説明

核酸キャリア及び核酸デリバリー方法

【課題】細胞外(血中)では核酸分子を安定に保持し、細胞内ではエンドソームから速やかに脱出し、核酸分子を放出可能なpH応答性核酸キャリア、及び標的細胞特異的な核酸キャリアを提供し、それを用いた標的細胞内への効率的核酸デリバリーシステムを提供する。
【解決手段】新規なポリビニルイミダゾールの部分的なアルキル置換体又はアミノアルキル置換体を製造し、当該部分アルキル置換又は部分アミノアルキル置換ポリビニルイミダゾールと核酸と静電的に結合させたpH応答性核酸複合体を提供した。当該pH応答性核酸複合体は、優れたpH応答性核酸キャリアとして用いることができ、さらに、糖鎖修飾ポリ−L−リジンを静電的に結合させた三元複合体は、標的細胞特異的な核酸キャリアとして働くので、副作用の少ない遺伝子治療用、又は診断用核酸キャリアとして特に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内に核酸を導入し機能させるための核酸用キャリア及び核酸デリバリー方法に関する。また、当該核酸キャリアを用いた肝臓の遺伝子治療用薬剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(遺伝子治療における核酸デリバリーについて)
遺伝子治療において一つの重要なポイントは、遺伝子をはじめとする核酸物質を効率よく細胞内に取り込ませ、その発現を高めるための材料、技術、方法論の開発である。
遺伝子の細胞内への導入方法としては、キャリアと呼ばれる遺伝子の運搬体を用いるのが一般的であり、古くはウイルスを用いたアプローチがなされてきた。ウイルスの遺伝子導入の効率は非常に高いが、天然のウイルスを用いるこの方法は、ウイルスのタンパクによる免疫原性、さらには組み替えによって起こる病原性の再発などの安全性の他、体内動態がコントロールできないといった問題がある。
これに対して、プラスミドDNA水溶液を直接投与する方法は、安全性の点で優れているものの遺伝子導入効率が低い。プラスミドDNAは、細胞に導入される前に生体内に存在する核酸分解酵素などによって分解・失活するばかりか、プラスミドDNAなどの核酸分子は、いわばリン酸基の連なったポリアニオンであり、分子内で電気的反発により広がった構造をとっているため、そのままではマイナスの電荷を有している細胞表面に付着できず、細胞内に導入されにくいと考えられている。
そこで、これらの問題を解決して、遺伝子治療を有効な治療手段として確立するためには、安全性の高い非ウイルス性の核酸キャリアを用いた、DDS(ドラッグデリバリーシステム)の概念を遺伝子治療に適応する研究が必要である。
【0003】
人工キャリア−核酸複合体(核酸キャリア)のうちでも、特に遺伝子治療用の遺伝子キャリアに対しては、導入された遺伝子を核内で発現させるための機能として以下のようなことが求められる。
(1)DNAを効率的にコンパクトに凝縮し、生体内外のDNA分解酵素から保護すること。
(2)効率よく、あるいは特異的に細胞に結合し取り込まれること。
(3)エンドソームから脱出し、細胞質中に移行すること。
(4)核内への集積を促進すること。
(5)遺伝子を遊離し、遺伝子を転写可能な状態にすること。

とりわけ、エンドサイトーシス経路により細胞内に取り込まれた外来遺伝子にとって、リソソームで分解されるか、あるいは細胞外に排出されるかの経路があるため、遺伝子の機能発現には、この(3)のエンドソームから細胞質への移行は重要なステップであり、近年ではsiRNA、リボザイム等、核への移行を必要としないRNAレベルでの核酸分子の機能発現の重要度が高まったことから、エンドソームから細胞質へのエスケープ工程は遺伝子キャリア設計において最も重要な要因として位置づけることができる。
【0004】
(カチオン性ポリマーについて)
標的細胞に遺伝子を効率よく導入するための人工キャリアとして、様々なカチオン性脂質やカチオン性ポリマーが開発されており、これらのカチオン性物質は、正に帯電しているため、負に帯電した遺伝子と静電相互作用によって容易に複合体(ポリイオンコンプレックス)を形成する。これらの複合体はリポプレックス(カチオン性リポソーム−DNA複合体)及びポリプレックス(カチオン性ポリマー−DNA複合体)ともよばれる。
現在までに、様々なポリカチオンが遺伝子キャリアとして合成されているが、最初に用いられたポリカチオンは、1987年のWuらによるポリ−L−リジン(PLL)である(非特許文献1)。その後、ポリエチレンイミン(PEL)(非特許文献2)、ポリアミドアミンデンドリマー(非特許文献3)、ポリ−2−ジメチルアミノエチルメタクリレート(非特許文献4)やキトサン(非特許文献5)等の多くの合成及び天然のポリカチオンが研究されてきた。
また、ポリカチオンとポリアニオンであるDNAとのポリイオンコンプレックスの静電的相互作用の安定性を高めつつ、血清タンパク質との相互作用を抑制する為に、ポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性親水性高分子も利用されている。これまで、PEGとPLLとのブロック及びグラフト共重合体、PEGとPEIのグラフト共重合体(非特許文献6)、デキストランとPLLのグラフト共重合体(非特許文献7)など、様々な非イオン性の親水性高分子とポリカチオンとのコンジュゲートも合成されている。
【0005】
(ポリカチオンにおけるエンドソームエスケープ)
これらポリカチオンにおいては、エンドソームから細胞質へのエスケープに関しては、活発な研究開発が行われている。
例えば、エンドソームからエスケープするポリカチオンの代表例として、1995年に提唱されたプロトンスポンジ仮説を有するポリエチレンイミンが挙げられる(非特許文献2)。生理pHから、エンドソームを経由してリソソームの様な酸性条件下に外部環境が変化すると、ポリエチレンイミンのプロトン化した窒素原子は15%から45%にまで増加する。あたかもスポンジの様にプロトンを吸収し、付随してカウンターイオンである塩化物イオンの流入を引き起こす。その結果、エンドソーム及びリソソーム内の浸透圧が上昇し、エンドソームはバーストし、内包物が細胞質に放出されると考えられている。
1997年には、ポリ−L−リジンと相対的弱塩基であるポリ(2−ジエチルアミノエチルメタクリレート)との異種塩基性セグメントを有するグラフト共重合体がエンドソームからのエスケープの為の新しい遺伝子キャリアの設計概念として発表された(非特許文献8)。
2000年、Wymanらはアニオン性両親媒性ペプチド(GALA)のグルタミン酸残基をリジン残基に置換した両親媒性ペプチドKALA(WEAK−LAKA−LAKA−LAKH−LAKA−LAKA−LKAC−EA)がポリカチオンを用いた遺伝子デリバリーシステムヘ用いられた(非特許文献9)。KALAは外部pHが7.5〜5.0に低下すると、両親媒性のα−helixからランダムコイルヘとコンフオーメーションが変化する。ポリカチオンとDNAの複合体を、静電的相互作用によりKALAペプチドで覆い、エンドソームからのエスケープを図っている。
また、ヒスチジンはその側鎖イミダゾール基のpKaが約6であり、エンドソーム内pHに相当する。従って、細胞外では多くのイミダゾール基はプロトン化されていないが、エンドソーム内では内部の酸性化に伴いプロトン化され、プラス電荷をもつことになる。その結果、ヒスチジンを含むペプチドあるいはポリマーのリン酸膜との相互作用が増大し、最終的にエンドソーム膜破壊を引き起こす。このヒスチジン残基の性質を利用したヒスチジン化オリゴリジンが設計され、アンチセンスDNAの細胞質への送達が試みられた。ポリ−L−リジンの遊離アミノ基の38%をヒスチジン残基で最適修飾したポリカチオンも設計され、ヒスチジンで修飾していないポリ−L−リジンに比べて、高い遺伝子導入活性が得られた(非特許文献10)。
一方、ポリ−L−リジンを主鎖にポリ−L−ヒスチジンを側鎖にしたグラフト共重合体が合成され、ポリ−L−リジン単独に比べて高い遺伝子発現活性が認められた(非特許文献11)。さらに、ポリ(1−ビニルイミダゾール)を主鎖にラクトース化ポリ−L−リジンを側鎖に用いたグラフト共重合体が合成され、pH7.5からpH6.0に外部pHを低下させることにより、ポリカチオンとDNAとのポリイオンコンプレックスの集合構造を変化させた(非特許文献12)。
しかしながら、いずれの遺伝子キャリアにおいても、細胞内へ核酸物質を輸送しエンドソームからのエスケープまでの工程での効率はかなりの改善がなされたものの、キャリアから核酸物質の解離工程も不十分である。最終的にこれらポリカチオンを主要骨格とした非ウイルス性遺伝子キャリアの遺伝子発現効率はウイルス性の遺伝子キャリアに比べて極めて遺伝子発現効率が低いのが現状である。
【0006】
(遺伝子治療におけるターゲティング)
薬物の体内での行先(体内動態)を積極的にコントロールし、薬物本来の効能をより発揮させようとする試みは、ターゲティング療法と呼ばれ、DDSの中核を成す研究課題となっているが、遺伝子治療においても、標的細胞に対する特異的な遺伝子発現が行えれば、期待した遺伝子効果が得られるのに加えて、標的細胞以外の細胞へ遺伝子が導入されることによる副作用の問題も解決できるため、ターゲティングは重要である。
そのためには、標的細胞特異的なリガンド分子を結合させた核酸キャリアを創設する必要があるが、上記発現効率の低い遺伝子キャリアに対して、さらに細胞ターゲティング能を付加することには困難を極める。
前述したように、遺伝子はキャリアによって凝縮される必要があると同時に、最終ステップにおいては、遺伝子を遊離して速やかに遺伝子の転写を開始させる必要がある。
PLLやPEI、ポリアミンドアミンデンドリマーとDNAとのポリプレックスはヌクレアーゼ耐性に優れることが報告されている(非特許文献13)。一方、ヌクレアーゼ耐性が、酵素による認識(切断)からの回避であることからも予測できるように、高いヌクレアーゼ耐性は、同時に転写因子による認識をも抑制する。事実、ポリプレックスのヌクレアーゼ耐性と転写因子との間の負の相関も指摘されている。つまり、カチオン性キャリアとDNAの強い静電的相互作用は、転写因子によるDNAの認識に対して直接的な影響を与えるため、高効率の非ウイルスキャリアを設計するにあたって、キャリア分子の化学的・物理化学的性質とポリプレックスの被転写翻訳効率との相関を解明し、さらに、その構造を最適化する戦略がとられるようになってきた。
YAMAOKA等は、ポリプレックスを核ヘマイクロインジェクションし、遺伝子発現との相関を評価することで、異なるキャリア分子からなるポリプレックスでのDNA分子の転写がキャリア分子に大きく影響されることを定量的に示すことに成功した。細胞による取り込みや細胞内移行性などは、生成したコンプレックスのサイズや物性に影響されるのに対して、転写のステップは、キャリアポリマーとDNA分子の直接的な高分子物性間相互作用が関与しているために、キャリア分子の特性が極めて大きな影響を及ぼす。
YAMAOKA等は、光散乱法、ゼータ電位測定、蛍光プローブ法など様々な手法により複合体の物性を詳細に解析した結果、3級および4級カチオン基は、複合体の凝縮を抑制し、さらにDNAの解離を容易にすること、また、水酸基などの非電荷親水性基は、複合体形成のドライビングフォースである静電的相互作用に関与しないため、複合体の親水性を保ち、膨潤した状態の複合体を形成することを明らかにした。これらはいずれも高い転写活性を示し、ポリプレックスの解離のしやすさの傾向が、直接的に転写活性に影響を与えることが示された(非特許文献14)。
このように、キャリア分子には、分子の凝縮によるヌクレアーゼ耐性の獲得と、コンプレックス中のDNA転写を許容するようなコンプレックスの凝集状態という、相反する性質を満たす必要がある。その上、さらに細胞ターゲティング能も持たせようとするのは困難であり、未だウイルス性キャリアに匹敵するような非ウイルス性核酸キャリアが提供できているとは言い難い。
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 262, 4429 (1987)
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 7297 (1995)
【非特許文献3】Bioconjugate Chem. 4, 372 (1993)
【非特許文献4】Pharm. Res. 13, 1038 (1996)
【非特許文献5】J. Control. Release 51, 213 (1998)
【非特許文献6】Bioconjugate Chem. 9, 805 (1998)
【非特許文献7】Bioconjugate Chem. 9, 292 (1998)
【非特許文献8】Bioconjugate Chem. 8, 833 (1997)
【非特許文献9】J. Control. Release 76, 183 (2001)
【非特許文献10】Bioconjugate Chem. 10, 406 (1999)
【非特許文献11】Bioconjugate Chem. 11, 637 (2000)
【非特許文献12】Colloids Surf. B: Biointerf. 22, 183 (2001)
【非特許文献13】J Pharm Sci. 87, 160 (1998)
【非特許文献14】Nucleic Acids Symp Ser. 49, 365 (2005)
【非特許文献15】Bioconjugate Chem.9,476 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞外(血中)で核酸分子を安定に保持することができ、かつエンドソームから脱出して、速やかに細胞質中で核酸分子を放出できるpH応答性核酸キャリアを提供し、さらに標的細胞への特異的な細胞取り込みも可能な標的細胞特異的なpH応答性核酸キャリアを提供すること、及びそれらを用いた核酸デリバリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、細胞内に取り込まれた後、エンドソームから脱出させることができ、細胞質に移行した後では速やかに核酸分子を放出できる核酸キャリアとして、ポリビニルイミダゾールに着目し、その各種置換体について鋭意研究の結果、新規なポリビニルイミダゾールの部分的なアミノアルキル置換体であるPVIm−NHが、優れたpH応答性核酸キャリアとして働くことを見いだした。
さらに、細胞ターゲティングを実現するために、細胞の糖鎖認識に着目して、肝細胞をモデルとし、肝細胞表面に存在するアシアロ糖タンパク質レセプターを特異的に認識するラクトースをリガンドとしたラクトース修飾ポリ−L−リジン(PLL−Lac)を合成した。
そして、PLL−Lacと上記PVIm−NHとをDNAと共に複合化(三元複合化)させたところ、2種のキャリアの相加効果を超えて、レセプターを介した特異的な細胞内取り込みと、エンドソームからの脱出促進のみならず、細胞外でのDNAの安定保持と、細胞質内におけるキャリアからの速やかなDNA遊離が実現でき、高い遺伝子発現が確認された。
これらの知見をもとに、優れたpH応答性核酸複合体及び標的細胞特異的pH応答性三元複合体、並びにこれらを核酸キャリアとして用いた核酸デリバリーシステムに関する本発明を完成させた。
本発明者らは、その後、さらに単独で細胞内に取り込まれ、目的核酸分子を効率的に発現させることができるポリイミダゾール置換体の研究開発に取り組み、イミダゾール基の部分的なアルキル置換体(PVIm−R)が、糖鎖修飾ポリリジンとの三元複合体を形成しなくても細胞内に核酸分子を導入できるばかりか、優れたpH応答性核酸複合体形成能は失わずに、目的核酸分子の高い発現効率を達成できたという驚くべき結果を得て、さらに本発明を発展させた。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]式(1)
【0009】
【化8】

〔式中、AはH又はNHを表す。rはモル分率を表し、0<r<1であり、mは1〜18の自然数を表す。〕で示される、数平均分子量1.0×10〜1.0×10の部分アルキル化もしくは部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩。
[2] 式(1)において、mが2であり、前記部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾールが部分アミノエチル化ポリビニルイミダゾールであることを特徴とする、前記[1]に記載の部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩。
[3] 式(1)において、mが4であり、前記部分アルキル化ポリビニルイミダゾールが部分ブチル化ポリビニルイミダゾールであることを特徴とする、前記[1]に記載の部分アルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩。
[4]
1−ビニルイミダゾールを重合させて得られた
式(2)
【化9】

〔式中、nは繰り返し数であって、式(2)のポリビニルイミダゾールの数平均分子量が1.0×10〜1.0×10となるに必要な重合度を表す。〕で示される、数平均分子量1.0×10〜1.0×10のポリビニルイミダゾールと、
式(3)
【化10】

〔式中、mは式(1)と同一の意味を表す。〕で示される、ハロゲン化アルキルアミン、又は
式(4)
【化11】

〔式中、mは式(1)と同一の意味を表す。〕で示される、ハロゲン化アルキルとを、非プロトン性有機溶媒中で反応させることを特徴とする、
式(1)
【化12】

〔式中、A、r、mは式(1)と同一の意味を表す。〕で示される、数平均分子量1.0×10〜1.0×10の部分アルキル化もしくは部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩の製造方法。
[5] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載の部分アルキル化もしくは部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾールのカチオン性の塩と核酸とが静電的に結合していることを特徴とするpH応答性核酸複合体。
[6] 前記核酸が、発現ベクターを含む、もしくは含まないDNA分子であり、標的細胞内で発現させることを特徴とする前記[5]に記載のpH応答性核酸複合体。
[7] 前記核酸が、発現ベクターを含む、もしくは含まないRNA分子であり、標的細胞内でsiRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、またはリボザイムとして機能させることを特徴とする前記[5]に記載のpH応答性核酸複合体。
[8] 前記核酸が、標識された核酸であるか又はレポーター遺伝子を含む核酸であることを特徴とする前記[5]〜[7]のいずれかに記載のpH応答性核酸複合体。
[9] 前記[5]〜[8]のいずれかに記載のpH応答性核酸複合体を含み、標的細胞内に目的の核酸を輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させるためのpH応答性核酸キャリア。
[10] 前記[5]〜[8]のいずれかに記載のpH応答性核酸複合体に対して、さらに下記式(5)で示される数平均分子量が1.0×10〜1.0×10の糖鎖修飾ポリリジンが静電的に結合していることを特徴とする、糖鎖修飾ポリリジン/部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール塩/核酸からなるpH応答性三元複合体。
式(5)
【0010】
【化13】

〔式中、pはモル分率を表し、0<p<1である。〕
[11] 前記糖鎖修飾ポリリジンが
式(6)
【0011】
【化14】

〔式中、pは式(5)と同一の意味を表す。〕で示されるラクトース修飾ポリリジン、
又は、β−ガラクトース末端を有する糖鎖修飾ポリリジンであることを特徴とする、前記[10]に記載のpH応答性三元複合体。
[12] 前記[10]又は[11]に記載のpH応答性三元複合体を含むことを特徴とする、標的細胞内に目的の核酸を特異的に輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させるための標的細胞特異的pH応答性核酸キャリア。
[13] pH応答性三元複合体中の糖鎖修飾ポリリジンがラクトース又はβ−ガラクトース末端を有する糖鎖で修飾されたポリリジンであって、かつ標的細胞が肝細胞であることを特徴とする、前記[12]に記載の標的細胞特異的pH応答性核酸キャリア。
[14] 前記[9]に記載のpH応答性核酸キャリア又は前記[10]〜[13]のいずれかに記載の標的細胞特異的pH応答性核酸キャリアを有効成分として含むことを特徴とする、遺伝子治療用医薬組成物。
[15] 前記[9]に記載のpH応答性核酸キャリア又は前記[10]〜[13]のいずれかに記載の標的細胞特異的pH応答性核酸キャリアを有効成分として含むことを特徴とする、標的細胞の同定、検出又は診断用試薬。
[16] 前記[9]に記載のpH応答性核酸キャリアを用いることを特徴とする、標的細胞内に目的の核酸を輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させる核酸デリバリー方法。
[17] 前記[10]〜[13]のいずれかに記載の標的細胞特異的pH応答性核酸キャリアを用いることを特徴とする、標的細胞内に特異的に目的の核酸を輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させる核酸デリバリー方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のpH応答性核酸複合体は、核酸キャリアとして用いることで、血液中(細胞外)では核酸分子を安定に保持できる、かつ細胞に取り込まれてからは、速やかにエンドソームから脱出し、核酸分子も放出して核酸を発現させるか又は機能させることができる。
特に、標的細胞に特異的な糖鎖で修飾したポリリジンをさらに静電的に結合させたpH応答性三元複合体は、目的の核酸を標的細胞内に特異的に輸送し、標的細胞内で効率よく核酸本来の機能を発揮させることができる。
本発明のこれらのpH応答性複合体を核酸キャリアとして用いることで、副作用の少ない効率的な肝臓の遺伝子治療が可能となり、同時に、導入した核酸又はその発現産物の肝臓内での動向のモニターがリアルタイムで行うことも可能となった。
糖鎖として各種細胞に特異的なレセプターのリガンドとなる糖鎖を選択すれば、種々の臓器特異的な遺伝子治療が可能になり、特に癌細胞特異的な糖鎖を用いれば、効果的な抗癌剤、癌診断剤を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔1〕新規化合物である「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」及び「部分アルキル化ポリビニルイミダゾール」について
1.新規pH応答性遺伝子キャリアである「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」の設計
目的とした遺伝子デリバリーシステムを達成するためのpH応答性遺伝子として、新規ポリカチオンである「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」を想定し、その典型的な部分アミノエチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm−NH)を設計した。(PVIm−NH)はノニオンの親水性高分子であるポリ(1−ビニルイミダゾール)(PVIm)にアミノエチル基を複数導入したポリカチオンであり、以下の3つの特徴を期待した。
(a)アミノエチル基によるDNA保持
動物の血清中には、多くのDNA分解酵素が含まれており、血清中でのプラスミドDNAの活性の半減期は5分以下である。また、DNAが細胞に取り込まれると、エンドソームはライソソームと融合し、DNAは多量の分解酵素にさらされる。さらに、運よく細胞質に逃げ出せたとしても、そこには細胞質DNA分解酵素がやはり存在する。このように、生体は外来のDNA分子を攻撃、不活性化するシステムを何重にも備えており、投与された遺伝子医薬はこれを全てクリアしなければならない。
タンパク製剤のように、活性発現部位が限定された高分子医薬の場合には、ポリエチレングリコール(PEG)のような生体不活性剤な合成高分子と共有結合することによって、酵素や抗体の接近を防ぐことも有効である。しかし、遺伝子治療に用いられるプラスミド分子では、その大部分が活性に直接関与しており、さらに高次構造も発現に大きく影響するために、このような保護高分子との直接的な結合は難しい。そこで、DNA分子をこれらの酵素分解から守る、より簡便で効果的な方法は、DNAを小さく折りたたむことである。投与されたときから、標的細胞の核内で翻訳される直前まで、プラスミドの二重鎮をコンパクトに折りたたんで、酵素がアタックできないようにしておくことが、効率よい遺伝子発現のために効果的である。また、サイズの凝縮という点から考慮しても、DNAはコンパクトに凝縮される必要がある。
そのため、PVIm−NHには、アミノエチル基を複数導入することでカチオン化した。生理pHで正電荷を有するアミノエチル基が、DNAのリン酸基と相互作用することにより、DNAを静電的にキャリア内に保持し、DNA分解酵素からの保持、複合体サイズの凝縮といった効果を発揮することを期待した。
(b)親水主鎖による親水性
DNA複合体は、サイズが大きくなることによって、体内動態の変化や細胞内取り込みの低下が問題となる。プラスミドDNAのような高分子を細胞が取り込むメカニズムは、エイドサイトーシスによる輸送が一般的であるが、通常の細胞が行う飲作用(ピノサイトーシス)と呼ばれるエンドサイトーシスで形成されるエンドソームは、直径150nm以下の小さなものである。従って、DNA分子がランダムコイル状のままの大きさでは、細胞への効率的な取り込みは望めない。事実、nakedプラスミドDNA分子の筋肉組織内への直接投与においては、細胞表面のマイナスチャージとの反発も合いまって、細胞に取り込まれるのは1%以下である、と報告されている。また、循環系への投与を考えた場合、最も透過しやすい肝臓の不連続型血管壁であっても、そのgapサイズは30〜500nmであり、核酸製剤はこれ以下のサイズでないと、実質細胞へのスムーズな核移行はできない。
従って、DNA複合体には水溶液中で、凝集体を形成せずに、小さな粒子サイズを保持する必要がある。
また、キャリアが親水鎖を有することで、血清タンパク質との非特異的相互作用や細網内皮系への捕獲を回避し、血中滞留性を向上させる効果を期待できる。そこで、生理pHでノニオンの水溶性高分子であるポリビニルを選択し、キャリアの水溶性、DNA複合体の分散安定性を得ることを期待した。
(c)イミダゾール基によるpH応答的なエンドソーム膜破壊
イミダゾール基はpKaが約6であるため、細胞外では多くのイミダゾール基はプロトン化されていないが、エンドソーム内では内部の酸性化に伴いプロトン化される。このため、エンドソーム内でプロトンスポンジ効果を発揮することによるエンドソーム膜破壊が期待できる。また、プロトン化によりイミダゾール基がプラス電荷をもち、複合体外側にカチオン化部位が表出するといった構造変化を起こすことにより、負に帯電したエンドソーム膜との相互作用を増大し、最終的にエンドソーム膜を破壊することが期待される。プロトンスポンジ効果と構造変化による細胞膜破壊活性の相乗効果により、PVIm−NHはエンドソームから細胞質への移行を促進すると考えられる。
【0014】
(d)「部分アルキル化ポリビニルイミダゾール」について
本発明者らの先に開発したポリイミダゾール部分置換体である「PVIm−NH」は、核酸キャリアとして核酸複合体を形成し、糖鎖修飾ポリリジンとの三元複合体となって細胞特異的に細胞内に取り込まれ、取り込まれた細胞内ではエンドソーム脱出、核酸分子の解離後、目的核酸分子の発現が効果的に行える優れた核酸キャリアではあるが、三元複合体を形成せずに核酸複合体単独では細胞内に取り込まれる効率がきわめて低かったので、何らかの細胞内への導入手段と組み合わせて用いる必要がある。
本発明者らは、さらに細胞内での優れた特性は失わずに、糖鎖修飾ポリリジンとの三元複合体を形成させなくても、単独で細胞内に取り込まれ、目的核酸分子を効率的に発現させることができるポリイミダゾール置換体が開発できないかとのコンセプトのもとに鋭意研究を続け、イミダゾール基への導入側鎖を種々検討した結果、アミノ基のようなカチオン性を付与する官能基を全く持たない疎水性のシンプルなアルキル基置換体が、そのような優れた特性を有しているという驚くべき結果を得た。
結果から見て、ポリイミダゾールのイミダゾール基の3位のNにブチル基、オクチル基という炭素数の異なるアルキル基で部分的に置換された部分アルキル置換ポリイミダゾール「PVIm−R」においては、親水性のイミダゾール基の作用で標的細胞内外での水溶性を保ち、エンドソーム内では充分なプロトンスポンジ効果を有する点では変わりないが、一部分導入されたアルキル基の疎水性がイミダゾール基の親水性とあわさり両親媒性効果を発揮して、細胞膜と絶妙な相互作用を果たしたことで、エンドソーム膜融合が可能となったものと考えられる。また、意外なことに、イミダゾール環にあえてカチオン性官能基を導入しなくてもイミダゾール環の3位のNが4級化した程度でも充分に生理的pH条件下では核酸分子との安定な複合体が形成できることを示す結果となった。
当該部分アルキル化ポリイミダゾールは、特にブチル基などのように炭素数が少ない場合には生体毒性も極めて低いため遺伝子治療用の核酸キャリアとしても極めて有用であり、特定の細胞に対してのみ特異的に発現させたい場合は、糖鎖修飾ポリリジンなどとの三元複合体化により、ターゲティングも可能である。
【0015】
2.本発明における「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」、「部分アルキル化ポリビニルイミダゾール」及びその塩
本発明は、優れたpH応答性核酸キャリアとして開発された、新規な「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」、「部分アルキル化ポリビニルイミダゾール」及びその塩に関するものである。
本発明の「部分アルキル化もしくは部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」(以下、前者を単に「アルキル化ポリビニルイミダゾール」、後者を「アミノ化ポリビニルイミダゾール」ともいう。)は具体的には、下記式(1)の化合物であり、核酸キャリアとしてはそのカチオン塩が用いられる。
式(1)
【0016】
【化15】

ここで、AはH又はNHを表す。なお、AがHの場合が「アルキル化ポリイミダゾール」であり、AがNHの場合が「アミノ化ポリイミダゾール」に対応する。rはモル分率を表し、0<r<1であるが、pH応答性核酸キャリアとして好ましい範囲は、rが0.01〜0.5であり、アミノ化ポリイミダゾールの場合、より好ましくは0.02〜0.1である。一方、アルキル化ポリイミダゾールの場合は、導入するアルキル基の炭素数が多い場合(m=6〜18)は疎水性が高まるためモル分率は低い方がより好ましくr=0.02〜0.25がさらに好ましいが、アルキル基の炭素数が少ない場合(m=1〜5)は、むしろr=0.1〜0.3がより好ましい。この様なモル分率の範囲であれば、イミダゾール基に基づく細胞内に取り込まれた後のエンドソーム内での細胞外生理pHとの差pH5〜7でのプロトンスポンジ効果が期待できる。その分子量は、数平均分子量1.0×10〜1.0×10の範囲であるが、好ましくは、2.0×10〜2.0×10、より好ましくは8.0×10〜1.1×10の範囲である。分子量が大きい方が核酸キャリアとしての特性は高まるが、大きすぎると腎排出されにくく生体への蓄積毒性の危険性が高まる。また、mは1〜18の自然数を表し、アミノ化ポリイミダゾールの場合にはmは1〜5が好ましく、m=2の「部分アミノエチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm−NH)」が最も好ましい。アルキル化ポリイミダゾールの場合は、m=2〜18が好ましく、m=2〜10がより好ましく、m=3〜8がさらに好ましく、m=4の部分ブチル化ポリイミダゾールが最も好ましい。
また、本発明はアミノ化ポリビニルイミダゾール又はアルキル化ポリイミダゾールの製造法にも係るものであり、具体的には、式(2)の数平均分子量1.0×10〜1.0×10、好ましくは2.0×10〜2.0×10より好ましくは9.0×10〜1.1×10の範囲のポリビニルイミダゾールを、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルフォルムアミド(DMF)等の非プロトン性有機溶媒中で、ハロゲン化アルキルアミン、又はハロゲン化アルキルと共に数時間インキュベートすることで得られる。
ここで、ポリビニルイミダゾールの数平均分子量は、生成物の「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」と同様、数平均分子量1.0×10〜1.0×10の範囲であるが、好ましくは、2.0×10〜2.0×10、より好ましくは8.0×10〜1.1×10の範囲である。対応する繰り返し単位nは、約10〜1.0×10であり、好ましくは20〜200、より好ましくは90〜110である。
ハロゲン化アルキルアミンとしては、ブロモアルキルアミン、ヨウ素化アルキルアミンが通常用いられる。本実施態様では2−ブロモエチレンアミンを用いた。
ハロゲン化アルキルとしては、ブロモアルキル、ヨウ素化アルキルが通常用いられる。本実施態様では1−ブロモブタン及び1−ブロモオクタンを用いた。
【0017】
3.新規なpH応答性核酸キャリア
本発明で得られた「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」及び「部分アルキル化ポリビニルイミダゾール」はいずれも核酸と静電的に結合して核酸複合体を形成する。
対象の核酸としては、DNA、RNAのいずれであってもよく、単離されたものでも合成されたものでも、一部に修飾を受けたものでもよい。長さは、数ヌクレオチド長から100,000ヌクレオチド長まで可能であり、好ましくは10〜10,000ヌクレオチド長、より好ましくは5,000〜7,000ヌクレオチド長である。典型的には、遺伝子治療などに用いる各種治療用遺伝子、または細胞内での薬剤の動向などをモニターするための蛍光タンパク質など標識となるタンパク質をコードするレポーター遺伝子が用いられる。治療用遺伝子としては、各種の酵素、ホルモン、サイトカイン、抗体、リガンド、エピトープをコードするDNAなどが用いられ、レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、またはグリーンフルオレッセンスプロテイン遺伝子が好適に用いられる。これらはDNA分子にプロモーター等の調節遺伝子をつなげただけでもよいが、発現プラスミド、ウイルスベクターなど通常の発現ベクターに挿入した状態で用いてもよい。
また、siRNAやマイクロRNA、アンチセンスRNA、リボザイムなどのRNAも用いられ、これらRNA分子はそのまま直接用いてもよく、また細胞内で所望のアンチセンスRNAやsiRNAなどを生成できるように構成された発現ベクターで用いることもできる。
核酸複合体の調製は、pH7.2〜7.4の緩衝液中、室温下で、本発明で得られた「部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール」又は「部分アルキル化ポリビニルイミダゾール」を核酸と混合するだけでよく、簡単に静電的に結合する。その際のpH調製は、PBS(−),PB又は純粋に緩衝液を加えて行う。緩衝液としては、生理pH条件のpH7.2〜7.4を保つことができるものであれば何でもよいが、リン酸緩衝液が好ましい。
特に、「部分アルキル化ポリビニルイミダゾール」を用いたpH応答性核酸キャリアは、糖鎖修飾ポリリジンと共に三元複合体を形成させなくても、細胞膜と融合して細胞内に取り込まれて目的核酸分子を効率的に発現させることができる(実施例8−4、図17)。とりわけ、部分アルキル基の炭素数(m)が少ない場合(例えば、部分ブチル化ポリビニルイミダゾール)は生体毒性も極めて低いため、遺伝子治療用の核酸キャリアとしての有用性が高い。
【0018】
〔2〕糖鎖修飾ポリリジンについて
1.細胞ターゲティング遺伝子用キャリアとしての糖鎖修飾ポリリジンの設計
次に、細胞ターゲティング用キャリアの検討を行った。細胞ターゲティングを実現するため、細胞の糖鎖認識に着目した。
生体内の各臓器中の細胞表面には、細胞特異的な膜結合型レセプターが存在している場合が多く、それぞれそのレセプターに特異的に認識されるリガンドは、細胞特異的なリガンドとして働く。例えば、肝実質細胞表面に多数存在するアシアロ糖タンパク質レセプターは、ラクトース又はβガラクトース末端糖鎖を有する糖類などにより特異的に認識される。肝臓癌細胞にもアシアロ糖タンパク質レセプターは発現しているので、これらの糖鎖修飾は有効であり、さらに癌細胞に特異的な糖鎖認識の利用も期待できる。また、肝類洞内皮細胞への認識能を有するヒアルロン酸等の糖類は周知の糖鎖リガンドとして、医薬組成物のデリバリー(DDS)などで広く用いられている(非特許文献15)。
本発明の実施の態様では、肝細胞をモデルとし、肝細胞表面のアシアロ糖タンパク質レセプターを特異的に認識するラクトースを、リガンドとしてポリ−L−リジン(PLL)に修飾した、ラクトース修飾ポリ−L−リジン(PLL−Lac)を、細胞ターゲティング用キャリアとして用いた。PLL−Lacのラクトース修飾率は95−100mol%の高い修飾率のものを設計した。これは、リガンド数を増やすことにより細胞認識能を高めること加えて、ラクトースの立体障害によりDNAとの結合力を弱め、エンドソーム内での解離を促進する効果を期待した。
【0019】
2.糖鎖修飾ポリリジン
本発明の糖鎖修飾ポリリジンは、以下の構造式を有する。
式(4)
【0020】
【化16】

〔式中、pはモル分率を表し、0<p<1である。〕
数平均分子量が1.0×10〜1.0×10であれば適宜用いられるが、好ましくは1.0×10〜3.0×10であり、より好ましくは1.1×10〜1.3×10である。対応する繰り返し単位は、約2〜2100であって、好ましくは21〜640、より好ましくは230〜280に相当する。
糖鎖の導入率pは、モル分率で0<p<1で、好ましくは約0.01〜1.0、より好ましくは0.5〜1.0、最も好ましくは0.9〜1.0である。
導入する糖鎖としては、核酸を輸送しようとするターゲットとなる細胞表面に特異的に存在するレセプターのリガンドとなる糖鎖が選択される。本発明の実施態様では、実質肝細胞に特異的に存在するアシアロ糖蛋白質レセプターの特異的リガンドである糖鎖のうちラクトースをモデルとして検討したが、他の糖鎖、特に糖単位が1〜10までの、単糖、二糖又はオリゴ糖が好ましい。アシアロ糖蛋白質レセプターの特異的リガンド糖鎖としては、他にβ―ガラクトース末端を有する糖鎖などがあり、同様に好ましい。その他、肝臓癌細胞にもアシアロ糖蛋白質レセプターは発現しており、癌細胞への特異的糖鎖認識の利用も期待できる。また、肝類洞内皮細胞への認識能を有するヒアルロン酸、炎症性内皮細胞上へ誘導されるセレクチンを認識するシアリルルイスx等の糖鎖の利用も考えられる。
【0021】
〔3〕pH応答性三元複合体(以下、主に「PLL−Lac/PVIm−NH/核酸」について述べるが、「PLL−Lac/PVIm−R/核酸」についても同様に適用できる。)
1.PLL−Lac/PVIm−NH/核酸からなるpH応答性三元複合体(以下、単に「三元複合体」ともいう。)を形成させ、その特性を調べることで新規核酸デリバリーシステムと成り得る可能性を検討し、次いで実際に当該三元複合体を用いてin vitroでの実験を行い、細胞ターゲティング能を有する新規pH応答性核酸デリバリーシステムとしての可能性を示す。
【0022】
2.PLL−Lac/PVIm−NH/核酸からなる三元複合体の調製
ここで、対象の核酸としては、上記したとおり、DNAでもRNAでもよいが、実施態様としては、発現程度を簡単に観察できる化学発光系のレポーター遺伝子であるルシフェラーゼをコードしたプラスミドDNAを用いたので、PLL−Lac/PVIm−NH/DNAの三元複合体調製について述べる。
PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体は、PBS (−)、PB、または純水に、PLL−LacとPVIm−NHを加え、最後にDNAを加えてピペッティングすることにより、静電的に自己組織化させ形成できる。
このような手法に限らず透析法等が適用できる。
【0023】
3.核酸キャリアとしてのpH応答性三元複合体
PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体がエンドサイトーシス効果を得られるかどうかの粒子サイズの検討、pH変化に対応して、血清中での安定性と同時にエンドソーム内でのプロトンスポンジ効果が引き起こし、かつpH応答的膜破壊を起こせるか否かの検討、さらに細胞質内の環境で遺伝子を遊離できるか否かの検討を行い、いずれも良好な結果を得た。
さらに、モデル細胞として、培養肝細胞を用いた実験により、肝細胞特異的に遺伝子を細胞内に輸送し、かつ遺伝子を効率的に発現させることができることを確認した。
本発明が対象とする生体内細胞や各種癌細胞は、表面に当該細胞特異的なレセプターを有しており、当該レセプターが特異的な糖鎖リガンドを有する場合が好ましいが、どのような細胞に対しても細胞内に遺伝子導入しようという場合は、普遍的な糖鎖リガンドを選択することで、一般的な細胞への導入が可能となる。例えば、デキストランなどを用いることにより、非特異的なエンドサイトーシスによる取り込みを誘起させることが考えられる。
【0024】
4.遺伝子治療用医薬組成物
本発明のpH応答性核酸複合体及び同三元複合体を通常の医薬用担体と共に遺伝子治療用医薬組成物として用いることができる。
遺伝子治療用の核酸については、上記〔1〕3.で述べたように、DNA、RNAのいずれであってもよく、フラグメントであっても適宜発現ベクターに含まれていても良い。
医薬用担体としては、典型的には、本発明の複合体は薬学的に許容される担体又は希釈剤と共に投与目的で製剤化される。薬学的に許容される担体又は希釈剤は、例えば、等張性溶液である。例えば、固形経口形態は、活性化合物と共に、例えば、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチ又はポテトスターチのような希釈剤;シリカタルク、ステアリン酸、セテアリン酸マグネシウム又はカルシウム、及び/又はポリエチレングリコールのような滑剤;例えば、スターチ、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース又はポリビニルピロリドンのような結合剤;スターチ、アアルギン酸、アルギン酸塩、又はスターチグリコン酸マトリウムのような崩壊剤;発泡性混合物;色素;甘味料;レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩のような湿潤剤;及び一般的に、製薬において使用される非毒性及び薬学的に非活性な物質を含むことが出来る。また、経口投与用の液体分散物としては、例えばサッカロース、又はサッカロースとグリセリン及び/又はマンニトール/ソルビトールを含むシロップなどを用いることができる。
(遺伝子治療用医薬組成物として、患者に投与する場合の投与量、投与方法)
本発明の医薬組成物の投与方法は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれも選択可能であり、薬学的に許容される周知の担体又は希釈剤と共に製剤化される。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤、内服液剤等を挙げることができ、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、軟膏剤、坐剤等を挙げることができる。これらのうち注射剤又は点滴剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、動脈注射、皮下注射、皮内注射などのほか、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射を挙げることができる。
本発明の医薬組成物 の投与量及び投与期間などは特に限定されず、有効成分として作用する核酸の種類や三元複合体中の核酸保持量、対象となる臓器の種類や患者の体重、年齢など、種々の条件に応じて適切な投与量及び投与期間を適宜選択可能である。典型的には、本発明の三元複合体で輸送される核酸の量は、具体的な製剤の活性、治療対象者の年齢、体重及び病状、変性の型及び重度、並びに、頻度及び投与経路に応じ、1μg〜1g、好ましくは100μg〜10mgの範囲である。
【0025】
5.標的細胞の同定・検出・診断用試薬、又はモニター用組成物
同定・検出・診断用、又はモニター用に用いられる核酸としては、上記遺伝子治療用核酸(上記〔1〕3.)と同様の各種DNA又はRNAが用いられる。その際に、モニターしようとする目的の核酸に対して直接標識してもよいし、種々のレポーター遺伝子をつなげて、標的細胞内で発現させて発光などを観察してもよい。また、短いフラグメントである核酸プローブ、プライマーなどに標識を付けて用いることもできる。
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
(実施例1)アミノ化ポリビニルイミダゾールの合成
1−1. 1−ビニルイミダゾールとV−65の精製
1−ビニルイミダゾールを減圧蒸留で精製した。精製前後で、1−ビニルイミダゾールは黄色液体から白色液体に変化した。精製した1−ビニルイミダゾールは、N置換し、遮光4℃の条件下で保存した。
ラジカル重合開始剤であるV−65(2、2'−Azobis(2、4−dimethylvaleronitrile))をエタノールで再結晶し精製した。室温で、V−65 9.31gを120mLのエタノールに溶解した。−20℃でー晩静置し、再結晶した。再結晶化したV−65は吸引ろ過により回収し、冷やしたエタノールで洗浄した。30℃で3h真空乾燥後、粉末を回収し、遮光4℃条件下で回収した。
1−2. PVImの合成
PVImは1−ビニルイミダゾールのラジカル重合により得た。V−65 15.8mgをDMF300uLに溶解し、1−ビニルイミダゾール300mgを溶解したDMF溶液2400uLへ加えた。40min窒素バブリングした後、45℃に設定したウォーターバスで攪拌せずに2hインキュベートした。その後、アセトン80mL(40mLx2in遠心管)に滴下し、2600rpmで5min遠心分離した。上澄み液を捨て、そこへ新しいアセトン80mLを加え2600rpmで5min遠心分離を2回繰り返した後、上澄み液を捨て、30℃で一晩真空乾燥後、得られた粉末を回収した。
真空乾燥後、白色固体のPVIm 33.6mgが回収された。収率は11%であった。
1−3. PVIm−NHの合成
PVIm−NHは、PVImのアミノエチル化により得た。PVIm25mgと2−ブロモエチルアミン3.75gをジメチルスルホキシド(DMSO)12.5mLに溶解し、40℃で5daysインキュベートした。インキュベート後、MWCO1000の透析膜を用い3days透析し、凍結乾燥により回収した。
DMSOに溶解直後は透明であったが、数時間インキュベートすると、濃黄色液体に変化し、その後見た目の変化はなかった。凍結乾燥後、薄黄色固体のPVIm−NHが12mg得られた。収率は48%であった。
【0028】
【化17】

【0029】
(実施例2)2−3ポリビニルイミダゾール、アミノ化ポリビニルイミダゾールのキャラクタリゼーション
2−1.H−NMR
<実験>
PVIm、PVIm−NHはプロトン−核磁気共鳴分光法(Proton−Nuclear Magneti・Resonance、H−NMR)により同定した。PVIm、PVIm−NH 3mgを700uLの重水に溶解し測定に用いた。
<結果および考察>
結果を図1に示す。1−ビニルイミダゾールで見られた特徴的な共役ピーク(PPM5.2−5.3and4.8)が、PVImでは高磁場側ヘシフトした。さらに、ポリマーとなることで、様々な電子状態のイミダゾール基が存在するため、イミダゾール基のピークはブロード化した。PVIm−NHのスペクトルは、PVImとピークのシフトは見られなかった。これは、アミノエチル基の修飾率が小さいため、アミノエチル基のメチレンのピークを明確に観測できなかったと考えられる。また、PVImのイミダゾール基のピークは非常にブロードであったため、アミノエチル基導入によるイミダゾールピークのシフトから、アミノエチル基修飾率を見積もることもできなかった。しかし、2−ブロモエチルアミンのピークが観測されなかったことから、PVIm−NHの精製は確認された。
【0030】
2−2. GFC測定
PVIm、PVIm−NHの分子量、重合度はゲルろ過クロマトグラフィー(GFC、Gel Filtration Chromatography)より算出した。GFCは、試料の分子サイズに基づく篩い分けを原理とするクロマトグラフィーで、移動相が水溶液なものである。
<実験>
0.5MCHCOOH、0.2MNaNO混合水溶液を調製し、ろ過フィルターに通して、GFCキャリアとした。PVImまたはPVIm−NHをキャリアに1mg/mLの濃度で溶解した後、0.2um孔のセルロースアセテートに通してろ過し、流量1ml/min、1atmでGFC測定を行った。数平均分子量・重量平均分子量は、あらかじめ作製しておいたポリエチレングリコール(PEG)の検量線に基づき、PEG換算で算出した。
<結果および考察>
GFCにより算出した結果、PVImは、数平均分子量7.2×10、重量平均分子量2.6×10、分子量分布3.6であった。アミノエチル基を導入したPVIm−NHは、数平均分子量8.1×10、重量平均分子量2.5×10、分子量分布3.0と算出した。
PVIm−NHは、合成高分子であるため生体への蓄積毒性を考慮する必要がある。一般的に、合成高分子の分子量と毒性は比例し、低分子量のものほど毒性は低い。特に、分子量10000以下のポリビニル主鎖の高分子は、体内において腎排出されやすいことが知られている。従って、合成したPVIm−NHの分子量は、遺伝子キャリアとして用いるにあたって適切な大きさであるといえる。
【0031】
2−3. アミノ基定量
PVIm−NHのアミノエチル基導入率は、フルオレサミンによるアミノ基定量法により算出した。フルオレサミンは、その自身は蛍光物質ではないが、pH7−9の水溶液中で第一級のアミンと特異的に反応し、475nmに強い蛍光を発する。この測定法の長所としては、反応速度が速いこと、試料が少量でよいこと、また試料にフルオレサミンを添加するだけでよいので、操作が簡単であることが挙げられる。しかし、濃度が濃い場合、蛍光のクエンチングが起こり、正確な値がでないことがあるため、低濃度での測定に適している。
<実験>
4mg/mLのPVIm−NH水溶液を調製し、10uLをpH8の50mMリン酸緩衝液1490uLに加え、サンプル溶液とした。また、3mgのフルオレサミンをM−ジオキサン10mLに溶解し、フルオレサミン溶液とした。サンプル溶液1500uLとフルオレサミン溶液500uLを混ぜ、10sec激しく撹絆した。室温で10min静置後、以下の測定条件により蛍光分光光度計で測定した。検量線はグリシン(NHCHCOOH)を用いて作製し(図2)、アミノエチル基導入率はグリシン換算で算出した。
<結果および考察>
PVIm−NHを含むサンプル溶液の蛍光強度はおよそ400であった。検量線を用い逆算し、およそイミダゾール基40個に対しアミノ基1個の割合であることを算出した。つまり、アミノエチル基の導入率はおよそ2.5mol%と見積もられた。以後の実験でのPVIm−NHとしては、全てこの修飾率のPVIm−NHを用いた。
【0032】
2−4. 酸塩基滴定
酸塩基滴定により、PVIm、PVIm−NHのpH変化に伴ったプロトン化度を評価した。
<実験>
5mgのPVImまたはPVIm−NHを1.5mLの純水に溶解し、1N NaOHを加えpH10付近まで変化させた。1N HClを1uLずつ加えていき、pH変化を計測した。
<結果および考察>
結果を図3に示す。PVIm、PVIm−NHはpH3−6の広範囲にわたってプロトンを緩衝し、ポリ(L−ヒスチジン)(PLH)のようなシャープな緩衝は見られなかった。しかし、生理pHとエンドソームpHの差に相当するpH5−7において、PVIm、PVIm−NHはおよそ50%のイミダゾール基をプロトン化していた。一般的なプロトンスポンジ型高分子であるPEIでは、この範囲でプロトン化するアミンは、およそ17%といわれていることから、PVIm−NHは、エンドソーム内でプロトンスポンジ効果を発揮することが示唆された。
【0033】
2−5. 水溶液の濁度測定
水溶液の濁度測定により、PVIm、PVIm−NHの親水性を評価した。
<実験>
5mgのPVImまたはPVIm−NHを1.5mLの純水に溶解し、1N NaClを加えpH10付近まで変化させた。1N HClを少量ずつ加えていき、pH変化を計測した。同時に500nmの吸光度を分光光度計により測定した。
<結果および考察>
結果を図4に示す。代表的なpH応答性高分子であるPLHでは、中性から塩基性条件下にかけて高い濁度を示したpH6付近でイミダゾール基の脱プロトン化が起こることから、可溶性を失い、凝集体を形成するためである。これは、ペプチド主鎖構造が剛直であり、かつ、分子内・分子間で水素結合を形成しやすいためであると考えている。一方、PVIm、PVIm−NHでは、生理pHを含む全てのpHにおいて低い濃度であり、可溶性が示された。これは、ノニオンの水溶性高分子であるポリビニル主鎖の効果によるものである。従って、PVIm−NHは生理pHで可溶性を有し、DNA複合体の分散性を高める遺伝子キャリアとして有用であることが示された。
【0034】
2−6. PVIm−NHの血清中安定性評価
<実験>
1mg/mLPVIm−NHPBS(−)溶液を500mLとり. FBS 500uLと加えた(Final 50% FBS)。0,1,2,3,4,5,10,15,20min後,700nmの吸光度を測定した。コントロールPEIを用いた。PVIm−NHとPEI重量濃度を等しくした。
<結果および考察>
結果を図5に示す。PEIでは、ポリマーを血清中に加えた途端に濁度は一気に上昇し、20min後まで高い濁度を維持した。これは、PEIはカチオンリッチなポリマーであるため、血清タンパク質との非特異的な相互作用が過剰に起こったためである。
対して、PVIm−NHでは濁度の上昇は見られず、高い血清中安定性であった。PVIm−NHは、カチオン性基を有するものの、カチオン密度が低く、さらにノニオンの水溶性主鎖がPEGのような水溶性シールドとして働くためと考えられる。さらに、DNA複合体を形成する際は、アミノエチル基のカチオン電荷は除去されるため、PVIm−NHは、DNA複合体の血中滞習性を向上させる遺伝子キャリアとなりうる可能性を示した。
【0035】
(実施例3)アルキル化ポリビニルイミダゾール(PVIm−R)の合成
上記実施例1−2.で得られたPVImを用い、1−ブロモブタン及び1−ブロモオクタンで部分アルキル化した。PVIm25mgと1−ブロモブタン5μL及び1−ブロモオクタンをそれぞれ20μLずつをジメチルフォルムアミド(DMF)に溶解し、24時間40℃でインキュベートした。インキュベート後、ジエチルエーテルにより再沈を行い、さらに水で透析し、精製を行った。
DMFに溶解直後は透明であったが、数時間インキュベートすると、いずれも見た目の変化はほとんどなかった。精製後、白色固体のブチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm−Bu)が2mg(収率は8%)、オクチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm−Oc)が20mg(収率は80%)得られた。
【0036】
(実施例4)アルキル化ポリビニルイミダゾールのキャラクタリゼーション
4−1. PVIm−Bu及びPVIm−Ocのアルキル基導入率と分子量
上記実施例2−1.で用いたと同様のプロトン核磁気共鳴分光法を用いてPVIm−Bu、PVIm−Ocそれぞれの導入が確認され、イミダゾール基とアルキル基の積分比から前者の導入率が18%であり、後者の導入率が23%であることが確認された。(図6、図7)
上記実施例2−2.で用いたと同様のGFC測定により、合成されたPVIm−Buの数平均分子量を測定したところ、Mn=約8.8×10であった。
【0037】
4−2. 酸塩基滴定
上記実施例2−4.と同様の酸塩基滴定により、PVIm−Bu及びPVIm−OcのpH変化に伴ったプロトン化度を評価した。詳細には、PVIm−Bu水溶液(5mg/1.5ml)及び、PVIm−Oc水溶液(5mg/1.5ml)に1N HClを加え、pHを4まで降下させた。その後、0.2N NaOH水溶液を、サンプルを攪拌しながら1μlずつ加え、pH10まで上昇させた。
結果を図8に示す。PVIm−Bu及びPVIm−Ocは、エンドソームpHに相当するpH6.5付近において、プロトン緩衝能が確認された(図8)。このことから、PVIm−Bu及びPVIm−Ocは、エンドソーム内でプロトンスポンジ効果を発揮することが期待される。
【0038】
4−3. 水溶液の濁度測定
酸塩基滴定後のPVIm−Bu及びPVIm−Ocのサンプルをそのまま用い、上記実施例2−5.と同様に、1N NaOHを加えpH10付近まで変化させて各pHの500nmの吸光度を指標とし、水溶液の濁度測定を行った。
結果を図9に示す。PVIm−Bu及びPVIm−Ocでは、イミダゾール基の脱プロトン化にもかかわらず、生理pHを含む全てのpHにおいて水可溶性が示された。PVIm−Bu及びPVIm−Ocのいずれも、生理pHで可溶性を有していることから、DNA複合体の分散性を高める遺伝子キャリアとして有用であることが示された。
【0039】
4−4. PVIm−Bu及びPVIm−Ocの細胞毒性試験
PVIm−Bu及びPVIm−Ocの細胞毒性評価を、HepG2細胞を用いたアラマーブルー法で行った。(なお、アラマーブルー法についての詳細は、下記実施例14において述べる。)
<実験>
HepG2細胞を、96穴プレートに1.0×10cells/well播種し、10%FBS含有培地中で24時間インキュベート後、PVIm−Bu及びPVIm−Ocを0〜400μg/mL加え、72時間インキュベートを行った後の細胞生存率を測定した。同時に、PVIm−NH及びコントロールとして公知ポリカチオン型キャリアのPEIの細胞生存率を測定した。
<結果および考察>
結果を図10に示す。コントロールとしてのPEIは、50μg/mL濃度で全滅してしまうのに対して、PVIm−Ocは細胞毒性は認められたものの生存率60%で、PEIよりも細胞毒性は低く、PVIm−Bu及びPVIm−NHでは、ほぼ生存率に変化はなかった。さらに100μg/mL以上に高濃度にするとPVIm−Ocの場合は生存率が急激に低下したが、PVIm−Bu及びPVIm−NHでは、有意な細胞毒性が認められなかった。特に、PVIm−Buについては、細胞毒性がない点でもPVIm−NHと匹敵しており、下記に述べるような優れた核酸分子とのpH応答性二元複合体形成能力と相まって、通常の核酸キャリアとしてはもちろんのこと、遺伝子治療用の優れたツールとしての期待も大きい。
なお、今回実施例で用いたPVIm−Ocであっても、従来型ポリカチオン型キャリアよりは細胞毒性が低いため、充分に核酸キャリアとして有用であるが、PVIm−Bu等と比較した場合には細胞毒性が存在する。これは、ブチル基に比較して、オクチル基の方が疎水性が高いにもかかわらず、ポリビニルイミダゾールへの導入率が23%と高かったため、部分オクチル化ポリビニルイミダゾール全体の両親媒性が疎水性側に傾いたことが原因であると考えられる。すなわち、細胞毒性を低くする観点からは、アルキル基の炭素数が大きい場合には、導入率を最大でも20%、好ましくは15%以下にすることが好ましい。
【0040】
(実施例5)アミノ化ポリビニルイミダゾールのpH応答的膜破壊
エンドソーム膜モデルとしてヒツジ赤血球を用い、pHに依存したPVIm−NHの細胞膜破壊活性を評価した。
具体的には、赤血球を加えるリン酸緩衝液を、生理塩濃度に調製することにより、プロトンスポンジ効果によらない、キャリアの構造変化による細胞膜破壊を評価した。
<実験>
エッペンドルフチューブにpH7.4、6.0または5.0の等張リン酸緩衝液(130mMNaCl、10mM(PO3−を140uL入れ、10mg/mLのPVIm−NH水溶液を10uL加えた。室温でヒツジ血液20uLを加えた後、37℃で90minインキュベートした。インキュベート後、13000rpm、4℃、1minの条件で遠心分離した。上澄み液100uLを純水100uLで希釈し、分光光度計により、ヘモグロビンの流出量に依存する577nmの吸光度を測定した。ネガティブコントロールとして、キャリアなし(等張リン酸緩衝液150uL+ヒツジ血液20uL、ポジティブコントロールとして純水(純水150uL+ヒツジ血液20uL)を用いた。
<結果および考察>
結果を図11に示す。PVIm−NHは、生理pH7.4と比較して、エンドソーム内に相当するpH6または5で有意にヘモグロビンを流出した。これは、エンドソームpHでPVIm−NHのイミダゾール基がプロトン化することにより表出し、負に帯電した赤血球膜との相互作用を増強したためである。これらの結果より、PVIm−NHは、エンドソーム内において、細胞膜破壊活性を増強し、エンドソームから細胞質への移行を促進することが示唆された。
【0041】
(実施例6)アミノ化ポリビニルイミダゾール/DNA複合体の調製
6−1. アガロースゲル電気泳動
PVIm−NHのDNA複合体形成をアガロースゲル電気泳動により確認した。アガロースゲル電気泳動は、DNA複合体形成の一般的な評価法である。DNAはリン酸基による負電荷を持っているため、泳動槽に電気を流すとゲル内を通り正電荷の方向へ泳動する。しかし、ポリイオンコンプレックスを形成し電荷が打ち消された状態になると、DNAはその場で停滞(リターデーション)するため、泳動後のDNAの位置を確認することによりDNA複合体の形成が確認できる。通常は、DNAを可視化するためエチジウムブロマイドが使用される。
<実験>
調製したpH7.4または6.0の50mMリン酸緩衝液をエッペンドルフチューブに入れ、DNA溶液6ug、PVIm−NH水溶液を加えピペッティングし、30min室温静置した。DNA溶液はあらかじめPBSで溶解したものを用いた。PVIm−NHは、DNAのリン酸基に対して、イミダゾール基が0、5、10、20、30、40倍になるように加えて、複合体溶液は全量100uLになるように調製した。静置後、チューブ内をピペッティングしてブロモフェノルブルーをl0uL加え、再度ピペッティングしサンプルとした。1%アガロースゲル(溶媒pH7.4or6.0 50mM PB)10mLを加熱溶解させ、エチジウムブロマイド1uLを加え、均一にゲル型に流し込み、15分室温静置し凝固させた。サンプルはゲルに挿入する前に再度ピペッティングして、10uLずつ挿入した。ゲルをpH7.4または6.0の50mMリン酸緩衝液中で、50V、15minの条件下で電気泳動した後、ゲルをUV照射し、核酸バンドの蛍光発光を評価した。
<結果および考察>
結果を図12に示す。生理pH7.4において、アミノエチル化していないPVImを加えたとき、DNA由来の蛍光は正極方向への泳動が観測された。対して、PVIm−NHを加えると、DNAのリターデーションが確認された。これは、DNAとのポリイオンコンプレックスの形成を示しており、導入したアミノエチル基によるDNA複合体形成能が示された。また、PVIm−NH、イミダゾール/リン酸基=40においても、完全にDNAを複合化しておらず、freeなDNAが観測された。このことから、PVIm−NHはDNAを保持するが、その相互作用は弱いものであることが示唆された。
pH6においては、PVIm、PVIm−NH共に20倍イミダゾール以上で、DNAの蛍光は消光した。これは、DNAが過度に凝縮され、エチジウムブロマイドがインターカレーションされなかったためである。すなわち、pH=6においては、PVIm、PVIm−NHは、イミダゾール基がプロトン化し、DNAとの相互作用に関与するため、カチオンリッチな状態となり、DNAを強くコンパクションすることが示された。これにより、PVIm−NHはpH応答的にDNAを複合化することが示された。
【0042】
6−2. 粒子サイズ・ゼータ電位測定
PVIm−NH/DNA複合体の粒子サイズは動的光散法により測定した。動的光散乱法とは、粒子のブラウン運動によって生じる散乱光の揺らぎから粒径を求める方法であり、サブミクロン以下の粒子測定にすぐれている。溶液中の微粒子は、並進・回転などのブラウン運動により、その位置・方位・形態を時々刻々変えている。これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、その粒子のブラウン運動に依存した散乱光の揺らぎが観測される。通常、粒子サイズの小ささに依存してブラウン運動は激しくなるため、散乱光の時間的な揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、分子の大きさを知ることができる。
PVIm−NH/DNA複合体のゼータ電位は、電気泳動光散乱測定法により算出した。帯電したコロイド粒子が分散している系に、外部から電場をかけると、粒子は電極に向かって泳動する。その速度は粒子の荷電に比例するため、その粒子の泳勤速度を測定することによりゼータ電位が求められる。電気泳動光散乱測定法は、「光や音波が動いている物体に当たり反射したり散乱すると、光や音波の周波数が物体の速度に比例して変化する」という“ドップラー効果”を利用して粒子の泳動速度を求めている。電気泳動している粒子にレーザー光を照射すると粒子からの散乱光は、ドップラー効果により周波数がシフトする。シフト量は粒子の泳動速度に比例することから、このシフト量を測定することにより粒子の泳動速度を求めることができる。
<実験>
PBS(−)、または6.0、5.0の等張リン酸緩衝液(130mM NaCl、 10mM(PO3−)中でPVIm−NH/DNA複合体を形成させサンプルとした。サンプル溶液はFinal DNA濃度5ug/mL、全量4mLとし、+/−=4の複合化比となるようにPVIm−NHを加えた。粒子サイズ・ゼータ電位測定は、大塚電子(株)に依頼した。
<結果および考察>
PVIm−NH/DNA複合体の粒子サイズとゼータ電位を表1に示す。生理pHにおいて、PVIm−NH/DNAの粒径は600nm以上の大きなものであった。これは、PVIm−NHは電荷密度が小さく、またノニオンの水溶性主鎖を有するためDNAのコンパクションが十分ではないためであると考えられる。ノニオンの水溶性主鎖は、DNA複合体形成のドライビングフォースである静電的相互作用には関与しないため、複合体の親水性を保ち、膨潤した状態の複合体(uncompacted complex)を形成するとみられる。また、生理pHで、PVIm−NHのゼータ電位は負電荷であったことから、パッシブターゲティングの有効性を示したものの、アクティブターゲティングを可能とするターゲティングリガンド部位を導入する必要が示唆された。複合化電荷比と形成されたコンプレックスのゼータ電位が異なるのは、PVIm−NHは可溶性で、水溶液中で安定であり、かつ、カチオン電荷密度が小さいため、DNAと会合体を形成しにくいためと考えられる。しかし、これについては明らかでなく、PVIm−NHのカチオン基導入率も含め、再度検討する必要があるかもしれない。
pH6.0、5.0では、複合体サイズは300nm付近となった。これは、イミダゾール基がプロトン化し、DNA複合体形成に関与するカチオン基が増加したため、DNAを強くコンパクションしたと考えられる。また、pHの低下に伴って、複合体のゼータ電位は正になり、エンドソーム内pHでは、細胞膜との相互作用を増大させることが示された。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例7)アミノ化ポリビニルイミダゾール/DNA複合体の遺伝子導入評価
<実験>
・細胞培養
10%ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum、 FBS)、1%抗生物質(ストレプトマイシン、アンホリテシンB含有)を含むDMEM培地にて、ヒト肝癌由来細胞HepG2を継代、培養した(培養条件:37℃・CO濃度5%)。
・細胞播種
コンフルエントのHepG2をトリプシン処理し、1×10cells/mLの細胞懸濁液を調製した。96穴プレートに細胞懸濁液を100uL/well(10×10cells/well)播種し、24h培養した。
・コンプレックス調製
滅菌チュープ内で複合体を形成させ30min室温静置した。プラスミドDNA(pDNA)は蛍ルシフェラーゼをコードしたpGL3(Promega)をTE液10mM Tris/HCl 1mM EDTA、pH8.0)に溶解したものを用いた。複合体はpGL3濃度が200ng/15uLとなるようにした。キャリア、溶媒はAcrodisc Syringe Filter でろ過滅菌したものを用いた。
・トランスフェクション
96穴プレートに培養したHepG2に、調整したコンプレックス溶液を15uL/weil(pDNA;200ng/well)加え、24hインキュベートした。96穴プレートの培地を除去し、新たなDMEM培地(FBS10%、抗生物質1%含有)を加え、さらに72hインキュベートした。培地を除去し、PBS(−)で3度洗浄した。Cell Culture Lysis Reagentを40uL/well加え、室温で20min静置し細胞を溶解させた。
高血清存在下、無血清条件下での実験は、コンプレックス溶液を加える前に、それぞれ高濃度FBS含有DMEM培地、無血清DMEM培地に交換した。24hインキュベート後、通常の培養DMEM培地FBS10%、抗生物質1%)に交換した。
・ルシフェリン発光測定
Lusiferase Assay System (Promega)を用いた。 Luciferase Assay Substrate とLuc if erase Assay Bufferを混合しWorking Reagentとした。エッペンドルフチューブにWorking Reagent 100uLと、細胞溶解液40uLを入れ、ピペッティングし、ルミノメーターを用い、ルシフェリンの発光強度を測定した。
・タンパク定量
エッペンドルフチューブに入れた純水460uLに、細胞溶解液40uLを加え全量500uLとした。Micro BCAProtein Assay Reagent Kit (PIERCE)より調製したBCA溶液500uLをエッペンドフルチューブに加えピペッティングした。60minのウォーターバスで60minインキュベートした。室温で60min放冷し、562nnnの吸光度を測定した。ウシ血清アルブミン(BSA)換算で作製した検量線により、総タンパク濃度を算出した。
<結果および考察>
遺伝子導入実験の結果を図13に示す。PVIm−NH/DNA複合体の遺伝子発現活性は、naked DNA と同程度であり、ポジティブコントロールのPEIに対して有意に低かった。この原因として細胞内取り込みが挙げられる。PVIm−NH/DNA複合体は、ゼータ電位測定により、負電荷表面を有していることが明らかになった。細胞膜表面も同様に負に帯電しているため、静電的な反発により、細胞膜に接着することが困難であったと考えられる。また、複合体は運よく細胞膜に接着したとしても、粒子サイズが600nm以上であるため、細胞内に効率的に取り込まれにくいと思われる。この問題点を克服するため、(1)レセプターを介した細胞への効果的な取り込みを促進するため、複合体にリガンド部位を設ける。(2)DNAをさらにコンパクトに凝縮し、サイズを縮小する。ことが求められる。そのため、本研究では、新規三元複合体を設計した。リガンドを持つターゲティング用キャリアを加えることにより、標的細胞内への集積を促進し、さらに2種のキャリアによりDNAをコンパクションすることにより、DNA複合体サイズをナノスケールで制御することを目指した。
【0045】
(実施例8)アルキル化ポリビニルイミダゾール/核酸分子複合体の遺伝子導入評価
8−1. ブチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm−Bu)とDNAとの複合体形成能評価
<実験>
上記実施例6と同様に、1μgのDNAのリン酸基1molに対し、PVIm−Buをイミダゾール基0,2.5,5,10,30,60molの割合(+/−=0,0.5,1,2,6,12)でpH7.4及びpH6のリン酸緩衝液(P.B)中で混合し、30分静置した後、15分間50Vエチジウムブロマイド含有アガロースゲル電気泳動を行った。
<結果および考察>
結果を図14に示す。PVIm−Buは生理pH7.4でそのカチオンとDNAのアニオンの電荷比が1以上ではフリーなDNAが認められず、DNAと複合体を形成したことを示している。一方、pH6.0においては、第2番目のレーンにおいてもフリーなDNAは全く認められなかった。すなわち、PVIm−Buのエンドソーム内でのpH条件において、PVIm−Buのイミダゾール基のプロトン化が適切に行われることが示され、PVIm−BuとDNA複合体がpH応答性であることが示された。
【0046】
8−2. PVIm−Bu/DNA複合体の安定性評価
<実験>
電荷比=1:12のPVIm−Bu/DNA二元複合体(DNA=700ng)をpH7.4P.B中で形成した。硫酸基濃度10,50,100,200mMのデキストラン硫酸 (DS)水溶液を調製し、それぞれサンプルに加えた(Final 1,5,10,20mM硫酸基)。10分インキュベート後、15分間50Vエチジウムブロマイド含有アガロースゲル電気泳動を行った。
<結果および考察>
結果を図15に示す。PVIm−BuとDNAとの複合体は、高濃度(5mM)のデキストラン硫酸存在下においても、フリーなDNAが認められなかったのに対して、PVIm−NHとDNAとの複合体ではフリーなDNAが認められた。すなわち、PVIm−BuはPVIm−NHよりもDNAを安定に保持することが示された。
【0047】
8−3. PVIm−Bu/DNA複合体の赤血球溶血活性評価
<実験>
pH7.4,pH6.0の等張リン酸緩衝液(10mM P.B,130mM NaCl)に、電荷比=1:12PVIm−Bu/DNAの二元複合体(PVIm−Bu=60μg)を全量が150μLになるように加え、さらにエンドソームモデルとしてヒツジ赤血球を20μL加えた。37℃で120分インキュベート後、遠心分離により赤血球を取り除き、上澄み液に放出されたヘモグロビン量を577nm吸光度測定により評価した。
<結果および考察>
結果を図16に示す。PVIm−BuとDNAとの複合体は、エンドソーム内pHにおいて、有意な赤血球溶血活性を示した。このことは、エンドソームからの複合体の脱出が期待できることを示すものである。
【0048】
8−4. PVIm−Bu/DNA複合体による遺伝子発現能の評価
<実験>
HepG細胞を96−穴プレートに1.0×10cells/well播種し、10%FBS含有培地中で24時間インキュベート後、PVIm−Bu/DNA二元複合体、PVIm−NH/DNA二元複合体、及びPEI/DNA二元複合体をそれぞれ加えた。DNAとしては、上記実施例7と同様に、蛍ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドpGL3(Promega)をTE液10mM Tris/HCl 1mM EDTA、pH8.0)に溶解したものを用いた。複合体はpGL3濃度が200ng/15uLとなるようにした。pGL3を用い、72時間後の遺伝子発現をルシフェラーゼ活性により評価した。
<結果および考察>
結果を図17に示す。HepG細胞への遺伝子導入実験結果によれば、PVIm−Bu/DNA複合体においては、PVIm−NH/DNA複合体に比べて、きわめて高い遺伝子発現を示した。得られた発現活性は、公知の核酸キャリアであるのPEI/DNA複合体と比較しても有意に高いものであった。
【0049】
(実施例9)ラクトース修飾ポリリジンの合成
PLL−Lacは還元アミノ化法により合成した。0.1 M Naと0.1 MHBOを調製し、pH8.5になるように混合し、0.1 M sodium borate buffeK(B.B)を調製した。PLL・HBr 50mg(NH0.2mmol)を5.0mL B.Bに、lactose・HO 288mg(0.8mmol)を2.5mL B.Bに、それぞれ溶解した。2溶液を混合し、37℃で72hインキュベートした(フルオレサミン用サンプルとしてインキュベート前に1.3uL取り冷蔵庫にて保存した)。インキュベート後、NaBHCN 189mgを2.5mL B.Bに溶解し、反応溶液に加え、さらに37℃で72hインキュベートした(フルオレサミン用サンプルとしてインキュベート後に2.6uL取り冷蔵庫にて保存した)。MWCO=1000の透析膜で透析し、凍結乾燥により回収した。
31.2mgの弱黄色固体を得た。収率はおよそ28.9%であった(ラクトース修飾率100%として算出)。
【0050】
(実施例10)ラクトース修飾ポリリジンのキャラクタリゼーション
10−1. H−NMR
<実験>
H−NMRにより、PLL-Lacの同定と、ラクトース修飾率を見積もった。PLL−Lac 3mgを700uLの重水に溶解し測定に用いた。
<結果および考察>
結果を図18に示す。PLL−Lacでは、PLL由来のプロトンピークが確認でき、さらに3−4.5ppm付近にラクトースに帰属するピークが見られたことから、PLL−Lacの合成に成功したといえる。積分比から求められるラクトース修飾率は、およそ90%であり、目的とした高いラクトース修飾率のPLL−Lacが合成されたといえる。ラクトース修飾率は、フルオレサミン法によるアミノ基定量でさらに詳細に検討した(7−3.参照)。
【0051】
10−2. GFC測定
<実験>
0.5M CHCOOH、0.2MNaNO混合水溶液を調製し、ろ過フィルターに通して、GFCキャリアとした。
PLL−Lacをキャリアに1mg/mLの濃度で溶解した後、0.2um孔のセルロースアセテートに通してろ過し、流量1ml/minでGFC測定を行った。数平均分子量・重量平均分子量は、あらかじめ作製しておいたポリエチレングリコール(PEG)の検量線に基づき、PEG換算で算出した。
<結果および考察>
GFCにより算出した結果、PLL−Lacは、数平均分子量3.0×10、重量平均分子量8.1×10と算出した。分子量分布はおよそ2.7であった。
【0052】
10−3. アミノ基定量
<実験>
バイアル瓶にそれぞれ反応前サンプル1.3uL、反応後サンプル2.6uL取り、pH8の50mMリン酸緩衝液1.5mLに加え、サンプル溶液とした。また、3mgのフルオレサミンを1,4−ジオキサン10mLに溶解し、フルオレサミン溶液とした。サンプル溶液とフルオレサミン溶液500uLを混ぜ、10sec激しく撹件した。室温で10min静置後、蛍光分光光度計で測定した。
条件を、以下に示す。
[測定条件]
EXλ:390nm
Emλ:475nm
Cycle Number and Time : 3,0min05sec
Response :1sec
PMT Gain:medium
Ex SBW : 10nm
Em SBW : 10nm
<結果および考察>
結果を表2に示す。フルオレサミン法から算出されたPLL−Lacのラクトース修飾率はおよそ99%であった。H−NMRの結果と一致し、目的とした修飾率の高いPLL−Lacの合成に成功したといえる。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例11)ラクトース修飾ポリリジン/アミノ化ポリビニルイミダゾール/DNA三元複合体の調製
PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体は、PBS(−)、PB、または純水に、PLL−LacとPVIm−NHを加え、最後にDNAを加えてピペッティングすることにより、静電的に自己組織化させ形成した。
PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体の形成は、FITC蛍光ラベル化PLL−Lac(PLL−Lac−FITC)を用いたアガロースゲル電気泳動により評価した。DNAの複合化を確認するため、エチジウムブロマイド含有アガロースゲルでの電気泳動を行った。さらに、PLL−Lacの複合化を確認するため、PLL−Lac−FITCを用い、エチジウムブロマイドを含まないアガロースゲルで電気泳動を行った。PVIm−NHの複合化は、pHを変化させたときのDNAの複合化挙動の変化より評価した。
<実験>
[PLLおよびPLL−LacへのFITCラベル]
PLLおよびPLL−Lac10mgを1mL 10mM KCOに溶解した。Fluorescein isothiocyanate isomer I、Minimum 90%(FITC) 1mgを0.1mL 10mM KCOに溶解し、PLLおよびPLL−Lac溶液に加えた。室温で2hインキュベート後、MWCO=1000の透析膜で48h透析し、凍結乾燥により回収した。
[アガロースゲル電気泳動]
pH7.4または6.0の50mMリン酸緩衝液をエッペンドルフチューブに入れ、PLL−Lac(or PLL−Lac−FITC)水溶液、PVIm−HN水溶液、DNA溶液6ugを順に加えピペッティングし、30min室温静置した。DNA溶液はあらかじめPBSで溶解したものを用いた。PLL−Lac(or PLL−Lac−FITC)は、DNAのリン酸基に対して電荷比で1;1になるように加えた。PVIm−HNは、DNAのリン酸基に対して電荷比が0、1、2、4、8倍になるように加えた。複合体溶液は全量100uLになるように調製した。
静置後、チューブ内をピペッティングしてブロモフェノルブルーを10uL加え、再度ピペッティングしサンプルとした。1%アガロースゲル(溶媒pH7.4or6.0 50mM PB)10mLを加熱溶解させ、エチジウムブロマイドluLを加え(PLL−Lac−FITCを用いた際は加えない)、均一にゲル型に流し込み、15分室温静置し凝固させた。サンプルはゲルに挿入する前に再度ピペッティングして、10uLずつ挿入した。ゲルをpH7.4または6.0の50mMリン酸緩衝液中で、50V、15minの条件下で電気泳動した後、ゲルをUV照射し、核酸バンドの蛍光発光(エチジウムブロマイド含有アガロース)と、PLL−Lac−FITC(エチジウムブロマイド非含有アガロース)を評価した。
さらにコントロール実験として、PLL−Lac−FITCに変えて、FITCラペル化PLL(PLL−FITC)を用い、同様の実験を行った。ラクトース修飾していないPLLを用いることで、ラクトース修飾が複合体形成に及ぼす効果を評価した。
<結果および考察>
電気泳動後のDNAの蛍光写真を図19(A)に示す。pH7.4において、DNAのみでは正極方向に泳動が見られたのに対し、PLL−Lac、PVIm−NHを加えたlane2−6ではDNAはリターデーションしていた。これにより、キャリアによるDNAの複合化が示された。さらにpH6においては、複合化比の大きいサンプルでは、DNAは強くコンパクションされ、蛍光は消光した(lane4'−6')。これは、pH応答的なDNAの複合化を表しており、pH応答性高分子であるPVIm−NHの複合化が確認された。
さらに、電気泳動後のPLL−Lac−FITCの蛍光を図19(B)に示す。DNAのみ(lane7,7’)では蛍光は観測されなかった。pH7.4において、複合体中のPLL−Lac−FITCは、注入部位にリターデーションしていた。これにより、PLL−Lac−FITCの複合化が確認された。これらの結果より、3成分全ての複合化が確認され、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体の形成が認められた。
ここで、興味深いことに、複合化比の大きい複合体では、pH6において、PLL−Lac−FITCは負極方向へ泳動していた(lane10'−12')。これは、PLL−Lac−FITC複合化しておらず、フリーな状態であることを示している。すなわち、三元複合体は、pH6において、複合体からPLL−Lac−FITCを解離することが示された。これは、酸性化に伴ってPVIm−NHのイミダゾール基がプロトン化することにより、DNAのリン酸基の電荷を奪い、DNAとの総合力が小さいPLL−Lac−FITCが複合体から解離されたと考えられる(図20)。
以上より、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体は、エンドソーム内で不要になったターゲティングリガンドであるPLL−Lacを解離し、PVIm−NH/DNA二元複合体となることが示唆された。これにより、エンドソーム内でターゲティングリガンドを解離する新しい遺伝子キャリアの設計論を示した。
さらに、PLL−FITCを用いたコントロール実験の結果を図21に示す。pH6において、PLL−FITCは、PLL−Lac−FITCと同様に、複合体から解離する傾向が見られた。このことから、ラクトース修飾に関わらず、キャリアからのリガンド解離が起こりえることが示された。しかし、PLL−Lac−FITCと比較すると、PLL−FITCの解離率は小さいと見られ(定量はしておらず、定性的に判断した。)、ラクトース修飾がキャリアの解離を促進する傾向も見られた。これらの結果から、本研究では、解離を促すためラクトース修飾率95−100%のPLL−Lacを用いたが、PLL−Lacはラクトース修飾率に関わらず、エンドソーム内において複合体から解離することが示唆された。PLL−Lacにおけるラクトース修飾率を変化させることで、最適なラクトース修飾率に適宜設定することで、さらなる機能向上が得られる。
【0055】
(実施例12)ラクトース修飾ポリリジン/アミノ化ポリビニルイミダゾール/DNA三元複合体のキャラクタリゼーション
12−1. 三元複合体の粒子サイズ・ゼータ電位測定
<実験>
複合体の粒子サイズは動的光散乱法により測定した。また、ゼータ電位は、電気泳動光散乱測定法により算出した。三元複合体は、動的光散乱測定により評価した。pH7.4、6.0または5.0の等張リン酸緩衝液(130mM NaCl,10mM (PO3−)中でPLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体を形成させ、サンプルとした。複合体の複合化比は、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA=1/4/1 (at charge ratio)とした。サンプル溶液はDNA濃度5ug/mL、全量4mLとし、粒子サイズ、ゼータ電位の測定は、大塚電子(株)に依頼した。
<結果および考察>
結果を表3に示す。三元複合体は、pH7.4で、300−400nmのサイズで単分散していた。一般的に500nm以上の粒子は、細網内皮系にトラップされやすいことが知られている。また、一般的な細胞の飲作用により発生するエンドサイトーシスは400nm以下であるとされる。このことから、三元複合体は、細網内皮系によるトラップの回避と、効果的に細胞内取り込みされやすいことが示唆された。PVIm−NH/DNA二元複合体は、DNAコンパクションが弱く、600nm以上の複合体を形成していたことから、PLL−Lacを加え三元複合化することにより、複合体サイズを減少することに成功した。
【0056】
【表3】

また、pH7.4において三元複合体は電位的に中性であった。このことから、負電荷を有する血清タンパク質との非特異的な相互作用と、非特異的な細胞取り込みを抑制することが示唆された。粒子サイズと合わせて考察すると、三元複合体は血中滞留性が高いと期待することができる。
さらに、pHをエンドソーム内pHに低下させると、複合体はややサイズダウンした。これは、PVIm−NHがプロトン化することによりDNAのコンパクションが強まったためと考えられる。さらに、pH6−5では、複合体は強く正に帯電したことから、負に帯電したエンドソーム膜との相互作用により膜破壊を促すことがゼータ電位測定からも示された。
【0057】
12−2. 三元複合体の酸塩基滴定
<実験>
30.6ugのPLL−Lacと207ugのPVIm−NHを純水に溶解し、そこへ90ugのDNA PBS(−)溶液を加え、ピペッティングすることにより、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体(1/4/1 at charge ratio)を形成させた。溶液は全量1.5mLとなるように調製した。複合体溶液に、1N NaClを加えpH10付近まで変化させた。1N HClを少量ずつ加えていき、pH変化を計測した。同時に500nmの吸光度を分光光度計により測定した。
<結果および考察>
結果を図22に示す。三元複合体は、PVIm−NH単独での滴定曲線と同様の傾向を示した。このことより、三元複合化によるPVIm−NHのpH応答的物性の変化は見られず、三元複合体はエンドソーム内でプロトンスポンジ効果を引き起こすことが示唆された。
【0058】
12−3. 三元複合体の濁度測定
<実験>
30.6ugのPLL−Lacと207ugのPVIm−NHを純水に溶解し、そこへ90ugのDNA PBS(−)溶液を加え、ピペッティングすることにより、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体(1/4/1 at charge ratio)を形成させた。溶液は全量1.5mLとなるように調製した。複合体溶液に、1N NaClを加えpH10付近まで変化させた。1N HClを少量ずつ加えていき、pH変化を計測した。同時に500nmの吸光度を分光光度計により測定した。
<結果および考察>
結果を図23に示す。PVIm−NHでは、全てのpHで濁度はなかった。しかし、三元複合体では、生理pH付近でわずかに濁度が上昇する傾向を示した。この結果は、上記12−1.に記した、表3の実験結果と一致している。三元複合体は生理pHでは、やや会合度の大きい複合体となっており、pH5よりもl00nm程度大きな複合体を形成しているため、濁度が上昇したと思われる。原因は明らかではないが、生理pHで、三元複合体は電位的に中性であるため、やや凝集体を形成しやすいのではないかと考えている。従って、複合化比を変化させることよって、深度上昇が起こらない複合体を形成できると思われる。
なお、本実験では濁度を観測しやすくするため、高濃度条件下で複合体を形成させており、細胞実験に用いた濃度の複合体溶液では、深度の上昇はおこらないことを確認している。
【0059】
12−4. 三元複合体の血清中安定性評価
<実験>
PBS(−)にPLL−Lac30.6ug. PVIm−NH 207ug.DNA 90ug を順に加え,ピペッティングしPLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体(1/4/1 at charge ratio)を形成させた。三元複合体のPBS(−)溶液は全量が500uLになるようにした。複合体溶液にFBS 500uLと加えた(Final 50%FBS)。0,1,2,3,4,5,10,15,20min後s 700nmの吸光度を測定した。コントロールとしてPEI/DNA複合体(N/P=15,+/−=5)を用いた。
<結果および考察>
結果を図24に示す。PEI/DNA複合体では、血清中に加えた途端に濁度は一気に上昇し、20min後まで高い濁度を維持した。これは、カチオンリッチな複合体が形成されているため、血清タンパク質との非特異的な相互作用が過剰に起こったためである。
対して、三元複合体では血清を加えた後、濁度はやや上昇したが、PEI/DNA複合体と比較すると、濁度は低く、20min後まで一定の濁度を維持し、血清中安定性が示された。やや濁度の上昇が見られたのは、ゼータ電位測定より、わずかだがカチオンのゼータ電位であったことと、フリーなポリマーを除去していないためであると考えられる。これは、複合化比の再検討と、カラムなどにより複合化していないフリーなポリマーを除去することにより改善することが可能である。
【0060】
12−5. 三元複合体のpH応答的膜破活性
<実験>
エッペンドルフチューブにpH7.4、6.0または5.0の等張リン酸緩衝液(130mM NaCl、10mM(PO3−を入れ、PLL−Lac水溶液10.2ug、PVIm−NH水溶液173ug、DNA PBS(−)溶液7.5ugを順に、全量が150uLになるように加え(PLL−Lac/PVIm−NH/DNA=1/4/l at charge ratio)、ピペッティングした。室温でヒツジ血液20uLを加えた後、37℃で90minインキュベートした。インキュベート後、13000rpm、4℃、1minの条件で遠心分離した。上澄み液100uLを純水900uLで希釈し、分光光度計により、ヘモグロビンの流出量に依存する577nmの吸光度を測定した。ネガティブコントロールとして、バッファーのみ(等張リン酸緩衝液150uL+ヒツジ血液20uL)、ポジティブコントロールとして純水(純水150uL−t−ヒツジ血液20uL)を用いた。
<結果および考察>
結果を図25に示す。三元複合体は、PVIm−NH単独(実施例5参照)と同様に、生理pH7.4と比較して、エンドソーム内に相当するpH6または5で有意にヘモグロビンを流出した。これらの結果より、PVIm−NHは、複合体形成後でも、pH応答的な謨破壊活性を有することが示された。従って、三元複合体は、PVIm−NHの膜破壊活性により、エンドソームからの脱出することが示唆された。
【0061】
(実施例13)細胞質でのキャリアからの遺伝子遊離評価
(実施例11)において、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体は、エンドソーム内の酸性化に伴って、ターゲティングリガンドポリカチオンであるPLL−Lacを解離し、PVIm−NH/DNA二元複合体となり、細胞質へ移行しうることが示唆された。
ここでは、細胞質内のポリアニオンモデルとして、デキストラン硫酸を用い、PVIm−NH/DNA二元複合体、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体の安定性を評価した。安定な三元複合体が、細胞質内で二元複合体となることで、ポリアニオン置換によるキャリアからのDNA遊離を促す効果を期待した。
<実験>
pH7.4の50mMリン酸緩衝液をエッペンドルフチューブに入れ、PLL−Lac水溶液、PVIm−NH水溶液を加えた。最後にDNA(PBS溶液)を6ug加え、ピペッティングし、30min室温静置した。サンプルは全量が100uLになるように調製した。PLL−Lac/PVIm−NH/DNA=l/4/l(電荷比)で調製した。同様にPVIm−NH/DNA二元複合体を4/1電荷比となるように調整した。
硫酸基濃度10、20、30、40mMのデキストラン硫酸水溶液を調製し、それぞれ別のサンプルに11uLずつ加えた。(Final 1、2、3、4mM硫酸基。)
10min室温で静置後、チューブ内をピペッティングしてブロモフェノルブルーをl0uL加え、再度ピペッティングしサンプルとした。1%アガロースゲル(溶媒pH7.4 50mM PB)10mLを加熱溶解させ、エチジウムブロマイドluLを加え、均一にゲル型に流し込み、15分室温静置し凝固させた。サンプルはゲルに挿入する前に再度ピペッティングして、10uLずつ挿入した。ゲルをpH7.4 50mM リン酸緩衝液中で、50V、15minの条件下で電気泳動した後、ゲルをUV照射し、核酸バンドの蛍光発光を評価した。
<結果および考察>
結果を、図26に示す。DNAのみで電気泳動をかけると、DNAは正極方向へ泳動した(land1,1')。DNAにキャリアを加えると、二元複合体、三元複合体共にDNAは複合化されリターデーションされた(lane2,2')。ここへ、デキストラン硫酸を加えると、PVIm−NH/DNA二元複合体では、デキストラン硫酸の硫酸基濃度に依存してDNAはリターデーションされなくなり、正極方向へ泳動した(lane3'−6')。これは、キャリアからDNAが遊離され、フリーな状態となっていることを示しており、PVIm−NH/DNA二元複合体は、デキストラン硫酸存在下で不安定であり、DNAはキャリアから遊離されることが示された。
これに対し、三元複合体では、デキストラン硫酸存在下においてもDNAはリターデーションした(lane3'−6')。4mM硫酸基のデキストラン硫酸存在下で、わずかに泳動したDNAが見られた(lane6')が、大部分のDNAは注入部位にリターデーションしていた。このことから、三元複合体はDNAを複合体内に安定に保持し、ポリアニオン存在下でもDNAを遊難しないことが示された。以上の結果より、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体は、細胞外では遺伝子を安定に保持し、エンドソーム内においてPLL−Lacを解離して、不安定なPVIm−NH/DNA二元複合体と構造変化することで、細胞質でのDNA遊離を促進する遺伝子デリバリーシステムに成りうることが示された。
【0062】
(実施例14)ラクトース修飾ポリリジン、アミノ化ポリビニルイミダゾールの細胞毒性
PLL−LacとPVIm−NHの細胞毒性は、アラマーブルー法を用いて行った。アラマーブルーは、ヒトおよび動物細胞、バクテリア、菌類等の増殖を定量的に測定するために開発された色素で、アラマーブルー法は、アラマーブルーが生細胞により還元させ、極大吸収波長が変化する性質を利用し、細胞生存率を見積もる手法である。しかし、そのメカニズムの詳細は明らかにされていない部分が多く、細胞内のミトコンドリアの呼吸代謝系の還元酵素デヒドロゲナーゼによって還元されるのではないかと考えられている。600nm付近に極大吸収波長を持つ酸化型(レザズリン)から570nm付近に極大吸収波長を有する還元型(レゾルフリン)に変換される試薬で、その吸光度の変化量から細胞生存率を算出することが可能である。小スケールでも実験可能であり、また、還元型精製物が水溶性であるといったメリットがある。しかし、アラマーブルーが還元されるまでに必要な時間が細胞によって異なるといったデメリットもある。
【0063】
【化18】

<実験>
・細胞培養
10%ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum、 FBS)、1%抗生物質(ストレプトマイシン、アンホリテシンB含有)を含むDMEM培地にて、ヒト肝癌由来細胞HepG2を継代、培養した(培養条件:37℃・CO濃度5%)。
・細胞播種
コンフルエントのHepG2をトリプシン処理し、1×10cells/mLの細胞懸濁液を調製した。96穴プレートに細胞懸濁液を100uL/well(10×10cells/well)播種し、24h培養した。
・細胞毒性評価
96穴プレートに培養したHepG2に,各キャリア水溶液(PLL−Lac、PVIm−NH、PEI、リポフェクチン)を、それぞれ1,5,10,20,40ug/well(Finalキャリア濃度,10,50,100,200,400ug/mL)加え、24hインキュベートした。
24h後、アラマーブルーをl0ug/well加え、37℃・CO濃度5%条件下で4hインキュベートした。インキュベーターからプレートを取り出し、マイクロプレートリーダーにより、吸光度(酸化型:595nm、還元型:570nm)を測定し、細胞生存率を見積もった。
<結果および考察>
結果を図27に示す。コントロールとして用いたカチオン性リポソームのリポフェクチンは、キャリア10ug/mL存在下から細胞生存率は50%程度まで低下し、100ug/mLでは8%、200ug/mLでは0%に低下した。カチオン性リポソームは、遺伝子発現効率は高いものの、負に帯電した細胞膜と謨融合し、高い毒性を示すことが問題となっている。本実験からも同様にリポソームの高い毒性が示された。
ポリカチオン型キャリアのコントロールであるPEIでは、リポソームよりは低毒性であったものの、キャリア100ug/mL存在下から細胞生存率は80%に低下し、200ug/mLでは8%、400ug/mLでは0%となった。PEIは、カチオン性密度が高いポリカチオンであるため、細胞膜に損傷を与えやすいとされる。
2つのコントロールに対して、PLL−Lac、PVIm−NHは、400ug/mLの高濃度条件下においても細胞生存率は低下しなかった。このことから、本研究で用いたPLL−Lac、PVIm−NHは、低毒性の遺伝子キャリアとして期待される。
また、上述のように、核酸分子との二元複合体の状態で高い遺伝子発現効率を達成できたPVIm−Buの場合もPVIm−NHと同様に細胞毒性が無視できる程度に低く、低毒性の遺伝子キャリアとして期待される。
【0064】
(実施例15)ラクトース修飾ポリリジン/アミノ化ポリビニルイミダゾール/DNA三元複合体の遺伝子導入活性
<実験>
上記(実施例7)に記した通りに実験を行った。ただし、コンプレックス調製は以下のように行った。
・コンプレックス調製
滅菌チューブ内にPBS(−)を加え、PLL−Lac水溶液、PVIm−NH水溶液、プラスミドDNA溶液(蛍ルシフェラーゼをコードしたpGL3(Promega)をTE液(10mM Tris/HCI、1mM EDTA、pH8.0)に溶解したもの)を順に、に加え、ピペッティングしPLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体を形成した。複合体はpGL3濃度が200ng/15uLとなるようにした。キャリア、溶媒はAcrodisc Syringe Filterでろ過滅菌したものを用いた。
コントロールとしてPEI/pDNA複合体N/P=15、+/−≒5)を用いた。
<結果および考察>
PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体の遺伝子発現を図28に示す。
最初に、三元複合体の三元複合体の複合化電荷比を変化させ、最も高い発現を示す複合化比を検討した(図28(A)(B))。まず、PVIm−NHの複合化比を検討した。 図28(A)より、三元複合体は、DNAのリン酸基に対して、電荷比で、PVIm−NHを4−8の間で複合化したときに最も高い発現を示した。
そこで、PVIm−NHの複合化電荷比を4−8に固定して、PLL−Lacの複合化比を1−8に変化し、遺伝子発現活性を比較した。図28(B)より、三元複合体へのPLL−Lac複合化比は1のとき、最も高い発現を示し、複合化電荷比を大きくすると半減が低下する傾向が見られた。通常、複合体のカチオン電荷比が大きいほど、負に帯電した細胞膜と相互作用しやすいため、遺伝子発現も大きくなりやすい。三元複合体では、その傾向は見られず、三元複合体は電荷比で、PLL−Lac: PVIm−NH:DNA=1:4:1とき、最も高い遺伝子発現を示した。この結果を基に、以降の実験はこの電荷比の複合体を用いた。
三元複合体(PLL−Lac:PVIm−NH:DNA=1:4:1)の遺伝子発現活性を図28(C)に示す。三元複合体は、それぞれのキャリアとDNAの二元複合体に対して、有意に高い発現を示し、ポジティブコントロールのPEIと同程度の遺伝子発現を示した。このことから、三元複合体は2種のキャリアの相乗効果により、それぞれのキャリアを単独で用いるよりも、高い遺伝子発現を示すことが明らかとなった。
【0065】
(実施例16)ラクトース修飾ポリリジン/アミノ化ポリイミダゾール/DNA三元複合体の細胞ターゲティング能の検討 (レセプター阻害実験)
三元複合体のレセプター介在型エンドサイトーシスを評価するため、アシアロ糖タンパク質レセプターの阻害剤としてラクトースを倍地中に存在させ、遺伝子導入実験を行った。阻害剤添加系では、阻害剤がレセプターを占有してしまうため、三元複合体中のPLL−Lacとレセプター間の相互作用が減少すると考えられる。コントロールとして、アシアロ糖タンパク質レセプターを認識しない糖鎖であるマルトースを用いた。
<実験>
上記(実施例7)に記した通りに実験を行った。ただし、以下の操作を加えた。
・コンプレックス調製
滅菌チューブ内にPBS(−)を加え、PLL−Lac水溶液、PVIm−NH水溶液、プラスミドDNA溶液(蛍ルシフェラーゼをコードしたpGL3(Promega)をTE液(10mM Tris/HCl 1mM EDTA、pH8.0)に溶解したもの)を順に、に加え(PLL−Lac/PVIm−NH/DNA=1/4/1 at charge ratio)、ピペッティングしPLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体を形成した。複合体はpGL3濃度が200ng/15uLとなるようにした。キャリア、溶媒はAcrodisc Syringe Filter でろ過滅菌したものを用いた。
・阻害剤添加
ラクトース44mM PBS溶液、マルトース44mM PBS溶液を調製し、Acrodisc Syringe Filterでろ過滅菌した。96穴に播種した細胞に、ラクトース・マルトース溶液をl0uL/well(Final 4mM/well)加え、l0min静置後に、複合体溶液を加えた。
<結果および考察>
結果を図29に示す。三元複合体の遺伝子発現は、ラクトース、マルトース存在下で、ほとんど変化しなかった。この原因として、PLL−Lac/PVIm−NH/DNA三元複合体中のPLL−Lacは多数のラクトースを有する高分子のため、レセプターとマルテバレントに認識し合い、低分子のラクトースよりもレセプターとの親和性が強かったため、ラクトースによるレセプター阻害が起こりにくかったと考えられる。また、本実験では、細胞内への複合体取り込み期間として、37℃で24hインキュベートしたが、37℃では活発なエンドサイトーシスが起こっており、またインキュベート時間が長いため、レセプターの阻害が起きにくかったと思われる。
【0066】
(実施例17)細胞種における遺伝子発現の比較
三元複合体のレセプター介在型エンドサイトーシスによる細胞ターゲティング能を評価するため、異なる三種の細胞における遺伝子発現活性を評価した。細胞種は、アシアロ糖タンパク質レセプターを有するHepG2と、アシアロ糖タンパク質レセプターを持たない、ラット皮膚由来細胞(FR)、マウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3−E1)を用いた。
<実験>
・細胞培養
HepG2、FR、MC3T3−E1は、10%ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum、FBS)、1%抗生物質(ストレプトマイシン、アンホリテシンB含有)を含むDMEM培地にて、継代、培養した(培養条件:37℃・CO濃度5%)。
・コンプレックス調製は5−4−1項に記した通り行った。コントロールのPVIm−NH/DNA、PLL−Lac/DNA、PEI/DNA各複合体は、カチオンが5倍過剰の電荷比で複合化した。
・遺伝子導入実験は、上記(実施例7)に記した通り行った。
<結果および考察>
結果を図30に示す。アシアロ糖タンパク質レセプターを有するHepG2において、三元複合体は、2種のキャリアの相乗効果により、それぞれのキャリアとDNAの二元複合体に対して、有意に高い発現を示した。三元複合体とPEI/DNA複合体の遺伝子発現は同程度であった。
さらに、アシアロ糖タンパク質レセプターを持たないFR細胞、MC3T3−E1細胞における結果と比較すると、PEI/DNA複合体では三種全ての細胞で高い発現を示したのに対し、三元複合体はアシアロ糖タンパク質レセプターを有するHepG2でのみ高い発現を示した。これらの結果から、三元複合体のPLL−Lacによる細胞ターゲティング能が示された。
【0067】
(実施例18)ラクトース修飾ポリリジン/アミノ化ポリビニルイミダゾール/DNA三元複合体のpH応答的エンドソームリリースの検討
さらに、三元複合体のpH応答的なエンドソーム脱出を明らかにするため、エンドソーム内の酸性化阻害剤であるクロロキンを用い細胞実験を行った。
<実験>
上記(実施例7)に記した通りに実験を行った。ただし、以下の操作を加えた。
・クロロキン添加
クロロキン1mM PBS溶液を調製し、Acrodisc Syringe Filter でろ過滅菌した。96穴に播種した細胞にクロロキン溶液を10uL/well (Final 100uM/well)加え、10min静置後に、複合体溶液を加えた。コントロールとして、pH応答性を持たない遺伝子キャリアであるPLLを用いた。
<結果および考察>
結果を図31に示す。コントロールとして用いたプロトン緩衝能を持たないPLLでは、クロロキン存在下で発現はおよそ17倍上昇した。これは、エンドソーム内の酸性化が阻害され、分解酵素の働きが低下したことに加え、クロロキンには、細胞膜やエンドソーム膜の透過性を向上させる作用があるためであると考えられる。
一対、三元複合体では、クロロキンの存在下で発現はおよそ1/17に低下した。これは、エンドソーム内における、PVIm−NHのプロトン化が抑制されたためであると考えられる。すなわち、三元複合体はPVIm−NHのpH応答性によりエンドソームから脱出していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の核酸キャリアを用いることで、副作用の少ない効率的な、肝臓治療薬、抗癌剤などの遺伝子治療用の医薬組成物が提供でき、また、肝臓など各種臓器、癌細胞などをリアルタイムでモニターできる診断にも役立つ。

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、PVIm−NHの合成を示すH−NMRスペクトル図である。 :(A)1−ビニルイミダゾール、(B)ポリ(1−ビニルイミダゾール)、(C)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)
【図2】図2は、フルオレサミン法によるアミノ基定量の検量線である。
【図3】図3は、PVIm−NHのプロトン緩衝効果を示すための酸塩基滴定である。 :(●)ポリヒスチジン、(■)ポリ(1−ビニルイミダゾール)、(▲)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)
【図4】図4は、PVIm−NHの親水性度を示すための水溶液の濁度測定図である。 :(●)ポリヒスチジン、(■)ポリ(1−ビニルイミダゾール)、(▲)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)
【図5】図5は、PVIm−NHの血清安定性を示すものである。 :(●)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)、(◇)ポリエチレンイミン
【図6】図6は、PVIm−Buの合成を示すH−NMRスペクトル図である。
【図7】図7は、PVIm−Ocの合成を示すH−NMRスペクトル図である。
【図8】図8は、PVIm−Bu及びPVIm−Ocのプロトン緩衝効果を示すための酸塩基滴定である。 :(○)PVIm−Bu、(■)PVIm−Oc
【図9】図9は、PVIm−Bu及びPVIm−Ocの親水性度を示すための水溶液の濁度測定図である。 :(○)PVIm−Bu、(■)PVIm−Oc
【図10】図10は、PVIm−Bu、PVIm−Oc及びPVIm−NHの細胞毒性評価である。 :(▲)PVIm−Bu、(●)PVIm−Oc、(■)PVIm−NH、(◆)PEI(ポリエチレンイミン)
【図11】図11は、PVIm−NHの赤血球溶血活性におけるpH依存性(P<0.002)を示すものである。
【図12】図12は、PVIm−NHのアガロースゲル電気泳動によるDNA複合体形成能を示すものである。 :(左)ポリ(1−ビニルイミダゾール)、(右)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)
【図13】(A)は、PVIm−NH/DNAの二元複合体の遺伝子発現活性を示すものであり、(B)は、さらに複合体電荷比変化及び血清添加の効果を示すものである。
【図14】図14は、PVIm−BuとDNAとの複合体形成能を示すものである。
【図15】図15は、PVIm−Bu/DNA複合体の安定性評価を示すものである。:DSはデキストラン硫酸
【図16】図16は、PVIm−Bu/DNA複合体の赤血球溶血活性評価を示すものである。
【図17】図17は、PVIm−Bu/DNA複合体の遺伝子導入活性評価を示すものである。
【図18】図18は、ラクトース修飾ポリ−L−リジンの合成を示すH−NMRスペクトルである。 :(A)ポリ−L−リジン、(B)ラクトース、(C)ラクトース修飾ポリ−L−リジン
【図19】図19は、アガロースゲル電気泳動によるDNA三元複合体形成能を示すものである。 :(A)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)とラクトース修飾ポリ−L−リジンとの混合系(エチジウムブロマイド含有)、(B)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)とFITCラベル化ラクトース修飾ポリ−L−リジンとの混合系(エチジウムブロマイド非含有)
【図20】図20は、DNA三元複合体からのpH応答的糖鎖リガンド解離の概念図である。
【図21】図21は、DNA三元複合体及びPVIm−NHのエンドソーム内での解離を示す酸塩基滴定である。 :(●)三元複合体、(▲)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)
【図22】図22は、三元複合体のプロトン緩衝効果を示すための酸塩基滴定である。 :(●)三元複合体、(▲)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)
【図23】図23は、三元複合体の親水性度を示すための水溶液の濁度測定である。 :(●)三元複合体、(▲)アミノエチル化ポリ(1−ビニルイミダゾール)
【図24】図24は、三元複合体の血清安定性を示す図である。 :(●)三元複合体、(◆)コントロールとしてのポリエチレンイミン/DNA二元複合体
【図25】図25は、三元複合体の赤血球溶血活性におけるpH依存性(P<0.01)を示す。
【図26】図26は、二元及び三元複合体のDNA保持安定性を示す。
【図27】図27は、二元及び三元複合体を、アラマーブルーアッセイを用い、細胞毒性を評価した図である。
【図28】図28は、二元及び三元複合体の遺伝子発現効率を示す。
【図29】図29は、三元複合体の糖鎖競争阻害による細胞認識阻害実験を示す。
【図30】図30は、各種細胞に対する三元複合体の細胞特異的なトランスフェクション活性(P<0.01)を示す。
【図31】図31は、クロロキン存在下における三元複合体のトランスフェクション活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

〔式中、AはH又はNHを表す。rはモル分率を表し、0<r<1であり、mは1〜18の自然数を表す。〕で示される、数平均分子量1.0×10〜1.0×10の部分アルキル化もしくは部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩。
【請求項2】
式(1)において、mが2であり、前記部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾールが部分アミノエチル化ポリビニルイミダゾールであることを特徴とする、請求項1に記載の部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩。
【請求項3】
式(1)において、mが4であり、前記部分アルキル化ポリビニルイミダゾールが部分ブチル化ポリビニルイミダゾールであることを特徴とする、請求項1に記載の部分アルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩。
【請求項4】
1−ビニルイミダゾールを重合させて得られた
式(2)
【化2】

〔式中、nは繰り返し数であって、式(2)のポリビニルイミダゾールの数平均分子量が1.0×10〜1.0×10となるに必要な重合度を表す。〕で示される、数平均分子量1.0×10〜1.0×10のポリビニルイミダゾールと、
式(3)
【化3】

〔式中、mは式(1)と同一の意味を表す。〕で示される、ハロゲン化アルキルアミン、又は
式(4)
【化4】

〔式中、mは式(1)と同一の意味を表す。〕で示される、ハロゲン化アルキルとを、非プロトン性有機溶媒中で反応させることを特徴とする、
式(1)
【化5】

〔式中、A、r、mは式(1)と同一の意味を表す。〕で示される、数平均分子量1.0×10〜1.0×10の部分アルキル化もしくは部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール又はその塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の部分アルキル化もしくは部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾールのカチオン性の塩と核酸とが静電的に結合していることを特徴とするpH応答性核酸複合体。
【請求項6】
前記核酸が、発現ベクターを含む、もしくは含まないDNA分子であり、標的細胞内で発現させることを特徴とする請求項5に記載のpH応答性核酸複合体。
【請求項7】
前記核酸が、発現ベクターを含む、もしくは含まないRNA分子であり、標的細胞内でsiRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、またはリボザイムとして機能させることを特徴とする請求項5に記載のpH応答性核酸複合体。
【請求項8】
前記核酸が、標識された核酸であるか又はレポーター遺伝子を含む核酸であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のpH応答性核酸複合体。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載のpH応答性核酸複合体を含み、標的細胞内に目的の核酸を輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させるためのpH応答性核酸キャリア。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか1項に記載のpH応答性核酸複合体に対して、さらに下記式(5)で示される数平均分子量が1.0×10〜1.0×10の糖鎖修飾ポリリジンが静電的に結合していることを特徴とする、糖鎖修飾ポリリジン/部分アミノアルキル化ポリビニルイミダゾール塩/核酸からなるpH応答性三元複合体。
式(5)
【化6】

〔式中、pはモル分率を表し、0<p<1である。〕
【請求項11】
前記糖鎖修飾ポリリジンが
式(6)
【化7】

〔式中、pは式(5)と同一の意味を表す。〕で示されるラクトース修飾ポリリジン、
又は、β−ガラクトース末端を有する糖鎖修飾ポリリジンであることを特徴とする、請求項10に記載のpH応答性三元複合体。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のpH応答性三元複合体を含むことを特徴とする、標的細胞内に目的の核酸を特異的に輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させるための標的細胞特異的pH応答性核酸キャリア。
【請求項13】
pH応答性三元複合体中の糖鎖修飾ポリリジンがラクトース又はβ−ガラクトース末端を有する糖鎖で修飾されたポリリジンであって、かつ標的細胞が肝細胞であることを特徴とする、請求項12に記載の標的細胞特異的pH応答性核酸キャリア。
【請求項14】
請求項9に記載のpH応答性核酸キャリア又は請求項10〜13のいずれか1項に記載の標的細胞特異的pH応答性核酸キャリアを有効成分として含むことを特徴とする、遺伝子治療用医薬組成物。
【請求項15】
請求項9に記載のpH応答性核酸キャリア又は請求項10〜13のいずれか1項に記載の標的細胞特異的pH応答性核酸キャリアを有効成分として含むことを特徴とする、標的細胞の同定、検出又は診断用試薬。
【請求項16】
請求項9に記載のpH応答性核酸キャリアを用いることを特徴とする、標的細胞内に目的の核酸を輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させる核酸デリバリー方法。
【請求項17】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の標的細胞特異的pH応答性特異的核酸キャリアを用いることを特徴とする、標的細胞内に特異的に目的の核酸を輸送し、標的細胞内で当該核酸を発現させるか又は機能させる核酸デリバリー方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2009−7547(P2009−7547A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50193(P2008−50193)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】