説明

柿ポリフェノール

【課題】経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高める柿ポリフェノールを提供する。
【解決手段】 柿タンニンから得られた低分子化柿ポリフェノールであり、前記低分子化柿ポリフェノールは、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートのカテキン類を主要構成成分とし、前記エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が1以上から6以下になり、経口摂取した際には疾患を改善し得る作用を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柿タンニンから得られる低分化柿ポリフェノールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、少子高齢化社会の進展に伴って国民の健康指向が高まり、加齢によって加速する疾病や生活習慣病への予防を図るべく、お茶から得られたお茶カテキンのカテキン類や、リンゴ果実から得られたポリフェノール類が抗酸化食品として利用されている(例えば、特許文献1参照)
【0003】
ここで、お茶カテキンのカテキン類は、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)等であり、抗酸化活性、抗アレルギー作用や抗菌作用を有することから、お茶の原料粉より抽出してカテキン類を取得し、更に他の材料に加えて錠剤、顆粒剤や液剤などの状態の食品としてお茶のカテキン類を摂取可能にしている。
【0004】
又、ブドウ種子やリンゴ未熟果実から得られたポリフェノール類は、主としてエピカテキン(EC)が重合したプロアントシアニジンであり、お茶カテキンと同様に抗酸化活性を有すると共に、抗動脈硬化作用や発癌予防作用などの薬理活性を有するので、原料粉より抽出して、プロアントシアニジン等を含む種々のポリフェノール類を取得し、更に他の材料を加えて錠剤、顆粒剤や液剤などの状態の食品として当該ポリフェノールを摂取可能にしている。
【0005】
一方、他の例としては、柿タンニンから得られた縮合型ポリフェノール化合物を利用して動脈硬化の予防改善を為し得るものが考えられている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−75740号公報
【特許文献2】特開2003−231684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、お茶カテキンのカテキン類は大部分がモノマーであるため、カテキンが2〜数個重合したオリゴマーに比べて薬理活性が低く、経口摂取した場合に薬理活性を充分に得ることができないという問題があった。又、ブドウ種子等からのポリフェノール類は、主としてエピカテキン(EC)が重合したプロアントシアニジンであるため、エピガロカテキン(EGC)やエピガロカテキンガレート(EGCg)が重合したものに比べて薬理活性が充分でなく、同時に当該ポリフェノール類は平均重合度が7〜9とやや高い高分子であるのため、吸収性に劣り、経口摂取した場合に薬理活性を充分に得ることができないという問題があった。更に、柿タンニンから得られた縮合型ポリフェノール化合物は、高分子のポリマーであるため、ブドウ種子等のポリフェノール類と同様に吸収性に劣り、経口摂取した場合に薬理活性を充分に利用することができないという問題があった。
【0007】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高める柿ポリフェノールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、低分子化した柿ポリフェノールが薬理活性を向上させると共に吸収性を高めることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、柿タンニンから得られた低分子化柿ポリフェノールであり、前記低分子化柿ポリフェノールは、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートのカテキン類を主要構成成分とし、前記エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が1以上から6以下になることを特徴とする柿ポリフェノール、に係るものである。
【0010】
又、本発明において、低分子化柿ポリフェノールは、二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるものである。
【0011】
このように、本発明によれば、低分子化柿ポリフェノールは、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートのカテキン類を主要構成成分とし、エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が1以上から6以下になるように重合した構造であり、且つ二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるので、モノマーや高分子のポリマーと異なり、経口摂取した場合に吸収性の低下をきたすことなく、高い薬理活性を示し、結果的に疾患を改善する機能を増強することができる。
【0012】
又、本発明者らは、柿由来の低分子化ポリフェノールが転写因子NF−κBに対する強力な活性化阻害作用を有することを初めて明らかにした。すなわち、遺伝子発現制御に関与する転写因子の一つのであるNF−κBは、活性化されることによって、がん細胞が増殖したり、エイズウイルスが複製したり、リウマチが発症したり、或いは糖尿病や動脈硬化症へ関与したりすることが明らかになっているので、柿由来の低分子化ポリフェノールが有するNF-κB活性化阻害機能により、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗糖尿病作用を付与できる。
【0013】
低分子化柿ポリフェノールは、カテキン類のうちエピガロカテキンやエピガロカテキンガレートを多く含むが、これらのカテキンは、ブドウ種子やリンゴ果実由来のポリフェノールの構成成分であるエピカテキンに比べて高い薬理活性、すなわち強力な抗酸化活性、抗アレルギー活性、抗菌活性や糖分解酵素阻害活性を有しており、夫々の活性機能を介して、抗肥満作用、血圧上昇抑制作用、抗歯周病作用、抗う蝕作用の疾患の予防や症状の改善に寄与することができる。
【0014】
又、低分子化柿ポリフェノールは、モノマーでなく且つ高分子のポリマーでもなく、適度に重合した二量体から五量体までのオリゴマーであるため、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ高い薬理活性を発揮し、結果的に疾患の予防や改善作用が飛躍的に向上する。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明の柿ポリフェノールによれば、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高めることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下のように実施例がある。
【0017】
本発明の実施の形態の柿ポリフェノールは、未熟果実や生皮中に含まれる柿タンニンを酸性下で断片化した後、吸着樹脂に吸着させ、充分水洗してからエタノール水溶液で溶出し、ついで減圧濃縮した濃縮液を凍結乾燥又は噴霧乾燥することにより粉末として得られる。得られた低分子化柿ポリフェノールは、二量体から五量体までのオリゴマーであって、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートのカテキン類を主要構成成分として重合したものであり、組成的には、エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量(合算モル比)が1以上から6以下までになるように、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートを含んでいる。
【0018】
ここで、エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が1以上とは、ブドウ種子やリンゴ果実由来のポリフェノールの場合、組成比の高いエピカテキンの存在によりエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が1未満になり、本発明の柿ポリフェノールと、ブドウ種子等のポリフェノールとが全く相違することを意味している。又、エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が6以下とは、エピガロカテキンやエピガロカテキンガレートが組成的に増えた場合であっても少なくとも10%程度のエピカテキンを含むので、エピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が論理的に6以下になることから、本発明の柿ポリフェノールには、エピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量に上限値があることを示している。
【0019】
又、メルカプトエタノール分解法により低分子化柿ポリフェノールのカテキン組成を分析した一例を示すと、エピカテキン1モル当量に対するエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量(合算モル比)はおおよそ4であり、エピカテキンより抗酸化活性や糖分解酵素阻害活性などの薬理活性の強いエピガロカテキンやエピガロカテキンガレートをかなり多く含むことが明らかであった。
【0020】
更に、ピロガロール型のエピガロカテキン(EGC)やエピガロカテキンガレート(EGCg)は、エピカテキン(EC)に比べて水酸基の数が多く、抗酸化活性やラジカル消去活性が高いため、より強力な抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用及び血圧上昇抑制作用を示すので、ガン、関節炎、動脈硬化症、高血圧症、慢性腎不全などの疾患の予防や症状の改善に有用である。
【0021】
又、ガロイルエステル型のエピガロカテキンガレート(EGCg)は、エピカテキン(EC)に比べて糖分解酵素阻害活性、抗菌活性、抗ウイルス活性が高いため、より強力な抗糖尿病作用、抗肥満作用、抗う蝕作用、抗歯周病作用を示すので、糖尿病、虫歯、歯周病などの疾患の予防や症状の改善に有用である。
【0022】
更に本発明の低分子化柿ポリフェノールが、単量体であるお茶カテキン或いはエピカテキンの重合体からなるプロアントシアニジンを主成分とするブドウ種子やリンゴ果実由来のポリフェノールと比較して成分的に及び構造的に優れていることを説明すると、プロシアニジンの抗酸化力やラジカル消去活性と重合度の関係では、単量体<二量体<三量体と重合度が上昇するにつれて、活性が上昇する傾向が認められる。又、カテキンとエピカテキンの組み合わせからなる二量体においては、ガロイル基の導入により、例外なくプロシアニジンの抗酸化力やラジカル消去活性が上昇する。
【0023】
すなわち本発明の低分子化柿ポリフェノールは、薬理活性の強いカテキンであるエピガロカテキンガレートやエピガロカテキンを多く含んだ二量体から五量体までのオリゴマーを主要成分とするので、単量体であるお茶カテキン或いは、エピカテキンの高分子重合体であるブドウ種子やリンゴ果実由来のポリフェノールに比較し、抗酸化活性、ラジカル消去活性、糖分解酵素阻害活性、抗菌活性及び抗ウイルス活性などが飛躍的に高まり、より強力な抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、血圧上昇抑制作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用、抗う蝕作用及び抗歯周病作用を示し、結果的に、ガン、関節炎、動脈硬化症、高血圧症、慢性腎不全、糖尿病、虫歯及び歯周病などの種々疾患の予防と症状の改善を一層可能にしている。
【0024】
以下に、柿ポリフェノールにおける低分子化ポリフェノールの作用を説明しえるよう、低分子化柿ポリフェノールの実施例について抗酸化活性と転写因子NF−κB活性化阻害活性を中心に説明する。
【実施例1】
【0025】
実施例1は、本発明の低分子化柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(L))と、低分子化処理前の高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))の抗酸化力とを細胞生存率で比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を2×10細胞/mLの濃度に懸濁した細胞懸濁液(DMEM/F‐12培養液)200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/mL又は10μg/mLの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールを添加して24時間培養し、細胞生存率をMTT法で測定した。
【0026】
その結果、図1に示す如く、高濃度の30mMグルコース処理では、5mMグルコース処理群に比べて細胞生存率が17%減少するという細胞毒性を示したが、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群では夫々細胞生存率が回復した。又、10μg/mLの低分子化柿ポリフェノール(L)では、5mMグルコース処理群に近いレベルまで細胞生存率が回復した。
【実施例2】
【0027】
実施例2では、ブタ腎上皮細胞(LLC-PK)の形態学的検討を行ったもので、具体的には2×10細胞/mLの濃度に懸濁した細胞懸濁液を6穴プレートに2mL播種し、以下実施例1と同様の方法で培養し、顕微鏡下で撮影した。
【0028】
その結果、高濃度の30mMグルコース処理によって細胞は形態学的変化をきたすが、10μg/mLの低分子化柿ポリフェノール(L)では、高濃度グルコースによる細胞の形態学的変化を抑制した。
【実施例3】
【0029】
実施例3は、低分子化柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(L))、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))、及び比較試料について、活性酸素種の一種である一酸化窒素(NO)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を2×10細胞/mLの濃度に懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、LLC‐PK細胞の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/mL又は10μg/mLの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料を添加して24時間培養後、グリース試薬(0.1% N(-1-naphtyl)ethylendiamine, 1% sulfanilamide,2.5% HPO)を加え、室温で5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定し、一酸化窒素(NO)濃度に換算した。なお、比較試料1は、カロチノイドの中でもっとも抗酸化が強いといわれるアスタキサンチン、比較試料2は、プロアントシアニジンを高濃度含むぶどう種子の抽出物(Gravinol(登録商標))、比較試料3は、フランス沿海地域で取れる松の樹皮から得られるポリフェノール類(Pycnogenol(登録商標))である。
【0030】
その結果、図2に示す如く、一酸化窒素(NO)の濃度は30mMグルコース処理によって、5mMグルコース処理群よりも2.6倍上昇し、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群は一酸化窒素(NO)の濃度を低下させた。ここで、低分子化柿ポリフェノール(L)は、柿ポリフェノール(H)、比較試料1、比較試料2、比較試料3に比べて一酸化窒素(NO)の濃度を一層低下させた。
【実施例4】
【0031】
実施例4は、低分子化柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(L))、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))及び比較試料について、活性酸素種のスーパーオキシド(O)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を2×10細胞/mLの濃度に懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/mL又は10μg/mLの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料とを添加して24時間培養し、反応液(0.125mM EDTA,62μM NBT,98μM NADH含有50mMリン酸緩衝液)と33μMのPMSを加えて5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定し、スーパーオキシド(O)濃度に換算した。なお、比較試料1、比較試料2、比較試料3は、実施例3と略同様である。
【0032】
その結果、図3に示す如く、30mMグルコース処理によるスーパーオキシド(O)の濃度は、5mMグルコース処理群に比べて1.4倍上昇し、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群はスーパーオキシド(O)の濃度を低下させた。ここで、10μg/mLの低分子化柿ポリフェノール(L)は、柿ポリフェノール(H)、比較試料1、比較試料2、比較試料3に比べてスーパーオキシド(O)の濃度を一層低下させ、その濃度は5mMグルコース処理のレベルまで戻った。
【実施例5】
【0033】
実施例5は、低分子化柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(L))と、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))について、活性酸素種のペルオキシナイトライト(ONOO)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を2×10細胞/mLの濃度で懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/mL又は10μg/mLの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールとを添加して24時間培養し、ジヒドロローダミン123(dihydrorhodamine 123)を含む緩衝液を加えて37℃で5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで500nmにおける吸光度で測定し、ペルオキシナイトライト(ONOO)濃度に換算した。
【0034】
その結果、図4に示す如く、30mMグルコース処理によるペルオキシナイトライト(ONOO)の濃度は、5mMグルコース処理群よりも約75%上昇した。これに対し、高分子の柿ポリフェノール(H)処理群では顕著な変化を認めなかったが、低分子化柿ポリフェノール(L)処理群では、高濃度グルコースによって上昇したペルオキシナイトライト(ONOO)を濃度依存的に低下させた。
【実施例6】
【0035】
実施例6は、低分子化柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(L))と、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))及び比較試料について、WangとJosephの方法に従い、細胞内の活性酸素量を定量して酸化ストレス状態を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を2×10細胞/mLの濃度で懸濁した液200μLを96穴プレートに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/mL又は10μg/mLの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料とを添加して24時間培養後、リン酸緩衝液で洗浄し、100μMの非蛍光物質DCFH−DA(2',7'-dichlorofluorescein diacetate)を100μL加えて15分間培養した。その後、96穴プレートから培養液を取り除いてDMEM/F-12培養液を加え、1時間培養した。この96穴プレートをマイクロプレートリーダ−(励起波長:485nm、蛍光波長:535nm)で蛍光物質DCF(2',7'-dichlorofluorescein)の蛍光強度を測定した。なお、この測定は、非蛍光物質DCFH−DAが活性酸素存在下で強い蛍光を示す蛍光物質DCFに変換されるという原理を応用している。ここで、なお、比較試料1は、カロチノイドの中でもっとも抗酸化が強いといわれるアスタキサンチン、比較試料2は、プロアントシアニジンを高濃度含むぶどう種子の抽出物(Gravinol(登録商標))、比較試料3は、フランス沿海地域で取れる松の樹皮から得られるポリフェノール類(Pycnogenol(登録商標))である。
【0036】
その結果、図5に示す如く、30mMグルコース処理細胞における細胞内活性酸素量は、5mMグルコース処理細胞と比較して約1.6倍に増加していたが、柿ポリフェノール処理細胞では濃度依存的に低下していた。特に低分子化柿ポリフェノール(L)を10μg/mL添加した群において、細胞内活性酸素量の低下が顕著であった。
【実施例7】
【0037】
実施例7は、低分子化柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(L))と、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))について、転写因子NF−κBに及ぼす影響を比較したものである。
【0038】
ここで、活性酸素種と転写因子NF−κB(nuclear factor−kappa B:免疫グロブリンk鎖遺伝子発現のエンハンサーのB断片)の関係を示すと、図6に示す如く、高濃度グルコースにより高血糖状態に曝された細胞質内では、スーパーオキシド(O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシルラジカル(・OH)、一酸化窒素(NO)等の活性酸素種(ROS)が生成されやすい。又、抑制因子I−κB(inhibitor−kappa B)と結合して不活性状態で存在している転写因子NF−κBは、活性酸素種(ROS)により抑制因子I−κBから解離して活性化されると、核内に移行してiNOS(inducible nitric oxide synthase)やCOX-2(cyclooxygenase-2)等の炎症関連酵素の誘導を促進する。その中でもiNOSはマクロファージや血管平滑筋等に存在して、炎症反応等によって活性化されるが、このiNOSは一酸化窒素(NO)を生成する反応を触媒する。又、生成した一酸化窒素(NO)はスーパーオキシド(O)と反応してペルオキシナイトライト(ONOO)を生成する。ペルオキシナイトライト(ONOO)は一酸化窒素(NO)よりも強い酸化力を有する活性酸素で、脂質や蛋白質の過酸化を引き起こす。一方、COX-2は炎症に関わるプロスタグランジンの生成に関与しており、多くの慢性疾患の病因となっている。なお、転写因子NF−κBは炎症関連酵素の発現を調整して、サイトカイン(cytokines)、ケモカイン(chemokines)、免疫受容体(immunoreceptors)等の免疫応答の中心的メディエーターとして重要な役割を演じている。
【0039】
このため、実施例7では、高濃度グルコースにより高血糖状態に曝されたブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)における転写因子NF−κBの局在を調べた。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を懸濁した細胞懸濁液を6穴プレートに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、10μg/mLの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールとを添加して24時間培養した。次いで、3.7%パラホルムアルデヒドで30分間、4℃で固定後洗浄し、0.2%Triton X-100を30分間、4℃で浸透させた。更に細胞をリン酸緩衝液で洗浄し、2% BSA(bovine serum albumin)で1時間ブロックング後、anti-NF-κB抗体を加えて2時間、4℃で処理した。次に、anti-NF-κB抗体を結合させた細胞をリン酸緩衝液で洗浄し、FITC(fluoresceinisothiocyanate)-共役anti-rabbit IgGを加えて1時間、4℃でインキュベーションし洗浄した。最後に、これらの細胞にDAPI(4',6-diamidinophenylindole)を加えて5分間室温で染色後、リン酸緩衝液で2回洗浄し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0040】
その結果、図7に示す如く、転写因子NF−κBは5mMグルコース処理細胞では細胞質にとどまっていたが、30mMグルコースで処理した細胞では核内に移行していた。しかしながら、柿ポリフェノールで処理した細胞では、5mMグルコースで処理した細胞とほとんど変わらず、細胞質にとどまっていた。
【実施例8】
【0041】
実施例8は、高濃度グルコースにより高血糖状態に曝されたブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)におけるiNOSとCOX-2の発現に及ぼす低分子化柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(L))及び高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))の影響をウェスタンブロッティング解析した。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を懸濁した細胞懸濁液を10mLカルチャーディッシュに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/mL又は10μg/mLの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールを添加して24時間培養した。次に、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK)を10mLカルチャーディッシュの底面から剥離して回収後、抽出緩衝液[25mM Tris-HCl (pH7.5)、250mM NaCl、5mM EDTA、1% nonidet P-40、1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、1mM DTT、50μLプロテアーゼインヒビターカクテル]を加え、細胞内の蛋白質を抽出した。抽出した蛋白質量はBio-Rad protein assay kitで測定した。次いで30μgの蛋白質を電気泳動用緩衝液に溶解させ、常法にてSDS−PAGEを行った後、ニトロセルロース膜にトランスファーし、当該ニトロセルロース膜について免疫ブロット解析(immunoblot analysis)を行った。免疫ブロット解析では、anti−NOS2(iNOS)モノクローナ抗体、anti−COX-2モノクローナル抗体、蛋白質発現量の標準マーカーとしてのanti−COX-1モノクローナル抗体、及びペルオキシダーゼ標準化2次抗体(peroxidase-labeled secondary antibody)を用いた。なお、上記免疫ブロット解析は、ニトロセルロース膜をECL(enhanced chemiluminescence)法にて撮影することにより実施した。
【0042】
iNOSによるNO産生はマクロファージ、肝細胞、好中球、上皮細胞等の種々の細胞で見られるが、その結果では、図8に示す如く、高濃度グルコース処理によってiNOSとCOX-2が多量に発現していた。iNOSは30mMグルコース処理群で過剰発現していたが、低分子化柿ポリフェノール(L)で処理した群では、発現量が著しく低下した。一方高分子の柿ポリフェノール(H)で処理した群では低分子化柿ポリフェノール(L)処理群よりもその作用は弱かった。NOとプロスタグランジンは、いずれも多くの慢性疾患の病因であることが知られているが、プロスタグランジンの合成過程を触媒するCOXはアラキドン酸をプロスタグランジンに変換する酵素である。COX-2は炎症に関わるプロスタグランジンの生成に関与しており、COX-1はほとんど全ての臓器に恒常的に発現している蛋白質であって、本実験では蛋白質発現量の標準マーカーとして用いた。図8では、COX-2がiNOSと同様に、高濃度グルコース処理によって過剰発現していたが、低分子と高分子の柿ポリフェノール処理群では、いずれもCOX−2の発現量を著しく低下させていた。
【実施例9】
【0043】
実施例9は、STZ(ストレプトゾレシン)誘発糖尿病ラットによる低分子化柿ポリフェノールの効果を測定したものである。具体的には、ラットにSTZ(ストレプトゾレシン)を投与して1〜2W後に糖尿病を確認した後、実験開始時に同じ血糖値を用いた。Control群には水を、低分子化柿ポリフェノール群にはポリフェノール5,10,20mg/kgを、20日間、胃ゾンデで経口投与した。投与後には、各ラットを屠殺して血液採取及び臓器摘出を行い、血液(糖、糖化タンパク質、血清アルブミン)、組織(腎組織中のCOX-1、COX-2、iNOS、NF−κB(転写因子)、Bax(Baxはミトコンドリアに存在し、酸化ストレス状態で上昇する)を測定し、コントロールのラットの値と比較した。
【0044】
その結果、血糖値、糖化タンパク、血清アルブミン、COX-2、iNOS、NF−κB転写因子、Baxに好影響を及ぼしていた。
【0045】
従って実施例1から実姉例9までの結果により次のことが云える。すなわち、腎上皮細胞に高濃度グルコースによる酸化ストレスを与えたところ、一酸化窒素(NO)、スーパーオキシド(O)、ペルオキシナイトライト(ONOO)等の活性酸素種(ROS)が増加して、転写因子NF−κBの核への移行を引き起こし、iNOS、COX-2の発現量が著しく増加していた。また細胞生存率の低下や形態学的変化を引き起こし、細胞毒性を呈していた。これに対し、柿ポリフェノールは、図9に示す如く、活性酸素の生成を抑制し、転写因子NF−κBの核内への移行(活性化)を抑えてiNOS、COX-2の発現を抑制することによって、結果的に高血糖状態から派生する酸化ストレスシグナルを抑制していた。更に、低分子化柿ポリフェノールは、高分子の柿ポリフェノールよりその作用が強いことを明らかにした。
【0046】
以上のことから、本発明の実施例によれば、柿タンニンから得られた低分子化柿ポリフェノールは、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートのカテキン類を主要構成成分とし、エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が1以上からなる重合した構造であり、且つ二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるため、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ、高い薬理活性を発揮するので、各種の疾患の改善作用が飛躍的に向上する。当然のことながらモノマーであるお茶カテキンと比較して、オリゴマーである本発明の低分子化柿ポリフェノールの薬理活性は飛躍的に向上する。又、柿ポリフェノールとリンゴ未熟果実ポリフェノールの夫々のオリゴマーを比較した場合にも、柿ポリフェノールが、エピカテキンに比較してエピガロカテキンガレートを多く含む重合体であるのに対し、リンゴ未熟果実ポリフェノールのオリゴマーは、薬理活性の低いエピカテキンの重合体であるため、必然的にリンゴ未熟果実ポリフェノールのオリゴマーに比較して低分子化柿ポリフェノールの薬理活性は高く、各種の疾患の症状改善作用も高い。なお、お茶カテキンのカテキン類を化学的に重合させた場合、プロアントシアニジン以外の複雑な構造の重合体が同時に生成するので、望ましい薬理活性をもったオリゴマーを得ることは極めて困難であり、また製造コストも極めて高いものとなるので、実用的でない。
【0047】
又、渋柿の摘果した未熟果実や生皮などの廃棄物から柿タンニンは得られるので、廃棄物の利用によって環境への影響を改善することができる。
【0048】
低分子化柿ポリフェノールは、カテキン類のうちエピガロカテキンやエピガロカテキンガレートを多く含むが、これらのカテキンは、ブドウ種子やリンゴ未熟果実由来のポリフェノールの主成分であるエピカテキンに比べて高い薬理活性、すなわち強力な抗酸化活性と転写因子NF−κBの活性化阻害活性、及び高い糖分解酵素阻害作用を有しており、それらの機能を介して各種の疾患を改善することができる。
【0049】
低分子化柿ポリフェノールは、モノマーでなく且つ高分子のポリマーでもなく、適度に重合した二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるため、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ高い薬理活性を発揮し、各種の疾患の改善作用が飛躍的に向上する。ここで、七量体以上の構造にすると、高分子のポリマーと同様に吸収性が悪化する。又、モノマーの場合は、薬理活性が低下する。
【0050】
又、低分子化柿ポリフェノールによる疾患を改善し得る作用は、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用、血圧上昇抑制作用、抗う蝕作用及び抗歯周病作用であるので、各種の疾患に対して良好な改善作用を示すことができる。
【0051】
尚、本発明の柿ポリフェノールは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、低分子化柿ポリフェノールを含有するならば、どのような食品、錠剤、顆粒形状でもよいこと、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を実施例において低分子化柿ポリフェノールと高分子の柿ポリフェノールの抗酸化力を細胞生存率で比較したグラフである。
【図2】本発明を実施例において低分子化柿ポリフェノール、高分子の柿ポリフェノール及び比較試料について、一酸化窒素(NO)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図3】本発明を実施例において低分子化柿ポリフェノール、高分子の柿ポリフェノール及び比較試料について、スーパーオキシド(O)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図4】本発明を実施例において低分子化柿ポリフェノールと高分子の柿ポリフェノールについて、ペルオキシナイトライト(ONOO)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図5】本発明を実施例において低分子化柿ポリフェノール、高分子の柿ポリフェノール及び比較試料について、細胞内の活性酸素量を定量して酸化ストレス状態を比較したグラフである。
【図6】高血糖状態に曝された細胞質内における活性酸素種と転写因子NF−κBの関係を示す概念図である。
【図7】本発明を実施例においてブタ腎上皮細胞における転写因子NF−κBの局在を調べた写真である。
【図8】本発明を実施例においてiNOSとCOX-2の発現を調べた写真である。
【図9】高血糖状態に曝された細胞質内における柿ポリフェノールの作用を示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿タンニンから得られた低分子化柿ポリフェノールであり、前記低分子化柿ポリフェノールは、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートのカテキン類を主要構成成分とし、前記エピカテキン1モル当量に対してエピガロカテキンとエピガロカテキンガレートの合算モル当量が1以上から6以下になることを特徴とする柿ポリフェノール。
【請求項2】
低分子化柿ポリフェノールは、抗酸化活性と、転写因子NF−κBの活性化阻害活性とを高めることを特徴とする請求項1記載の柿ポリフェノール。
【請求項3】
低分子化柿ポリフェノールは、二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であることを特徴とする請求項1又は2記載の柿ポリフェノール。
【請求項4】
疾患を改善し得る作用は、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用、血圧上昇抑制作用、抗歯周病作用、抗う蝕作用である請求項1〜3のいずれかに記載の柿ポリフェノール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−176845(P2007−176845A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375799(P2005−375799)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(591018648)明治薬品株式会社 (5)
【Fターム(参考)】