説明

検査レーダ装置

【課題】検出感度の向上したレーダ装置を提供することにある。
【解決手段】送信アンテナ101は、パルス発振器103が出力する振幅の異なる複数のパルスを波動に変換して被検査物に放射する。受信アンテナ102により受信された波動の反射波は、アナログ・ディジタル変換器106によりディジタル値に変換され、計算機201に取り込まれる。パルス幅制御器108は、パルス発振器103が出力する複数の振幅の異なるパルスに対して、それぞれ、異なるパルス幅のパルスを出力するように、パルス発振器103を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波や超音波などの波動の反射波を用いてコンクリートや土砂の内部などの空洞や鉄筋,パイプなどの反射体を精度よく検出する検査レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル壁,橋脚,橋桁,ビルなどのコンクリート構造物では、割れ,空洞,強度低下部等の欠陥の有無を非破壊で検査し、剥落や破壊事故に至る前に補修を行う必要がある。また、それらの内部の鉄筋,漏水などを検査対象にする場合もある。
【0003】
また、土中では、工事の掘削前に内部に上下水道や電力線,通信線などの有無を調べ、掘削作業でそれらを破損する事故を未然に防ぐ必要がある。また、水道配管では漏水位置を検出する必要もある。さらに、超音波を使って上記対象のほか、機械や配管などの構造物を検査する場合もある。非破壊検査方法には、打音,超音波,温度変化,電磁波などを使う方法がある。
【0004】
電磁波を用いる検査方法は、例えば、時間の短いパルス状電磁波(帯域は、百MHz〜数GHz)を検査対象に放射し、欠陥からの反射波を検出・処理して欠陥を検知するレーダ方式によるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この方式では、検査装置であるレーダ装置を検査対象物の上で走査し、走査断面(横軸が走査距離,縦軸が深さ)で反射強度分布を求め、この分布から検査対象内部の反射体を検出する。このレーダ方式は、非接触検出であること、アンテナを表面で走査して迅速な検査ができることなどのメリットがある。
【0005】
しかしながら、電磁波がコンクリートや土中内を伝搬するのに伴って減衰し、欠陥が深くなるほど検出感度が激減するという問題があるため、深いところの欠陥の検出には、送信パルスの振幅を大きくする振幅制御方式が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−323459号公報
【特許文献2】特開2003−90806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2記載の方式では、欠陥の大きさによっては、送信パルスと適当にマッチングしない場合もあり、その場合には、欠陥を検出できない場合が生じる。
【0008】
本発明の目的は、検出感度の向上した検査レーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、振幅の異なる複数のパルスを時間間隔をおいて出力するパルス発振器と、前記パルスを波動に変換して被検査物に放射する送信手段と、前記波動の反射波を受信する受信手段と、該受信手段で受信された前記反射波の波形をディジタル値に変換するアナログ・ディジタル変換手段と、該アナログ・ディジタル変換手段を動作させるタイミング信号を発生するタイミング信号発生手段とを有し、該タイミング信号発生手段からのタイミング信号に応じて、前記アナログ・ディジタル変換手段は、前記反射波の波形をディジタル値に変換し、変換されたディジタル値に基づいて、検査結果を示す情報を生成する検査レーダ装置であって、前記パルス発振器が出力する複数の振幅の異なるパルスに対して、それぞれ、異なるパルス幅のパルスを出力するように、前記パルス発振器を調節するパルス幅制御器を備えるようにしたものである。
かかる構成により、検査レーダ装置の検出感度を向上し得るものとなる。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記パルス発振器は、それぞれ異なる振幅のパルスを出力する複数のパルス発振器から構成されるものである。
【0011】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記パルス発振器は、同一振幅で同一パルス幅のパルスを複数回出力するとともに、その複数回のパルス出力に応じて得られた複数の反射波の波形のディジタル値を平均化処理する計算機を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検査レーダ装置の検出感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による検査レーダ装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による検査レーダ装置の動作原理の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態による検査レーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の他の実施形態による検査レーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の一実施形態による検査レーダ装置の構成及び動作について説明する。なお、以下の説明では、使用する波動として電磁波を用いて説明を進める。
【0015】
最初に、図1を用いて、本実施形態による検査レーダ装置のシステム構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による検査レーダ装置のシステム構成を示すブロック図である。
【0016】
被検査物1は、コンクリート構造物や土砂である。被検査物1の内部には、割れや空洞などの欠陥や鉄筋,パイプなどの検出対象2が存在する。本実施形態の検査レーダ装置は、検出対象2の検出と、その位置を求めるために用いられる。
【0017】
本実施形態の検査レーダ装置は、センサ部100と、計算機201と、表示器202と、記憶装置203とを備えている。センサ部100は、移動走査機構(図示していない)や操作員により検査範囲を走査される。センサ部100と計算機201とは、ケーブル等で接続されており、信号の送受を行える。
【0018】
センサ部100は、送信アンテナ101と、受信アンテナ102と、パルス発振器103と、リミター104と、タイミング信号発生器105と、アナログ・ディジタル変換器106と、距離測定器107と、パルス幅制御器108とを備えている。
【0019】
送信アンテナ101は、電気信号を波動に変換して放射する送信手段である。送信アンテナ101は、パルス発振器103のパルス出力を受け、被検査部1に向け電磁波を放射する。
【0020】
パルス発振器103は、3個の発振器を備えている。第1の発振器が出力するパルスのパルス幅をD1とすると、第2の発振器が出力するパルスのパルス幅はD2であり、第3の発振器が出力するパルスのパルス幅はD3となっており、それぞれ異なっている。パルス発振器103の3個の発振器が出力するパルスのパルス幅は、計算機201からの指令により、パルス幅制御器108によって制御される。
【0021】
1個のパルス発振器で複数段階のパルス出力が必要になる場合、出力の変化速度に発振器が追いつかない場合には、各出力で波形の相似性が崩れる恐れがある。それに対して、各パルス幅毎に1個のパルス発振器を備え、各発振器を順次切り替えて振幅とパルス幅の異なるパルス信号を得る。このような構成とすることで、1個ごとの発振器で波形や応答性の調整が可能であり、波形の相似性が強く望まれる場合や早い応答が必要な場合に有効である。
【0022】
また、パルス発振器103の3個の発振器が出力するパルスのタイミングは、計算機201からの指令により、タイミング信号発生器105によって制御される。パルス発振器103の3個の発振器は、タイミング信号発生器105によって制御されたタイミングに応じて、時間間隔をおいて出力される。
【0023】
さらに、パルス発振器103の3個の発振器が出力するパルスの振幅は、計算機201からの指令により、可変できる。
【0024】
受信アンテナ102は、送信アンテナ101から送信されたパルスが検査対象2によって反射された波動の反射波を受信する受信手段である。各アンテナ101,102の間で電磁波を送信,受信することができる。
【0025】
検出対象2で反射した電磁波は、受信アンテナ102で反射波として検出され、リミター104により設定振幅以上の反射波の振幅信号部分は、その設定振幅に押さえられる。リミター104は、次段のアナログ・ディジタル変換器106の電気的保護のために用いられる。リミター104を通った反射信号は、受信アンテナで受信して得た各反射波の波形をディジタル値に変換するアナログ・ディジタル変換手段として採用したアナログ・ディジタル変換器106でディジタル信号、即ちディジタル値に変換される。
【0026】
タイミング信号発生器105は、アナログ・ディジタル変換器106を動作させるタイミング,すなわち、アナログ・ディジタル変換器106の変換タイミングを制御している。
【0027】
距離測定器107は、センサ部100が被検査物1の表面を移動した距離を求めるものである。
【0028】
アナログ・ディジタル変換器106でディジタル信号に変換された信号と、距離測定器107の距離測定結果は、演算手段である計算機201に送られ処理される。処理結果は、表示装置202で表示されるほか、記憶装置203に記憶される。
【0029】
次に、図2を用いて、本実施形態による検査レーダ装置の動作原理について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による検査レーダ装置の動作原理の説明図である。
【0030】
図2において、図2(A1),(A2),(A3)は、パルス発振器103から出力されるパルス信号を示しており、これらの信号は、送信アンテナ101から被検査物1に放射される。ここで、図2(A1)は、パルス発振器103の第1の発振器から出力されるパルスを示している。パルスP1,P2,P3,P4は、それぞれ、同じパルス幅D1を有するパルスである。但し、パルスの振幅は、パルスP1,P2,P3,P4のそれぞれが、A1,A2,A3,A4と異なっている。ここで、パルスP1,P2,P3,P4は、それぞれ、時刻t1,t4,t7,t10に出力される。
【0031】
また、図2(A2)は、パルス発振器103の第2の発振器から出力されるパルスを示している。パルスP5,P6,P7,P8は、それぞれ、同じパルス幅D2を有するパルスである。パルス幅D2は、パルス幅D1よりも狭いものである。また、パルスの振幅は、パルスP5,P6,P7,P8のそれぞれが、A1,A2,A3,A4と異なっている。ここで、パルスP5,P6,P7,P8は、それぞれ、時刻t2,t5,t8,t11に出力される。
【0032】
また、図2(A3)は、パルス発振器103の第3の発振器から出力されるパルスを示している。パルスP9,P10,P11,P12は、それぞれ、同じパルス幅D3を有するパルスである。パルス幅D3は、パルス幅D1よりも広いものである。また、パルスの振幅は、パルスP9,P10,P11,P12のそれぞれが、A1,A2,A3,A4と異なっている。ここで、パルスP9,P10,P11,P12は、それぞれ、時刻t3,t6,t9,t12に出力される。
【0033】
ここで、パルスの振幅A1,A2,A3,A4は、例えば、振幅A1を0.1としたとき、振幅A2は0.3,振幅A3は0.7,振幅A4は1.0と順次大きくなっている。なお、振幅A1を0.1としたとき、振幅A2は0.1,振幅A3は1.0,振幅A4は1.0とすることもできる。
【0034】
また、パルス幅D1,D2,D3は、例えば、パルス幅D1を1nsとすると、パルス幅D2を0.5nsと、パルス幅D3を1.5nsとしている。なお、パルス幅D1を1nsとすると、パルス幅D2を0.2nsと、パルス幅D3を2.0nsとすることもできる。
【0035】
第1のパルス発振器が第1のパルスを時刻t1に出力し、第2のパルスを時刻t4に出力すると、その間隔は、例えば、15nsとしている。第3,第4のパルスも15nsの等間隔で出力される。
【0036】
また、第2のパルス発振器が第1のパルスを時刻t2に出力し、第2のパルスを時刻t5に出力すると、その間隔は、例えば、15nsとしている。第3,第4のパルスも15nsの等間隔で出力される。このとき、第1のパルス発振器が第1のパルスを出力する時刻t1に対して、第2のパルス発振器が第1のパルスを出力する時刻t2は、例えば、5ns遅れている。
【0037】
さらに、第3のパルス発振器が第1のパルスを時刻t3に出力し、第2のパルスを時刻t6に出力すると、その間隔は、例えば、15nsとしている。第3,第4のパルスも15nsの等間隔で出力される。このとき、第1のパルス発振器が第1のパルスを出力する時刻t1に対して、第3のパルス発振器が第1のパルスを出力する時刻t3は、例えば、10ns遅れている。
【0038】
図2(A1),(A2),(A3)に示す例では、第1,第2,第3のパルス発振器が出力するパルスをそれぞれ独立して図示しているが、実際には、これは、単一の送信アンテナ101からは、パルスP1,P5,P9,P2,P6,P10,P3,P7,P11,P4,P8,P12の順に、時系列的に順次,例えば、5nsの等間隔で出力される。
【0039】
図2(B1),(B2),(B3)は、受信アンテナ102で受信される波形を示している。ここで、図2(B1)は、図2(A1)に示した送信パルスに対する受信波形を示し、図2(B2)は、図2(A2)に示した送信パルスに対する受信波形を示し、図2(B3)は、図2(A3)に示した送信パルスに対する受信波形を示している。なお、図2(B1),(B2),(B3)に示す例では、第1,第2,第3の受信波形をそれぞれ独立して図示しているが、実際には、これは、単一の受信アンテナ102からは、時系列的に順次受信される。
【0040】
図2(D)は、本実施形態による検査レーダ装置のセンサ部と、被検査物1の例であるコンクリートの深さ方向を例示している。コンクリートの内部には、それぞれ異なる深さのところに、検査対象2である欠陥X,欠陥Y,欠陥Zが存在するものとする。ここで、欠陥Xの深さ方向の幅をd1とし、欠陥Yの深さ方向の幅をd2とし、欠陥Zの深さ方向の幅をd3とし、それぞれの欠陥が異なる大きさを有しているものとする。
【0041】
図2(C)は、被検査物1の例であるコンクリートの深さ方向を複数の領域に分けて検出することを示している。例えば、本実施形態による検査レーダ装置のセンサ部によって、深さ方向に0m〜2mの範囲が検出可能であるとすると、領域1は0m〜0.5mの範囲であり、領域2は0.5m〜1.0mの範囲であり、領域3は1.0m〜1.5mの範囲であり、領域4は1.5m〜2.0mの範囲である。
【0042】
また、深さ2.0mのところに欠陥があるとして、送信アンテナから送信して欠陥で反射した後、受信アンテナで受信されるまでの時間を4msとすると、図1に示したアナログ・ディジタル変換器106の変換タイミングを16μsとして、256回変換すると、4ms(≒16μs×256)の範囲を、16μs毎に256ポイントについてアナログ・ディジタル変換できる。すなわち、アナログ・ディジタル変換器による0回〜64回目までのデジタル変換値は、領域1に相当する信号のディジタル値となり、0回〜64回目までのデジタル変換値は、領域1に相当する信号のディジタル値となり、64回〜128回目までのデジタル変換値は、領域2に相当する信号のディジタル値となり、128回〜192回目までのデジタル変換値は、領域3に相当する信号のディジタル値となり、192回〜256回目までのデジタル変換値は、領域4に相当する信号のディジタル値となる。
【0043】
各領域のサンプリングは、アナログ・ディジタル変換器106で実行されるが、領域2,領域3,領域4では、それ以前の時間に対応する時間が経過したあと波形サンプリングが開始される。これらのタイミングは、タイミング信号発生器105によりあらかじめ設定されている。タイミング信号発生器105は、領域ごとの波形サンプリング数のデータを有しており、例えば領域1のサンプリング数をカウントし、あらかじめ設定してあるカウント数に到達すると領域2のサンプリングに移ることで、領域2以下のデータサンプリング開始点を決定できる。
【0044】
なお、タイミング信号発生器105は、計算機201からサンプリング数のデータを受信し、アナログ・ディジタル変換器106のサンプリング数を決定するようにすることもできる。この場合、例えば領域4では、領域1〜領域4の全データをアナログ・ディジタル変換してから領域1〜領域3のデータを捨て、領域4のデータのみを残すことになる。
【0045】
欠陥の検出には、その深さとともに、その大きさがポイントとなる。欠陥Xは、領域1にあるため、パルスP1,P5,P9のいずれかで検出されるが、ここで、欠陥Xの大きさがd2であるため、大きさd2の欠陥とマッチングするパルス幅D2のパルスP5によって検出される。また、欠陥Yは、領域2にあるため、パルスP2,P6,P10のいずれかで検出されるが、ここで、欠陥Yの大きさがd1であるため、大きさd1の欠陥とマッチングするパルス幅D1のパルスP2によって検出される。さらに、欠陥Zは、領域4にあるため、パルスP4,P8,P12のいずれかで検出されるが、ここで、欠陥Zの大きさがd3であるため、大きさd3の欠陥とマッチングするパルス幅D3のパルスP12によって検出される。
【0046】
このようにして、送信パルスの振幅を変えることで、異なる深さ方向に対する欠陥の検出が可能であるとともに、同じ振幅に対しても異なるパルス幅のパルスを用いることで、異なる大きさの欠陥の検出も可能となる。
【0047】
図2(E1),(E2),(E3)は、それぞれ、図2(B1),(B2),(B3)に示した受信波形を、アナログ・ディジタル変換器106により、16μs毎に256ポイントについてアナログ・ディジタル変換した結果を示している。図2(E1)では、前述したように、欠陥XがパルスP5によって検出される。また、図2(E2)では、前述したように、欠陥YがパルスP2によって検出される。パルスP2は、パルスP1に比べて波長が短いため、増幅後の図2(E1)に示す反射波形に比較して小さな欠陥を検出できる。また、図2(E3)では、前述したように、欠陥ZがパルスP12によって検出される。パルスP12は、パルスP1に比べて波長が長いため、増幅後の図2(E1)に示す反射波形に比較して大きな欠陥を検出できる。
【0048】
次に、図2(F)は、発振器の出力と反射波形の増幅度の関係を示している。例えば、領域1と領域2の境界付近に存在する欠陥は、振幅度A1のパルス(例えば、パルスP1)と、振幅度A2のパルス(例えば、パルスP2)との両方で検出される。ここで、パルスP1とパルスP2は振幅度が異なるため、検出された反射波形の振幅が異なり、領域1と領域2の境界に波形の不連続性を示す場合が生じる。
【0049】
これを防ぐため、各領域で反射信号を増幅し、不連続性を除去する。領域1の反射波形は、発振パルス振幅A1で得た波形である。領域2では、発振パルス振幅A2で反射波を得るから、領域1と領域2の境界の領域1側では領域1の反射波を(A2/A1)に増幅すれば不連続性はなくなる。
【0050】
同様に、領域2と領域3の境界の領域2側では領域2の反射波を(A3/A2)に増幅すれば不連続性はなくなる。領域3についても同じであり、(A4/A3)に増幅する。領域4の増幅については後述する。増幅に関してはさらに注意を要する項目がある。それは、発振振幅と増幅度をかけた値が全領域で滑らかになるように増幅度を決め、各境界だけではなく領域全部で不連続性を無くすることである。その条件を再度まとめると、以下のようになる。
【0051】
各領域の境界での増幅度は、1,2の境界では(A2/A1)、領域2,3の境界では(A3/A2)、領域3,4の境界では(A4/A2)とする。
【0052】
全領域で(発振振幅)×(増幅度) が滑らかに変化すること、発振パルスの振幅、A1〜A4はあらかじめ決めることが可能であるから、上記の条件を満たす曲線を算出できる。また、領域1〜3で(発振振幅)×(増幅度)の曲線を求めれば、その曲線方程式を領域4に外挿することにより、領域4の曲線も決定できる。
【0053】
これらの増幅度や、曲線の計算は、計算機201で実行する。さらに、検出波形の増幅計算(波形を増幅度倍する掛け算)も、計算機201で実施できる。
【0054】
図2(G1),(G2),(G3)は、図2(E1),(E2),(E3)に示した採取後の反射波形に対して、図2(F)で説明した増幅度を変更して得られた増幅後の反射波形を示している。このように、各反射波形を適切に増幅することで、反射波形の振幅を大きくして、信号強度を大きくできる。そして、不連続部のない、観測深さが深くなっても感度低下の少ない波形を得ることができる。
【0055】
次に、図3を用いて、本実施形態による検査レーダ装置の動作について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による検査レーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【0056】
処理を開始すると、まず、ステップS10において、計算機201は、各種パラメータを設定する。設定されるパラメータとしては、1反射波形の点数(前述の例では、256ポイント),分割する領域数(前述の例では、4領域)と各領域のポイント数(前述の例では、64ポイント)や各領域のパルス振幅(前述の例では、領域1では振幅A1,領域2では振幅A2,領域3では振幅A3,領域4では振幅A4)、さらに、各領域の増幅度(図2(F))などがある。
【0057】
これにより、反射波形を採取する準備が整ったので、次にステップS20において、センサー部100が一定距離移動したか否かを判定し、一定距離移動すると、ステップS30において、計算機201は、発振器103に発振タイミングを示すトリガと、発振振幅制御信号を送信し、タイミング信号発生器105にアナログ・ディジタル変換タイミングを送信し、パルス幅制御器108にパルス幅制御信号を送信する。
【0058】
次に、ステップS40において、計算機201は、アナログ・ディジタル変換された反射波形を受信し、ステップS50において、計算機201は、不連続性回避のための増幅度変更処理を行う。
【0059】
そして、ステップS60において、計算機201は、1反射波形の領域分割数であるパルス数(図2の例では、12パルスP1,〜,P12)を終了したか否かを判定し、終了していれば、ステップS70において、次の移動位置への到達を待って上記処理を繰り返す。この操作を、設定範囲内繰り返して検査を終了する。処理の途中、または、処理後に、反射波形やセンサー部移動に伴う反射波形の変化を濃淡分布やカラー表示する。
【0060】
本実施形態の検査レーダ装置を用いた検査方法は、本検査レーダの特長を生かし上述したセンサー部移動走査断面の反射強度分布による反射体の検出がある。また、精度良く反射体の検出を行うのために、公知の合成開口などの映像化処理も実施できる。センサ部100の移動走査を検査対象表面上で2次元状に行えば、深さを加え反射体の3次元情報を明らかに出来る。2次元状の走査には、センサー部100の位置を求める必要があるが、GPS(Global Positioninng System)など公知のセンサーを使用してセンサ部100の走査位置情報を得ることができる。これらの情報の処理は、計算機201で実行する。
【0061】
なお、以上説明した例では、反射波形を採取する領域数を4領域とし、各領域の長さ(データ点数)を同じにして説明したが、その領域の数や領域長さが変化しても問題ないものである。また、上記の例では領域1から領域4へと順番に反射波データを採取したが、各領域1〜4に対応した計算機内のメモリに反射波データを書き込むようにすることによって反射波データの採取の順序は任意でよいものである。
【0062】
このように本実施形態では、電磁波の波動を使ったコンクリートや土砂,機械部品などを検査する検査レーダに係わり、反射波形データの長さをいくつかの領域に分け、領域ごとに送信信号振幅を変化させ、各領域の反射データを採取する。領域ごとに送信信号の大きさが異なるため、領域の境界で波形の不連続性が発生する可能性がある。このため、各領域の波形を増幅している。
【0063】
この増幅度は、あらかじめ検査対象の減衰率と、発振信号出力の大きさで決めておく。この結果、発振出力が徐々に大きくなっても振幅が連続的な反射波形を得ることができる。各出力の振幅が大きくなることは、深い部分を観測するとき大きな出力を用いることに対応し、この結果、電磁波などの波動の伝搬減衰を低減して感度を向上させることができる。
【0064】
また、1個の出力信号で複数ポイントの波形データを採取できるため、1反射波形を得る時間を短縮できる長所がある。
【0065】
あらに、パルス幅を変更した結果、反射波形の各波長に対応した欠陥の反射波を検出することができる。深部における検出感度「検出可能な欠陥の大きさ(検出範囲)」を更に向上することができる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態では、発振パルスの振幅を検査位置の深さが深くなるほど大きくする。また、波形の不連続性を無くするために、各領域1〜領域4ごとにあらかじめ定めた増幅を行う。さらに、各領域では、同じ振幅でパルス幅の異なるパルスにより検出することで、欠陥等の検査対象の大きさが異なる場合でも検出精度を向上することができる。
【0067】
なお、本実施形態は電磁波を使った例の他にも、例えば、超音波など他の波動を用いた場合も、アンテナの部分に超音波送受信探触子を用いることで容易に適用可能である。
【0068】
次に、図4を用いて、本発明の他の実施形態による検査レーダ装置の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による検査レーダ装置のシステム構成は、図1に示したものと同様である。
図4は、本発明の他の実施形態による検査レーダ装置の動作を示すフローチャートである。なお、図3と同一ステップ番号は、同一処理内容を示している。
【0069】
本実施形態では、図3に示した処理に加えて、ステップS62〜S68の処理を追加している。そして、反射波形を複数個平均化すること、発振パルス幅に応じた反射波形を合成するようにしている。
【0070】
すなわち、ステップS62において、計算機201は、採取した反射波形を記憶装置203に記憶する。
【0071】
そして、ステップS64において、計算機201は、あらかじめ設定した複数回数終了したか否かを判定し、複数回の反射波形の採取が修了すると、ステップS66において、計算機201は、記憶された複数の反射波形を平均化し、ステップS68において、反射波形を合成する。
【0072】
このような平均化、合成処理によって、電気ノイズのようなランダムな信号を減少させることができる。ランダムノイズの低減割合は、平均回数の1/2乗に反比例し、たとえば、16回の平均化を行うとノイズは1/4になる。このように、平均化することによりノイズを下げる、つまり、S/Nを向上させることができる。これは、本実施形態の反射波形採取時間がこれまでより短く、一定時間を考えると多数の反射波形を採取できる理由による。この結果、S/Nが向上し、より微弱な反射信号でも識別可能になる大きな利点がある。
【符号の説明】
【0073】
1…被検査物
2…検出対象
100…センサ部
101…送信アンテナ
102…電磁波の受信アンテナ
103…パルス発振器
104…リミター
105…タイミング信号発生器
106…アナログ・ディジタル変換器
107…距離測定器
108…パルス幅制御器
201…計算機
202…表示装置
203…記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振幅の異なる複数のパルスを時間間隔をおいて出力するパルス発振器と、
前記パルスを波動に変換して被検査物に放射する送信手段と、
前記波動の反射波を受信する受信手段と、
該受信手段で受信された前記反射波の波形をディジタル値に変換するアナログ・ディジタル変換手段と、
該アナログ・ディジタル変換手段を動作させるタイミング信号を発生するタイミング信号発生手段とを有し、
該タイミング信号発生手段からのタイミング信号に応じて、前記アナログ・ディジタル変換手段は、前記反射波の波形をディジタル値に変換し、変換されたディジタル値に基づいて、検査結果を示す情報を生成する検査レーダ装置であって、
前記パルス発振器が出力する複数の振幅の異なるパルスに対して、それぞれ、異なるパルス幅のパルスを出力するように、前記パルス発振器を調節するパルス幅制御器を備えることを特徴とする検査レーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載の検査レーダ装置において、
前記パルス発振器は、それぞれ異なる振幅のパルスを出力する複数のパルス発振器から構成されることを特徴とする検査レーダ装置。
【請求項3】
請求項1記載の検査レーダ装置において、
前記パルス発振器は、同一振幅で同一パルス幅のパルスを複数回出力するとともに、
その複数回のパルス出力に応じて得られた複数の反射波の波形のディジタル値を平均化処理する計算機を備えることを特徴とする検査レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−2422(P2011−2422A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147691(P2009−147691)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】