機溶媒の混合物--あらゆる割合での少なくとも2つの異なる有機溶媒の組合せ。
架橋タンパク質製剤--架橋タンパク質結晶と1以上の追加賦形剤、例えば、界面活性剤、塩、緩衝液、炭水化物又はポリマーとのスラリーよりむしろ乾燥、自由流動粉末又は凍結乾燥形態での混合物。
触媒的に有効な量--或る時間にわたって適用される領域を保護、重合、加水分解、修復、又は解毒するのに有効な本発明の架橋タンパク質結晶製剤の量。
本発明の架橋タンパク質結晶製剤は、典型的な多くの工業規模化学合成法である厳しい溶媒環境において高活性を保持することから特に有利である。それらの結晶性の性質の結果として、これらの製剤の架橋タンパク質結晶成分は全ての架橋結晶容積全体の均一性を達成する。
結晶格子を構成するタンパク質分子の間の分子間接触と化学架橋は、有機溶媒又は混合水性溶媒・有機溶媒に交換された場合さえ、この均一性を維持する。そのような溶媒においてさえ、タンパク質分子は、相互に均一な距離を維持し、基質の触媒への接近、及び生成物の除去を容易にする架橋タンパク質結晶製剤内にはっきりした安定な孔を形成する。これらの架橋タンパク質結晶において、化学架橋によって固定される場合の格子の相互作用は、特に有機溶媒又は混合水性溶媒・有機溶媒において、変性を防止するのに特に重要である。結晶格子内の架橋タンパク質結晶と成分タンパク質は、有機溶媒において単分散のままであるので、凝集の問題が避けられる。本発明の架橋タンパク質結晶製剤の架橋タンパク質結晶成分のこれらの特徴は、有機溶媒や水性溶媒・有機溶媒におけるそれらの製剤の高レベルの活性に関与する。
有機溶媒や水性溶媒・有機溶媒におけるそれらの活性に加えて、本発明の架橋タンパク質結晶製剤は、タンパク質分解、極端な温度、極端なpHに対して特に抵抗性である。架橋タンパク質結晶単位容積あたりの活性は、慣用的に固定化されたタンパク質又は可溶性濃縮タンパク質より著しく高い。このことは、製剤の架橋タンパク質結晶成分の中のタンパク質濃度が理論上の限度の近くにあるためである。
【0009】
これらの利点によって、本発明の架橋タンパク質結晶製剤は、反応効率の主要な改善を可能にする。高スループットを必要としている厳しい条件又は状況の下で収率が改善され、プロセス化学者は反応条件についての懸念をより少なくして収率を最大にすることに集中することができる。
本発明の架橋タンパク質結晶製剤のタンパク質成分は、例えば、酵素を含むあらゆるタンパク質であってもよい。本発明の一態様によれば、架橋タンパク質結晶製剤は有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における活性を特徴とし、粗製形態又は純粋形態の前記タンパク質の当量の活性より少なくとも1.5倍である。本発明の他の態様においては、活性、そのような製剤のレベルは、粗製形態又は純粋形態の前記タンパク質の当量の活性より約1.5倍〜10倍の範囲にある。
従って、本発明は、架橋タンパク質結晶の調製方法であって、
(a)水中のタンパク質を適切な塩と共存溶質で有機共溶媒の存在下に4o〜10℃の範囲にある温度で5時間〜20日間結晶化させて、断面が50〜150ミクロンの範囲にあるタンパク質の結晶を得る工程、
(b)工程(a)で得られたタンパク質の結晶と多官能性架橋剤とを3-10の範囲にあるpHの緩衝液の存在下に4o〜10℃の範囲にある温度で反応させて、架橋タンパク質結晶を得る工程、
(c)架橋結晶を過剰の架橋試薬を除去することができる試薬で洗浄して、洗浄した架橋タンパク質を得る工程、
(d)架橋タンパク質結晶を適切な界面活性剤で被覆して、安定な生成物を得る工程
を含む前記方法を提供する。
本発明の方法の態様においては、前記タンパク質は、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ及びオキシドレダクターゼからなる群より選ばれた酵素である。
本発明の方法の他の態様においては、前記酵素は、ヒドロラーゼ又はオキシドレダクターゼである。
本発明の他の態様においては、前記ヒドロラーゼは、グルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼ)、アルファアミラーゼ、ベータアミラーゼのようなアミラーゼからなる群より選ばれる。
本発明の他の態様においては、前記オキシダーゼは、植物及び微生物双方由来の種々のペルオキシダーゼ、オキシダーゼ、ラッカーゼからなるオキシドレダクターゼの群より選ばれる。
【0010】
本発明の他の態様においては、前記結晶は、あらゆる形状の微小結晶であり、断面が100ミクロン以下である。
本発明の他の態様においては、用いられる前記架橋試薬は、グルタルアルデヒド、デンプンジアルデヒド、ジメチル-3,3'-ジチオビスプロピオンイミデート、2-イミノチオラン、n-スクシニミジル-(4-アジドフェニル)-1,3-ジチオプロピオネート、エチル-4-アジドフェニル-1,4-ジチオブチルイミデート等からなる群より選ばれる。架橋剤の濃度は、酵素結晶1グラムにつき1〜50mgでありうる。
本発明の他の態様においては、用いられる前記界面活性剤は、アニオン界面活性剤、中性界面活性剤、カチオン界面活性剤である。
本発明の他の態様においては、用いられるカチオン界面活性剤は、アミン、アミン塩、スルホニウム、ホスホニウム及びメチルトリオクチルアンモニウムクロリド(ALIQUAT 336) N,N',N'-ポリオキシエチレン(1O)-N-獣脂1,3-ジアミノプロパン(EDT-20,' PEG-10獣脂)、PEI(ポリエチレンイミン)及びCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)のような第四級アンモニウム化合物からなる群より選ばれる。
本発明の他の態様においては、用いられるアニオン界面活性剤は、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルファオレフィンスルホネート、アルキルスルフェート、Aerosol T、SDS、アルコールエトキシスルフェート、カルボン酸、硫酸エステル及びアルカンスルホン酸からなる群より選ばれる。アニオン界面活性剤の例としては、TRITON QS-30(アニオンオクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、Aerosol 22、ジオクチルスルホスクシネート(AOT)、アルキル硫酸ナトリウム(Niaproof): Type-4(Type-8、アルキル(C9-C13)硫酸ナトリウム(TEEPOL HB7)が挙げられる。
本発明の他の態様においては、用いられる非イオン性活性剤は、ノニルフェノールエトキシレート、アルコールエトキシレート、ソルビタントリオレエート、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤、フェノールアルコール又は脂肪酸のポリエチレンオキシド又はポリエチレンオキシド誘導体からなる群より選ばれる。
【0011】
本発明の他の態様においては、用いられる非イオン性活性剤は、ポリオキシエチレンエーテル: 4ラウリルエーテル(BRIJ 30)、トゥイーン80、23ラウリルエーテル(BRIJ 35)、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(TRITONS): Tx-15、Tx-100、Tx-114、Tx-405、DF-l6、N-57、DF-12、CF-10、CF-54、ポリオキシエチレンソルビタン: モノラウレート(TWEEN 20)、ソルビタン: セスキオレエート(ARLACEL 83)、トリオレエート(SPAN 85)、ポリグリコールエーテル(ターギトール): Type NP-4、Type NP-9、Type NP-35、TypeTMN-1O、Type15-S-3、TypeTMN-6(2,6,8,トリメチル-4-ノニルオキシポリエチレンオキシエタノールType 15-S-40からなる群より選ばれる。
本発明の他の態様においては、前記界面活性剤は、架橋酵素結晶と界面活性剤の質量比約l:l〜約1:5、好ましくは約1:1〜約1:2を示している。
本発明の他の態様においては、界面活性剤は、架橋酵素結晶と界面活性剤を約5分〜24時間、好ましくは約30分〜24時間の間、接触させることによって行われる。
本発明の他の態様においては、CLEC調製のために用いられる前記緩衝液は、10〜100 mMの標準酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩又は3-10の範囲のpHを有するあらゆる適切な緩衝液でありうる。
本発明の他の態様においては、請求項l〜15記載の架橋タンパク質結晶であって、前記のタンパク質結晶は、凍結乾燥された形態にある。
本発明の他の態様においては、請求項l〜16記載の架橋タンパク質結晶であって、前記架橋酵素結晶は外因性のタンパク質分解に対して抵抗性を有し、前記架橋酵素結晶は、結晶化して架橋される前記酵素結晶を形成する酵素の可溶性非架橋形態が同じ条件でその初期活性の少なくとも94%を失う濃度のプロテアーゼの存在下に、3時間インキュベートした後、その初期活性の少なくとも91%を保持し、前記結晶は、凍結乾燥された形態にある。
本発明の他の態様においては、請求項1〜17記載の架橋タンパク質結晶であって、前記酵素が基質に作用することを可能にし、それによって、前記有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物中の前記生成物が得られる。
本発明の他の態様においては、用いられる前記有機共溶媒は、オクタン、ジオール、ポリオール、ポリエーテル及び水溶性ポリマーからなる群より選ばれる。
【0012】
本発明の他の態様においては、用いられる有機共溶媒は、トルエン、オクタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ピリジン、ジエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリ(エチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、酒石酸ジメチル、ポリ(エチレングリコール)のモノアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)のジアルキルエーテル、及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる。
本発明の他の態様においては、架橋タンパク質結晶製剤は、最終的な製剤の質量で、約10wt%〜約70wt%の界面活性剤、好ましくは最終的な製剤の質量で約25質量%〜約45質量%の界面活性剤を含んでいる。
本発明の他の態様においては、結晶は、生物変換のための水性媒体又は有機媒体において、分析物を検出するための分析、診断キット又はバイオセンサにおいて、架橋ペルオキシダーゼ結晶を用いて新規な多糖類を製造するような生成物を製造する際に、混合物から物質を分離する際に、治療において、毒性流出物のバイオレメディエーションにおいて用いることができる。
本発明は、また、有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における固体の1ミリグラムにつき比活性が粗製形態又は純粋形態の前記タンパク質より少なくとも約2倍であることを特徴とする架橋タンパク質結晶製剤を含んでいる。本発明の架橋タンパク質結晶製剤は、また、有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における固体の1ミリグラムにつき比活性が粗製形態又は純粋形態の前記タンパク質より約2倍〜約50倍であることを特徴とすることができる。また、本発明の架橋タンパク質結晶製剤は、有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における固体の1ミリグラムにつき比活性が少なくとも約10-50倍の活性からなる群より選ばれる粗製形態又は純粋形態の前記タンパク質より高いレベルの活性を有することを特徴とすることができる。
本発明の他の態様においては、架橋タンパク質結晶製剤は、また、有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における活性が界面活性剤を含有しない架橋タンパク質結晶の活性より約2倍〜約10倍であることを特徴とすることができる。
上記架橋タンパク質製剤の全てにおいては、明示された活性レベルは、有機溶媒、又は水性溶媒・有機溶媒、又は双方の溶媒において示すことができる。このような活性レベルは、架橋酵素結晶製剤を含む全種類の架橋タンパク質結晶製剤を特徴づけている。
【0013】
本発明の架橋タンパク質結晶製剤は、多くの化学プロセスのいずれかに用いることができる。このようなプロセスとしては、工業及び研究規模のプロセス、例えば、特殊化学品や医薬の有機合成、このような製品の製造のための中間体の合成、光学的に純粋な医薬や特殊化学品のためのキラル合成と分解が含まれる。酵素の転換プロセスとしては、酸化、還元、付加、加水分解、重合、立体選択的、立体特異的、位置選択的な反応を含む不斉変換が含まれる。これらの反応を用いて製造することができる製品としては、キラル有機分子、ペプチド、ポリマー、炭水化物、脂質、他の化学物質が含まれる。
上で挙げた反応のいずれかを行う際に、具体的な反応のために選ばれた有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒が架橋タンパク質結晶のタンパク質成分、及び架橋タンパク質結晶を安定化するために用いられる界面活性剤と適合するものでなければならないことは当業者によって理解される。有機溶媒は、ジオール、ポリオール、ポリエーテル、水溶性高分子及びその混合物からなる群より選ぶことができる。有機溶媒の例としては、トルエン、オクタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、DMSO、アセトン、及びピリジンが挙げられる。さらに、例としては、疎水性又は極性の有機溶媒、例えば、水と混合できる溶媒又は水と混合できない溶媒、ジエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリ(エチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、ジメチルタートレート、ポリ(エチレングリコール)のモノアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)のジアルキルエーテル、ポリビニルピロリドン、又はそれらの混合物が挙げられる。
一態様によれば、本発明は、有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物の存在下に少なくとも1つの基質と基質に作用する少なくとも1つのタンパク質を合わせ--前記タンパク質は架橋タンパク質結晶製剤である--その組合せを前記タンパク質が基質に作用することを可能にする条件下で維持し、それによって、選ばれた生成物が得られることによる有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における選ばれた生成物の製造方法を含んでいる。このような方法で製造することができる生成物としては、例えば、キラル有機分子、ペプチド、炭水化物、ポリマー、脂質が含まれる。
【0014】
本発明の一態様によれば、架橋タンパク質結晶製剤は、試料、例えば、液体における問題の分析物を検出するためのバイオセンサの成分として用いることができる。このようなバイオセンサは、(a)架橋タンパク質結晶製剤、前記タンパク質は問題の分析物に又は問題の分析物が関与する反応における反応物に作用する活性を有する; (b)前記架橋タンパク質結晶製剤のための保持手段、前記保持手段は前記架橋タンパク質結晶製剤と試料間の接触を可能にする物質を含み、前記試料は(1)タンパク質が作用する分析物か又は(2)分析物が関与する反応における反応物を含有する; 及び、任意に、(c)分析物の有無のシグナルを生じるシグナル変換器を含んでいる。分析物又は反応物についてタンパク質の活性を検出するための手段は、pH電極、光検知デバイス、熱感知デバイス及び電荷を検出するための手段からなる群より選ぶことができる。シグナル変換器は、光変換器、電気変換器、電磁変換器及び化学変換器からなる群より選ぶことができる。
従って、本発明による架橋タンパク質結晶製剤は、バイオセンサにおいて従来の可溶性又は固定化タンパク質代わりに有利に用いることができる。本発明の架橋タンパク質結晶製剤のこのような使用は、ベースのバイオセンサ又は従来の可溶性又は固定化タンパク質より高程度の感受性、容積生産性、スループットを特徴とするバイオセンサを与える。
本発明による架橋タンパク質結晶製剤は、また、種々の環境的応用に用いることができる。環境的目的、例えば、紙、革、及び醸造所からの廃水からの残存するデンプンや色の除去、繊維産業からの染料流出物の分解、環境からのフェノール樹脂や塩素化フェノール樹脂のような毒性化合物の除去のために従来の可溶性又は固定されたタンパク質の代わりに用いることができる。
本発明は、また、有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における架橋タンパク質結晶の活性を増大させるための方法であって、架橋タンパク質結晶と界面活性剤とを合わせて、組合せを得る工程、及び架橋タンパク質結晶と界面活性剤の組合せを有機溶媒の存在下に乾燥して、架橋タンパク質結晶製剤を形成する工程を含む、前記方法を含んでいる。
或いは、本発明の架橋タンパク質結晶製剤は、皮膚防御又は解毒のために、局所用のクリーム剤やローション剤の成分として用いることができる。化粧品の抗酸化剤として用いることもできる。口腔衛生用品製剤にも使用しうる。
架橋タンパク質結晶製剤は、反応性局所組成物を与える局所投与のために使われる種々の慣用的なデポー剤形であってもよい。これらは、例えば、半固体や液体の剤形、液体液剤又は懸濁液剤、ゲル剤、クリーム剤、乳濁液剤、ローション剤、スラリー剤、散剤、噴霧剤、発泡剤、ペスタ剤、軟膏、塗剤、バルサム剤、滴剤を含んでいる。
【0015】
架橋酵素結晶製剤の調製
酵素の結晶化: 酵素結晶は、水溶液又は水溶液含有有機溶媒と塩からの酵素の制御された沈殿によって成長する。制御すべき条件としては、例えば、溶媒蒸発の速度、塩濃度、適切な共存溶質や緩衝液の存在、pH、温度が含まれる。タンパク質の結晶化に影響する種々の因子の包括的総説は、McPhersonによって発表され[Methods Enzymol., 114, pp. 112-20 (1985)]、結晶化したタンパク質と核酸、及び結晶化した条件の包括的リストが編集されている。
本発明による製剤の架橋酵素結晶成分を形成するために結晶化することができる酵素としては、オキシドレダクターゼ、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼが含まれる。ヒドロラーゼの例としては、アミログルコシダーゼが挙げられる。オキシドレダクターゼの例としては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、イポメアペルオキシダーゼ、サッカラムペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼが挙げられる。
本発明による架橋酵素結晶製剤における使用の場合、X線回折解析のために必要とされる大きな単結晶は必要とされない。マイクロクリスタリンシャワーが適切である。一般に、結晶は、結晶化すべき酵素と適切な水性溶媒又は適切な沈殿剤、例えば、塩又は有機物質を含有する水性溶媒とを合わせることによって得られる。結晶化の誘導に適切であるように実験的に求められ且つ酵素活性と安定性の維持に許容しうる温度で溶媒とタンパク質とが合わせられる。溶媒は、任意に、共存溶質、例えば、二価のカチオン、補因子又はカオトロープ、及びpHを制御する緩衝液化学種を含むことができる。共存溶質とそれらの濃度のために必要なことは、結晶化を容易にするように実験的に求められる。工業規模プロセスにおいては、結晶化を生じる制御された沈殿は、バッチプロセスにおいてタンパク質、沈殿剤、共存溶質及び任意に緩衝液の簡単な組合せによって最良に行うことができる。
代替的研究室結晶化法、例えば、透析又は蒸気拡散も適合されうる。時々、架橋試薬と結晶化媒体間の不適合が結晶をよりさらに適切な溶媒系に換えることを必要とすることがある。
結晶化条件がすでに記載された酵素の多くは、工業用及び研究室の化学プロセスにおける実用触媒として相当な可能性を有し、本発明による架橋酵素結晶製剤を調製するために用いることができる。しかしながら、大部分の上記参考文献に報告された条件は、ほとんどの場合、わずかで大きく回折品質の結晶を得るように最適化されたことは留意されなければならない。
【0016】
酵素結晶の架橋
酵素結晶が適切な媒体において成長するとすぐにそれらは架橋されうる。架橋により、結晶の成分酵素分子を間に共有結合を導入することによって結晶格子の安定化が生じる。このことは、結晶格子の存在と又は無傷のタンパク質の存在とさえ適合しないことがある別の反応環境に酵素の移動を可能にする。架橋は、二価性試薬を含む様々な多官能性試薬によって達成されうる。本発明の好ましい態様によれば、架橋剤はグルタルアルデヒドである。他の利用できる架橋試薬は、デンプンジアルデヒド、ジメチル-3,3'-ジチオビスプロピオンイミデート、2-イミノチオラン、n-スクシニミジル-(4-アジドフェニル)-1,3-ジチオプロピオネート、エチル-4-アジドフェニル-1,4-ジチオブチルイミデート等である。グルタルアルデヒドによる架橋は、主に結晶格子のリシンアミノ酸残基間と酵素分子間に強い共有結合を形成する。架橋相互作用は、結晶の成分酵素分子が溶液に戻ることを防止し、効果的には酵素分子をマイクロクリスタリン粒子(好ましくは長さ10-100ミクロンを有する)に不溶化又は固定化する。
架橋酵素結晶の界面活性剤への曝露: 上記の通りに調製した架橋酵素結晶は、界面活性剤と接触させることによって有機溶媒や水性溶媒・有機溶媒混合物における反応用の酵素結晶製剤を調製するために用いることができる。架橋酵素結晶を界面活性剤にさらし、続いて有機溶媒の存在下に乾燥した後、得られた架橋酵素結晶製剤は、有機溶媒や水性溶媒・有機溶媒混合物において特に活性で安定である。本発明による架橋酵素結晶製剤を調製するのに有用な界面活性剤としては、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤又は両性界面活性剤、又はそれらの混合物が含まれる。好ましい界面活性剤は、架橋酵素結晶製剤を調製するために用いられる架橋酵素結晶の具体的な酵素成分に左右される。このことは、具体的な酵素が触媒する反応に基づく通常のスクリーニング手順を行うことによって求めることができる。有用なカチオン界面活性剤の例としては、アミン、アミン塩、スルホニウム、ホスホニウム、第四級アンモニウム化合物が挙げられる。このようなカチオン界面活性剤の個々の例としては、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド(ALIQUAT 336) N,N',N'-ポリオキシエチレン(1O)-N-獣脂-1,3-ジアミノプロパン(EDT-20,'PEG-10獣脂)、PEI(ポリエチレンイミン)、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)が挙げられる。有用なアニオン界面活性剤としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルファ-オレフィンスルホネート、アルキルスルフェート、Aerosol T、SDS、アルコールエトキシスルフェート、カルボン酸、硫酸エステル、アルカンスルホン酸が挙げられる。アニオン界面活性剤の例としては、TRITON QS-30(アニオンオクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、Aelosol 22、ジオクチルスルホスクシネート(AOT)、アルキル硫酸ナトリウム(Niaproof): Type-4、Type-8、アルキル(C9-C13)硫酸ナトリウム(TEEPOL HB7)が挙げられる。安定化に有用な非イオン性活性剤としては、ノニルフェノールエトキシレート、アルコールエトキシレート、ソルビタントリオレエート、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤、フェノールアルコール又は脂肪酸のポリエチレンオキシド又はポリエチレンオキシド誘導体が含まれる。非イオン性活性剤の例としては、ポリオキシエチレンエーテル: 4ラウリルエーテル(BRIJ 30)、トゥイーン80、23ラウリルエーテル(BRIJ 35)、オクチルフェノシキポリエトキシエタノール(TRITONS): Tx-15、Tx-100、Tx-114、Tx-405、DF-16、N-57、DF-12、CF-10、CF-54,ポリオキシエチレンソルビタン: モノラウレート(TWEEN 20)、ソルビタン: セスキオレエート(ARLACEL 83)、トリオレエート(SPAN 85)、ポリグリコールエーテル(ターギトール): Type NP-4、Type NP-9、Type NP-35、TypeTMN-10、Type15-S-3、TypeTMN-6(2,6,8,トリメチル-4-ノニルオキシエチレンオキシエタノールType 15-S-40が挙げられる。
【0017】
一般的には、架橋酵素結晶製剤を調製するためには、界面活性剤は、界面活性剤が架橋酵素結晶と平衡及び/又は架橋酵素結晶を透過することを可能にするのに充分な量で架橋酵素結晶含有溶液に添加されなければならない。このような量は、架橋酵素結晶と界面活性剤の質量比約l:l〜約1:5、好ましくは約1:l〜約1:2を与えるものである。架橋酵素結晶は、約5分〜約24時間、好ましくは約30分〜約24時間界面活性剤と接触させる。接触後、架橋酵素結晶/界面活性剤の組合せは、架橋酵素結晶製剤を形成するために有機溶媒の存在下に乾燥することができる。
有機溶媒の選択と乾燥時間の長さは、具体的な架橋酵素結晶及び架橋酵素結晶製剤を製造するために用いられる具体的な界面活性剤に左右される。しかし、溶媒と乾燥時間は、製剤が有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物における最大活性と安定性を有することを可能にする水分が特徴づけられた架橋酵素結晶製剤を与えるものでなければならない。本発明の一態様によれば、乾燥時間は、約5分〜約24時間、好ましくは約30分〜約24時間であってもよい。乾燥工程に用いられる有機溶媒は、全混合物の約10wt%〜約90wt%、好ましくは全混合物の約40wt%〜約80wt%の量で存在することができる。
或いは、架橋酵素結晶/界面活性剤の組合せは、有機溶媒の存在下に凍結乾燥することができる。凍結乾燥は、約30分〜約18時間行うことができる。
得られた架橋酵素結晶製剤は、最終的な製剤の質量で約10wt%〜約70wt%の界面活性剤、好ましくは最終的な製剤の質量で約25wt%〜約45wt%の界面活性剤を含有しなければならない。
本発明をより良く理解することができるように、以下の例が示される。これらの例は、単に例示のためであり、決して本発明の範囲を制限するものとして解釈されべきでない。
【0018】
例1
架橋AMG結晶クリスタル製剤の調製
250m1のグルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼE.C: 3.2.1.3,α-l,4-グルカングルコヒドロラーゼ)のスラリーをNOVO(デンマーク、A.niger由来、22.623 IU/ml&Sp.活性 0.085 IU/mg))から入手し、より高い分子量タンパク質不純物を25%硫酸アンモニウム切断によって除去する。精製されたグルコアミラーゼ酵素を酢酸緩衝液(0.5M, pH-4.5)に用い、イソプロピルアルコール(20%)と界面活性剤(1%)を充分な硫酸アンモニウム飽和溶液とともに添加して、酵素を結晶化させた。その溶液を40℃で30分間撹拌し、次に同じ温度で16時間保持した。生じた結晶を、10,000rpm、4℃で10分間遠心分離によって分離した。過剰の硫酸アンモニウムを透析で除去し、次に溶液を凍結乾燥して、グルコアミラーゼ結晶を得た。結晶を、デンプン(1%)及び/又はウシ血清アルブミン(lmg/ml)を含有する酢酸緩衝液(0.5M, pH-4.5)の最少量に懸濁した後、グルタルアルデヒド(4容量のpH 7.0の0.2Mリン酸緩衝液中の50%グルタルアルデヒド)で架橋した。2時間後、架橋結晶を広範囲に約1.5結晶スラリー容量の緩衝液(50 mM酢酸緩衝液pH 4.5)、6M尿素、及び6M NaClでフィルタプレスにおいて洗浄することによって架橋反応を停止させた。結晶収量は、約270グラムであった。
上で調製された架橋AMG酵素結晶の30グラムのアリコートを340mlの保存緩衝液(0.05M酢酸緩衝液、pH 4.5)に懸濁し、その混合物を焼結ガラス漏斗多孔性、約10-20mμ)に室温で注入した。酵素結晶を界面活性剤AOTにさらした。この界面活性剤は、スクリーニングプロセスによって選ばれた。
架橋AMG結晶上の緩衝液を、焼結ガラス漏斗(上記)でろ過し、プロセス全体に湿った酵素結晶を保持した。界面活性剤トゥイーン20を、界面活性剤: 架橋酵素結晶の比が1:1 (30g界面活性剤: 30gグルコアミラーゼ= 30ml)であるように、溶媒2-ブタノンと共に添加した。このことは、架橋酵素結晶の上に30mlの2-ブタノンと30mlの界面活性剤の混合物、合計60mlを注入することによって行った。架橋酵素結晶が界面活性剤で被覆されて酵素ケークが乾燥しないことを確実にするために穏やかな吸引を適用した。室温で30分後に、混合物を約1-3%の水分に凍結乾燥される乾燥容器へ移した。得られた架橋結晶は、0.0687IU/mgの比活性と最適化調製条件下の酵素の最初の活性の50.66%の収量を有した。結晶は、約100ミクロンのサイズ、1.8926g/cm3の密度、0.7867のm2/gの表面積を有する菱面体である。グルコアミラーゼ結晶の至適pHは、可溶性酵素と同じである4.5であった。基質としてデンプンを用いてpH 4.5、60℃における架橋グルコアミラーゼ結晶のミカエリス定数(Km)は4000mg/mlであり、可溶性酵素についてはKmはわずか454.5mg/mlであった。
【0019】
1.密度: Helium Auto Pycnometer(Micromeritics 1320)を用いてグルコアミラーゼCLECの密度を得た。
2.表面積: 吸着剤として液体窒素を用いたBET装置によって表面積を得た。
3.結晶構造: 走査型電子顕微鏡(GEOL、日本)によって10KV加速電圧で結晶構造を観察した。
4.酵素活性の定量
0.2mlの酵素液を、0.2M酢酸緩衝液(pH 4.5)中の1mlの4%デンプン溶液に添加し、これを60℃で正確に1時間インキューベートする。1時間後、0.8mlの4N NaOHを添加することによって酵素反応を停止させる。Lane-Eynon法を用いて形成されたデキストロースを定量する。同じ手順によってグルコアミラーゼCLECの活性を定量する。酵素を添加する代わりに、0.2mlの可溶性酵素(454mg)からの得られたCLECを添加した。毎分1マイクロモルのデキストロースを生成することができる酵素量を1酵素単位として定義する。
5.タンパク質の定量: タンパク質の定量をローリーの方法によって行い、標準としてBSAを用い、660nmで読み取った(Lowry,O.H; Rosenbrough,N.J.;Farr,A.L.and Randall,R.J.(1951),J.Biol.Chem,193,265-275)。
6.還元糖とDEの定量; Lane-Eynon滴定(Lane-Eynon, AOAC( 1995) ,16th ed., 44,pp-10)及びDNS法(Mi11er.G.L.(1959). Anal.chem.31,426-428.)による。得られたグルコース× 0.9としてパーセント換算を算出した。用語"D.E."(デキストロース当量)は、デキストロースとして算出され全固形分のパーセントとして表される物質の還元糖含量を意味する。
【0020】
例2
グルコアミラーゼCLECによるデンプンのグルコースへの連続加水分解
可溶性デンプンとマルトデキストリンのグルコースへの連続加水分解を充填層反応器において行った。被覆されたガラスカラム(114mm×8mm)を用いた。3.5グラムのCLEC結晶を60℃に保持されたカラムに装填した。デンプン(pH 4.5)と10%マルトデキストリン(DE 12.5、pH 4.5)の4%と10%(w/v)溶液を毎時7-17カラム層容積の希釈速度でカラムに通過させることによって連続糖化を行った。
4%(W/V)の可溶性デンプン供給において、55.13g/L/hの生産性が5.4分間の滞留時間で得られ、可溶性デンプンの濃度が10%(W/V)に増加した場合、生産性は7.6分間の滞留時間で110.58g/L/hに増大した。グルコアミラーゼのより適切な基質、DE 12.5のマルトデキストリンを10%(W/V)の濃度で用いた場合、生産性は非常に増加し、463.7g/L/hの値が5.6分間の滞留時間で得られた。滞留時間が3.4分まで短縮した場合、714.1 g/L/hの生産性が得られた。4%の可溶性デンプン溶液の10時間の連続糖化後、CLECの活性は、5.1IU/gm結晶(半減期)から2.3IU/gmまで低下した。
【0021】
例3
架橋HRP結晶製剤の調製
粉末形態(Type 11、SIGMA)のホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)の50gアリコートを硫酸アンモニウムによる最初の分別沈殿によって精製し、遠心分離し、ペレットを透析し、(操作は全て4℃で行った)、凍結乾燥して粉末を得た。30gのHRP粉末を780mlのリン酸緩衝液、10mM、pH7.2と混合した。イソプロピルアルコール(20%)を添加し、続いてトゥイーン20(1%)を添加した。結晶化が始まるまで、固体硫酸アンモニウムを1時間かけて溶液に徐々に添加した。より多くの塩を徐々に添加して、結晶化を完了した(全硫酸アンモニウム-390gm)。次に、結晶化を約5-20時間進行させた。結晶を沈降させ、tygonチュービングがその端に10mlピペットをもつ蠕動ポンプを用いて可溶性タンパク質を除去した。次に、結晶溶液を以下の通り架橋した。
結晶を、最少量のリン酸緩衝液、10mM、pH7.2に溶解した。リン酸緩衝液,10 mM、pH 7.2の5%グルタルアルデヒド溶液を酵素液に徐々に添加した。1時間後、生じた結晶を遠心分離(5000rpm、5分、4℃)によって分離し、0.1M酢酸緩衝液、pH 4.5、6M 尿素,2M NaCl、最後に酢酸緩衝液、pH 4.5で連続して洗浄した。30gmの菱面形の結晶を得た。
上で調製した架橋HRP酵素結晶の10グラムのアリコートを100mlの保存緩衝液(10mM酢酸塩、pH 4.5)に懸濁し、その混合液を室温で焼結ガラス漏斗(多孔性、約10-20μ)に注入した。次に、緩衝液を酵素から除去した。酵素結晶を下記のように界面活性剤AOTにさらした。架橋HRP結晶の上の緩衝液を、焼結ガラス漏斗(上記)でろ過し、プロセス全体にわたって架橋酵素結晶を湿ったままにした。界面活性剤:架橋酵素結晶の比が1:1(6g HRP: 6g界面活性剤=5.7ml)であるように界面活性剤を溶媒2-プロパノールと共に添加した。このことは、架橋酵素結晶の上に28.3mlの2-プロパノールと5.7mlの界面活性剤の混合物、合計34mlを注入することによってなされた。架橋酵素結晶が界面活性剤で被覆されて酵素ケークが乾燥しないことを確実にするために穏やかな吸引を適用した。室温で30分後に、混合物を凍結乾燥器に移し、約5-10%の水分に凍結乾燥した。
【0022】
例4
架橋植物葉ペルオキシダーゼ結晶製剤の調製
10g又は25mlの精製イポメア(葉)ペルオキシダーゼ(IPP)又はサッカラム(Leaf)ペルオキシダーゼ(SPP)のスラリーを結晶種子(タンパク質0.27g)と混合し、その混合物を4℃温度に維持した。次に、架橋結晶化を、1-2日間進行させた。1ミクロンフィルターを有するブフナー漏斗を用いて母液を除去した。結晶収量は、約10.2グラムであった。次に、結晶溶液を以下の通りに架橋した。
1グラムの酵素につき1.5mlの50%グルタルアルデヒド架橋剤を用いて架橋を行った。より詳しくは、架橋剤の15mlアリコートを、30分〜1時間の全添加時間にわたって10gの酵素に添加した。混合物を、架橋のために室温で4時間混合し、酢酸ナトリウム緩衝液,10mMによってpHを常に4.5に保持した。架橋反応を架橋結晶を洗浄することによって停止した。次に、架橋酵素結晶を緩衝液に懸濁させた(NaAc、10mM、pH 4.5)。
上で調製された架橋PP酵素結晶の2グラムのアリコートを10mlの保存緩衝液(NaAc(10mM、pH 4.5)に懸濁し、その混合液を、室温で焼結ガラス漏斗(多孔性約10-20mμ)に注入した。酵素結晶を界面活性剤AOTにさらした。架橋PP結晶の上の緩衝液を、焼結ガラス漏斗(上記)でろ過し、プロセスの全体にわたって架橋酵素結晶を湿ったままにした。界面活性剤を、界面活性剤:架橋酵素結晶の比が1:1.5(3g PP: 3ml界面活性剤=5ml)であるように溶媒イソプロパノールと共に添加した。このことは、架橋酵素結晶の上に2mlの2-プロパノールと3mlの界面活性剤の混合物、合計5mlを注入することによってなされた。架橋酵素結晶が界面活性剤で被覆されて酵素ケークが乾燥しないことを確実にするために穏やかな吸引を適用した。室温で30分後に、混合物を凍結乾燥器に移し、約2-10%の水分に乾燥した。上記の通りに調製した凍結乾燥された架橋酵素結晶製剤を有機溶媒における使用の前に室温で又は4℃で保存することができる。
【0023】
例5
HRP CLECの調製:
例2のようにHRPを精製した。2.30gmのFRPを780mlのトリス緩衝液、10mM、pH 8.7に溶解し、1,5ペンタンジオール(20%)とAOT(1%)を、固体硫酸アンモニウム(390gms)とともに添加して酵素を結晶化した。結晶を一晩放置した。
結晶を、最少容量の10mMトリス緩衝液、pH 8.7に溶解した。グルタルアルデヒドと4.5mlのトリス緩衝液、l0 mM、pH 8.7とを混合することによって架橋剤を調製し、酵素液を架橋結合溶液に滴下された。架橋を1時間行い、架橋結晶を遠心分離し、酢酸緩衝液、pH 4.5、6M尿素、2M NaCl、最後に酢酸緩衝液pH 4.5で洗浄した。
【0024】
例6
30gmの精製されたHRPを、10mMリン酸緩衝液、pH 5.7に溶解し、イソアミルアルコール(l%)とセトリミド(20%)を別々に添加した。その混合液に固体硫酸アンモニウムを添加して、酵素を結晶化させた。結晶化を5時間続けた。結晶を遠心分離によって回収した。結晶を、最少容量のリン酸緩衝液、pH 5.7、10mMに溶解した。この混合液にリン酸緩衝液、10mM、pH5.7中の1%グルタルアルデヒドを、添加された滴下した。架橋を1時間行い、架橋した結晶を遠心分離し、酢酸緩衝液、pH 4.5、6M尿素、2M NaCl、最後に酢酸緩衝液pH 4.5で洗浄した。
ペルオキシダーゼ酵素活性を、分光光度法によって分析した。活性は、ペレットと上清双方においてBergmeyer (Bergmeyer H.U."Methods in Enzymatic Analysis"vol l,Academic press,1974. Pp-457)の方法によって分析した。以下の反応混合物: 0.004Mm ABTS、0.002mMH2O2、0.067Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH-6)、酵素エキス-l00(1;全容量-2.4mlを用いた。420のnmで光学密度の変化を測定することによって酵素活性を評価した。毎分吸光度ΔE/ΔTの変化から容積活性を算出した。系の吸光係数は、(2.645×103 mmol-1cm-1)である。
【0025】
例7
HRP CLECによる2,4-ジメチルフェノール二量体の調製:
0.122グラムの2,6-ジメチルフェノールを6mlのイソプロパノールに溶解し、ホースラディッシュペルオキシダーゼの200mgの架橋結晶を50℃で撹拌しつつ添加した。この反応混合液に、30%過酸化水素を毎時20μlの速度で5時間添加されたを添加した。過酸化水素の添加が終了した後、イソプロパノールを蒸留によって除去した。その反応混合物に0.06グラムの2,6-ジメチルフェノールを添加し、100℃で1.5時間加熱した。生成物をろ過によって集め、300mlのトルエンで3O℃で30分間2回洗浄した。乾燥後、0.08グラムの2,4-ジメチルフェノール二量体を得た。
【0026】
本発明の主な利点は、以下の通りである。
1. CLECの架橋結晶マトリックスは、それ自体の支持体になる。現在利用できる固定化法であるので、酵素触媒を結合するために費用のかかるキャリアビーズ、ガラス、ゲル、又はフィルムを必要としない。
2. CLECにおける酵素濃度は一定サイズの分子に対して達成されうる理論上の充填限度に近く、濃縮溶液でさえ達成できる密度を大きく超える。全てのCLECは活性酵素(不活性担体でない)からなり、従って、基質と、活性酵素と遊離した溶媒間の生成物の平均自由行程がCLECの場合非常に短くなる(従来の固定化酵素キャリア粒子と比較して)ので、溶液中の酵素と相対して従来の固定化酵素で通常見られた酵素反応速度の拡散関連の低下が最小になるはずである。
3. これらの高タンパク密度は、小体積で多量のタンパク質を必要とするバイオセンサ、分析、他の応用に特に有用である。工業プロセスでは、一定容積の触媒の有効活性を高め、それによってプラントサイズ、及び資本コストの減少を可能にすることによって、CLECの優れた性能と緻密さにより著しいオペレーティング経済がもたらされる。
4. CLECは相対的に単分散であり、肉眼的サイズと形状は個々の酵素触媒の天然結晶成長特性を反映している。既存の担体固定化酵素媒体のCLECによる置換は、両システムがサイズと形状において匹敵し、双方が基本的な経済的な操作、例えば、ろ過、遠心分離、溶媒の傾瀉等を含むあらゆる数の簡単な方法によっても原料から同じように回収されうるので難しくてはならない。
5. 凍結乾燥したCLECの使用は、使用前のこれらの物質の通常の取り扱いと貯蔵を可能にする(冷蔵せずに室温で長期間の乾燥貯蔵)。凍結乾燥したCLECは、また、問題の溶媒と基質を直接添加することにより、長い溶媒交換プロセス、又はアモルファス懸濁液の形成なしで、通常の製剤を可能にする。凍結乾燥したCLECの形態によって、酵素と機能的な条件のより広いスペクトルに対する触媒として酵素の全般的な効用が広がる。
6. 結晶化した酵素の架橋は、機械的にも化学的にも結晶格子と成分酵素分子を安定化し強化する。結果として、CLECは厳しい水性溶媒、有機溶媒、無水に近い溶媒において、又は水性溶媒・有機溶媒混合物において活性酵素触媒の有意な濃度を達成する唯一の手段であることができる。有機合成における触媒としての酵素の使用によって、非水溶溶媒の存在下に、特に、水性溶媒と非水性溶媒の混合物において変性する傾向が妨げられた。
【0027】
7. CLECにおいて、安定性に導く配座の移動度の制限は、媒体における水がほとんどないことによるよりも、結晶格子をつくる成分酵素子間の分子間接触と架橋によって得られる。結果として、以前には可能でなかった、中間の水濃度が、CLECとして配合された場合に酵素によって許容されうる。商業的処理においては、水性溶媒・有機溶媒混合物は、生成物と基質の相対的な溶解度を利用することによって生成物形成の操作を可能にする。水性媒体においてさえ、固定化された又は可溶性酵素触媒は、変性が生じ半減期が短くなりうる化学反応器内で機械的力を受ける。CLEC内の化学架橋は、酵素触媒の反応器寿命を高める必要な機械強度を与える。
8. CLECの利点は、その結晶性の性質の結果として、CLECが全ての架橋結晶容積全体の均一性を達成することができることである。本明細書に記載される結晶性酵素は水性環境で成長し架橋し、それ故、結晶格子内の分子の配置は均一で規則的なままである。この均一性は、他の水性媒体、有機媒体又は無水に近い媒体、又は混合された水性/有機溶媒と交換された場合さえ、結晶格子を構成する酵素分子間の分子間接触と化学架橋が維持される。これらの溶媒の全てにおいて、酵素分子は、相互からの均一な距離を維持し、基質の触媒への接近、及び生成物の除去を容易にするCLEC内にはっきりした安定な孔を形成する。酵素活性の均一性は、再現性と一貫性が最高である、工業、医療、分析の応用において重要である。
9. CLECは、操作的な半減期と貯蔵半減期を高める。格子の相互作用は、架橋が存在しないときでさえ、一部には蛋白質変性に必要とされる配座の自由度が制限されるために、タンパク質を安定化することが知られている。CLECにおいては、格子の相互作用は、化学架橋によって固定された場合、特に水性溶媒と非水性溶媒の混合物において、変性を防止する際に特に重要である。無水溶媒に保存された架橋固定化酵素結晶は、栄養素の豊富な水性環境において大量のタンパク質を保存する際の深刻な問題である微生物汚染と損傷からさらに保護される。凍結乾燥されたCLECの場合、固定化された酵素は溶媒の非存在下に保存される。それと、また、架橋によって達成された安定化は、長期間冷蔵の非存在下の貯蔵を可能にする。
10. CLECは、結晶格子を安定化する架橋の結果として温度安定度を高める。従来法によって用いられたものより高い温度で反応を行うと、熱力学的にも、CLECの結晶格子の出入りの拡散速度を増大することによっても、問題の化学反応のための反応速度を増加する。これらの併用効果は、一般的には、反応過程で最も費用のかかる成分である、酵素触媒の一定量の生産性を最大にすることから、反応効率の主要な改善を示す。CLECによって示される温度安定性は、ほとんどの酵素系が温和な反応条件を必要とすることから注目すべきである。CLECは、また、貯蔵の間、一時的な高温による変性に対しても安定化される。
11. CLECにおいては、規則的なサイズと形状の孔は、基礎にある結晶格子の個々の酵素分子の間に生じる。この限定された溶媒利用しやすさは、従来の固定化酵素と溶液中の酵素と比較してCLECの金属イオン又は補因子保持特性を高める。CLECのこの特性は、酵素が金属イオン又は補因子浸出によって不活性化される状況において経済的に優れた連続フロープロセスの使用を可能にする。
12. グルコアミラゼCLECとペルオキシダーゼCLECは、水性媒体、二相媒体、溶媒媒体における種々の生物変換とバイオリメディエーションに使用し得る用途が広い生体触媒である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋タンパク質結晶の調製方法であって、
(a)水中のタンパク質を適切な塩と共存溶質で有機共溶媒の存在下に4o〜10℃の範囲にある温度で5時間〜20日間結晶化させて、断面が50〜150マイクロメートル(ミクロン)の範囲にあるタンパク質の結晶を得る工程、
(b)工程(a)で得られたタンパク質の結晶と多官能性架橋剤とを3-10の範囲にあるpHの緩衝液の存在下に4o〜10℃の範囲にある温度で反応させて、架橋タンパク質結晶を得る工程、
(c)架橋結晶を過剰の架橋試薬を除去することができる試薬で洗浄して、洗浄した架橋タンパク質を得る工程、
(d)架橋タンパク質結晶を適切な界面活性剤で被覆して、安定な生成物を得る工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ及びオキシドレダクターゼからなる群より選ばれた酵素である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酵素が、ヒドロラーゼ又はオキシドレダクターゼである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ヒドロラーゼが、グルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼ)、アルファアミラーゼ、ベータアミラーゼのようなアミラーゼからなる群より選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記オキシダーゼが、植物及び微生物由来の双方の種々のペルオキシダーゼ、オキシダーゼ、ラッカーゼからなるオキシドレダクターゼの群より選ばれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記結晶が、あらゆる形状の微小結晶であり、断面が100マイクロメートル(ミクロン)以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
用いられる前記架橋試薬が、グルタルアルデヒド、デンプンジアルデヒド、ジメチル-3,3'-ジチオビスプロピオンイミデート、2-イミノチオラン、n-スクシニミジル-(4-アジドフェニル)-1,3-ジチオプロピオネート、エチル-4-アジドフェニル-1,4-ジチオブチルイミデート等からなる群より選ばれ、架橋剤の濃度が、酵素結晶1グラムにつき1〜50mgでありうる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
用いられる前記界面活性剤が、アニオン界面活性剤、中性界面活性剤、又はカチオン界面活性剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
用いられるカチオン界面活性剤が、アミン、アミン塩、スルホニウム、ホスホニウム及びメチルトリオクチルアンモニウムクロリド(ALIQUAT 336) N,N',N'-ポリオキシエチレン(1O)-N-獣脂-1,3-ジアミノプロパン(EDT-20,' PEG-10獣脂)、PEI(ポリエチレンイミン)及びCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)のような第四級アンモニウム化合物からなる群より選ばれる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
用いられるアニオン界面活性剤が、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルファオレフィンスルホネート、アルキルスルフェート、Aerosol T、SDS、アルコールエトキシスルフェート、カルボン酸、硫酸エステル及びアルカンスルホン酸からなる群より選ばれ、アニオン界面活性剤の例としては、TRITON QS-30(アニオンオクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、Aerosol 22、ジオクチルスルホスクシネート(AOT)、アルキル硫酸ナトリウム(Niaproof): Type-4、Type-8、アルキル(C9-C13)硫酸ナトリウム(TEEPOL HB7)が挙げられる、請求項19記載の方法。
【請求項11】
用いられる非イオン性界面活性剤が、ノニルフェノールエトキシレート、アルコールエトキシレート、ソルビタントリオレエート、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤、フェノールアルコール又は脂肪酸のポリエチレンオキシド又はポリエチレンオキシド誘導体からなる群より選ばれる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
用いられる非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンエーテル: 4ラウリルエーテル(BRIJ 30)、トゥイーン80、23ラウリルエーテル(BRIJ 35)、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(TRITONS): Tx-15、Tx-100、Tx-114、Tx-405、DF-l6、N-57、DF-12、CF-10、CF-54、ポリオキシエチレンソルビタン: モノラウレート(TWEEN 20)、ソルビタン: セスキオレエート(ARLACEL 83)、トリオレエート(SPAN 85)、ポリグリコールエーテル(ターギトール): Type NP-4、Type NP-9、Type NP-35、TypeTMN-1O、Type15-S-3、TypeTMN-6(2,6,8,トリメチル-4-ノニルオキシポリエチレンオキシエタノールType 15-S-40からなる群より選ばれる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記界面活性剤が、架橋酵素結晶と界面活性剤の質量比約l:l〜約1:5、好ましくは約1:1〜約1:2を与える、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
界面活性剤が、架橋酵素結晶と界面活性剤を約5分〜24時間、好ましくは約30分〜24時間接触させることによって行われる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
CLEC調製のために用いられる前記緩衝液が、10〜100 mMの標準酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩又は3-10の範囲のpHを有するあらゆる適切な緩衝液でありうる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質結晶が凍結乾燥された形態にある、請求項1〜15のいずれか1項に記載の架橋タンパク質結晶。
【請求項17】
前記架橋酵素結晶が外因性のタンパク質分解に対して抵抗性を有し、前記架橋酵素結晶が、結晶化して架橋される前記酵素結晶を形成する酵素の架橋されていない可溶性形態が同じ条件でその初期活性の少なくとも94%を失わせる濃度のプロテアーゼの存在下に3時間インキュベートした後にその初期活性の少なくとも91%を保持し、前記結晶が凍結乾燥された形態にある、請求項1〜16のいずれか1項に記載の架橋タンパク質結晶。
【請求項18】
前記酵素が基質に作用することを可能にし、それによって、前記有機溶媒又は水性溶媒・有機溶媒混合物において前記生成物が得られる、請求項1〜17のいずれか1項に記載の架橋タンパク質結晶。
【請求項19】
用いられる前記有機共溶媒が、オクタン、ジオール、ポリオール、ポリエーテル及び水溶性ポリマーからなる群より選ばれる、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
用いられる有機共溶媒が、トルエン、オクタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ピリジン、ジエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリ(エチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、酒石酸ジメチル、ポリ(エチレングリコール)のモノアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)のジアルキルエーテル、及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。
【請求項21】
最終的な製剤の質量で、約10wt%〜約70wt%の界面活性剤、好ましくは最終的な製剤の質量で、約25質量%〜約45質量%の界面活性剤を含んでいる、架橋タンパク質結晶製剤。
【請求項22】
結晶が、生物変換のための水性媒体又は有機媒体において、分析物を検出するための分析、診断キット又はバイオセンサにおいて、架橋ペルオキシダーゼ結晶を用いて新規な多糖類を製造するような生成物を製造する際に、混合物から物質を分離する際に、治療において、毒性流出物のバイオレメディエーションにおいて用いることができる、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2007−517507(P2007−517507A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546482(P2006−546482)
【出願日】平成16年1月1日(2004.1.1)
【国際出願番号】PCT/IN2004/000002
【国際公開番号】WO2005/066341
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(595023873)カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ (69)
【Fターム(参考)】