説明

検査装置および検査プログラム

【課題】被検体に対する撮影画像を使った検査を容易かつ高精度で行うことができる検査装置と、コンピュータをそのような検査装置として動作させる検査プログラムを提供する。
【解決手段】同一の被検体に対する、互いに撮影時刻が異なる複数の撮影画像を入手する画像入手部310と、複数の撮影画像のうちの2つの撮影画像について、一方の撮影画像の変形によりそれら2つの撮影画像を一致させるのに要する変形量を算出する変形量算出部330と、その変形量に基づいて、2つの撮影画像相互間における時間経過で被検体に生じた変形の箇所を検出する変形検出部370と、その時間経過で被検体に生じた亀裂等の箇所を検出する欠陥検出部360とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に生じた損壊の箇所を探索する検査装置、および、コンピュータをそのような検査装置として動作させる検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用のジェットエンジン、船舶用のガスタービンエンジン、火力発電所や原子力発電所の発電機等において高温高圧の過酷な環境下に曝されるタービンブレードは、メンテナンス時等における安全上重要な検査対象となっている。このようなタービンブレードの検査方法の一例としては、ジェットエンジン等の内部にファーバースコープやCCDを利用した電子内視鏡を挿入してタービンブレードの外観を撮影し、その撮影で得られた撮影画像を検査員が目視観察することでタービンブレードにおける損壊の箇所を探索するという検査方法がある(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平7−113749号公報
【特許文献2】特開平11−99126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、タービンブレードに対する検査の重要性が増し、上記のように外観に対する観察だけでなく、X線撮影によってタービンブレードの内部を撮影し、そのX線撮影で得られた撮影画像を検査員が目視観察することでタービンブレードの損壊の箇所を内部に至るまで詳細に探索するという検査方法も行われるようになっている。このようなX線撮影によるタービンブレードの内部に対する検査は、シャーカステンに装着された撮影画像を、例えば視力1.5以上の専門の検査員が精細に目視観察すること等によって行われている。このような目視観察による検査には、検査員にとって非常な負担になるという問題や、検査の精度が検査員の技量によってバラ付く可能性があるという問題がある。
【0004】
尚、ここまで、タービンブレードの検査を例に挙げて、検査員にとっての負担や検査精度の不安定性といった問題について説明した。しかし、このような問題は、タービンブレードの検査に限らず、撮影画像を使って被検体の損壊の箇所を探索する際に一般的に生じる問題である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、撮影画像を使って被検体の損壊の箇所を容易かつ高精度で探索することができる検査装置と、コンピュータをそのような検査装置として動作させる検査プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の検査装置は、
同一の被検体に対する、互いに撮影時刻が異なる複数の撮影画像を入手する画像入手部と、
上記複数の撮影画像のうちの2つの撮影画像について、一方の撮影画像の変形によりそれら2つの撮影画像を一致させるのに要する変形量を算出する変形量算出部と、
上記2つの撮影画像相互間における時間経過で上記被検体に生じた損壊の箇所を、上記変形量算出部で算出された変形量、又はその変形量を用いて一致させた撮影画像に基づいて探索する探索部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の検査装置によれば、被検体の損壊の箇所が、上記変形量算出部で算出された変形量、又はその変形量を用いて一致させた撮影画像に基づいて探索される。これにより、被検体の損壊の箇所を、目視観察等といった検査員の技量に結果が左右される検査方法によることなく一義的に探索することができる。従って、本発明の検査装置によれば、被検体に対する撮影画像を使った検査を容易かつ高精度で行うことができる。
【0008】
ここで、本発明の検査装置において、「上記探索部によって見つけ出された損壊の箇所を、上記撮影画像中に指し示す損壊箇所指示部を備えた」という形態は好ましい形態である。
【0009】
この好ましい形態の検査装置によれば、被検体の損壊の箇所を視覚的に確認することができる。
【0010】
また、本発明の検査装置において、「上記探索部が、上記変形量が所定の程度を超えている箇所を上記損壊の箇所として探索するものであって、
上記探索部によって見つけ出された損壊の箇所における変形の方向を、上記撮影画像中に指し示す変形方向指示部を備えた」という形態も好ましい形態である。
【0011】
この好ましい形態の画像形成装置によれば、例えば被検体の損壊の箇所における伸び変形等といった変形がどの方向に向かって発生しているかを視覚的に確認することができる。
【0012】
また、本発明の検査装置において、「上記探索部が、上記変形量を用いて一致させた2つの撮影画像のうちの一方のみに写っている箇所を上記損壊の箇所として探索するものである」という形態も好ましい形態である。
【0013】
この好ましい形態の検査装置によれば、例えば被検体の損壊のうち、伸び変形等といった変形に係る損壊が見かけ上修正され、その修正済みの2つの撮影画像のうちの一方のみに写っている箇所を上記損壊の箇所として探索することで、亀裂等に係る損壊の箇所を一層確実に探索することができる。
【0014】
また、本発明の検査装置において、「上記変形量を用いて一致させた2つの撮影画像相互間の差分画像を生成して表示する差分画像表示部を備えた」という形態も好ましい。
【0015】
この好ましい形態の画像形成装置によれば、撮影画像から、被検体の亀裂等に係る損壊の箇所を抽出し、その抽出した損壊の箇所を、上記差分画像として視覚的に確認することができる。
【0016】
また、本発明の検査装置において、「上記撮影画像中の領域の指定を受けて、その領域内の画像部分を拡大して表示する拡大表示部を備えた」という形態も好ましい形態である。
【0017】
この好ましい形態の検査装置によれば、上記撮影画像中の所望の箇所を詳細に観察することができる。
【0018】
上記目的を達成する本発明の検査プログラムは、
コンピュータに組み込まれ、そのコンピュータ上で、
同一の被検体に対する、互いに撮影時刻が異なる複数の撮影画像を入手する画像入手部と、
上記複数の撮影画像のうちの2つの撮影画像について、一方の撮影画像の変形によりそれら2つの撮影画像を一致させるのに要する変形量を算出する変形量算出部と、
上記2つの撮影画像相互間における時間経過で上記被検体に生じた損壊の箇所を、上記変形量算出部で算出された変形量、又はその変形量を用いて一致させた撮影画像に基づいて探索する探索部とを構築することを特徴とする。
【0019】
本発明の検査プログラムによれば、撮影画像を使って被検体の損壊の箇所を容易かつ高精度で探索することができる上述の検査装置を容易に実現することができる。
【0020】
尚、本発明の検査プログラムについては、ここではその基本形態のみを示すに止めるが、これは単に重複を避けるためであり、本発明の検査プログラムには、上記の基本形態のみではなく、前述した検査装置の各形態に対応する各種の形態が含まれる。
【0021】
また、本発明の検査プログラムがコンピュータ上に構築する画像入手部などといった要素は、1つの要素が1つのプログラム部品によって構築されるものであっても良く、1つの要素が複数のプログラム部品によって構築されるものであっても良く、複数の要素が1つのプログラム部品によって構築されるものであっても良い。また、これらの要素は、そのような作用を自分自身で実行するものとして構築されても良く、あるいは、コンピュータに組み込まれている他のプログラムやプログラム部品に指示を与えて実行するものとして構築されても良い。
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように、本発明によれば、撮影画像を使って被検体の損壊の箇所を容易かつ高精度で探索することができる検査装置と、コンピュータをそのような検査装置として動作させる検査プログラムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態の検査装置として動作するパーソナルコンピュータを示す図である。
【0025】
この図1に示すコンピュータ100は、CPU、メモリ、ハードディスク等を内蔵した本体部110、モニタ121に画像表示を行なう画像表示装置120、このコンピュータ100にユーザの指示や文字情報を入力するためのキーボード130、モニタ121上の任意の位置を指定することによりその位置に応じた指示を入力するマウス140を備えている。
【0026】
また、本体部110は、外観上、フレキシブルディスク(FD)が装填されるFD装填口110aおよびCD−ROMが装填されるCD−ROM装填口110bを有している。
【0027】
図2は、図1に示す外観を有するコンピュータのハードウェア構成図である。
【0028】
パーソナルコンピュータ100の本体部110の内部には、図2に示すように、各種プログラムを実行するCPU111、ハードディスク装置113に格納されたプログラムが読み出されCPU111での実行のために展開される主メモリ112、各種プログラムやデータ等が保存されたハードディスク装置113、FD150をアクセスするFDドライブ114、CD−ROM160をアクセスするCD−ROMドライブ115、不図示の外部機器と撮影画像等の各種情報をやり取りするI/Oインタフェース116が内蔵されており、これらの各種要素と、さらに図1にも示す画像表示装置120、キーボード130、マウス140は、バス117を介して相互に接続されている。
【0029】
本発明の一実施形態の検査装置は、図1および図2に示すパーソナルコンピュータ100が、この検査装置に対応した検査プログラムに従って動作することによりこのパーソナルコンピュータ100内に構築されるものである。この検査プログラムは、図2に示すCD−ROM160に記憶されて、このCD−ROM160を介してパーソナルコンピュータ100に供給される。
【0030】
尚、上記では、検査プログラムを記憶する記憶媒体としてCD−ROM160が例示されているが、検査プログラムを記憶する記憶媒体はCD−ROMに限られるものではなく、それ以外の光ディスク、MO、FD、磁気テープなどの記憶媒体であってもよい。また、検査プログラムは、記憶媒体を介さずに、I/Oインタフェース116を介して直接にパーソナルコンピュータ100に供給されるものであってもよい。
【0031】
図3は、検査プログラムが記憶されたCD−ROM160を示す概念図である。
【0032】
CD−ROM160に記憶された検査プログラム200は、本発明の検査プログラムの一実施形態に相当し、画像入手部210、モード指定部220、変形量算出部230、変形部240、差分画像生成部250、欠陥検出部260、変形検出部270、領域指定部280、および表示部290で構成されている。
【0033】
この検査プログラム200の各部の詳細については、検査装置の各部の作用と一緒に説明する。
【0034】
図4は、検査装置の機能ブロック図である。
【0035】
この図4に示す検査装置300は、例えば航空機用のジェットエンジンを構成するタービンブレード等といった被検体に生じた変形や亀裂等といった損壊の箇所を、被検体についての撮影時刻が互いに異なる複数の撮影画像を利用して探索するものであり、本発明の検査装置の一実施形態に相当する。この検査装置300は、画像入手部310と、モード指定部320と、変形量算出部330と、変形部340と、差分画像生成部350と、欠陥検出部360と、変形検出部370と、領域指定部380と、表示部390とを有している。
【0036】
ここで、この図4に示す画像入手部310が、本発明にいう画像入手部の一例に相当し、変形量算出部330が、本発明にいう変形量算出部の一例に相当する。また、変形部340と差分画像生成部350と欠陥検出部360と変形検出部370とを合せたものが、本発明にいう探索部の一例に相当し、欠陥検出部360と変形検出部370と表示部390とを合せたものが、本発明にいう損壊箇所指示部の一例に相当し、変形検出部370と表示部390とを合せたものが、本発明にいう変形方向指示部の一例に相当し、差分画像生成部350と表示部390とを合せたものが、本発明にいう差分画像表示部の一例に相当し、領域指定部380と表示部390とを合せたものが、本発明にいう拡大表示部の一例に相当する。
【0037】
また、図4の検査装置300を構成する、画像入手部310、モード指定部320、変形量算出部330、変形部340、差分画像生成部350、欠陥検出部360、変形検出部370、領域指定部380、および表示部390は、図3の検査プログラム200を構成する、画像入手部210、モード指定部220、変形量算出部230、変形部240、差分画像生成部250、欠陥検出部260、変形検出部270、領域指定部280、および表示部290にそれぞれ対応する。
【0038】
さらに、図4の各要素は、コンピュータのハードウェアとそのコンピュータで実行されるOSやアプリケーションプログラムとの組合せで構成されているのに対し、図3に示す検査プログラム200の各要素はそれらのうちのアプリケーションプログラムのみにより構成されている点が異なる。
【0039】
図4に示す画像入手部310は、被検体についての撮影時刻が互いに異なる複数の撮影画像を、ユーザの指定により入手する。以下、被検体としてタービンブレードを例に挙げて説明を行う。
【0040】
図5は、図4の検査装置300において変形や亀裂等といった損壊の箇所が探索される被検体の一例であるタービンブレードを示す模式図である。
【0041】
図5のパート(a)には、タービンブレードTbの外観図が示され、パート(b)には、タービンブレードTbの透視図が示されている。以下、図4の検査装置300において、このようなタービンブレードTbの内部構造も含めての損壊の箇所を探索する処理を例に挙げて、検査装置300の各構成要素の動作について説明する。そこで、図4に示す画像入手部310では、タービンブレードTbに対するX線撮影によって得られる図5のパート(b)の透視図に示すようなX線撮影画像が入手されたものとする。また、図4の検査装置300での損壊の箇所の探索は、被検体についての撮影時刻が互いに異なる複数の撮影画像を使って行われる。以下では、タービンブレードTbについての新品時のX線撮影画像G0、タービンブレードTbについての現在のX線撮影画像G1、現在から3ヶ月前のX線撮影画像G2、6ヶ月前のX線撮影画像G3、および9ヶ月前のX線撮影画像G4という5つの撮影画像が、画像入手部310で入手されたものとする。画像入手部310は、これらの撮影画像を入手すると、入手した旨をモード指定部320に伝え、さらに、入手した撮影画像を表示部390に渡す。
【0042】
モード指定部320は、画像入手部310から撮影画像を入手した旨を伝えられると、次のような表示画面を、表示部390に指示して図1のモニタ121に表示させる。
【0043】
図6は、表示画面の一例を示す図である。
【0044】
この図6に示す表示画面321は、画像入手部310で入手された撮影画像がサムネイル表示されるサムネイル表示部321aを備えている。この表示画面321では、サムネイル表示されている撮影画像のうちの所望の2つの撮影画像をクリック操作によって選択することが可能となっており、この表示画面321には、サムネイル表示されている撮影画像のうちクリック操作によって選ばれた撮影画像(選択画像)等が表示される選択画像表示部321bが備えられている。
【0045】
また、本実施形態の検査装置300は、選択画像表示部321bでの表示モードとして4種類の表示モードを有している。そして、表示画面321には、選択画像をそのまま表示するオリジナルモードを表示モードとして指定するためのオリジナルモード指定ボタン321cと、選択画像を被検体の損壊の箇所を指し示すマークを付して表示するCADモードを表示モードとして指定するためのCADモード指定ボタン321dと、2つの選択画像の映像的な差からなる差分画像を表示するTS(経時サブトラクション)モードを表示モードとして指定するためのTSモード指定ボタン321eと、2つの選択画像のうち一方の選択画像に対する他方の選択画像における被検体の変形の程度を数値表示する計測モードを表示モードとして指定するための計測モード指定ボタン321fとが備えられている。
【0046】
また、本実施形態の検査装置300は、4種類の表示モードのうち指定された表示モードと併用され、選択画像における所望の関心領域内の画像部分を拡大表示するROIモードを有している。そして、表示画面321には、このROIモードを指定するためのROIモード指定ボタン321gが備えられている。
【0047】
さらに、本実施形態の検査装置300では、選択画像表示部321bでの表示内容等の保存が可能となっており、表示画面321には、保存を指示するための保存指示ボタン321fが備えられている。
【0048】
以下、各表示モードが指定されたときの図4の検査装置300の動作について説明する。
【0049】
まず、オリジナルモードが指定されたときの動作について説明する。
【0050】
サムネイル表示されている撮影画像のうち2つの撮影画像がクリック操作によって選ばれ、オリジナルモード指定ボタン321cがクリックされてオリジナルモードが指定されると、図4のモード指定部320は、選ばれた2つの撮影画像(選択画像)を他の画像と識別する識別情報と、オリジナルモードが指定された旨とを表示部390に伝える。すると、表示部390は、モード指定部320から伝えられた識別情報が示す選択画像を選択画像表示部321bに表示する。
【0051】
図7は、オリジナルモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【0052】
オリジナルモード指定ボタン321cがクリックされてオリジナルモードが指定されると、そのオリジナルモード指定ボタン321cがグレー表示され、表示画面321が現在オリジナルモードになっていることが明示的に示される。
【0053】
このオリジナルモードでは、撮影時刻が早い方の選択画像が選択画像表示部321bにおける画面右側に表示され、撮影時刻が遅い方の選択画像が画面の左側に表示される。また、各選択画像は、サムネイル表示部321aに表示されているサムネイル画像のどれに対応するかが分かるように、各々対応するサムネイル画像と線で結ばれて表示される。この図7の例では、選択画像として、タービンブレードTbについての現在のX線撮影画像G1と、現在から6ヶ月前のX線撮影画像G3とが選ばれ、それらの選択画像がオリジナルモードで表示されている。
【0054】
また、本実施形態では、選択画像表示部321bに表示されている選択画像上の所望の箇所をクリックすることで、その箇所に不図示のコメント入力欄が表示され、ユーザが、そのコメント入力欄にコメントを入力することができる。また、コメントの入力後に保存指示ボタン321fをクリックすることで、そのコメントがコメント入力欄の表示箇所に配置されたコメント付画像が作られて、元の撮影画像と対応付けられて保存される。そして、今後、この元の撮影画像についてのオリジナルモードでの表示は、このコメント付画像で行われる。
【0055】
次に、CADモードが指定されたときの動作について説明する。
【0056】
2つの選択画像が選ばれ、CADモード指定ボタン321dがクリックされてCADモードが指定されると、図4のモード指定部320は、選択画像を他の画像と識別する識別情報を画像入手部310と表示部390とに伝え、CADモードが指定された旨を画像入手部310と変形量算出部330と変形部340と差分画像生成部350と表示部390とに伝える。
【0057】
CADモードは、上述したように、選択画像を被検体の損壊の箇所を指し示すマークを付して表示する表示モードである。ここで、本実施形態では、画像入手部310で入手された複数の撮影画像のうち撮影時刻が最も早い撮影画像(ここでの例では、タービンブレードTbについての新品時のX線撮影画像G0)と各選択画像との比較によって被検体の損壊の箇所が検出される。
【0058】
画像入手部310は、モード指定部320からCADモードが指定された旨を伝えられCADモードでの動作を実行する場合には、2つの選択画像と、撮影時刻が最も早い撮影画像(新品時のX線撮影画像G0)を変形量算出部330に渡す。
【0059】
変形量算出部330は、CADモードでの動作を実行する場合には、以下に説明する処理により、各選択画像について変形で新品時のX線撮影画像G0に一致させるのに要する変形量を求める。
【0060】
変形量算出部330では、変形量を算出する前に、まず、選択画像を新品時のX線撮影画像G0に対して相対的に傾けあるいは動かすことにより、この選択画像を新品時のX線撮影画像G0に概略的に一致させるグローバルマッチング処理が実行される。このグローバルマッチング処理により、選択画像の新品時のX線撮影画像G0に対する概略的な位置合せが行われ、例えば画角内での被検体の位置ズレ等が解消される。このグローバルマッチング処理が終了すると、グローバルマッチング処理後の位置合せ済みの選択画像について変形量が次のように求められる。
【0061】
まず、以下に説明するシフトベクトルが算出される。
【0062】
図8は、シフトベクトルの算出処理を説明する説明図である。
【0063】
変形量算出部330では、まず、図8のパート(a)に示すように、新品時のX線撮影画像G0に、正方形状の領域であるテンプレート331が等間隔で設定される。
【0064】
次に、図8のパート(b)に示すように、位置合せ済みの選択画像に、各テンプレート331の中心に対応する位置を中心とし、テンプレート331のサイズよりも広い探索範囲332が設定される。
【0065】
続いて、この探索範囲332内において、新品時のX線撮影画像G0のテンプレート331と最も一致する一致箇所333が探索される。ここでの一致は、テンプレート331と比較対象の画像部分との画素値の差の総和で表される。そして、この一致箇所333の探索では、この画素値の差の総和が上記の探索範囲332内において最小となる画像部分がこの一致箇所333として探索される。
【0066】
変形量算出部330は、このような探索によって一致箇所333を見つけだすと、その一致箇所333の中心から探索範囲332の中心に向かうベクトルを、テンプレート331に対するシフトベクトルSbとして算出する。このシフトベクトルSbは、位置合せ済みの選択画像を新品時のX線撮影画像G0に一致させるために要する、テンプレート331についての局所的な変形方向および変形量を示している。
【0067】
変形量算出部330は、このようなシフトベクトルSbの算出を、新品時のX線撮影画像G0における全てのテンプレート331について行う。
【0068】
シフトベクトルSbの算出が終了すると、変形量算出部330では、位置合せ済みの選択画像を構成する各画素のシフトベクトルの算出が後述の補間計算によって行われる。
【0069】
図9は、補間計算による画素のシフトベクトルの算出処理を模式的に表わす図である。
【0070】
この図9に示すように、本実施形態では、4つのテンプレート331それぞれについて求められた4つのシフトベクトルSb_1,Sb_2,Sb_3,Sb_4を使った4点補間計算によって、位置合せ済みの選択画像においてそれら4つのテンプレート331の中心に対応する4点によって囲まれる四角形の領域内の各画素PのシフトベクトルPbが算出される。このシフトベクトルPbは、そのシフトベクトルPbの起点に対応する画素P’をそのシフトベクトルPbの終点に相当する画素Pの位置まで移動するのに要する移動方向と移動量を表している。
【0071】
ここで、このような4点補間計算によって求められる各画素のシフトベクトルには、撮影画像の画像状態や、一致箇所の探索における計算上の探索誤差や、4点補間計算における計算誤差等が含まれており、シフトベクトル間の連続性に乱れや不整合が生じている可能性がある。そこで、位置合せ済みの選択画像を構成する全画素についてシフトベクトルが算出されると、多項式近似の手法を用いた補正によって各画素のシフトベクトルの並びが整えられる。
【0072】
以上、説明したように求められた位置合せ済みの選択画像を構成する各画素のシフトベクトルが、その選択画像を新品時のX線撮影画像G0に一致させるために要する変形方向および変形量を示している。
【0073】
変形量算出部330は、求めた各画素のシフトベクトルを、変形部340および変形検出部370に渡す。また、変形量算出部330は、変形部340には、上記の位置合せ済みの選択画像と、画像入手部310から渡された2つの選択画像のうちのもう一方の選択画像と、新品時のX線撮影画像G0とも渡す。
【0074】
変形部340は、CADモードでの動作を実行する場合には、変形量算出部330から渡された各画素のシフトベクトルに基づいて、位置合せ済みの選択画像における各シフトベクトルの起点の画素を動かす。その結果、その位置合せ済みの選択画像が全体的に滑らかに変形されて、画素単位で新品時のX線撮影画像G0に合わされた変形済みの選択画像G’が得られる。ここで、この変形済みの選択画像G’は、選択画像と新品時のX線撮影画像G0との相互間における時間経過でタービンブレードに生じた伸び等といった変形が見かけ上修正された画像である。ただし、選択画像に写っているタービンブレードに亀裂等が生じていた場合には、その亀裂等の箇所は変形によっても修正されずに選択画像に残ることとなる。変形済みの選択画像G’は、新品時のX線撮影画像G0と共に差分画像生成部350に渡される。
【0075】
差分画像生成部350は、CADモードでの動作を実行する場合には、変形済みの選択画像G’と新品時のX線撮影画像G0との間で画素値の差を算出し、その算出された差を画素値とする差分画像G”を生成する。この差分画像G”には、変形によっても修正されずに選択画像に残った被検体の亀裂等が捉えられている。差分画像生成部350は、CADモードでの動作を実行する場合には、生成した差分画像G”を欠陥検出部360に渡す。
【0076】
ここで、差分画像G”に亀裂等として捉えられている画像部分には、大別して、被検体の欠けに由来する塊状の画像部分と、被検体の亀裂に由来する線形状の画像部分とがある。また、あまりに微小な画像部分については、撮影画像中のノイズや算出誤差の可能性もある。そこで、本実施形態では、差分画像G”中の、所定の閾値サイズを越える大きさを有する塊状の画像部分と、所定の複数方向のうちいずれかの方向を向き所定の閾値サイズを越える長さを有する線形状の画像部分とが、被検体における亀裂等の箇所に相当するという仮定の下で、欠陥検出部360が、差分画像G”において、上記の塊状の画像部分と線形状の画像部分とを検出する。尚、塊状の画像部分についての閾値サイズと、線形状の画像部分についての閾値サイズおよび検出対象となる複数方向とは、検査対象となっている被検体(ここでの例ではタービンブレード)について過去に生じた損壊の例に基づいて予め統計的に求められている。
【0077】
本実施形態では、このような塊状の画像部分と線形状の画像部分との検出が、例えば特開平8−272961や特開2002−133397に開示されているモーフォロジー演算を用いて実行される。塊状の画像部分を検出するモーフォロジー演算では、塊状の画像部分についての閾値サイズのモーフォロジーフィルターが使った探索が行われて、そのモーフォロジーフィルターを超える大きさを有する塊状の画像部分が検出される。また、線形状の画像部分を検出するモーフォロジー演算では、線形状の画像部分についての閾値サイズを有し、検出対象となる複数方向それぞれを向いた複数種類のモーフォロジーフィルターを使った探索が行われて、各モーフォロジーフィルターのいずれかと同じ方向を向きそのモーフォロジーフィルターを超える長さを有する線形状の画像部分が検出される。モーフォロジー演算については、上記の特許文献等に開示された公知の技術であるので説明はここまでに止め、詳細については説明を省略する。
【0078】
欠陥検出部360において、差分画像G”中の塊状の画像部分と線形状の画像部分とが、その差分画像G”に対応する選択画像における亀裂等の箇所として検出されると、それら検出された箇所を示す位置が表示部390に伝えられる。
【0079】
ところで、変形量算出部330からは、上述したように、選択画像を新品時のX線撮影画像G0に一致させるために要する変形方向および変形量を示す各画素のシフトベクトルが変形検出部370にも渡される。この変形検出部370では、選択画像中で、シフトベクトルの大きさが所定の閾値を超える画素からなる画像部分が、選択画像における被検体の変形の箇所として検出される。そして、それら検出された変形の箇所の位置が表示部390に伝えられる。
【0080】
本実施形態では、表示モードとしてCADモードが指定された場合には、以上に説明した亀裂等の箇所の検出と変形の箇所の検出とが、クリック操作によって選ばれた2つの選択画像それぞれについて実行される。そして、表示分390は、モード指定部320から伝えられた識別情報が示すこれら2つの選択画像を、上記の選択画像表示部321b(図6参照)に表示すると共に、各選択画像中に、検出された亀裂等の箇所および変形の箇所を示すマークを配置する。
【0081】
図10は、CADモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【0082】
CADモード指定ボタン321dがクリックされてCADモードが指定されると、そのCADモード指定ボタン321dがグレー表示され、表示画面321が現在CADモードになっていることが明示的に示される。
【0083】
この図10の例では、タービンブレードについての現在のX線撮影画像G1と、現在から6ヶ月前のX線撮影画像G3とが選択されて、それらの選択画像が表示されている。そして、各選択画像中には、上述した検出処理で検出された変形や亀裂等といった損壊の箇所を示す三角印のマークMが配置されている。
【0084】
ここで、図示では区別されていないが、本実施形態では、亀裂等を指し示すマークMと変形の箇所を指し示すマークMとが互いに別色で表示される。さらに、亀裂等の箇所を指し示すマークMについても、塊状の損壊の箇所を指し示すマークMと線形状の損壊を指し示すマークMとで互いに別色で表示される。これにより、各マークMが指し示す箇所の損壊が亀裂等と変形とのいずれであるのか、さらに、亀裂等の損壊については、その損壊が、欠けに相当する塊状の損壊と亀裂に相当する線形状の損壊とのいずれであるのかを視覚的に認識することができる。また、変形については、マークMが、その先端が変形方向を向くように配置されるので、その変形方向を視覚的に認識することができる。
【0085】
CADモードで選択画像が表示されている状態で、保存指示ボタン321fがクリックされると、マーク付の撮影画像が、元の撮影画像と対応付けられて保存される。そして、今後、このマーク付の撮影画像についてのCADモードでの表示は、上述した各種処理が省略されて、この保存されているマーク付の撮影画像で行われる。
【0086】
以上、説明したCADモードによれば、被検体の変形と亀裂等といった損壊の箇所を視覚的に確認することができる。
【0087】
次に、TSモードが指定されたときの動作について説明する。
【0088】
2つの選択画像が選ばれ、TSモード指定ボタン321e(図6参照)がクリックされてTSモードが指定されると、図4のモード指定部320は、選択画像を他の画像と識別する識別情報を画像入手部310と表示部390とに伝え、TSモードが指定された旨を画像入手部310と変形量算出部330と変形部340と差分画像生成部350と表示部390とに伝える。
【0089】
TSモードは、上述したように、2つの選択画像の映像的な差からなる差分画像を表示する表示モードである。
【0090】
画像入手部310は、TSモードが指定されると2つの選択画像を変形量算出部330に渡す。
【0091】
変形量算出部330は、モード指定部320からTSモードが指定された旨を伝えられTSモードでの動作を実行する場合には、CADモードにおける処理と同等な処理により、撮影時刻が遅い方の選択画像を撮影時刻が早い方の選択画像に一致させるのに要する変形量を示す各画素のシフトベクトルを求め、それら各画素のシフトベクトルと、2つの選択画像とを変形部340に渡す。
【0092】
変形部340は、渡された各画素のシフトベクトルに基づいて、CADモードにおける処理と同等な処理により、撮影時刻が遅い方の選択画像を変形して撮影時刻が早い方の選択画像に一致させて、変形済みの選択画像と、撮影時刻が早い方の選択画像とを差分画像生成部350に渡す。
【0093】
差分画像生成部350は、TSモードでの動作を実行する場合には、変形部340から渡された2つの選択画像について、CADモードにおける処理と同等な処理により差分画像G”を生成し、生成した差分画像G”を表示部390に渡す。そして、表示部390は、モード指定部320から渡された識別情報が示す2つの選択画像のうち、撮影時刻が遅い方の選択画像と、差分画像生成部350から渡された差分画像G”とを、上記の選択画像表示部321b(図6参照)に表示する。
【0094】
図11は、TSモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【0095】
TSモード指定ボタン321eがクリックされてTSモードが指定されると、そのTSモード指定ボタン321eがグレー表示され、表示画面321が現在TSモードになっていることが明示的に示される。
【0096】
この図11の例では、タービンブレードについての現在のX線撮影画像G1と、現在から6ヶ月前のX線撮影画像G3とが選択されており、両者のうちで撮影時刻が遅い現在のX線撮影画像G1と、両者の差分画像とが表示されている。また、差分画像については、画面左側に表示されている現在のX線撮影画像G1と、サムネイル表示されている6ヶ月前のX線撮影画像G3との差分画像であることが分かるように、この6ヶ月前のX線撮影画像G3のサムネイル画像と線で結ばれている。
【0097】
このTSモードでの表示によって、ユーザは、被検体の亀裂等が、2つの選択画像相互間における時間経過中にどの程度伸展しているか等を、差分画像を目視することで確認することができる。
【0098】
また、TSモードでの表示に当たって、撮影時刻が遅い方の選択画像が過去にCADモードで表示されたものであり、その選択画像と対応付けられて上記のマーク付の撮影画像が保存されている場合には、画面左側には、そのマーク付の撮影画像が表示される。これにより、ユーザは、その選択画像における損壊の箇所を把握しながらその損壊の伸展具合とを確認することができる。
【0099】
また、TSモードで表示されている状態で、保存指示ボタン321fがクリックされると、画面右側に表示されている差分画像が、元の2つの撮影画像と対応付けられて保存される。そして、今後、これら2つの撮影画像についてのTSモードでの表示は、上述した各種処理が省略されて、この保存されている差分画像で行われる。
【0100】
次に、計測モードが指定されたときの動作について説明する。
【0101】
2つの選択画像が選ばれ、計測モード指定ボタン321f(図6参照)がクリックされて計測モードが指定されると、図4のモード指定部320は、2つの選択画像を他の画像と識別する識別情報と、計測モードが指定された旨とを画像入手部310と変形量算出部330と表示部390とに伝える。
【0102】
計測モードは、上述したように、クリック操作によって選ばれた2つの選択画像のうち一方の選択画像に対する他方の選択画像における被検体の変形の程度を数値表示する表示モードであり、2つの選択画像のうち、撮影時刻が遅い方の選択画像について変形の数値表示が行われる。
【0103】
画像入手部310は、モード指定部320から計測モードが指定された旨を伝えられ計測モードでの動作を実行する場合には、2つの選択画像を変形量算出部330に渡す。
【0104】
変形量算出部330は、計測モードでの動作を実行する場合には、CADモードにおける処理と同等な処理により、撮影時刻が遅い方の選択画像を撮影時刻が早い方の選択画像に一致させるのに要する変形量を示す各画素のシフトベクトルを求め、各画素のシフトベクトルを変形検出部370に渡す。また、このシフトベクトルを渡す際には、変形量算出部330は、現在の表示モードが計測モードである旨を変形検出部370に伝える。
【0105】
変形検出部370は、現在の表示モードが計測モードである旨を伝えられた場合には、まず、撮影時刻が遅い方の選択画像中で、シフトベクトルの大きさが所定の閾値を超える画素からなる画像部分を、その選択画像における、撮影時刻が早い方の選択画像に対する変形の箇所として検出する。
【0106】
さらに、検出された変形の箇所に属する画素の中から2つの画素を所定の選択ルールに基づいて選択し、それら2つの画素相互間のシフトベクトルの大きさの差をそれら2つの画素相互間の距離で除した値を、その変形についての局所変形率として算出する。そして、この局所変形率の算出を、検出された全ての変形の箇所に対して行う。さらに、算出された全ての局所変形率の平均値を、撮影時刻が遅い方の選択画像における被検体の変形率として算出し、全ての局所変形率のうち最大のものをその選択画像における被検体の最大伸びとする。変形検出部370は、検出した変形の箇所の位置と、算出した変形率および最大伸びを表示部390に伝える。
【0107】
表示部390は、計測モードでの動作を実行する場合には、モード指定部320から伝えられた識別情報が示す2つの選択画像のうち、撮影時刻が遅い方の選択画像を、変形の箇所を示すマークを配置して表示する。さらに、表示部390は、変形検出部370から伝えられた変形率および最大伸びを数値表示する。
【0108】
図12は、計測モードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【0109】
計測モード指定ボタン321fがクリックされて計測モードが指定されると、その計測モード指定ボタン321fがグレー表示され、表示画面321が現在計測モードになっていることが明示的に示される。
【0110】
この図12の例では、タービンブレードについての現在のX線撮影画像G1と、現在から6ヶ月前のX線撮影画像G3とが選択されており、両者のうちで撮影時刻が遅い現在のX線撮影画像G1が、選択画像表示部321bの画面左側に表示されている。そして、この現在のX線撮影画像G1中には、上述したシフトベクトルの算出によって検出された変形を示す三角印のマークMが配置されている。また、このマークMは、先端が変形方向を向くように配置されており、その変形方向を視覚的に認識することが可能となっている。
【0111】
さらに、選択画像表示部321bの画面右側には、撮影時刻が早い方の6ヶ月前のX線撮影画像G3に対する現在のX線撮影画像G1における変形率と最大伸びとが表示されている。また、変形率と最大伸びについては、選択画像表示部321bにおける画面右側の表示欄に数値表示されており、さらに、これらの数値が、画面左側に表示されている現在のX線撮影画像G1と、サムネイル表示されている6ヶ月前のX線撮影画像G3とに由来するものであることが分かるように、この表示欄にその旨が記載され、その表示欄がこの6ヶ月前のX線撮影画像G3のサムネイル画像と線で結ばれて表示される。
【0112】
この計測モードでの表示によって、ユーザは、被検体の変形が、2つの選択画像相互間における時間経過中にどの程度伸展しているかを数値で確認することができる。
【0113】
次に、ROIモードが指定されたときの動作について説明する。
【0114】
ROIモードは、上述したように、選択画像表示部321bで表示されている撮影画像中の所望の関心領域を拡大表示するものであり、上述した、オリジナルモード、CADモード、TSモード、および計測モードのうちのいずれかの表示モードと併用される。
【0115】
上述の各表示モードのうちのいずれかの表示モードでの表示が行われている状態で、ROIモード指定ボタン321g(図6参照)がクリックされてROIモードが指定されると、図4のモード指定部320は、その旨を領域指定部380と表示部390とに伝える。
【0116】
領域指定部380は、まず、表示対象として選ばれている2つの選択画像を表示部390を介して入手し、それら2つの選択画像の間の相対的な位置関係を算出する。本実施形態では、この位置関係の算出は、図8を参照して説明した、変形量算出部330において実行されるテンプレートの設定、および、各テンプレートについてのシフトベクトルの算出処理と同等な処理によって行われる。領域指定部380で行われるテンプレートの設定およびシフトベクトルの算出処理は、変形量算出部330において上述のTSモードおよび計測モードの際に実行される処理と同等であるので重複説明を省略する。領域指定部380は、各テンプレートについてシフトベクトルが算出されると、それらのシフトベクトルを、2つの選択画像の間の相対的な位置関係を表わすものとして不図示のメモリに一時的に記憶する。
【0117】
領域指定部380は、次に、2つの選択画像のうちの撮影時刻が遅い方の選択画像に対して所定の初期位置を設定し、もう一方の撮影時刻が早い方の選択画像において、その初期位置に対応する初期対応位置を次のように求める。まず、撮影時刻が遅い方の選択画像において初期位置を囲む4つのテンプレートについての4つのシフトベクトルを使った4点補間計算によりその初期位置についてのシフトベクトルが算出される。そして、撮影時刻が早い方の選択画像において、その算出されたシフトベクトルの起点に相当する位置が初期対応位置とされる。
【0118】
領域指定部380は、このように初期対応位置を求めると、撮影時刻が遅い方の選択画像における初期位置と、撮影時刻が遅い方の選択画像における初期対応位置とを表示部390に伝える。
【0119】
表示部390は、モード指定部320からROIモードが指定された旨を伝えられ、ROIモードでの動作を実行する場合には、撮影時刻が遅い方の選択画像における初期位置に、所定サイズの正方形状を有する基準関心領域を配置して表示する。さらに、上述したオリジナルモードやCADモードでの表示によって撮影時刻が早い方の選択画像が表示されている場合には、この撮影時刻が早い方の選択画像における初期対応位置に、上記の基準関心領域と同等な対応関心領域を配置して表示する。
【0120】
一方、TSモードでの表示によって、撮影時刻が早い方の選択画像に替えて差分画像が表示されている場合には、この差分画像上に対応関心領域が配置されて表示される。差分画像は、位置的には、撮影時刻が遅い方の選択画像と撮影時刻が早い方の選択画像との両方に対応しており、本実施形態では、差分画像において、撮影時刻が早い方の選択画像における初期対応位置と重なる位置に対応関心領域が配置されることとなる。また、計測モードでの表示によって、撮影時刻が遅い方の選択画像しか表示されていない場合には、対応関心領域の配置は省略される。
【0121】
ここで、図6の表示画面321には、上述したように、ROIモードにおける拡大率を入力するための拡大率入力部321hが備えられている。この拡大率入力部321hは、ROIモードが指定されると入力が許可される。そして、ユーザがキーボード入力あるいはマウス入力によってこの拡大率入力部321hに拡大率を入力すると、その拡大率が領域指定部380によって表示部390に伝えられ、表示部390は、基準関心領域内の画像部分および対応関心領域内の画像部分それぞれを、伝えられた拡大率で拡大表示する。ただし、本実施形態では、ROIモードが指定された直後の時点では、この拡大率は「100%」即ち原寸に設定されており、各関心領域内の画像は原寸で表示される。その後、ユーザによって所望の拡大率が入力されると、各関心領域内の画像が、その入力された拡大率で拡大表示されることとなる。
【0122】
また、ROIモードが指定された直後の時点で、撮影時刻が遅い方の選択画像における初期位置に配置される基準関心領域は、その後、マウス操作によって所望の位置に移動可能となっている。一方、撮影時刻が早い方の選択画像や差分画像に配置される対応関心領域は、マウス操作によって動かされる基準関心領域の動きに従動して、撮影時刻が早い方の選択画像や差分画像上の対応する位置に動かされる。
【0123】
図13は、ROIモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【0124】
ROIモード指定ボタン321gがクリックされてROIモードが指定されると、そのROIモード指定ボタン321gがグレー表示され、表示画面321が現在ROIモードになっていることが明示的に示される。
【0125】
この図13の例では、ROIモードがオリジナルモードと併用されており、タービンブレードについての現在のX線撮影画像G1と、現在から6ヶ月前のX線撮影画像G3とが選択されて両者がオリジナルモードで表示されている。そして、画面左側であって撮影時刻が遅い方の現在のX線撮影画像G1上には、所望の位置に基準関心領域が配置され、その基準関心領域内の画像部分R1が拡大率入力部321hに入力された拡大率「170%」で拡大表示されている。また、画面右側であって撮影時刻が早い方の6ヶ月前のX線撮影画像G3上には、基準関心領域の位置と対応する位置に対応関心領域が配置されその対応関心領域内の画像部分R2が拡大率「170%」で拡大表示されている。
【0126】
また、上述したように、本実施形態では、基準関心領域を動かすことが可能となっているが、この基準関心領域の移動は、基準関心領域内の画像部分R1の表示枠をマウス操作によって動かすことで行われる。つまり、この表示枠をマウス操作によって動かすと、基準関心領域が移動し、表示枠内の画像が変化することとなる。また、対応関心領域は、基準関心領域に従動して動くので、基準関心領域内の画像部分R1の表示枠が動かされてその表示枠内の画像が変わると、その動きに従動して対応関心領域の表示枠内の画像も変わることとなる。
【0127】
さらに、本実施形態では、対応関心領域内の画像部分R2の表示位置を、マウス操作によって、選択画像表示部321bに表示されている撮影画像とは独立に動かすことができる。
【0128】
図14は、対応関心領域内の画像部分R2を移動した様子の一例を示す図である。
【0129】
この図14の例では、画面右側であって撮影時刻が早い方の6ヶ月前のX線撮影画像G3上の対応関心領域内の拡大率「150%」で拡大表示された画像部分R2の表示位置が、画面左側であって撮影時刻が遅い方の現在のX線撮影画像G1上の基準関心領域内の拡大率「150%」で拡大表示された画像部分R1の隣まで動かされている。このとき、対応関心領域内の画像部分R2の表示位置が動かされた後の6ヶ月前のX線撮影画像G3上には、対応関心領域が点線の枠R2’で表示される。
【0130】
このROIモードでの表示によって、ユーザは、撮影画像中の変形や亀裂等を一層詳細に確認することができる。また、本実施形態では、上記の対応関心領域内の画像部分R2の表示位置を任意の位置に移動させることができるので、例えば図14の例のように基準関心領域内の画像部分R1と対応関心領域内の画像部分R2とを互いに並べて配置し、両者を間近で見比べる等といったことが可能となる。
【0131】
以上、図4から図14を参照して説明した本実施形態の検査装置300によれば、検査員の技量等とは関わり無く、被検体の損壊の箇所等が一義的に表示画面に表示されるので、この被検体の損壊の箇所を容易かつ高精度で探索することができる。
【0132】
尚、上記では、本発明にいう被検体の一例としてタービンブレードを例示したが、本発明はこれに限るものではなく、本発明の被検体は、変形や亀裂等の検査対象となる部品一般であっても良い。
【0133】
また、上記では、本発明にいう探索部の一例として、被検体の欠けに由来する塊状の画像部分と、被検体の亀裂に由来する線形状の画像部分とを探索するという例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、本発明の探索部は、例えば楕円形状の画像部分や矩形状の画像部分を探索するものであっても良い。
【0134】
また、上記では、本発明にいう探索部の一例として、塊状の画像部分と線形状の画像部分とをモーフォロジー演算を用いて検出する例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、本発明の探索部は、例えば各画素の濃度等に基づいて亀裂等に由来する画像部分を探索するものであっても良い。
【0135】
また、上記では、本発明にいう損壊箇所指示部の一例として、被検体の損壊の箇所を示すマークを配置して撮影画像を表示する例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、本発明の損壊箇所指示部は、そのマークが示す箇所における損壊のサイズや、その箇所に属する画素の濃度値等といった、撮影画像中の損壊の箇所に係る各種情報を文字で表示するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の一実施形態の検査装置として動作するパーソナルコンピュータを示す図である。
【図2】図1に示す外観を有するコンピュータのハードウェア構成図である。
【図3】検査プログラムが記憶されたCD−ROM160を示す概念図である。
【図4】検査装置の機能ブロック図である。
【図5】図4の検査装置300において変形や亀裂等が探索される被検体の一例であるタービンブレードを示す模式図である。
【図6】表示画面の一例を示す図である。
【図7】オリジナルモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【図8】シフトベクトルの算出処理を説明する説明図である。
【図9】補間計算による画素のシフトベクトルの算出処理を模式的に表わす図である。
【図10】CADモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【図11】TSモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【図12】計測モードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【図13】ROIモードが指定されたときの表示画面321の一例を示す図である。
【図14】対応関心領域R2内の画像部分を移動した様子の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0137】
100 コンピュータ
110 本体部
111 CPU
112 主メモリ
113 ハードディスク装置
114 FDドライブ
115 CD−ROMドライブ
116 I/Oインタフェース
117 バス
110a FD装填口
110b CD−ROM装填口
120 画像表示装置
121 表示画面
130 キーボード
140 マウス
150 FD
160 CD−ROM
200 検査プログラム
210 画像入手部
220 モード指定部
230 変形量算出部
240 変形部
250 差分画像生成部
260 欠陥検出部
270 変形検出部
280 領域指定部
290 表示部
300 検査装置
310 画像入手部
320 モード指定部
321 表示画面
321a サムネイル表示部
321b 選択画像表示部
321c オリジナルモード指定ボタン
321d CADモード指定ボタン
321e TSモード指定ボタン
321f 計測モード指定ボタン
321g ROIモード指定ボタン
321h 拡大率入力部
321f 保存指示ボタン
330 変形量算出部
331 テンプレート
332 探索範囲
333 一致箇所
340 変形部
350 差分画像生成部
360 欠陥検出部
370 変形検出部
380 領域指定部
390 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の被検体に対する、互いに撮影時刻が異なる複数の撮影画像を入手する画像入手部と、
前記複数の撮影画像のうちの2つの撮影画像について、一方の撮影画像の変形によりそれら2つの撮影画像を一致させるのに要する変形量を算出する変形量算出部と、
前記2つの撮影画像相互間における時間経過で前記被検体に生じた損壊の箇所を、前記変形量算出部で算出された変形量、又は該変形量を用いて一致させた撮影画像に基づいて探索する探索部とを備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記探索部によって見つけ出された損壊の箇所を、前記撮影画像中に指し示す損壊箇所指示部を備えたことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記探索部が、前記変形量が所定の程度を超えている箇所を前記損壊の箇所として探索するものであって、
前記探索部によって見つけ出された損壊の箇所における変形の方向を、前記撮影画像中に指し示す変形方向指示部を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の検査装置。
【請求項4】
前記探索部が、前記変形量を用いて一致させた2つの撮影画像のうちの一方のみに写っている箇所を前記損壊の箇所として探索するものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の検査装置。
【請求項5】
前記変形量を用いて一致させた2つの撮影画像相互間の差分画像を生成して表示する差分画像表示部を備えたことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の検査装置。
【請求項6】
前記撮影画像中の領域の指定を受けて、該領域内の画像部分を拡大して表示する拡大表示部を備えたことを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項記載の検査装置。
【請求項7】
コンピュータに組み込まれ、該コンピュータ上で、
同一の被検体に対する、互いに撮影時刻が異なる複数の撮影画像を入手する画像入手部と、
前記複数の撮影画像のうちの2つの撮影画像について、一方の撮影画像の変形によりそれら2つの撮影画像を一致させるのに要する変形量を算出する変形量算出部と、
前記2つの撮影画像相互間における時間経過で前記被検体に生じた損壊の箇所を、前記変形量算出部で算出された変形量、又は該変形量を用いて一致させた撮影画像に基づいて探索する探索部とを構築することを特徴とする検査プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−292405(P2008−292405A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140500(P2007−140500)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】