核酸含有ナノ粒子
【課題】 これまで十分に達成できなかった核酸の経皮・粘膜吸収を可能にする効果を有し、高吸収性の核酸を含有する外用剤、注射剤を、ウイルス性のキャリアを用いずに提供することである。
【解決手段】 核酸を、1価ないし3価の塩基性塩および2価または3価の金属塩、あるいはカチオン性高分子との複合体の周囲を、イオン性官能基を有する親水性高分子で非共有結合により被覆したナノ粒子ならびにその製造方法、さらにそれらのナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤および注射剤である。
【解決手段】 核酸を、1価ないし3価の塩基性塩および2価または3価の金属塩、あるいはカチオン性高分子との複合体の周囲を、イオン性官能基を有する親水性高分子で非共有結合により被覆したナノ粒子ならびにその製造方法、さらにそれらのナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤および注射剤である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を含有するナノ粒子に関し、さらに詳細には、核酸を含有するナノ粒子およびその製造法、当該ナノ粒子からなる皮膚および粘膜適用、ならびに注射用の非経口投与用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を生体内に投与することにより、いわゆる遺伝子治療が可能になると考えられている。外来遺伝子やRNAなどのオリゴ核酸分子を細胞内に取り込ませることにより、それらは可能になる。
【0003】
ところで、皮膚・粘膜の表皮細胞は、遺伝性皮膚疾患をはじめ免疫性疾患、癌、アトピー性皮膚炎などの全身性疾患に対する経皮投与部位として、また、免疫機能を司っていることなどから、核酸の有用な投与標的部位といえる。また、表皮は種々の成長因子やサイトカインを分泌し、局所や全身に影響を及ぼす臓器である。そこで、表皮細胞を経由して全身に標的タンパク質を供給することも可能であると考えられる。
【0004】
これまで数多くの核酸分子を投与するキャリアが設計開発されてきた。ウイルスをベースにしたキャリアも一つの有力な候補であるが、その安全性に関し、問題点が依然として残されている。また、エレクトロポレーションやジーンガンで導入する方法もあるが、特殊な機器を必要とし、汎用性に乏しい。非ウイルス系のキャリアとしては、リポソームやミセル、デンドリマー、ポリマー、微粒子などが開発されてきた。
【0005】
しかしながら、これらキャリアは、in vitroの系で良好なキャリアとして機能したとても、生体内で同様に機能するとは限らない。したがって、標的とする組織・細胞や投与経路を考慮して、それらに最適なキャリア設計を行なう必要がある。
【0006】
皮膚は角質層で覆われており、外来分子の透過性を制御している。皮膚へのDNAの透過性は低く、また透過してもそのままの形態では細胞内に取り込まれにくい。そこで、何らかのキャリアを利用し、表皮細胞に取り込ませることが求められる。しかし、in vitroにおいては、容易に細胞内に取り込まれるような複合体であっても、角質層を透過しない限りその機能を十分に発揮できない。
【0007】
これまで、リン酸カルシウム法やリポソームによる核酸分子の導入の試みがなされてきた(非特許文献1)が、その導入効率は十分ではなかった。その一つの原因は、DNAとキャリアとの複合体の物性にある。皮膚への透過性を向上させるためには、キャリアの粒径を小さくすることが好ましい。これまでの一部の研究より、その透過性向上に必要な粒径は100nm以下であるといわれている。しかしながら、核酸を含有したリン酸カルシウムの複合体あるいは核酸とカチオン性高分子やカチオン性脂質の複合体では、沈殿や数百nmの粒子が形成されてしまう。
【0008】
さらに、疎水性置換基を共有結合により導入したカチオン性ポリマー(特許文献1)や親水性非イオン性ポリマーを共有結合により導入した陽イオン性ブロックポリマー(特許文献2)、親水性イオン性ポリマーを共有結合により導入したグラフトポリマー(非特許文献2)により核酸との複合体を形成させ、細胞内に転移する技術が開発されてきた。これらの技術では、小さな粒径のDNA複合体を形成することは可能であったが、その表面を親水性鎖で覆うことで細胞への親和性を弱めてしまい、細胞への核酸分子の取り込みが抑制されてしまった(非特許文献3)。また、非イオン性の界面活性剤を分散してナノカプセルを製造する技術(特許文献3)や、多価の電荷を有するポリマーで核酸と陽イオン性ポリマーの複合体を形成させる報告もある(特許文献4、特許文献5)。
【0009】
本発明では、イオン性官能基を有する親水性高分子を用い、核酸と無機化合物の複合体あるいは核酸とカチオン性高分子の複合体をナノ粒子化し、核酸の皮膚・粘膜吸収性を高め、表皮細胞内で核酸の活性が機能できる非ウイルスキャリアを開発したものである。
【0010】
【特許文献1】特許公表2004−510829号公報
【特許文献2】特許公表2003−528613号公報
【特許文献3】特許公表2003−524654号公報
【特許文献4】特許公表2003−503362号公報
【特許文献5】特許公表2001−511171号公報
【非特許文献1】Human Genetics (4) p.2279-85 (1995)
【非特許文献2】S.T.P. Pharma. Sciences (11) p.97-102 (2001)
【非特許文献3】Gene Ther. (5) p.1425-33 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明では、皮膚や粘膜への透過性を向上させ、表皮細胞内へより効率よく核酸を運搬する技術を、ウイルスを用いずに提供することを課題とする。
かかる課題を解決するべく、本発明者らは新たな方法で小さな粒径のDNA複合体を開発し、そのナノ粒子が皮膚や粘膜に浸透し表皮細胞内に核酸を効率よく運搬できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、皮膚・粘膜投与により優れた核酸取り込みを可能にするナノ粒子を提供する。また、本発明は注射用剤としても利用できるナノ粒子を提供する。
【0013】
より具体的には、本発明は、
(1)核酸、1価ないし3価の塩基性塩、2価または3価の金属塩およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子、
(2)核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子、
(3)1価ないしは3価の塩基性塩が、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、シュウ酸塩、乳酸塩および尿酸塩から選択されるものである(1)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(4)2価または3価の金属塩が、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩である(1)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(5)カチオン性高分子が、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、カチオン性アミノ酸を含むポリペプチド、ポリエチレンイミン、キトサン、カチオン性デンドリマーおよびDNA結合性タンパク質から選択されるものである(2)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(6)イオン性官能基を有する親水性高分子が、ポリエチレングリコール、脂質−ポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、オリゴ糖および多糖から選択されるものである(1)または(2)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(7)イオン性官能基を有する親水性高分子のイオン性官能基が、リン酸基、硫酸基またはカルボキシル基である(6)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(8)粒子の直径が10〜500nmである(1)〜(7)のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子、
(9)核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、2価または3価の金属塩および1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法、
(10)核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法、
(11)核酸が、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、2’−OメチルRNA、ペプチド核酸およびそれらのキメラ体から選択されるものである(1)〜(10)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(12)核酸が、プラスミドDNAによる外来遺伝子の発現機能またはアンチジーン、アンチセンス、リボザイム、デコイあるいはRNA干渉などによる内因性遺伝子の発現抑制または増強の機能を有する(1)〜(11)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(13)(1)〜(12)のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤、
(14)外用剤が軟膏剤、ゲル剤、舌下錠、口腔錠剤、液剤、口腔・下気道用噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤および貼付剤から選択される(13)に記載の外用剤、
(15)(1)〜(12)のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する注射用剤、
を提供するものである。
【0014】
本発明が提供する核酸ナノ粒子の態様のひとつは、イオン性官能基を有する親水性高分子の存在下、1価ないし3価の塩基性塩と2価または3価の金属塩を作用させることにより形成した、塩基性塩と金属塩との結合体に、核酸を取り込んだ複合体からなる。塩基性塩と金属塩との結合体としては炭酸亜鉛、リン酸カルシウムが好ましい。この場合、複合体の表面にイオン性官能基を有する親水性高分子鎖を配したナノ粒子が形成されることを見出した。
【0015】
本発明が提供する核酸ナノ粒子のもうひとつの態様は、カチオン性高分子と核酸との複合体からなり、その複合体の周囲を、イオン性官能基を有する親水性高分子で非共有結合により被覆したものである。この場合、カチオン性高分子と核酸を相互作用させると同時に、イオン性官能基を有する親水性高分子を混合しておくことで、複合体の凝集を抑制し、表面に親水性高分子鎖を配したナノ粒子が形成されることを見出した。
【0016】
さらに本発明は、上記の核酸ナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤および注射剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明が提供するナノ粒子においては、イオン性官能基を有する親水性高分子をその表面に配すことにより小さな粒径を有し、その小さな粒径により角質層を通過し易くした核酸含有ナノ粒子である。
さらに、本発明が提供するナノ粒子においては、核酸キャリア複合体とイオン性官能基を有する親水性高分子が非共有結合により相互作用しているので、角質層を通過後、容易にイオン性官能基を有する親水性高分子が複合体から遊離し、核酸が細胞に取り込まれ易くなる。また、遊離したイオン性官能基を有する親水性高分子は、表皮への透過性を高める効果があり、粒子の吸収促進剤として作用する。
したがって、本発明が提供するナノ粒子を用いることにより、核酸を皮膚・粘膜内の細胞内に容易に運搬させることが可能になり、遺伝子の発現による全身への特定タンパク質の供給や、免疫系の制御あるいは皮膚疾患の治療を可能とする外用剤、注射剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、上記するように核酸を含有するナノ粒子を、核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、2価または3価の金属塩、1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で作用させることからなる核酸含有ナノ粒子およびその製造方法、および、核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、カチオン性高分子を、水または緩衝液中で作用させることからなる核酸含有ナノ粒子およびその製造方法、さらにそれらのナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤および注射剤である。
【0019】
本発明のナノ粒子は、その直径が10〜500nmであり、好ましくは10〜200nm、さらに好ましくは10〜100nmである。かかる粒子径は、使用するイオン性官能基を有する親水性高分子と2価または3価の金属塩、1価ないし3価の塩基性塩の配合比率、あるいはその濃度などによって調整することができる。さらには、核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、カチオン性高分子の配合比率、あるいはその濃度などによって調整することができる。
【0020】
本発明が提供するナノ粒子に含有される核酸は、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、2’−OメチルRNA、ペプチド核酸およびそれらのキメラ体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明が提供するナノ粒子に含有される核酸は、プラスミドDNAによる外来遺伝子の発現機能またはアンチジーン、アンチセンス、リボザイム、デコイ、RNA干渉などによる内因性遺伝子の発現抑制または増強の機能を有する。
【0022】
本発明のナノ粒子の作製に必要な1価ないし3価の塩基性塩は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、シュウ酸塩、乳酸塩および尿酸塩から選択され、そのなかでも炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩もしくはリン酸水素塩が好ましい。
【0023】
本発明が提供するナノ粒子を形成するのに必要である2価または3価の金属塩は、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの亜鉛塩、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム塩、塩化鉄、硫化鉄などの鉄塩、塩化銅、硫酸銅などの銅塩などを挙げることができ、なかでも亜鉛塩もしくはカルシウム塩を好ましく使用することができる。
【0024】
本発明におけるイオン性官能基を有する親水性高分子としては、末端、分子内あるいは側鎖にイオン性官能基を化学的あるいは分子生物学的な手法により導入可能なポリエチレングリコール、脂質−ポリエチレングリコールなどの親水性合成高分子;デキストラン、プルラン、セルロース、イヌリン、マンナン、ヒアルロン酸などのイオン性官能基を有するあるいはイオン性官能基を化学的あるいは分子生物学的な手法により導入可能なホモあるいはヘテロ多糖;イオン性官能基を有するアミノ酸を含むポリペプチド、タンパク質などが挙げられる。イオン性官能基としてリン酸基、硫酸基、カルボキシル基などの酸性基であり、リン酸基を有する親水性高分子であることが好ましい。末端にリン酸基を有するポリエチレングリコールおよびリン酸エステルを有しているフォスフォリルエタノールアミン−ポリエチレングリコールが最も好ましい。さらに、疎水性部として種々の飽和あるいは不飽和のアルキル鎖、種々の飽和あるいは不飽和のアルキル鎖を有する脂質、ステロイド、疎水性のアミノ酸からなるポリペプチドなどが挙げられる。
【0025】
本発明が提供するカチオン性高分子と核酸からなる複合体のナノ粒子を形成するのに必要であるカチオン性高分子としては、リジン、アルギニンあるいはヒスチジンなどのカチオン性基を有するアミノ酸を含有するポリペプチドまたはタンパク質、ヒストンなどのDNA結合性タンパク質、キチンやキトサンなどの塩基性多糖、カチオン性基を有するデンドリマーおよびポリエチレンイミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくはポリエチレンイミンである。
【0026】
以下に、本発明が提供するナノ粒子の製造法について説明する。
DNAなどの核酸、末端リン酸基導入ポリエチレングリコールなどのイオン性官能基を有する親水性高分子、1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で混合し、2価あるいは3価の金属塩を添加し、1時間以上静置することで核酸含有複合体からなるナノ粒子が作製できる。
【0027】
もう一つの方法は、DNAなどの核酸およびフォスフォリルエタノールアミン−ポリエチレングリコールなどのイオン性官能基を有する親水性高分子を、水または緩衝液中で混合し、ポリエチレンイミンなどのカチオン性高分子を添加し、1時間以上静置することで核酸含有複合体からなるナノ粒子を作製する。緩衝液としてはリン酸緩衝液(PBS)が好ましく使用される。
【0028】
本発明は、また、そのような皮膚・粘膜適用型外用剤または注射用剤を提供するものである。そのような外用剤としては、全身および局所投与・治療を目的として局所へ塗布、貼付、滴下、噴霧などの形態で投与しうるものであり、具体的には、軟膏剤、ゲル剤、舌下錠、口腔錠剤、液剤、口腔・下気道用噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤、貼付剤等を挙げることができる。液剤としては点鼻剤、点眼剤として好ましい。また、皮膚または粘膜への塗布、下気道への噴霧などが有効な投与形態である。注射用剤としては、静脈注射、皮下注射、筋肉注射のいずれの投与形態も可能であり、それぞれの薬物の特性によって選択される。
【0029】
これらの外用剤、注射剤の調製に使用される基剤、その他の添加剤成分としては、製剤学的に外用剤、注射剤の調製に使用されている基剤、各種成分を挙げることができる。具体的には、ワセリン、プラスチベース、パラフィン、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、サラシミツロウ、シリコン油などの油脂性基剤;水、注射用水、エタノール、メチルエチルケトン、綿実油、オリーブ油、落花生油、ゴマ油などの溶剤;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどの非イオン性界面活性剤;ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、キサンタンガム、トラガントガム、アラビアガム、ゼラチン、アルブミンなどの増粘剤;ジブチルヒドロキシトルエンなどの安定化剤;グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、尿素、ショ糖、エリスリトール、ソルビトールなどの保湿剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル、デヒドロ酢酸ナトリウム、p−クレゾールなどの防腐剤であり、剤型に応じて適宜選択して使用することができる。また、点鼻剤の場合、ヒドロキシプロピルセルロースなどの経鼻吸収促進剤を配合すると好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により、何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1:DNA−カチオン性高分子のナノ粒子化
200ngのプラスミドDNA(β−gal−CMV)、260ngのポリエチレンイミン(PEI)、および種々のイオン性官能基を有する親水性高分子、またはイオン性官能基を有しない親水性高分子を2μg、20μgあるいは200μg用い、20μLのPBS中で混合し、1時間静置した。その後、8000rpmで5分間遠心し、1%アガロースゲル電気泳動により解析した。
【0032】
電気泳動による解析の結果、いずれの親水性高分子を使用した場合でもプラスミドはゲルトップの位置からゲル中に移動しなかったので、ポリエチレンイミン(PEI)と複合化していることが判明した。また複合体懸濁液中に過剰のポリグルタミン酸を添加することにより、すべての複合体からプラスミドが遊離された。その結果を図1に示した。
【0033】
図中の電気泳動図において、上段は懸濁液について、中段は懸濁液+ポリグルタミン酸について、下段は上清+ポリグルタミン酸についての結果を示したものである。
さらに、電気泳動図中において、1はDNAのみの結果を示し、2はポリエチレンイミン(PEI)の結果を示し、さらに親水性高分子として3はリン酸グルコン酸を、4はTween80を、5はオレイン酸+ポリエチレングリコール(PEG)を、6は末端リン酸化PGEを、7はジアシルグリセロール−PGEをDNAに対し1000倍量用いた場合の結果を示し、8はフォスフォリルエタノールアミン−PEGをDNAに対し10倍量用いた場合、9はフォスフォリルエタノールアミン−PEGをDNAに対し100倍量用いた場合、および10はフォスフォリルエタノールアミン−PEGをDNAに対し1000倍量用いた場合の結果を示した。
【0034】
図1に示した結果から判明するように、複合体懸濁液を8000rpmで遠心した後上清中のプラスミドを電気泳動により解析した結果、親水性高分子としてオレイン酸−ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート(Tween80)、分子内にリン酸エステルを含有していない中性の脂質であるジアシルグリセロール−ポリエチレングリコール、末端にリン酸基を導入したポリエチレングリコールあるいはリン酸グルクロン酸を用いた場合には、プラスミドのバンドが消失しており、遠心操作によりDNAが複合体とともに沈殿してしまった。
【0035】
一方、分子内にリン酸エステルを含有しているフォスフォリルエタノールアミン−ポリエチレングリコールでは、8000rpmで遠心後もプラスミドが上清中に残留していることが明らかになった。以上の結果から、脂質−ポリエチレングリコール(リン酸エステルを含有)を混合することにより、粒径の小さなポリエチレンイミン−プラスミド複合体が形成されることがわかった。さらに、光散乱によるその粒径測定の結果、約100nmのナノ粒子複合体が形成されていることが判明した。
【0036】
実施例2:マウス皮膚でのプラスミドDNAの発現
プラスミドDNA(β−gal−CMV)、ポリエチレンイミンおよびリン酸エステルを含有している脂質−ポリエチレングリコールをPBS中で混合し、1時間静置することによりプラスミドDNAのナノ粒子を得た。その後、得られたナノ粒子を、DNAとして10μg/平方cmの濃度で、3日間連続でマウス背部皮膚に塗布した。投与終了24時間後皮膚を切除し、細胞可溶化液にて細胞を可溶化し、その上清液中に含まれるβガラクトシダーゼ活性を測定した。その結果を図2に示す。
【0037】
図2に示したように、ポリエチレンイミンを用いDNAを投与した場合にはβガラクトシダーゼの発現は認められなかったが、リン酸エステルを含有している脂質−ポリエチレングリコールとポリエチレンイミンを用いて調製したナノ粒子では、強い発現が認められた。よって、DNAが、このナノ粒子により皮膚細胞内に移行したことが証明された。
【0038】
実施例3:オリゴDNAのマウス皮膚への吸収
HEX末端ラベルオリゴDNA(14mer)、ポリエチレンイミンおよびリン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールを混合し、1時間静置してオリゴDNAの複合体粒子を得た。その後、当該粒子をDNAとして100μg/平方cmの濃度でマウス背部皮膚に塗布した。2時間後、皮膚を切除し切片を作製し蛍光顕微鏡により観察した。その結果を図3.1から図3.4に示す。
【0039】
図3.1は何も塗布していないマウス皮膚をHE染色した位相差顕微鏡像を示し、図3.2は非塗布群マウスの結果を、図3.3はポリエチレンイミンとの複合体の結果を、図3.4は、ポリエチレンイミン/リン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールとの複合体の結果を示した蛍光顕微鏡写真であり、図中、矢印は表皮部分を示す。その結果、ポリエチレンイミンおよびリン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールに混合したDNAでは、皮膚への取り込みが高められていることが分かった。
【0040】
実施例4:オリゴDNA含有の炭酸亜鉛またはリン酸カルシウムナノ粒子の調製
オリゴDNA、炭酸水素ナトリウムおよび末端リン酸化ポリエチレングリコールを混合し、塩化亜鉛を添加後、2時間静置することで、DNA含有ナノ粒子を得た。このナノ粒子を光散乱により測定したところ、その粒径は30〜300nmであった。
また、同様に、オリゴDNA、リン酸二水素ナトリウムおよび末端リン酸化ポリエチレングリコールを混合し、塩化カルシウムを添加後、2時間静置することで、DNA含有ナノ粒子を得た。この粒子の粒径は200〜500nmであった。
電気泳動による解析の結果からは、いずれの粒子でもDNAがナノ粒子と複合化されていた。
【0041】
末端リン酸化ポリエチレングリコール非存在下で同様の操作を行ったところ、大きな凝集塊が形成されてしまったが、末端リン酸化ポリエチレングリコールを混合しておくことにより小さなナノ粒子が形成されることが判った。したがって、炭酸亜鉛またはリン酸カルシウムと核酸の系においては、末端リン酸化ポリエチレングリコールがナノ粒子作製に有効であることが判明した。
【0042】
実施例5:オリゴDNAの細胞への取り込み
FITCラベルオリゴDNA、炭酸水素ナトリウム、塩化亜鉛および末端にリン酸基を有するポリエチレングリコールをPBS中で混合することでナノ粒子を得た。このナノ粒子をRAW、3T3L1あるいはFRSK(ケラチノサイト)細胞に添加し、DNAの取り込みを蛍光顕微鏡により観察した。なお、対照としてオリゴDNAのみの場合、およびリポフェクタミンとの複合体の場合をおいた。結果を図4.1から図4.3に示した。
【0043】
図4.1はオリゴDNAのみの結果を、図4.2はリポフェクタミンとの複合体の結果を、図4.3は炭酸亜鉛とリン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子の結果を示す蛍光顕微鏡である。
図4に示した結果から判るように、炭酸亜鉛とリン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子で、RAW細胞へのDNAの顕著な取り込みが確認された。また、3T3L1あるいはFRSK細胞においても、同様に細胞へのDNAの取り込みが認められた。
【0044】
実施例6:オリゴDNAのマウス皮膚への吸収
HEX末端ラベルオリゴDNA(14mer)、炭酸水素ナトリウム、塩化亜鉛および末端にリン酸基を有するポリエチレングリコールを、PBS中で混合することによりナノ粒子を得た。その後、DNAとして100μg/平方cmの濃度でマウス背部皮膚に塗布した。2時間後、皮膚を切除し、切片を作製し顕微鏡により観察した。結果を図5.1から図5.4に示した。
【0045】
図5.1は何も塗布していないマウス皮膚をHE染色した位相差顕微鏡像を示し、図5.2は非塗布群マウスの結果を、図5.3は市販されているトランスフェクション試薬であるリポフェクタミンとの複合体の結果を、図5.4は、炭酸亜鉛/末端にリン酸基を含有しているポリエチレングリコールとの複合体の結果を示した蛍光顕微鏡写真であり、図中、矢印は表皮部分を示す。
その結果、リポフェクタミンでは、オリゴDNAが角質に局在しているのに対し、炭酸亜鉛とリン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子では、皮膚内部へオリゴDNAがとりこまれていることがわかった。
【0046】
実施例7:軟膏剤/ハイドロゲル剤の製造
実施例4で得られたナノ粒子(炭酸水素ナトリウムと塩化亜鉛を使用して得られたオリゴDNAのナノ粒子)、白色ワセリン、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびパラオキシ安息香酸メチルの適量をとり、全量が均質になるまで混和し、軟膏剤およびハイドロゲル剤とした。
【0047】
実施例8:外用貼付剤(水性パップ剤)
処方:
実施例4で得られたナノ粒子 0.1重量部
(リン酸ニ水素ナトリウムと塩化カルシウム
を使用して得られたオリゴDNAのナノ粒子)
ポリアクリル酸 2.0重量部
ポリアクリル酸ナトリウム 5.0重量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.0重量部
ゼラチン 2.0重量部
ポリビニルアルコール 0.5重量部
グリセリン 25.0重量部
カオリン 1.0重量部
水酸化アルミニウム 0.6重量部
酒石酸 0.4重量部
EDTA−2−ナトリウム 0.1重量部
精製水 残部
上記配合成分をベースとし、常法により外用剤(水性パップ剤)を得た。
【0048】
実施例9:注射剤
実施例2で得られたプラスミドDNAのナノ粒子を注射用蒸留水に溶解し、等張化剤を含有させ、さらにpHを6.9に調整した後、バイアル充填し、高温高圧滅菌を行い、注射剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明は、イオン性官能基を有する親水性高分子をその表面に配すことにより小さな粒径を有し、その小さな粒径により角質層を通過し易くした核酸含有ナノ粒子であり、表皮への透過性を高める効果があり、粒子の吸収促進剤として作用する。したがって、核酸を皮膚・粘膜内の細胞内に容易に運搬可能になり、遺伝子の発現による全身への特定タンパク質の供給や免疫系の制御あるいは皮膚疾患の治療を可能とする外用剤、注射剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1における、種々の親水性高分子とポリエチレンイミン、DNAからなる複合体の電気泳動の結果を示す写真である。
【図2】実施例2における、マウス皮膚でのプラスミドDNAの発現を示す結果である。
【図3.1】実施例3における、何も塗布していないマウス皮膚切片をHE染色した位相差顕微鏡像である。
【図3.2】実施例3における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、何も塗布しない対照マウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図3.3】実施例3における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、ポリエチレンイミンとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図3.4】実施例3における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、ポリエチレンイミン/リン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図4.1】実施例5における、RAW細胞へのオリゴDNAの取り込みをしめす結果であり、オリゴDNAのみの蛍光顕微鏡写真である。
【図4.2】実施例5における、RAW細胞へのオリゴDNAの取り込みをしめす結果であり、リポフェクタミンとの複合体の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図4.3】実施例5における、RAW細胞へのオリゴDNAの取り込みをしめす結果であり、炭酸亜鉛−リン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図5.1】実施例6における、何も塗布していないマウス皮膚切片をHE染色した位相差顕微鏡像である。
【図5.2】実施例6における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、何も塗布しない対照マウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図5.3】実施例6における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、リポフェクタミンとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図5.4】実施例6における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、炭酸亜鉛と末端にリン酸基有するポリエチレングリコールとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を含有するナノ粒子に関し、さらに詳細には、核酸を含有するナノ粒子およびその製造法、当該ナノ粒子からなる皮膚および粘膜適用、ならびに注射用の非経口投与用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を生体内に投与することにより、いわゆる遺伝子治療が可能になると考えられている。外来遺伝子やRNAなどのオリゴ核酸分子を細胞内に取り込ませることにより、それらは可能になる。
【0003】
ところで、皮膚・粘膜の表皮細胞は、遺伝性皮膚疾患をはじめ免疫性疾患、癌、アトピー性皮膚炎などの全身性疾患に対する経皮投与部位として、また、免疫機能を司っていることなどから、核酸の有用な投与標的部位といえる。また、表皮は種々の成長因子やサイトカインを分泌し、局所や全身に影響を及ぼす臓器である。そこで、表皮細胞を経由して全身に標的タンパク質を供給することも可能であると考えられる。
【0004】
これまで数多くの核酸分子を投与するキャリアが設計開発されてきた。ウイルスをベースにしたキャリアも一つの有力な候補であるが、その安全性に関し、問題点が依然として残されている。また、エレクトロポレーションやジーンガンで導入する方法もあるが、特殊な機器を必要とし、汎用性に乏しい。非ウイルス系のキャリアとしては、リポソームやミセル、デンドリマー、ポリマー、微粒子などが開発されてきた。
【0005】
しかしながら、これらキャリアは、in vitroの系で良好なキャリアとして機能したとても、生体内で同様に機能するとは限らない。したがって、標的とする組織・細胞や投与経路を考慮して、それらに最適なキャリア設計を行なう必要がある。
【0006】
皮膚は角質層で覆われており、外来分子の透過性を制御している。皮膚へのDNAの透過性は低く、また透過してもそのままの形態では細胞内に取り込まれにくい。そこで、何らかのキャリアを利用し、表皮細胞に取り込ませることが求められる。しかし、in vitroにおいては、容易に細胞内に取り込まれるような複合体であっても、角質層を透過しない限りその機能を十分に発揮できない。
【0007】
これまで、リン酸カルシウム法やリポソームによる核酸分子の導入の試みがなされてきた(非特許文献1)が、その導入効率は十分ではなかった。その一つの原因は、DNAとキャリアとの複合体の物性にある。皮膚への透過性を向上させるためには、キャリアの粒径を小さくすることが好ましい。これまでの一部の研究より、その透過性向上に必要な粒径は100nm以下であるといわれている。しかしながら、核酸を含有したリン酸カルシウムの複合体あるいは核酸とカチオン性高分子やカチオン性脂質の複合体では、沈殿や数百nmの粒子が形成されてしまう。
【0008】
さらに、疎水性置換基を共有結合により導入したカチオン性ポリマー(特許文献1)や親水性非イオン性ポリマーを共有結合により導入した陽イオン性ブロックポリマー(特許文献2)、親水性イオン性ポリマーを共有結合により導入したグラフトポリマー(非特許文献2)により核酸との複合体を形成させ、細胞内に転移する技術が開発されてきた。これらの技術では、小さな粒径のDNA複合体を形成することは可能であったが、その表面を親水性鎖で覆うことで細胞への親和性を弱めてしまい、細胞への核酸分子の取り込みが抑制されてしまった(非特許文献3)。また、非イオン性の界面活性剤を分散してナノカプセルを製造する技術(特許文献3)や、多価の電荷を有するポリマーで核酸と陽イオン性ポリマーの複合体を形成させる報告もある(特許文献4、特許文献5)。
【0009】
本発明では、イオン性官能基を有する親水性高分子を用い、核酸と無機化合物の複合体あるいは核酸とカチオン性高分子の複合体をナノ粒子化し、核酸の皮膚・粘膜吸収性を高め、表皮細胞内で核酸の活性が機能できる非ウイルスキャリアを開発したものである。
【0010】
【特許文献1】特許公表2004−510829号公報
【特許文献2】特許公表2003−528613号公報
【特許文献3】特許公表2003−524654号公報
【特許文献4】特許公表2003−503362号公報
【特許文献5】特許公表2001−511171号公報
【非特許文献1】Human Genetics (4) p.2279-85 (1995)
【非特許文献2】S.T.P. Pharma. Sciences (11) p.97-102 (2001)
【非特許文献3】Gene Ther. (5) p.1425-33 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明では、皮膚や粘膜への透過性を向上させ、表皮細胞内へより効率よく核酸を運搬する技術を、ウイルスを用いずに提供することを課題とする。
かかる課題を解決するべく、本発明者らは新たな方法で小さな粒径のDNA複合体を開発し、そのナノ粒子が皮膚や粘膜に浸透し表皮細胞内に核酸を効率よく運搬できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、皮膚・粘膜投与により優れた核酸取り込みを可能にするナノ粒子を提供する。また、本発明は注射用剤としても利用できるナノ粒子を提供する。
【0013】
より具体的には、本発明は、
(1)核酸、1価ないし3価の塩基性塩、2価または3価の金属塩およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子、
(2)核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子、
(3)1価ないしは3価の塩基性塩が、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、シュウ酸塩、乳酸塩および尿酸塩から選択されるものである(1)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(4)2価または3価の金属塩が、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩である(1)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(5)カチオン性高分子が、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、カチオン性アミノ酸を含むポリペプチド、ポリエチレンイミン、キトサン、カチオン性デンドリマーおよびDNA結合性タンパク質から選択されるものである(2)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(6)イオン性官能基を有する親水性高分子が、ポリエチレングリコール、脂質−ポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、オリゴ糖および多糖から選択されるものである(1)または(2)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(7)イオン性官能基を有する親水性高分子のイオン性官能基が、リン酸基、硫酸基またはカルボキシル基である(6)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(8)粒子の直径が10〜500nmである(1)〜(7)のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子、
(9)核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、2価または3価の金属塩および1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法、
(10)核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法、
(11)核酸が、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、2’−OメチルRNA、ペプチド核酸およびそれらのキメラ体から選択されるものである(1)〜(10)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(12)核酸が、プラスミドDNAによる外来遺伝子の発現機能またはアンチジーン、アンチセンス、リボザイム、デコイあるいはRNA干渉などによる内因性遺伝子の発現抑制または増強の機能を有する(1)〜(11)に記載の核酸含有ナノ粒子、
(13)(1)〜(12)のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤、
(14)外用剤が軟膏剤、ゲル剤、舌下錠、口腔錠剤、液剤、口腔・下気道用噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤および貼付剤から選択される(13)に記載の外用剤、
(15)(1)〜(12)のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する注射用剤、
を提供するものである。
【0014】
本発明が提供する核酸ナノ粒子の態様のひとつは、イオン性官能基を有する親水性高分子の存在下、1価ないし3価の塩基性塩と2価または3価の金属塩を作用させることにより形成した、塩基性塩と金属塩との結合体に、核酸を取り込んだ複合体からなる。塩基性塩と金属塩との結合体としては炭酸亜鉛、リン酸カルシウムが好ましい。この場合、複合体の表面にイオン性官能基を有する親水性高分子鎖を配したナノ粒子が形成されることを見出した。
【0015】
本発明が提供する核酸ナノ粒子のもうひとつの態様は、カチオン性高分子と核酸との複合体からなり、その複合体の周囲を、イオン性官能基を有する親水性高分子で非共有結合により被覆したものである。この場合、カチオン性高分子と核酸を相互作用させると同時に、イオン性官能基を有する親水性高分子を混合しておくことで、複合体の凝集を抑制し、表面に親水性高分子鎖を配したナノ粒子が形成されることを見出した。
【0016】
さらに本発明は、上記の核酸ナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤および注射剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明が提供するナノ粒子においては、イオン性官能基を有する親水性高分子をその表面に配すことにより小さな粒径を有し、その小さな粒径により角質層を通過し易くした核酸含有ナノ粒子である。
さらに、本発明が提供するナノ粒子においては、核酸キャリア複合体とイオン性官能基を有する親水性高分子が非共有結合により相互作用しているので、角質層を通過後、容易にイオン性官能基を有する親水性高分子が複合体から遊離し、核酸が細胞に取り込まれ易くなる。また、遊離したイオン性官能基を有する親水性高分子は、表皮への透過性を高める効果があり、粒子の吸収促進剤として作用する。
したがって、本発明が提供するナノ粒子を用いることにより、核酸を皮膚・粘膜内の細胞内に容易に運搬させることが可能になり、遺伝子の発現による全身への特定タンパク質の供給や、免疫系の制御あるいは皮膚疾患の治療を可能とする外用剤、注射剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、上記するように核酸を含有するナノ粒子を、核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、2価または3価の金属塩、1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で作用させることからなる核酸含有ナノ粒子およびその製造方法、および、核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、カチオン性高分子を、水または緩衝液中で作用させることからなる核酸含有ナノ粒子およびその製造方法、さらにそれらのナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤および注射剤である。
【0019】
本発明のナノ粒子は、その直径が10〜500nmであり、好ましくは10〜200nm、さらに好ましくは10〜100nmである。かかる粒子径は、使用するイオン性官能基を有する親水性高分子と2価または3価の金属塩、1価ないし3価の塩基性塩の配合比率、あるいはその濃度などによって調整することができる。さらには、核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、カチオン性高分子の配合比率、あるいはその濃度などによって調整することができる。
【0020】
本発明が提供するナノ粒子に含有される核酸は、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、2’−OメチルRNA、ペプチド核酸およびそれらのキメラ体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明が提供するナノ粒子に含有される核酸は、プラスミドDNAによる外来遺伝子の発現機能またはアンチジーン、アンチセンス、リボザイム、デコイ、RNA干渉などによる内因性遺伝子の発現抑制または増強の機能を有する。
【0022】
本発明のナノ粒子の作製に必要な1価ないし3価の塩基性塩は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、シュウ酸塩、乳酸塩および尿酸塩から選択され、そのなかでも炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩もしくはリン酸水素塩が好ましい。
【0023】
本発明が提供するナノ粒子を形成するのに必要である2価または3価の金属塩は、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの亜鉛塩、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム塩、塩化鉄、硫化鉄などの鉄塩、塩化銅、硫酸銅などの銅塩などを挙げることができ、なかでも亜鉛塩もしくはカルシウム塩を好ましく使用することができる。
【0024】
本発明におけるイオン性官能基を有する親水性高分子としては、末端、分子内あるいは側鎖にイオン性官能基を化学的あるいは分子生物学的な手法により導入可能なポリエチレングリコール、脂質−ポリエチレングリコールなどの親水性合成高分子;デキストラン、プルラン、セルロース、イヌリン、マンナン、ヒアルロン酸などのイオン性官能基を有するあるいはイオン性官能基を化学的あるいは分子生物学的な手法により導入可能なホモあるいはヘテロ多糖;イオン性官能基を有するアミノ酸を含むポリペプチド、タンパク質などが挙げられる。イオン性官能基としてリン酸基、硫酸基、カルボキシル基などの酸性基であり、リン酸基を有する親水性高分子であることが好ましい。末端にリン酸基を有するポリエチレングリコールおよびリン酸エステルを有しているフォスフォリルエタノールアミン−ポリエチレングリコールが最も好ましい。さらに、疎水性部として種々の飽和あるいは不飽和のアルキル鎖、種々の飽和あるいは不飽和のアルキル鎖を有する脂質、ステロイド、疎水性のアミノ酸からなるポリペプチドなどが挙げられる。
【0025】
本発明が提供するカチオン性高分子と核酸からなる複合体のナノ粒子を形成するのに必要であるカチオン性高分子としては、リジン、アルギニンあるいはヒスチジンなどのカチオン性基を有するアミノ酸を含有するポリペプチドまたはタンパク質、ヒストンなどのDNA結合性タンパク質、キチンやキトサンなどの塩基性多糖、カチオン性基を有するデンドリマーおよびポリエチレンイミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくはポリエチレンイミンである。
【0026】
以下に、本発明が提供するナノ粒子の製造法について説明する。
DNAなどの核酸、末端リン酸基導入ポリエチレングリコールなどのイオン性官能基を有する親水性高分子、1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で混合し、2価あるいは3価の金属塩を添加し、1時間以上静置することで核酸含有複合体からなるナノ粒子が作製できる。
【0027】
もう一つの方法は、DNAなどの核酸およびフォスフォリルエタノールアミン−ポリエチレングリコールなどのイオン性官能基を有する親水性高分子を、水または緩衝液中で混合し、ポリエチレンイミンなどのカチオン性高分子を添加し、1時間以上静置することで核酸含有複合体からなるナノ粒子を作製する。緩衝液としてはリン酸緩衝液(PBS)が好ましく使用される。
【0028】
本発明は、また、そのような皮膚・粘膜適用型外用剤または注射用剤を提供するものである。そのような外用剤としては、全身および局所投与・治療を目的として局所へ塗布、貼付、滴下、噴霧などの形態で投与しうるものであり、具体的には、軟膏剤、ゲル剤、舌下錠、口腔錠剤、液剤、口腔・下気道用噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤、貼付剤等を挙げることができる。液剤としては点鼻剤、点眼剤として好ましい。また、皮膚または粘膜への塗布、下気道への噴霧などが有効な投与形態である。注射用剤としては、静脈注射、皮下注射、筋肉注射のいずれの投与形態も可能であり、それぞれの薬物の特性によって選択される。
【0029】
これらの外用剤、注射剤の調製に使用される基剤、その他の添加剤成分としては、製剤学的に外用剤、注射剤の調製に使用されている基剤、各種成分を挙げることができる。具体的には、ワセリン、プラスチベース、パラフィン、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、サラシミツロウ、シリコン油などの油脂性基剤;水、注射用水、エタノール、メチルエチルケトン、綿実油、オリーブ油、落花生油、ゴマ油などの溶剤;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどの非イオン性界面活性剤;ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、キサンタンガム、トラガントガム、アラビアガム、ゼラチン、アルブミンなどの増粘剤;ジブチルヒドロキシトルエンなどの安定化剤;グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、尿素、ショ糖、エリスリトール、ソルビトールなどの保湿剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル、デヒドロ酢酸ナトリウム、p−クレゾールなどの防腐剤であり、剤型に応じて適宜選択して使用することができる。また、点鼻剤の場合、ヒドロキシプロピルセルロースなどの経鼻吸収促進剤を配合すると好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により、何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1:DNA−カチオン性高分子のナノ粒子化
200ngのプラスミドDNA(β−gal−CMV)、260ngのポリエチレンイミン(PEI)、および種々のイオン性官能基を有する親水性高分子、またはイオン性官能基を有しない親水性高分子を2μg、20μgあるいは200μg用い、20μLのPBS中で混合し、1時間静置した。その後、8000rpmで5分間遠心し、1%アガロースゲル電気泳動により解析した。
【0032】
電気泳動による解析の結果、いずれの親水性高分子を使用した場合でもプラスミドはゲルトップの位置からゲル中に移動しなかったので、ポリエチレンイミン(PEI)と複合化していることが判明した。また複合体懸濁液中に過剰のポリグルタミン酸を添加することにより、すべての複合体からプラスミドが遊離された。その結果を図1に示した。
【0033】
図中の電気泳動図において、上段は懸濁液について、中段は懸濁液+ポリグルタミン酸について、下段は上清+ポリグルタミン酸についての結果を示したものである。
さらに、電気泳動図中において、1はDNAのみの結果を示し、2はポリエチレンイミン(PEI)の結果を示し、さらに親水性高分子として3はリン酸グルコン酸を、4はTween80を、5はオレイン酸+ポリエチレングリコール(PEG)を、6は末端リン酸化PGEを、7はジアシルグリセロール−PGEをDNAに対し1000倍量用いた場合の結果を示し、8はフォスフォリルエタノールアミン−PEGをDNAに対し10倍量用いた場合、9はフォスフォリルエタノールアミン−PEGをDNAに対し100倍量用いた場合、および10はフォスフォリルエタノールアミン−PEGをDNAに対し1000倍量用いた場合の結果を示した。
【0034】
図1に示した結果から判明するように、複合体懸濁液を8000rpmで遠心した後上清中のプラスミドを電気泳動により解析した結果、親水性高分子としてオレイン酸−ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート(Tween80)、分子内にリン酸エステルを含有していない中性の脂質であるジアシルグリセロール−ポリエチレングリコール、末端にリン酸基を導入したポリエチレングリコールあるいはリン酸グルクロン酸を用いた場合には、プラスミドのバンドが消失しており、遠心操作によりDNAが複合体とともに沈殿してしまった。
【0035】
一方、分子内にリン酸エステルを含有しているフォスフォリルエタノールアミン−ポリエチレングリコールでは、8000rpmで遠心後もプラスミドが上清中に残留していることが明らかになった。以上の結果から、脂質−ポリエチレングリコール(リン酸エステルを含有)を混合することにより、粒径の小さなポリエチレンイミン−プラスミド複合体が形成されることがわかった。さらに、光散乱によるその粒径測定の結果、約100nmのナノ粒子複合体が形成されていることが判明した。
【0036】
実施例2:マウス皮膚でのプラスミドDNAの発現
プラスミドDNA(β−gal−CMV)、ポリエチレンイミンおよびリン酸エステルを含有している脂質−ポリエチレングリコールをPBS中で混合し、1時間静置することによりプラスミドDNAのナノ粒子を得た。その後、得られたナノ粒子を、DNAとして10μg/平方cmの濃度で、3日間連続でマウス背部皮膚に塗布した。投与終了24時間後皮膚を切除し、細胞可溶化液にて細胞を可溶化し、その上清液中に含まれるβガラクトシダーゼ活性を測定した。その結果を図2に示す。
【0037】
図2に示したように、ポリエチレンイミンを用いDNAを投与した場合にはβガラクトシダーゼの発現は認められなかったが、リン酸エステルを含有している脂質−ポリエチレングリコールとポリエチレンイミンを用いて調製したナノ粒子では、強い発現が認められた。よって、DNAが、このナノ粒子により皮膚細胞内に移行したことが証明された。
【0038】
実施例3:オリゴDNAのマウス皮膚への吸収
HEX末端ラベルオリゴDNA(14mer)、ポリエチレンイミンおよびリン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールを混合し、1時間静置してオリゴDNAの複合体粒子を得た。その後、当該粒子をDNAとして100μg/平方cmの濃度でマウス背部皮膚に塗布した。2時間後、皮膚を切除し切片を作製し蛍光顕微鏡により観察した。その結果を図3.1から図3.4に示す。
【0039】
図3.1は何も塗布していないマウス皮膚をHE染色した位相差顕微鏡像を示し、図3.2は非塗布群マウスの結果を、図3.3はポリエチレンイミンとの複合体の結果を、図3.4は、ポリエチレンイミン/リン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールとの複合体の結果を示した蛍光顕微鏡写真であり、図中、矢印は表皮部分を示す。その結果、ポリエチレンイミンおよびリン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールに混合したDNAでは、皮膚への取り込みが高められていることが分かった。
【0040】
実施例4:オリゴDNA含有の炭酸亜鉛またはリン酸カルシウムナノ粒子の調製
オリゴDNA、炭酸水素ナトリウムおよび末端リン酸化ポリエチレングリコールを混合し、塩化亜鉛を添加後、2時間静置することで、DNA含有ナノ粒子を得た。このナノ粒子を光散乱により測定したところ、その粒径は30〜300nmであった。
また、同様に、オリゴDNA、リン酸二水素ナトリウムおよび末端リン酸化ポリエチレングリコールを混合し、塩化カルシウムを添加後、2時間静置することで、DNA含有ナノ粒子を得た。この粒子の粒径は200〜500nmであった。
電気泳動による解析の結果からは、いずれの粒子でもDNAがナノ粒子と複合化されていた。
【0041】
末端リン酸化ポリエチレングリコール非存在下で同様の操作を行ったところ、大きな凝集塊が形成されてしまったが、末端リン酸化ポリエチレングリコールを混合しておくことにより小さなナノ粒子が形成されることが判った。したがって、炭酸亜鉛またはリン酸カルシウムと核酸の系においては、末端リン酸化ポリエチレングリコールがナノ粒子作製に有効であることが判明した。
【0042】
実施例5:オリゴDNAの細胞への取り込み
FITCラベルオリゴDNA、炭酸水素ナトリウム、塩化亜鉛および末端にリン酸基を有するポリエチレングリコールをPBS中で混合することでナノ粒子を得た。このナノ粒子をRAW、3T3L1あるいはFRSK(ケラチノサイト)細胞に添加し、DNAの取り込みを蛍光顕微鏡により観察した。なお、対照としてオリゴDNAのみの場合、およびリポフェクタミンとの複合体の場合をおいた。結果を図4.1から図4.3に示した。
【0043】
図4.1はオリゴDNAのみの結果を、図4.2はリポフェクタミンとの複合体の結果を、図4.3は炭酸亜鉛とリン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子の結果を示す蛍光顕微鏡である。
図4に示した結果から判るように、炭酸亜鉛とリン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子で、RAW細胞へのDNAの顕著な取り込みが確認された。また、3T3L1あるいはFRSK細胞においても、同様に細胞へのDNAの取り込みが認められた。
【0044】
実施例6:オリゴDNAのマウス皮膚への吸収
HEX末端ラベルオリゴDNA(14mer)、炭酸水素ナトリウム、塩化亜鉛および末端にリン酸基を有するポリエチレングリコールを、PBS中で混合することによりナノ粒子を得た。その後、DNAとして100μg/平方cmの濃度でマウス背部皮膚に塗布した。2時間後、皮膚を切除し、切片を作製し顕微鏡により観察した。結果を図5.1から図5.4に示した。
【0045】
図5.1は何も塗布していないマウス皮膚をHE染色した位相差顕微鏡像を示し、図5.2は非塗布群マウスの結果を、図5.3は市販されているトランスフェクション試薬であるリポフェクタミンとの複合体の結果を、図5.4は、炭酸亜鉛/末端にリン酸基を含有しているポリエチレングリコールとの複合体の結果を示した蛍光顕微鏡写真であり、図中、矢印は表皮部分を示す。
その結果、リポフェクタミンでは、オリゴDNAが角質に局在しているのに対し、炭酸亜鉛とリン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子では、皮膚内部へオリゴDNAがとりこまれていることがわかった。
【0046】
実施例7:軟膏剤/ハイドロゲル剤の製造
実施例4で得られたナノ粒子(炭酸水素ナトリウムと塩化亜鉛を使用して得られたオリゴDNAのナノ粒子)、白色ワセリン、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびパラオキシ安息香酸メチルの適量をとり、全量が均質になるまで混和し、軟膏剤およびハイドロゲル剤とした。
【0047】
実施例8:外用貼付剤(水性パップ剤)
処方:
実施例4で得られたナノ粒子 0.1重量部
(リン酸ニ水素ナトリウムと塩化カルシウム
を使用して得られたオリゴDNAのナノ粒子)
ポリアクリル酸 2.0重量部
ポリアクリル酸ナトリウム 5.0重量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.0重量部
ゼラチン 2.0重量部
ポリビニルアルコール 0.5重量部
グリセリン 25.0重量部
カオリン 1.0重量部
水酸化アルミニウム 0.6重量部
酒石酸 0.4重量部
EDTA−2−ナトリウム 0.1重量部
精製水 残部
上記配合成分をベースとし、常法により外用剤(水性パップ剤)を得た。
【0048】
実施例9:注射剤
実施例2で得られたプラスミドDNAのナノ粒子を注射用蒸留水に溶解し、等張化剤を含有させ、さらにpHを6.9に調整した後、バイアル充填し、高温高圧滅菌を行い、注射剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明は、イオン性官能基を有する親水性高分子をその表面に配すことにより小さな粒径を有し、その小さな粒径により角質層を通過し易くした核酸含有ナノ粒子であり、表皮への透過性を高める効果があり、粒子の吸収促進剤として作用する。したがって、核酸を皮膚・粘膜内の細胞内に容易に運搬可能になり、遺伝子の発現による全身への特定タンパク質の供給や免疫系の制御あるいは皮膚疾患の治療を可能とする外用剤、注射剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1における、種々の親水性高分子とポリエチレンイミン、DNAからなる複合体の電気泳動の結果を示す写真である。
【図2】実施例2における、マウス皮膚でのプラスミドDNAの発現を示す結果である。
【図3.1】実施例3における、何も塗布していないマウス皮膚切片をHE染色した位相差顕微鏡像である。
【図3.2】実施例3における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、何も塗布しない対照マウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図3.3】実施例3における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、ポリエチレンイミンとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図3.4】実施例3における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、ポリエチレンイミン/リン酸基を含有している脂質−ポリエチレングリコールとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図4.1】実施例5における、RAW細胞へのオリゴDNAの取り込みをしめす結果であり、オリゴDNAのみの蛍光顕微鏡写真である。
【図4.2】実施例5における、RAW細胞へのオリゴDNAの取り込みをしめす結果であり、リポフェクタミンとの複合体の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図4.3】実施例5における、RAW細胞へのオリゴDNAの取り込みをしめす結果であり、炭酸亜鉛−リン酸基を有するポリエチレングリコールを用いて調製したナノ粒子の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図5.1】実施例6における、何も塗布していないマウス皮膚切片をHE染色した位相差顕微鏡像である。
【図5.2】実施例6における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、何も塗布しない対照マウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図5.3】実施例6における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、リポフェクタミンとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【図5.4】実施例6における、マウス皮膚への蛍光ラベルオリゴDNAの移行の結果を示し、炭酸亜鉛と末端にリン酸基有するポリエチレングリコールとの複合体粒子を塗布したマウスの皮膚切片蛍光顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸、1価ないし3価の塩基性塩、2価または3価の金属塩およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子。
【請求項2】
核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子。
【請求項3】
1価ないしは3価の塩基性塩が、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、シュウ酸塩、乳酸塩および尿酸塩から選択されるものである請求項1に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項4】
2価または3価の金属塩が、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩である請求項1に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項5】
カチオン性高分子が、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、カチオン性アミノ酸を含むポリペプチド、ポリエチレンイミン、キトサン、カチオン性デンドリマーおよびDNA結合性タンパク質から選択されるものである請求項2に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項6】
イオン性官能基を有する親水性高分子が、ポリエチレングリコール、脂質−ポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、オリゴ糖および多糖から選択されるものである請求項1または2に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項7】
イオン性官能基を有する親水性高分子のイオン性官能基が、リン酸基、硫酸基またはカルボキシル基である請求項6に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項8】
粒子の直径が10〜500nmである請求項1〜7のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項9】
核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、2価または3価の金属塩および1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
核酸が、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、2’−0メチルRNA、ペプチド核酸およびそれらのキメラ体から選択されるものである請求項1〜10に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項12】
核酸が、プラスミドDNAによる外来遺伝子の発現機能またはアンチジーン、アンチセンス、リボザイム、デコイあるいはRNA干渉などによる内因性遺伝子の発現抑制または増強の機能を有する請求項1〜11に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤。
【請求項14】
外用剤が軟膏剤、ゲル剤、舌下錠、口腔錠剤、液剤、口腔・下気道用噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤および貼付剤から選択される請求項13に記載の外用剤。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する注射用剤。
【請求項1】
核酸、1価ないし3価の塩基性塩、2価または3価の金属塩およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子。
【請求項2】
核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子とを作用させることからなる核酸含有ナノ粒子。
【請求項3】
1価ないしは3価の塩基性塩が、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、シュウ酸塩、乳酸塩および尿酸塩から選択されるものである請求項1に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項4】
2価または3価の金属塩が、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩である請求項1に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項5】
カチオン性高分子が、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、カチオン性アミノ酸を含むポリペプチド、ポリエチレンイミン、キトサン、カチオン性デンドリマーおよびDNA結合性タンパク質から選択されるものである請求項2に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項6】
イオン性官能基を有する親水性高分子が、ポリエチレングリコール、脂質−ポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、オリゴ糖および多糖から選択されるものである請求項1または2に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項7】
イオン性官能基を有する親水性高分子のイオン性官能基が、リン酸基、硫酸基またはカルボキシル基である請求項6に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項8】
粒子の直径が10〜500nmである請求項1〜7のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項9】
核酸、イオン性官能基を有する親水性高分子、2価または3価の金属塩および1価ないし3価の塩基性塩を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
核酸、カチオン性高分子およびイオン性官能基を有する親水性高分子を、水または緩衝液中で作用させることを特徴とする核酸含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
核酸が、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、2’−0メチルRNA、ペプチド核酸およびそれらのキメラ体から選択されるものである請求項1〜10に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項12】
核酸が、プラスミドDNAによる外来遺伝子の発現機能またはアンチジーン、アンチセンス、リボザイム、デコイあるいはRNA干渉などによる内因性遺伝子の発現抑制または増強の機能を有する請求項1〜11に記載の核酸含有ナノ粒子。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤。
【請求項14】
外用剤が軟膏剤、ゲル剤、舌下錠、口腔錠剤、液剤、口腔・下気道用噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤および貼付剤から選択される請求項13に記載の外用剤。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の核酸含有ナノ粒子を含有する注射用剤。
【図1】
【図2】
【図3.1】
【図3.2】
【図3.3】
【図3.4】
【図4.1】
【図4.2】
【図4.3】
【図5.1】
【図5.2】
【図5.3】
【図5.4】
【図2】
【図3.1】
【図3.2】
【図3.3】
【図3.4】
【図4.1】
【図4.2】
【図4.3】
【図5.1】
【図5.2】
【図5.3】
【図5.4】
【公開番号】特開2006−28041(P2006−28041A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205842(P2004−205842)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【Fターム(参考)】
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