説明

核酸の新規測定方法

【課題】複雑な試料を含む測定系に少なくとも一種以上の標的核酸が存在する場合に、それらの標的核酸を簡単な方法で、標的核酸を特異的に測定でき、かつ微量で、短時間、簡便、正確に標的核酸を分離・回収濃縮する方法を提供すること。
【解決手段】標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断後、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収することを特徴とする標的核酸分離・回収濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて、標的核酸を測定する方法に関する。
詳しくは、当該方法において、核酸のハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を阻害する物質が、存在する測定系若しくは反応系に、標的核酸に特異的にハイブリダイズする標的核酸プローブと標的核酸に対応する内部標準核酸に特異的にハイブリダイズする内部標準核酸プローブを添加し、少なくとも一種の標的核酸を特異的かつ正確に測定する方法である。
【0002】
又、標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断後、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収することを特徴とする標的核酸分離・回収濃縮方法である。
更に、任意の配列を有する人工合成された50bp以上の一本鎖のオリゴヌクレオチド核酸を鋳型として遺伝子増幅を行い、任意の配列を有する2本鎖DNAを取得することを特徴とする人工合成遺伝子の取得方法である。
【背景技術】
【0003】
核酸プローブを用いて対応核酸を測定する方法は数多く知られている。例えば、
(1)FRET(fluorescence energy transfer)現象を利用したプローブを用いる方法(例えば、非特許文献1〜3及び特許文献1、2参照)、
(2)蛍光色素が特定の核酸塩基と相互作用して蛍光発光量を減少させる特性を利用したプローブを用いる方法、リアルタイムモニタリング定量的PCR方法で、核酸を増幅させ、増幅前の対応核酸の濃度若しくはコピー数を測定する方法(例えば、非特許文献4参照)、など数多くの例を挙げることができる。
【0004】
いずれの方法においても、一種類の対応核酸が存在する測定系(測定系に複数の核酸種が存在するが、対応核酸が一種存在するという意味。)に、蛍光色素で標識されたプローブを一種又は二種{この場合は、ドナープローブ(単に、発光プローブ又は核酸プローブという場合もある。)とアクセプタープローブ(単にクエンチャーという場合もある。)}添加して、ハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を行い、測定系の蛍光強度を測定するものである。特に核酸増幅反応を利用する方法は、核酸プローブ存在下でPCR法により対応核酸の増幅を行い、PCR産物をリアルタイムでモニタリングすることで、増幅前の対応核酸を測定する方法であり、リアルタイムモニタリング定量的PCR法として知られている。
【0005】
又、複雑な試料中にはハイブリダイゼーション反応や核酸増幅反応の阻害物質が含まれている場合が多い。特にリアルタイムモニタリング定量的PCR方法では、当該阻害物質を含まないという仮定に基づいて検量線を作成しているため、このような場合、当該方法で複雑な試料中の標的核酸若しくは核酸増幅反応前の標的核酸を正確に測定することは出来ない。リアルタイムモニタリング定量的PCR法は、指数関数的検量線を用いて増幅前の対応核酸の定量を行うため、定量値のぶれが大きかった。
【0006】
特定サンプル中に存在するトータルの遺伝子の種類は膨大であり、又、その量も一方に偏っている場合が多い。そして、そのようなサンプル中には、目的の標的遺伝子は僅かしか存在しないという場合が多い。標的遺伝子を検出・測定するための測定系(PCR方法、リアルタイム定量的PCR方法などのものを好適な例として挙げることができる。)へ添加可能な遺伝子量は限界があるため、当該限界量までこのような遺伝子を添加しても、添加した遺伝子の中に、目的の標的遺伝子が僅かしか存在しないか、或いは検出不可能な量しか存在しない場合が出現する。上記の特徴を有するサンプル中の標的遺伝子の検出・測定を行う場合、よくこのようなことが起こり得る。この場合、正確かつ特異的に標的遺伝子を検出・測定は不可能或いは困難となる。このため、標的遺伝子を分離・回収しておくことが好適である。更に分離・回収したものを濃縮しておくことが特に望ましい。しかしながら、現在そのような適当な手段がないのが現状である。
【0007】
任意な配列を有する人工遺伝子を作製する際には、一般的に市販されている核酸合成装置を用いて、任意の配列、任意の長さの一本鎖のオリゴヌクレオチド(DNA)を合成するケースが多い。しかしながら、1塩基を合成する効率は100%ではないため、オリゴヌクレオチドの塩基長が長くなればなるほど、途中で合成が停止し、目的以外の配列を有するオリゴヌクレオチドの割合が増加する。このため、オリゴヌクレオチドの合成可能な限界は、一般的に約100塩基(以下、bpという。)までと云われている。又、約50bp以上の長さになると、目的以外の配列を有するオリゴヌクレオチドの割合が増加するため、煩雑な分離操作が必要となる。又、当該操作を施したとしても、50bp以上の長いオリゴDNAを合成する場合、目的のオリゴヌクレオチドの取得割合は、短いオリゴDNAの場合と比較して、低下する場合が多い。このため、簡便に50塩基以上の任意な配列を有する人工遺伝子を得る方法が求められていた。
本発明は前記の問題を解決することを本発明の目的とする。
【0008】
【特許文献1】特開平10−262700号公報
【特許文献2】特開平10−84983号公報
【非特許文献1】Morrison et al.,Anal. Biochem.,vol.183,231-244、1989
【非特許文献2】Mergney et al.,Nucleic acid Res.,vol.22、920-928,1994
【非特許文献3】Tyagi et al.,Nature Biotech.,vol.14,303-308、1996
【非特許文献4】KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前記の目的から、複雑な試料を含む測定系に少なくとも一種以上の標的核酸が存在する場合に、それらの標的核酸を簡単な方法で、標的核酸を特異的に測定でき、かつ微量で、短時間、簡便、正確に測定できる新規方法、新規な核酸増幅方法並びにそれを用いる核酸増幅前の標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める方法、これらの方法で得られるデータを解析する方法、及びこれらの方法を各種方法に適用する方法、を提供することである。更に当該方法に用いるDNAチップ等のデバイス類、測定試薬キット、データ解析方法の過程をコンピュータに実行させるための手順をプログラムとして記録したコンピュータ読取可能な記録媒体、本発明方法で標的核酸を測定するための測定装置、コンピュータ読取可能な記録媒体を組み込んだ測定装置、標的核酸の分離・回収濃縮方法、任意な配列を有する人工遺伝子の合成方法などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記2)のKURATA et alの方法(KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34)を用いて、鋭意検討した結果、標的核酸の塩基配列の一部を変異させた核酸(以下、内部標準核酸という。)を測定系に既知濃度宛で添加し、さらに、標的核酸に特異的にハイブリダイズする標的核酸プローブ(以下、標的核酸プローブという。)と内部標準核酸に特異的にハイブリダイズする標的核酸プローブ(以下、内部標準核酸プローブという。)を測定系に添加して、ハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を行い、標的核酸と内部標準核酸を同時に測定すること、又、標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種以上の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断後、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収すること、又、任意の配列を有する人工合成された50bp以上の一本鎖オリゴ核酸を鋳型として遺伝子増幅を行うことにより前記課題が解決できるということを知見した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
[請求項1] 少なくとも一種の蛍光色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドからなる核酸プローブ(以下、単に「核酸プローブ」という。)であって、対応核酸(標的核酸)にハイブリダイズすることにより、標識された蛍光色素の蛍光キャラクターが変化する、少なくとも一種の核酸プローブを用いて標的核酸を測定する方法(以下、単に「核酸プローブを用いて核酸を測定する方法」という。)において、測定系に少なくとも一種の標的核酸と標的核酸に相応する既知量の内部標準核酸を少なくとも一種含み、かつ標的核酸に特異的な、少なくとも一種の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドからなる核酸プローブ(以下、単に「標的核酸プローブ」という。)若しくは内部標準核酸に特異的な、少なくとも一種の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドからなる核酸プローブ(以下、単に「内部標準核酸プローブ」という。)を少なくも一種含むか、又は標的核酸プローブと内部標準核酸プローブを各々少なくとも一種含む反応系で、ハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を行わせ、標的核酸プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションにより生じる標的核酸プローブの蛍光キャラクターの、ハイブリダイゼーション前後における変化又は変化量、内部標準核酸プローブと内部標準核酸とのハイブリダイゼーションにより生じる内部標準核酸プローブの蛍光キャラクターの、ハイブリダイゼーション前後における変化又は変化量を少なくとも一種の測定波長で測定して、得られる測定値及び内部標準核酸の添加量から、標的核酸及び/又は核酸増幅反応前の標的核酸を測定することを特徴とする核酸の新規測定方法。
【0012】
[請求項2] 前記内部標準核酸が、下記の特質の少なくとも一つを有するものである請求項1に記載の核酸の新規測定方法。
1)内部標準核酸が、対応する核酸プローブとハイブリダイゼーションして得られる蛍光キャラクターの変化又は変化量から標的核酸と識別可能な塩基配列を有する。
2)内部標準核酸が、一定条件下で内部標準核酸プローブとのみハイブリダイズし、標的核酸とハイブリダイズしない塩基配列を有する。
3)内部標準核酸が、標的核酸と一部配列が異なる塩基配列である。
4)内部標準核酸の塩基長が、標的核酸のものと異なる。
5)内部標準核酸は、同一のプライマーを用いて標的核酸と同時に増幅できる。
【0013】
[請求項3] 前記内部標準核酸プローブが、下記の特質の少なくとも一つを有するものである請求項1又は2に記載の核酸の新規測定方法。
1)内部標準核酸プローブが、対応する核酸とハイブリダイズすることができる塩基配列を有する。
2)内部標準核酸プローブが、一定条件下で内部標準核酸とのみハイブリダイズし、標的核酸とハイブリダイズしない塩基配列を有する。
3)内部標準核酸プローブが内部標準核酸とハイブリダイズすることにより生ずる、内部標準核酸プローブに標識された蛍光色素の蛍光キャラクター変化若しくは変化量が、標的核酸が標的核酸プローブにハイブリダイズすることにより生ずる、標的核酸プローブに標識された蛍光色素の蛍光キャラクター変化若しくは変化量とは明瞭に識別可能である。
【0014】
[請求項4] 前記の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、各々、対応核酸にハイブリダイズする一本鎖のオリゴヌクレオチドであり、一種のドナー色素(リポーター色素をも含む。)及び/又は一種のアクセプター色素(クエンチャー色素若しくはクエンチャー物質をも含む。)を標識してなる少なくとも一種の核酸プローブであって、当該核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしているときはハイブリダイゼーション反応系の蛍光キャラクターの変化又は変化量が増加するように、ドナー色素とアクセプター色素が当該オリゴヌクレオチドに標識されている標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いる請求項1〜3の何れか1項に記載の核酸の新規測定方法。
【0015】
[請求項5] 標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、下記の何れかの形態を有するものである請求項4に記載の核酸の新規測定方法。
1)ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がプラスになるもの。
2)ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナスになるもの。
3)一種のドナー色素一つで標識された一種のオリゴヌクレオチドからなる一種のドナープローブ、及び一種のアクセプター色素一つで標識された一種のオリゴヌクレオチドからなる一種のアクセプタープローブの二種のプローブが対をなす形態であり、ドナープローブ及び/又はアクセプタープローブが対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナス若しくはプラスになるもの。
【0016】
[請求項6] 標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸が、ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナスになるものであって、かつその末端部においてドナー色素又はアクセプター色素で標識されており、当該核酸プローブが当該末端部において対応核酸にハイブリダイズしたとき、当該プローブにハイブリダイズした対応核酸の末端塩基から1ないし3塩基離れて、対応核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基存在するように、当該ローブの塩基配列が設計されている標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いる請求項4に記載の核酸の新規測定方法。
【0017】
[請求項7] 標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸が、ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナスになるものであって、かつ対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、ドナー又はアクセプター色素標識部においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されている標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いる請求項4に記載の核酸の新規測定方法。
【0018】
[請求項8] 標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、少なくも一種の蛍光色素で標識された一本鎖のオリゴヌクレオチドからなるもので、以下の少なくとも一つの特質を有するように、当該プローブが設計されているものを用いる請求項1〜3の何れか1項に記載の核酸の新規測定方法。
1)前記反応系若しくは測定系で一種のプローブで機能を発揮できる。
2)標的核酸及び/又は内部標準核酸にハイブリダイゼーションしたときに、前記蛍光色素が、クエンチャー色素及び/又はクエンチャープローブの非存在下にその蛍光キャラクターの変化又は変化量をマイナスに増大させる。
3)当該プローブは、その末端部において少なくとも蛍光色素で標識されている。
4)当該核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該プローブの色素標識された塩基から1ないし3塩基離れて(但し、標識塩基を1と計数する。)、G(グアニン)が少なくとも1塩基存在する。
5)当該核酸プローブが当該末端部において標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部分においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成する。
【0019】
[請求項9] 請求項8に記載の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、3’末端のリボース若しくはデオキシリボースの3’炭素の水酸基、又は3’末端のリボースの3’若しくは2’炭素の水酸基がリン酸化されている標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いる請求項8に記載の核酸の新規測定方法。
【0020】
[請求項10] 請求項8に記載の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、3’末端のOH基以外の部分で前記蛍光色素により標識されており、当該核酸プローブが、前記対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該修飾部分においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成する標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いる請求項8に記載の核酸の新規測定方法。
【0021】
[請求項11] 核酸増幅方法により標的核酸と既知の濃度若しくはコピー数の内部標準核酸を、請求項2〜10の何れか1項に記載の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いるか用いないで、増幅させ、更に、当該増幅産物を、請求項2〜10の何れか1項に記載の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブとハイブリダイゼーションさせ、ハイブリダイゼーション前後の反応系の蛍光キャラクターの変化若しくは変化量を測定して、当該測定値及び内部標準の濃度から、増幅前の標的核酸の濃度若しくはコピー数を測定することを特徴とする核酸の新規測定方法。
【0022】
[請求項12] 核酸増幅方法により、請求項2〜10の何れか1項に記載の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いて、標的核酸と既知の濃度若しくはコピー数の内部標準核酸の核酸増幅反応を行い、核酸伸長反応時当該プローブがポリメラーゼにより分解除去されている反応系又は核酸変性反応時若しくは核酸変性反応が完了している反応系の蛍光キャラクター若しくは蛍光色素の蛍光キャラクター、及び標的核酸若しくは増幅標的核酸と標的核酸プローブ及び内部標準核酸若しくは増幅内部標的核酸と内部標準核酸プローブがハイブリダイズしているときの反応系の蛍光キャラクター若しくは蛍光色素の蛍光キャラクターを測定し、更に前者からの当該キャラクターの測定値の減少率を算出して、当該減少率と内部標準核酸の濃度若しくはコピー数から、標的核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を測定することを特徴とする核酸の新規測定方法。
【0023】
[請求項13] 核酸増幅方法により、請求項2〜10の何れか1項に記載の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブをプライマーとして用いて、標的核酸と既知の濃度若しくはコピー数の内部標準核酸の核酸増幅反応を行い、標的核酸若しくは増幅標的核酸と標的核酸プローブ及び内部標準核酸若しくは増幅内部標的核酸と内部標準核酸プローブがハイブリダイズしていないときの反応系の蛍光キャラクター若しくは蛍光色素の蛍光キャラクター、及び標的核酸若しくは増幅標的核酸と標的核酸プローブ及び内部標準核酸若しくは増幅内部標的核酸と内部標準核酸プローブがハイブリダイズしているときの反応系の蛍光キャラクター若しくは蛍光色素の蛍光キャラクターを測定して、更に前者からの当該キャラクターの測定値の減少率を算出して、当該減少率と内部標準核酸の濃度若しくはコピー数から、標的核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を測定することを特徴とする核酸の新規測定方法。
【0024】
[請求項14] 核酸を増幅させる方法が、PCR方法、ICAN方法、LAMP方法、NASBA方法、RCA方法、TAMA方法、LCR方法の何れかの方法である請求項11〜13の何れか1項に記載の核酸の新規測定方法。
【0025】
[請求項15] PCR方法が定量的PCR方法若しくはリアルタイム定量的PCR方法である請求項14に記載のPCR方法の増幅核酸の測定方法。
【0026】
[請求項16] 請求項1〜15の何れか1項に記載の核酸測定法で得られたデータを解析する方法において、標的核酸と標識核酸プローブ、及び/又は内部標準核酸と内部標準核酸プローブとがハイブリダイズしたときの反応系の蛍光キャラクターの測定値を、ハイブリダイズしたものが解離したときの反応系の蛍光キャラクターの測定値により補正することを特徴とする核酸測定方法のためのデータ解析方法。
【0027】
[請求項17] 請求項15に記載のリアルタイム定量的PCR方法で得られたデータを解析する方法において、各サイクルにおける増幅した標的核酸と標的核酸プローブ、及び/又は増幅した内部標準核酸と内部標準核酸プローブとが、ハイブリダイズしたときの反応系の蛍光キャラクターの測定値を、各サイクルにおける前記のハイブリダイズしたものが解離したときの反応系の蛍光キャラクターの測定値により補正する演算処理過程(以下、「補正演算処理過程」という。)を有することを特徴とするリアルタイム定量的PCR方法のためのデータ解析方法。
【0028】
[請求項18] 請求項1〜10の何れか1項に記載の核酸を測定する方法又は/及び請求項11〜15の何れか1項に記載の核酸を増幅する方法又は/及び請求項16並びに17に記載のデータ解析方法を用いて、多型及び/又は変異の解析、分析、又は定量することを特徴とする多型及び/又は変異の解析、分析、又は定量する方法。
【0029】
[請求項19] 請求項1〜10の何れか1項に記載の核酸を測定する方法又は/及び請求項11〜15の何れか1項に記載の核酸を増幅する方法又は/及び請求項16並びに17に記載のデータ解析方法を用いて、核酸を測定及び/又は得られるデータを解析することを特徴とするFISH方法、LCR方法、SD方法、TAS方法の何れか一方法。
【0030】
[請求項20] 請求項2に記載の内部標準核酸、請求項1、3〜10の少なくとも何れか1項に記載の標的核酸プローブ若しくは標的核酸のプライマープローブ及び/又は内部標準核酸プローブ若しくは内部標準核酸のプライマープローブを含んでなり、かつ当該標的核酸プローブ若しくは標的核酸のプライマープローブに標的核酸及び/又は内部標準核酸プローブ若しくは内部標準核酸のプライマープローブに内部標準核酸をハイブリさせて、当該標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブに標識された蛍光色素の蛍光キャラクターの変化もしくは変化量を測定することにより、請求項1〜15、請求項18又は19の何れか1項に記載の方法を実施できるようにしたことを特徴する反応液若しくは測定キット類。
【0031】
[請求項21] 請求項1、3〜10の少なくとも何れか1項に記載の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを、複数個固体支持体表面に結合させ、当該標的核酸プローブに標的核酸及び/又は内部標準核酸プローブに内部標準核酸をハイブリさせて、当該標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブに標識された蛍光色素の蛍光キャラクターの変化もしくは変化量を測定することにより、請求項1〜10、請求項18又は19の何れか1項に記載の方法を実施できるようにしたことを特徴するデバイス類。
【0032】
[請求項22] 請求項2に記載の内部標準核酸を含有してなり、請求項21に記載のデバイスを用いて請求項1〜10、請求項18、又は19の何れか1項に記載の方法を実施できるようにしたことを特徴する反応液若しくは試薬キット。
【0033】
[請求項23] 前記に記載の核酸測定用デバイスにおいて、標的核酸プローブ及び/又は内部標準プローブを固体支持体表面にアレー状に配列、結合させて単数種若しくは複数種の標的核酸をそれぞれ測定するできるようにしたデバイス(DNAチップ)を用いる請求項21に記載のデバイス類。
【0034】
[請求項24] 固体支持体表面に結合させた標的核酸プに少なくとも一つの温度センサーとヒーターが設置され、核酸プローブ結合領域が最適温度条件になるように温度調節され得るデバイス(DNAチップ)であるを請求項21又は23に記載のデバイス類。
【0035】
[請求項25] 請求項1〜19の何れか1項に記載の方法を実施するための測定装置。
【0036】
[請求項26] 温度を変化させながら蛍光測定可能な装置である請求項25に記載の測定装置。
【0037】
[請求項27] 請求項16〜19に記載のデータ解析方法の過程を、コンピュータに実行させるための手順をプログラムとして記録したことを特徴とするコンピュータ読取可能な記録媒体。
【0038】
[請求項28] 請求項27に記載のコンピュータ読取可能な記録媒体を組み込んだ請求項25又は26に記載の測定装置。
【0039】
[請求項29] 標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断後、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収することを特徴とする標的核酸分離・回収濃縮方法。
【0040】
[請求項30] 任意の配列を有する人工合成された50bp以上の一本鎖のオリゴヌクレオチド核酸を鋳型として遺伝子増幅を行い、任意の配列を有する2本鎖DNAを取得することを特徴とする人工合成遺伝子の取得方法。
【0041】
すなわち、本発明は、
1)少なくとも一種の標的核酸を含む測定系に、標的核酸に相応する内部標準核酸、標的核酸に特異的にハイブリダイズする核酸プローブ(以下、単に標的核酸プローブという。)、及び内部標準核酸に特異的にハイブリダイズする核酸プローブ(以下、単に内部標準核酸プローブという。)を添加若しくは存在させて、標的核酸を測定する方法、又、
【0042】
2)前記の核酸の新規測定方法に好適に用いることのできる内部標準核酸(後記した。)、又、
3)前記前記の核酸の新規測定方法に好適に用いることのできる内部標準核酸プローブ(後記した。)、又、
4)前記の前記の核酸の新規測定方法に好適に用いることのできる標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブ(後記した。)、又、
5)前記本発明の核酸の新規測定方法に好適に用いることのできる標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブ(後記した。)を、核酸増幅方法の単なる核酸プローブ若しくは核酸増幅のプライマーとして用いる新規な核酸増幅方法及び当該方法による標的核酸の核酸増幅前の標的核酸の濃度若しくはコピー数を測定する新規方法(好適な具体的方法については後記した。)、又、
6)本発明方法で得られたデータを解析する方法(好適な具体的方法については後記した。)、又、
【0043】
7)本発明方法に用いることが出来る、内部標準核酸、標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを含んでなる、本発明の方法を実施出来る反応液類若しくは測定キット類、又、
8)本発明方法に用いることの出来る標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを、複数個固体支持体表面に結合させ、当該標的核酸プローブに標的核酸及び/又は内部標準核酸プローブに内部標準核酸をハイブリさせて、当該標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブに標識された蛍光色素の蛍光キャラクターの変化もしくは変化量を測定することにより、本発明の方法を実施できるようにしたデバイス類、及び内部標準核酸を含有してなり、当該デバイス類を用いて前記本発明方法を実施できるようにした反応液若しくは測定キット、又、
【0044】
9)本発明方法を実施するための測定装置、又、
10)前記のデータ解析方法の過程を、コンピュータに実行させるための手順をプログラムとして記録したコンピュータ読取可能な記録媒体、又、
11)標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種以上の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断後、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収することを特徴とする標的核酸分離・回収濃縮方法、又、
12)任意の配列を有する人工合成された50bp以上の一本鎖のオリゴヌクレオチド核酸を鋳型として遺伝子増幅を行い、任意の配列を有する2本鎖DNAを取得することを特徴とする人工合成遺伝子の取得方法、を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、少なくとも一種の蛍光色素で標識された核酸プローブ(単に、核酸プローブという。)であって、対応核酸{単にハイブリダイゼーション可能な核酸(必ずしも全塩基が相補的でなくともよい。すなわち、全塩基が水素結合の相応をしなくともよい。)を意味する。}にハイブリダイズすることにより、標識された蛍光色素の蛍光キャラクターが変化する少なくも一種の核酸プローブを用いて対応核酸を測定する方法(単に、核酸プローブを用いる核酸測定方法)において、少なくとも一種の標的核酸を含有する測定系に、標的核酸に相応する少なくとも一種の、既知濃度宛の内部標準核酸(詳しくは後記する。)と、少なくとも一種の蛍光色素で標識された標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを添加し、ハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を行って、標的核酸プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーション反応及び/又は内部標準核酸プローブと内部標準核酸とのハイブリダイゼーション反応により生じる各核酸プローブに標識された蛍光色素若しくは測定系の蛍光キャラクターの、ハイブリダイゼーション前後における変化若しくは変化量を少なくとも一種の波長で測定し、得られる測定値及び内部標準核酸の濃度から、標的核酸の濃度及び/又は核酸増幅反応前の標的核酸の濃度若しくはコピー数を特異的に測定する新概念の測定方法である。
【0046】
又、この方法を本発明の原理として、各種の核酸プローブを用いて少なくとも一種の標的核酸を、好ましくは均一系で測定する際の各種の課題の解決を計るものである。
そして、標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種以上の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断し、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収、又は/及び更に濃縮する標的核酸濃縮方法である。
さらに、任意の配列を有する50bp以上の一本鎖オリゴ核酸を人工合成し、これを鋳型として遺伝子増幅を行うことで、任意の配列を有する2本鎖DNAを取得する人工合成遺伝子の調製方法である。
【0047】
本発明に用いている用語は、特別なことわりがない場合、現在、生物学、分子生物学、遺伝学若しくは遺伝子工学、微生物学若しくは微生物工学等で一般的に使用されている用語と同じ意味である。
本発明においては、蛍光キャラクターとは、蛍光強度、蛍光寿命、蛍光偏光、蛍光異方性等の蛍光特性等のこと云う(以下、簡便化のために、蛍光強度と略称する。)。
又、核酸プローブと対応核酸とのハイブリダイゼーションによるプローブと核酸の複合体のことをハイブリッド(又はハイブリット)複合体、又は単に、核酸・プローブ複合体又はプローブ・核酸複合体という。
【0048】
又、核酸測定若しくは核酸濃度を測定するとは、標的核酸の濃度を定量することは勿論のこと、定量的検出をすること、又、単なる検出をすることを云う。
本発明でいう「標的核酸プローブであって、対応核酸にハイブリダイズすることにより、標識された蛍光色素の蛍光強度が変化する少なくとも一種の標的核酸プローブを用いて標的核酸を測定する方法」とは、単に、核酸プローブを用いて、核酸を測定する方法をいう。それは、公知、未知を問わない。例えば、下記に述べる現在公知の方法と本発明方法を挙げることができる。「対応核酸」とは、前記の通りである。
【0049】
本発明において、標的核酸とは、核酸測定を目的とする核酸もしくは遺伝子のことをいう。精製の有無を問わない。又、濃度の大小も問わない。各種の核酸が混在していてもよい。例えば、複合微生物系(複数微生物のRNAもしくは遺伝子DNAの混在系、例えば、土壌中の核酸、遺伝子などを挙げることができる。)又は共生微生物系(複数の動植物及び/又は複数の微生物のRNAもしくは遺伝子DNAの混在系)における測定を目的とする特定核酸である。上記の核酸の具体例として、DNA、RNA、PNA、オリゴデオキシリボヌクレオチド(oligodeoxyribonucleotides)、オリゴリボヌクレオチド(oligoribonucleotides)等、又、前記核酸の化学的修飾核酸を挙げることができる。化学的修飾核酸として2’−−メチル(Me)RNA等を例示することができる。
【0050】
本発明において、内部標的核酸とは、標的核酸と相応する核酸で、好適には下記の特質の少なくとも一つを有するものである:
1)内部標準核酸は、当該核酸が、内部標準核酸プローブとハイブリダイズさせることで生じる当該プローブに標識された蛍光色素の蛍光強度の変化若しくは変化量から標的核酸と識別可能な塩基配列を有する。この具体例は、実施例1の図2及び3に示されている。即ち、内部標準核酸と内部標準核酸プローブ、及び標的核酸と標的核酸プローブのプローブ・核酸複合体又は反応系の各プローブに標識された蛍光色素の蛍光強度の変化若しくは変化量の相違に基づいて、標的核酸と内部標的核酸の塩基配列の相違を識別できる。
2)内部標準核酸が、一定条件下(好適な条件の求め方は後記した。)で、内部標準核酸と特異的にハイブリダイズする内部標準核酸プローブとのみハイブリダイズし、標的核酸プローブとハイブリダイズしない塩基配列を有する。
3)内部標準核酸の塩基配列は、標的核酸のものと一部配列が異なるものである。一部配列とは、塩基数にして、1〜30、好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜6位である。そして連続又は非連続の塩基配列である。
4)内部標準核酸の塩基長が、標的核酸のものと異なっていてもよい。
5)内部標準核酸が、同一のプライマーを用いて標的核酸と同時に増幅可能である。
【0051】
6)内部標準核酸とは、具体的な一例を挙げるならば、標的核酸の塩基配列の一部が他の塩基で置換もしくは欠失した塩基配列で、変異型核酸若しくは一種の多型核酸と云われるものである。そして、次の効果をもたらす塩基配列が好適である:標的核酸と標的核酸プローブのハイブリダイゼーションの効果が、内部標準核酸と内部標準核酸プローブのハイブリダイゼーションの効果と、同様若しくは近似している(全く同じである必要はない。)。
同様に、標的核酸の核酸増幅を阻害する物質の、阻害箇所、若しくはその阻害効果が、内部標準核酸の核酸増幅を阻害する物質のものと、同様若しくは近似している(全く同じである必要はない。)阻害箇所、若しくはその阻害効果をもたらす塩基配列を有することが好適である。
なお、上記の内部標準核酸は、後記の実施例1、実施例7、又核酸プローブに記した方法により調製若しくは合成できる。
【0052】
本発明において、前記の「少なくとも一種以上の標的核酸が存在する測定系」とは、単数種又は複数種の標的核酸が測定系に存在するという意味である。
測定系に単数種の標的核酸が存在する場合に、測定系に存在させる標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブの種は単数種でも複数種でもよい。この「複数でもよい」とは、一種の標的核酸に塩基配列の異なった複数の部位があり、当該部位にハイブリダイズする複数の種の標的核酸プローブを使用してもよいという意味である。内部標準核酸についても同様なことが云える。
【0053】
本発明において、測定系及び/又は反応系に複数種の標的核酸が存在する場合は、複数種の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸及び/又は内部標準核酸プローブを存在させることを特徴としている。そして、標的核酸と標的核酸プローブは、その種類の数において、少なくとも同数である。内部標準核酸と内部標準核酸プローブについても同様なことが云える。そして、この「少なくとも同数」とは、一種の標的核酸に、複数種の核酸プローブがハイブリダイズする塩基配列部位を設定して、一種の標的核酸に対して複数種の核酸プローブを測定系に存在させてもよいという意味である。
【0054】
更に、前記単数種及び複数種の標的核酸が測定系に存在する場合における「複数種の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸及び/又は内部標準核酸プローブ」における「複数種の標的核酸プローブ、複数種の内部標準核酸プローブ」とは、次のような意味である。すなわち、(a)本発明の核酸プローブにおいて、種類の異なった複数のプローブである。例えば、プローブの形態若しくは構造は同じであるが、互いに標識する色素が単に異なったプローブを例に挙げることができる。(b)プローブの形態若しくは構造が異なった核酸プローブの組合せであるが、互いに標識色素が異なった複数種の核酸プローブである。すなわち、後記する形態の異なった核酸プローブの組合せでもよいという意味である。
「ハイブリダイゼーション前後における核酸プローブの蛍光強度の変化又は変化量を測定する」とは、一例を挙げると、ハイブリダイゼーション前後における核酸プローブの蛍光強度の測定値の差、又、ハイブリダイゼーション反応系の時間を関数とする蛍光強度の変化率などをいう。又、核酸増幅反応においては、反応サイクルに関する蛍光強度の変化若しくは変化率などをいう。
【0055】
本願の発明は、第1〜第8の発明からなる。
第1発明は、核酸増幅反応を行わないで、核酸測定を行う方法に関する。
すなわち、第1発明は、前記した通りであるが、核酸プローブを用いて核酸を測定する方法(公知、未公知を問わない。)において、少なくとも一種以上の標的核酸を含む測定系若しくは反応系(以下、単に測定系と略称する。)に、標的核酸に対応する、既知量の内部標準核酸を少なくとも一種、かつ標的核酸に特異的な少なくとも一種の蛍光色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドからなる標的核酸プローブ若しくは内部標準核酸に特異的な、少なくとも一種の蛍光色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドからなる内部標準核酸プローブを少なくとも一種を含むか又は当該標的核酸プローブと当該内部標準核酸プローブとを合わせて少なくとも二種以上含む測定系において、ハイブリダイゼーション反応を行わせて、標的核酸プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションにより生じる標的核酸プローブに修飾した蛍光色素の蛍光強度の変化又は変化量、内部標準核酸プローブと内部標準核酸とのハイブリダイゼーションにより生じる内部標準核酸プローブに修飾した蛍光色素の蛍光強度の変化又は変化量を、核酸プローブ種の数(標的核酸プローブ種の数及び内部標準核酸プローブ種の数の和)と少なくとも同数種の波長で測定する。当該測定値及び内部標準核酸の量から、標的核酸を測定する核酸の新規測定方法である。
【0056】
そして、本発明において、当該方法に好適に使用される標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブは、以下の形態をとるものである。
1)標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、各々、対応核酸にハイブリダイズする一本鎖のオリゴヌクレオチドであり、一種のドナー色素(リポーター色素をも含む。)及び/又は一種のアクセプター色素(クエンチャー色素若しくはクエンチャー物質をも含む。)を標識してなる少なくとも一種の核酸プローブであって、当該核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしているときはハイブリダイゼーション反応系の蛍光キャラクターの変化又は変化量が増加するように、ドナー色素とアクセプター色素が当該オリゴヌクレオチドに標識されている。
【0057】
2)前記1)の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、下記の何れかの形態を有するものである:
(1)ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がプラスになるもの、
(2)ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナスになるもの、
(3)一種のドナー色素一つで標識された一種のオリゴヌクレオチドからなる一種のドナープローブ、及び一種のアクセプター色素一つで標識された一種のオリゴヌクレオチドからなる一種のアクセプタープローブの二種のプローブが対をなす形態であり、ドナープローブ及び/又はアクセプタープローブが対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナス若しくはプラスになるもの。
【0058】
3)前記1)の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸が、ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナスになるものであって、かつその末端部においてドナー色素或いはアクセプター色素で標識されており、当該核酸プローブが当該末端部において対応核酸にハイブリダイズしたとき、当該プローブにハイブリダイズした対応核酸の末端塩基から1ないし3塩基離れて、対応核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されている。
【0059】
4)前記1)の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸が、ドナー色素とアクセプター色素で標識された一種のオリゴヌクレオチドの形態で、対応核酸とハイブリダイズすることにより、ハイブリダイゼーション前後で、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光キャラクターの変化又は変化量がマイナスになるものであって、かつ対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、ドナー色素或いはアクセプター色素標識部においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されている。
【0060】
5)標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、少なくも一種の蛍光色素で標識された一本鎖のオリゴヌクレオチドからなるもので、以下の少なくとも一つの特質を有するように、当該プローブが設計されている:
(1)前記反応系若しくは測定系で一種の核酸プローブで機能を発揮できる、
(2)標的核酸及び/又は内部標準核酸にハイブリダイゼーションしたときに、前記蛍光色素が、クエンチャー色素及び/又はクエンチャープローブの非存在下にその蛍光キャラクターの変化又は変化量をマイナスに増大させる、
(3)当該プローブは、その末端部において少なくとも蛍光色素で標識されている、
【0061】
(4)当該核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該プローブにハイブリダイゼーションした標的核酸の標識塩基から1ないし3塩基離れて(但し、標識塩基を1と計数する。)、標的核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基存在する、
(5)当該核酸プローブが当該末端部において標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部分においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成する。
【0062】
6)前記5)の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、3’末端のリボース若しくはデオキシリボースの3’炭素の水酸基、又は3’末端のリボースの3’若しくは2’炭素の水酸基がリン酸化されている。
7)前記5)の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブが、3’末端のOH基以外の部分で前記蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが、前記対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該修飾部分においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成する標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いる。
【0063】
尚、前記の標的核酸プローブを標識している蛍光色素の発蛍光色と前記の内部標準核酸プローブを標識している蛍光色素の発蛍光色が、互いに異なるように、標的核酸プローブと内部標準核酸プローブを設計することが好適である。具体的には、標的核酸プローブを標識している蛍光色素の種類と内部標準核酸プローブを標識している蛍光色素が異なることが好ましい。
【0064】
下記に具体的に上記の核酸プローブを使用した核酸測定方法を例示する。
I.公知方法の例
現在公知の方法とは、現在知られている全ての方法をいうが、例示するならば、下記のごとくである。なお、本例示でもって本発明は限定されるものではない。
A)FRET現象を利用する場合
(1)Morrisonらの方法(Morrison et al.,Anal.Biochem.,183:231-244,1989)で代表される方法
二本鎖DNAを対応核酸とするもので、二種の核酸プローブを用いる方法である。二種のうち一方はリーデング鎖、他方はコーデング鎖にハイブリダイズするものである。又、プローブの一方は5’末端部位が一つの蛍光色素で標識されている場合、他方は3’末端部位が一つの蛍光色素で標識されている。さらにプローブの一方の色素は消光作用を有するドナー(donor)色素(リポーター(reporter)色素とも呼称される。)で、他方のものはアクセプター(acceptor)(クエンチャー(quencher)色素とも呼称される。)色素である。二種のプローブは互いにハイブリダイズすることができるように塩基配列が設計されている。二種のプローブがハイブリッド複合体を形成しているときは、FRET現象が作用して測定系の蛍光強度は低く抑制されている。
【0065】
測定系に、ハイブリッド複合体を形成している二種のプローブと二重鎖を形成している対応核酸を存在させる。そうすると、プローブと対応核酸が自己のハイブリッド複合体を解離させて、競合的にプローブと対応核酸がハイブリッド複合体を形成する。プローブと対応核酸がハイブリッド複合体を形成すると、色素間のFRET現象が解消して測定系の蛍光強度変化値若しくは時間を関数とする変化率が増加する。測定系の蛍光強度変化値及び変化率の増加が対応核酸の濃度に比例するので、対応核酸の濃度を測定できる。
【0066】
この場合、測定系に、まず二種のプローブを添加して、蛍光強度を測定し、次に対応核酸を含有するサンプルを添加して前後の蛍光変化値若しくは変化率を測定する場合と、対応核酸を含有する測定系に二種のプローブを添加し、時間を関数とする蛍光強度の変化率を測定する場合がある。このようして、対応核酸の濃度を測定できる。それは蛍光強度の変化値若しくは変化率の大小が対応核酸の濃度に比例するからである。
【0067】
(2)Mergneyらの方法(Mergney et al.,Nucleic acid Res.,22:920-928,1994)で代表される方法
一本鎖の対応核酸に二種の核酸プローブをハイブリダイズさせることを特徴とする。二種のプローブの一方は一つのドナー色素で標識されている場合、他方は一つのアクセプター色素で標識されている。又、プローブの一方は5’末端部位が蛍光色素で標識されている場合、他方は3’末端部位が標識されている。ドナー色素はアクセプター色素に作用してアクセプター色素の特定波長の蛍光発光を増加させることができる。ドナー色素は、リポーター色素とも称され、アクセプター色素に作用したときは、自分の蛍光発光を弱める。アクセプター色素はクエンチャー色素とも称される。二種のプローブが対応核酸にハイブリダイズしたとき、一方のプローブの色素標識末端部位と他方のプローブの色素標識末端部位が互いに向き合うように設計されている。両プローブの色素標識塩基間距離が1〜9塩基離れて両プローブが対応核酸にハイブリダイズするように塩基配列が設計されている。
実際の測定手順は前記Morrisonの方法と同様である。
【0068】
(3)分子ビーコン(molecular beacon)方法(Tyagi et al.,Nature Biotech.,14:303-308,1996;Schofield et al.,Applied and Environ. Microbiol.,63:1143-1147,1997);ヘヤーピンプローブ(サンライズプローブ)(Nazarenko,I.A.,Bhatnagar,S.K.and Hohman,R.J.(1997) A closed tube format for amplification and detection of DNA based on energy transfer. Nucleic Acids Res.,25,2516-2521);スコーピオンプローブ(Theaker,J.,Guy,S.P.,Brown,T.and Little,S.(1999) Detection of PCR products using self-probing amplicons and fluorescence.Nature Biotechnol.,17,804-807.)
【0069】
上記のプローブは、その末端が一つの蛍光色素で、その他の領域に一つの自らは蛍光を発しないクエンチャー物質が一般的に標識されている。そして、対応核酸にハイブリダイズしていないときは、プローブ分子内の塩基配列の相同性から、ステム・ループ構造を形成する。当該構造の形成により、蛍光色素とクエンチャー物質が互いに近い位置に配置される。当該配置によりFRET現象がおこり、ドナー色素の蛍光発光が抑制される。しかしながら、プローブが対応核酸とハイブリダイズすると、プローブの立体構造が変化し、ステム・ループ構造が壊れる。そうするとFRET現象が解消し、蛍光色素の蛍光発光が増大する。対応核酸の濃度は、測定系の蛍光色素の蛍光強度の増加量に比例する。実際の測定手順は前記Morrisonの方法と同様である。
【0070】
(4)Livakらの方法(US patent No.5,538,848)で代表される方法
一本鎖のオリゴヌクレオチドの末端部の異なった位置に一つのクエンチャー色素と一つのリポーター色素が標識されたプローブである。そして蛍光物質が標識されている個所とクエンチャー物質が標識されている個所の塩基鎖間でステムループ構造を形成することがない。当該プローブが対応核酸にハイブリダイズしていないときは、リポーター色素はクエンチャー色素の作用を受けて蛍光発色が抑制されているが、対応核酸にハイブリダイズするとその抑制が解除されて、リポーター色素の蛍光発色が増加するように設計されている。
実際の測定手順は、Morrisonらの方法と大体同様である。
【0071】
B)蛍光色素が特定の核酸塩基と相互作用して蛍光発光量を減少させる特性を利用したプローブを用いる方法
(1)KURATAらの方法(KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34;EP 1 046 717 A9;特開2001-286300(P2001-286300A))で代表される方法(T.Horn, et al.,Nucleic acid Research,1997,25,4842-4849,1997;US Patent Application Publication No.US2001/0009760A1,Pub.Date:Jul.26,2001;US Patent No.6,140,054)
【0072】
一本鎖のオリゴヌクレオチドを一つの蛍光色素で標識した核酸プローブであるが、蛍光色素で標識した部位が対応核酸とハイブリダイズしたとき、当該標識した部位の塩基に対応する対応核酸の塩基若しくはその近傍に少なくとも一つのGが存在するか、又当該標識部位若しくはその近傍のプローブ核酸複合体にGCペアーが存在するように設計された核酸プローブである。当該プローブを対応核酸にハイブリダイズさせるとハイブリッド複合体の蛍光発光の強度がハイブリダイゼーション前に比較して顕著に減少する。測定系の蛍光強度の減少量が対応核酸の濃度に比例するので、対応核酸が測定できる。
実際の測定手順は、蛍光強度の減少値若しくは減少率を測定すること以外は、Morrisonらの方法と大体同様である。なお、この測定方法にはハイブリダイゼーション反応前にハイブリダイゼーション反応系にハイブリダイゼーション反応を効率よく行わせるためのヘルパープローブを添加して測定してもよい。
【0073】
C)その他の方法
1)Davisらの方法(Davis et al.,Nucleic acids Res.,24:702-706,1996)で代表される方法
オリゴヌクレオチドの3’末端に蛍光色素を、炭素原子18個を有するスペーサーを介して結合したプローブを用いて対応核酸を測定するものである。当該プローブを対応核酸にハイブリダイズさせると、当該色素を直接に3’末端に結合させたプローブを使用した場合より、10倍の蛍光強度になる。
【0074】
2)HORNらの方法(US Patent Application Publication No.US2001/0009760A1,Pub.Date:Jul.26,2001)で代表される方法
一本鎖のオリゴヌクレオチドからなるプローブであるが、一端にBODIPY色素で標識されているものでる。両端部の一部の塩基配列が相互にハイブリダイズするように設計されている。測定系において、対応核酸が存在していないときは、両端部がハイブリダイズして、一つのループを形成している。そして、蛍光色素の発光は抑制されている。ところが、対応核酸が存在すると、このプローブは対応核酸にハイブリダイズするために前記ループ形状が壊れてしまう。そして、蛍光色素が発光するので、その蛍光強度を測定することにより、対応核酸の濃度と決めることができる。
【0075】
II.本発明の核酸プローブとそれを用いる方法の例
以下に要約する。
1)本願発明方法A
i)蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて対応核酸を測定する方法において、少なくとも一種以上の対応核酸が存在する測定系に、当該対応核酸にハイブリダイズし、かつ発光蛍光色の異なる核酸プローブを、対応核酸の数と少なくとも同数、存在させ、ハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を行い、核酸プローブ種の数と少なくとも同数の波長種で、ハイブリダイゼーション前後における核酸プローブの蛍光強度の変化又はプラスの変化量の増加を測定し、対応核酸の濃度又は増幅前の核酸濃度若しくはコピー数を測定する核酸の新規測定方法である。
【0076】
ii)核酸プローブが、対応核酸にハイブリダイズする一本鎖のオリゴヌクレオチドに蛍光色素(ドナー色素)及びクエンチャー色素を標識してなる核酸プローブであって、当該核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしているときはハイブリダイゼーション反応系の蛍光強度が増加するように、蛍光色素(ドナー色素)とクエンチャー色素が当該オリゴヌクレオチドに標識され、かつ蛍光色素(ドナー色素)が標識されている個所とクエンチャー色素が標識されている個所の塩基鎖間でステム・ループ構造を形成することがないオリゴヌクレオチドから構成されている核酸プローブを用いる前記i)に記載の核酸の新規測定方法。
【0077】
iii)前記ii)に記載の核酸プローブが更に次の少なくとも何れか1項に記載の特質を有するものである。
(1)蛍光色素(ドナー色素)及びクエンチャー色素が一本鎖のオリゴヌクレオチドの同一塩基の個所に標識されている。
(2)蛍光色素(ドナー色素)及びクエンチャー色素が標識されている一本鎖のオリゴヌクレオチドの塩基の個所が3’末端又は5’末端である。
(3)蛍光色素(ドナー色素)が標識されている個所の塩基とクエンチャー色素が標識されている個所の塩基の距離が、塩基数にて、1〜20、又は、{(3から8の任意の整数)+10n}(ただし、nは0を含む整数)である。
【0078】
(4)蛍光色素(ドナー色素)又はクエンチャー色素が、オリゴヌクレオチドの5’末端又は3’末端に標識され、対応するクエンチャー色素又は蛍光色素が鎖中に標識されている。
(5)蛍光色素(ドナー色素)又はクエンチャー色素がオリゴヌクレオチドの5’末端に標識され、かつ対応するクエンチャー色素又は蛍光色素が5’末端から6〜8番目の塩基に標識されている。
(6)一本鎖のオリゴヌクレオチドが、対応核酸と同鎖長である。
(7)核酸プローブの5’末端又は/及び3’末端のリン酸基が蛍光色素(ドナー色素)で標識されている。
【0079】
(8)核酸プローブを標識している蛍光色素(ドナー色素)が、テキサスレッド(Texas red)、EDANS(5-(2'-aminoethyl)aminonaphthalene-1-sulfonic acid)、テトラメチルローダミン(tetramethylrhodomine)もしくはその誘導体、FITC若しくはその誘導体、ボデピー(BODIPY)FL、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)TMR、ボデピー(BODIPY)TR、又は6−TAMURAの少なくとも何れかである。
【0080】
(9)核酸プローブを標識しているクエンチャー色素が、Dabcyl(4-(4'-dimethylaminophenylazo)benzoic acid)、Ferrocene又はその誘導体、methyl viologen、N,N'-dimethyl-2,9-diazopyreniumの少なくとも何れかでる。
尚、上記の核酸測定方法に用いられる核酸プローブにおいて、一種の核酸プローブに標識されている蛍光色素(ドナー色素)及びクエンチャー色素は、各々一種づつであり、オリゴヌクレオチドの標識箇所は各々少なくとも一箇所である。
【0081】
2)本願発明方法B
i)核酸測定方法が、少なくとも一種以上の対応核酸が存在する測定系において、当該対応核酸にハイブリダイズし、かつ発光蛍光色の異なる核酸プローブを対応核酸種の数と少なくとも同数存在させ、当該核酸プローブと対応核酸をハイブリダイズさせた後、核酸プローブ種の数と少なくとも同数の波長で、ハイブリダイゼーション前後における核酸プローブの蛍光強度の変化又はマイナスの変化量の増大を測定することを特徴とする核酸の新規測定方法。
【0082】
ii)核酸プローブが、FRET現象を引き起こす蛍光色素ペアーすなわちドナー色素になり得る蛍光色素(ドナー色素)とアクセプター色素になり得る蛍光色素(アクセプター色素)のペアーを少なくとも1ペアを形成するように複数種の蛍光色素で標識された一本鎖のオリゴヌクレオチドからなる核酸プローブにおいて、当該プローブが対応核酸にハイブリダイズしたときに、クエンチャープローブの非存在下にアクセプター色素のハイブリダイゼーション前後における蛍光強度の変化又は変化量がマイナスに増大するように塩基配列が設計され、かつ前記色素が標識されているものである前記i)に記載の核酸の新規測定方法。
【0083】
iii)核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしたときに、クエンチャー核酸プローブの非存在下において、ドナー色素及びアクセプター色素の蛍光強度の変化又は変化量がマイナスに増大する核酸プローブである前記(2)に記載の核酸プローブを用いる前記i)又は前記ii)に記載の核酸の新規測定方法。
【0084】
iv)前記ii)又はiii)に記載の核酸プローブが更に次の少なくとも何れか1項に記載の特質を有する核酸プローブを用いる前記i)に記載の核酸の新規測定方法。。
(1)核酸プローブを標識している色素がドナー色素となり得る蛍光色素でBODIPY FL、BODIPY 493/503、5-FAM、Tetramethylrhodamine、又は6-TAMRAの少なくとも一種である。
(2)核酸プローブがドナー色素とアクセプター色素の一対の色素ペアーで標識されている。
【0085】
(3)核酸プローブが、その末端部においてドナー色素或いはアクセプター色素で標識されており、当該核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしたとき、当該プローブ内のドナー色素或いはアクセプター色素で標識された塩基から1ないし3塩基離れて(この場合、末端塩基を1塩基と計数するものとする。以下の発明においても同様である。)、対応核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基存在するように、当該ローブの塩基配列が設計されている。
【0086】
(4)核酸プローブが、対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、ドナー色素標識部においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されている。
【0087】
(5)ドナー色素が核酸プローブの5’末端部(5’末端を含む。)を標識している。
(6)ドナー色素が核酸プローブの3’末端部(3’末端を含む。)を標識している。
(7)核酸プローブの5’末端塩基がG又はCで、かつ5’末端がドナー色素で標識されている。
(8)核酸プローブの3’末端塩基がG又はCで、かつ3’末端がドナー色素で標識されている。
(9)アクセプター色素が核酸プローブの5’末端部(5’末端を含む。)を標識している。
【0088】
(10)アクセプター色素が核酸プローブの3’末端部(3’末端を含む。)を標識している。
(11)核酸プローブの5’末端塩基がG又はCで、かつ5’末端がアクセプター色素で標識されている。
(12)核酸プローブの3’末端塩基がG又はCで、かつ3’末端がアクセプター色素で標識されている。
(13)核酸プローブの塩基配列が、当該プローブが対応核酸と結合した際に、プローブ内のドナー色素あるいはアクセプター色素で標識された塩基から、1ないし3塩基離れて、対応核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基存在するように設計されている。
【0089】
v)蛍光色素で標識された一本鎖のオリゴヌクレオチドからなる核酸プローブであって、当該核酸プローブが対応核酸にハイブリダイゼーションしたときに、前記蛍光色素が、クエンチャープローブ若しくはクエンチャー色素の非存在下にその蛍光強度の変化又は変化量がマイナスに増大し、かつ、当該プローブは、その末端部において前記蛍光色素で標識されており、当該核酸プローブが当該末端部において対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該プローブにハイブリダイゼーションした対応核酸の末端塩基から1ないし3塩基離れて、対応核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されている核酸プローブを用いる前記i)に記載の核酸の新規測定方法。
【0090】
vi)前記v)に記載の核酸プローブが次項の少なくとも何れか1項に記載の特質を有する核酸プローブを用いる前記i)に記載の核酸の新規測定方法。
(1)核酸プローブが3’末端において蛍光色素で標識されている。
(2)核酸プローブが5’末端において蛍光色素で標識されている。
【0091】
vii)蛍光色素で標識された一本鎖のオリゴヌクレオチドからなる核酸プローブであって、当該核酸プローブが対応核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、クエンチャープローブの非存在下に蛍光強度の変化又は変化量がマイナスに増大する核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、その末端部において前記蛍光色素で標識されており、当該核酸プローブが、前記対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部分においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されている核酸プローブを用いる前記i)に記載の核酸の新規測定方法。
【0092】
viii)前記vii)に記載の核酸プローブが次項の少なくとも何れか1項に記載の特質を有する核酸プローブを用いる前記i)に記載の核酸の新規測定方法。
(1)核酸プローブの3’末端塩基がG又はCで、かつ3’末端が蛍光色素で標識されている。
(2)核酸プローブの5’末端塩基がG又はCで、かつ5’末端が蛍光色素で標識されている。
【0093】
(3)核酸プローブの5’末端塩基がG又はCで、かつ5’末端が蛍光色素で標識されている核酸プローブが、3’末端のリボース若しくはデオキシリボースの3’炭素の水酸基、又は3’末端のリボースの2’炭素の水酸基がリン酸化されている。
(4)核酸プローブの5’末端又は/及び3’末端のリン酸基が蛍光色素で標識されている。
【0094】
ix)蛍光色素で標識された一本鎖のオリゴヌクレオチドからなる核酸プローブであって、対応核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、クエンチャー核酸プローブの非存在下に蛍光強度の変化又は変化量がマイナスに増大する核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、5’末端のリン酸基あるいは3’末端のOH基以外の部分で前記蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが、前記対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該標識部分においてプローブ−核酸複合体の複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されている核酸プローブを用いる前記i)に記載の核酸の新規測定方法。
【0095】
本発明においては、前記の公知の各種の方法、本願発明方法A及びBの方法を本発明の核酸の新規測定方法に適用するために、前記の核酸プローブを、少なくとも一種の蛍光色素(ドナー色素、アクセプター色素をも含めて、本発明に利用できる蛍光色素。)で標識された一種の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブにする必要がある。又、測定系に添加する核酸プローブは、即ち標的核酸プローブ、内部標準核酸プローブは各々少なくとも一種である。
【0096】
なお、本発明において、「ハイブリダイゼーション前後における核酸プローブの蛍光強度の変化又はマイナスの変化量の増加を測定する」とは、一例を挙げると、ハイブリダイゼーション前後における核酸プローブの蛍光強度の測定値のマイナスの差、又、ハイブリダイゼーション反応系の時間を関数とする蛍光強度のマイナスの変化率などをいう。又、PCRにおいては、反応サイクルを関数とする蛍光強度の変化若しくは変化率などをいう。「蛍光強度の変化又はマイナスの変化量が増大する」とは、この場合の最も簡単な例は、測定系の蛍光強度の減少量が増大する場合を挙げることができる。
【0097】
例えば、前記Morrisonらの方法(Morrison et al.,Anal. Biochem.,183:231-244(1989))におけるクエンチャープローブような核酸プローブを使用しないで、核酸プローブの発光に由来する測定系の、ハイブリダイゼーション後における蛍光強度の変化(例えば、減少)の測定値、又ハイブリダイゼーション反応中の時間を関数とする蛍光強度の減少率を測定するという意味である。又PCRにおいては反応サイクルを関数とする蛍光強度の変化率(例えば、減少率)を測定するという意味である。又、クエンチャープローブ、クエンチャー核酸プローブなる用語の意味は核酸プローブに作用して核酸プローブの発光を抑制する核酸プローブのことであり、前記Morrisonらの方法におけるクエンチャープローブのような核酸プローブのことをいう。
【0098】
1)本発明方法Aに用いられる核酸プローブについて、以下詳しく述べる。
本プローブの特徴は、対応核酸にハイブリダイズしていないときは、蛍光色素の発光が、クエンチャー色素により、阻害されているが、ハイブリダイズしているときは、その阻害が解除され、蛍光強度が変化(例、増加)するプローブである。
【0099】
本発明において蛍光物質とは、一般に核酸プローブに標識して、核酸の測定・検出に用いられている蛍光色素の類である。例えば、フルオレセイン(fluorescein)又はその誘導体類{例えば、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)(FITC)若しくはその誘導体等、Alexa 488、Alexa 532、cy3、cy5、6-joe、EDANS、ローダミン(rhodamine)6G(R6G)又はその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(teramethylrhodamine)(TMR)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(tetramethylrhodamine isothiocyanate)(TMRITC)、x−ローダミン(x-rhodamine)、テキサスレッド(Texas red)、ボデピー(BODIPY)FL(ボデピー(BODIPY)は商標名、FLは商品名;モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)社製、米国;以下同様)、ボデピー(BODIPY)FL/C3、ボデピー(BODIPY)FL/C6、ボデピー(BODIPY)5-FAM、ボデピー(BODIPY)TMR、又はその誘導体(例えば、ボデピー(BODIPY)TR)、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)564、ボデピー(BODIPY)581、6-TAMURA等を挙げることができる。これらの中でも、FITC、EDANS、テキサスレッド、6-joe、TMR、Alexa 488、Alexa 532、ボデピー(BODIPY)FL/C3、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)FL、Alexa532、ボデピー(BODIPY)FL/C6、ボデピー(BODIPY)TMR、5-FAM、ボデピー(BODIPY)493/503、ボデピー(BODIPY)564、ボデピー(BODIPY)581、6-TAMURA、Cy3、Cy5、Texas red、x-Rhodamine等を好適なものとして挙げることができる。
【0100】
クエンチャー物質とは、前記蛍光物質に作用して、その発光を抑制もしくは消光する物質である。例えば、Dabcyl、QSY7(モルキュラー・プローブ)、QSY33(モルキュラー・プローブ)、Ferrocene又はその誘導体、methyl viologen、N,N'-dimethyl-2,9-diazopyreniumなど、好適にはDabcylなどを挙げることができる。
前記のような、蛍光物質及びクエンチャー物質を、オリゴヌクレオチドの特定の位置に標識することにより、蛍光物質の発光は、クエンチャー物質によりクエンチング効果を受ける。
【0101】
本発明において、本発明の核酸プローブを形成し、蛍光物質が標識されている個所とクエンチャー物質が標識されている個所の塩基鎖間でステム・ループ構造を形成することのない一本鎖のオリゴヌクレオチドとは、蛍光物質が標識されている個所とクエンチャー物質が標識されている個所の塩基鎖間で、少なくとも2か所以上の個所の塩基配列の相補性から、自己鎖中において2重鎖を形成し、ステム・ループ構造を形成することのないオリゴヌクレオチドのことを云う。
【0102】
本発明の核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしているときは、ハイブリダイゼーション反応系の蛍光強度が変化(例、増加)するように、蛍光物質とクエンチャー物質を、本発明のオリゴヌクレオチドに標識するには、以下のように行えばよい。蛍光物質が標識されている個所の塩基とクエンチャー物質が標識されている個所の塩基の距離は、塩基数にしてゼロすなわち蛍光物質及びクエンチャー物質が一本鎖のオリゴヌクレオチドの同一のヌクレオチドの個所に標識するか、又は、塩基数にて1〜20、又は、{(3から8の任意の整数)+10n}(ただし、nは0を含む整数)である。好ましくは、一本鎖のオリゴヌクレオチドの同一のヌクレオチドの個所、又は、3〜8若しくはそれらの中の任意の数に10を加算したものである。より好ましくは一本鎖のオリゴヌクレオチドの同一のヌクレチドの個所、又は、3〜8である。このように、各物質をオリゴヌクレオチドに標識するのがよい。しかしながら、塩基の間隔は、プローブの塩基配列、標識に用いる蛍光物質とクエンチャー物質、それらをオリゴヌクレオチドに結合させるリンカーの長さなどに強く依存する。それで、塩基間隔を完全に特定するのはむずかしく、前記の塩基間隔はあくまでも一般的例であり、例外的なものが多い。
【0103】
標識する個所は、一本鎖のオリゴヌクレオチドの同一ヌクレオチドの個所に標識する場合、一方を塩基に、他方を塩基以外の部分、すなわちリン酸部、又はリボース部もしくはデオキシリボース部に標識するのが好適である。なお、この場合、3’末端部又は5’末端部に標識するのが好適である。
【0104】
又は、蛍光物質とクエンチャー物質を標識する塩基の距離を前記のようにした場合、各物質をオリゴヌクレオチドの鎖中に標識してもよく、又一方をオリゴヌクレオチドの5’末端又は3’末端に標識し、対応する他の物質を鎖中に標識してもよい。好ましくは蛍光物質又はクエンチャー物質をオリゴヌクレオチドの5’末端又は3’末端に、対応するクエンチャー物質又は蛍光物質をそれらの末端から、上記の塩基数の間隔をおいて標識するのがよい。この場合、3’末端部、又は5’末端部に標識するとき、塩基、リン酸部、又はリボース部もしくはデオキシリボース部に、好ましくはリン酸部、リボース部もしくはデオキシリボース部に、より好ましくはリン酸部に標識するのがよい。又鎖中に標識する場合は、鎖中の塩基に標識するのが好適である。
【0105】
2)本願発明方法Bのi)〜iii)の核酸測定方法に用いられる核酸プローブについて以下詳しく述べる。
本発明においてドナー色素となり得るドナー色素とは、少なくとも、a.特定波長で励起され、特定波長で発光する、b.発光エネルギーを特定の色素(アクセプター色素になり得る色素)に転移することができる、c.核酸プローブが対応核酸とハイブリダイズしたときに生ずるGC塩基対の複合体(GC塩基対の水素結合体)(以下簡便のため、GC水素結合体という場合もある。)が、ドナー色素の近旁に存在するときは当該塩基対の方へエネルギーを転移することができる、などの条件を充たすものと定義される。すなわち、この条件を充たす色素であればどのようなものでもよい。一般に、FRET現象においてドナー色素となり得る色素で、それ自体を単独で標識した核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしたときにプローブの蛍光強度が変化(例、減少)するものが好適に用いられる(Nucleic Acid、29巻、No.6 e34、2001年)。
【0106】
用いられる色素は、具体的には、前記本発明Aに用いられる色素と同様であるが、その中でも好適なドナー色素として、BODIPY FL、BODIPY FL系の前記色素、BODIPY 493/503)、5-FAM、ボデピー(BODIPY)5-FAM、Tetramethylrhodamine、6-TAMRAなどを、より好適なものとして、BODIPY FL、BODIPY 493/503、5-FAM、Tetramethylrhodamine、6-TAMRAなどを挙げることができる。しかしながら、本発明において、これらの例示に限定されるものではない。
【0107】
又、アクセプター色素は一般にFRET現象において、ドナー色素との対において、アクセプター色素となり得る色素、すなわち、ドナー色素からエネルギー転移を受け得る(言葉を換えるとドナー色素に対してクエンチング(消光作用)作用をする)色素であればどのようなものでもよい。そして、対を形成するドナー色素の種類に依存する。強いて例示するならば、BODIPY FL、BODIPY FL系の前記色素、BODIPY 493/503、5-FAM、ボデピー(BODIPY)5-FAM、Tetramethylrhodamine、6-TAMRAなどをドナー色素とするならば、ローダミン(rhodamine)X、BODIPY 581/591などをアクセプター色素とすることができる。しかしながら、本発明において、これらの例示に限定されるものではない。
【0108】
好ましい核酸プローブの構造は、その末端部においてドナー色素で標識されており、当該核酸プローブが当該末端部において対応核酸にハイブリダイズしたとき、当該プローブにハイブリダイズした対応核酸の末端塩基から1ないし3塩基離れて、対応核酸の塩基配列にC(シトシン)又はG(グアニン)が少なくとも1塩基存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることである。
【0109】
より好ましくは、核酸プローブが、対応核酸にハイブリダイゼーションしたとき、ドナー色素標識部においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることである。
特に好適には、ドナー色素標識部位はG(グアニン)又はC(シトシン)塩基か、又はその塩基を有するヌクレオチドのリン酸基、又はリボースのOH基である。
【0110】
ドナー色素及びアクセプター色素の標識部位は、ドナー色素又はアクセプター色素が核酸プローブの5’末端部において、塩基、リン酸部又はデオキシリボース部、又はリボース部を標識しているときに、アクセプター色素又はドナー色素が核酸プローブの鎖中もしくは3’末端部(3’末端塩基を含む。)である。又、ドナー色素が核酸プローブの3’末端部において、塩基、リン酸部又はデオキシリボース部、又はリボース部を標識しているときに、ドナー色素又はアクセプター色素が核酸プローブの鎖中もしくは5’末端部(5’末端塩基を含む。)である。末端部を標識する場合には、両者の色素で、標識してもよい。すなわち、例えば、両者の一方で、リン酸部を標識し、他方でデオキシリボース部又はリボース部、又は塩基部を標識してもよい(例えばドナー色素とアクセプター色素の標識部塩基間距離が0の場合(下記に記述した。))。又、側鎖を有するスーペサーを用いて、一本のスーペサーに両者を結合させてもよい。本発明においてはドナー色素、アクセプター色素共に鎖中を標識しておいても前記の条件さえ充たせばよいことは勿論である。
前記各部位における蛍光色素の結合位置は、OH基、又はアミノ基にスペサーを介して結合させるのが好適である。
【0111】
ドナー色素とアクセプター色素の標識部塩基間距離は、本質的にはドナー色素とアクセプター色素の色素ペアーの種類に依存するが、一般的には0〜50塩基、好ましくは0〜40塩基、より好ましくは0〜35塩基、特に好ましくは0〜15塩基である。50塩基を越えると、FRET現象が不安定になる。15〜50塩基では、アクセプター色素の蛍光強度は変化(例、減少)するが、ドナー色素の蛍光強度も変化(例、増加)する場合がある。すなわち、核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズしたとき、核酸プローブの立体構造が変化する場合がある。そしてその変化により核酸プローブの色素間のFRET現象が解消する場合が出てくる。ドナー色素に対するアクセプター色素のクエンチング作用(消光作用)とドナー色素に対するGCの水素結合体のクエンチング(quenching)作用の大小に依存して、ドナー色素の蛍光強度がハイブリダイゼーション前より増加したり、減少したりする。GCの水素結合体のクエンチング作用の方が大きいときは減少するが、小さいときは増加する場合がある。
【0112】
それで、本発明のプローブの好ましい形態は、ドナー色素とアクセプター色素の標識部が塩基間距離を有し、ドナー色素がBODIPY FL、BODIPY 493/503、5-FAM、Tetramethylrhodamine、又は6-TAMRAで、又アクセプター色素が6-TAMRA、BODIPY 581/591、X−ローダミンで、5’末端塩基がG又はCで、かつ5’末端がドナー色素或いはアクセプター色素で標識されているものか、又は、核酸プローブの3’末端塩基がG又はCで、かつ3’末端がドナー色素或いはアクセプター色素で標識されているものである。特に好ましい形態は、色素標識部位に対応する対応核酸の塩基がGであるものである。この場合、色素標識部位の塩基が必ずしもCである必要はない。
【0113】
本発明の核酸測定用の新規な核酸プローブの構造は上記の通りである。このような構造になっていると、励起されたドナー色素のエネルギーは対応核酸にハイブリダイズしていないときは、アクセプター色素に転移するので、アクセプター色素が発光して、強い蛍光強度を有している。それで、ドナー色素は発光が抑制されているので、蛍光強度は低いレベルに保たれている。ところが、核酸プローブが対応核酸にハイブリダイズすると、ドナー色素或いはアクセプター色素のエネルギーはプローブ−核酸ハイブリッド複合体により生ずるGCの水素結合体若しくは対応核酸のGの方に転移する。
【0114】
なお、本発明の核酸プローブは、対応核酸にハイブリダイズしたときに、核酸プローブの発光の蛍光強度が、ハイブリダイゼーション前に較べて著しく減少する。又、本発明において一種類のドナー色素に複数のアクセプター色素の組み合わせができるので、その組み合わせの数の核酸プローブができる。しかも前記性質を有している。
【0115】
実際の核酸測定においては、アクセプター色素の蛍光強度の減少を測定することになるので、一つの励起波長で多種類の核酸プローブを同時に使用できることになる。そのことは、同一測定系内に多種類の対応核酸が存在する場合に、このような核酸プローブを同時に添加すれば、一つの励起波長で多種類の核酸を同時に測定できることになる。すなわち、単純な装置でで多種類の核酸を同時に測定できることになる。
なお、上記i)〜iii)に記載の核酸測定方法に用いられる核酸プローブにおいて、一つの核酸プローブに標識されている蛍光色素及びクエンチャー色素は各々一種づつであり、オリゴヌクレオチドの標識箇所は各々少なくとも一箇所である。
【0116】
3)本願発明方法Bのv)〜ix)の核酸測定方法に用いられる核酸プローブについて以下詳しく述べる。
前記のKURATAらの方法で代表される方法で用いられる核酸プローブである。
本核酸プローブの特徴は、少なくとも一種の蛍光色素で標識された一本鎖のオリゴヌクレオチドからなるものであり、対応核酸にハイブリダイズさせると、クエンチャープローブ若しくはクエンチャー色素の非存在下(測定系に当該クエンチャープローブを存在させないで)においても、すなわちクエンチャー色素との相互作用なしに、核酸プローブの蛍光強度が変化(例、減少)する性質を有する。
原理的には、核酸プローブの発光エネルギーがプローブと対応核酸のGCペア(水素結合複合体)、特に対応核酸のGに移行して、発光が抑制される現象に基づくものである。
【0117】
本発明のプローブの塩基数は前記発明と同様である。そのプローブの塩基配列は、対応核酸に特異的にハイブリダイズするものであればよく、特に限定されない。好ましくは、核酸プローブが蛍光色素で標識されており、かつ対応核酸にハイブリダイズしたとき、
(1)蛍光標識した塩基から1ないし3塩基離れて、対応核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されている塩基配列、
(2)当該プローブにハイブリダイズした対応核酸の末端塩基部から1ないし3塩基離れて、対応核酸の塩基配列にG(グアニン)がすくなとも1塩基以上存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されいる塩基配列、
【0118】
(3)当該プローブの末端部分において核酸ハイブリッド複合体の複数の塩基対が少なくとも1対のG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、又は蛍光色素標識部位の対応核酸の塩基がGであるように当該プローブの塩基配列が設計されている塩基配列、
(4)5’末端リン酸基、3’末端0H基以外の部分において蛍光色素で標識されたプローブにおいては、蛍光色素で標識された部分の塩基対が少なくとも1対のG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを形成するように、又は蛍光色素標識部位の対応核酸の塩基がGであるように当該プローブの塩基配列が設計されている塩基配列、が好ましい。
【0119】
オリゴヌクレオチドに標識する蛍光色素は前記同様である。前記記載の中でも、FITC、EDANS、テキサスレッド(Texas red)、6-joe、TMR、x-rhodamine、Cy3、Cy5、Alexa 488、Alexa 532、5-FAM、ボデピー(BODIPY)FL、ボデピー(BODIPY)493/503、ボデピー(BODIPY)R6G、ボデピー(BODIPY)564、ボデピー(BODIPY)581、ボデピー(BODIPY)FL/C3、ボデピー(BODIPY)FL/C6、ボデピー(BODIPY)TMR、6-TAMURA等を好適なものとして、その中でも、特に、5-FAM、ボデピー(BODIPY)493/503、ボデピー(BODIPY)FL、6-joe、TMR、6-TAMURAなどをより好適なもの(蛍光強度減少率が60%以上を有する。)として挙げることができる。
オリゴヌクレオチドに蛍光色素を標識する方法は、前記発明と同様である。
又、プローブ核酸の鎖内に蛍光色素分子を導入することも可能である(ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 225,32-38頁(1998年))。
【0120】
好ましいプローブの形態は、3’又は5’末端が蛍光色素で標識されたものであり、その標識されている末端の塩基がG又はCであるもの、又は蛍光色素標識部位の対応核酸の塩基がGであるものである。5’末端が標識され、3’末端が標識されていない場合、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位炭素のOH基をリン酸基等、又3’末端のリボースの2’位炭素のOH基をリン酸基等で修飾してもよく何ら制限されない。
又、プローブ鎖内の塩基、特にC、又はGを修飾しても良い。
なお、上記v)〜ix)に記載の核酸測定方法に用いられる核酸プローブにおいて、一つの核酸プローブに標識されている蛍光色素は少なくとも一種であり、標識箇所は少なくとも一箇所である。
【0121】
本発明の核酸測定方法A及びBに使用される核酸プローブ(以下、簡便化のためは、各々を核酸プローブA又は核酸プローブBという場合がある。)はオリゴデオキシリボヌクレオチド又は、オリゴリボヌクレオチドで構成されていてもよい。又、それらの両方を含むキメリックオリゴヌクレオチド(chimeric oligonucleodite)でもよい。それらのオリゴヌクレオチドは化学的修飾を受けたものでもよい。化学的修飾を受けたオリゴヌクレオチドをキメリックオリゴヌクレオチドの鎖中に介在させてもよい。
【0122】
前記の化学的修飾を受けるオリゴヌクレオチドの修飾部位として、オリゴヌクレオチド末端部の末端水酸基もしくは末端リン酸基、又は鎖中のヌクレオシドリン酸部位、ピリミジン環の5位の炭素、及びヌクレオシドの糖(リボースもしくはデオキシリボース)部位を挙げることができる。好適にはリボースもしくはデオキシリボース部位を挙げることができる。
【0123】
本発明の核酸プローブのオリゴヌクレオチドは、通常の一般的オリゴヌクレオチドの製造方法で製造できる。又市販されている核酸合成機を使用して合成するのが好適である(例えば、ABI394(Perkin Elmer社製、USA))。
【0124】
オリゴヌクレオチドに蛍光色素を標識するには、従来公知の標識法のうちの所望のものを利用することができる(Nature Biotechnology、14巻、303〜308頁、1996年;Applied and Environmental Microbiology、63巻、1143〜1147頁、1997年;Nucleic acids Research、24巻、4532〜4535頁、1996年)。例えば、5’末端に蛍光色素分子を結合させる場合は、先ず、常法に従って5’末端のリン酸基にスペーサーとして、例えば、-(CH2)n-SHを導入する。これらの導入体は市販されているので市販品を購入してもよい(メドランド・サーテイファイド・レージント・カンパニー(Midland Certified Reagent Company))。この場合、nは3〜8、好ましくは6である。このスペーサーにSH基反応性を有する蛍光色素又はその誘導体を結合させることにより蛍光色素で標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。このようにして合成された蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明の核酸プローブとすることができる。
【0125】
又、オリゴヌクレオチドの3’末端塩基も標識できる。
この場合は、リボース又はデオキシリボースの3’位CのOH基にスペーサーとして、例えば、-(CH2)n-NH2を導入する。これらの導入体も前記と同様にして市販されているので市販品を購入してもよい。又、リン酸基を導入して、リン酸基のOH基にスペサーとして、例えば、-(CH2)n-SHを導入する。これらの場合、nは3〜8、好ましくは4〜7である。このスペーサーにアミノ基、SH基に反応性を有する蛍光色素又はその誘導体を結合させることにより蛍光色素で標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。
【0126】
又、オリゴヌクレオチドの鎖中塩基も標識できる。
塩基のアミノ基又はOH基を5’又は3’末端の方法と同様にして本発明の色素で標識すればよい(ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 225、32-38頁(1998年))。
アミノ基に導入する場合、キット試薬(例えば、Uni-link aminomodifier(CLONTECH社製、米国)、フルオ・リポターキット(FluoReporter Kit)F-6082、F-6083、F-6084、F-10220(いずれもモレクキュラー・プローベ(Molecular Probes)社製、米国))を用いるのが便利である。そして、常法に従って当該オリゴリボヌクレオチドに蛍光色素分子を結合させることができる。
このようにして合成されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明の核酸プローブとすることができる。
【0127】
本発明の内部標準プローブとは、前記の核酸プローブの形態のものを利用しているもので、以下のような特質を有するものである:
1)少なくとも一種以上の蛍光色素で標識されている。
2)内部標準核酸プローブが、一定条件下で内部標準核酸とのみハイブリダイズし、標的核酸とハイブリダイズしない配列を有する。
3)内部標準核酸とハイブリダイズすることによる、標識された蛍光色素の蛍光強度が変化若しくは変化量が、標的核酸プローブが標的核酸とハイブリダイズすることにより生ずる、標的核酸プローブに標識された蛍光色素の蛍光強度の変化若しくは変化量とは明瞭に識別可能である。
【0128】
4)(1)内部標準核酸プローブが、標的核酸とプローブ・核酸複合体を形成する場合:
内部標準核酸の塩基配列が、内部標準核酸プローブと内部標準核酸とのプローブ・核酸複合体のTm値が、内部標準核酸プローブと標的核酸とのプローブ・核酸複合体のTm値に比較し、3℃以上、好ましくは6℃以上、より好ましくは10℃以上の差を有するものである。
(2)標的核酸プローブが、内部標準核酸とプローブ・核酸複合体を形成する場合:
内部標準核酸の塩基配列が、当該プローブ・核酸複合体のTm値が、標的核酸プローブと標的核酸とのプローブ・核酸複合体のTm値に比較し、3℃以上、好ましくは6℃以上、より好ましくは6℃以上の差を有するものである。
【0129】
又、標的核酸プローブとは、標的核酸に特異的にハイブリダイズする塩基配列を有するもので、内部標準核酸には特異的にハイブリダイズしない塩基配列を有するものである。
同様に、内部標準核酸プローブとは、内部標準核酸に特異的にハイブリダイズする塩基配列を有するもので、標的核酸には特異的にハイブリダイズしない塩基配列を有するものである。
本発明においては、上記のプローブが、一種の標的核酸若しくは内部標準核酸に対して少なくとも一種用いられる。
内部標準核酸、内部標準核酸プローブ、標的核酸、標的核酸プローブは前記のようなものである。これらのことは、後記の核酸増幅方法を用いる核酸の測定方法においても、同様である。しかしながら、これは一例であり、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0130】
本発明は前記のような、少なくとも一種の標的核酸プローブ及び/又は少なくとも一種の内部標準核酸プローブを、少なくとも一種の、既知濃度の内部標準核酸と伴に、少なくとも一種の標的核酸を含む測定系に添加し、ハイブリダイゼーション反応を行わせ、測定系若しくはハイブリダイゼーション反応系の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブに標識された蛍光色素の蛍光強度の変化若しくは変化量を、少なくとも一種の波長で測定して、当該測定値及び内部標準核酸の濃度から、標的核酸濃度を測定するものである。
本発明ににおいて、測定系若しくはハイブリダイゼーション反応系は、溶液系、固体系を問わない。
【0131】
ハイブリダイゼーション反応の条件は、通常の公知の条件で行ってもよい。特に温度については、好適には実施例1に示されているように、次の手順の実験を行って、好適な温度条件を求めるのがよい:
(1)標的核酸と標的核酸プローブ若しくは内部標準核酸プローブの解離曲線を求める。
(2)内部標準核酸と内部標準核酸プローブ若しくは標的核酸プローブの解離曲線を求める。
(3)上記の解離曲線から、標的核酸と標的核酸プローブがハイブリダイズしているが、標的核酸と内部標準核酸プローブのプローブ・核酸プローブ複合体が解離している温度、及び内部標準核酸と内部標準核酸プローブがハイブリダイズしているが、内部標準核酸と標的核酸のプローブ・核酸プローブ複合体が解離している温度を求める。そして、両者の共通の温度がハイブリダイゼーションの温度である。
緩衝液、金属イオン等は通常の公知の条件でよい。
【0132】
前記の「変化量」とは、より具体的に例示すると以下のようである。標的核酸と標的核酸プローブ若しくは内部標準核酸と内部標準核酸プローブとのハイブリダイゼーション前後の測定系におけるある特定の測定波長での蛍光強度の差又は蛍光強度の変化率をいう。この場合の測定波長は、少なくとも一種以上である。これは一つの核酸プローブを標識している一つの蛍光色素について、少なくとも一種以上の波長で測定するという手順から来ている。
蛍光強度の変化率とは、ハイブリダイゼーション反応開始後の時間を関数とする反応開始前の蛍光強度に対する蛍光強度の変化量、変化率、又、PCRにおけるサイクル数を関数とする反応開始前の蛍光強度値に対する反応開始後の蛍光強度の変化率のことをいう。
【0133】
「標的核酸プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションにより生じる標的核酸プローブの蛍光キャラクターの変化又は変化量、内部標準核酸プローブと内部標準核酸とのハイブリダイゼーションにより生じる内部標準核酸プローブの蛍光強度の変化又は変化量及び内部標準核酸の添加量から、標的核酸を測定する」とは、例えば、既知濃度の内部標準核酸の量又は濃度と、内部標準核酸プローブが内部標準核酸とハイブリダイゼーションしたときの内部標準核酸プローブの蛍光強度の変化若しくは変化量との関係を、目視可能なようにグラフ化しておくか、又は数学的関係式にしておき、標的核酸プローブの蛍光強度変化若しくは変化量をグラフ又は関係式に挿入して標的核酸の量又は濃度を決めることを言う。又は前記グラフ又は関係式から標的核酸の量又は濃度を決める手順を、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録しておいて、標的核酸と標的核酸プローブがハイブリダイズしたときの標的核酸プローブに由来する蛍光強度の変化若しくは変化量をコンピュータにインプットして標的核酸の量又は濃度を決めることを言う。
【0134】
具体的には、
1)先ず、核酸間のハイブリダイゼーション反応、核酸増幅反応(ここでは核酸プローブを用いた反応である。以下、同様)を阻害しないと見做される反応系(測定系)で、既知濃度の標的核酸、内部標的核酸と相応するプローブを添加し、各反応を行う。
2)ハイブリダイゼーション反応、核酸増幅反応に由来する反応系(測定系)の蛍光強度の変化量若しくは変化率を測定する。
3)各核酸濃度と当該蛍光強度の変化量若しくは変化率の関係をグラフ化若しくは数式化する。
4)少なくとも一種の標的核酸を含む未知試料、標的核酸プローブ、既知の各種濃度の内部標準核酸、内部標準核酸プローブを用いて、ハイブリダイゼーション反応、核酸増幅反応を行う。そして、反応系の標的核酸プローブ、内部標準核酸プローブに標識されている各蛍光色素に由来する、反応系の蛍光強度の変化量、変化率を測定、算出する。
【0135】
5)前記4)における内部標準核酸プローブの蛍光色素に由来する反応系の蛍光強度の変化量、変化率と内部標準核酸の濃度又は内部標準核酸の増幅前の濃度との関係をグラフ化若しくは数式化する。
6)前記3)で得られた内部標準核酸についてのグラフ、若しくは数式を、前記5)で得られたものと比較・検討する。差がない場合は前記3)で得られたグラフ若しくは数式がそのまま使用できる。差がある場合は、手動若しくはコンピュータにより、差の係数を算出する。
7)当該係数を用いて前記3)の標的核酸についてのグラフ若しくは数式を補正する。
8)当該補正したグラフ若しくは数式に前記4)で得られた標的核酸についての蛍光強度の変化量若しくは変化量を当てはめて、未知試料中の標的核酸の濃度若しくはコピー、又は標的核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を求める。
【0136】
なお、上記の標的核酸の濃度を求める方法には各種のバリエションがあり、上記の例に限定されるものではない。
例えば、未知試料に内部標準核酸の既知量を添加する。標的核酸プローブ及び内部標準核酸プローブを用いて、ハイブリダイゼーション反応を行う。各プローブに標識された蛍光色素の蛍光強度の変化量を測定する。内部標準核酸についてのこの変化量と内部標準核酸濃度の関係が、標的核酸にも適用できると見做す(なお、ハイブリダイゼーション阻害物若しくは多型が存在しない系で当該見做しが出来ることを確認しておく)。それで、前以て内部標準核酸についてのこの変化量と内部標準核酸濃度の関係式を当該未知試料を使用して求めておく。当該関係式から未知試料中の標的核酸の濃度を推定できる。
【0137】
本発明の特徴は、蛍光強度の測定には少なくとも一種以上の波長で行うことである。例えば、一つの測定系に標的核酸が一種存在する場合は、標的核酸とそれにハイブリダイズする標的核酸プローブの測定と内部標準核酸とそれにハイブリダイズする内部標準核酸プローブの測定を同時に行うため少なくとも二種の波長が必要になる。標的核酸が二種ある場合は、測定波長は少なくとも4波長になる。
【0138】
しかしながら、本発明においては、前記測定を必ずしも同時に行う必要はない。すなわち、内部標準核酸と内部標準核酸プローブ、又標的核酸と標的核酸プローブのハイブリダイゼーション時における各プローブの蛍光強度の変化若しくは変化量を測定する場合に、必ずしも同時に行わずに別々の測定系について行ってもよい。この場合は測定波長は少なくとも一種でよい。その測定が別々でも測定系には、標的核酸若しくは内部標準核酸が含まれているのが好ましい。勿論それらの核酸が含まれていなくとも本発明方法は実施できる。
【0139】
又、本発明において、一つの標的核酸に少なくとも一種のプローブを存在させてもよいということは、一つの標的核酸に複数種のプローブがハイブリダイズする塩基配列がそのハイブリダイズする領域が重複することなく、複数あってもよいということである。この場合は、プローブの種類だけ測定波長が増加することになる。
本発明において、測定条件は、前記の公知の条件でよく、標的核酸を測定する方法に応じてそれに適したように変化させればよい。
【0140】
次に本発明の第2発明を以下に述べる。
第2の発明は、少なくとも一種の標的核酸を含む測定系若しくは核酸増幅反応系に、前記した少なくとも一種の、既知濃度の内部標準核酸、少なくとも一種の標的核酸プローブ及び/又は少なくとも一種の内部標準核酸プローブを添加若しくは存在させて、核酸増幅方法により、標的核酸及び/又は内部標準核酸を増幅し、各核酸プローブに標識さている蛍光色素の蛍光強度の、各サイクルの核酸増幅反応前後の変化若しくは変化量をリアルタイムで測定して、当該測定値及び内部標準核酸の濃度から、標的核酸の増幅前の濃度若しくはコピーを測定する方法である。
【0141】
本発明でいう核酸増幅方法とは、インビトロ(in vitro)で核酸を増幅する方法のことをいう。
例えば、公知、未公知を問わない。例えば、PCR方法、定量的PCR方法、LCR方法(ligase chain reaction)、リアルタイムモニタリング定量的PCR方法(real time monitoring quantitative polymerase chain reaction assays)、TAS方法、RT-PCR、RNA-primed PCR、Stretch PCR、逆PCR、Alu配列を利用したPCR、多重PCR、混合プライマーを用いたPCR、PNAを用いたPCRなどの方法(蛋白質・核酸・酵素:35巻、17号、1990年、共立出版株式会社;実験医学、15巻、7号、1997年、羊土社;PCR法利用の手引き、矢崎義雄編、1998年、中外医学社)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)方法、LAMP方法、NASRA方法、RCA方法、TAMA方法、UCAN方法等を全て含めるものとする。又、定量的とは、本来の定量測定の他に、検出程度の定量測定をも意味するのは前記同様である。尚、融解曲線の解析もしくは分析する方法等をも含むとする。
【0142】
I)公知方法
一例として、PCR方法について説明する。
PCR方法には次のプローブの利用の仕方で以下の二つの場合に分けられる。
A)核酸プローブをPCRによる増幅産物に単にハイブリダイズさせて、蛍光強度の変化を単にシグナルとして利用する場合(Witwer et al.,US Patent No.6,174,670 B1;Livak et al.,US Patent No.5,538,848;KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34;EP 1 046 717 A9;特開2001-286300(P2001-286300A)); US Patent No. 6,495,326)
【0143】
この場合、核酸プローブの用い方で、二つの場合に分けられる。
a)2本の核酸プローブを用いる方法
前記Morrisonらの方法(Morrison et al.,Anal.Biochem.,183:231-244,1989)、及びMergneyらの方法(Mergney et al.,Nucleic acid Res.,22:920-928,1994)で代表される方法である。即ち、ドナー核酸プローブとアクセプター核酸プローブを用いる方法である。
(a)Mergneyらの方法は、2本の核酸プローブが増幅核酸にハイブリダイズするものである。そして、アニーリング反応時の核酸プローブのアクセプタープローブの蛍光強度、と核酸伸長反応時にDNAポリメラーゼにより核酸プローブが分解されて、増幅核酸から遊離したアクセプター色素の蛍光強度を測定する。各サイクルのこの測定値の差をリアルタイムで測定する方法である。
(b)Morrisonらの方法:
構造、作用、測定は第1発明及び前記に記載した通りである。
【0144】
b)一本の核酸プローブを用いる場合
この場合も以下の3つの場合に分けられる。
(a)分子ビーコン(molecular beacon)方法(Tyagi et al.,Nature Biotech.,14:303-308,1996;Schofield et al.,Applied and Environ. Microbiol.,63:1143-1147,1997);ヘヤーピンプローブ(サンライズプローブ)(商品名:Amplifluor haipin primers:Amplifluor haipin primers;Nazarenko, I.A.,Bhatnagar,S.K.and Hohman,R.J.(1997)A closed tube format for amplification and detection of DNA based on energy transfer.Nucleic Acids Res.,25,2516-2521.);スコーピオンプローブ((Whitcombe,D.,Theaker,J.,Guy,S.P.,Brown,T.and Little,S.(1999)Detection of PCR products using self-probing amplicons and fluorescence.Nature Biotechnol.,17,804-807.)で代表されるプローブを使用する方法。
【0145】
一種のオリゴヌクレオチドに、ドナー蛍光色素とアクセプター蛍光色素が、当該オリゴヌクレオチドの異なった部位に標識されている。当該オリゴヌクレオチドの立体構造に基づいて双方の色素はFRET現象を引き起こしている。増幅核酸と遭遇すると、立体構造が壊れて増幅核酸にハイブリダイズする。立体構造変化により、色素間のFRETて現象が解消する。増幅核酸にハイブリダイズしている核酸プローブは前記同様の運命になる。そして前記同様に蛍光強度の差が測定される。
【0146】
(b)Livakらの方法(US patent No.5,538,848)で代表される方法
構造、作用、測定は第1発明及び前記に記載した通りである。
(c)KURATAらの方法(KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34;EP 1 046 717 A9;特開2001-286300(P2001-286300A))で代表される方法(T.Horn, et al.,Nucleic acid Research,1997,25,4842-4849,1997;US Patent Application Publication No.US2001/0009760A1,Pub.Date:Jul.26,2001;US Patent No.6,140,054)で代表される方法である。
構造、作用、測定は第1発明及び前記に記載した通りである。
【0147】
B)前記の特定核酸プローブをPCRのプライマーとして利用する場合
KURATAらの方法(KURATA et al.,Nucleic acids Research,2001,vol.29,No.6 e34;EP 1 046 717 A9;特開2001-286300(P2001-286300A))による方法である。
一本鎖のオリゴヌクレオチドからなるプローブで、プローブの3’末端以外の部分、好適には5’末端側部、より好適には5’末端若しくは5’末端部を蛍光色素で標識し、3’末端のリボース又はデオキリボースの3’OH基をフリーにしておくプローブである。即ち当該プローブをPCRのプライマー(本発明においては、プラマープローブと呼称する場合もある。)として利用する方法である。増幅される対応核酸は蛍光色素で標識される。増幅核酸が変性された状態とプローブとハイブリダイズした状態のPCR測定(反応)系の蛍光強度の変化をリアルタイムでモニタリングする方法である。そして、前記と同様に、変化率のカーブから増幅前の対応核酸の濃度を決める方法である。
【0148】
II)本発明方法
本発明の方法A及びBに記載した核酸プローブを用いる方法である。
構造、作用、測定は第一発明及び前記に記載した通りであるので、ここでは省略する。
第2発明に用いることが、好適に出来る各種の核酸増幅方法は前記の通りである。そこで、本発明でいう標的核酸を増幅し、増幅前の標的核酸の濃度、若しくはコピー数を測定する方法とは、前記の核酸増幅方法に本発明の原理を適用する方法である。
【0149】
即ち、前記の核酸増幅において、測定系に少なくとも一種の標的核酸と既知量の内部標準核酸を少なくとも少なくとも一種を含み、且つ標的核酸プローブ若しくは内部標準核酸プローブを含むか、又は標的核酸プローブと内部標準核酸プローブとを合わせて少なくとも2種を含む測定系で、核酸増幅反応を行わせ、反応前後で、標的核酸と標的核酸プローブとのハイブリダイゼーションにより生じる標的核酸プローブに標識されている蛍光色素の蛍光強度の変化若しくは変化量を測定して、当該測定値及び内部標準核酸の添加量から、増幅前の標的核酸の濃度若しくはコピー数を測定する方法である。
【0150】
以下に、リアルタイム定量的PCR方法に適用する場合を例示する。
本発明のリアルタイム定量的PCR方法は、少なくとも一種の標的核酸及び既知濃度の内部標準核酸を含む測定系に、標的核酸プローブ又は/及び内部標準核酸プローブを添加して、標的核酸又は/及び内部標準核酸を増幅させ、増幅過程において、各プローブに標識されている蛍光色素の反応前後の測定系の蛍光強度の変化若しくは変化量をリアルタイムでモニタリング(測定)することを特徴とするものである。本発明のリアルタイム定量的PCRにおいて、標的核酸プローブ若しくは内部標準核酸プローブとして、前記した核酸プローブは、公知、本発明のものを問わず、どれでも好適に利用できるが、その塩基数は5〜50であり、好ましくは10〜25、特に好ましくは15〜20で、PCRサイクル中に標的核酸及びその増幅産物とハイブリダイズするものであれば、どのようなものでもよい。即ち、単なるプローブしてでも、フォワード(forward)型プライマー、リバース(reverse)型プライマーのどちらに設計してもよい。
【0151】
そして、単なる核酸プローブ、又プライマーとしては、前記の公知の方法にもちられている各種の核酸プローブ、及び本発明の方法A及びBに記載した核酸プローブを好適に用いることが出来る。より好適には本発明の方法A及びBに記載した核酸プローブである。特にこのましいプローブは、本発明方法Bの前記v)〜ix)のものである。
なお、プライマーとして利用するときは、必ずしも、フォワードプラマーとリバースプライマーを共に蛍光色素で標識する必要はない。本発明が達成できるので、どちらか一方でよい。
前記本発明方法Bの核酸プローブのうち、3’末端部のデオキシリボース又はリボースの3’OH基が修飾されていない核酸プローブはプライマーとして利用できるようにしてあるものである。この場合、公知の方法に用いる各種の核酸プローブにおいても、同様な形態の核酸プローブになる。
【0152】
このプライマーとして利用するとき、標的核酸、内部標準核酸の塩基配列から、どうしても標的核酸プローブ、内部標準核酸プローブの3’もしくは5’末端をG又はCに設計できない場合は、プローブのオリゴヌクレオチドの5’末端に、5’−グアニル酸もしくはグアノシン又は5’−シチジル酸もしくはシチジンを付加しても、又、3’末端に5’−グアニル酸又は5’−シチジル酸を付加しても、本発明の目的は好適に達成できる。よって、本発明において、3’、又は5’末端の塩基がG又はCになるように設計した標的核酸プローブ、内部標準核酸プローブとは、標的核酸、内部標準核酸の塩基配列から設計したプローブの他に、当該のプローブの5’末端に5’−グアニル酸もしくはグアノシン又は5’−シチジル酸もしくはシチジンを付加してなるプローブ、ならびに5’末端に5’−グアニル酸又は5’−シチジル酸を付加してなるプローブを含むものと定義する。
【0153】
標的核酸プローブ、内部標準核酸プローブをPCRのプライマーとして利用する場合、標的核酸を測定する方法の具体例はリアルタイム定量的PCRで得られるデータ解析方法(後述される。)に記載さているので、ここでは省略する。
【0154】
前記核酸プローブのうち、3’末端部のデオキシリボース又はリボースの3’OH基が修飾されている核酸プローブはプライマーとして利用できないが、PCRの反応系に当該プローブをリバース型プライマー及びフォワード型プライマーと共に添加し、PCRを行うことができる。この場合、核酸伸長反応時、標的核酸もしくは増幅標的核酸又は内部標準核酸若しくは増幅内部標準核酸にハイブリダイズしていた標的核酸プローブ又は内部標準核酸プローブがポリメラーゼにより分解され、核酸プローブ複合体から分解除去される。即ち、単なるプローブとして利用される。但し、当該プローブは、標的核酸、内部標準核酸にハイブリダイズできる塩基配列領域は両プラマーがハイブリダイズできる領域の間である。
【0155】
このとき、標的核酸プローブを標識していた色素の蛍光強度の変化若しくは変化量を測定する(一例として、反応系の蛍光強度を測定する。)。又、標的核酸もしくは増幅した標的核酸又は内部標準核酸若しくは増幅した内部標準核酸が各当該プローブとハイブリダイズしているときの標的核酸プローブを標識している色素の蛍光強度(値)(一例として、前者はアニーリング反応、ポリメラーゼにより当該プローブが標的核酸プローブ複合体から除かれるまでの核酸伸長反応時の反応系、後者は核酸変性反応が完了している反応系の蛍光強度値を挙げることができる。)を測定する。
【0156】
内部標準核酸プローブについて、蛍光強度の変化若しくは変化量を測定する場合、各種濃度の内部標準核酸について、前記ハイブリダイゼーション反応を行い、前記蛍光強度の変化若しくは変化量を測定する。この測定は、サイクル毎にリアルタイムで行う。
各濃度の内部標準核酸について、内部標準核酸プローブに標識されている蛍光色素について、サイクル毎に蛍光強度(値)の変化量(率)を算出する。
【0157】
次にこれらの変化量(率)から内部標準核酸の増幅前の濃度の関係式を求める(一例として、内部標準核酸の増幅前の濃度を関数とする変化量(率)の検量線を作製する。又、標的核酸プローブをプライマーとして用いる場合のデータ解析方法と同様にする。)。なお、通常は内部標準核酸濃度と前記変化量が直線的に比例するのは特定のサイクル数においてであるので、リアルタイムで測定を行うことにより当該サイクルを見つけることが出来る。
次いで、標的核酸について、前記サイクル数における前記同様の変化量(率)を求める。この変化量(率)を前記検量線若しくは関係式に当てはめる。かくして標的核酸を測定することができる。具体的な一例は、実施例に示されている。
【0158】
核酸プローブがプライマーとして利用される場合、標的核酸プローブが標的核酸と、又は内部標準核酸プローブが内部標準核酸とハイブリダイズしたときのそのプローブ・核酸複合体のTm値が、プライマーの核酸複合体のTm値の±15℃、好ましくは±5℃の範囲になるように、各標的核酸プローブの塩基配列が設計されることが望ましい。
【0159】
そして、本発明のPCRの反応が進むに従い、増幅された各核酸は本発明の実施に有用な蛍光色素で2次標識される。それで、核酸変性反応が完了している反応系の蛍光強度値は大きいか又は小さいが、アニーリング反応が完了しているかもしくは核酸伸長反応時の反応系においては、反応系の蛍光強度は前者の蛍光強度より減少するか増大する。
【0160】
PCRの反応は通常のPCR方法と同様の反応条件で行うことができる。特に本発明の核酸ブローブA及びBにおいては、Mgイオン濃度が低濃度(1〜2mM)である反応系で核酸の増幅を行うことができる。勿論、従来公知の定量的PCRにおいて使用されている高濃度(2〜4mM)のMgイオン存在下の反応系でも実施できる。
【0161】
本発明の第3の発明は、前記の核酸測定方法(第1発明)、核酸増幅方法(第2発明)、多型測定・分析・解析方法(後記した。)、FISH等の各種の測定・分析・解析方法(後記した。)等を実施した場合に、又、各種のデバイスを用いて各種の方法を実施した場合(後記した。)に、得られるデータを解析する方法の発明である。
以下、簡便化のために、核酸増幅方法の中でも特にリアルタイム定量的PCR方法について説明するが、他の方法についてもこれに準じてデータを解析すればよい。
【0162】
リアルタイム定量的PCR方法は、現在、PCRを行わせる反応装置、蛍光色素の発光を検出する装置、ユーザーインターフェース、即ち、データ解析方法の各手順をプログラム化して、それを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体(別称:Sequence Detection Software System)、及びそれらを制御し、データ解析するコンピュータから構成される装置で、リアルタイムで測定されている。それで、本発明の測定もこのような装置で行われる。
【0163】
以下に、先ず、リアルタイム定量的PCRの解析装置から説明する。本発明において用いる装置は、PCRをリアルタイムでモニタリングできる装置であればどのような装置でもよいが、例えば、ABI PRISMTM 7700 塩基配列検出システム(Sequence Detection System SDS 7700)(パーキン・エルマー・アプライド・バイオシステム社(Perkin Elmer Applied Biosytems社、USA))、ライトサイクラーTM システム(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社、ドイツ)等を特に好適なものとして挙げることができる。
【0164】
尚、前記のPCR反応装置は、標的核酸の熱変性反応、アニーリング反応、核酸の伸長反応を繰り返し行う装置である。又、検出システムは、蛍光励起用アルゴンレーザー、スペクトログラフならびにCCDカメラからなっている。更に、データ解析方法の各手順をプログラム化して、それを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータにインストールされて使用され、コンピュータを介して上記のシステムを制御し、検出システムから出力されたデータを解析処理するプログラムを記録したものである。
【0165】
コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されているデータ解析用プログラムは、サイクルごとの蛍光強度を測定する過程、測定された蛍光強度を、サイクルの関数として、すなわちPCRのamplification plotとしてコンピュータのデスプレー上に表示する過程、蛍光強度が検出され始めるPCRサイクル数(threshold cycle number:Ct値)を算出する過程、Ct値から試料核酸のコピー数を求める検量線を作成する過程、前記各過程のデータ、プロット値を印字する過程、からなっている。PCRが指数的に進行している場合、PCR開始時の標的核酸の濃度若しくはコピー数(Log値)と、蛍光強度の変化量(率)若しくはCt値との間には直線関係が成り立つ。従って標的核酸及び内部標準核酸の既知量の濃度若しくはコピー数を用いて検量線を前以て作成しておき、未知の濃度若しくはコピー数の標的核酸を含有するサンプルについて、蛍光強度の変化量(率)若しくはCt値を測定することにより、標的核酸の核酸増幅前の濃度若しくはコピー数を計算できる。
【0166】
前記のようなリアルタイム定量的PCR方法で得られたデータを解析する方法の特徴について以下に記す。
第一の特徴は、リアルタイム定量的PCR方法で得られたデータを解析する方法において、各サイクルにおける増幅した分析対象の核酸(標的核酸の他に、ここでは、内部標準核酸も含めるものとする。)が当該核酸に対応する(特異的にハイブリダイズする)核酸プローブにハイブリダイズしたときの当該プローブを標識していた蛍光色素の蛍光強度値を、各サイクルにおけるプローブ・核酸複合体から、ポリメラーゼによりプローブが分解されて、蛍光色素が遊離したとき、又は核酸変性反応により該複合体が解離したときの前記色素の蛍光強度値により補正する演算処理過程、すなわち、補正演算処理過程である。前記の「分析対象の核酸及び当該核酸に対応する(特異的にハイブリダイズする)核酸プローブ」とは、本発明においては内部標準核酸と内部標準核酸プローブ、及び標的核酸と標的核酸プローブである(以下、同様である)。
【0167】
「増幅した分析対象の核酸が当該核酸に対応する(特異的にハイブリダイズする)核酸プローブにハイブリダイズしたときの当該プローブを標識していた蛍光色素の蛍光強度値」とは、具体的に例示すると、当該プローブが単に核酸プローブとして利用されている場合は、PCRの各サイクルにおける40〜85℃、好ましくは50〜80℃のアニーリング反応系における核酸プローブを標識していた蛍光色素の蛍光強度値(より具体的には当該色素に特異的な測定波長で測定した、当該反応系の蛍光強度値)を挙げることができる(以下、同様である)。そして、反応が完了した反応系を意味する。当該プローブがプライマーとして利用されている場合は、40〜85℃、好ましくは50〜80℃のアニーリング反応系、核酸伸長反応系のものである。実際の温度は増幅した核酸の長さに依存する。
【0168】
又、「ローブ・核酸複合体が解離から、ポリメラーゼによりプローブが分解されて、蛍光色素が遊離したとき、又は核酸変性反応により該複合体が解離したときの前記色素の蛍光強度値」とは、PCRの各サイクルにおける核酸の熱変性の反応系、具体的には、反応温度90〜100℃、好ましくは94〜96℃のときのもので、反応が完了した反応系における標的核酸プローブの色素に関わる測定波長で測定した場合の反応系の蛍光強度値を例示できる(以下、同様である)。この場合、当該プローブが、単に核酸プローブとして利用されている場合は、プローブ・核酸複合体から、ポリメラーゼによりプローブが分解されて、蛍光色素が遊離している反応系ものも含めるものとする。
【0169】
補正演算処理過程の補正演算処理としては本発明の目的に合致するものであればどのようなものでもよいが、具体的には、次の〔数式1〕あるいは〔数式2〕による処理過程を含むものを例示することができる。
n=fhyb,n/fden,n 〔数式1〕
n=fden,n/fhyb,n 〔数式2〕
〔式中、
n:〔数式1〕あるいは〔数式2〕により算出されたn次サイクルにおける補正演算処理値、
hyb,n:n次サイクルにおける、増幅した分析対象の核酸が当該核酸に対応する核酸プローブとハイブリダイズしているときの反応系の蛍光強度値、
den,n:n次サイクルにおける、前記のプローブ・核酸複合体からポリメラーゼによりプローブが、分解されて蛍光色素が遊離しているとき、又は核酸変性反応によプローブ・核酸複合体が解離したときの前記色素の蛍光強度値〕
尚、本過程においては、上記の処理で得られた補正演算処理値をコンピュータのデスプレー上に表示及び/又は当該値を各サイクル数の関数としてグラフの形で同様に表示及び/又は印字するサブステップを含むものである。
【0170】
第2の特徴は、各サイクルにおける〔数式1〕あるいは〔数式2〕による補正演算処理値を次の〔数式3〕あるいは〔数式4〕に代入し、各サンプル間の蛍光変化量(蛍光変化割合あるいは蛍光変化率)を算出し、それらを比較するデータ解析方法である。
【0171】
n=fn/fa 〔数式3〕
n=fa/fn 〔数式4〕
〔式中、
n:n次サイクルにおける、〔数式3〕あるいは〔数式4〕により算出された蛍光変化量(蛍光変化割合あるいは蛍光変化率)、
n:n次サイクルにおける〔数式1〕あるいは〔数式2〕による補正演算処理値
a:〔数式1〕あるいは〔数式2〕による補正演算処理値で、fnの変化が観察される以前の任意のサイクル数のものであるが、通常は、例えば、10〜40サイクルのもの、好適には15〜30サイクルのもの、より好適には20〜30サイクルのものが採用される。〕
【0172】
尚、本過程においては、上記処理で得られた算出値をコンピュータのデスプレー上に表示及び/又は印字する、又は比較値もしくは当該値を各サイクル数の関数としてグラフの形で同様に表示及び/又は印字するサブステップを含むものであるが、〔数式1〕あるいは〔数式2〕による補正演算処理値については、上記サブステップを適用しても、しなくともよい。
【0173】
第3の特徴は、
(3.1)〔数式3〕あるいは〔数式4〕により算出された蛍光変化量(蛍光変化割合あるいは蛍光変化率)のデータを用いて、〔数式5〕、〔数式6〕あるいは〔数式7〕による演算処理する過程、
logb(Fn)、ln(Fn) 〔数式5〕
logb{(1−Fn)×A}、ln{(1−Fn)×A} 〔数式6〕
logb{(Fn−1)×A}、ln{(Fn−1)×A} 〔数式7〕
【0174】
〔式中、
A、b:任意の数値、好ましくは整数値、より好ましくは自然数である。そして、A=100、b=10のときは、{(Fn−1)×A}は百分率(%)で表わされる。
n:〔数式3〕あるいは〔数式4〕により算出されたnサイクルにおける蛍光変化量(蛍光変化割合あるいは蛍光変化率)〕、
(3.2)前記(3.1)の演算処理値が一定値に達したサイクル数を求める演算処理過程、
(3.3)既知濃度の標的核酸及び/又は内部標準核酸を含む試料におけるサイクル数と反応開始時の標的核酸及び内部標準核酸の核酸増幅前の濃度若しくはコピー数の関係式を計算する演算処理過程、
(3.4)標的核酸を含む試料における核酸増幅前の標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める演算処理過程、
を有するデータ解析方法である。そして、(3.1)→(3.2)→(3.3)→(3.4)の順からなる過程が好適である。
【0175】
前記(3.1)〜(3.3)の各過程は、それぞれの処理で得られた演算処理値をコンピュータのデスプレー上に表示及び/又は当該値を各サイクル数の関数としてグラフの形で前記同様に表示及び/又は印字するサブステップを含むものであってもよい。前記(3.4)の過程で得られた演算処理値は、少なくとも印字される必要があるので、当該過程は印字するサブステップを含む。前記(3.4)で得られた演算処理値を更にコンピュータのデスプレイ上に表示してもよい。
尚、〔数式1〕あるいは〔数式2〕による補正演算処理値、〔数式3〕あるいは〔数式4〕による算出処理値を、各サイクル数の関数としてにグラフの形でコンピュータのデスプレー上に表示及び/又は印字しても、しなくてもよいので、それらの表示及び/又は印字のサブステップは必要に応じて追加すればよい。
【0176】
なお、前記方法において、内部標準核酸を測定する反応系と標的核酸を測定する反応系を一緒にしてもよく、又別々にしてもよい。
又、前記データ解析方法は、リアルタイム定量的PCR方法が蛍光色素の発光の減少量を測定するものである場合に特に有効である。
【0177】
本発明のデータ解析方法は上記の特徴を有するものであるが、実際の解析にあっては、次の手順で行うのが好適である。
1)核酸と核酸プローブのハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を阻害する物質、又は多型核酸が存在しないと見做される反応系で、先ず本発明の第一〜第3の特徴を有する処理の全て、又は何れかまでを実施する。
2)次に、前記阻害物質、若しくは多型核酸が存在すると想定される未知試料(標的核酸が含まれると想定されるもの。)について、核酸プローブ、各種濃度の内部標準核酸、内部標準核酸プローブを用いて核酸増幅反応を行う。この場合、内部標準核酸については検量線は得られるが、標的核酸については得られない。
【0178】
3)前記1)及び2)で得られた、標的核酸、内部標準核酸についての処理されたデータを比較検討する。
(1)内部標準核酸についての処理されたデータ(前記のデータ解析方法により処理されたデータ。以下同様)が同一若しくは略同一である場合は、前記阻害物質若しくは多型が試料中に含まれていないと見做される。それで、前記1)で得られた標的核酸、内部標準核酸についての、各種のグラフ、関係式、検量線が、当該未知試料についても利用出来る。
【0179】
(2)内部標準核酸についての処理されたデータが同一若しくは略同一でない場合は、前記阻害物質若しくは多型が試料中に含まれていると見做される。1)と2)で得られた内部の標準核酸についての各種のグラフ、関係式、検量線の変化率すなわち変化係数を算出する。
(3)当該変化係数を1)で得られた標的核酸についての各種のグラフ、関係式、検量線に当てはめる。
かくして得られた各種のグラフ、関係式、検量線が標的核酸についての核酸増幅前の標的核酸の濃度若しくはコピーを求めるグラフ、関係式、検量線である。
【0180】
本発明の標的核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数を求める方法には、各種の変法があり、本発明の目的を達成するものであれば、如何なる方法でも採用できる。例えば、実施例1に示した。
又、簡便方法としては、前記阻害物質が試料中に含まれていると見做される試料に内部標準核酸を添加し、本発明の標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを用いるか用いずして、リアルタイムモニタリング定量的PCR方法で、試料中の標的核酸と内部標準核酸を増幅する。各増幅核酸について、本発明の標的核酸プローブ及び内部標準核酸プローブを用いて、ハイブリダイゼーション反応を行う。各プローブに標識された蛍光色素の蛍光強度の変化量を測定する。勿論、この変化量を求める場合は、本発明のデータ解析方法を用いるのが好適である。内部標準核酸についてのこの変化量と内部標準核酸濃度の関係が、標的核酸にも適用できると見做す(なお、ハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応の阻害物若しくは多型が存在しない系で当該見做しが出来ることを確認しておく)。それで、前以て内部標準核酸についてのこの変化量と内部標準核酸濃度の関係式を当該既知試料を使用して求めておく。
当該関係式から増幅された標的核酸と内部標準核酸の濃度若しくはコピー数を求めることが出来る。内部標準核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数が分かっているので、増幅された標的核酸の増幅前の濃度若しくはコピー数が推定できる。
【0181】
第4の特徴は、リアルタイム定量的PCRの解析装置において、前記本発明のリアルタイム定量的PCR方法のためのデータ解析方法を実行する演算及び記憶手段を有するリアルタイム定量的PCRの測定及び/又は解析装置である。
この場合、測定系には少なくとも一種以上の標的核酸を含むので、少なくとも一種以上の波長で測定できる測定装置が好ましい。又、少なくとも一種以上の波長で蛍光色素を励起できる装置であればより好ましい。
【0182】
第5の特徴は、リアルタイム定量的PCRの解析装置を用いてPCRを解析するデータ解析方法の各手順をプログラム化して、そのプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体において、前記本発明のデータ解析方法の各手順をコンピュータに実行させることができるようにしたプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0183】
本発明の第4発明は、標的核酸の多型(SNPを含むものとする。)又は/及び変異を解析もしくは測定する方法に、前記の各種方法を適用する発明である。
又、その測定キット、その測定のためのデータ解析方法、その測定装置、及びデータ解析過程をコンピュータに実行させるための手順をプログラムとして記録したコンピュータ読取可能な記録媒体でもある。
【0184】
又、本発明の標的核酸の多型(polymorphism)又は/及び変異(mutation)を解析もしくは測定する方法により得られるデータを解析する場合に、分析対象核酸がそれに対応する核酸プローブとハイブリダイズしたときの当該プローブを標識していた蛍光色素の蛍光強度値を、前記のものがハイブリダイズしていないときの当該プローブを標識していた蛍光色素の蛍光強度値により補正する処理過程を設けると、処理されたデータは信頼性の高いものになる(データ解析方法の適用)。
【0185】
又、第4発明は、標的核酸の多型(polymorphism)又は/及び変異(mutation)を解析もしくは測定する測定装置において、前記データ解析方法により、得られるデータを処理する手段を有する測定装置である。
又、標的核酸の多型(polymorphism)又は/及び変異(mutation)を解析もしくは測定する方法により得られるデータを補正する前記処理過程をコンピュータに実行させるための手順をプログラムとして記録したコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0186】
本発明の第5発明は、本発明の核酸の新規測定方法を各種の核酸測定方法、例えば、FISH方法、LCR方法、SD方法、TAS方法などに適用する発明である。
以下にその例を記す。
FISH方法に適用する場合
すなわち、本発明方法は、核酸測定のための試料として、複合微生物系、共生微生物系の細胞内もしくは細胞のホモジネート等を好適に利用できる。それは、複合微生物系又は共生微生物系は本発明のハイブリダイゼーション(勿論、内部標準核酸とその内部標準核酸プローブのハイブリダイゼーションをも含む。)反応及び/又は核酸増幅反応を阻害する物質、又、核酸プローブの蛍光色素の発光を阻害をする物質を含む場合があるからである。
【0187】
本発明の前記の、核酸の新規測定方法、核酸増幅方法、
データ解析方法、それらの測定装置(コンピュータ読み取り可能な記録媒体を組み込んだものをも含む。)及び各種デバイス類(後記した。)の一つ又はそれ以上を用いて、複合微生物系又は共生微生物系における特定菌株の5SrRNA、16SrRNAもしくは23SrRNA又はそれらの遺伝子DNAのコピー数を定量することにより、当該系における特定菌株の存在量を測定することができる。それは、5SrRNA、16SrRNAもしくは23SrRNAの遺伝子DNAのコピー数は菌株よって一定であるからである。
【0188】
本発明の第6発明は、本発明の核酸の新規測定方法を実施する際、便利に使用できる、反応液類若しくは測定キット類、デバイス類(例えば、下記のDNAチップなどを挙げることができる。)である。
反応液類若しくは測定キット類は、少なくとも一種の内部標準核酸、少なくとも一種の標的核酸プローブ若しくは標的核酸のプライマープローブ及び/又は少なくとも一種の内部標準核酸プローブ若しくは内部標準核酸のプライマープローブを含むものである。好ましくは、その他の成分(緩衝液、微量金属イオン等)を適宜含むものである。しかし、これらの成分は使用時に測定系に添加して使用できるので、反応液類若しくは測定キット類は、これらの成分に限定さるものではない。形態は、乾燥状態、液状のどちらでもよい。なお、本発明の第2発明(核酸増幅反応を用いる核酸測定方法)における反応液類若しくは測定キット類おいては、その他の成分に、プライマー(プライマープローブを使用しない場合)、ポリメラーゼ等の核酸増幅反応に必要な試薬類を含めるのが好適である。
【0189】
デバイス類は、本発明方法を実施できるものであれば、どのようなものでもよいのであるが、例えば、下記のDNAチップなどを挙げることができる。
即ち、本発明における使用できる少なくとも一種の内部標準核酸プローブ及び/又は少なくとも一種の標的核酸プローブを複数個固体支持体表面に結合させて、標的核酸プローブには標的核酸、又内部標準核酸プローブには内部標準核酸をハイブリダイズさせて、各プローブ・核酸複合体に由来する核酸プローブの蛍光色素に特異的な蛍光強度の変化若しくは変化量(ハイブリダイゼーション前後における)を測定して、少なくとも一種の標的核酸の量若しくは濃度を測定することができるようにしたデバイスである。
【0190】
そのデバイスにおいて、少なくとも一種の標的核酸プローブ及び/又は少なくとも一種の内部標準核酸プローブが固体支持体表面にアレー状に配列、結合したデバイスであり、又、固体支持体表面に結合した核酸プローブ毎に、反対側の表面に少なくとも一つの温度センサーとヒーターが設置され、核酸プローブ結合領域が最適温度条件になるように温度調節され得るデバイスである。
【0191】
すなわち、本発明の標的核酸プローブ及び内部標準核酸プローブは固体(支持層)表面、例えばスライドガラスの表面に固定することができる。この形式は現在DNAチップと言われる。遺伝子発現(gene expression)のモニタリング、塩基配列(base sequence)の決定、変異解析(mutation analysis)、1塩基多型(single nucleotide polymorphism(SNP))などの多型解析(polymorphism analysis)等に使用できる。勿論、核酸測定用デバイス(チップ)として使用することもできる。
それで、本発明の第5発明は、標的核酸の測定の他、これらの事項を達成する方法でもある。
【0192】
本発明において、塩基配列の異なる多くの標的核酸プローブ及び/又は内部標準核酸プローブを、個別に同一固体表面上に結合しているデバイスをつくることにより、同時に多種類の標的核酸を測定できる。それで、DNAチップの場合と全く同じ方法で標的核酸を測定できるので新規のDNAチップでもある。最適の反応条件では標的核酸以外の核酸は標的核酸プローブにはハイブリダイズしないので蛍光の発光量を変化させない。そのために、標的核酸プローブに特異的にハイブリダイズしない核酸を洗浄する操作は必要がない。
【0193】
本発明のデバイスを用いる核酸の新規測定方法の基本的操作は、分析対象の核酸に対応する標的核酸プローブを結合した固体表面上に分析対象の核酸を含む溶液をのせ、分析対象の核酸とそれに対応する標的核酸プローブをハイブリダイズさせるだけである。
これにより、分析対象の核酸量に応じて標的核酸プローブを標識した蛍光色素の蛍光強度の変化がハイブリダイゼーション前後でおこり、その蛍光強度の変化量(率)から分析対象の核酸の測定が可能となる。
【0194】
実際の測定においては、先ず、内部標準核酸とそれに対応する内部標準核酸プローブを使用して、前記の内部標準核酸プローブを標識した蛍光色素の蛍光強度変化量(率)と内部標準核酸の量若しくは濃度との関係式若しくは検量線を作成する。これに標的核酸に関わる蛍光強度変化量(率)を当てはめることにより標的核酸の測定ができる。この操作は前記したとおりである。
【0195】
更に、本発明のデバイスにおいては、微小ヒーターにて標的核酸プローブ毎に温度コントロールすることにより、当該プローブ毎に最適反応条件にコントロールできるために正確な濃度の測定が可能となる。又、微小ヒーターにて温度を連続的に変化させ、その間、蛍光量を測定することにより、本発明の標的核酸プローブと標的核酸との解離曲線を解析することができる。その解離曲線の違いからハイブリダイズした核酸の性質の判定や、SNPの検出ができる。
【0196】
以下に測定の具体的条件を述べる。
それらの方法は、通常の既知方法で行なうことができる(Analytical Biochemistry、183巻、231〜244頁、1989年;Nature Biotechnology、14巻、303〜308頁、1996年;Applied and Environmental Microbiology、63巻、1143-1147頁、1997年)。
【0197】
ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、塩濃度が0〜2モル濃度、好ましくは0.1〜1.0モル濃度、pHは6〜8、好ましくは6.5〜7.5である。
反応温度は、ハイブリダイゼーション反応の産物である標的核酸プローブ複合体のTm値±10℃の範囲内であるのが好ましい。このようにすることにより非特異的なハイブリダイゼーションを防止することができる。Tm−10℃未満のときは、非特異的ハイブリダイゼーションが起こり、Tm+10℃を越えるときは、ハイブリダイゼーションが起こらない。尚、Tm値は標的核酸プローブを設計するのに必要な実験と同様にして求めることができる。
【0198】
反応時間は1秒間〜180分間、好ましくは5秒間〜90分間である。1秒間未満のときは、ハイブリダイゼーションが十分に完成しない。又、反応時間を余り長くしても特に意味がない。なお、反応時間は核酸種、すなわち、核酸の長さ、あるいは塩基配列によって大きく影響を受ける。
【0199】
反応液中の分析対象の核酸の濃度は0.1〜10.0nMであるのが好ましい。本発明のデバイスにおける分析対象に対応する標的核酸プローブの一スポット当たりの濃度は1.0〜25.0nMであるのが好適である。
前記内部標準核酸についての検量線若しくは関係式を作成する場合は、内部標準核酸プローブに対して、本発明の内部標準核酸を0.4〜1.0の比率で用いるのが望ましい。
なお、本発明のデバイス類は、当該デバイス類を使用して、本発明方法を実施できるようにした反応液類若しくは測定キット類を含むものである。当該反応液類若しくは測定キット類は、少なくとも一種の内部標準核酸を含むものである。その他の成分は、前記の反応液類若しくは測定キット類と同様である。
【0200】
本発明方法の第7発明は、前記の各発明方法を簡便、迅速、正確、特異的に実施できるようにした、標的核酸の分離・回収・濃縮方法である。
当該方法は、標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種以上の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断後、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収する標的核酸分離・回収濃縮方法である。例えば、好適には、次の手段からなる方法を採用すればよい。しかし、本例をもって本発明方法は限定されるものではない。
(1)標的核酸塩基配列領域を含むゲノム等の核酸を少なくとも一種の制限酵素で処理する。
(2)前記処理物について、分子分画を施す。
更に、次の手段を追加するのが好適である。
(3)分子分画画分を濃縮する。
【0201】
前記の制限酵素は、目的塩基配列領域を切断しないものであれば、どのようなものでもよく、特に制限されない。すなわち目的に応じて変えればよい。公知のものが好適に利用できる。例えば、Bfa I、Bsa JI、Bss KI、Dde1、Mse I、Bso FI、Hha I、Hph I、Mnl I、Rca I、Alu I、Msp Iなどを挙げることができる。これらを目的に応じて適当に組み合せて使用するのが好適である。しかしながら、これらを以て本発明は制限されない。
制限酵素処理条件は、制限酵素試薬のキットに添付されている説明書の記載(プロトコール)に従えばよい。
前記分子分画は、現在公知の方法を目的に合わせて適当なものを採用すればよい。例えば、各種のフィルターを用いた濾過方法、各種の充填剤を用いたゲル濾過方法(HPLC方法等を含む。)などの分子分画方法を挙げることが出来る。
前記濃縮方法は、目的に合わせて通常の方法を採用すればよい。例えば、エタノール等の溶剤による濃縮方法、凍結乾燥、風乾などを挙げることができる。
【0202】
本発明方法の第7発明は、任意の塩基配列を有する50bp以上の高純度の人工遺伝子(2本鎖のDNA)の簡便な調製方法である。
当該調製方法は、次の手段からなる。
1)任意の塩基配列を有する50bp以上の一本鎖オリゴヌクレオチドを、DNA合成機を使用して人工合成する。
2)合成された50bp以上の一本鎖オリゴヌクレオチドを鋳型として、各種の遺伝子増幅方法で核酸増幅反応を行う。
【0203】
DNA合成機は、本発明の目的を達成するものであれば、どのようなものを使用してもよい。好適には、DNA合成機(ABI394)(株式会社パーキンエルマージャパンアプライド)を使用すればよい。又、遺伝子増幅方法も本発明の目的を達成するものであれば、どのようなものでもよい。好適には、PCR方法を用いればよい。
目的以外の一本鎖オリゴヌクレオチドが、遺伝子増幅産物に混入する危険性を防止するため、鋳型は、十分希釈して使用することが望ましい。この鋳型の希釈率は、特に限定されない。又、遺伝子増幅産物を希釈し、再度、希釈液を鋳型として遺伝子増幅を行うことでも、上記した目的以外の一本鎖オリゴ核酸によるコンタミネーションの危険性を排除することが可能である。この遺伝子増幅を繰り返す回数は、本発明の目的に合わせで決めればよく、特に限定されない。
【0204】
本発明の前記の第1〜8発明は、医学、法医学、人類学、古代生物学、生物学、遺伝子工学、分子生物学、農学、植物育種学等の各種の分野で利用できる。又、複合微生物系、共生微生物系と云われ、色々の種類の微生物が混在するかもしくは少なくとも一種類の微生物が他の動物、植物由来の細胞と共に混在していて相互に単離できない微生物系等の解析・分析に好適に利用できる。ここで云う微生物とは一般的に云う微生物のことで、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0205】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例1
標的核酸(遺伝子)として、じゃがいものそうか病の原因遺伝子と考えられているnec1遺伝子を用い、土壌からのnec1遺伝子の定量を行った。
A)各種方法
1)オリゴデオキシリボヌクレオチド(核酸)の合成方法:
特別の記載がある場合を除いて、DNA合成機(ABI394)(株式会社パーキンエルマージャパンアプライド)を用いて、オリゴデオキシリボヌクレオチド(以下、オリゴヌクレオチドという。)を合成した。
【0206】
2)蛍光色素によるオリゴヌクレオチドの標識
(1)オリゴヌクレオチドのリンカーによる修飾
5'Amino-Modifier C6キット(Glen Research社、米国)を用いて5’末端のヌクレオチドの5’−リン酸基をリンカー-(CH2)6-SHで修飾した。この修飾ヌクレオチドを用い、DNA合成機(ABI394)を使用して、5’末端のリン酸基が前記リンカーで修飾されたオリゴヌクレオチドを合成した。なお、DNAの合成はβ−シアノエチルフォスフォアミダイト(β-cyanoethylphosphoramidite)方法で、かつ5’末端TrON法で行った。合成した後、保護基の脱離は28%アンモニア水で55℃、5時間で行った。
【0207】
(2)合成物の精製:
前記で得られた合成オリゴヌクレオチドを乾固し乾固物を得た。それを0.5M NaHCO3/Na2CO3緩衝液(pH9.0)に溶解した。当該溶解物をNAP−10カラム(ファルマシア社製)でゲル濾過を行い、未反応物を除去した。
【0208】
(3)色素の標識:
前記ゲル濾過物を乾固し、150μLの滅菌水に溶解した(オリゴヌクレオチド溶液)。1mgの蛍光色素(例えば、BODIPY FL)-Chloride(Molecular Probes社、USA)を100μLのDMFに溶解し、前記オリゴヌクレオチド溶液、1M NaHCO3/Na2CO3バファー150μLを加え、撹拌後、室温で1晩反応させ、5’末端のリンカー-(CH2)6-SHに蛍光色素を結合させた。
【0209】
(4)合成物の精製:
前記反応物をNAP-25(ファルマシア社製)でゲルろ過を行い、未反応物を除去した。SEP-PAC C18カラムを用いる逆相HPLCを行い、前記オリゴヌクレオチドのリンカー-(CH2)7-NH2に蛍光色素を結合させた目的物を分画した。分画物をNAP-10(ファルマシア社製)でゲル濾過した。かくして、5’末端に蛍光色素を結合させたオリゴヌクレオチドを得た。
【0210】
(5)本発明の5’末端に蛍光色素を結合させたオリゴヌクレオチドの定量
分光光度計で260nmの値を測定することにより行った。又、当該プローブについて、分光光度計を用いて650nm〜220nmの吸光度のスカンニグを行った結果、蛍光色素、DNAの吸収があることを確認した。さらに、前記同様の逆相HPLCで精製物の純度検定を行った結果、シングルピークであることを確認した。
【0211】
(6)逆相クロマトグラフィー
なお、上記の逆相クロマトグラフィーの条件は次の通りである。
・溶出ソルベントA:0.05N TEAA 5%CH3CN
・溶出ソルベントB(グラジエント(gradient)用):0.05N TEAA 40%CH3CN
・カラム:SEP-PAK C18;6×250mm
・溶出速度:1.0ml/min
・温度:40℃
・検出:254nm
【0212】
3)3’末端の3’位のOH基のリン酸化方法
オリゴヌクレオチドの合成の過程で、脱保護反応で3’リン酸基を生じさせた(Glen Research カタログ番号20−2913)。
4)アガロース電気泳動方法
通常の方法で行った。すなわち、
・アガロース濃度:0.5%
・緩衝液:TBE buffer, pH9.3
・温度:室温
【0213】
5)内部標準核酸(DNA遺伝子)の作製
表1に示した塩基配列を有するオリゴヌクレオチドからなるプライマーNEC-F及びNEC-R、NECM-F及びNECM-Rを作製した。これらのプライマーを用いてoverlap extention PCR方法(PCR法利用の手引き、ページ29〜37、中外医学社、1998年)により、標的核酸に変異導入を行った。なお、Fはフォーワードプライマー、Rはリバースプライマーの意味である。
【0214】

【0215】
なお、表1の各塩基配列を有するオリゴヌクレオチドは、nec1遺伝子のどこの領域にハイブリダイズ(対応)するかを示したのが図1である。
又、NECM-Rの塩基配列は、表中の塩基配列11、12、13、及び15番目(5’末端から)の塩基が標的核酸(遺伝子)の配列に対して変異したものである(下記の表2参照)。同様にNECM−Fの塩基配列は、表中の11、13、14及び15番目(5’末端から)の塩基が変異したものである(下記の表2参照)。
【0216】

【0217】
操作手順は以下の通りである。
(1)Streptomyces turgidiscabies IFO16080のゲノムDNA(IFOより購入)を鋳型として、aとdのプライマーを一つのセットとして、及びbとcのプライマーを一つのセットとして用い、それぞれについてPCRを行った。なお、ゲノムDNAは下記のようにして調製した。
(2)その産物について、アガロースゲル電気泳動を行った。そして増幅核酸に相当するバンドをそれぞれ切り出し、増幅核酸を抽出した。
(3)各抽出物を混合し、新たなプライマーを添加せずに、PCRを行った。
(4)その産物について、前記2)と同様にして電気泳動を行った。AからBまでの長さの産物に相当するバンドのみを切り出し、増幅産物を抽出した。
(5)抽出物を鋳型として、aとbのプライマーをセットとして用い、PCRを行った。
(6)その産物について、前記2)と同様にして電気泳動を行った。AからBまでの長さに相当するバンドのみを再び切り出した。
(7)シーケンサーにて変異挿入を確認した。又、DNA量を定量した。
【0218】
6)標的核酸プローブ及び内部標準核酸プローブの作製
表2に示されるNECB-24は標的核酸プローブの塩基配列であり、NECMB-24は、内部標準核酸プローブのものである。本実施例においては、標的核酸プローブをNECB-24と、内部標準核酸プローブをNECMB-24と呼称する。
NECB-24は、前記に記載する方法にて5’末端をBODIPY FLで標識し、NECMB-24は、前記に記載する方法にて5’末端を6-TAMRAで標識した。双方とも3’末端の3’OH基をリン酸化して用いた。
表中、NECB-24の10、11、12及び14番目の塩基C、T、G及びAが、NECMB-24においては、おのおのA、G、C及びTに変異したものである。
【0219】
7)PCRは次の条件で行った。
・変性反応:95℃、15sec
・アニーリング及び検出:62℃、18sec
・伸長(extention):72℃、14sec
・Taqポリメラーゼ:Gene Taq(日本ジーン株式会社)
・プライマー添加濃度:500nM、前記e及びf(図1及び表1参照)
・プローブ添加濃度:50nM
・鋳型核酸(Template):内部標準核酸NECM1及び標的核酸NECB1のPCR断片(a及びbプラマーをセットにしてPCR増幅産物:約700bp)の混合液
・測定装置:スマートサイクラーシステム(タカラバイオ株式会社)(以下、便宜上、スマートサイクラーという。)。
【0220】
・使用チャンネル:
チャンネル1(Ex、450〜495nm;Em、505〜537nm)。
チャンネル3(Ex、527〜555nm;Em、565〜605nm)。
チャンネル1でBODIPY FLの蛍光強度測定を行い、同時にチャンネル3で6-TAMRAの蛍光強度測定を行った。
【0221】
8)土壌からのDNAの抽出
Bio101キット(土壌用)を用いて土壌から標的核酸を抽出して、更にWizard DNA Clean-Up systemを用いて精製したものを土壌サンプル(試料)とした。
【0222】
B)実験例
1)作製プローブの評価
標的核酸プローブNECB-24及び内部標準核酸プローブNECMB-24の対応核酸(標的核酸又は内部標準核酸)とハイブリダイズしたときの蛍光強度変化(減少)率と解離曲線を作成した。反応用バッファーはPCR反応で用いるものと同じものを使用した。
その結果を図2及び3に示した。両プローブとも最大蛍光強度変化率は約70%であり、まずまずの変化率を示した。NECB-24は標的核酸と内部標準核酸とのTm値の差は、20℃弱であり、62℃付近で検出すれば、内部標準核酸を検出せずに標的核酸のみを検出できることが明らかとなった。又、同様にNECMB-24は内部標準核酸と標的核酸とのTm値の差は、20℃弱であり、62℃付近で検出すれば、標的核酸を検出せずに標的核酸のみを検出できることが明らかとなった。それで、両プローブともPCRの増幅産物の検出は、62℃で行なうことにした。
【0223】
2)プローブの特異性
前記A)の7)に記載のPCR反応条件にて、NECB-24を核酸プローブ、プライマーとして前記a、bを使用して、標的核酸のPCRを行なった際のリアルタイムモニタリングした結果を図4に示した。又、同様にNECMB-24を核酸プローブ、プライマーとして、前記c、dを使用して、内部標準核酸のPCRを行なった際のリアルタイムモニタリングした結果を図5に示した。両プローブとも約30%との高い蛍光強度変化率(蛍光消光率)を示すことが分かった。又、両プローブともに、標的核酸と内部標準核酸の混合比に応じ、得られる蛍光強度変化率が変化した。この結果より、本方法により、定量的に標的核酸の定量が行えるものと考えられた。
【0224】
3)DNA濃度と蛍光強度変化率の関係式の作成
種々のDNA濃度における蛍光強度変化率を前記両プローブで測定した。その結果を図6A及び6Bに示した(この図の作製に当たり、前記の本発明のデータ解析方法の記載の処理を行い蛍光強度変化率を求めた。)。
【0225】
各図から、未知試料中の標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める方法について以下に記す。先ず、標的核酸を含む未知試料にコピー数の判明している内部標準核酸、及び標的核酸プローブ並びに内部標準核酸プローブを添加して、PCRを行う。双方の核酸の増幅が反応系の蛍光強度変化から目視可能となったとき、双方の核酸の蛍光強度変化率を求める。当該蛍光強度変化率を図6A及び6Bに当てはめて、当該蛍光変化率を示すときの増幅された内部標準核酸量(Aとする。)及び標的核酸量(Bとする。)を求める。内部標準核酸量の核酸増幅前のコピー数をA’とすると、標的核酸の増幅前のコピー数B’とする。B’は次式で求めることが出来る:
B’=(B/A)A’
【0226】
4)従来の検量線を用いたスマートサイクラーによる標的核酸の定量
既知濃度の標的遺伝子サンプルに、実際に土壌試料から抽出した核酸抽出試料を、濃度を変えて混合し、正確に定量を行なえるかどうか検討した。、内部標準核酸プローブと標的核酸プローブは、双方とも、反応チューブに添加し、それぞれ内部標準核酸と標的核酸を同時に検出した。
【0227】
先ず、既知濃度の外部標準遺伝子(nec1遺伝子)により検量線を作成した(図7A、7B)。土壌から抽出した核酸を含む試料0μl、1μl、2μl、3μlに、6,690,000コピーの標的遺伝子(nec1遺伝子)を添加したものを鋳型とし、本サンプル中のnec1遺伝子の定量を、前記の検量線を用いて行なった。その結果、入れる土壌試料の量が多くなるに応じて、グラフが右にシフトすること、つまり増幅が遅れて起こることが明らかになった(図8)。この遅れによりにCt値が上昇し、その結果、定量値は実際に添加した標的遺伝子(nec1遺伝子)よりも低く算出される事が分かった(表−3参照)。以上の結果より、従来の外部標準遺伝子による検量線を用いた既存法(リアルタイム定量的PCR法)では、PCR阻害物質を含むサンプルについて、標的遺伝子の定量を正確に行えないことが明らかとなった。
【0228】

【0229】
5)本発明方法を用いたスマートサイクラーによる標的核酸の定量
本発明の内部標準核酸を添加した方法により、標的核酸の増幅前のコピー数を求めた。表3に方法の相違による定量値の相違を示した。その結果、入れる土壌試料の量が多くなるに応じてグラフが右にシフトするのは前記と同様であるが、本発明では、増幅効率の低下(増幅の遅れ)が観察されたが、内部標準遺伝子の増幅も同様に低下したため、添加した標的遺伝子量と本発明方法による定量値とがほぼ一致することが明らかになった。
【0230】
以上の結果より、内部標準核酸を添加し、標的核酸及び内部標準核酸由来の蛍光強度の変化量若しくは変化率から、標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める本発明の新規測定方法の有用性が明らかになった。又、本発明の方法の標準偏差値は、従来のリアルタイム定量的PCR法のそれより小さく、定量値のぶれが小さいことが明らかとなった。これらの結果から、PCR阻害物質が存在する場合は勿論のこと、存在しない場合においても、その正確性において従来法に対する本発明の優位性が証明された。
【0231】
6)モデル系で本発明方法の実施
前記実験例を踏まえて、標的核酸と内部標準核酸の添加比を変化させ、それぞれのPCRの増幅産物を前記二種のプローブの蛍光強度変化量をリアルタイムモニタリングした。その結果、添加比に応じて蛍光強度変化量が得られることを確認した。
【0232】
7)実際の土壌試料についての定量
前記実験例を踏まえて、標的遺伝子(nec1遺伝子)のコピー数が未知である土壌試料(標的核酸を含む。)について、既知量の内部標準核酸を用いて定量した。
土壌抽出核酸試料1μl及び2μlに、内部標準核酸を66.9コピーほど測定系に添加し、標的遺伝子(nec1遺伝子)の定量を本発明の方法にて行った。その結果、土壌抽出核酸試料を1μl添加した系では、67.5コピーと定量された。又、土壌抽出核酸試料を2μl添加した系の定量値は142.5コピーであった。本定量値は、土壌抽出核酸試料を1μl添加した系の約2倍であることから、ほぼ正確に土壌抽出核酸試料中の標的遺伝子(nec1遺伝子)を定量出来ているものと判断される。
【0233】
実施例2
Mergneyらのプローブを用いて、実施例1と同様の検討を行った。
1)プローブの合成
プローブの合成は、(株)日本遺伝子研究所(http://www.ngrl.co.jp/)によって合成されたものを使用した。
2)内部標準核酸(DNA遺伝子)
実施例1と同様である。
【0234】
3)標的核酸プローブ及び内部標準核酸プローブの作製
表4に示されるNECB-24 acceptorの塩基配列は実施例1に記載の標的核酸プローブの塩基配列であり、NECMB-24 acceptorの塩基配列は、前記同様に実施例1に記載の内部標準核酸プローブのものである。本実施例においては、標的核酸プローブをNECB-24 acceptorと、内部標準核酸プローブをNECMB-24 acceptorと呼称する。NECB-24 acceptorは、5’末端をLCRed640と呼ばれる蛍光色素で標識したもの、NECMB-24 acceptorは、5’末端をLCRed705と呼ばれる蛍光色素で標識したものである。双方とも3’末端の3’OH基をリン酸化した。上記の2種のプローブに修飾した蛍光色素(LCRed705、LCRed640)は、FRET現象のアクセプター色素として機能する。これら色素を励起するために必要なドナー色素を修飾したプローブが、Nec-donorである(配列は表4参照)。当該プローブの3’末端はFITCにして修飾されており、それぞれの標的遺伝子が存在した場合、色素標識部位が互いに向き合うように、2塩基間隔を置いてハイブリダイズするように設計されている(図9参照)。この様に、Nec-donorとNECB-24 acceptorあるいは、Nec-donorとNECMB-24 acceptorが隣接してハイブリダイズした場合、FRET現象が発生し、蛍光キャラクターが大きく変化する。この変化量から、それぞれのプローブセットの対応核酸を検出することが出来る。
又、当該プローブの塩基配列は、NECMB-24 acceptorにおいては、実施例1で用いたNECMB-24と同様であり、NECB-24 acceptorにおいては、実施例1で用いたNECB-24と同様である。
【0235】

【0236】
4)PCRは、以下に記述した以外の条件は、実施例1と同様の条件で行った。
・各プローブ(NECB-24 acceptor、NECBM-24 acceptor、Nec-donor)添加濃度:200nM
・測定装置:ライトサイクラーシステム(ロッシュ株式会社)(以下、便宜上、ライトサイクラーという。)。
・使用した蛍光測定用チャンネル
チャンネル2(Ex、470〜490nm;Em、640nm)。
チャンネル3(Ex、470〜490nm;Em、710nm)。
チャンネル2でLCRed640の測定を行い、同時にチャンネル3でLCRed705の蛍光測定を行った。
5)土壌からのDNAの抽出
実施例1と同様の方法で実施した。
【0237】
B)実験例
1)作製プローブの評価
標的核酸プローブ(Nec-donorとNECB-24 acceptorのセット)及び内部標準核酸プローブ(Nec-donorとNECMB-24 acceptorのセット)の対応核酸(標的核酸又は内部標準核酸)とハイブリダイズしたときのアクセプター蛍光変化率と解離曲線を作成することにより作製プローブの評価を行った。反応用バッファーはPCR反応で用いるものと同じものを使用した。
【0238】
その結果を図10及び11に示した。両プローブともアクセプター蛍光強度増加化率は約40%であり、顕著にアクセプターの蛍光強度が増加した。実施例1で使用したNECB-24及びNECMB-24と同様、完全相補的な核酸(標的核酸と標的核酸プローブ、又、内部標準核酸と内部標準核酸プローブ)とミスマッチを有する核酸とのTm値の差は、20℃弱であり、62℃付近で検出すれば、ミスマッチを有する核酸(標的核酸と内部標準核酸プローブ、又、内部標準核酸と標的核酸プローブ)を検出せずに完全相補的な核酸のみを検出できることが明らかとなった。以上の結果より、実施例1と同様、両プローブともPCRの増幅産物の検出は、62℃で行なうことにした。
【0239】
2)標的核酸と内部標準核酸の濃度比に対する標的核酸由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸由来の蛍光強度増加率との関係式の作成
標的核酸(塩基配列と添加する濃度が判明しているので、標準核酸というべきであるが、本発明においては、便宜上、標的核酸と称することにした。)と内部標準核酸(濃度比を様々に変化させたもの)を鋳型として、前記実施例1のA)の7)に記載の反応条件にて、PCRを実施し、標的核酸由来の増幅産物と内部標準核酸由来の増幅産物とを、それぞれMergneyらのプローブにてリアルタイムモニタリングした。その結果から、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率(NECB-24 acceptorプローブの蛍光強度増加率)と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率(NECMB-24 acceptorプローブの蛍光強度増加率)との比を求め、それをPCR前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比との関係を求めた(図12参照)。その結果、PCR前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比と、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率との比との間に高い相関があることが明らかとなった。従って、本関係式からPCR前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比を知ることが出来ることが示された。尚、この図の作製に当たり、前記の本発明のデータ解析方法の記載の処理を行い、蛍光強度変化率を求めた。
【0240】
図12から、未知試料中の標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める方法について以下に記す。先ず、標的核酸を含む未知試料にコピー数の判明している内部標準核酸、及び標的核酸プローブ並びに内部標準核酸プローブを添加して、PCRを行う。双方の核酸の増幅が反応系の蛍光強度変化から目視可能となったとき、双方の核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率を求める。当該蛍光強度増加率から、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率を求める。この比を図12に当てはめて、標的核酸(B)と内部標準核酸(A)の比(B/A)を求める。内部標準核酸量の核酸増幅前のコピー数(A’)は既知であるので、標的核酸の増幅前のコピー数(B’)は次式で求めることが出来る:
B’=(B/A)A’
【0241】
3)従来方法による外部標的(標準)核酸(遺伝子)の検量線を用いたライトサイクラーによる標的核酸の定量
Mergneyらのプローブを用いた以外、実施例1と同様のサンプル、同様の条件にて、既知濃度の標的遺伝子サンプルに、実際に土壌試料から抽出した核酸抽出試料(以下、土壌抽出核酸抽試料という場合がある。)を、濃度を変えて混合し、正確に定量を行なえるかどうか検討した。なお、使用する土壌は、標的遺伝子であるNec1遺伝子を含まないことを予め確認して用いた。又、内部標準核酸の検出用プローブ(NECMB-24 acceptor)と標的核酸プローブ(NECB-24 acceptor)及びNec-donorは、双方とも、反応チューブに添加し、それぞれ内部標準核酸と標的核酸を同時に検出した。
【0242】
先ず、土壌から抽出した核酸を含む試料3μlに6.690,000コピーのNec1遺伝子を添加し、nec1遺伝子の定量を行なった。又、土壌抽出核酸試料を添加せず、同数のnec1遺伝子を添加したサンプルについても、nec1遺伝子の定量を行った。その結果、実施例1と同様、土壌抽出核酸試料を添加したものは、土壌抽出核酸試料を添加しなかったサンプルに比べて、増幅が遅れて起こることが明らかとなった。この結果より、土壌抽出核酸試料には、増幅効率を低下させるPCR阻害物質が含まれていることが示唆された。この遅れによりに、Ct値が大きくなり、その結果、定量値は低く算出される事が分かった(表5参照)。以上の結果より、外部標的核酸(遺伝子)の検量線を用いた従来方法(リアルタイム定量的PCR方法)では、PCR阻害物質を含むサンプルについては正確に標的遺伝子の定量を行えないことが明らかとなった。
【0243】
4)本発明方法を用いたライトサイクラーによる標的核酸の定量
本発明の内部標準核酸を添加した方法を、Mergneyらのプローブを用いて実施し、標的核酸の増幅前のコピー数を求めた。表5に方法の相違による測定値の相違を示した。その結果、土壌抽出核酸試料を添加したサンプルでは、前記の従来方法(リアルタイム定量的PCR法)と同様、増幅効率の低下(増幅反応の遅れ)が観察されたが、内部標準遺伝子の増幅効率も同様に低下したため、測定値が一定となることが明らかになった。この結果より、内部標準核酸を添加し、標的核酸及び内部標準核酸由来の蛍光強度の変化量若しくは変化率から、標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める本発明の新規測定方法が、Mergneyらのプローブを用いても有効であることが明らかになった。
なお、表5の各方法の数値は、分析回数を5回ずつ行って得た数値の平均値である。
【0244】

【0245】
5)実際の土壌試料についての測定
前記実験例を踏まえて、標的遺伝子(nec1遺伝子)のコピー数が未知である土壌試料について、既知量の内部標準核酸を用いて当該コピー数を測定した。使用した土壌サンプルは、実施例1の実際の土壌試料についての測定で用いたもの(土壌抽出溶液1μl当たり67.5コピーの標的遺伝子(nec1遺伝子)が存在すると測定されたサンプル)と同様である。
【0246】
実施例1と同様、土壌抽出核酸試料1μl及び2μlに、内部標準核酸を66.9コピーほど測定系に添加し、標的核酸(遺伝子)(nec1遺伝子)の測定を本発明の方法にて行った。その結果、土壌抽出核酸試料を1μl添加した系では、83.2コピーと測定された。当該測定値は、実施例1の測定値(67.5コピー)とほぼ同様の測定値を示した。又、土壌抽出核酸試料を2μl添加した系の測定値は152.7コピーであった。当該測定値は、土壌抽出核酸試料を1μl添加した系の約2倍であることから、ほぼ正確に土壌抽出核酸試料中の標的遺伝子(nec1遺伝子)を測定出来ているものと判断される。以上の結果より、Mergneyらのプローブを用いても、土壌中の標的遺伝子を正確に測定できることが強く示唆された。
【0247】
実施例3
分子ビーコン(Molecular beacon)プローブ(前記の公知発明方法の(3)に記載)を用いて、実施例1、2と同様の検討を行った。
1)プローブの合成
プローブは、エスペックオリゴサービス株式会社(http://www.business-zone.com/espec-oligo/)によって合成されたものを使用した。
【0248】
2)標的核酸プローブ及び内部標準核酸プローブ
表6に示されるNECB-24 beaconの塩基配列は標的核酸プローブの塩基配列であり、NECMB-24 beaconの塩基配列は、内部標準核酸プローブのものである。NECB-24 beaconは、ステム・ループ構造をとるよう4塩基ずつ塩基が付加されており、5’末端は、FAMと呼ばれる蛍光色素で、3’末端はDABCYLと呼ばれるクエンチャー物質で、それぞれ標識されている。NECMB-24 beaconも、ステム・ループ構造をとるよう4塩基ずつ塩基が付加されており、5’末端は、6−TAMRAと呼ばれる蛍光色素で、3’末端はDABCYLと呼ばれるクエンチャー物質で、それぞれ標識されている。
プローブ配列は表6に示したとおりである。
【0249】

【0250】
3)PCRは、以下に記述した以外の条件は、実施例2と同様の条件で行った。
・各プローブ添加濃度:200nM
・測定装置:スマートサイクラーシステム(タカラバイオ株式会社)(以下、便宜上、スマートサイクラーという。)。
・使用チャンネル:
チャンネル1(Ex、450〜495nm;Em、505〜537nm)。
チャンネル3(Ex、527〜555nm;Em、565〜605nm)。
チャンネル1でNECB-24 beaconに標識したFAMの蛍光測定を行い、同時にチャンネル3でNECB-24 beaconに標識した6-TAMRAの蛍光測定を行った。
【0251】
4)土壌からのDNAの抽出
実施例1と同様の方法で実施した。
【0252】
B)実験例
1)作製プローブの評価
標的核酸プローブ(NECB-24 beacon)及び内部標準核酸プローブ(NECMB-24 beacon)の対応核酸(標的核酸又は内部標準核酸)とハイブリダイズしたときの蛍光強度増加率と解離曲線を作成した。反応用バッファーは前記同様にPCR反応で用いるものと同じものを使用した。
【0253】
その結果を図13及び14に示した。完全相補的な核酸を添加した場合、両プローブとも蛍光強度が約2,000%増加した。又、ミスマッチを有する核酸を添加した場合、両プローブとも、ほとんど蛍光強度の増加が見られなかった。この結果より、両プローブともミスマッチを有する核酸とはほどんどハイブリダイズしない(標的核酸と内部標準核酸プローブとが、また内部標準核酸と標的核酸プローブとがハイブリダイズしない)と判断された。以上の結果より、実施例1と同様、両プローブともPCRの増幅産物の検出は、62℃で行なうことにした。
【0254】
2)標的核酸と内部標準核酸の濃度比に対する標的核酸由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸由来の蛍光強度増加率との関係式の作成
標的核酸と内部標準核酸の濃度比に対する標的核酸由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸由来の蛍光強度増加率との関係式を実施例2と同様の方法で求めた。未知試料中の標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める方法も、実施例2と同様である。
【0255】
3)Molecular beaconをプローブとして用いた際の、外部標準遺伝子の検量線を用いた従来方法による標的核酸の測定結果と、本発明の方法による標的核酸の測定結果との比較
Molecular beaconプローブを用いる以外、実施例1、2と同様に測定した。サンプル、同様の条件にて、外部標準遺伝子の検量線を用いた従来方法による標的核酸の測定結果と、本発明の方法による標的核酸の測定結果との比較を行った。その結果、土壌抽出核酸試料を添加した供試サンプルでは、実施例1、2と同様、増幅効率の低下(増幅反応の遅れ)が観察されたが、添加した標的核酸(遺伝子)を正確に測定可能であった(表7参照)。この結果より、molecular beaconをプローブとして用いても、本発明の新規測定方法を、好適に実施可能であることが明らかになった。
【0256】

【0257】
実施例4
前記の本願発明方法Bのi)〜iv)の(1)〜(3)の特質を有する核酸プローブを利用する方法を適用する実施例である。
1)標的核酸及び内部標準核酸
実施例1と同様にした。
2)標的核酸プローブの合成
前記実施例1に記載のNECB-24と同じ塩基配列とした(表2参照)。そして、5’末端シチジル酸に蛍光物質テキサスレッド(Texas Red)を、5’末端から6番目のチミンにクエンチャー物質Dabcylを鎖中標識した。
当該核酸プローブの合成はエスペックオリゴサービス社に委託した。
【0258】
3)内部標準核酸プローブの合成
前記実施例1に記載のNECMB-24と同じ塩基配列とし、5’末端シチジル酸に蛍光物質Alexa 594を、5’末端から6番目のチミンにクエンチャー物質Dabcylを鎖中標識した。調製は標的核酸プローブと同様に委託合成した。
【0259】
4)標的核酸と標的核酸プローブ、及び内部標準核酸と内部標準核酸プローブのハイブリダイゼーション条件:
実施例1と同様にした。
5)測定条件
励起波長及び測定蛍光波長は以下の通りである。
・標的核酸プローブ:励起波長:590nm(4nm幅);測定蛍光波長:610nm(4nm幅)。
・内部標準核酸プローブ:励起波長:560nm(4nm幅);測定蛍光波長:580nm(4nm幅)。
【0260】
6)実際の土壌核酸抽出試料中の標的遺伝子(nec1遺伝子)の測定
土壌核酸抽出試料中の標的遺伝子(nec1遺伝子)を、前記の本願発明方法Bのi)〜iv)の(1)〜(3)の特質を有する核酸プローブを利用して、実施例1と同様の内部標準核酸を添加するPCR法を介した遺伝子測定方法を実施して、測定した。PCR条件等は実施例1と同様である。その結果、土壌核酸抽出試料1μL中に含まれる標的遺伝子(nec1遺伝子)は63.2コピー、土壌核酸抽出試料2μL中に含まれる標的遺伝子(nec1遺伝子)は148.1コピーであった。この測定値は、実施例1〜3で得られた結果とほぼ同等であることから、本願発明方法Bのi)〜iv)の(1)〜(3)の特質を有する核酸プローブを用いても、本発明の新規測定方法を、好適に実施可能であることが示された。
【0261】
前記したように実施例1〜4において、種類の異なる核酸プローブを用いて、共通の標的遺伝子(nec1遺伝子)を、同様の方法(内部標準核酸を添加する手法)で測定した。その結果、ほぼ同様の良好な結果を得ることができた。遺伝子増幅過程をリアルタイムモニタリング出来るプローブであれば、プローブの種類に関わらず、本発明の新規測定方法に適応可能であることが明らかとなった。
【0262】
実施例5
前記公知方法のFRET現象を利用する場合ののv)〜ix)に記載のヘヤーピンプローブをプライマー(サンライズプライマー)として用い、リアルタイム定量的PCRを行って、標的核酸の核酸増幅前のコピー数を求める方法に本発明方法を適用する実施例である。
1)標的核酸の塩基配列
実施例1〜3で使用したNec1遺伝子
2)内部標準核酸塩基配列
実施例1〜3で使用したNec1遺伝子に対応する内部標準遺伝子
【0263】
3)プライマー
(1)標的核酸検出用フォーワードプライマー
・塩基配列:acagtta CTCCATGAACTGTACCGCGACCAG(アンダーライン:付加した配列)
・5’末端をドナー色素FAMで標識し、3’末端から12塩基目のTをクエンチャー色素 DABCYLで標識した。
(2)内部標準核酸検出用フォーワードプライマー
・塩基配列:agctttg CTCCATGAAagcTtCCGCGACCAG(アンダーライン:付加した配列、小文字:標的核酸検出用フォーワードプライマーと配列が異なる部位。つまり、標的核酸と内部標準核酸の配列が異なる部位)
・5’末端のリン基をドナー色素6−TAMRAで標識し、3’末端から12塩基目のTを前記同様にクエンチャー色素DABCYLで標識した。
(3)リバースプライマー
・塩基配列:前記の表1のf(NECS-R)
【0264】
前記のフォワードプライマー(標的核酸検出用フォーワードプライマー及び内部標準核酸検出用フォーワードプライマー)は、サンライズプライマーとして機能するよう設計されており、遺伝子増幅によりプライマー内の分子内2次構造が解消されることで、蛍光発光するように設計されている。従って、本蛍光発光を測定することで、増幅産物をリアルタイムモニタリングすることが可能となる。又、各フォワードプライマーは、内部標準遺伝子と標的遺伝子の塩基配列の異なる部位を認識し、それぞれ特異的に結合し、伸長するように設計されている。このため、各フォーワードプライマー(標的核酸検出用フォーワードプライマー及び内部標準核酸検出用フォーワードプライマー)によって、標的核酸あるいは内部標準核酸を特異的に増幅することが出来る。又、標的核酸検出用フォーワードプライマー及び内部標準核酸検出用フォーワードプライマーは、それぞれ異なる蛍光色素で標識されているため、標的核酸由来の増幅増幅産物と内部標準核酸由来の増幅産物を、同一反応系内で同時に検出することが出来る。
前記プライマーは、エスペックオリゴサービス株式会社(http://www.business-zone.com/espec-oligo/)に委託し、合成した。
【0265】
4)PCRは次の条件で行った。
・変性反応:95℃、15sec
・アニーリング及び検出:55℃、5sec
・伸長(extention):72℃、10sec
・Taqポリメラーゼ:Gene Taq(日本ジーン株式会社)
・プライマー添加濃度:100nM
・鋳型核酸(Template):内部標準核酸NECM1及び標的核酸NEC1のPCR断片(a及びbプラマーをセットにしてPCR増幅産物:約700bp)の混合液
・測定装置:スマートサイクラーシステム(タカラバイオ株式会社)
【0266】
・使用チャンネル:
チャンネル1(Ex、450〜495nm;Em、505〜537nm)。
チャンネル3(Ex、527〜555nm;Em、565〜605nm)。
チャンネル1で標的核酸検出用フォーワードプライマーに標識したFAMの測定を行い、同時にチャンネル3で内部標準核酸検出用フォーワードプライマーに標識した6-TAMRAの蛍光測定を行った。
【0267】
5)標的核酸と内部標準核酸の濃度比に対する標的核酸由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸由来の蛍光強度増加率との関係式の作成
標的核酸と内部標準核酸の濃度比を、様々に変化させたものを鋳型として、前記実施例2の4)に記載の反応条件にて、PCRを実施し、標的核酸由来の増幅産物と内部標準核酸由来の増幅産物とを、それぞれリアルタイムモニタリングした。その結果から、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率(NECB-24 acceptorプローブの蛍光強度増加率)と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率(NECMB-24 acceptorプローブの蛍光強度増加率)との比を求め、それをPCR前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比との関係を求めた(図15参照)。その結果、PCR前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比と、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率との比との間に高い相関があることが明らかとなった。従って、当該関係式からPCR前の標的核酸と内部標的核酸の濃度比を知ることが出来ることが示された。以上の結果から、サンライズプライマーを用いた方法に於いても、実施例2,3の場合と同様に、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率との比から、PCR前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比を求めることが可能であることが明らかとなった。
【0268】
4)従来方法の検量線を用いたスマートサイクラーによる標的核酸の測定
既知濃度の標的遺伝子サンプルに、実際に土壌試料から抽出した核酸抽出試料を、濃度を変えて混合し、正確に測定を行なえるかどうか検討した。内部標準核酸用プライマーと標的核酸用プライマーは、双方とも、反応チューブに添加し、それぞれ内部標準核酸と標的核酸を同時に検出した。
【0269】
先ず、既知濃度の外部標的遺伝子(nec1遺伝子)による検量線を作成した。土壌から抽出した核酸を含む試料3μlに、6,690,000コピーの標的遺伝子(nec1遺伝子)を添加したものを鋳型とし、本サンプル中のnec1遺伝子の測定を、前記の検量線を用いて行なった。又、土壌抽出核酸試料を添加せず、同数のnec1遺伝子を添加したサンプルについても、nec1遺伝子の測定を行った。その結果、実施例1〜3の場合と同様、土壌抽出核酸試料を添加することで、土壌抽出核酸試料を添加しなかったサンプルに比べて、グラフが右にシフトすること、つまり増幅反応が遅れて起こることが明らかになった。この遅れによりにCt値が大きくなり、その結果、測定値は実際に添加した標的核酸(遺伝子)(nec1遺伝子)よりも低く算出される事が分かった(表8参照)。以上の結果より、外部標的核酸(遺伝子)による検量線を用いた従来方法(リアルタイム定量的PCR法)では、サンライズプライマーを用いた場合に於いても、PCR阻害物質を含むサンプル中の標的遺伝子の測定を、正確に実施できないことが明らかとなった。
【0270】

【0271】
5)本発明方法を用いたスマートサイクラーによる標的核酸の測定
本発明の内部標準核酸を添加した方法により、標的核酸の増幅前のコピー数を求めた(表8参照)。その結果、添加する土壌試料の量が多くなるに応じてグラフが右にシフトするのは前記と同様であるが、本発明では、増幅効率の低下(増幅反応の遅れ)が観察されたが、内部標準遺伝子の増幅も同様に低下したため、添加した標的遺伝子量と本発明方法による測定値とがほぼ一致することが明らかになった。
【0272】
以上の結果より、反応系に標的核酸に対応する内部標準核酸を添加し、標的核酸及び内部標準核酸由来の蛍光強度の変化量若しくは変化率を、サンライズプライマーを用いて求め、標的核酸の濃度若しくはコピー数を求める本発明の新規測定方法の有用性が明らかになった。
又、前記(実施例)と同様の検討を、前記本発明方法Bのix)に標記したハイブリダイゼーションにより蛍光が減少する核酸プローブを、プライマーとして用いた場合にも、上記と全く同様の傾向を示す結果が得られた(data not shown)。この結果より、遺伝子増幅過程をリアルタイムモニタリング出来るプライマーであれば、プライマーの種類に関わらず、本発明の新規測定方法に適応可能であることが明らかとなった。
【0273】
実施例6
遺伝子増幅法をPCR方法からLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)方法(一つの核酸増幅方法)に替えて、実施例1〜4までと同様の検討を行った。
1)標的遺伝子
実施例1〜5までと同様、nec1遺伝子とした。
2)土壌からのDNAの抽出
実施例1と同様の方法で実施した。
3)プローブの合成
プローブ及びプライマーは、エスペックオリゴサービス株式会社(http://www.business-zone.com/espec-oligo/)に委託製造した。
4)内部標準核酸(DNA遺伝子)の作製
実施例8として後述する人工遺伝子の取得法にて作製した。
5)LAMP用プライマーの設計と配列
プライマーの設計は、栄研化学株式会社(http://www.eiken.co.jp/)のホームページ上の、LAMP法用のプライマー設計ソフトにて行った。
本プライマーは、標的核酸と内部標準核酸に完全に相補的な配列を有しており、標的核酸と内部標準核酸を同時に増幅可能なプライマーとなっている。
【0274】

【0275】
6)標的核酸プローブ及び内部標準核酸プローブ
表9に示されるNECB-23 LAMPは、LAMP法で増幅される標的核酸由来の増幅産物を検出するためのプローブの塩基配列であり、NECMB-23 LAMPは、LAMPで増幅される内部標準由来の増幅産物を検出するための核酸プローブである。本実施例においては、標的核酸プローブをNECB-24と、内部標準核酸プローブをNECMB-24と呼称する。
【0276】
NECB-24は、前記に記載する方法にて5’末端をBODIPY FLで標識し、NECMB-24は、前記に記載する方法にて5’末端を6-TAMRAで標識してある。双方とも3’末端の3’OH基をリン酸化して用いた。
本プローブは、実施例1で用いた、対応核酸とハイブリダイズすることで蛍光強度が減少するタイプの核酸プローブである。
表中、NECB-23 LAMPの9、10、11、12及び14番目の塩基t、a、c及びtが、NECMB-23 LAMPにおいては、おのおのA、T、G及びAに変化したものである。
【0277】
B)実験例
1)作製プローブの評価
標的核酸プローブ(NECB-23 LAMP)及び内部標準核酸プローブ(NECMB-23 LAMP)の対応核酸(標的核酸又は内部標準核酸)とハイブリダイズしたときの蛍光強度変化率{消光(減少率)率}と解離曲線を作成した。反応用バッファーはLAMP法で用いるものと同じものを使用した。
【0278】
その結果を図16及び17に示した。NECB-23 LAMPは標的核酸と内部標準核酸とのTm値の差は、約20℃強であり、60〜70℃の範囲で検出すれば、内部標準核酸を検出せずに標的核酸のみを良好に検出できることが明らかとなった。又、同様にNECMB-23 LAMPは内部標準核酸と標的核酸とのTm値の差も、NECB-23 LAMPと同様、約20℃強であり、60〜70℃の範囲で検出すれば、標的核酸を検出せずに標的核酸のみを良好に検出できることが明らかとなった。以上の結果より、PCRの増幅産物の検出は両プローブとも、LAMP法の反応温度である65℃で行なうこととした。
【0279】
2)LAMP法による遺伝子増幅は次の条件で行った。
・反応温度:65℃、60min
・ポリメラーゼ,dNTP等を含む増幅キット:Loopamp DNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社)
・プライマー添加濃度:800nM(NEC FIP、NEC BIP)、200nM(NEC F3、NEC B3)(表10参照)
・プローブ添加濃度:各200nM
・鋳型核酸(Template):内部標準核酸NECM1及び標的核酸NEC1のPCR断片(表1のa及びbプラマーをセットにしてPCR増幅産物:約700bp)の混合液
・測定装置:スマートサイクラーシステム(タカラバイオ株式会社)(以下、便宜上、スマートサイクラーという。)。
【0280】
・使用チャンネル:
チャンネル1(Ex、450〜495nm;Em、505〜537nm)。
チャンネル3(Ex、527〜555nm;Em、565〜605nm)。
チャンネル1でBODIPY FLの測定を行い、同時にチャンネル3で6-TAMRAの蛍光測定を行った。
【0281】

【0282】
3)標的核酸と内部標準核酸の濃度比に対する標的核酸由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸由来の蛍光強度増加率との関係式の作成
標的核酸と内部標準核酸の濃度比を、様々に変化させたものを鋳型として、前記2)に記載の反応条件にて、LAMP反応を実施し、標的核酸由来の増幅産物と内部標準核酸由来の増幅産物とを、それぞれ表10に示した核酸プローブにてリアルタイムモニタリングした。その結果から、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度変化{消光(減少)率}(以下、単に蛍光消光率という。)(NECB-23 LAMPの蛍光消光率)と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光消光率(NECMB-23 LAMPの蛍光消光率)との比を求め、それをLAMP反応前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比との関係を求めた。その結果、実施例2〜4で示したPCRの場合と同様、増幅前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比と、標的核酸の増幅産物由来の蛍光消光率と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光消光率との比との間に高い相関が見られた(data not shown)。従って、PCR方法の場合と同じように、本関係式から遺伝子増幅前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比を知ることが出来ることが示された。
【0283】
4)LAMP法介した土壌中の標的遺伝子(nec1遺伝子)の測定
前記実験例を踏まえて、内部標準核酸を用い、かつLAMP法介した本発明の新規遺伝子測定手法にて、標的遺伝子(nec1遺伝子)のコピー数が未知である土壌抽出核酸試料(標的核酸を含む。)中に存在する標的核酸量を測定した。
実験は、実施例1〜5のPCRを介した手法と同様、土壌抽出核酸試料1μl及び2μlに、内部標準核酸を66.9コピーほど測定系に添加し、標的遺伝子(nec1遺伝子)の測定を、LAMP法介した遺伝子測定方法にて行った。土壌抽出核酸試料は実施例1〜5と同様のものを用いた。その結果、土壌抽出核酸試料を1μl添加した系では、79.6コピーと測定された。又、土壌抽出核酸試料を2μl添加した系の測定値は139.2コピーであった。本測定値は、実施例1〜5で得られた結果とほぼ同等であることから、正確に土壌抽出核酸試料中の標的遺伝子(nec1遺伝子)を測定出来ているものと判断される。
以上の結果より、内部標準核酸を添加し、標的核酸及び内部標準核酸を核酸プローブにて検出することを特徴とする本発明の新規核酸(遺伝子)測定方法に、PCR方法以外の遺伝子増幅法を適応可能であることが、証明された。
【0284】
実施例7
Streptomyces turgidiscabiesのゲノムDNAから、nec1遺伝子の分離・濃縮を行うことが必要な場合は、以下の方法で分離・濃縮した。
使用する制限酵素は、Bfa1、BsaJ1、BssK1、Dde1、Msel、Msp1を使用した(全て、New England BIOLABSから購入した。)。これらは、2本鎖DNAの特定の4塩基の配列を認識して、切断する制限酵素であるため、確率論上、2本鎖DNAは約40塩基の長さに切断されると考えられる(任意の4塩基の配列は、256通りあるため、1種の4塩基認識の制限酵素で切断される部位は、256塩基毎に出現すると考えられる。今回は6種の制限酵素で切断するため、256÷6=42.6となり、平均して約40塩基毎に切断されると考えられる。)。しかしながら、nec1遺伝子は、上記6種の制限酵素を用いて処理することにより、nec1 遺伝子は536塩基の長さとなり、比較的長い2本鎖DNAとして存在する。このため、DNAの長さを指標として簡便に標的遺伝子を含む画分を回収可能となる。
【0285】
上記6種の制限酵素を各1μl、Mse1に付属のx10 bufferを10μl、ジャガイモそうか病が発生した土壌から前記実施例1と同様にして抽出した核酸溶液(80μl)を混合し、37℃で8時間反応させた後、更に60℃で8時間反応させた。nec1この断片を含む画分を、フィルター{マイクロコン−100(分割分子量=100,000)、ミリポア}に通した。100bp以下のDNAのみが本フィルターを通過するため、536塩基のnec1遺伝子は、フィルター上に残留する。nec1フィルター上に残留したnec1遺伝子を含む画分を回収し、乾燥後、1μlのミリポア純水に再溶解した。
【0286】
当該再溶解中のnec1遺伝子を実施例1の実験例7)と同様の手順にて測定した。又、濃縮の有無を確認するために制限酵素処理前の核酸溶液についても前記同様の方法でnec1遺伝子を測定した。核酸溶液の添加量は、それぞれ10μlとした。その結果、濃縮処理を実施した核酸溶液中のnec1遺伝子数は4790コピー/μl、濃縮を実施しない場合の核酸溶液中の当該遺伝子数は63コピー/μlであった。以上の結果より、本方法により、簡便に標的核酸(nec1遺伝子)の濃縮が可能であることが証明された。
【0287】
実施例8
任意の塩基配列を有する長鎖の人工遺伝子の合成は、以下の方法で実施した。1)一本鎖オリゴヌクレオチドDNAの合成
合成する一本鎖オリゴヌクレオチド遺伝子は、実施例6で用いたnec1遺伝子に対応する内部標準遺伝子とした。その配列を以下に示す。塩基数は274bpであり、小文字とアンダーラインで示した部分が、標的核酸であるnec1遺伝子と配列の異なる部分である。当該一本鎖オリゴヌクレオチドDNAは、エスペックオリゴサービス株式会社に委託し、合成した。
【0288】
合成されたオリゴDNAは電気泳動にかけ、目的の一本鎖オリゴDNA遺伝子(274bp)由来のバンドが得られたかを確認したが、270bp付近に明瞭なバンドは確認できなかった。又、全体に電気泳動パターンはスメアであり、270bp以外についても、明瞭なバンドは確認されなかった。以上の結果は、様々な長さの一本鎖オリゴDNAが合成されており、目的の一本鎖オリゴDNA遺伝子の割合は、非常に低いということを示唆していると考えられる。以上の結果より、通常のオリゴDNAを合成する手法では、任意の配列を有する長鎖の遺伝子は得ることは不可能であることが強く示唆された。
【0289】
nec1 mutant for LAMP:
5’TTCACTGCTG TGGGGTATTG CGACACGAAT
TACCAGTGTG CGGGAGGTAG TGGCTCGtca
tTGCAGATGG TCAGTGAATT TCGATGACGG
GCCGACGGTA TCGACAATTG ACCTCCATGA
ACTGTACCGC GACCAGAGCG ACACCATGTC
CTCCTTTCGC ATTCTCGGGA GTGTGATGTC
GCGCGCCAAT CACCCGAATG AAACAGTCAC
GATTCATCAG CAATTTTATC GAGACAATGG
CGGGCAGGTG CCGCTCGGAG AGTACGAAAC
ACGGT3’
【0290】
2)一本鎖オリゴヌクレオチドDNAを鋳型としたPCR反応
目的のDNAを得るため、上記の一本鎖オリゴヌクレオチドDNA遺伝子を鋳型として、PCR増幅を行った。使用したプライマーの配列を表11に示した。PCRの条件は、以下に示した通りである。
・変性反応:95℃、60sec
・アニーリング及び検出:62℃、60sec
・伸長(extention):72℃、60sec
・サイクル数:40サイクル
・Taqポリメラーゼ:Gene Taq(日本ジーン株式会社)
・プライマー添加濃度:各500nM
・PCR装置:iCycler(バイオラッド社製)
【0291】

【0292】
PCR反応終了後、電気泳動を行った。しかしながら、270bp付近に明瞭なバンドは確認されなかった。そこで、得られたPCR産物を100倍に希釈し、これを鋳型として再度、同条件でPCRを実施し、電気泳動で産物を確認した。その結果、僅かに270bp付近にバンドが確認できた。しかしながら、泳動パターンが明瞭でなく全体にスメアであったため、再度、PCR産物を100倍に希釈したものを鋳型としてPCRを実施し、電気泳動で産物を確認したところ、270bp付近に明瞭なバンドが確認された。実際に、目的の産物が得られた事を確認するため、PCR産物の塩基配列を決定した。以下にその工程を示す。
【0293】
PCR産物は、マイクロスピンS-400HRカラム(アマシャムファルマシア社製)を用いて精製した。シークエンシング反応は、ダイデオキシターミネーター・シークエンシングキット(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて実施し、得られた産物は、自動塩基配列決定装置(ABI PRISM TM 377、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、塩基配列を決定した。その結果、前記のPCR産物は、目的の内部標準遺伝子の配列を有していることが確認できた。
以上の結果より、本発明方法により任意の配列を有する長鎖の人工遺伝子を、簡便に合成可能であることが証明された。
【0294】
実施例9
前記本願発明方法Bの核酸プローブに標識する色素の種類について調べた。下記の塩基配列を有するデオキシリボポリヌクレオチドを核酸プローブとして、下記の塩基配列を有するデオキシリボポリヌクレオチドを、それに対応する核酸とした。なお、各デオキシリボポリヌクレオチドは前記の核酸合成機を用いて調製した。
【0295】
・標的核酸プローブ用:5'CCCCCCCCCTTTTTT3'
・標的核酸用:5'AAAAAAGGGGGGGGGGGG3'
標的核酸プローブ用のデオキシリボポリヌクレオチドに色素を標識するには、前記実施例1と同様な方法を用いて行った。
蛍光測定は下記の条件で行った。
【0296】
(1)ハイブリダイゼーション溶液のコンポーネント
・合成DNA 320nM(終濃度)
・核酸プローブ 80nM(終濃度)
・NaCl 50mM(終濃度)
・MgCl2 1mM(終濃度)
・トリス−塩酸緩衝液(pH=7.2) 100mM(終濃度)
・ミリQ純水 1.6992ml
・終全量 2.0000ml
(2)ハイブリダイゼーションの温度:51℃
(3)測定条件:
励起光 :表9に記載
測定蛍光色:表9に記載
【0297】
その結果を、表9に示した。表から分かるように、本発明の蛍光色素の蛍光強度を減少させるために用いる蛍光色素として、前記記載の中でも好適なものは、蛍光強度の減少率が15%以上のものなどを挙げることができる。
【0298】
実施例10
前記Morrisonらの方法を適用する実施例(二種の核酸プローブを用いる方法である。そして、当該核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズする前は、当該プローブは互いにハイブリダイズしているものである。)である。
1)標的核酸及び内部標準核酸
実施例1と同様にした。
2)標的核酸プローブの合成
標的核酸プローブは次の二本のオリゴヌクレオチドからなるものである。
a) 5'-TCCATGAACT GTACCGCGACーCAG-3'(実施例1の標的核酸プローブNECB-24の5’末端のシチジル酸を削除した塩基配列)
b) 5'-TCGCGGTACA GTTCATGGA-3'(前記a)にハイブリダイズ塩基配列)
a)は、5’末端のリン酸基のOH基に蛍光物質6-TAMRAを標識した。
b)は、3’末端のアデノシンのデオキシリボースの3’位CのOH基にクエンチャー色素Dabcylを標識した。
【0299】
3)内部標準核酸プローブ
標的核酸と同様に、前記Morrisonらの方法に用いられているプローブである。
次の塩基配列を二本のオリゴヌクレオチドからなるものである。
a)5'-TCCATGAAAGCTTCCGCGACCAG-3’(実施例1の標的核酸プローブNECMB-24の5’末端を塩基削除したもの)
b)5'-TCGAA GTTCATGGA-3'(前記a)にハイブリダイズ塩基配列)
a)は、5’末端のリン酸基のOH基に蛍光物質FAMを標識した。
b)は、3’末端のアデノシンのデオキシリボースの3’位CのOH基にクエンチャー色素Dabcylを標識した。
【0300】
4)標的核酸プローブ、内部標的核酸プローブの調製方法
実施例4と同様に行った。
5)標的核酸と標的核酸プローブ、及び内部標準核酸と内部標準核酸プローブのハイブリダイゼーション条件:
実施例4と同様にした。
【0301】
6)測定条件
励起波長及び測定蛍光波長は以下の通りである。
・標的核酸プローブ:励起波長:527〜555nm;測定蛍光波長:565〜605nm。
・内部標準核酸プローブ:励起波長:450〜495nm;測定蛍光波長:505〜537nm。
【0302】
7)土壌サンプル(ハイブリダイゼーション反応の阻害物質)を含ない測定系でのハイブリダイゼーション反応の蛍光強度測定
標的核酸及び内部標準核酸の濃度を種々替えて、ハイブリダイゼーション前後の蛍光強度変化量を測定し、標的核酸及び内部標準核酸の検量線を作成した。
標的核酸プローブの濃度:500nM
内部標準核酸プローブの濃度:500nM
【0303】
8)土壌サンプル
標的核酸を含まない土壌について実施例1と同様に調製した。なお、標的核酸を含まないことを、実施例1の方法にて確認した。
9)土壌サンプル(ハイブリダイゼーション反応の阻害物質)を含む測定系での標的核酸の回収試験標的核酸の測定
(1)土壌サンプルを測定系100μLに100μL宛を添加して、測定系を複雑系にした。更に標的核酸を2.5×108コピー/10μLになるように添加した。内部標準核酸の濃度を種々変えて、蛍光強度を測定してた。その結果、内部標準核酸についての検量線が得られた。内部標準核酸の検量線についての変化率を計算し、標的核酸にあてはめた。その結果、複雑系における標的核酸の検量線を得た(実際は、簡便化法によって行った。内部標準核酸についての二つの検量線の勾配(傾き)を求め、同一濃度での二つの検量線の差を求めた。そして、内部標準核酸についての複雑系の検量線の勾配と、同一濃度での二つの検量線の差をそのまま、標的核酸について当てはめた。)。
【0304】
(2)土壌サンプル中の標的核酸のコピー数。
測定結果は、2.8×108コピー/10μL、標的核酸の回収率は112%であった。
【0305】
[発明の効果]
本発明の核酸の新規測定方法は前記のように構成されているので、標的核酸と標的核酸プローブのハイブリダイゼーション反応及び/又は核酸増幅反応を阻害する物質、又は多型核酸が含まれている試料においても、標的核酸を微量で、しかも正確かつ簡便、短時間に特異的に測定できる。しかも複数の標的核酸を同時に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0306】
【図1】遺伝子(標的核酸)にハイブリダイズする各プライマーの当該遺伝子におけるハイブリダイゼーションの位置。
【図2】標的核酸(遺伝子(wild type))又は内部標準核酸(nec1変異型遺伝子(mutated type))と標的核酸プローブ(NECB-24)とのハイブリダイゼーション物(標的核酸プローブ複合体)の解離曲線。
【図3】標的核酸(nec1遺伝子(wild type))又は内部標準核酸(nec1変異型遺伝子(mutated type))と内部標準核酸プローブ(NECMB-24)とのハイブリダイゼーション物(標的核酸プローブ複合体)の解離曲線。
【図4】標的核酸プローブによる標的核酸と内部標準核酸との混合物を鋳型とするPCRのリアルタイムモニタリング。
【図5】内部標準核酸プローブによる標的核酸と内部標準核酸との混合物を鋳型とするPCRのリアルタイムモニタリング。
【図6】DNA濃度と標的核酸プローブに標識された色素の蛍光強度変化量(率)の関係式を示す図。 A:標的核酸 B:内部標準核酸
【図7】A:土壌試料が添加されていない測定系における各種DNA濃度におけるPCRのリアルタイムモニタリグ。 B:Aに基づく検量線
【図8】従来公知の定量的PCR方法によるリアルタイムモニタリング。 鋳型核酸:nec1遺伝子のa及びbプローブをセットするPCR産物700万
【図9】ハイブリダイゼーションした際のプローブの位置関係
【図10】Nec-donorとNECB-24 acceptorのプローブセットの内部標準遺伝子とnec1遺伝子に対する解離曲線。
【図11】Nec-donorとNECMB-24 acceptorのプローブセットの内部標準遺伝子とnec1遺伝子に対する解離曲線。
【図12】増幅前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比に対する、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率との関係式
【図13】NECMB-24 beaconの内部標準遺伝子とnec1遺伝子に対する解離曲線。
【図14】NECMB-24 beaconの内部標準遺伝子とnec1遺伝子に対する解離曲線。
【図15】増幅前の標的核酸と内部標準核酸の濃度比に対する、標的核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率と内部標準核酸の増幅産物由来の蛍光強度増加率との関係式(サンライズプライマーを使用した場合)
【図16】NECB-23 LAMPの内部標準遺伝子とnec1遺伝子に対する解離曲線。
【図17】NECB-23 LAMPの内部標準遺伝子とnec1遺伝子に対する解離曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸塩基配列領域を切断しないような少なくとも一種の制限酵素によって標的核酸を含む全核酸を切断後、標的核酸塩基配列を含む核酸画分のみを分離・回収することを特徴とする標的核酸分離・回収濃縮方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2009−77736(P2009−77736A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318395(P2008−318395)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【分割の表示】特願2003−117140(P2003−117140)の分割
【原出願日】平成15年4月22日(2003.4.22)
【出願人】(000156581)日鉄環境エンジニアリング株式会社 (67)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】