説明

極短フラーレンナノウィスカーとその製造方法

【課題】
長さがより短い極短フラーレンナノウィスカー(FNW)と、これを簡便に効率よく製造することのできる新しい方法を提供する。
【解決手段】
フラーレン溶液とアルコールとを混合してフラーレンナノウィスカーを生成させる際に、混合を超音波印加において行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能触媒材料、吸着剤、潤滑剤、量子ドット、発色剤、医薬品、抗菌剤などとして多様な用途に有用な、長さが極めて短い極短フラーレンナノウィスカー(極短FNW)とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラーレンナノウィスカー(FNW)は、フラーレン分子(C60、C70、C60誘導体、金属内包フラーレン、高次フラーレンなど)が共有結合またはファンデルワールス結合によってポリマー化した結晶細線である。本願発明者らは、このFNWについて、液−液界面析出法(非特許文献1並びに特許文献1−2)によって、フラーレンの良溶媒の飽和溶液と、アルコールとの液−液界面を用い、核を発生させ、さらに、この室温以下に保つことによって生成させる方法を開発している。
【非特許文献1】J. Mater. Res., 17〔1〕(2002) 83-88
【特許文献1】特開2003−1600号公報
【特許文献2】特開2002−192143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、FNWについての検討は端部についたばかりであり、依然として未踏の技術領域としてある。本願発明者らにとって、これまでに開発したFNWの製造方法についてもさらに検討すべき点は多く、たとえばその一つとして、電子デバイス等への利用の観点からも、より長さの短いFNWを生成することは重要な課題となっていた。
【0004】
そこで本願発明は以上のような背景から、長さがより短い極短フラーレンナノウィスカー(FNW)と、これを簡便に効率よく製造することのできる新しい方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして以下の方法を特徴としている。
【0006】
第1:フラーレン溶液とアルコールとを混合してフラーレンナノウィスカーを生成させる際に、混合を超音波印加において行うフラーレンナノウィスカーの製造方法。
【0007】
第2:超音波を印加しているアルコール中にフラーレン溶液を滴下して混合する上記フラーレンナノウィスカーの製造方法。
【0008】
第3:上記方法により得られたフラーレンナノウィスカーの熱処理物の生成方法であって、400℃以上の温度において加熱するフラーレンナノウィスカーの熱処理物の生成方法。
【0009】
第4:長さが1μm未満で、アスペクト比(長さ:直径)が2〜100の範囲にあるフラーレン分子による針状結晶であるフラーレンナノウィスカー。
【0010】
第5:上記フラーレンナノウィスカーが400℃以上の温度において熱処理されたものであるフラーレンナノウィスカーの熱処理物。
【発明の効果】
【0011】
従来では、フラーレン溶液とアルコールとの液−液界面を形成して、液−液界面を壊さないように、静かに冷所で保管することによって、その長さの長いFNWを生成させているが、本願発明の方法によれば、超音波を印加することにより、液−液界面を瞬時に消失させると同時に、局所的にフラーレンの過飽和な状態を出現せしめて、結晶核を瞬時的に析出させ、かつ、その状態を保つことによって、簡便かつ効率的にその長さが1μm未満という極短のFNWを得ることが可能となる。この方法は全く、新しい方法である。
【0012】
このような極短のFNWは、高い比表面積を持つので、触媒材料、抗菌剤、吸着剤などとして、高い性能を発揮することが期待される。また、分散性が高いと期待されるので、エンジニアリングプラスチックやゴムなどの樹脂との複合が容易に行われる。極短FNWを真空中、不活性ガス中、あるいは大気中で400℃以上の温度に加熱するという熱処理して高導電性・高多孔質とすることにより、スーパーキャパシタ、リチウムイオン電池電極、燃料電池電極などの電池材料として従来に無く高性能のものを得ることができると期待される。また、量子ドットとして機能することにより、発色剤、、メモリーなどの分野での用途が期待できる。
【0013】
極短FNWは、C60、C70、C60の誘導体、金属内包フラーレンなどの様々なフラーレンのウィスカーのみならず、これらを複合した多成分系フラーレンナノウィスカーとして作ることも可能である。これらの多様な極短FNWの応用範囲は極めて広い。特に、極短FNWは、熱処理して導電性とすることにより、優れた電池電極材料となることが可能である。地球環境保護の観点から、優れたエネルギー貯蔵材料は、もっとも望まれているもののひとつであり、また、広く使用できるという意味において、産業への利用も期待される。さらに、本願発明は、安価な未精製のフラーレンすすを用いるので、経済的に特に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明においては、従来では精製させるのが難しかった、たとえば長さ1μm未満で、C60ダイマーの状態として考慮される2nm以上の、アスペクト比(長さ:直径)が2〜100の範囲という極短フラーレンナノウィスカー(FNW)の製造を容易に可能とするものであるが、この発明の方法においては、フラーレン溶液とアルコールとの混合が超音波の印加の条件下に行われることを特徴としている。
【0015】
フラーレンについては、上記のとおり、C60をはじめ、C70他の高次フラーレン、それらの多量体や有機置換等の誘導体、さらにはそれらの金属内包フラーレン等の各種のものの1種以上であってよい。
【0016】
フラーレン溶液の溶媒としては、トルエン、メタキシレン等の芳香族炭化水素やハロゲン化炭化水素など、フラーレンの良溶媒の全て用いることができる。アルコールとしては、フラーレンの貧溶媒となる全てのアルコールを用いることができるが、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコールなどがより好ましい。
【0017】
たとえばより具体的に実施例として説明すると、イソプロピルアルコール(IPA)を、10mLの透明ガラスビンに1mL入れ、150W出力の超音波洗浄器によって、超音波を印加する。この場合の超音波洗浄器については各種のエネルギーレベルのものが考慮されてよく、たとえば市販の10W〜2000W程度のものでもよい。超音波の印加手段や方法はもちろん各種であってもよい。そして、この溶液中に、C60−27%C70組成のフラーレンの未精製すすを飽和させたトルエン溶液を、ピペットで1滴垂らして、極短FNWを得る。液温は、室温以下でもよいが、1℃〜25℃が好ましい。また、フラーレンの溶液は、飽和溶液を用いることが好ましい。
【0018】
未精製のフラーレンのすすを用いる理由は、このものに限定されることはないが、安価であること、C70を含有していることにより、純粋のC60を用いた場合よりも、析出核が成長しにくいと期待されることである。
【0019】
これにより、たとえば図1に示すように、滑らかな表面を持ち、長さ750nm、直径420nm、アスペクト比1.8のC60−C70極短FNWを得ることができる。また、図2のように、0.85nmは、面心立方晶で指数付け表記における(111)面間隔に等しい極短FNWを得ることができる。
【0020】
そして、たとえば本発明の方法により製造したC60極短FNWを900℃の温度において真空熱処理することで、約400m2/gの高い比表面積を持つ熱処理物を得ること
ができる。
【0021】
また、1100℃で真空熱処理したC60極短FNWの場合には、約0.040Ωcmの低い低効率を持つことも確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】C60−27%組成のフラーレンすすのトルエン飽和溶液と、イソプロピルアルコールを用いて、超音波液−液法によって作製した、極短フラーレンナノウィスカーのTEM像である。
【図2】図1と同様に作製した極短フラーレンナノウィスカーのTEM像(a)とその高分解能TEM像(b)。0.85nmは、面心立方晶での指数付け表記における(111)面間隔に等しい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン溶液とアルコールとを混合してフラーレンナノウィスカーを生成させる際に、混合を超音波印加において行うことを特徴とするフラーレンナノウィスカーの製造方法。
【請求項2】
超音波を印加しているアルコール中にフラーレン溶液を滴下して混合することを特徴とする請求項1のフラーレンナノウィスカーの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法により得られたフラーレンナノウィスカーの熱処理物の生成方法であって、400℃以上の温度において加熱することを特徴とするフラーレンナノウィスカーの熱処理物の生成方法。
【請求項4】
長さが1μm未満で、アスペクト比(長さ:直径)が2〜100の範囲にあるフラーレン分子による針状結晶であることを特徴とするフラーレンナノウィスカー。
【請求項5】
請求項4のフラーレンナノウィスカーが400℃以上の温度において熱処理されたものであることを特徴とするフラーレンナノウィスカーの熱処理物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−131460(P2006−131460A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323073(P2004−323073)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】