説明

検出装置用巻線の正弦波巻線方法

【課題】出力巻線群から正弦波信号を出力させるための検出装置用巻線の正弦波巻線方法に関し、従来よりも簡易に巻回数を設定できるようにする。
【解決手段】複数のステータティースが輪状に連なって形成されたステータと、そのステータに対して回転可能に設けられたロータとを備えるレゾルバにおいて、ステータティースの配置順にしたがって各ステータティースに番号を割り当てたときに、k番目のステータティースに巻回される出力巻線の巻回数W(k)を次の(1)式により設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルバ等の回転角検出装置におけるステータのステータティースに巻回される出力巻線の巻線方法に関し、特に、出力巻線から出力される出力信号が正弦波信号となるように巻回する巻線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レゾルバ、シンクロ等、ステータとロータとを有し、ロータの回転に伴ってステータとロータとの間の磁気的特性が変化することを利用して、ロータの回転角に応じた出力信号を出力する回転角検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。ここで、図9は、従来のこの種のレゾルバを示した図である。図9のレゾルバ900は、内周面から内方に突出した複数のステータティース931が輪状に連なって形成されたリング状のステータ920を備える。また、ステータ920の内側には、ステータ920に対して回転可能に設けられ、各ステータティース931との間のギャップパーミアンスが回転に伴って周期的に変化するように設けられたロータ(図示外)を備える。
【0003】
ステータ920に形成された各ステータティース931には、外部から励磁信号が入力され、隣り合うステータティース間で巻回方向が互いに反対方向になるように励磁巻線(図示外)が巻回される。また、各ステータティース931には、ロータの回転角に応じて変化する出力信号が出力される出力巻線yが巻回される。そして、各ステータティース931ごとの出力巻線yが直列接続されて、出力巻線群zが形成される。
【0004】
励磁巻線に励磁信号が入力されると、ステータ920の各ステータティース931は励磁されて磁束が発生する。そして、隣り合うステータティース931の組み合わせからなる形状をスロット930とすると、各スロット930で磁気回路がそれぞれ形成される。その際、ロータの回転角に応じて、各スロット930(各磁気回路)との間のギャップパーミアンスが変化するので、各磁気回路には、ロータの回転角に応じた磁束が発生する。そして、出力巻線群zには、発生した磁束によって電気信号が発生し、その電気信号を出力信号として取り出すことにより、ロータの回転角を検出できる。
【0005】
ところで、従来のこの種の回転角検出装置においては、各ステータティース931に巻回される出力巻線yの巻回数を調節することで、ロータの回転角に応じて正弦波状に変化する正弦波信号が出力信号として出力されるようになっている。ここで、次の(51)式は、特許文献1で提案されている、各ステータティース931に巻回される出力巻線yの巻回数を示した式である。すなわち、従来では、ステータティース931ごとに、式(51)で示される巻回数が設定されて出力巻線yとして巻回される。これにより、出力巻線群zには、各出力巻線yで発生する信号が重ね合った出力信号としての正弦波信号が出力される。
【数1】

【0006】
なお、各ステータティース931にはn相の出力巻線yが巻回されており、n相の出力巻線群zが形成されている。そして、それら出力巻線群zは、互いに位相が異なる正弦波信号が出力されるように、各出力巻線yの巻回数が調節されている。例えば、レゾルバの場合では、2相の出力巻線群zが巻回され、一方の出力巻線群zからはsin信号、他方の出力巻線群zからはcos信号が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3171737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の(51)式は、分母分子に数式が定められた分数式であったり、式を構成する項数が多くなっていたりして複雑であるため、簡易に巻回数を設定できないという問題があった。そこで、本発明は、出力巻線群から正弦波信号を出力させるための検出装置用巻線の正弦波巻線方法に関し、従来よりも簡易に巻回数を設定できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、複数のステータティースが輪状に連なって形成されたステータと、
そのステータに対して回転可能に設けられたロータと、
励磁信号が入力される巻線であって、隣り合うステータティース間で巻回方向が互いに反対方向になるように、それぞれの前記ステータティースに順次巻回された励磁巻線と、
それぞれの前記ステータティースに巻回された出力巻線が直列接続された巻線群であって、前記励磁巻線によって発生し前記ロータの回転角に応じて変化する磁束を正弦波信号として出力させるための出力巻線群と、
を備える回転角検出装置における前記出力巻線の巻線方法であって、
前記複数のステータティースの配置順にしたがって各ステータティースに番号を割り当てたときに、k番目の前記ステータティースに巻回される前記出力巻線の巻回数W(k)を次の(1)式により設定することを特徴とする。
【数2】

【0010】
これによれば、発明者らは、(1)式にて設定される巻回数W(k)を各ステータティースに巻回することにより、ロータの回転角に応じて変化する正弦波信号が出力巻線群から出力されることを見出した。そして、この(1)式は、分数式ではなく、また、式を構成する項数も少ないので、従来よりも簡易に巻回数を設定できる。
【0011】
また、本発明における前記出力巻線群には、次の(2)式で表される出力信号Vosumが出力される。
【数3】

【0012】
このように、出力巻線群からは(2)式で示されるロータの回転角θをパラメータとした正弦波信号が出力されるので、その正弦波信号の値に基づいてロータの回転角θを検出できる。
【0013】
また、上記(1)式では、巻回数をcosの関数として表したが、sinの関数として表すこともできる。すなわち、本発明は、複数のステータティースが輪状に連なって形成されたステータと、
そのステータに対して回転可能に設けられたロータと、
励磁信号が入力される巻線であって、隣り合うステータティース間で巻回方向が互いに反対方向になるように、それぞれの前記ステータティースに順次巻回された励磁巻線と、
それぞれの前記ステータティースに巻回された出力巻線が直列接続された巻線群であって、前記励磁巻線によって発生し前記ロータの回転角に応じて変化する磁束を正弦波信号として出力させるための出力巻線群と、
を備える回転角検出装置における前記出力巻線の巻線方法であって、
前記複数のステータティースの配置順にしたがって各ステータティースに番号を割り当てたときに、k番目の前記ステータティースに巻回される前記出力巻線の巻回数W(k)を次の(3)式により設定することを特徴とする。
【数4】

【0014】
この場合には、前記出力巻線群に、次の(4)式で表される出力信号Vosumが出力される。
【数5】

【0015】
このように、cosとsinは、互いに位相が90度異なった関係となるので、(1)式を変形すると、上記(3)式のように、巻回数をsinの関数として表すことができる。この場合、出力巻線群から出力される出力信号は、sinの出力信号((2)式)に対して90度位相がずれた信号、すなわちsinの出力信号((4)式)が出力される。
【0016】
また、本発明における前記回転角検出装置は、各ステータティースにn相分の前記出力巻線が巻回されたn相分の前記出力巻線群を備え、
それら出力巻線群から出力される出力信号が所定の位相関係となるように、各出力巻線群における前記位相調整用のパラメータφを設定して前記巻回数W(k)を設定する。
【0017】
このように、上記(1)式又は(3)式の位相調整用のパラメータφを設定することで、互いに所定の位相関係となる出力信号が出力されるn相分の出力巻線群における巻回数を簡易に設定できる。
【0018】
この場合、前記回転角検出装置は、一方がsin相、他方がcos相の関係となる2相分の前記出力巻線群を備えたレゾルバとすることができる。
【0019】
このように、レゾルバにおいては、ロータの回転角に応じて変化するsin波の出力信号とcos波の出力信号とを得る必要があるので、レゾルバに本発明を適用すると好適である。
【0020】
また、本発明は、前記sin相の出力巻線群に対して(1)式又は(3)式で設定される巻回数Wsin(k)のうちの最大巻回数WSMAX
前記cos相の出力巻線群に対して(1)式又は(3)式で設定される巻回数Wcos(k)のうちの最大巻回数WCMAXとしたときに、
前記sin相の最大巻回数WSMAXと前記cos相の最大巻回数WCMAXとが一致するように、前記sin相の巻回数Wsin(k)と前記cos相の巻回数Wcos(k)のいずれか一方を補正する。
【0021】
これによれば、(1)式又は(3)式の番号kは整数であるので、sin相の出力巻線群における最大巻回数WSMAXとcos相の出力巻線群における最大巻回数WCMAXとが異なる場合がある。この場合、sin相の出力巻線群から出力される出力信号とcos相の出力巻線群から出力される出力信号とは、正確にsin信号とcos信号との関係にならなくなる。そして、それら出力信号に基づいてロータの回転角を検出すると検出精度が低下するおそれがある。そこで、sin相の最大巻回数WSMAXとcos相の最大巻回数WCMAXとが一致するように、sin相の巻回数Wsin(k)とcos相の巻回数Wcos(k)のいずれか一方を補正するので、検出精度の低下を防止できる。
【0022】
具体的には、前記cos相の巻回数Wcos(k)を次の(5)、(6)式により補正をする。
【数6】

【0023】
これにより、sin相の最大巻回数WSMAXとcos相の最大巻回数WCMAXとが一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】レゾルバ100の斜視図である。
【図2】図1のステータ200の分解斜視図である。
【図3】ステータ200のステータティース210a〜210hに巻回されるステータ巻線の説明図である。
【図4】ステータ巻線の巻回数、巻線方向及びステータ巻線から出力される出力信号等を説明するための図である。
【図5】ロータ300が回転状態にあるときのある時刻における磁束の向きを模式的に示した図である。
【図6】S=10、X=2のレゾルバにおける巻回数W(k)の分布を模式的に表した図である。
【図7】S=10、X=2の場合のβi(25)式のベクトル図である。
【図8】S=10、X=2の場合のβi(41)式のベクトル図である。
【図9】従来のレゾルバ900を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明に係る検出装置用巻線の正弦波巻線方法の実施形態を説明する。図1は、本発明の正弦波巻線方法によって巻線が巻回された回転角検出装置としてのレゾルバ100の斜視図である。なお、図1では、ステータ巻線等の配線の図示を省略している。図2は、図1のステータ200の分解斜視図である。
【0026】
図1に示すレゾルバ100は、ステータ(固定子)200と、ロータ(回転子)300とを含む。レゾルバ100は、いわするインナーロータタイプの回転角検出装置である。すなわち、ステータ200の内側にロータ300が設けられ、ロータ300の外周側の対向した状態で、ロータ300の回転角に応じて、ステータ200に設けられたステータ巻線を構成する出力巻線群からの出力信号が変化するようになっている。
【0027】
ステータ200は、磁性材料からなる環状(リング状)の平板250により構成され、平板250に複数のステータティース(歯)210が輪状に連なって形成されている。これらのステータティース210は、平板250に対して交差するように形成されている。図1では、ステータ200は、折り曲げ加工等により平板面に対して同一面側に略垂直に起こされた8個のステータティース210a、210b、210c、210d、210e、210f、210g、210hを有する。ステータティース210a〜210hは、プレス加工により予め平板250に形成された後に、折り曲げプレス加工により、平板250の面に対して略垂直となるように起こされている。これらのステータティース210a〜210hは、環状の平板250の内側(内径側)の縁部に形成される。また、各ステータティース210a〜210hの面のうち少なくともロータ300と対向する面は平面ではなく、ロータ300の回転軸の方向に沿って見たときに、環状の平板250の内径側に位置する点を中心とする円弧の一部となるように形成される。
【0028】
また、ステータ200には、平板250に装着可能に構成された絶縁キャップ400が装着される。絶縁キャップ400は、ステータ200のステータティース210a〜210hの位置に合わせて設けられた複数のボビン410a、410b、410c、410d、410e、410f、410g、410hが一体に形成されている。各ボビン410a〜410hは、ステータティース挿入孔を有し、当該ボビンに対応するステータティース210a〜210hが当該ステータティース挿入孔に挿入されるとともに、その外側にステータ巻線が巻回される。なお、各ボビン410a〜410hのステータティース挿入孔の向きは、ロータ300の回転軸の向きと同じである。
【0029】
また、絶縁キャップ400は、各ボビン410a〜410hの外側に巻回されるステータ巻線と電気的に接続される端子ピンが設けられたコネクタユニット450を含み、各ボビン410a〜410hとコネクタユニット450とが一体に形成される。このコネクタユニット450には、端子ピン挿入孔461〜466が設けられており、端子ピン挿入孔461〜466には、ステータ巻線と電気的に接続される導電材からなる端子ピン471〜476がそれぞれ挿入される。ステータ巻線には、端子ピン471〜476のいずれかを介して外部から励磁信号が印加されるとともに、端子ピン471〜476のいずれかを介して外部に出力信号を出力する。
【0030】
さらに、絶縁キャップ400は、複数の渡りピン480a、480b、480c、480d、480e、480f、480gを含み、これらボビン410a〜410h、コネクタユニット450、及び渡りピン480a〜480gが一体に形成されている。各渡りピン480a〜480gは、2つのボビンの間において、環状の絶縁キャップ400上に形成されている。なお、ボビン410a、410hの間には、渡りピンが形成されていない。各渡りピン480a〜480gは、2つのボビンの間に設けられた円柱状の形状を有し、一方のボビンの外側に巻回されるステータ巻線と電気的に接続される導線が、渡りピンにおいて張力を持たせた状態で掛けられて、他方のボビンの外側に巻回されるステータ巻線と電気的に接続される。これにより、2つのボビンの距離が長くなっても共振し難くなる上に、ステータ巻線の巻回数を半ターン単位で調整できるようになる。ここで、導線に張力を持たせ易くし、かつその状態をできるだけ長く維持させるために、渡りピンは、ロータ300の回転軸の向きと同じ向きの部分を有することが望ましい。
【0031】
このような絶縁キャップ400をステータ200の平板250に装着することにより、ステータ200とステータ巻線とが電気的に絶縁される。これにより、ステータ巻線により構成されるコイルの絶縁破壊を防止できる。このような絶縁キャップ400は、PBT(Poly−butylene−terephtalate:ポリブチレンテレフタレート)又はPPT(Polypropylene−terephtalate:ポリプロピレンテレフタレート)等の絶縁性の樹脂(絶縁材)を用いた塑性加工により形成される。
【0032】
ロータ300は、磁性材料からなり、ステータ200に対して回転自在に設けられている。より具体的には、ロータ300は、ロータ300の回転軸回りの回転によりステータ200の各ステータティース210a〜210hとの間のギャップパーミアンスが変化するようにステータ200に対して回転可能に設けられている。例えば、ロータ300の軸倍角が「2」であり、所与の半径の円周線を基準に、その円周線の1周につき、平面視において外径側の外径輪郭線を2周期で変化する形状を有している。そして、平板250に対して起こされたステータティース210a〜210hの内側(内径側、内周側)の面と対向するロータ300の外周面の面が、ロータ300の1回転につき2周期でギャップパーミアンスが変化するようになっている。
【0033】
次に、本発明の特徴である、ロータ300の回転によって出力巻線から出力される出力信号を取り出すためのステータ巻線について説明する。ステータ巻線は、励磁巻線と出力巻線とから構成され、励磁巻線により励磁した状態で、ステータ200に対するロータ300の回転により、出力巻線の出力信号が変化する。
【0034】
図3は、ステータ200のステータティース210a〜210hに巻回されるステータ巻線の説明図であり、同図(a)は、ステータティース210a〜210hに励磁巻線4が巻回された状態を示したステータ200の平面図、同図(b)は、ステータティース210a〜210hに出力巻線5が巻回された状態を示したステータ200の平面図を示している。なお、図3では、励磁巻線4が巻回された状態と出力巻線5が巻回された状態とを別で示しているが、実際は、各ステータティース210a〜210hに、励磁巻線4と出力巻線5とが一緒に巻回されている。この際、例えば、励磁巻線4はステータティース210a〜210hの根本側、出力巻線5はステータティース210a〜210hの先端側というように、ステータティースにおける巻回位置が分けられて、励磁巻線4、出力巻線5はそれぞれ巻回される。また、図4は、各ステータティース210a〜210hに巻回されるステータ巻線の巻回数、巻線方向及びステータ巻線から出力される出力信号等を説明するための図である。
【0035】
先ず、図4(a)を参照して、各ステータティース210a〜210hの配置関係について説明する。図4(a)は、説明の便宜のために、各ステータティース210a〜210hを一列に並べた状態を示している。また、その上に、図4(a)と対応させて各ステータティース210a〜210hの座標軸を示している。なお、その座標軸は、各ステータティース210a〜210hが形成されているステータ200の内周を1周2π(=360°)とした角度の座標軸であり、ステータティース210aとステータティース210bの真ん中を原点としている。
【0036】
図4(a)に示すように、8個のステータティース210a〜210hは、ステータ200の内周に等間隔で形成されている。すなわち、隣り合うステータティース間の距離がいずれもπ/4(=45°)となるように形成されている。より具体的には、図3(a)の端子ピンR1側に位置するステータティース210aをk=1として、図3(a)における反時計回りの方向にしたがった配置順に、各ステータティース210a〜210hに番号kを割り当てたときに、1番目のステータティース210aは座標θ=−π/8の位置に形成される。また、2番目のステータティース210bは座標θ=π/8の位置に形成され、3番目のステータティース210cは座標θ=3π/8の位置に形成され、4番目のステータティース210dは座標θ=5π/8の位置に形成される。また、5番目のステータティース210eは座標θ=7π/8の位置に形成され、6番目のステータティース210fは座標θ=9π/8の位置に形成され、7番目のステータティース210gは座標θ=11π/8の位置に形成され、8番目のステータティース210hは座標θ=13π/8の位置に形成される。なお、図4(a)では、各ステータティース210a〜210hに、それぞれの番号kを示している。
【0037】
また、隣り合う2つのステータティースにて構成される形状をスロットと称したときに、1番目のステータティース210aと2番目のステータティース210bとからスロット211aが構成される。同様にして、図4(a)に示すように、他の隣り合う2つのステータティースからはスロット211b〜211hが構成される。すなわち、ステータティース210a〜210hの個数と同じ8個のスロット211a〜211hが構成されている。なお、スロット211aの位置が原点となっている。
【0038】
そして、各ステータティース210a〜210hには、図3(a)に示すように、ボビン410a〜410h(図1、2参照、図3では不図示)を介して、励磁巻線4が巻回される。この励磁巻線4は、例えばコイル巻線とすることができる。ここで、図4(b)は、各ステータティース210a〜210hに巻回される励磁巻線4の巻回数及び巻回方向を模式的に示している。なお、図4(b)において、巻回数のゼロ点を基準としてプラス側を正巻(図3(a)における時計回りCW方向)とし、マイナス側を逆巻(図3(a)における反時計回りCCW方向)としている。この図4(b)に示すように、励磁巻線4は、隣り合うステータティース間で巻回方向が互いに反対方向になるように、それぞれのステータティース210a〜210hに巻回される。また、励磁巻線4の巻回数は、各ステータティース210a〜210hで同じとされる。
【0039】
この励磁巻線4は、専用の巻線機によって、例えば図3(a)の端子ピンR1から開始して、ステータティース210a→ステータティース210b→ステータティース210c→ステータティース210d→ステータティース210e→ステータティース210f→ステータティース210g→ステータティース210hの順に順次巻回される。そして、励磁巻線4の他端が端子ピンR2に電気的に接続される。なお、端子ピンR1、R2は、図1、図2の端子ピン471〜476のいずれかに割り当てられる。
【0040】
そして、端子ピンR1、R2間に励磁信号(例えば、一定周波数の交流信号)が与えられ、励磁巻線4にはその励磁信号が入力される。すると、各ステータティース210a〜210hが励磁されて磁束が発生する。ここで、図5は、レゾルバ100の平面図であり、ロータ300が回転状態にあるときのある時刻における磁束の向きを模式的に示している。また、図5において、巻線磁芯としての各ステータティース210a〜210hを通る磁束の向きも模式的に示している。なお、図5においては、説明の便宜上、絶縁キャップ400の図示を省略している。各ステータティース210a〜210hに巻回される励磁巻線4は、上述したように隣り合うステータティース間で互いに反対方向になるように巻回されているので、各ステータティース210a〜210hを通る磁束は隣り合うステータティース間で結合される。具体的には、図5に示すように、ステータ200の平板250を介して(実線の矢印)、及びロータ300を介して(点線の矢印)、隣り合うステータティース間で磁束が結合する。すなわち、スロット211a〜211hごとに磁気回路が形成される。この際、ロータ300が回転すると、各ステータティース210a〜210hとの間のギャップパーミアンスが変化するので、各スロット211a〜211hの磁気回路における磁束は、ロータ300の回転に応じて変化する。そして、各磁気回路の磁束に応じた信号、すなわちロータ300の回転角に応じた信号が、ステータティース210a〜210hに巻回された出力巻線によって出力信号として出力されることになる。
【0041】
上述したように、各ステータティース210a〜210hには、ロータ300の回転角に応じた出力信号を出力するための出力巻線5が巻回される(図3(b)参照)。その出力巻線5は、さらに、sin相の出力巻線51とcos相の出力巻線52とから構成される。これら出力巻線51、52は、それぞれ各ステータティース210a〜210hに巻回された出力巻線が直列接続されて構成される。具体的には、sin相の出力巻線51は、図3(b)に示すように、2番目のステータティース210bに巻回された出力巻線51b、4番目のステータティース210dに巻回された出力巻線51d、6番目のステータティース210fに巻回された出力巻線51f及び8番目のステータティース210hに巻回された出力巻線51hが直列接続されて構成される。また、cos相の出力巻線52は、1番目のステータティース210aに巻回された出力巻線52a、3番目のステータティース210cに巻回された出力巻線210cに巻回された出力巻線52c、5番目のステータティース210eに巻回された出力巻線52e及び7番目のステータティース210gに巻回された出力巻線52gが直列接続されて構成される。なお、以下、各出力巻線51b、51d、51f、51hにて構成される出力巻線51を、出力巻線群51と称する。同様にして、出力巻線52を出力巻線群52と、出力巻線5を出力巻線群5と称する。
【0042】
これらsin相の出力巻線群51及びcos相の出力巻線群52は、いずれもロータ300の回転にともなって正弦波状に変化する出力信号を出力するための巻線である。ただし、それらの出力信号の波形は互いに位相が異なっており、具体的には、cos相の出力巻線群52は、sin相の出力巻線群51から出力される出力信号に対して、位相が90°ずれた出力信号を出力するための巻線とされる。
【0043】
このように、出力巻線群51、52から出力される出力信号が、ロータ300の回転にともなって正弦波状に変化する出力信号とするためには、各ステータティース210a〜210hに巻回する出力巻線の巻回数や巻回方向を調節する必要がある。本発明者らは、次の(1)式にてk番目のステータティースに巻回する巻回数W(k)を設定することで、次の(2)式で示される出力信号Vosum、すなわちロータの回転角θに応じて正弦波状に変化する出力信号Vosumが出力巻線群から出力されることを見出した。なお、(1)式における巻回数W(k)は、巻回方向を含む概念であり、正の巻回数W(k)と負の巻回数W(k)とは巻回方向が互いに反対方向とされるものである。また、(1)式における位相調整用のパラメータφは、出力信号Vosumの位相を調整するためのパラメータであって、例えば、出力信号Vosumのゼロ点の位置を調整したり、複数相の出力巻線群における各出力信号Vosumの位相を調整したりするためのものである。
【0044】
【数7】

【数8】

【0045】
本実施形態のレゾルバ100においてはスロットの個数S=8であり、また、ロータ300の極数X=2、位相調整用のパラメータφ=0として、これらの値を(1)式に代入すると、sin相の出力巻線群51における各出力巻線の巻回数Wsin(k)は、次の(7)式のようになる。
【数9】

【0046】
また、cos相の出力巻線群52における各出力巻線の巻回数Wcos(k)は、位相調整用のパラメータφ=π/2とすると、次の(8)式のようになる。
【数10】

【0047】
そして、これら(7)式、(8)式に、番号k(k=1〜8)を代入して、sin相の出力巻線群51における各ステータティース210a〜210hに巻回する巻回数Wsin(k)、cos相の出力巻線群52における各ステータティース210a〜210hに巻回する巻回数Wcos(k)は次の表1のようになる。なお、表1においては、最大巻回数MaxTrnに乗算される係数のみを示している。また、図4(c)は巻回数Wsin(k)を模式的に表した図であり、図4(e)は巻回数Wcos(k)を模式的に表した図である。
【0048】
【表1】

【0049】
表1、図4(c)に示すように、sin相の出力巻線群51として、2番目のステータティース210bに逆巻(図3(b)における反時計回りCCW方向、以下同じ)に巻回数MaxTrnを巻回し、4番目のステータティース210dに正巻(図3(b)における時計回りCW方向、以下同じ)に巻回数MaxTrnを巻回し、6番目のステータティース210fに逆巻に巻回数MaxTrnを巻回し、8番目のステータティース210hに正巻に巻回数MaxTrnを巻回することになる。つまり、上述したように、sin相の出力巻線群51は、出力巻線51b、出力巻線51d、出力巻線51f及び出力巻線51hが直列接続されて構成される(図3(b)参照)。
【0050】
このsin相の出力巻線群51は、専用の巻線機によって、例えば図3(b)の端子ピンS2から開始して、ステータティース210b→ステータティース210d→ステータティース210f→ステータティース210hの順に順次巻回される。そして、出力巻線群51の他端が端子ピンS4に電気的に接続される。なお、端子ピンS2、S4は、図1、図2の端子ピン471〜476のいずれかに割り当てられる。
【0051】
また、cos相の出力巻線群52としては、表1、図4(e)に示すように、1番目のステータティース210aに正巻に巻回数MaxTrnを巻回し、3番目のステータティース210cに逆巻に巻回数MaxTrnを巻回し、5番目のステータティース210eに正巻に巻回数MaxTrnを巻回し、7番目のステータティース210gに逆巻に巻回数MaxTrnを巻回することになる。つまり、上述したように、cos相の出力巻線群52は、出力巻線52a、出力巻線52c、出力巻線52e及び出力巻線52gが直列接続されて構成される(図3(b)参照)。
【0052】
このcos相の出力巻線群52は、専用の巻線機によって、例えば図3(b)の端子ピンS1から開始して、ステータティース210a→ステータティース210c→ステータティース210e→ステータティース210gの順に順次巻回される。そして、出力巻線群52の他端が端子ピンS3に電気的に接続される。なお、端子ピンS1、S3は、図1、図2の端子ピン471〜476のいずれかに割り当てられる。
【0053】
このようにして出力巻線群51、52を構成することで、端子ピンS2、S4間からは出力巻線群51の出力信号Vosum1が出力され、端子ピンS1、S3間からは出力巻線群52の出力信号Vosum2が出力されることになる。この際、出力巻線群51の出力信号Vosum1として、上記(2)式にスロットの個数S=8、ロータ300の極数X=2、位相調整用のパラメータφ=0を代入して、次の(9)式の正弦波信号が出力される。また、同様に、出力巻線群52の出力信号Vosum2として、上記(2)式にスロットの個数S=8、ロータ300の極数X=2、位相調整用のパラメータφ=π/2を代入して、次の(10)式の正弦波信号が出力される
【0054】
【数11】

【数12】

【0055】
そして、(9)式の出力信号Vosum1の波形を図4の座標軸θに対応させて示すと、図4(d)のようになる。同様に、(10)式の出力信号Vosum2の波形を図4の座標軸θに対応させて示すと、図4(f)のようになる。なお、実際には、各ステータティース210a〜210hに巻回された各出力巻線から出力される出力信号が重ね合わされた信号が出力信号Vosum1、出力信号Vosum2として出力される。具体的には、出力巻線群51においては、2番目、4番目、6番目、8番目のステータティース210b、210d、210f、210hに巻回されているので、それらステータティース210b、210d、210f、210hから出力信号が出力され、それら出力信号を重ね合わせると図4(d)の波形となる。
【0056】
また、出力巻線群52においては、1番目、3番目、5番目、7番目のステータティース210a、210c、210e、210gに巻回されているので、それらステータティース210a、210c、210e、210gから出力信号が出力され、それら出力信号を重ね合わせると図4(f)の波形となる。
【0057】
なお、本実施形態のレゾルバ100では、各ステータティース210a〜210hに巻回する巻回数W(k)はきりがよい値となっているが(表1参照)、スロットの個数S等が異なるレゾルバを用いる場合には、表1とは違った巻回数W(k)の分布となる。例えば、スロット(ステータティース)の個数S=10、ロータの極数X=2のレゾルバを用いるとする。この場合、上記(1)式に、S=10、X=2、φ=0(sin相の場合)、π/2(cos相の場合)を代入して、各ステータティースに巻回する巻回数W(k)を求めると、次の表2のようになる。また、図6は、その巻回数W(k)の分布を模式的に表した図である。なお、表2においては、最大巻回数MaxTrnに乗算される係数のみを示している。また、表2においては、小数第2位までを示している。
【0058】
【表2】

【0059】
この表2、図6で示すように、用いるレゾルバによっては、巻回数W(k)が複雑に分布する。このような場合であっても、表2の巻回数W(k)を各ステータティースに巻回することにより、上記(2)式で示される正弦波状に変化する出力信号Vosumが出力される。
【0060】
ところで、表2においては、sin相の出力巻線群に対して設定される巻回数Wsin(k)のうちの最大巻回数WSMAXは「1.0」となっているのに対し、cos相の出力巻線群に対して設定される巻回数Wcos(k)のうちの最大巻回数WCMAXは「0.95」となっている。これは、(1)式に代入する番号kが整数であることに起因するものである。そして、最大巻回数WSMAXと最大巻回数WCMAXとが異なっていると、出力信号Vosum1と出力信号Vosum2との関係に誤差が生じる。そこで、この場合には、次の(5)式、(6)式によって、最大巻回数WSMAXと最大巻回数WCMAXとが一致するように、cos相の巻回数Wcos(k)を補正する。すなわち、(5)式によって補正係数Wcを求めて、その補正係数Wcを乗算することで、cos相の巻回数Wcos(k)を補正する。これによって、上記誤差が生じるのを防止できる。なお、(5)式、(6)式では、cos相の巻回数Wcos(k)を補正しているが、sin相の巻回数Wsin(k)を補正するようにしてもよいし、cos相の巻回数Wcos(k)とsin相の巻回数Wsin(k)の双方を補正するようにしてもよい。
【0061】
【数13】

【0062】
次に、上記(1)式で設定された巻回数W(k)を巻回することで、上記(2)式の出力信号Vosumが出力されることを理論的に説明する。なお、以下の説明において、上記と同様に、kはステータティースの番号、Sはスロットの個数、Xはロータの極数、θはロータの回転角、φは位相調整用のパラメータとしている。
【0063】
(励磁巻線によって発生するベクトルポテンシャル)
励磁巻線の電流方向が、奇数番目のスロットではマイナス、偶数番目のスロットではプラスとなるように、励磁巻線が各ステータティースに巻回されているとする。この場合、k番目のステータティースの左側(CCW方向)のスロットのベクトルポテンシャルAzLeft(k)は、次の(11)式で表される。なお、(11)式において、(−1)の項はkが奇数のとき(−1)=−1、kが偶数のとき(−1)=1として、符号を調節するために付け加えた項である。
【数14】

【0064】
また、k番目のステータティースの右側(CW方向)のスロットのベクトルポテンシャルAzRight(k)は、次の(12)式で表される。なお、(12)式において、(−1)k−1の項も符号を調節するために付け加えた項である。
【数15】

【0065】
なお、このベクトルポテンシャルAzLeft(k)、AzRight(k)は、励磁信号が入力された励磁巻線によって各ステータティースに発生する磁束に相当するものである。
【0066】
(k番目のステータティースにおける出力信号)
また、k番目のステータティースに巻回される出力巻線の巻回数をW(k)、その出力巻線のZ方向(ステータティースの長さ方向)の長さをWlenとすると、その出力巻線から出力される出力電圧(出力信号)Vo(k)は、次の(13)式で表される。
【数16】

【0067】
((2)式が得られることの証明)
k番目のステータティースにおいて、上記(1)式で示される巻回数W(k)を巻回したときに、(2)式で示される出力信号Vosumが出力されることを証明する。ここで、上記(13)式の出力巻線の長さWlen=1としても、出力信号の正弦波の振幅が変化するのみであるので、目的とする証明に影響を与えない。そこで、Wlen=1として、上記(13)式に、(11)式のAzLeft(k)、(12)式のAzRight(k)及び(1)式のW(k)を代入すると、次の(14)式が得られる。
【数17】

【0068】
この(14)式において、X/S=mと置き換える。また、(−1)k−1=−(−1)であるので、(14)式から次の(15)式が得られる。
【数18】

【0069】
ここで、kは整数であるので(−1)2k=1である。よって、(15)式から次の(16)式が得られる。
【数19】

【0070】
ここで、(16)式の[ ]内は、三角関数の和積の公式により、次の(17)式のように変形することができる。
【数20】

【0071】
よって、(16)式、(17)式から次の(18)式が得られる。
【数21】

【0072】
さらに、三角関数の積和の公式により、(18)式の第2、第3項の積を和に変換すると、次の(19)式が得られる。
【数22】

【0073】
よって、(18)式、(19)式から次の(20)式が得られる。
【数23】

【0074】
そして、次の(21)式のように、この(20)式で示される出力信号Vo(k)を、kを1からSまで変化させて足し合わせることにより、各ステータティースに巻回された出力巻線を直列に接続したときの出力電圧(出力信号)Vosumが得られる。
【数24】

【0075】
ここで、kが1〜Sまで変化する正数で、Sが偶数であるときには、(21)式の第1項(Σの項)は、次の(22)式ようにゼロとなる(この証明は後述する)。
【数25】

【0076】
よって、(21)式、(22)式から次の(23)式、すなわち上記(2)式を得ることができる。ここで、m=X/S、α=cos(mπ)、φはいずれも定数である。よって、出力信号Vosumはkに関係なくロータの回転角θのみの関数となる。
【数26】

【0077】
なお、m=0.5となるロータの極数Xとスロットの個数Sの組み合わせのレゾルバは、α=cos(mπ)=0となり(2)式のVosum=0となる。よって、(2)式は、m=0.5となるロータの極数Xとスロットの個数Sの組み合わせのレゾルバは実用化できないことを示している。
【0078】
((22)式の証明)
kが1〜Sまで変化する正数で、Sが偶数であるときには、(22)式となることを証明する。そのために、次の(24)式を定める。
【数27】

【0079】
ここで、(24)式のβを複素数に拡張する。具体的には、(24)式のβを複素数の実数部と考え、虚数部i・sin(4kmπ−mπ+Xθ+φ)を加えると、次の(25)式が得られる。
【数28】

【0080】
(25)式においてkが変化したときに変化する項4kmπを次の(26)式のように変形することができる。
【数29】

【0081】
ここで、Sは正の偶数であるので、(26)式においてkが1〜S/2まで変化すると、4kmπは4mπからX・2πまで2X・2π/Sずつ増加する。また、4kmπの値は、kがS/2+1〜Sまで変化するときと、kが1〜S/2まで変化するときとでは同じ値となる。よって、kが1〜Sまで変化すると、(25)式のβiと原点(0、0)を結ぶ直線は、長さ1のS/2本のベクトルとなり、各ベクトル間の角度は2X・2π/Sの等間隔である。そして、これら長さ1のS/2本のベクトルには、虚数軸を対称軸とする回転座標が存在する。この回転座標では、Σβiの実数部であるΣβはゼロとなり、上記(22)式が成立する。
【0082】
以上の具体例として、S=10、X=2の場合のβiのベクトル図を図7(a)に示す。この図7(a)に対して、図7(b)のように座標系を設定した場合、k=1〜5のベクトルの実数部(cos成分)の和がゼロであることが解る。また、図7(b)の座標系をπ/2回転させると、k=1〜5のベクトルの虚数部(sin成分)の和がゼロであることが解る。
【0083】
以上説明したように、本実施形態のレゾルバ100では、上記(1)式で設定される巻回数が、各ステータティース210a〜210hに出力巻線として巻回される。よって、(2)式で示されるロータ300の回転角に応じて正弦波状に変化する出力信号を得ることができる。そして、本発明に係る(1)式は、分数式ではなく、また、式を構成する項数も少ないので、従来よりも簡易に巻回数を設定できる。また、(1)式は分数式でないので、設定される巻回数が端数となりにくく、精度のよい出力信号を得ることができる。
【0084】
(変形例)
上記実施形態における出力巻線の巻回数を示した(1)式は、cosの関数として表したものであったが、次の(3)式のsinの関数として表した式にて設定される巻回数を巻回してもよい。この場合、次の(4)式の正弦波状に変化する出力信号が得られることを、発明者らは見出した。
【0085】
【数30】

【数31】

【0086】
ここで、上記(3)式で設定された巻回数W(k)を巻回することで、上記(4)式の出力信号Vosumが出力されることを理論的に説明する。
【0087】
(励磁巻線によって発生するベクトルポテンシャル)
励磁巻線の電流方向が、奇数番目のスロットではマイナス、偶数番目のスロットではプラスとなるように、励磁巻線が各ステータティースに巻回されているとする。この場合、k番目のステータティースの左側(CCW方向)のスロットのベクトルポテンシャルAzLeft(k)は、次の(27)式で表される。なお、(27)式において、(−1)の項はkが奇数のとき(−1)=−1、kが偶数のとき(−1)=1として、符号を調節するために付け加えた項である。
【数32】

【0088】
また、k番目のステータティースの右側(CW方向)のスロットのベクトルポテンシャルAzRight(k)は、次の(28)式で表される。なお、(28)式において、(−1)k−1の項も符号を調節するために付け加えた項である。
【数33】

【0089】
なお、このベクトルポテンシャルAzLeft(k)、AzRight(k)は、励磁信号が入力された励磁巻線によって各ステータティースに発生する磁束に相当するものである。
【0090】
(k番目のステータティースにおける出力信号)
また、k番目のステータティースに巻回される出力巻線の巻回数をW(k)、その出力巻線のZ方向(ステータティースの長さ方向)の長さをWlenとすると、その出力巻線から出力される出力電圧(出力信号)Vo(k)は、次の(29)式で表される。
【数34】

【0091】
((2)式が得られることの証明)
k番目のステータティースにおいて、上記(3)式で示される巻回数W(k)を巻回したときに、(4)式で示される出力信号Vosumが出力されることを証明する。ここで、上記(29)式の 出力巻線の長さWlen=1としても、出力信号の正弦波の振幅が変化するのみであるので、目的とする証明に影響を与えない。そこで、Wlen=1として、上記(29)式に、(27)式のAzLeft(k)、(28)式のAzRight(k)及び(3)式のW(k)を代入すると、次の(30)式が得られる。
【数35】

【0092】
この(30)式において、X/S=mと置き換える。また、(−1)k−1=−(−1)であるので、(30)式から次の(31)式が得られる。
【数36】

【0093】
ここで、kは整数であるので(−1)2k=1である。よって、(31)式から次の(32)式が得られる。
【数37】

【0094】
ここで、(32)式の[ ]内は、三角関数の和積の公式により、次の(33)式のように変形することができる。
【数38】

【0095】
よって、(32)式、(33)式から次の(34)式が得られる。
【数39】

【0096】
さらに、三角関数の積和の公式により、(34)式の第2、第3項の積を和に変換すると、次の(35)式が得られる。
【数40】

【0097】
よって、(34)式、(35)式から次の(36)式が得られる。
【数41】

【0098】
そして、次の(37)式のように、この(36)式で示される出力信号Vo(k)を、kを1からSまで変化させて足し合わせることにより、各ステータティースに巻回された出力巻線を直列に接続したときの出力電圧(出力信号)Vosumが得られる。
【数42】

【0099】
ここで、kが1〜Sまで変化する正数で、Sが偶数であるときには、(37)式の第1項(Σの項)は、次の(38)式ようにゼロとなる(この証明は後述する)。
【数43】

【0100】
よって、(37)式、(38)式から次の(39)式、すなわち上記(4)式を得ることができる。ここで、m=X/S、α=cos(mπ)、φはいずれも定数である。よって、出力信号Vosumはkに関係なくロータの回転角θのみの関数となる。
【数44】

【0101】
なお、m=0.5となるロータの極数Xとスロットの個数Sの組み合わせのレゾルバは、α=cos(mπ)=0となり(4)式のVosum=0となる。よって、(4)式は、m=0.5となるロータの極数Xとスロットの個数Sの組み合わせのレゾルバは実用化できないことを示している。
【0102】
((38)式の証明)
kが1〜Sまで変化する正数で、Sが偶数であるときには、(38)式となることを証明する。そのために、次の(40)式を定める。
【数45】

【0103】
ここで、(40)式のβを複素数に拡張する。具体的には、(40)式のβを複素数の虚数部と考え、実数部cos(4kmπ−mπ+Xθ+φ)を加えると、次の(41)式が得られる。
【数46】

【0104】
(41)式においてkが変化したときに変化する項4kmπを次の(42)式のように変形することができる。
【数47】

【0105】
ここで、Sは正の偶数であるので、(42)式においてkが1〜S/2まで変化すると、4kmπは4mπからX・2πまで2X・2π/Sずつ増加する。また、4kmπの値は、kがS/2+1〜Sまで変化するときと、kが1〜S/2まで変化するときとでは同じ値となる。よって、kが1〜Sまで変化すると、(41)式のβiと原点(0、0)を結ぶ直線は、長さ1のS/2本のベクトルとなり、各ベクトル間の角度は2X・2π/Sの等間隔である。そして、これら長さ1のS/2本のベクトルには、実数軸を対称軸とする回転座標が存在する。この回転座標では、Σβiの虚数部であるΣβはゼロとなり、上記(38)式が成立する。
【0106】
以上の具体例として、S=10、X=2の場合のβiのベクトル図を図8(a)に示す。この図8(a)に対して、図8(b)のように座標系を設定した場合、k=1〜5のベクトルの虚数部(sin成分)の和がゼロであることが解る。また、図8(b)の座標系をπ/2回転させると、k=1〜5のベクトルの虚数部(cos成分)の和もゼロであることが解る。
【0107】
このように、上記(3)式によっても(4)式の正弦波状に変化する出力信号が得ることができる。そして、(3)式も、(1)式と同様に、分数式ではなく、また、式を構成する項数も少ないので、従来よりも簡易に巻回数を設定できる。
【0108】
なお、本発明に係る検出装置用巻線の正弦波巻線方法は、上記実施形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々変形することができる。例えば、上記実施形態では、ステータティースがステータの平板に対して起こされたタイプのレゾルバに本発明を適用いた例について説明したが、従来の図9のレゾルバのように、ステータティースが、ステータの径方向に向いて形成されたタイプのレゾルバに本発明を適用することもできる。
【0109】
また、上記実施形態では、ロータが、ステータティースの内側に配置されるタイプのレゾルバに本発明を適用した例について説明したが、ステータティースの外側に配置されるアウターロータタイプのレゾルバに本発明を適用することもできる。
【0110】
また、上記実施形態では、2相の出力巻線群がステータティースに巻回されるレゾルバに本発明を適用した例について説明したが、N相の出力巻線群が巻回されるその他の回転角検出装置に対しても、本発明を適用することができる。具体的には、例えば、3相の出力巻線群が巻回されるシンクロに対しても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
100 レゾルバ
200 ステータ
210 ステータティース
211 スロット
300 ロータ
4 励磁巻線
5 出力巻線群
51 sin相の出力巻線群
52 cos相の出力巻線群
51b、51d、51f、51g、52a、52c、52e、52g 出力巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のステータティースが輪状に連なって形成されたステータと、
そのステータに対して回転可能に設けられたロータと、
励磁信号が入力される巻線であって、隣り合うステータティース間で巻回方向が互いに反対方向になるように、それぞれの前記ステータティースに順次巻回された励磁巻線と、
それぞれの前記ステータティースに巻回された出力巻線が直列接続された巻線群であって、前記励磁巻線によって発生し前記ロータの回転角に応じて変化する磁束を正弦波信号として出力させるための出力巻線群と、
を備える回転角検出装置における前記出力巻線の巻線方法であって、
前記複数のステータティースの配置順にしたがって各ステータティースに番号を割り当てたときに、k番目の前記ステータティースに巻回される前記出力巻線の巻回数W(k)を次の(1)式により設定することを特徴とする検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【数1】

【請求項2】
前記出力巻線群には、次の(2)式で表される出力信号Vosumが出力されることを特徴とする請求項1に記載の検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【数2】

【請求項3】
複数のステータティースが輪状に連なって形成されたステータと、
そのステータに対して回転可能に設けられたロータと、
励磁信号が入力される巻線であって、隣り合うステータティース間で巻回方向が互いに反対方向になるように、それぞれの前記ステータティースに順次巻回された励磁巻線と、
それぞれの前記ステータティースに巻回された出力巻線が直列接続された巻線群であって、前記励磁巻線によって発生し前記ロータの回転角に応じて変化する磁束を正弦波信号として出力させるための出力巻線群と、
を備える回転角検出装置における前記出力巻線の巻線方法であって、
前記複数のステータティースの配置順にしたがって各ステータティースに番号を割り当てたときに、k番目の前記ステータティースに巻回される前記出力巻線の巻回数W(k)を次の(3)式により設定することを特徴とする検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【数3】

【請求項4】
前記出力巻線群には、次の(4)式で表される出力信号Vosumが出力されることを特徴とする請求項3に記載の検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【数4】

【請求項5】
前記回転角検出装置は、各ステータティースにn相分の前記出力巻線が巻回されたn相分の前記出力巻線群を備え、
それら出力巻線群から出力される出力信号が所定の位相関係となるように、各出力巻線群における前記位相調整用のパラメータφを設定して前記巻回数W(k)を設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【請求項6】
前記回転角検出装置は、一方がsin相、他方がcos相の関係となる2相分の前記出力巻線群を備えたレゾルバであることを特徴とする請求項5に記載の検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【請求項7】
前記sin相の出力巻線群に対して前記(1)式又は前記(3)式で設定される巻回数Wsin(k)のうちの最大巻回数WSMAX
前記cos相の出力巻線群に対して前記(1)式又は前記(3)式で設定される巻回数Wcos(k)のうちの最大巻回数WCMAXとしたときに、
前記sin相の最大巻回数WSMAXと前記cos相の最大巻回数WCMAXとが一致するように、前記sin相の巻回数Wsin(k)と前記cos相の巻回数Wcos(k)のいずれか一方を補正することを特徴とする請求項6に記載の検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【請求項8】
前記cos相の巻回数Wcos(k)を次の(5)、(6)式により前記補正をすることを特徴とする請求項7に記載の検出装置用巻線の正弦波巻線方法。
【数5】




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−174743(P2011−174743A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37464(P2010−37464)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【特許番号】特許第4654348号(P4654348)
【特許公報発行日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【Fターム(参考)】