説明

架橋剤

【課題】優れた印刷若しくは塗工適性と、良好な密着性および耐熱性とを有するインキ若しくは塗料組成物を得ることができる架橋剤を提供する。
【解決手段】式(I)で表される有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む架橋剤。該架橋剤と、バインダーと、顔料と、溶剤とを含有する、インキ若しくは塗料組成物。


(式(I)中の、A1、A2、A3およびA4はそれぞれ独立にC1−20アルキル基または分岐構造を有するC1−20アシル基を示す。ただし、A1、A2、A3およびA4のうちの少なくとも1つは分岐構造を有するC1−20アシル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋剤に関する。より詳細に、本発明は、優れた印刷若しくは塗工適性と、良好な密着性および耐熱性とを有するインキ若しくは塗料組成物などを得ることができる架橋剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インキ若しくは塗料組成物に架橋剤としてアルキルチタネートを添加する方法が知られている。たとえば、特許文献1および特許文献2には、チタンステアレートを架橋剤として添加することが提案されている。また、特許文献3には、チタンオルソエステルとリン酸モノアルキルまたはリン酸ジアルキルとの反応物を添加することが提案されている。特許文献4には、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン等のアルコキシドタイプ;ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン等のアシレートタイプ;ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン等のキレートタイプなどを添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−31385号公報
【特許文献2】特開平10−67959号公報
【特許文献3】特開昭61−37851号公報
【特許文献4】特開平6−329961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1〜4において提案されているアルキルチタネートを用いたインキ若しくは塗料組成物は、粘性などの印刷若しくは塗工適性、被印刷面若しくは被塗工面との密着性、および印刷物若しくは塗工物の耐熱性が十分でないことがあった。
そこで、本発明の課題は、優れた印刷若しくは塗工適性と、良好な密着性および耐熱性とを有するインキ若しくは塗料組成物などを得ることができる架橋剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、式(I)で表される有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を、架橋剤として、インキ若しくは塗料組成物に添加すると、粘性などの印刷若しくは塗工適性、被印刷面若しくは被塗工面との密着性、および印刷物若しくは塗工物の耐熱性が大幅に改善されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討し完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下の態様を包含するものである。
〈1〉 式(I)で表される有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む架橋剤。
【0007】
【化1】

(式(I)中の、A1、A2、A3およびA4はそれぞれ独立にC1−20アルキル基または式(A)で表されるC1−20アシル基を示す。ただし、A1、A2、A3およびA4のうちの少なくとも1つは式(A)で表されるC1−20アシル基である。
【0008】
【化2】

式(A)中の、R3は、水素原子またはC1−20アルキル基を示し、R1およびR2はそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。)
〈2〉 式(II)で表される有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む架橋剤。
【0009】
【化3】

(式(II)中の、R6およびR9はそれぞれ独立に水素原子またはC1−20アルキル基を示し、R4、R5、R7、R8、RaおよびRbはそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。)
【0010】
〈3〉 式(III)で表される有機チタン化合物。
【0011】
【化4】

(式(III)中の、Rc、Rd、Re、Rf、RgおよびRhはそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。)
【0012】
〈4〉 前記〈1〉または〈2〉に記載の架橋剤と、バインダーと、顔料と、溶剤とを含有する、インキ若しくは塗料組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の架橋剤をインキ若しくは塗料組成物に配合すると、粘性などの印刷若しくは塗工適性、被印刷面若しくは被塗工面との密着性、および印刷物若しくは塗工物の耐熱性が大幅に改善される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る架橋剤は、式(I)または式(II)で表される有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むものである。
【0015】
式(I)中の、A1、A2、A3およびA4はそれぞれ独立にC1−20アルキル基または式(A)で表されるC1−20アシル基を示す。ただし、A1、A2、A3およびA4のうちの少なくとも1つは式(A)で表されるC1−20アシル基である。
式(A)中の、R3は、水素原子またはC1−20アルキル基を示し、R1およびR2はそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。該アルキル基は、R1とR2が一緒になって形成し得るシクロアルキル環を含む。
【0016】
式(I)におけるA1〜A4およびR1〜R3におけるC1−20アルキル基は、炭素原子数が1〜20のアルキル基である。該アルキル基は、直鎖状、環状、および分岐したもののいずれであってもよい。
C1−20アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、2−ヘキシルオクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ステアリル基、ラウリル基等が挙げられる。
1〜A4におけるC1−20アルキル基は、好ましくは分岐を有するC1〜20アルキル基、より好ましくはイソプロピル基である。
【0017】
式(II)中の、R6およびR9はそれぞれ独立に水素原子またはC1−20アルキル基を示す。また、式(II)中の、R4、R5、R7、R8、RaおよびRbはそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。該アルキル基は、R4とR5またはR7とR8が一緒になって形成し得るシクロアルキル環を含む。
【0018】
4〜R9、RaおよびRbにおけるC1−20アルキル基は、R1〜R3におけるC1−20アルキル基として列挙したものと同じものが挙げられる。
式(II)中のRaとRbは、好ましくは分岐を有するC1〜20アルキル基、より好ましくはイソプロピル基である。すなわち、本発明の架橋剤では式(IV)で表される有機チタン化合物が好ましい。
【0019】
【化5】

(式(IV)中のR4〜R9は、式(II)中のR4〜R9と同じ意味である。)
【0020】
本発明に係る有機チタン化合物は、式(III)で表されるものである。式(III)中の、Rc、Rd、Re、Rf、RgおよびRhは、それぞれ独立に、C1−20アルキル基を示す。Rc、Rd、Re、Rf、RgおよびRhにおけるC1−20アルキル基としては、R1〜R3におけるC1−20アルキル基として例示したものと同じものを挙げることができる。RgとRhは、好ましくは分岐を有するC1〜20アルキル基、より好ましくはイソプロピル基である。
【0021】
本発明に係る有機チタン化合物は、オルトチタン酸テトラt−ブチル、オルトチタン酸テトライソプロピル、オルトチタン酸テトラエチルなどのオルトチタン酸テトラアルキル等に、分岐脂肪酸を作用させることによって製造することができる。分岐脂肪酸としては、2−メチルプロパン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−エチルブタン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、2−ヘキシルデカン酸、などが挙げられる。
【0022】
式(I)、式(II)または式(III)で表される有機チタン化合物の具体例としては、ビス(2−エチルヘキサノイル)ジ−i−プロピルチタネート、ジピバロイルジ−i−プロピルチタネート、ビス(2−エチルヘキサノイル)ジ−t−ブチルチタネート、ジピバロイルジ−t−ブチルチタネート、ピバロイルトリ−i−プロピルチタネート、トリピバロイルi−プロピルチタネート、テトラピバロイルチタネート、2−エチルヘキサノイルトリ−i−プロピルチタネート、トリス(2−エチルヘキサノイル)i−プロピルチタネート、テトラキス(2−エチルヘキサノイル)チタネートなどが挙げられる。
【0023】
本発明に係る架橋剤は、通常、式(I)若しくは式(II)で表される有機チタン化合物が溶媒に溶解されてなる溶液として使用される。該溶液の濃度は、通常、25〜75質量%である。該溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、n-ヘキサン、トルエン、クロロベンゼン、鉱油などが挙げられる。
本発明に係る架橋剤は、各種インキ若しくは塗料組成物に適用できるが、特にグラビア印刷インキ組成物に好適である。
【0024】
本発明に係るインキ若しくは塗料組成物は、本発明に係る架橋剤と、バインダーと、顔料と、溶剤とを含有するものである。
【0025】
本発明のインキ若しくは塗料組成物に用いられる顔料は、一般に印刷インキや塗料で使用できる各種の無機顔料や有機顔料である。顔料の具体例としては、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛;炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク;溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料などを挙げることができる。これら顔料の含有量は、インキ若しくは塗料組成物中に通常0.1〜50質量%である。
【0026】
本発明のインキ若しくは塗料組成物に用いられるバインダーは、一般に印刷インキや塗料で使用できる各種のバインダーである。
【0027】
塗料用バインダーの例としては、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ゴム、塩化ビニル樹脂、合成樹脂エマルション、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂または上記樹脂の混合物などが挙げられる。
グラビア印刷インキ用バインダーの例としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、ライムロジン、ロジンエステル、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、塩化ゴム、環化ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ギルソナイト、ダンマル、セラックなどの樹脂混合物、または上記樹脂の混合物などが挙げられる。
オフセット印刷インキ用バインダーの例としては、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂、またはこれらの乾性油変性樹脂などの樹脂などが挙げられる。
【0028】
本発明のインキ若しくは塗料組成物はグラビア印刷に好適である。グラビア印刷インキ組成物に用いられる好適なバインダーとしては、ポリアミド樹脂、セルロース誘導体、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
【0029】
ポリアミド樹脂は、酸成分とアミン成分との反応によって得られる樹脂である。
酸成分としては、脂肪族、脂環族および芳香族のジカルボン酸が用いられる。さらに脂肪族モノカルボン酸が含まれていてもよい。脂肪族ジカルボン酸としてはコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、マレイン酸などが、脂環族ジカルボン酸としてはシクロヘキサンジカルボン酸などが、芳香族ジカルボン酸としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。さらに脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。
アミン成分としては、脂肪族、脂環族および芳香族のポリアミンが用いられる。さらに一級および二級モノアミンが含まれていてもよい。
ポリアミンとしてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂環族ジアミン;キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ジアミンが挙げられる。また、一級および二級モノアミンとしてはブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミンなどのモノおよびジアルキルアミン;モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミンなどのモノおよびジアルカノールアミンが挙げられる。
【0030】
セルロース誘導体としては、ニトロ基置換体のニトロセルロース、低級アシル基置換体のセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが挙げられる。低級アルキル置換体としてはメチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられる。
【0031】
ポリウレタン樹脂は、有機ジイソシアネート化合物と高分子ジオール化合物との反応によりウレタンプレポリマーを合成し、鎖伸長剤および反応停止剤を反応させて得られる樹脂である。
有機ジイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物、及び、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物が挙げられる。
高分子ジオール化合物としては、ポリエーテルジオール化合物(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物)、ポリエステルジオール化合物(アジピン酸、セバシン酸、無水フタール酸等の二塩基酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコール類とを縮合反応させて得られるもの)、各種高分子ジオール化合物(ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンジオール等)が挙げられる。
バインダーの含有量は、インキ若しくは塗料組成物中に、固形分として、通常、0.1〜30質量%である。
【0032】
溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶剤;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系有機溶剤;が挙げられる。これらの溶剤は、バインダーの溶解性や乾燥性などを考慮して、混合して使用することができる。溶剤の含有量は、インキ若しくは塗料組成物中に、通常、30質量%以上である。
【0033】
本発明に係るインキ若しくは塗料組成物に含有される、本発明に係る架橋剤の量は、式(I)若しくは式(II)で表される有機チタン化合物の質量として、通常、0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0034】
インキ若しくは塗料組成物には、本発明に係る架橋剤を構成する式(I)若しくは式(II)で表される有機チタン化合物以外のアルキルチタネート化合物やイソシアネート化合物などからなる架橋剤が含まれていてもよい。また、接着性や耐性の向上を目的として、各種ハードレジン、架橋剤、ワックスが含まれていてもよい。
【0035】
本発明のインキ若しくは塗料組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、顔料、バインダー、溶剤、および必要に応じて顔料分散剤、界面活性剤などを攪拌混合し、次いで、各種練肉機、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、パールミル、ディゾルバー、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ニーダー、フラッシャー等を利用して練肉し、さらに、本発明の架橋剤、その他の添加剤を添加混合することによって調製できる。
【0036】
本発明のインキ若しくは塗料組成物によれば、紙製品、プラスチック製品、金属製品などの表面に、印刷若しくは塗工を行うことができる。本発明のインキ若しくは塗料組成物は耐熱性に優れているので、印刷面若しくは塗工面をヒートシーラーなどで加熱しても、印刷若しくは塗膜がシーラー側等に転写され難い。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1
(ジピバロイルジ−i−プロピルチタネートの製造)
ピバリン酸(26.66g、0.26mol)を40℃にて溶解し、40〜45℃にて、チタニウム(IV)イソプロポキシド(37.04g、0.13mol)を添加し、50℃に昇温した。その後、50℃にて熟成させた。ジピバロイルジ−i−プロピルチタネートを含む淡黄色の液体として63.55g(純度76%)を得た。
【0039】
(組成物の調製)
グラビア印刷インキ用バインダーと顔料とを含む標準試験用インキ100質量部にジピバロイルジ−i−プロピルチタネート2質量部を含む液体を添加して、組成物を得た。
【0040】
実施例2
(ビス(2−エチルヘキサノイル)ジ−i−プロピルチタネートの製造)
チタニウム(IV)イソプロポキシド(37.01g、0.13mol)中に、室温下で2−エチルヘキサン酸(37.48g、0.26mol)を添加し、60℃に昇温した。その後、60℃にて熟成させた。ビス(2−エチルヘキサノイル)ジ−i−プロピルチタネートを含む淡黄色の液体として74.35g(純度80%)を得た。
【0041】
(組成物の調製)
グラビア印刷インキ用バインダーと顔料とを含む標準試験用インキ100質量部にビス(2−エチルヘキサノイル)ジ−i−プロピルチタネート2質量部を含む液体を添加して、組成物を得た。
【0042】
比較例1
(組成物の調製)
グラビア印刷インキ用バインダーと顔料とを含む標準試験用インキ100質量部にテトラ−i−プロポキシチタン2質量部を含む液体を添加して、組成物を得た。
【0043】
比較例2
(ジカプリロイルジ−i−プロピルチタネートの製造)
2−エチルヘキサン酸の代わりに、カプリル酸を用いた以外は、実施例1と同じ手法で、ジカプリロイルジ−i−プロピルチタネートを含む液体を得た。
【0044】
(組成物の調製)
グラビア印刷インキ用バインダーと顔料とを含む標準試験用インキ100質量部にジカプリロイルジ−i−プロピルチタネート2質量部を含む液体を添加して、組成物を得た。
【0045】
(評価試験)
以下の方法で前記組成物を評価した。その結果を表1に示す。下記の粘性、耐熱性および密着性の評価全てについて、◎または○であれば、実用上許容範囲である。
【0046】
(粘性)
前記の組成物を40℃で14日間放置した。放置前後の粘度変化から経時粘度安定性の評価を下記の基準で行った。粘度はザーンカップ♯4によって測定した。
◎:粘性が変わらない
○:粘性がほとんど変わらない
×:増粘する
【0047】
(耐熱性)
コロナ放電処理したポリプロピレンフィルムに、前記の組成物でグラビア校正機を用いて印刷した。印刷から一日経過後、センチネルヒートシーラーを用いて、厚さ30μmの未処理アルミ箔を2×9.8N/cm2の圧力で、2秒間押圧した。80℃から10℃おきに温度を上昇させ、印刷面のインキがアルミ箔に転移しない耐熱限界温度を評価した。
◎:耐熱性が非常に良い
○:耐熱性が良い
×:耐熱性が悪い
【0048】
(密着性)
コロナ放電処理したポリプロピレンフィルムに、前記の組成物でグラビア校正機を利用して印刷した。印刷から一日経過後、ニチバンセロテープ(登録商標)12mm幅の粘着面を印刷皮膜に貼りつけた。強くテープを引き剥がし、印刷皮膜の剥離を観察し、密着性を評価した。
◎:密着性が非常に良い(非常に剥離しにくい)
○:密着性が良い(剥離しにくい)
×:密着性が悪い(剥離し易い)
【0049】
【表1】

【0050】
以上の結果から、本発明に係る架橋剤を、インキ若しくは塗料組成物に含有させると、粘性などの印刷若しくは塗工適性、被印刷若しくは塗工面との密着性、および印刷若しくは塗工物の耐熱性が大幅に改善されることがわかる。詳細は不明だが、チタンに結合するアシル基の部分が分岐鎖となっていることで、このような効果を奏するのではないかと推測できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む架橋剤。

(式(I)中の、A1、A2、A3およびA4はそれぞれ独立にC1−20アルキル基または式(A)で表されるC1−20アシル基を示す。ただし、A1、A2、A3およびA4のうちの少なくとも1つは式(A)で表されるC1−20アシル基である。

式(A)中の、R3は、水素原子またはC1−20アルキル基を示し、R1およびR2はそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。)
【請求項2】
式(II)で表される有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む架橋剤。

(式(II)中の、R6およびR9はそれぞれ独立に水素原子またはC1−20アルキル基を示し、R4、R5、R7、R8、RaおよびRbはそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。)
【請求項3】
式(III)で表される有機チタン化合物。

(式(III)中の、Rc、Rd、Re、Rf、RgおよびRhはそれぞれ独立にC1−20アルキル基を示す。)
【請求項4】
請求項1または2に記載の架橋剤と、バインダーと、顔料と、溶剤とを含有する、インキ若しくは塗料組成物。

【公開番号】特開2011−140446(P2011−140446A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−593(P2010−593)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】