説明

植物育成用容器、植物育成方法及び植物育成用培地

【課題】従来の培養法の利点を生かしつつ、欠点である育成容器内の二酸化炭素不足を簡易な手法で解決する植物育成用容器、それを用いた植物育成方法及び植物育成用培地を提供する。
【解決手段】植物育成用容器において、内部に光触媒を坦持させ、この光触媒を有機化合物と接触させながら光を照射することにより、植物の生長に必要な二酸化炭素を発生させることができる。これにより、従来の栽培、育苗、培養方法をほとんど変更することなく、容器中の植物体あるいは植物組織を二酸化炭素不足に遭遇させることなく培養・栽培を行うことができる。また、優良な形質を持った植物を低コスト・高品質で量産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織培養、植物工場、施設栽培等に用いる植物育成用容器、それを用いた植物育成方法及び植物育成用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、組織培養、植物工場、施設栽培等、人工的に環境を制御し、植物の生育を制御しようとする技術が急速に拡大、普及している。例えば、組織培養技術による植物の繁殖法は、遺伝的に均一なクローンを季節や環境条件に関係なく、短期間に大量繁殖させることが出来る点で従来の繁殖法より優れているため、多くの栽培植物において種子繁殖と栄養繁殖に代わって行われるようになった。組織培養は無菌培養であるため、培養に供する植物苗は細菌や糸状菌に感染しておらず、茎頂分裂組織を含む茎頂部分を切除して培養するとウイルスフリーあるいはウイルスの密度が著しく低い種苗を生産することができ、収量や品質が高まるという効果がある。
【0003】
しかし、従来の組織培養技術は、密閉容器に寒天等のゲル化剤を加えた培地上に組織を培養するため、容器内の二酸化炭素が著しく不足することが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。これは、炭素源として糖を添加している場合においても植物組織が二酸化炭素を吸収していることを示している。
【0004】
このような問題を解決するためにいくつかのアプローチがなされている。例えば、培養室を高濃度の二酸化炭素濃度で維持し、培養器に通気性のフィルタを貼り付けて、もしくは通気性フィルムで構成された培養器を用いて、容器内部と外部との換気率を上げ、培養器内部に二酸化炭素を供給しようとするもの(例えば、特許文献1、非特許文献1および2を参照)、あるいは、培養器そのものに配管を施し、フィルタを介して培養器内部に直接二酸化炭素ガスを送り込もうとするもの(例えば、非特許文献1を参照)等が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−275995号公報
【非特許文献1】古在豊樹著、「自然と科学技術シリーズ 植物組織培養の新段階」、農文協、1998年
【非特許文献2】田中道男ら、「フィルム培養システムを用いたファレノプシスのクローン苗生産におけるCO2施用効果」、園学雑、68別1、1999年、p.291
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの培養方法には次に掲げるような問題点があった。まず、通気フィルタは、換気と同時に水分の蒸発を招き、培地にゲル化剤を使用した場合には乾燥の害が植物に生じ、液体支持材培養の場合は培地が減少するため、定期的に水分を補わなければならない。通気性フィルムはそのようなことはないが、高価であり、培地の分注を無菌条件下で行わなければならない等煩雑な作業を必要とする。また、配管を施して二酸化炭素を供給する場合は、配管の組み立ての煩雑さ、流量調節の困難さ、消耗品としてのフィルタのコスト高等、数多くの問題が存在する。したがって、培養器中の二酸化炭素欠乏という問題は認識されているものの、上記した手法は採用されず、旧態然とした培養法を用いて培養苗生産が行われているのが現状である。
【0007】
本発明は、従来の培養法の利点を生かしつつ、欠点である育成容器内の二酸化炭素不足を簡易な手法で解決する植物育成用容器、それを用いた植物育成方法及び植物育成用培地である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、植物の育成に用いられる植物育成用容器であって、光触媒による有機化合物の分解により、植物に二酸化炭素を供給する機能を有する。
【0009】
また、前記植物育成用容器において、前記光触媒を容器内壁面に塗布し、前記光触媒に有機化合物を接触せしめ、光触媒反応により二酸化炭素を発生させることが好ましい。
【0010】
また、前記植物育成用容器において、前記光触媒が可視光応答型光触媒であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、植物を育成するための植物育成方法であって、光触媒を容器内壁面に塗布し、前記光触媒に有機化合物を接触せしめ、光源からの光照射により、前記光触媒において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物に供給する。
【0012】
また、本発明は、植物を育成するための植物育成方法であって、光触媒及び光触媒を坦持させた素材のうち少なくとも1つを実質的に透明な培地に混合し、前記培地中の有機化合物と接触せしめ、光源からの光照射により、前記光触媒において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物に供給する。
【0013】
また、前記植物育成方法において、前記光触媒が可視光応答型光触媒を含み、かつ前記植物を育成させるための光が可視光線を含むことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、植物の育成に用いられる植物育成用培地であって、光触媒及び光触媒を坦持させた素材のうち少なくとも1つを含み、実質的に透明であり、前記光触媒による前記有機化合物の分解により、植物に二酸化炭素を供給する機能を有する。
【0015】
また、前記植物育成用培地において、前記光触媒が可視光応答型光触媒であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、植物育成用容器において、内部に光触媒を坦持させ、この光触媒を有機化合物と接触させながら光を照射することにより、植物の生長に必要な二酸化炭素を発生させることができる。
【0017】
また本発明では、植物育成用容器内に入れる実質的に透明な培地に光触媒を混入せしめ、この光触媒を培地中に含まれる有機化合物と接触させながら光を照射することにより、植物の生長に必要な二酸化炭素を発生させることができる。
【0018】
本発明の植物育成用容器、植物育成方法及び植物育成用培地により、従来の栽培、育苗、培養方法をほとんど変更することなく、容器中の植物体あるいは植物組織を二酸化炭素不足に遭遇させることなく培養・栽培を行うことができる。そのため、優良な形質を持った植物を低コスト・高品質で量産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態について以下説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係る植物育成用容器において、内部に光触媒を坦持させ、この光触媒を有機化合物と接触させた上で光を照射することにより、植物の生長に必要な二酸化炭素を発生させる。以下にこの内容について詳説する。
【0021】
<植物育成用容器>
本実施形態に係る植物育成用容器の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。植物育成用容器1は、本体10と、ふた12と、光触媒層14とを備える。光触媒層14は、例えば図1及び本体10の断面図を示す図2のように、本体10の内壁面及び内底面に形成されている。
【0022】
(容器)
植物育成用容器1の本体10の材質としては特に制限はないが、外部から植物に光を照射するために、ガラス、プラスチック類等、光を透過する実質的に透明な材質であることが好ましい。これまでに通常の組織培養、育苗、栽培に使用されていた容器、フィルム等をそのまま使用することができる。好ましくは、ガラス、TPX(ポリメチルペンテン)等、光触媒を活性化しやすい紫外光あるいは可視光を透過しやすい素材がより適当である。また、植物に照射する光の中に多少の紫外光が含まれる方が植物の形態形成が正常に行われる場合もあることからも本体10の材質は、紫外光の遮蔽率が高いポリカーボネートやポリプロピレン等よりも、紫外光を透過しやすいガラス、TPX(ポリメチルペンテン)等であることが好ましい。
【0023】
また、ふた12は必ずしも必要ないが、発生させた二酸化炭素を効率的に利用するためには、植物育成用容器1はふた等の密閉手段により密閉された密閉容器であることが好ましい。また、無菌培養のためにも植物育成用容器1は密閉容器であることが好ましい。ふた12の材質も本体10の材質と同様のものを使用することができる。また、本体10を非透明の材質として、ふた12を実質的に透明な材質としてもよい。さらに、本体10及びふた12共に非透明の材質として、光源を植物育成用容器1内部に設けてもよい。
【0024】
他に、本体10あるいはふた12として鏡のような屈折・反射素材を使用して散乱光や反射光を利用することや、内部をすりガラス状のような凹凸の多い構造を導入し、光触媒を塗布する表面積を増やすことも可能である。
【0025】
植物育成用容器1の本体10の形状は特に制限はないが、例えば、円筒状、四角筒状等の多角筒状、楕円筒状、円錐形状等のものを使用することができる。
【0026】
(光触媒)
植物育成用容器1の内部に坦持させる光触媒としては、光触媒特性を発現する物質であればよく特に制限はないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。光触媒特性を発現させる光の種類により、紫外領域の光の含有量が多い太陽光等を利用する場合には、紫外線型光触媒である酸化チタン等を例示でき、室内で蛍光灯等の紫外領域の光の含有量が少ない人工光を利用する場合は可視光応答型光触媒である窒素ドープ酸化チタン等がさらに有効である。
【0027】
(光触媒の担持)
光触媒を植物育成用容器1の内部に坦持させる方法としては、特に制限はないが、容器10の内壁面に光触媒を塗布して、図1,2のように光触媒層14を形成する方法が手軽である。
【0028】
植物育成用容器1の内部に光触媒を塗布する方法としては、特に制限はないが、光触媒コーティング液を使用してスプレー法、または、浸漬法等の方法により塗布することが有効である。形成した光触媒層14の膜厚や均一性においては、実質的に植物の光合成を阻害させないレベルでコーティングすればよく、特に制限はないが、例えば、膜厚は50nm〜2000nmの範囲であり、100nm〜300nmの範囲であることが好ましい。
【0029】
また、二酸化炭素の発生効率を向上させるためには、光触媒を本体10の内面における塗布面積をできるだけ大きくして、光触媒と有機化合物との接触面積を大きくすることが好ましい。このため、光触媒を本体10の内面全体に塗布することが好ましい。また、ふた12の内壁面に光触媒を担持させてもよい。さらに、上記したような、すりガラス状のような凹凸の多い構造を本体内面に採用することも有効である。
【0030】
(光触媒コーティング液)
光触媒コーティング液は、光触媒粉末を水、アルコール等の溶媒に分散させ、さらにバインダを混合したものである。光触媒粉末は植物育成用容器1の内部に担持されるため、透明性が必要な場合には光触媒粉末の粒子径を光の波長より小さくすることが好ましく、例えばコーティング液中の平均粒子径にして300nm以下、好ましくは200nm以下であることが好ましい。またここで、バインダとは、光触媒コーティング液の塗布及び乾燥後、光触媒粉末を基材に接着させる働きを有しており、成分としては、水ガラス、シリカゾル等の無機系バインダ、および/または、シリコン樹脂、シリコンオリゴマ等の有機無機複合系バインダが好ましい。さらに、容器等を使い捨てとする場合には、アクリルバインダ等の有機系バインダを炭素源としても使用することができる。
【0031】
光触媒コーティング液中の光触媒粉末とバインダとの比率は、8:2〜4:6が好ましく、さらには、7:3〜5:5が好ましい。光触媒粉末とバインダを合わせた固形分としては、用途に応じて調整すればよく特に制限はないが、光触媒コーティング液全体の重量に対して0.1〜20重量%の範囲が好ましく、さらには1〜15重量%の範囲が好ましい。
【0032】
<植物育成方法>
このようにして製造された植物育成用容器1の内部の光触媒層14に有機化合物を接触させた後、図3に示すように植物育成用培地(以降、単に「培地」と呼ぶこともある)16を設け、培地16上に育成対象となる植物18を置床する。あるいは、光触媒層14に有機化合物を混合した培地16を設け、培地16上に育成対象となる植物18を置床する。その後、光源20から光22を照射することにより、光触媒層14において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物18に供給する。
【0033】
(光触媒と有機化合物の接触)
光触媒と有機化合物とを接触させる方法については、特に制限はないが、光触媒あるいは光触媒を坦持させた素材を有機化合物中に浸漬させる方法、光触媒あるいは光触媒を坦持させた素材に有機化合物を塗布する方法、光触媒あるいは光触媒を坦持させた素材に有機化合物を噴霧する方法等を例示することができる。また、有機化合物を含有させた培地を上記の方法により光触媒に接触させてもよい。さらに、有機化合物を含有させた培地に光触媒を混入せしめる場合には、容易に直接的に光触媒が有機化合物に接触するため、有効である。
【0034】
光触媒と接触させるために用いられる有機化合物としては、炭素源となるものであればよく特に制限はないが、植物の生育に害のないものが好ましいことから、天然由来のデンプンやセルロース、ペクチン等の多糖類やショ糖、ブドウ糖、マニトール等の糖類等の炭水化物、半合成のカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマ、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリマ類等を例示することができる。また、有機化合物は、不飽和系に比べて飽和系の方が光触媒により分解されやすい傾向にあるため、飽和系の方が好ましい。
【0035】
(植物育成用培地)
植物育成用培地16としては、具体的には、従来から知られている植物の組織培養に用いられている培地、例えば、ムラシゲ・スクーグ(1962)[Murashige & Skoog]の培地、ヴァシン・ウェント(1949)[Vacin & Went]の培地、ホワイト(1963)[White]の培地、ガンボルグ[Gamborg]のB−5培地、ニッチ・ニッチの培地[Nitch & Nitch]等に、必要に応じて糖類等の炭素源、植物ホルモン、ビタミン類、アミノ酸類等を添加して調整された培地を例示でき(例えば、新見芳二編、「図解花のバイオ技術」、誠文堂新光社、1992、p.172-173 を参照)、あるいは水耕栽培に用いる園試処方等の水耕液を例示できる(例えば、板木利隆著、「施設園芸 装置と栽培技術」、誠文堂新光社、1988、p.408 を参照)が特に限定はされない。本実施形態において使用することができる前記植物育成用培地としては、液体培地、あるいは例えばガラス、鉱物、プラスチック、ポリマ、セルロース等から構成される支持材と液体培地とを組み合わせた液体支持材培地、例えば培地全体の重量に対して寒天やゲルライト等のゲル化剤を通常0.1〜2重量%含有させた固形培地等の実質的に透明な培地が挙げられる。また、培地のpHを維持するために、培地中に炭酸塩等のバッファを混合してもよい。
【0036】
培地16は、例えば、植物育成用容器1の本体10の内底面に設けられる。培地16中に有機化合物を含有させた場合には、光触媒と有機化合物との接触面積を増やして植物の育成効率を向上させるために、本体の内底面だけではなく内壁面にも培地16を接触させることが好ましい。このため、本体10に培地16を注入した後、本体10の内面全体に培地16を付着させた後、ゲル化させるとよい。また、植物育成用容器1内部の殺菌のため、本体10に培地を注入した後、培地16をゲル化させる前にオートクレーブ等を使用して、例えば115℃〜125℃で15分〜40分間、高圧蒸気滅菌することが好ましい。植物育成用容器1内部を殺菌した後にふた12等により密閉すれば無菌培養が可能となり、ウイルスフリーあるいはウイルスの密度が著しく低い種苗を生産することができ、植物の収量や品質を高めることができる。
【0037】
(光源)
光源20としては、ハウス栽培等では太陽光等の、組織培養、植物工場、施設栽培等の人工栽培では蛍光灯、LED、冷陰極蛍光ランプ、高圧ナトリウムランプ等の通常使用されている光源を、そのまま光触媒の光源として使用することができる。特に、可視光応答型光触媒を使用する場合には、紫外光を含まないLED等でも有効に機能する。
【0038】
なお、植物の育成を目的とする場合、紫外線ランプ等が出す310nm以下の強い光は植物に害作用を与えることが知られており(例えば、矢吹萬壽他著、「農業環境調節工学」、朝倉書店、1985、p.12-13を参照)、紫外光光源を光源として使用しないことが好ましい。これは植物の生命維持に重要な関係を持つ核蛋白質や核酸(DNA)等の物質が、285nm以下の光エネルギをよく吸収し、破壊されるためである。一方、可視光領域の光は植物の育成にとって最も重要な影響を与え、光合成、形態形成(日長反応)、屈光等、全て可視光領域の光により行われる。したがって、本実施形態においては光源として可視領域の光が主成分である蛍光灯、LED、冷陰極蛍光ランプ等の人工光源を用いることが好ましく、光触媒としては、一般的な紫外線応答型光触媒ではなく、窒素ドープ酸化チタン等の可視光応答型光触媒の使用が好ましい。
【0039】
また、植物に照射する光の中に多少の紫外光が含まれる方が植物の形態形成が正常に行われる場合もあることから、本実施形態においては光源として可視領域の光が主成分であり、かつ紫外領域の光を若干含有する蛍光灯等の光源を用いることが好ましく、光触媒としては、一般的な紫外線応答型光触媒ではなく、窒素ドープ酸化チタン等の可視光応答型光触媒の使用が好ましい。
【0040】
(植物の育成)
前記植物育成用容器で育成する植物としては、二酸化炭素を吸収して光合成を行う植物全てが対象となり、特に制限はない。具体的には、コンブ、ワカメ、コケ等の藻類、スギナ、ゼンマイ等のシダ植物、ソテツ、イチョウ、マツ等の裸子植物、サクラ、エンドウ、イネ、ユリ等の被子植物等を例示することができる。育成形態は特に限定されないが、例えば、水草を育成する水槽、培養器中で行われる組織培養、苗の増殖に使われる密閉挿し、ハウス栽培等を例示することができる。
【0041】
育成は、本実施形態に係る植物育成用容器1内に培地及び植物を設置し、ふたで密閉した後、例えば、図4に示すように植物育成用容器1を多段型の棚24等に設置して、各棚24の上方に設けた光源20から光22を照射することにより行うことができる。
【0042】
(付加価値)
このようにして使用される植物育成用容器は、有機化合物を分解する機能を保持しているため、例えば、組織培養においてはバクテリアやカビの殺菌による雑菌汚染の防止、植物ホルモンの一種であるエチレンの分解等の付加価値も有している。
【0043】
上記のように、本実施形態に係る植物育成用容器は、内部に光触媒を担持させた容器に、有機化合物を接触させ、光を照射するだけで、二酸化炭素を供給する機能を有し、手軽にかつ低コストで植物の生育促進を図ることができる。
【0044】
なお、本実施形態に係る植物育成用容器は、上記の手順に加えて、従来からの生育促進方法を併用することも可能である。例えば、前記特許文献1に記載しているように、室内の二酸化炭素濃度を1000〜2000μmol/mol、光合成有効光量子束密度を150〜300μmol/m/secの条件下で、通気性フィルタを備えた培養器と無糖培地とを用いて光独立栄養培養を行っても良い。
【0045】
(光触媒を混合した培地)
また、光触媒を実質的に透明な培地に混合し、培地中の有機化合物と接触せしめ、光源からの光照射により、該光触媒において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物に供給してもよい。この場合は、光触媒と培地とを混合するだけでよく、安価に植物の育成促進を図ることができる。
【0046】
さらには、光触媒を実質的透明な、発泡ガラス、セラミック多孔体等の多孔質材料等に担持させた素材を培地に混合し、培地中の有機化合物と接触せしめ、光源からの光照射により、光触媒において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物に供給してもよい。また、図5に示すように、培地16及び植物18を設置した、少なくとも1つの空気孔が設けられた中間底28の下に、光触媒を担持させた、例えば四角柱状の多孔質体26を配置し、培地16中の有機化合物と接触せしめ、光源からの光照射により、光触媒において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物に供給してもよい。このように、多孔質材料に光触媒を担持することによって、有機化合物との接触面積を増加させ、二酸化炭素の発生をさらに促進することができる。
【0047】
図5の例の場合、例えば、あらかじめ内壁面に触媒層14が塗布された植物育成用容器1の底に多孔質体26を設置した後、光触媒のアルコール等の分散液を多孔質体26に注入し、少なくとも1つの空気孔が設けられた中間底28を設置した上にシャーレ等に入れた培地16及び植物18を配置すればよい。中間底28としては、容器の本体と同様の材質のものを使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
直径63mm、高さ110mm(容積200mL)の小型ガラス瓶(以下、マヨネーズ瓶)の内壁全体に窒素ドープ酸化チタン可視光応答型光触媒を300nmの厚さに、浸漬法によってコーティングし、150℃で10分間乾燥を行った。この際、コーティング液として、コーティング液中における平均粒径が200〜300nmの窒素ドープ酸化チタン粉末、バインダとして有機シリコンを用い、重量比で5:5の比率でこれらを混合、分散させ、溶媒にはIPA(イソプロピルアルコール)を使用し、固形分濃度を10重量%としたものを用いた。なお、光触媒層の膜厚は、表面形状測定装置(ULVAC製DEKTAK3型)を用いて測定した。
【0050】
この光触媒をコーティングしたマヨネーズ瓶に、培地の炭素源及び二酸化炭素発生用有機化合物としてショ糖20g/L、ゲル化剤として寒天7g/Lを添加した1/4濃度のMS培地を30mL分注した。MS培地を分注したマヨネーズ瓶をオートクレーブで120℃、15分間滅菌した後、容器を十分に撹拌し、マヨネーズ瓶の内壁全体に培地を接触させてから、室温で培地をゲル化させた。この培地で、無菌的に維持しているロベリアの培養苗を一芽ごと(生重約80mg)に分割し、各2芽ずつ培地上に置床した。マヨネーズ瓶のふたとしてTPX製のものを用い、容器を密閉した。培養は23℃、光源はW型蛍光灯を用い、その照度は2000Lux、16時間日長で行い、4週間後に再び苗を切り分け、その生重と芽数を計測した。その結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)
培養器として紫外線型光触媒(酸化チタン、コーティング液中における平均粒径が200〜300nm)をコーティングしたマヨネーズ瓶を用い、その他の条件は、全て実施例1と同様に試験を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
培養器に光触媒をコーティングしていないマヨネーズ瓶を用いた以外は全て実施例1と同様に試験を行った。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
この表1からも明らかであるが、実施例1及び2のように培養器の内壁に光触媒をコーティングし、培地を接触させて通常の培養を行うことによって、光触媒をコーティングしていない培養器を用いた比較例1に比べて優れた生育促進効果が得られた。さらに、蛍光灯の可視光成分によって、実施例1の可視光応答型光触媒を担持した育成用容器の方が、実施例2の紫外線型光触媒を担持した育成用容器に比べて、さらに生育促進効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る植物育成用容器の一例の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る植物育成用容器の本体の一例の断面を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る植物育成方法の一例の概略を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る植物育成方法の一例の概略を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る植物育成方法の他の例の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 植物育成用容器、10 本体、12 ふた、14 光触媒層、16 植物育成用培地(培地)、18 植物、20 光源、22 光、24 棚、26 多孔質体、28 中間底。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の育成に用いられる植物育成用容器であって、
光触媒による有機化合物の分解により、植物に二酸化炭素を供給する機能を有することを特徴とする植物育成用容器。
【請求項2】
請求項1に記載の植物育成用容器であって、
前記光触媒を容器内壁面に塗布し、前記光触媒に有機化合物を接触せしめ、光触媒反応により二酸化炭素を発生させることを特徴とする植物育成用容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の植物育成用容器であって、
前記光触媒が可視光応答型光触媒であることを特徴とする植物育成用容器。
【請求項4】
植物を育成するための植物育成方法であって、
光触媒を容器内壁面に塗布し、前記光触媒に有機化合物を接触せしめ、光源からの光照射により、前記光触媒において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物に供給することを特徴とする植物育成方法。
【請求項5】
植物を育成するための植物育成方法であって、
光触媒及び光触媒を坦持させた素材のうち少なくとも1つを実質的に透明な培地に混合し、前記培地中の有機化合物と接触せしめ、光源からの光照射により、前記光触媒において光触媒反応を生じせしめ、二酸化炭素を発生させて植物に供給することを特徴とする植物育成方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の植物育成方法であって、
前記光触媒が可視光応答型光触媒を含み、かつ前記植物を育成させるための光が可視光線を含むことを特徴とする植物育成方法。
【請求項7】
植物の育成に用いられる植物育成用培地であって、
光触媒及び光触媒を坦持させた素材のうち少なくとも1つを含み、
実質的に透明であり、
前記光触媒による有機化合物の分解により、植物に二酸化炭素を供給する機能を有することを特徴とする植物育成用培地。
【請求項8】
請求項7に記載の植物育成用培地であって、
前記光触媒が可視光応答型光触媒であることを特徴とする植物育成用培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−11(P2007−11A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180140(P2005−180140)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(593008003)和歌山県農業協同組合連合会 (4)
【Fターム(参考)】