説明

極低温回転機械

【課題】断熱材の周囲を極低温冷媒が循環する循環流れを抑制し、インペラ側と駆動装置側との間の断熱効果を向上させるとともに、構成部品の着脱作業を容易に行うことができる極低温回転機械を提供する。
【解決手段】本発明に係る極低温回転機械1は、極低温冷媒に運動エネルギーを付与するインペラ2側が断熱保冷された真空容器内に配置され、インペラ2を回転駆動させる駆動装置3側が真空容器外に配置されており、駆動装置3の回転をインペラ2に伝達する回転軸4と、回転軸4を支承するジャーナル軸受5と、インペラ2を収容するとともに真空容器に固定されるケーシング6と、ケーシング6と回転軸4との間かつインペラ2とジャーナル軸受5との間に配置される断熱材7と、断熱材7に形成された回転軸4に垂直な面に配置されたシール部材8と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素、液体ヘリウム、液体水素等の極低温冷媒を送流する極低温回転機械に関し、特に、極低温冷媒の入出口配管を含む静止流路を真空容器内に配置し、インペラを含む駆動装置を真空容器外に取り外し可能な極低温回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温回転機械は、例えば、核融合炉や加速器等に使用される超伝導磁石の冷却、原子の衝突によって発生した中性子の減速等に使用される極低温冷媒を送流するためのコンプレッサ、ポンプ、タービン等の回転機械である。ここで、極低温とは、一般に、液体ヘリウム等の減圧沸騰及び希釈冷凍を利用して得られる温度を意味する。具体的には、大気圧における飽和温度は、液体ヘリウムが4K、水素ガスは20K、窒素ガスは80Kであり、そこから各冷媒を減圧することで得られる飽和温度よりも低い温度が極低温に相当する。また、極低温冷媒とは、極低温の気体又は液体を意味し、例えば、液体窒素、液体ヘリウム、液体水素、これらの気化ガス等が含まれる。かかる極低温回転機械は、一般に、極低温冷媒に運動エネルギーを付与するインペラ側が断熱保冷された真空容器内に配置され、インペラを回転駆動させる駆動装置側が真空容器外に配置される(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。すなわち、インペラ側は低温の冷媒雰囲気中に配置され、駆動装置側は常温の冷媒雰囲気中に配置される。したがって、極低温回転機械の性能や効率を維持又は向上させるためには、インペラ側と駆動装置側との間を断熱し、低温側への熱侵入量を低減させることが重要となる。
【0003】
特許文献1に記載された極低温回転機械は、回転軸の一端部に設けたインペラを極低温領域で作動させるとともに、回転軸を支承する軸受部を液体窒素温度レベルよりも高い状態に保持する極低温回転機械であって、インペラと、このインペラの背面部から軸受部の間に挿入した断熱材と、回転軸の一部とをケーシング内に収納し、かつ断熱材の一部に、ケーシングを貫通して液体窒素温度レベルまで冷却した作動流体と同質の流体を供給し、断熱材及びケーシングを冷却する冷却ガス流路を形成したものである。
【0004】
特許文献2に記載された極低温回転機械は、真空容器の内部に設置され、タービンインペラを内蔵し、極低温ガスを断熱膨張させる際にタービンインペラを回転駆動する断熱膨張装置を有し、真空容器の外部に設置される駆動部材からの駆動力によって断熱膨張装置の外端の近傍に配置されたノズル部材を駆動することによりタービンインペラへ導入する極低温ガスのスロート面積を変化させる可変ノズル機構付き膨張タービンである。かかる膨張タービンでは、タービンインペラと軸受との間に断熱材を配置するとともに断熱材の背面に押さえバネを配置することによって、軸方向に断熱材を付勢し、構成部品の隙間からのガス漏れを防止するようにしている。また、断熱材の側面部(回転軸の軸方向に延びる面)には、軸受との隙間をシールするOリングが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−193598号公報
【特許文献2】特開2008−248748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の極低温回転機械では、インペラ背面に配置した断熱材部では低温の冷媒雰囲気中のインペラ側と常温の冷媒雰囲気中の駆動装置側との間を断熱することができるが、雰囲気ガスが回転軸と断熱材との間、断熱材とケーシングとの間等の隙間を通って駆動装置側へ流れることを抑制することができない。また、雰囲気ガスが駆動装置側に流れた場合には、駆動装置側の構成部品の温度を低下させてしまい、極低温回転機械の性能や効率を低下させる原因にもなってしまう。かかる問題は、特に、断熱材の周囲を雰囲気ガスが循環する循環流れが生じた場合に顕著となる。
【0007】
また、特許文献2に記載の膨張タービンでは、押さえバネの付勢力でシールしているため、基本的にシール性能が低いという問題があった。したがって、断熱材と軸受との間にOリングが配置されていたとしても、雰囲気ガスが漏れた場合には、Oリングが冷却されて固化してしまい、その機能を喪失してシール性能が低下するという問題があった。さらに、断熱材の周囲を雰囲気ガスが循環する循環流れが生じた場合には、押さえバネも冷却されてしまい、付勢力を喪失してシール性能がさらに低下してしまうという問題もあった。
【0008】
また、上述した極低温回転機械では、メンテナンス等のために、極低温冷媒の入出口配管を含む静止流路が真空容器内に配置され、インペラを含む駆動装置を真空容器外に取り外しできるように構成されている。したがって、特許文献2に記載されたように、回転軸の側面(軸方向に延びる面)にシールが配置されている場合には、インペラ等の構成部品の着脱時にシール材や擦り屑等がケーシング内に落下してシステム配管に混入してしまうおそれがあり、構成部品の着脱作業を慎重に行う必要があり、作業に手間がかかっていた。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、断熱材の周囲を雰囲気ガスが循環する循環流れを抑制し、インペラ側と駆動装置側との間の断熱効果を向上させるとともに、構成部品の着脱作業を容易に行うことができる極低温回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、極低温冷媒に運動エネルギーを付与するインペラ側が断熱保冷された真空容器内に配置され、インペラを回転駆動させる駆動装置側が真空容器外に配置された極低温回転機械において、前記駆動装置の回転を前記インペラに伝達する回転軸と、該回転軸を支承する軸受と、前記インペラを収容するとともに前記真空容器に固定されるケーシングと、該ケーシングと前記回転軸との間かつ前記インペラと前記軸受との間に配置される断熱材と、該断熱材に形成された前記回転軸に垂直な面に配置されたシール部材と、を有することを特徴とする極低温回転機械が提供される。
【0011】
前記断熱材は、例えば、前記ケーシングに形成された開口部に係止可能なフランジ部を有し、該フランジ部は、前記軸受と前記ケーシングとの間に挟持されており、前記シール部材は、前記フランジ部の片面又は両面に配置されている。
【0012】
前記シール部材は、例えば、インジウム等の軟質金属により構成される。また、前記フランジ部は、前記軟質金属が延展時に前記フランジ部からはみ出ないように形成されていてもよい。
【0013】
また、前記シール部材を前記フランジ部の前記軸受側の片面に配置した場合に、前記軸受の前記断熱材よりも径方向外側に両面を貫通する開口部が形成されていないようにしてもよい。
【0014】
また、前記断熱材は、前記ケーシングに形成された開口部に係止可能なフランジ部を有し、該フランジ部は、前記軸受と前記ケーシングとの間に挟持されており、前記シール部材は、軟質金属により構成されるとともに前記フランジ部と前記軸受との間に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明に係る極低温回転機械によれば、インペラと軸受との間に断熱材を配置し、断熱材に形成された回転軸に垂直な面にシール部材を配置したことにより、断熱材の外面をシールすることができるとともに、メンテナンス時等のように構成部品を着脱する場合であっても、シール部材や擦り屑等を配置面に残置しておくことができ、ケーシングに落下したり、システム配管に混入したりするおそれを低減することができる。したがって、断熱材の周囲を雰囲気ガスが循環する循環流れを抑制し、インペラ側と駆動装置側との間の断熱効果を向上させることができ、低温側への熱侵入量を低減させることができるとともに、構成部品の着脱作業も容易に行うことができる。
【0016】
特に、シール部材としてインジウム等の軟質金属を使用することにより、シール部材の配置面にシール部材を効果的に密着させることができ、シール部材が低温雰囲気に曝された場合であってもシール性能を発揮させることができる。また、軟質金属のようにシール部材を潰して密着させるような場合であっても、回転軸に垂直な面にシール部材を配置することにより、構成部品の着脱時にシール部材をケーシング内に落下させることなく、容易にメンテンス等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一実施形態に係る極低温回転機械の全体構成図である。
【図2】図1に示した断熱材周辺の拡大図である。
【図3】断熱材の周囲に生じるガスの流れを説明するための図であり、(a)は従来技術の押さえバネを使用した比較例、(b)は図1に示した第一実施形態、を示している。
【図4】極低温回転機械の構成部品の一部を取り外した状態を示す図である。
【図5】本発明に係る極低温回転機械の他の実施形態を示す断熱材周辺の拡大図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、(c)は第四実施形態、(d)は第五実施形態、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第一実施形態について図1乃至図4を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の実施形態に係る極低温回転機械の全体構成図である。また、図2は、図1に示した断熱材周辺の拡大図である。また、図3は、断熱材周辺の拡大図であり、(a)は従来技術の押さえバネを使用した比較例、(b)は図1に示した第一実施形態、を示している。また、図4は、極低温回転機械の構成部品の一部を取り外した状態を示す図である。なお、図1及び図4において真空容器の図は省略してある。
【0019】
本発明の第一実施形態に係る極低温回転機械1は、図1及び図2に示したように、極低温冷媒に運動エネルギーを付与するインペラ2側が断熱保冷された真空容器内に配置され、インペラ2を回転駆動させる駆動装置3側が真空容器外に配置されており、駆動装置3の回転をインペラ2に伝達する回転軸4と、回転軸4を支承するジャーナル軸受5と、インペラ2を収容するとともに真空容器に固定されるケーシング6と、ケーシング6と回転軸4との間かつインペラ2とジャーナル軸受5との間に配置される断熱材7と、断熱材7に形成された回転軸4に垂直な面に配置されたシール部材8と、を有する。
【0020】
前記インペラ2は、図1に示すように、回転軸4の先端に接続されており、ケーシング6内に収容されている。インペラ2の同心軸上の上流側には、極低温冷媒の吸入口61が形成され、インペラ2の半径方向の外周部には、遠心力により運動エネルギーが付与された極低温冷媒を送流するスクロール部62が形成されている。また、スクロール部62は、ケーシング6に接続された出口配管63と連通している。
【0021】
前記駆動装置3は、例えば、ロータ31とステータ32とから構成される非接触式のモータである。ロータ31及びステータ32は、例えば、誘導電動機や発電機等により構成されており、ロータ31は回転軸4に配置され、ステータ32は筐体9に配置されている。ロータ31は、ステータ32との相互作用により回転トルクを発生させ、回転軸4とともに回転駆動する。
【0022】
前記回転軸4は、駆動装置3を挟むように配置された一対のジャーナル軸受5,10と、ジャーナル軸受5の背面に配置されたスラスト軸受11と、によって支承されている。これらの軸受には、例えば、磁気軸受が採用され、回転軸4を非接触の状態で支持する。また、回転軸4のインペラ2とジャーナル軸受5との間に位置する部分は、薄肉の中空円筒形状に形成されており、インペラ2側と駆動装置3側との間で熱伝達し難くなるように構成されている。
【0023】
ここで、筐体9の内部は極低温冷媒の気化ガスにより充満し得る構造であるため、オイルフリーの構成とすることが好ましい。そこで、駆動装置3及び回転軸4の軸受には非接触式のものを採用することが好ましい。なお、軸受には磁気軸受の代わりにガス軸受を採用するようにしてもよい。また、筐体9の上部には、図示しない配線や配管を内部の駆動装置3等の構成部品に接続するための作業空間91が形成されており、蓋部材92により閉塞されている。また、図示しないが、筐体9の駆動装置3と対峙する壁面部に冷却水を供給及び循環できる冷却ジャケットを配置するようにしてもよい。
【0024】
前記ジャーナル軸受5は、中心部に回転軸4を挿通する開口部51を有する略円板形状を有している。また、開口部51の外周には、断熱材7の一部を収容する凹部52を形成するようにしてもよい。かかるジャーナル軸受5は、図1に示したように、ケーシング6と筐体9との間に挟持されている。なお、他方のジャーナル軸受10は、回転軸4の後端側に挿通され固定されている。
【0025】
前記ケーシング6は、図1に示したように、インペラ2及び回転軸4の一部を収容する開口部64を有する本体部6aと、本体部6aの外周に形成された拡径部6bと、を有する。本体部6aには、上述した吸入口61及びスクロール部62が開口部64と連通するように形成されている。また、本体部6aの回転軸4を収容する部分は、薄肉の中空円筒形状に形成されており、インペラ2側と駆動装置3側との間で熱伝達し難くなるように構成されている。また、駆動装置3側における本体部6aの開口部64の外周には、ジャーナル軸受5を収容する凹部65を形成するようにしてもよい。また、拡径部6bは、図示しない真空容器の壁面に固定される。すなわち、ケーシング6は、本体部6aのインペラ2側が真空容器の壁面に形成された開口部から挿入され、その開口部を覆うように拡径部6bが真空容器の壁面に配置され外側から固定されるように構成されている。
【0026】
前記断熱材7は、図1及び図2に示したように、インペラ2とジャーナル軸受5との間に配置され、真空容器内の低温雰囲気と真空容器外の常温雰囲気との間の熱伝達を抑制する。かかる断熱材7には、例えば、ガラス繊維強化プラスチックやセラミックス等のような、熱伝導率が低く、極低温雰囲気に対して耐久性の高い素材が採用される。
【0027】
また、断熱材7は、ケーシング6と回転軸4との間かつインペラ2とジャーナル軸受5との間に配置可能な略円筒形状に形成されており、ケーシング6に形成された開口部64に係止可能なフランジ部71を有し、フランジ部71は、ジャーナル軸受5とケーシング6との間に挟持されている。具体的には、フランジ部71の下面は、ケーシング6の本体部6aに形成された凹部65に係止され、フランジ部71の上面は、ジャーナル軸受5に形成された凹部52に収容される。また、断熱材7の内側には、回転軸4やジャーナル軸受5の表面に沿うように段差部72が形成されていてもよい。
【0028】
前記シール部材8は、断熱材7の周囲に生じる循環流れを阻止するとともに、メンテナンス等の作業を阻害しないように配置される。かかる機能を発揮させるために、シール部材8は、断熱材7に形成された回転軸4に垂直な面に配置される。具体的には、シール部材8は、断熱材7に形成されたフランジ部71の上面、下面又は上下面に配置される。図1及び図2に示した第一実施形態では、シール部材8は、フランジ部71の上面に形成された環状溝73により位置決めされている。
【0029】
なお、上述したフランジ部71の上面及び下面は、断熱材7に形成された回転軸4に垂直な面に相当するが、「垂直」とは完全な垂直を意味するのみならず、シール部材8がケーシング6内に落下しない程度の傾斜を有する場合も含む趣旨である。例えば、シール部材8の落下を抑制するために、フランジ部71の上面の外側を内側よりも高くしたり、フランジ部71の下面の内側を外側よりも高くしたりするようにしてもよい。このとき、フランジ部71と対峙する面もフランジ部71の表面に沿うように形成される。
【0030】
シール部材8は、例えば、環状のインジウムや鉛等の軟質金属により構成される。かかる軟質金属を使用することにより、断熱材7とジャーナル軸受5との間で押し潰して延展させることができ、密着率を向上させることができ、シール性能を向上させることができる。特に、インジウムのように低温に強い素材を選択することにより、シール部材8が低温雰囲気に曝された場合であってもシール性能の低下を抑制することができる。したがって、断熱材7とジャーナル軸受5との間の気密性を向上かつ維持することができ、断熱材7の周囲に生じる循環流れを抑制することができる。
【0031】
また、断熱材7のフランジ部71は、軟質金属が延展時にフランジ部71からはみ出ないように形成されている。具体的には、図2に示したように、断熱材7のフランジ部71は、径方向に幅Rを有しており、この幅Rは軟質金属の延展時に軟質金属がフランジ部71の上面からはみ出さないように設定される。このようにフランジ部71の幅Rを設定することにより、フランジ部71とジャーナル軸受5との間にシール部材8を保持することができ、メンテナンス時等に断熱材7を着脱する場合であってもシール部材8の落下を効果的に抑制することができる。
【0032】
ここで、断熱材7の周囲に生じる循環流れについて、図3を参照しつつ説明する。図3(a)に示した比較例は、第一実施形態のシール部材8に代えて、従来技術で使用されている押さえバネ8rを使用した比較例である。
【0033】
図3(a)に示した比較例では、断熱材7rのフランジ部71rは径方向の幅が、図3(b)に示した第一実施形態よりも短く形成されている。かかるフランジ部71rとジャーナル軸受5rとの間に押さえバネ8rが挿入されている。また、ジャーナル軸受5rには、断熱材7rよりも径方向外側に上下面の両面を貫通する開口部53が形成されている。開口部53は、インペラ側と駆動装置側との間に生じる圧力変動を緩和させるためのものである。
【0034】
かかる比較例では、開口部53が形成されていることから、断熱材7rとケーシング6rとの隙間に極低温冷媒のガスが流れ易い構成になっている。また、インペラ2rの背面に圧力分布が生じ易いうえに、押さえバネ8rのシール性能が低いことから、断熱材7rとジャーナル軸受5rとの隙間やスラスト軸受11rとジャーナル軸受5rとの隙間にガスが流れ易い構成になっている。さらに、押さえバネ8rが低温雰囲気に曝されると、その付勢力を喪失してシール性能が低下することとなり、ガスがより一層流れ易くなる。その結果、図3(a)において、矢印で示したように、断熱材7rの周囲に雰囲気ガスが循環する循環流れが生じる。かかる循環流れは、断熱材7rの断熱効果を低減させ、装置全体の性能や効率を低下させる原因となる。
【0035】
一方、図3(b)に示した第一実施形態では、上述した構成を有するとともに、ジャーナル軸受5には、断熱材7よりも径方向外側に両面を貫通する開口部が形成されていない。したがって、インペラ2側と駆動装置3側との間に圧力変動が生じた場合やインペラ2の背面に圧力分布が生じた場合であっても、シール部材8により断熱材7とジャーナル軸受5との隙間を気密にシールしていることから、断熱材7の周囲に雰囲気ガスが流れ難くなっており、循環流れの発生を抑制することができる。なお、ケーシング6と断熱材7との隙間及びケーシング6とジャーナル軸受5との隙間を経由して駆動装置3側にガスが抜ける場合もあり得るが、その分量は微量であり、断熱材7の断熱効果を低減させるほどのものではない。
【0036】
次に、上述した第一実施形態について、メンテナンス時等に極低温回転機械1の構成部品を着脱する場合について、図4を参照しつつ説明する。
【0037】
図4に示したように、極低温回転機械1は、極低温冷媒の入出口配管を含む静止流路(例えば、吸入口61、出口配管63等)が真空容器内に配置され、インペラ2を含む駆動装置3を真空容器外に取り外しできるように構成されている。すなわち、保守・点検する際にケーシング6を図示しない真空容器側に残したまま、極低温回転機械1の構成部品(インペラ2、駆動装置3、回転軸4、ジャーナル軸受5、断熱材7、筐体9等)を取り外すことができるように構成されている。かかる構成により、極低温回転機械1のメンテナンスを容易に行うことができる。また、極低温回転機械1が故障したような場合にも、極低温回転機械1の構成部品をケーシング6から取り外して容易に交換することができる。
【0038】
そして、本第一実施形態では、シール部材8が断熱材7のフランジ部71とジャーナル軸受5との間に配置されていることから、極低温回転機械1の構成部品の取り外し時に、ジャーナル軸受5及び断熱材7と一緒にシール部材8も取り外されることとなる。したがって、シール部材8にインジウム等の軟質金属を採用した場合であっても、他の構成部品とともに容易に取り外すことができ、シール部材8のケーシング6内への落下を低減することができる。また、フランジ部71からシール部材8がはみ出ないようにフランジ部71を形成することにより、シール部材8の落下をより一層低減することができる。
【0039】
続いて、本発明の他の実施形態に係る極低温回転機械について説明する。ここで、図5は、本発明に係る極低温回転機械の他の実施形態を示す断熱材周辺の拡大図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、(c)は第四実施形態、(d)は第五実施形態、を示している。なお、各図において、図1に示した第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0040】
図5(a)に示した第二実施形態は、シール部材8を断熱材7のフランジ部71の下面に配置したものである。すなわち、シール部材8は、フランジ部71とケーシング6との間に配置されている。また、シール部材8に軟質金属を採用した場合には、シール部材8は、軟質金属が押し潰されて延展した時にケーシング6の上面(回転軸4に垂直な面)からはみ出さない位置に配置される。なお、シール部材8をフランジ部71の下面に配置した場合には、ケーシング6とジャーナル軸受5との間の隙間にガスが侵入しないことから、ジャーナル軸受5の断熱材7rよりも径方向外側に両面を貫通する開口部を形成するようにしてもよい。
【0041】
このようにシール部材8をフランジ部71とケーシング6との間に配置した場合には、極低温回転機械1のメンテナンス時等に構成部品を取り外した際に、シール部材8がケーシング6側に取り残される可能性があるが、回転軸4に垂直な面にシール部材8が配置されていることから、極低温回転機械1の構成部品を取り外した後にシール部材8を比較的容易に除去することができる。
【0042】
図5(b)に示した第三実施形態は、シール部材8を断熱材7のフランジ部71の上下面の両面に配置したものである。すなわち、シール部材8は、フランジ部71とケーシング6との間及びフランジ部71とジャーナル軸受5との間に配置されている。かかる第三実施形態は、第一実施形態と第二実施形態を組み合わせたものであり、これらと同様の効果を奏する。なお、ここでは、上下面のシール部材8の位置を回転軸4の軸方向に一致させるようにしているが、上面のシール部材8を下面のシール部材8よりも径方向内側に配置するようにしてもよい。
【0043】
図5(c)に示した第四実施形態は、第一実施形態と同様に、シール部材8を断熱材7のフランジ部71の上面に配置したものであるが、シール部材8の位置決めを行う環状溝73をジャーナル軸受5に形成したものである。かかる構成によっても第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0044】
図5(d)に示した第五実施形態は、第二実施形態と同様に、シール部材8を断熱材7のフランジ部71の下面に配置したものであるが、シール部材8の位置決めを行う環状溝73をケーシング6に形成したものである。かかる構成によっても第二実施形態と同様の効果を奏する。
【0045】
また、図示しないが、第三実施形態において、シール部材8の位置決めを行う環状溝73をジャーナル軸受5及びケーシング6に形成してもよい。
【0046】
本発明は上述した実施形態に限定されず、シール部材8としてOリングを使用してもよい、フランジ部71の両面にシール部材8を配置する場合には一方のシール部材8をOリングとし他方のシール部材8を軟質金属としてもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1…極低温回転機械
2…インペラ
3…駆動装置
4…回転軸
5,10…ジャーナル軸受
6…ケーシング
6a…本体部
6b…拡径部
7…断熱材
8…シール部材
9…筐体
11…スラスト軸受
31…ロータ
32…ステータ
51,53…開口部
52…凹部
61…吸入口
62…スクロール部
63…出口配管
64…開口部
65…凹部
71…フランジ部
72…段差部
73…環状溝
91…作業空間
92…蓋部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温冷媒に運動エネルギーを付与するインペラ側が断熱保冷された真空容器内に配置され、インペラを回転駆動させる駆動装置側が真空容器外に配置された極低温回転機械において、
前記駆動装置の回転を前記インペラに伝達する回転軸と、
該回転軸を支承する軸受と、
前記インペラを収容するとともに前記真空容器に固定されるケーシングと、
該ケーシングと前記回転軸との間かつ前記インペラと前記軸受との間に配置される断熱材と、
該断熱材に形成された前記回転軸に垂直な面に配置されたシール部材と、
を有することを特徴とする極低温回転機械。
【請求項2】
前記断熱材は、前記ケーシングに形成された開口部に係止可能なフランジ部を有し、
該フランジ部は、前記軸受と前記ケーシングとの間に挟持されており、
前記シール部材は、前記フランジ部の片面又は両面に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の極低温回転機械。
【請求項3】
前記シール部材は、軟質金属により構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の極低温回転機械。
【請求項4】
前記フランジ部は、前記軟質金属が延展時に前記フランジ部からはみ出ないように形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の極低温回転機械。
【請求項5】
前記シール部材を前記フランジ部の前記軸受側の片面に配置した場合に、前記軸受の前記断熱材よりも径方向外側に両面を貫通する開口部が形成されていない、ことを特徴とする請求項2に記載の極低温回転機械。
【請求項6】
前記断熱材は、前記ケーシングに形成された開口部に係止可能なフランジ部を有し、
該フランジ部は、前記軸受と前記ケーシングとの間に挟持されており、
前記シール部材は、軟質金属により構成されるとともに前記フランジ部と前記軸受との間に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の極低温回転機械。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−252442(P2011−252442A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126961(P2010−126961)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】